視覚障害学生の教育に関する現状と課題 小林ゆきの1),宮城愛美2),田中 仁2),金堀利洋2),天野和彦1),香田泰子1) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部1) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者支援研究部2) 要旨:ICT 機器の発展,インクルーシブ教育の潮流,障害者差別解消法の施行等,障害者に対する見方,障害者の在り方が大きく変化してきている昨今,時代に即したより質の高い教育を提供するためには,改めて,視覚障害者教育の現状を把握し,問題点等を検討することが重要と考え,本学春日支援センター有志により,学外の5名の専門家を招聘,計4 回の講演会及び勉強会を実施し,視覚障害者教育のあるべき姿を展望し,本学に求められている社会的役割を検討した。その結果,視覚障害学生のエンパワメントにつながる教育,セルフアドボカシーを行使する能力の育成,拠点的機能の拡充,雇用主側の支援も含めた就労・キャリア教育支援等が必要であることがわかった。 キーワード:視覚障害学生教育,エンパワメント, セルフアドボカシー,拠点的機能,就労・キャリア教育支援 1.はじめに  高等教育機関における視覚障害者教育は,長年の蓄積がありながら,これまで教育現場で涵養されてきた知識・技能の横断的集約,及び,その専門性に関する多角的考察は,十分になされてこなかった。一方,近年においては,ICT 機器が目覚ましく発展し,法制度においては,1994 年のサラマンカ声明(UNESCO)以降,世界的なインクルーシブ教育の潮流が生まれ,国内においても,平成19 年より「特別支援教育」が「学校教育法」に位置付けられ,平成28 年には,「障害者差別解消法」が施行されるなど,社会での障害者に対する見方・障害者の在り方が大きく変化してきた。  このような社会的変化の中,時代に即したより質の高い教育を提供するためには,改めて,視覚障害者教育の現状を把握し,そのあるべき姿を展望することが重要だと考え,平成30 年に,本学視覚障害系障害者高等教育研究支援センターの有志が集まり,これまで蓄積してきた視覚障害学生教育に関する知識・技能,及び,最新技術・情報を横断的に集約,体系化し,時代に即したより質の高い教育方法・学修環境開発に繋げることを目的として,学外の5名の専門家を招聘,計4 回の講演会及び勉強会を実施し,情報収集・意見交換を行い,視覚障害者教育のあるべき姿,本学に求められている社会的役割を検討した[1] 。以下にその概要を記し,その後の検討会での内容をまとめる。 2.講演会・勉強会の概要  講演会・勉強会は平成30 年度10 月より実施した。講演会は,本学春日キャンパス視覚障害系の教職員及び大学院生を対象に実施し,延べ71 名の参加があった。勉強会は,講演会後,視覚障害系障害者高等教育研究支援センター教員を対象に実施した。ここでは,事前質問を何点か用意し,限られた時間の中,密度の高い議論を行った。 2.1 第1 回講演会・勉強会:星加良司氏(東京大学バリアフリー教育開発研究センター 准教授)  第1 回目の講演会では,東京大学バリアフリー教育開発研究センター准教授の星加良司氏を招聘し,「ディスエイブルメントと高等教育の両価性」という題でご講演いただいた。  ご講演では,法制度・社会制度の変遷をご説明された上で,障害認識のパラダイムシフトの必要性と高等教育機関における課題をお話しされた。具体的には,障害認識のパラダイムシフトに関しては,「障害の個人モデル(医学モデル)」から「障害の社会モデル」への転換の必要性,すなわち,障害とは,「一個人の心身上の機能制約から問題が生じている」とする認識から,「多数派を占める非障害者を基準に生成・発展して来た社会の側に問題がある」とする認識への転換の必要性とその意義をお話された。また高等教育機関における課題では,高等教育機関が両価的機能を持ちうることを指摘され,負の機能としては,合理的配慮が意図せずして生み出す可能性のある危険性,すなわち,配慮対象を設定するために機能障害が再度焦点化されることにより起こりうる障害認識の逆行や,機会均等を目的とした合理的配慮の提供とは独立した「本質的な能力」を測る学術基準が,保守的・排除的に運用されることの危険性を指摘された。一方,正の機能としては,高等教育機関が,障害やバリアフリーについて学ぶプログラムやカリキュラムを提供することで,偏りを内包する社会の「メインストリーム」を相対化することに繋がる重要な役割を果たしうることを指摘された。 (写真) 図1 第1回ご講演者 星加良司氏  勉強会では,主に (1)共生社会に向けての本学のあり方,(2)「障害の社会モデル」に基づく本学での教育の実践,(3)障害者の社会的役割,等に関して議論した。