修士論文 聴覚障がい者の双方向コミュニケーションのための最適な表出手段に関する研究開発-遠隔情報保障システムでの実現に向けて- 令和元年度 筑波技術大学大学院修士課程技術科学研究科情報アクセシビリティ専攻 吉田幹矢 目次 第 I部 序論 1 第1章 研究背景 2 第1節 我が国における聴覚障がい者に関する現状 2 第2節 我が国における聴覚障がい学生支援の現状 2 第2章 先行研究 5 第1節 パソコンテイクにおける困難と期待 5 第2節 遠隔情報保障システムを用いた際の表出方法に関するニーズ調査 5 第3節 パソコンテイクシステムにおける双方向性 6 第4節 アメリカにおけるパソコンテイク利用時の表出手段 6 第3章 研究の目的と用語の整理 8 第1節 本研究の目的 8 第2節 用語の整理 8 第 II部 本論 12 第4章 ニーズ調査 12 第1節 目的 12 第2節 方法 12 第3節 結果 16 第4節 本章のまとめ 20 第5章 開発したシステムについて 22 第1節 システム概要 22 第2節 遠隔情報保障システム T-TAC Captionについて 22 第3節 開発環境について 23 第4節 通知機能の開発 23 第5節 表出機能 1の開発 25 第6節 表出機能 2の開発 28 第6章 システム評価実験 32 第1節 目的 32 第2節 方法 32 第3節 結果 43 第4節 本章のまとめ 75 第 III部 結論 79 第7章 まとめ 80 第8章 今後の課題 82 引用・参考文献 85 資料 78 謝辞 103 筑波技術大学 修士(情報保障学)学位論文 第 I部 序論 第1章 研究背景 第1節我が国における聴覚障がい者に関する現状 2016年 4月から施行されている「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(別名:障害者差別解消法)」によって、高等教育機関における合理的配慮の提供が、国立大学法人の場合は法的義務、学校法人の場合は努力義務となった。ここで合理的配慮とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定められている(内閣府 , 2013)。特に聴覚障がい者に対する合理的配慮として情報保障が挙げられている。情報保障とは、「場を共有するすべての人が、同質、同量の情報を得て、その場に参加できるようにするための活動」とされている(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク , 2007)。 また日本学生支援機構が毎年実施している調査によると、現在の高等教育機関には 1,972名の聴覚障がい学生(下線を付した用語は第 3章第 3節用語の整理に説明を記した)が在籍しており、年々増加している(日本学生支援機構 , 2019)。障がいのある学生に対する支援はそれぞれの状況に合わせた個別の対応が必要であるが、その基盤を明確にし、支援に関わる全ての関係者で共有するため、文部科学省は 2017年に「障害のある学生の修学支援に関する検討会」を開催し、検討結果を「第二次まとめ」として取りまとめた(文部科学省 , 2017)。その中の「 6.各大学等が取り組むべき主要課題とその内容」という項目において、「授業においては、講義、演習等その形態を問わず、障害のある学生が障害のない学生と平等に参加できるようにアクセシビリティを確保することが重要である。その際の手段として、例えば、言葉の聞き取りや理解・発声・発語等に困難を示す学生のために、必要な情報保障を行う、コミュニケーション上の支援を行う、などが挙げられる。」と記載されている。 第2節 我が国における聴覚障がい学生支援の現状 現在、高等教育機関における障がい学生支援を担当する部署・機関があるのは、 1,128校で全体の 96.5%である。その中で専門部署・機関を設置しているのは 250校で全体の 21.4%と、障害者差別解消法が制定される前である 2012年度と比べると、非常に多くの機関が専門部署を設置している( Fig. 1-2-1 参照)。 Fig. 1-2-1 障害学生支援専門担当部署設置状況(日本学生支援機構, 2019) また、高等教育機関では様々な情報保障が提供されている。聴覚・言語障害に絞ってみてみると、何らかの支援を提供している機関が 371校、そのうちノートテイクを実施しているのが 153校で 41.2%、パソコンテイクを行っているのは 109校で 29.4%であると報告されている( Fig. 1-2-2 参照)。 Fig. 1-2-2 聴覚・言語障害学生への主な授業支援(日本学生支援機構, 2019) 一般的にノートテイクによる音声情報を手書きで紙に書き写せる量は、 1分間に 60~ 70文字であると言われている(森本ら , 2003)。それに対しパソコンテイクの場合、 1分間に 120~ 180文字程度の入力ができると言われ、 1文を複数人で入力する連係入力を用いれば、原文の 8割程度を伝えることが可能である(三好 , 2016)。 現在用いられているパソコンテイクは、テイカーが聴覚障がい者と同じ場所で入力を行う「現地入力」と、テイカーが聴覚障がい者と異なる場所で入力を行う「遠隔入力」に分けられる。遠隔入力の導入によって「テイカーの確保」、「テイカーの適材適所への配置」、「移動を伴う場面での利用」、「聴覚障がい学生の行動・心理面への配慮」といった効果が期待できる(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク , 2016b)。 第2章 先行研究 第1節 パソコンテイクにおける困難と期待 有海( 2013)は、パソコンテイクの特徴を明らかにする中で、聴覚障がい学生にとってパソコンテイク利用上の困難さは何なのか、またパソコンテイクに何を期待しているのかを報告している。パソコンテイク利用上の困難さについては、 6つの授業場面において 5段階評価で尋ねている。この調査の中では、「教員のみが話す場面」、「視覚教材を用いる場面(配布資料なし)」、「プリント等の配布資料や教科書中心に進む場面」、「ゼミ討論場面」、「実技・実習場面」の 5つの場面において、「提示される情報と話者の話との間に時間差が大きく、質問に即座に答えられない」という項目が非常に高い値を示している。また、「ゼミ討論場面」においては「提示される情報と話者の話との間に時間差が大きく、発言のタイミングが掴めない」という項目も非常に高い値を示している。自由記述においても「タイムラグが大きく、発言のタイミングを逃しやすい」といった速報性に関する回答が得られている。 また、授業場面への参加を促す工夫で、「リアルタイムに伝えてほしい」、「質問は優先的に伝えてほしい」という項目の期待度が高かったと示されている。 第2節 遠隔情報保障システムを用いた際の表出方法に関するニーズ調査 三好ら( 2015)は、遠隔地にテイカーがいる「モバイル型遠隔情報保障システム」を利用した際に、聴覚障がい学生はどのような手段を用いて表出を行いたいのか、また、どのような手段は利用したくないのか、筑波技術大学の学生に尋ねた結果をまとめて報告している。この調査の中では表出手段の選択肢として「筆談」、「発話」、「(情報保障を受けている端末内に文字入力の機能があると想定して)端末に文字を入力して見てもらう」、「(情報保障を受けている端末とは別の)自分の携帯に文字を入力して見てもらう」という4つが用意されていた。 その結果、「発話」と回答した学生が最も多く全体の約 60%であった。また「発話」とそれ以外の3つの手段の間で、それぞれ危険率 1%の有意差があることが示されている。「発話」を選んだ学生は、意思伝達の容易さやリアルタイム性を大きな利点と考えており、コミュニケーション上の時間遅延とそれに伴う双方の心理的負担を嫌うことがわかっている。また、「(情報保障を受けている端末内に文字入力の機能があると想定して)端末に文字を入力して見てもらう」を選んだ学生は、自身の発話能力を判断し、意思伝達の容易さ、確実性、そしてリアルタイム性を大きな利点と考えていることもわかっている。 この結果より「発話で自分の意思を伝えたい」と回答する学生が約6割存在する、という傾向や重要性を理解しながらも、発話に依存しなくても済むような残りの約4割の学生のためのインターフェースの開発や配慮が必要であることが述べられている。 第3節 パソコンテイクシステムにおける双方向性 栗田( 2016)は、パソコン要約筆記の今後として、 2030年を目標に「相互コミュニケーションのために発話機能が必要である」と記載している。 遠隔情報保障を実現するための報告(足尾ら , 2012;坂本ら , 2017)は散見されたが、その中で聴覚障がい者の表出に着目して研究を行っている報告は確認できなかった。 第4節 アメリカにおけるパソコンテイク利用時の表出手段 亜細亜大学における学習環境の改善点を見い出すために、2人の聴覚障がい学生に対してインタビューを行った報告がある( Joseph, 2009)。その中で、対象者がアメリカ留学中に体験した ”Typewell(タイプウェル) ”と呼ばれるパソコンテイクシステムについての記載があり、 Typewellには、パソコン上に2つのウインドウがあり、1つは字幕表示用、もう1つはテイカーに聞き返す、またはテイカーを介して講師に質問するためのものである。講師に対する質問が入力された際には、テイカーは発話によって講師に質問をする、という方法で表出を行っている、と述べられている (Joseph, 2009; Judy,2002)。 この機能については、筆者が本学の異文化コミュニケーション B・Gでロチェスター工科大学 (RIT)/国立聾工科大学 (NTID)を訪れた際に体験している。その際、質問用のウインドウは表示されていなかったが、画面上部に入力用のテキストボックスを確認することができた( Fig. 2-4-1参照)。テキストボックスから入力された内容は、字幕とは異なる状態で利用者とテイカーの画面に表示される。 また筆者が入力担当者に、この機能の利用頻度について尋ねたところ、「ディスカッションの際にはよく利用されている」という回答が得られた。また、質問する際の手順については「基本的には学生に任せているが、あらかじめ質問を入力してから挙手をして指名してもらうことを提案している」という回答が得られた。 Fig. 2-4-1 Typewell動作画面 表出用チャットボックス 表出内容 第3章研究の目的と用語の整理 第1節本研究の目的 情報保障システムを構築する上で、聴覚障がい学生が情報を得るのに特化しているだけでなく、意見を表出することもできる、双方向コミュニケーションのための機能が必要である。現在利用されている様々な情報保障システムには、意見表出に流用することができるような機能はあるが、それが最適な表出方法であるかどうかは検証されていない。また近年増加している遠隔入力による支援では、聴覚障がい学生は遠隔地にいるテイカーから表出に関する何らかの支援の期待は薄くなるであろう。そこで本研究では、現在利用されている遠隔情報保障システムの1つである T-TAC Caption(ティータック・キャプション)に表出のための機能を追加し、最適な双方向コミュニケーションの手段を見出す。具体的には以下の点について明らかにすることを目的とする。 1.聴覚障がい学生に対して情報保障を行っている大学を対象に、聴覚障がい学生・テイカー・支援室職員から、テイク利用時における表出に関するアンケート調査を行うことで、パソコンテイクのシステムに必要な表出の機能を明らかにする。 2.アンケート調査によって得られた結果から、遠隔情報保障システムの 1つである T-TAC Captionに表出の機能を追加開発する。また、模擬授業形式の実験を行い、開発した表出機能の評価を行う。 第2節 用語の整理 本文中下線部の用語について、本論文における説明を以下に示す。 ●聴覚障がい学生 聾学生、難聴学生等、様々な呼び方がされているが、本研究では聴力レベルによらず総じて聴覚障がい学生という。 ●聴学生 本研究では、聴覚障がいのある学生とない学生を区別するため、聴覚障がいのない学生を聴学生という。 ●ノートテイク 紙に手書きで文字を書いて行う情報保障は、要約筆記など様々な呼び方がされているが、本研究ではノートテイクという。 ●パソコンテイク パソコンを用いて行う文字による情報保障は、パソコン文字通訳、パソコン要約筆記など様々な呼び方がされているが、本研究ではパソコンテイクという。 ●テイク 紙に手書きで文字を書いて行う、あるいはパソコンを用いて行う情報保障を合わせてテイクという。 ●テイカー パソコンテイクを行う支援者のことをいう。 ●支援室 機関によって様々な名称がつけられているが、本論では障がい学生支援を担当する部署を障がい学生支援室と表記する。 ●表出 声、筆談、手話、ケータイに文字を打って見せるなど、聴覚障がい学生から講師や周りの学生などに意見を伝えることを示す。 第 II部本論 第4章 ニーズ調査 第1節 目的 ノートテイクと比べて伝えることができる情報量が多いなどの理由から、パソコンテイクを利用する大学が増えている。また、高等教育機関での講義において、アクティブラーニングと呼ばれる対話型の講義が推進されている。現在利用されているパソコンテイクのシステムでは、講師や周りの学生などの声を聴覚障がい学生に伝える一方向の情報保障は可能であるが、逆方向となる聴覚障がい学生から講師や周りの学生などに意見を伝えるための有効な手段は検討されていないのが現状である。 そこで、聴覚障がい学生に対して情報保障を行っている大学を対象に、聴覚障がい学生・テイカー・障がい学生支援室職員(以下、支援室職員)から、テイク利用時における表出に関するアンケート調査を行うことで、パソコンテイクのシステムに必要な表出の機能を明らかにする。 第2節 方法 第1項 対象者 聴覚障がい学生支援を行っている一般大学(筑波技術大学を除く)に在籍している聴覚障がい学生、テイカー、支援室職員を対象とした。なお、支援室職員については大学ごとに代表者 1名に回答してもらった。 