視覚障害学生に対する教授法と学習支援システム 村上 佳久 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部 要旨:筑波技術短期大学の視覚部開学時に,学生の教育支援体制と,学習支援システムについて検証を行った。電子図書閲覧室の存在により,学生が自学自習出来る環境が整えられた。このシステムの哲学は,時代を経過して現在でも有効であることが示唆された。 キーワード:視覚障害,障害補償,学習支援システム,電子図書閲覧室 1.はじめに  視覚障害者の高等教育機関として,筑波技術短期大学が平成3年度から学生を受け入れたが,視覚障害者に対する教授方法と学習支援システムについて,長年システムの構築と教授法の変遷について検証すると共に,今後の方向性を検討することとする。 2.視覚障害者の学習方法  平成2年当時,盲学校での全盲と弱視の一般的な学習方法は,全盲が点字で,弱視がルーペや拡大読書器などを活用して文字ベースで学習する方法である。  教科書は,全盲が点字教科書,弱視が拡大文字教科書であった。これは,当時の盲学校の標準的な学習方法である。また,点字の読めない全盲は,カセットテープによる音を聞いての学習を余儀されるため,学習に時間がかかるので留意が必要である。更に,全盲が本や論文を読むことが困難なため,ボランティアに本を読んでもらうサービスなどを拡充させなければならず,教育体制を整えることは大変であった。  一方,教員も全盲がレポートを点字で提出した場合,点字を読んで評価する必要がある。従って,教員側も視覚障害者の学習方法をよく理解しておく必要があった。 3.学習支援システム  前述のように,盲学校などでの教育を踏まえて,1990年(平成2年)に,視覚障害学生をどの様に学習させるかを検討し,当時黎明期のパソコンを利用した学習方法を検討,そのシステム開発が実施された。 3.1 盲学校のパソコン教育  盲学校などの情報教育は,当時唯一の存在であった"AOKワープロ"と呼ばれる専用機で,キーボードの6つ(FDSJKL)のキーを点字の6点と捉えて入力する六点入力と呼ばれる方法やカナ入力で,「就学中の3年間で全盲が,晴眼者と同じ文書(墨字の文書)を書ける」と言うのが一般的であった。 3.2 平成2年の技術水準  当時,画面読み合成音声ソフトを最も流通していたPC-9801対応の数種類を検証した結果,合成音声ソフトVDM100+合成音声ハードFM-VS101の組み合わせが最も優れていた。晴眼者用のワープロソフトの一太郎V3と組み合わせ,合成音声による利用が可能と評価できたので,一太郎V3によるワープロ教育を検討した。その他,点字エディタBASEによる点字編集やCD-ROMの辞典をVZエディタ上で検索可能なシステムを開発し,合成音声で全盲が利用できることを確認した。さらに表計算ソフトのLotus123の合成音声により利用が確認できたため,晴眼者と同様の学習環境を提供できる可能性が示唆された。 3.3 ネットワーク環境  平成2年当時のPC-9801パソコンによるネットワーク環境は,ファイルサービスを中心であり, 1)MS-Network 2)PC-NFS+PC-TCP/IP+PC-UX 3)NetWare386 などが存在した。  MS-Networkは,当時はネットワーク環境が貧弱で,合成音声ソフトとの同時利用が困難であった。  PC-UX(SCOのOpen ServerのNEC OEM版)は,TCP/IPとNFSとの組合せで,ネットワーク環境を構築可能であったが,合成音声ソフトを利用すると,VZエディタしか起動できなかった。  NetWare386は,日本に出荷直後でNEC PC-9801に対応していなかった。[1-4] 4.システム化の検討  システムは端末10+10台,サーバー1台で構成され,2年間で構築される。設置場所は,視覚部図書館の奥の電子図書閲覧室である。