IoT とディープラーニングによる自動運転支援システムの開発に関する研究 服部有里子 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:IoT,ディープラーニング,自動運転,人工知能 1.はじめに  安全で環境に配慮した車の自動運転の実現に向けて,走行する周囲の車両や路側機と高レスポンス,高信頼に通信を行い,車載センサによる自律型システムと路車間・車車間通信を用いた協調型システムを連携・補完する自動運転支援システムを開発する。  本研究では,IoT(Internet of Things)システムにより収集・蓄積した運転データとセンシングデータを入力として,ディープラーニングを用いたビッグデータ解析による自動運転制御モデルについて検討した。車載ネットワークとの通信や電子制御装置へのアクセスを行う車両制御装置を開発し,自動運転支援システムの機能・性能を検証した。 2.自動運転支援システムの開発 2.1 システム構成  自動運転は認知機能,判断機能,操作機能で構成され,この考えに基づいて設計した自動運転支援システムは,4つのモジュール(地図,人工知能,速度制御,操舵制御)とセンシング部,外部通信部で構成される。  ブレーキ・アクセル・ハンドルなどの運転データと歩行者や障害物,自己位置,道路形状(急カーブ,急勾配等)や路面状況(滑りやすい等)などのセンシングデータをサーバに蓄積し,ディープラーニングを用いたビッグデータ解析による正しい状況判断と運転経路に従って,ブレーキ・アクセル・ハンドルなどのアクチュエータを制御するシステムである。自動運転支援システムの構成例(図1)と利用イメージ(図2)を以下に示す。 図1 自動運転支援システムの構成例 図2 自動運転支援システムの利用イメージ 2.2 車車間通信  外部通信部は,道路上の障害物,信号,標識,走行レーン,他車両,歩行者などを認知するための多くのセンサ(ミリ波レーダ,レーザレーダなど)からの情報を携帯電話網であるLTE(Long Term Evolution)経由で車車間通信により,直近の車両間でリアルタイムに共有する。   2.3 路車間通信  外部通信部は,LTE を介して道路・交通情報等の外部環境情報を取得する。その一つにダイナミックマップ(3D高精度地図)があり,ダウンロードにより常に更新する必要がある。また,車載カメラから得られる画像・映像情報をLTE 経由でサーバ上にアプロードし,近くを通る車両に配信する。 2.4 車間距離制御  速度制御モジュールは,ブレーキ・アクセル操作により前方車に追従するように自車の速度を調節する。  自車の目標加速度は,前方車の加速度,車間距離と目標車間距離との誤差,前方車との速度の誤差それぞれに制御パラメータ値を乗じて算出する。   aides=K3 ai-1+K1(r – Ldes)+K2 (vi-1 – vi) / K4 – K5g sinθ r:前方車との車間距離,Ldes:目標車間距離,vi-1:車車間通信で得られた前方車の速度,vi:i 番目の車両の速度,ai-1:車車間通信で得られた前方車の加速度,K1:車間距離誤差のフィードバックゲイン,K2:速度の誤差に対するフィードバックゲイン,K3:前方車の加速度に対する遅れ係数,K4:前方車の速度に対する遅れ係数,K5 は勾配への影響度合い,g:重力加速度  車間距離は,目標車間距離に前方車と自車が加減速したときの走行距離の差分を加算することにより算出する。  前方車が加速の場合(ai-1des > 0), Ldes+Li-1ad[k]–Liad[k]=Ldes+(Li-1ad[k-1]+(ai-1adTT2乗)/2) –(Liad[k-1]+aidesTT2乗/2) Ldes:目標車間距離,Li-1ad[k]:前方車の加速距離,Li-1ad[k-1]:前方車の加速距離[1 個遅れ],ai-1des:前方車の加速度,Liad[k]:i 番目の車両の加速距離,Liad[k-1]:i 番目の車両の加速距離[1 個遅れ],aides:i 番目の車両の目標加速度,TT:遅れ時間  前方車が減速の場合(ai-1des < 0), Ldes+Li-1ds[k]–Lids[k]=Ldes+(Li-1ds[k-1]+ ai-1desTT2乗/2) –(Lids[k-1]+aidesTT2乗/2) Li-1ds[k]:前方車の減速距離,Li-1ds[k-1]:前方車の減速距離[1 個遅れ],Lids[k]:i 番目の車両の減速距離,Lids[k-1]:i 番目の車両の減速距離[1 個遅れ]  制御パラメータ値K1=0.27, K2=0.50, K3=19.3, K4=0.56としてシミュレーションを行った結果,車両の初速度が80km/h,前方車が80 km/h から50km/hまで減速時に車間距離10.1m(車間時間0.7 秒)に収束して追突事故にならないことが分かった。車間距離増幅率はG = 1.00≤ 1となり,車群安定性が満たされており,前方車の車間距離変動が後続車に増幅伝搬していないことが分かった。 3.自動運転支援システムの検証・評価  走行中の車両から撮影した画像をLTE 経由でリアルタイム送信し,その画像をサーバ上の画像解析装置にて解析し,歩行者や障害物などを自動検知する実証試験を実施した。今後は,第5 世代移動通信システム(5G)で伝送した4K 映像を利用して歩行者や障害物を検知し,周辺車両に歩行者や障害物の検知結果を配信するシステムを構築する。 参照文献 [1] 服部有里子,中川悠樹.自動運転の実用化に向けたCACC(協調型車間距離制御装置)による車両挙動モデルの構築と検証.電子情報通信学会論文誌(B).2021;J104-B(7): p. - . [2] 吉野仁,三上学.トラックの隊列走行を可能にする5G技術.電子情報通信学 通信ソサイエティマガジン.2020;55(冬号): p.210-221.