運動負荷による自律神経活動に対する灸刺激の影響 櫻庭 陽 筑波技術大学 保健科学部附属東西医学統合医療センター キーワード:電子温灸器,自律神経,耳介・外耳道 1.はじめに 本研究は,外耳道への灸刺激が,運動負荷による自律神経活動に与える影響を検討した。 2.方法 対象は,40歳代の女性2名とした。灸刺激は,43°C 1) に設定した電気温灸器(セイリン社製)の先端を,仰臥位でアイマスクを着用した被験者の耳孔に挿入し,10分刺激した。運動負荷は,高さ20cmのステップ昇降を自身のペースで5分行った。自律神経活動は,座位→起立→立位と体位を変換して起こる自律神経反応を観察する起立負荷試験を用いた。データは,きりつ名人(クロスウェル社製)で解析を行い,各パラメーターの指標となるCVRR(自律神経活動),LF/HF(交感神経),ccvHF(副交感神経)を算出した。実験は,灸刺激と仰臥位安静を各1回行った。1回のながれは,10分の灸刺激(または安静)の前後に起立負荷試験を行い,その後,5分の運動負荷の後,起立負荷試験を行った(表1)。 表 1 実験のながれ (表) 3.結果 安静と灸刺激前後の各値の変化を図1に示す。副交感神経の指標であるccvHFは,安静で見られた前後変化の違いが,灸刺激では是正されていた。つぎに,事前の安静や灸刺激が運動負荷による自律神経活動にどのような変化を及ぼしたか,座位から立位の変化量で見てみる(図2)。ccvHFに注目すると,灸刺激の方が運動後に副交感神経優位になる傾向がみられた。 図 1 安静および灸刺激時の各パラメーターの変化 ※左から座位,起立,立位。介入前は実線,後は点線。黒丸と白丸は各被験者を示す。 (図) 図 2 運動前後の各パラメーターの変化量 (図) 4.考察 耳針療法の効果は,外耳道や耳介周囲に分布する迷走神経側枝を刺激した結果,慢性症状による交感神経優位状態が是正されたためと考えられている2.3)。本研究でも,自律神経の調整傾向は見られたが,さらなる検討が必要である。外耳道への灸刺激に自律神経調整効果があれば,特にスポーツでは,自律神経が関与する長距離走等の運動中の腹痛等や慢性疲労症候群,運動中の突然死予防等に寄与できると考えている。 参照文献 [1] 櫻庭陽.外耳道への灸刺激がスポーツ時の自律神経変動に与える影響を観察するための予備的実験.2019年度学長のリーダーシップによる教育研究等高度化推進事業成果報告書. [2] Tsai SL, et al. Auricular Acupuncture in Emergency Department Treatment of Acute Pain. Ann Emerg Med. 2016; Nov;68(5), 583-5. doi:10.1016. [3] Jan AL, et al. Does Ear Acupuncture Have a Role for Pain Relief in the Emergency Setting? A Systematic Review and Meta-Analysis. Med Acupunct. 2017 Oct 1;29(5):276-289. doi: 10.1089.