ろう者がつなぐ「まちなかの居場所」の形成要素に関する研究 Research on the Formative Elements of “Third Place in the City” Connecting Deaf People 令和3年度 筑波技術大学大学院技術科学研究科 産業技術学専攻 総合デザインコース 福島 愛未 目次 第1章 序論 1.1 研究背景  002 1.2 研究目的  003 1.3 研究対象-居場所を提供するアソシエーション-  004 1.4 調査方法-DeafSpace Design-  006 1.5 本論文で使用する言葉の定義  009 1.6 本論文の構成  010 第2章 事例1(非営利-常設-新築) 2.1 神戸長田ふくろうの杜 2.1.1 運営方針及び形成過程(1)組織(2)施設  012 2.1.2 事例1ふくろうの杜の物理的環境要素  014 2.1.3 小括  018 第3章 事例2・3(非営利-常設-改修) 3.1 就労継続支援B型手楽来家 3.1.1 運営方針及び形成過程(1)組織(2)施設  020 3.1.2 事例2手楽来家の物理的環境要素  022 3.1.3 利用者・スタッフによる環境評価  024 3.1.4 居場所の効果  054 3.1.5 小括  055 3.2 Sign with Me春日店 3.2.1 運営方針及び形成過程(1)組織(2)施設  056 3.2.2 事例3 Sing with Me春日店の物理的環境要素  058 3.2.3 利用客・スタッフによる環境評価  060 3.2.4 居場所の効果  092 3.2.5 小括  094 第4章 事例4(任意組織-非常設) 4.1 ろうちょ~会 4.1.1 運営方針及び形成過程(1)組織(2)施設  096 4.1.2 事例4 ろうちょ~会(みちくさ亭)の物理的環境要素  098 4.1.3 参加者・スタッフによる環境評価  100 4.1.4 居場所の効果  128 4.1.5 小括  130 第5章 結論 5.1 運営方針及び形成過程  132 5.2 居場所に求められるDeafSpace Design  133 5.3 居場所の効果  139 5.4 結論  140 5.5 今後の課題・展望  140 謝辞 参考文献 資料 筑波技術大学 修士(デザイン学)学位論文 第1章 序論 第1章 序論 1.1 研究背景  これまでろう者の居場所は、1878年に発足した京都盲啞院を始め、1891年に結成された日本で初めての聾団体、京都盲啞学校啞生同窓会、大正期(1923年~)に整備が進んだろう学校(現:特別支援学校)や、1947年に創立された全日本ろうあ連盟と行ったDeaf Communityのアソシエーションが中心となっていた(図1.1-1)。友人、家族といった個人レベルの集いや、助け合いはあったが、これらのアソシエーションは、情報交換や仲間との交流、手話という言語的アイデンティティの確立、セルフアドボカシースキルの会得や、ろう文化の伝承の場を提供していた。京都盲啞院ではろう児が集まることにより新たな手話が誕生したことが記録されている。近年は、このようなろう者の居場所が多様化しており、まちなかの居場所も増えつつある(図1.1-2)。  居場所の研究として、子育て支援者やケアラー(家族介護者)等が利用するコミュニティカフェの利用実態や役目に着目した研究等がある。一方で、Deaf Communityという包括的な観点での研究は国内外で進められているが、ろう者を対象としたまちなかの居場所の研究は十分に行われていない。  また1990年代に整備されたハートビル法や福祉のまちづくり条例などにより、バリアフリーやユニバーサルデザインの観点から、障害者を取り巻く環境改善に関する研究が進められている。ろう者に対しては、聞こえないことによる障壁を解消するための視点で研究がなされてきた。一方で、杉山によるろう者のコミュニケーション手段である手話に着目した、ろう者に配慮した空間計画の基礎的 研究がある[1]。しかし、国内ではこのようなろう者のコミュニケーション手段や知覚に着目した建築領域における既往研究は極めて少ない。  米国では2010年にGalladuet Universityで、ろう者の文化、知覚、コミュニケーションなど、ろう者特有の行動様式を生かしたDeafSpace Design(以下、DSDとする)のガイドラインが考案された[2]。このガイドラインは、5つのコンセプトと19項目のサブカテゴリーで構成されている。これは、2005年にGallaudet Universityのキャンパスに新たな建物を建設する際に開催された、ワークショッ プがきっかけとなっている[3]。このワークショップでは、ろう学者、ろう学生などが集まり、アイデアを抽出した。この際、DeafSpace Designに関する60以上のパタンが生み出された。その後、2006年にASLおよびろう者学専攻の特別コースで3年間のDeafSpace Projectが設立され、研究が進められた結果、ガイドラインには150以上のパタンが整理された。このプロジェクトは、Galladudet Universityのキャンパスを中心に研究が行われたため、教育施設における特徴が多くみられる。  また2009年には、Matthew Malzkuhnによるろう者個人の家の研究が行われ、ろう者の家の共通のパタンが明らかになった。ろう特有の行動様式に合わせて空間を調整することは、ろう者にとって一般的でありMalzkuhnはこれを「Cultural Customization」と名付けている[4]。しかし、いずれもDSDに対する利用者の評価に関する研究は行われていない。 1.2 研究目的  本研究では、ろう者の居場所に着目し、形成要素と役割や課題を、ハード(物理的環境要素)とソフト(運営方針および形成過程・居場所の効果)の両面から捉えることを目的とする。本研究の特徴は、物理的環境要素を、これまで行われてきた聞こえないことによる障壁を解消する視点ではなく、ろう者のコミュニケーション手段や知覚、行動様式、すなわちろう文化に着目したDSDの視点で捉え、利用者の環境評価を通してまちなかの空間計画に援用することである。このことを通じて、ろう者の社会参加を促進し、共生社会を実現しうる地域づくりに資することを目指す。 図1.1-1 ろう者がつなぐまちなかの居場所の多様化 図1.1-2 ろう者がつなぐ居場所を提供するアソシエーションの動向 1.3 研究対象-居場所を提供するアソシェーション-  書籍や新聞、ウェブサイトを用いて、ろう者の生活支援・情報交換を目的とした場や、ろう者同土、或いはろう者と聴者を対象とした交流の場(以下、まちなかの居場所)を提供するアソシエーションを抽出した(図1.3-1)。この図から、2000年前後から多様な組織が生まれており、ろう者と聴者の交流を目的とした場も増えていることがわかる。またアソシエーションによっては、ろう者と聴者と共同で運営を行なっているケースもある。  アソシエーションが提供する居場所には、建物の形態を常設と非常設に分けることができる。非常設とは、コワーキングスペースなど場所を一時的に借りることを示す。居場所が常設かまたは非常設かによって空間の建築的整備の制約があり、これがまちなかの居場所のDSDに影響を及ぼす可能性があると推察し、これらを研究対象軸とした(図1.3-2)。  また常設にも新築・改修、建物の所有・賃貸があり、これが整備手段(建築、設備、什器・備品)に影響があると推察する。建築及び設備は設計・施工の段階でDSDを取り入れやすいが、一度完成した後に改修する場合は、資金面や構造的に困難である。一方で、什器・備品は改修時にも取り入れやすいと考える。  本研究ではこれらの新たなろう者がつなぐまちなかの居場所のうち、ろう者が中心となって居場所を運営しているアソシエーションに着目した。この中から、協力が得られた神戸長田ふくろうの杜(非営利-常設-新築)(以下、ふくろうの杜とする)、就労支授継続B型手楽来家(非営利-常設-改修)(以下、手楽来家とする)、Social Cafe Sign with Me 春日店(非営利-常設-改修)(以下 SWMとする)、任意組織ろうちょ~会(任意組織-非常設)(以下、ろうちょ~会とする)を研究の対象とした(表1.3-1)。 図1.3-1 ろう者がつなぐ居場所を提供するアソシエーションの2000年前後の動向 図1.3-2 建築的整備の制約 表1.3-1 本研究の対象 表1.3-2 研究対象の概要 1.4 調査方法 - DeafSpace Design Guideline -  本研究では、運営者へのヒアリング、物理的状況の描きとり、利用者・スタッフへのアンケートの3つの調査を行った。運営者へのヒアリング調査では、建築・整備の経緯や制約・促進を整理し、運営方針及び形成過程を明らかにした。  物理的状況の描きとりでは、DSDのガイドラインを基に作成した整備項目(表1.4-2)を使用して、空間のDSDの整備の有無や物理的環境要素且つ、整備手段(建築、設備、什器・備品)を整理した。その結果を基に、利用者・スタッフへのアンケート調査の質問項目を作成した。整備済の項目は満足度、未整備の項目は必要度を問い、居場所に求められるDSDを明らかにした。  また、アンケート調査では、居場所の効果に関する質問項目も作成し、利用者・スタッフそれぞれどのような効果があるのかを明らかにした。  基準となるDSDのガイドラインは、Space&Proximity、Sensory Reach、Mobility & Proximity、Light &Color、Acoustics and EMIの5つのコンセプトと19項目のサブカテゴリーによって構成されている(表1.4-1)。このガイドラインは、Gallaudet Universityのキャンパス、すなわち教育施設を対象としているため、本研究ではまちなかの居場所に合わせてサブカテゴリーを21項目に再構成した(表1.4-2)。Sensory Reach - Vibrationの項目は、1項目に2つの異なる視点の項目があることから2.5 Vibration - Utilizationと2.6 Vibration - Controlに分けた。またCommunication Systemsの項目は、Communication Systems とEmergency Visual Annunciation Systemに分けた。本研究におけるCommunication Systems は、緊急時の視覚的な情報を提供するためのツールではなく、ろう者同士あるいはろう者と聴者がコミュニケーションを取るためのツールを指している。よって、本研究では、サブカテゴリーを21項目に再構成した整備項目を使用する。 図1.4-1 本研究の流れ 表1.4-1 DeafSpace Designのガイドラインの整備項目(オリジナル版) 表1.4-2 DeafSpace Designのガイドラインの整備項目(再構成版) 1.5 本論文で使用する言葉の定義 ろう者 “Deaf(ろう)”は、言語的少数者を示す時に用いられる。言語的少数者とは、ろう社会を構成し、ろう文化を共有し、自分自身をろう者(Deaf people)であると認識する人々のことをいう[5]。そのため、本研究ではアンケート調査の際に、アイデンティティに関する項目(ろう者、難聴者、聴者、わからない・考えたことがない、その他)を作成し、回答者自身にアイデンティティを選択してもらう方法を採用した。 Deaf Community 共通の言語、共通の体験と価値観を持ち、ろう者同士あるいは聴者と相互交流する際に共通の方法をもつ、ろうあるいは難聴の個人より成り立つ[6] ろう者がつなぐまちなかの居場所 ろう者が主体となって運営される場(ろうの生活支援・情報交換、ろう同士、あるいはろう者と聴者の交流等が行われている) アソシエーション 特殊関心により統合した人為的組織[7] 1.6 本論文の構成  本論文は、序論1章、本論2~4章、結論5章で構成されている(図1.6-1)。本論では、2章で事例1、3章で事例2と3、4章で事例4を扱う。 図1.6-1 本論文の構成 第2章 事例1(非営利-常設-新築) 第2章 事例1(非営利-常設-新築) 2.1 神戸長田ふくろうの杜 2.1.1 運営方針及び形成過程 (1)組織 2021年10月15日時点 運営主体:社会福祉法人ひょうご聴覚障害者福祉事業協会 運営形態:多機能型事業所(就労継続支援B型事業、地域密着型通所介護、地域拠点型一般介護予防、生活介護、放課後等ディーサービス、相談支援事業所) 住所:兵庫県神戸市長田区神楽町5丁目3-14-1 設立きっかけ:公益社団法人兵庫聴覚障害者協会が実施した実態調査から聴覚障害者の貧困と孤立が明らかになり、「コミュニケーションが保障され、災害や病気などいざという時に頼りになる身近な施設」のニーズが高まった。 設立目的:一人ひとりの人生を学び、尊び、聴覚障害者、地域の皆様と共に「よりどころ」となる施設を目指す 表2.1-1 研究対象 図2.1-1 ふくろうの杜外観 図2.1-2 ふくろうの杜1階カフェ内観 (2)施設  2000年から神戸ろうあ協会による「共同作業所神戸ろうあハウス」による事業が進められたが、作業環境が悪く、非常口がない状態であった。また公益社団法人兵庫県聴覚障害者協会が2013年4月1日~2014年3月31日に18歳~99歳の888人を対象に行った「阪神淡路大震災から18年を迎えた兵庫県における聴覚障害者の実態と生活ニーズ調査」から、聴覚障害者の実態が明らかになった[8]。調査の結果、特に貧困や社会的孤立が明らかになった。これらの結果を踏まえて、多機能型事業所の建設が決定した。  共同作業所神戸ろうあハウスから近い長田地区に土地を購入した。隣に神戸市の土地があったが購入の許可が下りなかった経緯がある。また神戸市長田地域に新しく建物を建設するには、細田神楽まちづくり協議会への届出および承認が必要になるが、建設には反対の傾向があった。長田地区は特に阪神淡路大震災の被災が最も大きい地区であったことから、障害者施設の建設により災害弱者が増える恐れがあることが反対の主な要因であった。しかし、設立後はまちづくり協議会のメンバーの元消防士に避難訓練の指導や点検を依頼したり、防犯パトロールや川の掃除、近隣にある神戸市借上市営住宅(入居者の80%が高齢者)の弁当配達などを通して地域住民との交流を深めることで、理解を促進している。また震災や災害時には、地域住民の避難所になるよう耐震計画にも力を入れていることがわかった。  このことから、ろう者・難聴者の利用者だけでなく地域住民との関わりを重視した空間計画およびプログラムに取り組んでいることが明らかになった。 表2.1-2 ふくろうの杜設立の経緯と制約・促進 表2.1-3 ふくろうの杜建設詳細 2.1.2 事例1 ふくろうの杜の物理的環境要素 1F 食堂(就労継続支援B型)  ヒアリング調査や現地調査からふくろうの杜1F(食堂)の物理的環境要素の中で、ろう者が利用する上で補完したもの(表2.1-4)を図2.1-3にまとめた。この要素をDSDのガイドラインのサブカテゴリー21項目に当てはめ、整理した(表2.1-5)。ふくろうの杜1FにおけるDSDは18項目あり、そのうち整備済の項目は12項目であった。ふくろうの杜ではアンケート調査を実施することができなかったため、利用者やスタッフ、食堂の利用客がこのDSDをどのように感じているかは不明である。 表2.1-4 ふくろうの杜1Fの物理的環境要素 図2.1-3 ふくろうの杜1F 使われ方分析 表2.1-5 ふくろうの杜1FにおけるDeafSpace Designの整備項目 4F 放課後ディサービス  ヒアリング調査や現地調査からふくろうの杜4F(放課後等ディサービス)の物理的環境要素の中で、ろう者が利用する上で補完したもの(表2.1-6)を図2.1-4にまとめた。この要素をDSDのガイドラインのサブカテゴリー21項目に当てはめ、整理した(表2.1-7)。ふくろうの杜4FにおけるDSDは17項目あり、そのうち整備済の項目は13項目であった。ふくろうの杜ではアンケート調査を実施することができなかったため、スタッフがこのDSDをどのように感じているかは不明である。 表2.1-6 ふくろうの杜4Fの物理的環境要素 図2.1-4 ふくろうの杜4F 使われ方分析 表2.1-7 ふくろうの杜4FにおけるDeafSpace Designの整備項目 2.1.3 小括  ふくろうの杜は、本論文ではヒアリング調査及び使われ方分析から得られた知見を基に分析を行った。DSDのガイドラインでは1Fでは18項目中12項目、4Fでは17項目中13項目が整備済であった。DSDの5つのコンセプトのうち1Fと4Fの両方で、1Space & Proximity、3Mobility & Proximity、4Light & Colorの項目が全て整備済であった。しかし、2Sensory Reach の項目は、反射や振動に関する項目のみ未整備であった。反射と振動は、ろう者特有の知覚を生かしたDSDである。  ふくろうの杜におけるDSDの整備率が高い要因として、障害者施設の設計経験が豊富な設計士に依頼したこと、ろう者の理事を含む淡路ふくろうの郷に詳しいスタッフとの綿密な打ち合わせが行われたことであると推察する。ヒアリング調査では、この打ち合わせで設計士がデザインについていくつかの選択肢を提案し、理事やスタッフが選択するプロセスがあったことが明らかになった。淡路ふくろうの郷では、開き戸で衝突が起こっていることから引き戸を選択したというエピソードがある。これまでの経験が選択に影響を与えていることがわかる。またこの引き戸は、他の研究対象にはみられない特徴がみられた。透過性が非常に高いためドアの向かいに人がいるか容易に把握することができることや、2~4階のトイレ、更衣室のドアにある窓は、プライバシーを守りつつ、窓から照明の点灯を確認することで、中に人がいるかどうか判断することができる(図2.1-5)。  このようなプロセスによって建てられた新築の建物は、仕切りのない空間やフラッシュライトの導入がしやすいなどのメリットがあると考える。仕切りのない空間によって、見渡しやすさの向上や4F放課後ディーサービスで机を円形に配置することが可能であると推察する(図2.1-6)。円形に配置する方法は、お互いの顔や手話を見やすくするためにろう学校で積極的に行われている方法である。  さらにふくろうの杜では、土地を購入する際、まちづくり協議会による反対や神戸市の土地を購入できないといった制約があった。周辺に障害者施設が多いことが原因である。ろう者の理事へのヒアリング調査から、建物やプログラムは地域住民とのつながりを生み出すことに重点を置いていることが明らかになった。そのため、ろう者に特化した建物ではなく、地域住民にも利用してもらうことを前提に建設したことがDSDの2 Sensory Reach の整備済の項目が少ない原因であると推察する。しかしながら、使われ方分析の視点からふくろうの杜のDSDはろう者のみに関わらず聴者にも使いやすいと考えるが、有効性を明らかにするために、今後利用者の環境評価が行う必要がある。 図2.1-5 ふくろうの杜ドアの種類 図2.1-6 机の配置 第3章 事例2・3(非営利-常設-改修) 第3章 事例2・3(非営利-常設-改修) 3.1 就労継続支援B型手楽来家 3.1.1 運営方針及び形成過程 (1)組織 2021年10月11日時点 運営主体:NPO法人にいまーる 運営形態:就労継続支援B型事業所 住所:新潟市江南区東船場3丁目1番28号 設立きっかけ:新潟市地域活動支援センターセンターⅢ型の事業開始し、聴覚障害を抱えた方々たちの生活面・就労面からの支援として、就労継続支援B型「手楽来家」に移行 設立目的:聴覚障害を持つ人の就労支援や生活支援、社会参加の支援、居場所づくりなどを行う 1日の利用者数:20名(登録者数23名) 利用者層:20代~80代 利用客の割合:ろう者90%、難聴者10% 運営スタッフ:13名(内訳:ろう者2名/聴者4名、聴者パート・アルバイト7名) *手話サロン、大学の手話サークルでの繋がりを通してスタッフになる人もいる *グループホームかめこや8名(内訳:ろう者1名/ 聴者7名) *手話サロンひるかめは職員としての雇用はない 表3.1-1 研究対象 図3.1-1 手楽来家相関図 図3.1-2 手楽来家外観 (2)施設  手楽来家は当初、新潟駅付近に就労継続支援B型の作業所のための建物を借りており、そこからポスティング等の事業を行なっていた。その実績により、クロネコヤマトの亀田センターからダイレクトメールの委託があり、作業を行いやすいよう亀田駅付近の一軒家を借りた。その際、時々中華料理を食べに来ていた。その中華料理店には、外の様子が見やすいような大きな窓ガラスがあること、亀田駅やバス停、タクシー乗り場、コンビニストア、福祉施設、情報提供センターに近いことからこの建物に興味を持っていた。その後、貸し出しになったため交渉した結果、1階テナントだけでなく、建物のオーナーが運営していた2階不動産も合わせて利用可能になった経緯がある。  また2021年には、手楽来家の建物の隣に新築の建物を建てることになった。設計士との話し合いの場では、手楽来家の理事も同席する機会があり、パトライトの導入やろう者が作業中に会話がしやすいよう、特注の作業机を造作するなど運営側の意見も取り入れられている。このことから、オーナーのろう者特有の行動様式やろう文化への理解が、ろう者のための建築的な工夫の実現を可能にし ており、これが手楽来家の活動を促していることが明らかになった。  さらに、手楽来家ではろうスタッフや利用者が手話サロンや大学の手話サークルで講師として、聴者に手話を教える取り組みもある(図3.1-1)。ここで手話を学んだ聴者が手楽来家やかめこやのスタッフ、パート・学生アルバイトとして働く機会もあり、手話の向上やろう文化への理解を深めるきっかけになっている。また聴者とコミュニケーションが取れず抵抗を持っていた利用者も、手話でコミュニケーションが取れるようになったことから、聴者に対する抵抗がなくなったエピソードもある。 3.1.2 事例2 手楽来家の物理的環境要素  ろう者の理事とスタッフへのヒアリング調査や現地調査から、手楽来家の物理的環境要素の中で、ろう者が利用する上で補完したもの(表3.1-4)を図3.1-3にまとめた。この要素をDSDのガイドラインのサブカテゴリー21項目に当てはめ、整理した(表3.1-5)。手楽来家におけるDSDは18項目あり、そのうち整備済の項目は12項目であった。意図的ではないが整備済の項目は5項目であった。スタッフや利用客がこのDSDをどのように感じているかを3.1.3のアンケート調査で明らかにした。 表3.1-4 手楽来家の物理的環境要素 図3.1-3 手楽来家 使われ方分析 表3.1-5 手楽来家におけるDeafSpace Designの整備項目 3.1.3 利用者・スタッフによる環境評価  手楽来家の空間・設備に関する利用者及びスタッフへのアンケート調査は、2021年12月1日に実施した。