ディズニーランドパリにおける手話通訳付きショーについて その1 筑波技術大学 萩原彩子  先日TA-netの廣川さんらが寄稿しておられた舞台手話通訳養成講座のレポート、お読みになられましたか? 8月にはNHK「ハートネットTV」でも、舞台手話通訳で活躍している米内山陽子さんが特集されましたし、少しずつ舞台手話通訳の取り組みが注目されてきて、大変うれしく思っています。かく言う私も、TA-netのご協力をいただきながら、舞台手話通訳に関する研究を細々と行っておりまして、その一環として、海外や日本での舞台手話通訳に関する情報収集をしてまいりました。この連載では2回にわたって、特にディズニーランドパリで行われていた手話通訳付きショーをご紹介したいと思っています。(そういえば、東京ディズニーシーでもタートルトークに手話通訳がつきましたね!)  さてさて、7月にパリで開催された世界ろう者会議(XVIII WORLD CONGRESS OF THE WORLD FEDERATION OF THE DEAF)に参加した際、ちょっと足を伸ばして、ディズニーランドパリに行ってきました。  まずディズニーランドパリについてご説明します。ディズニーランドパリ、と言っても、実はパリにはなく、パリからはほど遠い郊外にあります。また、パークは2つあり、「ディズニーパーク」「ディズニースタジオ」に分かれています。どちらも規模は東京ディズニーランドに比べて小さく、小ぢんまりとした感じです。パークの象徴は、眠れる森の美女(オーロラ姫)のお城です(写真は白黒ですが、ピンク色でかわいいです)。    残念ながらすでに終了してしまっていますが、2019年7月時点では、2つのショーに手話通訳が付いていました。1つはディズニーパークで行われていた「ライオンキング」、もう1つはディズニースタジオで行われている「ミッキー&マジシャン」です。ショーは毎日行われていたのですが、手話通訳付きは週末のみでした。(なお、両方とも来年再開の予定があるそうです!)    ディズニーランドパリにおけるショー手話通訳の大きな特徴は、ろう者が担当していたことです。さらに彼らは、俳優でもあります。つまり、ろう俳優が手話通訳を務めていたのです。  出演者を決めるオーディションには健聴者で手話ができる人も応募していたようですが、結局合格したのは、ろう者であり俳優でもある方々だったようです。オーディションには総勢60名の応募があり、はじめに選ばれたのは2名。その後さらに2名が追加合格し、計4名がディズニーランドパリで舞台に立っていました。実はそのうちの1人は私の友人でして、彼からいろいろなお話を聞かせてもらえました。この原稿は彼から聞いた話と実際に見たショーをもとに書いています。    友人の話によると、ディズニーランドパリでショーに手話通訳を導入することになったきっかけは、ろう児を持つ親からの要望でした。実現にあたって、まずはディズニーランドパリの担当者にフランス国内外での実際の手話通訳付きショーや演劇、ろう者によるショーや演劇の視察をしてもらいました。その結果、担当者はろう者の表現力にとても驚き、それがオーディションでのろう俳優選出につながったのではないか、とのことでした。  「ろう俳優がショーの手話通訳を担当する」これは非常にすばらしい決断だと思うのですが、フランスにおける言語的背景が関係しているのではないかと私は考えています。以前フランスに住んでいたのですが、生活する中でお互いの母語を尊重する雰囲気をよく感じました。ある時、フランス語をうまく話せなくて謝ったら「謝る必要はない。私もあなたの言語は話せないのだから」と言われたことがあります。「フランス人はフランス語しか話さない」というイメージを持っている方もいらっしゃると思いますが、私の印象としては、若い方を中心に複数言語を話せる人はわりと多かったです(窓口のスタッフは話せる言語をネームプレートに明記していることが多い)。その一方で、フランスの聞こえる人たちはフランス語が世界で一番美しい音声言語であるという自負も強い気がします。同じように、フランスのろう者もフランス手話が最も美しい手話言語であるとよく言っていました。そして自分たちの言語を大事にするからこそ、相手の言語も尊重する文化があるのではないかと思います。(自分の言語に誇りを持つことはとても素敵なことですが、まったく謙遜せずに言うあたりがフランスらしいというか(笑))  併せて、フランスではフランス手話も「言語」として認知されており、書店にあるフランス手話の本は当たり前に「言語」の棚に置かれていますし、美術館や博物館にあるオーディオガイド(映像付)のメニューに英語、スペイン語などと並んでフランス手話があったりします。つまり、フランスの聞こえる人たちは他の音声言語同様、フランス手話にもとても敬意を払っています。だからこそ、ショーに手話通訳を付けるなら、手話を母語とするろう者に、となったのではないかと思っています。  と、ここですでに文字数がやってきてしまいました・・・。次回は、ショーについて詳しくご報告していきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。