視覚障害者のためのビジネスモデルのフレームワーク構築 堀江則之 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:ビジネスモデル,フレームワーク 1.はじめに 視覚障害を持った学生が卒業後に就職することを念頭に置いて,“経営”を学ぶことの意義や重要性をどう伝えていくか日々,試行錯誤している。そうした中で,社会の中で自立して働いていくためにも,企業経営について理解することは職種,業種に限らず必須であると考える。いわゆる顧客を満足させるとともに,利益を獲得するための仕組みなどを理解することである。このような経営の仕組みの理解や新規ビジネスの創造を思考する支援ツールとして有効と考えられるのがビジネスモデルである。これまでいくつかのビジネスモデルのフレームワークが提案されているが,“視覚障害者に配慮したビジネスモデルのフレームワーク”という観点における研究は十分に行われていない。そこで,本研究は視覚障害者のためのビジネスモデルのフレームワーク構築を目標とした。 2.成果概要 従来のビジネスモデルのフレームワークに関する研究として,実例からビジネスモデルのパターンを明らかにしているもので,今枝[1]がある。また,ビジネスモデルの設計ツールとしては,オスターワルダーら[2]がある。これらの研究は,構造が一目で分かるように図解が用いられており,晴眼者にとっては理解しやすいが,一方で視覚障害者にとっては構造が分かりにくいと思われる。一方で,川上[3]の“儲ける仕組みをつくる”フレームワークは,3×3のマトリクスで構成されており,9つの質問に回答することによって「顧客価値」,「利益」,「プロセス」を明らかにし,ビジネスモデルを構築する構造となっている。そこで,川上のフレームワークを援用し,「顧客価値」「利益」,「,プロセス」の講義後に,フレームワークを用いた演習を実施した。学生の回答の分析や演習の感想の結果から,顧客価値を創造していく上で必要なビジネスモデル思考が理解できたと思われる。 一般的に,ビジネスモデルのフレームワークを活用できる人材は,視覚障害の有無に限らず欲しい人材となりえる可能性がある。このことは,視覚障害者の職域開拓が長年の課題となっている中で,視覚障害者自身が主体的に視覚障害者の雇用について考えることや,社会に視覚障害者の職能的価値のアピール方法などの検討をするためのツールとしてもフレームワークは有効活用できると考える。視覚障害者がビジネスモデルのフレームワークを活用できる知識と技能を身につけることにより,主体的に収益を上げるアイデアや新商品,サービスのコンセプトを提案できる人材を目指せることが期待できる。したがって,経験や勘だけに頼るのではなく,ビジネスモデルのフレームワークをシステマティックに活用できることは,視覚障害者自らの職域開拓への一つの効果的なアプローチとして寄与する点が大きいと考える。 参考文献 [1] 今枝昌宏.経営戦略を見る目と考える力を養う ビジネスモデルの教科書.東洋経済新報社,2014 [2] アレックス・オスターワルダー,イヴ・ピニュール.ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書.翔泳社,2012 [3] 川上昌直.儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書.かんき出版,2013