まず共生社会に関しては,インクルーシブ教育の潮流の中,合理的配慮が法制化された今日,本学は,今後,アクセス保障の優位性のみにその価値をおくのではなく,それとは別のアプローチが必要になってくることが指摘された。その別のアプローチの一例として,視覚障害学生が本学で視覚障害者としての当事者性を高め,それを社会に還元していくことを可能にするような教育を本学で行う,ということが挙げられた。より具体的には,当事者性を高めるとは,第一義的には,視覚障害学生が普段感じていることに敏感になり,それを分析・解釈・理解する思考トレーニングをすることであるが,それをもとにバリアセンシティビティ等を高め,その知見を社会に還元していく,といった教育を本学で行う,ということである。  また,その前提として,センシティビティを高めるためにも,視覚障害学生自身が「障害の個人モデル」を内面化していては,社会的問題を学生自身の問題として解消してしまう。したがって,まずは学生の内に内面化されている問題を顕在化するために,本学において「障害の社会モデル」の考え方を教える必要性があることが確認された。  障害者の社会的役割に関しては,今後,AIの台頭により代替可能な労働は置き換わり,社会側が求める人材もシフトしていく中で,障害者が当事者性を含めた独自の視点を生かしていく仕事が重視され増加する可能性が指摘された。そして,当事者性を高めた上で,その社会的要求にどうリーチしていくかが新たな課題として検討された。 2.2 第2回講演会・勉強会:三宅琢氏(眼科医,株式会社Studio Gift Hands代表取締役)  第2回目は神戸アイセンター立ち上げにご尽力された眼科医,三宅琢氏を招聘し,「ICT機器を用いたあたらしいビジョンケアと神戸アイセンター構想」と題してご講演いただいた。ご講演では,従来の視機能ケアに基づくロービジョンケアとは異なるデジタルビジョンケアについて,すなわち,従来の医療に見られる視機能評価は行わず,患者のニーズ評価に基づきICT機器を処方する新しいケアについてご説明いただき,神戸アイセンター立ち上げに関するお話や,iPad等のICT機器の具体的な活用方法もご紹介いただいた。  これまでは,人が視機能障害に合わせてルーペや単眼鏡の支援機器を選択し使用していたが,これからの時代の新しいケアでは,情報が障害に合わせてくれる時代であり,単純に「文字が読めれば良い」というケアではなく,1日のうちの視力の変動に応じて,音声で聞く・拡大して読む等を患者自らが選択できるようにし,それにより患者自身の意欲を高められるようにする,というケアである。つまりは,できない理由を解明するのではなく,どうしたらできるようになるかを共に考えるケアであり,そう言った意欲に繋がるケアの重要性とその実際に関してお話しいただいた。  また,2017年12月に開業した神戸アイセンター及びその同センター内にあるビジョンパーク[2]の立ち上げに関する内容をお話ししていただき,情報バリアフリーの空間,支えられる側の視覚障害者が社会を支える側になるという価値観の変換を引き起こすisee!運動,空間で癒す医療や患者と晴眼者が混ざり合う共奏医療をご紹介いただいた。 (写真) 図2 第2回ご講演者 三宅琢氏  勉強会では,(1)インクルーシブ教育の潮流の中での本学の在り方,(2)障害学生の就労・職域開拓,(3)点字離れ・ITスキルの低さ,等に関して議論した。インクルーシブ潮流に関しては,視覚障害学生に特化した少人数の本学だからこそできることとして,学生が他大学では得難い自己肯定感・自己効力感を得られる場を多く提供し,学生主体の学内ツアーの実施等,学生自らが社会に発信していく経験や成功体験を積ませる一方で,配慮がなされた空間で安心して失敗する経験も同時に積ませることで,多角的な気付きの場を用意し,それらの経験を卒後の自立に繋げていくことの有用性に関して話し合われた。また開かれた大学として,学外に視覚障害者理解の機会を提供する拠点としての機能の必要性に関しても話し合われた。  障害学生の就労に際しては,「依存の反対は,自立ではなく多元的依存」(東京大学,熊谷晋一郎先生)[3]と言われるように,依存先を分散させることにより,結果的に自立している状態に持っていくことの重要性が確認された。また,既成の仕事の外に新たな職域がある可能性が指摘され,卒業までに,あえて本来通らない道・領域に触れる経験を通して,自己の適性を知り,安心できる環境で失敗する経験をきちんと積んでおくことが,いずれ卒後の仕事の定着率にも繋がる可能性があることに関しても話し合われた。 