[5] 4.1 視覚障害学生学習用端末(平成3年度) ・ハードウェア PC-9801DA(NEC)MS-DOS 2.11, CD-ROM 100MB HDD, 5.6MB RAM, 3.5inch FDD, Networkボード RS232C 増設ボード, 合成音声装置:FM-VS101(Fujitsu) ディスプレイ:PC-TV472(14inch), PC-TV211(21inch) 画面拡大装置:PC-WIDE 点字ディスプレイ:BN-40A(KGS) プリンタ:PC-PR602PS(NEC) 点字プリンタ:TP-32(東洋ハイブリッド) サーバー:PC-9801DA(NEC)PC-UX 100MB HDD, 増設HDD 100MB x3 11.6MB RAM, 3.5inch FDD, Networkボード ・ソフトウェア 画面読み合成音声ソフト:VDM-100 日本語入力:ATOK6, エディタ:VZ Editor ワープロ: 一太郎V3, 辞書検索ソフト:EB 0.97 点字エディタ:BASE 1.37, 表計算ソフト:Lotus 1-2-3 R2.1J ネットワーク接続ソフト:PC-TCP/IP, PC-NFS 4.2 情報教育  平成3年度になり,システムをどのように利用するかが,問題となった。情報処理の授業の担当者が,BASIC言語を希望したが,残念なことに,N88-BASICソフトが合成音声に対応せず,全盲が利用できない状況があったため,授業途中で対応を検討した。そこで,BASICなどのプログラミング教育ではなく,「読み・書き・そろばん」と言ったリテラシー教育を指導することに変更になった。そこで,視覚障害者のための新しい情報教育として,コンピュータリテラシー(情報基礎能力,コンピュータの基本的操作,キーボード入力やワープロ,表計算ソフトなどの利用)が求められる事となった。従来,盲学校などで行われてきた六点入力によるキーボード操作からローマ字入力によるフルキー入力,合成音声を利用したカナ漢字変換など新しい教育手法が必要となった。 4.3 フィロソフィー  1992年3月末に全米理科教育学会(National Sciense Teachers Assosiation),Bostonの年会に参加したが,Lego Japanの招待で,MIT(Massachusetts Institute of Technology)のThe Media Laboratoryを見学する機会を得た。その時に,日本に新たな視覚障害者のための大学が出来ると,メディアラボの教員に話すと,色々な助言を頂いたが,一番力説されたのが,どのような哲学で,学生を教育するかであった。既にアメリカでは,パソコンを利用した全盲や弱視の教育が行われていて,一般健常者と同様に,普通に文章を書くことが一般的になりつつあると説明してくれた。最も重要なのは,学生にどのような高等教育を指導するのかという哲学であると力説された。この時,フィロソフィーと言う言葉を力説されたので「哲学って何だろう」と帰りの飛行機で考えたことがある。 4.4 システムの運用  平成4年度に,パソコンが,10台増強され,ソフトの一部がバージョンアップされた。また,サーバーOSをNetWare386に更新し,本格的にファイルサーバーを稼働させ,併せてCD-ROMサーバーの運用も始めた。 4.4.1 ファイルサーバー  サーバーOSが変更され,ファイルサーバーが著しく増強され,テキストデータを大量に収録し,文字通り電子図書閲覧室として機能することが可能となった。さらにワープロや表計算ソフトなどが更新され,視覚障害者の学習環境は著しく向上することとなった。  ワープロやエディタを利用して,テキストデータを下向き矢印キーで,合成音声で読ませることにより,全盲や弱視が音で学習する環境が整えられ,「下向き矢印キー教育」が成立するようになった。 4.4.2 外字  本システムで最も苦労した技術的問題は,外字であった。外字とは,当時のJISで規定された文字コード(JIS第1,第2水準漢字)にない文字で,鍼灸学科の東洋医学関連の文字や鍼灸・理学療法学科の医学関連の文字である。国家試験や教科書などに出てくるが,ワープロでは出力できず,入力することも出来ない状態であった。[6-8]  そこで,解剖学の伊藤教授の協力を得て,鍼灸・理学療法学科で必要不可欠な文字を63文字,平成4年には,167文字まで選択し,画面表示用(16×16ドット)と印刷用(22×22ドット)で構成された。さらに日本語入力用の入力辞書や合成音声用の音読み辞書など様々な外字関連の作業が必要であった。また,平成4年以降は,Windows対応のWIFEフォントやTrueTypeフォント,OpenTypeフォントなどを作成し,触図用に点字フォントも開発した。  これらは,MD-DOS, Windows 2.11~Xpまで作成が続いた。