高等教育機関における聴覚障害学生支援コミュニティの形成と発展プロセスに関する研究 令和元年度 筑波技術大学大学院修士課程技術科学研究科情報アクセシビリティ専攻 見山陽介 目次 第1章 研究の背景 1 第1節 日本国内の聴覚障害学生支援の現状と課題 1 第2節 まとめ 7 第2 章 本研究の目的 8 第3章 研究の方法 9 第1節 インタビュ調査概要 9 第2節 分析方法B修正版グラウンデッド・セオリー・アプロ―チ 12 第4 章 結果 15 第1節 分析結果B全体のストリラインと結果図 15 第2 節 カテゴリ・概念の説明 24 第1項 《支援コミュニティの成立》 24 第2項 《支援のための対話基盤》 49 第3項 《学生主体の成長システム》 69 第4項 《社会背景の反映と実現》 87 第5 章 考察 100 第 1 節 本研究で得られた結果のまとめ 100 第2節 支援活動に照らし合わせた概念モデルの解釈 101 第6章 結論 108 第1節 結論 108 第2節 研究の意義と限界 111 第3節 まとめ 113 文献リスト 114 巻末資料 117 謝辞 筑波技術大学 修士(情報保障学)学位論文 第1章 研究の背景 本章では、大学、短期大学等の高等教育機関(以下、大学)における聴覚障害学生支援を担っている主体としてのコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の3者に焦点をあて、それぞれの立場から我が国における障害学生支援の現状について概観する。 第1節 日本国内の聴覚障害学生支援の現状と課題 大学における聴覚障害学生支援は、各大学や聴覚障害学生当事者の活動に始まり、国際社会や国内の政策とも関連して支援を取り巻く環境が変化し整備されてきた歴史がある。これらの歴史的背景を概観するとともに、特に近年の障害学生支援にまつわる現状と課題を見ることで、本研究を行う背景について述べることとする。 これまでの障害学生支援 日本の聴覚障害学生支援は、これまで長年公的な制度に基づくものではなく、個人や各大学の取り組みに任せられてきた歴史がある。1980年代には、聴覚障害学生個人の自助努力や友人らによるボランティアが行われるとともに聴覚障害学生の当事者団体が発足し、1990年代には支援体制の確立が国の方針として示された(有海, 2013)。その後、徐に私的な支援から大学による支援が行われるようになり、2000年代にはパソコンによる要約筆記が始まり、より良い支援を行うことが求められるようになっている(同上)。 国際社会では、2006年12月に「障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)」が採択され、各国の署名の元、2008年5月に発効されている。日本においても、条約の批准に先立n国内法の整備が進められることとなり(内閣府,2016)、2011年8月に障害者に関わる法律や制度の基本的な考えを示す障害者基本法の改定、2012年6月に障害者への支援について定めた障害者総合支援法の成立、2013年6月に障害者への合理的配慮の提供を義務とした障害者差別解消法が成立し、同年の障害者屈用促進法の改正によって、同条約に基づいた国内の障害者関連制度が整備されることとなった。これを受け、2014年1月に障害者権利条約の批准書が寄託され、同年2月から国内で効力を発揮するに至っている。 こうした流れの中、2012年には文部科学省が「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」を開催し、「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」を作成している。ここでは、「各大学等における情報公開及び相談窓口の設置」など、関係機関が取り組むべき課題をまとめるとともに、「合理的配慮の合意形成過程」を整理して示すことで、大学における合理的配慮のとらえ方を内外に知らしめている(文部科学省, 2012)。 こうした現状から、障害学生や大学の自発的な運動として開始された日本の障害学生支援は、現在、国際社会の動きに連動した国内法の後押しを受けて、急速に全国の大学に広がり、定着しつつある現状にあると言える。 障害者差別解消法と合理的配慮 2016年4月1日に施行された障害者差別解消法は、障害を理由とする差別の解消の推進を目的に、障害による「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」の義務または努力義務を課している。 文部科学省では、障害者差別解消法の施行を受け、再度「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」が開催され、2017年3月に第二次まとめとして大学が取り組むべき事項や考え方が示された。基本的な考え方として、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供は、コンプライアンス(法令遵守)の観点からも重要で、組織として当然取り組むべきものであり、特定の教職員任せにならない、組織としての取り組みが必要であることが示されている(文部科学省,2017)。つまり、法律の制定によって、聴覚障害学生と大学の対話の場が保障されることとなり、意思表明に基づく建設的対話の筋道や過重な負担ととらえられる配慮の例など、話し合いのためのルルが整備された。これにより、今後、全ての大学で実施可能な合理的配慮の範囲が拡大されていき、大学によって判断が分かれる事項についても、徐に底上げされていくことが期待されている(白澤, 2016)。 また、第二次まとめの中では、各大学が取り組むべき課題として「障害のある学生への支援を行う人材の養成・配置」があげられており、コーディネーターをはじめとする専門的知識を持った人材の養成、配置が不可欠であること、支援学生を含む学生との継続的な関わりの中で仕組みを構築していくことが重要であると述べられている。ここから、法律が整備され、支援に必要なインフラを形成・発展させていく過程においても、その担い手である人材の配置と養成が重要とされていることがわかる。 聴覚障害学生支援の現状 日本学生支援機構(2018)の調査によると、大学に通う障害学生は33,812人であり、これは全学生の1.05%に当たる。このうち聴覚障害学生は1,972人(言語障害のみ71人を含む)であり、全国1,169校のうち44%の513校の大学に聴覚障害学生が1人以上在籍している現状にある。また、2008年の調査では、障害学生の数が全体で6,235人であったことから、この10年で約5倍と急激に増加していることがわかる。このうち聴覚障害学生は、2008年に1,435人、2018年に1,972人となっており、微増ながら着実に増加している。 一方、障害学生支援担当部署数は2018年の時点で全体の96.5%にあたる1,128校で何らかの部署・機関が設置されており、このうち250の大学で専門部署・機関が設置されている。2013年では1,044校で対応部署・機関が設置され、101校で専門部署・機関が設置されていたことから、障害者差別解消法が施行された2016年にかけて5年間で14,の大学で専門部署・機関が新たに設置されたことがわかる。 あわせて2013年における障害学生支援担当者の配置状況をみると、972の大学で支援担当者が配置され、専任配置は109校、兼任配置は863校となっている。2018年には1,117校となり、専任スタッフは198校、兼任スタッフは919校となっており、専任配置が約2倍に増加している。支援担当者はコーディネーター、カウンセラー、職員、教員などの職種に分かれるが、そのうち特にコーディネーターを見てみると、2013年には障害学生在籍校1190人のうち専任と兼任あわせて125校に配置されており、2018年では188校に配置されている。 また、国立大学では、法体制の整備や障害者向け情報発信促進等経費の影響も受けて、大学全体で支援体制の整備が進み、67%の大学で支援担当者が配置され、兼任担当者を含めると100%に上る。これらのことから、第二次まとめに掲げられた取り組むべき課題の解決に向けて着実に歩みが進められていることがわかる。 これに対して、聴覚障害学生への支援は、パソコンノートテイク、ノートテイク、手話通訳、音声認識(UDトーク)等の情報保障の授業への配置が中心的な手段とされている(日本学生支援機構,2018)。2014年度日本学生支援機構「障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」によると、ノートテイクを実施している大学156校中144校(92.3%)の大学が学生による支援を行い、パソコンノートテイクについても、106校のうち93校(87.8%)が学生による支援を実施しているとされている。 