視覚障害者の効果的で質の高い臨床実習プログラム構築に向けた評価方法に関する探索的研究 近藤 宏 筑波技術大学 保健科学部保健学科 鍼灸学専攻 キーワード:鍼灸,マッサージ,臨床実習,視覚障害,評価方法 1.研究背景と目的  あん摩マッサージ指圧鍼灸(以下,あはき)教育において,臨床実習は本幹をなす科目であり,あはきの施術技術の向上のみならず,あはきの効果を実感できる貴重な機会になっている。2017 年,あん摩マツサージ指圧師,はり師及びきゆう師に係る学校養成施設認定規則の一部を改正する政令が施行され,あはき教育のカリキュラムに新しい基準が示された。とくに臨床実習に関する科目は,臨床の充実を図るために単位数が大幅に増加した。あはき養成施設では,より効果的で質の高い臨床実習プログラムやコアカリキュラムについて検討を進めている。藤田らは,鍼灸養成課程を有する大学を対象に調査を行い,各大学では,改正を機に臨床実習の単位数を増加するとともに,臨床における実践的能力を向上させるため,独自の臨床実習プログラムを展開していることを明らかにしている[1]。また,臨床実習に関する実践的研究では,臨床実習が態度教育(Affective domain) の育成 [2],コミュニケーション能力[3] に貢献することが示されている。一方で,視覚障害のあはき養成課程を対象とした臨床実習に関する全国調査[4,5] では,単にあはき施術の技術の向上を目指すだけでなく,患者の状況や病態について的確に評価し,把握することが重要であることを示唆している。そのため臨床実習では,視覚障害を有する実習生が,視覚障害の重度に影響することなく理学検査や評価を行うことが求められる。しかしながら,このことに着目し,臨床実習で用いる理学検査や身体評価を行う際に発生する課題について検討した報告は管見の限り非常に少ない。  本研究の目的は,臨床実習での理学検査や身体評価における課題や問題点を整理し,これらを分析することにより,視覚障害を有する実習生があはき施術時に用いるのに有用な評価方法を検討するための基礎資料を資することである。 2.成果の概要 2.1 研究方法  対象は,本学鍼灸学専攻および視覚特別支援学校(盲学校)の臨床実習の実習生 46 人(以下,実習生)とした。実習生には,研究に複数回参加するよう依頼した。患者は,臨床実習室来所時に肩こりの状況等に関する質問票に回答した。実習生は,臨床実習の際に,著者らが作成した測定評価票を用いて,指椎間距離,肩こりの程度,頚部動作時の症状の程度について施術前後で測定し記録した。また,臨床実習終了後,行った測定の困難度に関する質問票に回答した。実習生への質問票と患者への質問票の各質問項目について単純集計を行った。計数は平均値および標準偏差で示した。測定評価票の各測定項目の施術前後の差について,対応のあるt検定を用いて比較した。 2.2 研究結果  本研究結果の詳細は,学術誌に投稿を予定しているため公表は差し控える。以下は結果の項目のみを記す。 ・測定評価票の項目(Visual Analogue Scale,Numerical Rating Scale,指椎間距離) ・実習生への質問票 ・患者への質問票 3.成果の今度における教育研究上の活用および予測される効果  視覚障害を有する実習生が臨床実習で行う理学検査や身体評価を行う際の課題や問題点を整理・分析を行い,有意義な基礎資料を作成することができた。本研究の推進は,実習生のみならず,視覚障害を有する施術者があん摩マッサージ指圧鍼灸の治療効果を評価す際に有用な評価方法を検討するのに役立つことが期待できる。 謝辞  本研究は , 2020年度 学長リーダーシップによる教育研究等高度化推進事業 A(競争的教育研究プロジェクト事業)の助成を受けて行われた。ここに深く謝意を表する。 参照文献 [1] 藤田格,福世泰史,中澤寛元,他.大学の教育課程における臨床実習の現状について(第2報).常葉大学健康プロデュース学部雑誌 .2019:13(1);187-189. [2] 廣門靖正,永田勝太郎,青山幸生.臨床実習での学びの様相鍼灸臨床現場における臨床実習の学び.慢性疼痛.2019:38(1);90-95. [3] 大内晃一,北小路博司.鍼灸師養成施設におけるコミュニケーション教育内容の調査.全日本鍼灸学会雑誌.2017:67(2);142-149. [4] 渡辺雅彦,栗原勝美,徳竹忠司,他.基礎実技及び臨床実習における実技評価センター,盲学校を対象とした実態調査から.理療教育研究.2009:31(1);75-86. [5] 箕輪政博,形井秀一.あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師教育の附属臨床施設と臨床実習に関する実態調査 視覚障害者教育と晴眼者の専門学校教育の実情に着目して.全日本鍼灸学会雑誌.2004:54(5);756-767.