Windows Vistaにより,基本文字がUnicode対応となり,ようやくフォント作成から解放されることになる。 4.5 教育の目標  元々,視覚障害学生をどのように学習させるかについては,様々な議論があった。平成3年の学生受け入れ時は,点字と拡大文字による学習と,「3年後に全盲が,墨字の文章が書けること」が,教育目標であったが,電子図書閲覧室の整備により, 1)全盲・弱視とも普通文字でレポートを提出すること 2)ゼミ授業は,学生が墨字・点字のレジュメを用意 3)課題などは,フロッピーなどで提出できること 4)教員の課題等は,テキストデータで指示  などに変更された。つまり,一般健常者の大学と同様のことの要求である。そのために,電子図書閲覧室を利用し,徹底的な情報基礎教育を実施し,学生に対する要求を満たすだけの教育と施設の拡充が必須となった。[9-18]  点訳ソフトなどが,新たに導入され,点字変換も学生が行えるようにして,自分たちで点字印刷も出来るように設定も変更された。  前述のフィロソフィーが,一般健常者の大学と同様の要求になった。しかし,盲学校などから入ってくる全盲・弱視にとっては非常にハードルの高い目標である。  したがって,この目標を達成するだけの情報基礎教育がきわめて重要となった。図1に構築された電子図書閲覧室を示す。 図1 電子図書閲覧室(平成4年度) 5.情報基礎教育  前述のように,学生の目標が設定されたので,それに対応するための情報基礎教育が必要である。そこで,次のような情報基礎教育を設定した。 1)キーボード入力能力 2)ワープロ・表計算ソフトの利用方法(レポート提出) 3)辞書検索 4)点字変換・点字印刷  この順に指導すると共に,より高度な知識と能力が必要となる。 5.1 キーボード入力能力  パソコンでレポートを提出することを要求したため,パソコンを利用してレポートを打てることが前提となる。したがって,全盲・弱視共にキーボードで普通に文章が打てることが要求される。[19]  そこで,キーボードが打てるようになるためには,キーの配列と,キーボードを目で見ることなくキー入力が出来ることを一番の教育目標とした。 1)A-Zの26文字を10秒以内(アイマスク装着) 2)「筑波技術短期大学視覚障害関係学科鍼灸学科 村上 佳久」を25秒以内(アイマスク装着:学科と名前は所属と個人名) とした。当時のワープロ検定3級程度の入力速度であり,1時間にA4枚程度のレポート作成を想定した。  1)が6校時,2)が11校時程度で,キーボード入力がほぼ完成する。次いで,入力練習に欠かせないのが,ローマ字入力のローマ字である。  例えば,ディ:DHI, じゅ:JU, ヴァ:VA, など,どのようにローマ字入力するかをきちんと指導する必要がある。  さらに,日本語入力ソフトの癖を把握することである。  例えば,「きしゃのきしゃがきしゃできしゃした」→変換→「貴社の記者が汽車で帰社した」は,入力が正確なら変換を間違えることはない。正確に入力された文字列は,数文節の助詞まで入力することにより,正しい漢字に変換される。  全盲が入力する場合は,変換時の合成音声の詳細読みを参照して入力するため,正確なキー入力と,助詞までの入力が不可欠である。 5.2 ワープロ・表計算ソフトの利用方法  視覚障害者が,墨字のレポートを手書きではなく,ワープロで提出するためには,ワープロの指導が必要不可欠である。エディタと異なり,ワープロでは,体裁が問題となる。1頁当たり余白を各々20mm程度取ると,縦40行・横36文字の設定となる。  これを基準に,センタリングや左寄せ,右寄せ,4倍角文字など様々な文書体裁操作と印刷するための操作を指導する。この一太郎の4倍角文字は,PC-PR602PS PostScriptプリンタの仕様からなめらかな拡大文字となるため,弱視にとっては,拡大文字として利用できる。  また,表計算ソフトは,全盲も利用可能で,簡易な統計処理も,グラフ化も可能であるため,実験結果などを整理するためには,不可欠な存在である。  これらのワープロや表計算ソフトの指導は,最低でも4校時以上実施すると,ワープロの印刷が可能となった。 5.3 辞書検索  英語の英和辞典を点字に点訳すると,100分冊の点字英和辞書となる。実用的ではないため,合成音声で辞書が引けないかと検討したところ,前述のようにSONY社の8cmCD-ROMを利用した「電子ブック」をVZエディタ上から検索し,エディタ上に表示させることによって,合成音声で利用することが出来るようにした。  