第17回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム報告書 オンライン特別企画「原点を踏まえて考えるこれからの支援―時代の変化を受けて―」 ■P0:もくじ 1.はじめに1 2.開催要項3 3.配信型企画報告 1)企画1「基礎講座:いま・ここをつなぐ~支援ルームふらっと探訪~」 10 2)企画2「これからの時代の中で変化する支援・変わらない支援~聴覚障害のあるコーディネーターの視点から~」 19 3)企画3「オンライン時代の情報保障者養成を考える」 37 4)企画4「互いの思いに気づいてみよう~よりよい支援につなげるために~」 56 4.参加型企画報告「聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2021」 64 5.配信型企画実施にあたっての工夫点―事前準備~当日の役割、公開準備まで― 72 6.シンポジウム実施体制 80 ■P1:はじめに 第17回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 大会長 筑波技術大学 学長 石原保志 第17回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムが、昨年に引き続きオンライン特別企画として開催され、配信企画には全国各地からのべ 936名の方にご参加いただきました。本シンポジウムの開催にあたり、多大なご協力をいただいた講師、情報保障者、そして、ご参加いただいた全ての皆様に深く御礼申し上げます。 本年の全体テーマは「原点を踏まえて考えるこれからの支援―時代の変化を受けて―」でした。障害者差別解消法の施行であったりコロナ禍による急速なオンライン授業の普及であったりと、さまざまな時代の流れの中で聴覚障害学生支援を取り巻く状況は大きく変化しました。しかしながら、聴覚障害学生支援が目指すべき「原点」ともいえる「聴覚障害学生の学ぶ権利の保障や参加の保障」という目標に変わりはありません。制度がより広まり、技術がより進歩したからこそ、忘れてはならない「原点」を見つめて、今後の聴覚障害学生支援を考えていく、そういったターンに今あると私たちは考えています。 今回は、配信企画ではリアルタイム配信の企画を2本、オンデマンド配信の企画を2本、計4本を実施しました。いずれの企画もこの時期だからこそ取り上げたかったテーマで、どの企画でも司会・講師の方々が真剣にこれからの聴覚障害学生支援に向き合う真摯な姿勢を見せてくださいました。 参加型企画の「聴覚障害学生支援実践事例コンテスト」では、投稿された作品をオンラインで審査し、結果発表もリアルタイム配信で実施する「聴覚障害学生支援の思いを伝えるコンテスト」の第 2弾を実施しました。今回は川柳部門のほかに、新たに動画部門を設け、新たな「つながり」の形を提示できたのではないかと思っています。 その他、期間限定のウェブコンテンツ「正会員大学・機関 紹介特設ページ」では、各大学・機関のホットトピックスを中心に、活動紹介動画や周知のためのパンフレットも含めて掲載し、充実した情報を多くの方に共有することができました。 シンポジウムがオンライン開催となり、今回で2回目の実施でしたが、昨年度の実績をもとにさらにバージョンアップさせた形で皆様にご覧いただけたのではないかと思っております。聴覚障害学生がよりよく学び、生きられる社会を目指し、今後とも活動して参りますので、引き続きご協力をいただけますと幸いです。 ■P3:開催要項 名称: 第17回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム(オンライン特別企画) 目的: 筑波技術大学に事務局を置く日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)では、特に聴覚障害学生への支援体制が充実し、積極的な取り組みを行ってきている大学・機関と共同で、聴覚障害学生支援に関するノウハウを積み重ね、先駆的な事例の開拓を行ってきた。そして障害者差別解消法の施行をはじめとする昨今の情勢の変化を受け、本ネットワークは 2018年度から新体制をスタートさせ、より広く強固なネットワークの構築を目指している。 本シンポジウムは、全国の大学における聴覚障害学生への支援実践に関する情報を交換するとともに、本ネットワークの活動成果をより多くの大学・機関に対して発信することで、今後の高等教育機関における聴覚障害学生支援体制発展に寄与することを目的として 2005年より毎年 1回開催してきた。新型コロナウイルス感染拡大を鑑み、昨年度に引き続き、今年度もウェブ開催の形式で実施するものである。 対象: 全国の大学等で障害学生支援を担当する教職員、及び聴覚障害学生、支援者その他高等教育機関における障害学生支援に関心のある方々 主催: 国立大学法人 筑波技術大学 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) 後援: 文部科学省 独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO) 一般財団法人 全日本ろうあ連盟社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 東京大学 障害と高等教育に関するプラットフォーム(PHED) 京都大学 高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP) 実施形式: 以下いずれかの方法で、インターネット上で実施する。映像配信を行うものにあたっては、手話通訳及び文字通訳をあわせて配信するとともに、資料は電子データでの配布を行う。 1)配信型企画(事前収録動画の配信/リアルタイム配信およびアーカイブ映像の配信) 2)参加型企画 3)ウェブコンテンツ 開催期間: 2021年11月15日(月)~12月31日(金) (各企画により配信期間が異なる) プログラム: 1)配信型企画   ※所属は実施当時 ■P4:企画1「基礎講座:いま・ここをつなぐ~支援ルームふらっと探訪~」 形式: リアルタイム配信およびアーカイブ映像の配信 日時: 11月15日(月)14時~16時 アーカイブ視聴: 12月3日(金)~12月31日(金) 企画コーディネーター: 松原夢伽氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 宮谷祐史氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 司会: 松原夢伽氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 講師: 宮谷祐史氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 清野水香氏(北星学園大学 教育支援課) 北野麻紀氏(北星学園大学 アクセシビリティ支援室) 坂本美樹氏(九州ルーテル学院大学 障がい学生サポートルーム) 立山秀樹氏(九州ルーテル学院大学 障がい学生サポートルーム) 企画趣旨: コロナ禍により、大学間・個人間のコミュニケーションや情報交換の機会が極端に減少してしまい、同じような課題に立ち向かいながらも、それを共有する時間が作れず、支援現場で働く皆さんとの繋がりが希薄になってしまっている。そこで、本企画では参加者と一緒に時間を共有しながら、「今ここ」で働いている仲間がいるということを実感し繋がり合えることを目的とし、また、 3つの大学の障害学生支援の「今」を伝えながら、各大学が支援のあり方を見直すきっかけとなるような機会を作ることとする。 ■P5:企画2「これからの時代の中で変化する支援・変わらない支援~聴覚障害のあるコーディネーターの視点から~」 形式: 事前収録動画の配信 配信期間: 12月3日(金)~12月31日(金) ファシリテーター: 日下部隆則氏(同志社大学スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室) 講師: 太田琢磨氏(愛媛大学 アクセシビリティ支援室) 河野恵美氏(東京女子大学 学生生活課) 山本 篤氏(東京大学 バリアフリー支援室) 企画趣旨: オンライン授業が導入され、対面での面談やコミュニケーションの機会が減少するという変化の中で、時代に応じて新たに必要とされる支援とは何か、変わらず維持すべき支援の視点とは何かについて、聴覚障害のある支援コーディネーターが議論する。 ■P5:企画3「オンライン時代の情報保障者養成を考える」 形式: 事前収録動画の配信 配信期間: 12月9日(木)~12月31日(金) 司会: 河野純大氏(筑波技術大学 産業技術学部) 講師: 末盛 慶氏(日本福祉大学 社会福祉学部) 金澤貴之氏(群馬大学 共同教育学部) 森野宅麻氏(元支援学生/公立中学校教員) コメンテーター: 松﨑 丈氏(宮城教育大学 教育学部) 岡田孝和氏(明治学院大学学生サポートセンター) 企画趣旨: コロナ禍で困難になった大学も多い支援学生の確保や養成のあり方について、オンラインを活用した実践例などを紹介するとともに、どのような形であっても支援の中で見落としてはならないポイントを確認する。さらに将来的な展望として、大学や地域の枠を超えた支援人材の確保や大学間連携の可能性について議論する。 ■P6:企画4「互いの思いに気づいてみよう~よりよい支援につなげるために~」 形式: リアルタイム配信 ※アーカイブ配信なし 日時: 12月14日(火)14時45分~16時15分 司会: 藤原隆宏氏(関西大学 学生相談・支援センター) グループファシリテーター: 有海順子氏(山形大学 障がい学生支援センター) 生野 茜氏(関西学院大学 学生活動支援機構総合支援センター) 及川麻衣子氏(宮城教育大学 しょうがい学生支援室) 生川友恒氏(静岡大学 学生支援センター) 藤野友紀氏(札幌学院大学 人文学部) 企画趣旨: 聴覚障害学生・支援学生・教職員、それぞれの立場に立って「支援」を改めて考えてみると、今まで気づかなかった「気づき」を得ることができる。本企画では、ある場面の動画を題材に、三者でお互いの思いを語り合い、ともによりよい支援を作る担い手としての「気づき」を得るためのグループディスカッションを行う。グループディスカッションでは聴覚障害学生も参加しやすい方法を講ずる。具体的には、チャット、文字通訳、手話通訳のいずれかの方法で進行する。コミュニケーション方法は、参加者に確認の上決定する。 2)参加型企画<聴覚障害学生支援実践事例コンテスト 2021特別編―聴覚障害学生支援の思いを伝えるコンテスト―> ①参加方法 作品の応募にあたっては PEPNet-Japanウェブサイトより申込書をダウンロードして必要事項を記入、メール等で申し込む。作品はウェブサイトならびに公式 Twitterで公開する。 ②部門<聴覚障害学生支援実践事例コンテスト 2021特別編―聴覚障害学生支援の思いを伝えるコンテスト― 結果発表> 形式: (1)動画部門(チーム応募型)    「コロナ禍における聴覚障害学生支援に関する取り組みや日頃の実践内容」をテーマに、1分 30秒以内の動画を作成する。 (2)川柳部門(個人応募型)    「聴覚障害学生支援で感じていること、大切にしていること、支援あるある」等をテーマに、川柳を作成する。 募集期間: 8月18日(水)~10月31日(日) 審査プロセス: PEPNet-Japanウェブサイト及び公式 Twitterに掲載し、Googleフォームにて投票を行う。 <聴覚障害学生支援実践事例コンテスト2021 特別編―聴覚障害学生支援の思いを伝えるコンテスト― 結果発表> 形式: リアルタイム配信 ※アーカイブ配信なし 日時: 第1部(応募作品紹介)12月14日(火)14時~14時40分 第2部(結果発表)12月14日(火)16時20分~17時 司会・進行: 白澤麻弓氏(筑波技術大学/PEPNet-Japan 事務局長) 平良悟子氏(元PEPNet-Japan 事務補佐員) 講評: 藤吉尚之氏(文部科学省 学生・留学生課 課長) 石原保志氏(筑波技術大学 学長/PEPNet-Japan 代表) 内容: 各部門について、受賞作品を発表する。審査員からの講評の他、最優秀作品賞受賞の団体・個人に対するインタビューも行う。 3)ウェブコンテンツ 正会員大学・機関 紹介特設ページ 形式: ウェブコンテンツ 掲載期間: 12月2日(木)~12月31日(金)(期間限定公開) 内容: PEPNet-Japanの各正会員大学・機関における聴覚障害学生支援や障害学生支援取り組みを紹介する特設ページを、PEPNet-Japanウェブサイト内に開設する。障害学生支援についてのホットトピックスや紹介動画、ウェブサイト、資料等を掲載する。 【配信型企画 報告】 ■P10:企画1 「基礎講座:いま・ここをつなぐ~支援ルームふらっと探訪~」 企画コーディネーター: 松原夢伽氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 宮谷祐史氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 司会: 松原夢伽氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 講 師: 宮谷祐史氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 清野水香氏(北星学園大学 教育支援課) 北野麻紀氏(北星学園大学 アクセシビリティ支援室) 坂本美樹氏(九州ルーテル学院大学 障がい学生サポートルーム) 立山秀樹氏(九州ルーテル学院大学 障がい学生サポートルーム) ※所属はシンポジウム実施当時 1.はじめに コロナ禍により、大学間・個人間のコミュニケーションや情報交換の機会が極端に減少し、同じような課題に立ち向かいながらも、それを共有する時間が作れず、支援現場で働く方々との繋がりが希薄になっている。 そこで、本企画では参加者とともに時間を共有しながら、「今ここ」で働いている「仲間」がいることを実感し繋がり合えることを目的とし、また、3つの大学の障害学生支援の「今」を伝えながら、各大学が支援のあり方を見直すきっかけとなるような機会を作ることを目指した。各支援ルームの紹介は、フローズンな説明や動画を見聞きする形ではなく、「生の雰囲気」を伝えられるよう、来訪者が目の前にいるかのように説明や実物の紹介をしていくスタンスで行っていただき、司会者が来訪者(視聴者)を代替する形で適宜質問を挟みながら進めるという方法をとった。 2.探訪①―京都大学障害学生支援ルーム― まず、宮谷氏から、京都大学障害学生支援ルームの紹介がなされた。 <ミーティングルーム> 学生との面談や、支援スタッフのミーティングなどで使用している。面談時は向かい合わせに座るだけでなく、距離感によってはあえて 90度の位置に座るなどもあるため、レイアウトを調整しやすい作りになっている。 <支援ルーム前掲示> 支援ルームで実施するイベントのチラシ、学内のボランティア関係、学外の支援機関等のお知らせ、障害者雇用・就職関連の情報を掲示している。<支援ルーム内> 正面カウンターには、学生サポーターが支援活動終了後に記入する「支援確認簿」や名簿、文房具などが置かれている。掲示物は「見てわかりやすく」を心がけており、例えば履修登録期間の掲示は、登録の残り期間がわかりやすいよう期間の日付を 1日ずつ消していくようにするなどして、学生が自身で把握できるよう工夫している。 <交流スペース> 障害学生や学生サポーター、教職員などさまざまな方が利用できるフリースペースとしており、学生サポーターがテキストデータ化や字幕付け作業を行ったり、パーティションの奥ではクールダウンすることもできる。また本棚には障害に関する書籍や就職関連のファイルなどを置いて貸し出しも行っているが、その手順についても流れをわかりやすく掲示している。 また交流スペースの奥には支援ルームスタッフの似顔絵を貼ってスタッフの紹介をしている。 <部屋作りの工夫点> 雰囲気作りのためにスタッフが好きな花火のカレンダーなど、スタッフの「お気に入り」を散りばめている。また、執務室ではスタッフのパフォーマンスを最大に発揮するために、使用するデスクやチェア、モニターなどについて個人の希望にあわせて環境調整をしている。スタッフ間の業務分担を貼りだすなどさまざまな情報の「見える化」を意識している点も本学ならではの点ではないかと思う。 「写真:京都大学紹介の様子(左が宮谷氏、中央上に松原氏。右は手話通訳)」 「写真:交流スペースの様子」 「写真:スタッフ紹介の掲示」 3.探訪②―北星学園大学アクセシビリティ支援室― 続いて、北野氏・清野氏から北星学園大学ならびにアクセシビリティ支援室の様子が紹介された。 <アクセシビリティ支援室の位置> アクセシビリティ支援室は、医務室や学生相談室と同じフロアに設けられており、何か困ったことがあったらすぐに来てもらえる環境になっている。また、学生生活支援課と教育支援課に続く形で位置しており、利用しやすい並びになっている。 アクセシビリティ支援室の入口ドアは大きな窓ガラスで、車いすの学生や聴覚障害学生が来た際にもすぐ見つけることができる。手話を使う学生とは、ドアを開けなくても手話を使って話ができて便利である。部屋の中心にはスタッフの机が配置されており、面談室が 2つ、ミーティングルームが 1つ設置されている。 <支援機器> 室内にはパソコンノートテイクで使用するパソコンを保管しており、テンキーのあるもの、ないもの、遠隔支援用のインターネット接続できるものなど合計 15台ある。別途モニターもあり、臨席で支援できない場合などに使用する。 また手書きノートテイクの使用物品として、カウンターに紙とペンなどをセットしたファイルや、支援スタッフであることを示す吊り下げ名札を準備して支援の前に取りに来てもらっている。そのほか補聴援助システムの貸出バッグがあり、補聴援助システムの他、使用方法の工夫(マイクの持ち方など)を記載したノウハウ集も添えている。 他にも肢体不自由学生学生などへの支援機器として、タッチ式のタブレットパソコンとジョイスティック、それらを操作する際に使う台(段ボールで作成)、視覚障害学生支援機器として、音声拡大読書器「とうくんライト」1なども保有している。 <カウンター> 学生たちが来たときに対応するカウンターがあり、利用学生の他、支援スタッフも支援活動の申し込みや勤務表の記入などにやってくる。以前 PEPNet-Japanのシンポジウムに参加した際に受賞したトロフィーと賞状を並べており、部屋に来た学生に支援活動をアピールしている。シンポジウムへの参加は、利用学生、ノートテイカー双方にとって支援活動へのモチベーションアップにつながったようだ。 <ミーティングルーム> 以前はノートテイカーの養成講習会や利用学生と支援学生との話し合いなどで使用していた。現在講習会はオンラインだが、実際の授業映像を活用して実施している。また、 PEPNet-Japanシンポジウムで発表したポスターも展示している。 