非観血的,かつ,生体内ラジカル連鎖反応を正確に反映する酸化ストレス評価法の開発 ─ 先端スピン応用医学の東西医学への展開 8 ─ 平山 暁 1),赤崎さとみ 2),佐藤圭創 2),長野由美子 1), 大和田滋 3),李 昌一 4),藤森 憲 1),片山幸一 1),青柳一正 1) 筑波技術大学 保健科学部 附属東西医学統合医療センター 1) 九州保健福祉大学 薬学部 2) あさおクリニック 3) 神奈川歯科大学 4) キーワード:酸化ストレス,活性酸素,MULTIS,i-Strap 1.研究背景 酸化ストレスは,活性酸素種(ROS)や活性窒素種(RNS)などにより惹起され,種々の化学反応や生体応答を引き起こす。酸化ストレス応答の惹起刺激はNADPH oxidase等により産生されるスーパーオキサイドを起点とするが,スーパーオキサイド自身は応答性・傷害性に乏しく,引き続き産生される多数のROSが実際には惹起刺激となる。現在の酸化ストレス評価法は,反応の結果として生じた蛋白質カルボニル,DNA損傷,脂質過酸化物などの安定代謝産物評価,もしくは細胞応答の結果の評価が中心であり,酸化ストレスを惹起する刺激側の活性酸素種(ROS)動態を直接評価する方法は乏しい。これは,ROSの殆どは極めて短寿命で反応性に富みかつ複雑多岐にわたることから,還元的な解析が困難であることに起因する。現行の商業的に入手可能な評価法は,評価できるROSが限られており,複雑かつ多岐にわたる酸化ストレス関連反応の正確な描出には遠い。このため現在では「酸化ストレスが増大している」という抽象的な表現に留まり,一連の酸化ストレス関連反応の「どのような部分」が「どの程度」「どのように」変化しているか,という記述は不可能である。この状況では臨床現場での評価に耐えうる酸化ストレス評価法は現実には存在していないと言わざるを得ない。その一方で酸化ストレスが多くの疾病の鍵となる病態であることから,酸化ストレス刺激側における動的恒常性の乱れを捉えることは,多種の疾病の発症や進展の予測に繋げうる。 申請者は長年の酸化ストレス研究に於いて臨床的に有用である酸化ストレス評価法の開発を行ってきた。これまでに慢性腎臓病,漢方治療,自閉症など東西両医学の分野横断的に成果をあげている。この理由の一つとして,申請者の手法が電子スピン共鳴法(ESR)を基盤としていることがあげられる。ESRは不対電子を非侵襲的に検出する手法であり,生体でROSを定量測定可能な観測手法である。残念ながらこれまで,機器の複雑性・操作の煩雑性・生体によるマイクロ波誘電損失等の問題により医学応用は遅れている。しかしESR法は他法と異なり,ROS種をスーパーオキサイドやヒドロキシラジカルなど個別のレベルまで同定可能であり,かつ高感度であることから,複雑多岐な酸化ストレス関連反応を正確に描出可能であり,酸化ストレス刺激側の評価法として原理的には最も有用な絶対基準となりうる。 本年度研究ではこれまでの背景をもとに,より簡便でありながら生体内の酸化ストレス反応をトレース可能な非観血的測定法の開発を目指した。測定法として申請者がこれまでに開発してきた多種ラジカル消去活性測定法(MULTIS)と,共同研究者佐藤らが開発した,やはりESRを基盤にした炭素中心ラジカル検出法であるi-STrap W.B.法を組み合わせ,生体内酸化ストレス変動への効果を検出する系の確立を目的に,共同研究者施設における維持血液透析患者を対象として検討した。 2.研究方法 2.1 研究方法 本研究は横断観察研究であり,インフォームドコンセントが得られた健常者ならびに維持血液透析療法を施行されている患者を対象とした。透析療法開始前にシャント血管から採血により検体を採取し,血清分離後下記の i-STrap W.B./MULTIS法測定を行った。i-STrap W.B.法および i-STrap W.B.変法では既に共同研究者により若年者における基準値が報告されている。本研究ではこれに対しコホート間の差異を確認すると共に,慢性腎臓病患者に対象を広げ,臨床病態との関連を検討した。 2.2 i-STrap W.B.測定 i-STrap W.B.測定は同仁グローカル社のi-STrap W.B.測定キットを用いた。本法は共同研究者佐藤により開発され,知財権が確立している。本法では酸化ストレス病態におけるkey moleculeであり生体内で長寿命な脂溶性ペルオキシラジカルを測定した。 2.2 MULTIS法 MULTIS法は,共著者大和田らが開発し,筆頭著者が昨年までの本プロジェクトで部分的な改良を加えヒト検体への応用を行ってきた方法により測定した。下記ROSの一部もしくは全部に対する消去活性を電子スピン共鳴法(ESR)により一元的に測定するとともに,ROS間相互反応を解析した。 (表) 3.結果 本研究成果の詳細は現在英文学術誌に投稿予定であり,二重投稿回避のため本欄での詳細な公表は差し控える。 HD後のヒドロキシラジカル消去活性は既報と同様の傾向であった。一方アルコキシおよびアルキルペルオキシラジカル消去活性はについて既報とは異なる新たな知見が得られた。脂溶性炭素中心ラジカルのHD前後変化は一定しなかったが,糖尿病を合併する患者ではHD後に特有の傾向が見られた。 4.附記 本研究で使用したiSTrap W.B.は(株)同人グローカルより提供を受けました。ここに深謝致します。本稿は研究成果報告書であり、詳細は今後論文発表予定です。 5.関連成果学会発表 [1] 平山 暁,赤﨑さとみ,長野由美子,青柳 一正,大和田 滋,佐藤 圭創.生体適合性の改善にも係わらず,血液透析では依然としてラジカル連鎖反応下流の炭素中心ラジカルを制御できない.第2回日本酸化ストレス学会2019.6.27-28.かでる2・7 札幌 [2] Hirayama A, Nagano Y, Akazaki S, Ueda A, Aoyagi K, Lee MC, Oowada S, Sato K. Hemodialysis procedure cannot control long-life carbon center radicals which lead to advanced glycation/lipid peroxidation end products. 56th ERA-EDTA, 2019.6.13-16 Hungexpo, Budapest, Hanguary. abstract in Nephrology Dialysis Transplantation, Volume 34, Issue Supplement_1, June 2019, gfz103.SP457 [3] Hirayama A, Nagai K, Yamagata K. Proactive pd+hd combination introduction: a preliminary report on a novel highly efficient strategy for renal replacement therapy. 56th ERA-EDTA, 2019.6.13-16 Hungexpo, Budapest, Hanguary. abstract in Nephrology Dialysis Transplantation, Volume 34, Issue Supplement_1, June 2019, gfz103.FP560 [4] 平山 暁.血液透析における生体適合性と酸化ストレス.シンポジウム「臨床医療とバイオマテリアル」第41回日本バイオマテリアル学会 2019.11.24-26 つくば国際会議場,つくば (招聘講演) [5] 平山 暁.Let It Be... Radical ESRによる生体フリーラジカル計測のヒストリー 第31回腎とフリーラジカル研究会 2019.11.16 羽田エクセルホテル東急 (招聘講演)