春日キャンパス点字ブロック地図と探索プログラム 関田 巖 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 要旨:春日キャンパスは視覚障害学生のみが通う。そのキャンパスにおける点字ブロックの詳細な敷設状況を示す点字ブロック地図を製作し,それを探索しながら移動できるプログラムを開発したので報告する。 キーワード:点字ブロック,地図,探索プログラム,スクリーンリーダー,ゲーム 1.はじめに  本学春日キャンパスは,視覚障害をもつ学生のためのキャンパスである。筆者は,1年生の1学期に開講の移動支援工学演習(選択科目)を担当しており,入学して間もない受講学生を対象に,移動に関する困りごとを話し合い,対策に向けて1歩を踏み出すことを目的とするアクティブラーニングをしている。  学生の移動に関する困りごとの中に , キャンパス内での点字ブロックの不明確さがあった。  そこで,学生が点字ブロックを調査し,教員がそれをたどるプログラムを製作することになった。視覚障害者が楽しめるゲーム開発では,本学科の卒業生が在学中から製作を進めた本格的なロールプレイングゲームがある[1]。ここでは本格的な楽しみはなくとも,現実的な点字ブロック地図を把握できるようなものを目指した。  その結果,3年のブランクを経てプログラムと点字ブロック地図,共にプロトタイプが完成したので,紹介する。  評価は今後の課題である。一部の利用者からは,環境音に楽しさを感じてもらえたようである。また,このプログラムの利用を通して,オリエンテーションの情報が得られない環境でのナビゲーションの困難さを感じられた。 2.点字ブロック地図と移動ゲームの製作経緯  移動支援工学演習(1年生対象,1学期開講,選択科目)では,入学して間もない受講学生を対象に,移動に関する困りごとを話し合い,対策に向けて1歩を踏み出すアクティブラーニングをしている。  2017 年の受講学生から,移動に関する困りごとの中に,学内の点字ブロックがなくなっていて不安になったことがあるという話があった。その一方で,画面表示のない暗闇の中で,パソコンからの環境音だけを頼りに暗闇の部屋を探索するゲームに対して,興味があるということだった。  春日キャンパス内の点字ブロックの敷設を示す点字地図は,1ページ程度で新入生のオリエンテーションのときに配布される。キャンパス内の施設(建物)の位置と点字ブロックの敷設の概要を把握することが目的と考えられる。そこで,より詳細な点字ブロック地図を製作し,点字ブロック上をWASD キーで移動できるゲームを製作することになった。WASD キーは,左手で扱える矢印キーの代わりとして,「W」が「↑」,「A」が「←」,「S」が「↓」,「D」が「→」に対応し,PC ゲームでは標準的に使われている。  点字ブロック地図の製作のために,学内を歩きながら,点字ブロックの位置,種類,材質,向きを調査した。点字ブロックには,線状の誘導ブロックと,点状の警告ブロックがある。また,車道上の点字ブロックに相当するエスコートゾーンもある。筑波技術大学には,一部に光る点字ブロック[2] が敷設されており,その材質がプラスチックであるため,白杖が触れたときの音が通常の点字ブロックのときの音と異なるという特徴もある。このため,本学では材質も重要な特徴の1つとなっている。点字ブロックの数え上げは弱視学生が担当し,その記録は全盲学生が担当した。  調査の結果,春日キャンパスの校舎棟から北側の主要な範囲のデータをまとめることができた。施設の出入り口としては,校舎棟,大学会館,体育館,学生寄宿舎(A ~ C 棟),犬舎までであり,その出入り口間の点字ブロックの情報をまとめることができた。  電子データ化については,エクセルの1マス(セル)を1つの点字ブロックとするアイデアがあった。各具体的な記号は,点字ブロックの線状ブロックの方向を4 方向に分類し,方向と直感が合うように,南北方向には「|」を,東西方向には「-」を,その中間の斜め方向には,「/」や「\」(バックスラッシュの代用)を採用した。プラスチック素材の場合には Pも付記した。施設の出入り口は Gとした。  プログラムは,C 言語で記述し,csv 形式に変換したエクセルファイルを読み込み,スタート地点を校舎棟北側で東側の出入り口とした。この場所は,学内の点字ブロックの調査を開始した場所でもあり,学生が校舎棟から寄宿舎,大学会館,体育館に移動する際に,一番利用する出入り口でもある。そこに北を向いた状態から出発することとした。