回答者は、アンケート協力を承諾した手楽来家の利用者7名(登録者23名)とスタッフ8名である。スタッフは勤務中または勤務がない人がいたため、後日回答してもらうよう依頼した。よって回答日にばらつきがある。  回答方法は利用者とスタッフによって異なる。利用者の中には日本語での回答が困難な人がいるため、字幕入りの手話動画と直接手話で補足しながら質問を行い、回答を代筆した(図3.1-4)。利用者の中には、新潟地域の手話を使う人もいるため、手楽来家のろう者の理事にもサポートを依頼した。またスタッフにはグーグルフォームのWEB回答を依頼した。 図3.1-4 アンケート調査の様子 表3.1-6 手楽来家アンケート記入項目 1) 属性 1-1) 利用者  利用者はろう者または難聴者のみである(図3.1-5)。手楽来家のろう者の理事へのヒアリング調査では、利用者はろう者または難聴者、中途失聴者を含む聴覚障害者のみを受け入れており、その他の障害者は受け入れていないことがわかった。聴覚障害者のみの受け入れを行なっている主な理由は、コミュニケーションである。手話または筆談でコミュニケーションを取ることができる環境を重 視していることがわかった。  また2階の生活支援では、手話を覚えたい利用者が勉強することができるプログラムも用意されている。手話の勉強のために、手話サロンに通っていた難聴者・中途失聴者が手楽来家に通い始めたケースもある。反対に、読み書きを勉強するプログラムもあり、日本語が苦手なろう者が勉強することができる環境もある。  利用者の年齢層は20代~70代以上と広い(図3.1-6)。70代以上の回答者が7名中3名であった。手楽来家では利用者本人が一般企業への就職を希望する場合のサポートも行なっていることから、65歳以下の利用者の入れ替わりがあるため、65歳以下の利用者数に影響していると推察する。  利用頻度では回答者全員が週に5回通っていることがわかった(図3.1-7)。  利用目的では回答にばらつきがあったが、他の利用者との交流については全員が回答していた(図3.1-8)。次に多い回答は、スタッフとの交流であり、7名中6名であった。  その他のコメントでは、「定年後、家にずっといるのではなく家から出て交流がしたかった/ろう者と会うことで少しずつ手話を学んでいる/仕事を辞めて親の介護をしているときに友人から勧めてもらった。その時はちょうど手楽来家ができる時だった」などの回答が得られた。  このことから、利用者は他のろう者・難聴者との交流、手話でコミュニケーションができる場を求めている人が多いのではないかと考える。  手楽来家までの移動手段として徒歩を選択した回答者はいなかった(図3.1-9)。移動手段は、電車、車、バス、送迎車であった。また所要時間は全員が60分以下であることから主に亀田市や新潟市付近から通っていることがわかった。またヒアリング調査では、利用者の中にはこれまで電車で通っていたが、新型コロナウイルス感染症流行後、家族による送迎がきっかけで足腰が弱まり歩くことが難しくなった人もいることがわかった。そのような利用者は2階に上がることが難しく、昇降リフトの取り付けなどが課題となっている。高齢の利用者の場合は、手楽来家に電車やバスで毎日通うことが健康を維持することにも繋がることが明らかになった。  スタッフのアイデンティティは、聴者が8名中6名(図3.1-10)であったが、回答者全員が手話で意思表示または読み取りができることがわかった。またスタッフの年齢は20代が8名中5名であった(図3.1-11)。  働き始めたきっかけ(図3.1-12)では、8名中6名が「聴覚障害者(ろう者・難聴者)と手話や筆談でコミュニケーションをとりたかった」を選択した。また、8名中5名が「聴覚障害者(ろう者・難聴者)と関わりたかった」を選択した。このことから、手楽来家の相関図(図3.1-1)で示したように、手話サロンや大学の手話サークルとの関わりが、手楽来家の手話でコミュニケーションができる環境作りに大きな影響を与えていることが明らかになった。  またヒアリング調査では、スタッフに聴者が多いことから利用者が音に関するマナーを知るきっかけになっていることがわかった。福島は「視覚的に騒音の有無が理解できるテレビ、音楽、目覚ましなどは聴覚障害者自身がコントロールすることが可能であるが、聴覚的に騒音の有無を確認する項目に関してはコントロールが難しいことがわかる。」と指摘した[9]。ドアの開閉などは日頃から気をつけている利用者もいるが、配膳の棚を下ろすときに音が出るなどは聞こえないろう者にとって予想できず、聴者スタッフも驚くほど大きな音が出ることがある。これに対してろう者の理事は「聴者の文化が全て正しいとは限らないが(聴者の)マナーやろう文化との折り合いがつけることができるよう教えている」と述べており、大きな音が出る場合は利用者に伝えるようにしている。このように、音に関する聴者の意見を知ることは、生活の中での騒音トラブルを防ぐことに繋がると推察する。 図3.1-5 アイデンティティ(n=7) 図3.1-6 年齢(n=7) 図3.1-7 利用頻度(n=7) 図3.1-8 利用目的(n=7) 図3.1-9 移動手段と所要時間(n=7) 図3.1-10 アイデンティティ(n=8) 図3.1-11 年齢(n=8) 図3.1-12 働き始めたきっかけ(n=8) 図3.1-13 移動手段と所要時間(n=8) 2) 手楽来家の空間・設備についての満足度 1-a. 仕切りのない空間(見渡しやすさ)/ DSD1.1  手楽来家には1階の作業スペースと2階の生活支援に分けることができる。2階のキッチンのある部屋では主に食事を取るスペースとして使用されている。また隣接する個室は相談室や他プログラムなどで使用されている。  図3.1-14では、「仕切りのない空間の見渡しやすさ」についての満足度に対する評価の結果である。満足・やや満足は利用者が7名中6名、スタッフが8名中7名であった。一方で、やや不満は利用者とスタッフともに1名であった。利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-15)では、ろう者と聴者のグループに各1名ずつやや不満があった。  次に、「仕切りのない空間(見渡しやすさ)」に対して記述されたコメント(合計8名)を課題と評価に分けた(表3.1-7, 8)。キーワードは、見渡しにくさ/見渡しやすさ・安全さに分けることができた。 課題コメントのキーワードと満足度に着目すると、満足度がやや不満のコメントがみられ、作業所の中心にある柱 (図3.1-16)が見渡しにくさに影響を与えていることがわかった。やや不満の回答者2名の一番快適な意思表示手段が手話であることから、仕切りのない空間でも柱などの障害物がある場合、満足度が下がる要因となることが考えられる。一方、評価コメントでは満足のコメントのアイデンティティはどちらも聴者であった。また、新築ができたことで1階作業所の空間の滞在者の密度が下がり、以前よりも見渡しやすくなったことがわかった。しかし、2階の食事スペース(図3.1-17)は昼食時に人が集まるため、密度が上がり見渡しにくさにつながっていることがわかった。  このことから、仕切りのない空間での見渡しやすさは物理的な環境要素だけではなく、密度も関係していることが考えられる。 図3.1-14 1-a.仕切りのない空間(見渡しやすさ) 図3.1-15 1-a.アイデンティティ別の評価 表3.1-7 1-a.課題・評価コメント 表3.1-8 1-a.課題・評価コメントまとめ 図3.1-16 1階作業所 図3.1-17 2階食事スペース 1-b. 仕切りのない空間(集中しやすさ)/ DSD1.1  図3.1-18では、「利用者の仕切りのない空間での集中のしやすさ」についての満足度に対する評価の結果である。ここでは、主に1階の作業所を示している。作業の集中のしやすさに関する項目であるため、利用者のみの回答であった。この図から、利用者全員が満足・やや満足であることがわかった。  次に、「仕切りのない空間(集中しやすさ)」に対して記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分けた(表3.1-9, 10)。キーワードは、集中の妨げになる/集中のしやすさに分けることができた。コメントの内容から、「仕切りのない空間」では他の人が話している様子が見えるため、気になってしまうことや、新築ができたことで空間の滞在者の密度が下がり、使いやすくなったことがわかった。このことから、「1-a.仕切りのない空間(見渡しやすさ)」と同様に、物理的な環境要素だけでなく、密度も作業の集中しやすさに繋がっていることが考えられる。しかし、不満の回答がないことから、深刻な問題はないと考える。 図3.1-18 1-b. 仕切りのない空間(集中しやすさ) 図3.1-19 1-b. アイデンティティ別の評価 表3.1-9 1-b. 課題・評価コメント 表3.1-10 1-b. 課題・評価コメントまとめ 2. テーブルや椅子の配置の自由度 / DSD1.3  図3.1-20では、「テーブルや椅子の配置の自由度」についての満足度に対する評価の結果である。 利用者は7名中4名が満足・やや満足と回答し、3名がどちらでもないと回答した。一方でスタッフは、8名中5名が満足・やや満足であるが、2名がどちらでもない、1名がやや不満であった。利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-21)では、聴者のグループに1名やや不満がみられた。  次に、「テーブルや椅子の配置の自由度」に対して記述されたコメント(合計5名)を課題と評価に分けた(表3.1-11, 12)。キーワードは、感染症対策による見ずらさ/手話が見やすい/評価なしに分けることができた。課題コメントから2階の食事スペースでは、向かい合って座ることができるが飛沫防止アクリル板の反射により、手話が見えづらくなったことがわかった。また、座る位置も決まっていることから、感染症対策が「テーブルや椅子の自由度」に制限をかけており、見えづらさに影響を与えていることが明らかになった。またスタッフのコメントから、1階の作業所ではアクリル板はないが、配置の自由度が作業中の会話を促し、作業ペースが下がるという意見もあった。 図3.1-20 2. テーブルや椅子の配置の自由度 図3.1-21 2. アイデンティティ別の評価 表3.1-11 2. 課題・評価コメント 表3.1-12 2. 課題・評価コメントまとめ 3. 適度に見ることができる窓やドア / DSD2.2, 2.3  図3.1-22では、「適度に見ることができる窓やドア」についての満足度に対する評価の結果を示している。利用者は7名中5名が満足・やや満足であり、どちらでもないまたはやや不満がそれぞれ1名ずであった。一方で、スタッフは8名中5名が満足・やや満足と回答し、1名がどちらでもない、2名が不満・やや不満であった。利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-23)では、不満・やや不満の回答が聴者のグループに2名、ろう者のグループに1名みられた。  次に、「適度に見ることができる窓やドア」に対して記述されたコメントの数は利用者・スタッフ合計15名中10名であった。過半数の人が回答したことから、この項目に関する関心が高いと考える。これらのコメントを課題と評価に分け、キーワード別にまとめた(表3.1-13, 14)。キーワードは、見えにくさ・ガラスのないドアがある/ドアの適度な透過性/外の様子が見える窓である。  課題コメントをキーワードと満足度に着目すると、2階のドアはガラスが入っているが1階のドアはガラスが入っていない且つ開き戸であるため、衝突の可能性があることや、人がいるかはわかるが入って良いかわかりにくいことから不満と感じている人がいることがわかった。また2階のガラスのドアにも種類があり、透過性も異なることが図3.1-24からわかる。このことから、ドアに入っている ガラスの透過性の質を高めることで、より満足度が上がる可能性が考えられる。  また評価コメントのキーワードと満足度から、ドアに適度な透過性のあるガラスがあることによって、ドアの向かい側に人がいることがわかることや、窓から外の様子がわかることが評価に繋がっていることがわかった。 図3.1-22 3. 適度に見ることができる窓やドア 図3.1-23 3. アイデンティティ別の評価 表3.1-13 3. 課題・評価コメント 表3.1-14 3. 課題・評価コメントまとめ 図3.1-24 3. ドアのガラスの種類 4. 階段の壁に設置されたミラー / DSD2.4  「階段の壁に設置されたミラー」は、狭い階段での衝突を防ぐ目的で設置された(図3.1-27)。 図3.1-25は、このミラーについての満足度に対する評価の結果を示している。満足・やや満足は、利用者が7名中5名、スタッフが8名中6名であった。どちらでもないの回答は、利用者とスタッフともに2名であった。利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-26)では、ろう者と聴者のグループに各2名どちらでもないの回答がみられた。  次に、「階段の壁に設置されたミラー」に対して記述されたコメントの数は利用者・スタッフ合計15名中11名であり、過半数を超えていることから、この項目に関する関心が高いと考える(表3.1-16)。これらのコメントを課題と評価にわけた。キーワード別に分けると、小さい/衝突を防ぐことができる/気がつかなかった・活用なしであった(表3.1-15)。  課題コメントをキーワードと満足度に着目してみると、ミラーが小さいとコメントした人は、「やや満足」の結果になっていることがわかる。このことからミラーに関して深刻な問題はみられないが、ミラーを大きくすることによって「気がつかなかった」と回答した人が活用する可能性も考えられる。  一方で、評価コメントでは、実際に衝突を防げていることがわかった。またろう者の利用者のみでなく、聴者スタッフも活用している人がいることがわかった。 図3.1-25 4. 階段の壁に設置されたミラー 図3.1-26 4. アイデンティティ別の評価 表3.1-15 4. 課題・評価コメント 表3.1-16 4. 課題・評価コメントまとめ 図3.1-27 4. 階段とミラー 5. ろう文化の情報を得ることができる掲示板/DSD2.7  図3.1-28では、「ろう文化の情報を得ることができる掲示板」についての満足度に対する評価の結果である。満足・やや満足は利用者が7名中5名、スタッフが8名中6名であった。どちらでもないの回答は利用者のみ2名、不満・やや不満はスタッフのみ2名あった。利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-29)では、ろう者のグループで6名中1名がやや不満と回答し た。また聴者のグループにも1名不満と回答した人がいることがわかった。  次に、「ろう文化の情報を得ることができる掲示板」に対して記述されたコメントの数は利用者・スタッフ合計で15名中10名であり、過半数を超えていることから、この項目に関する関心が高いと考える。これらのコメントを課題と評価に分け、キーワード別にまとめた(表3.1-17, 18)。キーワードは、見えにくさ・手話のコンテンツがない/情報を得ることができる/評価なしに分けることができた。  課題コメントのキーワードと満足度に着目すると、不満・やや不満と回答した人はコンテンツが少ないことを指摘していることがわかった。特に利用者の中には日本語が難しい人も多い。手話の動画コンテンツがあれば見ると回答した人もいたことから、日本語のみのコンテンツが不満の要因であると考えられる。また、「見えづらい位置にある / 見やすくなる工夫はできると思う」というコメントから、利用者7名中4名が60代以上あるため、文字を大きくすることも見やすさにつながる可能性があると考える。評価コメントでは聴者のスタッフのコメントから、ろう者・難聴者の利用者だけでなく、聴者のスタッフにとってもろう文化やろう関連の情報を得ることができる重要な情報源であることがわかった。 図3.1-28 5. ろう文化の情報を得ることができる掲示板 図3.1-29 5. アイデンティティ別の評価 表3.1-17 5. 課題・評価コメント 表3.1-18 5. 課題・評価コメントまとめ 図3.1-30 5. 2階食事スペースにある掲示板 6. コミュニケーションを取ることができるホワイトボード / DSD2.8  図3.1-31では、「コミュニケーションを取ることができるホワイトボード」についての満足度に対する評価の結果である。満足・やや満足は利用者が7名中4名、スタッフが8名中6名であった。どちらでもないの回答は利用者のみ3名、やや不満はスタッフのみ2名あった。利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-32)では、やや不満と回答した人は聴者のグループ6名中2名であった。  次に、「コミュニケーションを取ることができるホワイトボード」に対して記述されたコメントの数は利用者・スタッフ合計で15名中13名であった。手楽来家のDSDの項目の中でももっとも回答数が多かったことから、もっとも関心が高い項目であると考える。これらのコメントを課題と評価に分け、キーワード別にまとめた(表3.1-19, 20)。キーワードは、利用しにくさ/コミュニケーションの選択肢がある/使いやすさ/評価なしに分けることができた。  評価コメントから利用者は手話者が多く、ホワイトボードの活用が少ないことがわかった。しかし、手話初心者のスタッフと筆談でコミュニケーションが取れることが満足度が高い要因であることがわかった。  また課題コメントでは、1階の作業所にはコミュニケーションのための持ち運びができる小さいホワイトボードがないことや、設置場所がわかりにくいという指摘があった。ろう者の理事へのヒアリング調査では、1階作業所では大きいホワイトボードを業務報告として使用しているとのことであった。このことから、1階の作業所でも小さいホワイトボードを導入することによって、満足度が高まる可能性が考えられる。 図3.1-31 6. コミュニケーションを取ることができる 図3.1-32 6. アイデンティティ別の評価ホワイトボード 表3.1-19 6. 課題・評価コメント 表3.1-20 6. 課題・評価コメントまとめ 図3.1-33 6. ホワイトボードの種類 7. 火災報知器と連動したパトライト / DSD2.9  火災報知器と連動したパトライトは1階作業所と2階食事スペースに設置されている。図3.1-34ではこの「パトライト」についての満足度に対する評価の結果を示している。利用者は7名中5名が満足であるが、2名が不満・やや不満であった。一方で、スタッフは8名中6名が満足・やや満足、2名がどちらでもないであった。  次に、「火災報知器と連動したパトライト」に対して記述されたコメント(合計10名)を課題と評価に分けた(表3.1-21, 22)。キーワードは、気づきにくさ/視覚的に情報を得ることができる/評価なしに分けることができた。  評価コメントから視覚的に情報を得ることができることや、実際に避難訓練で見たことが満足の主な要因であると考える。一方、課題コメントでは、作業に集中していると気がつかない、または部屋によって光が届かないケースがあることがわかった。 図3.1-34 7. 火災報知器と連動したパトライト 図3.1-35 7. アイデンティティ別の評価 表3.1-21 7. 課題・評価コメント 表3.1-22 7. 課題・評価コメントまとめ 8. 衝突を防ぐことができる引き戸 / DSD3.1  図3.1-36では「衝突を防ぐことができる引き戸」についての満足度に対する評価の結果を示している。利用者は7名中4名が満足・やや満足であるが、1名がどちらでもない、2名がやや不満と回答した。一方、スタッフは8名中7名が満足・やや満足であり、1名のみやや不満であった。  次に、記述されたコメント(合計11名)を課題と評価に分けた(表3.1-23, 24)。キーワードと満足度に着目し各コメントをみると、課題コメントでは利用者全員がコメントをしていることがわかった。また全員が1階の開き戸について、衝突した経験があることを主張している。利用者はろう者または難聴者のみで、聴者スタッフよりも視覚での情報を重視していることが主な理由であると考える。 図3.1-36 8. 衝突を防ぐことができる引き戸 図3.1-37 8. アイデンティティ別の評価 表3.1-23 8. 課題・評価コメント 表3.1-24 8. 課題・評価コメントまとめ 9. 白い壁紙 / DSD4.1  図3.1-38では手話が見やすい「白い壁紙」についての満足度に対する評価の結果を示している。満足・やや満足は、利用者が7名中5名、スタッフが8名中5名であった。どちらでもないの回答は、利用者が2名、スタッフが3名であった。  利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-39)では、どちらでもないと回答した人は、ろう者のグループで6名中2名、聴者のグループで6名中3名であった。  「白い壁紙」に対して記述されたコメントは合計2名であった。内訳は、課題コメント1名、評価なしコメント1名である(表3.1-25, 26)。  コメントでは「背景が黒い方が手話は見やすいとされている / 意識したことがなかった」という意見がみられたが、「白い壁紙」について大きな問題はみられなかったことから、手話での会話に支障はなく、聴者にとっても問題はないと考える。 図3.1-38 9. 白い壁紙 図3.1-39 9. アイデンティティ別の評価 表3.1-25 9. 課題・評価コメント 表3.1-26 9. 課題・評価コメントまとめ 10. 室内の照明 / DSD4.2  図3.1-40では「室内の照明」についての満足度に対する評価の結果を示している。利用者全員が満足・やや満足と回答した。一方で、スタッフは8名中7名が満足、1名がどちらでもないであった。利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-41)では、どちらでもないと回答した人が1名、聴者のグループにいることがわかった。  「室内の照明」に対して記述されたコメントは合計2名であった。内訳は、評価コメント1名、評価なしコメント1名である(表3.1-27, 28)。コメントでは十分な明るさであるため、意識したことがなかったという意見がみられた。これらの結果から、手話で会話をするにあたって室内の照明は適切であり、聴者にとっても支障のない明るさであることが考えられる。 図3.1-40 10. 室内の照明 図3.1-41 10. アイデンティティ別の評価 表3.1-27 10. 課題・評価コメント 表3.1-28 10. 課題・評価コメントまとめ 11. 