修士論文 手話言語生成過程の枠組みを利用した不就学ろう者の手話表現の記述的研究-コーパスの作成を目指して- 令和元年度 筑波技術大学大学院修士課程技術科学研究科情報アクセシビリティ専攻 矢野羽衣子 目次 第1章 序論 4 第1節 研究の背景 4 第2節 手話言語生成過程の枠組み 5 第1項 武居(2008)に示された「手話の生成過程」 6 第2項 手話言語生成過程における先行研究の位置付け 7 第3節 本研究の目的 9 第4節 本論文の構成 9 第5節 用語の定義 11 第2章 本論 12 第1節 手話表現の収録 12 第1項 研究対象者 12 第2項 収録の手順 16 第2節 手話表現の記述 22 第1項 記述ツール 22 第2項 記述のポイント 24 第3項 時の表現 24 第4項 数の表現 28 第5項 一致動詞の空間使用 31 第6項 指さし 34 第7項 特記事項 36 第8項 まとめ 38 第3章 結論 39 第1節 考察 39 第2節 まとめ 42 謝辞 44 引用文献・参考文献 45 筑波技術大学修士(情報保障学)学位論文 第1章 序論 第1節 研究の背景 日本で使われている手話言語に関する記述的研究は以前より、多くの研究者によって重ねられてきている(大杉2019)が、不就学ろう者の身振り体系に関する記述的研究は著者の知る限り次にあげる2件のみである。 一つは、武居・鳥越・四日市(1997)による研究で、離島に住む不就学ろう者の姉妹(2名)の手話表現について分析を行い、主として形態論的な特徴を明らかにするとともに、体系的な手話言語との関連性を考察している。当論文はGoldin-Meadow and Mylander (1990)を参考にした指さしの分析、Mylander and Goldin-Meadow(1991)を参考にした身振りの分析により、表出したすべての手話表現のうち指さしが約3割から4割を占め、このろう者姉妹の身振り体系の中で重要な役割を果たしていることを記述している。二人の育った言語環境が十分でなかった事実を踏まえ、幼児期に使用していた指さしが他の言語に置き換わることなくそのまま残っているであろうこと、さらに、指さしが語彙となって定着したものもあり、ろう者の身振り体系の中で独自に指さしを発展させていると考察している。 二つ目はOsugi, Supalla and Webb(1999)で、日本の南部に位置する奄美大島の古仁屋地域に暮らすろう者とその家族や友人が使用する身振り体系が研究対象となっている。不就学ろう者12名、就学ろう者1名、きこえる人8名に基本単語リストを用いたûüと分析を行った結果、身振りの共有度の違いで身振り体系を使う集合体を特定し、さらに基本単語表現の語彙的一貫性のレベルによって、手話言語に至らないが家庭手話を超えた身振りシステムが存在することの可能性を考察している。 以上の二件は日本における不就学ろう者の手話表現を記述したものであるが、両者とも不就学ろう者から得た手話表現のデータ(動画)を公開していないため、データにアクセスできないという問題がある。日本の手話言語のコーパスを構築するプロジェクト(大杉・坊農 2015)においてもろう学校に在籍したきこえない人が対象とされ、不就学ろう者の手話表現は対象に含められていない。ここでの「不就学ろう者」とは、一般的に学校に就学した経験を持たないきこえない人のことである。日本の義務教育制度は1872(明治5)年に始まっているが、きこえない子どもについて聾学校への就学が学年進行で義務づけられたのは1948(昭和23)年と76年の開きがある。この事実に加えて、聾学校の存在が全国の市町村全てに行き渡るにも時間がかかったことが容易に予想され、とりわけ島嶼部や山間部では不就学ろう者の発生がしばらくの間続いていたことが、きこえない高齢者の施設などからの情報でわかっている。筆者自身が把握している不就学ろう者のうち最年少者は1960(昭和35)年前後に生まれた女性であり、この女性は現時点で60歳を超えている。 一般社会では、日本語の読み書きができない、物事を理解しない、知人に会わせたくないなどの理由で、家族から遠ざけられ施設に入所して暮らす不就学ろう者が多いようだ。同じ施設に暮らす手話言語を使うきこえない人たちの中でも、手話によるコミュニケーションが通じないことから、「『学校に行っていない』『何を言ってもわからない』などと否定的であり、また(自分たちの)手話(言語)を教えるという積極的な姿勢も見られなかった。(鳥越1999、括弧内の言葉は筆者が加筆)」というような状況で、手話表現を通して発信されているかもしれない彼ら不就学ろう者個人の精神価値や歴史的時間、いわば彼らの生きてきた世界に関心を寄せることさえない状況である。 先述の通り、日本における不就学ろう者の発生は現在皆無と思われ、不就学ろう者の生存がゼロとなる前に彼ら一人ひとりの手話表現を記述する研究がされない限り彼らの手話表現は消滅し、彼らの有する精神価値や歴史的時間への科学的な評価もなされないままとなる。 そこで、不就学ろう者の手話表現を映像に記録して一般に公開するコーパスの作成を視野に入れて、手話表現に観察される特徴を記述する研究に着手することで、不就学ろう者の言語生活に人文学的な評価を行う機運を高める一助となることを期して本研究を構想した。 第2節 手話言語生成過程の枠組み 不就学ろう者の手話表現に観察される特徴を記述するにあたり、身振りを使ったコミュニケーション方法(身振り体系)が、きこえない個人及び集団によって重ねられる中で、言語的特徴を獲得し手話言語の生成に至る過程を確認しておく必要がある。 本節では武居(2008)に示された「手話生成過程」を紹介し、日本における先行研究で記述されている身振り体系をこの手話生成過程に位置付けることで、分析と考察に使う枠組みとしたい。 第1項 武居(2008)に示された「手話の生成過程」 武居(2008)は、音声言語と異なる語彙体系と文法構造を持つ、自然言語としての手話言語が生成される過程を、多くの研究者による様々な研究で明らかにされてきた知見をつなぎ合わせる形で次のように説明している。 手話言語話者のいない家庭に育ったきこえない子どもの周辺で「ジェスチャー」をもとに発生する「ホームサイン」が、複数のきこえない人たちに共有されることにより「意思疎通に必要な最低限の語彙と文法を備えた身振り体系」である「ピジン手話」となる。このピジン手話をきこえない子どもが「言語入力として受け取り、第一言語として獲得していく」ことで「クレオール化された手話言語」が生成される。この生成過程を図示したものを武居(2008)から下に引用する。 図1 手話の生成過程(武居 2008 図1を一部改変) 聴者のジェスチャー 生得的な言語能力を使って個人内で発展 ホームサイン ホームサインを複数のろう者が共有 ピジン手話 第二世代に手話が伝承されるとさらに文法が精緻化 手話言語 (クレオール手話) 著者は武居(2008)の「手話生成過程」を、身振り体系の研究を進める上で有効な枠組みと考える。図1に示されるように、武居(2008)は人と人の接触の中で発生する体系の「ピジン」「クレオール」の概念を導入しているが、本研究ではまず身振り体系において手話が言語として生成される過程を解明するという立場から、あえて「ピジン」「クレオール」の用語は用いないものとする。また、「身振り」「手話」を中心とした日本語の使い方を意識して、「ジェスチャー」を「身振り」に、「ホームサイン」を「家庭手話」に、「ピジン手話」を「共有手話(言語)」にそれぞれ置き換えて、身振り体系において「身振り」から「手話」を経て「手話言語」に至る生成過程を図2に改変して用いる。 