「写真:北星学園大学紹介の様子(左に北野氏、中央上は松原氏)」 「写真:アクセシビリティ支援室の入口ドアの様子」 4.探訪③―九州ルーテル学院大学障がい学生サポートルーム― 最後は立山氏、坂本氏より紹介があった。学生サポーター団体「SHIP-S(シップス)」については、学生サポーターの牧田さんと高杉さんから活動紹介がなされた。 <障がい学生サポートルーム> 学生支援課内に設置されており、カウンターには北星学園大学さん同様、PEPNet-Japanシンポジウムのコンテストで頂戴したトロフィーを置いている。また、支援で使用するパソコンや、授業で使用する教科書・資料を保管してある場所があり、資料は時間割ごとに並べている。また動画の文字起こしを行うブースを設けており、そこで教員から依頼のあった映像について学生サポーターが文字起こしを行っている。 <学生サポーター団体「SHIP-S」> 「SHIP-S」は学生サポーター同士のつながりを持ちながら活動するために、学生たちが中心となって昨年度立ち上げた団体である。「SHIP-S」の「SHIP」は、①フレンドシップ・パートナーシップの「シップ」、②同じ方向に向かう「船(シップ)」、③キリスト教の「羊(シープ)」、の 3つの意味からきている。また「-S」にはスマイル、スチューデント、サポート、サービス、といった意味が込められている。 現在は各学年にリーダーや代表を配置して、支援の課題を話し合ったり、障害学生やサポーターの悩みや意見を交換しあったり、学内での広報活動を行うなどをしている。コロナ禍のためなかなか思うような活動ができなかったが、バリアフリーマップの作成やノートテイク勉強会などにも今後取り組みたいと思っている。来週には、隣接する熊本大学と熊本学園大学との3 大学合同で障害学生支援についての交流会をZoom で予定している。 「写真:九州ルーテル学院大学紹介の様子(左に立山氏、中央上は松原氏。右は手話通訳)」 「写真:学生サポーター団体「SHIP-S」紹介の様子(左から高杉さん、牧田さん。中央上に松原氏、右は手話通訳)」 5.探訪④―PEPNet-Japan事務局紹介― 探訪のラストでは、PEPNet-Japan事務局を事前に収録した動画にて紹介した。PEPNet-Japan事務局の部屋内部の紹介から始まり、業務風景、そして事務局メンバー一人ずつの自己紹介の様子が映し出された。 「写真:事務局紹介の様子」 6.質疑応答 最後に質疑応答の時間が設けられた。以下、寄せられた質問と回答について、一部を抜粋して記載する。 Q.学生と協働で実施している支援について知りたい。 宮谷氏/本学が学生サポーターに依頼している業務としては、PCノートテイク、字幕付与、視覚障害のある学生へのガイドヘルプやテキストデータ作成、肢体不自由の学生への移動支援、発達障害のある学生への板書代筆やチュータリングなどがある。障害のある学生のニーズに合わせて必要なサポートを行うので、学生サポーターで対応可能な内容であれば学生サポーターに依頼する形で実施している。 Q.学生サポーターとともに支援をしていく工夫や募集について。 宮谷氏/工夫というよりは対話を大事にしている、というイメージ。どの大学でも取り組まれていることかと思うが、支援ルームで得た情報を充分伝えた上で、障害学生、学生サポーターが、相互の立場で支援をよりよく作り上げていくための対話の場や機会を設定するようにしている。 また、学生サポーターの募集としてはビラを作成したり、ウェブサイトに掲載したりして広報している。例えば、工学系の学生サポーターが必要なケースなど、すでに募集したいターゲットが決まっている場合は、そういった学生の目につきそうな場所にビラを掲示したり、教務担当に声がけを依頼することもある。 北野氏/アクセシビリティ支援室の教員や利用学生が在籍している学部・学科で声をかけていただいたり、全学部の掲示板にチラシを貼り出したり、支援活動を行っている学生から後輩や友人に声をかけてもらうなどしている。 立山氏/サポートを PRする方法として、多くの目に触れる場所での支援も挙げられる。利用学生のニーズがあればガイダンスや就職関係の講演会、学院祭のイベントなどにもサポートをつけており、その様子を見て興味を持ってくれる学生もいる。 Q.1人の利用学生に対して何科目の支援がついているか。 松原/支援の科目数は利用学生それぞれのニーズによってだと思うので、例えば、1人の学生サポーターが、何コマ支援に入っているかでお答えいただく形でもよいかと思う。 宮谷氏/質問者の質問にまず答えておくと、本学では利用学生への支援について、コマ数や時間数の制限は決めていない。また学生サポーターにどの程度割り振るかもその時々で、多くてもおおよそ 1週間に2コマ程度かと思う。もちろん、それ以上依頼することがあるが、学生サポーターと対話をしながら負担感を考えて依頼している。 北野氏/本学も制限は特になく、利用学生が希望する科目全てにノートテイクを配置している。今年は利用学生が1名のため、ノートテイカー1人当たり週1~2回支援に入っている。2018年度は合計5名の利用学生が在籍していたため、前期で68コマ分のノートテイクが必要でノートテイカーには週に4~5回程度依頼していた。利用学生の在籍状況などにもよるが、依頼はできるだけ週2~3回に抑えたいと思っているところである。 立山氏/本学も利用学生が希望する授業にはすべてノートテイクを配置している。学生サポーター1人当たりの担当コマ数については一概には言えないが、基本的には2コマ連続にならないように配慮している。都合が合わず1度も支援に入れなかった学生もいれば、4年生で空きコマが多いため週5日依頼している学生もおり、それぞれの事情によって担当数は異なっている。 坂本氏/少し補足したい。サポーターへの依頼は平等に割り振れればよいが、科目によっては専門性が高く、同じ学科の学生サポートのほうが支援の質が上がる場合もあるため、依頼数が偏ることもある。そのため、1人で1週間4~5コマ入る人もいれば 1週間に1~ 2コマということもある。 Q.コロナ禍により、支援体制が大きく変化したと思われるが、購入・導入してみてよかった機材があればご紹介いただきたい。 立山氏/遠隔情報保障支援の一環で音声認識アプリ「UDトーク」2を使用するため、オンライン授業の音声を入力するのに必要となる「iRig2(アイリグツー)」3を購入した。iRig2は利用学生にも貸し出しており、オンデマンド授業などでも活用している。 北野氏/本学でも遠隔での情報保障が急に必要になったため、いくつかシステムを試行した。筑波技術大学が開発した T-TAC Caption4やcaptiOnline5といった遠隔情報保障システムを利用学生に体験してもらいながら、具体的な支援方法を検討していった。例えばcaptiOnlineの音声認識機能を使用して、教室から授業を配信する教員にヘッドセットをつけてもらって認識させ、サポート学生に誤変換を修正してもらうなどの支援も実施した。このような遠隔情報保障システムは、離れた場所にいる教職員も同時にログインすることができるので支援の状況を把握しやすくよかった。 宮谷氏/コロナ禍に何があったかと改めて考えてみると、まず遠隔情報保障システムは本当にありがたかった。しかし技術をどうするかということも大事な一方で、コロナ禍では「支援には人の手がかかっていたのだ」と改めて気付かされた。テクノロジーがあればそれで解決ではなく、そことの間をどうつないでいくかが重要で、コミュニケーションをどうとるかを大切にしてきた。対面で会っていた時よりも、メールや電話などさまざまな手段を駆使して学生とつながろうと努め、そういった姿勢が改めて大事だと気付いた 2年間だった。質問の回答にはなっていないかもしれないが、人のつながりが大事だと感じている。 Q.緊急時の避難誘導(訓練も含めて)で、工夫されていることや使用しているグッズなどを知りたい。 宮谷氏/防災系のグッズでは、階段避難車という階段を降りられる車いすや担架、ポータブル担架がある。京都大学 HEAP6でも紹介しているのでご覧いただければ。 7.最後に 今回は合理的配慮や支援室の組織体制ではなく、参加者の皆さんとの「つながり」を感じられるような機会にしたいと思い、このような形式で実施した。各地、それぞれの立場で支援に関わる業務をされている皆さんとなかなか直接会うことができない環境と状況ではあるが、今回の企画をきっかけに「つながって」いければと思っている。明日からも共に頑張っていこうという気持ちを持ってもらえたらと願っている。「エイエイオー」! 「写真:司会・講師のみなさん(左上:宮谷氏、左下:清野氏・北野氏、右上:松原氏、右下:立山氏・坂本氏) 」 報告者: 松原夢伽氏(京都大学 学生総合支援機構 DRC(障害学生支援部門)) 萩原彩子(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) 注釈: 1 とうくんライト:スキャナが内蔵された据え置き型の音声拡大読書器。詳細は「株式会社アイフレンズ」 https://www.eyefriends.jp/ 2 UDトーク:コミュニケーション支援のための音声認識アプリケーション。詳細は「UDトーク」 https://udtalk.jp/を参照。 3 iRig2:UDトークをインストールした端末に音声を外部入力するためによく使用されるインターフェイス。使用方法は「UDトーク」ウェブサイトまたは下記「オンライン授業での情報保障に関するコンテンツ集」を参照。 4 遠隔情報保障システム(開発:筑波技術大学 三好茂樹)。音声・映像取得機能があり、スマートフォンやタブレット端末から教室内の音声を遠隔の情報保障者に送信することが可能。シンプルな操作で利用できるため、初心者でも扱いやすい。無料で使用可能だが、利用申請が必要(個人申請不可)。詳細は下記「オンライン授業での情報保障に関するコンテンツ集」を参照。 5 遠隔文字通訳システム(開発:筑波技術大学 若月大輔)。連係入力のための様々な機能が備えられている。無料で使用可能だが、利用申請が必要。詳細は「ウェブベース遠隔文字通訳システムcaptiOnline」 https://captionline.org/を参照。 6 京都大学HEAP(高等教育アクセシビリティプラットフォーム)下記 URLを参照。 その他の参考資料: ●京都大学  HEAP(高等教育アクセシビリティプラットフォーム)  https://www.assdr.kyoto-u.ac.jp/heap/  ・AT(支援技術)   https://www.assdr.kyoto-u.ac.jp/heap/at/  ・Tips+動画(移動に困難のある学生を支援する機器)   https://www.assdr.kyoto-u.ac.jp/heap/tips-and-movie/ ●日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)  https://www.pepnet-j.org/  ・オンライン授業での情報保障に関するコンテンツ集   https://www.pepnet-j.org/contents/ ___ここからスライド <スライド1> 企画1 基礎講座 いま・ここをつなぐ ~支援ルームふらっと探訪~ <スライド2>企画概要 コロナ禍により、大学間・個人間のコミュニケーションや情報交換の機会が極端に減少してしまい、同じような課題に立ち向かいながらも、それを共有する時間が作れず、支援現場で働く皆さんとの繋がりが希薄になってしまっています。 そこで、本企画では参加者の皆さんと一緒に時間を共有しながら、「今ここ」で働いている仲間がいるということを実感し繋がり合えることを目的とし、また、3つの大学の障害学生支援の「今」を伝えながら、各大学が支援のあり方を見直すきっかけとなるような機会を作ります。 <スライド3>講師紹介 【司会】松原夢伽氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 【講師】 宮谷祐史氏(京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム) 清野水香氏(北星学園大学 教育支援課) 北野麻紀氏(北星学園大学 アクセシビリティ支援室) 坂本美樹氏(九州ルーテル学院大学 障がい学生サポートルーム) 立山秀樹氏(九州ルーテル学院大学 障がい学生サポートルーム) <スライド4>質問方法 リアルタイム配信中、司会や各大学へのご質問をZoomの【Q&A】機能で受け付けいたします。 いただいた質問は司会者のほうで質問を読み上げます。 もし、顔を出して音声や手話で直接質問をされたい場合は、お名前と直接質問希望である旨、【Q&A】でお知らせください。パネリストに引き上げてお顔が映るようにいたします。(後日アーカイブ配信を行う点をご了承ください) なお、【Q&A】機能は、YouTubeLiveやアーカイブ配信ではご利用いただけません。 <スライド5> ※各大学の支援体制については下記の参考資料をご参照ください。 ・京都大学  https://bit.ly/3wlOQKS ・北星学園大学  https://bit.ly/3089RwT ・九州ルーテル学院大学  https://bit.ly/3bNRSxT 聴覚障害学生支援MAP「PEPなび」より ____ここまでスライド ■P19:企画2「これからの時代の中で変化する支援・変わらない支援 ~聴覚障害のあるコーディネーターの視点から~」 ファシリテーター: 日下部隆則氏(同志社大学 スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室) 講師: 太田琢磨氏(愛媛大学 アクセシビリティ支援室) 河野恵美氏(東京女子大学 学生生活課) 山本 篤氏(東京大学 バリアフリー支援室) 1.はじめに 新型コロナウイルスの影響でオンライン授業が導入され、授業や面談等で学生との対面コミュニケーションの機会が大幅に減少するなど、聴覚障害学生支援の現場では、この 2年間でさまざまな変化への対応を迫られることとなった。そのような状況の中、支援業務の中でも自身の生活の中でも、大きな変化に直面してきた聴覚障害のある当事者コーディネーターの方々から、このような変化の時にこそ、支援のあり方について改めて考え直す機会が必要ではないかとの声が挙げられ、本企画を実施することとなった。 コロナ禍による授業形態の変化やその他さまざまな時代の環境変化の中で、聴覚障害学生支援において新たに変化を遂げていくものは何か。また、この先も変わらない支援の本質とは何かについて、聴覚障害当事者の支援コーディネーターが意見を交わした。 2.聴覚障害学生の「今」 本企画の実施に先立ち、聴覚障害学生の現状の一端をつかむため、2021年 10月に聴覚障害学生を対象にウェブアンケートを実施した。企画の冒頭で、まずこのアンケートについて、ファシリテーターの日下部氏から結果の一部が紹介された(資料p26参照)。 アンケートでは 20件の回答が得られた。まず2020年度以降、大学生活で特に困難だったことを選択肢から 3つ選んでもらった結果、1・2年生からは「マスクのためにコミュニケーションしづらい」「グループディスカッションに参加しづらい」「友達を作る機会がない」といった内容が挙げられた。一方、対面授業を経験したことのある 3年生以上では、 1・2年生と同じくコミュニケーションの問題に加え、「情報保障があっても十分情報が得られない」「情報保障がつかない」という、授業の合理的配慮の面での困難が挙げられた。 次に、困った時誰に相談したかという質問では、「先生」「支援室」「聴覚障害の友人」「聴者の友人」いずれに対しても「ほとんど相談しなかった」という回答が目立ち、「自分で調べた」との回答も多く見られた。 続いて、「コロナの影響下でも良かったと思えたこと」を自由記述で募ったところ、さまざまな意見が挙がった。たとえば 1・2年生では「オンライン授業は音量調整ができて聞きやすい」「チャットが使える」「授業を視聴した後すぐにレポートに取り組める」など、オンライン環境ゆえのやりやすさが挙げられた。3年生以上でも同様の意見があったほか、「メディアを通してマスクの問題や手話通訳のことが知られるようになり理解が広がった」「字幕付けに協力してくれる教員がいた」など、周囲の人の変化に目を向けた意見が挙がっていた。 回答数20という小規模なアンケートではあったが、一つひとつの回答から、聴覚障害学生の状況が垣間見えた。 「写真:日下部氏からのアンケート報告の様子」 3.ディスカッション1「新たに変化していく支援とは」 アンケート結果から各講師が感じたこと、またコロナ禍を通して見えた聴覚障害学生支援の変化とはどのようなものかについて、ファシリテーターの日下部氏の進行でディスカッションが行われた。各講師から以下のような発言があった。(各講師のプロフィールは p25・26の資料を参照)。 河野恵美氏/コロナ禍以降に入学した1・2年生は、特に困難を感じた点として、「マスクのためコミュニケーションがとりづらかった」、「グループディスカッションに参加しづらかった」を多く挙げていて、3年生以上では、「授業に情報保障がついても情報が十分得られないことがあった」、「マスクをしているためにコミュニケーションがとりづらかった」、「グループディスカッションに参加しづらかった」となっていた。当たり前のことだが、やはりマスクでのコミュニケーションは大変なのだと、回答を見て改めて感じた。ただ、3年生以上の場合は、リアルで会ってきた人たちが今はマスクをしている、という状況なのに対し、1・2年生の場合は、これから新しい友だちを作ろうという時にマスク生活となった。会話相手の顔・表情を知ることができず、場合によっては初対面がオンライン上になる中で、きっと相手のことをもっと知りたいだろうと思う。また、良かったこととして、「聞き取りにくい時に音量を大きくできる」「チャットが使える」という回答があり、自分自身の実感とも重なるものがあった。対面にはないオンラインの便利さも感じ、活用している。そうした学生さんの“今”を感じることができた。 山本篤氏/昨年から授業のオンライン化が一気に進む中、支援の現場で特に感じたことは、授業を担当する先生方が苦労してオンラインに対応する様子だった。オンラインツールに慣れていない上、情報保障がつくことを踏まえた授業運営をしなければならない状況がどの授業でも起きていて、先生方に対するアドバイスやマニュアル整備の業務の割合が増えた。それまでは、学生サポートスタッフの育成や支援機器の導入など、聴覚障害学生への支援提供に直接関わることがコーディネート業務の中心だったが、オンライン授業の導入によって、教員への配慮依頼や他の部局との連絡調整が、これまで以上に重要になったと感じている。 太田琢磨氏/ アンケートの結果では、「誰かに相談した」という回答数の少なさ、さらに「自分で調べた」という回答が多いことが意外で、なぜそうなったのか理由を考えてみた。例えば、支援室に相談しても解決してくれないから相談しなかったという人、相談する場所がわからなかった人、支援の担当者とは話しにくいと感じた人、自分が何に困っているのかわからなくて相談できなかった人。あるいは人工内耳の学生が今とても増えているが、そうした学生が、情報保障がなくても問題ないと思って相談しなかったのか。