境界層理論に基づいた鉛直管内層流膜状凝縮のモデルの提案 金谷健太郎 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:二相境界層モデル,層流膜状凝縮,鉛直管,熱伝達,圧力変化  鉛直管内を流れる純蒸気の層流膜状凝縮に対する境界層理論を提案した。本理論では,(i)凝縮の進行による蒸気流量の減少,(ii)蒸気内の境界層厚さの有限性(管の半径と比べて境界層厚さが無視できないこと),(iii)軸方向の圧力変化が考慮された。本理論は,鉛直板上の膜状凝縮の近似積分二相境界層方程式モデル [1] に基づいており,管内の質量拘束により補完された。ここで,液体の境界層方程式中の曲率により液膜の支配方程式中の重力項の係数が平板上凝縮の場合と比べて半分になり,たとえ液膜厚さが管径よりもはるかに小さくてもこの効果は無視できないということは注意に値する。  (i)と(ii)の効果はお互い逆に働く:前者は凝縮液膜の厚さと蒸気圧を増加,平均ヌセルト数を減少させ,逆もまた同様である。(i)または(ii)の効果は,管の過冷度が大きいときと小さいときにそれぞれ支配的である。これらの効果は,管半径と蒸気流速が小さいときに現れる。管の入口周りの漸近解析を用いて,どちらかの効果が支配的であるための条件や圧力が回復するための条件を決定した。さらに本モデルは,過冷度が大きい極限でさらに簡単化でき,それより解析解が得られる。モデルの数値解析から,凝縮液膜厚さや平均ヌセルト数,圧力変化が,管入口からの距離または管の長さの関数として示された。過冷度が大きいときの漸近解は,圧力回復の閾値を大きく見積もり過ぎることを除けば,元のモデルの数値解の良い近似を与えている。  管半径が大きいほど,または蒸気流速が小さいほど重力の効果は大きくなる。この効果により,液膜は薄くなり,ヌセルト数と圧力は増大する。完全凝縮(管に流入した蒸気が全て凝縮すること)が起きるときの管長さが漸近解から計算され,気液界面上の剪断応力が無い場合の Nusseltの理論 [2] から演繹されたものと較べられた。凝縮が激しくなるほど,完全凝縮の管長さは減少する。強制対流により凝縮が促進されるために,前者の管長さは後者のものよりも小さい。体積力対流が弱くなるところで,二つの解の間の管長さの差は増大する。また,強制対流が支配的な領域から体積力対流が支配的な領域へと遷移する位置が,液膜厚さと平均ヌセルト数に対して見積もられた。  本研究の内容は,混相流シンポジウム2020で発表され[3],さらに国際学術誌に論文として投稿中である[4]。 参照文献 [1] Fujii T, Uehara H. Laminar filmwise condensation on a vertical surface. Int. J. Heat Mass Transf. 1972;15(2): p.217-233. [2] Nusselt W. Die Oberflächenkondensation des Wasserdampfes. Z. Ver. Deut. Ing. 1916;60(27): p.541-546. [3] 金谷健太郎.鉛直管内の層流膜状凝縮に対する境界層理論(会).日本混相流学会 混相流シンポジウム2020 講演論文集;2020-8-21(オンライン). 2020; 0034. [4] Kanatani K. A boundary layer theory for laminar film condensation in a vertical tube. Submitted to ASME J. Heat Transfer.