室内の自然光/ DSD4.3  図3.1-42では「室内の自然光」についての満足度に対する評価の結果を示している。利用者は7名中6名が満足・やや満足、1名がどちらでもないと回答した。一方で、スタッフは全員が満足であった。 利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-43)では、ろう者のグループにどちらでもないと回答した人が1名いることがわかった。  「室内の自然光」に対して記述されたコメントは合計7名であり、すべて評価コメントであった(表3.1-29, 30)。コメントでは、全員が自然光が眩しい時もあるがブラインドカーテンで調整できることを評価していることから、自然光を「調整」できることが好ましいことがわかった。 図3.1-42 11. 室内の自然光 図3.1-43 11. アイデンティティ別の評価 表3.1-29 11. 課題・評価コメント 表3.1-30 11. 課題・評価コメントまとめ 3) 手楽来家の空間・設備についての必要度 1). 振動しにくい壁や床(振動制御)/ DSD2.5  DSDのガイドラインによれば、制御されていない振動は混乱を引き起こす可能性があり、必要な振動を増幅するか、不要な振動を減少するか選択する必要があるとしている。そこで手楽来家における「振動しにくい壁や床」の必要度を調査した。  図3.1-44では、「振動しにくい壁や床」のための整備の必要度に対する評価の結果を示している。 利用者は7名中4名が不要、3名がどちらでもないと回答した。一方で、スタッフは8名中2名が不要・どちらかといえば不要、5名がどちらでもない、1名が必要と回答した。  「振動しにくい壁や床」について記述されたコメントは合計4名でいずれもスタッフの回答であった(表3.1-31, 32)。コメントから、聴者のスタッフがプログラムで太鼓を叩く際に、振動が気になっていることがわかったが、一方でろう者にとって振動は情報の1つであるため、不要であるという意見もみられた。手楽来家では1階が作業所、2階が食事スペースや太鼓などのプログラムを行う部屋になっていることから、建物全体で統一するのではなく部屋や場所に合わせて振動を抑制または活用することが重要であると考える。 図3.1-44 1). 振動しにくい壁や床(振動制御) 図3.1-45 1). アイデンティティ別の評価 表3.1-31 1). 不要・必要コメント 表3.1-32 1). 不要・必要コメントまとめ 2). 振動しやすい壁や床(振動活用) / DSD2.6  図3.1-46では、「1) 振動しにくい壁や床(振動制御)」とは反対に、振動の活用のための整備の必要度に対する評価の結果を示している。必要・どちらかといえば必要と回答した人は、利用者が7名中5名、スタッフが8名中4名であった。どちらでもないと回答した人は、利用者が7名中2名、スタッフが8名中4名であった。  「振動しやすい壁や床」について記述されたコメントは、合計4名であった(表3.1-33, 34)。いずれも必要コメントであり、不要コメントはみられなかった。コメントから、振動によって誰がいるか、または周囲の状況を把握することができることがわかった。このことから、ろう者にとって振動による情報は、聴者と比較してより重要であることがわかる。しかし、コメントからはどの部屋や場所に振動が必要であるかを把握することができなかった。振動の制御や活用については各部屋ごとにどのようなプログラムや作業が行われているか、またその影響を明らかにすることが重要であると考える。 図3.1-46 2). 振動しやすい壁や床(振動活用) 図3.1-47 2). アイデンティティ別の評価 表3.1-33 2). 不要・必要コメント 表3.1-34 2). 不要・必要コメントまとめ 3). 手話で会話をしながら登ることができる階段 / DSD3.2  DSDのガイドラインでは、階段は特に厄介な障壁であり、会話に気を取られるとつまづく危険があるため、緩やかなスロープが推奨されている。手楽来家では導入が難しいため、手話で会話をしながら登ることができるような、幅が広く緩やかな階段に対する整備の必要度について調査した。  図3.1-48では、利用者は7名中4名が必要、1名がどちらでもない、2名が不要・どちらかといえば不要であった。一方で、スタッフは8名中4名が必要・どちらかといえば必要としており、4名が不要・どちらかといえば不要と、意見が分かれた。  コメントでは、利用者に高齢者が多いため、手話をしながら会話をすることに危険を感じていることから、不要であると考える人が多いことがわかった。反対に、広く安全に登ることができる階段が必要であるという意見もあった。現在、階段を登ることができない利用者は2階を利用できない状況であることから、広く安全な階段だけでなくリフトやエレベーターの需要もあると考えられる。 図3.1-48 3). 手話で会話をしながら登ることができる階段 図3.1-49 3). アイデンティティ別の評価 表3.1-35 3). 不要・必要コメント 表3.1-36 3). 不要・必要コメントまとめ 4). ボタンを押さずに開く自動ドア/ DSD3.3  DSDのガイドラインでは、ドアを開閉する行為が手話での会話を中断させるため、ボタンを押さずに開く自動ドアがスムーズなアクセスを可能にするとしている。そのため、手楽来家における「ボタンを押さずに開く自動ドア」の必要度を調査した。  図3.1-50では、利用者は6名中5名が必要・どちらかといえば必要、1名がどちらでもないであった。 一方で、スタッフは8名中5名が不要・どちらかといえば不要と回答し、3名がどちらでもないと回答した。またアイデンティティ別にみると、ろう者のグループが5名中4名が必要としていた(図3.1-51)。  コメント(表3.1-37, 38)から「他の場所でも安全確認の習慣を身につけるため / 会話は再開することができる / 必要以上の開閉の恐れがある」ことから不要としている意見があることがわかった。  ろう者と聴者とでは、自動ドアに対する必要度が異なるが、必要としている人の具体的な理由がわからないため再検討が必要であると考える。 図3.1-50 4). ボタンを押さずに開く自動ドア 図3.1-51 4). アイデンティティ別の評価 表3.1-37 4). 不要・必要コメント 表3.1-38 4). 不要・必要コメントまとめ 5). 設備・機械音の制御 / DSD5.1  DSDのガイドラインでは、人工内耳や補聴器装用者の気を散らさないように、バックグラウンドノイズを最小限に抑えて音響的に静かにするべきであるとしている。また手楽来家では以前、機械の周りに防音カーテンを設置していたが、消防法違反の指摘により撤去された経緯があることから改めて、手楽来家における「設備・機械音の制御」の必要度を調査した。  図3.1-52は、「設備・機械音の制御」についての必要度に対する評価の結果を示している。利用者は7名中1名がどちらかといえば必要、5名がどちらでもない、1名が不要と回答した。一方で、スタッフは8名中6名が必要・どちらかといえば必要と回答し、2名がどちらでもないであった。利用者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.1-53)では、必要・どちらかといえば 必要の回答は、ろう者のグループが6名中1名、難聴者のグループが3名中2名、聴者のグループが6名中4名であった。  次に、「設備・機械音の制御」に対して記述されたコメントでは、8名中4名が評価なしであった。 その理由はいずれも聞こえないからであった。中には難聴者且つ補聴器の装用者もいる。  一方で、必要コメントは全員がスタッフであった。難聴者のスタッフのコメントには、1階の機械音が非常に気になり補聴器を切って作業しているという意見があった。聴者のスタッフのコメントからは、聴者自身が影響を受けている印象はみられなかった。  このことから、ろう者の利用者は補聴器を装用していないため設備・機械音の影響を受けていないが、難聴者は騒音を避けるために作業所内では補聴器を装用していない人がいることがわかった。 図3.1-52 5). 設備・機械音の制御 図3.1-53 5). アイデンティティ別の評価 表3.1-39 5). 不要・必要コメント 表3.1-40 5). 不要・必要コメントまとめ 6). 電磁気のための装置 / DSD5.2  DSDのガイドラインでは、電磁気による補聴器または人工内耳への影響を防ぐために、電磁気の制御のための装置に関する項目がある。そこで、手楽来家における「電磁気の制御のための装置」についての必要度を調査した。  図3.1-54では、利用者は7名中6名が不要としており、1名がどちらでもないと回答した。一方でスタッフは、8名中2名がどちらかといえば必要、6名がどちらでもないと回答した。また図3.1-55では、不要と回答した人は、ろう者のグループに6名中4名、難聴者のグループに3名中2名みられた。  電磁気の制御に対するコメント(表3.1-41, 42)は、スタッフのみの回答であった。コメントから、利用者のニーズに応じて対応する方向であることがわかった。またアンケートに回答した人の中で、補聴器を装用している人は15名中3名、そのうち2名が不要、1名がどちらでもないと回答したことから、現時点では「電磁気の制御のための装置」は不要であると考える。 図3.1-54 6). 電磁気の制御のための装置 図3.1-55 6). アイデンティティ別の評価 表3.1-41 6). 不要・必要コメント 表3.1-42 6). 不要・必要コメントまとめ 4) まとめ  手楽来家の物理的環境要素をDSDガイドラインのサブカテゴリー21項目に当てはめ整理した結果、18項目中12項目が整備済であった(表3.1-5)。利用客およびスタッフへのアンケート調査から整備済の項目の満足度と未整備の項目への必要度を明らかにした。表3.1-43に着目すると「適度に見るとができる窓やドア」と「衝突を防ぐことができる引き戸」が最も不満・やや不満と課題コメントが多い項目であった。1階のガラスのない開き戸やガラスによって透過性が異なることが、衝突の原因や相談室などプライバシーが重視される部屋への入りにくさにつながることが明らかになった。このことから、ドアの種類とガラスの透過性は、ろう者にとって重要な項目であることがわかった。一方で、「室内の自然光」が最も不満・やや不満が少なく、評価コメントが多い項目であった。ブラインドカーテンで調整できることが高い評価を得ていると考える。  未整備の6項目の必要度を調査した結果、「振動しやすい壁や床(振動活用)」が最も必要・どちらかといえば必要としている人が多いことがわかった。コメントから、振動によって誰がいるか、または周囲の状況を把握することができることがわかった。このことから、ろう者にとって振動による情報はより重要な項目であることが推察できる。 スタッフの回答では、全員が「聴覚障害(ろう・難聴等)への興味が高まった」に回答した(図3.1-57)。また、8名中7名が「手話への興味が高まった」に回答しており、「聴覚障害(ろう・難聴等)関連の項目と「気持ちのよりどころになった」が8名中5名であったことから、手話サロンや手話サークルの手話学習者を積極的に雇用した結果、手話の向上やろう文化の理解の促進の効果だけでなく、手話学習者の居場所にもなったことわかる。  利用者の回答では、7名中6名が「聴覚障害(ろう・難聴等)のある知人・友人ができた」であった(図3.1-58)。また、7名中4名が「手話への興味が高まった」「作業後も留まるようになった」、5名が「聴覚障害(ろう・難聴等)について情報交換や相談ができた」と回答したことから、これまでろう学校やろうあ連盟が提供していたろう者同士のつながりがみられた。一方で、「聴者への興味が高まった」「聴者の知人・友人ができた」の回答もあったことから、ろう者と聴者とのつながりもみられた。 図3.1-56 手楽来家 使われ方分析まとめ 表3.1-43 手楽来家の環境評価のまとめ 3.1.4 居場所の効果  ヒアリング調査では、利用者の家族から薬を拒むという相談を受け、利用者に確認したところ、家族との意思疎通が難しいことがわかった。そこで手話で薬に関する説明を行ったところ、飲むようになったというエピソードが得られた。このように、手楽来家では作業後に日常生活でのちょっとした悩みや相談が行われている。現在、日本各地で手話言語条例が施行されているが、日常生活に関するろう者の些細な悩みや相談を手話で行える場所はまだ少ない。しかし、このような悩みや相談は、ろう者・難聴者の生活や健康に大きな影響を及ぼす可能性が高い。手楽来家での取り組みは、単に仕事の支援を行うだけでなく、ろう者の生活に寄り添うことで、お互いの文化について理解を促進する効果を生み出している。このような居場所が、共生社会への指標になりえると考える。 図3.1-57 手楽来家での勤務をきっかけに変化したこと(n=8) 図3.1-58 手楽来家の利用をきっかけに変化したこと(n=7) 3.1.5 小括  手楽来家におけるDSDのガイドラインは、18項目中12項目が整備済であった(表3.1-5)。5つのコンセプトのうち、1 Space & Proximityと4 Light &Colorの項目では全て整備済であったが、2Sensory Reach、3 Mobility & Proximity、5 Acoustics and EMIの項目では未整備の項目があった。 2は振動に関する項目であり、3は階段と入り口に関する項目であった。特に階段については物理的な改修が困難であることから、賃貸の建物においては改善に限界があると考える。  手楽来家のDSDの整備率が高い要因として、ろう者の理事による当事者の視点での建物の選定が影響を与えていると考える。この建物にある1階の大きな窓とガラス入りの引き戸は改修当初からあり、ろう者の理事が選定した理由の1つでもある。また、1階の作業所とキッチンの壁を取り除いて見渡しやすいように改修し、作業所には手話が見やすいよう照明を増設したことから、ろう者の視点によるCultural Customizaitonがみられる。次に、オーナーによる理解の高さもDSDの整備率が高い要因であると推察する。これにより、火災報知器とフラッシュライトの連動の導入、契約による促進が実現してる。また2021年には隣の敷地に新築が建てられた。この建物も賃借であるが、設計の段階でろう者の理事やスタッフの意見を取り入れ、作業をしながら手話で話すことができるよう特注の作業台も造作された(図3.1-59)。  DSDに対する利用者の環境評価を行った結果、「適度に見るとができる窓やドア」と「衝突を防ぐことができる引き戸」が最も不満・やや不満と課題コメントが多い項目であった(表3.1-43)。1階のガラスのない開き戸やガラスによって透過性が異なることが、衝突の原因であることや相談室などプライバシーが重視される部屋への入りにくさにつながることが明らかになった。このことから、DSDの整備済項目があっても質に課題がみられる場合もあることが判明した。  居場所の効果では、手楽来家では手話サロンや手話サークルの学習者が働く機会がある。これにより、手話やろう文化への理解を促進し、ろう者への理解を促す効果がみられる。またこのことが、ろう者だけでなく聴者の居場所にもなっていることが明らかになった。さらに、手話ができる聴者のスタッフとの関わりを通して、ろう者と聴者とのつながりを生み出している。 図3.1-59 新築の特注作業台 3.2 Sign with Me 春日店 3.2.1 運営方針及び形成過程 (1)組織 2021年5月7日時点 運営主体:一般社団法人ありがとうの種 運営形態:飲食店 住所:東京都文京区本郷4-15-14 区民センター1F 設立きっかけ:ろう者を取り巻く就労実態の問題を解消するため 設立目的:当事者主導で当事者の雇用を創造し、ろう者が能力を発揮できる職域を作る 利用客の割合:ろう者5% 聴者95% 運営スタッフ:6名(内訳:ろう者5名/聴者1名) 10年継続しているアクターは2人 これまで本郷店・春日店合わせて40人のろう者を雇用しており、半数が学生アルバイト*春日店と本郷店の兼務あり 表3.2-1 研究対象 図3.2-1 春日店外観 図3.2-2 春日店内観 (22)施設  Sign with Me 春日店は本郷店の後に開業したため、本郷店での経験を踏まえた上で空間・設備の改装が行われた。改装にあたって法律・制度の面で制約がみられた。柳は、開業に必要な資金を調達する際、ろう者であることから銀行の融資を断られたと述べている[10]。1979年に廃止された準禁治産者法の影響や、社会のろう者への十分な認知がされていないことが原因であると推察する。SNS上では、ろう者がアパートやマンションの入居を断られるケースもみられることから、ろう者にとってこのような問題は日常的であり、深刻な問題である。  次に、店内の火災報知器とフラッシュライトを連動する許可を建物のオーナーに求めたが、建物内の機械から店内への接続が難しく断られた。災害時は、区民センターの職員が紙に書いて誘導する方法を提案されたが、ろう者が自ら行動できるための仕組みになっていない。東日本大震災では、岩手県、宮城県、福島県の3県の死亡率は1.03%だったが、聴覚障害者の死亡率は2.0%であった[11]。音声による緊急放送のみであったことが原因の1つとされている。このため、ろう者が自ら視覚的に情報を得る設備が重要であることがわかる。  日本では2014年に国連障害者権利条約の批准後、様々な検討会を経て、2016年に総務省消防庁による「光警報装置の設置に係るガイドライン」が策定された。しかし、米国や英国のように具体的な制度は実現していない[12]。現状ではオーナーの方針によって、フラッシュライトの取り付けが決まる。ろう者が自ら命を守るために、現消防法等の法整備の見直しが必要である。 表3.2-2 Sign with Me の設立の経緯と制約・促進 表3.2-3 春日店初期改装詳細 3.2.2 事例3 Sign with Me 春日店の物理的環境要素  ヒアリング調査や現地調査からSWMの物理的環境要素の中で、ろう者が利用する上で補完したもの(表3.2-4)を図3.2-3にまとめた。この要素をDSDのガイドラインのサブカテゴリー21項目に当てはめ、整理した(表3.2-5)。SWMにおけるDSDは17項目あり、そのうち整備済の項目は11項目であった。この表からろう者が働きやすいような環境作りを意識していることがわかる。実際に、スタッフや利用客がこのDSDをどのように感じているのかを3.2.3のアンケート調査で明らかにした。 表3.2-4 SWMの物理的環境要素概要 図3.2-3 Sign with Me 春日店 使われ方分析 表3.2-5 Sign with Me 春日店におけるDeafSpace Designの整備項目 3.2.3 利用客・スタッフによる環境評価  SWMの空間・設備に関する利用客およびスタッフへのアンケート調査は、2021年10月9日と16日の2日間にわたって実施した。  回答者はSWMに来店した利用客およびスタッフである。研究倫理の面を考慮し、20歳以上の利用客に直接回答を依頼し、39名が回答した。またスタッフは勤務中または勤務がない人がいたため、後日回答してもらうよう依頼した。そのため、回答日にばらつきがある。  アンケートの回答方法は、運営者の希望により、新型コロナウイルス感染症の対策のため用紙は使用せず、グーグルフォームによるWEB回答を採用した。店内での注文は、利用客のスマートフォンを利用したQRコードによるセルフオーダーであったため、同様の手順で回答できるよう工夫した。しかしながら、スマートフォンの操作に不慣れな利用客に回答を断られることが多かったため、利用客 の年齢層に影響があると考える。 表3.2-6 Sign with Me 春日店アンケート記入項目 1) 属性 1-1) 利用客  運営者へのヒアリング調査では利用客の95%が聴者であると回答したが、本調査を実施するにあたって、ろう者に参加を呼びかけたため、ろう者の来店が増加し、ろう者の回答率の高さに繋がったと考える(図3.2-4)。  またわからない・考えたことがないアイデンティティを持つ人のコミュニケーション方法や聴力、補聴器装用の有無を確認した。身体的には聴者であるが、自分自身が聞こえるというアイデンティティがあることを考えたことがない人もいれば、身体的には聞こえないまたは一番快適なコミュニケーション方法が手話であっても自身のアイデンティティがわからないというような人もいた。  利用客の年齢層は20代がもっとも多く、39名中24名であった(図3.2-5)。徒歩15分圈内にショッピング施設や娯楽施設があるため、若年層の利用が高いと考える。またアンケート調査は休日に実施したが、ヒアリング調査から平日は周辺オフィスの会社員の利用が多いことがわかった。  回答者合計39名中50代は3名、60代は1名であった。また70代の回答は得られなかった。その理由としてWEBアンケートであったことが考えられる。実際にスマートフォンの操作が苦手な利用客は、注文もカウンターで直接行っていた。そのような利用客にはアンケートの回答を断られた。  スープなどの飲食を目的として来店している人の26名中13名はリピーターであった。そのうち2名は、毎週来店していることがわかった(図3.2-6)。一方で「店員と手話でコミュニケーションをとりたい、他の手話者との交流、手話に興味があるから、その他:聴覚障害者のいとこの勧め/障害者福祉や雇用に関心があるため/「手話カフェ」というお店に対しての興味と飲食/ サイニングストアと知ってはいたが行ったことがなかったため一度行ってみたいと思っていたため今回初めて来店した」など、手話や障害者関連が目的である人のリピーターは8名中2名で、6名が初めての来店であった(図3.2-7)。運営者へのヒアリング調査から、新型コロナウイルス感染症流行前は、手話を使いたい・勉強したい利用客のニーズに合わせてスタッフによる手話の茶話会や、交流または手話を学ぶことができる場を提供する他団体に貸出を行うなどの取り組みが行われていたことがわかった。このことから、感染症の流行前はろう者だけでなく、手話学習者のリピーターが多かったと推察する。  お店までの移動手段は電車がもっとも多い(図3.2-8)。徒歩5分圈内に都営地下鉄春日駅(三田線・大江戸線)と東京メトロ後楽園駅(丸ノ内線)があり、電車でアクセスしやすいことや、お店専用の駐車場がないことが影響していると考える。また利用客37名中23名は、お店までの所要時間に30分以上かかっている。また初めて来店する利用客21名(所要時間無回答2名を除く)全員、所要時間が30分以上であった。 図3.2-4 アイデンティティ(n=39) 図3.2-5 年齢(n=39) 図3.2-6 利用頻度(n=39) 図3.2-7 利用目的(n=39) 図3.2-8 移動手段と所要時間(n=37) 1-2) スタッフ アンケート調査実施時のスタッフの人数は6名であった(図3.2-9)。