また学生の点字離れやICTスキルの低さに関しては,現段階では,いつどのような選択をすべきという明確な答えはないにせよ,点字・ICTいずれもの利点・不利点の情報提供を行う必要性と,しかるべき時に,視覚障害者の権利として,自分に可能な情報伝達手段を用いることを主張できるようにしておく必要性があることが確認された。 2.3 第3回講演会・勉強会:鈴木昌和氏(九州大学 名誉教授,認定NPO法人サイエンス・アクセシビリティ・ネット代表)  第3回講演会では,理数文書アクセシビリティのご研究,及び,「科学へジャンプ」[4]の主催をしていらっしゃる九州大学名誉教授鈴木昌和氏を招聘し,「NPOサイエンス・アクセシビリティ・ネットによる障害者支援の現状と今後の展望」と題してご講演いただいた。  ご講演では,鈴木先生が主催されていらっしゃるNPO法人サイエンス・アクセシビリティ・ネット(サクセスネット)のご紹介,現在も開発を進められている理数文書を中心とした情報保障支援,また,視覚障害者支援技術が発達障害者支援に応用できる可能性に関してお話しいただいた。  サクセスネットのご紹介では,「科学へジャンプ」が全国の視覚障害を持つ生徒たちの交流の場・主体性を高める場として非常に有効に働いている現状,その意義をお話いただいた。また,支援技術の応用に関しては,発達障害者支援の環境整備が遅れているのに加え,発達障害が外からわかりにくく障害者手帳を持てないケースがあるため行政からの支援が得られない現状をご指摘された上で,今後,共通性を多く持つ視覚障害者支援の技術が発達障害者支援に応用していける可能性についてお話いただいた。  勉強会では,(1)共生社会での本学の拠点的機能,(2) 就職・離職率の問題,(3)点字離れの問題,等が議論された。「科学へジャンプ」が交流の場として機能している点,及び,今後は地域的拠点づくりの基盤になりうる可能性が指摘された上で,全国の視覚障害学生も何らかのコミュニティーが必要であり,本学がそのネットワークの拠点として機能し得ることが議論され,共生社会に向かう中,このようなコミュニティーが視覚障害学生のアイデンティティをはじめとした様々な問題に対するサポートとして機能していく必要性が確認された。  また,職場でのコミュニケーション能力を養うためのインクルーシブな環境での教育の必要性と,職域開拓や職場定着率を高めるための職場に対するインターンの必要性,具体的には,職場での教育プログラムの作成をはじめとした受け入れ側の体制整備支援の必要性,また,アクセシビリティに関する職域の開拓の可能性に関して検討された。  リテラシーに関しては,点字離れが海外でも進み,プログラミング等も音声が主流になってきている点が指摘され,ドイツのカールスルーエ工科大学では,教材に,晴眼者も利用可能で汎用性の高いTeXが使用されている事例が紹介され,今後の日本でも視覚障害者がTeXを修得していくことの必要性に関して議論された。 (写真) 図3 第3回ご講演者 鈴木昌和氏 2.4 第4回講演会・勉強会:村田淳氏(京都大学学生総合支援センター 准教授),森まゆ氏(広島大学教育学研究科特別支援教育学講座 講師)  第4回目は,高等教育機関で直接支援に携われている京都大学学生総合支援センター准教授の村田淳氏と広島大学教育学研究科特別支援教育学講座講師の森まゆ氏を招聘し,「視覚障害学生支援−京都大学における支援組織の取り組みを中心に」(村田氏),「視覚障害者の高等教育をめぐる現状」(森氏)と題してご講演いただいた。 ご講演では,両氏から視覚障害者支援に関する法制度および行政等のこれまでの動き,高等教育機関における視覚障害学生支援の現状をご説明いただき,村田氏からは,京都大学障害学生支援組織の紹介,森氏からは,特別支援学校(盲学校)の現状,及び,本学に期待されることをお話しいただいた。 高等教育機関においては,障害学生の数は近年増加傾向にあり,2017年のJASSOの統計では,全国3,198,451名の学生のうち,障害を持つ学生が31,204名,その内,視覚障害学生は,831名(盲176名,弱視655名)の2.7%であった[5]。他の障害種別が増えたことに伴い視覚障害学生が占める割合は減ったものの数自体は増えており,視覚障害学生が1名以上在籍する学校は,全国1170校のうち265校であった。 大学で支援を受けている学生数は,視覚障害学生の場合,75.5%(盲93.8%,弱視70.2%)と他の障害種別に比べて比較的高く,支援内容としては,教材に関する配慮(点訳,拡大,テキストデータ),配慮依頼文書の配布,試験に関する配慮(延長・別室受験,解答方法配慮),講義・実技・実習に関する配慮が挙げられた。 障害学生数増加という量的ニーズの拡大,及び,より良い支援を求める質的ニーズの拡大により,各高等教育機関で障害者支援を組織的に強化しているのが昨今の大きな流れで,今後は,平成28年度の合理的配慮の法制化の影響が量的・質的両側面で大きく出てくると考えられる,とのご指摘があった。 (写真) 図4 第4回ご講演者 村田淳氏  村田氏からご紹介いただいた京都大学の障害学生支援ルームでは,「権利保障」「セルフアドボカシー」「移行支援」をキーワードに障害学生に対する支援体制が組まれており,まずは,権利保証の観点に立ち,障害学生の学修する権利を,「優遇」するのではなく,「保障」することをミッションとし,多くの情報を提供し選択肢を提示することで,単純な先回りの支援ではなく,障害学生が対話的に考え選択していくことを保証し(セルフアドボカシー),社会への移行支援はもちろん,高校から高等学校への移行,在学中の各学年ごとの移行支援を,方法論のみならず理念的な面も意識的に行なっている,というお話を伺った。  また,森氏からは,高等教育以前の視覚障害児の学修環境の現状に関してご説明いただき,国が目指す「連続した多様な学びの場」の現状,地域差,及び,特別支援学校(視覚障害)に在籍する幼児児童生徒数の減少,専門性確保の難しさ等の問題点の指摘があった。また,そのような社会的背景の中,本学に求められることとして,視覚障害学生同士が出会える場の提供,配慮が行き届いた環境で初めて知ることが可能となり,セルフアドボカシーの基準ともなっていく自己理解の促進,キャリア教育,卒後支援等の内容を具体的にお話しいただいた。  勉強会では,(1)セルフアドボカシー・移行支援・卒後のサポート,及び,(2)本学の拠点的役割等に関して具体的に議論した。まず,視覚障害学生自身が他者との関係を通して自己理解を深め,それを相手に伝えるために言語化していくことの大切さ,また大学側は,それを意識的にサポートしていくことの必要性が確認された。学生にとっては,自己理解のためというよりも,むしろ自らが生きていくためのアセスメントを行なっている,という認識に立つことが,工夫の余地を生み出す,とのご指摘があった。また,支援は,技術面はもちろん,マインドの面も大切で,通常の支援時からそのことを意識し,支援自体は,学年により課題を調整しながら,その目的を明示し,心理面の負担を軽減し,先回りの支援をせず,選択肢を提示して学生自身に選択させ,失敗も含めその結果を言語化させることが,社会への移行にも繋がっていく,ということが共有された。  卒後支援においては,大学以外のリソースも積極的に活用することが検討され,その情報獲得等を自らできるように指導する必要性が確認された。働くイメージのみならず,視覚障害を持ちながらどのように日常生活を送っていくか,という社会人としてのイメージを学生のうちにつかむ必要性が指摘され,その対策として,当事者を招聘した講演会,活用できるリソースの情報提供等の必要性が確認された。また,インクルーシブ教育の流れの中で,本学が,全国に散在している情報・教材等を集約し,他大学でも活用できるシステムを構築していく必要性に関しても確認された。 (写真) 図4 第4回ご講演者 森まゆ氏 3.考察  以上,4回にわたる講演会・勉強会の後,春日支援センターの関係者有志で検討会を複数回実施し,インクルーシブ教育の流れ・共生社会に向けての視覚障害学生教育と今後の本学の価値と役割に関して話し合った。以下,話し合われた内容を,(a)視覚障害学生教育と支援,(b)拠点的機能,(c)就労・キャリア教育支援,の3点にまとめて記す。 3.1 視覚障害学生教育と支援  講演会,及び,勉強会から,視覚障害学生教育・支援に特化した本学春日キャンパスが社会から求められている教育とは,各職種技能の教育に加え,視覚障害学生のエンパワメントに繋がる教育であり,それにより,視覚障害学生が,自信を持って社会と対峙し,他者とコミュニケーションを図りながら社会に貢献し,自己実現することを可能にするような教育である,と考えられる。具体的には,繰り返しになるが,長年に渡り染み付いた「障害の個人モデル」の価値観を「障害の社会モデル」にシフトさせ,当事者性を高め,自己肯定感・自己効力感を身につけさせ,セルフアドボカシーの基盤となる言語化し発信する能力,社会で他者と良好な関係を築くのに十分なコミュニケーション能力を育成する教育,である。これらの教育を各種技能教育に加えて実戦することにより,今後の共生社会実現の一翼を担える障害者人材を育成していくことが本学に期待されている役割の一つだと考えられる。  本学春日キャンパスにおいては,「障害の社会モデル」に関する教育は,管見の限り,これまで体系的には行われてこなかった。したがって,今後は,学生達が在学中に「障害認識に対するパラダイムシフト」を経験し,「障害の社会モデル」に基づく価値観を醸成できるよう,教職員側も意識的に取り組み,授業の一環として取り入れるなどしていく必要があると考えられる。  