第2項 手続き 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークの情報配信サービスを利用して周知し、関連大学・機関に回答を求めた。回答は Google Formを用いたウェブ形式とした。調査は 2019年 1月から 4月末日に実施した。尚、本研究を実施するにあたり筑波技術大学研究倫理委員会の承認を受けている(承認番号: H30-43)。 第3項 調査項目 質問内容は回答者の種別によって異なるが、聴覚障がい学生の表出に関するこれまでの経験について尋ねている。以下の Table4-2-1に聴覚障がい学生用アンケート項目、 Table4-2-2にテイカー用アンケート項目、 Table4-2-3に支援室職員用アンケート項目を示す。 Table 4-2-1聴覚障がい学生用アンケート 1.基本情報等 項目 1大学名 項目 2学年 項目 3氏名 項目 4情報保障経験年月数 項目 5普段のコミュニケーション方法 項目 6おおまかな左右の聴力レベル 2.表出の経験とその手段 項目 7テイクを受けていてなにか表出をした経験はありますか? (はい /いいえ ) 項目 8(はいの場合)どのような手段を用いましたか?(声 /筆談 /手話 /ケータイに文字を打って見せる /その他) 項目 9(はいの場合)その手段を選んだ理由を教えてください 3.表出の躊躇 項目 10過去に表出を躊躇したことはありますか? (はい /いいえ ) 項目 11(はいの場合)躊躇した理由を教えてください 項目 12(いいえの場合)表出を求められたと想定したときに、どのような手段を用いて表出したいですか?(声 /筆談 /手話 /ケータイに文字を打って見せる /その他) 4.表出に対する支援 項目 13支援室との相談したときに、あなたが表出するときはどのようにすればよいのか、といった話し合いは行われましたか?(はい /いいえ) 項目 14(はいの場合)どのような手段を希望しましたか?または提案されましたか?(声 /筆談 /手話 /ケータイに文字を打って見せる /その他) 5.パソコンテイクシステムにおける表出機能 項目 15パソコンテイクのシステムに、表出もできるような機能があったら利用したいと思いますか? (はい /いいえ ) 項目 16その理由について教えてください 6.遠隔情報保障を利用した経験 項目 17パソコンテイカーがその場にいない、遠隔のパソコンテイクを受けたことがありますか? (はい /いいえ ) 項目 18(はいの場合)表出をする際に、遠隔の場合だけで考えられる問題点はなにかありますか? 7.その他意見・感想等 項目 19パソコンテイクシステムについて意見や要望(自由記述)項目 20その他意見・感想等 Table 4-2-2テイカー用アンケート 1.基本情報等 項目 1大学名(団体名) 項目 2学年 項目 3氏名 項目 4情報保障経験年月数 2.聴覚障がい学生の表出の支援に関する指導 項目 5テイカー養成講座等を受けた時、聴覚障がい学生が表出をする際の支援について、何か教えられましたか?(はい /いいえ) 項目 6(はいの場合)どのような手段で支援してほしいと教えられましたか?(自由記述) 2.聴覚障がい学生の表出の支援に関する経験 項目 7テイク実施中に聴覚障がい学生が何か表出をする機会はありましたか? (はい /いいえ ) 項目 8(はいの場合)どのような手段を用いて表出していましたか?(声 /筆談 /手話 /ケータイに文字を打って見せる /その他) 項目 9(はいの場合)その表出に対してなにか支援は行いましたか?(はい /いいえ) 項目 10(はいの場合)その表出をどのような手段で支援しましたか?(自由記述) 項目 11(はいの場合)その方法は誰から教わったものですか?(聴覚障がい学生 /支援学生 /支援室 /その場で自分で考えた /その他) 3. その他意見・感想等 項目 12パソコンテイクシステムについて意見や要望(自由記述) 項目 13その他意見・感想等 Table 4-2-3支援室職員用アンケート 1.基本情報等 項目 1大学名(団体名) 項目 2所属項目 3氏名 2.聴覚障がい学生の表出の支援に関する指導 項目 4養成講座等開催に際して、聴覚障がい学生の表出における支援に関して指導を 行っていますか? (はい /いいえ ) 項目 5(はいの場合)どのような手段を指導していますか?(自由記述) 項目 6(いいえの場合)今後そのような指導が必要だと思いますか?(はい /いいえ) 項目 7(はいの場合)どのような方法が最適だと思いますか?(自由記述) 項目 8(いいえの場合)必要ないと思う理由を教えてください?(自由記述) 3.表出に関連する相談 項目 9聴覚障がい学生の表出における支援について、聴覚障がい学生またはテイカーから相談を受けたことはありますか?(はい /いいえ) 項目 10(はいの場合)その相談内容について教えてください 4.聴覚障がい学生とテイカーの申し合わせ事例 項目 11支援の現場における一支援例や、聴覚障がい学生とテイカーの申し合わせ事例などありましたら教えてください。(自由記述) 5. その他意見・感想等 項目 12パソコンテイクシステムについて意見や要望(自由記述) 項目 13その他意見・感想等 第3節 結果 本節では得られた結果を示す。なお、各対象者に対してその他意見・感想等を尋ねたところ、本研究で主となる表出についての意見は得られなかったため、本論文では記載しない。 第4項 聴覚障がい学生 1 .基本情報等聴覚障がい学生は 2名から回答が得られた。 1 .1 .学年学部生が 1名、大学院生が 1名であった。 1 .2 .情報保障経験年月数 2名とも 3年以上の利用があった。 1 .3 .聴力および普段のコミュニケーション方法 おおよその聴力については、 2名とも両耳の平均が 100dBを超えていて、普段のコミュニケーション方法は 2名とも「口話、手話」と回答していた。 2 .表出の経験とその手段 “テイクを受けていて、何か表出をした経験はありますか?”という質問に対し、「はい」と回答した学生が 2名であった。「はい」と回答した学生に対し、“どのような手段を用いて表出しましたか?”と複数回答可で尋ねたところ、「筆談」と回答した学生が 2名、「発話」、「ケータイに文字を打って見せる」、「パソコンでメッセージを送信」と回答した学生がそれぞれ 1名ずつであった。また、その手段を選んだ理由について尋ねたところ、「声の場合は早く瞬時に伝わる、筆談、ケータイの場合は静かに伝わるため、場に合わせて。」、「講義中なので音声の場合周囲に迷惑がかかる可能性があるため」という回答が得られた。 3 .表出の躊躇“表出を躊躇した経験はありますか?”と尋ねたところ、 2名から「はい」という回答が得られた。その理由として、「必死にテイクしていただいていて、止められなかったため」、「伝えなくてもいいような些細な内容だったため」というものだった。 4 .表出に対する支援 “支援室との相談の際に、表出するときはどのようにすれば良いのか、といった話し合いは行われたか”と尋ねたところ、「はい」と回答したのが 1名、「いいえ」と回答したのが 1名であった。また、「はい」と回答した学生に“どのような手段を希望したかまたは提案されたか”を尋ねたところ、「自分がやりやすい方法でという感じ」という、具体的な手段を提案された回答は見られなかった。 5 .パソコンテイクシステムにおける表出機能 “パソコンテイクのシステムに、表出もできるような機能があったら、利用したいと思いますか?”と尋ねたところ、 2名から「はい」という回答が得られた。その理由として、「便利、勇気を出す必要もない、テイカーへの負担が減る」という心理的負担の軽減に関する回答、「タイピングのほうが素早く情報伝達ができる」という速報性に関する回答が得られた。 6 .遠隔情報保障を利用した経験 “テイカーがその場にいない、遠隔のパソコンテイクは受けたことがありますか?”と尋ねたところ、「いいえ」と回答したのが 2名だった。 第5項テイカー 1 .基本情報等テイカーは 35名から回答が得られた。 1 .1 .情報保障経験年月数 情報保障経験年月数を「 1年未満」、「 1年以上 2年未満」、「 2年以上 3年未満」、「 3年以上 4年未満」、「 4年以上 5年未満」、「 5年以上」の 6つに分類したときの分布を以下の Fig. 4-3-1に示す。 Fig. 4-3-1 テイカーの情報保障経験年月数 2 .聴覚障がい学生の表出の支援に関する指導 “テイカーの養成講座等を受けた時、聴覚障がい学生が表出をする際の支援について、何か教えられましたか?”と尋ねたところ、「はい」と回答したのが 12名、「いいえ」と回答したのが 23名だった。「はい」と回答した人に“どのような手段で支援してほしいと教えられましたか?”と尋ねた。回答の中には「学生によるのでそれに応じて欲しいと教えてもらったような覚えがあります」、「基本的には聴覚障害学生の主体的な発言 (表出 )を尊重し、相手との意思疎通がうまくいっていないと見受けられる場合には、必要に応じて聴覚障害学生の声 (発話、手話 )を文字化する、または声で代弁する」といったものが見られた。しかし、「ノートテイク、パソコンテイク」といった聴覚障がい学生への情報保障手段や、「簡単な手話やジェスチャー」といった聴覚障がい学生とのコミュニケーション方法について回答しているものが多く見られた。 3 .聴覚障がい学生の表出の支援に関する経験 “テイクの実施中に、聴覚障がい学生が何か表出をする機会はありましたか?(小グループでのディスカッションなども含む)”と尋ねたところ、 24名が「はい」、 11名が「いいえ」と回答した。「はい」と回答した人に“その学生はどのような手段を用いて表出していましたか?”と複数回答可能の形式で尋ねたところ、「声」と回答したのが 20名、「手話」と回答したのが 13名、「筆談」と回答したのが 10名、「ケータイに文字を打って見せる」と回答したのが 4名であった。 第6項 支援室職員 1 .基本情報等支援室職員は 7名から回答が得られた。 2 .聴覚障がい学生の表出の支援に関する指導 “テイカー養成講座等の開催に際して、聴覚障がい学生の表出における支援に関して指導を行っていますか?”と尋ねたところ、「はい」と回答したのが 3名、「いいえ」と回答したのが 4名だった。「はい」と回答した 3名に、どのような手段を指導しているか尋ねたところ、「どの学生にも一律というわけではないが、学生の状況なども踏まえて聴覚障がい学生と相談して決めている」という回答が 2名、「聴覚障がい学生が伝えたいことは本人がするので、テイカーは代わりに伝えることがないよう指導している」という回答が 1名だった。「指導を行っていない」と回答した 4名に、“今後、そのような指導が必要だと思いますか?”と尋ねたところ、「はい」と回答したのが 3名、「いいえ」と回答したのが 1名だった。「はい」と回答した 3名に“どのように指導しますか?”と尋ねたところ、「聴覚障がい学生に表出方法を学んでもらう」、「テイカーが授業終了後に意識して問う」といった回答が得られたが、「いいえ」と回答した 1名は、「テイカーは『受け取る』情報保障の役割と考える」と回答していた。 3 .表出に関連する相談について 表出における相談があると回答したのは 3名だった。相談内容について尋ねたところ「聴覚障がい学生より、発話が不明瞭なため、発表の際にどうすればよいかとの相談があった。」という心理的負担に関することや、「テイカーより、(ディスカッションの場面ではないが)聴覚障がい学生が発表を免除されたりしているが、それでいいのかとの相談があった。」という本質的変更に関すること、「どのようなタイミングで、どのように伝えるか。その内容は。…というものが多いと思います。」という表出手段に関することが挙げられていた。 4 .聴覚障がい学生とテイカーの申し合わせ事例 申し合わせ事例があると回答したのは 3名だった。その内容については、「聴覚障害学生の代わりに発言をしない。代わりに発言をするのは、手話通訳者がろう学生の読み取り通訳をお願いされたときのみ。」という表出に関する回答や、「毎回、それぞれが感想、気づきを担当部署に『実施報告』の形式で提出する。」、「申し合わせメモや引き継ぎメモのようなものを活用する場合もあります。また略称を使用する場合なども同様です。また、ケースによっては、学期の途中や学期終了後にフィードバックの機会をもつこともあります。」といった知識・経験の共有に関する回答が得られた。 第4節 本章のまとめ 本章では、パソコンテイクのシステムに必要な表出の機能を明らかにするため、現在パソコンテイクを利用している際の聴覚障がい学生の表出手段、障がい学生支援室における表出手段の指導などについて意見を収集した。聴覚障がい学生当事者からの回答が少なかったため、現状を十分に把握することができなかったが、テイカーの回答から、聴覚障がい学生が表出の際に利用する手段は、状況等によって様々であるが、発話による表出が多く用いられていることが推察される。また、筆談やケータイに文字を打って見せる、といった発話以外の表出手段を用いたいと考えている学生がいることも推察される。聴覚障がい学生が表出の手段を選ぶ際には、「速報性」と「心理的負担」を考慮している、という回答も得られている。 筑波技術大学の学生に尋ねた三好ら( 2015)の報告においては、発話による表出を用いている学生が約 60%いることと、残りの約 40%の学生は発話以外の手段を用いて表出を行いたいと考えていることが明らかになっている。また、表出手段を選ぶ基準として本研究で得られた「速報性」と「心理的負担」だけでなく「正確性」も重要視されていると述べられている。 本研究で得られた「パソコンテイクシステムに表出の機能があったら利用したい」という回答と、三好ら( 2015)の報告の中で「筆談」よりも「ケータイに文字を打って見せる」という回答のほうが多かったことから、システム上で表出を行うことができる有効な手法が必要であることが分かった。第 2章第 4節で述べたように、アメリカではパソコンテイク利用時の表出の支援として、「テイカーが代わりに発話をする」という手法を採用している。そのため、パソコンテイクシステムには表出用の機能が実装されている。