当初は単純な制御のプログラムを想定していたが,点字ブロック地図全体のセル数が多く,一度に全体を読み込むことができないため,必要に応じて全体の一部(201 セル×201 セル)を読み込みながら処理するようにした。  点字ブロック上をWASD キーでたどりながら進んでいくことで,学内の点字ブロックを把握できるようになることを期待したが,スクリーンリーダーがプログラムからコマンドプロンプトに出力される記号(文字)を読み上げず,点字利用者にとっては,点字ブロックの種類に応じたビープ音だけを頼りに進まなければならないという使いにくさがあった。  その後3年間は進展せずに,点字ブロック地図とプログラムはそのままであった。  2021 年の同授業の中で,学内の点字ブロックで不明な箇所があるという意見があった。それ以外の意見も課題として話し合われたが,課題とそれに対する具体的な対策方針を定められずにいた。そこで,2017 年度製作のプログラムを試用した。その結果,目的外ではあるが,点字ブロックを外れたときの環境音(蝉の鳴き声,コオロギの鳴き声など)に喜んでもらえたので,このプログラムの機能の向上と,点字ブロックデータ地図の充実化が1つの対策方針となった。それ以外の課題対策としては,佐々木健先生による特別講義から,歩行移動時の手がかりは複数種類あるほうがよいことを学び,4階の東側階段(エレベータ付近)に設置されている自動検温器の裏手に香りの手がかり(芳香消臭剤)をこっそり置いている。  点字ブロックの地図の充実化として,(M1)点字ブロック地図の縮小化,(M2)点字ブロック地図の対象範囲の拡大,(M3)対象拡大に伴う目的地点等の種類の増加がある。 プログラムの充実化として,(P1) 点字ブロック地図に記載されている記号の種類が増えたことへの対応,(P2) 階数の変化への対応,(P3) プログラムからの出力の音声の読み上げがある。以下では,(P1) 以外について示す。 (M1) 点字ブロック地図の縮小化  点字ブロックの数だけキーボードを打鍵すると,同じキーの連打になることが多く,キーの打鍵回数の意識が薄れ,点字ブロックの数,すなわち距離感がなくなる。このため,筆者のほぼ1歩が1移動量に対応するよう,同じ誘導ブロックが連続するときや,一定のパターンが繰り返す場合には,それらの数を1/4 に縮小することにした。ただし,警告ブロックが集中する付近はできるだけ忠実な点字ブロックの敷設どおりの地図としたため,その付近とそれ以外の 1/4 に縮小された付近とで,縮尺の不統一が生じている。同様な不統一が生じる要因は他にもある。寄宿舎D棟南西側にある駐車場付近の点字ブロックの大きさが小さいことや,点字ブロックの向きを4方向(南北方向,東西方向,それらの中間の2つの方向)に限定されることである。  これらの不統一は,実際に点字ブロックの数を数えながらメンタルマップを作っている利用者はまれであると考えられるので,当初の目的から外れないと考えている。 (M2) 点字ブロック地図の対象範囲の拡大  最寄りのバス停(平砂学生宿舎前)までの道まで地図を拡大すると,新たな問題が生じた。つくば駅行きのバス停に行くためには,バスの通る車道を横断する必要がある。脇には陸橋があるが,陸橋の道を作るとその下のバス通りに沿った点字ブロックの通路が遮られるし,陸橋を渡らずして車道を渡ることは横断歩道もないので推奨できない。  このため,点字ブロックの地図を立体的に表現することにした。仕様としては,その階の床を基準として,上り階段を記号 X2(階段記号 Xと上りの 2を意味する)で表現し,下り階段を記号 X1(階段記号 Xと下りの 1を意味する)で表すことにした。点字ブロック地図の階数がプログラム上で変更される箇所をX0とした。図1に,2種類の階段での表記例を示す。図 1(a)は右回りに上り階段,左回りに下り階段の例であり,(b)は床の階数が上部も下部も同じ場合で,下の床からは上り階段,上の床からは下り階段になっていることを表す。ここでの罫線は,視認しやすくするために補助的に示したもので,csv には含まれない。原理的には3階以上も可能な仕様ではあるが,今回はは建物間の移動をメインとするため,2階までの点字ブロック地図を用意した。 (M3) 対象拡大に伴う目的地点等の種類の増加  点字ブロック地図を移動することを楽しめるようにするために,ポイントの加点と減点するものを用意した。  新たなものに到達するたびに,ポイントが得られるものに,施設の出入り口,自動販売機,イスを用意した。