聴覚障がい者の安全管理機能を付加した構造実験用計測システムの構築 田中 晃 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:構造実験,計測システム,聴覚障がい者の安全,警告アラームの視覚化,回転灯 1.はじめに  建築工学の構造実験とは,実構造物の全体もしくは一部のモデルとして設計された試験体を製作し,これに外力を加える実験である。この実験で発生した試験体内部のひずみ度や変位量を測定し,試験体の構造挙動を把握することが目的である。研究テーマによって,試験体の破壊に至るまで外力を加える実験を行う場合がある。この時,破壊時の外力が大きくなるほど,聴覚障がい者の人身事故への危険度が高くなり,安全管理の有無が問われる。この問題解決を図るために,計測システムに対する聴覚障害者の安全機能としての警告灯の導入を試みた。 2.構造実験の計測システム  構造実験は,徐々に加力していく静的実験と,振動架台で試験体を揺らす動的実験がある。本研究対象は静的実験であり,測定方法として外力の増加毎に実験データを取り出す。本研究に用いた計測システムは,下の3種類の装置に構成される(図1,写真1)。 (1)ハード(データロガー,加力計,センサ)は,センサにより計測・収集されたデータの抽出および保存に用いられ,記録計としての役割を持つ(写真2,写真3)。 (2)ソフト(パソコン,計測ソフトウェア)は,(1)のデータをパソコンで情報処理する役割を持つ。 (3)警告灯(コンバーター,回転灯)は,(2)により設定された警告アラームを視覚化させる(写真4)。  上記(1)のハードだけで計測を十分に行えるが,警告アラームを設定できない。そこで,上記(1)(2)との組合せで,警告アラームが鳴るようになるが,聴覚障がい者に必要な「警告アラームの視覚化」ができない。この解決するために,上記(3)を追加する。したがって,計測システムに聴覚障がい者の安全管理機能を付加するには,(1)(2)(3)の組合せが必須となる。 図1 構造実験の計測システムブロック図 写真1 構造実験風景 写真2 加力計 写真3 データロガー 写真4 警告灯 表1 計測器によるアラーム監視対象の選択 3.構造実験時の計測器によるアラーム監視対象  構造実験の実験データは「外力」「変位」「ひずみ」であり,この中からアラーム設定項目として「外力(y軸)」または「変位量・ひずみ(x軸)」を選択できる(表1)。  この時,外力が一定レベルを超えると構造挙動が非線形を示し不安定になる状態を考慮しなければならない。例えば,試験体の設計ミスにより,想定外の不安定状態がおきるとしよう。この前兆を捉え人身事故のリスクを回避するためには,目視で観察できる変形ではなく,観察できない外力をアラーム設定項目として選択するべきである。 4.アラーム設定の方法  アラームの設定は,計測ソフトウェアの中で行われる。この設定手順の例を以下に示す。 (1)計測ソフトウェアを立ち上げ,計測センサーの番号毎に,関数やセンサーモードを入力する。この後,アラームの監視対象として「外力P」を選び,アラーム1に「>10」を入力する(図2)。これにより,外力が10N以上となったら点灯することが可能となる。 (2)図2の右端での「コマンド」→「計測パネル表示」を選択し,いくつかの設定を経て,パソコン画面上に計測パネルを表示させる(図3)。 (3)図4左の「アラームパネル」を表示し,「設定」を押すと,図4右の「アラームパネル設定」を表示させる。図4右のとおりに設定すれば,(1)の「測定条件」に応じたアラームが点灯出来るようになる(写真5)。なお,測定時,図4左の「アラームパネル」を閉じてはいけない。 図2 ソフトウェアでの設定:測定条件 図3 ソフトウェアでの計測パネル 5.2021年度の実験活用事例  以上の計測システムを,いきなり,試験体崩壊を伴う構造実験に適用することは,心身事故へのリスク上,好ましくない。そこで,2021年度では,加力と減力のくり返しによる構造実験への導入を試みた。具体的に言えば,目標加力レベルに達したら点灯し,このタイミングで減力へ手動的に切替える。このため,計測パネルへの目視が不要となり,試験体の変形を観察しながら,加力と減力との切替えることが容易となった。これにより,警告音が聞こえない聴覚障害者である本人であっても,切替のタイミングや力の大きさを考慮した加力の制御が行えた。  この計測システムを活用した構造実験のデータの分析を行い,この研究成果が,国際シェル空間構造学会のIASS2022[1]および日本建築学会大会[2で発表された。  2022年度では,さらに踏み込んだ試みとして,試験体の破壊が伴う構造実験に対する本計測システムの適用を検証する予定である。 図4 アラーム設定 写真5 回転灯の点灯 6.謝辞  本研究は,2021年度教育研究高度化推進事業A競争的教育研究プロジェクト②産業技術に関する研究に「リユース可能な張弦クレセント構造の破壊実験」という研究課題名で採択され,財務課予算・決算係承認のもと,研究課題名を「聴覚障がい者の安全管理機能を付加した構造実験用計測システムの構築」に変更した。また,計測システムの構築の時,㈱東京計測研究所つくば営業所の松麿 康廣氏のご助言を頂いた。ここにも感謝の意を表する。 参照文献 [1] Akira TANAKA. The effect of changing boundary conditions at the arch end on the structural behavior of String Crescent Structure. IASS2022. Sep.2022. [2] 田中 晃.繰返し荷重下の張弦クレセントの構造特性に関する研究.日本建築学会講演会.2022年9月