しかし、本研究で「表出に関しては聴覚障がい学生本人が行う」という回答も見られたことから、テイカーを介さない手段も考えなければならない。 これらの結果を参考に、聴覚障がい学生にとって有効な表出手段の1つとなるような表出機能を追加開発し、パソコンテイクシステムの改良を行う。 第5章 開発したシステムについて 第1節 システム概要 本研究では、聴覚障がい学生が表出しやすくなるような環境の構築、また講義等へ積極的に参加できるようになることを目的としたシステムを開発する。 本システムでは、聴覚障がい学生に対して表出できるタイミングであることを優先的に通知する「通知機能」と、聴覚障がい学生が周りの講師や学生に表出することができる「表出機能 1」、「表出機能 2」を実装した。本章では、本システムのベースとなった T-TAC Captionの説明と、今回実装した機能の概要、動作の流れを述べる。 第2節 遠隔情報保障システム T-TAC Captionについて T-TAC Captionとは、三好ら( 2015)の報告で用いられているモバイル型遠隔情報保障システムの発展型であり、音声通話機能を利用せずにシステム内で音声と映像の送受信を行うシステムである(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク , 2016a)。最大の特徴として、利用の際の操作が非常に簡便であることが挙げられ、教育機関での利用実績もある。動作の流れについて述べる。利用者(聴覚障がい学生)のもつ端末で音声データと映像データを取得する。そのデータを筑波技術大学の通信サーバを通じて支援者(テイカー)に送信する。その音声データから字幕を作成し、利用者のもとへ送り返すことで、利用者が字幕を見ることができる( Fig. 5-2-1参照)。 Fig. 5-2-1 T-TAC C aptionの動作流れ図(三好, 2014 一部改変) 第3節開発環境について 本システムはプログラミング言語 ActionScript 3.0で作成した。開発に使用した環境を以下に示す。 . Adobe Animate CC 2015.2 . Adobe AIR 23.0.0.257 . Adobe Flash 32.0.0.303 . Google Chrome 79.0.3945.88(64bit) . タブレット( ASUS, ZenPad 10, Z301MFL, OS:Android 7.0, CPU:MedlaTek MT8735A,メモリ :2GB) 第4節 通知機能の開発 前述の第 2章第 1節にある通り、聴覚障がい学生にとってパソコンテイクを利用する上で、「タイムラグが大きく、発言のタイミングを逃しやすい」という点に困難さを感じている。これは、音声をテキスト化する際に生じるラグである。そこで、表出のタイミングであることを優先的に伝える「通知機能」を追加開発した。本機能は、テイカーが入力の途中であっても、聴覚障がい学生に通知を送ることできる。以下の Fig. 5-4-1に通知が表示された際のタブレットの表示画面を示す。 Fig. 5-4-1通知が表示されている状態のタブレット画面 通知は字幕と重なって表示されるが、聴覚障がい学生が通知部分をタップすることで消すことができる。通知は聴覚障がい学生がタップする以外では消えないため、聴覚障がい学生がタブレットから目を離している間に通知が届いた場合、いつ通知が届いたのかが分からない。そこで、「 [情 ]:質問の時間です!(〇時 △分)」と通知が届いたことに併せて時間も表示している。文頭にある「 [情 ]:」は、情報保障者であるテイカーから送られてきたことを示す。これは、後述の表出機能で利用する「表出タブ」内に表示される( Fig. 5-4-2参照)。 Fig. 5-4-2通知がきた時間の表示 聴覚障がい学生のもつタブレットに通知が表示されているかは、テイカーは Fig. 5-4-3に示す「単語リストタブ」を見ることでわかる。 Fig. 5-4-3単語リスト表示 第5節 表出機能 1の開発 表出機能 1では、講師にタブレットを渡し、聴覚障がい学生から講師用タブレットに直接質問の内容をテキストで送信する機能である。周りの聴学生は質問の内容を直接知ることができないため、講師は受け取った質問内容を読み上げる必要がある。なお、講師用タブレットには聴覚障がい学生からの質問の内容のみが表示され、字幕は表示されない。以下の Fig. 5-5-1に動作の流れ図を示す。 Fig. 5-5-1表出機能 1の動作の流れ図 以下に、表出機能 1を利用する際の動作の流れを示す。まず聴覚障がい学生は、「表出ボタン」をタップして、「表出タブ」を表示する。タブ下部の入力欄をタップし表出内容を入力する。 Fig. 5-5-2は聴覚障がい学生のもつタブレットの「表出タブ」の表示例を示す。 Fig. 5-5-2表出内容の入力(表出機能 1) その後エンターキーまたは送信ボタンをタップすることで、入力した内容が講師とテイカーに送られる。この際、利用学生を指す「 [利 ]:」を文頭につけることで、テイカーが通知機能を使用したことと区別している。聴覚障がい学生が表出した内容をテイカーにも送信することで、遠隔地にいるテイカーとも情報共有ができる。 Fig. 5-5-3に講師用タブレットの表示例、 Fig. 5-5-4に表出機能 1のテイカー用入力画面を示す。 Fig. 5-5-3講師用タブレット表示画面 Fig. 5-5-4 表出機能1のテイカー用入力画面 第6節 表出機能 2の開発 表出機能 2はテイカーが聴覚障がい学生の代わりに発話し、その音声を聴覚障がい学生用タブレットから出力する機能である。表出に関わるのは、聴覚障がい学生本人とテイカーのみであるため、従来のパソコンテイクと同様の環境で表出の支援が行うことができる。以下の Fig. 5-6-1に動作の流れ図を示す。 Fig. 5-6-1表出機能 2の動作の流れ図 以下に表出機能 2を利用する際の動作の流れを示す。聴覚障がい学生は表出機能 1と同様に表出したい内容を「表出タブ」から入力し送信する。なお、「表出タブ」内の入力欄下部には、聴覚障がい学生がテイカーの表出の様子を把握できるよう、テイカーから送信される音量を示すバーを設置した( Fig. 5-6-2参照)。 Fig. 5-6-2表出内容の入力(表出機能 2) 表出を担当するテイカーは、「表出タブ」に表示された聴覚障がい学生の表出内容を確認した後、「表出タブ」下部にある「マイク ON」ボタンを押して表出を行う( Fig.5-6-3参照)。 Fig. 5-6-3テイカーの表出タブ(表出機能 2) 「マイク ON」ボタンの隣に配置してある ”マイク OFF”の表示は、テイカー全体の現在のマイクの状態を示している。テイカーが 2人で入力する連係入力を想定し、同時に音声表出することを防ぐため、マイクを ONにできるのは 1人だけになっている。 2人のテイカー A、 Bが入力していて、 Aがマイクを ONにしたとする。その際のテイカー Aの表出タブを Fig. 5-6-4(a)に、テイカー Bの表出タブを (b)に示す。テイカー Bがマイクを ONにしたい場合、テイカー Aがマイクを事前に OFFにする必要がある。 (a) テイカー Aの表出タブ (b)テイカー Bの表出タブ Fig. 5-6-4マイク ONにした場合の表示 以下の Fig. 5-6-5に表出機能 2のテイカー用入力画面を示す。 Fig. 5-6-5 表出機能2のテイカー用入力画面 第6章 システム評価実験 第1節 目的 表出のタイミングであることを優先的に伝える「通知機能」と、システムを用いた2つの異なる「表出機能」を評価するために、従来のコミュニケーション手段として挙げられている「筆談」との比較を行い、「心理的負担」、「速報性」、「正確性」の観点からその有効性を検証する。 第2節 方法 第1項 実験環境 実験は、少人数での講義形式を想定し、実験室内に配置したテーブルを囲うように聴覚障がい学生 1名、聴学生 3~ 4名、講師が座って実施した。予め聴覚障がい学生に意見を聞きながら講師・スライド用ディスプレイ・字幕用タブレットが同一視線上に入るよう、講師から向かって左側の一番奥に聴覚障がい学生を配置した。また、聴覚障がい学生の前には字幕用タブレット ①( ASUS, ZenPad 10, Z301MFL, OS:Android 7.0, CPU:MedlaTek MT8735A, メモリ :2GB)、入力用 Bluetoothキーボード( iclever, IC-BK03)、筆談用の筆記用具を置いた。講師の手前には表出機能 1で使用するためのタブレット ②( ASUS, ZenPad 10, Z301MFL, OS:Android 7.0, CPU:MedlaTek MT8735A, メモリ :2GB)と表出機能 2でテイカーからの音声を拡声するためのスピーカー( DELL, A225スピーカー)、授業用 PCを設置した。なお、拡声用のスピーカーは「利用者側で利用する機材はスマートフォンまたはタブレットのみ」(三好 , 2014)という T-TAC Captionの利点を活かすため、実験当初は設置する予定ではなかったが、初回・ 2回目に行った実験で音声トラブルが発生したため、 3回目から設置している。なお、スピーカーのボリュームは、聞き取りやすい音量に毎回講師が自身で調整した。また、タブレット ①を記録するためのビデオ ①、タブレット ②を記録するためのビデオ ②、実験の様子を記録するためのビデオ ③、テイカーの入力の様子を記録する記録用 PC、テイカーと連絡するための連絡用 PCをそれぞれ設置した。 Fig. 6-2-1に実験の様子、 Fig. 6-2-2に実験配置図を示す。 Fig. 6-2-1実験の様子 Fig. 6-2-2実験配置図 第2項 研究協力者 聴覚障がい学生は、筑波技術大学、筑波技術大学大学院に在籍する学生を研究協力者として設定した。聴学生は、他の大学や大学院に在籍する学生を設定した。テイカーは実際にパソコンテイカーとして実働している人を設定した。なお、テイカーの人的資源上の制限から重複参加を許し実験を実施した。 第3項 システム評価を行う模擬授業の概要 模擬授業は講義形式で進めていき、パワーポイント資料を用いて行われた。また、聴覚障がい学生が表出機能を利用する必要があるため、講師からの問いに答える場面を設けた。 第4項 実験手順 本実験では、開発した 2つの表出機能と従来の手法である筆談を、 Scheffeの一対比較評価(中屋の変法)を用いて体験し、主観評価によって検証する。全ての組み合わせで一対比較を行うため、合計 3組の比較実験を実施する。 以下の Fig. 6-2-3は実験の流れを図示したものである。なお、最初に行うテイカーへの事前説明と接続確認は、他の研究協力者が来訪する前に行った。「プレアンケート」、「評価アンケート」、「ポストアンケート」は全て Google Formを用いたウェブで回答する形式であり、研究協力者には QRコードの読み取れるデバイスの持参を依頼した。また、「プレアンケート」、「評価アンケート」、「ポストアンケート」の内容の詳細については、後述の調査項目にて述べる。尚、本研究を実施するにあたり筑波技術大学研究倫理委員会の承認を受けている(承認番号: 2019-22)。 Fig. 6-2-3実験の流れ 研究協力者に対しての説明内容を実施した順に述べる。 テイカーに対して、あらかじめシステム利用に必要なソフトウェアと T-TAC Captionテイカー用マニュアル(資料 2)を送付した。そのうえで、まず本研究で開発した「通知機能」と 2つの「表出機能」について説明を行った。続いて本実験の目的と流れについて説明し、研究協力者の氏名を伝えた。研究協力者の氏名については漢字等も必要な情報であるため、口頭での説明だけでなくテキストでも送信した。そして、システムの接続確認と開発した機能の利用方法を、実際に試しながら行った。なお、テイカーとの連絡には音声通話用ソフトウェア( Skype, Microsoft)を用いた。 聴覚障がい学生に対して、実験の目的と開発した機能が追加された T-TAC Captionの操作方法の説明を行った。説明は筆者が手話、音声、 Fig. 5-5-1と Fig. 5-6-1に示した表出機能 1と 2の動作の流れ図、 T-TAC Caption聴覚障がい学生用マニュアル(資料 1)を用いて、実際にシステムを操作しながら説明を行った。 全体に対しては、実験の目的と流れ、注意事項(資料 3、資料 4)、評価の方法について説明を行った。特に評価の方法については、一対比較であることに注意して評価するよう説明を行った。また、聴覚障がい学生の注意事項の中に、表出手順は指名された場面ではなく、自分から表出を行う際には「入力 →挙手 →送信」を意識して行うよう説明した。 その後、聴覚障がい学生と聴学生に対して、これまでの経験を尋ねるプレアンケートを実施した。 プレアンケート終了後、最初の比較対象となる手法が「表出機能 1」と「筆談」であること、「表出機能 1」の体験終了後、一度模擬授業を中断し表出手段を「筆談」に切り替えること、「筆談」体験終了後、比較評価アンケートを実施することを説明し、模擬授業 ①を開始した。模擬授業 ②、模擬授業 ③も同じ手順で説明を行った。以下の Fig. 6-2-4に模擬授業毎の評価対象と順序を示す。 (a)模擬授業 ① (b)模擬授業 ② (c)模擬授業 ③ Fig. 6-2-4模擬授業毎の評価対象と順序 第5項 調査項目 本実験ではシステムの効果を測定するために、「プレアンケート」においてこれまでの経験、「比較評価アンケート」において一対比較による評価、「ポストアンケート」において総合評価と自由記述での感想や意見を求めた。「プレアンケート」と「比較評価アンケート」は聴覚障がい学生と聴学生に回答を依頼し、「ポストアンケート」は研究協力者全員に回答を依頼した。以下の Table6-2-1に各アンケートと回答を依頼した研究協力者の対応表を示す。 Table6-2-1各アンケートと回答を依頼した研究協力者の対応表 聴覚障がい学生 聴学生 テイカー プレアンケート 〇 〇 - 評価アンケート 〇 〇 - ポストアンケート 〇 〇 〇 1 .