校舎棟フロアー案内用ユニバーサル点図の製作 関田 巖 1),田中 仁 2),石井源葵 3),市川涼介 3),菊地かな 3),村田勇樹 3),渡邉大貴 3),渡邉道治 3 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 1) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者支援研究部 2) 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 4年 3) 要旨:春日キャンパス校舎棟のフロアー案内図として,ユニバーサル点図を製作した。計画通りの場所に掲示されることも実現したので報告する。 キーワード:点図,フロアー案内,ユニバーサル,触図 1.はじめに  本学春日キャンパスは,視覚障害をもつ学生のためのキャンパスである。1年生の1学期に開講の移動支援工学演習(選択科目)では,入学して間もない受講学生を対象に,移動に関する困りごとについて話し合い,対策に向けて1歩を踏み出すことを目的とするアクティブラーニングが行われている。  2018 年度の本演習では,早々の話し合いで,春日キャンパス校舎棟のフロアー案内触図が必要である,ということでまとまった。点図資料としては,学生便覧の別冊として,点字利用学生には学内の施設内の点図と凡例が配布されているが,分厚い点字資料の後半にあるため,気づいていない学生もおり,また,階段の上下の区別や,トイレの男女の区別,各教員の部屋番号・教員名まで書かれた詳細なものまでには至っていない。  そこでフロアー案内としても使えるような詳細さをもつ触図を製作することになった。以下では,製作工程と最終的な点図(本稿では pdf)を紹介する。 2.触図と凡例の製作  移動支援工学演習の2018年度の受講生6人でフロアー案内触図を製作することになった。主な分担は,図の製作は弱視学生が中心となり,凡例の製作は全盲学生が中心であるが,図を見やすくするための工夫などは利用者としての全盲学生の意見が多く反映されたものとなっている。  図の製作では,教材作成室がエーデルを利用しており,エーデルの利用経験のある学生もいたので,エーデル9で製作することになった。特に点図データ用のEdelPaper(拡張子 EDL)で製作した。EdelPaper は点字プリンタで印刷可能である。情報システム学科にある点字プリンタを,一時的に1年生の教室に移設し,授業中,テスト印刷と修正とを繰り返した。  図の向きを,従来の北が上の横置きにするか縦置きにするかについては,エレベータ脇の掲示板にフロアー案内図を設置することを想定し,縦置きとした。  学生にとって教員の部屋番号と教員名は重要な情報であるため,教員の部屋番号も細かく表記することにした。図の向きを縦置きにすることにより,細分化した部屋の表記が可能となった。  教室等部屋の出入り口は,大小の複数の大きさの点から校正される点図のとき,大きな点で表現してもわかりにくいという意見があり,点線を切って空けることで部屋の出入り口を表現することにした。  階段は,上りと下りを間違えないようにすることは安全上重要である。このため,JIS T 0922:2007 [1] を参考にして,<>∧∨の形をした点図を採用し,凡例では,「カイダン (トガッタ ホーガ ウエ)」と表記した。  地図における現在位置の表示は重要である。点図は多くの人が触れるため,点のつぶれることがある。現在位置の点がつぶれると案内地図としては意味をなさなくなる。そこで,画鋲で現在位置を表すようにすることで,現在位置の把握が容易になると共に,現在位置の点がつぶれてしまう恐れがなくなった。  トイレは,男女を区別して,男性トイレは「ダ」,女子トイレは「ジョ」とし,多目的トイレは「タ」とした。  凡例の製作に関しては,順番が重要である。部屋の番号順も考えられるが,わかりやすさを優先して,現在位置から時計回りに記載した。  凡例の中に,階段を表す点図が含まれている。このため,凡例が文字だけのファイルではなくなったので,文字だけの凡例を完成した後に,点図入りの点訳本用のデータEdelBook(拡張子 hebk) で,最終的な凡例を製作した。 3.ユニバーサル化と図の強度化  フロアー案内用触図としての強度をもつことと,来学者や点字の読めない方々に利用してもらえるようなユニバーサルな案内図であることが望ましい。  当時,身近な触読教材を製作する機械として,立体コピー機があった。これは,専用のカプセルペーパーに黒色で印刷したり,黒色マジックで絵を描いたりしたものを立体コピー機に通すと,黒色部分が立体的に膨らむという特徴がある。いろいろな色で確認したところ,黒色以外の青,赤,緑では膨らまないことがわかった。そこで,エーデルでの点図の印刷を点字プリンタではなく墨字印刷によって,PDF 化した。これを「点図 PDF」と呼ぶことにする。そこに晴眼者向けの情報をカラーで追加した。部屋番号は青色の数字で記載し,印字可能スペースの小さな男子トイレ(青色),女子トイレ(赤色),多目的トイレ(青色),エレベータ(緑色)はピクトグラムで記載した。このようにして付加情報を付けたPDFを「ユニバーサル点図 PDF」と呼ぶことにする。  カプセルペーパーは強度的に不安があったため,強度向上のために液体のエポキシ GM-1508 を塗ってみた。これにより紙がプラスチックのようになり,強度を増すことはできた。しかし,表に塗ると指の滑りや点字の感触が変わり,裏に塗ると塗りむらがシミとなって見た目がよくない,という課題があった。  近年,EasyTactixを身近で利用できることを知った。これも専用用紙に点字や立体イメージを印刷できるものであるが,用紙の強度や点字の膨らむ精度がカプセルペーパーよりも高く,印刷物がそのままフロアー案内図として掲示できそうであった。そこで,カラー印刷対応仕様の専用用紙にレーザープリンターでユニバーサル点図 PDFを印刷し,それをEasyTactix で点図 PDFを印刷することで,フロアー案内用ユニバーサル点図が完成した。1階から5階までのユニバーサル点図 PDFを付録の図1~3に示す。 4.おわりに  現在エレベータ脇の掲示板に校舎棟フロアー案内用ユニバーサル点図が張られており,近くに凡例も掲示されている。2018 年に入学した受講学生が卒業する前に,授業中に目指した第一歩を実際に踏み出せたことはうれしい。  今後,人事異動などで凡例の教員名は変更する必要が生じる。よりわかりやすくするためも含めて毎年改善し,いつまでも美しい点図と凡例であることを維持したい。 謝辞  触地図製作に関して,いろいろと助言をいただいた納田かがり,松間悦子,野澤しげみ,影山純子の各氏,凡例の更新を手伝ってくれた 2021 年度移動支援工学演習受講生の山村拓未,岡田愛美利,平海依,楢崎亮哉の各氏に感謝する。 参照文献 [1] JIS T0922:2007,附属書 (B),(C)。 付録 図1 1階のユニバーサル点図 図2 上図 2階のユニバーサル点図,下図 3階のユニバーサル点図 図3 上図 4階のユニバーサル点図,下図 5階のユニバーサル点図 Production of universal tactile map for floor guidance of school building SEKITA Iwao1), TANAKA Hitoshi2), ISHII Genki3), ICHIKAWA Ryosuke3), KIKUCHI Kana3), MURATA Yuki3), WATANABE Hiroki3), WATANABE Michiharu3) 1)Department of Computer Science, Faculty of Health Sciences, Research and Support Center on Higher Education for People with Disabilities 2)Division for General Education for People with Hearing and/or Visual Disabilities 3)4th year undergraduate, Department of Computer Science, Faculty of Health Sciences Tsukuba University of Technology Abstract: A universal tactile map was created as a floor guide map for the Kasuga Campus buildings. We are pleased to report that we were able to post the map at the locations we had planned.