その後の調査では、こうした支援の担い手に関する項目がなくなってしまったため、近年の傾向についてはデータがないが、おそらく聴覚障害学生支援の多くを支援学生が担っている実態には変わりないと考えられる。このため、前述のように第二次まとめにおいても支援学生の養成と研修が取り組むべき課題として示されており(文部科学省,2017)、現在も残された課題になっていることがわかる。 聴覚障害学生支援の課題 聴覚障害学生支援の体制については、小林ら(2017)が、大学における聴覚障害学生支援の課題について概観する中で、「支援体制の構築」に課題があることを指摘している。特に「支援者の確保」つ「支援の体制の維持」においては、支援組織の継続性やノウハウの共有が課題となっており、聴覚障害学生と支援学生、コーディネーターの面から間題を捉える必要があることが示唆されている。 同様に、日本学生支援機構(2009)でも、ノウハウ共有の必要性について指摘されており、支援学生のノウハウ・質の保持のため、継続的な講習会や勉強会の開催情報共有のための共有スペース、経験者とつながる場などが重要であるとしている。また、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(2017)は、聴覚障害学生の意思表明支援における働きかけについて述べる中で、聴覚障害学生個とのラポール形成の他、聴覚障害のある先輩との出会い、支援学生との交流などが重要であり、それがなされる場を確保していくことの大切さについて言及している。 聴覚障害学生支援における支援コミュニティの重要性 前項のように見ていくと、現在のように学生を主体とした聴覚障害学生支援を維持・発展していくためには、そのノウハウの継承や情報共有、他学生との出会いや交流を通した関係性の構築ができる支援コミュニティの存在が重要なことがわかる。 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(2015)は、こうした支援コミュニティを「目標・関心・価値・規範などを共有し、目標達成や価値の維持のために一緒に活動する共同体」と定義づけ、この存在が、聴覚障害学生支援の活性化や誰もが平等に参加できる大学づくりにとって、非常に重要であることを指摘している。同時に、支援コミュニティに所属することで、「学生同士の交流」や「役立った実感」、「利用学生との深い関わり」が得られ、これらが支援継続の動機にもなっているとのことである。 もちろん、大学における障害学生支援のあり方は千差万別であり、中には、コミュニティの力に依らない支援体制を選択している大学もある。しかし、学生を支援の中心に据え、互いに高め合っていく関係性の構築を求めるのであれば、そこには支援を通して集まってくるさまざまな構成員を受け止める基盤としてのコミュニティが必要であり、そこには構成員の力を繋ぎ留め、維持・展させていくしくみが必要と言える。 コミュニティ・エンパワメントの視点 前項で述べたようなコミュニティの力を引き出し、活性化させていくための概念として、「コミュニティ・エンパワメント」があげられる(安梅, 2005)。安梅(同上)は、コミュニティ・エンパワメントを進めるための7つの原則として、以下の点をあげており、これらを活用することで継続的なコミュニティの発展が可能になるとしている。すなわち、①関係性を楽しむ、②価値に焦点を当てる、③つねに発展に向かう、④柔軟な参加様式、⑤親近感と刺激感、I⑥評価の視点、⑦リズムを作る、の7つである。 このうち柔軟な参加様式では、企画・調整のリダ的な役割を担うコーディネーターと、企画や調整に積極的に関わるコア・メンバー、必要に応じて専門的な情報や技術を提供する参照メンバー、日常的に関わる活動メンバー、普段は参加しないが関心のあるときは参加する周辺メンバーなどさまざまな参加形態があり、いずれも参加様式として認められるべきことを指摘している。 また、コミュニティには、その中心的役割を担う当事者によるミクロシステムの他、メゾシステムやエクソシステムなどがあり、相互に作用し合ってコミュニティ全体を構築しているとされている(安梅同上)。 聴覚障害学生支援の場合、当事者としてのコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生がミクロシステムを構成し、これらを取り巻く環境として、大学や教職員、周囲の学生が、メゾシステム、エクソシステムを構築していると考えられる。こうした視点は、聴覚障害学生支援のための支援コミュニティにおいても共通しているものと考えられ、これを参考に支援コミュニティの維持・発展につながる視点を得ることができると考えた。 なお、安梅(同上)は、コミュニティを「目的、関心、価値、感情などを共有する社会的な空間に参加意識を持ち主体的な相互作用を行っている場または集団」と定義している。これにならうと、聴覚障害学生支援における支援コミュニティは、「聴覚障害学生支援という共通のテマに関する目的、関心、価値、熱意などを共有し、支援の場に参加意識を持って集まるとともに、支援を通して主体的な相互作用を行っている集団」と定義することができるmろう。 また、この構成員については、広い意味では、必要に応じて専門的知識を提供する教員や関心のある時にのみ関わるような周囲の学生なども含まれてくると考えられるが、ここでは活動の中心的な調整を担う障害学生支援コーディネーターなどの支援室のスタッフと、コア・メンバー、活動メンバー、周辺メンバー等、意識や立場の違いによってさまざまな関わり方を持っている支援学生・聴覚障害学生とする。 第2節 まとめ これまでの先行研究から、コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生による相互的な関わりを行うことができる場の必要性が明らかになっており、それに対応するため、支援コミュニティの存在が重要であると考えられる。しかし、これまでの研究では、支援学生の視点を中心とした支援コミュニティのマネジメントや聴覚障害学生のみに焦点を当てた研究(石野ら,2016)が行われており、支援コミュニティの構成員となるコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の3者の視点による支援コミュニティのあり方は言及されていない。そのため、3者の相互関係を通して、支援コミュニティがどのようなプロセスで発展していくのか検討する必要があると考えられる。 第2章 本研究の目的 大学の聴覚障害学生支援組織を1つのコミュニティとして捉えたとき、コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生からなる構成員はどのように支援コミュニティを活性化していくとよいのか。日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(2015)は、学生同士がつながる支援コミュニティづくりの事業で支援学生に着目し、「利用学生との協働を主眼とした企画の実施」や「日常のコミュニケ―ションで取り入れられる事例」など具体的なマネジメントの事例を報告している。しかし、これは支援学生の視点から導き出された断片的な手法であり、3者による支援コミュニティとして包括的に捉えたモデルを示すには至っていない。 そこで本研究では、支援コミュニティが構成員自身の手で活性化されていくために、どのようなプロセスが必要で、結果として形成された支援コミュニティはどのような状態にあるのが望ましいのか分析し、その構成概念を明らかにすることで、聴覚障害学生支援の現場で応用できる概念モデルを提示することを目的とする。 第3章 研究の方法 第1節 インタビュー調査概要 調査協力者 本調査の協力者は、高等教育機関にて聴覚障害学生支援の活動に従事しているコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生とし、以下の条件を満たしていることである。   ①コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の3者による支援コミュニティが存在する大学に所属していること   ②支援コミュニティの中で聴覚障害学生支援に関わる活動に従事していること なお、コーディネーターについては、各大学で障害学生支援コーディネーターなどの肩書を持って障害学生支援業務に携わっている方で、他業務との兼務ではなく、障害学生支援を専らの業務(専務)としている方を対象とした。 