聴覚障害学生及び大学等を卒業した聴覚障害者のキャリア発達に関する研究 石原保志,大杉豊,小林洋子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター キーワード:キャリア教育,体験的活動,インターンシップ 成果の概要 1.背景と目的 平成27年度は,事業所を対象とした質問紙調査と就労している聴覚障害者を対象とした面接調査を実施し,おもに就労状況の実態の把握と課題の質的分析を行った。これに続き,平成28年度は,就労している聴覚障害者を対象とした質問紙調査を実施し,量的な分析を行うと共に,分析結果から生涯学習的な視座でのキャリア発達現状と課題を検証することとした。 2.聴覚障害者のキャリアアップに関する意識調査 2.1 方法 大学等を卒業し現在,民間企業等に就労している聴覚障害者のキャリアアップの状況を把握するための質問紙調査を実施した。無記名方式とし,回答者のコミュニケーション特性,職場でのコミュニケーション方法,キャリア教育を受けた経験,大学時代の社会活動経験,職場及び業務の現況,キャリアアップに関する意識について,計30項の選択肢,自由記述を組み合わせた質問項目を設定した。調査はWebによる回答方式とした。 2.2 結果の概要 172名から回答を得た。回答者の年齢分布は図1の通りである。回答者の性別は,男女同数であった。以下に,主に大学におけるキャリア教育に関する質問の回答を記す。図2は質問「あなたが受けたキャリア教育はどのようなものでしたか(多肢選択,複数回答可)」に対する回答を示している。講演の受講と併せて職場体験・インターンシップを挙げた回答者が多かった。なお大学においてキャリア教育を受けたか否かの質問に対しては,34.9%の回答者が受けたとしていた。図3は,上記のキャリア教育に関する項目の中で「大変役に立ったものがあればそれを選択してください」という質問に対する回答を示している。職場体験・インターンシップを挙げた回答者がもっとも多く,学外における職場体験活動の重要性を示唆している。上記の結果は,体験的活動が卒業後の職場適応等に役立っていることを示しているが,学校教育以外での活動についても質問項目を設定した。 図1 回答者の年齢分布 図2 学校で受けたキャリア教育の内容 図3 たいへん役に立った教育の内容 図4 学外での活動 図4は,質問「大学時代に学外の団体(手話サークル・スポーツ団体・文化団体等)で活動していましたか」に対する回答を示している。半数の回答者が活動していたとしていた。この他,64.5%の回答者が大学時代にアルバイトの経験があると回答していた。これらの結果から,大学におけるキャリア発達支援の一環として,インターンシップ等の体験的活動が,卒業後の職場適応等に役立っていることをあらためて確認できた。 3.成果の学会発表 小林洋子,石原保志,大杉豊:聴覚障害者のキャリア発達支援に関する検討.ジェンダーの視点をふまえたキャリア教育の必要性を見据えて.日本特殊教育学会第55回大会,P1-27;2017-9-16(名古屋市). 文献 石原保志,大杉豊,小林洋子,管野奈津美.聴覚障害学生及び大学等を卒業した聴覚障害者のキャリア発達に関する研究.筑波技術大学テクノレポート,2016;24(1)57-58.