視覚障がいを有する施術者の関節可動域測定における情報通信技術を用いた支援に関する研究 福島正也 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 キーワード:視覚障がい,評価,関節可動域(ROM) 成果の概要 [背景]本邦では,視覚障がい者の職業教育として,はり師,きゅう師,あん摩マッサージ指圧師,理学療法士,柔道整復師といった医療職の養成が行われている[1]。これらの医療職が取り扱う疾患・症状は様々であるが,近年は “ 根拠に基づく医療(EBM)” の概念の普及を背景として,厚生労働省が示す診療報酬や介護給付費の給付基準などにおいて,治療効果(アウトカム)に対する客観的な評価が求められている[2,3]。研究代表者は,これまでに視覚障がいを有する施術者・医療系学生による臨床での評価における困難事象について調査研究を行い,視覚障がいを有する施術者や学生が,視覚を用いる評価法や文字・数値の読み取りに困難を感じている実態を明らかにした。関節可動域測定は,患者の関節の可動範囲を測定する評価法であり,関節疾患を中心に様々な愁訴や病態の評価に用いられる。しかし,研究代表者による調査では,理療を専門とする視覚障がいを有する施術者・学生が “ 自分だけで正しく行える”と自己評価した割合はわずか35%であった。また,玉井ら[4]による調査においても,視覚障がいを有する施術者が関節可動域測定において,多くの困難を抱えていることが報告されている。これらの背景から,視覚障がいを有する施術者による関節可動域測定に関わる困難の解消に,切実なニーズが存在することが明らかになっている。 [方法]本研究は,情報端末を用い,視覚障がいを有する施術者が正確かつ短時間に関節可動域測定を行うことができるアプリケーションの開発を目ざした。情報端末には,小型で操作性に優れ,視覚障がいアクセシビリティ機能が標準搭載された Apple製iPhone 12 mini (iOS 14)を選定した。アプリケーションはプログラミング言語Swiftで開発した。CMMotionManagerメソッドを用い,関節可動域測定開始時と終了時の端末の角度情報を取得し,それらの差分を算出するプログラムを作成した。視覚障がいアクセシビリティ機能として,みやすさと操作性に配慮したシンプルなユーザーインターフェースデザインを企図し,VoiceOver(音声読み上げ機能)での操作にも対応した。また,測定開始と終了を知らせる効果音機能,測定終了時の測定データの自動読み上げ機能を実装した。加えて,臨床での利便性を向上させるため,測定データおよびメモの端末への保存,保存データのエクスポート機能を実装した。 [結果および考察]開発したアプリケーションを複数人の当事者に試用してもらい,弱視および全盲の施術者による関節可動域の測定が可能であることを確認した。今後,アプリケーションの実用化をめざし,デバッグ作業およびユーザービリティ評価を進める予定である。 参照文献 [1] 厚生労働省.平成28年度衛生行政報告例.e-stat.(2018/9/4閲覧) http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001185884 [2] 厚生労働省.平成30年度診療報酬改定の概要 医科Ⅰ(2018/09/21閲覧) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000198532.pdf [3] 矢野 忠.EBMと鍼灸臨床.全日本鍼灸学会雑誌. 2000,50(3), p. 424-427. [4] 玉井 伸典,黒田 修成,沼本 尚輝ルーカ,矢部 隆之,和田 恒彦.視覚障害者が関節可動域を測定する際の課題の検討.筑波大学理療科教員養成施設紀要. 2019,4(1),5-12. [5] Mourcou Q, Fleury A, Diot B, Franco C, Vuillerme N. Mobile Phone-Based Joint Angle Measurement for Functional Assessment and Rehabilitation of Proprioception. Biomed Res Int. 2015; 328142. doi:10.1155/2015/328142.