理学療法学教育分野への聴覚バイオフィードバックの応用─ 視覚障害を有する学生への有効性の確認 ─ 井口正樹 1),三井颯人 2) 筑筑波技術大学 保健科学部 保健学科 1),筑波大学大学院 人間総合科学学術院 2) キーワード:理学療法,運動学,聴覚バイオフィードバック,筋電図,関節角度  筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻(以下,本専攻)は,我が国唯一の視覚に障害を有する学生を対象とした大学における理学療法士(以下,PT)養成施設である。理学療法士は「動き」の専門家であり,2年次で履修する基礎運動学では歩行などのヒトの動きと筋活動,関節角度,身体各部位の加速度などの変化について学習する。通常,このような情報の学習には横軸に時間軸を有する図が用いられ,その図を視覚的にとらえ,例えば,歩行中に前に振り出した足の踵が接地した直後から足関節を背屈する筋の活動が増加する,といった具合に学習していく。しかし,視覚に障害のある学生にとって,図から学ぶことは時に困難である。我々は筋活動や関節角度の変化をセンサで計測し,それを認識しやすい形態に変換し運動している者にフィードバックするバイオフィードバック(以下,BF)の研究をしており,特に可聴化を用いる聴覚BFの研究を行っている。  本プロジェクトの目的は,理学療法学教育において,視覚障害を有する学生にとって有効と思われる聴覚BFのシステムを開発することである。  関節角度と筋活動の計測には,それぞれ関節角度センサと表面筋電センサを用いた(DataLite, Biometrics社製)。本機器付属の専用ソフトウェアでデータを収集し,MATLAB(Mathworks 社製)がそのデータにアクセスし可聴化を行った。  本システムはセンサが無線であるため,センサを貼付した状態で自由に動きながら音を聞ける利点がある。ヒトは自身の姿勢や動きを筋や内耳の前庭器官を通して知ることができる。本システムを用いることで,この自身が感じる内在的なフィードバックと音による外在的なフィードバックを,リアルタイムで照らし合わせながら,学ぶことが可能となる。また,センサ類は高価であるが,他の実験や授業などにも利用できるため,汎用性があり,購入する価値はある。センサ類を除けば比較的安価に,かつ比較的容易に可聴化が可能である。  ヒトの動きには数多くの関節と筋が関与するため,今後はより多くのセンサを用いて,実際に視覚障害を有する学生に試用してもらい,教育における有効性を確認する予定である。