プレアンケート プレアンケートでは、聴覚障がい学生に対して、これまでテイクを受けている際の表出の経験について尋ねた。聴学生に対しては、これまで聴覚障がい学生と一緒に講義を受けた経験について尋ねた。以下の Table6-2-2に聴覚障がい学生用プレアンケート項目、 Table6-2-3に聴学生用プレアンケート項目を示す。 Table 6-2-2聴覚障がい学生プレアンケート 1.基本情報等 項目 1学年 項目 2氏名 項目 3情報保障経験年月 項目 4普段のコミュニケーション方法 項目 5おおまかな左右の聴力レベル 2.表出の経験とその手段 項目 6テイクを受けていてなにか表出をした経験はありますか? (はい /いいえ ) 項目 7(はいの場合)どのような手段を用いましたか?(声 /筆談 /手話 /ケータイに文字を打って見せる /その他) 項目 8(はいの場合)その手段を選んだ理由を教えてください 3.表出の躊躇 項目 9過去に表出を躊躇したことはありますか? (はい /いいえ ) 項目 10(はいの場合)躊躇した理由を教えてください 項目 11(いいえの場合)表出を求められたと想定したときに、どのような手段を用いて表出したいですか?(声 /筆談 /手話 /ケータイに文字を打って見せる /その他) 4.遠隔情報保障を利用した経験 項目 12パソコンテイカーがその場にいない、遠隔のパソコンテイクを受けたことがありますか? (はい /いいえ ) 項目 13(はいの場合)表出をする際に、遠隔の場合だけで考えられる問題点はなにかありますか? 5.パソコンテイクシステムにおける表出機能 項目 14パソコンテイクのシステムに、表出もできるような機能があったら利用したいと思いますか? (はい /いいえ ) 項目 15その理由について教えてください Table6-2-3聴学生プレアンケート 1.基本情報等 項目 1氏名 2.聴覚障がい学生と一緒に講義を受けた経験 項目 2これまで聴覚障がい学生と一緒に講義等を受けた経験はありますか? (はい /いいえ /覚えていない ) 項目 3(はいの場合)その聴覚障がい学生はなにか表出を行っていましたか? (はい /いいえ /覚えていない ) 項目 4(はいの場合)どのような手段で表出を行っていましたか?(声 /筆談 /覚えていない /その他) 2 .評価アンケート 評価アンケートでは、聴覚障がい学生には「心理的負担」、「正確性」、「速報性」、「総合的」、「大勢の学生の中でも役立つと思うか」という5つの観点に対して、一対比較にて 7段階評価を依頼した。一対比較の評価値は「どちらでもない」を 0として、 1つ目に体験する手段の「やや」を -1、「とても」を -2、「非常に」を -3、 2つ目に体験する手段は「やや」を 1、「とても」を 2、「非常に」を 3とした(井上 , 2002)。アンケートには等間隔性を示すため、各選択肢の最後に「 1つ目の手法が非常にできた( -3)」のように数字を記載し、数直線で表した図も併記した。以下の Fig. 6-2-5にアンケートに記載した 7段階評価尺度の数直線の例を示す。またこの数直線は動詞のみ変更し、全ての質問項目に記載した。聴学生には「授業の流れのスムーズさ」について一対比較にて 7段階評価を行った。以下の Table6-2-4に聴覚障がい学生用評価アンケート項目、 Table6-2-5に聴学生用評価アンケート項目を示す。 Table 6-2-4聴覚障がい学生用評価アンケート 1.基本情報等 項目 1氏名 2.心理的負担の観点からの評価 項目 2 2つの手段を比較して、どちらの手段のほうが気兼ねなく表出できましたか?( 7段階評価) 3.正確性の観点からの評価 項目 3 2つの手段を比較して、どちらの手段のほうが伝えたいと思ったことを(講師や他の学生に)正しく伝えることができましたか( 7段階評価) 4.速報性の観点からの評価 項目 4 2つの手段を比較して、どちらの手段のほうが伝えたいと思ったとき、すぐに伝えることができましたか?( 7段階評価) 5.総合的な観点からの評価 項目 5 2つの手段を比較して、役立ったのはどちらですか?( 7段階評価) 6.大勢の聴学生の中で授業を受けていると想定した観点からの評価 項目 6 実際の授業で役立つと思う手段はどちらですか?( 7段階評価) 7.その他意見・感想等 項目 7他に何か感じたことがあればおしえてください(自由記述) Table 6-2-5聴学生用評価アンケート 1.基本情報等 項目 1氏名 2.スムーズさの観点からの評価 項目 2 2つの手段を比較して、どちらの手段のほうが授業の流れがスムーズでしたか?( 7段階評価) 項目 3どのような点からそのように感じましたか?(自由記述) 3.その他意見・感想等 項目 4他に何か感じたことがあればおしえてください(自由記述) 3 .ポストアンケート ポストアンケートでは、聴覚障がい学生には本実験で体験した 3つの表出手段に「声」、「自分の持っているスマホ等に文字を打って見せる」の 2つの表出手段を加えた、 5つの表出手段で、実際の授業において表出の際に利用したい手法の順位付けをさせた。また、本実験で体験した 3つの表出手段それぞれについて自由記述で意見・感想等を尋ねた。聴学生には本実験で体験した 3つの表出手段がスムーズだったかについて、それぞれ 5段階で絶対評価を依頼した。またスムーズではなかったと感じ場合、それが許容できる範囲だったかを 5段階評価で尋ねた。評価値として「どちらでもない」を 0として、肯定的な「やや」を 1、「非常に」を2、否定的な「やや」を -1、「非常に」を -2とした。また等間隔性を示すため、各選択肢を数直線で表したものを併記した。以下の Fig. 6-2-6にアンケートに記載した 5段階評価の数直線の例を示す。テイカーには、本実験で体験した 3つの表出手段それぞれについて自由記述で意見・感想等を尋ねた。また、音声を送ることへの抵抗感を 5段階評価、入力以外のタスクが増えたことについて尋ねた。以下の Table6-2-6に聴覚障がい学生用ポストアンケート項目、 Table6-2-7に聴学生用ポストアンケート項目、 Table6-2-8にテイカー用ポストアンケート項目を示す。 Table 6-2-6聴覚障がい学生ポストアンケート 1.基本情報等 項目 1氏名 項目 2大勢の聴学生の中で授業を受けたことはありますか?(はい /いいえ) 項目 3その際に使用した表出手段はどれですか?(声 /筆談 /スマホに文字を打って見せる /その他) 2. 5つの表出手段の順位付け 項目 4実際の授業において、表出を行う際に利用したいと思う手法について順位をつけてください※必ず 1位~ 5位まで順位をつけてください。(声 /筆談 /スマホに文字を打って見せる /表出機能 1(講師のもつ端末に文字が表示される) /表出機能 2(テイカーが代わりに発話)) 3.各表出手段への意見・感想 項目 5表出機能 1(講師の持つ端末に文字が表示される)に関する意見・感想 項目 6表出機能 2(テイカーが代わりに発話する)に関する意見・感想 項目 7筆談に関する意見・感想 4.システムを用いることで表出しやすくなったか 項目 8システムを用いることで発言はしやすくなりましたか?( 7段階評価) 項目 9その理由を教えてください(自由記述) 5.その他意見・感想等 項目 10実験を通して何か感じたことがあれば教えてください。(自由記述) Table 6-2-7聴学生ポストアンケート 1.基本情報等 項目 1氏名 2.表出機能 1のスムーズさについて 項目 2表出機能 1(講師のもつ端末に文字が表示される)について、授業の流れはスムーズでしたか?( 5段階評価) 項目 3(ややスムーズではない、非常にスムーズではないの場合)それは許容できる範囲でしたか? 3.表出機能 2のスムーズさについて 項目 4表出機能 2(テイカーが代わりに発話する)について、授業の流れはスムーズでしたか?( 5段階評価) 項目 5(ややスムーズではない、非常にスムーズではないの場合)それは許容できる範囲でしたか? 4.筆談のスムーズさについて 項目 6 筆談について、授業の流れはスムーズでしたか?( 5段階評価) 項目 7 (ややスムーズではない、非常にスムーズではないの場合)それは許容できる範囲でしたか? 5.その他 項目 8 実験を通して何か感じたことがあれば教えてください。(自由記述) Table 6-2-8テイカーポストアンケート 1.プロフィール 項目 1氏名 項目 2情報保障経験年月数 2.各表出手段への意見・感想 項目 3表出機能 1(講師の持つ端末に文字が表示される)に関する意見・感想 項目 4表出機能 2(テイカーが代わりに発話する)に関する意見・感想 項目 5筆談に関する意見・感想 3. 音声を送ることへの抵抗感について 項目 6表出機能 2では、聴覚障がい学生の代わりに発話を行いますが、音声を送ることへの抵抗感はありましたか?( 5段階評価) 4. 入力以外のタスクが増えたことについて 項目 7入力以外のタスクが増えたことに対して、意見をお聞かせください(自由記述) 5.その他 項目 8実験を通して何か感じたことがあれば教えてください。(自由記述) Fig. 6-2-6 5段階評価尺度の例 第3節 結果 本研究ではシステム評価実験を 7回実施した結果を以下に示す。ただし、 1回目と 2回目で表出機能 2を利用した際に音声トラブルが発生したため、機能に関する正しい評価がされていないと判断し、該当する回答を分析時に除外した。なお、第 2節第 1項実験環境でも述べたが、 3回目の実験から音声を拡声するためのスピーカーを設置している。そのため、以下に記載する結果は 3~ 7回目に実施した計 5回の実験から得られたデータである。 第1項研究協力者の基本情報等アンケートによって得られた研究協力者の基本情報等を示す。 1 .聴覚障がい学生 プレアンケートによって得られた結果を以下に示す。聴覚障がい学生の本実験への参加者数は 5名である。 1 .1 .学年 学部生が 3名、大学院生が 2名であった。 1 .2 .聴力および普段のコミュニケーション方法 おおよその聴力については、両耳の平均が 90dBを超えている学生が 5名で、普段のコミュニケーション方法は「手話」と回答した学生が 3名、「手話と口話」と回答した学生が 2名であった。 1 .3 .表出の経験とその手段 “テイクを受けていて、何か表出をした経験はありますか?”という質問に対し、「はい」と回答した学生が 3名、「いいえ」と回答した学生が 2名であった。「はい」と回答した学生に対し、“どのような手段を用いて表出しましたか?”と複数回答可で尋ねたところ、「筆談」と回答した学生が 2名、「声」と回答した学生が 1名、「手話」と回答した学生が 2名、「ケータイに文字を打って見せる」と回答した学生が 2名であった。また、その手段を選んだ理由としては、「健聴者には文字で話すしかコミュニケーション手段がないから」、「先生が手話ができないから」、「音声では伝わりにくかったため、文字で表す方法を採用した」という回答が得られた。 1 .4 .表出の躊躇 “表出を躊躇した経験はありますか?”と尋ねたところ、 5名全員から「はい」という回答が得られた。その理由として、「授業を妨げるのではないかと思ってしまう」という心理的負担に関する回答や、「質問するタイミングがわからない。タイムラグがあるので、字幕を見終わった後質問したくても別の話題になっていることがある。」、「字幕が遅れて、先生がもう次の事を話し始めてしまった時は非常に聞きづらかった。」という速報性に関する回答が得られた。 1 .5 .遠隔情報保障を利用した経験 遠隔情報保障を利用した経験について尋ねたところ、 5名全員から「はい」という回答が得られた。また、“表出をする際に、遠隔の場合だけで考えられる問題点は何かありますか?”と尋ねたところ、「字幕の遅延が現地入力より大きくなる」、「要約筆記に時間がかかるときに、何の問題が起きたのかわかりづらい」といったタイムラグに関する回答は得られたが、表出に関する回答は得られなかった。 1 .6 .パソコンテイクシステムにおける表出機能 “パソコンテイクのシステムに、表出もできるような機能があったら、利用したいと思いますか?”と尋ねたところ、 5名全員から「はい」という回答が得られた。その理由として、「双方向コミュニケーションが楽にできるならやりたい」、「声を使いたくないことが多いので、声以外で表出できる方法があるなら助かるから。」という心理的負担に関する回答や、「先生も通訳者も共有出来るため。」という遠隔地で入力しているテイカーとの情報共有を重んじている回答が得られた。 2 .聴学生 プレアンケートによって得られた結果を以下に示す。聴学生の本実験への参加者数は 18名である。 2 .1 .聴覚障がい学生と講義を一緒に受けた経験 “これまで聴覚障がい学生と一緒に講義を受けた経験はありますか?”と尋ねたところ、「はい」と回答した学生が 17名、「いいえ」と回答した学生が 1名だった。また、「はい」と回答した 17名の学生に“その聴覚障がい学生はなにか表出を行っていましたか?”と尋ねたところ、「はい」と回答した学生が 12名、「いいえ」と回答した学生が 1名、「覚えていない」と回答した学生が 4名だった。「はい」と回答した 12名の学生にその時の表出手段を複数回答可で尋ねたところ、「筆談」と回答した学生が 5名、「声」と回答した学生が 5名、「手話」と回答した学生が 8名であった。その他「支援学生が代弁」、「ノートテイキングの学生を通じて」という回答も見られた。 3 .テイカー ポストアンケートによって得られた結果を以下に示す。テイカーの本実験への参加者数は 6名である。なお、人によって参加回数が異なるため、区別するために T1~ T6の番号を割り振る。3 .1 .実験への参加回数と情報保障経験年月数 実験に参加したテイカーの参加回数と情報保障経験年月を以下の Table6-3-1に示す。 