これらの条件を踏まえた上で、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)が毎年実施している日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムの報告書(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク,2018など)等を参考に、聴覚障害学生支援実践事例コンテストにて3者による取り組みを紹介しているなど、活発な支援コミュニティの活動が見える大学を選定し、調査概要の説明を行った上で研究の目的に同意していただけた大学のコーディネーターと学生を対象とした。 最終的な調査協力者は、4つの大学(以下、大学①~④とする)に所属するコーディネーター7人、支援学生8人、聴覚障害学生5人の計20人であり、それぞれ属性ごとに複数回に分けてグルプインタビューを行った。このうちコーディネーターと聴覚障害学生は、大学ごとに分けて実施し、支援学生は大学①と②の学生を合同で、大学③と大学④の学生をそれぞれ分けてインタビューを行った。 表3-1 調査協力者リスト(コーディネーター) (表) 表3-2 調査協力者リスト(支援学生) (表) 表3-3 調査協力者リスト(聴覚障害学生) (表) データ収集方法 半構造化面接を基本としたフォーカスグループインタビューによりデータ収集を行った。これは、グループダイナミクスによる多様性と複雑さが表されたディティルに富む生のデータを収集するためである。同じ大学の在籍者をグループでまとめることで、普段行われている支援コミュニティの活動やプロセスにおいて、1人では気づきにくい点や、多角的な視点から意見を得ることができた。なお、グループインタビューの手法は、同じグループに属する他者の存在に影響されて、意見が言いづらかったり、本来の意思とは異なる発言が出たりすることもあるとされている。このため、インタビュー後には、こうした不都合がなかったかどうかをアンケトにて尋ねるとともに、その場では言えなかった意見があれば自由に記入してもらえるようお願いした。この結果、事後アンケートでは、グループでインタビューを行うことによる弊害は特に感じられなかったとの回答が得られ、またグループで実施するよってどちらかというと幅広い意見を言うことができたとされていた。 インタビューの内容は、まず、導入部では、「これまで行ってきた活動」や「現在の障害学生支援組織の現状とコミュニティとしての課題」などについて尋ね、その後「望ましい障害学生支援組織の状態像とはなにか」「望ましい障害学生支援組織の状態にたどりつくために、具体的にコーディネーター(職員)、聴覚障害学生、支援学生はなにができるか」を中心に自由に語ってもらう形式とした。その際、さらに突き詰めたいポイントにおいては、インタビューガイドに基づき追加の質間を行った。結果、支援コミュニティの構成員による支援活動の実情や課題、構成員に対する思いなど多彩な語りを得られた。 インタビューの場所は、大学の障害学生支援室や会議室など協力者の在籍する大学で行い、負担の少ない環境を用意した。調査時間は1グループにつき1時間~2時間を設定し、協力者の同意書を通してICレコダとビデオによる音声データと録画データを記録した。20名の合計インタビュー時間は751分(12時間51分)であり、1グループ平均93分であった。 調査期間 調査実施期間は2019年1月から3月までの3ヶ月間である。 倫理的配慮 データ管理方法、個人情報の取り扱い、インタビューガイド等については、文書並び口頭で説明し、倫理委員会にて承認を受けた。(承認番号 H30-31) 第2節 分析方法-修正版グラウンデッド・セオリー・アプロ―チ- 分析方法の選択 分析方法は、「修正版グラウンデッド・セオリー・アプロ―チ(以下、M-GTA)」を用いた。M-GTAとは、1960年代に考案されたグラウンデッド・セオリー・アプロ―チをもとによりデータに密着した理論を生成するための質的研究法である(木下,2007)。 M-GTAの特徴は、限定された範囲での理論(説明)の生成である。インタビューによって収集したデータを外在化させ、分析対象とすることで、分析プロセスを説明可能なものとし、データを切片化することなく文脈を重視して解釈を行う(木下,2007)。具体的には、データに密着して深い解釈からそのデータの意味を凝縮して表現できる「概念」を取り出して概念名を名付け、その後はデータから離れ、概念同士の関係性を「カテゴリー」、複数のカテゴリーに共通する中心概念を「コアカテゴリー」としてそれぞれ命名、分析するものである。収集するデータにおいては、データの不完全性(木下,2007)と研究者の関心による反映を認め、それによる影響を明示化することで、「研究する人間」によって捉えられ、かつ現実に生かしていくことが可能となる理論の生成が志向されている。分析においては、「分析テーマ」「分析焦点者」を通して方法論的限定を行い、「研究する人間」の捉え方を通して、特定の領域に限定された一般化が行われる(木下,2007)。 本研究において、M-GTAが分析方法として適していると判断した理由は以下の通りである。 ①大学における聴覚障害学生支援組織に所属するコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の関係という限定された範囲を調査対象としていること。 ②支援コミュニティで行われる構成員の支援活動自体が人と人の相互作用によるものであり、他者との相互作用の変化を説明できる動態的説明理論の生成を志向しヒューマンサービス領域の研究に適していること。 ③学生の入学から卒業まで、自ずとプロセスが伴うものであること。 ④支援コミュニティを対象とした質的研究による分析は行われていないため、新たな知見を得ることができると考えたこと。 更に、「研究する人間」として研究者自身が大学在籍時に聴覚障害学生として支援コミュニティに在籍し、「研究する人間」として支援コミュニティにおけるコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の3者の関係が日々の支援活動に大きな影響をもたらしていたことによる間題意識が明確であったことも、大きな理由となっている。 分析テーマと分析焦点者の設定 M-GTAでは半構造面接によって得られたデータに密着して分析を行うため、収集したデータを解釈しながら設定した分析テーマが適当であるか調整する必要がある(木下,2007)。そのため、分析テーマは収集したデータの分析と並行して調整を行った。結果として、最終的な分析テーマは、「聴覚障害学生支援において、支援コミュニティを構成する一員が支援コミュニティを活性化していくプロセス」とした。分析焦点者は「コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の3者からなる支援コミュニティの構成員の一員」とした。支援コミュニティ全体が活性化していくプロセスを明示化するため、3者個々の立場ではなく、支援コミュニティの構成員として分析テーマと分析焦点者の設定を行った。 分析手順 全てのインタビューを終えた後、分析を開始した。分析では収集したデータの中で、特に支援コミュニティのあり方について多くのインタビューデータを得ることができたA6、A7のデータから読み込みを行い、分析テーマと分析焦点者に沿って特に着目した支援コミュニティのあり方の記述から分析ワークシートを作成した。分析ワークシートとは、インタビーュのベースデータ(逐語録)から着目した部分を抽出した「ヴァリエーション(具体例)」、解釈を検討する際のアイデアや記録を示す「理論的メモ」、生成した「概念名」、概念の「定義」からなる表である(木下,2007)。逐語録の着目した部分から1つの概念ごとに1つのワークシートを生成した。概念の生成と並行して概念同士の関係を検討し、分析テーマから着目したベースデータが、支援コミュニティという枠組みの中でどのように意味付けられるのか常に意識し、繰り返し逐語録を見返し概念の名前と定義を、継続的比較法を用いて分析した。概念の生成とともに、概念相互の関係性を言語化し分析テーマを意識しながらカテゴリー、コアカテゴリーの生成を行った。カテゴリーの生成開始とともに、結果図の作成を始め、概念とカテゴリー同士の相互関係を視覚化することで、プロセスを意識した分析を行った。 第4章 結果 本章では、大学における聴覚障害学生支援を行う主体となっているコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の3者によって支援コミュニティが活性化されていくプロセスをM-GTAによってデータとともに分析した結果を明らかにしていくこととする。 