いろいろな学生のさまざまな背景が想像できると思う。 聴覚障害学生の場合、高校までに支援を利用した経験がなかったり、小・中学校では支援があっても高校では受けられなかったというケースが多く、つまりほとんどの学生が、支援について相談する経験をしてきていない。そうした育ちの背景も考慮した上で、コーディネーターは、学生が相談に来なかった理由を発見できたのかどうか。そこがポイントになるのではないか。 また、これまでの支援システムが対面を基本として構築されていたために、オンライン授業になってさまざまな問題が起こったのだと思う。愛媛大ではさまざまな ICTを駆使して対応してきたが、それで本当に良い支援を提供できたか、部署間できちんと連携が図れたか、学生の相談ごとにきちんと対応できたか、自分も反省すべき点はある。大事なのは、学生が「相談したら解決してくれるから行こう」と思える環境が作れていたか、ということではないかと思う。 日下部隆則氏/ マスク使用やオンラインを通したコミュニケーションの本質に関わる部分や、学生だけでなく授業担当教員もコーディネート業務の対象になったという現場の大きな変化について、問題提起をいただいた。また、学生が相談してこなかったのはなぜなのか?との問題意識は非常に重要で、駆け込み寺となるべき支援室の門戸は本当に開放されていたのか、たとえばコロナが言い訳になっていなかったかと反省する視点は必要であると感じる。 授業がオンラインになったことで残念ながら学生と接する機会が激減し、支援の本質とも言える人間同士のふれあい、温かさの交換ということができなくなっている。それを「仕方ない」とするのではなく、支援室はどのように変わっていくべきかをみんなで考えていく必要性を感じた。 4.ディスカッション 2「これからも変わらない支援の本質とは」 この2年間の経験の中では、新たな変化や進化だけでなく、時代や状況が変化しても変わらない支援の本質も見えたのではないか。そのような投げかけのもと、ディスカッション2では、これからも変わらず大切にすべき支援の本質について意見が交わされた。 山本氏/ アンケート回答の中に「手話や聴覚障害の理解が広まってよかった」という内容があった。対面授業もオンライン授業も、周囲の理解がなければうまく進めることは難しく、特にオンライン授業では、先生方が今までのような感覚で講義をすると、遠隔情報保障のやりづらさにつながってしまう。そうならないよう「教員と学生が共に作り上げていく」という側面が強くなってきたように思う。たとえば、3年生以上の聴覚障害学生のケースでは、対面授業の時から周囲の理解を得るための働きかけを積み重ねてきたおかげで、一緒に授業に参加している学生たちのほうから「チャットで討論しましょう」と提案された例があった。オンラインか対面かに関わらず、理解を得るためにまず聴覚障害学生が自分から話し、必要な配慮について知ってもらうこと。この重要性はこれからも基本的に変わらない点であると思う。 太田氏/ 障害者差別解消法の中に「社会的障壁の解消」というキーワードがある。これは、障害のある人が社会の中にある問題によって困っている状況を解消しなさいということ。学生個人の手で社会的障壁を解消するのは難しく、学内制度の改善や手話通訳派遣のための予算確保などは、当然大学がやっていかなければいけない。コロナ禍の中でも、大学はまず最低限の支援だけでも提供しようと、大変な努力をされてきたと思う。しかし、そこに注力した結果、“人”に対する支援がどうしても漏れてきてしまったのではないか。私は、「社会的障壁の解消」と、“人”に対する支援(教育的支援)とは、全く別だと思っている。アメリカの場合は、提供している合理的配慮が法律と適合しているかを監督する担当者と、学生の悩み相談の担当者は完全に仕事が分かれていた。しかし今の日本では、1人の担当者がそれらを全部抱えてとても大変な思いをしている。「駆け込み寺」というキーワードがあったように、何かあれば支援室に駆け込んで相談しようと思える環境を、対面でもオンラインでも私たちがいつでも作って待っている。それが、これからの課題の一つであると思う。 先ほども挙げたように、自分が何に困っているのかわからないという聴覚障害学生はたくさんいる。愛媛大の場合は学生同士で話す機会を設けたりしているが、自分に合った支援とは何かを考える機会を与え、選択肢をたくさん準備してあげることが私たちの仕事だと思う。これから必要とされる支援は何なのか、学生に教わりながら考えていくというところは、絶対変えてはいけない点だと思っている。 河野氏/ 山本さんのお話にあった、「授業の形態や世の中の状況が激変する中でも、周囲との対話とそこから広がる理解が大切だ」という指摘に大変共感した。また、太田さんの言われる「人に対する支援」というのは、障害者差別解消法ができて以来、少し忘れられがちで、改めて考え直さなくてはならないという指摘も非常に胸に迫るものがあった。 10年ほど前に聴覚障害学生支援に関わっていた時を振り返ると、当時はコーディネーターとして、学生が希望する情報保障を何とか叶えてあげたいと思っていた。けれども、さまざまな学生や支援者とのやりとりを通してわかったのは、“完璧な情報保障”はないのではないか、ということ。最初に学生が希望した情報保障が、完璧な方法とは限らない。むしろその時の状況の中で、学生自身が先生や支援室の方など周囲の人と相談して、できるだけいろいろな引き出しを増やして、自分に合った支援を自分で考えて選択していけるようになること自体が大切なのではないか。ひいては、大学での支援を考える際は、どんな学生を育てたいのかということを考えていく必要があると感じた。 オンラインでも対面でも、できるだけいろいろな人と相談しながらその状況に応じた情報保障を考えること。必ずしも完璧でないとしても、ベターなやり方を見つける経験を大学時代にたくさん積むこと。このことをコーディネーターとして考え、きっかけを作り、その機会を創出することは、コロナ禍に限らず、今後も変わらない支援の本質ではないかと思う。 5.まとめ 最後に、ファシリテーターの日下部氏から、総括として以下のコメントがあった。 今回の議論で、まず、目に見える部分だけではなく見えないところにこそ、支援の要素があるという時代になってきたと感じた。たとえばオンライン授業には良い面があるが、そのメリットをうまく享受できているのは、個人の ITスキルが高かったり、もともと対面で築いた関係性があってわからないことを尋ね合える仲間がいるなど、目に見えない基盤があるゆえかもしれない。支援担当者・支援コーディネーターは、そうした見えない部分を想像していくことを忘れてはならないと思う。 そうした意味で、今日、ここで、それぞれの大学で現場を担う方々の意見をきけたことは大きな成果であった。今一度、「これからも変えてはならない支援の本質」という視点で考えると、重要なのはオンラインか対面かという短絡な視点ではなく、それとは関係がないところにある、“支援”に向き合う本質的な姿勢だと言えるのではないか。つまり、良好な人間関係を築き、自由闊達なコミュニケーションをする中で聴覚障害学生に支援を利用してもらい、それを通してそれぞれの学生らしい成長を遂げてもらうこと。そこにコーディネーターとして寄り添うこと。コーディネーターが決めつけで支援を提供するのではなく、学生の選択肢が増えるような、寄り添いを通した支援を見守れる支援室であってほしい。 今日のディスカッションの中で語られたたくさんのコメントを、視聴された皆さんがそれぞれに、明日から、今からの活動に生かしていただけたらと思う。 最後に、今回の企画は「これまでさんざん苦労してきた当事者だからこそ学生の困り感がわかる」という点から、聴覚障害当事者によるプログラム構成で実施した。しかし、準備から本日までの議論の過程で改めて見えてきたのは、学生と向き合うにあたり、コーディネーターが聞こえるか・聞こえないかということは関係ないということであったと思う。聴覚障害当事者だからという視点ではなく、支援に真摯に取り組む姿勢で議論ができ、視聴者と共有できたことに、この企画の意義がある。この企画が誰かの励ましとなり、また今後もそれぞれの支援の現場で、こうした議論の場が持たれることを願っている。 「写真:ディスカッションを終えた講師陣」 報告 中島亜紀子(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) ___ここからスライド 〈スライド1〉企画2 これからの時代の中で変化する支援・変わらない支援 ~聴覚障害のあるコーディネーターの視点から~ <スライド2>企画概要:オンライン授業が導入され、授業や面談など対面でのコミュニケーションの機会は減少している。 この状況の中で、今こそこれからの障害学生支援のあり方を考える時ではないかという問題意識のもとに集まった聴覚障害のあるコーディネーターが、新たに変化していく支援とは何か、また、この先も変わらない支援の本質とは何かについて議論する。 <スライド3>企画の内容: 1.講師紹介 2.聴覚障害学生の「今」(ウェブアンケートから) 3.ディスカッション1    アンケート結果からの気づき   新たに変化していく支援とは 4.ディスカッション2   これからも変わらない支援の本質とは 5.まとめ <スライド4>講師紹介: ファシリテーター:日下部隆則氏:同志社大学 スチューデントダイバシティ・アクセシビリティ支援室 講師:太田琢磨氏:愛媛大学 アクセシビリティ支援室 河野恵美氏:東京女子大学 学生支援課 山本篤氏:東京大学バリアフリー支援室 <スライド5> 太田琢磨氏の自己紹介: 学生時代について:日本時代:保健福祉学専攻 支援はボランティアの手書きノートテイク・PC要約筆記利用 ボランティアの養成に関わる アメリカ時代:ろう教育専攻 支援は手話通訳・文字通訳 現在の仕事:愛媛大学アクセシビリティ支援室 合理的配慮が必要な学生全体対応(主に身体障害中心)、エンパワーメント支援、ICTスキルの修得のサポートなど 一言メッセージ:聴導犬のベルと一緒に仕事をしています。 「写真:太田氏と聴導犬のベルが一緒に写っている写真」 <スライド6> 河野恵美氏の自己紹介: 学生時代について: ・学部時代は健聴。大学院で初めて入試での配慮申請や情報保障を経験する。   方法は、FM補聴器とSkypeによる同じ研究室の学生からの文字通訳。 ・盲ろう児と放課後ボランティア、盲学校での通訳、コーディネートの活動を   通して触手話、指文字を身につけた。 現在の仕事:東京女子大学学生生活課障がい学生支援コーディネーター 障害のある学生の支援コーディネートを担当。 現在は精神、発達障害学生の対応が多い。 一言メッセージ:学生と一緒に、支援について考えることを大切にしています。学生のチカラはすごい! <スライド7> 山本篤氏の自己紹介: 学生時代について:学部時代は主に上級生による手書きノートテイク、大学院時代は手話通訳を利用。 関東聴覚障害学生懇談会(関コン)の活動を通して障害学生支援の向上に向けての議論や啓発、聴覚障害学生同士や健聴学生との交流等に携わった。 現在の仕事:東京大学バリアフリー支援室 教務補佐員 ・障害のある学生・教職員への支援コーディネート業務(主に身体障害者を担当) ・学内へ障害についての理解啓発、支援者養成など 一言メッセージ:障害のある学生・教職員が健常者と共に学び、働ける。それが特別なことではない、 普通のことだと思えるような環境・雰囲気のある大学にしていければと思います。 <スライド8> 日下部隆則氏の自己紹介: 学生時代について: 学部時代(1982~86)は聞こえづらさをごまかしながら無支援で卒業 社会人大学院(修士課程1997~99)では友人のノートテイクのお世話で修了 社会人大学院(博士課程2000~)で、当時発足したばかりの支援制度のお世話になる 現在の仕事:同志社大学スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室チーフコーディネーター ・障がいのある学生への支援コーディネート業務(主に身体障がい学生を担当) ・障がいについての学内外へ理解啓発、支援者養成など ・嘱託講師として「ダイバーシティ社会における支え合いを考える」を担当 一言メッセージ:30年以上、民間企業で働いておりました。聴覚障があっても、自信をもって、自分らしく社会の中で生きていけるようなアドバイスやサポートができればと思っております。 <スライド9> 聴覚障害学生の「今」: 聴覚障害学生へのウェブアンケート ・実施期間:2021年10月21日~11月1日 ・内容:2020~2021年度の大学生活で困ったこと、困ったことの解決方法、よかったこと、など 回答数:20(1・2年生:12、3年生以上:8/国立大学:10 私立大学:10) <スライド10> アンケート結果:1・2年生が特に困難を感じたこと ――― 【グラフ】 棒グラフで結果を表示(以下、項目と回答数を回答が多い順に提示) マスクのためコミュニケーションがとりづらかった、8 グループディスカッションに参加しづらかった、5 なやみを相談する相手がいなかった、2 新しい友達を作る機会がなかった、2 高校生活と大学生活の違いに戸惑った、2 オンライン授業が続き目の疲れや体調不良があった、2 友人や支援学生と交流の機会が少なかった、1 聴覚障害学生同士で交流する機会が少なかった、1 先生や支援室に相談したいことがあってもうまくできなかった、1 授業に情報保障がついていても情報が十分得られないことがあった、1 オンライン授業でふだんの支援機器が利用できないことがあった、1 ――― <スライド11> アンケート結果:3年生以上が特に困難を感じたこと ――― 【グラフ】 棒グラフで結果を表示(以下、項目と回答数を回答が多い順に提示) 授業に情報保障がついていても情報が十分得られないことがあった、5 マスクのためコミュニケーションがとりづらかった、4 グループディスカッションに参加しづらかった、4 授業に情報保障がつかないことがあった、3 オンライン授業でふだんの支援機器が利用できないことがあった、2 授業中、友人や周りの学生からサポートを得づらかった、2 聴覚障害学生同士で交流する機会が少なかった、1 情報保障がほしくても言い出せないことがあった、1 授業に情報保障がついても、希望とは違う支援方法だった、1 ――― <スライド12> アンケート結果:困ったことやなやみがあるときの対処方法方法その1 ――― 【グラフ】 全学年あわせた結果を項目ごとに棒グラフで表示。 「先生に相談した」「支援室に相談した」「他の聴覚障害学生に相談した」「聴者の友人に相談した」のいずれも「ほとんどなかった」の回答が5件以上で目立っており矢印をつけてマーキングしている。 ――― <スライド13> アンケート結果:困ったことやなやみがあるときの対処方法方法その2 ――― 【グラフ】 全学年あわせた結果を項目ごとに棒グラフで表示。 「自分で解決方法を調べたり考えたりした」は「いつもあった」「時々あった」が合計18件で、「ほとんどなかった」2件に対して多い。 誰かに相談したの回答と逆の傾向になっている。 ――― <スライド14> アンケート結果:1・2年生がコロナ禍の影響の中でもよかったと思えたこと 以下、自由記述の回答を提示 ・対面よりもオンラインのディスカッションの方が、音量を大きくできるので聞き取りやすかった ・非同期型の遠隔授業になり、グループワークがなくなったり、やりとりがチャットで行われたりしたこと ・新しい友達ができ、悩みを共有しあえる相手ができたこと ・コロナ禍だったからこそ、皆が外出できず寮に籠ることが多く、 そのおかげで友人になるきっかけがふえたこと ・実家でのリモート授業になってから、講義が終わったあとにすぐレポート課題に取り組めたこと ・非対面は登校しなくてもよいので楽だったこと <スライド15> アンケート結果:3年生以上がコロナ禍の影響の中でもよかったと思えたこと 以下、自由記述の回答を提示 ・公の場でも大学でも、自分が聞こえないことを隠さなくなったこと ・オンライン授業になりどこでも授業を受けることができるようになったこと ・情報支援の大切さに気づけたこと ・zoomを使用したグループディスカッションの際に、ラインで同級生にすぐに聞けたこと ・マスクが聴覚障害者にとってコミュニケーションの壁となることが知られるようになり、筆談を率先して行ってくれる人が増えたこと ・テレビに手話通訳が映る機会が増え、手話は高度な内容も表現できる言語であることを知ってもらえたこと ・オンライン授業で使う動画の字幕付けなど、教員が協力してくださったこと <スライド16> ディスカッション1のテーマ:今変化すべき支援とは アンケート結果の気づきから <スライド17> ディスカッション2のテーマ:これからも変わらない支援の本質とは <スライド18>総括 ・支援の本質についての総括: オンラインにはメリットもあるが、うまくいっているのはその人にITスキルがある、あるいは対面で築いた関係性がベースにあるからこそ。オンラインでも対面でも、人間関係を築きコミュニケーションしたり支援利用したりする経験を。それを見守れる支援室に。 ・この企画の総括: 当事者だから学生の困り感がわかる、という面もあるが、学生と向き合うコーディネーターとしては聞こえる・聞こえないは関係ない。支援に真摯に取り組む姿勢で議論ができ、視聴者と共有できたことに意義がある。今後も各支援の現場で、こうした議論の場を持てるとよい。 _____ここまでスライド ■P28:企画2「番外編」 これからの時代の中で変化する支援・変わらない支援~聴覚障害のあるコーディネーターの視点から~ 聴覚障害学生からの質問へ講師陣からの回答 企画2では、ディスカッションの収録に先立ち聴覚障害学生へのアンケートを実施しました。このアンケートの中で「講師に聞いてみたいこと」として寄せられた質問に対し、各講師から回答をいただきましたので、ここでご紹介します。企画2の配信動画と併せて、ぜひご覧下さい。 支援に関わる質問も、企画本編の内容とは直接関わらない質問も、どれも学生さんたちの今の状況を映し出したものであると思います。その一つひとつに講師の皆様が丁寧に回答してくださいました。 ※質問ごとに回答者が異なります。各講師のプロフィールは企画2配布資料 および企画2動画にてご覧ください。 ※質問の一部には、アンケートに入力されたものをもとに、趣旨を変えない範囲で、読みやすく文言を変更したものがあります。 積極的に質問を寄せてくださった学生の皆様、回答してくださった講師の皆様、どうもありがとうございました。 Q1:就職活動をするにあたって、やるべきことはなんですか?(学部2年生) A:就職活動のために、というよりも、社会に出るに当たってどんな準備をしておくか、というレベルで回答します。 通常の大学生として有すべき一般常識、マナー、日本語力、パソコンスキルを身につけておくことは大前提。その上で、聴覚障害学生として、障害によってできないこと、支援があればできること、支援が無くてもできることを自分の言葉で語れるようにしておくこと。自分がその会社、組織で何を持って貢献できる能力をもち、あるいは可能性を秘めているのかを語れるようにしておくこと。