図2 身振り体系における手話言語生成過程の枠組み 身振り 手話言語環境のない家庭に育つきこえない子ども周辺で発展 家庭手話 家庭手話を複数のきこえない人が共有 共有手話(言語) 共有手話(言語)が次世代に伝承されて語彙と文法が精緻化 手話言語 第2項 手話言語生成過程における先行研究の位置付け ここで、日本における身振り体系の先行研究3件で得られた知見の範囲で、どの手話表現が、手話言語生成過程の枠組みにおいてどのカテゴリーに位置付けられるかを検討してみたい。武居(2008)によれば、武居・鳥越・四日市(1997)で記述された離島の不就学ろう者2名が使用していた身振り体系は、その2人以外のろう者と共有されることがなかった点、「手話言語ほどの語彙数や複雑性を持つことはなく、その身振りが精緻な文法を備えているとは考えにくかったという。」よって、この身振り体系は図3のとおり「家庭手話」に位置付けられる。 Osugi, Supalla, & Webb (1999) は、奄美大島(鹿児島県)の古仁屋地域でろう者ばかりの家族、夫の兄2名、近所に住むろう者複数、そしてきこえる人数名が、社会的交流の内容に応じて語彙と談話構造を共有している状況を記述している。ここで観察される身振り体系は図3で「家庭手話」及び「共有手話(言語)」の範囲を含むものと位置づける。 Yano & Matsuoka (2018) は、大島(愛媛県)の宮窪地域のろう者社会で使われている身振り体系を数と時の表現に絞って記述した結果、日本の手話言語とは違う特徴を見出している。調査対象となったろう者6名のうち不就学ろう者は1名であった。矢野・松岡 (2019) が論じている一致動詞の空間使用も含めて、より統一化された語彙と文法が観察されていることから、ここで記述されている身振り体系は図3で「共有手話(言語)」に位置づける。 そして、日本で使用されている手話言語を「手話言語」に位置付ける。 図3 先行研究で記述された身振り体系の手話言語生成過程への位置付け 武居(2008)の「手話生成過程」を下敷きに手話言語生成過程の枠組みを作成し、不就学ろう者を含むきこえない人の、日本の手話言語以外の身振り体系の位置付けを試みた。ただし、先行研究の全てが同一の方法で記述・分析されていないことから、この枠組みはあくまで研究の手ùきとしての性格を持たせるにとどめられよう。いわば、「仮説」的な位置付けである。 なお、ここで紹介した先行研究では、その研究目的で収集された手話表現の映像データが研究者間で共有されるデータベースとされていなく、一般への公開もされていないことを指摘しておきたい。 第3節 本研究の目的 本研究では、(1)一般公開を前提として、不就学ろう者の手話表現を映像に収録し理解を助けるための情報を加えたコーパス作成の資料を得ることと、(2)収録した手話表現を、先行研究における身振り体系の記述・分析で使われている語彙・文法事項に沿って記述することの二点を目的とする。 第4節 本論文の構成 本論文は、第1章序論、第2章本論、第3章結論の全3章で構成する(図4)。まず、第1章では、本研究の構想に至った経緯としての背景と、本研究を進めるにあたっての仮説に相当する「手話言語生成過程の枠組み」を展開する。次に、第2章では、研究対象者の情報と、手話表現の収集方法を述べ、先行研究で使われている文法事項に沿った記述分析を行う。第3章で、記述分析の結果を手話言語生成過程の枠組みで考察した内容と、今後に向けてのコーパス公開の可能性を述べるものとする。 図4 本論文の構成 第1章 序論 第1節 研究の背景 第2節 手話言語生成過程の枠組み 第3節 本研究の目的 第4節 本論文の構成 第5節 用語の定義 第2章 本論 第1節 手話表現の収録 第1項 研究対象者 第2項 収録の手順 第2節 手話表現の記述 第1項 記述ツール 第2項 時の表現 第3項 数の表現 第4項 一致動詞の空間使用 第5項 指さし 第6項 特記事項 第7項 まとめ 第3章 結論 第1節 考察 第2節 まとめ 第5節 用語の定義 本論文では、図2に示した身振り体系における手話言語生成過程で「身振り」「家庭手話」「共有手話(言語)」「手話言語」の用語を使うこととする。「身振り」は「ジェスチャー」と呼ばれることもあるが、一般的な意味できこえる人が日常的な会話で使う手腕や身体の動作による記号のことであり、この一般的な意味を明確にするために「身振り」を使用する。「家庭手話」は英表記の「home sign」をカタカナ表記の「ホームサイン」ではなく対応する日本語の概念を使った訳である。「ホームサイン」とすると、生成過程の中で特別なものという印象を与えかねない。身振りから手話言語に生成する過程をより明確にするためにも英表記「sign」を「手話」、「sign language」を「手話言語」と訳することで一貫性を確保するとして「家庭手話」を使用する。また、「共有手話(言語)」は「shared sign」あるいは「shared sign language」と英表記されている用語を日本語に訳したものであり、このカテゴリーに属する手話そのものがどの程度の言語的特徴をÿするかなどの基準で揺れを生じさせているために、「言語」に括弧をつけている。ちなみに図3を英表記すると、上から順に、「gestures」「home sign」「shared sign (language)」「sign language」と整合性が取れたものになる。 なお、筆者は「言語(language)」に「音声による言語(spoken language)」と「手話による言語(signed language)」があり、便宜上それぞれを「音声言語」「手話言語(sign language)」と略して使用することとし、日本で使われている手話言語については「日本の手話言語」と表現することで、用語の乱れから生じる誤解のリスクを最小限に抑えることとする。(図5) 図5 Language 言語 Spoken Language 音声による言語 略:音声言語 Signed Language 手話による言語 略:手話言語 第2章 本論 第1節 手話表現の収録 第1項 研究対象者 研究対象とする不就学ろう者の候補を選定するにあたり、将来の一般公開も含めて研究の意義を不就学ろう者自身に理解していただくためには、家族の理解を得ることが絶対的な条件であり、家族に説明するためには紹介していただく人と著者の間に信頼関係が確立されている必要がある。信頼関係が確立されている範囲で探したところ、2名の候補が上がってきた。1名はきこえない高齢者専用施設に暮らしており、もう1名は実娘の家族と一緒に暮らしている。前者は施設を運営する団体長、後者は実子、とそれぞれ著者との間に信頼関係が確立されていた。前者については2度面談を行ったが、たちまち二つの問題に直面した。一つは家族の了解を得ることが困難であること、もう一点は本人の手話表現を十分に理解する人が周囲にいなかったことである。一方、後者については家族の了解を得られ、実子が本人の手話表現を十分に理解できることから、条件をクリアできると判断できた。また、本人が過去に、家族の了解のもとで、複数の研究者から手話表現の収録を受けて慣れている点も好材料となった。 これより、研究対象者とする不就学ろう者をCさん(女性)と呼び、実子(女性)をKさんと呼ぶことにする。Cさんは1927(昭和2)年5月20日鹿児島県奄美市諸屯(加計呂麻島)で生まれた。図7に示す通り家族はすべてきこえる人である。