第1節 分析結果全体のストーリーラインと結果図 M-GTAによる分析の結果、コアカテゴリー、10カテゴリー、41概念を生成した(表4-1)。生成したカテゴリーや概念の関係を、結果図(図4-1)およびストリラインにより提示する。(コアカテゴリーを《 》、カテゴリーを【 】、概念を[ ]で示す) 全体のストーリーライン 支援コミュニティの構成員が、望ましい支援コミュニティを構成するプロセスとは、《支援コミュニティの成立》を受けて、《支援のための対話基盤》が構成され、支援コミュニティの成長とともに《学生主体の成長システム》が備わり、《社会背景の反映と実現》へ至るプロセスである。 1.《支援コミュニティの成立》 支援コミュニティは大学職員であるコーディネーターと、支援学生、聴覚障害学生によって構成される。コーディネーターは長期に渡りコミュニティに所属するが、学生は流動的に所属することとなるため、その変動に応じて《支援コミュニティの成立》がなされることになる。 この際、支援コミュニティは、新入生歓迎会等の行事や学生が受講する授業等を通して聴覚障害学生支援について広報をすることで、学生の聴覚障害学生支援に関わる活動に対する興味関心を喚起し、[初期衝動の受け皿]となる。そして、支援コミュニティに所属するコーディネーターや支援学生、[聴覚障害学生の存在]、またそれに伴う[障害学生のコミュニティ]など、さまざまな背景を持つ[隣人への関心]をもとに、構成員が[活動への肌触り感]を得ることによって【支援コミュニティの理解と定着】がなされていく。同時に構成員との関わりや研修会から[聴覚障害の知識・情報保障の知識]に触れ、[情報保障の意義把握]を実感していくのである。 そして、【支援コミュニティへの愛着】を感じるようになっていく。そこには、いざというときには[つっかえ棒としての大人の存在]がある安心感をベースに、[行けば話せる拠点の存在]によって、雑談や日常会話などで[うなずきあえる関係と場]がつくられ、障害の有無に関わらず[支えを求める自分の肯定]ができるプロセスがある。また[柔軟な参加様式]によって参加を強制されず、自然といられる雰囲気が求められる。これらのプロセスによって、[居場所としての安心感]が獲得される結果、《支援コミュニティの成立》がなされるのである。 2.《支援のための対話基盤》 成立した支援コミュニティは聴覚障害学生支援の目的を達成するため、《支援のための対話基盤》を構築・発展させていく。これは支援を実施していく上で不可欠な要素が含まれるものであり、特に【支援の基盤】が聴覚障害学生のニズに応じた支援を提供していくための重要な基軸となる。そこでは、支援コミュニティの構成員3者による[お互いのコンディション共有の場]が設定され、困りごとやアドバイスなど支援コミュニティのすべての活動において報告、連絡、相談が行われる。これを効果的に行うために、研修やマニュアルを通して[内包された知恵の学習]を行い、実際に[授業の場でのコミュニケーション]で臨機応変に支援が実施される。同時に、[支援のフィードバック]を行うことでさらに効果的な取り組みを実現することが可能となる。 また、こうした基盤を元に、より個のニーズによりそうことで【個にフーォカスした支援】が行われる。この支援とは、いつでもどの機会でも[継続したインタラクティプな関係性]を構築することによって支援に対する意見を伝えやすくし、支援コミュニティの[経験共有の仕組み]を生かすことで行われる。これによって、支援環境に対する[学生の意思表明]が行われやすくなり、支援コミュニティの中で[個の状態に合わせた支援のあり方]が模索されるようになる。 また、望ましい支援コミュニティが構成されるプロセスでは、構成員自身が自らの手でコミュニティを活性化し、発展させていかなければならない。よって支援コミュニティでは、【学生の活動を推進する力】が1つの基軸となっている。支援をする、される関係が強調されない[学生の境界線意識の活用]を意識し、コーディネーターが[境界線意識の調整]を行うことで、支援コミュニティにおける個の学生の活動が[刺激の相乗作用]によって活性化し、[点を線に変えていく機能]が個の力を束ね支援コミュニティでの学生を中心とした活動を推進していく力となる。 3.《学生主体の成長システム》 聴覚障害学生支援が安定的に提供されるようになると、教育機関である大学の場では、構成員である学生達が自主的に成長していくような《学生主体の成長システム》が構成されるようになる。 このシステムの中では、コーディネーターの今を見つめる[ポジティプな相対化の視座]によって、年代の異なる学生の[当事者意識のアップグレード機会]を設け、現在の支援コミュニティを見つめ直すことができる。そして、学外で行われるシンポジウムでの発表や学内行事などの場で[第三者からの称費]を受ける経験を通し、自らの[前進が可視化される機会]を持つことによって【構成員個のアップグレード】が行われるのである。 さらに、支援コミュニティでは、所属する学生の声に目を向け[学生の意向のコミュニティへの活用]を行うことで[時代に合わせた運営方法の変化]が行われる。その変化に合わせて支援コミュニティのあり方を意識し、支援コミュニティにおける[必要条件を満たす構成員のバランス]を検討するのである。このように望ましい支援コミュニティのあり方を模索するため、学生の意向や変化をもとに【支援コミュニティのアップグレード】が行われる。 また、学生を中心に【支援活動を通した成長】へつながっていく。支援活動では、障害の有無に関わらず支援コミュニティの一員として活動していくことを通して[「あたりまえ」の再考プロセス]が生じる。さまざまな学生が所属していることを知り、お互いを知ることで自分に何ができどうすればできるようになるのか[「できる」を再発見する体験]が[実りへつながる達成システム]へつながっていく。そして得られた経験を[社会での環境構築能力の養成]として示すことで、支援コミュニティでの成長を社会の中につなげていくことが可能となる。 4.《社会背景の反映と実現》 大学時代に支援を担ってきた学生達は、やがて卒業し、社会で仕事を担っていく。このため、【支援コミュニティの価値観拡大】によって、《社会背景の反映と実現》を行っていく必要がある。つまり、[持続的な視点と取り組み・検証]によって大学全体へ[支援意識の裾野を広げる]ようにし、構成員が支援コミュニティを[半径100mの可視化と体感]できるようにする。 また[情報保障の正当な価値認識]によって、[大学との相互関係]を育み、【大学の理解と当事者感覚】を形成することで望ましい支援コミュニティへつながるプロセスとなるのである。 (図 4-1 ) 結果図 (図) (表 4-1) カテゴリー・概念一覧表 (表) 第2節 カテゴリー・概念の説明 本節では、全体のストーリーラインと結果図を構成するコアカテゴリーと、カテゴリー、概念について、その関連性を踏まえ結果として説明する。 第1項 《支援コミュニティの成立》 カテゴリー1【支援コミュニティの理解と定着】 【支援コミュニティの理解と定着】というカテゴリーは、毎年新たに入学してくる学生たちを受け入れ、支援活動に取り込むとともに、聴覚障害や情報保障についての意識を学ぶプロセスを示している。これは、①[初期衝動の受け皿]、②[隣人への関心]、③[活動への肌触り感]、④[聴覚障害学生の存在]、⑤[障害学生のコミュニティ]、⑥[聴覚障害の知識・情報保障の知識]、⑦[情報保障の意義把握]という7つの概念から生成される。 概念1[初期衝動の受け皿] [初期衝動の受け皿]とは、大学へ入学し聴覚障害学生支援に関心を持った学生が、なにかをしてみたいと支援コミュニティに接触した時に、その受け皿となってできることを示すことで、興味関心を持って近づいてきた学生達をつかんで離さない機能のことである。 高等教育機関における聴覚障害学生支援は、学生の手によって支えられている部分が大いにある。そのため多くの障害学生支援組織では、さまざまな広報を通して、支援コミュニティの存在を学生に知ってもらう活動を行っている。 あるコーディネーターは、支援コミュニティへ登録することによる学生の期待を受け止めることの重要性を次のように語っている。 ・ボランティア登録者が300人ぐらいいるんだけれども、支援者として、マンパワーとしてのコミュニティを考えると、多分、何か自分ができるということを思ってボランティア登録をしてもらったので、何かこう自己実現ができるような、目に見えるような形をつくっていくっていうところが大事かなと思います(A7:18)。 また実際に学生は聴覚障害学生支援に対する関心が持続されたことによって、支援コミュニティでの活動を行っていることがうかがえた。 ・支援を始めたきっかけは、入学ガイダンスのときにパソコンテイクをやってるのを見て、「ああ、いいな」と思って、始めました。