Table6-3-1テイカーの参加回数と情報保障経験年月 テイカー 参加回数 経験年月数 T1 4 12年 8ヶ月 T2 2 5年 T3 1 4年 3ヶ月 T4 1 9年 10ヶ月 T5 1 8年 4ヶ月 T6 1 3年 第2項評価アンケートの結果評価アンケートによって得られた一対比較評価の結果から分散分析を行う。主効果の p値が危険率 5%で有意であった場合、 3つの表出手段間のどこかに有意な差があると言えるため、どの表出手段間に差があるのかを特定するため多重比較を行う。 1 .聴覚障がい学生 1 .1 .表出回数 まず、各模擬授業における聴覚障がい学生の表出回数を以下の Table6-3-2に示す。ここで、「表出 1」は表出機能 1、「表出 2」は表出機能 2、「表出 3」は筆談を表している。表出手段の体験毎に表出回数は 1~ 4回あり、実験全体を通しての表出回数は表出 1、表出 2、表出 3の順に平均で 5.2、 5.0、 4.6回であった。なお、ここで示している表出回数には、首振りによる応答など、表出 1、表出 2、表出 3以外での表出は含まない。 Table6-3-2聴覚障がい学生の表出回数 1 .2 .心理的負担の観点からの評価 評価アンケートにて心理的負担の観点からの一対比較による評価結果を Table6-3-3に示す。 Table6-3-3中、評価及び評価値の項には、評価の程度及びその評価値を記載した。また、表中「表出 n-表出 m」は比較した各表出手段を表している( n、 mは 1から 3までの整数、同一手段同士の比較を除く)。比較対象が 3つあるので全部で 3つの比較パターンがある。評価値と対応する箇所には各評価を選んだ聴覚障がい学生の人数を表している。表出手段は左側に記載したのが 1つ目の表出手段、右側に記載したのが 2つ目の表出手段である。 Table6-3-3心理的負担の観点からの評価 この結果から得られる各表出手段の平均嗜好度の推定値を Fig. 6-3-1に示す。平均嗜好度を用いて分散分析を実施した結果、主効果の p値が 0.28( >0.05)であったため、有意差は認められなかった。したがって、 3つの表出手段間に差があるとは言えない。 Fig. 6-3-1心理的負担における平均嗜好度 1 .3 .正確性の観点からの評価 正確性の観点からの一対比較による評価結果を Table6-3-4に示す。 Table6-3-4正確性の観点からの評価 この結果から得られる各表出手段の平均嗜好度の推定値を Fig. 6-3-2に示す。平均嗜好度を用いて分散分析を実施した結果、主効果の p値が 0.070( >0.05)であったため、有意差は認められなかった。したがって、 3つの表出手段間に差があるとは言えない。 Fig. 6-3-2正確性における平均嗜好度 1 .4 .速報性の観点からの評価 速報性の観点からの一対比較による評価結果を Table6-3-5に示す。 Table6-3-5速報性の観点からの評価 この結果から得られる各表出手段の平均嗜好度の推定値を Fig. 6-3-3に示す。平均嗜好度を用いて分散分析を実施した結果、主効果の p値が 0.064( >0.05)であったため、有意差は認められなかった。したがって、 3つの表出手段間に差があるとは言えない。 Fig. 6-3-3速報性における平均嗜好度 1 .5 .総合的な観点からの評価 総合的な観点からの一対比較による評価結果を Table6-3-6に示す。 Table6-3-6総合的な観点からの評価 この結果から得られる各表出手段の平均嗜好度の推定値を Fig. 6-3-4に示す。平均嗜好度を用いて分散分析を実施した結果、主効果に関して F (2, 4) = 7.51、 p値が 0.044( <0.05)となり危険率 5%で有意であった。したがって、 3つの表出手段間には総合的な観点から統計的に差があると言える。この結果に基づいて多重比較を行ったところ、表出 1と表出 2の間に危険率 5%で有意差が認められた。すなわち総合的な観点から、表出 1は表出 2よりも統計的に好まれていると言える。 Fig. 6-3-4総合的な観点における平均嗜好度 1 .6 .大勢の聴学生の中でも役立つか 大勢の聴学生の中でも役立つかという観点からの一対比較による評価結果を Table6-3-7に示す。 Table6-3-7大勢の聴学生の中で役立つという観点からの評価 この結果から得られる各表出手段の平均嗜好度の推定値を Fig. 6-3-5に示す。平均嗜好度を用いて分散分析を実施した結果、主効果に関して F (2, 4) = 17.08、 p値が 0.011( <0.05)となり危険率 5%で有意であった。したがって、 3つの表出手段間には大勢の聴学生の中で役立つという観点から統計的に差があると言える。この結果に基づいて多重比較を行ったところ、表出 1と表出 2、表出 1と表出 3の間に危険率 5%で有意差が認められた。すなわち、大勢の聴学生の中で役立つという観点から、表出 1は表出 2と筆談よりも統計的に好まれていると言える。 Fig. 6-3-5大勢の聴学生の中でも役立つかという観点における平均嗜好度 1 .7 .その他自由記述 評価アンケートの自由記述で得られた意見を、筆者が各「表出手段」に対する「ポジティブな意見」と「ネガティブな意見」のカテゴリに分類したものを示す。 1つの回答に複数の要素が含まれていた場合、分割してカテゴリごとに分類した。 Table6-3-8に表出機能 1に対する自由記述、 Table6-3-9に表出機能 2に対する自由記述、 Table6-3-10に筆談に対する自由記述、 Table6-3-11にその他の自由記述を示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-8表出機能 1に対する自由記述(聴覚障がい学生) ポジティブな意見 ・表出機能 1は、速報性、正確性に優れる。自分で書いた文字を出すのはあまり全体に行き渡りにくい表現なので講師に読み上げてもらえる方が質問しやすいし、答えやすい。 ・講師がタイミングを見て言える、講師に気にしてもらいやすい。 ネガティブな意見 ・講師がタブレットに気づかない時がある。 Table6-3-9表出機能 2に対する自由記述(聴覚障がい学生) ポジティブな意見 ・今読み上げているということがわかるのがすごくよかった。 ネガティブな意見 ・音声だとスピーカーといった必要な機器が増えるため、文字のほうが負担が少ないのではないか。 ・文字を読み上げてくれるけど、そもそも声が分からないから伝わってるか分からなかった。 ・テイカーが話すのは良いが、話しているかどうか、音量バーだけではあまり実感が湧かない。手を上げてから、みんなが納得 (首を振るなど )のリアクションにやや時間もかかっている。 ・音声だと、聞き取れなかったら、聞き直すといった過程が発生する可能性があるため講師が視覚を使えるのであれば、文字で表示したほうが確実性は高まると思う。 Table6-3-10筆談に対する自由記述(聴覚障がい学生) ポジティブな意見 ・筆談の方が即効性があった。 ・自分で書いた方がやや手を上げやすいように思う (書いている様子によって講師が何か質問くるな?ということを伝えられる )。 ・筆談の方が個人的にやりやすかった。 ・テイカーが読み上げるよりは自分で書いた方が、みんなのリアクションも得やすい (大きい )。 ネガティブな意見 Table6-3-11その他の項目に対する自由記述(聴覚障がい学生) ポジティブな意見 ・質問があった時に、質問マークがでるのは、すごくいいと思ったが、できれば自分に対する質問なのか全体に関する質問なのか表示方法に違いがあれば前もって心の準備ができそうだと思った。 ・質疑がある旨を表示してくれ、心理的負担が軽滅するが、質問内容が字幕として出るのに時間がかかるため、回答内容を考える時間が不足していて、満足のいく回答ができなかったと感じた。 ネガティブな意見 ・字幕として表示されるのが遅いのか、「通知」のタイミングが早く感じて混乱する。 ・字幕の遅延により、質問内容を理解するのに時間を要してしまい、迷惑をかけてしまったように感じた。 2 .聴学生 2 .1 .授業の流れのスムーズさ授業の流れのスムーズさの観点からの一対比較による評価結果を Table6-3-12に示す。 Table6-3-12授業の流れのスムーズさの観点からの評価 この結果から得られる各表出手段の平均嗜好度の推定値を Fig. 6-3-6に示す。平均嗜好度を用いて分散分析を実施した結果、主効果に関して F (2, 4) = 10.34、 p値が 0.0012( <0.05)となり危険率 5%で有意であった。したがって、 3つの表出手段間には授業の流れのスムーズさの観点から統計的に差があると言える。この結果に基づいて多重比較を行ったところ、表出 1と表出 2、表出 3と表出 2の間に危険率 5%で有意差が認められた。すなわち授業の流れのスムーズさの観点から、表出 1と筆談は、表出 2よりも統計的に好まれていると言える。 Fig. 6-3-6授業の流れのスムーズさの平均嗜好度 2 .2 .スムーズだと感じた理由 自由記述においてスムーズだと感じた、または他方の手段がスムーズではないと感じた理由を尋ねた。筆者が各「表出手段」に対する「ポジティブな意見」と「ネガティブな意見」のカテゴリに分類したものを示す。 Table6-3-13に表出機能 1に対する自由記述、 Table6-3-14に表出機能 2に対する自由記述、 Table6-3-15に筆談に対する自由記述を示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-13表出機能 1に対する自由記述(聴学生) ポジティブな意見 速報性に関する意見 ・伝達が早くて手間も少ないと思われたため。 ・学生の意思が先生に伝わるまでのスピード感がある。 答え方に関する意見 ・タイピングしたほうが話し言葉のままでいいので答えやすいような気がする。 ・(表出機能 2よりも)本人の言葉のような感じがした。 授業の進行に関する意見 ・途中で講師に送信してそれを読み上げながら話が続いていくことがあったため。 ・講師が読み上げるので、講師の話を変に遮らず、タイミングよく聴覚障がい学生のコメントを聞くことができた。 ネガティブな意見 講師が代弁することに関する意見 ・講師が回答を読み上げるので、他の学生との違いを感じる。 ・その人の回答を他の学生が聞けず、他の人に伝わりにくい。 入力中に感じることに関する意見 ・入力している画面が見えないので、目の前でなにをしているかはっきりしない。 ・今回はメモを取っていないが、ゼミの場面だとパソコンでメモを取ることもあると思う。そのときに、返事を打っているのかメモしているのか判断しにくく、聴覚障害学生のために待つべきかの判断が難しい。 Table6-3-14表出機能 2に対する自由記述(聴学生) ポジティブな意見 正確性に関する意見 ・周りにも伝えたいことが必ず発信したことがわかる点。 授業の進行に関する意見 ・テイカーが読み上げることで、通常の発言のときと同じような流れで授業が行えてた。 ・筆談ボードに目をやる必要がない。意見を挙げるまでの速度が速い。耳で聞こえるので集中が分散し難い。 ネガティブな意見 速報性に関する意見 ・テイカーが喋っている間が長く感じた。 ・当てられる→学生が答える→支援者が発言する、の 2段階でタイムラグがある。 授業の進行に関する意見 ・その場にいない誰かの声が入るので、授業の流れが止まるような気がする。 ・スピーカーから音声が聞こえたとしても、聴覚障がい学生がいつのタイミングで音声が流れているかわからないから。 ・入力者に読み上げてもらうと、いつ読み上げがあるかタイミングが掴めなかった。 ・音声はこの場にいない第三者の介入になるため、場の流れが途切れるように感じた。 ・音声の場合だと、聴覚障がい学生が答えたタイミングがわからず不安そうに見えた。 音質に関する意見 ・長い文章になると途切れて聞き取りにくい。 ・音声が不鮮明な時がある。 ・音声表出は声が小さくて聞き取りづらい。若干音にノイズが入ってるような気がする。 情報量に関する意見 ・テイカーの読み上げだと、発言者本人の身振りや表情などがなくなってしまう。 Table6-3-15筆談に対する自由記述(聴学生) ポジティブな意見 速報性に関する意見 ・聴覚障がい学生がなにを思っているのかがすぐにわかるからわかりやすい。 ・筆談の方が回答したらすぐ見れるような気がした。 ・筆談だと書いてすぐに表出してもらえた。 ・筆談の方がすぐに修正したり、情報をすぐに加えて説明したりすることができた。 正確性に関する意見 ・本人が書いたものを見れるため、確実に本人の意見を確認できた。 ・聴覚障がい学生が書いたことをみんなで共有できる。 ・周りの人もどういうことを伝えたいのか見える点。 ・意見を書くのはパソコンよりもゆっくりだけど、そのままみんなに示せるため。 授業の進行に関する意見 ・表出のタイミングが見ていて分かった。 ・学生の考えを聞ける時差が少ない。授業の流れが途切れない。 ・筆談だと自分で答えを提示ができ、タイミングもわかるから。 ネガティブな意見 速報性に関する意見 ・書いている間に、待たされている感じがあり、より表出までに時間がかかる印象がある。 ・時間がかかってしまう。 ・読解性、解釈、文字の綺麗さ、意見を出すまでの速度に問題を感じた。 2 .3 .その他自由記述 その他自由記述にて得られた回答を以下の表出手段毎に分類したものを Table6-3-16、 Table6-3-17、 Table6-3-18および Table6-3-19に示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-16表出機能 1に関する自由記述(聴学生) ポジティブな意見 ・今回のような名指しの場面ではなく、より白熱したディスカッションの場合は、特に 1の方法がいいと感じた。他の学生が話している間に、聴障学生が自分の意見を打つことができ、他の学生の発言が途切れたタイミングで挙手をして、会話の主導権が握れるため、より自然に討議に参加することができると感じた。 ネガティブな意見 ・講師の先生に送られた回答はどんな内容だったのか?講師の先生の解釈が入っていないのかが、気になりました。 ・表出を先生が行うということで聴覚障害学生ではなく講師に注目したような印象があった。 ・講師が一言一句そのまま声で読んでくれるとは限らないかもしれないと思った。 ・打ち込むとき私たちの目線が障害学生に注がれるため、打ちにくそうだなと感じた。 ・ゼミより広い空間にいる場合だと先生が手元を見て気づいてくれる機会も今回ほどはないのかなと思うので、スルーされてしまうことも増えるのでは。 ・端末を使用した際、打ち間違いをすぐに訂正しにくいことと、間違って打ってしまったことを先生に読まれてしまうという怖さがあると思った。また、指名されてるときに誰が指名されたのか、挙手する時間なのかわからず、打ってしまう時があった。 ・先生にメッセージを直接送る時「ピロリン!」と先生のパソコンから着信音が鳴るようにすると、聴いている側が分かりやすくなると思います。 ・端末へテキストを送ると、先生にだけ先に伝わるので、少人数のゼミと大人数の講義だと使い勝手が変りそうだと思いました。 ・学生が質問しているのかがわかるが本人の気持ちなのか、先生の相槌なのかがわからない。 Table6-3-17表出機能 2に関する自由記述(聴学生) ポジティブな意見 ・長文の答えだと、テイカーの音声の方がスムーズかもしれない。 ネガティブな意見 ・代弁の際、もう少し音声が綺麗になるととても良いと思いました。 ・スピーカーのときでは本人が手を上げるタイミングなどが分かっていないのと、どのタイミングで代わりに言われるのかがわからない。 ・発言する支援者と学生の性別の違いも個人的に少し違和感がありました。 ・スピーカーは先生の質問があってから学生が考えを打って、声にされるので待つ時間がかかってしまう。 ・先生から全体に問いかけがあるときに答えるタイミングが分かりづらいのではないかという印象を受けました。 Table6-3-18筆談に関する自由記述(聴学生) ポジティブな意見 ・書いてる様子に周りも注目して回答を聞いているような気がしました。 ・筆談には文字に強調をしたり、絵を描けることが強いと感じた。 ネガティブな意見 ・文字の読みにくさは少し感じた。 ・筆談は本人のやることが多い (イラスト見たり、筆記を見たり、質問されてから考えるなどの流れから )。 ・テイカーに発言してもらうよりも学生の回答の自由度が高そうに見えた(例えば→を活用して答えているなど)。 Table6-3-19その他の自由記述(聴学生) ポジティブな意見 ネガティブな意見 ・端末を使うには、先生も学生もタブレットとかキーボードに慣れないといけないので慣れるまでは少し大変そうだと思いました。 ・聴覚障がい学生が質疑応答の情報を受け取った際に、こちらでも、ピコン!のような何か音声があるといいなと思った。 第3項ポストアンケートの結果 1 .聴覚障がい学生 1 .1 . 5つの表出手段の順位付け ポストアンケートによって得た回答に対して Friedman検定を行い、各表出手段に差があるかどうかについて調べた。分析には IBM SPSS Statistics 25を用いた。分析の過程で得られた平均ランクは、「声」、「筆談」、「スマホに文字を打って見せる」、「表出機能 1」、「表出機能 2」の順に、 2.0、 3.0、 2.6、 4.6、 2.8であった。分析の結果、漸近有意確率が 0.11( >0.05)となり全ての表出手段間で有意な差は認められなかった。 1 .2 .表出機能 1に関する記述 以下の Table6-3-20に、表出機能 1に関する自由記述で得られた意見を示す。 Table6-3-20表出機能 1に関する自由記述(聴覚障がい学生) ポジティブな意見 ・入力されたのが即時に表示されるため、速報性が高い。筆談と併用したほうが、どちらかだけよりは正確性が高まると思う。 ・発言のタイミングを先生に任せることができるので、安心感があるのと、先生に気にしてもらいやすいので、良いとおもった。 ・先生の理解度は、この方法が一番自分に伝わりやすい。先生が分かったかどうか、読み上げの様子によっても変わってくると思う。・周りに共有しやすくていいのではないかと思われる。 ネガティブな意見 ・文字は講師だけじゃなく全員も見れるようにしたほうが、自分にとっては視覚的にも伝わったか確認できると思った。 ・先生が常に iPadを気にしてるわけではないので表出意志があることに気づかないことが一度あったので気になった。 ・先生が質問を読み上げているタイミングがわからないので不安になることがある(文字のタイムラグがあるため)。 ・打つのに時間がかかるので、タイピングが苦手な人はなおさら時間がかかってしまうのではないだろうか。質問がそのときにあって、質問したいときに授業を止めてその間に打ち込むことは周りの迷惑も考えると控えてしまうのではないだろうか。 1 .3 .表出機能 2に関する記述 以下の Table6-3-21に、表出機能 2に関する自由記述で得られた意見を示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-21表出機能 2に関する自由記述(聴覚障がい学生) ポジティブな意見 ・表出機能 1では、先生が表出意志に気づかない可能性があるが、表出機能 2ではそのようなことはない。特にみんなに対する質問の時に、言いやすいのではないかとおもった。またテイカーが発言している様子が、認識できるので安心感があってよかった。 ネガティブな意見 ・音が分からないから伝わったかも分からない。 ・入力して送信して、少し時間が経ったら発話する形になっており、速報性が著しく低下している。 ・テイカーが読み上げる様子が分からないので、みんなが首を傾げた瞬間、どこに対して分からないのか、わかりづらい。 ・音量バーもあるが、これは実感が湧きにくいのであまり良い案ではないように思う。改善策としては、テイカーの様子をカメラで見れたら良いのでは。 ・代わりに発話する時間が勿体ないかと思われる。 1 .4 .表出手段 3に関する記述 以下の Table6-3-22に、表出手段 3である筆談に関する自由記述で得られた意見を示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-22筆談に関する自由記述(聴覚障がい学生) ポジティブな意見 ・パソコンに慣れてない場合は、パソコンよりも早く打つことができるので良いとおもった ・この方法が一番自分の言いたいことを表現しやすい。図なども使えるので。 ・筆談は慣れている手法のためよく分からなかったが、個人的には筆談がやりやすかった。ただ、「質疑応答」の表示は非常に助かった。 ネガティブな意見 ・字が小さいか気になる ・筆談は字を大きく書かないといけなく、膨大な情報を伝えるのに時間を要してしまうため、私はキー入力の方が良いように思える。筆談は他の手段とは異なり講師の近くにいないといけないというデメリットがあり、友達と一緒に授業を受けるのが難しくなる。そのような心理的な負担が増えるため、どこでも講師に表出できるような手段を採るのが良い。 ・自分でタイミングを見て表出する必要がある。全く聞こえない人には難しいかもしれない。 1 .5 .システムを用いることで表出はしやすくなったか システムを用いることで表出をしやすくなったかについて 7段階評価、またその理由を自由記述にて尋ねた結果を Table6-3-23に示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-23表出はしやすくなったか 非常にしやすくなった 3名 ・やはり、発言しにくい理由として声を出したくない(声の大きさがわからない、イントネーションがあってるのかわからない、標準語が話せないなど)ので、かわりに発言してくれる機能があるとそれだけでも心理的負担が減る。また発言のタイミングが難しい。タイムラグがあると本当は話してる最中なのに、質問してしまうなど。だけどこのシステムがあれば、発言のタイミングはお任せできるので良いとおもった。 ・伝わりやすさは置いといて、自分に何かを発言するチャンスが与えられている。授業後に聞きに行く手間が省けるようになるのでは?パソコンタイピングよりも、スマホ入力の方がみんなは慣れてきているはずなので、スマホの方での入力もテストしてみたい。 ・「質問」の表示のおかげである。 とてもしやすくなった 1名 ・移動せず伝えることができるのは楽。自分も授業に参加している感覚が得られた。ただ、字幕の遅れによって他人の回答文がすぐ見れないことは、被ってるかの確認が難しかった。 ややしやすくなった 1名 ・聴覚に障がいがあっても文字で確実に講師に伝えられるため、負担が軽く感じた。だが、私が質問するのが慣れてなくて、時間が要してしまった。講師の話す速度によっても質問しやすさに差異が出るかもしれません。 2 .聴学生 2 .1 .各表出手段に対する評価 “授業の流れはスムーズだったか”を各表出手段それぞれについて、 5段階で絶対評価を依頼した結果を以下の Fig. 6-3-7に示す。「表出機能 1」と「筆談」ではややスムーズだったと回答した学生が約半数であったのに対し、「表出機能 2」ではややスムーズではなかったと回答した学生が約半数であった。 Fig. 6-3-7授業の流れはスムーズだったか “非常にスムーズだった”を 2、“非常にスムーズではなかった”を -2としたところ、「表出機能 1」では評価の平均値が 0.7(標準偏差 1.03)、「表出機能 2」では評価の平均値が -0.5(標準偏差 1.34)、そして「筆談」の場合では評価の平均値が 0.4(標準偏差 1.04)であった。 また、“ややスムーズではなかった”、“非常にスムーズではなかった”と回答した学生には、“それは許容できるか”と 5段階評価で尋ねた。 Fig. 6-3-8に許容できるか尋ねた結果を示す。全ての表出手段で“非常に許容できない”と回答した学生はいなかったが、「表出機能 2」では“やや許容できない”と回答した学生が 4名いた。 Fig. 6-3-8それは許容できるか 2 .2 .その他自由記述実験全体を通して感じたことについて自由記述で尋ねた結果を、以下の Table6-3-24に示す。 Table6-3-24実験を通して感じたこと(聴学生) 速報性について ・全体的に、機器を利用している学生が指名されてから回答するまでの時間が長く感じた。不慣れな状況だったからかなという印象を受けた。今回は双方向のコミュニケーションということだったが、双方向というにはまだまだ壁が高いなという印象を受けた。あとタイピングしている間は周りの人がその状況を理解して待てる様ななにか工夫が必要だと感じた。 ・筆談となると、本人の負担が多い気もするが、気持ちをすぐに伝えられる。スピーカーであると、時差があって、その人への視線を向けてる時間があって、本人へのプレッシャーになりそう。 機能について ・表出機能 1も 2も、どちらも本人以外の第三者を介さないと、周囲の人に本人の解答が表せないんですが、直接パソコンから音声が出るといいと思ったのですが。 ・少人数の教室なら表出機能 1で入力したものが皆で見れたら良いかもしれないと感じました。 ・聴覚障がい学生が自分達と同様に同タイミングで情報を得ているのかどうか、見えないのでその点が気になった。そのため、聴覚障がい学生のところで流れている内容が、全体でも見られるようになれば、表出までに時間がかかっても、ただ本人が悩んでいるだけなんだなと理解できるので、待っている感が少なくすむと感じました。 ・対話したい相手が同じ空間にいるので、その利点を生かして、他の空間にいる人の介入がない方が良いと思いました。 ・システムを用いた方法は使用者の慣れやトラブルが発生した場合への対策を確立しておくことが必要であると感じられた。個人的には筆談が最もスムーズに感じられたが、広い教室や大人数での講義など実験場面と異なる環境ではシステム利用の効果がより明確にみられるのではないか、と感じた。 入力について ・パソコンの入力が問題なくできる、スムーズにできる、精神が弱くない人ならできる方法だなと思いました。もし私が聴覚障がい学生の立場だったら、自分のタイピングに自信がない &人を待たせている &みんなが自分を注目しているという状況になって、焦ったり混乱したりして、自分の意見をきちんと言えなそうです。 ・筆談だと書き終わりがよくわかるので、授業自体が止まる感じがなくてスムーズなように感じました。今回の聴覚障害学生の方だと一言とかだと筆談の方が早いように感じましたが、パソコンでの入力が得意な方はシステムを使ったやり方の方が合う方もいると思いましたし、今回の待っている時間も許容範囲内でした。これを大人数の場合使えたら便利だなと思いました。 ・入力していたり紙に書いていたりするのが見えるので、それを待つのは特に何も思わなかったです。テイカーの音声が返ってくるのを待つと、どうしても時間がかかってしまうと思いました。 授業の進行について ・テイクした内容が周りの人にも伝わることが大切だと思うため、周りにも発信したことがわかる音声化の方がいいと思ったが、違う話の途中で音声が入るため、話をつなげるのが難しいと感じた。私は筆談を進行形で全員がわかるパネルかタブレットに映すことができれば一番よいのではないかと思う。 心理的負担について ・端末を使ったり、読みあげてもらうことにも良さがあり、筆談にも良さがあったと感じた。その場その場でどの手段を使うのか、本人が選べると良いのかなと感じた。端末を使うと、質問したいときに質問したり、答えたいときに答えることができるため、周囲と同じようにリアルタイムで授業を受けれると思う。ただ、一度打ってしまうと情報を修正するのが難しく、本人が言いたかったことと違うことが周囲にも伝わってしまい、抵抗感を覚える人もいるような気がした。 3 .テイカー 3 .1 .表出機能 1に関する記述 表出機能 1について、自由記述にて得られた意見を以下の Table6-3-25に示す。 Table6-3-25表出機能 1に関する自由記述(テイカー) ・講師が読み上げるので、本人に内容の確認がすぐできていいと思います。 ・こちらが読み上げる必要がないので、タイムラグが少ないと思います。 ・テイカーの力量差などに左右されずに安心。 ・タイピングしている音で聴覚障がい学生が発言しようとしているとわかったので「やりとりがある」という認識は持ちやすかった。