そのうち4名が回答した。  アイデンティティ別にみると、ろう者が3名、その他:聴覚障害者が1名であった(図3.2-10)。柳は「日本手話を覚えればビジネスチャンスになるというアプローチも作りたかった。これまでの日本手話を覚えるきっかけといえば、福祉的アプローチからが大半だ。」「手話も一つの言語としてきちんと認知されるためにはそういう取り組みが必要だと思ったのだ」と述べている[10]。このことか ら、手話でコミュニケーションを取る人(以下、手話者とする)であれば、ろう者・聴者に問わず雇用することを示している。実際に聴者のスタッフが1名いたが、本アンケート調査には回答していないため、聴者のスタッフとしてのデータは得られなかった。  スタッフの年齢層は4名中3名が40代であった。本アンケート調査では学生アルバイトによる回答が得られなかっため年齢に偏りがあると考える。 図3.2-11のその他は「手話で仕事ができる環境」が1名、「能力発揮できる環境が欲しかった」が1名であった。図からスタッフの働き始めたきっかけは多様であることがわかった。  特に「飲食店で働きたかった」を選択した回答者は4名中3名であるが、そのうち2名はろう者・難聴者、手話などに関連した環境を求めていることがわかった。いずれもSWMの運営団体「ありがとうの種」のミッションである、「ろう者がろう者の働く場所を提供できるようになる」ことに当てはまることがわかる[10]。 図3.2-9 アイデンティティ(n=4) 図3.2-10 年齢(n=4) 図3.2-11 働き始めたきっかけ(n=4) 図3.2-12 移動手段と所要時間(n=4) 2) Sign with Me 春日店の空間・設備についての満足度 1. 仕切りのない空間/ DSD1.1  図3.2-13では「仕切りのない空間」に対する評価の結果を示している。利用客は39名中29名が満足・やや満足、7名がどちらでもない、3名がやや不満と回答した。一方で、スタッフは4名中3名が満足・やや満足、1名がどちらでもないであった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-14)では、ろう者と難聴者、わからない・考えたことがないグループに各1名やや不満がみられた。  次に、「仕切りのない空間」に対して記述されたコメント(合計28名)を課題と評価に分けた(表3.2-8)。課題コメントをアイデンティティ別に整理すると11名中6名がろう者であったが、評価コメントでは17名中5名がろう者であった。一番快適な意思表示手段と読み取り手段では「手話」と回答した人がそれぞれ28名中12名、10名であった。  次に、コメントの内容をキーワード別、狭さ・圧迫感/見渡しにくさ/見渡しやすさ/快適さ/快適さ・心地よさに整理した(表3.2-7)。キーワードと満足度に着目すると、コメントから店内全体が見渡しにくい席が一部あり、カウンター席など店員の顔が見えない席もあることがわかった(図3.2-15)。それにより、店員とアイコンタクトを取ることが難しく、呼びにくい課題がある。手話でのコ ミュニケーションはアイコンタクトを重視する。そのため、「仕切りのない空間」であっても互いの顔が見えない要素がある場合、満足度が下がる要因になりうることがわかった。  一方、評価コメントでは、キーワードに着目すると「見渡しやすさ」についてのコメントは10名中4名がろう者(アイデンティティ別)、5名が手話(一番快適な意思表示手段別)、4名が手話(一番快適な読み取り方法別)であった。そして、「快適さ・心地よさ」についてのコメントでは7名中3名が聴者(アイデンティティ別)、4名が発話(一番快適な意思表示手段別)であった。このことか ら、SWMの「仕切りのない空間」は、ろう者及び手話者にとって見渡しやすく、聴者及び発話でコミュニケーションを取る人にとって快適で心地の良い空間であることが明らかになった。  またアイデンティティがわからない/意思表示手段が発話である人の「開放感があってすぐに呼べるから。」というコメントから、店員がろう者・聴覚障害者であると、利用客が聞こえていても声で呼ぶことが難しいため、聴者の利用客の行動に影響を与えている可能性があることがわかった。 図3.2-13 1. 仕切りのない空間図3.2-14 1. アイデンティティ別の評価 図3.2-14 1. アイデンティティ別の評価 表3.2-7 1. 課題・評価コメント 表3.2-8 1. 課題・評価コメントまとめ 図3.2-15 1. Sign with me 春日店のカウンター席とキッチン 2. テーブルや椅子の配置の自由度/ DSD1.3  図3.2-16では、お互いの手話や顔が見やすくなるよう店内の「テーブルや椅子の配置を調整できる自由度」に対する評価の結果を示している。利用客は39名中30名が満足・やや満足、8名がどちらでもない、1名がやや不満と回答した。一方で、スタッフは4名中1名がやや満足、2名がどちらでもない、1名がやや不満と回答したことから、回答にばらつきがあった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-17)では、ろう者とその他のグループに各1名やや不満が見られた。  次に、「テーブルや椅子の配置の自由度」に対して記述されたコメント(合計24名)を課題と評価に分けた(表3.2-10)。このコメントをアイデンティティ別に整理すると課題10名中7名、評価14名中7名がろう者であった。このことから、ろう者は他のアイデンティティグループと比較して、「テーブルや椅子の配置の自由度」に関する関心が高いことが考えられる。また、課題コメントの回答者の一番快適な意思表示手段は10名中7名が「手話」、一番快適な読み取り手段は10名中6名が「手話」であったことから、ろう者または手話者は、「テーブルや椅子の配置の自由度」に課題を感じていることがわかった。  コメントの内容をキーワード別、見えづらさ/狭さ・距離感/不便さなし/快適さ/レイアウトの自由度に整理した(表3.2-9)。キーワードと満足度に着目すると、見えづらさに課題を感じている人が3名、狭さや距離感に課題を感じている人が7名いることがわかった。  杉山によれば、奥行き600mmのテーブルにおいて手話で会話をする際、対面の場合は読み取りやすいが手話をしにくい傾向があると述べている[13]。また隣接する場合(幅500mm)は手話の読み取りが困難になることが明らかになっており、手話空間のためにある程度の相対距離が必要になっていることを示している。SWMのテーブルの大きさは上記と同様の条件であった。このことから、手話空間の独自の近接要件がろう者及び手話者にとって見えづらさや狭さを感じる要因の1つであることが考えられる。壁側とカウンターのテーブル席を各1席減らし、壁側の残り2つのテーブル席を横に配置することで、カウンター席や黒板側の椅子に座っていても後ろに動かすことができ、手話空間に必要な相対距離を保つことができると推察する。その結果、ろう利用客の満足度が高くなる可能性が考えられる。 図3.2-16 2. テーブルや椅子の配置の自由度 図3.2-17 2. アイデンティティ別の評価 表3.2-9 2. 課題・評価コメント 表3.2-10 2. 課題・評価コメントまとめ 図3.2-18 2. Sign with Me 春日店のテーブルと椅子 3. 適度に店内を見ることができる窓やドア/ DSD2.2, 2.3  図3.2-19では「適度に店内を見ることができる窓やドア(自動ドア)」に対する評価の結果を示している。利用客は39名中18名が満足・やや満足、12名がどちらでもない、9名がやや不満と回答した。 一方で、スタッフは4名中1名がやや満足、3名がどちらでもないと回答した。アイデンティティ別に整理した図(図3.2-20)をみると、やや不満の回答はろう者のグループが16名中4名、聴者のグループが11名中3名、難聴者とわからない・考えたことがないグループがそれぞれ6名中1名、7名中1名であった。  次に、「適度に店内を見ることができる窓やドア」に対して記述されたコメント(合計29名)を課題と評価に分けた。このコメントをアイデンティティ別に整理すると課題15名中9名が「ろう者」であった(表3.2-12)。また一番快適な意思表示手段でも15名中9名が「手話」であった。コメントの内容をキワード別、遮光シート・張り紙による見えにくさ/ドアの位置による見えにくさ/適度な透過性に整理した(表3.2-11)。キーワードと満足度に着目すると、課題では「遮光シート・張り紙による見えにくさ」について回答した12名中6名がやや不満であった。遮光シートによる暗さで外から店内の様子が見えないことが主な要因であると推察する(図3.2-21)。また、日中は外が明るい場合、より店内の見えにくさに繋がることがわかった。さらに、自動ドアにある文字や張り紙も要因の1つであることがわかった。このことから特にろう者及び手話者にとって「遮光シート・張り紙による見えにくさ」に課題がみられる。しかし、この結果から「見えにくさ」による店内の様子のわかりにくさが利用客にどのような影響を与えているかは不明である。 評価のコメントは14名の記述があった。キーワードと満足度に着目すると、「適度な透過性」について回答した14名中11名が満足、3名がやや満足であった。これらのコメントから、店内の様子を見ることで混雑状況を把握できることが高い評価に繋がっていると推察する。またスタッフを除く、利用客13名のアンケートの回答時間を調べたところ、13名中8名が日の入り17:14以降(10月9日時点)に回答したことがわかった。日の入後は外と比較して店内の方が明るいため、「遮光シートによる見えにくさ」の影響が軽減している可能性も考えられる。 図3.2-19 3. 適度に店内を見ることができる窓やドア 図3.2-20 3. アイデンティティ別の評価 表3.2-11 3. 課題・評価コメント 表3.2-12 3. 課題・評価コメントまとめ 図3.2-21 3. Sign with Me 春日店の自動ドアと遮光シート 4. ろう文化の情報を得ることができるテレビ/ DSD2.7  図3.2-22では「ろう文化の情報を得ることができるテレビ」に対する評価の結果を示している。利用客は39名中11名が満足・やや満足、22名がどちらでもない、3名がやや不満と回答した。一方で、スタッフは4名中1名が満足、1名がどちらでもない、2名が不満・やや不満であった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-23)では、不満・やや不満と回答した人がろう者のグループに16名中3名、難聴者のグループに6名中2名いたことがわかった。  次に、「ろう文化の情報を得ることができるテレビ」に対して記述されたコメント(合計22名)を課題と評価に分けた(表3.2-14)。課題では、ろう者の回答が17名中8名であった。コメントの内容をキーワード別、気づかなかった/滞在時にテレビに映っていない/コンテンツの少なさ/ろう文化等を知るきっかけ/その他に分けた(表3.2-13)。キーワードと満足度に着目すると、「滞在時にテレビに映っていない」について回答した8名中3名がやや不満であった。また「コンテンツの少なさ」について回答した2名が不満・やや不満であることがわかった。  また評価コメントでは「ろう文化等を知るきっかけ」になったと回答した人は3名であった。  これらの結果から、ろう文化に関するコンテンツを増加し恒常的に発信することによって、より明確な回答が得られる可能性があると考える。 図3.2-22 4.ろう文化の情報を得ることができるテレビ 図3.2-23 4. アイデンティティ別の評価 表3.2-13 4. 課題・評価コメント 表3.2-14 4. 課題・評価コメントまとめ 図3.2-24 4. ろう関連のコンテンツが流れる様子 図3.2-25 4. 情景が流れてくる様子 5. コミュニケーションを取ることができる黒板等 / DSD2.8  図3.2-26では「コミュニケーションを取ることができる黒板等」に対する評価の結果を示している。利用客は36名中18名が満足・やや満足、12名がどちらでもない、6名が不満・やや不満と回答した。一方で、スタッフは4名中2名が満足・やや満足、2名がどちらでもないであった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-27)では、不満・やや不満と回答した人がろう者のグループに16名中2名、聴者のグループに9名中1名、わからない・考えたことがないグループに6名中2名、その他のグループに1名いたことがわかった。  次に、「コミュニケーションを取ることができる黒板等」に対して記述されたコメント(合計27名)を課題と評価に分けた(表3.2-16)。課題12名、評価15名であった。課題コメントのキーワードと満足度に着目すると「気づきにくさ」について回答した4名中2名が不満・やや不満であった(表3.2-15)。また、「利用しにくさ」には8名中1名がやや不満であった。「利用しにくさ」のコメントでは、座る席によって書き込めないことがわかった。特に黒板側に座っている場合でも、黒板側に座っている利用客のみ書き込めるため、対面に座っている利用客は書き込みが難しい。本郷店ではホワイトボードを採用し、対面に座っていても2人で書き込みができる、消しやすいことから筆談によるコミュニケーションが容易であったことが考えられる(図3.2-29)。さらに、「利用しにくさ」を記述した8名は全員がろう者または難聴者であったことから、筆談によるコミュニケーションの経験があり、実際に黒板を使ってコミュニケーションを取るイメージができたのではないかと推察する。  評価のコメントから、「親近感・印象の良さ」について回答した11名中8名が満足・やや満足であったことがわかった。また、「コミュニケーションの選択肢がある」では3名中2名が満足の結果となった。 図3.2-26 5. コミュニケーションを取ることができる黒板等 図3.2-27 5. アイデンティティ別の評価 表3.2-15 5. 課題・評価コメント 表3.2-16 5. 課題・評価コメントまとめ 図3.2-28 5. 黒板に書き込む様子 図3.2-29 5. 本郷店の内観 6. セルフオーダーシステム / DSD2.8  セルフオーダーシステムは来店時にQRコードを受け取り、座った席から自分のスマートフォンやタブレットなどからQRコードを読み取って専用のWEBサイトから注文を行う。図3.2-30では、「セルフオーダーシステム」に対する評価の結果を示している。利用客は39名中30名が満足・やや満足であり、3名がどちらでもない、6名が不満・やや不満と感じていた。一方でスタッフは、4名中2名が満足・やや満足と回答し、2名がどちらでもないであった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-31)では、不満・やや不満と回答した人がろう者のグループに16名中2名、難聴者のグループに6名中2名、聴者のグループに11名中1名、わからない・考えたことがないグループに7名中1名いたことがわかった。  次に、「セルフオーダーシステム」に対して記述されたコメントは利用客・スタッフ合計37名であった(表3.2-18)。アンケートの回答者は39名であることから「セルフオーダーシステム」に対する関心が非常に高いことが推察できる。これらのコメントを課題と評価に分けた。さらにコメントをキーワード別、わかりにくさ・利用しにくさ/ コミュニケーションの減少/感染の対策/便利さ・珍しさに分けることができた(表3.2-17)。  課題のキーワードと満足度に着目すると、「わかりにくさ・利用しにくさ」について回答した14名中4名が不満・やや不満であった。また「コミュニケーションの減少」では5名中2名がやや不満であった。利用客39名中23名が初めての来店であること、課題のコメント回答者のアイデンティティがろう者である人が12名中7名、一番快適な意思表示手段が手話である人が12名中6名であることから、セルフオーダーシステムの仕組みがわからず、手話等での説明がなかったことが原因の1つであると考えられる(図3.2-6)。また、利用目的が「店員と手話でコミュニケーションをとりたい/他の手話者との交流/手話に興味があるから/その他:手話や障害者関連」などがあったことから、「セルフオーダーシステム」によって店員とのコミュニケーションの機会が減少していることが影響していると考えられる(図3.2-7)。  一方評価のコメントでは、キーワードと満足度に着目すると、「便利さ」や「ゆっくりメニューを見ることができる」、「スムーズに注文ができる」などの点で評価を受けていることがわかった。 図3.2-30 6. セルフオーダーシステム 図3.2-31 6. アイデンティティ別の評価 表3.2-17 6. 課題・評価コメント 表3.2-18 6. 課題・評価コメントまとめ 7. 呼出ボタンとフラッシュライト / DSD2.8  SWM店内には、会計用のカウンターにあるアクリル板に呼出ボタンが吊り下げられている(図3.2-34)。特にスタッフが流し台側で作業を行う際、利用客の呼びかけに気づきにくい。そこで呼出ボタンを押すと、流し台の横の作業台にフラッシュライトが設置されており、それが光ることで利用客の呼びかけに気づくことができる。また自動ドアにセンサーが取り付けられており、自動ドアが開くとフラッシュライトが光る。運営者へのヒアリング調査で、少人数のスタッフで運営する際に活用していることがわかった。図3.2-32は、この「呼出ボタンとフラッシュライト」に対する評価の結果を示している。利用客は36名中9名が満足・やや満足しており、22名がどちらでもない、5名が不満・やや不満であった。一方で、スタッフは4名中3名が満足・やや満足と回答し、1名がどちらでもないと回答した。利用客及びスタッフの評価をアイデンティテイ別に整理した図(図3.2-33)では、不満・やや不満と回答した人がろう者のグループに16名中3名、難聴者のグループに6名中1名、聴者のグループに9名中1名いたことがわかった。  次に、「呼出ボタンとフラッシュライト」に対して記述されたコメント(合計23名)を課題と評価に分けた(表3.2-20)。コメントをキーワード別に分けると、設置場所の調整/光の弱さ/呼出の選択肢がある/気づきやすさ/気づかなかったため評価なしであった(表3.2-19)。  課題コメントのキーワードと満足度に着目し、アイデンティティ別にみると、「設置場所の調整」について8名中5名がろう者による回答であり、2名が難聴者による回答であった。また不満・やや不満と回答した人は8名中4名であった。コメントでは、どこに呼出ボタンがあるかわからないこと、各席にも呼出ボタンを設置してほしいという声がみられた。  評価コメントでは、利用客による呼出の選択肢があることやスタッフによる気づきやすさが評価の要因であることがわかった。またスタッフ4名中3名が気づきやすさを評価していることから、フラッシュライトの設置場所には問題はないと推察する。  またコメントの回答者23名中9名が呼出ボタンがどこにあるか気づかなかったと記述していることから、設置場所を工夫する、または各席に呼出ボタンを置くことで利用客の満足度が上がる可能性が考えられる。 図3.2-32 7. 呼出ボタンとフラッシュライト 図3.2-33 7. アイデンティティ別の評価 表3.2-19 7. 課題・評価コメント 表3.2-20 7. 課題・評価コメントまとめ 図3.2-34 7. 呼出ボタンとフラッシュライト 8. 店内の自然光 / DSD4.2  SWMの店内には窓がなく、唯一自動ドアから採光を得ることができる。しかしこの自動ドアは西側に設置されているため、夕方になると西日がキッチンに差し込むことが運営者へのヒアリング調査で明らかになっている。そのため、自動ドアの上半分に遮光シートを貼っている(図3.2-37)。図3.2-35は、「店内の自然光」に対する評価の結果を示している。利用客は35名中21名が満足・やや満足しており、14名がどちらでもないと回答した。一方で、スタッフは4名中1名が満足、2名がどちらでもない、1名がやや不満であった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-36)では、その他のグループのみやや不満がみられた。  次に、「店内の自然光」に対して記述されたコメント(合計18名)を課題と評価に分けた(表3.2-22)。これらのコメントをキーワード別に分けると、採光の少なさ・暗さ /西日 /適切な自然光 /夜間利用のため評価できない/気づかなかったとなった(表3.2-21)。  課題コメントのキーワードと満足度に着目し、アイデンティティ別にみると課題コメント6名中5名がろう者であった。満足度からは不満がみられないが、コメントからは採光の少なさや暗さへの不満がみられた。ろう者が手話でのコミュニケーションを行う際、適切な明るさが必要であるとされているが、自動ドアからのみ採光が取れること、遮光シートにより西日を防ぐことができるが他の時間帯は自然光を調整できないため暗くなることが要因であると推察する。  一方で、評価コメントのキーワードと満足度に着目すると、「適切な自然光」について6名中5名が満足しており、1名がやや満足であった。さらにアイデンティティ別にみると、ろう者のグループが1名、難聴者のグループが2名、聴者のグループが2名、わからない考えたことがないグループが1名であったことから、アイデンティティグループ間には、ばらつきがあった。  このことから、西日による眩しさを調整できるもので防ぐことができれば、ろう者だけでなく、他のアイデンティティグループの満足度もより高くなることが推察できる。 図3.2-35 8. 店内の自然光 図3.2-36 8. アイデンティティ別の評価 表3.2-21 8. 課題・評価コメント 表3.2-22 8. 課題・評価コメントまとめ 図3.2-37 8. Sign with Me 春日店の自動ドアと遮光シート 9. 店内の照明 / DSD4.3  図3.2-38は「店内の照明」に対する評価の結果を示している。利用客は37名中35名が満足・やや満足と回答し、2名がどちらでもないと回答した。一方で、スタッフは全員が満足・やや満足であった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-39)では、ろう者と難聴者、その他のグループは全員が満足・やや満足であった。  次に、「店内の照明」に対して記述されたコメント(合計23名)を課題と評価に分けた(表3.2-23)。 コメント数をみると、課題2名、評価21名であった。これらのコメントをキーワードを、明るさの調整/適度な明るさ・見やすさ・落ち着いたに分けることができた(表3.2-22)。  課題のコメント記述は2名と少ないが、回答者のアイデンティティ、一番快適な意思表示手段、一番快適な読み取り手段と満足度に着目すると、2名ともろう者及び手話でのコミュニケーションであり、「やや満足」の回答であった。