聴覚に障害がある学生も同じ空間に普通に聞いてるのがいいなと思って。ま、自分もやれたらいいなと思って(B6:2)。 さらに、聴覚障害学生においては自ら支援コミュニティの活動に関心を持つ学生へ働きかけることことが語られている。 ・例えば、聴覚障害学生が直接働きかけるというのは一年生の4月のときに初めの講義で自己紹介、オリエンテーションのときに自己紹介をする。自分は支援が必要ですということを言菓にして、支援してくださる学生を集めるということはあります。または、学生スタッフが開いてる、マッチング会とか交流会の中で支援学生と交流を深めて支援に対する考え方の意見交換をしたりとか自分のていくに入ってもらうなどの活動はあります(C2:2)。 このように、支援コミュニティではコーディネーターは支援コミュニティに関心を持っている学生に対して明るい末来が見えるような働きを行っていくプロセスがあると言える。 概念2[隣人への関心] [隣人への関心]とは、支援コミュニティを構成するメンバーに対する好奇心であり、相手を知りたいと思う働きかけのことである。 支援コミュニティは、コーディネーターと支援学生、聴覚障害学生の3者からなる。3者は年代やコミュニケーション方法、障害の有無などさまざまな特性の違いがあり、支援コミュニティの一員がそれぞれに対して関心を持つことで、コミュニティとして活性化していくことが考えられた。あるコーディネーターは、就職してからはじめて聴覚障害者と関わりをもつなかで、相手を知ろうとすることによって変化が生じていた。 ・私は、ここの職に就いて初めて障害のある人と関わりを持rました。深く。私はもともと事務職員なので、コーディネートっていう業務ではなく、本当に事務的なことと思っていたんですが、やっぱり、やっていく中で、その人を知らないことには支援が始まらない。本当に手話とかもできなくて、やっと、ここ最近、こう、覚えたい、お話ししたいっていうところから、覚えようと思って、使い始めています。やっぱり心を開いてくれないと始まらないよねと(A5:7)。 そして、コーディネーターが学生の時、支援コミュニティが存在しない状態でも障害学生は入学していたが、他人事のように見ていたこと述べている。ここからも、コミュニティが形成されるためには、障害学生を含む学生への関心が不可欠なことがわかる。 ・障害とか障害がないとかじゃなくて、人間として、なんかお互いを知りたいなというほうがすしく大事で、昔、本学にはこういう障がい学生支援室はなかったんですよね。でも、ずっともっと前から、障害のある人はいつも入学をしていました。私もここの大学の出身なので、そういう人がいるのも見てはいました。見たけど何かしたわけではないし、でもまあ、「困ってそうだったら助けてあげるよ」っていう気持ちは一応あって、でも、どういう、どうにかしてみんなちゃんと勉強して、卒業していっていたようでした。……というような、他人しとのように見てたんですけれども、えっと、時代は本当に変わっている(A5:7)。 また、お互いの立場を理解するためにも互いの置かれた状況について関心を持つことも大切と考えられており、そのために疑似体験などの活動が取り入れられていた。 ・利用学生に、パソコンテイクをすることがどんなに大変かを体験してもらう。やっぱり、そういう、聞こえないっていっても、例えば、「補聴器を付ければ聞こえるんだよね」とか、「聞こえ方っていうのも人それぞれ違うんだよ」というのも、ちょっと理解できました、とか。私たちの聞こえとは少し違う(A5:10)。 さらに、大学へ入学し勉学や経験を通して得た知識によって自ずと関心を持つことも示されるとともに、日常生活での積み重ねが手話や聴覚障害な支援コミュニティの構成員への関心へつながっていることがわかる。 ・障害がある、ある人と、関わりがあるか、ないかで、なんか、これやったほうがいいかなとか。そういうことを考えるきっかけっていうのがない、ないっていうか、できないっていうか、考え付かないっていうか、あるんじゃ。なんか、私は、えっと、ここ、大学に入るまでは福祉の勉強をやってこなかったんで、大学に入って、そういう、人がいることも知らなかったし、大学に障害を持っている人もいることも知らなかったし、関わってみて、やっぱ、なんか考え方も変わってきているので(B4:8)。 ・自分のコースに、えと、聴覚障害のある人が2人いて、ま、日常的にその人……、まあ、その子と会話する上で、まあ、手話を覚えたりとか、あとは話し方に気を付けたりとかっていうことを心掛けるようになったっていうのは、すごい大きな変化だったかなっていうふうに思っていて。ま、高校まででは、その、聴覚障害のある人と話したこととかがなかったので、それで、まあ、大学に入って、こう、まあ、新たな1年というか、ま、手話を覚えたこともそうだし、テイクをやるようになったこともそうだし、すごい大きな変化があったかなっていうふうには、自分では思います(B8:3)。 ・はじめ指文字で。あの、それ、最初の話とちょっと矛盾してるんですけれど、あの、その、さっき言ってた、このA1さんと同じ学年の子が、えっと、自動車学校のバスに乗ってるときに、あの、「お疲れ」と、あと名前、指文字でやるっていうことをしたら、すごく、あの、笑ってくれて……。すごく(B9:4)。 ・聴覚障害の人のイメージが暗いっていうか、なんか、うん、障害あるから。みたいなイメージがあったんですけど、ま、その先輩、聴覚障害の先輩が話聞いたりするときに、うーん……。なんか、いろんなところに、なんか遊びに行ってる。で、「そういうのなんか楽しそうだなあ」と思って。「なんか、私も一緒に行きたいなあ」とか、そういうの、なんて思って。で、なんか、そっから話したいなと思って。なんか、「視野が広がるかなあ」と思ったんで(B7:5)。 ・僕は、最初、口話とか筆談が多くて。で、それで、自分が手話を覚え始めて、少しずつなんか使い始めたら、なんかすごいお互い話しやすかったっていうか……。っていうのがあって。あ、その、聴覚障害の学生本人が手話を基本コミュニケーションにしてたので、「あ、自分がもう手話を覚えたら、もう普通に話ができるんだ」っていうのにそこで、や、やっと気付けたっていうのがあって(B6:7)。 このように、コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生という互いに異なる特性を持つ人々が集まっている場だからこそ、お互いに対する関心が、支援コミュニティが形成されていくプロセスに組み込まれていることがわかる。 概念3[活動への肌触り感]  [活動への肌触り感]とは、支援コミュニティに在籍し、実際に活動に参加して支援コミュニティの一員として活動している肌触り感を感じられることである。 肌触り感とは実際に人と関わり、自らが起こした行動による結果を感じられることを表す。支援コミュニティの中で、さまざまな経験をすることが支援コミュニティの活性化に寄与することを次の語りは指摘している。 ・私も自分がこの学生のときに、例えば、やっぱり聞こえない学生と実際に会う、会うとか、会って話すとか、なんかこう意識が通じるとか、なんかこう間題を一緒に解決できたとか、なんかそんないろいろ、自分が動いて解決した喜びとか、なんか自分が動いてできたこととかって、なんかその経験するっていうことがすごくなんかうれしかったので、なにかちょっとそういう経験を、ぜひ今の学生にも提供したいなって、あって(A3:15)。 ・1年生の4月に、か、テイク活動始めたときは、テイクだけの関係、そんな普段から会うような感じではなかったんですけど、1年生の10月くらいに、その、テイクをやるサークルの運営スタッフみたいなのを一緒にやらないかっていうのに誘われてから、と、交流が増えてったんですけど。で、最初は、その、まだ手話とかも分かんなくて、口話とか、筆談とかで話してたんですけど、その、大学①さんと交流会をやったときに、大学①さんは全員が手話が使えてるのにびっくりして。大学②はなんか全然分かんないみたいな。先輩1人、健聴の先輩が1人くらいしか手話できる人がいなくて、「あ、これ、すごいっていうかちょっとびっくり、環境が全然違うんだな」っていうのにびっくりして、自分はなんか手話をやってみようかなっていうのは、ありました(B6:3)。 ・一年間で最初のときはテイクというのは全部書いてもらうのかと思っていた。でも限界もあるので 、限界に合わせてどういう方法が良いのかなと、講義の先生によっては、わかりやすい先生とわかりにくい先生で いろんな差があった。どうやったらやりやすいのかということで悩んでいました。でも、夏休みが終わって、秋、後期の講義がはじまって、前期に一緒にテイクを受けていた同期とか先輩と話すような感じになっ た。