ディズニーランドパリにおける手話通訳付きショーについて その2 筑波技術大学 萩原彩子  前回、ディズニーランドパリの手話通訳付きショーとして、2つ上演されていたとお話しました。今回はその実際の様子をご紹介します。  1つめの「ミッキー&マジシャン」は、ミッキーが魔法でさまざまなキャラクターの世界に飛び込み、ダンスしたり歌ったりして楽しい時間を過ごす、という内容のショーです(現在は終了。2020年2月再開予定)。こちらの舞台手話通訳は、一般的なスタイルともいえる、下手に立つスタイルでした(写真)。キャラクターたちのダンスが見所の一つなのですが、通訳者はダンス中通訳することなく、キャラクターたちに視線や体を向け、リズムに合わせて軽く体を揺らしたり、舞台上で起きるハプニングに驚いた表情をしたりと、目立ちすぎないよう、でも不自然ではないように振る舞っていました。これは舞台手話通訳でよく必要とされるテクニックです。また、ダンスが長く続くシーン(美女と野獣)や、動物たちがたくさん登場する(ライオンキング)ような、「とにかく見て欲しい」シーンでは、いったん舞台袖に下がり、会話シーンでまた登場していました。舞台手話通訳では通訳者がどんなスタンス(役どころというか)でその場に立つかを予め設定することが多いのですが、通訳しつつもゲストとともにショーを見ているようなスタンスだったのではないかと思います。写真ではあまり見えませんが、衣装も会場誘導のキャストのような制服でした。立ち位置がちょっと離れていたのが残念でしたが、通訳者とともにそれぞれのキャラクターの世界に入り込めて楽しいショーでした。    次に、本命「ライオンキング」についてです。上演開始から本当に人気のあったショーで、訪れた日も先頭がまったく見えないほどの行列ができていたのですが、私はろうの友人と入ったのである程度優先してもらうことができました(ライオンキングも残念ながら現在は終了。2020年夏再演予定)。  こちらは、通訳者もエンターテイナーの一人として参加しているような形での舞台手話通訳でした。衣装も他と合わせたもので、立ち位置も場面によって変わり、より舞台の中に入り込む形です。さらには通訳者にも軽く演出がつけてあり、例えば、主人公シンバの父(王)が登場するシーンでは、それまで通訳していた高い丘から降りて他の動物たちと一緒に王に頭を垂れたり、あるシーンでは動物たちと手話を取り入れたダンスを踊ったり、シンバが王としてプライドロック(丘)に戻ってくるシーンでは王と視線を交わし祝福の意を表したりと、「通訳のためだけにそこにいる人」では決してなく、ショーの一部として存在していました。そしてなんといっても「サークルオブライフ」(ライオンキングといえばこれ!な名曲です)の手話表現が本当に美しく、フランス手話が読み取れなくてもその美しさに見とれてしまうほどでした。ショーそのものがサーカスのように激しく豪華で、とにかくブラボーだったのですが、手話通訳もその世界観に入り込んでいて本当にすばらしかったです。  さて、ろう者が通訳を担当した、と前回お話しましたが、練習方法やタイミングのとりかた、ハプニング時の対応方法など、いろいろ気になりますよね。  通訳を担当していた友人に聞いたところ、まず稽古については、監督他ショーのスタッフと、手話をチェックするためのろう者、監督たちの話を通訳するための聞こえる手話通訳者が同席する形で行われたそうです。またタイミングの取り方は、とにかく体で覚え、周りを見て合わせる、とのことでした。どちらのショーもたくさんの歌があり、すべて通訳がなされていましたが、タイミングが大きくずれるような場面は見られませんでした(さすが俳優!)。ディズニーのショーにはアドリブが存在しないことも、ろう通訳者が安心して担当できる理由の1つではないかと思います。そしてなんらかのトラブルが起きた場合は、技術担当スタッフが赤いランプで合図を出し、それが見えたら「ショーは中断」という意味だそうです。その場合は、他のエンターテイナーとともににこやかに手を振り、その間に幕が閉まる段取りになっており、とにかく子どもにショックを与えないような流れが決まっているとのことでした。さすがディズニーです!  と、第1回に比べて詰め込みぎみの第2回でしたが、これでご紹介は終わりです。なお、稽古や本番の様子、通訳者のインタビューを以下から見ることができますので、ぜひぜひチェックしてみてください。短い連載でしたが、お読みいただきありがとうございました。 <【公式】ディズニーランドパリにおけるフランス手話によるミッキー&マジシャン> https://www.youtube.com/watch?v=RXN8VRnhuvo <【非公式】ディズニーランドパリの手話通訳付ショーの紹介動画> https://www.youtube.com/watch?v=lwrkc9TFyDg (Facebookには「DisneySourd-LSF」というページがあり、サークルオブライフの動画も見られます。ぜひ実物を見てみてください!)