ロービジョン者の買物環境における潜在的ニーズ 令和2年度 筑波技術大学大学院技術科学研究科 情報アクセシビリティ専攻 谷川ふみえ 目次 第 1 章 序論 ― 問題の所在と背景 1 第 1 節 日本におけるロービジョンの現状 1 第 2 節 ロービジョン者の買物行動に関連する先行研究 8 第 3 節 知人と筆者による視覚障害者の買物に関する現状について 11 第2章 本研究の目的 16 第3章 アンケート調査 17 第1節 アンケート調査方法 17 第2節 アンケート調査結果 22 第3節 16項目の仮説検証 44 第4節 アンケート調査の考察 62 第4章 インタビュー調査 66 第1節 インタビュー調査方法 66 第2節 インタビュー調査結果 68 第5章 考察 80 第1節 考察I 80 第2節 考察II 84 第6章 結語 3 〔引用文献〕94 〔参考文献〕96 謝辞 97 参考資料 98 参考資料1 3人のロービジョン者のペルソナ 98 参考資料2 アンケート調査の依頼書・質問票 103 参考資料3 インタビューガイド(質問計画書)と依頼書 115 参考資料4 インタビュー調査結果個別概要 123 第1章 序論 ― 問題の所在と背景 第1節 日本におけるロービジョンの現状 ロービジョン者の日常生活における困難 「平成 18 年身体障害児・者実態調査結果」の調査結果(厚生労働省, 2006)によると、視覚障害者は「日常の買物をするという動作が他の日常生活活動と比べて介助を必要とする割合が高い」と報告されている。 日常生活において買物は必須であり、その一連の買物行動のほとんどが視覚を通して情報を入手(値段等)、及び発信(支払い等)することで可能となる。すなわち、商品の交換における情報の授受を通した個人の能動的な活動でもあると考えられる。 しかし、視力が低い、あるいは視野が狭い等のロービジョン者にとっては、視覚を通しての情報入手・発信が困難なことが多く、買物行動の様々な場面で困難に直面していると考えられる。 1.1.1 ロービジョン(low vision )とは 視覚障害は、視覚を用いて日常生活を行うことができない盲(blindness)と、視覚によって日常生活が不自由なロービジョン(low vision)に分けられる(髙橋, 2002)。 ロービジョンを明確に定義しているのは、世界保健機関(WHO)の基準以外に見当たらず、「両眼の矯正視力0.05以上 0.3未満」とされている。 日本において、ロービジョンとは、緑内障等明確な疾患を持っている社会的弱視(教育的弱視)の意味で、この弱視は、眼科でいう斜視弱視等の器質的眼疾患のない医学的弱視とは 異なる。このように弱視という言葉では、患者の疾患の有無で使い方が異なる。したがって、高橋によれば、疾患の有無に関わらず、ロービジョンという共通言語を用いるようになってきた(髙橋, 2002)。 本稿では、これに則り「ロービジョン」を用いる。 1.1.2 日本における身体障害者手帳(視覚障害)と視覚障害者(児)の推定人数 日本の福祉における視覚障害の基準は、身体障害者福祉法に定められ、身体障害者手帳(視覚障害)において 1 級から 6 級までの等級区分が示されている。2018 年に認定基準は改正され、その主な改正点として「両眼の視力の和」の認定が、「良い方の眼の視力」で認定されるようになった。1 級から 6 級までの等級区分の内容を以下に示す。 1 級:視力の良い方の眼の視力が 0.01 以下のものである。 2 級:視力の良い方の眼の視力が 0.02 以上 0.03 以下のものである。但し、視力の良い方の眼の視力が 0.04 の場合、他方の視力が手動弁あるいは 0 のときも 2 級である(障害程度等級表 2級の2)。 3 級:視力の良い方の眼の視力が 0.04以上 0.07以下のものである。但し、視力の良い方の眼の視力が 0.04 で、他方の視力が手動弁あるいは 0 の場合は 2 級であるから3級とならない。 4 級:視力の良い方の眼の視力が 0.08以上 0.1以下のものである。但し、視力の良い方の眼の視力が 0.08で、他方の視力が手動弁あるいは 0 の場合 (障害程度等級表3級の 2)は3級であるから4級とはならない。 両眼とも 0.1 の場合、現行では5級であったが、 4級となることに留意する。 また、視力 0.15 は、従来から 0.1 として扱っているので、視力の良い方の眼の視力 0.15 は 4 級である。 5級:視力の良い方の眼の視力が 0.2 かつ他方の眼の視力が 0.02 以下のものである。6級:視力の良い方の眼の視力が 0.3 以上 0.6 以下かつ他方の眼の視力が 0.02 以下のものである。 1.1.3 ロービジョン者の特徴と日本の障害者支援の現状 高橋によれば、ロービジョンとは視力障害や視野障害はいうまでもなく、色覚異常や調節障害等の機能障害も含む(高橋, 2002)。また、日本視覚障害者団体連合によれば、ロービジョン者は、見え方及び見えにくいことでの困り方が多種多様であり、何らかの保有視力が あるからこその不自由さが、周囲から理解されにくいと報告されている(日盲連, 2016)。 上述した通り、ロービジョン者の特徴は「保有視力」である。この特徴が、日本の身体障害者施策(視覚障害)において、ロービジョン者の支援を不十分にしている可能性がある。つまり、身体障害者手帳(視覚障害)の認定方法が「視力」中心となっているため、福祉サービスの対象者が、1 級と 2 級交付者に重点が置かれて、「保有視力」があることで比較的軽度と認定されるロービジョンや進行性眼疾患の人の生活を、より深刻化させる要因となっている(柏倉, 2008)。 わが国では、2000 年に日本ロービジョン学会が発足した。加藤は、2017 年の国際ロービジョン学会において、世界中 195 か国中 178 か国(91%)でロービジョンケアに対するデータがあるのに対し、日本ではロービジョンケアのデータがとられていない数少ない国に分類されていたと報告している(加藤, 2018)。更に、ロービジョンケアに対するデータを医療分野あるいは福祉分野でとるべきものか、日本ではその方向性もはっきり見えてきていないとしている。 また、髙橋は、治療によっても視機能が回復しない患者がいるのが現状で、そのロービジョン者の QOL の向上を目指すロービジョンケアについて医療者でも知らない人が多い、としている(髙橋, 2002)。 わが国において、視覚障害者のみならず障害者が社会に適応するためのこれまでの障害者支援は、ほとんど障害に伴う問題の原因を「個人の障害(impairment)」に求め、個人の 障害を治療する等個人へ働きかける「個人モデル」に基づいて行われており、杉野(2014) によれば、「環境に働きかける「社会モデル」による支援の必要性はようやく認識され始めた ところである」、と述べられている(小川・杉野, 2014,p.4)。 なお、「障害の社会モデル」の考え方は、2006 年に国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」(略称:障害者権利条約)に示されている。日本では、これを 2014 年に批准しており、この考え方に基づく対応が法的にも求められている。特に、2016 年 4 月から施行された「障害者差別解消法」は、この考え方に基づき、国・地方公共団体・事業者に対して、不当な差別的扱いの禁止や合理的配慮の提供を求めている。 わが国の法整備としては、上述した通り 2016 年に「障害者差別解消法」が施行された。同法の考え方は、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するためには、日常生活や社会生活におけ る障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している社会的障壁を取り除くことが重要である。」としている。 また、国土交通省は、2006 年、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)を施行し、「建築設計標準(平成28年度改正版): 第2部 第1章 高齢者、障害者等に配慮した環境整備の促進について」において、視覚障害者への対応の考え方として、「視覚障害者は、受障年齢、視覚障害の内容、見え方、受障後の生活訓練体験、就労経験、外出頻度、単独での外出が可能であるか等によって、利用特性が異なる。」としている。加えて、「すべての人に使いやすい建築物は、移動経路や利用居室等の建築的な対応によるハードの整備だけで達成されるものではない。建築物を利用するためには、ハードとソフトの両側面からの支援が必要であり、整備された建築物をより利用しやすくする運営管理・人的対応等のソフトを工夫することが重要となる。」としている。更に、特記すべきことに弱視者のみについても以下の通り言及している。弱視者における移動時の課題について、「視力が弱く、その上視野が狭い、色が分からない等、人それぞれに違った見え方をする弱視者にとって、健常者にはさほど気に止める必要がないことでも、危険であったり、不便であったりする場合がある。逆に健常者には便利なことが、弱視者には不便である場合も見られる。」とし、弱視者に対する駅構内の安全確保に関する様々な課題と対応(配色・明るさ等)を挙げている。加えて、「こころと社会のバリアフリーハンドブック」を作成した(国土交通省, 2018)。バリアとは、「『障害は、個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されているものであり、社会的障壁を取り除くのは社会の責務である』という社会モデルの考え方からすると、「バリア」は、生活しにくい環境を作っている 社会にある障壁』、即ち困りごとを生んでいる原因である」とし、4 つのバリア「物理的、制度的、文化・情報面、意識上」があるとしている(国土交通省, 2018,pp.5-7)。また、高齢者、障害者等が安心に日常生活や社会生活が出来るようにするためには、施設整備(ハード面)だけではなく、高齢者、障害者等の困難を自らの問題として認識し、心のバリアを取り除き、その社会参加に積極的に協力する「心のバリアフリー」が重要であるとした。このため、国土交通省では、地方運輸局の主催により、全国各都市において「バリアフリー教室」を開催し、擬似体験、介助体験、バリアフリー化された施設の体験等をする場を提供している。地域では、学校、地方公共団体、 NPO、ボランティア団体、障害者団体、福祉施設等多様な主体が、お互いに連携しながら同様の取り組みを行っている。 1.1.4 ロービジョン者の4大バリアと情報保障の現状 「文字」に関して視覚障害者は、情報の入手(読む)や発信(書く)及び行動において様々な困難を抱えている(愼, 2013)。 高橋(2019)は、視覚障害者には 4 つのバリア「文字・移動・コミュニケーション・心」があると述べている。以下に、その概要を示す。「文字」と「移動」のバリアについては、 「視力が 0.1 未満に低下すると日常生活に支障が生じ、活字使用や単独歩行が困難になることを記憶しておくことが大切である。...また、視野に関しては、視野狭窄、中心暗点や輪状暗点等が文字処理に大きく影響する。」 また、「コミュニケーション」と「心」のバリアについては、 「視覚障害児・者は、一般的に寡黙であることが多い。...自分の見え方については語ることはほとんどなく、どのように見にくいのか、どのように見えているのか、どのようにしてほしいかをも話さないため、ますます誤解が生じる。もっとも、自分の見え方を正確に理解していないがため、自分の見え方を伝えられず、どのようにしてほしいかが表現できない。ということが言えるかもしれない。...成人においては、心にも時間にも余裕がなく...本人には日常生活が可能な視機能があるにもかかわらず、「この仕事できるのかな...」と、次への一歩を踏み出せないでいることが多々ある。」 としている(高橋, 2019,pp.12-20)。 なお、本研究では、高橋(2019)のいう視覚障害者の 4 つのバリア「文字・移動・コミュニケーション・心」が、ロービジョン者の買物行動においても直面し、そこには、ロービジョン者の「保有視力」が大きく影響していると推測される。以下に、その概要を示す。 ロービジョン者は「保有視力」があるため、「文字」と「移動」のバリアについては、実店舗では、ある程度の大きな文字やコントラストが高ければ困難ではあるが、見える。しかし、小さな文字であれば見ることは、ほぼ不可能となる。また、単独で、店舗の出入り口から目的地(例えば、サービスカウンターやトイレ等)までの移動が、見えにくいため困難である。更に、視野に関しては、視野狭窄、中心暗点や輪状暗点等が文字処理や移動に大きく影響する。 次に、「コミュニケーション」と「心」のバリアについては、ロービジョン者は「保有視力」があり、また、上述した日本眼科医会(2009)の報告より、何らかの理由で身体障害者手帳(視覚障害)を所持していない可能性があるロービジョン者が、白杖を使用しない場合もあると考えられる。そのため、見えにくい時も周囲の人からは視覚障害があると理解されにくい。しかし、自ら声がけをすることは、障害を開示しなくてはいけないのかと戸惑う、ロービジョン者側の心の葛藤が生じる。心の葛藤、すなわち、「心」のバリアがあるため、見えにくい時に店員に尋ねる等の「コミュニケーション」が上手くとれない。そして、「コミュニケーション」が上手くとれないことで、新たな「心」のバリアが生まれ、重なっていくという悪循環になっている場合もあると考えられる。 国土交通省(2018)、高橋(2019)、筆者の「バリア」に関する一覧表を以下に示す。 表 1-1.「バリア」に関する一覧表 (表)  一方、日本盲人会連合(2016)は、ロービジョン者が日常生活を送る上で、読み書きすることは、社会参加の機会の確保と、自立した社会生活を実現するものとして大変重要である、と情報保障の重要性を取り上げている。  近年、視覚障害者の情報保障のため、様々な取り組みや研究が進められてきている。文字や色による情報伝達のバリアをなくし、正確に伝わるよう配慮するため、読みやすく、誤読されにくいユニバーサルデザインフォント(イワタ, 2016)が開発され、カラーユニバーサルデザインのガイドブック(東京都, 2011) 等が作成されている。  しかし、現状では、ロービジョン者が日常生活において様々な場面で抱える情報保障の困難への理解や支援が不十分な状況であると考えられる。このことは、「2010 年度(平成 22 年度)視覚障害者不便さ調査成果報告書」(共用品推進機構, 2011)による報告をはじめ、いくつかの先行研究等で指摘されている。それらを次節(第 2 節)に示す。 第2節 ロービジョン者の買物行動に関連する先行研究 ロービジョン者にとっての買物とは 人々が生活をしていく上で、必要な「衣食住」を確保するため、買物は重要な手段である。総務省(2016)は、「良好な買物環境は、日常の生活の基盤であり、地域で生活を営む上で不可欠なものである」としている。このように、ロービジョン者も含めたすべての人々にとって、買物は必須であり、その環境は、良好であることが望ましい。  しかし、その現状は、上述した厚生労働省(2006)の調査結果報告書では、視覚障害者は、「日常の買物をするという動作が他の日常生活活動(身体活動のうち、日常生活における労働、家事、通勤・通学等)と比べて介助を必要とする割合が高い」とし、良好であるとは言い難い。その要因の一つは、一連の買物行動のほとんどが視覚を通して情報を入手(値段等)、及び発信(支払い等)することで可能となる個人の能動的な活動であると考えられる。  視力が低い、あるいは視野が狭い等のロービジョン者にとっては、視覚を通しての情報入手・発信が困難なことが多く、買物行動の様々な場面で困難に直面していると考えられる。  ロービジョン者にとっての買物環境の実態調査は、晴眼者と同じく良好な買物環境を構築することで、「衣食住」を確保するための重要なものである。  本節では、視覚障害者の買物環境に関わる先行研究について、紹介していく。 1.2.1 ロージョン者の買物環境に関連する先行研究 (1)「女性視覚障害者生活実態調査」(国立身体障害者リハビリテーション, 1983), (一部抜粋)  調査対象者:18歳~90歳以上の女性視覚障害者192人  「買物については、近くの小売店での買物、スーパー・デパートでの買物の2つの項目で質問を行ったが、近くの小売店での買物において一人でできる者は51.6%、全部介助が必要な者が30.7%、一部介助が必要な者が14.1%となっている。スーパー・デパートでの買物においては一人でできる者が35.9%、全部介助が必要な者が37.0%、一部介助が必要な者が 22.9%となっており、日常生活動作の中で最も高い介助要求度を示している。」(筆者考察:小売店での買物において、介護要求度の割合が最も低い結果が得られたのは、近所で狭い店舗により信頼関係も築かれ、見えにくい時に尋ねやすいためと考えられる。) (2)「読み書きが困難な弱視(ロービジョン)者の支援の在り方に関する調査研究事業-報告書-」(日本盲人会連合, 2016),(一部抜粋)  「本調査は、読み書きに困難を抱えている弱視(ロービジョン)者の現状と課題を把握し、弱視(ロービジョン)者が真に求める支援や必要な配慮は何かを明らかにすることを目的とした。  読むことについては、「非常に困る」との回答が302人(42.9%)、「困る」との回答が303人(43.0%)、合わせると約86%になり、視覚活用の困難さが読むことに及ぼしている制約が改めて明確に示された。読むことで困る理由としては、文字のサイズ、濃さ、コントラスト、行間・文字間等への配慮が不十分なために、文字が見えにくいという回答が523人で最も多かった。これは回答者の86%に及んでいた。  読むことで困っている内容として、「商品の値段や表示が分かりにくい」については、「非常に困る」「やや困る」困っているという回答が無回答を除くと90%を超えており、弱視(ロービジョン)者の日常生活において大きな制約になっていることが示された。」 (筆者考察:「商品の値段や表示が分かりにくい」についての困難の割合が高かった結果より、買物は視覚を通して「文字」から情報を入手していることが多い行動であり、これらの記述より文字情報のバリアが常に買物行動にはつきまとうことが示された。) (3)「2010 年度(平成 22 年度)視覚障害者不便さ調査成果報告書」(共用品推進機構, 2011),(一部抜粋)  「本調査は、調査対象を視覚障害者に絞り、彼らが抱える日常生活の不便さ並びに数年の間に解決した事項について、アンケート調査を行い、今後の改善につながる課題を明らかにした。これらの成果を報告書としてまとめ、関係機関に周知し幅広く活用されることを目的とした。  弱視の利用しにくい店としては、百貨店、スーパー、ネットショッピング、小売店、通信販売、コンビニエンスストア、生協の順である。全盲と同様に、百貨店、スーパーは店内が広すぎること、商品の場所がわかりにくいことが利用しにくい理由である。特に百貨店は「店内が広すぎてわからない」、「商品の場所がわかりにくい」という指摘が多い。一方、スーパーは「店員のサポートを受けにくい」という声が多い。このことは、コンビニエンスストアも同様である。  パソコンを使うネットショッピングでは全盲と同じように、「購入手続きが面倒」という声が多い。また、パソコン操作に対する不安もあり、「二重に操作してしまう」ことを心配する声もあった。カタログを見て注文する通信販売は、カタログの文字が小さいため「内容が読めない」という声が多い。また、「通信販売は実際に商品が見られないし返品が面倒」という指摘もあった。  小売店は対面販売のため「買わざるを得ない雰囲気になる」、「商品の内容、価格がわかりにくい」ことをあげていた。生協は「購入手続きが面倒」という声もある。  その他の利用しにくい店として「家電量販店は店員を見つけるのに非常に苦労する」、「薄暗い店」という指摘があった。」 (筆者考察:「家電量販店は店員を見つけるのに非常に苦労する」と挙げられていることより、視覚障害者にとって店員のサポートは必要不可欠と考えられた。) (4)「生活や活動についての新型コロナウイルス感染症による影響についてインタビュー調査結果概要」(交通エコロジー・モビリティ財団, 2020),(一部抜粋) 「団体で活動されている視覚障害の方の回答について ・消毒用アルコールの場所がわからない。 ・慣れていれば良いが、初めて行くお店は困る。 ・商品を触らざるを得ないがあまり触りたくないし、まわりの人も嫌ではないかと感じる。 ・入口、出口が分けられてしまうとわからず、誘導のポールに白杖が引っかかり危険を感じる。 民間企業でお勤めの視覚障害の方の回答について ・レジの並ぶ位置や消毒用アルコールの場所がわからない。特に列に並ぶ際、コンビニ等で間違えて割り込んで並んでしまい、気まずくなってしまうことがありとても困っている。 ・レジで店員の手に触れないよう、商品が置かれてからとるようにしている。買物袋を忘れてしまった時は、レジ袋に入れてもらい、置いてもらってからそれを取るようにしている。」 (筆者考察:「まわりの人も嫌ではないかと感じる。」と挙げられていることより、自分が行動する際に周囲の人を気にかけながら行動していることがうかがえた。) 〔総括〕 上述した先行研究から、買物行動において、視覚障害者にとって「商品の値段や表示」等の文字から情報を入手することが困難な「文字」のバリアと、百貨店のように広い店舗は、商品の場所がわかりにくい、あるいは、コロナ禍において、新たに設置された消毒用アルコールの場所がわからない等の物や場所の位置へ「移動」して把握することが困難なバリアが明らかになった。店員のサポートの必要性や周囲の人への気遣い等、視覚障害者側の心の葛藤も明らかになった。加えて、女性限定ではあるが、視覚障害者の買物に関する調査が1981年に行なわれており、「近くの小売店」を単独で利用している割合が高かった。このことより、自宅から近い広すぎない店舗は、店員と信頼関係が築けるために、見えにくい時に店員からサポートをうけやすい要因があるためと考えられた。 第3節 知人と筆者による視覚障害者の買物に関する現状について  先行研究をふまえ、実際に視覚障害者の買物に関する現状を把握するため、筆者の視覚に障害がある10名の知人に連絡し、日ごろの買物(主に食料品)に関する現状を語ってもらった。  その後、筆者は知人の懇親の場に参加し、視覚に障害があることで買物及び日常生活における不便さ等の現状について、話を聞くことができた。  以下に各自のプロフィールと概要を箇条書きで示す。 1.3.1 10名のプロフィール ・Aさんのプロフィール:男性、50代、全盲、白杖使用 ・Bさんのプロフィール:男性、40代、矯正視力(右0.1・左0.2)、眼振 ・Cさんのプロフィール:男性、40代、矯正視力(右0・左白濁)、白杖使用 ・Dさんのプロフィール:女性、50代、矯正視力(右0・左0.02)、白杖使用 ・Eさんのプロフィール:男性、40代、未熟児網膜症、矯正視力(右手動弁・左0.05) ・Fさんのプロフィール:女性、40代、矯正視力(右0・左0.08)、色覚良好 ・Gさんのプロフィール:男性、50代、網膜芽細胞腫、矯正視力(右義眼・左0.02)、視野狭窄、白杖使用、小4から盲学校 ・Hさんのプロフィール:女性、40代、矯正視力(右0.1・左0.03)、眼振 ・Iさんのプロフィール:男性、40代、ベーチェット病、矯正視力(右0.1・左0) ・Jさんのプロフィール:男性、40代、全盲、白杖使用 1.3.2 10名の語りのカテゴリー分類  実際に視覚障害者の買物に関する現状を知人に語ってもらった。その語りより、知人が買物をする際に直面している困難が具体的に明らかになった。加えて、これらの困難を、各自の語りをカテゴリー別に分類した。 【1.入店前や店舗以外での情報(ネット等)】: ・ネットで買うことが多い(A さん、B さん) ・お店で確認しネットで買うこともある(E さん) ・電話注文でも商品を買う(Gさん) ・ネットは履歴があるので買いやすい(I さん) ・ネットで確認してからお店に行く(I さん) ・ネット(コープとAmazon)とコンビニで買うことが多い(J さん) 【2.