お互いに悩みがあるときはそれにつ いて話し合ったりとかどういう 方法だったらいいのかとかどういうところが一番大事なのかについて話しったりしたのでそこで変化があったなと思います( C1:6 )。 さらに、コーディネーターの立場を生かして、学生が支援コミュニティの中 で活動への肌触り感を得られることができる工夫が行われている。 ・テイカーが支援室に来て、なんか悩みしとを言って。それに対しての解決策は私たちが持っている。これを出せば簡単にもう悩みは多分消せるっていうの、分かるけど、まずはその、「言ってみな」という声掛けをしたりとかは。考える経験とか、悩む経験とか、一緒にこう、話し合う経験とかっていうのは、させたいなとは。失敗させる経験とか。単純なとこで言うと、その聞こえない学生とのコミュニケ―ション方法が分からなくて、どうやって、なんか、話しかけていいのか悪いのかも分かんないとか、どうやって、なんかこう、コミュニケ―ションすればいいのか分かんないとかって、言うから、「じゃ、ちょっとまず」、その、なんだろ、「会ってみなよ」とか。その。会っていいっていう、なんか、誰かに後押ししてほしいっていうのを言ったりとか、この会場を、支援室を、こう、「使っていいよ」って言ってあげて。もしその二人だけで、あの、困ったときには、まあ、部屋の中にはいるので。まあ、なにかあったら、すぐに助けがもらえるとか(A3:16)。 このように、支援コミュニティの場では特に支援学生と聴覚障害学生の間で、これまでになかった交流が生まれることになる。そこでは、学生同士で話し、戸惑い、存在を身近に感じる経験がある。こうした経験を通して、構成員の支援コミュニティへの定着につながっていることがわかる。 概念4[聴覚障害学生の存在]  [聴覚障害学生の存在]とは、聴覚障害学生支援の前提条件として、大学内に支援を必要とする聴覚障害学生が存在することである。 支援コミュニティは、聴覚障害学生支援という目的、価値を共有するコミュニティであり、聴覚障害学生の存在は支援コミュニティと密接な関係性を持つ。聴覚障害学生の存在を機に支援活動が始まり、支援コミュニティが形成されていくことがあることを次の語りは指摘している。 ・大学で障がい学生支援室が立ち上がったのが、2006年でした。当初は、聴覚障害の学生が多くおりましたので、そこの情報保障という支援がメインでした。他には、車椅子を利用する学生ですとか、あとは弱視だったりとか、身体の障害の学生の大学生活の環境を整えるということで、一緒に考えながらやってきました(A5:1)。 このように、障害学生の存在が支援コミュニティの構築されるきっかけとなり、支援コミュニティにおける目的、関心、価値、感情などのコアとなることがわかる。 概念5[障害学生のコミュニティ]  [障害学生のコミュニティ]とは、聴覚障害学生が継続的に入学することによって、支援に必要な諸機能が継承され、支援コミュニティの中で受け継がれていてくとともに、聴覚障害同士の学生のコミュニティも形成されていく状態のことである。 聴覚障害学生が大学に入学したとき、すでに他の聴覚障害学生が所属する支援コミュニティが存在することで、スムーズに支援活動を引き継ぐことができる。あるコーディネーターは、次のように語っている。 ・聴覚障害学生は、この大学は一応、継続して常に入学があるので、聴覚障害学生に対する支援というのは、一応10年以上ずっと続いていると(A5:2)。 ・多分、学生の数が増えてきているんで、前と比べると、聞こえるテイカーの数もだし、聞こえない学生の数もだし、毎年10人前後ぐらいは聞こえない学生がいるので、まあ、テイクを利用する学生と利用しない学生も、まあ、合わせてですけれど、10人ぐらいいる(A2:10)。 このように、毎年継続して聴覚障害学生の所属があることによって安定した支援コミュニティの運営が可能となっていることがわかる。 概念6[聴覚障害の知識・情報保障の知識]  [聴覚障害の知識・情報保障の知識]は、支援に必要な聴覚障害者と情報保障についての知識を知ることである。 支援コミュニティでは、聴覚障害学生支援というミッションが共有されている。このミッションを実現するために、聴覚障害と情報保障に関する知識は欠かすことのできないものである。構成員の多くは、支援コミュニティに入った時点では、こうした知識を持ち合わせていないことが多いが、支援コミュニティの中に入り、活動をしていく中でさまざまな知識を吸収していくことになる。  このことは、コーディネーターも同様で、あるコーディネーターは、職員として働く中で学生と関わりながら聴覚障害や情報保障について学んでいった体験を次のように述べている。 ・私は、もともと知的障害者の施設で支援員をしておりました。なので、聴覚障害の方と関わる機会がほとんどなくて、ここに勤務してから、要約筆記ですとか、あとは手話ですとか、えっと、聴覚障害の方についての勉強をするようになりました。まだまだ分からないことがたくさんあるので、学生さんに教わりながら仕事をしております(A5:1)。 また、次のコーディネーターの語りからも、専門的知識が支援コミュニティの中で働くコーディネーターにとって当然のスキルとして求められていることがわかる。 ・専門的な知識は必要だし、方法とか、いろいろ知っている場所が支援室であって、それを、やるのは、うん、当たり前っていう感じです。専門的な知識がなくてもやれることもあるし。支援室の、その障害のある、学生のことを理解している場所が増えれば増えるほどいい、学生にとっては生活しやすい場所になるのかな、とは思います(A2:15)。 また支援学生においては、相互的な関わりの中でそれぞれのコミュニケーション方法や多様な障害のあり方について知っていくことで、支援コミュニティの構成員同士の理解が促進されていくことがわかる。 ・私のコースにいる2人の聴覚障害学生は手話が使えなくて、今年の4月から一緒に覚えてるみたいな感じなので、逆に、なんだろう……。その、手話だと通じないっていうか、まあ、こっちが知っててもあっちが単語を知らないとかだったら通じないから、なんか、その、聴覚障害があっても手話を使えない学生もいるから、まあ覚えておいたほうがいいに越したことはないけど、なんか、なんだろう、それだけに頼るのも難しいかなっていうか。まあ、そういう感じですかね……(B8:4)。 さらに、聴覚障害学生においては自らが支援を受ける際に自身の聴覚障害がどのようなものか捉え伝えなければならないことがわかる。 ・私は今までろう学校にしか通っていない、大学に入って、自分の障害を改めて説明しないといけないという面ではろう学校では体験できない、ろう学校には手話があるから説明する必要も配慮をして貰う必要もあまりない。ですけど、大学に入って、自分と違うということで、どうしたらコミュニケ―ションが取れるか、どうしたら情報を得られるのかということを考えて説明するという経験をできたのは自分の中で相手の中での聴覚障害に対する考え方に影響があるのかなと思います(C1:3)。 ・障害について説明する、私は逆にずっと健聴の学校に通っていたので、自分の障害に関して聞かれたことがあっても、あまり深く言われないので、補聴器をなんでつけているのと言われたことはあっても、その時私は眼鏡と一緒みたいな言い方をしていたので。大学に入ってからいろいろな聴力レベルの人がたくさんいる中で、どれくらい聞こえているかと聞かれたときは一番説明が難しいと思う(C2:4)。 以上のことから、聴覚障害と情報保障の知識は、支援コミュニティで活動していく上で不可欠なものであることがわかる。これらは、各支援組織が実施しているガイダンスや研修会の場で、実際に機器に触り、練習する中で習得され、かつ支援コミュニティの構成員相互の関わりの中で重要な要素となっていくと言える。 概念7[情報保障の意義把握]  [情報保障の意義把握]とは、その場にいる全ての人が、平等に情報を受け取り、発信することができる状態にしていくことが、情報保障の目指すところである点を構成員が理解し、共有していくことである。 情報保障は、支援コミュニティの中心的な活動であり、この実現なしにコミュニティの成熟はなしえない。このため、支援コミュニティの中では、構成員一人ひとりが、上記のような意義を理解し、共有していくプロセスを経ることになる。望ましい支援コミュニティの姿として、あるコーディネーターは次のように語っている。 ・望ましい障害学生支援ということに焦点を当てるんだったら、やっぱり障害学生さんが、平等に学べるっていうのがもちろん一番あるので、それができてなければいけないと思う(A6:15)。 また、聴覚障害学生のみならず、すべての障害学生に対して、同様の理念を共有していくことの重要性についても語られている。 ・大学の中にいる、聴覚障害だけじゃなくて、全ての障害のある学生に対して、あの、講義を、障害のない学生と同じように受けられるように支援をするっていうことをしています(A2:2)。 