音声ユーザインタフェースの活用による視覚障害者の可能性 鶴見昌代1),河原正治1),宮城愛美2),小林ゆきの2) 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科1) 障害者高等教育研究支援センター2) 要旨:音声ユーザインタフェースが普及しつつある。視覚障害者にとって有益なツールとなる可能性の高い音声ユーザインタフェースを視覚障害者の可能性を広げるために活用すべく,取り組んでいる。本稿では,本プロジェクトのこれまでの取り組みについてまとめる。 キーワード:音声ユーザインタフェース(VUI),スマートスピーカー,視覚障害者 1.はじめに  近年の情報技術の急速な発達により,社会環境は大きく変わり,最新のテクノロジーにより視覚障害による障壁が減少し,音声による新しいインタフェースであるVUI(音声ユーザインタフェース)も登場した。視覚障害者は,日常的に,視覚情報の不足を音声情報で補うことが多く,音声によるコミュニケーションの機会が多い。このようなことから,音声ユーザインタフェースは,視覚障害者にとって非常に使いやすいものであることが推測される。 2.本プロジェクトの取り組み  我々は,これまでにもこのプロジェクトに関して多くの取り組みを実施している[1]。視覚障害者のためのイベントであるサイトワールドにおいて,視覚障害者によるスマートスピーカー活用の可能性についてデモンストレーションを行ったり,本学の体験入学としてオープンキャンパスでもデモンストレーションを実施したりしてきた。また,研究協力者である視覚障害のある学生が入賞し,視覚障害者自身がスマートスピーカーのアプリケーション(スキル)開発において活躍できる可能性を実証している。  スマートスピーカー・スマートホームデバイスに関する利活用に関する調査分析を公表し[2],その後,この論文が認められ,IBM賞を受賞した[3]。さらに,国内の学術会議において研究成果を公表する[4]だけでなく,障害者のための技術に関する著名な国際会議であるICCHP[5]やCSUN[6]でも講演が採択され,論文の公表や講演を行うことで,この研究プロジェクトを世界的にもアピールすることができている。  Amazon社より,スマートスピーカーEcho Spotを150台以上寄贈いただくことができた[7]。このため,希望する保健科学部学生にEcho Spotを無償で配布した。希望者がいれば,設定方法に関する説明会を開催する予定であったが,ほとんどの学生が自力で設定でき,特に設定方法に関する説明会を必要としないと回答したため,説明会は実施しないこととした。スマートスピーカーについて,「今 まで知らなかったが,すぐに使いこなせるようになった」と回答する学生が多く,このことからも今回無償配布した意義があったと考えられる。  これとは別に,指導する学生が埼玉県立特別支援学校塙保己一学園および茨城県立盲学校において体験授業を実施した[8,9,10]。このことにより,盲学校生徒の生活の質を高め,彼らに進路の多様性の気づきを与えることができている。さらにこの指導学生は奨励賞を受賞した[11]。  また,前年度の茨城テックプラングランプリ最優秀賞を受賞した経緯から,IBARAKI Tech Planter 2021 春号vol.2にも本研究プロジェクトの取り組みが紹介された[12]。  今後もこの研究プロジェクトを継続・拡大し,視覚障害者の可能性を広げていきたい。 参照文献 [1] スマートスピーカー(AIスピーカー)アプリ(スキル)開発教育・研究プロジェクト,http://www.cs.k.tsukuba-tech.ac.jp/labo/tsurumi/SmartSpeaker/ [2] 鶴見昌代,宮城愛美,新美知枝子,視覚障害者のスマートスピーカー・スマートホームデバイスの利用状況に関する調査分析,情報処理学会研究報告2020-AAC-13,2020.8.29 [3] 鶴見昌代,宮城愛美,新美知枝子,情報処理学会アクセシビリティ研究会第5回IBM賞,2021.3.30 https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/vi_2021042001.html [4] 鶴見昌代,宮城愛美,音声ユーザインタフェース設計における視覚障害者の可能性,第30回ライフサポート学会フロンティア講演会 2021.3.10 [5] Masayo Tsurumi, Manabi Miyagi, and Yoshihiro Tamura, Survey on Use of Smart Speakers and Smart Home Devices by Visually Impaired People in Japan, A. Petz and K. Miesenberger(eds.), ICCHP Open Access Compendium--Future Perspectives of AT,eAccessibility and eInclusion--, pp.55-62, (2020) ISBN: 978-3-9504630-2-6 [6] Masayo Tsurumi, Manabi Miyagi, Possibilities for people with Visual Impairments in Designing Voice User Interface, 36th CSUN Assistive Technology Conference, 2021.3 (accepted) [7] Amazon様よりスマートスピーカーEcho Spotをご寄贈いただきました,https://www.tsukuba-tech.ac.jp/news/news_2020/vi_2020111901.html [8] 中村友海,鶴見昌代,宮城愛美, スマートスピーカー・スマートホームデバイス活用に関する体験授業,埼玉県立特別支援学校塙保己一学園体験授業,2020.11.9, 12, 13 https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/activity_2020/vi_2020012201.html [9] 中村友海,鶴見昌代,宮城愛美,スマートスピーカー・スマートホームデバイス活用に関する体験授業,茨城県立盲学校体験授業,2020.12.9 https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/activity_2020/vi_2021012601.html 茨城県立盲学校公式ブログ:https://ibamou.blogspot.com/2020/12/blogpost_25.html [10] 中村友海,鶴見昌代,宮城愛美,盲学校におけるスマートスピーカー活用の可能性,第30回ライフサポート学会フロンティア講演会, 2021.3.9 [11] 中村友海,盲学校におけるスマートスピーカー活用の可能性,第30回ライフサポート学会フロンティア講演会奨励賞, 2021.3.9 https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/activity_2020/vi_2021031201.html [12] Voice Comms(筑波技術大学 鶴見昌代),2019年度最優秀チームインタビュー「音声ユーザーインターフェースで視覚障害者の可能性を広げる」,IBARAKI Tech Planter 2021 春号 vol.2 p.13