研究新型コロナウィルス対策のオンライン授業に適合させた文字による遠隔情報保障システムの改良と,学外支援による事例収集およびノウハウの発信 三好茂樹1),河野純大2),加藤伸子2),磯田恭子1),白澤麻弓1) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者支援研究部1) 産業技術学部学科 総合デザイン学科2) キーワード:情報保障,遠隔情報保障,T-TAC Caption,PEPNet-Japan 1. はじめに  筑波技術大学障害者高等教育研究支援センターでは,2007年度から「聴覚障害学生支援・大学間コラボレーションスキーム構築事業(以下,T-TAC事業)[1]」を開始した。この事業では,全国の大学等高等教育機関(以下,大学等)で学ぶ聴覚障害学生支援のための相談対応や支援技術の開発,情報発信等に取り組んできた。また,これらの活動に加えて,T-TAC事業の一部として運営する日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(以下,PEPNet-Japan)[2]の正会員大学・機関と共に,相談対応の中で把握された現状の課題や蓄積された支援ノウハウを活かし,さまざまなコンテンツを開発してホームページ等からの発信や,シンポジウム等を開催してきた。2020年初頭から始まった新型コロナウェルス感染症への対応策として,本学も含めて各大学では対面による通常の授業形態から各種のオンライン授業への移行がなされるようになった。それに伴い,各大学の聴覚障がい学生支援も新たな対応が迫られ,T-TAC事業やPEPNet-Japanへの相談依頼もその約半数がオンライン授業実施に際しての相談となっている。  本稿では,オンライン授業実施に関連した主な相談対応や,オンライン授業の中でもリアルタイムに行われるライブ授業で併用可能な遠隔情報保障システム「T-TAC Caption」(以下,T-TAC Caption)[3] について触れる。 2.主な相談対応 2.1 概要  大学等からの講師依頼や資料請求などを除く相談依頼件数は12月10日現在で200件程度あり,その内の半数はオンライン授業に関連する相談内容であった。具体的には,オンライン授業用のウェブ会議システムと併用するための情報保障手段や方法,オンライン授業の配信画面構成,補聴援助に関する事項である。また,オンライン授業に関連する内容以外では,対面授業の際のコミュニケーションを考慮した感染対策や支援体制の構築,入試での配慮などであった。 2.2 情報保障手段や方法  オンライン授業,特にリアルタイムに行われるライブ授業では,各種のウェブ会議システムが用いられている。これらと併用可能な文字による情報保障システムに関する相談内容が,オンライン授業に関連する相談内容の半数を占め,その大半がT-TAC Captionに関する利用依頼や関連する相談内容であった。T-TAC事業ではT-TAC Captionを開発し,これまで他大学に提供してきたが,このシステムをウェブ会議システムと併用しやすいようにリメイクした聴覚障がい学生用のバージョン(T-TAC Caption WebUser)を4月から5月の期間で開発し,提供を始めた。このT-TAC Caption WebUserは,インターネット上の入力者がT-TAC Captionを用いて協力し,講師等の音声をリアルタイムに文字化された字幕データを,聴覚障がい学生に送信・提示する。Fig.1に,聴覚障がい学生側PCのデスクトップ画面を示す。ZOOMやSkypeなどのウェブ会議システムと併用中のT-TAC Caption WebUserウィンドウ(図中,左側)に,講師等の発話内容が文字化されている。入力者が文字入力に用いるT-TAC CaptionウィンドウをFig.2に示す。  本システムの利用実績は,利用登録大学・団体数が48。利用実績に関する調査の回答数36大学・団体で,回答率75%であった(2月15日現在)。今年度の利用実績としては,全国の初等中等教育機関や高等教育機関にて,講義や養成講座,交流会等での合計利用時間数は約6,722時間(授業換算数4,481コマ)であり,昨年比約2.7 倍,そして利用が最も多かったH28年度に比しても1.7倍となった。聴覚に障がいのある利用者の内訳としては,中等学校64名,高等学校11名,大学45名の合計64名であった(前期の総数76名)。  一方,T-TAC Captionで用いているAdobe Flashというウェブアプリケーション作成のための技術サポート終了に伴い,システムの大幅な改変を開始した。新しいシステムの名称を「T-TAC Caption2(ティータック・キャプション・ツー)」と名付け,通信や音声や文字情報の伝送など各基本機能の実装も開始し,連携している学外の情報保障団体に依頼し,動作の検証を繰り返した。  これらの内容も含めて,日本音響学会2021年春季研究発表会にて報告も行った[4]。 Fig. 1 T-TAC Caption WebUser聴覚障がい Fig. 2 T-TAC Caption入力者側 3.おわりに  PEPNet-Japanでは,オンライン授業での情報保障に関するコンテンツ集[2] を提供している。これらは正会員大学・機関と協力し,感染症対策として新規に開発したものであり,各種の対応策を蓄積したものである。より多くの大学にご活用頂き,各大学等に在籍する聴覚障がい学生の修学環境の充実に役立てて頂きたい。また,T-TAC Captionに関しては,今後も様々なニーズを捉え,機能強化を行いながらサービスの提供を維持していきたい。 Fig. 3 PEPNet-Japanウェブサイト 参照文献 [1] 筑波技術大学.筑波聴覚障害学生高等教育テクニカルアシスタントセンター(T-TAC事業)ホームページ. https://www.tsukuba-tech.ac.jp/ce/t-tac2/index.html [2] 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク.オンライン授業での情報保障に関するコンテンツ集,日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)ホームページ.http://www.pepnet-j.org/web/modules/tinyd1/index.php?id=393 [3] 筑波技術大学.遠隔情報保障システム「T-TAC Caption」紹介ページ.https://www.tsukuba-tech.ac.jp/ce/t-tac2/development.html [4] 三好茂樹:(招待講演)コロナ禍におけるオンライン授業での障害学生支援の現状~聴覚障害学生への支援の現状~,日本音響学会2021年春季研究発表会,日本音響学会講演論文集,pp.1335-1336(2021年3月).