また,本学春日キャンパスならでは可能なこととして,同じ障害を持つ仲間と共に切磋琢磨し合える点があるが,この点を生かして,机上の勉学のみならず,体験型授業や学生主体の企画イベントを実施し,他大学では得難い主体性発揮の機会,自己効力感を得られる機会を多く設け,様々な局面で,障害と共にどのように問題に取り組んでいけるかを互いに学び合う機会を提供することができると考えられる。一方,学外者との交流の機会も積極的に設け,インクルーシブ社会に備えて,コミュニケーション能力,及び,発信力を高めていくことが必須であると考えられる。  支援の面では,これまでの蓄積に加え,最新のICT機器を活用した支援まで本学で十全に提供できるようにすることで,障害ゆえに埋もれていた能力を最大限に引き出し,新たな自己肯定感と共に自己理解の促進を図り,その結果をセルフアドボカシーの盤石な基盤となるよう,支援を提供する側が意識的に取り組んでいく必要があると考えられる。  また,高大接続から卒後も含めて,段階的な移行支援を実施し体系化する必要があり,セルフアドボカシーを行使する能力を養うことを目的とした段階的支援の説明,言語化する能力を強化するための各学年を混ぜたグループワークの実施等,先回りの支援・与えられるだけの支援から,支援者側と学生が目的を共有し,学生の心理的負担をできるだけ軽減しながら,生き抜く力と自信を涵養していく支援が必要であると考えられる。その上で,個々の障害特性に応じた細やかな対応を行えるよう,学内での連携体制を整えていかなければならないと考えられる。 3.2 拠点的機能  共生社会に向けて,おそらく最も社会的な要望が強いものとして,本学の拠点的機能がある。合理的配慮の法制化に伴い,本学で現在行われている文科省認定の「障害者高等教育拠点」事業,及び,全国に散在する視覚障害学生のための教材作成拠点事業を拡充し,他大学における支援をさらに強化していくことが期待されている。また,高等教育機関における全国的な視覚障害学生のネットワークを立ち上げ,視覚障害学生のコミュニティーを確立し,視覚障害学生を多面的に支援していく拠点としての機能を果たしていく必要があると考えられる。  一方,学外組織,すなわち,医療福祉機関,官公庁,企業等との連携を強化し,全国の視覚障害者の教育支援システム構築を進めていくことが求められていると考えられる。特に,企業との連携に関しては,次節で述べるように,被雇用者側のみならず,雇用主側への受け入れ体制整備支援も必要であり,そういった雇用主側に対するインターン機能を本学が担うことが求められていると考えられる。 3.3 就労・キャリア教育支援  職場の定着率向上に向けて,本学学生においては,インクルーシブな環境での教育を拡充し,コミュニケーション力を養っていく必要があると考えられる。一方,雇用主側に対しては,本学で職場での視覚障害者に対する教育・環境改善プログラムを作成し,雇用主側の研修を実施していくことで,より就職率・定着率を高められると考えられる。  また,新たな職域開拓の一つとして,アクセシビリティに関わる分野が考えられる。官公庁のWebページのアクセシビリティ検査をはじめとし,今後,共生社会に向けて,アクセシビリティに関わる需要は増えると考えられ,こういった,現行の仕事以外のところに新たな職域開拓の可能性を模索していく必要があると考えられる。 4.結語  視覚障害学生教育・支援に特化した本学キャンパスにおいて,今後,より質の高い教育・支援を提供し,社会的役割を機能させるためには,視覚障害学生のエンパワメントにつながる教育,セルフアドボカシーを行使する能力の育成,拠点的機能の拡充,雇用主側の支援も含めた就労・キャリア教育支援等が必要であることがわかった。  これらを行っていくためには,学内での部局を超えた連携,学外組織との連携が必須であり,また,これらの成果を,共生社会実現に向けて,本学でこれまで蓄積されてきた知識・技能,及び,今後生み出される技術に加えて,積極的に社会に発信していく必要があると考えられる。 謝辞 本稿は,平成30年度「障害者高等教育研究支援センター教育研究等推進経費」で実施された事業に基づいています。ご講演いただきました5名の講師の先生方には,ご多忙の折にもかかわらずご来学いただき,大変貴重なご意見を賜りました。ここに記し,深く感謝申し上げます。 参照文献 [1] 宮城愛美,小林ゆきの,田中仁,金堀利洋,天野和彦, 香田泰子.視覚障害者の高等教育における現状と課題に関する一考察―筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター主催の講演会・勉強会から―.全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN)第5回大会; 2019年6月29日(東京). [2] 神戸アイセンター・ビジョンパーク https://nextvision.or.jp [3] 熊谷晋一郎.