このことから、照明に関して深刻な課題はみられないが、手話でコミュニケーションを行うろう者にとって、照明の明るさは他のアイデンティティグループに比べ て、より注意して調整する必要があると考える。  評価では運営者へのヒアリング調査で、特に照明にこだわったエピソードがあった。ろう者の利用客の評価もそれが反映されていることがわかる。また評価のコメントをアイデンティティ別にみると、21名中8名がろう者、5名が難聴者、5名が聴者、2名がわからない・考えたことがない、1名がその他のグループであったことから、ろう者にとって快適な照明の明るさは、他のアイデンティティグループにも良い影響を与えていると推察する。 図3.2-38 9. セルフオーダーシステム 図3.2-39 9. アイデンティティ別の評価 表3.2-22 9. 課題・評価コメント 表3.2-23 9. 課題・評価コメントまとめ 図3.2-40 9. 夜の店内の明るさ 10. 椅子のカバー / DSD5.1  図3.2-41は、SWM店内の椅子の脚に着けているカバーに対する評価の結果を示している。利用客は36名中25名が満足・やや満足、10名がどちらでもない、1名が不満と回答した。一方、スタッフは4名中3名が満足・やや満足であり、1名がどちらでもないであった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-42)では、難聴者のグループのみ1名不満がみられた。  次に、「椅子のカバー」に対して記述されたコメント(合計26名)を課題と評価に分けた(表3.2-24, 25)。コメントの数は、課題2名、評価18名であった。  課題コメントの回答者2名は、いずれも補聴器装用者であった。聴力はそれぞれ90-100dBと100dBである。福島によれば、聴覚障害者の自己発生音の不快感または改善してほしい割合を調査した結果、「聴覚障害者の「自己発生音」で最も不快であるものは、ドアの開閉音、話し声、家具の移動音の順」であった[9]。ろう者と難聴者を比較すると、ろう者の方が家具の移動音について意識している 割合がやや低い。また今回の調査でも補聴器を装用していないろう者も店内にいたことから、ろう者・難聴者が集まる場では聴者が集まる場に比べて椅子を引く音が大きくなる可能性が考えられる。 さらに、補聴器や人工内耳は全ての音を大きくさせるため、補聴器装用者は聴者と比較して不快に感じやすく、聴者は椅子を引く音に不快を感じていないことが推察できる。今回の調査では全てのアイデンティティグループに、大きな不満はみられないため、椅子のカバーによる一定の効果があるのではないかと考える。 図3.2-41 10. 椅子のカバー 図3.2-42 10. アイデンティティ別の評価 表3.2-24 10. 課題・評価コメント 表3.2-25 10. 課題・評価コメントまとめ 3) Sign with Me 春日店の空間・設備についての必要度 1). 火災を知らせる設備(フラッシュライト)等/ DSD2.9  現時点で、SWM店内には、災害時にお店のBGMが緊急放送に切り替わる仕組みがあるが、視覚的に情報を得るための設備がない。緊急時には、2階の区民センターの職員が知らせに来る流れになっている。すなわち、ろう者は職員が来るまで災害に関する情報を得ることが難しい状況である。そこで本アンケート調査では、実際に火災などが発生した時、フラッシュライト等で視覚的に情報を得ることができる整備の必要度を確認した。図3.2-44では、「火災を知らせる設備(フラッシュライト)等」の整備の必要度に対する評価の結果を示している。利用者は38名中34名、スタッフは全員が必要・どちらかといえば必要と回答した。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-45)では、ろう者、難聴者、聴者、その他のグループに各1名どちらでもないという回答がみられた。  次に、「火災を知らせる設備(フラッシュライト)等」に対して記述されたコメント(25名)を不要と必要に分けた(表3.2-26)。回答者25名中24名が必要コメントを記述していることからも必要としている人が多いことがわかる(表3.2-27)。またこのコメントをアイデンティティ別にみると、回答者25名中11名がろう者であった。また一番快適な意思表示手段では、24名中12名が手話であり、一番快適な読み取り手段では24名中9名が手話であった。このことから、ろう者及び手話者にとって「災害から身を守るため/視覚から情報を得るために」フラッシュライト等の設備が重要であることがわかった。  またコメントから、地震などの災害が身近であることや、今後大規模な災害が起こる可能性が高まっていることから災害への備えや対策を重視していることが影響していると考える。 図3.2-44 1). 火災を知らせる設備(フラッシュライト)等 図3.2-45 1). アイデンティティ別の評価 表3.2-26 1). 不要・必要コメント 表3.2-27 1). 不要・必要コメントまとめ 2). ボタンを押さずに開く自動ドア / DSD3.3  DSDのガイドラインでは、ドアを開閉または自動ボタンのボタンを押す行為が手話での会話を中断させるため、ボタンを押さずに開く自動ドアがスムーズなアクセスを可能にするとしている。SWMの自動ドアはボタンを押すタイプであるため、「ボタンを押さずに開く自動ドア」の必要度を調査した。図3.2-46は、「ボタンを押さずに開く自動ドア」の整備の必要度に対する評価の結果を示している。利用者は37名中11名が必要・どちらかといえば必要としており、17名がどちらでもない、9名が不要・どちらかといえば不要であった。一方で、スタッフは3名全員がどちらでもないと回答した。 利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-47)では、不要・どちらかといえば不要と回答した人は、ろう者のグループに16名中4名、わからない・考えたことがないグループに6名中3名、難聴者のグループに6名中1名、聴者のグループに10名中1名いた。  次に、「ボタンを押さずに開く自動ドア」に対して記述されたコメント(合計23名)を不要と必要に分けた(表3.2-29)。さらにキーワードを、必要以上の便利さ/マナー/すぐレジがあるため会話が中断される/便利さ・良い/感染症対策/気にならない/不便さなし/評価できないに分けることができた(表3.2-28)。  不要コメントのキーワードと必要度に着目し、アイデンティティ別にみると、6名中5名がろう者の回答であった。また必要コメントに、ろう者はいなかった。  DSDのガイドラインは、主にギャローデット大学のキャンパス、すなわち教育施殿を中心に構築している。そのため、多くの学生が手話で話しながらキャンパス内の施設を出入りする際、ドアの開閉が会話を中断する頻度が高いと考えられる。一方でSWMの店内は、出入りの頻度が少なく、また不要コメントには、「(自動ドアのすぐ前にレジがあるため)レジ前に到着したらどっちみち会話を中断しなければならないので」という指摘があった。必要コメントでは、便利であることやろう者以外のベビーカーや車椅子利用者にも役立つ意見もみられたが、現時点でSWMにおける会話の中断を防ぐために「ボタンを押さずに開く自動ドア」の必要性は低いことがわかった。 図3.2-46 2). ボタンを押さずに開く自動ドア 図3.2-47 2). アイデンティティ別の評価 表3.2-28 2). 不要・必要コメント 表3.2-29 2). 不要・必要コメントまとめ 3). 電磁気の制御のための装置/ DSD5.2  DSDのガイドラインには、電磁気による補聴器または人工内耳への影響を防ぐために「電磁気の制御のための装置」の項目がある。SWM店内には、調理のための電子機器があるがいずれも電磁気を制御するための装置はない。そこで、「電磁気の制御のための装置」の必要度を調査した。  図3.2-48は、電磁気の制御のための整備の必要度に対する評価の結果を示している。利用者は37名中13名が必要・どちらかといえば必要であり、22名がどちらでもない、2名が不要と回答した。一方でスタッフは、4名中3名がどちらでもない、1名が不要であった。利用客及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図3.2-49)では、不要と回答した人が、ろう者のグループに16名中2 名、その他のグループに3名中1名いた。  次に、電磁気の制御のための装置に対して記述されたコメント(合計22名)を不要と必要に分けた(表3.2-31)。キーワードは、気にならない・影響を感じない/必要としているならあると良い/補聴器等を装用していないに分けることができた(表3.2-30)。  不要コメントのキーワードと必要度に着目し、アイデンティティ別にみると7名中5名がろう者、1名が難聴者、1名がその他のグループであった。聴者とわからない・考えたことがないグループの不要コメントはなかった。そこで、不要コメントを記述した回答者の補聴器または人工内耳装用の有無を確認すると、回答者全員が補聴器を装用していることが明らかになった。  また「必要としているならあると良い」と回答した10名のうち、補聴器装用者は4名であった。またこの4名中3名が、「電磁気による影響を気にしていない/問題がない/意議をしていない」とコメントした。  これらの結果から、SWM店内における補聴器または人工内耳装用者の電磁気の影響は低く、電磁気の制御のための装置は不要であると推察する。 図3.2-48 3). 電磁気の制御のための装置 図3.2-49 3). アイデンティティ別の評価 表3.2-30 3). 不要・必要コメント 表3.2-31 3). 不要・必要コメントまとめ 4). まとめ  SWMの物理的環境要素をDSDガイドラインのサブカテゴリー21項目に当てはめ整理した結果、17項目中11項目が整備済であった(表3.2-5)。利用客およびスタッフへのアンケート調査から整備済の項目の満足度と未整備の項目への必要度を明らかにした。表3.2-32に着目すると、適度に店内を見ることができる窓やドアが最も不満・やや不満が多い項目であった。遮光シートや貼り紙による見えにくさに課題があることがわかった。しかし、遮光シートは西日を防ぐため、調整できる製品を使用することによって見えにくさを改善できる可能性がある。一方で、運営者が特に取り組んだ照明の明るさは不満・やや不満がなく、課題コメントが少ない項目であった。全てのアイデンティティグループで評価されていることから、ろう者にとって快適な明るさは他のアイデンティティグループにも良い影響を与えていると推察する。  また未整備の3項目の必要度を調査した結果、火災を知らせるフラッシュライトの必要・どちらかといえば必要が最も多い項目であった。ろう者が自ら命を守るために、フラッシュライト等で視覚的に情報を得ることができるよう迅速な法整備の見直しが必要である。 図3.2-50 Sign with Me 春日店 使われ方分析まとめ 表3.2-32 SWMの環境評価のまとめ 3.2.4. 居場所の効果 その他のコメント ・初めての来店なのでまだ変化は感じていない ・また行きたい気持ちがわいてきた ・一緒に行った人に、お洒落なスープ屋さんで普通のカフェと変わらないように感じた。と言われて、手話が共通言語になっている場所が、あまり手話に馴染みのなかった聴者にも違和感なく浸透していたことを理解して嬉しくなったよりどころになった」「手話への興味が高まった」「聴覚障害者(ろう・難聴者等)のある知人・友人ができた」「聴覚障害者(ろう・難聴者等)について情報交換や相談ができた」「ろう者または難聴者としてのアイデンティティが形成された」と回答した。 このことから、これまでろう学校やろうあ連盟などが提供していたろう者同士のつながりの効果がSWMでもあったことがわかる。さらに、3名中2名が「聴者の知人・友人ができた」と回答したことから、ろう者と聴者のつながり、つまり新たな効果も生まれていると考えられる。  SWMでは手話でコミュニケーションを取ることができるカフェを目指していない。あくまでもスタッフの働く環境のために作られたお店である。しかし、利用客の回答をみると、「手話への興味が高まった」「ろう者や難聴者への興味が高まった」では聴者の回答がみられた。また、「行きつけになった」「聴覚障害者(ろう・難聴者等)について情報交換や相談ができた」「聴覚障害者(ろう・難聴等)のある知人・友人ができた」「聴者への興味が高まった」ではろう者の回答がみられたことから、ろう者同士のつながりだけでなく、ろう者と聴者のつながりもみられる。このことから、利用客への副次的な効果があることが明らかになった(図3.2-52)。  現在は、新型コロナウイルス感染症が流行しているため、スタッフによる手話の茶話会や、交流、手話を学ぶことができる場を提供する他団体への貸し出しなどの取り組みが制限されている。今後、このような取り組みが再開すれば、ろう者や難聴者だけでなく、手話を使いたい・勉強したい利用客のリピートが増加することによって、利用客の他アイデンティティ同士の交流が活性化することが期待できる。 図3.2-51 Sign with Me 春日店の勤務をきっかけに変化したこと(n=4) 図3.2-52 Sign with Me 春日店の利用をきっかけに変化したこと(n=39) 3.2.5. 小括  SWMにおけるDSDのガイドラインは、17項目中11項目が整備済であった(表3.2-5)。5つのコンセプトのうち、1 Space & Proximity と4 Light &Colorの項目では全て整備済であったが、2 Sensory Reach、3 Mobility & Proximity、5 Acoustics and EMIでは未整備の項目があった。特に整備済の項目が8項目中5項目であった 2 Sensory Reachでは、反射、振動(制御)、緊急システムに関する項目が未整備であった。  SWMでのDSDガイドラインの整備率が高い要因は、ろうの運営者による当事者の視点でCulturalCustomization による改修が行われ、この改修プロセスにろうの運営者が関わっていたことにあると推察する。DSDの整備項目では、整備済の11項目中10項目が黒丸であることから意図的に改修が行われたことがわかる(表3.2-5)。  当事者の視点で改修が行われた建物でのDSDに対する利用客の環境評価では、適度に店内を見ることができる窓やドアが最も不満・やや不満が多い項目であった。遮光シートや貼り紙による見えにくさに課題があることがわかった。しかし、遮光シートは西日を防ぐため、調整できる製品を使用することによって見えにくさを改善できる可能性がある。一方で、運営者が特に取り組んだ照明の明るさは不満・やや不満がなく、課題コメントが少ない項目であった。全てのアイデンティティグループで評価されていることから、ろう者にとって快適な明るさは他のアイデンティティグループにも良い影響を与えていると推察する。また、ろうの運営者が指摘していた火災報知器とフラッシュライトの連動は必要・どちらかといえば必要が最も多い項目であった。ろう者が自ら命を守るために、フラッシュライト等で視覚的に情報を得ることができるよう迅速な法整備の見直しが必要である。  これらの結果を踏まえると、SWMでは賃借であることが改修を行う上で制限につながり、テナントが文京区の所有する建物であることからオーナーが行政である場合は、民間のケースと異なり、火災報知器とフラッシュライトの連動を実現することが困難であることが推察できる。しかしながら、什器については、建築や設備よりも自由にCultural Customiationがしやすいと考える。  またSWMではろう者のスタッフが働く環境を重視していることから、スタッフの自己肯定感の向上につながっていることが明らかになった。利用客への副次的な効果もみられたことから、これまでのろう者の居場所の役割も担っていることがわかった。さらに、今後はろう者同士だけでなく他のアイデンティティグループ同士の交流が生み出されることが期待できる。 第4章 事例4(任意組織 - 非常設) 第4章 事例4(任意組織 - 非常設) 4.1 ろうちょ~会(みちくさ亭) 4.1.1 運営方針及び形成過程 (1)組織 2021年1月26日時点 運営主体:任意団体ろうちょ~会 運営形態:イベント企画 住所:特定の建物を所有しない(非常設) 設立きっかけ:社会人になった後、聴者とろう者とでは感覚や文化が異なるが、関わりが少なくお互いについて知らないため、最初は会社のメンバーで企画を始めた 設立目的:「声に頼らない会話をしてみよう」をコンセプトにろう者と難聴者と聴者の交流の場を提供する 1回の参加者数:約10人前後    参加者層:開催場所によって異なる 利用客の割合:ろう者30% 聴者70% 運営スタッフ:5名(内訳:ろう者4名/聴者1名) 表4.1-1 研究対象 図4.1-1 みちくさ亭外観 図4.1-2 ろうちょ~会の企画の様子 (2)施設  ろうちょ~会は、ろう者と難聴者、聴者の交流の場を提供する団体である。特定の建物を所有しないため、東京やつくばを中心にバーやコワーキングスペースなどを借りて、対面での企画を実施している。新型コロナウイルス感染症流行後は、オンラインでの企画が中心となっている。非常設のケースとして、ろうちょ~会に緊急事態宣言が解除された2021年11月に対面での企画を依頼した。特定の建物を所有しない非常設であるため、企画を実施する場所としてみちくさ亭を選択した。みちくさ亭は、千葉県柏市にあるNPO法人ケアラーネットみちくさが運営しているカフェで、ケアラーが集まる特徴がある。みちくさ亭は以前も利用した経験があることやテラスを利用できることから感染症対策を考慮して実施場所を決定した。  ろうちょ~会は特定の建物を所有しないため、法律や契約等による制約及び促進はみられなかった。しかし、スタッフへのヒアリング調査及び2021年2月13日に行ったプレアンケート調査では、借りる空間によって制約と促進があることが明らかになった(表4.1-4)。この表から、エレベーターがない建物と都内での開催以外についてはすべてDSDのガイドラインに当てはまることがわかった。 中でも特に「床に座ることができる」では「座る場所を自由に配置できる」特徴がある。これはアメリカにはない、日本の文化特有のDSDであると考える。しかし、高齢の参加者がいる場合は床に直接座るよりも椅子に座ることが好まれることから、参加者の年齢に合わせることが重要である。  またプレアンケート調査では、これまでの経験からろう者と聴者が交流する場や空間に必要な条件も明らかになった(表4.1-3)。これらはすべてDSDのガイドラインに当てはまる。この結果から、ろうちょ~会では、これまで利用した空間の制約と促進を基にろう者特有の行動様式にあった空間を選択していることがわかる。このことから、日本国内でもろう者は日常的に自らの行動に合わせて空間を調整していることが明らかになった。 表4.1-2 ろうちょ~会設立の経緯 表4.1-3 ろう者と聴者が交流する空間に必要な条件 表4.1-4 これまで利用した空間の制約と促進の例 4.1.2 事例4 みちくさ亭(ろうちょ~会)の物理的環境要素  ヒアリング調査や現地調査からみちくさ亭の物理的環境要素の中で、ろう者が利用する上で補完したもの、DSDの特徴(表4.1-5)を図4.1-3にまとめた。この要素をDSDのガイドラインのサブカテゴリー21項目に当てはめ、整理した(表4.1-6)。みちくさ亭におけるDSDは19項目あり、そのうち整備済の項目は11.5項目であった。DSD3.1の項目は整備済と未整備があるため0.5としている。実際にろうちょ~会のスタッフや参加者がこのDSDをどのように感じているかを4.1.3のアンケート調査で明らかにした。 表4.1-5 みちくさ亭の物理的環境要素概要 図4.1-3 みちくさ亭 使われ方 表4.1-6 みちくさ亭におけるDeafSpace Designの整備項目 4.1.3 参加者・スタッフによる環境評価  ろうちょ~会は特定の場所を所有せず、バーやコワーキングスペースなどのレンタルスペースで企画を実施している特徴がある。新型コロナウイルス感染症の流行後、オンラインの企画が中心となっていたが、11月に緊急事態宣言が解除されたため、対面の企画を行った。みちくさ亭にはテラスがあるため感染症対策が可能であることや、以前企画を実施した経験があることから、アンケート調査を実施するためにみちくさ亭での企画を依頼した。  ろうちょ~会がみちくさ亭で企画を実施した際の参加者及びスタッフへのアンケート調査は、2021年11月20日に行った。回答者は、企画に参加した10名中8名とスタッフ4名中3名の合計11名である。アンケートの回答方法はグーグルフォームを採用した。参加者の中にはスマートフォンでの操作に不慣れな人がいたため、回答者8名のうち5名は用紙による回答を得た。アンケートの回答依頼は企画終了後に行ったが、交流を続けている人には後日回答してもらうよう依頼したため、回答日にばらつきがある。 表4.1-7 ろうちょ~会アンケート記入項目 1) 属性 1-1) 参加者  ろうちょ~会は、特定の場所を所有せず、コワーキングスペースやバーなどのレンタルスペースを利用するため、企画を実施する場によって参加者の属性が大きく変わることが、スタッフへのヒアリング調査の結果からわかった。  今回、みちくさ亭で企画を実施したため、みちくさ亭の利用者にも参加してもらった。そのため、みちくさ亭の利用者はこれまでろう者・難聴者と関わる機会が少ないことから、アイデンティティがわからない・考えたことがないと回答したと推察する。その結果、わからない・考えたことがないアイデンティティグループが8名中5名になったと考える(図4.1-4)。 スタッフへのヒアリング調査から、ろうちょ~会が企画を実施する場所によって年齢層も大きく変わることがわかった。東京のバーで行う際は若い年代が多く、つくばのコワーキングスペースで行う際は、ファミリー層が多い。今回の企画では、みちくさ亭の利用者がアンケートの回答者8名中5名であったことから、60代が3名、70代以上が1名であった(図4.1-5)。 参加頻度は、参加者の8名中7名が「初めて」と回答した(図4.1-6)。みちくさ亭の利用者が5名いたことが主な理由の一つであると考えられる。  次に参加目的では「ろう者との交流」が7名中6名であった(図4.1-7)。ろうちょ~会は、ろう者と難聴者と聴者の交流の場を提供することを目的としていることや、参加者にわからない・考えたことがないまたは聴者のアイデンティティを持つ人がいたことが影響していると考える。 みちくさ亭までの移動手段と所要時間では、移動手段が車と回答した人が7名中4名であった。所要時間はいずれも30分以内であった(図4.1-8)。これらはみちくさ亭の利用者が多いと考える。