母が病気を患ったため、母と姉妹3人は、母の実家にある同市池地(請島)で暮らすが、やがて父に引き取られ同市諸屯(加計呂麻島)で長年暮らした。実母はCさんが7、8歳の頃に亡くなっている。18歳の頃、父と一緒に姉が就職していた大阪を訪れて短期滞在している時に大阪大空襲があり、鹿児島市への一時避難の時期を経て再び奄美市諸屯(加計呂麻島)で暮らした。Cさんの妹が結婚のため同市瀬戸内(奄美大島古仁屋地域)に転居する際に、Cさんも一緒に古仁屋へ転居した。ちなみに、奄美大島(古仁屋)と加計呂麻島は現在のところフェリーで約25分、奄美大島(古仁屋)と請島は約40分を要する距離であり、便数は1日1〜3.5往復、天候で運行中止となることも多く、交通の便は良いとは言えない。 図6 奄美大島・加計呂麻島・請島の位置関係 その後、同じく不就学のろう者と1961(昭和36)年11月15日結婚した。夫にはきこえない兄が2名いた。1961(昭和36)年に長男、1963(昭和38)年に長女(Kさん)、1965(昭和40)年に次男、1968(昭和43)年には次女を出産している。実子は全員がきこえず、全員が鹿児島県立鹿児島聾学校に就学して、寄宿舎生活を送っていた。実子は卒業後全員が島外に就職したが、長男が間も無く戻り両親(Cさん夫婦)と同居して父と同じ漁師の仕事を始めている。その後、Cさん夫婦と長男の3人を含む奄美大島古仁屋地域のろう者は1991(平成3)年に研究者による最初の手話表現収録を受けている (Osugi, et al. 1999)。その後次男も戻り、長男も次男も結婚して家族を持つなどの発展があったが、2004(平成16)年にCさんの夫、2008(平成20)年に長男が死去、長男の遺族は島外に転居するなどの状況があったために、2011年(平成23)年に長女(Kさん)の家族が暮らす長崎県大村市に転居し、現在に至る。以上の生い立ちと身振り体系の使用状況を年表で示したのが表1、Cさんの親族関係を人類学で一般的に使われる系譜図で示したのが図7である。 表1 Cさんの年表 第1期 1927(昭和2)年 0歳 奄美市諸屯(加計呂麻島)で誕生 奄美市池地(請島)で暮らす 父に連れられて諸屯(加計呂麻島)で暮らす 1935-36(昭和10-11)年 7-8歳 母が亡くなる 1945(昭和20)年より少し前 18歳頃 大阪に短期滞在 1945(昭和20)年 18歳 鹿児島市に短期滞在後、再び諸屯(加計呂麻島)に戻る 第2期 1950(昭和25)〜60(昭和35)年の間 23-33歳の間 結婚した妹とþに、奄美市瀬戸内(古仁屋)に転居 1961(昭和36)年 34歳 結婚 1961(昭和36)年 34歳 長男誕生 1963(昭和38)年 36歳 長女誕生 1965(昭和40)年 38歳 次男誕生 1968(昭和43)年 41歳 次女誕生 1991(平成3)年 64歳 大杉のフィールドワークで手話表現の収録を受ける 2004(平成16)年 77歳 夫死去 2008(平成20)年 81歳 長男死去 第3期 2011(平成23)年 84歳 長崎県大村市へ転居 2020(令和2)年 92歳 現在長崎県大村市に居住 図7 Cさんの親族関係 Cさんの生い立ちに関連してコミュニケーション面を述べる。Kさんの話によると、Cさんが加計呂麻島などでの生活を通して最も頻繁にコミュニケーションを取っていたのは妹(きこえる人)で、おそらく古仁屋で使用されている手話表現ではなく、Cさんが他のきこえる人と接触する中で自然に発生した家庭手話にて意思疎通を図っていただろうということである。著者が現地でûü中、Cさんが加計呂麻島に住む知人と数十年ぶりに再会する場面に遭遇し、二人が身振りで流暢にコミュニケーションを取っている様子が観察された。話している内容は、Kさんも理解できなかったことから、Cさんが古仁屋に転居するまではCさんの周囲に発生した家庭手話を使っていた ことが推察される(表1の「第1期」)。 一方、Osugi, et al. (1999) で確認されていることは、1991年の時点で、Cさんが夫、長男、義兄、近所の不就学ろう者との間で何の支障もなく円滑に手話でコミュニケーションを取っていたことであり、実妹夫婦など近い関係にあるきこえる人とも同じ方法でコミュニケーションを取れていた事実がある。長男が島外で習得した日本の手話言語をCさんに教えることはなく、Cさんたちの手話システムを使ってコミュニケーションを取っていたことも記録されている。この記録をあわせて、序章で述べた手話言語生成過程の枠組みに照らし合わせて推測するに、Cさんは加計呂麻島で生成された家庭手話で周囲とコミュニケーションをとり続け、奄美大島古仁屋地域に転居した後は当地域に暮らす不就学ろう者(1991年の時点で少なくとも12名)との極めて日常的な付き合いの中で彼らの使う身振り体系を共有するに至った(表1の「第2期」)。なお、Osugi et al.(1999)はこの時点では家庭手話を超えたシステムとして「gestural systems(身振りシステム)」という言葉を使っており、この身振り体系は手話言語生成過程で家庭手話と共有手話の範囲に位置付けられている。 現在長崎県大村市でCさんと一緒に暮らす実子Kさんの記憶でも、Cさんの実子は全員が島外の聾学校寄宿舎生活で日本の手話言語を習得したにも関わらず、帰省した時は古仁屋地域の身振り体系を使って両親や周囲の人々とコミュニケーションを図っていたという。また、Kさんの話では、Kさんのきこえない夫も奄美大島地域の身振り体系を習得してCさんと会話を取っているという。Kさん夫婦のきこえる子ども3名は身振りを使ってコミュニケーションを取っている。それでも、Kさん家族は日本の手話言語を主なコミュニケーション手段としているために、Cさんの立場では日本の手話言語に触れる時間が増加し、「トイレ」「男」「女」「ありがとう」などわずかな数の単語に限って日本の手話言語語彙の日常的な使用が見られるという。しかし、文の表現は共有手話に頼らざるをえないそうである。CさんはKさん家族以外では、現在長崎県大村市地域のろう老人の集いに参加したり、ゲートボール活動に参加したりする中で、先に述べたような日本の手話単語の限られた使用が観察されるが、お互いに積極的にコミュニケーションを取る様子はなく、会話の輪から外れて一人黙々としているとのことである(表1の「第3期」)。 また、Cさんの読み書きに関しては、同意書に署名をする際に自分の名前を書く様子と、奄美大島の「名瀬」を指で空書きする様子を確認したが、それ以外の日本語を書く様子は観察されず、日本語の文章を見せても理解できない様子であった。カレンダーの日付を指さししても意味が伝わらないという状況である。 第2項 収録の手順 前項で叙述した研究対象者の手話表現を収録するにあたり、Cさん及びKさんと連絡を取り合う他、収録時期と場所の相談、収録機材の選定、大学における研究倫理審査などの準備が必要であった。 まず連絡については、著者も含めて当事者全員がきこえず音声電話を使用できないためメール等で連絡を取り合うことを考えたが、メールではKさんと著者の間で意思疎通ができてもCさんがその中に入れないために、信頼関係を築く観点から全てをできる限り視覚化(見える化)することを心がけ、CさんとKさん両者がいるときにビデオ電話(skypeアプリを使用)で話し合い、文字や文書が必要なときにメール等(主にLINEアプリを使用)で連絡する方法をとった。日本の手話言語(著者)と奄美大島古仁屋地域の共有手話(Cさん)の間の通訳はKさんが担当した。 