研究社:英和中辞典・和英中辞典  医歯薬出版社:最新医学大事典  岩波出版:広辞苑第6版  その他,情報用語辞典などを合成音声で検索して,エディタでその内容を保存することも可能となったことは,画期的なことであり,後に盲学校や視力障害センターに公開講座を通じて,情報提供を行った。[20] 5.4 点字変換・点字印刷  平成2年に,点字エディタBASEがローマ字入力対応となり,点字の編集が容易になった。点字印刷用のソフトはTDCを利用した。しかし,点字が数頁以上になると直接入力は厳しいため,点訳ソフトを後日導入し,点訳作業後の校正・修正作業用に点字エディタを利用した。  図2にMS-DOS版の学習支援端末を示す。学生が,点字ディスプレイで,点字文書を読んでいる。合成音声も同時に出力されている。  この機能により,3年次のゼミ授業が展開できるようになり,拡大文字と点字資料を学生たちで用意できるように指導した。したがって,1年次以降も電子図書閲覧室の利用方法の指導が行われた。これらの指導により,ほぼ一般健常者の大学と同様の授業展開が可能になったと思われた。  さらに,教職員の教材作成や掲示物の作成,点字研修なども実施できるようシステムが構築され,触図などの作成も可能なようなマニュアルなども整備した。[21] 図2 MS-DOS版 学習支援端末 5.5 国家試験対策  国家試験対策が「下向き矢印キー教育」で出来ないかという検討していたが,鍼灸学科の上田助手が,国家試験対策ソフトELIOSを開発し,ファイルサーバーを利用して,運用することとした。ファイルサーバーを通して利用すると,誰がいつ利用したか等の情報が,試験の成績と共にサーバーに保存されるため,定期テスト前の学習にも利用されるようになった。この国家試験対策ソフトELIOSは,MDDOS版やWindows版があり,Windows版では,画面出力+音声+点字の3つを出力できるように設定され,日本初の試みであった。[22,23] 6.機器更新  電子図書閲覧室は,その後,端末OSのMS-DOSのバージョンを2.11,3.0,3.3,3.3C,3.3D,5.0,5.0A,6.2とバージョンアップを繰り返し,サーバーOSもPC-UX,NetWare386,Netware3.1,NetWare4.0とバージョンアップを繰り返して,性能を維持・管理すると共に,ソフトウェアも出来るだけ最新の物を利用できるようにバージョンアップを心がけた。  その後,Windows95の登場と共にインターネット時代となり,Windows98で機器を全面的に更新し,運用することとなる。さらに,2000年以降は,Windows Xpに更新して機器を全面的に更新して運用することとなる。 MS-DOS・Windows 98・Windows Xpと機器類は更新が,合成音声・ワープロ・表計算・エディタ・点字エディタ・辞書検索・点訳などは,ソフトウェアが代わっても同一のフィロソフィーで構築されているので,基本的な構成は同一である。従って,ソフトの操作方法,教育目標・教育手法は同一でシームレスに教育活動を展開できた。 6.1 ディレクトリー・サービス  機器更新における,最も重要な技術は,ディレクトリー・サービスである。ディレクトリー・サービス(directory service:以下 DS)とは,PCのNetwork上のリソース(資源)とその所在や属性,設定などの情報を収集・記録し,検索できるようにしたサービスである。このDSは,LDAP(Lightweight Directory Access Protocol, DS用のプロトコル)により規定され,この定義により端末の情報がサーバーに格納される。[24]  つまり端末の環境が,サーバーに保存され,別の端末においても,サーバーから読み出された端末環境が反映される。このため,20台程度のパソコン室のどの端末に座っても,自分の端末環境が確保される。  重要なのは,各個人の視覚障害者用のデスクトップ環境が,LDAPにより規定されたDS用情報を理解することで,視覚障害者の基本的な端末環境をその端末においても再現できることである。  言葉を換えると,DSとは,サーバーに個々の視覚障害のデスクトップ環境を保存して運用することである。  