自立は,依存先を増やすこと 希望は,絶望を分かち合うこと.TOKYO 人権.2012; 56; 2-4. [4] 科学へジャンプ https://www.jump2science.org [5] 独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)「大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書(2017)」 Current Situation and Issues Related to Higher Education of Visually Impaired Students KOBAYASHI Yukino1), MIYAGI Manabi2), TANAKA Hitoshi2), KANAHORI Toshihiro2), AMANO Kazuhiko1), KOHDA Yasuko1) 1)Division of General Education for the Hearing and Visually Impaired, Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology 2)Division of Research on Support for the Hearing and Visually Impaired, Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: This study is a renewed attempt to gain an understanding of the current state of education for visually impaired students. The aim of this study was to examine problems related to higher education of visually impaired students given the dramatically changing perspectives towards, and the status of, people with disabilities in recent years, including development of ICT, trends in inclusive education, and enforcement of the Act on the Elimination of Discrimination against Persons with Disabilities. The purpose was to improve the quality of education for visually impaired students in line with the times. Five experts from outside the university were invited to take part in this study which involved a total of four lectures and study sessions; the purpose of these was to examine the ideal state of education for visually impaired students and the social role required of NTUT. The study results indicate that it is necessary to provide education that leads to the empowerment of visually impaired students, to nurture their ability to exercise self-advocacy, to expand NTUT’s functions as a hub, and to provide support for employment and career education, both to visually impaired students and employers. Keywords: Education for visually impaired students, Empowerment, Self-advocacy, Hub functions, Support for employment and career education