腹部マッサージが自律神経に与える影響─自律神経活動の解析─ 成島朋美 筑波技術大学 保健科学部附属東西医学統合医療センター キーワード:マッサージ,腹部,按腹,自律神経 1.はじめに  あん摩・マッサージ・指圧師の教育課程では腹部への施術(別名:按腹)が教育されており,腹部臓器について十分な解剖学的知識を得たうえで専門的な施術を習得している。しかしながら,その効果について詳細に述べられてはいない。ラット腹部へのマッサージ様刺激が内臓‐内臓反射および体性‐内臓反射を介して胃運動へ影響するとの検討がなされている[1]が,ヒトを対象とした自律神経の変化を検討した報告はほとんどない。腹部マッサージについて多く報告されているのは看護領域からで排便を指標に検証されてきた[2,3]。排便回数や便意などの変化は数日から数週間の経過観察が必要であり,施術前後の評価が困難である。腹部マッサージの効果は,直接的な腸管への物理刺激以外に睡眠や血圧など自律神経系への作用も考えられるが検討はなされていない。  昨年度までに腹部マッサージにおける自律神経活動の測定が可能な実験系を確立することを目的に実験機材の選定および各種データの測定が可能な環境を整備した。今年度は解析ソフトと不足機材の補充を行い,腹部マッサージの自律神経への影響を検討するための試行を行った。 2.実験 2.1 対象  腹部マッサージの実験に同意した協力者1名   2.2 方法  仰臥位にて20分間の腹部マッサージを行った。その前後20分間を安静臥位として,心電図,皮膚交感神経活動を計測した。計測には㈱クレアクト社製ウェアラブル生体情報センサbiosignals plux(図1)を用いた。 3.心電図・皮膚交感神経活動解析の試行  実際に手部から皮膚交感神経活動を胸部から心電図を測定したデータを示す(図2,3,4)。上段が皮膚交感神経活動,下段が心電図となる。 図1 biosignals plux 図2 腹部マッサージ前安静時 図3 腹部マッサージ中 図4 腹部マッサージ後安静時 データの解析をマッサージ前・中・後の3群で行ったが,今回の検討では有意な差は認められなかった。 4.今後の展望  今回の検討はコロナ禍の影響により1例にとどまってしまった。また,マッサージ中の心電図にはアーチファクトが入ってしまい,解析の対象とすることができなかった。次年度以降,心拍変動の測定を胸部から指尖脈波に変更するなどして症例を増やしていく予定である。  この研究は2020年度学長のリーダーシップによる教育研究等高度化推進事業(区分A)の助成を受けて実施した。 参照文献 [1] 成島 朋美,水出 靖,野口 栄太郎.腹部へのマッサージ様軽擦刺激が麻酔ラット胃内圧に与える影響とその神経性調節機構.自律神経.2014;51(1):41-47. [2] 及川正広.文献レビューによる看護ケアベストプラクティス(第9回)便秘に対して行う腹部マッサージのベストプラクティスとは!?.看護技術.2014;60(10):1020-1023. [3] 野村かよ子,亀田和範,村松智司.向精神薬を服用し便秘傾向の患者に対して腹部マッサージを用いて自然排便につなげる取り組み.日本精神科看護学術集会誌.2015;58(1):198-199.