電子図書閲覧室においては,MS-DOS 5.0以降において,NetWareサーバーを利用し,学生の日本語入力用の辞書や英和辞典や医学辞典などの辞典類のCD-ROMサーバーの利用切り替えなどに利用された。MS-DOSのような,Single User, Single TaskのOSでも,Config.sysやAutoexec.batの設定を切り替えることによって,学科別の日本語入力の辞書環境を切り替えた。  鍼灸学科:一般用語+医学用語+東洋医学用語  理学療法:一般用語+医学用語+整形リハビリ用語  情報処理:一般用語+情報処理用語+工学系用語  それぞれ学科別に用意して,DSで切り替えていた。  この手法は,Windows98やWindows Xpでも同様で,OSが変わっても,LDAPで規定されたデスクトップ環境とソフトウェア設定をサーバーに保存して,学科別の環境を再現した。デスクトップ環境以外のソフトウェア環境も切り替えることが出来るのは,DSのおかげである。 6.2 図書館システムと電子図書閲覧室の連携  電子図書閲覧室のファイルサーバーがディレクトリー・サービスによりシームレスに利用できるようになったため,図書館システムとの連携も取れるようになった。つまり,書誌データを管理する図書館システムのデータベースと電子図書データを管理する電子図書閲覧室のディレクトリー・サービスが互いにデータのやりとりを行うことにより,電子図書のデータベース検索と電子図書の提供が容易となった。これは,電子図書閲覧室のファイルサーバーに触図などを収録し,研究室などから教員が自由に参照できるようにシステム化した手法を応用して実現が可能となった。CD-ROMサーバーと同様に春日キャンパス内で,閲覧可能であった。さらに,鍼灸学の文献データベースも運用となり,研究支援も行うことが可能となった。[25-27]  詳細は略するが,図書館システムと電子図書閲覧室のネットワーク機能をTCP/IP系とSPX/IPX系をシームレスに運用可能としたディレクトリー・サービスの賜物である。[28-38]   6.3 電子図書閲覧室の変遷 MS-DOS:1991年(平成3年)~1998年(平成10年) Windows 98:1999年(平成11年)~2005年(平成17年) Windows Xp:2006年(平成18年)~2009年(平成21年)  フィロソフィーを変えず,機器更新を行ってきたが,一番変更されたのは,ディスプレイ環境である。弱視学生の視力や視野に合致させるべく,MS-DOSやWindows 98の時代は,ディスプレイの大きさが,14インチと21インチであった。Windows XPの時代では,10,15,17,19,20インチ2台の液晶ディスプレイが利用できたため,弱視学生の視認性は著しく向上した。[39]  また,OCRソフトなどにより英語文献を読み込み,テキストデータ化し,合成音声で読むことにより,大学院生への対応も検討した。  さらに,液晶ディスプレイで羞明が起きる学生もいるため,黒色用紙に白色文字で印刷可能な,白色文字印刷システムをトナー業者と共に開発して,視認性の良い印刷資料を作成することが可能となった。[40-42]  しかし,残念なことに,2009年の8月6日をもって,電子図書閲覧室の閉鎖が命じられ,全ての機能と設定を初期化し,デフォルト状態にして引き渡した。  これ以降は,視覚障害者の電子黒板と学習支援端末の研究に移行するが,同一のフィロソフィーで構築されているので,機能構成・教育手法などは,ほぼ同一である。その後,学習用端末は,デュアル・ディスプレイからタッチパネルを利用したディスプレイへ移行し,電子黒板も手元型電子黒板と大型電子黒板の連携となり,最新の超省電力電子黒板や超省電力学習支援端末など,技術的な知見は,盲学校や視力障害センターなどでの実証実験を通じて検証され,新たなシステムの構築に生かされている。[43-51]  前述のMITの教員の「学生を学習させるためには,フィロソフィーが最も重要だ」という言葉の意味は,教授法と学習支援システムが,両輪であることがようやく理解できたように思える。  図2の平成4年度のMS-DOS版の学習支援端末と図3の令和4年度の超省電力学習支援システムは,MS DOSとWindows 11でOSは異なるが,同じフィロソフィーで構築されているため,ほぼ同様の機能構成となっている。 図3 超省電力学習支援システム 7.