逆に言えば、採用する側が「何を期待してあなたを採用すれば良いのか」を説明できるようにすること。PEPNet-Japan の聴覚障害支援DVD シリーズ4「踏み出そう社会への道」から学べるところが多くあるはず。必見です。 いろいろ書きましたが、若い人は可能性に満ちているのですから、障害を言い訳にしないで、その可能性を広げる努力、チャレンジをして欲しいです。これが一番お伝えしたいことです。(日下部) A:今まで何回もこの質問を受けたことがあります。 質問者さんは、聴覚障害があって就職活動でぶつかる壁があって(あるような気がして)悩んでいるのかな?と想像します。 聴覚障害があって就職活動をするうえで大切だと私が思うことは、大きく分けて二つあります。 ①どんな仕事、業界に興味があるか?それはなぜか?を自分なりに明確にしておくこと。 ②①とは別に、自分が仕事をする上でどのような配慮をしてもらえれば仕事ができるのかを自分の言葉で説明できるようにしておくこと。 聴覚障害があるとどうしても②ばかり考えてしまいますが、働くときには①がないと、採用する側は質問者さんと一緒に仕事ができるかどうか考えることが難しいと思います。採用する側としては、①がぼんやりしている人と、はっきりしている人がいたらきっとはっきりしている人を採用したいと思うのではないでしょうか。 まだ働いていない学生ですから、②について完璧に伝えられるようにするのは難しいので、なにかあったときには相談させてほしい、と私はいつも付け加えるようにしていました。(河野) Q2:就職面接での配慮について、事前に連絡しましたか? (学部 2 年生) A:私は聞き取りが難しいのでいつも事前に連絡をしていました。でも、私の場合、発話は明瞭なので事前に連絡するとどう思われるんだろうか?ととても悩んだこともあります。 結局、事前に連絡をしないで面接を受けても困るのは自分だし、質問内容がよく聞き取れないこと、それを伝えないことによって、能力が低いとみなされるのは嫌だと思ったので事前に連絡することにしました。 連絡するときには、聞こえなくてできないことだけではなく、どうしたらできるのかを具体的に伝えるように先生など周囲の人に相談してわかりやすい連絡をこころがけました。(河野) A:面接まで行ったことは少ないですが、事前に、聴覚障害であること、配慮が必要であることを伝えました。実際に実施できた配慮としては、筆談や文字通訳が多かったです。(山本) Q3:伝えてもらう手段として主に何を使っていますか?(学部 1 年生) A:補聴器・人工内耳を装用しているときは口話中心です。手話でコミュニケーションを取る学生の場合は手話だけで対応することもあります。 業務上では、音声のみでのやりとりで行き違いを防ぐため、業務のコミュニケーションはすべてMicrosoftTeams のみに限定して連絡を取り合い、コミュニケーションで漏れがないように協力をお願いしています。(太田) A:補聴器を着けている時は主に口話です。店などでのやり取りはスマホで音声認識アプリを併用することが多いです。 職場でのコミュニケーションは口話に加えて、手話及びSlack などの文字情報でカバーしています。 家庭では、CODAの子どもたちとは口話です(たまに手話らしきものをしてくれます)。(山本) Q4:障害学生支援のお仕事の内容は、具体的にどのようなことをしているのですか? (学部1 年生) A:基本“何でも屋”です。私は主に、身体障害とLGBT の学生を担当していますが、発達・精神・重複障害の学生の対応をすることもあります。 聴覚障害の学生対応の具体的な仕事は、相談対応・カウンセリング・エンパワメント支援を行っています。また、ICT を利用した支援も行うため、機材のセットアップや、必要に応じて支援で使用するプログラム作成も行うなど、合理的配慮を提供するために必要な様々な仕事を行っています。(太田) A:障がい学生の相談窓口なので、障害種別に関係なく相談を受けています。授業の配慮についての相談が多いですが、入学式などの式典での配慮や、肢体不自由の学生の駐車許可など、学内の他の担当部署と相談しながら配慮の調整をすることもあります。現在は、身体障害よりも精神障害/発達障害の学生からの相談が多いです。(河野) Q5:仕事上、ハンデがある事で困ったことはありますか? (学部 3 年生) A:ハンデを感じることは特にないです。自分に難しいことは他の人に依頼、その分、自分ができることは自分が責任を持って仕事をしています。電話対応は電話リレーサービスを職場で契約していただき、自分宛の電話は全て自分で対応をしています。 自分の特性を理解し、自分の言葉で説明し、他人を頼るというスキルが重要だと考えています。(太田) A:今の職場で、一番必要で、かつ同僚に助けてもらっているのは電話です。私自身は電話が聞こえないのでできないのですが、仕事上、電話で連絡を受けることもあり、電話通訳のようなことをお願いすることもあります。内容によっ て、直接会って話すかどうかを考えたり、同じ職場の方に電話をお願いするにしても、私の意図が間違って相手に伝わらないよう、お願いの仕方を工夫したりしています。(河野) Q6:職場ではどういうサポートをしてくれていますか? (学部 3 年生) A:自分で職場に依頼した合理的配慮の内容を基に、ケースバイケースで以下のように対応しています。 会議のとき:文字通訳・手話通訳・音声認識 職場内のコミュニケーション:MicrosoftTeams 等 電話を使うとき:法人契約の電話リレーサービスを利用 (太田) A:必要に応じて情報保障の手配および必要機材の導入をしてもらっています。最近では音声認識に必要な機材や、音声認識がしやすい環境の整備などもあります。 各種会議、面談のとき:手話通訳、文字通訳、音声認識 職場内のコミュニケーション:音声認識による字幕、チャット(Slack、Teams 等) 電話を使うとき:電話リレーサービス利用 (山本) Q7:飲み会や忘年会などの集まりで困ったこと、良かったことはありますか?(学部3年生) A:【困ったこと】 聞こえないことで敬遠されて、話しかけてもらえず孤立したこと。若い頃は何度も経験しましたが、なんとも辛い時間でした。 でもね、その孤立の経験があるからこそ、孤立している人へ配慮できるようにもなるのだと思っています。 【良かったこと】 筆談でコミュニケーションをしてくれる人がいたこと。 さらに「筆談飲み会」をやってもらったこと。それ以来、飲み会では筆談力を武器にして楽しめるようになりました。飲み会に限らず、一緒にご飯を食べることで身近な関係になれるチャンスが広がる、相手との距離が近くなるのはひとつの事実ですし、職場じゃ話さない多様なテーマが広がっていくことも多いから楽しいですよ。ぜひ筆談で楽しんでください。 (日下部) A:基本参加しません。ストレスを溜めるだけですし、耳も疲れて翌日の仕事のパフォーマンスに影響が出ます。無理して参加する必要もないと思います。 ただし、支援室内の小さな内輪の飲み会は、人数も少ないこと、私に対して理解もあるため一緒に企画して楽しんでいます。(太田) Q8:今まで聾学校で育ってきたので、聴者が聴覚障害のなにを「知らない」のかがわかりません。おそらく聴者の多い学校と聾学校のノリは違うのだと思うので、聴者の友達のつくり方がわかりません。どうやって聴者の友達をつくればいいでしょうか。(学部1 年生) A:ここで言う「ノリ」とは、何をもって楽しんでいるのか、ということだろうと思います。その前提で友達の作り方と問われると、「趣味を媒介にする」に尽きると思います。同じ趣味を持つ仲間達には、聞こえる・聞こえないは関係ないはずなので。 私は、ずっと聞こえる人の中で、唯一の聞こえない存在でしたが、スポーツ、釣り、本、音楽、食べ物、ファッション、そんな多趣味が友達作りに役立ってきたと実感しています。若い頃は、趣味を同じくする先輩方にずいぶんと可愛がっていただきました。いつのまにか先輩の立場にたつと、今度は後輩ができます。私が孤立せずにやってこられたのは、こうした人達のおかげです。 ちなみに、いろんな本を出しておられる齋藤孝先生(明治大学教授)は、マニアックな趣味ほど友達作りに役立つと書いてらっしゃいました。質問者さんは、趣味を聞かれたらなんと答えますか?また、他の人に趣味を聞いたことがありますか?ぜひ趣味を切り口に人間関係や世界を広げてください。(日下部) A:私自身、聾学校の出身で、大学に入った当初は健聴者の世界に戸惑うことが多かったです。最初は学内の手話サークルから始め、それから地域の手話サークル、学外の学生団体(関東聴覚障害学生懇談会)、障害者団体のイベント(国際交流)など、様々な所へ積極的に参加するようにしました。 まずは自分が興味のある分野や身近なところから始め、行動範囲を広げていくと、そこからさらに別の人や別の場所につながったりしていきます。まずは、最初の一歩を踏み出すことが大事だと思います。(山本) Q9:聴覚障害教育に、どういう視点からアプローチをかけていけばいいのでしょうか? (学部4年生) A:質問者さんが、聴覚障害教育にアプローチできるお仕事に就かれる前提での質問と理解しましたので、その前提で回答します。 教育対象の年齢層も不明ですが、教育を社会に出るための準備期間と仮定すると、社会に出た後に生き生きとこころ豊かに過ごせるように、その学生、生徒、児童さんに見合った武器(仕事に発揮できるもの)を意識させ、できれば持たせてあげて欲しいです。その武器も、社会の変化(ICTの更なる進化、ウィズ/アフターコロナ等)を見越したもの、社会の変化を受けない普遍的なもの、いろんな切り口ができると思います。 「聴覚障害があるから」が理由や言い訳にならないような武器は何かを一緒に考える。そんなアプローチを期待したいです。(日下部) A:聴覚障害教育に関わるお仕事に就かれる前提での質問と捉えて回答します。 日下部さんのお答えと同じとなりますが、大学は社会に出る前の貴重な準備期間だと思います。この準備期間の中で、聴覚障害のある学生だけでなく、先生・支援室の職員・バイト先の人など、社会との接点を多く経験し、よい経験・悪い経験含めて多くの経験を積み重ねて欲しいと思います。今は新型コロナ禍で難しいですが、国内・海外を旅するのもよいと思います。 このような経験が多ければ多いほど、自分が教壇に立ったときに、児童一人一人の気持ちに寄り添ったアプローチができるようになります。 聴覚障害児教育に必要な視点を見つけるためには、まず、自分自身が変わる必要があると思います。自分の思い込みを捨て、学生時代だけでなく社会に出てからも新しいことにチャレンジする気持ちを忘れないでください。 質問者さんがそういう経験を積み重ねることで、児童・生徒が必要としているアプローチにたどり着けるようになると思います。(太田) Q10:支援体制がない中で、困ったとき、誰に相談していましたか?(学部3年生) A:質問者さんが生まれるずっと前に学生時代を過ごしていますから、いろんなことが当時と今では違います。 当時は配慮も支援も全くポピュラーではない時代でしたから、誰にも助けてと言えず、自分で何とかするしかなかったし、何とかならなかったら諦めてやり過ごすしかなかったので、たとえ友達であっても相談するという発想もありませんでした。そんな辛い時期を救ってくれたのはいろんな本でしたから、直接の問題解決にはならなかったけど、本に相談したと言えるのかもしれません。(日下部) A:大学のゼミの先生が聴覚障害の専門だったため、深く理解をしてくれました。ポイントとして、自分のことを理解してくれる友人・職員・先生といった味方を見つけるのが大事です。(太田) A:当時の学生団体である関東聴覚障害学生懇談会(関コン)の先輩や友人たちの他、学内での数少ない理解者(所属学科の先生及び学科事務職員)に相談していました。やはり、学内外問わず、話せる相手を見つけることが必要だと思います。(山本) A:中途で聴覚障害になったので、当時は、学生生活で何に困るのか自分自身がいまいちよくわかっておらず、いちいちどうすればいいのか考えていました。私は、当時補聴器のフィッティングをしてくれていた先生と、研究室の先生に相談していました。 補聴器のフィッティングの際に相談することで、補聴器でできることとできないこと、また、自分の聴力は健聴者と比較してどういう状況なのかを知ることができました。そして、研究室の先生に相談することで、自分では思いつかなかった授業の参加方法を一緒に考えてくれたりして、誰かに相談することの大切さ、相談の仕方を学びました。 また「聞く」ことをがんばるのではなく、がんばらなくても楽に理解できる方法で、授業に参加することの大切さも実感しました。 (河野) 回答担当: 第17回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム企画2講師 日下部隆則氏(同志社大学スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室) 太田琢磨氏(愛媛大学 アクセシビリティ支援室) 河野恵美氏(東京女子大学 学生生活課) 山本 篤氏(東京大学 バリアフリー支援室) 編集: 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局 ■P37:企画3 「オンライン時代の情報保障者養成を考える」 司会: 河野純大氏(筑波技術大学 産業技術学部) 講師: 末盛 慶氏(日本福祉大学 社会福祉学部) 金澤貴之氏(群馬大学 共同教育学部) 森野宅麻氏(元支援学生/公立中学校教員) コメンテーター: 松﨑丈氏(宮城教育大学 教育学部) 岡田孝和氏(明治学院大学 学生サポートセンター) 1.はじめに 本企画は、コロナ禍で困難になった支援学生(情報保障者)の確保や養成について、オンラインを活用した実践例などを紹介するとともに、オンラインでの情報保障支援の中で見落としてはならないポイントを確認することを目的に実施した。さらに将来的な展望として、大学や地域の枠を超えた支援人材の確保や大学間連携の可能性を議論した。 2.各講師の話題提供から 最初に司会の河野から、これまで筑波技術大学ならびに PEPNet-Japanで実施してきた遠隔情報保障支援の様々な取組について概略が述べられた。これらの実践で得た知見の活用や新しいシステムの開発・普及により、各大学での遠隔情報保障システム導入へのハードルが低くなってきている印象があるが、今なお課題と感じている点として、大学の枠を超えた支援者の養成、人材共有のあり方、支援の質の保障、関係者間の交流機会の減少、地域リソースとの連携や大学の枠を超えた支援のコーディネート体制などがあるとされた。 続いて各講師から事例紹介を行った。日本福祉大学の末盛氏は、学内の障害学生の在籍状況ならびに支援体制と、コロナ禍での支援状況について説明した後、2020年度に PEPNet-Japanリソース活用事業として行った「東海地区聴覚障害学生支援遠隔パソコンノートテイク講座(全 3回)」の概要を報告された。東海地域の複数の大学が参加した本講座では、支援学生の養成のみならず、支援担当教職員同士の交流の機会も企画に含めたことで、オンラインであっても各大学の状況や課題の共有などのコミュニケーションの場とすることができたとの声が多く聞かれ、今後も連携を図るコンセンサスが得られた点などが成果として報告された。各大学の支援の現状として、支援者を養成できていない大学がある一方で、支援を利用する学生が卒業して支援者の活動の場がないなど多様な課題が見えてきたことから、オンライン環境の普及を受けてより幅広い障害学生への支援提供の可能性が広がったのではないか、障害者差別解消法の見直しを受け、私立大学でも合理的配慮の提供の義務化が進むことになり、支援技術を積極的に活用・享受しつつ、障害学生支援の文化や物語をいかに形成・継続していくのか、支援に関わる学生が障害学生への情報保障をどう学び、どう未来につなげていくのか、活動を大学としてサポートしていくことが大事だと思う、と述べられた。 森野氏からは、学生時代の支援経験をもとに、「遠隔情報保障支援の経験から感じる交流の大切さ」をテーマに事例紹介がなされた。森野氏は、情報保障がないために授業をきちんと受けられない聴覚障害学生の状況に違和感を覚え、大学 3年生の頃から支援活動に関わっていた。特に教育実習では支援者の確保が困難であるという課題解決の手段として、遠隔情報保障支援(モバイル型遠隔情報保障システム/T-TAC Caption)の導入を進めた経験があり、そうした活動の中でも聴覚障害学生や支援学生同士の交流が大事だったと感じていたこと、それが当時の支援室のスローガン「共育(共に育つ)」の実践そのものであったこと、そうした場を支援室職員もサポートしてくれていたことが重要だったのではないかと振り返った。今後オンラインの活用で、他大学や卒業生を情報保障者とする支援も実現できるだろうが、連係入力でのパソコンノートテイクに必要とされている「タイピング速度」「連係力」「要約力」「専門知識」のうち、「連係力」「要約力」は経験者からの指導を欠くことができず、その指導をオンラインでの養成でどのように進めるのかが課題になってくるのでは、との問題提起がなされた。 金澤氏からは、「オンラインが拓く手話通訳人材養成の新たな可能性」のテーマで話題提供がなされた。最初に現在の手話通訳者養成の課題(図1)が提示されるとともに、養成の制度設計の見直しが必要であるという問題意識のもと、2017年から群馬大学で実践している日本財団助成事業「手話サポーター養成プロジェクト」について説明がなされた。事業開始時は対面の実施であったが、コロナ禍により大学の授業が全面オンライン化した中でも解説動画コンテンツやオンライン会議システムを活用した指導を十分に行えたことから、学外にも配信できる方向を検討し、「聴覚障害に関わる支援人材育成を目的とした遠隔手話教育システムの構築」事業として新たな展開に発展しており、オンラインを活用した高校生向け手話授業の取組や、ろう学校高等部向けの出張講義なども実施している。こうしたことから、現在の様々な制度とオンラインを結びつけることで様々な展開が可能になること、さらに PEPNet-Japanの中でも単位互換制度など様々な制度を活用して、大学間連携を活用した情報保障者養成に取り組める好機なのではないか、との提案がなされた。 「図1:金澤氏スライド 」 3.ディスカッションを通して まず司会より、オンライン時代の情報保障に生じた変化について共有した後にディスカッションを進めた(図2)。 「図2:進行スライド」 最初に、「情報保障者養成・支援体制」をテーマとして、金澤氏からの話題提供で示された様々な制度との関連について補足がなされた。オンラインで全国どこでも受けられる良さを活かして、手話通訳者や要約筆記者の養成講座に必要な内容をいくつかの大学で提供しあい、複合的に 1つの講座を構成して一般大学にも提供する方法であれば単位互換制度の活用で実現できるのではないか、との提案である。 「図3:金澤氏スライド」 また、末盛氏からは事例紹介にあった協同での養成講座実施を全国的に広げていくことが大切であるとの考えが述べられた。これをさらに大学間の教職員同士の連携に繋げていくには、対面型の企画も実施することも必要なのではないか、こうした実践への社会的な支えも大事になるだろう。