店舗での買物】: ・出入口がわかりにくい(A さん) ・店員さんに頼むことが多いため、店員さんがいるレジがわかりやすいコンビニの利用が多い(A さん) ・出入口がわかりにくい(B さん) ・ガラスケースは近寄らないと見えにくい(B さん) ・ドレッシングの棚にぶつかり倒してしまった(B さん) ・肉や野菜の種類が判別しにくい(B さん) ・毎日スーパーに行く(D さん) ・値引きシールが見やすいので買うことが多い(D さん) ・出入口がわかりにくい(E さん) ・出入口の押しボタンがわかりにくい(E さん) ・値札が見えにくい(E さん) ・肉の種類がわかりにくい(E さん) ・生鮮食料品の鮮度がわかりにくい(E さん) ・似たような種類でばら売り(コロッケ等)の商品は店員さんに尋ねる(D さん) ・商品の配置がお店により異なるので戸惑う(E さん) ・毎日同じスーパーに行くので商品の配列で迷わないが、改装すると迷う(F さん) ・値札が見えにくい(F さん) ・棚の上段の商品は見えにくい(F さん) ・コロッケ等は判別が難しいので予想で買う(F さん) ・ショーケースの商品も見えにくい(F さん) ・店員さんに頼むことが多いため店員さんがいるレジがわかりやすい、なおかつ狭いのでコンビニの利用が多い(Gさん) ・目を近づければ文字は見える(H さん) ・同じお店でも地域ごとに商品の配列が異なるので戸迷う(H さん) ・スパイスは判別しにくい(H さん) ・棚の下段の商品は見えにくい(H さん) ・透明のパッケージに印字してある商品等、値札のコントラストにより見えにくい商品もある(H さん) ・おしゃれなパンの表示が見えにくい(H さん) ・野菜やパン、冷凍食品等の同じ商品の判別が難しい(Iさん) ・ゼリーなのかジュースなのか、見た目で判別しにくい商品がある(I さん) ・新商品も見つけにくい(I さん) ・ネット(コープと Amazon)とコンビニで買うことが多い(J さん) 【3.レジ精算(無人・有人レジ)】: ・セルフレジは苦手(A さん) ・セルフレジも店舗により異なるのであまり使用しない(B さん) ・カード払いが多い(B さん) ・セルフレジは苦手なので、お店に頼み練習をさせてもらい使用している(E さん) ・セルフレジは使用する(F さん) 【4.コミュニケーション】: ・広いスーパーは同伴者と行く(A さん) ・店員さんに頼むことが多いため、店員さんがいるレジがわかりやすいコンビニの利用が多い(A さん) ・店員さんは探しにくく聞きづらい(B さん) ・困った時は店員さんに尋ねるか白杖を高めに上げる(C さん) ・店員さんは探しにくい(D さん) ・似たような種類でばら売り(コロッケ等)の商品は店員さんに尋ねる(D さん) ・店員さんとお客さんが見分けにくい(E さん) ・商品を選ぶ時は同行援護の方か店員さんに尋ねる(Gさん) ・店員さんに頼むことが多いため店員さんがいるレジがわかりやすい、なおかつ狭いのでコンビニの利用が多い(Gさん) ・コンビニやデパートでは店員さんに尋ねる(J さん) 【5.支援機器の使用(単眼鏡等)】: ・店舗内でわかりづらくても携帯は出さない(A さん) ・10ポイントの文字は見えるのでルーペで見ることもある(C さん) ・単眼鏡を使用する(D さん) ・店舗内でわかりづらくても携帯は出さない(E さん) ・自分がまだ買ってない商品に携帯をむけるのは気が引けるため、店舗内でわかりづらくても携帯は出さない(I さん) 【6.自分の工夫や思い】: ・店舗内でわかりづらくても携帯は出さない(A さん) ・困った時は店員さんに尋ねるか白杖を高めに上げる(C さん) ・困った時は態度でも表す(C さん) ・接客態度が悪い時はお店に伝える(C さん) ・商品に顔を近づけることに注意を払う(D さん) ・セルフレジは苦手なので、お店に頼み練習をさせてもらい使用している(E さん) ・商品を手にのせておおよその重さを測る(F さん) ・先天の弱視で、ずっと商品は手に取り近づけて見ていたので気にならない(F さん) ・知人は商品を手に取り近づけて見ていたら店員さんに注意をうけた(F さん) ・コロッケ等は判別が難しいので予想で買う(F さん) ・出入り口は歩数で覚えておく(Gさん) ・自分がまだ買ってない商品に携帯をむけるのは気が引けるため、店舗内でわかりづらくても携帯は出さない(I さん) 1.3.3 カテゴリー分類 語られた困難をカテゴリー別に分類した。 【1.文字等による情報】: ・靴のサイズが見えにくい ・店舗内で本やCDはルーペで見る ・レストラン等のメニューが変わると戸惑う 【2.コミュニケーション】: ・家電量販店は店員さんが少ないので戸惑う 【3.支援機器の使用(単眼鏡等)】: ・店舗内で本やCDはルーペで見る ・目立つようなデバイスは人目が気になり使用しにくい ・高価なデバイスは買いにくい 【4.自分の工夫や思い】: ・カタログを見てからお店に行く ・居酒屋等で多めに料金をとられた ・目立つようなデバイスは人目が気になり使用しにくい 1.3.4 まとめ 上述した筆者の知人の買物環境の現状は、日本盲人会連合(2016)で報告されている「商品の値段や表示が分かりにくい」についての困難の割合が高かったことと一致しており、「文字」のバリアがあることが、改めて、明らかになった。加えて、「出入口は歩数で覚えておく」等より、「移動」のバリアがあることによる視覚障害者の工夫、「カタログを見てからお店に行く」ことで店員に尋ねやすくする等「コミュニケーション」のバリアを軽減し、「目立つようなデバイスは人目が気になり使用しにくい」等、見えにくいことで視覚障害者側に心の葛藤が生じる等、すなわち、「心」のバリアがあることも明らかになった。国土交通省(2018)のバリアフリー法では、情報の伝え方が不十分であるために、必要な情報が平等に得られない「文化・情報面のバリア」を挙げているが、視覚障害者の買物環境においても状況は一致していると考えられた。 第2章 本研究の目的  現状における先行研究は 1 問 1 答式であり、それらを表やグラフ化したものにとどまっており、様々な見えにくさがあるロービジョン者のプロフィールとの関係や、各設問の相関等については調査されていない。そのため、何が不自由さの原因であるか必ずしも明らかになっていない。加えて、店員とのコミュニケーション、視覚障害があることを開示することになるロービジョン者側の心理状態についても、分析されていない。  ロービジョン者側の心理状態に着目することは、ロービジョン者が家族を含めた周囲の人たちとのコミュニケーションや障害受容等、買物行動にとどまらず、生活環境改善の重要な要因であると考えられる。  そこで本研究では、ロービジョン者が買物をする際に、直面している課題やニーズに加え、その背景にある心理状態にも焦点を当てた調査を行い、快適な買物環境を実現するための方策を明らかにすることを目的とする。 第3章 アンケート調査 第1節 アンケート調査方法 3.1.1 調査研究の目的 本研究では、ロービジョン者が実店舗で買物をする際に、直面している買物の課題やニーズに加え、その背景にある心の問題にも焦点を当てた調査を行い、快適な買物環境を実現するための方策を明らかにすることを目的とした。  本研究の目的を達成するために、まず、第一段階となるアンケート調査では、対象となる視覚障害者にペルソナ法(Steve, 2008)を適用して作成した質問票を用い調査を行い、選択肢と自由記述によりロービジョン者がおかれている買物環境における課題とニーズを明らかにすることを目的とした。  アンケート調査で、ロービジョン者の買物環境における課題とニーズを明らかにするとともに、この調査の結果をふまえ、第二段階となるインタビュー調査への対象となる視覚障害者の選定を行った。 3.1.2 買物行動の流れの分類:3 フロー・8 カテゴリー  嶋田らは、視覚障害者の衣料品のファッション行動が 4 つの段階、すなわち、「購入前、店舗でのショッピング、衣服管理、コーディネート」から構成されていることを明らかにした(嶋 田, 2018)。  これらの先行研究を用い、加えて、上述した「知人と筆者による視覚障害者の買物に関する現状についての語りと座談会」(第 1 章 第 3 節)をもとに、買物の際に直面する困難が予想される場面とそれをもとにした工夫・要望・提案を 8 つのカテゴリーに分類した。 1. 入店前にチラシ閲覧等情報収集 2. 店舗での買物(商品の選別・取得等) 3. レジ精算(無人・有人レジ) 4. コミュニケーション(店員に尋ねる等) 5. 施設設備(照明等) 6. 支援機器の使用(単眼鏡等) 7. 自分の工夫 8. 要望と提案 図 3-1.買物行動の 3 フローと 8 カテゴリーの構成  これらのカテゴリーから、視覚障害者の買物行動に潜在する諸課題の構成を再構築し、その構造を、図 3-1 に示す。買物行動は大きく分けると、「入店前→店舗での買物→レジ精算」の 3 つの流れ(フロー)から構成されていることが考えられる。 3.1.3 ペルソナ法の適用について (1) ペルソナ法とは  アンケート調査の質問票を作成するにあたり、まず、ロービジョン者の買物の場面ごとの見えにくさにおける仮説を立案した。その際、ロービジョン者の見え方は多様であるため、仮説を立案するために、ペルソナ法を採用した(Steve, 2008)。  ペルソナ法とは、アラン・クーパーにより 1998 年に提唱された、サービス・商品開発する際、想定する仮想のユーザー像のことで、主にマーケティング分野で適用されている(マーケティング用語。1980 年代~)。近年、マーケティング分野以外でも、教育をはじめとする様々な分野での適用の研究が進められている(栗林, 2010)。  手法としては、感情移入しやすい「名前、年齢、性別、家族構成、趣味、性格、経歴」等リアルな人物像を設定する。そのため、開発者全員が「この人物はきっとこのような生活をしているから、このようなことで困っている・不自由を感じているはず」と、ユーザーの視点で物事を考え、発想しやすくなり共通認識をもって進めていけるとされている。 (2) 本研究におけるペルソナ法の適用について 本研究でペルソナ法を適用した理由として、ロービジョン者の見え方は多様なので、買物行動の各検討段階でのロービジョン者の行動パターンのぶれを少なくし、より具体的な課題 を抽出できると考えたためである。  まず、表 3-1 に示した通り、「視覚の状態、年齢、性別、家族構成、利用している店舗のタイプ」等を異なる条件とした 3 人のロービジョン者「桜 太郎、東川 ふみ、夏目 あかね」のペルソナを立案した(参考資料1 1.1)。これにより、「こだわる商品や着目する表示、利用している店舗」等が、具体的に推測できた。  次に、3人の買物の場面ごとのバリアを一覧表にまとめ(表3-2 参考資料1 1.2)、買物行動の場面ごとの見えにくさを具体的に検討した。  更に、ペルソナを参考に、視覚障害者の買物に関する 16 項目の仮説を立案した。次に、買物行動の 3 つのフロー、8 つのカテゴリー、4 大バリア等に対応したアンケート調査の質問票を構築した。  なお、アンケート調査の結果をふまえ、インタビュー調査への対象となる視覚障害者の選定にもペルソナのモデルを参考にした。 表 3-1.ロービジョン者のペルソナ (表) 名前 年齢 職業 趣味 学歴、性格、資格、経歴 ・・・ 桜 太郎 66 歳 農業 英語、料理、スキー 以下略 東川 ふみ 47 歳 主婦 音楽鑑賞、陶芸 以下略 夏目 あかね 25歳 学生 絵画鑑賞 以下略 表 3-2.買物の場面ごとの困難さの対応表(一部) (表) 入店前情報収集・文字 太郎:折り込み広告 東川:ネットでフロアガイドと特売品 あかね:ドラックストアのネットチラシ、出入口の注意事項と店舗内案内図見えにくい 店舗での買物・文字 太郎:成分表が見えにくい、 商品の陳列棚 探しにくい、ばら売りの値段見えにくい 東川:商品の状態や同じ種類の商品が判別しにくい あかね:ショーケースの中が見えにくい、値引品は何とか見える 入店前情報収集・移動 東川:初めて行く店舗の出入り口探しにくい 店舗での買物・移動 あかね:通路の向かいの売り場がわからない 3.1.4 16項目の仮説立案 ロービジョン者の視機能等個人的特性と、上述した買物の際に直面することが予想される8 つのカテゴリーでの困難さを組み合わせた 16 の仮説を立案した。以下に示す。 【仮説 1:視力と同行者】:低視力者ほど、同行者の同伴が多い、 【仮説 2:視力とよく利用する店舗のタイプ】:低視力者ほど、商品数が限られ・棚の少ないコンビニ利用が多い。 【仮説 3:視力とネットチラシや新聞の折り込み広告】:低視力者ほど、見えにくいため、チェックしない。 【仮説 4:視力とかごカート】:低視力者ほど、周囲の様子が見えにくく困ることが多い。 【仮説 5:視力とばら売りの食料品】:視力の程度に関わらず、見えにくく困る。 【仮説 6:視力と対面式売り場】:視力の程度に関わらず、店員が近くにいるので、困らない。 【仮説 7:視力と冷凍食品等のショーケース】:視力の程度に関わらず、見えにくく困る。 【仮説 8:視力と値段と品名】:低視力者ほど、見えにくく困る。 【仮説 9:性別と賞味期限や成分表】:視力の程度に関わらず、女性の方が見たいのに困る。 【仮説 10:視力と値引き品】:低視力者ほど、見えにくく困る。 【仮説 11:視力とセルフレジ】:視力の程度に関わらず、画面表示が見えにくいことで操作しづらく困る。 【仮説 12:視力と有人レジ】:低視力者ほど、合計金額の画面表示が見えにくく困る。 【仮説 13-1:視力と店員を見つける】:低視力者ほど、購入相談できる店員を店内で見つけるのが困難である。 【仮説 13-2:視力と店員さんに尋ねる】:低視力者ほど、見えにくく困る。 【仮説 14:性別と支援機器】:視力の程度に関わらず、女性の方が周囲の目を気にして使用しない人が多い。 【仮説 15:視力と支援機器】:低視力者ほど、利用することが多い。 【仮説 16:視力と駐車場と駐輪場】:低視力者ほど、見えにくく危険な目に遭う。 3.1.5 質問票の作成  第 2 節の先行研究、第 3 節の座談会及び 3 人のロービジョン者のペルソナの買物の場面 ごとの困難さの対応表、16 項目の仮説をふまえ、以下の 7 つの観点でアンケート調査の質 問票を作成した(参考資料2 2.2)。質問項目は、合計16問(回答40ヵ所)で、選択肢項目 が 13 問、自由記述項目が 3 問である。 1. プロフィール 2. 日常的に利用している店舗 3. 店舗内でのショッピング 4. 商品の清算 5. 店舗内での支援や支援機器(ルーペ等)の使用 6. 店舗の施設設備等 7. 店舗への要望と提案等 加えて、アンケート調査後のインタビュー調査への可否の回答項目も設けた。 ※視野については、西脇らによる分類では、Goldmann 視野計を用いて測定している(西脇ら, 2002)。本調査では、視野については回答者に明確な測定基準や報告を求めていない。その理由としては、見えにくさは個人の日々の体調や天候等によっても異なり、中心暗点と求心性狭窄では困難さが全く異なる等、身体障害者手帳の等級の定義だけでは表しきれず、本人にさえ回答しにくい項目であると考えたからである。そのため回答肢は自由記述回答とした。 3.1.6 アンケート調査の実施方法  NPO 法人タートルは、会員の体験をもとに、視力低下によって仕事を続けることの悩みに相談にのったり、支援を行ったりしている。今回、同法人に、調査の目的と方法を説明した上で会員メーリングリストを使用して視覚障害者に協力をお願いした。賛同者に「説明文、同意書、質問票」の Word 版及びテキスト版を電子メールで送付し、同様に質問票の回答も電子メールで回収した(参考資料2 2.1)。 この際、倫理上の観点から、実際に何人に協力依頼したかは掌握しない形とした。 ・対象者:盲から軽度の視覚障害があり、連絡先がわかる人  ※上述した通り、ロービジョンは、世界保健機関(WHO)の基準では「両眼の矯正視力0.05 以上 0.3 未満」と定義されているが、本研究においては、対象者に西脇らの調査に則り盲も含む(西脇ら, 2002)。 ・調査期間(質問票の回収期間):2020 年 3 月 2 日から 19 日 3.1.7 倫理面への配慮  研究協力者の人権を保護するため、(1)本調査が匿名化されていること、(2)収集データの目的外使用はしないこと、(3)個人等が特定されうるデ-タは公表しないこと、等を記載した説明文書を作成し、説明の上、同意を得た。また、収集・作成した紙媒体は研究代表者が厳重に保管するほか、電子デ-タはパスワ-ド認証付き USB メモリに保存した。  なお、本調査は、筑波技術大学倫理委員会にて承認(承認番号:2019-39)を得て実施した。 第2節 アンケート調査結果 回答者のプロフィール  アンケート調査の結果、90 名の視覚障害者から回答が得られた。 3.2.1 年代別構成 【問 1:年代を教えてください。】(択一回答) アンケート調査に回答した協力者の年代構成を、図3-2に示す。 図3-2.年代別構成 (図)  年代別構成について、50 代が 23%で最も多く、ついで、40 代で 17%であった。一方、 10 代は 2%で、70 代以上は8%であった。 3.2.2 性別 【問 2:性別を教えてください。】(択一回答) アンケート調査に回答した協力者の性別構成を、図3-3に示す。 図3-3.性別 (図) 男女比は、男性が 67%で、女 33%であった。 3.2.3 矯正視力(良い方) 【問 3:現在の矯正視力と見え方について、具体的にお書きください。】(自由記述) アンケート調査に回答した協力者の矯正視力(良い方)を、図3-4に示す。 図3-4. 矯正視力 (良い方) (図)  視力については良い方の矯正視力を当該者の視力とし視力程度を分類すると、男女あわせて、盲(0.01 未満)37%、重度(0.05 未満)33%、中等度(0.3 未満)19%、軽度(0.3~ 1.2)10%であった。なお、視力の分類は、西脇らによる分類に従った(西脇, 2002)。  視力と見え方についての記述の多くに、「動く光が見られない」、「中心がぼやけて見える」、「白くぼやけて見える」、「光のみが見える状態」、「視野狭窄なし、羞明」、「視野 35 度」、「光覚弁」、「手動弁」、「一部視野欠損、全体的にぼやけている、羞明あり」、「視野 5°以下、夜盲あり」、「上半分視野欠損」等専門用語が用いられていた。 3.2.4 買物の頻度【問 4:どのくらいの頻度で買物に行きますか。】(択一回答) アンケート調査に回答した協力者の買物頻度を、図3-5に示す。 図3-5. 買物頻度 (図) 買物頻度について、「週 2~3 回」が 43%で最も高く、ついで、「ほぼ毎日」で 28%であった。したがって、週に 2 回以上行く人は 71%であった。 3.2.5 同行者の有無 【問 5:買物をする際に同行してくれる人はいますか。】(択一回答) アンケート調査に回答した協力者の同行者の有無を、図3-6に示す。 図3-6. 同行者の有無 (図) 買物をする際の同行者の有無について、同行者が「常にいる」人は 17%であり、同行者が 「時々いる」、「いない」人はあわせて 83%であった。 3.2.6 利用する店舗とその理由 【問 6:買物をする際に利用する店舗について教えてください。】 1)最もよく利用する店舗のタイプ(択一回答)  アンケート調査に回答した協力者の最もよく利用する店舗のタイプを、図3-7に示す。 図3-7. 最もよく利用する店舗のタイプ (図) 最もよく利用する店舗のタイプについて、「スーパーマーケット」が 49%で最も高かった。 次いで、「コンビニエンスストア」が 37%であった。その他に「大型店」が挙げられた。 2)上記の店舗を利用する理由(択一回答) アンケート調査に回答した協力者の上記の店舗を利用する理由を、図3-8に示す。 図3-8. 最もよく利用する店舗のタイプ:利用する理由 (図)  利用する理由について、「自宅から近い」が 64%で最も高く、次いで、「店員さんがサポートしてくれる」が 13%であった。一方、「商品の値段と品名が見えやすい」は 0%であった。その他に「どこに何があるか覚えている」、「商品価格が妥当だから」、「品数が多い」、「最寄駅から」、「自宅への通り道にあるから」、「視覚障害になる前から行っていてモール内の把握ができているから」等が挙げられた。 3.2.7 ネットチラシや新聞の折り込み広告等の閲覧頻度 【問 7:買物に行く前にネットチラシや新聞の折り込み広告等をチェックしますか。  また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。】(択一回答、その理由) アンケート調査に回答した協力者のネットチラシや新聞の折り込み広告等の閲覧頻度を、図3-9に示す。 図3-9. ネットチラシや新聞の折り込み広告等の閲覧頻度 (図)  ネットチラシや新聞の折り込み広告等の閲覧頻度について、「まったくチェックしない」、「ほとんどチェックしない」をあわせて 82%であった。その理由の具体例として、「見るのが大変だから」、「読んでいただく時間が無いため」、「買いたい物が決まっているから」、「家電量販店等はチェックする時がある」等が挙げられた。 3.2.8 ネットショッピングの利用頻度とその理由 【問 8:ネットショッピングについて教えてください。】 1)ネットショッピングの利用頻度(択一回答) 2)ネットショッピングを利用する理由(択一回答)  アンケート調査に回答した協力者のネットショッピングの利用頻度を、図3-10に示す。 図3-10. ネットショップの利用頻度 (図)  1)ネットショッピングの利用頻度について、「よく利用する」、「たまに利用する」をあわせて 63%であった。  2)ネットショッピングを利用する理由について、「配達してくれる」が 36%で最も高かった。次いで、「品ぞろえが豊富」が 19%であった。また、理由の具体例として「店頭だと顔を近づけても見えにくい、画像の方がまだ把握しやすい」、「売れ筋がわかり、バーゲンセール品の検索もでき、じっくり比較できる」、「履歴が残ることで、次回の商品選びの参考になる」等が挙げられた。 3.2.9 店舗でのショッピングで困ること 【問 9:買物をする際に見えにくくて困ることはありますか。】(択一回答) 1)店舗の出入り口や段差、 2)店内案内図の設置場所と表示、 3)サービスカウンターやトイレ等の設置場所、 4)買物かごやカートの置き場所、 5)商品の陳列棚や配置、 6)食料品(野菜、肉、魚等)の鮮度や状態、 7)同じ種類の食料品の見分け(牛肉と豚肉、フルーツ、スパイス等)、 8)ばら売りの食料品(コロッケ等)のパック・袋詰め、 9)対面式の売り場での購入、 10)ショーケース内の冷凍食品等 11)陳列棚のプライスカードや商品に貼られている値段と品名 12)商品の賞味期限や成分表等、 13)値引き品やおすすめ品の表示 買物をする際に見えにくく困ることの割合を、図 3-11に示す。 図3-11. 買物をする際に見えにくくて困ること (図)  買物をする際に見えにくくて困ることについて、「とても困る」、「やや困る」をあわせて最も多い項目は、「11)陳列棚のプライスカードや商品に貼られている値段と品名」で 83%であった。次いで、「12)商品の賞味期限や成分表等」で 82%、「13)値引き品やおすすめ品の表示」で78%、「10)ショーケース内の冷凍食品等」で 77%、「7)同じ種類の食料品の見分け(牛肉と豚肉、フルーツ、スパイス等)」で 76%であった。また、「3)サービスカウンターやトイレ等の設置場所」が 62%であった。 3.2.10 無人レジの利用頻度【問10:レジ精算について教えてください。】 1)無人(セルフ)レジは利用しますか。  また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。(択一回答、その理由)  アンケート調査に回答した協力者の無人(セルフ)レジの利用頻度を、図3-12に示す。 図3-12. 無人(セルフ)レジの利用頻度 (図)  無人(セルフ)レジの利用頻度について、「まったく利用しない」、「ほとんど利用しない」をあわせて 84%であった。無人(セルフ)レジを利用しない理由の具体例として、「操作が不安」、「タッチパネルのものが多いため」、「見えづらいので困難」等が挙げられた。