陸橋については1度渡ればポイントとなる。  一方,減点となる行為として,壁やフェンスに向かって移動しようとしたとき,点字ブロックや通路ではないところを移動したときがある。減点数は少ないが,車道を移動するときや移動すること自身でも減点される。後者のある理由は,短い経路で目的地に到達することにも価値を持たせたからである。 (P2) 階数の制御  X1 → X0 で点字ブロック地図の階数を下げるが,その後,X1と戻った場合には,もとの階数に上げる。X2と先に進めた場合には,下げた階数の点字ブロック地図を維持する。  X2 → X0 で点字ブロック地図の階数を上げるが,その後,X2と戻った場合には,もとの階数に下げる。X1と先に進めた場合には,上げた階数の点字ブロック地図を維持する。 (P3) プログラムからの出力の音声の読み上げ対応  プログラムからの出力のうち,スピーカーから出力されるものが,ビープ音や音声ファイル(wavファイル)だけであると,準備すべき音声ファイルの種類が膨大になるだけでなく,動的な情報を音声でフィードバックできない。  そこで,合成音声で出力する試みとして,SofTalkを採用して実装した。これにより,プログラムから位置情報や周りの情報などの動的な情報を音声で伝えることができるようになった。ただし,音質と使いやすさの点で,スクリーンリーダーのみで可能にしたいと思っていた。  4年生の山崎隆生氏が卒業研究の中間発表で,アクセシブルなシェルクライアントの開発をしていた。即座に利用できると考え,開発中のソフトウェア(Webterm)を使わせてもらうことにした。これにより,いつも使い慣れているスクリーンリーダー(NVDA や PCTalker)で,読み上げができるようになり,SofTalk の実装を外した。 3.プログラムを利用するために有益な情報 3.1 使い方のコマンド  スタート地点を校舎棟の東の北側の出口ととする。位置は,原点(0, 0) である。座標は,数学座標と同じで,(横方向,縦方向)で,上が北なので,右(東)に進むと横方向の値が増え,上(北)に進むと縦方向の値が増える。 (1) 終了コマンド q:終了 (2) 進むためのコマンド w:前進 s:後退 a:かに歩きで左に進む d:かに歩きで右に進む (3) 前進の向きを変えるコマンド l:右に 45 度回転する j:左に 45 度回転する k:180 度回転する 3.2 記号から得られる情報 |:南北方向の誘導ブロック。ラ3(226Hz)400ミリ秒 \:北西・南東向の誘導ブロック。ラ#3(240Hz)400ミリ秒 /:北東・南西方向の誘導ブロック。シ3(247Hz)400ミリ秒 -:東西方向の誘導ブロック。ド4(262Hz)400ミリ秒 *:警告ブロック。ミ4(330Hz)150ミリ秒 P:プラスチック製の点字ブロック(P|:ラ4(440Hz),P\:ラ #4(466Hz),P/:シ4(494Hz),P-:ド5(523Hz),P*:ミ5(659Hz),400ミリ秒) Z:エスコートゾーン。ファ4(349Hz)250ミリ秒。点字ブロックのビープ音 150ミリ秒。 X:階段(今いる階から見て,X1 は下り階段,X2 は上り階段。 X0 は階数が変化する場所)。ソ4(392Hz) v:陸橋。ファ#(349Hz)250ミリ秒 @:点字ブロックなどはないが,進んでもよい場所(歩道,廊下など)レ4(294Hz)200ミリ秒 空白:移動に適さない場所(草地など)。h(ヘルプ)のときは「空」と表示。 a ~ j:環境音の出る,移動に適さない場所 z 移動できない場所(屋内の壁や未実装の箇所)。レ4(294Hz)250ミリ秒。h(ヘルプ)のときは「不」と表示。 3.3 ポイントの加点・減点 (1) 加点となるもの(点数は暫定的)  G:出入り口 (新たな場所あたり 100 点)  V:自動販売機 (新たな自販機あたり 50 点)  J:イス(新たなイスあたり 30 点)  v:陸橋(通過した経験があると200 点) (2) 減点となるもの  H:壁(1回ぶつかるごとに -5 点),環境音 Don.wav  F:フェンス(1回ぶつかるごとに -5 点),環境音 fence.wav  空:空白地点(1移動ごとに -2 点),環境音 grass.wav  R:車道(1 移動ごとに -0.3 点),環境音 road.wav  移動量(1 移動あたり -0.1 点) 3.4 情報を得るためのコマンド  h(ヘルプ):前方の向き,現在位置(スタート地点からの相対的な位置),最寄りの8方向の記号情報,探索時に最初に見つかった歩行可能地点(点字ブロック,エスコートゾーン,歩道・廊下,車道)までの方向と移動量。  