視覚障害者を対象とした遠隔授業システムの開発 岡本 健 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:遠隔授業,アクセシビリティ,LMS,e ラーニング  新型コロナウイルスの感染拡大防止のため,現在,大学など多くの教育機関がオンラインを用いた遠隔授業を展開している。文科省の調査によれば,大学などの教育機関では,2020年9月の時点において,約8割が対面とオンラインを併用し後期授業を実施する方針と回答している[1]。また,最近のデジタル・トランスフォーメーション(DX) の流れもあり,教育現場のオンライン化は,今後ますます加速するものと考えられる。  教育現場では,遠隔授業の支援ツールとしてLMS(学習管理システム) を利用しているケースが多く,本学保健科学部でも,LMSとしてMoodleを採用し,授業の教材設置や課題の提出,アンケートの実施など,授業に関する幅広いサービスを提供している。特にコロナ禍においては,従来対面授業で使用していた教材の多くを電子媒体に置き換える必要があり,これをMoodleにどのように組み込み良質な授業サービスを提供できるかが主要な課題の一つとなっている。  教育機関で使用される主要なLMSは,画面上に多くのフレームやアイコンが設置されており,晴眼者が利用した場合,インターフェースが直感的でわかりやすい。一方で,視覚障害学生に対しては,このような「わかりやすさ」の恩恵を受けることができず,LMSに関するインターフェースの方向性が逆に視覚障害者のアクセシビリティをより困難なものにしている。本学部においても,Moodleのモジュール変更といった各種設定により,視覚障害学生に対するアクセシビリティ改善に取り組んでいるが,根本的な解決が難しいのが現状である。  本研究では,前述の問題点を解決するため,主にLMSに焦点をあて,視覚障害者にとって最もアクセシビリティが高く利便性の高いLMSの構築について研究を行った。最初に視覚障害学生に適したeラーニングやLMSのアクセシビリティに求められる評価項目に関する要件の整備を行った。次に教育Webシステムの構築といった取り組みにより,アクセシビリティの高い遠隔授業システムの開発を推し進めた。  視覚障害者向けWebアクセシビリティの品質基準としては,JIS X 8341-3が有名であるが,これはWebに特化したものである。一方で,本研究では,スクリーンリーダ/点字ディスプレイ/点字キーボードといったWebに関するインターフェースまでも包括し,教育支援ツール全体に対する品質について検討した。eラーニングに関するアクセシビリティ改善について,著者はこれまでも[2-4]といった成果があるが,本研究はこれらを補完するするものであり,今後,研究成果がまとまれば,順次対外発表などの取り組みを実施する。これらの取り組みにより得られた知見は,適切なLMSの構築やeラーニング教材のバリアフリー化の一助になると考える。 参照文献 [1] 文部科学省:大学等における後期等の授業の実施状況に関する調査,2020 [2] 岡本健,坂尻正次,三宅輝久,石塚和重,野口栄太郎,大越教夫:視覚に障害をもつ医療系学生を対象としたeラーニング教材の作成,第76回全国大会,2H-5, pp.4-515~4-516,情報処理学会,2014. [3] 岡本健,金堀利洋,飯塚潤一:視覚に障害のある学生を対象としたLMSの基盤構築,第80回全国大会,1G-5, pp.4-449~4-450, 情報処理学会,2018. [4] 岡本健,大西淳児,関田巖:講演会の参加に適した盲ろう者向け情報保障ツールの基盤構築,第81回全国大会,5J-4, pp.4-343~4-344,情報処理学会,2019.