復唱があるといいなと思った。(今回は復唱してくれたのでやりとりの流れがわかりやすかった)複雑な内容になると話についていけるか不安。 ・伝達がスムーズで、講師の方の反応も素早く感じられました。聴覚障がい学生が入力に慣れていれば、伝えやすい方法だと思います。 3 .2 .表出機能 2に関する記述 表出機能 2について、自由記述にて得られた意見を以下の Table6-3-26に示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-26表出機能 2に関する自由記述(テイカー) ・書き込みされたのを、一瞬見逃してしまい、時間がたってしまいました。 ・入力と聞き取りに集中しているときに応答を見逃しがちになってしまうところがあるかなと感じました。 ・タイムラグはありますが、講師等がタブレットを持つ必要がないので講師側の負担は少ないと思います。 ・入力に間があるので、慌てない。ただ、答えた瞬間にいきなり話者が話し出すとマイク OFFを忘れてしまう。自分では気が付きにくいので不安。 ・他の手段に比べるとタイムラグを長く感じるがこちらでタイムラグの感覚がわからないので、周囲の学生・教員がどのような感じに受け取るのかが気になる。男性に女性の代読、女性に男性の代読だと現場で違和感が生じないのかなと少し気になった。 ・表出ウインドウを気にかけておくのが思ったより大変だった。疲れてくると見過ごしてしまうかもしれない。表出ウインドウに変化があったらウインドウが点滅するとか、入力欄に色がつくなどの工夫があるといいと思う。発話のタイミングが難しく感じた。明らかに回答する場面であればこちらも自信を持って発話できるが、先生の話の途中でちょっとした指摘をしたり(例えば先生がページ数を間違えていて先生に「○ページではないですか?」と言いたい)、まわりの学生らのアクションを受けての発話(先生が突然テストをすると言い出してまわりの学生が「えー」「いやだー」など口々に言っている場面で、利用学生もそのような反応をしたいとき)に、場の雰囲気を壊したりラグによって不適切な場面で音が出てしまったりしないか心配。自分の滑舌が悪いかも、という心配も。。 ・手段が音声なので、その場にいる人がみんな意見をすぐに聞き取って共有できるメリットがあると思います。 3 .3 .筆談に関する記述 筆談について、自由記述にて得られた意見を以下の Table6-3-27に示す。 Table6-3-27筆談に関する自由記述(テイカー) ・すぐに書ける内容であれば、伝達はスムーズだと感じました。講師と学生の距離が遠い場合は文字の大きさなどによって少し伝わりづらくなるかもしれません。 ・筆談で記入を待っている間の無音が、記入しているのか、質問が伝わっていなくてフリーズしているのか判断が付きづらかった(入力のときはタイプ音が聞こえていたので何か入力中ということがわかった)。 ・講師等が筆談が見える位置に移動するという点で表出機能 1より負担は大きいと思います。 ・テイカーに内容が伝わるのにタイムラグがあるためテイカーから状況がわかりづらいことがあるかもしれない。 ・テイカーには状況がわかりにくかったです。 ・ペンで何かに書いている音がしたので回答しているとわかったが、前に出て書いたりスマホなどにタッチパネルのものに打っているとあまりわからないと思った。今回は事前に打ち合わせして行ったので筆談でもスムーズにできたが、本番の場合は表出ウインドウに「筆談中」ボタンのようなものがあればいいと思った。答えようとしているのかどうか、こちらからはわかりづらいので出してもらえると安心。その時も、筆談で時間がかかりそうかつ話が次に進んでしまいそうなときに、テイカーが発話で「筆談で回答中です」とフォローすれば発言の機会を確保できるのではないかと思った。 3 .4 .音声を送ることへの抵抗感 表出機能 2では聴覚障がい学生の代わりに発話を行うが、音声を送ることへの抵抗感があったかどうかについて 5段階評価で尋ねた。実験に複数回参加している T1と T2においては、初回に参加したときに音声による表出を体験してもらい、 2回目以降の参加からは音声による表出を行っていないため、該当する回答を削除した。したがって回答数は6である。“非常に抵抗感がなかった”と回答したのが 1名、“やや抵抗感がなかった”と回答したのが 2名、“やや抵抗感があった”と回答したのが 3名だった。 3 .5 .入力以外のタスクが増えたことへの意見 本実験では、テイカーの役割が講師等の音声を入力することのみに限らず、「講師からの問いかけに対して通知を送る」、「聴覚障がい学生の代わりに発話する」という 2つのタスクが追加されている。そのことに対して、自由記述で意見を尋ねた結果を以下の Table6-3-28に示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-28入力以外のタスクが増えたことに対する意見 通知機能に関する意見 ・ Ctrl+0(通知機能)を押すタイミングに難しさを感じた。 ▲全体への質問の流れからの利用者への指名 ▲利用者の応答に対する再質問 ▲質問のようにみえて、そうではない話し方(「では○○はどうだったのでしょうか。実は…」というような応答や指名を挟まず解答は自ら示して進めていくタイプの話し方・あるいはどちらともとれる話し方)これらの微妙なタイミングでも全部お知らせするのがいいのか、全部お知らせすると煩雑すぎないか(上記のいくつかは教室の雰囲気や講師とのアイコンタクトでわかるかもしれないので) ・ Ctrl+0(通知機能)を押すくらいなら負担ではないです。 ・ Ctrl+ 0(通知機能)が IMEの入力が確定していないと送れないため、入力中の文節確定、質問通知までのタイムラグはどうしても出てしまうが、 3名体制などの配置で解決できるかとは思います。 システム配置に関する意見 ・発声のマイクをいじるために画面を最大にしているので、授業資料(パワポのスライドなど)を同時に見ながら打つことが難しいです。 視線移動に関する意見 ・入力をしながら代読する切り替えに少々緊張しました。表出欄に注目したりマイク操作の必要もあるため、入力への集中がいつもより弱くなった感覚がありました。入力以外の方法でその場の方々に情報を伝えられることは、新鮮で面白く感じられました。また環境にもよると思いますが、 ONにするとマイクへのアクセス許可を求める通知に対応する必要があったので、事前の調整ができるとより良いかもしれません。 ・脳みそが 3つくらいいりそう。慣れないのでとても疲れた。いつ質問が来るだろう?これは反応を求めている質問かな?まわりの人答えてるかな? …と終始ハラハラしていた。慣れてきたらもっと視線移動も作業もしやすくなるはず。。 何回くらいやれば慣れるか、繰り返してやってみたい。 ・回数を重ねてくると表出パネルに視線を送ることを意識付けられるようになってきた。表出 2の場合に事前に決めておいた代読担当が見逃している事があった場合に代わりに読むか、気づいてもらえるようにチャットを送るか、判断に迷う事態があるかも。 3 .6 .その他自由記述 実験全体を通して感じたことについて自由記述で尋ねた結果を、以下の Table6-3-29に示す。なお、自由記述欄において二重下線を付した箇所は考察に使用したことを示している。 Table6-3-29実験を通して感じたこと(テイカー) 通知機能に関する意見 ・クラス全員に対する「質問ありますか?」と、聴覚障害学生個人に対する発問を、同じ「質問の時間です!」と伝えていいのか、という疑問があります。 ・ Ctrl+ 0などではなく、ワンボタンがいい。Fキーなど。 ・「質問の時間です!」の利用者側の表示について、質問はされていないが挙手を促される場面など(結局内容が伝わってないと反応はできないですが)リアクションを求められる場面が「質問」以外にもあるので、それらを含めたよい表記はないかなと…今思いつかないのですが…。 その他に関する意見 ・質疑に付随してパラパラと学生と教員の短いやり取りが起きていたこともあったが、通訳を介してだとある程度まとめて(教員の復唱部分のみで伝える等)しか伝えられれないこともあり、仮に聴覚障害学生がそこに参加したいと思ったときにうまく参加できるかは難しいと感じた。また、聴学生のときはそのような短いやりとりが比較的多かったのに対し、聴覚障害学生の回答については遠隔のタイムラグが 3パターンいずれにしても発生する仕組み上、どうしても複数回の細かい確認等のやり取りが起こりづらいように思う。 ・どの表出方法にもメリットがあるので、授業内容やその場の人数、部屋の状況などに応じて使い分けできればより効果を発揮できると感じました。 第4項入力文と読み上げ文の違い 聴覚障がい学生が入力した内容と、講師またはテイカーが読み上げた文を比較した結果、一部異なる読み上げをした箇所が存在した。本研究では、テイカーおよび講師に読み上げの際のルールは指定しないまま実験を行った。表出機能 1の体験中に聴覚障がい学生が表出を行った 26回のうち、講師が原文と異なる読み上げをしたのは 3回だった。また、表出機能 2の体験中に聴覚障がい学生が表出を行った 25回のうち、テイカーが原文と異なる読み上げをしたのは 7回だった。以下の Table6-3-30に聴覚障がい学生が入力した原文と講師の読み上げた内容を筆者が文字起こしした文の比較、 Table6-3-31に聴覚障がい学生が入力した原文とテイカーの読み上げた内容を筆者が文字起こしした文の比較を示す。 Table6-3-30講師が原文と異なる読み上げをした文 原文 読み上げ ① 70 → 70という答えが出ました ②軟骨 →お、正解!(中略)正解です。軟骨ですね。 ③ 66%だと思います → 66% Table6-3-31テイカーが原文と異なる読み上げをした文 原文 読み上げ ①思いつかない →思いつきません ②ミドリムシ →ミドリムシだそうです。 ③宝石 →宝石だそうです。 ④形などの(中略)わかるような→形などの(中略)わかるようなものもの だそうです。 ⑤ニモ →ニモみたいな形だそうです。 ⑥他に墓わかりません。 →他にはわかりません。 ⑦微生物の市街がくっついたもの 死骸→微生物の死骸がくっついたもの テイカーの読み上げ ⑦においては、 1文目“微生物の市街がくっついたもの”と聴覚障がい学生が送信したのち、テイカーの音声表出までの間に聴覚障がい学生が“死骸”と再送していることを表している。 上記に示した以外の表出においては、聴覚障がい学生が入力した原文がそのまま読み上げられていた。しかし、原文に“?”がついているものについては、テイカーによってイントネーションで違いを表している箇所も見られた。 第4節本章のまとめ 本章では、表出のタイミングであることを優先的に伝える「通知機能」と、システムを用いた2つの異なる「表出機能」を評価するために、従来のコミュニケーション手段として挙げられている「筆談」との比較を行い、「心理的負担」、「速報性」、「正確性」の観点を中心にその有効性を検証する目的で、模擬授業形式の実験を行った。本節では、アンケートと実験データから得られた結果をまとめ、その原因について考察する。 第1項一対比較による評価結果 まず、一対比較による評価結果について述べる。聴覚障がい学生からは「心理的負担」、「速報性」、「正確性」、「総合的」、「大勢の聴学生の中で役立つか」という 5つの観点の全てにおいて「表出機能 1」、「筆談」、「表出機能 2」の順に平均嗜好度が高いという結果が得られた。しかし、「心理的負担」、「速報性」、「正確性」の 3つの観点では有意な差は認められなかった。 「総合的」な観点では「表出機能 1」と「表出機能 2」間で危険率 5%の有意な差が認められた。すなわち「表出機能 1」は「表出機能 2」よりも統計的に好まれていると言える。「表出機能 1」では講師に直接テキストを送信し読み上げてもらうため、聴覚障がい学生は読み上げの様子を見ることがわかる。しかし「表出機能 2」では、テイカーが読み上げている様子を音量バーでしか実感することができず、表出内容までは把握することができない。自分の表出の様子を実感できないという点から「表出機能 2」の評価が低くなったことが考えられる。また、 3つの観点を総合した観点のみ有意差が認められたことから、聴覚障がい学生が表出手段を選ぶ際には、「心理的負担」、「速報性」、「正確性」の全てのバランスを総合的に考慮していると言える。 「大勢の聴学生の中で役立つ」という観点では「表出機能 1」と「表出機能 2」、「表出機能 1」と「筆談」間で危険率 5%の有意な差が認められた。すなわち、「表出機能 1」は「表出機能 2」と「筆談」よりも統計的に好まれていると言える。「表出機能1」は講師との距離に関係なく表出することができる。この利点は「表出機能 2」、「筆談」にはないメリットであり、聴覚障がい学生から高い評価を得た理由の 1つであることが推察される。また、「筆談」の評価が低かったのは、筆談の文字の大きさを調整する必要がある、質問や回答の内容が多い場合にかかる所要時間が長い、自分で表出のタイミングを測る必要がある、という内容の回答が得られた。大勢の聴学生とともに講義を受ける形式の場合、講師が遠くにい たり、筆談では全員に共有しづらい、という場面が想定されるからであろう。 聴学生の「授業の流れのスムーズさ」における評価では、「表出機能 1」、「筆談」、「表出機能 2」の順に平均嗜好度が高いという結果が得られ、「表出機能 1」と「表出機能 2」、「筆談」と「表出機能 2」間で危険率 1%の有意な差が認められた。すなわち、「表出機能 1」と「筆談」は、「表出機能 2」よりも統計的に好まれていると言える。「表出機能 1」と「筆談」間で有意差は認められなかったため、聴覚障がい学生の好みや講義場面によっては、「筆談」の代わりに利用できる可能性があることが推察される。この 2者から得た結果より、聴覚障がい学生が感じた評価と聴学生が感じた評価は、評価の観点は異なるが、総合的な評価は概ね同じ傾向にあることが推察される。 第2項「表出機能 2」の評価 全ての観点において、「表出機能 2」の評価が最も低い結果となった理由について述べる。