支援人材の共有にあたっては、各大学での支援学生への謝金単価の違いが課題となるが、遠隔情報保障実施にあたっての地域間での基準を設定していく方向で解決できるのでは、との意見が示された。 こうした大学間連携体制の構築にあたり、教職員の関わり方において重要だと感じている点について質問が及ぶと、末盛氏からは各地域内で相互の状況や課題にとどまらず実現可能な事柄を共有していくことが必要になるが、支援担当教職員が多忙を極めている実態を踏まえ、業務の整理や職員体制の充実もあわせて検討していく必要があるだろうと述べられた。金澤氏からは、オンライン化により他大学の支援室職員との関係性が希薄になったとの意見が多く聞かれるが、逆にオンラインを活かした関係性作りの場を設けていくこともポイントだと思う。その一方で、人に依存せずにシステマティックに大学間連携を進めていけるような枠組み作りも重要になるだろう、との意見が出された。 「写真:ディスカッションの様子(上段左 河野氏、下段左から末盛氏、金澤氏)」 次に、「オンライン時代における支援の質の保障」のテーマでは、他大学との連携も含めたオンラインでの支援にあたって、留意すべき点は何かについて議論がなされた。末盛氏からは、「質保障」が重要であることは認識しながらもその言葉が支援者にプレッシャーを与えている印象があること、「質」のプロセス・「保障」のプロセスとして捉えていくほうが相応しいのではないか、との考えが述べられた。現在は支援活動に参加してくれる学生をいかに養成していくのかが課題であるが、そもそも情報保障がこれまで文字での支援を必要とする学生のためだけのものとして閉ざされていた印象がある。オンラインの普及・テクノロジーの進化を受け、文字による情報保障を当たり前のものとして皆が経験することで、活動に関心を持って参加してくれる人を増やせるような流れを作ること。参加後に質を保った情報保障提供のために、森野氏から提起された先輩学生からの技術指導や学生同士の関係性構築の機会を大学がいかに支えていくのかが必要になってくるだろう、と述べられた。技術についてはさらに金澤氏より、在宅からの支援ができる時代に移り変わってきたことから、それであれば他大学の学生を支援者として活用する方向を、という話が進めやすくなっているだろう。他大学の学生と一緒に支援活動を行うことで、支援者数の増加と質の向上に繋がるのではないか。また、支援後にアンケートフォームを活用することで授業支援ごとの評価やフィードバックも得やすくなり、支援担当者側でも質の保障につなげていくことができるだろう、との提案がなされた。また、大学側から学術手話通訳の情報提供や研修の提供ができるようになるとなお良いだろう、との提案がなされた。 さらに末盛氏から、日本福祉大学の現状から、支援学生が 4年間の学びが多忙になりつつあり、支援活動に関われるのが 1~2年生の間だけとなっているため、支援学生に 4年間の中でいかに役割を果たしてもらうかがポイントとなっている。支援活動の実績を履歴書に記載できるような資格発行など、参加していることのメリットが目に見えて残せるような仕組み作りを各大学が進めて行くことで、全国的にもより幅広く支援学生を増やしていけるのではないだろうか、との意見が述べられた。 最後に、ディスカッションを通じてのコメントを得た。末盛氏からは、連携の土台が形成されていない地域においては、最初の一歩をいかに始めるかが難しい所であり、社会的に財政支援をするなどの促しも重要になるのではないか、との見解が示された。金澤氏からは、オンライン授業の経験を重ねたことで、授業の質だけでなく情報保障の質も高まっていることを可視化させていくことが大事なのではないか。また、今後は字幕があって当たり前という状況に持って行けるようにすること、そのために全国がうまく繋がっていく必要があるのではないか、と述べられた。 司会からは、オンライン時代に情報保障の体制を充実させていくことで、いつでもどこでもきちんと支援があることが担保される未来がくるのではないか、そのために社会的支援や具体的な財政的支援による後押しも必要だろうとまとめられた。 4.コメンテーターから これらの各講師の発表とディスカッションを試聴した上で、松﨑氏・岡田氏より聴覚障害当事者としての経験・障害学生支援の経験を踏まえ、今後どのような検討が必要かという視点でコメントを頂いた(図4)。 「図4:松﨑氏・岡田氏スライド」 まず、今後の養成を考えて行く時にその対象はノートテイカー(支援学生・情報保障者)というミクロレベルだけで良いのか、という点が重要になる。情報保障チームや情報保障コミュニティを含むメゾレベル、大学全体や卒業後の会社・地域社会を捉えたマクロレベルまで考えた上で現状のアセスメントを行い、各レベルや対象者に適切な関わりをすることが重要である。これについてはエンパワメント・アプローチの視点からも説明でき、相互の影響やエンパワメントを考えた上で、各レベルをどう作用させあうのかを考えて情報保障者養成を考えなければ、支援学生も自らの立ち位置や役割・目的が曖昧になり力を発揮できなくなってしまう。さらに指導方法・内容が現状に合致しているのか、という点を振り返ること、利用学生の「支援を利用するスキル」が養成の考えの中に入っているのか、オンライン授業や ICT活用にあたり授業担当教員や他の受講学生も情報保障チーム・コミュニティの重要な一員であるという視点で養成の範囲の中に含めて考えることなども必要になるだろう。情報保障コミュニティにおいては学生のマンパワーが必要となるが、資格取得に向けた勉強で多忙なこととあわせ、生活困窮により勉強・アルバイトに専念せねばならず、情報保障活動に参加する余裕がない学生が増えてきたように感じている。それは聴覚障害学生も同様であり、こうした学生の現状を考え、学内の情報保障コミュニティが利用学生と支援学生にとって自身のキャリア形成とのつながりを見出せる場になっていることが重要になるだろう。オンラインになることで技術指導だけでなく各大学の情報保障の理念・歴史・方針や学生同士の問題意識をどのように共有していくのか、情報保障コミュニティを形成し維持・発展していくアプローチについても考える必要があり、それらを実現できる新たなシステムの試行が求められよう。単に対面からオンラインに置き換えた講座を実施する、支援学生の共有をするだけでなく、深い意味での「養成」を捉えていく必要があり、そうしたプロセスを経た後にあるオンラインや大学間連携は魅力のあるものができあがるのではないだろうか、とまとめられた。 次に、都合によりディスカッションに参加できなかった森野氏からのコメントを得た。議論の中では情報保障は学生が担うものという前提で話が進んでいるが、必ずしも学生がしなければならない訳ではなく、現に負担を感じて続かない学生も多かった。自分が続けていく中でも、聴覚障害学生と直接話をする中での気付きや、支援室教職員からの働きかけが支援の質を高める動機に繋がっていた。それ以上に聴覚障害学生との交流や学生同士で研修企画を考えた経験が今に活きているが、それは聴覚障害学生も支援学生も一生に成長しようという共通の目標が支援活動にあったからだと思う。学生が自らの意思で質の向上を目指そうという思いを持つことができる環境を大学や支援室が整えていくことが大事だろう。基本的な技術や聴覚障害について学ぶ講座はあくまでも支援の入り口であり、オンラインで講座が実施できるようになったとしても交流を通してしか学ぶことができない部分をどう保障していくのかも大事になってくる。その上で、オンラインを活かして他大学の支援学生からも教わることができる環境を作って行くことが大事になるのではないだろうか、と述べられた。 「写真:コメンテーターの皆さん (上段左から松﨑氏・岡田氏、 下段 森野氏)」 5.まとめ オンライン時代での情報保障者養成というテーマで進めた本企画であったが、技術活用だけでは対応できない様々な課題も明らかにすることができた。多忙な学生をいかに支援に巻き込んでいくか、大学同士の連携体制の土台をどのように構築するか、連携に向けた社会的支援、支援の物語の伝承、オンラインで希薄になっている関係性構築、情報保障コミュニティの形成など、特に関わる人々への対応が現時点では十分に検討されていないことが浮き彫りになったのではないだろうか。今回の議論で終わらせるのではなく、 PEPNet-Japanとして実践の形を作り出していくとともに、今の時代に合った情報保障者養成について引き続き検討したい。 報告 磯田恭子(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) _____ここからスライド (進行スライドここから)--- <スライド1>タイトルスライド タイトルスライド:企画3 オンライン時代の情報保障者養成を考える <スライド2>企画概要 コロナ禍で困難になった支援者の確保や養成について、オンラインを活用した実践例を 紹介するとともに、支援の中で見落としてはならないポイントを確認する。 さらに将来的な展望として、大学や地域の枠を超えた支援人材の確保や大学間連携の可能性について議論する。 <スライド3>講師紹介 【司会】河野純大(筑波技術大学産業技術学部准教授) 【講師】末盛慶氏(日本福祉大学社会福祉学部教授)/金澤貴之氏(群馬大学共同教育学部教授)/森野宅麻氏(元支援学生/公立中学校教員) 【コメンテーター】松﨑丈氏(宮城教育大学教育学部准教授)/岡田孝和氏(明治学院大学学生サポートセンター 障がい学生支援コーディネーター) <スライド4>PEPNet-Japanの遠隔情報保障支援の取り組み-1 【筑波技術大学】 開学当時より遠隔地からの情報保障技術の実践研究を重ねる (補足:右側にシステム名 UDP Connector) 【PEPNet-Japan】 2007年~2011年度支援技術導入事業を実施 (補足:右側にシステム名 IPtalk/音声認識/UDP Connector/モバイル型遠隔情報保障) <スライド5>PEPNet-Japanの遠隔情報保障支援の取り組み-2 2011年度:東北地区大学支援プロジェクト・・・遠隔地から被災地域への情報保障支援を全国的に実施 (補足:右側にシステム名 モバイル型遠隔情報保障/ITBC2) 「図:2011年3月11日 東北地区大学支援プロジェクト。全国の大学の力で東北地区の学生をサポート。年間350コマ以上、のべ850名の支援学生→熊本地震支援」 「図:東北地区大学支援プロジェクト報告書 表示画像」 <スライド6>PEPNet-Japanの遠隔情報保障支援の取り組み-3 2012年~2015年遠隔情報保障事業を展開(事業代表:中野聡子先生) ・・・大学間での遠隔情報保障実践・導入の課題整理とガイドライン・マニュアルの作成 (補足:右側にシステム名 無線LAN接続のIPtalk/モバイル型遠隔情報保障/T-TAC Caption) 「図:遠隔情報保障支援ガイドライン 表紙画像」 「図:遠隔情報保障支援実践マニュアル 表紙画像」 「図:”いつでもどこでも”の情報保障の実現に向けて―遠隔情報保障事業成果報告書― 表紙画像」 <スライド7>PEPNet-Japanの遠隔情報保障支援の取り組み-4 2016年:熊本地震により被災した大学への遠隔情報保障支援・・・ 同志社大学・大阪教育大学の他、東北地区大学支援プロジェクトで支援を受けていた宮城教育大学・東北福祉大学からの支援実施 (補足:右側にシステム名 T-TAC Caption) 「図:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)特別プロジェクト 平成28年熊本地震により被災した大学への遠隔情報保障支援 実施報告」(補足:入力している様子の画像2枚と、被災直後の熊本城の写真が入り、円で繋がっている) <スライド8>PEPNet-Japanの遠隔情報保障支援の取り組み-5 2020年度:オンライン授業で役立つノウハウをコンテンツにまとめて公開 http://www.pepnet-j.org/contents/ (補足:右側にシステム名 T-TAC Caption/音声認識/ビデオ字幕) 「図:ウェブサイト オンライン授業での情報保障に関するコンテンツ集 トップページの画像」 <スライド9>PEPNet-Japanの遠隔情報保障支援の取り組み-6 2020年度~オンラインでの支援者養成が困難であるという相談が多く寄せられたことから、個別の養成講座実施の他、地域ネットワークを活用した養成講座の開催 ・東海地区(2021年2月) ・北海道地区(2021年8月) (補足:右側にシステム名 T-TAC Caption) 「図:養成講座のZoom画面2枚。」 <スライド10>これまでの取り組みで感じた課題 □システム導入への技術的ハードルの高さ・トラブル対応→簡便な操作かつ安定したシステムが開発され、操作マニュアルの充実により対応。個々のネットワーク環境は依然課題に。 □大学の枠を超えた養成・人材共有のあり方・質の保障 □支援関係者間の関わりの希薄化 □地域リソースとの連携 □コーディネート体制 <スライド11>講師からの事例紹介 ①末盛慶氏 「日本福祉大学における障害学生支援の取り組み」 ②森野宅麻氏 「遠隔情報保障支援の経験から感じる交流の大切さ」 ③金澤貴之氏 「オンラインが拓く手話通訳人材養成の新たな可能性」 <スライド12>事例紹介のまとめ 1.日本福祉大学での聴覚障害学生支援の現状と課題、他大学連携への取組 2.遠隔情報保障支援を軸に利用学生や支援室と連携した支援や養成の取組 3.群馬大学でのオンライン時代の手話通訳人材養成の取組と今後への提案 <13>オンライン時代の情報保障の変化 ①情報保障支援の方法(対面→遠隔) ②ICT・オンラインツール等に対する意識 ③支援者の養成方法 ④情報保障支援のモニタリングについて ⑤インフォーマルな関わりの低下(支援学生・利用学生・支援室担当者の関わり) <14>ディスカッション1 オンライン時代の情報保障者養成・支援体制につい <15>ディスカッション2 オンライン時代における支援の質の保障について <16>コメンテーターより □松﨑丈氏 □岡田孝和氏 □森野宅麻氏 (進行スライドここまで)--- (末盛氏発表資料ここから)--- <スライド1>オンライン時代の情報保障者養成を考える-日本福祉大学における障害学生支援の取り組み- 日本福祉大学 学生支援センター長 末盛 慶 suemori@n-fukushi.ac.jp <スライド2>本日の報告の構成 ・日本福祉大学の障害学生数 ・日本福祉大学における障害学生支援 ・東海における大学間連携の事例紹介 ・まとめ-今後の方向性 <スライド3>日本福祉大学 障害学生在籍状況(通学課程) 2017年度~2021年度までの在籍状況が障害種別(視覚・聴覚・肢体・内部・発達・重複・その他-主に精神、合計)ごとに表となっている。 2021年度 視覚12名・聴覚24名・肢体35名・内部5名・発達19名・重複9名・その他-主に精神33名、合計137名 2020年度 視覚13名・聴覚23名・肢体34名・内部7名・発達18名・重複6名・その他-主に精神36名、合計137名 2019年度 視覚9名・聴覚22名・肢体31名・内部6名・発達15名・重複8名・その他-主に精神31名、合計122名 2018年度 視覚8名・聴覚25名・肢体27名・内部3名・発達9名・重複10名・その他-主に精神28名、合計112名 2017年度 視覚4名・聴覚26名・肢体27名・内部5名・発達13名・重複10名・その他-主に精神19名、合計104名 <スライド4>障害学生支援の取り組み 新入生オリエンテーション期間中に「障害学生支援活動オリ」を各学部で実施 ・支援活動の紹介 ・ボランティア登録者(支援学生)の募集 ・障害のある学生の自己紹介とサポートの呼びかけ 「写真:スライド右上に、「ノートテイクをしてくださる方を募集しています!」というタイトルで障害学生が作った自己紹介のチラシ例」 「写真:スライド下部に「支援活動の紹介」、「サポートの呼びかけ」を行う2種類の写真」 <スライド5>「ともに学び・ともに育つ」学生による支援活動の例 「写真:スライド全面に下記内容で6枚の写真 「ノートテイク、ポイントテイク」「パソコンテイク」「音声認識ソフトの修正」「移動支援・授業内支援」「字幕づけ、文字お越し」「代筆、対面朗読」」 コロナ禍の中、学生スタッフ、学生ボランティアの確保が課題に。 <スライド6>東海地域での大学間連携の取り組み 東海地区聴覚障害学生支援 遠隔パソコンノートテイク講座の実施(2020年度 PEPNet-Japanリソース 活用事業) 主催:日本福祉大学学生支援センター、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) 協力:高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP)、東海地区障害学生支援フォーラム 実施方法:Zoom を利用したオンライン形式 <スライド7>実施内容 第1回 (2021 年 2月9日 10:00~12:30) 遠隔情報保障システム「T-TAC Caption」概要説明及び操作体験 グループワーク「ノートテイク?援って?」 第2回 (2021 年 2月22日 10:00~12:30) T-TAC Caption を用いた連係入力体験 グループワーク「パソコンノートテイクこんな時どうしたら?」 第3回 (2021 年 3月2日 10:00~12:30) 講義場面を想定した連係入力練習 ※各回1時間程度の教職員向けの情報交換会も実施。 <スライド8>企画の感想(抜粋) 参加学生の感想:①ディスカッションはとても話しやすい雰囲気で、話が尽きないほどだったのが良かった。支援を利用している学生さんからの率直な意見を聞けたのは貴重な体験だった。また、動画や他の学生さん、先生方のお話から PC テイクの必要性を実感した。支援に対するモチベーションがより高まった。 教職員の感想:①障害学生支援についてあまり経験がない中での参加でしたが、いろいろな大学の先生方や支援者の方とつながることができて大変有意義な時間でした。②本学はサポーター学生が少なく、テイクスキルの養成もまだまだといった状況なので、今回の講座に参加させていただき、他大学の方々との交流や支援技術についての学びを得ることができた。 <スライド9>まとめ ・大学により障害学生数や支援者数にばらつきがあること、かつオンライン環境が整う中、大学間の連携がより重要に。大学間でマッチングを行うことにより、より幅広い障害学生が支援を得ることが可能な状況に(例.UDトークの誤変換修正、T-TAC Captionの活用)。 ・障害者差別解消法が施行されて以降、私立大学では障害学生支援を近年スタートさせているところが少なくない。今後、私立大学の対応も重要に。 ・テクノロジーの進化を積極的に活用、享受しながら、障害学生支援の文化や物語をいかに生成、継承していくかが重要に。 (末盛氏発表資料ここまで)--- (森野氏発表資料ここから)--- <スライド1>遠隔情報保障支援の経験から感じる交流の大切さ 森野宅麻 元支援学生・公立中学校教師 <スライド2>支援との出会い ・3回生の教育実習のあと ・大学の友人の紹介(支援学生ではない) ・PCで授業の内容を打つことで謝礼がもらえる ・初めは緊張しながらも、少しずつPCノートテイクに慣れる <スライド3>支援への動機 「授業を受けたい学生が受けられない?」 <スライド4>当時の課題 ①すべての授業に支援ができるようにする (手話などのスキルがある支援学生が少ない) ②教育実習でも支援ができるようにする <スライド5>PCノートテイクを質の高いものにするために ・すべての支援がPCノートテイクに ・学祭で学生の勧誘 ・スキル認定、テイカー養成 ・半期15回の授業支援でスキルアップ ・支援のバランス調整 ・PCの接続が有線から無線へ <スライド6>遠隔情報保障の導入に向けて ・手話での支援では、人材確保が困難 ・利用できるシステムを学ぶ  “モバイル型遠隔情報保障システム”  “T-TAC Caption” ・教育実習で実践に向けて、模擬授業や実施検証・研修を重ねた <スライド7>支援学生同士の交流 ・色んな人、色んな考え方と出会える ・同じ志、同じ目標を持っている仲間 ・技術の研鑽や習得、よりよい支援を考える ・“PEPNet-Japanシンポジウム” 「写真:2013年~2016年までの、大阪教育大学のPEPNet-Japanシンポジウムコンテストポスターが4枚並んでいる」 <スライド8>利用学生(聴覚障害学生)との交流 ・支援室に集い、手話を教えてもらう ・“PEPNet-Japanシンポジウム” ・手話での会話も増え、友人への支援へと意識が変化 →共育(共に育つ) <スライド9>支援室の存在 ・学生同士を調整する役割 ・学生と一緒に支援に取り組む ・学生のやりたいことを後押ししてくれる ・学生を受けて入れてくれるあたたかい場 (強調表示)自分も支援されていた・・・? <スライド10>オンラインでの情報保障に感じていた可能性 ・学内の人材以外からの支援の可能性 ・専門知識や適したスキルを持った支援者の提供 ・状況や場所を選ばずに支援が可能 <スライド11>支援学生の養成―PCノートテイクに必要なスキルの習得― ≪PCノートテイクに必要なスキル≫ ①タイピング速度 ←個人でのばせる ②連携力 ←経験者からの指導が必要(強調表示) ③要約力 ←経験者からの指導が必要(強調表示) ④専門知識 ←個人でのばせる <スライド12>支援学生の養成―講座以外の重要なポイント― ・半期15コマを共にする先輩との経験(強調表示) ・毎時間後の支援学生同士の【反省や検討】(【】内強調表示) ・テイカーの調整の上で、タイピングの速さも必要だが、【お互いに連携する力】が重要(【】内強調表示) ・【利用学生が求める情報の質の違い】(全文入力なのか、要約なのか など)(【】内強調表示) ・支援室が、テイクのスキルを把握(強調表示) <スライド13>交流の大切さ ・支援学生との交流(テイクスキル、連携力、モチベの向上) ・利用学生との交流(モチベの向上、それぞれに合った支援) ・支援室との交流(支援学生・利用学生をつなぐ存在) <スライド14>まとめ ・オンラインでの情報保障は、すべての授業に支援をするための有効な方法である ・支援学生や利用学生、支援室との交流が自分のモチベーションや人間的な成長にとって大事な要因であった ・「どんな人のために」「どんな人と」支援するか、がわかる交流を! (森野氏発表資料ここまで)--- (金澤氏発表資料ここから)--- <スライド1>第17回PEPNet-Japanシンポジウム 配信企画3 オンライン時代の情報保障者養成を考える オンラインが拓く手話通訳人材養成の新たな可能性 群馬大学共同教育学部 特別支援教育講座 金澤貴之 <スライド2> 日本財団事業「手話サポーター養成プロジェクト」 手話通訳者を大学で養成する…! <スライド3>手話通訳者養成の課題 〇聴覚障害者の社会的地位向上に伴う高い言語/通訳スキルを持った手話通訳者の不足  ・聴覚障害者の高等教育機関進学率の向上  ・聴覚障害者の高度専門職従事者の拡大  ・電話リレーサービスの公共インフラ化 〇現行の手話通訳者養成制度の行き詰まり  ・社会構造(専業主婦前提社会)の変化による中間年齢層の学習者減少  ・若年層の養成が困難な制度設計  ・厚生労働省認定資格「手話通訳士」の取得までに学習開始から平均10年を要するコストパフォーマンスの悪さ 〇→「コミュニティ通訳者の養成」を前提とした制度設計の見直しの必要性! <スライド4>日本財団助成事業 2017~2020年度 学術手話通訳に対応した専門支援者の養成 〇大学在籍中に手話通訳者(手話通訳士)資格の取得  ・1年次に週2コマ、手話習得のための講義  ・2~3年次に週1コマ、手話通訳技術習得のための講義 〇習得した手話通訳技術を活かした特別支援学校教員の養成  ・4年次に手話の技術を生かした専門職のための講義   ↑特別支援学校教員の専門性向上! 〇学術手話通訳者の養成  ・地域通訳者向けに学術手話通訳研修を実施 <スライド5>学内の手話サポーター養成プロジェクト関連授業 ――― 【表】スライド全体で「学内の手話サポーター養成プロジェクト関連授業」が表としてまとめられている。 1年次:全学共通開講、日本手話の基礎を学ぶことが目的。 開講講義:「言語としての日本手話1A」、「言語としての日本手話1B」、「言語としての日本手話2A」、「言語としての日本手話2B」 関連講義:「手話とろう文化」、「手話と情報アクセシビリティ」 2年次・3年次:共同教育学部を対象、手話通訳演習を通して日本手話のスキルを高めることが目的。 開講講義:厚労省手話通訳養成カリキュラム実践課程相当「日本手話と日本語の違いを学ぶ3※1」、厚労省手話通訳者養成カリキュラム応用過程相当「日本手話と日本語の違いを学ぶ2※1」、厚労省手話通訳者養成カリキュラム基本過程相当「日本手話と日本語の違いを学ぶ1※1」 関連講義:「聴覚障害児指導法特論(ろう重複児も含む)」、「聴覚障害児の心理特論」、「聴覚障害児教育課程・指導法」 3・4年の間:「手話通訳者全国統一試験」、「手話通訳士試験」の受験→手話通訳士の資格を有するまたは群馬県手話通訳者認定試験合格者→群馬県教員採用試験(第一次選考)に加点 4年次:共同教育学部特別支援教育専攻を対象、手話を用いたコミュニケーション/学習指導スキルを高める 開講講義:「聴覚障害教育演習C」、「聾重複障害児の教育概論1」、「聾重複障害児の教育概論2」 ※「聾重複障害児の教育概論1」、「聾重複障害児の教育概論2」の2科目は、ろう重複障害支援技術(盲ろう者向け通訳・介助員の資格取得など)の習得 関連講義:「盲ろう教育総論」(R5年度より開講) ――― <スライド6>手話の授業の様子  授業の様子の写真が4枚表示されている。 (画像の説明) 左上:女性講師が投影されているスライドを指さして説明している様子 右上:教室内の様子。男性2名の講師が学生に向かって説明をしている。左にろう講師、右に金澤先生。2人の間にモニターに投影されている手話映像が映っている。 左下:教室内の様子。スクリーンを前に男性講師1名、女性講師1名(いずれもろう講師)が立ち、2人で顔を見合わせて手話で会話をしている様子。その様子を3脚に載せたスマートフォンで撮影している。手前側の机に3名の学生が座っていて、講師2人の様子を見ている。 右下:教室内の様子。学生10名ほどが教室内で立っていて、手話の動きをしている様子。 <スライド7> そこに,コロナ禍が… ▼ 全ての授業をオンライン化(2020年度) <スライド8>オンラインでの授業の様子 ――― 「写真:写真が4枚表示されている。」 左上:講師2名が作業をしている様子。机2台を並べて座りパソコン画面やウェブカメラに向かって手話映像を収録したり、映像の確認をしている。 右上:オンライン授業中のZoom画面の様子。大きな画面に女性講師(ろう)の手話映像が表示されている。その上に授業に参加している学生6人の映像が小さなモニターで並んでいる。学生は講師の映像をまねて手話をしている。画面の右側にはチャット画面が表示されている。 左下:大型モニターの前で、女性講師(ろう)の手話映像を収録している様子。 右下:大型モニターにスライド資料が投影されている。モニターの前に講師が2名立って、カメラに向かって説明をしている様子。左に女性講師、右に男性講師(金澤先生)。 (モニターに表示されている内容ここから) (タイトル)映画を見終え、カフェで・・・(改行) (ブロック1)/映画 良かった/(改行)ところで 言いたい ある/(改行) 山PT2一緒 楽しい PT1/(改行) (ブロック2)/同じ//いろいろ 教えてくれ(改行) 楽しい PT1/ (ブロック3)/PT2付き合う 希望/ ――― <スライド9>「言語としての日本手話」から ――― 【動画】 大型モニターにスライドが投影されている。モニターの前に女性講師(ろう)が手話で説明を進めている。説明終了後、男性講師(ろう)による手話表現の例を実演。 (モニターに表示されている内容ここから) タイトル:順接構文の例文 ・言われたので、やりました。(ので に下線)  /イワレル ヤッタ/(イワレルに上線が引かれ、線の最後にhnと書いてあり赤枠で囲まれている。赤枠から赤矢印が右上に伸びており、その先に赤字で「【hn】順接の接続を表すNMのこと」と記載されている) ・あなたが来るから、私は準備をしておきます。  /PT2 クル PT1 ジュンビ スル /(クルに上線が引かれ、線の最後にhnと書いてあり赤枠で囲まれている) ・繰り返し読んだので、よくわかった。  /ヨム+++ リカイシタ/(3つ目の+の上にhnと書いてあり赤枠で囲まれている) (ここまで) (動画中の音声) 通訳/例文を三つ用意しました。 「言われたのでやりました。」 「言われる。」つまり誰かから自分に言われるです。 頭を前に出します。言われるの時に頭を前に出します。 で、大きい頷きを入れてから「ヤッタ」となります。 ――― <スライド10> 授業がオンラインならば…▼学外にも配信できるのでは?▼日本財団助成事業 2021~2030年度「聴覚障害に関わる支援人材育成を目的とした遠隔手話教育システムの構築」 <スライド11>公開講座 ・手話の教養講座 ・スキルアップ ・教員向け研修 ・群馬県,大阪府と連携 (スライドの説明) 画面左側に画像あり。「群馬大学手話サポーター養成プロジェクト室 2021年度 群馬大学公開講座」のポスター。 ――― 【表】 講義名、回数、対象者、実施形態(講義or演習)、内容、日程、講師、講習料が表としてまとめられており、問い合わせ方法やオンライン授業の説明等がまとめられている。 講義1 手話で学ぶ手話講座―手話とろう文化―(オンデマンド配信あり) 講義2 日本手話ネイティブと学ぶ手話 講義3 ろう通訳をモデルに学ぶ手話通訳 講義4 聴覚障害児教育における日本手話の活用実践(予定) 講義5 手話で学ぶ聴覚障害児の発達(予定)(オンデマンド配信あり) ――― <スライド12>高校生向け手話の授業の取り組み ・聖光学院高等学校 ・2022年度から福祉探究コース設置で,学校設定科目化 ・3年間の体系的学習 ・オンラインで実施 「写真:5人が全員手話でアイラブユーのサインをしている。男性3名と女子高校生2人。後ろに聖光学院高等学校のサインボードがかかっている。」 ――― 【動画】 ホールで金澤先生がスライドを投影しながら説明している様子。 ――― <スライド13>聴覚特別支援学校高等部向け手話の授業 ・公立の聴覚特別支援学校の教育課程の手話▼「コミュニケーション手段」 ・言語として手話を学ぶ機会の提供を! ・広報目的の出張講義を活用 ・オンライン実施 ・現在7ヶ所から申し込み 「写真:画面右に画像あり。「特別支援学校高等部(聴覚障害)生徒のための大学の授業」のタイトル。 (画像の説明) 「特別支援学校高等部(聴覚障害)生徒のための大学の授業」のポスター 講義題目、講義内容、講師、実施方法、問い合わせ先、申込先等がまとめられている。」 <スライド14>日本財団助成事業 2021~2030年度 聴覚障害に関わる支援人材育成を目的とした遠隔手話教育システムの構築(長期目標) ――― 【表】 対象/目的/運用する制度等/取得資格の順で記載。 大学生:群大/学生手話サポーター(学内の手話通訳者)養成,特別支援学校教員としての手話スキルの習得/(記載なし)/都道府県登録手話通訳者,手話通訳士,都道府県登録盲ろう者通訳・介助者 大学生:他大/学生手話サポーター(学内の手話通訳者)養成,特別支援学校教員としての手話スキルの習得/単位互換制度/都道府県登録手話通訳者,手話通訳士,都道府県登録盲ろう者通訳・介助者 高校生:通常校/手話のスキル習得/学校設定科目/市町村登録手話奉仕員 高校生:聾学校/言語としての手話の学び/出張講義、学校設定科目/(記載なし) 市民:教養/教養としての手話の学び/公開講座/(記載なし) 市民:資格取得/手話通訳を目指す/履修証明プログラム/都道府県登録手話通訳者、手話通訳士 手話通訳者/技術のスキルアップ/公開講座/(記載なし) 教員/聴覚障害の基礎知識/免許法認定通信教育/特別支援学校一種免許状 教員/手話に関する専門性習得/免許法認定通信教育/特別支援学校専修免許状 福祉・医療業務従事者/聴覚障害・手話に関する知識習得/公開講座/(記載なし) ――― <スライド15>PEPNet-Japan向けの提案として・・・ ・大学間連携による支援者養成,資格取得  ・単位互換制度  ・科目等履修生 ・大学を超えた支援者の相互利用  →オンライン化した今ならできるのでは(コロナ禍が静まったら終わる?続く?) さらに将来的には…  ・人材センター的なところで支援者登録  ・大学を超えてテイカー派遣 (金澤氏発表資料ここまで)--- _____ここまでスライド ■P56:企画4 「互いの思いに気づいてみよう ~よりよい支援につなげるために~」 司会: 藤原隆宏氏(関西大学学生相談・支援センター) グループファシリテーター: 有海順子氏(山形大学障がい学生支援センター) 生野 茜氏(関西学院大学 学生活動支援機構総合支援センター) 及川麻衣子氏(宮城教育大学 しょうがい学生支援室) 生川友恒氏(静岡大学 学生支援センター) 藤野友紀氏(札幌学院大学 人文学部) 1.はじめに 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、各大学ではオンライン授業が主体となっており、聴覚障害学生支援もオンラインでのサポートが増えている。オンラインやメールでの連絡では、対面時と比べてインフォーマルな関わりが難しくなり、コミュニケーションや関係性が希薄となっていると考える。そこで本企画では、聴覚障害学生、支援学生、教職員が三者の立場に立って改めて「支援」を考え、互いの「思い」に気づくことを目的に「よりよい支援とは何か」をテーマとしたグループディスカッションを実施した。 2.内容 2.1本企画実施にあたっての検討事項 本企画では聴覚障害学生、支援学生、教職員のそれぞれの視点での意見交換が重要であると考え、グループディスカッション形式で進めた。映像教材は PEPNet-Japanで教材作成した「『参加の保障』を考える-聴覚障害学生の目線で見る話し合い場面-」1に付属している映像教材を使用することとした。この映像教材では、聴覚障害学生(1名)、支援学生(2名)、職員(1名)の計 4名でパソコンノートテイク勉強会について話し合う場面が再現されている。 「写真:企画の様子 (左から藤原氏、手話通訳者)」 グループディスカッションでは、各グループに必ず聴覚障害学生、支援学生、教職員の三者が入るように調整を行った。どのグループにも聴覚障害学生や聴覚障害のある教職員が参加することになるため、各グループに情報保障または対等にディスカッションを行えるよう配慮する必要があり、手話通訳または文字通訳を付与したグループと、音声を使わず参加者自身で発言をタイピングする「チャットグループ」を設けることとした。また、オンラインでのディスカッションとなるため、Zoomの 1画面で完結するように 1グループの定員が 9名(ファシリテーター、通訳者を含む)になるよう調整を行った。ただし、チャットグループについては、タイピングしながらの議論となるため人数をさらに絞り、定員を 6名とした。さらにチャットグループではタイピングスキルが必要となるため、文字通訳の経験者やタイピングが得意な参加者をグルーピングした。 2.2本企画の進行について 司会者から企画趣旨の説明がなされた後、映像教材を視聴した。続いて個人ワークとして、ワークシート(図1)を使用して、気になったシーン(発言・行動等)を抜き出し、その理由を聴覚障害学生・支援学生 1(女性)・支援学生 2(男性)・職員の立場から想像してワークシートに記述した。 「図1:個人ワークシート」 個人ワーク終了後、グループディスカッションを実施した。グループディスカッションでは、まず自己紹介と個人ワークで記述した内容を発表しあい、共有を行った。ディスカッションのポイントとしては、情報保障の方法やスキルの善し悪しではなく、三者の立場から何を考えているか、どんな思いを持っているかを話し合うこととした。全体で視聴した映像教材は、話し合い場面を俯瞰的に撮影した映像であったが、グループの状況に応じて同様の場面を聴覚障害学生の目線で改めて撮影した映像の視聴も行った。40分間のディスカッションののち、各グループのファシリテーターから話し合いの内容について発表を行った。 3.グループディスカッション各グループからの報告について以下に述べる。 手話通訳グループ1 ファシリテーター:藤野友紀氏(札幌学院大学 人文学部) まず、気になったシーンとしては、職員がホワイトボードに書きながら聴覚障害学生に背を向けて話をしている場面や、逆に聴覚障害学生が板書している間に支援学生と職員が話を進めてしまった場面が挙がった。悪気はないと思うが、聴覚障害学生の視界に入っていないところで話が進むことで、聴覚障害学生と支援学生の情報量が違ってきてしまう。こういった場面でのポイントとして、話のテーマ・要点を構造化し、聴覚障害学生だけでなく全員が理解しているかを 1つ 1つ確認しながら進めることと、ホワイトボードは結論だけでなく、その過程で挙がった意見を書くことも有効ではないかとの意見が挙がった。 次に、支援学生と聴覚障害学生の会話で、意味にズレが生じた時に支援学生から「違う、違う」と言われ、聴覚障害学生が謝ってしまう場面が挙げられた。このような場合、聴覚障害学生が間違いを指摘されて謝るだけの一方的なコミュニケーションとなってしまう。職員や支援学生は丁寧に言葉で確認をし、原因はこちらにもあるという姿勢でコミュニケーションを図り、日々の積み重ねで聴覚障害学生との信頼関係を築くことが重要ではないかという意見が挙がった。 手話通訳グループ2 ファシリテーター:生野 茜氏(関西学院大学 学生活動支援機構総合支援センター) 手話通訳グループ 1と同じように、まず話題に上がったのは聴覚障害学生が話についていけていないという点だった。一見聴覚障害学生も分かっているような感じで終わっているが、実際は情報が伝わっていない様子が見られたとの指摘があった。