視覚障がいを有する医療者の臨床評価における困難事象の抽出 福島正也 筑波技術大学保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 キーワード:視覚障がい,医療,評価 成果の概要 [背景]本邦では,視覚障がい者の職業教育として,はり師,きゅう師,あん摩マッサージ指圧師,理学療法士,柔道整復師といった医療職の養成が行われている。多くの視覚障がい者がこれらの医療職に従事しており,最も人数が多いあん摩マッサージ指圧師では,その業に従事する視覚障がい者は 2万 5千人にのぼる[1]。これらの医療職が取り扱う疾患・症状は様々であるが,近年は “根拠に基づく医療(EBM)”の概念の普及を背景として,治療効果(アウトカム)に対する客観的な評価が求められている。 臨床現場では,様々な手法による評価が行われるが,器具を用いた評価では器具の取り扱いや数値の読み取りにおいて,また,評価票を用いた評価では書字や読字において,視覚障がいに起因する困難が生じ得る。これらの困難事象に対する適切な支援を提供するためには,その実態の把握が必要である。これまでに,視覚障がいを有する施術者(全盲)が関節可動域測定に際し,測定が困難な部位と要因を検討した報告 [2]や,視覚障がいを有する施術者の関節可動域測定に際する困難事象を調査した報告 [3]がみられるが,視覚障がいを有する医療者の臨床での評価全般における困難事象を調査した報告はみられない。 本研究は,視覚障がいを有する医療者の臨床での評価における困難事象について調査を行い,適切な支援方法を検討することを目的とする。 [方法]2019年 10月に,筑波技術大学で鍼灸学を専攻する視覚障がいを有する学生(3・4年生,大学院生)および研修生 34名を対象とし,臨床での困難事象に関するアンケート調査を実施した。アンケート調査は,無記名のウェブアンケートとし,所属・視覚障がい・臨床での評価における困難事象に関する各設問への回答を依頼した。本研究は,筑波技術大学研究倫理委員会の承認を受け実施した。 [結果]23名の回答が得られ(回収率68%),うち 15名が重度視覚障がいであった。評価での困難事象に関する設問への回答で「自分だけで正しくできる」が少なかった設問は,①望診(視診)による評価:2名,②動作分析:5名,③墨字の質問紙等の読み取り・集計:7名,④角度計での計測:8名,姿勢・アライメントの評価:8名であった。また,評価の記録方法に関する設問において,「自分だけで正しくできる」は,墨字での記録:9名に対し,デジタル機器での記録:16名であった。自由記述回答では,上記以外に,画像所見を確認すること,患者に接近しないとみえないこと,色が分からないこと,時間がかかること等が挙げられた。 [考察]視覚障がいを有する医療者・医療学生が視覚を用いる評価法や文字・数値の読み取りに困難を感じていることが示された。情報機器の活用等による測定器具や記録方法の改善が支援として有効な可能性がある。なお,本研究の成果は,第 21回日本ロービジョン学会学術総会で発表した。 参照文献 [1]厚生労働省.平成 28年度衛生行政報告例. e-stat.(2018/9/4閲覧) http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001185884 [2]近藤宏.全盲者における関節可動域測定時の視覚障害技術支援機器の有用性について 音声式関節角度計を用いた検討. 理療教育研究. 2011, 33(1),19-30. [3]玉井伸典,黒田修成,沼本尚輝ルーカ,矢部隆之,和田恒彦.視覚障害者が関節可動域を測定する際の課題の検討. 筑波大学理療科教員養成施設紀要. 2019,4(1),5-12.