さらに聴覚障害学生が情報保障を実際に体感することで、その機能を理解するプロセスも語られている。 ・私は支援はいらないと思っていたが、大学の教室は広い。人も多いので聞こえにくいということに気づいて、一年生の後期からテイクをうけることになった。初めはテイクを受けることが、抵抗があった。受けるようになってからは自分が聞き取れないことはたくさんあるしそれをテイカーさんに聞いたら教えてくれることが嬉しいことだと気づいた。でもテイカーさんや支援センターにいる人に助けてもらって、それは仲良くなれてよかったと思う(C1:7)。 このように、支援コミュニティの基本的な価値として情報保障の定義に示される理念を共有していくことで、支援コミュニティの構成員がその実現のためにどのようにしてゆけばいいのかを考え、取り組むための方向づけができるようになることがわかる。 カテゴリー2【支援コミュニティへの愛着】 【支援コミュニティへの愛着】というカテゴリーは、支援コミュニティという場への参加や所属する人との関わりから、構成員が安心感を抱いてコミュニティへの所属意識を高めるプロセスを示している。 これは、①[つっかえ棒としての大人の存在]、②[うなずき合える関係と場]、③[行けば話せる拠点の存在]、④[支えを求める自分の肯定]、⑤[居場所としての安心感]、⑥[柔軟な参加様式]という6つの概念から生成される。 概念8[つっかえ棒としての大人の存在] [つっかえ棒としての大人の存在]は、支援コミュニティで活動する上で、「いざというときには大人がいる」ことによって生じる安心感のことである。 支援コミュニティには、さまざまな立場や背景を抱えた人が存在する。中には、日頃、周囲の学生とのコミュニケ―ションに悩みを抱えている学生もいて、支援コミュニティにはこのような学生が集まりやすい特性もあるため、他の構成員との関わりを形成する上で、行き違いが生じることもある。あるコーディネータは、支援コミュニティの大きな特徴として、大人であるコーディネーターが支援コミュニティを見守ることができる点をあげている。 ・発達障害や精神障害の学生もいますので、ぶつかってしまうこともありますし、けんかになったり傷つけたりするっていうこともあるんですけれど、あの、大人がいる場所ということで、多分、安心しているっていうのはあると思いますので、本当につらかったら言ってきますし、はい。言ってこなくても、様子を見ていてそろそろ出ようかなみたいな感じで声を掛けたりはしますね。なので、外の世界ではもしかしたらうまくやれないところを、少しこの大人の見守る場所で成長してもらいたいなと考えています(A6:11)。 ・他のサークルにも、障害学生はいるので、あの、状態としては似たような感じだとは思うんですけれども、まあ、大人がいる守られた環境ですので、障害学生支援のコミュニティは、まあ、困ったらそこ(註:支援コミュニティ)へ行けばいいし、そこの中では失敗してもいい場所?障害学生のほうから見ると、そうなんじゃないかなと思っています。まあ、大人の目があるっていうのが大きな違いですかね(A6:21)。 ・単純なとこで言うと、その聞こえない学生とのコミュニケ―ション方法が分からなくて、どうやって、なんか、話しかけていいのか悪いのかも分かんないとか、どうやって、なんかこう、コミュニケ―ションすればいいのか分かんないとかって、言うから、「じゃ、ちょっとまず」、その、なんだろ、「会ってみなよ」とか。その。会っていいっていう、なんか、誰かに後押ししてほしいっていうのを言ったりとか、この会う場を、支援室を、こう、「使っていいよ」って言ってあげて。もしその二人だけで、あの、困ったときには、まあ、部屋の中にはいるので。まあ、なにかあったら、すぐに助けがもらえるとか(A3:16-17)。 これに対して学生の安心感が支援コミュニティの働きを活性化するプロセスへつながっていることがわかる。 ・支援センターにいる職員さんとはすごく色N話すようになりました。悩み相談とかいろいろです。親に言ってもわかってもらえないことがあって、それを支援センターにいる職員さんに言ってみると安心するようになったのでいうようになりました(C1:6)。 また学生の視点から見てみると、教員に対する職員の専門性や支援コミュニティ全体を調整していく機能が求められていることがわかる。 ・いろんな形があると思うんですけど、うーん……職員さんなのか、教員なのか、リーダーシップをとって、障害学生支援に関わるそれぞれの人たちをうまく調整していけるような人が必要なのかなと思います。やっぱり職員になると、教員には言いにくいとか、そういうこともあるかもしれないし、何かもっと上の職員さんとかには言いにくいとかがあるかもしれないので、立場というよりは、大事にされる……何だろう、意見を聞いてもらえる、専門職として頼ってもらえるような職員になれたらいいのかなと思っています(B3:6)。 このように、望ましい支援コミュニティでは、コミュニティのメンバーと関わり合うことに対して、信頼できる大人すなわちコーディネーターがいることが、一つの安心材料として考えられることがわかる。 概念9[うなずき合える関係と場]  [うなずき合える関係と場]とは、支援活動のみならず大学生活を含むさまざまな話題について、ただ話をしてうなずき合える環境と場のことである。 支援コミュニティを構成する支援学生と聴覚障害学生は、大学生活を送りながら支援コミュニティの活動を行っていく。支援コミュニティでの活動はよりよい大学生活の一貫としても機能しており、支援コミュニティの中で大学生活について気軽に口に出すことができる関係性を構築することで、信頼感が増し、支援コミュニティを発展させていく力となる。あるコーディネーターは、学生と職員の信頼関係に気を配り、自分を出せる支援コミュニティとなっていくことを考えている。 ・私たちと、大人、職員と信頼関係をつくれるようには気は配ってますね。まあ、声掛けですとか、気付いたことを話し合ったりはしているので、なので、多分、そこ、そこから学生のほうに安心感が生まれ、自分が出し、出せて、失敗もすると、けんかもするというコミュニティになっているんだと思います(A6:22)。 ・自分が落ち込んだこと、悩みを私に話してくれたときなんかに、少しずつ、あなたが何に役に立っているかという話をしたり(A6:11)。 また、コーディネーターの役目として、学生の「口に出して変に思われたくない」という想いを尊重しながら、それでも口に出せる場をつくることがあげられた。 ・より良い大学生活をするにはっていうのを、利用学生もだし、サポ―トする周りの学生も発信してほしい。でも、そのために、……何だろう。「そう思ってるのって自分だけかな」って、「なかなか口に、これを出していいのかな」っていう思いがあると思うんです。「そう思ってるのは自分だけかな、変かな、変って言われるかな」。でも、多分、今の、みんな、今の子たちって、普通であろう、一般的多数派であろうという子が多い。でも、その中で、「自分はこう思うけど」というのを、声を出せる場っていうのが、ここの障がい学生サポ―トチーム。それで、「自分も実はそう思ってたんだ」って言って、「なんだ」という感じで、みんなの意見で大学にお願いするとか。そういうふうに学生たちが何でも言える場をつくるのが、私たち職員の役目と思ってるんです(A5:15)。 このような場をつくるためには、日頃から顔を合わせ、あいさつや世間話など他愛のない話をするような関係性を楽しむことが重要であるとわかる。 ・気兼ねなく、友達とまでいくのはちょっと人それぞれあると思うので、ちょっとした時間に、こうした方がいいかなみたいなふうにやりとりできる気軽さがあったらいいなと思いました(B2:3)。 ・まあ、うんと、学生だけがやるとか、支援室だけがやるとか、障害を持ってる学生だけが頑張るとかじゃなくて、お互いに、こう、支え合いながらというか、協力しながら支援をしていけるっていうのができればいいなとは思ってます。何でもいい、その、うんと、理想だとか深い悩みだけとかじゃなくて、日常的に顔を合わせる機会とか、普通の日常生活に、たわいのない、なんでもない、普通の話を、世間話をするみたいな関係が作れるといいなとは、うん。それができてると、まあ、例えば実習のときどうしようかなって悩んだときに、普段から、ね、会っていればすぐに聞けるけれども、ないから、なんか、「先輩に聞くといいよ」って言っても聞いてないとか(A2:14)。 ・UDトークという音声を文字にするスマホのアプリがあるんですけど、それを使って、必要だったかどうかは分からないんですけど、それを使ってテイカーと利用学生で話すという形だったんですけど、その、それぞれが不安を話して、「それは利用学生はどうなの?」