レーザースキャナを用いた視覚障害者ボウリング軌跡計測システム 小林 真 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:視覚障害者ボウリング,レーザースキャナ,ボール軌跡 1.はじめに 視覚障害者ボウリングのB1クラスでは,ガイドレールの利用に加えて晴眼者アシスタントによる情報提供もなされる。視覚障害者ボウリング協会のホームページには,「12枚目を通って3番と6番の間に当たり7本倒れ,残りが1番,2番,4番です。」という例が挙げられており[1],ボール軌跡と残ピン状況を伝えていることが分かる。これら晴眼者による支援の自動化を目的として,これまで図1に示すような支援システムの開発を進めてきており,画像処理で残ピンについてはほぼ自動的に伝えられるようになった [2][3]。一方,ボール軌跡については深度センサをレーン上に跨らせ,スパット通過時の板目を計測する手法を検証しているが[4],スパット通過点のみの計測であることや機材が大きく設置に手間がかかるといった問題点があった。そこで今回,平面レーザースキャナを用いてボールの軌跡検出が可能かどうか検証することにした。 2.計測に用いたレーザースキャナ 計測用機材としてSICK社のLMS500-20000PROを選択した。同スキャナの主な性能の公称値は以下のようになっている。 ● 開口角190° ● 時間分解能25Hz / 35Hz / 50Hz / 75Hz / 100Hz ● 角度分解能0.167°/0.25°/0.333°/0.5°/0.667°/1° ただし,時間分解能と角度分解能はトレードオフの関係にあり,組み合わせは限定される。例えば100Hzの時の最高角度分解能は0.667°であり,50Hzで0.333°,25Hzで0.167°となっている。つまり速度の速いボールを捉えるには細かい時間分解能が必要になるが,その時の角度分解能が粗くなり精度が落ちてしまう。 3.ボウリング場でのデータ取得 これら時間分解能と角度分解能の状況を確認するため,高田馬場にあるシチズンプラザ1番レーンにてSOPAS Engineering Tool 3.2.4を用いた計測を行った。図2に計測の様子を示す。ファウルラインから約7m程度の位置に左脇から右を向く方向でレーザースキャナを設置し,様々な設定で3ゲーム分の投球を計測した。結果の一例として角度分解能0.167°の時の様子を図3に,25Hz・0.167°および100Hz・0.667°で計測されたスパット位置周辺でのボールの例を図4に示す。計測位置からスパットまでは約4mであるので,0.167°の設定だと1.2cm程度の分解能を持つことになる。計測結果の図からほぼ想定通りの分解能が得られていることが分かる。逆に100Hzの最高分解能である0.667°ではボール全体で3点もしくは4点程度の検出しかできないため,実用的ではない。時間分解能については,例えば20km/h前後のケースを考えてみると,100Hzの設定で約5.6cm,25Hzの設定で約22cmの距離を移動することになる。取得データも想定通りであった。ここでスパットの手前と奥の差は2ft=60.96cmであることから,一般的なボール速度の範囲内であれば晴眼者の目測に匹敵する計測は25Hzでも十分可能であると考えられる。 図1 残ピンカウントシステムの外観 図2 レーザースキャナによるデータ取得 図3 角度分解能0.167°に設定したレーザースキャナによる計測例 図4 角度分解能0.167°での計測例(上)と0.667°での計測例(下) 4.まとめ 視覚障害者ボウリングB1クラスにおける晴眼者サポート自動化の一環として,レーザースキャナによるボール軌跡の検出について基礎的な検討をした。現地調査の結果,時間分解能・空間分解能両面において実用的な値が得られることが分かった。設置場所によっては最初に倒したピン番号も計測できる可能性を持つレーザースキャナは,有用なデバイスであると考えられる。今後は有用なソフトウェア開発を進めていきたい。 謝辞 本研究は筑波技術大学競争的教育研究プロジェクト事業として実施しました。 参照文献 [1] 一般社団法人全日本視覚障害者ボウリング協会ホームページ, http://www.bbcj.org/ [2] M.Kobayashi. Automatic Pin Counting System for the Blind Bowling. Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics, 2017; 21(1), p.119-124. [3] M.Kobayashi. Blind Bowling Support System Which Detects a Number of Remaining Pins and a Ball Trajectory. Computers Helping People with Special Needs(1), LNCS8547, Springer, 2014; p.283-288. [4] M.Kobayashi. Ball Course Detection Function for the Blind Bowling Support System Using a Depth Sensor. Computers Helping People with Special Needs(2), LNCS9759, Springer.2016; p.5-8