連絡する中でお互いに確認した主な事項は、(1)Cさんの手話表現を収録したものを一般に公開することを前提とする、(2)長崎県大村市で手話表現を収録すると、共有手話を使ってきた生活環境ではないことや周りからのプレッシャーがかかることなどによる影響が生じる可能性があり、当事者全員が奄美大島古仁屋地域に短期滞在し、Cさんがリラックスできている中で、古仁屋地域に暮らしていた時期の生活を回想して語っていただくこととする、(3)研究の成果を発表したのちにその内容をKさんに説明する、の3点である。 次に筑波技術大学で受けた研究倫理審査における特記事項を述べる。研究対象者の手話表現を論文や発表などで紹介するときは顔にモザイクをかけるなどして個人を特定できない方法を取れないかという審査委員会の意見があった。これに対しては、本研究自体が研究対象者の手話表現をのちに一般公開することを大前提としたものであること、手話表現は音声表現と比較して顔の表情が果たす役割が大きいために上半身全体を画面に含める必要があることの二点を説明し了承を得た。次に、手話表現収録時に背景に場所や店の名前、人物など特定できる情報が写り込まないよう工夫できないかという審査委員会の意見があった。著者はこの意見に同意し、Cさんが思い出のある場所で収録する計画を変更し、特定の室内で収録することとした。日本語で作成される同意書(本論文に添付する【参考】を参照)を研究対象者が読んで理解できない時は代理者にも同意書を書いていただく必要があるとの審査委員の意見にも著者は同意し、Cさんだけでなく実子で通訳を担当するKさんにも同意書に署名をしていただくこととし、さらに同意書の内容を著者が日本の手話言語で説明し、Kさんが奄美大島古仁屋地域の共有手話に通訳してCさんがその内容に同意する手話表現、これら全てをスマートフォン(iPhone X)にてビデオ撮影する方法をとることとした(図8)。同意書の中でもとくに「手話で語る内容に対する分析・意味づけが行われる」及び「研究成果の発表及びインターネット等における一般公開に際し、自分の顔が映る動画が使用されることを承諾」の文は、一般的な内容と異なるために念入りに繰り返して説明することとした。研究倫理審査で2019年2月7日に承認を得た。(承認番号H30- 44) 18 図8 Kさん(左)が同意書の内容を共有手話でCさん(右)に説明する様子 中央は筆者 当事者3名が奄美大島古仁屋地域に滞在する期間を2019(平成31)年3月4日から11日までの8日間とした。最初の3日間はCさんとKさんが日本の手話言語環境から離れて古仁屋地域の共有手話のみの生活に戻る時間に、手話表現収録に3日間をあて、この6日間を移動日で挟む形の日程である。 表2 スケジュール 手話表現収録日は、午前と午後に各2時間の収録時間を確保し、昼の休憩時間及び夜間を使ってビデオカメラ等の充電・調整及び撮影データのバックアップ作成を行う段取りとした。なお、手話表現を収録する場所については、Cさんの次男でありKさんの実弟となる人物が古仁屋地域に戻って暮らしていたため、彼の自宅の部屋を借りることとした。Cさんは過去にも次男の自宅を度々訪れているので、Cさんがリラックスした状態で収録するにも最適の場所と言える。 手話表現収録に使用した機材は次の通りである。 ・ビデオカメラ(Panasonic AG-HMC45A)(図9) ・ハードディスクドライブ(HDD)(1TB) 1台 ・SDメモリーカード(64GB) 2枚 ・三脚 図9 ビデオカメラ 手話表現収録時の配置については、基本的に著者がCさんに誘出刺激を出し、それに対してCさんが著者あるいはKさんに向かって手話表現をしやすい人物配置を行い、Cさんの手話表現のみを撮影するビデオカメラと全体を撮影するスマートフォンを図10に示す形で配置した。ビデオカメラの画面を図11に、スマートフォンの画面を図12に示す。 図10 収録時の配置 図11 ビデオカメラの画面 図12 スマートフォンの画面 Cさんに古仁屋地域生活時期を回想して語っていただくための誘出刺激として、Cさんの姿が映る写真で古仁屋地域生活時期のものと思われるものをKさんに40枚ほどご準備いただき、その中から明瞭なもの、テーマのはっきりしているものを中心に17枚を選定して使用した(図12)。使用した写真の内容を表3に示す。なお、表中の「まちあみ番屋」はCさんの夫が加計呂麻島の沿岸の水中に網を張っておき、中に入ってくる魚を捕らえる、置き網とも言われる漁法を用いており、その網を監視するために沿岸に設けた番屋のことである。 表3 写真の内容 写真番号 様子 撮影2_1 Cさんの夫の母の長寿祝い 夫の兄弟の妻や姪たち13名揃っている様子 撮影2_2 Cさんの家族写真 昭和45年頃撮影 撮影2_3 まちあみ番屋 撮影2_4 まちあみ番屋 撮影2_5 Cさんと友人2名とフェリー内の椅子に座っている様子 撮影2_6 Cさんの夫 撮影3_1 Cさんの父大還暦祝い Cさんが父にお酒を注ぐ様子 撮影3_2 ろう協会祝賀会でのKさん夫婦と友人夫婦 撮影3_3 CさんとCさんの妹と姪の同級生 撮影3_4 Cさんの夫、姉、兄、友人 撮影3_5 孫1歳祝い Cさんの家族、Kさんの家族、Kさんの夫の父 撮影3_6 Cさんの妹の旦那がまちあみ番屋で魚をさばく様子 撮影3_7 友人が理容営業している店の前でCさんの夫、Kさん夫婦、ò 人が立っている様子 撮影4_1 まちあみ番屋の岩でCさんと妹2人で座っている様子 撮影4_2 まちあみ番屋の岩でCさんと妹2人で座っている様子 撮影4_3 Cさんが生活していた家の前を歩く様子 撮影4_4 まちあみ番屋で育てたハイùùカù 写真を誘出刺激とする方法を中心にCさんの手話表現を収録した結果は表4に示す 通り、6セッション合計5時間34秒24の長さとなった。 表4 セッション別の収録時間と使用写真枚数 セッション 日時 時間(h:m:s) 使用写真枚数 S1 2019年3月8日午前 00:56:53 S2 2019年3月8日午後 01:13:08 6枚 S3 2019年3月9日午前 01:14:34 7枚 S4 2019年3月9日午後 01:10:48 4枚 S5 2019年3月10日午前 00:32:16 S6 2019年3月10日午後 00:26:45 合計 05:34:24 17枚 収録した直後の休憩時間を利用して、収録した撮影データをビデオカメラ内のSDメモリーカードからハードディスクドライブ(HDD)に移して保存するとともに、ソフトウェア「Free MP4 Converter」にてMP4形式のファイルにû換した。また、使用した写真をスキャンしたデータも併せてJPþG形式のファイルにて保存した。 以上の手順にて、Cさんの手話表現収録を終え、次節で展開する記述作業の準備を完了した。 第2節 手話表現の記述 第1項 記述ツール Cさんの手話表現を記述するにあたり、動画を繰り返し視聴して手話表現の形や意味、役割などの情報を書き留めていく作業が必要となる。その時に再生時刻を書き込む必要がなく、書き留めた情報を整理して該当する映像を再生することが容易にできるソフトウェアとして、「EUDICO Linguistic Annotatorバーション5.8」を使用した。もともとは言語学者のためにマックス・プランク心理言語学研究所で開発されたもの(細馬・菊地 2019)で、一般的にELANと呼ばれている。ELANは記述・分析のツールとして活用できるのみならず、作成したものをインターネット上に公開して研究者や一般と共有できる意味で、著者が考えている不就学ろう者の手話表現コーパスのプラットフォームとしても最適であると考える。 図13はELANのメイン画面である。指定する動画ファイルを取り込むことで画面左に映像が出され、すぐ下のコントロールで選択した映像を再生することができる。 