おわりに  視覚障害者のための高等教育機関として,筑波技術短期大学開学時,視覚障害学生にどのように学習をさせるかについて検討し,学習指導方法と学習支援システムの両輪で学生受け入れを行った。どのように学習させるかというフィロソフィーに基づき,学習方法を検証し,それに対応した学習支援システムを構築して,視覚障害者の高等教育を支えた。特に,学習支援システムにおけるディレクトリー・サービスは,極めて有効であった。  最も重要なのは,フィロソフィーで,時代が変わってもその基本的な骨子が揺らがない限りは,同一の思想に基づく学習支援システムが有効となった。  視覚障害者の学習支援システムが視覚障害者の学習環境に非常に大きな影響を与えたことは,情報教育の発展と共に特記すべき事項であると思われる。願わくは,学生のための学習環境が整えられることを切に願う次第である。 参照文献 [1] 村上 佳久,伊藤 隆造.視覚部におけるネットワーク環境(IPX系). 筑波技術短期大学テクノレポート.1997;4:p149-152. [2] 村上 佳久.小・中学校,高等学校におけるネットワーク環境の構築と協同学習.筑波技術短期大学テクノレポート.1997;4:p153-158. [3] 村上 佳久.教育現場におけるネットワーク構築-最適化とTCO(Total Cost Ownership)軽減-.筑波技術短期大学テクノレポート.1998;5:p.135-140. [4] 村上 佳久.教育現場におけるネットワーク構築-新しい学習指導要領と学校現場の諸問題-.筑波技術短期大学テクノレポート.1999;6:p.135-138. [5] 村上 佳久.電子図書閲覧室.筑波技術短期大学テクノレポート.1995;2:p.113-117. [6] 村上 佳久,伊藤 隆造,森 英俊.外字について.筑波技術短期大学テクノレポート.1998;5:p.111-116. [7] 村上 佳久.外字について2.筑波技術短期大学テクノレポート.2005;12:p.33-40. [8] 村上 佳久.外字について3.筑波技術大学テクノレポート.2008;15:p.139-144. [9] 村上 佳久.新しい情報教育カリキュラムの開発.筑波技術短期大学テクノレポート.2001;8(1):p.93-98. [10] 村上 佳久.新しいOSに対する視覚障害補償.筑波技術短期大学テクノレポート.2002;9(1):p.7-11. [11] 村上 佳久.視覚障害者の新しい情報教育その2.筑波技術短期大学テクノレポート.2003;10(1):p.35-39. [12] 村上 佳久,上田 正一.情報教育におけるe-Learningの試み.筑波技術短期大学テクノレポート.2003;10(1):p.41-47. [13] 村上 佳久.情報の共有化と機器管理,セキュリティ-視覚障害者の新しい情報教育その3-.筑波技術短期大学テクノレポート.2004;11:p.33-39. [14] 村上 佳久. 学習支援システムにおけるコストダウンの試み.筑波技術大学テクノレポート.2007;14:p.269-274. [15] 村上 佳久.視覚障害者の新しい情報教育.筑波技術短期大学テクノレポート.2000;7:p.55-59. [16] 村上 佳久.新しいOSに対する視覚障害補償その2.筑波技術大学テクノレポート.2008;15:p.43-47. 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[30] 村上 佳久,安島 明美.視覚部図書館システム2-電子図書館のための書誌管理-.筑波技術短期大学テクノレポート.2001;8(1):p.139-143. [31] 村上 佳久.電子図書書誌データベースの充実.筑波技術短期大学テクノレポート.2002;9(1):p.63-67. [32] 村上 佳久,落合 厚子.新しい電子録音図書DAISYの作製方法の改善.筑波技術短期大学テクノレポート.2004;11:p.27-31. [33] 村上 佳久,上田 正一.視覚障害者のための電子図書館その1.筑波技術短期大学テクノレポート.1998;5:p.141-144. [34] 村上 佳久 , 上田 正一.視覚障害者のための電子図書館その2 電子録音図書.筑波技術短期大学テクノレポート.1999;6:p.119-123. [35] 村上 佳久,上田 正一.視覚障害者のための電子図書館その3“Voice on Demand”.