また、支援学生同士が先生の話す速さについて話していた場面について、話速は人によって感じ方が異なり、まして聴覚障害学生は情報保障を通して授業を受けている為、速いかどうかは判断出来ないのではという意見もあり、私自身も気づきとなった。 動画ではマスクやシールド等はなかったが、現在コロナ禍である為、マスクやシールドを装着した状態では、さらに情報が伝わりにくくなることが考えられ、聴覚障害学生がきちんと内容を理解できているのかなど細かく確認をする必要があるのではないだろうか。 文字通訳グループ ファシリテーター:生川友恒氏(静岡大学 学生支援センター) 聴覚障害学生の視点で見ると、職員と支援学生が何を話しているか分からなくなり、発言が難しくなるというよくある事例である。話し合いの途中で聴覚障害学生がホワイトボードに板書をするシーンがあったが、あれは裏を返すと「私、置き去りになってるから書いてみます」ということだったのではないかという意見があった。結局は日常のコミュニケーションが大切であり、本企画の趣旨でもあるインフォーマルな関わりの重要性というところで、改めて日々の関係性が重要ではないかという意見が出てきた。例えば、授業の前後に雑談や他愛のない話をするだけでも関係性が違ってくる。そこで話したことが、その後のコミュニケーションや支援技術にも繋がるのではないか、との意見が挙がった。 チャットグループ1 ファシリテーター:及川麻衣子氏(宮城教育大学 しょうがい学生支援室) 俯瞰的な映像を見たときも聴覚障害学生に情報が伝わってないと感じていたが、続いて聴覚障害学生目線の映像を見たところ、想像以上に必要な情報が伝わっておらず、全く議論についていけていないことが再確認できた。聴覚障害学生が発言の意図を推測する時間に多くを取られてしまい、ディスカッション自体に参加できていないことも気になる部分であった。グループ内の聴覚障害学生からは、聴覚障害学生同士で話し合いを行う場合は、自然に「板書をする人=グループのまとめ役」となる場合が多いため、板書をしている人を置き去りにして話し合いが進むことはあまりないとのことだった。また、板書とはいえそういった役割を率先して担当してくれることへの感謝も欠けていたのではないかと気づかされた。 チャットグループ2 ファシリテーター:有海順子氏(山形大学 障がい学生支援センター) まず、話し合いの内容や役割が支援学生や職員の視点で展開され、無意識に支援者ベースで話し合いが行われていたのではと意見が挙がった。聴覚障害学生を中心に話し合いを行うためには、まず聴覚障害学生に支援の中での良い点と改善すべき点を確認して、意見交換を行うことが大事ではないかとのことだった。 また、手話通訳グループ 1でも挙げられていた聴覚障害学生が謝る場面では、教職員は聴覚障害学生と支援学生にどのような関係性でコミュニケーションを図っていって欲しいかという視点を持って関わっていく必要があるのではないかと意見が挙がった。日頃のコミュニケーションの中でどのような関係性を築いていく必要があるのかを意識することの大切さをグループ内で共有することができた。 4.まとめ 最後にまとめとして司会から、支援に関わる上で改めて意識するべき点として、以下について述べられた。①「今まで大丈夫だったから、今回も大丈夫」「確認してこないから分かっているだろう」という良くない意味での「慣れ」が出ていないかを意識すること。②「何度も聞くのは申し訳ない」「話が進んでいる中で確認をしたり、話を戻すのは申し訳ない」と、聴覚障害学生にコミュニケーションを諦めさせてしまっていないか意識すること。③聴覚障害学生が何も言ってこないから大丈夫ということではなく、状況や環境が変わっても本当に大丈夫なのか、丁寧に確認していく必要があること。そして「いろいろな『思い』のすれ違いを現場でどの様に解消していくのか、どのように日々のコミュニケーションに繋げていくのかを改めて大学に持ち帰って話し合っていただきたいと思う」とまとめた。 本企画は、立場の違う方からの意見を聞く良い機会となり、改めて「よりよい支援とは何か」を考える場となったのではないか。また、今回初めて音声を伴わないチャットでのディスカッションを行ったことで、改めて聴覚障害学生の参加の保障を考える事にもつながり、参加者からは「音声でのコミュニケーションが制限されることで、会話のスピードや入ってくる情報量の違いを理解することができた。そして、伝えたいことがあってもわざわざタイピングしなければならないために話すこと・伝えることを初めから諦めてしまうなど、日頃、聴覚障害学生が悩み、感じているであろう思いを疑似体験することができた」などの感想をいただいた。 今後も、オンライン環境という制限の中であっても出来ることを考え、参加者同士のコミュニケーションの場の設け方を検討していきたい。 「写真:企画の様子 (上段左から藤原氏、藤野氏、生野氏、下段左から及川氏、有海氏、生川氏。 右は手話通訳者)」 報告 吉田未来(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) 参考文献 1 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク「『参加の保障』を考える-聴覚障害学生の目線で見る話し合い場面-」(2021) _____ここからスライド <スライド1>企画4「互いの思いに気づいてみよう ~よりよい支援につなげるために~」 進行:藤原隆宏氏(関西大学学生相談・支援センター) <スライド2>本日の流れ 1.企画趣旨の説明 2.動画視聴 使用教材:『参加の保障』を考える-聴覚障害学生の目線で見る話し合い場面-(PEPNet-Japan発行) 付属DVD場面1を使用 「写真:使用教材」 3.個人ワーク(各自ワークシートに記入) 4.グループディスカッション 5.発表 6.まとめ <3>ワークシート  動画の話し合い場面を聴覚障害学生、支援学生、職員、それぞれの立場に立って見てみましょう。 そのうえで、聴覚障害学生・支援学生1(女性)・支援学生2(男性)・職員の様子で、 気になったシーン(発言・行動等)を抜き出し、その理由をお互いの立場を想像しながら記入してください。(10分間)  本企画は「お互いの立場に立つ」ことで気づきを得ることを目的としていますので、 情報保障の良し悪しにとらわれず、聴覚障害学生や支援学生、職員がそれぞれどのように思って話をしているのか、 その言動の裏にある気持ちなどを様々な視点から考えてみてください。 「図:ワークシート。ワークシートはA4横置き。右上に話し合い場面の図解。この図解は 次のスライドにて詳細説明あり。ワークシート中央には縦4分割にされた表があり、 左から、聴覚障害学生、支援学生1(女性)、支援学生2(男性)、職員と割り振られている。」 <4>場面紹介 「図:話し合い場面の図解。話し合いに参加している4名の席順が部屋を上から見た図で示されている。 真ん中に机があり、右側上が職員、右側下が支援学生1(女性)、左側上が聴覚障害学生、左側下が支援学生2(男性)」 <5>個人ワーク ・登場人物の様子を見て気になったシーン ・なぜ気になったのか ワークシートにご記入ください。 <6>グループディスカッション ・手話通訳グループ1 ・手話通訳グループ2 ・文字通訳グループ ・チャットグループ1 ・チャットグループ2 ・一般グループ ※参加グループにつきましては、事前にお送りしたメールに記載しております。ご確認ください。 _____ここまでスライド 【参加型企画 聴覚障害学生に関する実践事例コンテスト報告】 ■P64:特別企画 「聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2021」 結果発表司会・進行 白澤麻弓氏(筑波技術大学) 平良悟子氏(元 PEPNet-Japan事務補佐員) 1.はじめに 本シンポジウムでは、これまで各大学の取り組みをポスター形式で発表いただく「聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト(以下、コンテスト)」を実施してきた。昨年度以降、シンポジウム自体がオンラインで開催されることになり、これまでと同様の形式で実施することは困難になってしまったが、それでもコロナ禍で「人とのつながり」が希薄になっている今だからこそ、聴覚障害学生支援に携わる学生・教職員同士が繋がることができる企画を作りたいという想いで誕生したのがこの特別企画である。 昨年度は、学生・教職員が互いに話し合うことすらままならない状況に配慮し、個人で応募できる形式として、自作の川柳や聴覚障害学生支援に関するメッセージを応募いただく形とした。これに対して、今年度は、事態も落ち着きを見せてきたことから、個人応募型の川柳部門に加え、グループで動画を撮影する動画部門を加えて、内容をバージョンアップした。また、応募いただいた作品に対しては、全国の関係者から投票をいただく形とし、最も共感を生んだ作品を中心に各賞を授与した。本稿では、こうしたコンテストの概要と、リアルタイム配信により中継した結果発表の模様についてお伝えしたい。 2.概要 本コンテストは、「動画部門」および「川柳部門」の 2部門に分けて実施した。 このうち動画部門は、聴覚障害学生支援に関する取り組みや支援における工夫点、支援活動の様子などを約 1分半の動画にまとめて応募いただくもので、聴覚障害学生支援に取り組んでいる団体または個人での募集を可能とした。また、動画作成時には、聴覚障害のみでなく、視覚障害のある参加者の存在も念頭に置き、視覚または音声のどちらか一方しか受信できない状態であっても、内容が理解できるような配慮をお願いした。一方、「川柳部門」は、日頃、聴覚障害学生への支援を行う中で感じていることや“支援あるある”等を「五・七・五」に込めて川柳作品としたものを募集した。こちらは、昨年度の形式を踏襲したもので、団体ではなく、個人からの応募を原則とした。 両部門とも、事前に PEPNet-Japan Webサイトで作品を公開し、 Googleフォームにて投票を受け付けた。また、結果発表当日には、第 1部として両部門の作品紹介や作者へのインタビューを行ったあと、直前まで投票を受け付け、第 2部にて投票結果を発表した。 「写真:第1部動画部門作品紹介の様子(上段左から司会・進行役の白澤事務局長と平良氏、下段は応募者、右は手話通訳者。一番下には、字幕を表示)」 3.応募状況 動画部門は 4作品、川柳部門は 68作品の応募があり、大変多くの大学の方々にご参加いただくことができた。 このうち、動画部門は、真面目な作品からユニークな作品まで、各大学の学生達が知恵を絞った力作揃いで、大学ごとの雰囲気や支援にかける想いが伝わってくる内容となっていた。 一方、川柳部門については、約半数が聴覚障害学生ならびに支援学生からの応募となっていて、コロナ禍で行われている遠隔支援の難しさや日頃の感謝の思い、支援に対する前向きな姿勢が伝わってくる作品となっていた。 結果及び全ての応募作品は、67ページ以降に掲載しているため、ぜひご覧いただきたい。 「写真:第2部 結果発表の様子(左からスライド+司会、石原学長、手話通訳者。下に文字通訳を表示)」 4.結果発表の様子とまとめ結果発表の冒頭では、本会代表であり筑波技術大学長石原保志より開会の挨拶を行い、続いてご来賓として文部科学省学生・留学生課長藤吉尚之様からご挨拶を頂戴した。 続いて行った結果発表では、動画部門 4作品、川柳部門 3作品に、それぞれ最優秀作品賞などの賞が贈られ、各賞の作者に対して、本会代表ならびにご来賓の藤吉様より暖かいメッセージが送られた。この中では、応募作品を通して、支援に携わる方々の率直な想いが伝わってきたこと、またここに込められた想いを共有して、今後の学生支援に活かしていって欲しいことなどが語られており、離れていても「人とのつながり」を感じさせられる有意義な企画となった。 今後もコロナ禍における聴覚障害学生支援は継続され、この中ではオンライン授業における遠隔支援や感染症対策を講じた上での支援活動が求められるだろう。本コンテストが、こうした活動を通して得られた情報の共有や交流の場となるよう、来年度の実施形態についても、さらに検討を重ねていきたい。末尾ながら、作品をご応募いただいた皆様、投票やコメントをいただいた皆様に感謝申し上げる。 報告 吉田未来(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター)白澤麻弓(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) 動画部門結果 1 最優秀作品賞 テーマ「みんなもなろう!テイクマン」 チーム名:宮城教育大学しょうがい学生支援室学生運営スタッフ 「写真:動画サムネイル」 2 優秀作品賞 テーマ「コロナ禍の取り組み」 チーム名:大阪教育大学障がい学生修学支援ルーム 「写真:動画サムネイル」 3 次点 テーマ「東京都立大学ダイバーシティ推進室の活動紹介」 チーム名:東京都立大学ダイバーシティ推進室 「写真:動画サムネイル」 3 次点 テーマ「筑波技術大学の日常生活」 チーム名:筑波技術大学学生有志 「写真:動画サムネイル」 川柳部門 結果 1 最優秀作品賞 作品:「口見せて」 言える未来を 信じてる ペンネーム:ひかり 2 優秀作品賞 作品:ペアをくむ 支援者同士も たすけあい ペンネーム:島津 燎 3 次点 作品:手話覚え 君と本音で 語りたい ペンネーム:見えない壁 4 作品:テイカーと 聞こえない壁 声テイク ペンネーム:りゅーのすけ 5 作品:「できるかな」 その興味から 笑顔の輪 ペンネーム:てと 6 作品:完璧だ ノンミステイク テイカーさん ペンネーム:花子 7 作品:字幕付け えらい方言も まかせてや~ ペンネーム:あめちゃんいる? 8 作品:よい支援 改善に向け 呼びかけを ペンネーム:たっかーさん 9 作品:声以外 会話の手段 無限大 ペンネーム:つちふたつ 10 作品:囁けど 聞こえず声張り 頬を染め ペンネーム:umineco 11 作品:電波越え 阿吽の呼吸で タイピング ペンネーム:あうんくん 12 作品:おもてなし 言葉を伝えること 君に ペンネーム:小さな贈りもの 13 作品:支援の輪 みんな誰かの 支える側 ペンネーム:メガアクアイイロ 14 作品:手話交わす こころ通わす 夏の午後 ペンネーム:勉強中の人 15 作品:コロナ禍で 笑顔が見える 白マスク ペンネーム:ツチゴン 16 作品:タイプする 指の力よ 音になれ ペンネーム:ラウンジの座敷童 17 作品:支援経て 日々磨かれる 目の会話 ペンネーム:良心伝心 18 作品:知らずとも 考え想い 助けとなる ペンネーム:がらごん 19 作品:「十見舞うs」 (ってなんだこれ(笑)) と思います ペンネーム:ごんたんご 20 作品:Zoom画面 黒の向こうに 「よろしくね」 ペンネーム:まおー 21 作品:英語支援 シラバスチェック レッツスタート ペンネーム:ピーター 22 作品:ありがとう 「あなたの支援 待ってます」 ペンネーム:思い思われ 23 作品:くりかえし 言ってほしいが もういいと ペンネーム:クレセント 24 作品:自粛明け パソコン前に 深呼吸 ペンネーム:さっつん 25 作品:語尾変えて 文字で伝える 場の雰囲気 ペンネーム:ヒロイ 26 作品:意識する 身ぶり手ぶりや よい笑顔 ペンネーム:ナスカのトマト 27 作品:休憩中 プロの連携 みる「連係」 ペンネーム:ふうせん 28 作品:誰だって 助けが必要 そうでしょう ペンネーム:青色の海 29 作品:音喰らう 仮面ありふれ 聞こえない ペンネーム:マスカル 30 作品:マスクじゃま、もっと楽しく、話したい ペンネーム:けしごむ 31 作品:コロナ禍は ろう者にとって 困難だ ペンネーム:ネモチョン 32 作品:きれいだな 二人で描く 軌跡の空間 ペンネーム:まだ指文字だけ 33 作品:(読み上げ中) 送る心は (予習中) ペンネーム:Narukin LINER 34 作品:「タイピング パチパチ加速 拍手かな」 ペンネーム:伸びしろしかない初心者 35 作品:当てないで ただ今 絶賛通訳中 ペンネーム:たなっき~ 36 作品:画面越し デビュー見守る 母心 ペンネーム:母寄りのコーディネーター 37 作品:伝えたい 熱い想いは 自粛せず ペンネーム:ぶったん L 38 作品:支援不要 言われる世の中 夢に見て ペンネーム:センター事務員 心の声 39 作品:ルーターを見送る 今日もありがとう ペンネーム:momo 40 作品:PEPNet 離れていても One Team ペンネーム:流行語大賞 41 作品:もうすでに ライフラインだ UDトーク ペンネーム:字余り 42 作品:どんな人? 逢う日を思ひ 遠隔支援 ペンネーム:わせ子 43 作品:距離超えた 支援で身近に 各キャンパス ペンネーム:金竹羅夢 44 作品:支援室 みんなの気持ちは 志縁室 ペンネーム:ダイカンセイ 45 作品:トラブルも 解けた笑顔に つられ笑む ペンネーム:溶け込み系通訳者 46 作品:寝る前に メールが来たけど 今何時? ペンネーム:よふかしのうた 47 作品:ころころと 変わる状況 目が回る ペンネーム:新米さんのつぶやき 48 作品:目に見えぬ 部屋の Wi-Fi 命綱 ペンネーム:ネット無料マンションの住人 49 作品:文字かぶり 優しさゆえに 文字消える ペンネーム:ESC使いの達人 50 作品:めちゃ大事 支援者支える メタ支援 ペンネーム:お大事に 51 作品:気づこうや 高いスキルの 努力跡(あと) ペンネーム:リスペクト 52 作品:大切だ 目配り気配り 字配りも ペンネーム:SDGs 53 作品:ルーターの ご機嫌祈る 雨予報 ペンネーム:守護神てるてる坊主 54 作品:汗だくだ このハイブリッド エコじゃない ペンネーム:PEPNet 応援団長 55 作品:大丈夫! その一言に 救われて ペンネーム:聴覚障がい学生たちよありがとう 56 作品:支援者の あふるる思い 人救う ペンネーム:重い槍 57 作品:マスク替え すきとおっても くもりがち ペンネーム:マリトッツオ 58 作品:授業支援 準備大変 マジぴえん ペンネーム:ぺんだこ 59 作品:オンライン トラブル起きても 冷静に ペンネーム:もちゃ 60 作品:入れます! その一言に 救われて ペンネーム:支援学生たちよありがとう 61 作品:タイムラグ 縮めた瞬間 一体感 ペンネーム:大ちゃん 62 作品:初めての 覚えた手話は コロナかな ペンネーム:チーム B 63 作品:コロナ禍の コーディネーター スーパーマン ペンネーム:感謝をこめて 64 作品:筆談は スキルじゃないよ 姿勢だよ ペンネーム:筆談魔術士 65 作品:オンライン 慣れて 通学面倒に ペンネーム:U&K 66 作品:支援室 わたしにとっての 癒し室 ペンネーム:ヒコーキグモ 67 作品:二外にて 支援者ともども 聞き取れず ペンネーム:ヤギ夫以下 68 作品:支援者の コーディネートで 日が暮れる ペンネーム:おろろん 受賞者以外順不同 【配信型企画実施にあたっての工夫点】 配信型企画実施にあたっての工夫点 ―事前準備~当日の役割、公開準備まで― 1.はじめに 配信型でのシンポジウムの実施が2回目となり、情報保障の見やすさを考えた配信にあたって失敗と検証を繰り返し、様々な工夫を取り入れて実施している。