図13 ELANのメイン画面と記述例 画面の下部にあるタイムラインに注釈(情報やメモ)を書き込んでいくことで、「手話表現を記述する」作業となる。注釈の種類によって任意の注釈層を設定することができる。著者はCさんの手話表現を記述するにあたっての基本的な注釈層として、表5にあげる7種類(ラベル・PT句・PT・指示対象・一致動詞・タイムライン・メモ)を設定した。 表5 著者が設定した注釈層 注釈層名 内容 ラベル 音韻的に区切った手話表現を他のものと区別するための名前 PT句 指さし(Pointing)が含まれる句 PT 指さし(Pointing)の指示する人称(1、2、3) 指示対象 指さし(Pointing)が指示する内容(人や物など) 一致動詞 項の人称・数に一致して方向などに変化を見せる動詞 タイムライン 過去、現在、未来の時系列を示す部分 メモ その他に気付いた点 タイムラインの上にある赤い縦線(クロスヘア)が映像の現時点を示し、再生ボタンを押すとこのクロスヘアより先が再生される。記述を進める中で見直したい注釈に戻ってその箇所をクリックして該当する映像を再生できる点と、図13の右上部分にあるツール群にて注釈の内容を整理できる点が、手話表現の記述作業を円滑なものとした。 第2項 記述のポイント 第1章第2節で、手話言語生成過程の枠組みに位置付けて紹介した身振り体系に関する先行研究では、数・時(Yano & Matsuoka 2018)、一致動詞の空間使用(矢野・松岡2019)、指さし(武居他 1997)の項目に焦点を当てた記述がされていることを鑑み、本論文でもCさんの手話表現の記述にあたって同じ項目を焦点(ポイント)とする。各項目において先行研究の知見及び「手話言語」として認知されている日本の手話言語にも言及する形で、Cさんの手話表現の記述を進めていく。 なお、セッション1・2・3・4で収録した手話表現を記述対象とし、セッション5・6は調理道具を手に持ったり身体が大きく動いたりするなどの理由から対象に含めていない。以下、映像データの時間を<セッション番号 h:m:s>で表記する(例)。 第3項 時の表現 Yano et al.(2018)は、時の連続体(時系列)を表現するタイムラインが、発話と共起する身振りと手話表現の両方に観察され、世界の手話言語において最も使われているものは図14のように、話者の背後の空間が過去を表し、前方の空間が未来を示す形としている。日本の手話言語でもこの形がタイムラインとして使われている (岡・赤堀2011)。一方、共有手話である宮窪手話のタイムラインは、図15に示すように話者の利き手側から始まり、話者の身体の中心に向かって進む形であり、未来を表す空間はタイムライン上に含まれない。 図14 日本の手話言語のタイムライン (矢野・松岡2017b 図14を改変) 図15 宮窪手話のタイムライン (矢野・松岡2017b 図16を改変) Cさんの手話表現に、宮窪手話及び日本の手話言語に観察されるような明示的なタイムラインは観察されなかった。しかし、朝、夜、昔などの概念を示す表現は多数観察された。以降、概念を[ ]で囲んで表記する。 [朝]を示す表現は図16の通り胸前で5指を前向きに開いた両手を上方向に開く形で、[夜]を示す表現は、[朝]と同じ位置で同じ形の両手を逆となる下方向に閉じる形であった(図17)。これらの手話表現は、例えば夫の弟が交通事故で亡くなった時の状況を説明する文脈で観察される。 図16 Cさんの表現[朝] ‹S1 00:24:30› 図17 Cさんの表現[夜] ‹S1 00:24:22› 日本の手話言語と比較すると、[朝]を示す表現は図18で示す通り異なった表現だが、[夜]を示す表現は図15の通り同じ形である。図19の表現は[暗い]でも使われるので、Cさんの表現[夜]は周りが暗くなる様子を示す身振り、 [朝]は周りが明るくなる様子を示す身振りがそれぞれの語源になっていることが容易に推察される。実際にCさんの表現[朝]は日本の手話言語で[明るい]を意味する単語として使われている。 図18 日本の手話言語[朝] 図19 日本の手話言語[夜] 一方、宮窪手話で[朝][夜]の表現は図20,21のように、日本の手話言語とも異なる形である。Yano et al. (2018) によれば、東から西へ移動する太陽の実際の動きに対応した天体タイムライン上で形成された単語であるという。 図20 宮窪手話[朝] 図21 宮窪手話[夜] 次に[昔]の表現を記述する。Cさん自身が以前に機織りの仕事をしていた時を回想して語る時に観察されたこの表現(図22)は、こめかみの前方で人差し指を立てた手を数回振る形で、図22に見られるような顔の表情を伴う。 図22 Cさんの表現[昔] ‹S1 00:36:06› 日本の手話言語及び宮窪手話で[昔]を示す表現は、図23,24の通り両方ともそれぞれのタイムラインで過去を表す空間での動きとなっているが、Cさんの手話表現ではタイムラインが観察されていないため、タイムライン以外に時の概念を示す[朝]と[夜]が語源になっている可能性がある。この可能性を探るなら、明るくなりまた暗くなる様子を示す表現を繰り返し、顔の表情でその繰り返しの回数、すなわち期間の長さを表していることが考えられる。手の形が[朝][夜]の5指でなく人差し指だけが開いているのは音韻変化の可能性がある。なお、Cさんの手話表現データでは、異なる文脈において同じ形の表現が[毎日]を示す場合も観察された。 図23 日本の手話言語[昔] 図24 宮窪手話[昔] 第4項 数の表現 Zeshan et al.(2013)は、3か所の村落地域での調査結果を踏まえて、世界中の手話言語の基数システムには、加算(additive)型、乗算(multiplicative)型、形態音韻複合(simultaneous morphological process)型、減算(subtractive)型、デジタル(digital)型の5類型が見られることを紹介している。 日本の手話言語では、「14」を表現するときに、まず[10]を出して次に[4]を出す方法を取り、これは加算型に該当する。「20,000」を表現するときは、まず[2]を出して次に[10,000]を出す方法が取られ、これは乗算型である。「20」を表現するときは、人差し指と中指を立てて同時に曲げる方法が取られ、これは[2]と[10]の二つの単語が同化したもので形態音韻複合型とされる。減算型は日本の手話言語には見られない。デジタル型は例えばロッカーの番号「162」を伝えるときに[1][6][2]と連続して表現する方法を指す。このデジタル型は手話言語を知らないきこえる人にも通じる身振りであるが、加算型、乗算型、形態音韻複合型は手話言語特有のものである。 共有手話である􀀀宮窪手話では、Yano et al.(2018)がデジタル型の存在を記述しており、例えば「23」は最左から右方向へ順番に[2][3]と連続して表現する方法をとる。他の類型は見られないとしているが、お金の表現に関しては「500」を示すときに、まず[100]を出して、次に乗じる数の[5]を出す方法が取られるなど、乗算型や加算型が観察されるという。 Cさんの手話表現では年齢、子どもや兄弟の人数を話す文脈で「1」から「10」までの基数の表現が観察され(表6)、手の形は奄美大島古仁屋地域の高齢のきこえる人が一般的に使用する身振りと同じ形である。なお、「10」より大きな数は、掌が前を向いている両手を前方に何度か往復させる方法を用いている様子が観察された。 