一方、無人 (セルフ)レジを利用する理由の具体例として、「混んでいないから」、「慣れれば対人よりも使い勝手が良い、小銭も財布の中身をすべて入れて自動的につり銭が出てくるので、小銭がまとまって良い」等が挙げられた。 3.2.11 無人レジで困ること【問10:レジ精算について教えてください。】(続き) 2)無人(セルフ)レジの設置場所が見えにくくて困ることはありますか。(択一回答) 3)無人(セルフ)レジの画面の操作が見えにくくて困ることはありますか。 (択一回答) 4)無人(セルフ)レジで商品のバーコードの位置とスキャン方法が見えにくくて困ることはありますか。(択一回答) 5)無人(セルフ)レジでカードや現金の投入場所が見えにくくて困ることはありますか。 (択一回答) 6)有人レジで画面の精算額の表示が見えにくくて困ることはありますか。(択一回答) 7)有人レジで代金トレイの設置場所が見えにくくて困ることはありますか。(択一回答) 8)その他レジ精算で見えにくくて困ることはありますか。(自由記述)  アンケート調査に回答した協力者のレジの清算で見えにくく困ることを、図3-13に示す。 図3-13. レジの清算で見えにくく困ること (図)  レジの清算で見えにくく困ることについて、無人(セルフ)レジに関しては、「とても困る」、「やや困る」をあわせて最も多い項目は、「5)無人(セルフ)レジでカードや現金の投入場所」で 72%であった。次いで、「3)無人(セルフ)レジの画面の操作」で 70%であった。有人レジに関しては、「とても困る」、「やや困る」をあわせて最も多い項目は、「6)有人レジで画面の精算額の表示」で 65%であった。次いで、「7)有人レジで代金トレイの設置場所」で 57%であった。 8)その他レジ精算で見えにくくて困ることについて、自由記述の具体例として、 「電子マネーの種類をタッチパネルで選べない」 「袋の要否の選択方法がわからない」 「おつりを受け取る際に、店員さんの差し出す手が見えにくい」 「お客様で混雑している、時間帯のレジ利用は緊張する」 「事前にお金を用意しておくが小銭での支払いがしにくい」 「清算後の小さなレジ袋を探すのに困る」 「買物かご等を元に戻せなくなる」 「成人識別商品は画面にタッチしないと購入できないが、タッチボタンの位置がわからない」 「お金の種類の区別に困難さを感じ、支払うときだけでなく、むしろ、おつりをもらった時の確かめに時間がかかる」 「カード支払いは会計を確かめられない」 「前の人の置いた商品が見えなくて、ぶつかってしまうことがある」 「レジでの金額表示が見えないので、店員がいくらと言ったか忘れてしまうと、いくら払えばよいか分からなくなってしまう」 等が挙げられた。 3.2.12 店員からの支援(探す、尋ねる、声がけ) 【問 11:目的の商品が見つけにくい、表示が見えにくい等で困った時の状況を教えてください。また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。】 1)店員を探す(択一回答、その理由) アンケート調査に回答した協力者の店員を探す状況を、図3-14に示す。 図3-14. 店員を探す (図)  店員を探す状況について、「とても困る」、「やや困る」をあわせて 80%の回答があった。その理由の具体例として、「店員さんが近くにいない」、「店員さんとお客さんの区別が難しい」等が挙げられた。 2)店員に尋ねる(択一回答、その理由) アンケート調査に回答した協力者の店員に尋ねる状況を、図3-15に示す。 図3-15. 店員に尋ねる (図)  店員に尋ねる状況について、「よく尋ねる」、「たまに尋ねる」をあわせて 90%の回答があった。その理由の具体例として、「商品の識別や陳列場所がわからないため」、「その場所まで案内してくれることが多いから」、「行きつけなので対応してくれるから」等が挙げられた。 3)店員から、あなたへの声がけ(択一回答、その理由) アンケート調査に回答した協力者の店員からの声がけの状況を、図3-16に示す。 図3-16. 店員からの声がけ (図)  店員からの声がけの状況について、「まったくない」、「ほとんどない」をあわせて 53%の回答があった。その理由の具体例として、「忙しさ次第」、「迷っていたりすると、たまに声をかけてくれるが、基本的には自分から声をかけるようにしている」等が挙げられた。 3.2.13 支援機器(ルーペ等)の使用について 【問 11:目的の商品が見つけにくい、表示が見えにくい等で困った時の状況を教えてください。また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。】 4)単眼鏡やルーペ等の支援機器を使用する。使用する方は機器名もお書きください。(択一回答、その理由、機器名)  アンケート調査に回答した協力者の支援機器の使用頻度を、図3-17に示す。 図3-17. 支援機器の使用頻度 (図)  支援機器の使用頻度について、「まったく使用しない」、「ほとんど使用しない」をあわせて 78%の回答があった。その理由の具体例として、「人の目が気になるから」、「万引きや盗撮と誤解されたくない」、「だいたい店員さんにお願いしている」等が挙げられた。  具体的な機器名として、「クローバー(電子ルーペ)」等が挙げられた。 3.2.14 店舗内の照明について 【問 12:店舗内の照明の明暗が気になりますか。  また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。】(択一回答、その理由) アンケート調査に回答した協力者の店舗内の照明に関する状況を、表3-3に示す。 表3-3. 店舗内の照明に関する状況 (表) 男女合計 とても気になる 17.2% やや気になる 17.2% あまり気にならない 33.3% まったく気にならない 32.2% 合計 100.0%  店舗内の照明に関する状況について、「とても気になる」、「やや気になる」をあわせて 34%の回答があった。その理由の具体例として、「照明の明るさにより、視認しやすさに著しい落差が有るため」、「外から来ると、自身の目の調整が困難だから」、「床面の白い色や天井からの光が床に反射してまぶしい」、「暗くて見えにくい時がたまにある」、「明暗差がある場所が多く、順応できない」、「最近は LED 照明が多くまぶしくて店内を歩きにくく、商品も探しにくい」等が挙げられた。 3.2.15 駐車場・駐車場について 【問 13:店舗に付属した駐車場・駐輪場等で危険な目にあったことはありますか。  また、ある場合はその時の状況を具体的にお書きください。】(択一回答、その理由) アンケート調査に回答した協力者の駐車場・駐輪場等の危険頻度を、表3-4に示す。 表3-4. 駐車場・駐輪場等の危険頻度 (表) 男女合計 よくある 8.0% たまにある 39.1% ほとんどない 26.4% まったくない 26.4% 合計 100.0%  店舗に付属した駐車場・駐輪場等の危険頻度について、「とても気になる」、「やや気になる」をあわせて 34%の回答があった。その理由の具体例として、「車止めに躓いた」、「点字ブロックの上に自転車がおいてあり、倒してしまったり、自分がけがをしてしまったりした時がある」、「入り口に自転車が沢山おかれて、行きたいところに行けない」等が挙げられた。 3.2.16 店舗への要望と提案等(自由記述) (1) 具体的な回答例  まず、具体的に挙げられた自由記述の回答の一例を以下に示す。 【問 14:上記以外に買物をする際に日ごろ感じている不便なことや不安があれば教えてください。以下に具体的にお書きください。(※この質問には必ずお答えください)】 「ほしい品物を見つけるのに苦労する」、「同じような品物の違いがわからず、とりあえず買ってみるが、不適当な時もある」、「陳列場所が毎日変わること」、「通路が狭く、他のお客さんと接触する」、「セルフレジは液晶画面が見えづらいのと、お金やカードの投入場所がすぐには、わからないため、後ろに続くお客様に迷惑がかかる」等が挙げられた。 【問 15:買物をする際に工夫していることがあれば教えてください。以下に具体的にお書きください。】 「どこになにがあるか覚えている」、「すいている時間に行く」、「サポートの仕方もわからないケースが多いので、通ってコミュニケーションをとる」等が挙げられた。 【問 16:視覚に障害のある人が利用しやすい店舗づくりのための要望や提案等があれば教えてください。以下に具体的にお書きください。(※この質問には必ずお答えください)】 「インフォメーションは、入り口近くに配置してほしい」、「床に大きな文字でその棚にある品物の種類を表示してほしい」、「店員さんからの声がけがあると助かる」等が挙げられた。 (2) KH Coder とは  アンケート調査の自由記述による回答を分析する手法として、KH Coder を適用した。KH Coder とは、樋口によって製作され、社会学の分野での利用が想定された内容分析(計算テキスト分析)及びテキスト・マイニング用のフリーソフトウェアである(樋口, 2001)。自由記述による文書形式のデータに含まれる単語を自動的に切り出し、多変量解析することによって全体を要約提示することができ、全体傾向を把握することができる。また、いかなる単語が抽出されているかを検索する機能や、元のテキストデータ中でどのように単語が用いられているか文脈を確認するためのコンコーダンス機能が備わっていることで、文脈に立ち返り確認することができるため、計量分析と原文解釈とを循環させる分析プロセスを実践でき、分析者の観点を生かしつつ客観性を両立することが可能である。 (3) 自由記述に対する KH Coder の適用  アンケート調査の自由記述(問 14,15,16)の回答について、KH Coder を用いて、頻出語の抽出と共起ネットワークを行い、視覚障害者の買物行動の具体的な問題点、課題及び工夫等について解析をおこなった。抽出語の出現頻度リスト(表 3-5)と、共起ネットワークを参考に抽出語同士の関連性を図示したもの(図 3-18)を以下に示す。 表3-5. 買物行動について自由記述で抽出された頻出語リスト(上位51語) (表) 抽出語 頻度 商品 107 店員 92 障害 44 店舗 43 買物 42 サポート 32 レジ 30 視覚 30 場所 26 案内 26 店内 25 音声 24 通路 24 対応 21 お願い 19 表示 19 サービス 17 確認 17 陳列 17 利用 16 設置 15 お客 14 ブロック 14 文字 14 使用 14 コンビニ 13 ガイド 13 配置 13 誘導 13 カウンター 12 入り口 12 購入 12 大変 12 事前 11 スーパー 10 自分 10 点字 10 位置 10 セルフ 9 情報 9 値段 9 依頼 9 必要 9 ネット 8 ボタン 8 値札 8 入口 8 品物 8 駐車 8 理解 8 不安 8  KHCoder では、動詞、形容詞、助詞等も抽出したが、表には、出現数の多い順に名詞のみ示した。共起ネットワーク図の作成には名詞以外の抽出語も用いた。 図 3-18. 買物行動について自由記述の共起ネットワーク (図) (4) 結果  図 3-18 から、買物行動においての自由記述の中では、「商品」「店員」が最も使用され、それを取り巻くようにして、様々な言葉が用いられていることが分かる。筆者はこれらの言葉から、視覚障害者に関する言葉に注目し、次の3つのストーリーに要約することができた。 1.「店員」「商品」「白杖」「声」「お客」のキーワードより 『商品を見つけにくい時に、白杖を持っていると店員もしくはお客からの声がけをしてもらいやすい』ことが要約できた。 2.「点字ブロック」「設置」「視覚」「障害」のキーワードより 『視覚障害があるので、(店舗入り口から案内カウンターまで)点字ブロックを設置してほしい』ことが要約できた。 3.「場所」「買う」「陳列」「棚」「配置」「覚える」「助かる」のキーワードより 『陳列棚の配置場所を覚えると買う時に助かる』ことが要約できた。 第3節 16項目の仮説検証 3.3 16項目の仮説検証  上述した 16 項目の仮説について、クロス集計した結果を各項目の図に示し、Fisher 直接確率法を用いて、検定した結果を以下に示す。今回、Fisher 直接確率法を用いた理由は、クロス集計の分割表において、データ数が 5 以下になるセルが一つでもあったため、χ2 乗検定では正規分布近似ができないためである。なお、★印は 2 つの要因間には有意な連関があったことを示す。帰無仮説は全て、クロス集計の要因間には連関がないというものである。以下の【仮説】の説明文では、対立仮説について説明している。また、一般的にはm・n 型のクロス集計表の統計的検定にはχ2検定で有意になった場合には、どのセルとどのセルの間に差があるのかを確認する残差分析を行うべきであるが、データ数が 5 以下になるセルがあり、残差が標準正規分布に近似するという前提が満たされないため、残差分析の適用も χ2 乗検定と同様に避けるべきであるとされ(郷式, 2008)、本データの場合にはこれに該当すると考え、残差分析は行わなかった。 3.3.1 ★【仮説 1:視力と同行者】 低視力者ほど、同行者の同伴が多い  視力が低下するほど、商品の種類や色の判別が難しくなる。したがって、「自分でほしい商品を確認し選別するため、低視力者ほど、同行者の同伴が多くなる。」と考えられるのではないか。 図 3-19. 視力と同行者 (図) 結果: 視力と同行者の有無の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、 (p=0.0023<0.05)となった。よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「同伴者の有無」の要因間には連関があり、低視力者ほど同行者の同伴が多いことが明らかになった。 3.3.2 【仮説 2:視力とよく利用する店舗のタイプ】 低視力者ほど、コンビニ利用が多い  視力が低下するほど、店舗内のレイアウトの把握や陳列棚から自分のほしい商品を選別することは難しい。したがって、「低視力者ほど、店舗が狭く陳列棚の配置がわかりやすいコンビニ利用が多い。」と考えられるのではないか。 図 3-20. 視力とよく利用する店舗のタイプ (図) 結果: 視力とよく利用する店舗のタイプの要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.3722>0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却されず、「視力の程度」と「よく利用する店舗のタイプ」との要因間には連関があるとはいえない。  また、盲と重度の人でも「大型店」、「スーパーマーケット」あわせて、5 割以上が利用していることが明らかになった。 3.3.3 ★【仮説 3:視力とネットチラシや新聞の折り込み広告】 低視力者ほど、ネットチラシや新聞の折り込み広告をチェックしない 視力が低くなると文字以外にも画像の視認が難しくなる。したがって、「低視力者ほど、ネットチラシや新聞の折り込み広告をチェックしない。」と考えられるのではないか。 図 3-21. 視力とネットチラシや新聞の折り込み広告 (図) 結果: 視力とネットチラシや新聞の折り込み広告の閲覧頻度の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.0016<0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「ネットチラシや新聞の折り込み広告を事前にチェックするかどうか」の要因間には連関があり、低視力者ほど、ネットチラシや新聞の折り込み広告をチェックしない人が多いことが明らかになった。 3.3.4 ★【仮説 4:視力とかご・カート】 低視力者ほど、かごカートが見えにくく困ることが多い  低視力者ほど、店舗内のレイアウトが見えにくいため把握することが難しい。したがって、「店舗内のどの場所にかご・カートが置いてあるのかを見つけるのに困ることが多い。」と考えられるのではないか。 図 3-22. 視力とかご・カート (図) 結果: 視力とかご・カートの視認の要因間には、Fisher直接確率法を用いて検定した結果、 (p=0.0182<0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「かごやカートの見つけやすさ」の要因間には連関があり、低視力者ほど、かご・カートを視認するのに困ることが多いことが明らかになった。 3.3.5 ★【仮説 5:視力とばら売りの食料品】 視力の程度によらず、困る  ばら売りの食料品は、見た目では判別しにくいコロッケ等同じ種類が多い。また、視覚障害者にとって、品名や値段も見えにくい。加えて、トング等で取るという作業が生じる。したがって、「視力の程度に応じて困ることが多い。」と考えられるのではないか。 図 3-23. 視力とばら売りの食料品 (図) 結果: 視力とばら売りの食料品の視認の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.011<0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「ばら売りの食料品の判別しやすさ」の要因間には連関があり、視力の程度により困り方の度合いが異なることが明らかになった。特に、着目すべき点は、軽度の人でも、「とても困る」、「やや困る」あわせて 6 割弱が回答していた点である。 3.3.6 ★【仮説 6:視力と対面式売り場】 視力の程度に関わらず、困らない  対面式売り場は、近くに店員さんがいるのがわかりやすい。したがって、「視力の程度によらず、自分からも声がけしやすく、利用するのに困らない。」と考えられるのではないか。 図 3-24. 視力と対面式売り場 (図) 結果: 視力と対面式売り場の利用しやすさの要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.0013<0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「対面売り場の利用しやすさ」の要因間には連関があった。特に重度と中等度の人の 2 割弱が、「とても困る」と回答していた。逆に、全盲と軽度の人は困っていなかった。 3.3.7 ★【仮説 7:視力と冷凍食品等のショーケース】 視力の程度によらず、困る  冷凍食品等のショーケースは、ガラスの扉があり、視覚障害者が見えにくくても顔を近づけて確認することが難しい。加えて、ガラスが曇っていて余計に見えにくい。また、ショーケースの中身が見えたとしても、似たようなパッケージの食料品は判別しにくい。したがって、「視力の程度によらず、見えにくく判別しにくくて困る。」と考えられるのではないか。 図 3-25. 視力と冷凍食品等のショーケース (図) 結果: 視力と冷凍食品等のショーケースの中身の視認の要因間には、Fisher直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.030<0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「冷凍食品等のショーケース内の商品の見やすさ」の要因間には連関があった。  視力の程度によって、見えにくく判別しにくくて困る程度に違いがあることが明らかになった。 3.3.8 ★【仮説 8:視力と値段と品名】 低視力者ほど、見えにくく困る  値段と品名は、表示されている文字と背景の色とのコントラストや文字の大きさ等により、見えやすさ、及び読みやすさが変わる。そのため、視力の程度が影響する。したがって、「低視力者ほど、値段と品名の表示が見えにくく困ることが多い。」と考えられるのではないか。 図 3-26. 視力と値段と品名 (図) 結果: 視力と値段と品名の視認の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、 (p=0.024<0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「値段と品名の見やすさ」の要因間には連関があった。  盲と重度の人が「とても困る」と 7 割弱が回答し、低視力者ほど値段と品名の視認に困ることが明らかになった。 3.3.9 【仮説 9:性別と賞味期限や成分表】 視力の程度によらず、女性の方が困る  日常生活の中で、女性が料理を作ることが多い。そのため、食料品を購入する際には、賞味期限や健康管理のため成分表を見ることが多いのは女性である。したがって、「視力の程度に関わらず、賞味期限や成分表を把握することは女性の方が困ると考えられるので、この設問に関しては、性別と困り度の連関に注目した。」と考えられるのではないか。 図 3-27. 性別と賞味期限や成分表 (図) 結果: 性別と賞味期限や成分表の視認の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.483>0.05)となった。  よって帰無仮説は棄却されず、「性別」と「賞味期限や成分表の見やすさ」の要因間には連関があるとはいえない。  男女ともに「とても困る」に 6 割以上の人が回答しており、小さな文字で表示されていることの多い、賞味期限や成分表示の見やすさの感じ方には性差があるとは言えないことが 明らかになった。 3.3.10 ★【仮説 10:視力と値引き品】 低視力者ほど、困る  値引き品は、赤色で縁取った値引きシールが貼ってあったり、別のワゴンに置いてあったりすることが多い。そのため、値引き品を見つけるには視力の程度が影響する。したがって、「低視力者ほど、値引き品を見つけるのに困る。」と考えられるのではないか。 図 3-28. 視力と値引き品 (図) 結果: 視力と値引き品の視認の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、 (p=0.0082<0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「値引き品の見やすさ」の要因間には連関があった。  盲と重度の人が、「とても困る」に 6 割以上も回答していた。低視力者ほど値引き品の把握に困ることが明らかになった。 3.3.11 【仮説 11:視力とセルフレジ】 視力の程度に関わらず、困る  セルフレジは画面表示に従って、いくつかの操作をしなくてはいけない。また、店舗により画面操作やカード、現金を入れる場所が異なる。したがって、視覚障害者にとっては、「見えにくい状況でのセルフレジの操作は難しく、視力の程度によらず、操作しづらく困る。」と考えられるのではないか。 図 3-29. 視力とセルフレジ (図) 結果: 視力とセルフレジの利用状況の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.146>0.05)となった。  よって帰無仮説は棄却されず、「視力の程度」と「セルフレジの利用状況」の要因間には連関があるとはいえない。  視力の程度によらず、5 割以上の人が「あまり困らない」「まったく困らない」と回答していることが明らかになった。 3.3.12 【仮説 12:視力と有人レジ】 低視力者ほど、困る  有人レジは、合計金額が画面に表示されるが見えにくいと、店員さんの声を頼りにする。 また、お釣りは代金トレイに置かれることが多い。したがって、「低視力者ほど、合計金額の画 面表示や代金トレイに置かれたお釣りが見えにくく困る。」と考えられるのではないか。 図 3-30. 視力と有人レジ (図) 結果: 視力と有人レジの利用状況の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.062>0.05)となった。  よって帰無仮説は棄却されず、「視力の程度」と「有人レジの利用状況」の要因間には連関があるとはいえない。  視力の程度によらず困っているが、軽度の人でも「とても困る」「やや困る」あわせて 6 割近くが回答している傾向がみられた。 3.3.13(1) 【仮説 13-1:視力と店員を見つける】 低視力者ほど、困る  視覚障害者は商品を購入する際、見えにくい時は同行者がいない場合、店員に尋ねたい。