視覚障碍学生に対する内部障害領域のアクティブラーニング推進の研究の研究 三浦美佐1),下笠賢二2),石崎直人3),酒井 俊1),長南浩人4) 筑波技術大学 保健科学部 理学療法学専攻1) 産業技術学部 システム工学専攻2) 保健科学部 鍼灸学専攻3) 障害者高等教育研究支援センター 障害者支援研究部4) キーワード:視覚障害者,障害特性,内部障害領域,アクティブラーニング 1.研究背景  近年,アクティブラーニング(図1)など学生の主体的学びを促進する手法が取り上げられ[1],その主体的学びの姿勢獲得の効果指標の一部として学習経験が着目(表1)されている。申請者らが教育に当たっている,視覚障碍を有する医療系学生は理学療法・鍼灸職を志して入学する者が大半で,その学習経験は理学療法・鍼灸職としての職業的アイデンティティに影響すると考える。一方,視覚障碍を有する学生は視診や画像解析,心電計やスパイロメトリーなどの医療機器操作に,困難を有する者も多い。加えて近年の国家試験問題では,心電図解析や呼吸機能解析をはじめとする内部障碍領域の出題が増加している。本研究では,理学療法または鍼灸専門教育における,視覚障碍学生の主体的学びの姿勢獲得により促進される学習経験を把握し,どのような学習経験が視覚障碍を有する学生の内部障碍領域の理解に寄与するかを明確にする。さらには3Dプリンターを活用して,視覚障碍を有する学生に対し障碍補償を行ない有効性も検討する。本研究成果にて,理学療法および鍼灸学生に有効なアクティブラーニング方法推進を通じ,学生の主体的学びの姿勢獲得の促進および,職業的アイデンティティの形成に効果的な教育内容の検討が可能になると考える。 2.研究方法  本研究では1年の期間で,視覚障碍者の特性に配慮した,ICT利用での反転授業を実施し,その教育効果を質的に評価する。すなわち小テスト,期末試験および学生による授業評価アンケート,学生へのインタビューを実施する。次に,その結果を質的・量的に評価し,従来型の授業と比較検討を行うことで,学生の内部障碍領域の理解に寄与するかを明らかにすることを目的として行った。 表1 従来型授業とアクティブラーニング型授業との相違 2.1 対象について 対象:内部障碍領域を履修する本学理学療法学専攻の3年次生7名を対象とした。 方法:内部障碍領域の授業でICTを駆使した講義と実習を行い,前年度までの授業と教育効果を質的・量的に比較検討を行なった。 3.結果  本研究成果の詳細は,現在学術誌にて発表する予定であるため,以下に要旨のみを記す。  2007年頃から米国の小中学校において,反転授業が開発され普及してきた。この学習形態により学生は事前に能動的に学習し,予習してきた知識を授業で活性化することができ学習成果をあげている。この講義形態は大学教育にも導入され始め,医学部においては2011年より米国スタンフォード大学が反転授業を導入し成果を挙げ,海外の大学教育にも広がっている[2]。しかし,医療者教育におけ る反転授業の教育効果の検討は,健常学生を対象とした量的検討(出席率・成績の向上)のみであり,視覚障碍学生を対象とした内部障碍領域の検討は少なかった。今回の研究において,学生からの授業の感想の聴取によって,内部障害領域でのアクティブラーニング型授業は,学習者の知識の活性化のみならず,問題解決能力の育成,学習準備状況と自己主導型学習の導入につながることが示唆さ れた。また,医工連携での心臓模型の作成(図2,3)は,視覚障害学生のみならず聴覚障害学生に対しても,医工学連携の興味・関心を惹き出すことができた。これらの知見をもとに,医学教育のみならず視覚障碍を有する理学療法士・鍼灸師教育に,アクティブラーニング型授業を導入し,その教育効果をさらに探求していきたいと考える。 図2 心臓模型作製 図3 3Dトレース 参照文献 [1] 山内 祐平:教育工学とアクティブラーニング.日本教育工学会論文誌 2019;42:191-200 [2] 山城 清二:Problem solving ~臨床現場の問題/課題解決(problem solving)に関する方法論やツールを再考する~.日本内科学会雑誌 2017;106:2519-2522