高齢慢性腎不全患者へのベルト式電気刺激による廃用予防の研究 三浦美佐 1),大和田滋 2),井尻章悟 3),上月正博 4) 筑波技術大学 保健科学部 理学療法学専攻 1)医療法人天宣会 北柏リハビリ総合病院 2)(株)ホーマーイオン研究所 3)東北大学大学院医学系研究科 内部障害学 4) キーワード:高齢慢性腎不全患者,ベルト式電気刺激,安全性と有効性,身体諸機能 1.研究背景  わが国においては,身体障害者に占める内部障害者の増加が著しい。なかでも腎臓機能障害者は内部障害の中で第2位の患者数を示している。腎臓機能障害者の代表格は血液透析患者(以下 HD)であり,HD に占める65歳以上の高齢者は年々増加している。2018年の新規HD導入者は38,147名,HD人口は約34万人 [1] で,このうち65歳以上の高齢者は2017年度には全体の67.4%に達し,増加し続けている。  HD患者はHD中の臥床時間やHD後の倦怠感により活動量の低下をきたしやすく,非HD患者と比較して血液中の老化物質が増加しやすい。高齢HDでは,各種の運動が各種身体機能の維持改善に有効であることは明らかとなっている[2] が,運動の実施や継続が困難な運動弱者は,運動が定着しがたい。一方,ベルト式電気刺激では若年から壮年の心疾患患者や HD患者に対し,安全で効果的に筋力増強効果が得られるとする報告 [3]もあるものの,虚弱な高齢透析患者に対する適用には不明な点も多い。  よって,本研究の目的を,運動の代替効果としてのベルト式電気刺激で,身体運動機能,画像学的所見,各種生化学検査などで安全性と有効性を介入前後で比較検討をすることとした。 2.研究方法  研究方法は前向き介入研究とし,身体運動機能を評価すると共に,各種生化学検査およびQOLをアンケート調査(SF-8)と体組成について検討をした。 2.1 対象について  65 才以上の慢性腎臓病(以下 CKD)stage5,要介護 3~5 相当の虚弱な維持透析患者8名に対し,ベルト式電気刺激療法を12 週間実施した。 2.2 ベルト式電気刺激実施方法について  電気刺激群では,透析中に電気刺激を,腹部および両側の下肢筋(大腿と下腿)にベルト式電極パットを計6枚装着し,周波数20Hzで,5 秒刺激 2 秒休止の条件下で1 回 40 分間,週 3 回を12 週間行う。刺激強度は痛み閾値より下の強さで,運動療法は Borg 指数11~13で刺激強度を調整し,患者への負担を少なく実施した。下図 1にベルト式電気刺激装置(株式会社ホーマーイオン研究所製)と実施場面例を示す。 図1 ベルト式電気刺激装置と実施場面例 2.3 介入前後の評価  全対象者に介入12週間前後で,(1) 運動機能測定(筋力およびバランスをShort Physical Performance Batteryと呼ばれる評価を使用),(2) 生化学的変化(透析効率・炎症因子), (3)QOL(SF-8), (4) 薬剤使用状況, (5)体組成 3.結果  本研究成果の詳細は,現在学術誌にて発表する予定であるため,以下に要旨のみを記す。12週間の介入中は,薬剤の使用状況に変化はなく,安全に実施可能であった。8名中5名が完遂でき,全身掻痒感,変形性腰椎症急性増悪,肺炎による入院の理由でそれぞれ1名ずつが脱落した。ベルト式電気刺激での12週介入後,炎症因子の増悪なく,身体運動機能で改善が認められた。また,体組成解析では,生体インピーダンス法では筋肉量に変化は認められなかったが,lH -MRS(プロトン核磁気共鳴分光法)による画像解析では,筋肉内脂肪に改善傾向が認められた。 4.考察  本研究では,65才以上の慢性腎臓病(以下 CKD)stage5,要介護 3~5 相当の虚弱な維持透析患者8名に対し,ベルト式電気刺激療法を12週間実施し,運動の代替効果としてベルト式電気刺激の効果を検討した。  12週間の実施期間を通じ,虚弱な高齢慢性腎不全患者に対し,安全に実施でき血圧の急激な低下や運動器の損傷は認められなかった。生化学検査の結果からも,CPK値が電気刺激直前から直後で変化がなく,12週前後の長期的にも変化がなかったことからも,筋損傷の可能性が少なかったことを示唆している。  本研究は少数例の検討ではあるが,次に身体運動機能評価では,ベルト式電気刺激介入の12週後,SPPBの下位項目である,歩行速度と椅子からの立ち上がりで改善傾向が認められた。これらの結果は,電極パッド貼付型の電気刺激型式での,電気刺激療法の先行研究による結果と矛盾しない [2]。  また,バランス能力,歩行速度は,より立位・歩行障害が重度であった症例において,介入後に改善が見られたことが特徴的であった。体重(DW)の変化は認められなかったが,生体インピーダンス法では明らかではなかった筋肉内の脂肪が,介入後に改善傾向があることが示唆された。  これらのことより,運動実施が継続困難な虚弱高齢者においては,ベルト式電気刺激を実施することで,下肢筋の質的な変化を通じて,基本動作能力が改善する可能性が示唆された。  QOL のスケールであるSF-8は,よりADL が重度な症例において明らかに低値 [4] で,先行研究の結果からもHDのQOL評価として適切と思われたが,対象者数が少数であったため,ベルト式電気刺激後の改善は明らかではなかった。  本研究の結果から,電極パッド貼付型の電気刺激型式よりも,ベルト式電気刺激療法は広範囲に電気刺激が可能であるため,局所の筋力増強のみならず関連する運動諸機能の改善に寄与できる可能性が示唆された。  今回は新型コロナウイルス蔓延による影響で,十分な対象者数が得られなかった。今後,さらに介入例を増やし,また非介入例との比較検討も行っていくことが必要と考えられた。 参照文献 [1] 透析医学会編.わが国の慢性透析療法の現況.日本透析医学会雑誌 52(12), 683-692, 2019 [2] Bogataj, S., et al., Exercise-Based Interventions in Hemodialysis Patients: A Systematic Review with a Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Clin Med, 2019. 9(1). [3] Schardong, J., C. Stein, and R. Della Mea Plentz, Neuromuscular Electrical Stimulation in Chronic Kidney Failure: A Systematic Review and Meta analysis. Arch Phys Med Rehabil, 2019. [4] Morishita, S., A. Tsubaki, and N. Shirai, Physical function was related to mortality in patients with chronic kidney disease and dialysis. Hemodial Int, 2017. 21(4): p. 483-489.