表6 Cさんの基数の手話表現 つまり、Cさんの手話表現では「1」から「10」までの基数はデジタル型であり、「10」を超える数については正確な数を問わず一様に[10]を繰り返す表現が使われていることになる。日本の手話言語、宮窪手話、Cさんの手話表現を Zeshan et al.(2013)の類型に沿って整理したのが表7である。 表7 基数システムの類型 加算型と乗算型は日本の手話言語で観察され、宮窪手話においては特定の範囲(お金の表現)で観察される。形態音韻複合型は日本の手話言語のみに観察される。減算型はどれにも観察されない。デジタル型はすべてに観察されるが、日本の手話言語では特定の範囲(番号を伝えるときなど)で観察される。第3章でこの結果を手話言語生成過程の枠組みで考察したい。 なお、で「7」を示す異なる表現が観察されたので特記する。前述の[7]を[7a](図25)として、異なる表現[7b](図26)と共に図26に再掲する。 図25 Cさんの表現 [7a] 図26 Cさんの表現 [7b] [7b]はCさんが趣味としているパチンコの話をしている時に観察されたもので図27のようにパチンコ台の中央のùロットに現れる連続した3個の「7」を意味していることがわかった。 図27 パチンコ台の中央のùロットに出る連続した3個の「7」 [7a]がきこえる人も共通して使っている身振りであるのに対し、[7b]は他に見られないCさん独特の手話表現であり、「7」の数字の形を曲げた人差し指で表現していることが明らかである。これは、Cさんがものを数えるときの「7」を基数の一つとして認識していても、「7」の表記そのものを基数の概念と結びつけて認識はしていない可能性を示すものと考えられよう。 第5項 一致動詞の空間使用 話者自身を含む空間において文法関係を示すという、共通した特徴を有する手話言語では、動詞が取る二つの項にそれぞれ異なる空間位置が割り当てられ、手の動きの始点と終点がその空間位置を利用する「一致動詞 (agreement verbs)」が存在する(Padden 1983)。日本の手話言語の一致動詞の多くは図28に例示されるように、一人称は話者自身の身体、二人称は聞き手の位置、三人称すなわち一人称および二人称以外の人や物、またその場にいない人や物の人称は任意に割り当てられた空間位置を使用する。図28では、一致動詞[あげる]において手の動きの始点が「誰が」(主語)の位置を示し、終点が「誰に」(間接目的語)の位置を示している。①はその場にいない「誰かが」同じくその場にいない「誰かに」あげるという関係を、②は話者が目の前にいる相手にあげるという関係を、③はその場にいない「誰かが」話者自身にあげるという関係を示す手の動きである。この文法関係を矢印で示したのが図29で、日本の手話言語では多くの一致動詞が二つの項それぞれの人称に一致した手の動きを見せる。5指を開いた手を目元から前方に出して閉じる形の[惹かれる]など、②の動きがあっても①及び③の動きがないという制約のある一致動詞も日本の手話言語に観察される。 図28日本の手話言語の一致動詞の空間使用例(松岡 2015 p46図を改変) 図29文法関係の略図 矢野・松岡 (2019) は、宮窪手話の話者に動画の描写課題を使って調査した結果として、一致動詞の主語は人称を問わず常に話者自身の体を空間位置としている点、目的語が三人称であっても話者自身の体を目的語の空間位置とする点などから、日本の手話言語に見られるような一致動詞の空間使用が確立されていないとしている。実際の日常会話では、話者が言及する対象となる人や物が話者から見える範囲に存在するときには、その人や物を空間位置として使うことが観察されるため、図28と照らし合わせると、②の動きがあっても①及び③の動きがないという記述になる。日本の手話言語と宮窪手話における一致動詞の空間使用を図29に参照させる形で表8に整理した。 表8 一致動詞の人称に一致した空間使用(1) 関係 日本の手話言語 宮窪手話 ① ○(一部×) × ② ○ ○ ③ ○(一部×) × Cさんの手話表現データでは、宮窪手話と同じく話者自身の体を空間位置とする動詞表現がほぼ全てであり、一致動詞の空間使用は確立されていないものと思われる。ただし、人称に一致して空間位置を利用する一致動詞が一つ観察されたことは特筆すべきであろう。以前にしていた機織りの仕事や長男の家庭事情を回想する文脈‹S100:35:09〜00:44:41›‹S3 00:22:55〜00:40:11›で、親指と人差し指を閉じる形の[話す]が使われており、主語が一人称(図30)、主語が三人称で間接目的語が一人称(図31)、主語と間接目的語が異なる三人称(図32)と、人称に一致して手の動きの方向が変化する事象が観察された。 図30 話す ‹S3 00:25:20› 一人称 図31 話す ‹S3 00:35:42› 三人称→一人称 図32 話す ‹S3 00:36:13› 三人称←→三人称 しかし、人称に一致して空間位置を使う動詞がこの[話す]以外に見られなかったことと、収録場所にいたKさんと著者、テーブル上にある写真などを空間位置として使用する例は頻繁に観察されたことから、Cさんの手話表現は[話す]を例外として宮窪手話と同じ状況にあるとして差し支えないと考える。表8にCさんの手話表現における一致動詞の振る舞いを加えたのが表9である。 表9 一致動詞の人称に一致した空間使用(2)関係 日本の手話言語 宮窪手話 Cさんの手話表現 ① ○(一部×) × × ② ○ ○ ○ ③ ○(一部×) × × 第6項 指さし 世界各地の手話言語において、指さしはその場にいる人やある物を指示するのみならず、その場にない人や物、そして抽象的な事柄を指示したり、文末において文法関係を示したりするという共通した特徴が見られる(原大介・黒坂美智代 2013)。 宮窪手話における指さしの記述はないが、武居他(1997)は国内の離島に住む不就学ろう者2名(姉妹、当時67歳と70歳)の身振り体系をビデオ収録した上で、指さしの記述分析を行っている。Goldin-Meadow and Mylander(1990)を参考に、3種類(①「具体物への指さし」②「その場にないものへの指さし」③「語彙化した指さし」)に分類した結果、30分の間に表出された身振り単語(1039語)の約3割(309)が指さしであり、次の点が見出されたという。①具体物への指さしは198(指さし全体の半数以上)あり、その場にいる人やある物を指すことでそれ自体の意味を表していた。②その場にないものへの指さしは54あり、亡くなった人の家の方向を指さして亡くなった人の意味を表すなどで使用されていた。③語彙化した指さしは33あり、例えば市街地のことを述べる文脈で指さしの指す方向が市街地の方向とは一致しておらず、指さしが一つの語彙として使われていた。武居他(1997)の Table1,2をひとつの表にまとめたのが表10である。【 】内の%は全体の身振り単語中の割合、《 》内の%は指さしの範囲での割合を示す。 表10 離島で観察された指さしの分類(武居他 1997 Table1,2を改変) 武居他(1997)の手法をôり入れて、Cさんの手話表現データからほぼ同等の長さになる31分13秒の部分を任意に選定し指さしの分類を行ったところ、表11に示される結果を得た。 表11 Cさんの手話表現で観察された指さしの分類 表10と表11は対象者が話す内容(テーマ)が全く異なるために、指さしが全体に占める割合、指さしの種類別割合を比較することはできないが、Cさんの手話表現でも指さしが多く使われている点と、指さしの種類も3種類全てが認められる点が明確に認められる。