空き家活用によるインフォーマルな住民の居場所の実態と住環境に及ぼす効果の検証 梅本舞子 筑波技術大学 産業技術学部 総合デザイン学科 要旨:地方郊外部に立地し,地域資源として活用される空き家について,その実態と効果を検証したケーススタディーである。つくば市内の事例を中心に,運営者へのインタビューや行動観察調査,利用者へ評価に関するアンケート調査を実施した。その結果,誰でも訪れることができる場であることの効果や,そこが空き家活用であることのメリット,同時に空き家を非住宅として活用するが故の課題について,知見を得た。 キーワード:空き家活用,認知症カフェ ,在宅介護 ,子育て 1.研究の背景 1.1 住民主体の地域づくりの萌芽が見られる 地域の茶の間,コミュニティカフェ等,個人や任意組織,NPO法人等による設置・運営により,地域で制度外のサービスを提供するインフォーマルな居場所が増えている。これらは運営側による一方的なサービス提供となる公的な居場所とは異なり,利用者が関わり,共に創り出す柔軟な場としての側面もあることが指摘されている[1]。 縮小社会に求められる住民主体の住環境整備の観点からは,居場所を通じた交流や地域への関心の高まり,場づくりへの関与が,利用者の住生活向上や近隣住環境の改善に繋がる事が期待される。 1.2 郊外での空き家の有効活用手段として期待できる 有効な空き家活用策は,主にその立地によって異なり,例えばシェア居住は,生活利便性が高く家賃の高い都心部では低所得者層等向けの福祉住宅としての有効性が期待できる。しかしながら,地価が低く,車依存度の高い郊外の住宅地には適さない。加えて相続した実家等愛着が強い場合が多く,売却には至り難い。そのため郊外ではむしろ,高齢者や子育て世帯を対象とした居場所づくり等“地域貢献型の非住宅 ”としての活用が有効であると考えられる。 2.研究の目的 そこで本研究では,インフォーマルな住民の居場所について,①住民の主体性や住環境整備への寄与の実証,②持続的に展開していく上での課題の解明を目的とした。このことを通して,住民主体の住環境整備における居場所の意義を明らかにしつつ,その発展を可能とする運営方法や 公的支援のあり方を検討する。 3.研究方法の概要 2018年度新たに調査した例も含め,これまでに全 17例の居場所を対象に調査を実施した[2,3]。このうち空き家・空き部屋活用の 7事例を中心に,運営者へのインタビュー調査,利用者の行動観察調査,利用者へのアンケート調査を実施した。 各々の活動の内容は,子どもから高齢者まで誰でも参加できる集いの場,乳幼児を子育てする世帯向けの交流・情報交換の場,認知症等本人やその介護家族の交流・情報交換の場,中学生高校生の放課後の居場所等多岐に渡る。これら7事例は,運営組織(任意組織なのか NPO法人なのか)と,建物の権利(所有なのか賃借なのか)の 2軸によって 4タイプに分類することができる(図 1)。前者はボランティアや自治体との連携など活動の拡がりに, 図1 分析対象事例の概要 また後者は日常的な改修や使い方の改善など,場の活用のし易さに影響を及ぼすと考えたためだ。各々について①利用者の主体的関わりや住環境意識の変化,②運営方法や課題を捉え,4タイプの類似・相違点を分析した。 またその中の 1事例では,①利用者の主体的関わりを促すべく別途リノベーションを実施した。その際,1/20模型を本学学生らと製作し,スタッフや地域住民らとの計画内容検討に用いた。空間をイメージし易いと好評であった。 4.成果の概要 以上の試行と分析の結果,①地域の居場所として一般利用者も居ることが多様な役割や効果を循環的に生み出していること,②空き家活用であることが利用者の主体的かつ日常的な場づくりを可能にしていること,しかしながら,③居場所が “非住宅 ”であることに起因する現行制度上の課題(都市計画法上の立地基準,固定資産税評価額,耐震改修等)もあること,加えてこれら3要素は,先の運営組織と建物への権利形態に基づく4タイプ別に,状況の類似・相違があることを明らかにした。詳細は論文執筆中であるため,ここには記載しないこととする。 謝辞 本研究は教育研究等高度化推進事業 2018により実施することができた。ここに謝意を記す。なお,採択後に別の助成金を得るに至ったため,当初の予定より少額で実施することとなった。 参照文献 [1] 倉持香苗.コミュニティカフェと地域社会.明石書店(東京都),2014. [2]中村駿介,梅本舞子,小林秀樹.立地や運営目的と利用圏域の関係 インフォーマルな住民の居場所の実態と効果に関する研究 その 1.日本建築学会大会;2018-7(仙台)2018:791-792. [3]梅本舞子,中村駿介,小林秀樹.居場所での関わり方と得られた効果や住意識の変化の関係 インフォーマルな住民の居場所の実態と効果に関する研究 その2.日本建築学会大会;2018-7(仙台);2018:793-794. Actual Situation and Effects Regarding Informal Comfortable Places for Residents by Utilizing Vacant House UMEMOTO Maiko Department of Synthetic Design, Faculty of Industrial Technology, Tsukuba University of Technology Abstract: This is a case study that examines the actual conditions and effects of vacant houses located in the suburbs of rural areas and used as local resources. We conducted interviews with operators, behavioral observation surveys, and questionnaire surveys on evaluations by users, focusing on cases in Tsukuba City. As a result, we gained insights about the effect of there being places that anyone can visit, the merit of utilizing vacant houses, and at the same time, the problems caused by utilizing vacant houses as non-residential houses. Keywords: Utilization of vacant houses, Alzheimer Cafe, Home care, Child rearing