そのため、遠くにいる店員を見つけなければいけない。したがって、「低視力者ほど、購入相談できる店員を店内で見つけるのに困る。」と考えられるのではないか。 図 3-31. 視力と店員を見つける (図) 結果: 視力と店員の確認の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、 (p=0.627>0.05)となった。  よって帰無仮説は棄却されず、「視力の程度」と「店員の確認」の要因間には連関があるとはいえない。  視力の程度によらず、「とても困る」「やや困る」あわせて 6 割以上が回答していることが明らかになった。 3.3.13(2) ★【仮説 13-2:視力と店員に尋ねる】 低視力者ほど、店員に尋ねにくく困る  視覚障害者は商品を購入する際、見えにくい時は同行者がいない場合、店員に尋ねたい。そのため、遠くにいる店員を見つけなければいけない。あるいは、店員を見つけられたとしても忙しそうにしていると、声をかけづらい。したがって、「低視力者ほど、店員に尋ねにくく困る。」と考えられるのではないか。 図 3-32. 視力と店員に尋ねる (図) 結果: 視力と店員に尋ねることの要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、 (p=0.0022<0.05)となった。  よって、帰無仮説は棄却され、「視力の程度」と「店員に尋ねる」ことの要因間には連関があった。  低視力者ほど店員に尋ねるために見つけにくく困ることが明らかになった。しかし、軽度の人でも、「とても困る」「やや困る」あわせて 6 割弱が回答していたことに着目したい。 3.3.14 【仮説 14:性別と支援機器】 女性の方が、使用しない  店舗内で商品が見えにくく同行者もいない時、店員さんに尋ねられなくても、支援機器を使用することは、駅等とは異なり周囲の多くの人が使用していないので、気が引ける。したがって、「視力の程度に関わらず、女性の方が周囲の目を気にして使用しない人が多い」と考えられるので、この設問に関しては、性別と使用度の連関に注目した。 図 3-33. 性別と支援機器 (図) 結果: 性別と支援機器の使用状況の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=1.0>0.05)となった。  よって帰無仮説は棄却されず、「性別」と「支援機器の使用状況」の要因間には連関があるとはいえない。  男女ともに、「ほとんど使用しない」「まったく使用しない」あわせて 8 割が回答していたことが明らかになった。 3.3.15 【仮説 15:視力と支援機器】 低視力者ほど、利用することが多い  視覚障害者は、商品の値段や成分表等を含めた文字を認識することが難しい。同行者がいない、あるいは店員に尋ねられない時でも、確認したい文字情報がある。したがって、「低視力者ほど、支援機器を使用する。」と考えられるのではないか。 図 3-34. 視力と支援機器 (図) 結果: 視力と支援機器の使用状況の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.1001>0.05)となった。  よって帰無仮説は棄却されず、「視力の程度」と「支援機器の使用状況」の要因間には連関があるとはいえない。  視力の程度によらず、「ほとんど使用しない」「まったく使用しない」あわせて 6 割以上が回答していたことが明らかになった。 3.3.16 【仮説 16:視力と駐車場と駐輪場】 低視力者ほど、危険な目に遭う  店舗に付属した駐車場の縁石や、駐輪場以外に放置されている自転車等は、視覚障害者にとって予想外の危険物である。したがって、「低視力者ほど、危険な目に遭う。」と考えられるのではないか。 図 3-35. 視力と駐車場と駐輪場 (図) 結果: 視力と駐車場と駐輪場の危険状況の要因間には、Fisher 直接確率法を用いて検定した結果、(p=0.1329>0.05)となった。  よって帰無仮説は棄却されず、「視力の程度」と「駐車場と駐輪場の危険状況」の要因間には連関があるとはいえない。  視力の程度によらず、軽度の人以外は、「よくある」「たまにある」あわせて 5 割前後が回答していたことが明らかになった。 第4節 アンケート調査の考察 3.4 回答者の専門知識の有無  本アンケート調査では、90 名の協力者、10 代から 70 代以上という幅広い年齢層からの回答を得られた。また、89 名が自由記述において、両眼の矯正視力と見え方について、「手動弁」等の専門用語も用いていたことから、各自が視覚障害を理解した上で回答していることが示唆された。高橋は、視覚障害者のバリアを取り除く第一歩は、“見え方を支援者が知ること”、と述べている(高橋, 2019)。そのためには、まず自分がどのような見え方であるのかを理解し、それを支援者に正しく説明できることが、支援をうける際に重要であると考えられる。この点では、本調査の協力者は、視覚障害者の買物行動に有用な支援をうけるために必要な自己の障害に関する客観的知識と説明能力を有している可能性は高いと示唆される。  これらのことを考えあわせると、本研究の回答者は、年代に依らず“支援をうけるための視覚障害についての“知識”と“説明能力”は有している可能性は高い、といえる。以降、これを前提にして、本調査の目的であるロービジョン者の買物環境における課題とニーズを明らかにするための考察を行う。 3.4.1 ロービジョン者の買物行動の状況 本アンケート調査の回答結果より、買物に週 2 回以上行く人の割合が高かった。その際、同 行者が「常にいる」人は 17%であり、「時々いる」人は 48%で、「いない」人は35%であった。また、【仮説 1:視力と同行者】の結果より、低視力者ほど同行者の同伴が多いことが明らかになった。このことから、買物に行く頻度が高いのは、見えにくい低視力者でも同伴者が同行するためであると考えられた。また、同行者が「いない」人、35%に関しては、中等度と軽度の人は、視野に問題があっても、0.05 以上の視力があるので、どうにか単独で買物ができる可能性が高いのではと考えられた。更に、最もよく利用する店舗のタイプについて、「スーパーマーケット」の割合が高かった。その店舗を利用する理由として、「自宅から近い」を挙げる割合が高かった。この結果は、共用品推進機構(2011)によれば、利用しにくい店としては、百貨店、スーパー、ネットショッピング、小売店、通信販売、コンビニエンスストア、生協の順である。その理由としては、全盲と同様に、「百貨店、スーパーは店内が広すぎること、商品の場所がわかりにくい」と報告され、本調査とは異なっていた。これは、本調査の協力者は、見えにくいことで、店舗の広さより、自宅から店舗までの移動の際に危険を回避するため、短い距離の行きなれた店舗を選んでいるのではないかと考えられた。 3.4.2 ロービジョン者の商品の情報収集の状況 ネットチラシや新聞の折り込み広告等の閲覧頻度について、チェックしていない人の割合が高かった。具体例として、「見るのが大変だから」等が挙げられた。また、【仮説 3:視力とネットチラシや新聞の折り込み広告】の結果より、低視力者ほど、ネットチラシや新聞の折り込み広告をチェックしない人が多いことが明らかになった。このことより、視覚の状態で、見えにくいので閲覧しない人が多いと考えられた。ただし、具体例として、「家電量販店等はチェックする時がある」等より、視覚の状態や必要に応じて閲覧していると考えられた。  一方、ネットショッピングの利用頻度について、利用している割合が比較的高かった。この結果は、共用品推進機構(2011)によれば、ネットショップの利用のしやすさを比較すると「利用しにくい」と挙げた割合が高く、その理由としては、「購入手続きが面倒」なことが多く指摘されていると報告され、本調査とは異なった。本調査では、利用する理由としては、「配達してくれるから」が最も多かったが、具体例として、「店頭だと顔を近づけても見えにくい、画像の方がまだ把握しやすい」、「売れ筋がわかり、バーゲンセール品の検索もでき、じっくり比較できる」等が挙げられた。このことより、本調査の協力者は、商品の情報収集する手段として、ネットショップを、画像が見やすく、商品の比較もできる等の理由で、自分の目的に合わせた利用をしていると考えられた。 3.4.3 実店舗での買物環境におけるロービジョン者の現状と課題 実店舗でのショッピングで困ることについて、「陳列棚や商品の値段と品名」、「商品の賞味期限や成分表」等 “文字の見えにくさ”を挙げる割合が高かった。この結果は、日本盲人会連合(2016)によれば、「商品の値段や表示が分かりにくい」についての割合が高かったと報告されている結果と一致している。したがって、ロービジョン者の買物環境において「文字」のバリアに直面していることが明らかになった。また、無人(セルフ)レジの利用頻度については、多くの人が利用していなかった。無人(セルフ)レジを利用しない理由の具体例として、「タッチパネルのものが多いため」、「見えづらいので困難」等が挙げられた。このことより、文字やタッチパネル等からの視覚を通しての情報入手・発信が困難であることが考えられた。加えて、店舗内の照明についての具体例として、「照明の明るさにより、視認しやすさに著しい落差が有るため」、「外から来ると、自身の目の調整が困難だから」、「暗くて見えにくい時がたまにある」、「明暗差がある場所が多く、順応できない」等が挙げられ、店舗内の照明が、見え方に何らかの影響をもたらすのかを検討する必要性があると考えられた。  更に、実店舗でのショッピングで困ることについての自由記述では、「通路の幅」、「入り口からインフォメーション・カウンターまでの移動」等の“移動の困難”が挙げられた。これについては、キーワードの共起ネットワーク分析によるテキストマイニングを行った結果、「点字ブロック」「設置」「視覚」「障害」のキーワードが回答者の「自由記述」の中で共起して出現していることにより『視覚障害があるので、(店舗入り口から案内カウンターまで)点字ブロックを設置してほしい』という店舗側への要望であると解釈することができる。また、店舗に付属した駐車場・駐輪場等の危険についての具体例として、「点字ブロックの上に自転車がおいてあり、倒してしまったり、自分がけがをしてしまったりした時がある」、「入り口に自転車が沢山おかれて、行きたいところに行けない」等が挙げられ、移動に伴う困難に直面していることが明らかになった。  上述した通り、買物行動の 3 フロー「入店前→店舗での買物→レジ精算」すべてにおいて、 ロービジョン者の買物行動における課題は、第一に「文字」と「移動」のバリアに直面していることと考えられた。買物行動に伴う「文字」と「移動」のバリアを軽減するため、【仮説 1:視力と同行者】の結果より、「値札やレジの画面表示等の文字や位置が把握しづらい低視力者は同行者との買物が多い」ことが明らかになった。  また、移動の際に使用される白杖については、キーワードの共起ネットワーク分析によるテキストマイニングを行った結果、「店員」「商品」「白杖」「声」「お客」のキーワードが回答者の「自由記述」の中で共起して出現していることにより『商品を見つけにくい時に、白杖を持っていると店員もしくはお客からの声がけをしてもらいやすい』ことと解釈することができ、白杖を使用することは周囲の人から視覚障害があると理解してもらうための手段の一つとロービジョン者側が認識していると考えられた。  更に、自由記述では、困難を軽減するため、「陳列棚の商品の配置を覚えておく」等のロービジョン者側の工夫が挙げられた。これについては、キーワードの共起ネットワーク分析によるテキストマイニングを行った結果、「場所」「買う」「陳列」「棚」「配置」「覚える」「助かる」のキーワードが回答者の「自由記述」の中で共起して出現していることにより『陳列棚の配置場所をあらかじめ覚えておくという対策で障害をおぎなうことで買う時に対策している』ことと解釈することができる。しかし、これらの工夫で困難が軽減されない、または対応しきれない場合は「店員に尋ねる」という方略が考えられ、現実には、自由記述で、「店員が少なく忙しそう」や「店員とお客が判別しにくい」等が挙げられたように、店員との「コミュニケーション(店員への相談)」に繋げる以前の、「コミュニケーションを取りたい相手を探すことに伴うバリア」で困っている割合が高かった。これは、選択肢回答(問11-1,2,3)や【仮説 13-1:視力と店員を見つける】、【仮説 13-2:視力と店員に尋ねる】の結果でも、低視力者ほど店員に尋ねるために見つけにくく困ることが明らかになった。このことより、店員を探す手段にも視覚からの情報は大きく影響していると考えられた。  また、「文字」と「移動」のバリアを軽減するための別の対策として、筆者が当初考えていた「ルーペ等の支援機器の使用」も、選択肢回答(問11-4)と【仮説 14:性別と支援機器】、【仮説 15:視力と支援機器】から性別や視力の程度によらず、使用率は低いことが明らかになった。更に、自由記述では、支援機器を使用しない理由として、「人の目が気になる」等が挙げられ、支援機器を使用することへの戸惑いが買物行動の背景にあるロービジョン者側の心の葛藤がうかがえた。  以上のことから、第二の課題として、第一の「文字」と「移動」のバリアを軽減したいのに、次に、店員のサポートも得られない状況という「コミュニケーション」のバリアに直面していると考えられた。同時に、支援機器を使用しない理由としては、自由記述回答に「人の目が気になる」と挙げていことから、見やすくなることを頭では理解していても、視覚障害を開示する可能性があるというロービジョン者側の心の葛藤、すなわち、「心」のバリアがあるため、見えにくい時に店員に尋ねる等の「コミュニケーション」が上手くとれない。そして、「コミュニケーション」が上手くとれないことで、新たな「心」のバリアが生まれ、重なっていくという悪循環になっている場合もあると考えられた。  本調査の目的であるロービジョン者の買物環境における課題とニーズを明らかにする点に対して、買物行動の 3 フロー「入店前→店舗での買物→レジ精算」すべての場面において、上述した結果が得られ、ロービジョン者の買物行動における 4 つのバリア「文字・移動・コミュニケーション・心」があることが示唆された。  そこで、次にロービジョン者の買物行動の背景にある深層心理や心の葛藤にも焦点を当てる新たなデータ収集の手法を導入することとした。そのため、アンケート回答者から協力者を少人数に絞り、買物行動に感じている課題と背景心理等の詳細を聞き取るインタビュー調査を行った。 第4章 インタビュー調査 第1節 インタビュー調査方法 4.1.1 調査研究の目的 本研究では、ロービジョン者が実店舗で買物をする際に、直面している買物の課題やニーズに加え、快適な買物環境を実現するための方策を明らかにすることを目的とした。 本研究の目的を達成するために、第一段階となるアンケート調査を 90 名の視覚障害者に行なった。その結果、まず文字と移動の問題に直面し、次に、それを改善するためのコミュニケーションと心のバリアが立ちはだかることが示唆された。 そこで、アンケート調査だけでは得られなかった、協力者の買物行動の背景にある心の問題にも焦点を当てるため、本研究の第二段階となるインタビュー調査を行なった。本来ならば、アンケート調査の回答者全員にインタビュー調査に協力してもらいたかったが、時間的な制約上、アンケート調査の回答者から 20 名の視覚障害者を選定した。 本調査で、各自のプロフィール及びアンケート調査の回答等をふまえたインタビューを丁寧に行うことにより、協力者の買物環境及びその行動の背景にある心の問題に関する課題とニーズを明らかにしていくことを目的とした。 4.1.2 協力者の人選方法 アンケート調査において、インタビュー調査に協力可能と回答した視覚障害者の中から、20 名の候補者を選定した。候補者の選定基準は、(1)年齢・性別・視力に偏りがない、(2)同行者の同伴状況に偏りがない、(3)4大バリアに直面している、(5)自由記述質問に特徴のある記述があった、(6)アンケート質問項目以外の記述回答をしていた、等である。 4.1.3 インタビューガイド(質問計画書)の作成(参考資料 3 3.1) インタビューガイド(質問計画書)を作成するにあたり、アンケート調査の質問票を作成の際に適用したペルソナ法を参考とし、アンケート調査の自由記述の回答内容や独自の視点を中心に、以下の項目を基本とした各自のインタビューガイド(質問計画書)を作成した。手法は半構造化面接で実施した。 (1)属性(性別、年代) (2)視覚障害の状態(視力、視野、色覚、受障時期) (3)身体障害者手帳(視覚)所持の有無 (4)コロナ禍以前の買物について(4 大バリア) (5)現在の買物について(4 大バリア) (6)今後の買物環境における不安や要望について 4.1.4 インタビュー調査の実施方法  アンケート調査と同じく、NPO 法人タートルに、本調査の目的と方法を説明した。そのうえで、タートルの協力を得て、筆者より 20 名に協力をお願いし(参考資料 3 3.2)、賛同者 に「説明文、同意書、インタビュー時のご希望(参考資料3 3.3)」のWord版及びテキスト版を電子メールで送付し、同様に回答も電子メールで回収した。その後、協力者の希望する日時とインタビュー方法により実施した。 ・調査期間:2020年7月27日~9月10日 ・インタビュー方法:対面式・LINE 通話・Zoom・その他 ・時間:約 60 分 第2節 インタビュー調査結果  インタビュー調査依頼を 20 名に行った結果、15 名の視覚障害者から協力を得られた。  インタビュー協力者のプロフィール及びインタビュー調査方法を、表 4-1 に示す。なお、ID はアンケート調査回答時と同様とする。 表4-1. プロフィールとインタビュー調査方法 (表) ID 性別 年代 視機能の状況 同行者 調査方法 2 男性 50代 右:0,03 中心暗点、右端に視野.左: 0.05 中心暗点、左端に視野 同行者:時々 Zoom 10 男性 40代 右:0、左:0.01 同行者:いない Zoom 16 男性 30代 右:手動弁、左:0.02 物が二重に見える 同行者:いない Zoom 18 男性 50代 右:0.4 同行者:いない Zoom 33 女性 60代 右:手動弁、左:手動弁 同行者:常にいる skype  34 女性 20代 右:0.1 中心暗点、眼振、左:0.02 視野欠損、眼振、全体を把握できる景色を見る程度 同行者:時々 LINE通話 36 女性 70代以上 両眼:0.01 視野 5円玉の穴から 同行者:いない 対面式 42 男性 40代 右:0.1、左:0 同行者:時々 Zoom 58 男性 60代 3 月アンケート回答後、手術により 0.7、右:視野狭窄 5 度、左:視野狭窄 3 度 同行者:いない 対面式 64 男性 50代 右:全盲、左:眼前手動、文字の判読は難しいが歩行時は役立っている 同行者:時々 Zoom 67 女性 60代 両眼:0.01 全体的にぼやけている 同行者:常にいる 対面式 71 女性 60代 右:0.2 中心暗点、霧がかかっているよう、左:0.1 右と同じ 同行者:いない Zoom 77 女性 40代 右:0.01 文字等形の認識が難しい色覚正常、左:0 同行者:いない Zoom 80 女性 40代 右:0.01 視野狭窄 5 度全体的にぼやけている、左:手動弁 同行者:時々 対面式 82 女性 50代 両眼:0 同行者:時々 Zoom 4.2.1 年代別構成 年代別構成について、20 代 1 名、30 代 1 名、40 代 4 名、50 代 4 名、60 代4名、70代以上 1 名であった。 4.2.2 性別 性別について、男 7 名、女 8 名であった。 4.2.3 矯正視力(良い方) 視力について、良い方の矯正視力を当該者の視力とし視力程度を分類すると、盲(0.01 未満)3 名、重度(0.05 未満)6 名、中等度(0.3 未満)4 名、軽度(0.3~1.2)2 名であった。なお、視力の分類は、西脇らによる分類に従った(西脇, 2002)。 加えて、アンケート調査回答結果と同じく、視力と見え方については、各自が受障時期及び見え方を詳細に語った。 ならびに、視力と見え方については、視力が 0.7 であっても視野狭窄があることで見えにくさをともなう、ロービジョンの特徴がみられた。 「2017 年くらいから活字が読めなくなって、視野もかけた。」(ID10) 「平成 10 年頃の視野は 5 度と 3 度とわかるが、視力はあった。」(ID58) 4.2.4 同行者の有無 買物をする際の同行者の有無について、同行者が「常にいる」は 2 名であった。次に、同行者が「時々いる」は 6 名であり、同行者が「いない」は 7 名であった。 4.2.5 インタビュー調査方法 インタビュー調査方法と実施日時は、すべての協力者の希望通りに行った。その結果は、対面式が 3 名、リモートインタビューは 12 名であった。リモートインタビューの内訳は、LINE 通話 1 名、Skype 1 名、Zoom 10 名であった。 4.2.6 インタビュー調査で得られた課題とニーズ(1)(参考資料 4) インタビュー調査では、アンケート調査回答結果では得られなかった買物行動における課題とニーズが具体的に得られた。その声を以下に示す。 (1) 白杖の使用状況と役割 ・白杖はロービジョンの特徴でもある「保有視力」があるため、場面により使用していない状況が語りより得られた。 「店舗に行く時には電車に乗らないので、白杖は使用しない。」(ID10) 「10 年くらい前から見えにくくなり、白杖は使用するが、怖い。」(ID67) 「周辺視野がある(少し見える)ので、買物の際には荷物が増えるので、白杖は持たない。」 (ID71) ・また、白杖が周囲の人にとって、視覚障害があると認識されるサインであることも、語りから得られた。 「自分は白杖を持たないが、妻は白杖を持っているので、一緒に買物に行くと周囲の人が気を遣ってくれる。」(ID18) 「白杖を持たないので周囲の人には、見えにくいとわかってもらえない。」(ID71) (2) 店員とのコミュニケーション ・見えにくく店員に尋ねたい時、人員の制限やお客との判別のしにくさ等により、困難に直面している語りが得られた。 「店員さんが少ないので、食料品等は値札を見ないで、勘で買うこともある。」(ID2) 「ショーケースの中身が見えないので、店員さんに聞く時とあきらめる時がある。」(ID10) 「見えにくい時は、店員に聞きたいが人が少ないし、忙しそうなので聞けない。」(ID80) 「店員とお客さんの判別がしにくいので、間違えてお客さんに話しかけてしまう時がある。」(ID71) 「値段がわからないと言うと、値札を目の前に突き出す店員もいる。」(ID71) ・上述した店員とのコミュニケーションにおける困難を軽減するため、各自が工夫していることや、利用しやすい買物環境における店員とのコミュニケーション等の語りが得られた。 「コンビニは狭いから商品を探しやすいし、レジの店員さんも探しやすい。」(ID2) 「お客さんに聞く時もある。」(ID2) 「M 店は店員さんが食材等丁寧に教えてくれる。」(ID10) 「有人レジの金額表示が見えにくく、店員さんの声が聞こえない時は何度か聞き返す。」 (ID18) 「店員さんとも顔見知りで、店員さんからの声がけもありサポートしてもらえるので安心して利用できる。」(ID33) 「対面式売り場は店員さんが説明してくれるので利用しやすい。」(ID33,67) 「対面式売り場で商品が見えにくい時は店員さんに聞く。」(ID34,77) 「見えにくい時は必ず店員さんかお客さんに聞く。」(ID36) 「購入したい商品をネット検索し画像を店員さんに見せる。」(ID64) 「レジの音で店員さんがいるとわかる。店員さんからの声がけもある。」(ID64) 「利用している大型店は消費者に丁寧に対応してくれる。」(ID67) 「店員さんの声や、品出ししている人は店員さんだとなんとなくわかる。常連なので、聞きやすい。店員さんに買う前に、聞く目的でレジに行くこともある。」(ID80) 「積極的に店員さん、あるいはお客さんに声をかける。」(ID82) 「店員さんには、洋服を購入する場合は具体的に質問する。