f(フェイス):向きを教えてもらう。  g(グラウンド):位置を教えてもらう。 3.5 実行記録  実行時の主な記録は,resbbfun.txt という名のファイルに追記されていく。 3.6 Webterm を使って記号を読み上げる  山崎隆生氏(4年生,卒業研究中)の Webtermを起動すると,Windows の場合,パワーシェルが起動される。そこプログラムを実行すると,出力された文字は,スクリーンリーダーが読みあげるようになる。  2021 年 9 月現在における使い方は,以下の通りである。 (1) Webterm を起動する。 (2) 使用中のスクリーンリーダー(PC-Talkerまたは  NVDA)を指定する。PC-Talker のときは Ctr+shift+P,  NVDA のときは Ctr+shift+N を入力する。 3.7 利用者が変更可能なファイル (1) 点字ブロック地図は,1階用は tmap1.csv,2階用は tmap2.csvであり,3階以降もファイル名は同様である。 (2) 環境音ファイル(wavファイル)は,点字ブロック地図内では,記号 a ~ j の場所に来たとき再生され,soundフォルダに入れる。記号との対応は,環境音対応ファイル wavfile.txt の中に, a=sound/ ○○ .wav b=sound/ ○○ .wav などのように指定する。ただし,以下の4つのフィル名は予約済みであり,使うことができない。 sound/Don.wav:壁にあたったときの音 sound/fence.wav:フェンスにあたったときの音 sound/road.wav:車道を歩くときの音 sound/grass.wav:記号のないところを歩くときの音 4.点字ブロック地図内の記号の意味  以下は,プログラムから示される点字ブロック地図における記号情報を理解したい人や,点字ブロック地図の変更を行いたい人向けの詳細な情報である。 4.1 点字ブロックの種類や環境情報を表す記号 |:南北方向の誘導ブロック。ラ3(226Hz)400ミリ秒 \:北西・南東向の誘導ブロック。ラ#3(240Hz)400ミリ秒 /:北東・南西方向の誘導ブロック。シ3(247Hz)400ミリ秒 -:東西方向の誘導ブロック。ド4(262Hz)400ミリ秒 *:警告ブロック。ミ4(330Hz)150ミリ秒 @:点字ブロックなどはないが,進んでもよい場所(歩道,廊下など)レ4(294Hz)200ミリ秒 A:A 棟 B:B 棟 C:C 棟 D:D 棟 E:東 F:フェンス,環境音 fence.wav G:建物の出入り口 H:壁,環境音 Don.wav I:犬舎 J:イス K:共用棟 L:校舎棟 M:東西医学統合医療センター N:北 O:音サインが聞こえる,(3780Hz)150ミリ秒を2回 P:プラスチック製の点字ブロック(P|:ラ4(440Hz),P\:ラ #4(466Hz),P/:シ4(494Hz),P-:ド5(523Hz), P*:ミ5(659Hz),400ミリ秒) Q:手技鍼灸実習棟 R:車道,環境音 road.wav S:南 T:体育館 U:大学会館・食堂・講堂 V:自動販売機。 W:西 X:段差・階段(今いる階から見て,X1 は下り階段,X2 は上り階段。X0 は階数が変化する場所)。ソ4(392Hz)250ミリ秒 Y:中央 Z:エスコートゾーン。ファ4(349Hz)250ミリ秒 k:運動場(グラウンド) l:図書館 m:コンビニエンスストア o:音サインが小さく聞こえる,3780Hz50ミリ秒を1回 p:プール r:食堂 s:平砂バス停 v:陸橋 z 移動できない箇所。(移動しようとしても壁やフェンスのように減点されない) 0 点字ブロック地図の階数が変更される地点 1 現在の階を基準にしたときの下り階段 2 現在の階を基準にしたときの上り階段 5.実行例と評価 5.1 点字ブロック地図とプログラム  点字ブロック地図データやそれをたどれるプログラムは, https://www.cs.k.tsukuba-tech.ac.jp/labo/sekita/ で公開予定である。 5.2 出力例 (1)プログラム起動時 「校舎棟,東側北口で,北をむいています。出発地点の位置座標は 1 階の,0, 0 です。」 (2)初めての出入り口に到達したときの例 「大学会館 南 出入り口です。