その場にいる人やある物を指すことでそれ自体の意味を表す「具体物への指さし」は、目の前にいるKさんを指す例(など)が目立ったほか、自分の指をさす例(など)もあった。「その場にないものへの指さし」は、友人の住んでいる家の方向を指す例(< S1 00:14:48>など)が見られた。最後に「語彙化した指さし」は東京のことを述べる文脈において実際の方向と一致しない、ある特定の方向(右上)を指す指さしの一貫的な使用が見られたほか、非常に興味深い表現があったので記述する。Cさんが池地(請島)から諸屯(加計呂麻島)に引っ越した時のことを述べる文脈で、加計呂麻島が大きな窓から見えている(直線距離で3キロ程度)状況であったが、図33に示すように窓から見える島ではなく逆方向を指さす表現が観察された(例:‹S1 00:29:22〜00:33:59›)。著者が窓の外に見える加計呂麻島を指さして確認すればCさんは肯定するが、以後の話で再び加計呂麻島に言及するときも同じ形が見られた。これはCさんが加計呂麻島を指示するときに「具体物への指さし」ではなく「語彙化した指さし」を使用していたことを明確に示す記述データとなる。 図33 実物の方向と指さしの方向の違い 第7項 特記事項 前項までにCさんの手話表現を、数、時、一致動詞の空間使用、指さしに焦点を当てて記述してきた。本項では、これら以外に著者の注目を引いた事象を記述する。Cさんが兄弟(自身を含めて4名)、夫の兄弟(4名)、自身の子ども(4名)について話すなどの文脈で、人数がわかっているにもかかわらず、常に5指全てを開いて掌を前に向けた非利き手の指を親指から順番に折っていき、最後に人数に相当する基数の表現をする事象が度々観察され、Cさん独特の話法として完成されているものという印象を受けた。表12は一例で、Cさん自身の子どもについて話す文脈において、まず左手親指を右手人差し指で指して、親指が指す長男について述べた後、その親指を右手人差し指で添えるように折り、次に人差し指を指すといった動作を順番に繰り返した後、最後に基数の[4]を表現している。これは著者が誰か知人の子どもの人数を確認するために思い出す方法と類似しており、アメリカ手話言語(American Sign Language)で Liddell(2003)が「list buoys」と呼ぶものに相当する。浅田(2017)はこれを「列挙浮標」と訳し、日本の手話言語においても同様の話法が観察される様子を「内向き型列挙浮標」として記述している。ただし、これはあくまで「順不同の要素を列挙する・想起補助・記憶確認としての機能」とされ、Cさんが総数を認識しているにも関わらずこれと同じ方法をとっていることは特記されよう。 表12 Cさんの手話表現における「列挙浮標」 長男 海で亡くなったことを述べる ‹S1 00:18:59› ‹S1 00:19:00〜00:19:01› ‹S1 00:19:01› 長女(Kさん) 目の前にいるKさんを指さす (具体物の指さし) ‹S1 00:19:01› ‹S1 00:19:01〜00:19:02› ‹S1 00:19:02› 次男 ひげと大きな目を表し、いつも 座っている位置を指さす (ないものの指さし) ‹S1 00:19:02› ‹S1 00:19:03〜00:19:05› ‹S1 00:19:05› 次女 東京で仕事していることを述べ、ある方向を指さす (語彙化された指さし) ※‹00:19:09〜00:19:23›は 他の説明 ‹S1 00:19:05› ‹S1 00:19:06〜00:19:09› ‹S1 00:19:23› 第8項 まとめ 本節ではCさんの手話表現データを記述する方法について述べた後、数、時、一致動詞の空間使用、指さしに焦点を当てて記述し、最後に特記事項として数え方に関する記述を加えた。離島の家庭手話、宮窪手話、日本の手話言語について先行研究で得られている知見も合わせて紹介することで、Cさんの手話表現を対比させて記述することができた。第3章で、これら記述内容を身振り体系における手話言語生成過程の枠組みに沿って考察する。 第3 章 結論 第1 節 考察 本節では、Cさんの手話表現について記述した内容を、身振り体系における手話言語生成過程の枠組みで考察する。手話言語生成過程が、前の段階で見られない事象が次の段階で見られるという階層性を包含するものであることを念頭におくものとする。 まず、時の表現については、日本の手話言語と宮窪手話に観察されるタイムラインがCさんの手話表現にみられないことを指摘した。手話言語生成過程の枠組みでタイムラインが観察されるのは共有手話及び手話言語の段階であるので、Cさんの手話表現は共有手話以前の段階に位置付けられよう。 次に数の表現をみると、基数については日本の手話言語に加算型、乗算型、形態音韻複合型、デジタル型が見られるが、宮窪手話は基本的にデジタル型のみで、お金に関する数の表現で加算型と乗算型が見られる。Cさんの手話表現ではデジタル型のみが観察される。手話言語生成過程の枠組みで、デジタル型から加算型、乗算型などを加えて生成されていくと仮定すると、Cさんの手話表現は共有手話以前の段階に位置付けられよう。なお、加算型、乗算型などが発展していくにつれてデジタル型の使用が減じる現象が手話言語の段階で見られるという階層性が考えられよう。 一致動詞の空間使用については、日本の手話言語では多くの一致動詞が二つの項それぞれの人称に一致した空間位置を使用するのに対し、Cさんの手話表現では 動詞[話す]以外に空間位置を使用する動詞が見られず、宮窪手話とほぼ同様の状況と思われる。矢野他(2019)は、イスラエルのある地域で使われている共有手話の一致動詞は、主語・目的語が三人称であっても、話者自身の体を用いて表される(Padden et al. 2010)ことと、バリ島の共有手話では動詞の項が省略されたり、有生性や視覚的な目立ちやすさが言語表現により詳細な情報を加えたりすることを紹介している。これら世界各地の共有手話に関する記述的な知見をあわせると、手話生成過程の枠組みでは、手話言語の段階で観察される一致動詞の空間使用が家庭手話および共有手話ではかなり限定されるがゆえに、Cさんの手話表現は共有手話以前の段階に位置付けられよう。 指さしについては、武居他(1997)による離島の身振り体系に見られる3種類の指さしがCさんの手話表現でも観察された。よって、手話言語生成過程の枠組みによると、Cさんの手話表現は離島の身振り体系が該当する家庭手話以降の段階に位置付けられよう。 最後に、自身の子どもなど人数がわかっていても、その人数と関係なく5指全てを開いた非利き手を使用して親指から利き手の人差し指で弾くように順番に折って該当するものを述べる話法が取られていた点の記述に触れる。これは世界各地の手話言語にみられる「列挙浮標」と同等の形式をとるが、手話言語における機能とは全く異なる。文献での記述はないが、著者が知る限り共有手話の宮窪手話では手話言語と同様の機能で列挙浮標が観察される。この事実を合わせて考えるに、手話言語生成過程の枠組みで、Cさんの手話表現は共有手話以前の段階に位置付けられよう。 以上、記述した項目それぞれの内容を手話言語生成過程の枠組みで、Cさんの手話表現が各項目で見ると手話言語生成過程のどこに位置付けられるかを考察した。家庭手話以降の段階であり、かつ共有手話以前の段階であるというのが現時点での結論となる。ただし、語彙化された指さしが発達している点、限定的ながらも二つの項の人称に一致して変化する動詞が存在する点などから、家庭手話に位置付けられる離島地域の身振り体系(武居他 1997)よりは共有手話に位置付けられる宮窪手話(Yano et al,2018)に近いという印象を持つ。