例えば、ピンク色の服でも、濃いピンクか桜色のような薄いものか等と伝える。」(ID82) (3) 支援機器の使用状況 ・支援機器を使用しない心理状態が語りより得られた。 「万引きや盗撮と誤解されたくないので携帯電話の拡大はほとんど使用しない。」(ID16) 「電子ルーペは大きいので、店舗でも目立つと嫌なので、ほとんど使用しない。」(ID67) 「レジ精算や支援機器の使用時に人目が気になる。」(ID71) ・自宅で支援機器(拡大読書器)が使用されている、具体的な状況が語りより得られた。 「本の内容は文字が小さく読めないが、視認しやすい表紙で選び、家の拡大読書器で読む。」(ID42) 「家で賞味期限等を拡大読書器で見る。」(ID80) (4) 判別しにくい商品と判別しやすい商品 ・陳列棚の値札や商品の並べ方にも課題があった。 「陳列は覚えているが特売品は違う所にあるので困る。」(ID10) 「置いてある値札が、手前にあると良い。」(ID16) 「商品の下に値札が重なりながら並んでいて見えにくい。」(ID34) 「自分でその場で特売品等がわからないことが残念だ。」(ID80) ・見えにくく判別しにくい商品は、個人の眼疾患による視覚の状態でも異なった。 「値引きシールは赤いので、まったく見えない。」(ID36,71) ・判別しやすい商品は、以下のような表示であった。 「折り込み広告は太い文字で画像も見やすい。」(ID10) 「昔は、値札が大きく見やすかったような気がする。」(ID16) 「U 商品の値札は文字が大きく見やすい。」(ID34) 「Y 醤油」のように大きな文字でコントラストが高い商品が見えやすい。」(ID36) 「白黒反転、大きな黒字、大きな POP で書かれると見やすい。」(ID71) (5) パッケージの重要性 ・商品の情報を入手するためには、文字以外にパッケージ等でも得られていた。 「パッケージの形状でわかりやすい商品がある。」(ID2) 「今より、見えていた頃の記憶で、見慣れているパッケージで商品がわかる。」(ID16) 「その店はプライベートブランドなので、スパイス等は 1 種類だけで、ドレッシングも色分けしてあり、視覚障害者にもわかりやすい。」(ID18) 「G 石鹸のようにコントラストの高いパッケージの商品はわかりやすい」(ID34) 「本の内容は文字が小さく読めないが、視認しやすい表紙で選び、家で拡大読書器で読む。」(ID42) 「品名は見えにくいのでパッケージでも想像する。」(ID42) (6) 困難に直面した時の心理状態と行動 ・見えにくいため困難に直面した時の場面と行動が語りより得られた。 「商品に目を近づけて見る。」(ID2,34) 「食料品等は値札を見ないで、“勘で”買うこともある。」(ID2) 「ショーケースの中身が見えないので、店員さんに聞く時とあきらめる時がある。」(ID10) 「食料品は、衛生的にも手に取って顔を近づけにくい。」(ID16) 「食料品なら高くないので、店員さんには聞かないで買う。」(ID16) 「顔を近づければ、どうにか文字が見えるので、店員さんにはほとんど聞かない。」(ID77) ・購入する商品によっては、必ず店員あるいは同行者に確認してもらう状況があった。 「ほとんど単独だが、洋服を購入する時に値札と、似合っているか家族に見てもらう。」 (ID2) 「洋服は高いかもしれないので、値段を店員さんに聞く。」(ID16,71) 「洋服等を購入する時は母に同行してもらう。」(ID34) 「食品は、ほとんど晴眼者の妻が購入する。」(ID42) 「洋服等を購入するときだけ家族がいるが、ほとんどない。」(ID64) 「店員さんには、洋服を購入する場合は具体的に質問する。例えば、ピンク色の服でも、濃いピンクか桜色のような薄いものか等と伝える。」(ID82) (7) レジ精算 ・レジ精算時の各自の行動が詳細に語られた。 「有人レジで、カード払いの時見えにくいので店員さんにタッチしてもらう。」(ID16) 「有人レジの金額表示が見えにくく、店員さんの声が聞こえない時は何度か聞き返す。」(ID18) 「レジ精算は、後ろのお客さんに気を遣うので小銭選別しておく。」(ID33) 「有人レジでお釣りをもらう時、時間がかかると後ろのお客さんに気を遣う。」(ID36) 「無人レジは、初めに店員さんに操作方法を教えてもらい、覚えて利用する。」(ID58) 「清算は定期券も利用しているので、Suica カードにしている。」(ID64) 「レジ精算や支援機器の使用時に人目が気になる。」(ID71) (8) 周囲のお客への気遣い ・買物行動で見えにくくため、周囲のお客への気遣いもしている語りが得られた。 「対面式売り場は、何が置いてあるのかわからないし、お客さんで混んでいると聞けない。」 (ID16) 「万引きや盗撮と誤解されたくないので携帯電話の拡大はほとんど使用しない。」(ID16) 「レジ精算は、後ろのお客さんに気を遣うので小銭選別しておく。」(ID33) 「お客さんには聞かない。」(ID34) 「有人レジでお釣りをもらう時、時間がかかると後ろのお客さんに気を遣う。」(ID36) (9) 施設設備等 ・買物行動で見えにくいために施設設備等で直面している困難が、各自により異なる場面であることが語りより得られた。 「初めて行く店舗の入り口の自動ドアが左右どちらに開くのかわかりづらい。」(ID10) 「新しい店舗が近くにできたが、エレベーターやエスカレーターが不安なので行った時はない。」(ID33) 「どの店舗も出入口が見えにくくわかりづらい。」(ID36) 「白い通路はわかりにくいので黒い線をひいてほしい。」(ID36) 「エレベーター等に行きたい時も、入り口からそこにたどり着くまで大変だ。」(ID82) (10) ネットの利用 ・各自がネットを有効に利用している状況が語りより得られた。 「店舗で成分表を見るのは難しいが、ネットで成分は拡大して見るから、理解してから買えるのが良い。」(ID18) 「化粧品はネットショッピングを利用し、画面拡大で成分等を確認して購入している。」 (ID34) 「ネットで新しくほしい商品を探し、店舗で実際に確認して購入する。」(ID42) 「新しく行く店舗は、事前にネットのストリートビューで確認しておく。」(ID42) 「水やお茶は、タブレットの画面を拡大し、成分等を確認してネットで購入している。」 (ID58) 「ネットショッピングは、配達もしてくれるし、そこでしか手に入らない商品があるので、よく利用している。」(ID58) 「購入したい商品をネット検索し画像を店員さんに見せる。」(ID64) 「ネットはたまに利用する。ネットは自分で選ぶ楽しさがあり、店員さんの手を煩わせることがない。ネットは品ぞろえが豊富で価格も比較できるし、配達もしてくれる。」(ID64) 「ネットショップで、薬の副作用等の確認できるので、たまに利用する。」(ID77) 「ネットショップを利用している、自分の空いている時間にできるのはいい。しかし、急に画面の入力方法が変わっていた時は、とても困った。」(ID82) (11) 自分の工夫 ・各自が買物行動で直面している困難を軽減するための、店舗選びをはじめとする様々な工夫が詳細に語られた。 「コンビニは狭いから商品を探しやすいし、レジの店員さんも探しやすい。」(ID2) 「商品の陳列を覚えている。」(ID2,10,18,58) 「自宅に近い店を利用している。」(ID10,36) 「スーパーは個人商店より店員さんがずっと見てないので気が楽だ。」(ID10) 「携帯にほしい商品名を入力して店員さんに見せる。」(ID33) 「なるべく空いている時間に行く。」(ID33) 「同種類の商品の陳列が判別しにくい時は棚から少し離れて見るが、見つからない時は店員さんに聞く。」(ID34) 「通勤の際にはコンビニで決まった昼食の弁当を購入する。」(ID42) 「購入したい商品をネット検索し画像を店員さんに見せる。」(ID64) 「2,3 か所のコンビニ利用し、ATM もひとりで利用する。レジの音で店員さんがいるとわかる。」(ID64) 「文字、色わからない。触覚、嗅覚をたよる時もある。」(ID67) 「かごに取り忘れがないように、かごを逆さにして確認する。」(ID71) 「M 店はあまり広くない店舗で、商品もレジも探しやすい。」(ID77) 「買物は、行きつけのコンビニ以外は、ガイドヘルパーさん、あるいは母と行く。」(ID80) 「柱や電気の位置で、商品の陳列を覚えている。」(ID80) 「幼いころより、『自分の事は自分で』という母の育て方もあり、積極的に店員さん、あるいはお客さんに声をかける。」(ID82) 「店員さんを探すときは、コンビニでは、レジの音や、『いらっしゃいませ』の声でわかる。」(ID82) 「店員さんには、洋服を購入する場合は具体的に質問する。例えば、ピンク色の服でも、濃いピンクか桜色のような薄いものか等と伝える。」(ID82) (12) 要望と提案・思い ・店舗への要望と提案が詳細に語られた。 「陳列棚にルーペを付けてほしい。」(ID2) 「床に大きな文字で商品名を書いてほしい。」(ID2) 「新鮮な野菜を店員さんが教えてほしい。」(ID10) 「棚に商品がわかるような音声が流れると良い。」(ID34) 「出入り口にわかりやすい目印があると良い。」(ID36) 「白い通路はわかりにくいので黒い線をひいてほしい。」(ID36) 「商品等を説明してくれる専門のスタッフがいると良い。」(ID71) 「店員さんのエプロンでわかるが、少し遠くからもわかる色のユニフォームを着てほしい。」(ID77) ・買物への『思い』が語りより得られた。 「人が最善のサポートだと思う。」(ID42) 「自分のほしい商品を購入するだけで精一杯。楽しむことはできない。」(ID64) 「本当は、自分の好きな時間にひとりで行きたい。」(ID67) 4.2.7 インタビュー調査で得られた課題とニーズ(2) 上述したインタビュー調査質問以外の全員に以下の 3 項目を質問した。その回答から得られた声を以下に示す。 (1) 本調査の方法についての感想 今回、コロナ禍においてリモートインタビューを協力者の希望選択肢にもうけた。リモートインタビューで実施した 12 名全員より以下の感想が寄せられた。 「今回のリモートインタビューは、移動が困難な視覚障害者にとって利用しやすい。」 ちなみに、1 名(ID2)は当初の予定は対面式であったため、リモートインタビューも良かったが、対面式で実施したかったという感想を寄せていた。 (2) 本調査の質問以外の買物における困りごと 「商品の細かい情報を得られないために、自分の頭で想像する。本当にこれで合っているのかと思う。」(ID33) 「利用している店舗は店内放送で、商品の情報を流す。」(ID67) 「初めて行くお店は、トイレ等の場所がわからず困る。トイレの流すボタン等がわかりにくい。」(ID71) 「広い店舗内でトイレを探すことが難しい。」(ID42,77) (3) 本調査以外で、日常生活において視覚障害をともなうための困りごと 「職場でのコミュケーションのずれがある。相手の顔が見えにくいから誤解される等。」(ID18) 「病院もひとりで行くと、最近ボランティアさんが少ないようで、並んでいると『こちらにどうぞ』と呼ばれてもどこかわからない。」(ID33) 「一人暮らしをしたいので、書類の読み書きが心配だが、福祉サービスを利用しょうかと考えている。」(ID34) 「駅の券売機でスイカチャージする時、駅によりカードの入れ方等が違い困る。」(ID42) 「視覚障害者同士で、情報を共有できる場がほしい。」(ID42) 「身体障害者手帳が 5 級なので、福祉サービスうけるのが難しい。銀行でも代筆はできないので、行員さんに手をもってもらい記入する。」(ID71) 「バスの利用で行先表示が見えにくく不安だ。銀行の振込画面が見えにくい。」(ID77) 4.2.8 KHCoderを適用したインタビュー調査回答の解析 上述したインタビュー調査については全文書き起こしのスクリプト・テキストは作成しなかったが、4.2.6及び4.2.7 のインタビュー調査で得られた課題とニーズ(1),(2)の全テキストデータを回答のスクリプトとして、KH Coder を用いてテキスト・マイニング分析を行い、頻出語の抽出と共起ネットワークを作図し、視覚障害者の買物行動の具体的な問題点、課題及び工夫等について解析を行った。 抽出語の出現頻度リスト(表 4-2)と、共起ネットワークによる抽出語同士の関連性を図示したもの(図 4-1)を以下に示す。 表4-2. 買物行動についてインタビューで抽出された頻出語リスト(上位50語) (表) 抽出語 頻度 店員 42 商品 26 見える 21 レジ 17 利用 17 購入 15 ネット 14 見る 13 聞く 13 お客 12 店舗 11 行く 11 自分 9 値札 8 文字 8 拡大 8 探す 8 洋服 7 使用 7 コンビニ 6 確認 6 白杖 6 有人 5 陳列 5 時間 5 遣う 5  パッケージ 4 画像 4  画面 4 後ろ 4 障害 4 食料 4 成分 4 清算 4 覚える 4 見せる 4 困る 4 持つ 4 買う 4 高い 4 一人 3 少ない 3 教える 3 カード 3 トイレ 3 携帯 3 検索 3 誤解 3 質問 3 対面 3  図 4-1. 買物行動についてインタビューの共起ネットワーク (図) (1) 結果  図 4-1 から、買物行動においてのインタビューの語りでは、アンケート調査結果と同様に「店員」「商品」が多く使用されていた。加えて、アンケート調査結果をふまえて、インタビュー調査で質問した結果、得られた語りから、新たに様々な言葉が用いられていることが分かる。筆者はこれらの言葉から、視覚障害者に関する言葉に注目し、次の3つのストーリーに要約することができた。 1.「店員」「見える」「聞く」「声」のキーワードより『ロービジョン者は、見えにくくても、保有視力があり見た目では視覚に障害があるとわからない時もある。そのため、店員からの声がけは少ない。また、目を近づければ、困難ではあるが、どうにか見えるので、店員に聞くのを躊躇する』ことが要約できた。 2.「レジ」「お客」「清算」「有人」「後ろ」「気」「遣う」「時間」のキーワードより『有人レジで精算に時間がかからないように後ろのお客に気を遣う』ことが要約できた。 3.「ネット」「利用」「商品」「購入」「画像」「見せる」「洋服」「成分」「確認」「画面」「拡大」のキーワードより 『洋服を購入する時にネットの画像を見せる。または、ネットで商品の成分を画面拡大して確認するため等にネットを利用している』ことが要約できた。 第5章 考察 第1節 考察I 本研究では、障害者特性と各質問項目の回答パターンとの連関性について 16 の仮説を立案した。仮説立案に関しては、それぞれの障害特性を有する視覚障害者が買物場面で遭遇するであろう困難やニーズをペルソナ法の活用により具体的にイメージしながら構成した。 アンケート調査及びインタビュー調査の結果において、以下に、2 つの要因間に統計的に有意な連関があった仮説と、連関があるとはいえなかった仮説別に、検証・考察した。 5.1.1 連関があった仮説: 【仮説 1:視力と同行者】低視力者ほど、同行者の同伴が多い。 【仮説 3:視力とネットチラシや新聞の折り込み広告】低視力者ほど、ネットチラシや新聞の折り込み広告をチェックしない。 【仮説 4:視力とかご・カート】低視力者ほど、かごカートが見えにくく困ることが多い。 【仮説 5:視力とばら売りの食料品】視力の程度に関わらず、困る。 【仮説 6:視力と対面式売り場】視力の程度に関わらず、困らない。 【仮説 7:視力と冷凍食品等のショーケース】視力の程度に関わらず、困る。 【仮説 8:視力と値段と品名】低視力者ほど、見えにくく困る。 【仮説 10:視力と値引き品】低視力者ほど、困る。 【仮説 13-2:視力と店員に尋ねる】低視力者ほど、店員に尋ねられなくて困る。 5.1.2 連関があるとはいえなかった仮説: 【仮説 2:視力とよく利用する店舗のタイプ】低視力者ほど、コンビニ利用が多い。 【仮説 9:性別と賞味期限や成分表】視力の程度に関わらず、女性の方が困る。 【仮説 11:視力とセルフレジ】視力の程度に関わらず、困る。 【仮説 12:視力と有人レジ】低視力者ほど、困る。 【仮説 13-1:視力と店員を見つける】低視力者ほど、困る。 【仮説 14:性別と支援機器】女性の方が、使用しない。 【仮説 15:視力と支援機器】低視力ほど、使用する。 【仮説 16:視力と駐車場と駐輪場】低視力者ほど、危険な目に遭う。 5.1.3 連関があった仮説についての考察 【仮説 1】では、低視力者ほど同行者の同伴が多いことが明らかになった。視覚から情報を入手・発信することが多い買物行動には、同伴者の“目を借りている”ためと考えられる。 【仮説 3】では、低視力者ほど、ネットチラシや新聞の折り込み広告をチェックしない人が多いことが明らかになった。自由記述回答に「画像チラシは判読できない」等が挙げられ、見にくい広告媒体であると考えられた。 【仮説 4】では、低視力者ほど、かご・カートを視認するのに困ることが多いことが明らかになった。そのため、同伴者を同伴することで対応していると考えられた。 【仮説 5】では、ばら売りの食料品の購入について、着目すべきは、軽度の人でも、「とても困る」、「やや困る」あわせて 6 割弱が回答していた点である。ばら売り販売は、一般の商品に比べて、より視力を必要とし、類似した商品から希望の品を“選別すること”が難しいことを示している。インタビュー調査において、「ばら売りの商品は、トングで取れず落としてしまうと困るので購入しない」や「付属の醤油やソースの判別が難しい」等の語りが、それを裏付けている。 【仮説 6】では、対面式売り場での購入について、重度と中等度の人の 2 割弱が、「とても困る」と回答していた。逆に、盲と軽度の人は困っていなかった。単独で買物をする重度と中等度の人は、インタビュー調査において、「対面式売り場のショーケース内の商品が見えにくく困る」の語りがあった。見て・選択できそうだと考える重度・中程度の視力の人は、実際には商品や値札が見えないために困ると回答し、盲の人は最初から店員に相談するか、同伴者に選んでもらうのでそれほど困らないと回答したのではないかと考えられる。 【仮説 7】では、冷凍食品等のショーケース内の商品について、重度の人は、「とても困る」、「やや困る」あわせて 8 割弱、中等度の人は、「とても困る」、「やや困る」あわせて 9 割弱が回答していた。これも【仮説 6】と同様に、自己選択したいと思いながら現実にはできない重度・中程度の視力の人の困難さが表れていると考えられる。 【仮説 8】では、値段と品名の表示について、盲と重度の人が「とても困る」と 7 割弱が回答し、低視力者ほど値段と品名の表示の視認に困ることが明らかになった。これは、盲と重度の人より、低視力者のほうが困る割合が高い理由だが、盲と重度の人は定番商品を多少価格が変動しても買ってしまうのに対して、中等度と軽度の人は値段や品名が見える=選択できる)だけに別の商品と比べて、より安いものや新商品等を購入しようとする購買行動の違いがあるかもしれないと考えられる。 【仮説 10】では、値引き品について、盲と重度の人が、「とても困る」に 6 割以上も回答していた。低視力者ほど値引き品の把握に困ることが明らかになった。また、インタビュー調査において、「赤い色が見えにくいので、値引き品を見つけにくい」という語りより、眼の疾患により見えにくい商品があることが示唆された。これは、視力によらず困る事例である。値引き品は、いつもの商品棚に置かれていなかったり、様々な値引き品が混在されていたりすることが多い。位置や値段を覚えて買物をしがちなロービジョン者は、イレギュラーな展示で販売されている商品選びに困ることを示している、のではないかと考えられる。 【仮説 13-2】では、店員に尋ねる際の困難について、軽度の人でも、「とても困る」「やや困る」あわせて 6 割弱が回答していたことに着目したい。これは、アンケート調査の自由記述回答及びインタビュー調査において、「店員が忙しそうにしていると尋ねられない」等が挙げられている。これは、まず、店員が少ないため購入したい商品棚を離れて店内を探しまわる必要があり、店員のユニフォームが目立ちにくいために低視力者であっても近づかないと店員と買物客の見分けくいこと、等がある。次に自分がロービジョンであることを店員に開示することへの躊躇がある。これらの結果があいまっての回答と考えられる。 5.1.4 連関があるとはいえなかった仮説についての考察 【仮説 2】では、盲と重度の人が、当初予想していた「コンビニ」ではなく、「大型店」、「スーパーマーケット」あわせて 5 割以上が利用していることが明らかになった。これは、大型店もスーパーマーケットと同程度に割合が多い理由は、フロアが比較的広いため、同行者と並んで歩きやすいこと、食料品だけでなく衣料品等何でも揃い一か所で買物を済ませられること、等が考えられる。 【仮説 9】では、性別と賞味期限や成分表示について、一般に家事における食事担当者と思われる女性ではなく、男女ともに「とても困る」に 6 割以上の人が回答していた。つまり、男女ともに鮮度や添加物等に着目し、性差があるとは言えないことがわかる。しかし、それらは商品名や値段よりや小さな文字で表示されていることが多く、晴眼者でも読みにくい。 【仮説 11】では、当初の予想とは異なり、セルフレジについて、視力の程度に関わらず、5 割以上の人が「あまり困らない」「まったく困らない」と回答していることが明らかになった。これは、アンケート調査の問 10(1)「セルフレジは利用しますか」の問いに、「ほとんど利用しない」、「まったく利用しない」あわせて8 割弱が回答していたことを考えると当然ともいえる回答で、そもそも使いにくいセルフレジを利用している人が少ない結果を表しているためであると考えられた。 【仮説 12】では、当初の予想とは異なり、有人レジについて、軽度の人でも「とても困る」「やや困る」あわせて 6 割近くが回答していた。これは、アンケート調査の自由記述回答及びインタビュー調査において、「お釣りを代金トレイから取ることが大変」と挙げられ、視野も大きく影響していると考えられた。 【仮説 13-1】では、当初の予想とは異なり、店員を見つける際の困難について、視力の程度によらず、「とても困る」「やや困る」あわせて 6 割以上が回答していることが明らかになった。また、アンケート調査の自由記述回答及びインタビュー調査において、「店員と買物客が判別しにくい」等も挙げられた。これは、仮説8にあるよう“棚位置の見分けに困る”ので、購入したい商品棚を離れて店内を探しまわりたくなく、かつ、店員のユニフォームが目立ちにくいために低視力者であっても近づかないと店員と買物客の見分けにくいこと、等があると考えられる。 【仮説 14】では、店舗内での支援機器の使用について、当初の予想とは異なり、男女ともに、「ほとんど使用しない」「まったく使用しない」あわせて 8 割が回答していたことが明らかになった。また、アンケート調査の自由記述回答及びインタビュー調査において、「人の目が気になる」と数名が挙げていた。晴眼者は通常使用しないルーペ等の支援機器を商品名、値札、賞味期限や成分表等確認するには長時間使用せざるを得ない。支援機器を使用すれば見やすくなることは理解しているが、男女問わずロービジョン者側の心の葛藤があることが示唆された。 【仮説 15】では、視力の程度と支援機器の使用について、視力の程度によらず、「ほとんど使用しない」「まったく使用しない」あわせて 6 割以上が回答していたことが明らかになった。これは、仮説 14と同様、見えにくいが使用したくないというロービジョン者側の心の葛藤があることが示唆された。 【仮説 16】では、店舗に付属している駐車場と駐輪場での困難について、視力の程度によらず、軽度の人以外は、「よくある」「たまにある」あわせて 5 割前後が回答していたことが明らかになった。アンケート調査の自由記述回答及びインタビュー調査において、「店舗の出入り口付近に自転車が置かれている」等が挙げられた。このことから、ロービジョン者にとって、出入り口を覚えていても予想外の状況を把握することは、困難であると示唆された。 