一方で、移動手段が電車の人はいずれも60分以上であった。  最寄駅からみちくさ亭までは、徒歩かバスでアクセスする。徒歩の場合は、最寄駅から17分である。またみちくさ亭にはバス停がない。そのため、最寄駅からバス停「南部老人福祉センター」までバスで移動し、そこからみちくさ亭まで徒歩6分である。このバスの運行時間が10時~18時まであり、運行本数が2~3時間に1本と非常に少ないことからバスの利用は難しい。そのため、移動手段が電車の場合は、徒歩の時間も含めるため、所要時間が長くなることが考えられる。一方で、移動手段が車の場合は駐車台数に限りがある。このことから、遠方からの参加が難しく、みちくさ亭付近に住んでいる人の参加が多かったのではないかと推察する。 図4.1-4 アイデンティティ(n=8) 図4.1-5 年齢(n=8) 図4.1-6 参加者の利用頻度(n=8) 図4.1-7 参加者の利用目的(n=7) 図4.1-8 参加者の移動手段と所要時間(n=7) 1-2) スタッフ  ろうちょ~会のスタッフは7名(2021年11月20日時点)であるが、アンケート調査の際は4名の参加であった。そのうち回答者は3名である。  アイデンティティ別にみると、ろう者は2名、その他は1名であった(図4.1-9)。その他の回答は、「相手に委ねている」であった。またろうちょ~会には聴者のスタッフもいるが今回の企画には参加していなかったため、聴者のスタッフとしてのデータは得られなかった。  年齢別にみると、全員が20代であった(図4.1-10)。  スタッフになったきっかけでは、「ろう者や手話について聴者に知ってもらう活動をしたかった」が3名中2名、「聴者とろう者の交流を促す活動をしたかった」が3名中2名であった(図4.1-11)。 その他の項目は各1名ずつであった。いずれも、ろうちょ~会の目的である「ろう者と難聴者と聴者の交流の場を提供」に当てはまることがわかる。  移動手段と所要時間では、回答した2名とも電車と車で60分以上であった。駐車台数に限りがあるため、スタッフ全員で同じ車に乗って参加したことが結果に影響したと考えられる(図4.1-12)。 図4.1-9 スタッフのアイデンティティ(n=3) 図4.1-10 スタッフの年齢(n=3) 図4.1-11 スタッフになったきっかけ(n=3) 図4.1-12 スタッフの移動手段と所要時間(n=2) 2) ろうちょ~会のみちくさ亭利用時の空間・設備についての満足度 1. 仕切りのない空間/ DSD1.1  図4.1-13では、「仕切りのない空間(テラス・洋室)」に対する評価の結果を示している。満足・やや満足は参加者が7名中6名、スタッフが3名中1名であった。一方で、やや不満はスタッフ3名中1名であった。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-14)をみると、聴者とわからない・考えたことがないグループは全員が満足・やや満足であったが、ろう者のグループに1名不満がみられた。  次に、「仕切りのない空間」に対して記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分けた(表4.1-9)。キーワードは、見渡しにくさ・狭さ/心地よさである。今回の企画は、テラスと洋室を借りて実施したが、15時頃に寒くなったため、特別に和室を利用したことが、課題コメントに表れていると推察する。また「テラスの面積に対して参加者の人数が合わない」というコメントもみられ、柱が視界を妨げていることも明らかなった(表4.1-8)。課題コメントの一番快適な意思表示手段と読み取り手段が全員手話であったことから、みちくさ亭における仕切りのない空間では、柱、壁などの物理的な障壁と密度が手話者の満足度を下げる要因になると推察する。また、これらの障壁や密度は聴者とわからない・考えたことがないアイデンティティグループには影響がないと考える。 図4.1-13 1. 仕切りのない空間 図4.1-14 1. アイデンティティ別の評価 表4.1-8 1. 課題・評価コメント 表4.1-9 1. 課題・評価コメントまとめ 2. テーブルや椅子の配置の自由度/ DSD1.3  図4.1-15では、お互いの顔や手話が見やすくなるようテラスの「テーブルや椅子の配置を調整できる自由度」に対する評価の結果を示している。参加者は全員が満足・やや満足であった。一方で、スタッフは満足1名、どちらでもない1名、やや不満1名と回答にばらつきがみられた。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-16)をみると、ろう者のグループを除く全 てのアイデンティティグループは満足・やや満足であった。ろう者のスタッフのみ、どちらでもない、やや不満の回答があった。  次に、「テーブルや椅子の配置の自由度」に対して記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分けた(表4.1-11)。キーワードは、自由度の低さ/椅子のサイズ・重量/自由度の高さである。 (表4.1-10)。初めに、課題コメントをみると自由度の低さと椅子に対する課題(サイズ・重量)がみられる。今回の企画では、図4.1-17, 18, 19のように椅子の配置が3パターンあった。パターン1では、最初に企画の説明をするために全員がスタッフとホワイトボード、テレビを見ることができる配置である(図4.1-17)。この図から、座る場所によっては柱が邪魔になり、テレビが見えにくいことがわかる。このことから、テラスの面積に対して椅子が多いことが自由度を制限していると推察する。  次に、2つのグループに分かれて自己紹介を行う際、パターン2の配置になった(図4.1-18)。グループ全員の顔が見えるよう、円状になっていることがわかる。  最後に、ペアになってやり取りをする際は、パターン3のような配置になった(図4.1-19)。このように3時間の企画で、椅子の配置が3パターンあったことや、手話が見やすいよう椅子の配置を調整している様子がみられたことから、椅子は軽量で動かしやすいことが重要であると考える。しかし、今回の企画では、テラスの椅子に対して参加者の人数が多かったため、テラスの軽量な椅子(図4.1-20)に比べて重量がある洋室・和室の椅子を使用したことが課題コメントに影響していると推察する。  これらの結果から、テーブルや椅子の配置の自由度を高めるためには、テラスの面積に対して適切な椅子の数であること、軽量なテラスの椅子を使用することが満足度を高める要因になると推察する。 図4.1-15 2. テーブルや椅子の配置の自由度 図4.1-16 2. アイデンティティ別の評価 表4.1-10 2. 課題・評価コメント 表4.1-11 2. 課題・評価コメントまとめ 図4.1-17 2. 椅子の配置のパターン1 図4.1-18 2. 椅子の配置のパターン2 図4.1-19 2. 椅子の配置のパターン3 図4.1-20 2. テラスの椅子 3. 適度に見ることができる窓やドア / DSD2.2, 2.3  図4.1-21では、「適度に見ることができる窓やドア」に対する評価の結果を示している。満足・やや満足は、参加者8名中7名であった。一方でスタッフは、満足、どちらでもない、やや不満が各1名と回答にばらつきがみられた。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-22)をみると、ろう者のグループを除く全てのアイデンティティグループは満足・やや満足であった。ろう者のスタッフのみ、どちらでもない、やや不満の回答があった。  次に、記述されたコメント(合計3名)を課題と評価に分けた(表4.1-13)。キーワードは、見えにくさ/適度な透過性である(表4.1-12)。「1.仕切りのない空間」でも述べたように、本来は洋室とテラスの利用のみであったが和室も利用したことから、和室からテラスへの見えにくさが指摘された。一方で洋室からテラスは見えやすさが評価された。また今回の企画では、引き戸(窓)の前にテレビを設置したことや洋室は基本的に荷物置き場として利用した経緯があることから、引き戸(窓)を活用する機会が少なかった。洋室とテラスの両方を使って企画などを行う際には、評価が異なることが推察できる。 図4.1-21 3. 適度に見ることができる窓やドア 図4.1-22 3. アイデンティティ別の評価 表4.1-12 3. 課題・評価コメント 表4.1-13 3. 課題・評価コメントまとめ 4. 振動しやすいテラスのデッキ(振動活用) / DSD2.5  図4.1-23では、振動しやすいテラスのデッキに対する評価の結果を示している。参加者の満足・やや満足は8名中3名であり、どちらでもない4名、やや不満1名であった。スタッフは3名中2名が満足、どちらでもないが1名であった。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-24)をみると、わからない・考えたことがないグループのみ1名やや不満がみられた。  次に、記述されたコメント(合計5名)を課題と評価に分けた(表4.1-15)。キーワードは、不要な振動/適度な振動/評価なしである(表4.1-14)。課題コメントでは、アイデンティティがわからない人が椅子を動かすと振動や音が出ると指摘する反面、ろう者は背後で誰かが通ったことが振動でわかると述べている。ろう者と他アイデンティティグループの知覚が異なることが要因であると考え る。また振動を活用しなかったろう者の意見もみられた。テラスでは、仕切りのない空間であるため視覚的な情報を十分に得ることができることや椅子が多く、配置を変更する回数も多かったことから振動を活用する場面が少なかったと推察する。椅子を動かしても振動が出にくいよう工夫することで他のアイデンティティグループの不快感を減らし、ろう者も必要な振動を活用しやすくなるのではないかと推察する。また視覚的な情報を得られない場合に、振動からの情報を活用する可能性が考えられるが他のケースと比較が必要である。 図4.1-23 4. 振動しやすいテラスのデッキ(振動活用) 図4.1-24 4. アイデンティティ別の評価 表4.1-14 4. 課題・評価コメント 表4.1-15 4. 課題・評価コメントまとめ 5. コミュニケーションを取ることができるホワイトボード / DSD2.8  図4.1-25では、「コミュニケーションを取ることができるホワイトボード」に対する評価の結果を示している。参加者は全員が満足の回答であった。一方、スタッフは3名中2名が満足であったが、1名のみやや不満の回答があった。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-26)では、ろう者のスタッフ1名のみ、やや不満であった。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分けた(表4.1-17)。キーワードは、使いにくさ/便利さである(表4.1-16)。評価コメントでは、ホワイトボードがあることによる便利さが評価されていた。ろうちょ~会では、声を使わずに交流することを目的としているため、ホワイトボードがあることによって筆談でのコミュニケーションが可能になる(図4.1-27)。しかし、小回りしにくいというコメントもあったことから持ち運び可能なサイズを導入することによって解消できる可能性があると推察する。 図4.1-25 5.コミュニケーションを取ることができるホワイトボード 図4.1-26 5. アイデンティティ別の評価 表4.1-16 5. 課題・評価コメント 表4.1-17 5. 課題・評価コメントまとめ 6. 玄関のドアが開いたら光るフラッシュライト / DSD2.8  図4.1-28では、「玄関のドアが開いたら光るフラッシュライト」に対する評価の結果を示している。参加者の満足・やや満足の該当は8名中4名であり、やや満足1名、どちらでもないが3名であった。一方で、スタッフは3名中1名が満足、どちらでもないが2名であった。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-29)をみると、わからない・考えたことがないグループのみ全員が満足・やや満足の結果となった。ろう者のグループは3名中1名のみ満足であり、2名はどちらでもないであった。  次に、記述されたコメント (合計4名)を課題と評価に分けた(表4.1-19)。キーワードは、気づかなかった/使用なしである(表4.1-18)。評価なしのコメントから、フラッシュライトがあることに気づかなかった人がいることがわかった。実際に、フラッシュライトは、インターフォンの音が聞こえにくいキッチンと事務室に設置されていることから、みちくさ亭の利用者以外の参加者・スタッフはフラッシュライトを見る機会がなかったことが、どちらでもないと回答した主な原因であると推察する。一方で、わからない・考えたことがないグループは、いずれもみちくさ亭の利用者である。 このグループの満足度が高い傾向にあることから、フラッシュライトを活用する機会がある場合、ろう者のみに関わらず他アイデンティティグループにも有効である可能性が考えられる。特にみちくさ亭の利用者は、年齢層が高いことも満足度に影響を与えていると考える。 図4.1-28 6.玄関のドアが開いたら光るフラッシュライト 図4.1-29 6. アイデンティティ別の評価 表4.1-18 6. 課題・評価コメント 表4.1-19 6. 課題・評価コメントまとめ 7. 衝突を防ぐことができる引き戸/ DSD3.1  本調査の対象となる「引き戸」は、洋室とテラスである。図4.1-30では、「引き戸」に対する評価の結果を示している。満足・やや満足は参加者8名中5名であり、どちらでもないは3名であった。一方で、スタッフは満足・やや満足が2名、どちらでもないが1名であった。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-31)をみると、わからない・考えたことがないグループのみ、全員が満足・やや満足であった。ろう者のグループは3名中1名のみ、やや満足の回答があった。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分けた(表4.1-21)。キーワードは、良かった/気づかなかった・気にならなかったである(表4.1-20)。一番快適な意思表示手段及び読み取り手段が手話である回答者が、「衝突を防ぐことができる引き戸」に対して評価していることがわかった。一方で、気づかなかった・気にならなかったという意見もみられた。これは、洋室を荷物置き場として活用していたことや、引き戸(窓)の前にテレビやホワイトボードを設置していたことから、洋室とテラスの出入りの頻度が少なかったことが影響していると推察する。しかし、みちくさ亭の利用者(わからない・考えたことがないグループ)全員が満足・やや満足の回答であったことから、ろう者以外のアイデンティティグループにも引き戸は衝突を防ぐ効果があると推察する。 図4.1-30 7. 衝突を防ぐことができる引き戸 図4.1-31 7. アイデンティティ別の評価 表4.1-20 7. 課題・評価コメント 表4.1-21 7. 課題・評価コメントまとめ 8. 手話をしながら登ることができる階段・スロープ/ DSD3.2  図4.1-32では、「手話をしながら登ることができる階段・スロープ」に対する評価の結果を示している。参加者は8名中3名が満足・やや満足であり、5名がどちらでもないと回答した。一方で、スタッフは全員が満足・やや満足であった。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-33)をみると、ろう者のグループは3名中2名がやや満足しており、聴者のグループは2名中1名、わからない・考えたことがないグループは、5名中2名が満足・やや満足の結果となった。  次に、記述されたコメント(合計5名)から、満足・やや満足と回答した人の一番快適な意思表示手段と読み取り手段が手話であることがわかった(表4.1-22, 23)。このことから手話者は階段とスロープに対して不便さを感じていないことがわかる。一方で、スロープの先にバイクがあることが指摘された(図4.1-34)。しかし、満足度からは不満がみられないため、深刻な問題ではないと考察する。 図4.1-32 8. 手話をしながら登ることができる階段・スロープ 図4.1-33 8. アイデンティティ別の評価 表4.1-22 8. 課題・評価コメント 表4.1-23 8. 課題・評価コメントまとめ 図4.1-34 8. スロープと障害物 9. 洋室の白い壁紙/ DSD4.1  図4.1-35では、手話が見やすい背景として、「洋室の白い壁紙」に対する評価の結果を示している。参加者7名中4名が満足・やや満足と回答し、3名がどちらでもないと回答した。一方で、スタッフも3名中2名が満足、1名がどちらでもないと回答した。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-36)をみると、ろう者のグループは3名中1名が満足しており、2名がどちらでもないであった。しかし、わからない・考えたことがないグループは4名中3名が満足・やや満足、1名がどちらでもないであった。  次に、記述されたコメント(合計2名)を課題と評価に分けた(表4.1-25)。キーワードは、スクリーン代用/評価なしである(表4.1-24)。洋室は荷物置き場として活用していたことから、洋室内で手話でコミュニケーションをとる機会が少なかったことが、どちらでもないと回答したことに影響を与えていると推察する。スタッフによる評価コメントでは、スクリーン代わりに使えるという意見もみられた。  またわからない・考えたことがないグループは5名中4名が手話を知らないと回答した。しかし、このグループでは4名中3名が白い壁紙に対して満足・やや満足と回答したことから、手話を使わないグループにとっても悪影響はないと考える。 図4.1-35 9. 洋室の白い壁紙 図4.1-36 9. アイデンティティ別の評価 表4.1-24 9. 課題・評価コメント 表4.1-25 9. 課題・評価コメントまとめ 10. 自然光/ DSD4.2  図4.1-37では、「自然光」に対する評価の結果を示している。参加者は7名中4名が満足・やや満足であり、3名がどちらでもないと回答した。一方でスタッフは、満足・やや満足が2名、やや不満が1名であった。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-38)をみると、ろう者のスタッフのみ1名やや不満であった。  次に、記述されたコメント(合計2名)を課題と評価に分けた(表4.1-27)。キーワードは適切な明るさである(表4.1-26)。コメントから、企画実施中には西日が差し込む時間帯もあったが、評価コメントに聴者・ろう者の回答があったことから、西日による深刻な問題はなかったと考えられる。2021年2月13日に同様の場所でろうちょ~会のオンライン企画を行った際に、ろう者のスタッフによる西日の問題が指摘されたことから、遮光シートを導入した(図4.1-39, 40)。今回も西日が差し込む時間帯に行われたが、不満なかったことから、西日による問題は改善されたと考える。 図4.1-37 10. 自然光 図4.1-38 10. アイデンティティ別の評価 表4.1-26 10. 課題・評価コメント 表4.1-27 10. 課題・評価コメントまとめ 図4.1-39 10. 2021年2月31日テラスの様子 図4.1-40 10. 遮光カーテン 11. 洋室とテラスの照明 / DSD4.3  図4.1-41では、「洋室とテラスの照明」に対する評価の結果を示している。参加者は7名中4名が満足・やや満足と回答し、3名がどちらでもないと回答した。一方、スタッフは3名中2名が満足・やや満足であったが、1名がやや不満であった。参加者及びスタッフの評価をアイデンティティ別に整理した図(図4.1-42)では、ろう者のスタッフが1名、やや不満と回答した。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分けた(表4.1-29)。キーワードは、調整しにくさ/適切な明るさ/気にならなかったである(表4.1-28)。課題コメントでは洋室の暗さについての指摘があった。今回の企画はテラスで行われたため、十分な自然光があったことからテラスでは照明を使用しなかった。また洋室も荷物置き場として使用していたため、照明を点灯しなかったことが洋室の暗さに関連している。SWMの結果からも、部屋の中と外の明るさの差が見えやすさや見えにくさに繋がっていることが明らかになっている。今回の企画では、洋室を使用する機会がないため深刻な問題はないと推察する。しかし、今後ろう者がテラスと洋室の両方を同時に利用する場合は、明るさが均等になるよう洋室の照明を調節できることが好ましいと考える。 図4.1-41 11. 洋室とテラスの照明 図4.1-42 11. アイデンティティ別の評価 表4.1-28 11. 課題・評価コメントまとめ 表4.1-29 11. 課題・評価コメント 12. 設備音・環境音の制御 / DSD5.1  テラスには、室外機がありテラスに向かって設置されている。またみちくさ亭の前にある道路は、公道ではないが交通量が多い。図4.1-43では、「設備音・環境音の制御」に対する評価の結果を示している。ここでは、参加者とスタッフ、全員がどちらでもないと回答した。アイデンティティ別に整理した図でも同様である(図4.1-44)。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分けた(表4.1-31)。キーワードは、設備音が気になる/気にならなかった/補聴器・聴覚の活用なしである(表4.1-30)。課題コメントでは、エアコンの室外機の音が気になるという意見がみられたが満足度が不明なため深刻な問題であるかは不明である。一方で、ろう者は補聴器を活用しておらず評価ができない結果となったが、聴者と補聴器を装用しているその他のアイデンティティグループでは気にならなかったとコメントがあったことから、テラスにおける室外機などの設備音や環境音による深刻な問題はないと推察する。 図4.1-43 12. 設備音・環境音の制御 図4.1-44 12. アイデンティティ別の評価 表4.1-30 12. 課題・評価コメント 表4.1-31 12. 課題・評価コメントまとめ 3) ろうちょ~会のみちくさ亭利用時の空間・設備の整備についての必要度 1). 廊下の角にミラーを設置 / DSD2.4  みちくさ亭には、洋室と事務所の横にトイレがある。事務所の横のトイレを使用するために、洋室と和室、キッチンのある部屋から廊下を通る必要がある(図4.1-47)。この廊下は回廊型になっており、廊下の隅が死角になっている(図4.1-48)。