第1章第2節第2項で、Cさんが50年以上にわたって属していた奄美大島古仁屋地域の身振り体系を、家庭手話から共有手話の範囲に及ぶと位置付けているが、上記の考察の結果から、Cさんの手話表現は家庭手話と共有手話の中間、強いて言えばより共有手話の段階近くに位置付けられると考える(図34の●)。そもそも身振り体系における手話言語生成過程は研究上段階を区別している枠組みであって、実際には連続して変化していく「グラデーション」の様相を呈しているものと見る必要がある。よって、ここではCさんが年表(表1)の第1期において身振りの段階から家庭手話の段階に至る身振り体系を身につけ、第2期において古仁屋地域に暮らす不就学ろう者の集団ですでに生成されていた身振り体系(共有手話)を身につけ、現在は第3期で手話言語が使われる環境に置かれているが、日本の手話言語を身につけるまでは至っていない、すなわち第2期で身振り体系の新たな習得が鈍化しているであろうことを推論できるところまで至ったことに意味があると考える。 図34 手話言語生成過程におけるCさんの手話表現の位置付け Cさんの手話表現を図34のように位置付けたことに関し、Osugi et al.(1999)が記述した奄美大島古仁屋地域の不就学ろう者集団における社会的交流の状況に言及することは有益であろう。 図35 大杉 (1990) 図4「インフォーマント間の社会的交流のモデル」 図35で、黒色の丸はきこえない人、白色の丸はきこえる人を示す。内側の円の中にいる使用者は日常的に密接な関わり合いを持ち、外側の円の外にいる使用者はお互いの関わり合いがほとんどないことを示しており、語彙と談話構造の調査もこの社会的交流の程度に応じた結果が出ている。内側の円の中には5人のきこえない人と3人のきこえる人が含まれており、これらは古仁屋地域に暮らす大きなろう者家族のメンバーであるとの記述から、本研究の対象であるCさんはこの円の中に含まれていることになる。この事実を先述の考察内容とあわせると、Cさんが所属した不就学ろう者の家族を中心とした地域集団において、50年以上の期間をかけて身振りを起点に家庭手話の段階を経て共有手話が形成されて来たことが推察できる。なお、この共有手話の集団はCさんの長崎県大村市への転居をもって消滅している。ただし、今回の調査でCさんが古仁屋地域を再訪した際、訪れた親族の家できこえる親戚との間に円滑な身振りコミュニケーションが発生していたことを記しておく。 第2 節 まとめ 本研究は、(1)一般公開を前提として、不就学ろう者の手話表現を映像に収録し、手話表現の理解を助けるための情報を加えたコーパスを作成することと、(2)収録した手話表現を、日本における先行研究で身振り体系の記述・分析に使われてきた語彙・文法事項に沿って記述することの二点を目的として進めた。 (1)については、家族の同意を得て不就学ろう者の手話表現を収録することが可能となり、その経過と方法を第2章第1節において述べた。今後はCさん以外の個人情報に留意してKさんと確認を取りつつ、言語的な情報を加えたコーパスをELAN形式(図13に示したメイン画面)で公開することになる。日本国内で使用の記録がある身振り体系のコーパスはこれまで公開されていないため、本研究の成果として近日中に公開するコーパスは研究者間で使用できるだけでなく、社会教育や学校教育の分野で不就学ろう者の言語生活の教育に役立てることが可能となるであろう。 目的(2)については、第1章第2節で身振り体系における手話言語生成過程の枠組みを仮定し、第2章第2節でCさんの手話表現を、離島の身振り体系、宮窪手話、日本の手話言語と比較して記述し、第3章第1節において記述内容を手話言語生成過程の枠組みで考察した。その結果として、①Cさんが第一言語を獲得する時期に、音声体系では非言語として扱われる身振り表現をインプットして周りのきこえる人たちと接触する中で家庭手話を身につけたこと、②成人してから多くの不就学ろう者の集団社会に入り彼らと接触する中で、いくつかの文法機能を備える共有手話を身につけたこと、③壮年期以降は日本の手話言語を使うろう者と日常的に接するようになったものの、わずかな手話単語を身につけた程度で手話言語を身につけるには至っていないことの三点が明らかになった。これらの結果は、きこえる、きこえないに関わらず、人間に生まれながらして備え付けられているとされる言語生成機能の存在を示唆する ものであり、今後Cさんの手話表現のデータをコーパスとして公開することで、さらなる分析が期待される。 本研究では、Cさんの手話表現を「共有手話」段階の初期に位置付けることができ、この階層性を示唆する手話言語生成過程の枠組みは今後の身振り体系の研究に役立つと考える。起点としての「身振り」も含めた各段階にある身振り体系のシステムそれぞれを共通した項目に沿って記述したことで、身振り体系における階層性の一層明確な手話言語生成過程の枠組みが構築されたと考えられる。今後、本研究が、音声言語を含めた人間の言語生成過程の解明に向けて、少しでも貢献できることを期待する。 謝辞 本研究を進めるにあたり、指導教員の大杉豊教授から熱心かつ丁寧なご指導を賜りました。本研究の調査にご協力いただきましたC様K様、英語論文の翻訳を手伝ってくださった安達そら様にも感謝申し上げるとともに、皆様の今後のご活躍と健康をお祈り申し上げます。また、本研究を行うにあたり、多くのご助言をくださいました、副指導教員の小林ゆきの講師、大杉研究室のゼミの皆様、筑波技術大学大学院情報アクセシビリティ専攻および産業技術学専攻の先生方、先輩・同期・後輩の皆様に心から感謝いたします。最後になりますが、私の研究生活を応援してくださった家族、友人に、「感謝」の気持ちを伝えます。本研究の成果と経験を活かして、今後の研究に役に立てるよう貢献してまいりたいと思っております。 引用文献・参考文献 1. 浅田裕子(2017)「日本手話の「列挙浮標」(List Buoys)について」日本言語学会 第155回大会ポスター発表.立命館大学. http://www.lsjapan.org/modules/documents/LSJpapers/meeting/155/papers/g/G-7_155.pdf(最終検索日:2020 年 1月8日) 2. 浅田裕子(2019)「日本手話における等位接続の特性(1) 等位接続の同時性における非対称分析」『手話学研究』VOL.28 NO.1,20–30. 3. 浅田裕子(2019)「日本手話における等位接続の特性(2) 二タイプの列挙浮標」『手話学研究』VOL.28 NO.1,31–39. 4. 大杉豊・坊農真弓(2015)「手話人文学の構築に向けて(2)−手話言語コーパスプロジェクト−」『手話・言語・コミュニケーション』No.2,p99-136. 5. 大杉豊(2019)「手話言語研究の現状と発展」全日本ろうあ連盟編『手話言語白書-多様な言語の共生社会をめざして』明石書店,131-139. 6. 岡典栄・赤堀仁美(2011)『文法が基礎からわかる 日本手話のしくみ』大修館書店. 7. 武居渡・鳥越隆士・四日市章(1997)「離島に住む成人聾者が自発した身振りの形態論的分析」 『特殊教育学研究』VOL.35 NO.3,33-41. 8. 武居渡(2008)「手話研究の現状と展望-手話研究が言語獲得研究に貢献できること-」『認知科学』VOL.15 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