筑波技術短期大学テクノレポート.2000;7:p.109-113. [36] 村上 佳久.電子図書閲覧室2-視覚障害者のための電子図書館その4-.筑波技術短期大学テクノレポート.2001;8(1):p.127-132. [37] 村上 佳久,上田 正一.視覚障害者のための電子図書館その5-図書館蔵書管理システムと電子図書閲覧室の融合-.筑波技術短期大学テクノレポート.2002;9(1):p.69-73. [38] 村上 佳久,上田 正一.視覚障害者のための電子図書館その6―Text-To-Speech合成音声による電子録音図書―.筑波技術短期大学テクノレポート.2003;10(1):p.67-73. [39] 村上 佳久.視覚障害者の学習環境の整備と電子図書.筑波技術大学テクノレポート.2010;18(1):p.54-58. [40] 村上 佳久,前島 徹.視覚障害者の教材作成の改善 白色文字印刷.筑波技術短期大学テクノレポート.2005;12:p.41-46. [41] 村上 佳久.電子化図書の読書環境と新しい白色文字印刷.筑波技術大学テクノレポート.2013;20(2):p.34-40. [42] 村上 佳久.白色文字印刷その3.筑波技術大学テクノレポート.2014;21(2):p.7-11. [43] 村上 佳久.県を越えた協同学習を実現するための視覚障害者のための学習支援システム.教育システム情報学会第46回全国大会講演論文集.2021; p.25-26. [44] 村上 佳久.同一の教材で全盲と弱視という異なる視覚障害に対応する教育支援システムの改善.筑波技術大学テクノレポート.2020; 27(2): p.12-16. [45] 村上 佳久.同一の教材で全盲と弱視という異なる視覚障害に対応する教育支援システムの開発.筑波技術大学テクノレポート.2018; 26(1): p.47-50. [46] 村上 佳久.書見台型学習支援システムの試作.筑波技術大学テクノレポート.2018; 25(2): p.12-16. [47] 村上 佳久.電子メディアを利用した視覚障害者の家庭学習システムの試作.筑波技術大学テクノレポート.2017; 25(1): p.1-4. [48] 村上 佳久.全盲と弱視を同一の教材で提示する電子黒板システム2.筑波技術大学テクノレポート.2019;(27)1: p.21-25. [49] 村上 佳久.全盲と弱視を同一の教材で提示する電子黒板システムの試作.筑波技術大学テクノレポート.2019; (26)2: p.6-10. [50] 村上 佳久.電子黒板と手元型電子黒板の活用.筑波技術大学テクノレポート.2015; 22(2): p.1-6. [51] 村上 佳久.視覚障害者のための電子黒板.筑波技術大学テクノレポート.2013; 20(2): p.29-33. Teaching Methods and Learning Support Systems for Visually Impaired Students MURAKAMI Yoshihisa Division of Research on Support for the Hearing and Visually Impaired, Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: When the visually impaired division of Tsukuba College of Technology was opened, the educational support system for students and the learning support system were verified. The computer library room was prepared as a system for students to study by themselves. It was suggested that this philosophy of system construction is effective even after the passage of time. Keywords: Visually impaired, Disability compensation, Learning support system, Computer Library Room