今回の企画では、事務所の横のトイレを使用するために廊下を通った人がいたことから、「廊下の死角にミラーを設置」する必要度を調査した。図4.1-45では、参加者は8名中3名が必要・どちらかといえば必要、4名がどちらでもない、1名が不要であった。スタッフは、3名中1名がどちらでもない、2名がどちらかといえば不要と回答した。アイデンティティ別に整理した図(図4.1-46)では、ろう者のグループが、3名中2名が不要・どちらかといえば不要と回答し、その他のグループも1名どちらかといえば不要と回答した。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分け、キーワード別に整理した(表4.1-32,33)。不要コメントからは、洋室と和室の壁を撤去すればミラーは必要ないという意見がみられた。 廊下の死角よりも、洋室と和室の壁による物理的な障壁によって視覚的な情報を得にくいことが整備項目の中で優先されている。一方で、必要コメントでは一番快適なコミュニケーション手段が手話である人の「廊下での衝突の可能性」が指摘されているが、必要度はどちらかといえば不要であることから深刻な問題でないと考える。またろう者のコメントから、他の施設でミラーを見たことがあり、視覚的な情報を得るための効果があったことがわかった。  今回の調査では、ろう者のグループは3名中2名が不要・どちらかといえば不要と回答したことから、みちくさ亭におけるミラーの整備の必要性は低いと考える。しかし、聴者とわからない・考えたことがないグループでは、ミラーの必要性を感じている人もいたことから、ミラーの設置は、ろう者のみにかかわらず聴者にも有効であると推察する。 図4.1-45 1). 廊下の角にミラーを設置 図4.1-46 1). アイデンティティ別の評価 表4.1-32 1). 不要・必要コメント 表4.1-33 1). 不要・必要コメントまとめ 図4.1-47 1). テラスからトイレまでのアクセス 図4.1-48 1). 死角のある廊下 2). 振動しにくい壁や床(振動制御)/ DSD2.6  DSDのガイドラインには、混乱を引き起こす不要な振動がある場合は、減少する必要があるとしている。この不要な振動がみちくさ亭にあるのかを調査するために、「振動のない壁や床」の必要度を調査した。図4.1-49では、参加者は8名中1名が必要、5名がどちらでもない、2名が不要・どちらかといえば不要であった。一方で、スタッフは3名中2名が不要、1名がどちらでもないと回答した。アイデンティティ別に整理した図(図4.1-50)をみると、ろう者のグループは全員が不要と回答し、聴者のグループのみ、2名中1名が必要と回答した。  次に、記述されたコメント(合計3名)を課題と評価に分け、キーワード別に整理した(表4.1-34,35)。必要コメントでは、振動しにくい壁や床に対して「良いと思う」という意見がみられたが、具体的にどの部屋にあったら良いと思うかまでは不明であった。  これらの結果から、みちくさ亭では集中力が必要な部屋がなく、制御すべき不要な振動はないと推察する。またろう者全員が不要であることから、反対に振動活用ができるよう振動しやすい壁や床が好ましいと推察する。 図4.1-49 2). 振動しにくい壁や床(振動制御) 図4.1-50 2). アイデンティティ別の評価 表4.1-34 2). 不要・必要コメント 表4.1-35 2). 不要・必要コメントまとめ 3). ろう文化の情報を得ることができる掲示板/ DSD2.7  DSDのガイドラインではつながりとアイデンティティの感覚を強化するためにろう文化に関する情報にアクセスする項目がある。みちくさ亭では、ろう者の利用者は少ないが「ろう文化を得ることができる掲示板等」は必要であるかを調査した。図4.1-51から、参加者は8名中7名が必要・どちらかといえば必要と回答し、1名がどちらでもないであった。 スタッフは、3名中2名が必要であり、1名がどちらかといえば不要であった。アイデンティティ別に整理した図(図4.1-52)では、ろう者と聴者のグループは全員が必要と回答した。またわからない・考えたことがないグループは5名中4名が必要・どちらかといえば必要と回答した。また、コメントには「みちくさ亭にある掲示板にろう関連の情報もあると良い」という意見がみられた(表4.1-36)。このことから、ろう者のグループだけでなく、他のアイデンティティグループでもろう文化関連について、高い関心があると推察する。 図4.1-51 3). ろう文化の情報を得ることができる掲示板 図4.1-52 3). アイデンティティ別の評価 表4.1-36 3). 不要・必要コメント 表4.1-37 3). 不要・必要コメントまとめ 図4.1-53 3). みちくさ亭に関する情報 4). 火災報知器と連動したフラッシュライト/ DSD2.9  DSDのガイドラインには、命の安全を脅かす危険に対して視覚や振動での情報を伝えるシステムに関する項目がある。みちくさ亭では、火災報知器とフラッシュライトが連動していないため、「火災報知器と連動したフラッシュライト」に関する必要度を調査した。図4.1-54では、参加者は8名中5名が必要・どちらかといえば必要、2名がどちらでもない、1名がどちらかといえば不要であった。一方でスタッフは全員が必要と回答した。アイデンティティ別に整理した図(図4.1-55)では、聴者のグループは全員が必要としており、ろう者のグループは3名中2名が必要、1名がどちらでもないであった。わからない・考えたことがないグループは5名中3名が必要・どちらかといえば必要、1名がどちらでもない、1名がどちらかといえば不要と回答した。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分け、キーワード別に整理した(表4.1-38,39)。コメントでは、手話者の意見として、緊急時に視覚的な情報を得ることの重要性が明らかになったが、一方で不要・どちらでもない人のコメントがないため、不要としてる原因は不明である。 特に、関東圏では今後大規模な災害が起こる可能性が高まっていることから、ろう者の利用が少ないみちくさ亭において、緊急時にどのように対応するか情報共有が必要であると考える。 図4.1-54 4). 火災報知器と連動したフラッシュライト 図4.1-55 4). アイデンティティ別の評価 表4.1-38 4). 不要・必要コメント 表4.1-39 4). 不要・必要コメントまとめ 5). みちくさ亭付近のバス停/ DSD3.1  DSDのガイドラインには、通路と流れに関する項目がある。手話で会話をしながらスムーズに移動することができる広さの道が求められる。このガイドラインは、主にGallaudet Universityのキャンパスを中心に考案されたことから、まちなかでの都市計画には制限があることがわかる。それらを踏まえた上で、このガイドラインをまちなかの居場所へのアクセスに援用した。はじめに、最寄駅からみちくさ亭までの公道が非常に狭く危険であることがわかった(図4.1-59)。また場所によっては、先が見えないカーブもあり、走行音が聞こえないろう者にとって、視覚的な情報を得ることが難しい状況は極めて危険である(図4.1-60)。また、現在の最寄のバス停からみちくさ亭までの道も非常に狭く、車1台分の広さであることから背後から事が来た場合、気づきにくい(図4.1-58)。しかし、公道の改善は困難であるため、より安全にみちくさ亭にアクセスができるよう、みちくさ亭の前にバス停を誘致することを検討する。そのために、バス停の必要度について調査した。図4.1-56では、参加者とスタッフ、全員が必要・どちらかといえば必要と回答した。 アイデンティティ別に整理した図をみると、ろう者全員が必要であると回答した(図4.1-57)。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分け、キーワード別に整理した(表4.1-40, 41)。コメントから、「最寄り駅からみちくさ亭までの道が狭い」「最寄駅からみちくさ亭まで遠い」ことから。みちくさ亭付近にバス停が必要であることがわかった。また、わからない・考えたことがないグループは5名中4名が必要、1名がどちらかといえば必要であった。このグループは全員がみちくさ亭の利用者である。みちくさ亭の利用者は年齢層が高いため、ろう者だけでなく高齢者が安全にアクセスするための手段として有効であると推察する。このことからバス停の誘致を検討することは極めて重要であると言える。 図4.1-56 5). みちくさ亭付近のバス停 図4.1-57 5). アイデンティティ別の評価 表4.1-40 5). 不要・必要コメント 表4.1-41 5). 不要・必要コメントまとめ 図4.1-58 5). 最寄りのバス停からみちくさ亭まで(グーグルマップ引用) 図4.1-59 5). 最寄駅からみちくさ亭までの歩道の狭さ 図4.1-60 5). 最寄駅からみちくさ亭までの歩道にある先の見えないカーブ 6). ボタンを押さずに開く自動ドア / DSD3.3  DSDのガイドラインには、ドアを開閉する行為が手話での会話を妨げる要因であると指摘していることから、「ボタンを押さずに開く自動ドア」の必要度について調査した。図4.1-61では、参加者は8名中4名が必要・どちらかといえば必要、4名がどちらでもないと回答した。またスタッフは、3名中2名がどちらでもない、1名が不要であった。アイデンティティ別に整理した図(図4.1-62)では、ろう者のグループに1名のみ不要の回答がみられた。わからない・考えたことがないグループは5名中2名が必要・どちらかといえば必要と回答し、聴者グループは2名とも必要・どちらかといえば必要と回答した。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分け、キーワード別に整理した(表4.1-42,43)。手話者2名の不要コメントから、今回の企画では最初にテラスで受付を行い、その後の企画はテラスが中心であったため、玄関のドアの利用頻度が少なく、自動ドアの必要性を感じなかったと推察する。また、玄関には普通の民家と同様に、靴を脱いで上がるスペースがあるため、玄関に入ってすぐに会話が中断されることが考えられる。  聴者とわからない・考えたことがないグループの一番快適なコミュニケーションは手話ではない。 そのため、自動ドアを必要とする理由は手話での会話を中断させないことではないと考える。しかしながら、本アンケート調査では自動ドアを必要とする理由は明らかになっていない。 図4.1-61 6). ボタンを押さずに開く自動ドア 図4.1-62 6). アイデンティティ別の評価 表4.1-42 6). 不要・必要コメント 表4.1-43 6). 不要・必要コメントまとめ 7). 電磁気の制御のための装置 / DSD5.2  DSDのガイドラインには、電磁気が補聴器及び人工内耳への影響があるとしている。この影響を防ぐための「電磁気の制御の装置」に対する必要度を調査した。図4.1-63から、参加者は5名中4名が必要・どちらかといえば必要としており、1名がどちらでもないであった。一方、スタッフはどちらかといえば必要1名、どちらでもない1名、どちらかといえば不要1名と回答にばらつきがあった。アイデンティティ別に整理した図(図4.1-64)をみると、聴者とわからない・考えたことがないグループは全員が必要・どちらかといえば必要と回答した。しかし、ろう者のグループは3名中2名がどちらでもない、1名がどちらかといえば不要と回答した。  次に、記述されたコメント(合計4名)を課題と評価に分け、キーワード別に整理した(表4.1-44,45)。回答者のうち補聴器または人工内耳装用者は4名でそのうち1名のみ、必要コメントでは「影響がない方が良い」という意見がみられたが必要度をみると、どちらかといえば必要であった。そのため、みちくさ亭において、補聴器または人工内耳装用者への深刻な影響はないと推察する。 図4.1-63 7). 電磁気の制御のための装置 図4.1-64 7). アイデンティティ別の評価 表4.1-44 7). 不要・必要コメント 表4.1-45 7). 不要・必要コメントまとめ 4). まとめ  みちくさ亭の物理的環境要素をDSDガイドラインのサブカテゴリー21項目に当てはめ整理した結果、19項目中11.5項目が整備済であった(表4.1-6)。参加者及びスタッフへのアンケート調査から整備済の項目の満足度と未整備の項目への必要度を明らかにした。みちくさ亭では、これまでろう者の利用者は少ないことから、ろう者の利用を想定した工夫はあまりなされていない背景がある。これを踏まえた上で表4.1-46に着目すると、「仕切りのない空間」が最も不満・やや不満の評価と課題コメントが多く、評価コメントが少ない項目であった。仕切りがない場合でも、柱や壁などの物理的な障壁が視界を妨げ、満足度を下げる要因となっていることが明らかになった。また課題コメントからテラスの面積に対して適切な椅子の数が必要としていることから密度との関わりも明らかになった。  また未整備の7項目の必要度を調査した結果、「みちくさ亭付近のバス停」が最も必要・どちらかといえば必要としている人が多いことがわかった(表4.1-46)。ろう者だけでなく、高齢者が多いみちくさ亭の利用者も、より安全にアクセスするための手段として有効であると推察する。 図4.1-64 みちくさ亭 使われ方分析まとめ 表4.1-46 みちくさ亭の環境評価のまとめ 4.1.4 居場所の効果  参加者及びろうちょ~会スタッフへのみちくさ亭の利用または活動をきっかけに変化したことに対する質問から、ろうちょ~会がみちくさ亭を利用する際の居場所の効果を明らかにした。  スタッフの回答では、全員が「聴者の知人・友人ができた」に回答した(図4.1-66)。 今回の企画の参加者は8名中7名が聞こえる人であるが、ろう者が中心となって運営を行うことによって、声を使わずに交流するという仕掛けが、ろう者と聴者が対等にコミュニケーションを取ることができる環境を生み出している。これがろう者・聴者との相互理解を促進していると考える。さらに、3名中2名が「手話への興味が高まった」「聴覚障害者(ろう・難聴等)のある知人・友人ができた」「聴覚障害者(ろう・難聴等)について情報交換や相談ができた」と回答した。このことから、これまでろう学校やろうあ連盟などが提供していたろう者同士のつながりもみられた。  参加者の回答では、7名中6名が「手話への興味が高まった」と回答した(図4.1-67)。アイデンティグループ別にみると、わからない・考えたことがないグループが4名、聴者が2名であった。また参加者の7名中4名が「聴覚障害者(ろう・難聴者等)への興味が高まった」と回答し、聴者のグループが2名、わからない・考えたことがないとろう者がそれぞれ1名であった。これらの回答から、特に聴者とわからない・考えたことがないグループの関心の高さが伺える。  これらの結果から、これまでろう者の利用が少なかった場所でも、ろう学校やろうあ連盟でみられた居場所の効果に加えて、聴者とろう者の交流をきっかけに手話やろう者への理解と興味を高める効果も生み出していることが明らかになった。 図4.1-65 ろうちょ~会の活動をきっかけに変化したこと(n=3) 図4.1-66 ろうちょ~会の参加をきっかけに変化したこと(n=7) 4.1.5 小括  みちくさ亭におけるDSDのガイドラインは、17項目中11項目が整備済であった(表4.1-6)。5つのコンセプトのうち、1 Space & Proximity と4 Light & Colorの項目では全て整備済であったが、2Sensory Reach、3 Mobility & Proximity、5 Acoustics and EMIでは未整備の項目があった。特に整備済の項目が8項目中4項目であった 2 Sensory Reach は、反射、振動(制御)、ろう文化関連、コミュニケーションシステム、緊急システムに関する項目である。  みちくさ亭は、他の研究対象と比較してDSDの整備率がもっとも低かった。その要因は、みちくさ亭ではこれまでろう者の利用が少なく、改修の際にろう者の利用を想定していなかったことにあると推察する。しかしながら、意図的ではないが整備済の項目が19項目中7.5項目あった(表 4.1-6)。  このように意図的ではないがDSDが整備されている建物において、ろうちょ~会が企画を実施した際の参加者の環境評価を行ったところ、「仕切りのない空間」が最も不満・やや不満の評価と課題コメントが多く、評価コメントが少ない項目であった。仕切りがない場合でも、柱や壁などの物理的な障壁が視界を妨げること、テラスの面積に対して適切な密度でないことが満足度を下げる要因となっていることが明らかになった。また未整備の項目では、「みちくさ亭付近のバス停」が最も必要・どちらかといえば必要としている人が多いことがわかった(表4.1-46)。ろう者だけでなく、高齢者が多いみちくさ亭の利用者も、より安全にアクセスするための手段として有効であると推察する。  これらの結果を踏まえると、みちくさ亭では建築的な面でのCultural Customizationは難しいと考える。しかし、設備に関しては、以前ろうちょ~会が企画を実施した際に、ろう者のスタッフによる西日の問題が指摘されたことから、遮光シートが導入した経緯がある。このことから、みちくさ亭のオーナーとの関係により改善できる可能性があると考える。また什器に関しては、企画の内容に合 わせて椅子やテーブルの配置を変更できることから、改善できる可能性が非常に高いと推察する。  またろうちょ~会での居場所の効果は、これまでろう者の利用が少ない場所でも、ろう者が主体となって企画を行うことで、聴者とろう者が相互理解を深めることができ、ろう者にとっても新たな居場所の効果が生み出されることが明らかになった。 第5章 結論 第5章 結論 5.1 運営方針及び形成過程  対象となる各居場所の開業までの制約・促進、建築・整備プロセスを整理したものを表5.1-1に示す。非常設の場合は、特定の建物を所有しないため、制約及び促進の影響がみられなかった。特定の建物を所有しないことにより、ろう者が利用する際のCultural Customizationに限界がある。しかし、企画の内容に合わせて、場所を選定できることはメリットの1つである。  常設の場合は新築-所有、改修-賃貸、さらに民間と行政によって制約・促進、建築・整備プロセスに特徴があることが明らかになった。  新築-所有の場合は、土地を購入する過程で制約がみられた。特に障害者施設の建設は地域住民からの反発が懸念されるため、地域住民への理解促進が重視される。その結果、ろう・難聴者の利用だけでなく、地域住民との関わりを重視した空間計画及びプログラムに取り組んだことがわかった。  改修-賃貸の場合は、建物の所有が民間であるか、行政であるかによって異なる影響がある。行政の場合は、規定の変更が困難であるため、民間に比べて制約が強い傾向にあると推察する。  建築・整備プロセスでは、非常設のろうちょ~会のケースを除いてすべての居場所でろう者によるプロセスの関与が明らかになった。これがDSDの整備率に影響を与えていると推察する。 表5.1-1 居場所の制約・促進・プロセスのまとめ 5.2 居場所に求められるDeafSpace Design  使われ方分析により各居場所のDSDの整備率を明らかにした(表5.2-2)。居場所によって、該当しない項目もあるため、整備率の母数が異なる。全体の特徴として、まずふくろうの杜は1FのDSDの整備率は18項目中12項目、4Fは17項目中13項目であった。手楽来家では18項目中12項目、SWMは17項目中11項目で、ろうちょ~会が企画を実施したみちくさ亭は19項目中11.5項目であった。みちくさ亭では、DSDの整備を意図的に行なっていないが、整備済の項目があることがわかった。このことから、建物形態別にみると常設-新築-所有の場合は他の建物の形態に比べて、整備率が高いことがわかった。  DSDのサブカテゴリーに着目し、整備済5項目中4項目以上を整備率が高く、整備済5項目中1項目以下を整備率が低いとした。この結果をDSDのコンセプト別にみると、1 Space & Proximityでは、3項目中2項目が整備率が高いことがわかった。2 Sensory Reachでは、9項目中4項目が整備率が高く、3項目が整備率が低い結果となった。3 Mobility & Proximityは、4項目中各1項目ずつ、整備率が高い項目、低い項目があることがわかった。4 Light & Colorでは、3項目全て整備率が高かったが、5 Acoustics and EMIでは、2項目中1項目が整備率が低い項目があることがわかった。  DSDの整備のしやすさでは、新築 - 所有の場合は、21項目中8項目整備しやすいことがわかった(表5.2-1)。新築または改修、所有または賃貸の場合は、21項目中4項目であった。建物の形態に関係なく整備しやすい項目は21項目中4項目であった。このことから、新築-所有の場合は他の建物の形態に比べて整備しやすいことがわかった。  次に、DSDの整備手段に着目すると、整備手段が建築の場合は、特に新築-所有の建物においてDSDを整備しやすい傾向にあった。設備の場合は、オーナーの方針によって左右されるため、改修-賃貸よりも新築-所有の方が整備しやすい傾向にあった。什器・備品の場合は、建物の形態に関係なく整備しやすいことがわかった。しかし、環境や製品の特性によって使いづらさが指摘されていることから、設置場所や製品の選定に注意が必要であることが明らかになった(表5.2-1)。  次に、各居場所のDSDに対する利用者の環境評価(以下、環境評価とする)の結果をDSDのコンセプト別に整理した。 1 Space & Proximity  1.1 Degrees of Enclosureでは、全ての研究対象で整備済であった。しかし、環境評価を行った全ての研究対象で、ろう者の不満があった。これは仕切りのない空間でも図3.2-15のように柱やカウンターの低い壁などの障害物がある場合、満足度が下がる要因となることが明らかになった。また手楽来家とみちくさ亭では、アンケート調査のコメントから、面積に対して人数が多いと見渡しにくいという指摘があった。また、SWMでは狭さや圧迫感に関する指摘もあることから空間の滞在者の密度と見渡しやすさが関係していることが明らかになった。物理的な環境要素だけでなく、密度も重要な項目になると言える。このことから、常設-新築-所有の場合は、不要な障害物を取り除きやすくなると考える。一方で、常設-改修-賃貸および非常設の場では、不要な障害物の干渉を受けやすいと推察する。 1.3 Collective Space - Promoting Connectionでも、全ての研究対象で整備済であった。コメントから、SWMではろう者または手話者が狭さや圧迫感、見渡しにくさを感じていることがわかった。 