推察される理由として主に“音声表出による不安感”、“システム利用によって生じる違和感”と“その場にいない第三者の介入”という 3点が挙げられる。 まず“音声表出による不安感”だが、聴覚障がい学生にとって正しく表出されたのか、そもそも表出されたのか、について確認できない。テイカー発話時の音量がわかる音量バーを設置しているが、「それだけでは実感がない」という回答や、「テイカーの様子をカメラで見れたら良いのでは」という改善策に関する回答も得られている。またその不安感は、「聴覚障がい学生が答えたタイミングが分からず不安そうに見えた」などの回答からも分かるように聴学生にも伝わっている。 次に“システム利用によって生じる違和感”だが、 T-TAC Captionは音声が届くまでに 2秒ほどのラグがあることが報告されている(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク , 2016a)。本実験で考案した表出機能 2も同じ音声伝送経路の逆方向を利用しているため、同程度の音声遅延が発生していることが考えられる。また、テイカーの自由記述より「マイク操作の必要もある」との回答が得られているように、表出機能 2では、テイカーがマイクを ONにする際にマウスあるいはタッチパッドでの操作が必要になる。これも音声を表出する際の遅延に含まれている。 1回数秒程度ではあるがこれらの遅延により授業の進行が止まったと感じたため、評価が低くなったことが推察される。タイムラグの他に“音質”によるものが挙げられる。これは聴学生の評価アンケートの「長い文章になると途切れることがあり聞き取りにくい」、「音声表出は声が小さくて聞き取りづらい。若干音にノイズが入っているような気がする」などといった記述から、内容を理解するために聴き取りに集中しなければならず、音声によるコミュニケーションであるにも関わらず、違和感が生じているのだと推察される。 次に“その場にいない第三者の介入”だが、その場にいない者の音声が入ることによって授業の進行が遮られるような感覚を覚えるのだと推察される。遠隔情報保障では、テイカーがそばにいないため、「人が支援している」実感が得られにくい場合がある(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク , 2016b)。そのため、周りで講義を受けている聴学生にとっては、聴覚障がい学生の表出によって突然テイカーの存在を意識することになる。また、聴学生とテイカーから「聴覚障がい学生とテイカーの性別の違いも違和感があった」との回答が得られていることから、テイカーによる代弁が聴覚障がい学生の発話であるということが結び付きにくいことが推察される。 以上“音声表出による不安感”、“システムの質によって生じる違和感”と“その場にいない第三者の介入”という 3点により、表出機能 2は聴覚障がい学生にとっても聴学生にとっても違和感のあるものだったと言える。 表出機能 2に対するテイカーの意見としては、入力をしながら表出タブを気にしておくのが大変だった、表出タブに書き込みされたのを一瞬見逃してしまった、入力をしながら代読する切り替えに緊張したといった内容の、タスクが増えたことによって入力に対する集中力が落ちてしまう、というものが多数得られた。しかし、実験に複数回参加した T1の 3回目の自由記述には、「回数を重ねてくると表出パネルに視線を送ることを意識付けられるようになってきた」との回答があるように、テイカーが操作に慣れることによっても多少のタイムラグ解消につながることが推察される。 第3項表出内容の違い 講師あるいはテイカーが、聴覚障がい学生が入力した原文と異なる読み上げをした場面について述べる。 まず講師が原文と異なる読み上げをした場面において、 Table6-3-30の ①のような読み上げ方の場合、聴覚障がい学生が回答したことはわかるが、代弁ではなく説明、という印象を受ける。 ②のような読み上げの場合、講師が最後に「軟骨ですね」と読み上げるまで、周りの聴学生は聴覚障がい学生が何と回答したのか不明なまま会話が進んでいる。これは、聴覚障がい学生と講師の間でのみコミュニケーションが成立しており、聴学生にとっては普段の音声による会話からは得られない疎外感を感じていることが推察される。 ③は求めている回答の箇所だけを抜き出して読み上げており、授業を円滑に進めるために必要な言い換えであり、この言い換えによって異なる印象は受けないだろうと推察される。 テイカーが原文と異なる読み上げをした場面において、 Table6-3-31の ①のような読み上げ方は、書き言葉を話し言葉に言い換えているため、聞き手である聴学生と講師にとっては自然な言い換えだろう。また、 ⑥と ⑦では、聴覚障がい学生の原文に誤字・誤変換が存在するが、意味を正しく捉えて言い換えているため、自然な言い換えである。しかし、 ②~ ⑤では、“原文+だそうです。”と言い換えているため、聴覚障がい学生の代弁ではなく、テイカーの言葉という印象が強くなり、聴学生はその場にいない第三者が介入している印象を強く受けていることが推察される。 反対に、原文をそのまま読み上げるのが不自然であるように感じる場面も存在した。聴覚障がい学生が入力した原文が単語のみ(例:貝、架空の生物?等)である場合、声でそのまま読み上げることに違和感を覚えた。特に「表出機能 2」では、テイカーの読み上げがそのまま聴覚障がい学生の表出と捉えられる可能性が高い。言い換えについては細心の注意を払うとともに、ルールを定めて人的要因による差異を減らす工夫をする必要がある。 第 III部結論 第7章まとめ 本研究では、現在利用されている遠隔情報保障システムの 1つである T-TAC Captionに表出の機能を追加し、最適な双方向コミュニケーションの手段を見出すことを目的とした。 まず聴覚障がい学生に対して情報保障を行っている大学・機関を対象に、聴覚障がい学生・テイカー・支援室職員から、テイク利用時における表出に関するアンケート調査を行うことで、パソコンテイクのシステムに必要な表出の機能を調べた。その結果、聴覚障がい学生は表出手段を選択する際に「心理的負担」、「速報性」の 2つを重要視していることが推察できた。三好ら( 2015)の報告では、「心理的負担」、「速報性」のほかに「正確性」も重要視されていることが述べられている。また、アメリカの事例を参考に、テイカーを介して表出する手段が考えられる一方、表出に関しては聴覚障がい学生本人が行う、といった方針の大学もあることがわかったため、テイカーを介さない手段も考える必要がある。 以上の結果を踏まえ、聴覚障がい学生に対して表出のタイミングであることを優先的に通知する「通知機能」と、聴覚障がい学生が周りの講師や学生に表出することができる「表出機能 1(講師にテキストを送信する)」、「表出機能 2(テイカーが代わりに発話する)」の開発を行った。 これらの機能を評価するために、少人数での講義形式を想定したシステム評価実験を実施した。実験により、聴覚障がい学生・聴学生ともに「表出機能 1」、「筆談」、「表出機能 2」の順に平均嗜好度が高かった。聴覚障がい学生に尋ねた「心理的負担」、「正確性」、「速報性」の観点からは有意な差は認められなかったが、「総合的」な観点からは「表出機能 1」は「表出機能 2」よりも統計的に好まれていることが言えた。その場で講師が読み上げることで表出の様子を確認することができるため、「表出機能 1」の評価が高くなったことが推察された。また、 3つの観点を総合した観点のみ有意差が認められたことから、聴覚障がい学生が表出手段を選ぶ際には、「心理的負担」、「速報性」、「正確性」の全てのバランスを総合的に考慮していると言える。 また、「大勢の聴学生の中で役立つ」という観点では、「表出機能 1」は「表出機能 2」と「筆談」よりも統計的に好まれていると言えた。「表出機能1」は講師との距離に関係なく表出することができることが、聴覚障がい学生から高い評価を得た理由の 1つであることが推察される。また、「大勢の聴学生の中で役立つ」という観点で「筆談」の評価が低かったのは、筆談の文字の大きさを調整する必要がある、質問や回答の内容が多い場合にかかる所要時間が長い、自分で表出のタイミングを測る必要がある、という内容の回答が得られた。大勢の聴学生とともに講義を受ける形式の場合、講師が遠くにいたり、筆談では全員に共有しづらい、という場面が想定されるからであろう。 聴学生に尋ねた「授業の流れのスムーズさ」の観点からの評価では、「表出機能 1」と「筆談」は、「表出機能 2」よりも統計的に好まれていることが言えた。「表出機能 1」と「筆談」間で有意差は認められなかったため、聴覚障がい学生の好みや講義場面によっては、「筆談」の代わりに利用できる可能性があることが推察された。 「表出機能 2」に対する評価では、自由記述より得られた“音声表出による不安感”、“システム利用によって生じる違和感”、“その場にいない第三者の介入”の 3点によって、全ての観点において評価が最も低くなっていることが推察された。特に、入力文と読み上げ文の違いから、聴学生は、聴覚障がい学生が入力した文章とは異なる読み上げをされることによって、その場にいない第三者の介入を感じている可能性が推察された。 本研究では、遠隔情報保障における聴覚障がい学生の表出に着目して研究を行った。全体の評価として、今回筆者が開発した「表出機能 2」が最も低い結果となり、その理由として“音声表出による不安感”、“システム利用によって生じる違和感”、“その場にいない第三者の介入”の 3点を推察するが、これらのうち“その場にいない第三者の介入”は当然として他の理由は現地入力であればある程度解決できる要因であろう。まず“音声表出による不安感”だが、テイカーがその場にいて代弁している様子を聴覚障がい学生が見ることができれば、表出されているかわからないといった問題は解決されると推察する。実際に聴覚障がい学生の自由記述にも「テイカーの様子をカメラで見れたら良いのでは」との回答も得られている。次に“システム利用によって生じる違和感”だが、これはネットワークによる音声遅延や、聴学生からの自由記述で「音声表出は声が小さくて聞き取りづらい。若干音にノイズが入っているような気がする」という表出の音質の低下から生じるものであった。テイカーがその場にいて表出を行うことによってこれらも解決されると推察される。 本研究で開発した「通知機能」、「表出機能 1」、「表出機能 2」は現地入力であっても利用することができる。特に「表出機能 2」については、アメリカの“ Typewell”のように実用している例がある。今後、現地入力において「表出機能 1」と「表出機能 2」の比較評価を実施することで、新たな知見が得られることが期待される。 第8章今後の課題 1 .実験環境における課題 本研究では少人数の講義形式を想定して模擬授業を実施した。しかし実際の大学等の講義において、大勢の聴学生とともに受けるという状況もある。その場合、環境が変わるため本研究の環境では起こりえなかった要因から評価が変わることが想定される。本研究では、そのような状況を想定したアンケート項目を用意した結果、「表出機能 1」が最も高い評価を得ているが、この関係性も変わっていく可能性もあり、実際に大勢の聴学生の中で使用した時の評価も今後必要になるだろう。 聴覚障がい学生の自由記述より、通知機能が「心理的負担」「速報性」に影響していることが推察される。本研究では「表出機能 1」「表出機能 2」「筆談」の全てにおいて通知機能を利用しているが、通知機能に対する評価は行っていない。今後は通知機能が「心理的負担」「速報性」にどのような影響を与えているのか、明らかにする必要があるだろう。 2 .実装したシステム上の課題本研究の評価実験の中で、研究協力者から得た意見についていくつか述べる。まず聴覚障がい学生からは「スマートフォンによる入力のほうが慣れているので、キーボードではなくスマートフォンでも試してみたい」という入力方式に関する意見を得た。本研究では、聴覚障がい学生が字幕を表示するためのタブレットの内臓マイクを用いて、テイカーに音声を送っていた。そのため、タブレットの画面上をタップする音がテイカーに送られてしまい、聴覚障がい学生の入力と講師等の発話が重なったときに、テイカーが入力できなくなってしまった。そのため、 Bluetoothキーボードを接続し、入力方法を変更することで解決を図った。しかし森ら( 2018)の報告では、スマートフォンとパソコンの入力速度の比較を大学生 69名に対して行い、 67名の学生がスマートフォンのほうが速い、という結果が示されている。本システムにおいても、スマートフォンから入力できるように改良することで、速報性における評価がどのように変わるのか調査する必要がある。 テイカーからは「表出ウインドウに変化があったらウインドウが点滅するとか、入力欄に色がつくなどの工夫があるといいと思う。」という意見を得た。聴覚障がい学生からも、講師が表出に気が付かないときがあったという回答があったように、テイカー用・講師用ともに表出があったことを知らせる工夫が必要である。また本システムのテイカー側の操作方法は「通知機能」が“ Ctrl +0”、「表出機能 2のマイク ON/OFF」がマウスあるいはタッチパッドでの操作によるボタンクリックであった。これは、通常の入力をしながら使用するのに適しているものとは言えない。テイカーからも「答えた瞬間にいきなり話者が話し出すとマイク OFFを忘れてしまう。」、「 Ctrl+ 0などではなく、ワンボタンがいい。Fキーなど。」などの意見が得られている。今後、通常の入力に影響しないよう操作性を改善していく必要がある。 引用・参考文献 有海順子( 2013)聴覚障害学生に対するパソコン要約筆記の特徴に関する研究-大学の授業場面・支援者・当事者の要因から-. 筑波大学 , 博士論文 足尾勉 , 西村知也 , 小林香織 , 北村晃一 , 島津秀雄( 2012)聴覚障がい学生向け遠隔要約筆記支援システム . 情報処理学会第 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