第2節 考察II 本研究のアンケート調査及びインタビュー調査で得られた結果、及び仮説検証から導かれた考察Iと KH Coder を適用したテキストマイニングからの解析をもとに、ここまでの研究構成の流れを以下の図 5-1 に示し、ロービジョン者の買物行動における現状及び課題とニーズを更に考察する。 買物行動の一連の流れを構成する「ロービジョン者の買物行動の 3 フロー(入店前→店舗での買物→レジ精算)における困難」と、ロービジョン者側の心の葛藤等を含む「ロービジョン者の買物行動における心理状態」に分けて論じ、以下の図 5-2 に示す。 図 5-1.研究構成の流れ (図) 第一段階【アンケート調査】 ペルソナ法:3 名(ロービジョン)立案(リアルに仮想の人物を立案することで当事者 の行動や困難を客観的に想像できる) ↓ ・ペルソナ 3 名(ロービジョン)の買物行動と 4 つのバリアの対応表の作成 ↓ ・先行研究 ・知人と筆者による視覚障害者の買物に関する現状 ↓買物行動 3 フロー・8 カテゴリー構築 ・仮説立案 ↓ ・アンケート質問票の作成:合計 16 問うち自由記述回答 3 問(回答 40 ヵ所) ↓アンケート調査実施 ・結果:合計90名 (1)選択肢回答結果:グラフ、表 (2)自由記述回答結果(合計 3 問) ↓ ・KH Coder を適用した「頻出語抽出、共起ネットワーク」による解析、仮説検証: Fisher 直接確率法 ↓ ・調査結果からのロービジョン者の買物環境における課題とニーズの考察 第ニ段階【インタビュー調査】 ・アンケート調査回答者から 20 名人選(年齢、性別等偏りなく、自由記述回答参考) ↓依頼 ・合計 15 名の協力者 ↓ ・アンケート調査結果をふまえインタビューガイドを基本に個別の質問票を作成 ↓インタビュー調査実施 ・結果:本人の希望方法(対面式・LINE 通話・Zoom・skype)約 60 分間 ↓ ・KH Coder を適用した「頻出語抽出、共起ネットワーク」による解析 ・アンケート調査とインタビュー調査結果をふまえた総合的な仮説検証 ↓ アンケート調査とインタビュー調査結果をふまえた総合的な考察 図 5-2.買物行動と 4 大バリアの関連図 (図) ロービジョン者の特徴:保有視力ある (➡高価な洋服などは家族を伴う) 【入店前】・アンケート:チラシは見えにくいのであまり見ない(文字) ・インタビュー:成分等を拡大して確認 ↓ 【店舗内でのショッピング】 文字・移動のバリア軽減しょうと自分で工夫 ・入り口からサービスカウンターまでの場所が見えにくい等(移動) 食料品等は単独で買物 ・陳列を覚えたのに変更があり商品が見つけられない等(文字・移動) ・値札、表示等見えにくい等(文字) ↓ 店員に尋ねたい・尋ねた  ・片手に荷物がある(移動)等で白杖使用しない   →店員に視覚障害をわかってもらえない対応(コミュニケーション)をされ 悲しい(心) ・店員が少なく忙しそうで気兼ねして(心)声がけできない(コミュニケーション) ・店員とお客が見えにくく判別しにくい(コミュニケーション) 店員に尋ねられない(心)・店員を見つけられない(コミュニケーション) ・人目が気になる(心)等でルーペ等の支援機器を使用しない ↓ 勘で買う・諦めて購入しない ↓ 【レジ精算】・合計金額の表示が見えにくい等(文字) ・レジ清算で支払いや釣銭を受け取るとき見えにくく動作が遅くなる (コミュニケーション)と後ろのお客に気兼ねする(心) 【要望・提案】 (1)陳列棚にルーペをつけてほしい、床に大きく商品名等 (2)ハード(文字の大活字化等)・ソフト(店員からの声がけ等)面の環境整備、自己の障害を開示しやすい社会にするため、障害者と健常者の情報共有できる機会 5.2.1 ロービジョン者の買物行動の 3 フロー(入店前→店舗での買物→レジ精算) における困難 (1) 視覚障害者の 4 大バリア(文字・移動・コミュニケーション・心)と自己の視覚障 害への理解との関連  第 3 章のアンケート調査の考察に加え、インタビュー調査においての「成分表を見るのは難しい」、「有人レジの金額表示が見えにくい」、「広い店舗内でトイレを探すことが難しい」、「新しい店舗が近くにできたが、エレベーターやエスカレーターが不安なので行った時はない」等の語りや、仮説検証【仮説 8:視力と値段と品名】等の結果より、買物行動の 3 フロー(入店前→店舗での買物→レジ精算)すべてにおいて、まず「文字」と「移動」のバリアに直面していると考えられた。この結果は、(1)日本盲人会連合(2016)により報告された「商品の値段や表示が分かりにくい」についての割合が高かった結果、(2)共用品推進機構(2011)により報告された「店内を移動するとき不便に感じることや失敗したこと」について「エレベーター、エスカレーター、通路等」の割合が高かった結果、と一致している。また、共用品推進機構(2011)では「エレベーターでの移動」において「階数表示がわからない」ことが挙げられていた。このことより、「文字」のバリアがあることで、更に「移動」のバリアが増すことも考えられた。本研究でも、ロービジョン者の買物環境において、「文字」と「移動」のバリアに直面していることが、改めて明らかになった。  また、アンケート調査の自由記述回答では、矯正視力や見え方について、専門用語を用いて回答していた。その後のインタビュー調査においても、「赤い色が見えにくいので、値引き品を見つけにくい」、「視野が狭いので、店舗の入り口が見つけにくい」、「10 年くらい前から徐々に見えにくくなった」等、受障時期や眼疾患により見えにくい色等についても語りが得られた。これにより、各自が視覚障害を理解していることが明らかになった。障害を自己理解した上で、具体的には「カートは、周辺が見えにくいので人や棚にぶつけてしまうから使用しない」等の語りより、買物行動において、直面する困難を軽減するための工夫等をしていると考えられた。アンケート調査及びインタビュー調査における KH Coder を適用して作図した共起ネットワーク図でも、自分の工夫として「陳列棚の配置場所を覚えると買う時に助かる」、「洋服を購入する時にネットの画像を見せる。または、ネットで商品の成分を画面拡大して確認するため等にネットを利用している」ことが要約できた。  しかし、「商品の陳列を覚えても、配置換えされてしまうと困る」等の語りより、様々な工夫をしても困難が軽減されないこともあり、その場合は店員への相談、すなわち「コミュニケーション」が必要であることが示唆された。具体的には、「店員さんと顔見知りで、店員さんからの声がけもありサポートしてもらえるので安心して利用できる」という事例がある。一方、「店員さんが少ないので、食料品等は値札を見ないで、勘で買うこともある」という語りもあった。あるいは、店員に値札が見えにくいので尋ねても、白杖を使用していないため視覚障害があるとわかってもらえず、「店員さんに聞くと、値札を目の前に見せる店員さんもいて、何も言えず引き下がる時もある」という、ロービジョン者側が障害を理解されず悲しい思いを経験した語りもあった。このことより、店員との「コミュニケーション」をとりたいが、上手くとれない経験が更に聞きにくくなる・聞くことをあきらめる、という悪循環になっていることが推測できた。  これは、インタビューでの「見えにくい時は、店員に聞きたいが人が少ないし、忙しそうなので聞けない」という語りより表現されたコミュニケーションの問題にとどまらず、視覚障害があることを「わかってもらえない」というあきらめにもつながっていくと考えられる。今回のインタビューでは、その根本的な原因を店の配慮のなさやわかりにくさに帰すのではなく、自らの視覚障害にあると感じる人が多いと考えられ、店員に聞けないという単純な問題では済まない大きな「心」のバリアになっていることが示唆された。すなわち、ロービジョン者は、買物行動においての「文字」と「移動」のバリアを軽減するために、自分なりの工夫をしているにも関わらず、「コミュニケーション」と「心」のバリアに直面していることが示唆された。 (2)「文字」以外からの情報入手  バリアフリー法(国土交通省, 2006)において、ロービジョン者の駅構内の安全確保に関 して「文字」以外の様々な対応(配色・明るさ等)が挙げられている。本研究のインタビュー調査においても、「文字」以外からの情報入手・発信について、「対面式売り場は店員さんが説明してくれるので利用しやすい」、「レジの音で店員さんがいるとわかる」、「G社の石鹸箱のようにコントラストの高いパッケージの商品はわかりやすい」、「店舗の入り口に目印があると良い」、「白い床に黒い線があると良い」等の語りが得られた。したがって、ロービジョン者の情報入手・発信の手段として店員等の「声」、レジ等の「音」、商品の「パッケージ」、コントラストの高い「サイン」等、「文字」以外の情報入手・発信が、買物行動における困難を軽減する重要な役割を果たすことが示唆された。 (3)人的サポートの存在 インタビュー調査において、「洋服は高いかもしれないので、値段を店員さんに聞く」、「似合っているか家族に見てもらう」等、購入したい商品によって場面ごとの人的サポートの存在についての語りが得られた。これはアンケート調査では得られなかった情報である。これにより、商品の値段や目的に合わせ、店員や同行者に確認してもらっている現状が明らかになった。また、仮説検証【仮説 1:視力と同行者】の結果より、同行者に同伴してもらう場面の一つに洋服の購入が考えられた。更に確認する際には、「店員さんには、洋服を購入する場合は具体的に質問する。例えば、ピンク色の服でも、濃いピンクか桜色のような薄いものかなどと伝える」等の語りや、KH Coder を適用して作図した共起ネットワーク図でも、「洋服を購入する時にネットの画像を見せる。または、ネットで商品の成分を画面拡大して確認するため等にネットを利用している」ことが要約できたことより、ロービジョン者側からのほしい商品の特性を、的確に相手に伝える情報発信のスキルも商品購入に重要であると考えられた。 (4) ネットの利用方法 アンケート調査の選択肢回答から、ネットショップを利用する理由として、「配達してくれるから」の割合が最も高く、36%であった。インタビュー調査において、「水やお茶等を購入している」ことが語られた。これらから考えると、重く・大きく持って帰りたくない定番商品等はインターネットで購入され、かつ行き帰りの道のりでの危険を回避することもあると考えられた。  その後のインタビュー調査において、「店舗で成分表を見るのは難しいが、ネットでは拡大して見るから、理解してから買えるのが良い」等の語りが得られた。商品の成分表等の見えにくい表示は、画面を拡大表示して確認することで、「文字」のバリアを軽減していることが明らかになった。加えて、「購入したい商品画像を印刷したものを店員さんに見せる」や「新しく行く店舗は、事前に行き方をストリートビューで確認しておく」等の語りが得られた。KH Coder を適用して作図した共起ネットワーク図でも、「洋服を購入する時にネットの画像を見せる。または、ネットで商品の成分を画面拡大して確認するため等にネットを利用している」ことが要約できた。この結果は、共用品推進機構(2011)により報告された「テープやCD、インターネットで商品情報を入手できる」ことも便利、と一致している。したがって、ロービジョン者にとってのネット利用は、フォントサイズが小さい「文字」を拡大するだけでなく、その他の情報も入手することで、「文字」以外のバリアも軽減してくれる重要な情報入手・発信の手段になっていると示唆された。 5.2.2 ロービジョン者の買物行動における心理状態 (1)ロービジョン者の特徴と買物行動 インタビュー調査において、「周辺視野があるので、買物の際には荷物が増えるので、白杖は持たない」や「顔を近づければ、どうにか文字が見えるので、店員さんにはほとんど聞かない」等の語りが得られた。これにより、ロービジョン者は文字や移動先がはっきり見えないにもかかわらず、「保有視力」を頼りに買物行動をしていると示唆された。また、上述した通り、洋服等の高価な商品は店員に確認して購入したい、あるいは、どうしても店員に尋ねたい場合も、仮説検証【仮説 13-1:視力と店員を見つける】の結果や、「店員さんとお客さんの判別が難しい」等の語りより、視覚による人物の判別が困難であることが明らかになった。更に、仮説検証【仮説 13-2:視力と店員に尋ねる】の結果や、「店員さんが少なく、忙しそうにしているから聞けない」等の語りより、店員を見つけることも、見つけても尋ねることが困難な現状が明らかになった。この結果は、共用品推進機構(2011)により報告された「スーパーは店員のサポートを受けにくい」という声が多いという結果と一致している。したがって、見えにくい状態で買物をすることで、顔を近づけながら見る「文字」や、はっきり見えていない「移動」先、店員を見つけて尋ねるという「コミュニケーション」が上手くとれない、店員を見つけても忙しそうにしているので自己の障害を開示することに戸惑う等の「心」のバリアがあると考えられた。このことにより、時間だけでなく精神的にもストレス(心の負担)をかけるようになると示唆された。  また、買物行動における情報入手・発信には、視力のみならず、視野も大きく関係していると考えられる。視野については、人それぞれで、かつその日の状態によっても見えにくさは大きく変化する。中心暗点の場合、歩行・移動は比較的容易で商品棚には行けるが、肝心の値札が読めない。一方、求心性狭窄では商品を手に取れば値札も読めるが、歩行・移動が難しいため棚に行きつけない、といういわば逆の問題がある。今後は、視力だけではなく視野等も含めた見え方の違いによる調査も必要であると考える。 (2)ロービジョン者の支援機器と白杖使用について  アンケート調査の選択肢回答及び自由記述回答から、「ルーペ等の支援機器の使用」は、視力の程度によらず利用率は低かった。その理由として、「人の目が気になる」という回答が挙げられた。加えて、インタビュー調査において、「電子ルーペは大きいので、店舗でも目立つと嫌なので、ほとんど使用しない」等の語りが得られた。【仮説 14:性別と支援機器】の考察にも書いたが、晴眼者は通常使用しないルーペ等の支援機器を商品名、値札、賞味期限や成分表等確認するには長時間使用せざるを得ない。これらの結果より、支援機器を使用することは、周囲の人から、目立ってはいないか、自分の存在はどう見られるのだろうという、戸惑いや不安等の「心」のバリアを生み出す要因の一つになると考える。  ルーペ等や支援機器使用についての心理や感情は、これは白杖使用についても同様にあてはまると推測された。インタビュー調査においては、「周辺視野がある(少し見える)ので、買物の際には荷物が増えるので、白杖は持たない」や「店舗に行く時には電車に乗らないので、白杖は使用しない」等の語りより、安全を確保する場面以外では、使用されないことが明らかになった。髙橋(2019)は、「自分の見え方を正確に理解していないがため、自分の見え方を伝えられず、どのようにしてほしいかが表現できない。」と述べている(高橋, 2019,pp.12-20)。しかし、本研究においては、店舗への移動の際に、“安全を担保するには白杖が必要である”ことをよく理解しているからこそ常備しているにもかかわらず、その白杖が店舗内では使用されていないことが明らかになった。これは支援機器の理解不足ではなく、安全より人の視線を回避するために、自分の意識で持ち出さない結果とも考えられた。視覚障害者であることを一目で理解される白杖が、逆に大きな「心」のバリアとなっていると推測された。 (3)店員及び周囲の買物客への気遣い インタビュー調査において、「見えにくい時は、店員さんに聞きたいが少ないし、忙しそうなので聞けない」、「レジ精算は、後ろのお客さんに気を遣うので小銭選別しておく」等の語りが得られた。KH Coder を適用して作図した共起ネットワーク図でも、「有人レジで精算に時間がかからないように後ろのお客に気を遣う」ことが要約できた。これらの結果より、自分が見えにくいことで動作が遅くなり、迷惑をかけるのではないか等の気遣いや、また、周囲の人と「コミュニケーション」をとるため、視覚障害を開示しなくてはいけない戸惑い等の「心」のバリアが、店員のみならず、お客を対象として生じていると示唆された。 (4)ロービジョン者の買物環境への思いと支援のあり方 アンケート調査及びインタビュー調査の結果から、ロービジョン者が、店舗で商品を購入するためには、まず、「店舗の入り口」が見えにくいことで、どこから店内に入ればよいのか戸惑うことから始まり、商品が見えにくいので店員に尋ねたいが遠くからは見つけにくく、店員かと思い近づけば買物客と間違え、やっと店員を探し出して尋ねても、白杖を使用していないので視覚障害があるとはわかってもらえず値札を目の前に見せられ、どうにか商品を手に入れてレジに並んでも、釣銭を上手く受け取るために時間がかかり後ろのお客に迷惑ではないかと気を遣い、最後に清算後の「商品をかごから全て取る」ことができたかを「かごを逆さにして」確認する。このように、買物行動の3フロー(入店前→店舗での買物→レジ精算)すべてにおいて、視覚に障害があることで、能動的に活動できていないことが明らかになった。しかし、ロービジョン者は、白杖を使用していないと、見た目では周囲に、なかなか気付かれないため、高価な洋服等を購入する際は、自分から周囲の人にコミュニケーションをとらなくてはいけない場面もある。そのような場面においては、自分の視覚障害を開示する必要もあり、ロービジョン者側の心も葛藤が生じると考えられる。周囲の人が駅でスマホを使用するように店内でも機器を使用していれば、ロービジョン者側も気兼ねなく機器を使用できる可能性もあると考えられる。売り場でもレジでも見えにくいため、商品に顔を近づけるにも周囲の人の目を気にし、気を遣う等、一連の買物行動に大きな心の負担が伴うことが明らかになった。それは、「自分のほしい商品を購入するだけで精一杯で、とても買物を楽しむことはできない」という語り、特に「精一杯」という言葉に如実にあらわれていた。  誰もが能動的に楽しい買物行動は、ロービジョン者にとっても「本当は、自分の好きな時間にひとりで行きたい」という語りより得られる切実な思いを、実現できる場であってほしい。国土交通省(2018)のバリアフリー法では、情報の伝え方が不十分であるために、必要な情報が平等に得られない「文化・情報面のバリア」を挙げているが、視覚障害者の買物環境においても状況は一致していると考えられた。  したがって、それを実現するためには、店に対する要望として提案されているように、通路や値札の1コントラストを高くする:通路の壁と床の境目に黒い線を引く、値札の文字と背景を白黒反転にする等2文字を大きくする:おすすめ品や値引き品の前にPOP調の大きな文字の掲示等3音声案内の工夫:本日のおすすめ品等のアナウンス、陳列棚に品名が音声でわかる押しボタン等4支援機器の機能向上:周囲からは目立たないコンパクトな機器を店内に設置する、等環境の構築が望ましい。それにより、判別や識別が可能となり、安全に・確実に・効率的に、今より能動的な買物ができると考えられる。 しかし、上記のような様々な場面での「心」のバリアの関与が明らかになった買物環境において、『本当は一人で買物がしたい』を実現するには、そこに「楽しさ」がはいるべきではないか、と筆者は考える。気兼ねなく楽しむためには、ロービジョン者への周囲からの理解が必要であると考える。2016 年に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)の第 3 章 8 条に、“障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において”という条文がある。しかし、障害の理解だけでなく、「何が障壁であるかを明らかにし、それを除去してほしい」と表明することは、周囲の人の何らかの支援を受けながら日常生活を送っている障害者には容易なことではない、と筆者は考える。  視覚障害者だけでなく、車いす利用の肢体不自由者や、高齢者など買物に困っている人々に対して、誰もがさりげない支援ができるような、また、障害当事者が自らの不自由さを開示できるような社会の醸成こそが望ましい。事故・ケガ・病気によって、また、高齢化やグローバル化社会では誰もがマイノリティになる可能性があり、社会全体でアクセシビリティやユニバーサルデザインの実現に向かって努力してこそ、安全に・確実に・効率的に、そして、楽しく“一人で”買物ができると考える。そのためには、マイノリティに対する社会の理解がより一層必要と考える。  バリアフリー法(国土交通省, 2006)によれば、「建築物を利用するためには、ハードとソフトの両側面からの支援が必要であり、整備された建築物をより利用しやすくする運営管理・人的対応等のソフトを工夫することが重要となる」としている。したがって、今後は、買物環境における「文字」、「移動」のバリアを軽減するためのハード面の整備を充実させることはもとより、お互いの理解を深め合うために、意見交換や情報を共有できる場の設定や、支援機器の開発に障害当事者が参画できる、等の障害当事者が感じている「コミュニケーション」、「心」のバリアにソフト面から配慮した情報保障のあり方の研究が必要であると考える。 第6章 結語  本研究では、ロービジョン者が買物をする際に、直面する課題とニーズに加え、その背景にある心の葛藤にも焦点を当て、快適な買物環境を実現するための方策を明らかにすることを目的とし、アンケート調査及びインタビュー調査を行った。  その結果、まず、見えにくいことで値札等の「文字」や店舗内の「移動」のバリアに直面し、次に、それを軽減するための店員探しに苦労したり、声がけに躊躇したりすること、周囲の人の目を気にしてルーペ等の支援機器を使用しない等、店員やお客等周囲の人と上手く「コミュニケーション」がとれないことで、ロービジョン者側の心の葛藤、すなわち「心」のバリアがあり、また、その経験が、次の場面でも「心」のバリアがあるため「コミュニケーション」のバリアを生み出すという悪循環が、背景にあることが明らかになった。したがって、買物行動の 3 フロー(入店前→店舗での買物→レジ精算)すべてにおいて、「文字」、「移動」、「コミュニケーション」、「心」のバリアに直面し能動的に活動できていないことが明らかになった。その買物行動には、ロービジョン者の「保有視力」があり、ロービジョン者側が障害を開示しない限り、見た目では周囲の人から視覚障害があると理解されにくいという状況が大きく影響していると考えられた。  それらの課題の改善とニーズに応えるための方策として、現状では、同行者を同伴することが多いが、通路ルートの高コントラスト化、値札の大活字化、音声案内の工夫、支援機器の機能向上等の環境の構築により、視覚障害があってもある程度能動的に買物ができる可能性があると考えられた。  しかし、ロービジョン者が、安全かつ効率的に、そして、「楽しくひとりで」買物ができるようにするためには、環境を構築する初期の段階で、ロービジョン者側と店舗側が参加し、お互いの立場からの考えを共有し、複数の解消策を立案・検討していくことが方策であると考える。そのような活動を通し、お互いを理解することがロービジョン者のみならず、買物に困っているマイノリティに対して、誰もがさりげない支援ができるような、また、障害当事者が自らの不自由さを開示できるような社会の実現に向けての一歩になるのではないか、と筆者は考える。  本研究が、ロービジョン者にとって快適な買物環境の構築の一助となり、それが、その他の障害者、高齢者や子供達等、そして、サポートする人々にとっても快適なものになるよう、願わずにはいられない。 〔引用文献〕 Steve,Mulder.;Ziv,Yaar (2008),Web サイト設計のためのペルソナ手法の教科書,佐藤 伸哉(監修), 奥泉 直子(翻訳).毎日コミュニケーションズ. 小川 喜造・杉野 昭博 (2014), よくわかる障害学,ミネルヴァ書房. 柏倉 秀克 (2008), 視覚障害者問題の特質と支援上の諸問題,桜花学園大学人文学部研究紀要,No.10,pp.19-35. 加藤 聡,ロービジョンケアを始めて分かったこと,第 263 回(18-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会,2017-12-26,http://andonoburo.net/on/6237,2018 年 3 月16 日アクセス. 