学内・学外支援のための音声認識技術を最適に活用するための情報保障システム構築と事例収集およびノウハウの発信・提供 三好茂樹1),白澤麻弓1),磯田恭子1),加藤伸子2),河野純大2) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター1),産業技術学部2) キーワード:音声認識,マイクロホン,補聴援助システム,会話支援,情報保障,通信 成果の概要 本プロジェクトにおける本実験の実施のためのポイントを探るため,音声認識アプリや各種のマイク機材を組み合わせ,下記のような評価項目を用意し,数人でその動作や会話の形態による音声認識結果の影響などを試行的に確認した。評価項目は下記のとおりである。 会話の不自然性(会話の妨げとなる様々な要因)として,「誤字脱字の出現頻度」,「出現する誤字脱字を補い易さ」,「自然なしゃべり方への対応」,「話者交代の厳密性」,「字幕の遅延」,「発話文の気付き易さ・見易さ」,「発話文と発話者との対応付け」,「自分の発話や他の人の発話内容の視認性(発話者)」。また,コミュニケーション時の操作性として,「アプリの操作性」,「マイク機器類の操作性」。 集約型と分散型のメリット・デメリット,複数マイクを使う場合,同時発話音声の分離に必要なマイク間距離(重複発話時の認識精度の維持の程度)も取り上げた。 まずは,このような評価項目と,数人でその動作や会話の形態による音声認識結果の影響などを試行的に確認したところ,次のような傾向を推察できた。 音声認識アプリの単独利用の際には,内臓マイク或いは外部マイク接続時に,これらの物理的な受け渡しが発生し,話者交代を厳格に行えるようになり誤字脱字の発生頻度が低くなる。しかし,特別な機器の受け渡しがない聴者同士が行うような会話を想定した場合,集音機能の高い(指向性の無い)マイクを接続し共有することとなるが,話者交代の意識が低下して認識制度も落ちる。一方,会話に参加する複数人にそれぞれタブレットを配布し,内臓マイクや外部マイク(指向性のあるマイク)を接続しての利用を考えると,ある程度人との間隔を保持しないと互いの音声の回り込みによって認識制度は期待したほど高くならない。指向性の高いマイクの個別接続によって比較的聴者同士の会話に近い会話環境を構成できるかも知れないが,それでも話者交代や必ず出現してしまう誤字脱字の修正等の配慮が必要になってくるであろう。 このような経験的なノウハウも含めて,本学の就職委員会発行の企業向け「聴覚障害学生雇用ガイド」に補足的に音声認識に関する文章を追加することができた。また,就職委員会等に対して卒業生や卒業生が所属する企業から相談対応を求められることもある。その場合,要望に応じて技術的な相談に応じつつ,今回のプロジェクトによって入手できたマイクシステム(補聴援助システム含む)を貸し出す予定である。 今後,このような試行による結果を整理し,本実験での評価項目や機器組み合わせに反映させたい。今年度は新型コロナウイルス感染の影響が広がり,複数人が集まる環境下を構成することが躊躇される状況に後半なってしまったが,そのような影響が薄まった際には本プロジェクトの活動を再開したい。 関連する研究成果: ・吉田幹矢,河野純大,磯田恭子,白澤麻弓,三好茂樹 :遠隔情報保障システム利用時における聴覚障がい学生の表出手法に関するシステムの開発と評価,情報処理学会,研究報告アクセシビリティ(AAC),AAC-12,pp.1-6 (2020). ・吉田幹矢,河野純大,白澤麻弓,三好茂樹 :テイク利用時における聴覚障がい学生からの表出方法に関するアンケート調査,日本特殊教育学会第 57回大会,P14-22 (2019).