位置座標は,1 階の,11, 20 です。おめでとうございます。この出入り口は初めてです。100 ポイントをゲットしました。」 (3)hコマンドを入力したときの例 「位置座標は,1階の,10,20 です。むいている方向は,北です。 北西は HU,  北は HU,  北東は z,  西は空,  ここは空,  東は GUS,南西は空,  南は空,  南東は *,南東に,1 セルのところに,* があります。」 (4)プログラム終了時の例 「歩行を終了します。 位置座標は,1 階の,11, 22 です。 大学会館 南 , の出入り口に到達しました。 大学会館 , の自動販売機に到達しました。 大学会館 南西 , のイスに着席しました。 到達した新たな出入り口の数 =1, 新たな自動販売機 =1, 新たなイスに着席 =1, 歩行路以外の移動量 =16, 車道の移動量 =0, 壁やフェンスにぶつかった回数 =0, 移動量 =65 総合スコアは,141 ポイントです。 5.3 評価  プロトタイプが完成して間もないため,評価結果はないが,一部の利用学生が,環境音だけからでも楽しめている様子はあった。  筆者自身が利用した際,楽しめる一方で,若干ストレスも感じた。それは,ヘルプ機能から得られる限定的な情報だけからは,スムーズに移動することが困難だからである。プログラムのユーザーは,WASD キーで自由に移動でき,また,向きもJKL キーで自由に変えられる。このことは,モビリティー(M)については問題のない状態と言えるだろう。しかし,目的地の方向やそこまでの距離などに関するオリエンテーション(O)の情報がほとんど得られない状態の中で目的地まで移動しようとしていることによるストレスである。移動時におけるO&M の必要性が再認識された。周囲の環境情報を視覚や聴覚から得られないという障害を持っている場合に,目的地まで移動するという行動の困難さの片鱗を感じた。  点字ブロック地図作成にあたり,改めて学内及び周辺の点字ブロックの敷設状況について,意識することができた。 6.おわりに  春日キャンパス内の点字ブロック地図を製作し,それをたどってより多くのポイントを得ながら,点字ブロックを把握してもらえるようなプログラムを製作した。  今後の課題として,出発地点と目的地点を指定できるようにすることで,ヘルプ情報に目的地までのオリエンテーション情報を付加したりできるようにしたい。安全性の見地から,段差・階段の前で一時停止しないと,減点するようにもしたい。3階以上の点字ブロック地図を製作したり,学内のストリートビューと連動させることで,春日キャンパス内の移動について,興味のある入学前の学生やコロナ禍でキャンパスに来ることのできない学生に,事前にキャンパス内を把握してもらい,安心してもらえるような環境も構築したい。 謝辞 2017 年度受講学生の中村友海,金田はる菜,石田修哉,エルデネサンブー・デルゲルバヤルの各氏と,2021 年度受講生の楢崎亮哉,岡田愛美利,平海依,山村拓未の各氏に感謝する。 参照文献 [1] 松尾,坂尻,三浦,大西,小野:視覚障害者のアクセシビリティに配慮したアクションRPG-全盲者向け開発環境とゲーム本体の開発-,日本バーチャルリアリティ学会論文誌 , 21, 2, pp. 303-312, 2018 [2] https://www.tsukuba-tech.ac.jp/department/hs/kasuga_environment/outside.html (cited 21-09-24) Kasuga Campus braille block map and its exploration program SEKITA Iwao Department of Computer Science, Faculty of Health Sciences,Tsukuba University of Technology Abstract: Only visually impaired students attend the Kasuga campus. We have developed a Braille block map that shows the detailed installation of Braille blocks on the campus, and developed a program that allows users to move around while exploring the map.