視覚障害者の移動支援システムの最適化に関する研究 嶋村幸仁 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:視覚障害者,オペレータ,スマートフォン,googleストリートビュー 1.はじめに 国立大学法人筑波技術大学保健科学部の学生はすべて視覚に障害を持っている学生であり,就職活動の面接試験などで東京へ出向くことも多く,一人での歩行移動に苦慮している状況である。また,介助者と2名で面接試験会場に出向くと,1人では通勤できないと判断され,不合格となる場合が多々ある。さらに,目的地の駅に無事に着いたとしても,そこからビルなどの目的地への移動で迷うことが多く,スムーズに目的地に行くことができない場合が発生している。このようなことから当該者のスマートフォンやタブレットなどを活用した位置情報,動画カメラ,電話(スカイプ含む)機能をフル活用し,オペレータによる案内とgoogleストリートビューを利用して目的地まで誘導するシステムと音声ガイド付きアプリとの比較を行い,移動支援システムの最適化のための研究を実施した。 2.成果の概要 視覚障害者を対象目的地までの移動を実施した。 具体的な方法としては,目的地を指示し,視覚障害者にスマートフォンまたはタブレットを配布して,迷った時点で研究代表者に位置情報,動画カメラ情報,電話(スカイプ含む)機能により目的地まで誘導できるかどうかを本研究代表者がオペレータ機能を担い検証を行う。オペレータは,位置情報とgoogleストリートビューを利用し,両方の画像を比較できるようにし,電話機能により,被験者を目的地まで誘導する移動支援システムによる方法と音声ガイド付きアプリについて比較した。 移動支援システムによる実験と音声ガイド付きアプリによる実験ついて次のように比較できた。距離10メートル範囲以内での情報視覚障害者の歩行を支援している多くのアプリでは10メートル以上の情報しか得られないことに対し,移動支援システムにおいては,オペレータにより様々な事を知る事ができる。例えば,点字ブロックが在るか無いかなどの情報は特に重要であった。また,障害物を確かめることについて現在の音声ガイド付きアプリは,視覚障害者は自分の位置もしくは現在位置や方向は分かるものの,障害物の存在自体が確かめられないため,大変危険であると考えられた。例えば,音声ガイドによって「目的地は3時の方向です」といったアナウンスが流れていてもその目的地までに電柱,段差,自転車等といった様々な障害物が存在しうることについての情報は皆無である。従って,移動支援システムでは,オペレータの案内によりどこにどのような障害物が在るのかを知る事ができるだけではなく,それらを避ける事もでき,視覚障害者は安全に異動できると考えられる。また,音声ガイド付きアプリにおいては,電波不具合により情報の遅延が確認された。例えば,利用者が目的地に到着しているにもかかわらず,アプリは「目的地はあと20メートル先です」といったアナウンスを繰り返すことがあった。利用者は,移動中GPSが動作しているか否かの確認ができないため,対応には困難さが生じた。一方,移動支援システムでは,電波不具合により,画像の途切れなどといった事を予想できるが,その事を利用者は,オペレータにより知る事ができため,電波の良かったところまで戻るか,その場で他の歩行者に助けを求めて電波の良いところまで移動してもらうなどといった行動ができると考えられた。このような事から,音声ガイド付きアプリは重度な視覚障害者には,十分に適していないと考えられ,安全な移動については,移動支援システムの最適化が検証できた。以上の結果を基に,さらに他の補助金・助成金等への応募や各種学会への発表投稿を行う予定である。