あん摩・マッサージは高齢社会の健康増進に貢献できるかについての科学研究 殿山 希 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 キーワード:あん摩療法,婦人科がんサバイバー,マッサージ,肥満,健康寿命 1.成果の概要 1.1 婦人科がんサバイバーに対するあん摩療法の身体への効果 1.1.1 論文投稿 2012年に研究プロトコル作成,筑波技術大学医の倫理委員会承認,試験登録,11月から2年の研究期間でランダム化比較試験を実施し,その後,解析を行った。その結果は既に昨年度のテクノレポート報告書に示した[1]。この結果を昨年度末(平成28年3月末)に投稿を行い,雑誌変更・修正を経て,インパクトの高い婦人科腫瘍学の専門誌(IF=4.2)に6月30日アクセプト,9月に出版できた。下に論文を示す。Donoyama N, Satoh T, Hamano T, Ohkoshi N, Onuki M. Physical effects of Anma therapy (Japanese massage) for gynecologic cancer survivors: a randomized controlled trial. Gynecol Oncol. 2016;142:531-538. doi: 10.1016/j.ygyno.2016.06.022. [Epub ahead of print] 1.1.2 婦人科がんサバイバーの身体的愁訴の分析 ランダム化比較試験のデータから,特に,primary endpointであったvisual analogue scale (VAS)で測定した身体的自覚症状の詳細についてさらに分析を行った。研究方法:ランダム化比較試験の方法の詳細は上記出版論文を参照していただきたい。対象と介入:あん摩群(20人。1回40分のあん摩施術を毎週1回,8週継続。初回施術前後と最終回施術前に測定)。対照群(20人。研究期間の初日にマッサージ師と施術を行わないで40分おしゃべりをしてその前後に測定。研究期間の最終日に再び測定)。二群間検定はtwo-sample t-testを行った。結果:対象40人の主訴は,頸肩こり20人,下肢症状(痛み・重だるさ・硬さ・違和感)12人,腰痛2人,頭痛,背部のはり感,半身の違和感,全身.痒感,手指のしびれ,排尿障害が各1人であった。二群間比較において,頸肩こりでは,介入前後(p=0.005)と継続治療前後(p=0.029)に有意差がみられた。また,下肢症状では,介入前後において両群間に有意差がみられた(p=0.008)。症例数が少なく統計学的検討は行えなかったが,あん摩群の腰痛,背部のはり感,半身の違和感,排尿障害にもあん摩直後のVAS値の低下と継続的低減がみられた。この結果を学会で発表した。殿山希.婦人科がんサバイバーの主訴別あん摩療法の効果:ランダム化比較試験のデータから.大81回日本温泉気候物理医学会学術総会,2016年5月15日,渋川市. 1.2 婦人科がんサバイバーに対するあん摩療法の心理・気分・健康関連QOLへの効果 1.2.1 論文投稿 昨年度に学会発表を終えており,今年度は投稿を行った。論文出版前であるので詳細の記述は避けるが,著者らの試験結果は,海外のマッサージ研究の結果と全く同様の結果であったので投稿はスムーズに行くことと予想していたが,4誌からそれぞれの理由でリジェクトされ,現在,5誌目に投稿中である。この投稿を通して世界におけるマッサージ研究の課題を痛感させられた。 1.3 オイルマッサージの肥満に対する効果 軽度肥満の女性9人(年齢56.8±4.0歳BMI 27.7±1.4)に対して1回40分のオイルマッサージを毎週1回,8週間継続して,その期間の前後に測定を行った実験結果の再解析を行い,論文執筆中である。また,第82回日本温泉気候物理医学会学術集会(2017年6月24日)で発表予定である。 2.成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果 がん治療後に出現した愁訴に対して,ランダム化比較試験という科学性の高い手法であん摩療法の効果を検証し,婦人科腫瘍学の世界の専門家が読む雑誌に論文を掲載できたことにより,医師や医療関係者にあん摩療法の効果をエビデンスをもって示すこととなり,あん摩療法の正しい理解が促される。さらに研究を重ねて医療ガイドラインに反映されれば,あん摩マッサージ師の職域の拡大にもつながる。将来,施術者となる学生にとっても学習意欲が高まり,職業意識も高まることが予想される。また,患者にとっては,経験や逸話により選択していたあん摩療法をエビデンスをもって選択できるようになる。筆者の肥満に対するマッサージ研究はまだ始まったばかりであるが,今回の結果(論文執筆中につき詳細は本稿には掲載しなかった)は,マッサージは2型糖尿病,脂肪肝,動脈硬化・心血管疾患など肥満に伴う諸疾患の発生を抑える可能性を示唆するものであった。高齢・ストレス社会である現在,がんサバイバーやメタボリックシンドローム・諸疾患を引き起こす肥満を抱える人々は増加している。今後,さらに研究を重ねてあん摩・マッサージのエビデンスが確立すれば,あん摩・マッサージは健康長寿を望むすべての人に貢献するものとなる。 参照文献 [1] 殿山希.長寿社会の健康を支えるあん摩・マッサージの検討.筑波技術大学テクノレポート.2016;24(1):p.107-108.