またみちくさ亭では、3時間の企画のうち、椅子の配置が3パターンあることがわかった(図4.1-17, 18, 19)。企画の内容に合わせて手話が見やすいように椅子の配置を調整している。つまり、空間の面積に対して適切な机や椅子の数が必要であることから、ここでも密度の関わりがあると言える。 2 Sensory Reach  2.1 Visual Cues and Lgibilityは全ての研究対象で該当しなかった。これは、主にキャンパスなどの敷地内に関するDSDの項目であることが要因であると考えられる。 次に、2.2 Transparency & Privacyと2.3 Spatial Awareness - Transparencyの項目は全ての研究対象で整備済であった。しかしながら、環境評価では、SWMで不満・やや不満が最も多く、手楽来家で不満・やや不満と課題コメントが最も多い項目であった。ドアの種類によって透過性が異なることや用途にあった適切な透過性でないことが要因であると推察する。 表5.2-1 使われ方分析及び利用者の環境評価のまとめ 2.4 Reflectionでは、手楽来家のみミラーを設置していた。手楽来家では階段に死角があるため、ミラーを設置することによって衝突を防いでいる。一方で、ふくろうの杜やSWMでは死角がないため、未整備であった。みちくさ亭では回廊型の廊下に死角があった。必要度を確認すると、ろう者のグループは必要としておらず、聴者とわからない・考えたことがないアイデンティティグループのみ必要・どちらかといえば必要の回答があった。このことから、ミラーは聞こえる人にも有効であると言える。安価で設置も容易であるため、オーナーの理解があればミラーは導入しやすいと考える。  2.5 Sensory Reach - Vibration - Utilizationと2.6 Sensory Reach - Vibration - Controlでは、みちくさ亭のみUtilizaitonの項目が意図的でないが整備済であることがわかった。ろう者は、床をドンドンと踏むことにより発生する振動で離れている人を呼ぶ特有の行動様式があることはろう者の中で認知されている。しかし、整備済の居場所が少ないことから、DSDの中では意識されにくい項目であることが明らかになった。環境評価から、みちくさ亭では、整備済の振動活用に対してやや不満と感じている人は参加者・スタッフ合計11名中1名のみで、未整備である振動制御を必要としている人が聴者1名のみであることがわかった。手楽来家では振動制御を必要としている人は聴者1名のみであったが、振動活用を必要としている人は利用者・スタッフ15名中9名であった。ろう者6名中5名が回答したことがから、ろう者の振動活用に対する関心が高いことがわかる。コメントから、振動によって周囲の状況を把握することができるなどの回答がみられた。みちくさ亭のテラスでは、イベントなどの使用を想定して貸し出しを行っていることや、手楽来家では機械などを使った作業が中心であるため周囲の状況を把握することが重要であることから、振動活用する機会があると推察する。このことから、DSDのガイドラインと同様に、使用する部屋の用途に合わせて振動の活用や制御を行うことが重要であることがわかった。振動の活用や制御は、改修-賃貸では整備が難しいことから、新築-所有で振動に関する項目を整備する際は、部屋の用途を明確することが重要であると思われる。  2.7 Sensory Reach - Culturalはろうについての情報やDeaf Artなどが挙げられる。ここでは、ろう者が主体となって運営している居場所のみ整備済であった。しかし、整備済でもテレビはコンテンツが少ないことが指摘された。また掲示板は、日本語が難しいろう者による動画コンテンツの要求があることがわかった。みちくさ亭では、ろう者の利用はほとんどないが、アンケート調査から、みちくさ亭にある既存の掲示板にろう文化やろう関連の情報も掲載してほしいという声があり、整備の必要としている人は参加者・スタッフ合計11名中9名であった。情報を掲載することによって、ろう者の利用だけでなく、聴者がろう者についての理解を促進するためのきっかけになると推察する。  2.8 Communication Systemsでは、訪問者に気づくためのフラッシュライトと、ろう者と聴者がコミュニケーションするためのホワイトボードや黒板に分けることができた。フラッシュライトは、手楽来家を除く全ての研究対象で整備されており、ホワイトボードや黒板はふくろうの杜以外の研究対象で整備済であった。環境評価では、SWMの黒板・セルフオーダーシステム・呼出ボタンとフラッシュライトの項目で不満があった。これは、フラッシュライト(呼出ボタン)や黒板、ホワイトボードの利用のしにくさが要因であると推察する。例えば、呼出ボタンでは設置場所がわかりにくいため気づきにくいという意見があった。ホワイトボードは可動のしやすさが求められていることがわかった。この項目は、常設・非常設のどちらでも導入しやすい整備項目であるが設置場所や導入する製品の選定が重要であると推察する。  2.9 Sensory Reach - Emergency Visual Annunciation Systemでは、火災報知器とフラッシュライトとの連動に関する項目で、緊急時に視覚的な情報を得ることによってろう者が自ら判断し、避難することを可能にしている。ふくろうの杜や手楽来家では整備済であったが、SWMとみちくさ亭では未整備であることがわかった。SWMでは、ろうの運営者の要望に反して、建物内の機械から店内への接続が難しいことによって、実現不可であったことがわかった。しかし、環境評価では、利用客・スタッフ合計42名中38名が必要・どちらかといえば必要と回答した。またみちくさ亭は、ろう者の利用が少ないことが未整備の要因であると考えるが、ここでも参加者・スタッフ合計11名中8名が必要・どちらかといえば必要としている。日本の消防法では、緊急時に視覚的な情報を得るための設備の義務化について明記されていないことから、現状ではオーナーの理解によって取り付けの有無が決まる。法律として明記されることによって、新築だけでなく改修の際も積極的に導入される可能性が高まると推察する。今後、大規模な災害が起こる可能性もあることから、迅速な法整備の見直しが必要である。 Pathways & Flowでは、主に引き戸の項目が全ての研究対象で整備済であった。特に、ふくろうの杜では、別の運営場所で開き戸による衝突が明らかになり、意図的に引き戸を採用していることがわかった。手楽来家では、1階の作業所の入り口のみ、開き戸である。利用者全員がこの開き戸で、衝突した経験があると主張している。またみちくさ亭では、引き戸の問題だけでなく最寄駅からみちくさ亭までの歩道が狭く、先の見えないカーブがあり非常に危険であることがわかった。この歩道は公道であるため改善することが難しい。そこで、みちくさ亭付近のバス停の必要度を確認したところ、全員が必要・どちらかといえば必要と回答した。  3.2 Ramps & Stairsでは、SWM以外の研究対象で整備済であった。SWMは階段やスロープがないため該当なしであった。手楽来家の階段は、狭く傾斜が急であるが改修-賃貸であるため改善が難しい。一方で、新築-所有であるふくろうの杜では、踊り場側の壁が一部ないによって、対向側の様子が見やすく、衝突を防ぐことが可能であると推察する。また、みちくさ亭でもスロープや緩やかな階段があることから不満がみられなかったが、スロープの先にバイクが止められていることがスムーズな移動を妨げているという指摘があった。  3.3 Thresholdsでは、ふくろうの杜ではボタンのない自動ドアがあるため整備済であったが、SWMの自動ドアはボタンがあること、手楽来家とみちくさ亭はそれぞれ引き戸であることから未整備であった。みちくさ亭では、玄関に入ってすぐに靴を脱いで上がること、SWMでは自動ドアのすぐ目の前にカウンターがあることから、自動ドアがあっても入ってすぐに会話を中断させる要素があり、整備の必要度は低いと考えられる。DSDのガイドラインは、主に Galladudet Univesityのキャンパスを中心に構築してるため、多くの学生が頻繁に出入りするキャンパス内の施設では有効であるが、出入りの頻度が少ない居場所では必要度が低くなると推察する。 4 Light & Color  この項目は、視覚的なコミュニケーションを円滑に促すための整備項目である。4.1 Color & Surface Textureでは、すべての研究対象に白い壁紙が整備されていた。また環境評価では、全ての居場所で不満はみられなかった。日本では白い壁紙は一般的であるため、整備されやすいと推察する。  4.2 Solar Control - Daylight & Shadeでは、すべての研究対象で、自然光を調整するためのカーテンや遮光シートが導入されており、環境評価では全ての居場所で不満はみられなかった。みちくさ亭では以前ろうちょ~会が企画を実施した際に、ろう者のスタッフによる西日の問題が指摘されたことから、遮光シートを導入した経緯がある。このことから、未整備であってもオーナーの理解によっては、整備しやすい項目であると推察する。  4.3 Electric Light - Shaping Spaceでは、全ての研究対象で整備済であった。環境評価から、手楽来家とSWMでは不満がみられなかったことがわかった。これらの居場所では、特に照明に力を入れていたことが、満足度が高い結果につながったと推察する。みちくさ亭では、1名のみやや不満があった。コメントから、周囲の明るさに合わせて照明を調整できることが好ましいことがわかった。 このことから、常設ではろう者に合わせた適切な明るさに整備することが可能だが、非常設の場合は照明の調節が難しいと推察する。 5 Acoustics and EMI  5.1 Acousticsは、補聴器または人工内耳装用者にとって非常に重要な項目である。みちくさ亭では、テラスに室外機があるが、全てのアイデンティティグループで制御の必要性がみられなかった。 ふくろうの杜4階とSWMは、机と椅子の脚に騒音を減少させるカバーをつけていたことから整備済であった。環境評価では、SWMでは難聴者1名が不満と回答した。さらに、補聴器装用者による課題コメントもみられた。一方で、聴者は9名中8名が満足・やや満足と回答したことから、聴者への騒音に関する悪影響はないと考える。手楽来家では騒音の制御項目が未整備であったため、騒音の制御に対する必要度について調査したところ、コメントから難聴者のスタッフのニーズが高いことが明らかになった。 このことから、特に机や椅子を動かす際の騒音が難聴者または補聴器装用者に悪影響を与えていることがわかる。机や椅子のカバーは、安価ですぐに取り付けが可能であることから、常設・非常設に関係なく導入できると推察する。  5.2 EMIでは全ての研究対象で未整備であった。環境評価による整備の必要度では、手楽来家は聴者が6名中2名、SWMではろう者13名中1名、難聴者6名中2名、聴者11名中6名、みちくさ亭ではわからない考えたことがない人が2名中2名、必要と回答したことがわかった。しかし、補聴器装用者による「必要としているならあると良い」といった回答があることから、深刻な問題はみられなかった。しかし、手楽来家では利用者のニーズがあれば対応する方針であることがわかった。 表5.2-2 使われ方分析及び利用者の環境評価のまとめ 5.3 居場所の効果  手楽来家とSWM、ろうちょ~会がみちくさ亭で企画を実施した居場所の効果に関するアンケート調査の結果を、Step1~3に分類した(図5.3-1)。Step1は興味の喚起、Step2は関わりの数的進展、Step3は関わりの質的進展となっている。この結果をろう者と聴者の視点で整理した。  ろう者の視点では、手話やろう関連の項目から全ての研究対象で、これまでろう学校やろうあ連盟などが提供していた役割と同様の役割を担っていることがわかった。それに加えて、SWMでは「聴者への興味が高まった」、手楽来家とろうちょ~会では「聴者の知人・友人ができた」という項目があったことから、これまでにない新たな居場所の効果がみられた。また、SWMでは聴者について興味が高まったStep1、手楽来家とろうちょ~会は聴者の知人・友人ができたStep2がみられた。これは手楽来家やろうちょ~会では、毎日顔を合わせることや企画、交流を通して聴者と話す機会を意図的に作り出していることがきっかけであると考える。SWMでは、現在は新型コロナウイルス感染症流行のため、スタッフによる茶話会や他団体への貸出などを行なっていない。しかし、活動が再開することによって、Step2への移行がみられると推察する。  聴者の視点では、対象となるすべての居場所で手話やろう者への興味が高まったという回答がみられた。SWMとろうちょ~会を利用または参加した聴者は、手話やろう者に対して、興味があるに留まるため、Step1の段階であると考える。手楽来家では、手話やろう者への興味に留まらず、「聴覚障害者(ろう・難聴)のグループや活動に参加するようになった」、「聴覚障害(ろう・難聴)のある利用者への支援スキルが身についた」など、ろう者との関わりに積極的であることが明らかになった。これは、手話サロンや大学の手話サークルの学習者、つまりStep1とStep2の段階の聴者が手楽来家で働くことによってStep3に移行したと考えられる。  このように、ろう者だけでなく聴者にも居場所の効果がみられる。ろう者と聴者を分断するのではなく、互いの文化について理解を促進させるためのまちなかの居場所は、共生社会の実現への指標になりえると考える。 図5.3-1 居場所の効果 5.4 結論  近年の多様な居場所では、ろう者同士のつながりに加えてろう者と聴者のつながりなどが生み出されていることがわかった。  運営方針及び形成過程では、日本ではDSDの概念は浸透していないが、ろう者が建築・整備プロセスに関与している場合、DSDと共通する項目が多いことが明らかになった。このことから、ろう者は直感的に自身の知覚・特有の行動様式に合わせて空間を調整していることが再確認できた。  また居場所に求められるDSDでは、建物の形態別にみると、活動場所を所有する常設の場合はDSDの整備率が高いことがわかった。しかし、特に振動に関する項目は、建物の形態に関係なく、最も整備率が低いことが明らかになった。今後、新たな居場所を造る際、特に振動に関する項目を意識しながら、DSDのガイドラインに基づいて建築・整備を行うことや、建築・整備プロセスにろう者が関与することで、よりろう者にあった環境づくりが期待できる。 5.5 今後の課題・展望  本研究における調査の対象は図1.3-1で抽出したまちなかの居場所の中から、ろう者が中心となって居場所を運営しているアソシエーションとした。そのうち、非営利-新築-所有、非営利-改修-賃貸、任意-非常設のみを対象としているため、その他の条件に当てはまるアソシエーションの調査が必要である。また非営利-新築-所有のふくろうの杜では利用者の環境評価の分析が不十分であることから、DSDに対する満足度を調査する必要がある。さらに、ろうちょ~会では、様々な場所で企画を実施していることから、他の空間ではどのような影響があるか、生み出される効果に相違はあるかを明らかにしたい。  最後に、本研究ではろう者のコミュニケーション手段や知覚、行動様式、ろう文化に着目したDeafSpace Designの視点で、ろう者の居場所の形成要素と役割や課題を明らかにした。日本国内でもろう者の生活やろう文化に寄り添う建築の在り方が周知されるよう引き続き研究を進めたいと考えている。 謝辞  本論文は、国立大学法人 筑波技術大学大学院 技術科学研究科 産業技術学専攻 総合デザインコース修士課程において行った研究の成果をまとめたものです。本論文をまとめるにあたり、多くの方々にご協力をいただきました。  本論文を遂行するにあたり、筑波技術大学 産業技術学部産業情報学科 山脇 博紀教授には指導教員として、梅本 舞子准教授には副指導教員として、終始多大なご指導とご助言をいただき深く感謝申し上げます。ご指導いただいたことは、今後もDeafSpace Designに関する研究活動を継続するにあたり、私の土台となり続けると思います。  筑波技術大学 産業技術学部総合デザイン学科 井上 征矢教授には修士論文の主査として、筑波技術大学 産業技術学部産業情報学科 櫻庭 晶子准教授には副査として、貴重な時間を割いてご精読いただき、ご指導とご助言をいただきました。厚く感謝申し上げます。  ヒアリング調査、現地調査及びアンケート調査にご協力いただいた神戸長田ふくろうの杜の大矢 暹様、スタッフの皆様、就労継続支援B型手楽来家の臼井 千恵様、五十嵐 依子様をはじめとするスタッフの皆様、利用者の皆様、Sign with Me 春日店の柳匡 裕様、アクターの皆様、利用客の皆様、ろうちょ~会の岩田 直樹様をはじめとするスタッフの皆様、参加者の皆様に心よりお礼申し上げます。  また一般社団法人関彰育英会の支援により、コロナ禍においても研究を継続することができました。深く感謝申し上げます。  論文執筆にあたって励ましてくれた大学院の同期、後輩の皆さんに心よりお礼申し上げます。特に、同期である高橋 彩加さんは、私の聴者に対する抵抗や壁をなくしてくれました。お互いにろう文化と聴文化を教え合い、尊重し合うことの大切さを学んだことをきっかけに、研究をより深く理解することができました。  DeafSpace Designに関する研究を始めたきっかけは、筑波技術大学の学部時代に米国研修に参加したことです。引率の担当であった筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 大杉 豊教授がろう者同士、流暢なアメリカ手話で議論するのを目の当たりにしたこと、Gallaudet UniversityでDeafSpace Designに関する特別講義を受講したことです。大学を卒業後、米国のGallaudet Universityに留学する機会を与えて下さった、日本財団聴覚障害者海外奨学金事業関係者の皆様に感謝申し上げます。  最後に、米国留学や本学大学院への進学を快諾し、精神的に疲労した時も自分のことのように支えてくださり、常に夢を応援してくださった家族に心から感謝いたします。 参考文献 [1] 杉山 祐一郎・松本 直司. 手話者のコミュニケーション空間に関する研究 : 2人組の立位での距離と角度について. 日本建築学会大会学術講演梗概集; 2006; pp877-878. [2] Bauman, Hansel. Gallaudet university deafspace design guidelines, volume1. Hansel Bauman Architect, 2010. [3] Bauman, Hansel. Deafspace an architecture toward a more livable and sustainable world. In: Bauman, H - Dirksen & Murray, Joseph.  Deaf gain raising the stakes for human diversity. University of Minnesota press, 2014; p.375-401. [4] Matthew Malzkuhn. Cultural customization of home.Gallaudet University master’s thesis, 2009. [5] Marschark, Marc & Spencer, Patricia, eds. The oxford handbook of deaf studies, language, and education, volume1. Oxford University press, 2011. (マーク マースシャーク・パトリシア エリザベス スペンサー 四日市 章・鄭仁豪・澤 隆史(監). オックスフォード・ハンドブック デフ・スタディーズ ろう者の研究・言語・教育. 明石書店, 2015) [6] Ladd, Paddy, 森 壮也(監), 他. ろう文化の歴史と展望:ろうコミュニティの脱植民地化. 明石書店, 2007. 注1:Baker, C. & Padden, C. American sign language: a look at its story structure and community. Silver Spring, MD: T.J. Publishers Inc, 1978. [7] Maclver, Robert. Community, a sociological study: being an attempt to set out the nature and fundamental laws of social. Ayer Co Pub, 1917. (中 史郎・松本 通晴(訳). コミュニティ:社会学的研究:社会生活の性質と基本法則に関する一試論. ミネルヴァ書房, 2009) [8] 公益社団法人兵庫県聴覚障害者協会. 阪神・淡路大震災から18年をむかえた兵庫県における聴覚障害者の実態と生活ニーズ調査報告書. 公益社団法人兵庫県聴覚障害者協会, 2014. [9] 福島 愛未. 聴覚障害者の「自己発生音」に関する研究. 筑波技術大学産業技術学部, 卒業論文(未刊行), 2016. [10] 柳 匡裕. Sign with Me 店内は手話が公用語. 学研教育出版, 2012. [11] 一般社団法人全日本ろうあ連盟. 東日本大震災と聴覚障害者支援. 内閣府ホームページ(cited 2021-7-29), http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/youengosya/h24_kentoukai/2/5.pdf [12] 社団法人 日本火災報知機工業会. 聴覚障害者のための火災警報装置「難聴者や高齢者にも分かりやすい警報」調査研究報告書. 東京消防庁ホームページ(cited 2021-12-23),https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-yobouka/fukugouterminalanzen/2303_8-3.pdf [13] 杉山 祐一郎・松本 直司. 手話者のコミュニケーション空間に関する研究 その2 - 2人組の椅座位(机あり)での会話のしやすさについて. 日本建築学会大会学術講演梗概集; 2007; pp851-852. 資料 アンケート調査(全ての研究対象で共通する項目) 手楽来家アンケート調査(利用者) 手楽来家アンケート調査(スタッフ) Sign with Me 春日店アンケート調査(利用客) Sign with Me 春日店アンケート調査(スタッフ) ろうちょ~会アンケート調査(参加者) ろうちょ~会アンケート調査(スタッフ)