共用品推進機構 (2011),2010 年度(平成 22 年度)視覚障害者不便さ調査成果報告書,共用品推進機構. 栗林 芳彦・井上 治子 (2010), 名古屋文理大学新入生アンケート分析におけるペルソナ手法導入の試み,名古屋文理大学紀要,Vol.10,pp.97-107. 交通エコロジー・モビリティ財団,生活や活動についての新型コロナウイルス感染症による影響についてインタビュー調査結果,交通エコロジー・モビリティ財団バリアフリー推進部, 2020 年 12 月,http://www.ecomo.or.jp/barrierfree/report/report.html, 2020年7月19日アクセス. 厚生労働省 (2006), 平成 18 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満開の桜の木の下を、お小遣いを握りしめ嬉しそうに、晴眼のお友達と一緒に買物に行くロービジョンの子供を想いながら、本研究を進めてまいりました。  その光景が、未来へ続くように、本研究が、ささやかな一助になればと、切に願っております。 参考資料 参考資料1 3人のロービジョン者のペルソナ ※各ペルソナの写真は著作権フリーのインターネット上の画像である。 1.1 ペルソナのプロフィール (1人目) (写真) 氏名:桜太郎、 性別:男、 年齢:66、 職業:農業 性格:積極的で優しい。自分の事より周囲の人を優先して考える。周囲の人からの信頼も厚い。出身地:埼玉県川越市 現住所:埼玉県川越市 学歴:福島県立医科大学医学部 家族構成:父親(86歳 同居). 母親(85歳 同居) 趣味:英語.料理、スキー、日曜大工、 資格:医師免許 経歴:加齢黄斑変性症.矯正視力は、右 0.3・左 0.2.右眼中心暗点あり.白杖無し.地元の高校を出た後、医師を志し医学部へ進む。卒業後は、福島県で小児科医として、地位も名誉も欲しがらず患者さんと真摯に向き合う。その姿勢は、多くの患者さんと家族を医療面のみならず心理的な面でも救った。59 歳の時に加齢黄斑変性症を発症し、60 歳で退職する。その後、地元に戻り、両親の農業を手伝う。自分で育てた無農薬野菜や卵を料理し友人にふるまう。他の食材も無添加に大変こだわる。食材以外でも石鹸等身体に使用するものの添加物にもこだわる。そのため、近所の個人商店を頻繁に利用し、商品の素材の説明を聞く。経済的には余裕があるため価格はあまり気にしない。週に2,3回単独で買物に行き、両親の必要なものも買ってくる。また、日曜大工で家の修繕等もするので、あらゆる商品が揃う海外ブランドの大型店にも頻繁に行く。この大型店は、どの地域でも店舗内のレイアウトが同じなので利用しやすい。チャレンジ精神も旺盛で、セルフレジは画面が見えにくいが、お店に依頼しレジの使い方を練習させてもらい使用できるようになる。時間があれば、国内外問わず旅行に出かける。両親とも多少足腰は弱いが健康である。 (2人目) (写真) 氏名:東川ふみ、 性別:女、 年齢:47、 職業:専業主婦 性格:几帳面。引っ込み思案だが、穏やかで優しいので、友人に慕われている。近所づきあいも良い。出身地:福島県いわき市 現住所:福岡県福岡市 学歴:福島県立湯本高等学校 家族構成:夫(40歳 同居). 長男(13歳 同居) 趣味:音楽鑑賞、 陶芸、 資格:社会福祉士 経歴:先天緑内障.矯正視力は、右 0.02・左 10 cm手動弁.白杖使用. 地元の高校を出た後上京し、特別養護老人ホームに介護職員として勤務した。働きながら社会福祉士の免許を取得する。職場で知り合った現在の夫と結婚し、その後、夫の出身地である福岡県に移る。現在、長男が中学生となり、午後のみ市で主催している陶芸教室に週 2 日通っている。食べ盛りで陸上部に所属している長男の体調を考え、食材は無添加にこだわり、また、ボリュームのある肉料理等のメニューを工夫している。食品の鮮度や量がわかりにくく困ることもある。食品を手にのせて測る等の工夫をしている。時々、陶芸教室の後は、市販のお惣菜や冷凍食品を買うことも多い。洗濯洗剤は、長男のユニフォームの汗のにおいをとるため、気に入ったP社の洗剤に決めて特売の時に買い溜めをする。3 年前に分譲マンションを購入し、長男の学習塾の費用や学費保険にお金がかかるため、週に 5,6 回の買物は必ずネットチラシをチェックしてから単独で出かける。また、同じスーパーに行くので商品の配列で迷わない。ただし、大型店や初めて行く店舗は家族に同行してもらう。レジの画面と代金トレイが見えにくい。代金は、店員さんの声を頼りに支払う。 (3人目) (写真) 氏名:夏目あかね、 性別:女、 年齢:25、 職業:大学院生(博士後 期1年) 性格 負けず嫌い。おおらかで明るく常に多くの友人に囲まれている 出身地:宮城県仙台市、 現住所:東京都八王子市 学歴:東京都立大学大学院人文科学研究科在籍 趣味:絵画鑑賞、資格:臨床心理士 経歴:緑内障.矯正視力は、右 0.09・左 0.2.白杖無し. 地元の高校を出た後、臨床心理士を志し大学院に進学する。学費は奨学金とカフェでのアルバイトで工面している。親からの仕送りはない。生活費を節約するため、疲れていてもなるべく自炊するか、閉店間際の値引き品を購入することも多い。賞味期限は気にしない。食材の添加物にもこだわらず、価格の安いものを選ぶ。朝は慌しいのでシリアルが多く、常備品である。週に 3,4 回の単独での買物で買い溜めする。ただし、シャンプーや化粧品等にはこだわり、価格よりもその製品の香り等の好みで選ぶ。こまめにネットチラシをチェックし特売があるとすぐドラックストアに買いに行く。ファンデーション等のカラーがわかりにくい時は店員さんに一緒に見てもらう。化粧品売り場にルーペ等が置いてあると良いと思う。それ以外は、ほとんど店員さんに尋ねない。研究とアルバイトに追われる日々で毎日寝不足ではあるが、充実している。アルバイトで疲れた時は、コンビニを利用することが多い。コンビニは狭いから、ほしい商品が探しやすいし、店員さんも見つけやすいからである。商品は、なるべく手にのせて見ないようにしている。ほしい洋服や靴のサイズが見えにくい。 1.2 ペルソナ3名と買物行動とバリアの対応表 (表) 参考資料2 アンケート調査の依頼書・質問票 2.1 アンケート調査へのご協力のお願い 1.挨拶文 2020年3月2日 ロービジョン者の買物環境に関するアンケート調査へのご協力のお願い  国立大学法人筑波技術大学では、皆様が日頃のお買物で感じているご不便や困り事をお伺いして、ロービジョン者のための買物環境の改善に活かせるように店内の情報提示のガイドラインの作成を計画しております。  つきましては、以下の詳細をお読みいただき、研究の趣旨や内容をご確認のうえ、アンケートにご賛同いただける方は、研究協力者として添付のアンケート調査にご協力いただければ幸いです。なお、アンケートの結果がまとまりましたら学会等で発表する以外に、研究協力者をはじめ皆様及び全国のロービジョンの方々にも NPO 法人タートルを通して広く公表していただけるよう考えております。 研究実施責任者 加藤 宏(かとう ひろし) 国立大学法人 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 教授 2.説明文書 【研究題目】 ロービジョン者の買物環境に関する潜在的ニーズ調査とガイドラインの提言 【研究の目的】 本研究では、ロービジョン者の買物環境に関する潜在的ニーズを探り、利用しやすい店舗のガイドラインを提言することを目的とします。 【研究の内容・方法】 本研究では、ロービジョン者が日頃感じている買物環境に関する課題を軽減するためにロービジョン者の利用しやすい店舗づくりのガイドラインを提言するため、皆様が日頃から買物に感じておられるご不便や困難さについてアンケート調査と聴き取り調査を実施します。 アンケート調査の所要時間は約 30 分です。アンケートの内容について、より詳しい内容をご説明いただくために後日聴き取り調査へのご協力をお願いする場合がありますが、その場合は別途ご連絡いたします。 【回答期限】 令和2年 3 月 19 日(木)までに、アンケート調査票をご記入の上、NPO 法人タートルの連絡用メール(連絡先記載)まで返信くださいますよう、お願いいたします。 聴き取り調査につきましては別途、日時と場所をご連絡いたします。 【プライバシーの保護】 本研究で取得するデータは、無記名式のアンケートです。アンケートの配布と回収票のエクセルシートへのデータ入力作業は外注(NPO 法人タートル)といたします。本研究で得られた紙媒体データについては、研究実施責任者の施錠可能な引出しで保管します。電子媒体データについては、自動暗号化・パスワード保護し、ハードディスクに保存した上で、研究実施責任者及び研究実施分担者の施錠可能な書架で保管します。本研究に関連のない第三者がデータを見ることはありません。データの利用に関しては、研究実施責任者と研究実施分担者が学術雑誌や学術講演会等で発表しますが、個人が特定されうるデータは一切公表しない等、皆様のプライバシーに最大限配慮した取扱いをします。また、本研究の目的以外では利用しません。 【身体面、精神面等への配慮】 本研究では、研究実施責任者らが作成した調査票を使用します。この調査票は、ロービジョン者の買物環境に関する潜在的ニーズを探るものであり、研究協力者に身体面・精神面等で過度な負担を与えるものではありませんが、研究協力者が疲労や体調不良を訴えた場合は直ちに調査を中止します。 【不利益及び危険性に対する配慮】 本研究は、筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て、本研究に参加される皆様に不利益がないよう万全の注意を払って行われています。本研究に関して研究協力者から質問があった場合、その質問の内容や時期(本研究の実施前・実施中・実施後)にかかわらず、これに誠実に対処します。研究の内容に関してご意見ご質問等ございましたら、お気軽に研究実施責任者または研究実施分担者にお尋ねください。 【同意しない自由の保障等】 本研究の研究協力者になるか否かは任意であり、あなたの自由な意志が尊重されます。研究協力者となることに同意しない場合でも不利益をうけることは全くなく、また、いったん同意した場合であっても一切の不利益をうけることなくいつでも同意を撤回することができます。なお、研究にご協力いただいた方にはアンケート実施の外注団体を介して粗品(クオカード 1000 円)を謹呈させていただきます。また、研究の内容に関してご意見ご質問等がございましたら、お気楽に研究実施責任者または研究実施分担者にお尋ねください。 【お問合せ先】 研究実施責任者 所属 国立大学法人 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 職名 教授 氏名 加藤 宏(かとう ひろし) 住所 〒305-8521 茨城県つくば市春日4-12-7 TEL 029-858-9526 FAX 029-858-9529 E-mail katoh@k.tsukuba-tech.ac.jp 研究実施分担者 所属 国立大学法人 筑波技術大学大学院 技術科学研究科 情報アクセシビリティ専攻 氏名 谷川 ふみえ(たにかわ ふみえ) 住所 〒305-8521 茨城県つくば市春日 4-12-7 TEL 029-858-9506,9513 FAX 029-858-9517 E-mail k193305@k.tsukuba-tech.ac.jp 3.同意書 私は、研究課題名「ロービジョン者の買物環境に関する潜在的ニーズ調査とガイドラインの提言」に関し、研究の目的、研究の内容・方法、プライバシーの保護、身体面・精神面等への配慮、不利益及び危険性に対する配慮、同意しない自由の保障等について説明文書に基づき説明を受け、その内容を十分に理解し納得しましたので、私の自由意志により本研究の研究協力者となることに同意します。上記を読み、選択した記号の前に@をおつけください。 A:同意します B:同意しません ※アンケートご回答の送付先アドレスは、以下になります。 (連絡先記載) ・アンケートの返信は、令和 2 年 3 月 19 日木曜までにお願いいたします。 4.アンケートにご協力いただく前に ※アンケートにおいて答えたくない項目(理由を含む)は、お答えいただかなくとも結構です。 ※このアンケートの回答をもって、本研究へのご協力の同意とさせていただきます。なお、本研究協力に同意いただいた後も、いつでも同意を撤回することができます。 ※問 14 と問 16 は必須回答になります。 ・アンケート項目は合計 16 問(回答 40 か所)です。 ・回答する所要時間は約 30 分です。 2.2 アンケート調査紙 5.ロービジョン者の買物環境に関するアンケート Q0 あなたご自身の住所、氏名、アドレスをお聞きします。(全3問) この問での回答は、謝品の送付と報告書の案内のみに用います。その情報は NPO 法人タートルが保管します。調査依頼者である筑波技術大学には送られません。この情報は、調査期間が終了した時点(令和 3 年 3 月末日)で破棄します。 Q0-1. 郵便番号と住所をお書き下さい。住所は、謝品の送付にのみに用います。謝品が不要な方は、住所をお書きにならなくて結構です。(記述部分あり) 郵便番号: 住所: Q0-2. お名前(ご氏名)をお書き下さい。お名前の情報は、謝品の送付時と、回答について問い合わせるときに用います。(記述部分あり) 氏名: Q0-3. メールアドレスをお書き下さい。アドレスは、回答について問い合わせをする場合と、報告書の案内を送る場合等に使います。(記述部分あり) メール: QO-4. 聴き取り調査について、以下の選択した記号の前に@をおつけください。 A:可能 B:不可能 ※アンケートのすべての問いに対する選択肢は、一つのみの選択になります。 ※選択した答えの記号の前に@をおつけください。 【あなたのプロフィールについて】 問1 年代を教えてください。 A:10 歳代 B:20 歳代 C:30 歳代 D:40 歳代 E:50 歳代 F:60 歳代 G:70 歳代以上 問2 性別を教えてください。 A:男性 B:女性 問3 現在の矯正視力と見え方について、具体的にお書きください。 (例:右目:0.01、・全体的にぼやけている) 右眼: 左眼: 【日常的に利用する店舗について】 問4 どのくらいの頻度で買物に行きますか。 A:ほぼ毎日 B:週 2~3 回 C:月 2~3 回 D:その他 具体的に: 問 5 買物をする際に同行してくれる人はいますか。 A:常にいる B:時々いる C:いない 問6 買物をする際に利用する店舗について教えてください。 1)最もよく利用する店舗のタイプ A:大型店 B:スーパーマーケット C:コンビニエンスストア D:個人商店  E:その他 具体的に: 2)上記の店舗を利用する理由 A:自宅から近い B:店員さんがサポートしてくれる C:商品の値段と品名の文字が見えやすい D:商品を探しやすい E:その他 具体的に: 問7 買物に行く前にネットチラシや折り込み広告等をチェックしますか。 また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。 A:よくチェックする B:たまにチェックする C:ほとんどチェックしない D:まったくチェックしない 理由: 問8 ネットショッピングについて教えてください。 1)ネットショッピングの利用頻度 A:よく利用する B:たまに利用する C:ほとんど利用しない D:まったく利用しない 2)ネットショッピングを利用する理由 A:値段が安いから B:品ぞろえが豊富だから C:配達してくれるから D:値段と品名がわかるから E:履歴で注文できるから F:その他 具体的に: 【店舗内でのショッピングについて】 問9 買物をする際に見えにくくて困ることはありますか。 1)店舗の出入り口や段差 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 2)店内案内図の設置場所と表示 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 3)サービスカウンターやトイレ等の設置場所 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 4)買物かごやカートの置き場所 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 5)商品の陳列棚や配置 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 6)食料品(野菜、肉、魚等)の鮮度や状態 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 7)同じ種類の食料品の見分け(牛肉と豚肉、フルーツ、スパイス等) A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 8)ばら売りの食料品(コロッケ等)のパック・袋詰め A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 9)対面式の売り場での購入 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 10)ショーケース内の冷凍食品等 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 11)陳列棚のプライスカードや商品に貼られている値段と品名 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 12)商品の賞味期限や成分表等 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 13)値引き品やおすすめ品の表示 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 【商品の精算について】 問10 レジ精算について教えてください。 1)無人(セルフ)レジは利用しますか。また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。 A:よく利用する B:たまに利用する C:ほとんど利用しない D:まったく利用しない 理由: 2)無人(セルフ)レジの設置場所が見えにくくて困ることはありますか。 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 3)無人(セルフ)レジの画面の操作が見えにくくて困ることはありますか。 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 4)無人(セルフ)レジで商品のバーコードの位置とスキャン方法が見えにくくて困ることはありますか。 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 5)無人(セルフ)レジでカードや現金の投入場所が見えにくくて困ることはありますか。 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 6)有人レジで画面の精算額の表示が見えにくくて困ることはありますか。 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 7)有人レジで 代金トレイの設置場所が見えにくくて困ることはありますか。 A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 8)その他レジ精算で見えにくくて困ることはありますか。 (例:画面も見えにくく、店員さんの声も聞きとりにくいと合計金額がわからない) 具体的に: 【店舗内での支援や機器使用について】
問 11 目的の商品が見つけにくい、表示が見えにくい等で困った時の状況を教えてください。また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。 1)店員さんを探す A:とても困る B:やや困る C:あまり困らない D:まったく困らない 理由: 2)店員さんに尋ねる A:よく尋ねる B:たまに尋ねる C:ほとんど尋ねない D:まったく尋ねない 理由: 3)店員さんから、あなたへの声がけ A:よくある B:たまにある C:ほとんどない D:まったくない 4)単眼鏡やルーペ等の支援機器を使用する。使用する方は機器名もお書きください。 A:よく使用する B:たまに使用する C:ほとんど使用しない D:まったく使用しない
機器名( ) (理由の例:人の目が気になるから) 理由: 【店舗の施設設備等について】
問12 店舗内の照明の明暗が気になりますか。 また、選択した理由がある場合は具体的にお書きください。 A:とても気になる
B:やや気になる
C:あまり気にならない D:まったく気にならない 理由: 問13 店舗に付属した駐車場・駐輪場等で危険な目にあったことはありますか。 また、ある場合はその時の状況を具体的にお書きください。 A:よくある B:たまにある C:ほとんどない D:まったくない 状況: 【店舗への要望と提案等について】
問 14 上記以外に買物をする際に日ごろ感じている不便なことや不安があれば教えてください。以下に具体的にお書きください。(※この質問には必ずお答えください) 不便・不安等: 問15 買物をする際に工夫していることがあれば教えてください。 以下に具体的にお書きください。 (例:視覚に障害があることを理解してもらうため白杖を使用) 工夫: 問 16 視覚に障害のある人が利用しやすい店舗づくりのための要望や提案等があれば教え てください。以下に具体的にお書きください。(※この質問には必ずお答えください) 要望・提案等: ◆以上です。ご協力いただき、誠にありがとうございました◆ 参考資料3 インタビューガイド(質問計画書)と依頼書 3.1 インタビューガイド(質問計画書) インタビューにおける基本となる具体的説明と質問を以下に示す。 【導入】
・本日は、このようなお時間をいただきまして、ありがとうございます。 ・このインタビューは、以前書面でもお示しした通り、ロービジョン者の買物環境に関する実態と潜在的ニーズを探るため、アンケート調査をふまえたインタビュー調査を実施し、利用しやすい買物環境を構築することを目的とします。 ・本インタビューの内容については、実施責任者と実施分担者が厳重に管理し、保管します。また、実施責任者と実施分担者が学術雑誌や学術講演会等で発表しますが、個人が特定さ れうるデータは一切公表しない等、協力者のプライバシーに最大限配慮した取扱いをします。 ・それではインタビューを始めていきますが、途中で不都合なこと、気分が悪い等がありましたら、すぐに申し出てください。インタビューを中止させていただきます。 ・なお、インタビュー内容を確実に記録するため、このインタビューは録音させていただきます。 【プロフィール確認】
Q:本人の氏名の確認 Q:現在の視覚障害の状態(視力、視野、色覚) →視野の状態・羞明や夜盲・見えにくい時間帯や天候、季節等 →アンケート回答に専門用語(例:視野狭窄 35 度等)で記述 →自分の障害を理解する姿勢 Q:受障時期(あるいは自分で見えにくいと感じはじめた時期) →買物環境の記憶が残っていることで行動に違いがあるのか? Q:身体障害者手帳(視覚)所持の有無 →白杖の使用状況、同行援護の利用状況(場所と場面)等 【日常的に利用している店舗について】
「入店前の情報」 Q:ネットチラシ及び新聞の折り込み広告はチェックしているか? →理由は見えにくいから見ないのか、新聞をとっていないため等 Q:その他からの情報入手はあるのか? 「最もよく利用する店舗」 Q:その店舗を選んだ理由について、深く尋ねる →何年くらい利用していますか?等 (例:以前利用していた店舗はなぜやめましたか?) →(例:自宅から近い →店舗までの道のりが安全だから?) Q:そのお店の店員さんとは、よく話しますか? あるいは、顔見知りですか?等 「店舗内でのショッピングについて」 Q:→問9 各自の回答により質問を用意する (例 1:対面式、まったく困らない→利用しない→なぜか?)
