視覚障害の教員が利用しやすいWEB教材ネットワークに関する調査研究 志村 まゆら1),工藤 滋2),田中 秀樹3),半田 こづえ4),福島 正也1) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科1) 筑波大学 理療科教員養成施設2) 東京都立文京盲学校 高等部 専攻科3) 明治学院大学 社会学部4) キーワード:視覚障害,教材ネットワーク,アクセシビリティ,基礎医学,調査 1.背景  特別支援学校の教材情報データベースがウェブ上で公開されるようになり,教材情報を無料で手軽に入手できるようになってきた[1][2]。主として初等および中等教育普通科の教材がデータベースとなっている。視覚障害者の医療系職業教育機関が全国67校設置されているが,これらの機関でウェブ教材ネットワークを介して情報を教員間で広く共有する仕組みは未だない。学習用コンピュータやインターネットを使う機会が増えるなか,新しい教材・教育コンテンツの利用と,その情報の共有化を目指すウェブ教材ネットワーク・システムの構築が求められる。学校,県,地区の枠を超えた新たな教材と教材コンテンツに関する情報の共有化は喫緊の課題である。  そこで,2020年度に全国の視覚障害者の理療科・理学療法科・柔道整復科教育課程で必修科目の基礎専門科目を指導する専任教員を対象に,教材情報収集の苦慮,利用している教材,教材共有化への興味と利用希望,自身の教材の公開の許諾について,一次調査を実施した[3]。その結果332名の回答が得られた。欠損値のある回答を除いた312名のうち,インターネットによる教材共有化に83%が「興味ある」とし,80%が「ウェブで教材を利用したい」と回答した。教材提供は条件付きを含めて162名からの申し出があった。教材共有ネットワークの需要が大いに見込まれることが明らかになったところで,次に取り組むべき課題は,教員が学校・施設等で利用しているインターネット環境や利用しているソフトウェアに関する情報である。これらは検索システムを構築する上で欠かせない。2021年度の学会や研究会における情報を参考に調査内容を精査し,二次調査を実施した。 2.方法 調査対象:視覚障害者の医療系職業教育課程を有する学校および施設(視覚特別支援学校,国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局視覚障害支援センター,社会福祉法人,大学など)67校である。 調査対象者:専門基礎科目の解剖学または生理学を10年以内に担当した教員 調査期間:2021年12月1日~2022年1月31日 手続き:各学校・施設へ,電子媒体(Excelファイル),点字紙媒体,拡大文字紙媒体を郵送し,無記名自記式質問紙法により回答を求めた。 調査項目の概要:経験年数,主な使用文字,過去10年間に担当してきた科目,ウェブサイトの視覚アクセシビリティに関する項目,サイト閲覧のプラットホームに関する項目,インターネットの利用環境に関する項目,提供できる教材の有無などである。  この研究調査は筑波技術大学研究倫理委員会の承認(承認番号2021-22)を得て実施した。 3.成果の概要  二次調査では67校中51校(76%)から290名の回答が得られた[4]。回答者の多くは解剖学・生理学以外に臨床医学総論・臨床医学各論・病理学を10年以内に担当している。結果の概要を示す。欠損値を除いた282名に対する割合を%で示す。2021年度の一次調査に次いで二次調査に回答した教員は67%であった。回答者の使用文字は,普通文字22%,拡大文字37%,点字30%,音声11%であった。年齢および経験年数は一次調査とほとんど差がない。ウェブサイトの視覚アクセシビリティに関しては,173名が文字サイズ,150名がフォントおよび背景色と文字コントラストの変更ができるサイトを望んだ。これらを望まない主な理由は,音声で対応する,PC側のデバイスで対応する,変更の必要がない,であった。スクリーンリーダーを利用している数は170名(60%)であり,そのうち107名が複数のスクリーンリーダーを利用している。スクリーンリーダーの上位3位は,有償のPC-Talkerが164名,Apple社製OSのVoiceOverが90名,オープンソースのNVDAが43名であった(複数回答)。サイトの閲覧に利用するプラットホームは,Microsoft Edge(Internet Explorerを含む),Google Chrome,Safari,NetReader,Firefoxの順に多かった。また2種類以上のプラットホームを利用している者が全体の73%であった。高知システム開発のPC-Talker利用者164名中88名が同じ会社から提供されるNetReaderを利用していた。インターネット利用環境に関する質問では,「組織外からいつでもダウンロードできる」が116名(41%),「時々できる」が51名(18%),「ほとんどできない」または「できない」が61名(22%)であった。ダウンロードできない理由として,53名はセキュリティーの問題,13名は組織内ネットワーク(LAN)整備の不足と回答した。自由記述では,県が外部からのアクセスを許可しないなどの意見が9件,利用できる端末の数の問題が2件あった。「ダウンロードできる」と回答した教員のうち,教材データ共有を行っているのはわずか27名だった。  組織内における教材データの共有に関する質問では,72%が共有しており,組織内に設置されたPCを介した共有が115名,組織内のクラウド・コンピューティング90名,メール57名,USBなど移動可能な記憶媒体44名であった(複数回答)。その他として,組織内LAN上に接続することができるハードディスクのNetwork Attached Storage(NAS)を介した利用が5件あった(自由記述)。組織内の教材データ共有を管理している部門は,情報教育管理部門121名,専攻または学科内65名,科目担当者39名,図書館26名の順に多かった(複数回答)。これは個人の回答なので,組織の管理状況の割合を示すものではない。  一次調査で利用希望が多かった,画像・動画・音源・触察図・教育実践の教材データ提供に関しては,条件付きを含めると,画像67名・動画54名・音源84名・触察図60名・教育実践71名が提供可能と回答した。  施設内で外部との教材共有を行えているのは現在27名(10%)に過ぎないが,外部からのデータ取り込みは167名(59%)ができている。ウェブ教材共有を推進することで,外部との教材共有の割合を大きく高めていくことができるのではないかと考える。  本研究のうち,事前調査および二次調査の実施は2021年度 筑波技術大学 教育研究等高度化推進事業(競争的教育研究プロジェクトA)研究費により行われた。 参照文献 [1] 理科ねっとわーく,(cited 2021-3-12),https://rika-net.com [2] 筑波大学特別支援教育教材・指導法データベース(cited 2021-8-20),筑波大学特別支援教育連携推進グループ http://www.human.tsukuba.ac.jp/snerc/kdb/index.html [3] 志村 まゆら,工藤 滋,田中 秀樹,半田 こづえ:視覚障害者が基礎医学を学ぶための教育コンテンツに関する研究-情報の共有化を目指して-.筑波技術大学テクノレポート,29(1):93-94, 2021, Dec. [4] 志村 まゆら,工藤 滋,田中 秀樹,半田 こづえ,福島 正也:視覚障害の教員が利用しやすい教材ウェブネットワーク構築のための調査研究.第60回日本特殊教育学会学術大会(つくば),2022年9月17日