本稿では、本シンポジウムにあたって行った工夫や、配信担当者側で事前にすべき準備・当日の配信に関わるスタッフの役割等をまとめた。 2.企画実施にあたっての工夫点:事前準備 2-1.情報保障を含んだ画面の構成 シンポジウムの各企画では、手話通訳・文字通訳を講師映像やスライド資料と同じ画面で表示できるように画面合成をしている。これは視聴する端末がスマートフォン・タブレットなどの場合、1画面上で情報保障を含む全ての情報を見られるようにするためであり、小さな画面でも見やすいレイアウトであることを意識して構成している。事前のテストを繰り返し、以下の点に留意しながら手話通訳映像のサイズや明るさ・文字サイズの調整を重ねている。なお、配信時の情報保障に関する工夫点については、第 16回シンポジウム報告書(http://hdl.handle.net/10460/00002101)でも詳細を報告しているので、あわせて参照されたい。 ①手話通訳は Zoom画面上の 4分割以上の大きさで構成する。Zoom参加者の 1人として配信すると小さい場合には、情報保障画面の合成を行い、サイズを固定する。 ②文字通訳は少し前の情報も確認できるように、4~5行の表示とする。事前にフォントの見やすさやサイズを、パソコンだけでなくスマートフォン・タブレットでも確認する。 ③文字通訳者にも配信レイアウトを事前に共有するとともに、改行を減らして文字を多く表示してもらうように協力を依頼する。 ④リアルタイム配信型の企画の際には、参加者が画面上の情報保障だけでは読みにくいことも考慮し、別端末などで直接文字通訳を見ることができるように案内している。その際には字幕閲覧サイトへのアクセス方法や表示画面の調整方法について資料にまとめ、全参加者に案内をする。 2-2.企画検討段階 1画面で手話通訳・文字通訳・講師映像・スライド資料を表示させるにあたり、企画内容や構成を考える際にはできるだけ画面の切り替えが少なく、シンプルな進行を検討してもらうように配信担当者と企画担当者での擦り合わせを行っている。この段階から企画の流れを把握しておくことで、企画の進行に合わせた配信レイアウトを検討することができる。また配信にあたって進行上工夫してもらうべき事項も共有しておくことが必要である。 2-3.講師および手話通訳者の収録環境の確認 オンラインでの収録の場合、講師・手話通訳者が当日利用するパソコンやカメラの配信環境を事前に確認するとともに、可能であれば事前に Zoomでの接続テストを行い、当日の収録の様子を確認しておくようにしている。接続テストの際に確認を行うのは以下の点である。 ・ネットワーク状況はどうか(頻繁に切断しないか/映像と音声の遅延はないか) ・カメラ位置は適当か(下から見上げる位置になっていないか) ・画面の明るさはどうか(間接照明の部屋のため顔が暗くなってしまう/大きな窓からの光で明るすぎる) ・音声は明瞭か(マイクを使っておらず音声が聞こえにくい/音が反響して聞こえる) 収録にあたって不具合がある場合には、事務局からモバイルルーター・簡易の照明機材・背景用の布・スピーカーマイク・ウェブカメラなどを貸し出し、利用を依頼する場合もある。貸出機材を使用する場合には、Zoom側で貸出機材を使用する設定になっているのかを当日確認しているが、操作に不安がある場合には事前の接続確認を行っている。 特に映像・音声の確認において、留意しているポイントを以下にまとめる。 1)映像に関する確認 (1)カメラ位置が目線と同じ高さになっているか カメラが目線より高いと上目遣いになり、低いと顎が上がって見えてしまうため怒っているような印象になってしまう。また、視線がカメラと合っていないと、見ている時に違和感がある。パソコン内蔵のカメラは高さ調整が難しいため、外付けのウェブカメラがあれば使用を依頼する。 (2)映像の明るさ・鮮明さは適切か 自宅での収録の場合、電球色や座る位置によって顔が暗くなる場合や、光が当たって明るくなりすぎる場合がある。また、近くの窓からの太陽光が入る場合には、時間が経つにつれ明るさが変わる点も留意する。照明の調整が難しい場合は、Zoomの設定を確認してもらう。自宅の照明環境では解決しない場合には、簡易の照明機材の貸し出しも行う。また、ウェブカメラの解像度が低いために映像が不鮮明な場合には、事務局から機材の貸し出しをする。 (3)背景の確認 映像の背景に生活感を感じるものが映り込んでしまう場合、位置の調整や背景布の使用を依頼する。背景にグリーンバックを使用している場合、色が強すぎるため長時間の視聴には不向きである。画面合成などを行わない場合には使用を控えてもらい、白や茶の壁を背景にしてもらうか、青やグレーなど落ち着いた色の布背景に変更してもらうように依頼する。 2)音声に関する確認 (1)発話音声の確認 音声が明瞭に聞こえるかを確認する。大きすぎる・小さすぎる・くぐもって不明瞭などの場合は、パソコンの設定を調整してもらうとともに、外付けマイクの使用を依頼する。 (2)周囲の音声の確認 資料等の紙めくりの音や布擦れの音が入らないかを確認する。定期的に発生する環境音(近隣店舗のアナウンス音声・信号の誘導音声・学校のチャイムなど)についても確認する。 (3)ノイズの有無と音質の確認 パソコン内蔵のマイクでは音声以外のノイズ・環境音が入りやすいため、指向性の高い外付けマイクやヘッドセット型のマイクの使用を依頼する。ウェブカメラのマイク機能がある場合、外付けマイク接続後にマイクデバイスが切り替わっているか確認を依頼する。環境音などのノイズを完全に防ぐことが難しい場合には、事務局より指向性の高いマイクの貸し出しを行っている。 2-4.収録の流れや画面レイアウトを関係者間で共有 収録当日の流れや画面レイアウトについては、配信担当者だけでなく収録当日に参加する講師・通訳者・スタッフにも収録実施1週間前を目安に共有しておき、確認をしてもらう。疑問点がある場合には事前に確認を行うとともに、直前に変更が生じた場合には当日の打ち合わせの場面で伝える。 全体の流れが共有されていることで、手話通訳者側で画面の切り替わりに合わせた交代のタイミングを調整したり、スライドを指し示したい時の位置をイメージすることができる。また、文字通訳者にとっては画面上でどのように文字通訳が表示されるかによって入力方法を工夫する必要があり、レイアウトの情報は重要な情報になる。講師も自らの画面上の位置が把握できることで、ディスカッションの際にも他の講師に自然な視線を向けられるようになる。 また、講師や通訳者がスタッフ側と連絡を取りたい場合に、すぐに対応できるチャット送付先やメールアドレスなどを明確にしておくことも必要である。 2-5.参加者への事前連絡 参加者に対しては、企画ごとに以下の内容を案内し、より参加しやすい方法を準備してもらえるようにしている。 1)スマートフォンやタブレットでの参加者には、資料が小さく見えにくくなってしまうことから、資料は別途 PDFファイルでダウンロード可能な形で配布し、印刷して閲覧できるようにしている。 2)Zoomの使用時の注意点や、細かい操作方法(アップデート)、見て欲しい画面についての案内をしている。 3)操作方法等が分からない場合の問い合わせ先について、メールアドレスならびに Zoomログイン後のチャット先を明確に案内している。 3.企画実施にあたって:当日の工夫点 3-1.配信側スタッフの役割 事務局では配信担当のスタッフを最低4名確保し、役割を分けて対応している。複数の役割を1人が担ってしまうと、何かしらトラブルが生じた場合の対応を取ることが難しくなってしまうためである。それぞれの役割は以下の通りである。 1)全体進行の調整・問い合わせ対応 企画内容のスタッフが担当する。進行の調整や企画コーディネーターへの連絡、Zoomのチャットを活用して参加者からの問い合わせへの対応をする。リアルタイム型企画の場合、参加者からの問い合わせ先が分かるように表示名を「★質問はこちら」に変更し、 チャットで問い合わせて欲しい旨も参加者に案内をしている。 2)ホスト用パソコン操作 参加者の入室管理・Zoomのスポットライトの設定・スライド操作などを担当する。 3)共同ホスト用パソコン操作 講師・情報保障画面の合成、講師スライド操作、Zoom画面のピン止め操作などを担当する。ホスト用パソコンが不具合により固まってしまった場合、ホスト権限を移行してミーティングが途切れることがないようにしている。ホスト用パソコンで操作するものと同じデータを入れておくことで、万が一の場合のバックアップ機としている。 4)手話通訳映像切り替え 手話通訳映像の切り換えは、通訳者画面を常に見て交代のタイミングに合わせて操作をする必要があるため、専用の担当者を配置している。 3-2.様々なトラブルを想定した対応 これまでの実施経験をもとに、以下のようなトラブル時の対応を講じている。・ホスト用のパソコンにトラブルが生じて動かなくなった場合、共同ホストに移行できるようにするため、スライド資料等のデータを共同ホスト用パソコンにも保存しておく。特に OBSで色々な映像を操作している場合、パソコンに負荷が掛かりすぎるため、途中で不具合が生じる可能性が高くなる。・配信上のトラブルが生じた場合に、参加者に対して配信が一旦止まっていることを伝えるスライドを用意しておく。このデータは全ての共同ホスト用パソコンに保存しておき、トラブル対処が終わるまでの状況を参加者に確実に伝えられるようにしている。・リアルタイム配信型企画の場合、参加者からの問い合わせがメール・電話など様々な方法で届くことを想定し、1人は電話対応スタッフを配置するようにしている。 4.配信の工夫 4-1.企画内の動画配信 配信にあたっては、企画で使用する資料や動画使用の有無等に応じて機材の接続方法も変更している。以下に企画内で動画の再生を行った際の配信側の工夫について説明する。 1)使用機器 使用する機器は、各企画の形式に合わせて選定を行う。本シンポジウムで使用した主な機材は以下の通り。 ・パソコン(複数台)、iPad ・映像切替器(ビデオスイッチャー、ビデオミキサー) ・ビデオキャプチャーデバイス ・ケーブル(HDMI、USB、LANケーブル等)、他 その他、配信担当者と同じスタジオに講師がいる場合にはビデオカメラ、三脚、音響機器(マイク、スピーカー、ミキサー等)、照明機器等を使用している。 2)使用機器の接続方法 「情報保障映像」と「司会・講師・資料・動画映像」の 2つに分けて説明する(図1参照)。まず、情報保障映像は2-1で説明をした画面構成をもとに、手話通訳は画面の右側、文字通訳は画面の下側に配置した。手話通訳はパソコン 2台の Zoom映像から HDMI出力した映像を映像切替器に入れ、切替後の映像を USB出力して OBS(PC2)に入力する。手話通訳者のカメラや環境等により映像の明るさに大きく差が生じる場合には、切替器の設定により彩度や明度の調整を行う。文字通訳は、iPadに表示した画面を HDMI出力し、ビデオキャプチャーで USB入力に変換する。その映像を OBS(PC2)に取り込み、OBS上で iPadの最新行(最下部)から 5行分をトリミングして表示した。 次に司会・講師・資料・動画映像については、Zoomのピン止め機能を使用し、 PC3または PC4で映像を構成する。パソコンの映像を HDMI出力し、ビデオキャプチャーで USB入力に変換して OBS(PC2)に取り込み、手話通訳映像と文字通訳映像との合成を行う。合成した映像をホスト用パソコン(PC1)で「全員のスポットライト」に設定し、参加者全員が同じ映像を視聴できるように配信する。 「図1:配信側で使用した機材の役割について」 3)動画の配信 動画の配信は、「Zoomの1画面を使用して動画映像の配信を行う方法」と「OBSのシーン切り替えを使用して動画映像の配信を行う方法」の 2パターンで実施した。再生する動画に字幕があるか、企画の進行のタイミングはどうか、配信機器の使用状況に余裕があるかなどにより、どちらの方法で実施するか検討を行った。機材の接続方法について、以下説明をする。 なお、Zoomの画面共有機能で動画を共有する方法もあるが、全画面表示となるために手話通訳・文字通訳の画面が消えてしまうこと、配信側でレイアウト調整のためにピン止め等の設定を行っているが、並び順が変わってしまうため、使用していない。また、音声の出力については事前に確認をしておく必要がある。 (1)Zoomの1画面を使用して動画映像の配信を行う方法(図2) パソコン(PC4)で再生する動画を参加者画面として配信するため、 HDMIケーブルで出力した映像を、ビデオキャプチャーでそのまま PC4に USB入力して映像を戻すことで、ウェブカメラと同様に Zoomの一参加者として「画面上の映像」を表示することができる。その映像を PC3の Zoom画面で司会や講師と並んで PC4の画面をピン止めする。その映像を PC2に入力し、手話通訳映像・字幕と合成して動画を配信した。 「図2:動画の配信方法 その1」 (2)OBSのシーン切り替えを使用して動画映像の配信を行う方法(図3) 司会や講師映像は(1)と同様に PC3でピン止めを行う。動画については、OBSのシーンに動画ファイルまたは YouTubeの URL等を登録し、配信するタイミングでシーンの切り替えを行った。この例では動画に字幕が付いており、手話通訳や文字通訳の表示が不要であったため、動画を全画面表示にして配信した。 なお、OBSを利用して動画の音声も出力する場合には、細かい設定が必要となるため、詳細はウェブサイト等で確認されたい。 「図3:動画の配信方法 その2」 4-2.事前収録動画の公開にあたって 1)字幕について 字幕は収録時の情報保障として利用した文字通訳を使用している。その時の「やりとり」で使用された字幕でないと、前後の流れなどに齟齬が生じてしまう可能性があるためである。それだけ質の高い文字通訳であることが前提となるが、普段から事務局の企画に協力してくださっている文字通訳団体には安心して依頼をしている。さらに、文字通訳団体からは事前に収録時の画面配置の確認がある。例えば横長の5行表示(写真参照)で収録する場合は、改行を減らして文字を多く画面上に表示するよう工夫するなど、配信の形にあわせた「読みやすい字幕」を検討して対応頂いている。 2)補足の字幕について リアルタイムでの文字通訳は誤字が必ず生じるため、どうしても修正や補足が必要な場合は、事務局でテロップを入れて最終的な配信映像にしている。テロップは目立つように挿入し、さらには「文字通訳の修正なのか」「内容の補足なのか」がわかるように区別して入れている。 「写真:企画2での修正テロップ」 3)視覚障害のある方々への対応 毎年シンポジウムには視覚障害のある方々も参加して下さることから、資料のテキストデータの提供も行っている。さらに今回のシンポジウムでは、開始前や終了後のスライドに読み上げ音声を入れる形にした。 5.まとめ 今回は配信の裏側について詳細に報告した。こうした配信時の細かなノウハウに関する問い合わせも増えていることから、今後コンテンツ化も検討したい。一見すると大変そうな印象があると思うが、工夫次第で情報保障を利用する方にも見やすいレイアウトの構成が可能であることが伝わったのではないかと思う。今後もオンライン配信の様々な企画で見やすい情報保障が取り入れられることを期待したい。 報告: 吉田未来(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) 磯田恭子(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) 実施体制 大会長 筑波技術大学 学長 石原 保志 事務局長 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 白澤 麻弓 配信システムコーディネート 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 磯田 恭子、吉田 未来 スタッフ 筑波技術大学: 障害者高等教育研究支援センター 三好 茂樹 産業技術学部 河野 純大 障害者高等教育研究支援センター 萩原 彩子 (企画1) 障害者高等教育研究支援センター 中島 亜紀子 (企画2、情報保障コーディネート) 障害者高等教育研究支援センター 磯田 恭子 (企画3、配信システムコーディネート) 障害者高等教育研究支援センター 岡田 雄佑 (企画補助、情報保障コーディネート補助) 障害者高等教育研究支援センター 吉田 未来 (配信システムコーディネート、企画4、コンテスト) 障害者高等教育研究支援センター 堀 小百合 (事務) 障害者高等教育研究支援センター 田中 真理子 (事務) 障害者高等教育研究支援センター 石野 麻衣子 (ウェブコンテンツ) 所属・肩書きは 2022年 3月時点 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局 【事務局長】筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・准教授 白澤麻弓 【事務局長補佐】筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助教 萩原彩子 【事業コーディネーター】 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助教 磯田恭子 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助教 中島亜紀子 【事務局員】 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・教授 三好茂樹 筑波技術大学産業技術学部総合デザイン学科・准教授 河野純大 筑波技術大学聴覚障害系支援課・課長 大坂香織 【事務補佐員】 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・特任研究員 岡田雄佑 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・技術補佐員 吉田未来 所属・肩書きは 2022年 3月時点 日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム報告書 第4号 「原点を踏まえて考えるこれからの支援―時代の変化を受けて―」 (第17回 オンライン特別企画) 発行:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) 発行日:2022年6月30日 編集:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局 〒305-8520 茨城県つくば市天久保 4-3-15 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター ※本事業は、筑波技術大学「聴覚障害学生支援・大学間 コラボレーションスキーム構築事業」の活動の一部です。 デザイン:松谷朋美(筑波技術大学大学院技術科学研究科)