(例 2:13 項目で 1 番気になる・気にならない項目ありますか?) (例 3:手に取って見る商品はありますか?) 【商品の清算について】 Q:セルフレジは李湯しますか? ・利用しない人→どのようなセルフレジなら利用しやすいか? (例:画面の表示を部分的に音声読み上げ) ・利用する人→利用しやすい点は? Q:有人レジ
→問 10(8)も含め、各自の回答により質問を用意する ・どのような場面で何に困るのか? 【店舗内での店員さんからの支援と支援機器の使用について】 Q:店員さんに尋ねたい時、1 番困ることは何ですか? A.店員さんとお客さんの区別が見えにくく判別できない B.店員さんを見つけても忙しそうで尋ねられない C.その他 Q:店員さんが見つからない時はどうしていますか? A.購入しないで帰宅
B.勘で購入
C.他のお客さんに尋ねる D.その他 Q:支援機器は持っていますか? →持っているなら具体的に Q:支援機器は使用していますか? →使用しない理由を具体的に (例:人の目が気になる、カバンから出すのが面倒) →人の目が気になることは他の場所(例:駅)でもありますか? Q:どのような支援機器なら使用してもいいですか? →(例:陳列棚に取り付けられている拡大鏡) 【店舗の施設設備について】
Q:問 12、13→各自の回答により質問を用意する 【店舗への要望や提案等について】
Q:問 14、15、16→各自の回答により質問を用意する (補足項目:文字の形・通路の広さ・店舗内の BGM・試食・チェーン店の陳列・床と壁、段差のコントラスト・レシートの確認等) ・不便や不安・工夫・要望や提案等を詳細にインタビューする 【最後に】 1.今回は、メールによる調査とテレビ会議によるインタビューでしたが、このような方法での調査について、視覚に障害のある立場からどのようなご感想をお持ちですか。 2.今回の調査について、以上の項目以外でも気になる点やお気づきの点等ありましたら。 なんでも、どうぞ。 3.今回の調査に限らず、視覚障害者の買物や日常生活での困りごと等について、日ごろ 考えていることがありましたら、なんでも結構ですので、お聞かせください。 【謝辞】 ・質問は以上になります。  貴重なお時間をいただき、長時間ご協力くださり誠にありがとうございました。 3.2 インタビュー候補者へのお願いメール 件名:『ロービジョン者の買物環境に関する潜在的ニーズ調査』インタビュー調査へのご協力のお願い 本文 タートル会員の皆様 筑波技術大学 加藤 宏、谷川 ふみえ です。 先日は、私どものアンケート調査にご協力をいただきまして、 誠にありがとうございました。 アンケート調査につきましては、タートル様から 別メールで報告(速報版)を送付させていただきました。 アンケート調査結果の分析をふまえ、困難な場面の 実態とニーズ等をより具体的に明らかにするため、 インタビュー調査を実施したいと考えております。 アンケート調査にご協力いただいた方々の中から、 当方で貴殿を選ばせていただきました。 つきましては、インタビュー調査にご協力いただきたく、 何卒お願い申し上げます。 ご賛同いただける方は、別添(Word・テキスト版)の 「説明文書」をお読みいただき、「同意書」と「インタビュー時の ご希望(日時等)」に必要事項をご記入の上、7 月 26 日(日)まで 研究実施分担者 谷川 ふみえ E-mail k193305@k.tsukuba-tech.ac.jp にご返信いただければ幸いです。 ご賛同いただける方には、実施日時・方法(対面式、LINE 通話 ・Zoom・その他)等のご希望にそえますように、改めて ご連絡させていただきます。 インタビューの所要時間は約 60 分を予定しております。 内容は、アンケート調査回答結果をもとに「買物をする際 どのような場面で困難に直面し、その際の心境・行動」等を 具体的にお尋ねいたします。 なお、ご協力いただけた皆様には、些少ではございますが、 粗品(交通費込み、クオカード 5,000 円)を謹呈させて いただきます。 皆様のお名前や利用されている店舗名等は、アルファベット等で 表す等して、匿名性を保持します。 研究論文や学会発表の際には、個人情報に十分配慮いたします。 以上の趣旨をご理解の上、ご協力のほど、何卒よろしく お願いいたします。 国立大学法人 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 研究実施責任者 教授 加藤 宏 研究実施分担者 大学院修士2年 谷川 ふみえ 3.3 説明文書・同意書・インタビュー時のご希望 1.説明文書 【研究題目】 ロービジョン者の買物環境に関する潜在的ニーズ調査 【研究の目的】 本研究では、ロービジョン者の買物環境に関する実態と潜在的ニーズを探るため、アンケート調査をふまえたインタビュー調査を実施し、利用しやすい買物環境を構築することを目的とします。 【研究の内容・方法】 本研究では、ロービジョン者が日頃感じている買物環境に関する課題を軽減し、利用しやすい買物環境を構築するため、皆様が日頃から買物に感じておられるご不便や困難さについてインタビュー調査を実施します。インタビュー調査は、アンケートの内容をうけ、より詳しい内容をご説明いただくためです。所要時間は約 60 分です。 【プライバシーの保護】 インタビュー調査でお聞きした情報については、研究実施責任者の施錠可能な引出しで保管します。電子媒体データについては、自動暗号化・パスワード保護し、ハードディスクに保存した上で、研究実施責任者及び研究実施分担者の施錠可能な書架で保管します。本研究に関連のない第三者がデータを見ることはありません。アンケート及びインタビュー調査で得られた情報・データの利用に関しては、研究実施責任者と研究実施分担者が学術雑誌や学術講演会等で発表しますが、個人が特定されうるデータは一切公表しない等、皆様のプライバシーに最大限配慮した取扱いをします。また、本研究の目的以外では利用いたしません。 【身体面、精神面等への配慮】 本研究では、研究実施責任者らが作成したインタビュー調査票を元にインタビューを行います。お聞きする内容は、ロービジョン者の買物環境に関する潜在的ニーズを探るものであり、研究協力者に身体面・精神面等で過度な負担を与えるものではありませんが、研究協力者が疲労や体調不良を訴えた場合は直ちにインタビュー調査を中止いたします。 【不利益及び危険性に対する配慮】 本研究は、筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て、本研究に参加される皆様に不利益がないよう万全の注意を払って行われています。本研究に関して研究協力者から質問があった場合、その質問の内容や時期(本研究の実施前・実施中・実施後)にかかわらず、これに誠実に対処します。 研究の内容に関してご意見ご質問等ございましたら、お気軽に研究実施責任者または研究実施分担者にお尋ねください。 【同意しない自由の保障等】 本研究の研究協力者になるか否かは任意であり、あなたの自由な意志が尊重されます。研究協力者となることに同意しない場合でも不利益をうけることは全くなく、また、いったん同意した場合であっても一切の不利益をうけることなくいつでも同意を撤回することができます。 2.同意書 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 教授 加藤 宏
大学院修士2年 谷川 ふみえ 私は、研究課題名「ロービジョン者の買物環境に関する潜在的ニーズ調査」に関し、研究の目的、研究の内容・方法、プライバシーの保護、身体面、精神面等への配慮、不利益及び危険性に対する配慮、同意しない自由の保障等について説明文書に基づき十分な説明を受け、その内容を十分に理解し納得しましたので、私の自由意志により本研究の研究対象者となることに同意します。 ただし、この同意は一切の不利益をうけることなくいつでも撤回できるものであることを確認します。 令和2年 月 日 研究協力者署名 3.インタビュー時のご希望 ・お名前(フルネーム) (1)希望日時について
7 月 27 日(月)から 8 月 31 日(月)までの間で (土、日も含む)、ご希望の曜日と時間帯をご記入ください。1 時間程度です。 ・希望の曜日と時間帯
第一希望: 曜日 時から 時までの間
第二希望: 曜日 時から 時までの間 もし、具体的な日時をご希望される方はご記入ください。 ・希望の日時 : 月 日(  ) 時から 時までの間 (2)希望方法(アルファベットの前に@印) A:対面式 B:LINE(ライン)通話
C:Zoom(ズーム) D:その他(ご希望の方法を具体的にご記入ください) (3)(2)で対面式をお選びになった方は、ご希望の場所があれば具体的にご記入ください。なお、場所として、喫茶店等以外に、貸会議室等も検討中です。ご希望をお聞かせください。当日は、体温の検温、マスクの着用をお願いすることと同時に、面談距離の間隔空け等配慮いたします。 ・場所(例:JR/メトロ四谷駅交差点近くのドトール) ・最寄り駅(例:JR/メトロ四谷駅) ★ご希望にそえますように、改めてご連絡させていただきます。つきましてはご連絡先を、ご記入ください。
・メールアドレス(必須) ・電話番号(任意) 皆様のご要望にできるだけお答えしたく、日程調整のため お手数ですが、7 月 26 日(日)までに返信くださいますよう、 何卒よろしくお願いいたします。 なお、ご不明な点がございましたら、以下までお問い合わせください。 【お問合せ先】
国立大学法人 筑波技術大学大学院 情報アクセシビリティ専攻 氏名 谷川 ふみえ(たにかわ ふみえ)
住所 〒305-8521 茨城県つくば市春日 4-12-7
TEL (連絡先記載)
E-mail k193305@k.tsukuba-tech.ac.jp 参考資料4 インタビュー調査結果個別概要 (表) ID: 2: 実施日時 8月29日 14:59~15:56 概要 コンビニは狭いから商品を探しやすいし、レジの店員さんも探しやすい。シャンプー等はS店で購入する。商品に目を近づけて見る。ほとんど単独だが、洋服を購入する時に値札と、似合っているか家族に見てもらう。店員さんに見えにくい時は聞くが、店員さんが少ないので、食料品等は値札を見ないで、勘で買うこともある。お客さんに聞く時もある。陳列を覚えているので変わると困る。ばら売り・対面式はわからないので、ほとんど家族が購入する。パッケージの形状でわかりやすい商品がある。要望は、陳列棚にルーペを付けてほしい、床に大きな文字で商品名を書いてほしい。 ID: 10: 実施日時 9月10日 14:00~14:59 概要 2017 年くらいから活字が読めなくなって、視野もかけた。自宅に近いのでM店とO店を利用している。白杖は使わない。スーパーは個人商店より店員さんがずっと見てないので気が楽だ。ネットチラシは動きも重く拡大も上手くいかないが、折り込み広告は太い文字で画像も見やすい。M店は店員さんが食材等丁寧に教えてくれる。初めて行く店舗の入り口の自動ドアが左右どちらに開くのかわかりづらい。ショーケースの中身が見えないので、店員さんに聞く時とあきらめる時がある。陳列は覚えているが特売品は違う所にあるので困る。要望は、新鮮な野菜を店員さんが教えてほしい。 ID: 16: 実施日時 8月17日 18:00~17: 11 概要 対面式売り場は、何が置いてあるのかわからないし、お客さんで混んでいると聞けない。食料品は、衛生的にも手に取って顔を近づけにくい。食料品なら高くないので、店員さんには聞かないで買う。置いてある値札が、手前にあると良い。洋服は高いかもしれないので、値段を店員さんに聞く。昔は、値札が大きく見やすかったような気がする。今より、見えていた頃の記憶で、見慣れているパッケージで商品がわかる。万引きや盗撮と誤解されたくないので携帯電話の拡大はほとんど使用しない。有人レジで、カード払いの時見えにくいので店員さんにタッチしてもらう。   ID: 18: 実施日時 9月5日 12:59~14:45 概要 24 時間営業の A 店は自宅に近いし、陳列も覚えているし、24 時間あいているから利用している。カートも自宅まで借りるので、ビールとか食料品の買い出しの時助かる。自分は白杖を持たないが、妻は白杖を持っているので、一緒に買物に行くと周囲の人が気を遣ってくれる。店舗で成分表を見るのは難しいが、ネットで成分は拡大して見るから、理解してから買えるのが良い。有人レジの金額表示が見えにくく、店員さんの声が聞こえない時は何度か聞き返す。その店はプライベートブランドなので、スパイス等は 1 種類だけで、ドレッシングも色分けしてあり、視覚障害者にもわかりやすい。 ID: 33: 実施日時 7月28日 13:00~13:55 概要 アンケートでは同行者は「常にいる」と回答していたが、居住地内で同じ店舗には 20 年くらい前から単独で行っている。駐車場に警備員さんがいて、店員さんとも顔見知りで、店員さんからの声がけもありサポートしてもらえるので安心して利用できる。携帯にほしい商品名を入力して店員さんに見せる。新しい店舗が近くにできたが、エレベーターやエスカレーターが不安なので行った時はない。レジ精算は、後ろのお客さんに気を遣うので小銭選別しておく。対面式売り場は店員さんが説明してくれるので利用しやすい。 ID: 34: 実施日時 8月31日 11:00~12:18 概要 商品に近寄れば、どうにか文字は見える。洋服等を購入する時は母に同行してもらう。対面式売り場で商品が見えにくい時は店員さんに聞く。同種類の商品の陳列が判別しにくい時は棚から少し離れて見るが、見つからない時は店員さんに聞く。お客さんには聞かない。商品の下に値札が重なりながら並んでいて見えにくい時は、店員さんに聞く。G石鹸等コントラストの高いパッケージが、文字で見るより判別しやすい。U商品の値札は文字が大きく見やすい。化粧品はネットショッピングを利用し、画面拡大で成分等を確認して購入している。 ID: 36: 実施日時 8月25日 15:12~16:40 概要 自宅に近い S 店や個人商店を利用している。単独で行くことが多いが、Nは親切な人が多い街なので店舗内で戸惑っているとお客さんから声がけしてくれる。どの店舗も出入口が見えにくくわかりづらい。出入り口にわかりやすい目印があると良い。赤色の字が見えにくいので値引き品が見えにくい。成分表を見たいのに見えにくい。「Y 醤油」のように大きな文字でコントラストが高い商品が見えやすい。見えにくい時は必ず店員さんかお客さんに聞く。有人レジでお釣りをもらう時、時間がかかると後ろのお客さんに気を遣う。白い通路はわかりにくいので黒い線をひいてほしい。 ID: 42: 実施日時 8月1日 13:00~14:00 概要 二十歳までは普通に見えていた。ネットで新しくほしい商品を探し、店舗で実際に確認して購入する。新しく行く店舗は、事前にネットのストリートビューで確認しておく。食品は、ほとんど晴眼者の妻が購入する。本の内容は文字が小さく読めないが、視認しやすい表紙で選び、家の拡大読書器で読む。通勤の際にはコンビニで決まった昼食の弁当を購入する。品名は見えにくいのでパッケージでも想像する。店員さんには聞かない、手にもって顔に近づけて見るのも人目が気になる。人が最善のサポートだと思う。 ID: 58: 実施日時 9月7日 13:06~14:45 概要 3 月アンケート回答後、手術により 0.7 に回復する。平成 10 年頃、視野狭窄 5 度・3 度とわかるが視力はあったので日常生活にはあまり支障がなかった。水やお茶は、タブレットの画面を拡大し、成分等を確認してネットで購入している。ネットショッピングは、配達もしてくれるし、そこでしか手に入らない商品があるので、よく利用している。商品の配置は、大体覚えれば、購入する商品は決まっているので、あまり困らない。無人レジは、初めに店員さんに操作方法を教えてもらい、覚えて利用する。有人レジは、表示画面は小さいが見える。手術前はLEDの照明がまぶしくて困った。 ID: 64: 実施日時 8月23日 13:00~14:05 概要 洋服等を購入するときだけ家族がいるが、ほとんどない。購入したい商品をネット検索し画像を店員さんに見せる。2,3 か所のコンビニ利用し、 ATM もひとりで利用する。レジの音で店員さんがいるとわかる。店員さんからの声がけもある。ネットはたまに利用する。ネットは自分で選ぶ楽しさがあり、店員さんの手を煩わせることがない。ネットは品ぞろえが豊富で価格も比較できるし、配達もしてくれる。購入前の商品は自分のものではないので気を遣う。有人レジの合計金額は聞こえなかったら聞き直す。清算は定期も利用しているので、スイカカードにしている。 ID: 67: 実施日時 7月27日 15:33~17:08 概要 10 年くらい前から見えにくくなった。常に同行者がいるが、本当は、ひとりで買物したい。以前は買物が好きだった。しかし、視覚からはいる情報が多い。利用している大型店は消費者に丁寧に対応してくれる。店内放送で、商品の情報を流す。対面式売り場は、店員さんが商品の説明をしてくれたりするので利用しやすい。文字、色わからない。触覚、嗅覚をたよる時もある。白杖は使うのが、怖い。電子ルーペは大きいので、店舗でも目立つと嫌なので、ほとんど使用しない。今回のリモートインタビューは、移動が困難な視覚障害者にとって利用しやすい。 ID: 71: 実施日時 8月21日 13:58~15:30 概要 裸眼 0.02 で生活、5,6 年前から緑内障で見えにくくなる。同僚に迷惑をかけるからと仕事を辞める。周辺視野があるので白杖は買物時には使用しない、同行者いない。レジ精算や支援機器の使用時に人目が気になる。洋服は値段等店員さんに聞く。賞味期限は見えず気になるが店員さんに聞かず、買う。赤色の文字が見えないので、値引き品がわからない。対面式の売り場は何が置いてあるのか見えないので、あまり利用しない。ばら売りは醤油とソースが判別つかない、トングではさんで落とすと嫌なので、買わない。身体障害者手帳5級所持しているが、銀行等で代筆は頼めず困る。 ID: 77: 実施日時 9月1日 13:04~14:05 概要 ネットショップで、薬の副作用等の確認できるので、たまに利用する。ほとんどひとりで買物に行くが、たまに同行援護の人に聞く。顔を近づければ、どうにか文字が見えるので、店員さんにはほとんど聞かない。7,8 か月前に引越ししてきたばかりだ。M店はあまり広くない店舗で、商品もレジも探しやすい。店員さんのエプロンでわかるが、少し遠くからもわかる色のユニフォームを着てほしい。対面式売り場はケースの中の商品がわからないので店員さんに聞く、購入するため並ぶ時最後尾がわかりにくい。 ID: 80: 実施日時 8月9日 15:05~16:39 概要 買物は、行きつけのコンビニ以外は、ガイドヘルパーさん、あるいは母と行く。値段の表示等は、店舗内では同行者や店員さんに見てもらうが、家で賞味期限等を拡大読書器で見る。柱や電気の位置で、商品の陳列を覚えている。店員さんの声や、品出ししている人は店員さんだとなんとなくわかる。常連なので、聞きやすい。店員さんに買う前に、聞く目的でレジに行くこともある。混んでいると、聞けないので、勘で買うかあきらめる。やはり、情報は視覚から入ることが多いので、自分でその場で特売品等がわからないことが残念だ。 ID: 82: 実施日時 8月4日 20:30~21:54 概要 盲導犬と単独で買物に行く。幼いころより、「自分の事は自分で」という母の育て方もあり、積極的に店員さん、あるいはお客さんに声をかける。生協のネットショップを利用している、自分の空いている時間にできるのはいい。しかし、急に画面の入力方法が変わっていた時は、とても困った。店員さんを探すときは、コンビニでは、レジの音や、「いらっしゃいませ」の声でわかる。店員さんには、洋服を購入する場合は具体的に質問する。例えば、ピンク色の服でも、濃いピンクか桜色のような薄いものか等と伝える。エレベーター等に行きたい時も、入り口からそこにたどり着くまで大変だ。