というふうで、こうですって答えてもらうという形で、結構みんな不安に思って、ちゃんと考えているんだなというのも分かったし、利用学生もこう考えているんだなっていうのが分かって、良かったと思いました(B1:12)。 ・職員さんが間に入って、聴覚障害学生と支援学生の間で調整とかもあると思うんですけど、それよりは、それぞれが関係をつくれるようになることが大事じゃないかなって思います。関係をつくるためには、信頼?とかもあると思うので、やっぱり、会ったりとか、話すっていうことが大事になると思います。交流会とか、その……、友達だったら、普段から会える機会もあったり、自分から声掛けとかもできると思うんですけど、支援学生とかちし生となると、なんか、言いにくいっていう意見もまだあるので、話ができる機会をつくることが必要じゃないかなって(B5:9)。 ・テイク活動っていうのは、支援をする、ま、サークルか団体なんですけど、うーん、困ったこととか、悩みとかが、一番、言える雰囲気っていうのが大事かなって思ってて。それが、うーんと、障害学生だけでなくて、ま、コーディネーターさんとか、テイカーさんとかも、お互いに、何がよくて何がよくないのか、言えるような雰囲気。なんか、うーん、聴覚学生を支援するサークルっていうイメージがあるんですけど、その、なんか、全員が言えるような雰囲気を作るために、うーん、自分から声掛け、「どう?」とか。やっぱ日常会話って大事だと思ってて。あの、ま、仕事とかじゃないですけど、その、やってる、テイクしてるとき、授業中とかのときに、ま、言いづらいこともたくさんあるので、そのときに、なんか、友達のような関係であれば、日常会話とかしてて。言いやすくなるのかなって思います。だから、あの、サークルだけの関係じゃなくて、支援室に行ったときとか、その、すれ違うときに「お疲れ」とか、「よ」みたいなことを言えればいいのかなって思います(B7:16)。 ・私の場合は支援について考えるようになって、自分のために、自分の支援のためには何をしたらいいのかというのを考える。それの一番はやっぱり支援学生の負担を軽くすること、が一番。支援学生がやりやすい方法でやることで情報を多く、情報を提供していただけるというのが、私の中ではあるんです。先生に対してこの配慮をお願いしたい。パワーポイントがあるときはそのスライドの資料をもらうとか、ビデオに字幕を付けてくださいとか話すときはできるだけスクリーンを見て話すスピードを調節してくださいとか、声にしたりするんですけど先生によってはこれはできないとかいう先生もいます。なのでそんな先生がいると、あっ!となってそれを支援センターの人にあの先生おかしいです!みたいに愚痴を話して(C2:8)。 また、構成員同士が普段から気軽に話をできないことによって、支援に関わる考えていることも話ができない状態があることが示されており、話ができる環境が求められていることがわかる。 ・具体的じゃないんですけど、それぞれいろんな立場の人たちが、それぞれで自分の理想の障害学生支援コミュニティは何かということを考えながら、支援活動というか、支援のお仕事をすることかなとか、難しいんですけど、うん……やっぱりいろんな人と話をすると、それぞれで何か思っていることは言うんですけど、それが何かあんまり普段の仕事の中からは見えてこないとか、仕事というか、聴覚障害学生も、「思っていることはあるけど、言わない」とか、まあ、職員さんも「大丈夫かな?」と見守ってくれてはいるけど、実際に、じゃあ、どうやって仕事の連携とかをしたらいいかとかは話ができなかったりとかして、まあ、支援学生のみんなも何かそれぞれ思っていることはあるかもしれないけど、なかなか大きい研修会の場所じゃないと話ができなかったりとかするので、考えながら、あの、その支援のコミュニティとしての動きをしつつ、それを何かお互いに交流しながらというか、みんなで一緒に考えながらやることが大事なのかなとか(B3:4)。 このように、支援コミュニティの中で構成員が日常的に顔を合わせ、伝えたいことを自らの内に押し込めることなく気軽に声にすることができる関係性を醸成できる場が望まれていることがわかる。 概念10[行けば話せる拠点の存在]  [行けば話せる拠点の存在]とは、支援コミュニティの構成員の活動の拠点となる支援室や会議室などの場があることの重要性である。 支援コミュニティの活動においては、このような場があり、コーディネーターや学生が常駐していて、行けば必ず話をすることができる状態があることが重要とされていた。 ・私が採用されたときにも部屋はなかったんです。あの、「仮」の部屋で、仕事はしていて。なので、学生としてはどこに行けば相談ができるのかみたいなのが、あまりよく分からない状態だったと思うんですけど、その後、平成21年にここに部屋が正式に立ち上がって、そこからは、相談に行く場所っていうのとか、集まって活動が、する場所みたいなのが明確になって。活動の幅は広がったんじゃないかなとは思うし、分かりやすくなったのかなとは思います(A1:21)。 ・先生が来るとか、学生が来る、相談に来るっていうときも、どこに行けばいいのか、どこに相談すればいいのかっていうのが、ここに行けばいいっていうのが分かるようになったって意味では、少し広がったきっかけかなっていうふうには思います(A1:21)。 ・1回すごい困ったということがあって、そのときには、たまたまオフィスに行ったら運営学生の人がいて、相談できたのは良かったと思います(B1:10)。 また場があるのみではなく、場に対して行きやすい雰囲気が作られていることが重要であることが述べられているとともに、場にいない構成員に対して話す機会がないことが語られている。 ・支援センターへ入りやすい人と、入りにくい人がいるらしくて。あの、交流会とかの機会があれば、あの、知ってる人も増えて、そういう支援センターとかにも行きやすくなるのかなって。仲のいい人が集中していて、で、そこと、多分、知ってる人がその中にいれば行きやすくて、声掛けもできると思うんですけど、やっぱ、ここで集まっている人が知らなかったら、なんか、行きにくくなるので(B5:6)。 ・今も、同じスタッフで活動している先輩とは話すことができるんですけど、ボランティアでやってくださる先輩はあまり話さないです。ほぼ毎日支援センターで会うしいろいろと話す機会が多いというのが、多いのが一番かなと思います(C3:7)。 以上のことから、支援コミュニティの構成員が集まる拠点の存在が明確であり、足を運ぶことで構成員と顔を合わし、話を交わすことができることによって支援コミュニティの活動に対する参加が容易となり、望ましい支援コミュニティへ至る重要な機能となっていることがわかる。 概念11[支えを求める自分の肯定]  [支えを求める自分の肯定]とは、支援コミュニティの中で自らの価値に気づき、自己肯定感を得られる状態のことを言う。学生達の中には、うまく支援ができなかったり、求められる役割を果たせていないと思い込んで、支援コミュニティから足が遠のいたりしてしまう人たちがいる。また、支援以外の側面でも、苦手なことや悩みがあって、周囲の支えを必要としている人は多いだろう。 このため、支援コミュニティでは、そうした弱さを持った自分を認め、ありのままの自分を表出するとともに、その自分を肯定的にとらえ、支援し合える機能が求められている。 ・うん。何て言うか、今のままの自分でもいていいっていう安心感がまずないと。あの、学生の質が想像していただいているものと違うのかなという気もするんです。かもしれないんですけれども。今の学生のスタッフ、コアのメンバーというのも、非常に弱い子が多いので。はい。で、何か助けを必要として支援をしようとしている子のほうが多いので、はい、少しニュアンスが変わってしまって申し訳ないですけど、まず自分を出せること。その子たちが(A6:20)。 このように、支援コミュニティの中で今のままの自分でよいのだと感じられる安心感が生まれる環境であることによって、構成員の帰属意識が高まることがわかる。 概念12[居場所としての安心感]  [居場所としての安心感]とは、支援コミュニティの中でありのままの自分でいられる安心感のことである。 一般的に、支援コミュニティのような目的を持った集団の中では、コミュニティに貢献しなければいけないなどのプレッシャーがかけられがちである。しかし、目に見える形で貢献できるわけではないメンバーも含めて、居場所と感じられる安心感があることによって、コミュニティの中で人とつながり、さまざまな取り組みを通して成長できる関係性を構築できる。 あるコーディネーターは、支援コミュニティを「社会に出る前の練習の場」と考えており、コミュニティに対する安心感が支援コミュニティの場としての機能を発展させていくと意識していた。 ・学生のモチベーションを上げるためとか、支援活動を活性化するためには、それは有効だと思うんですけれども、本当の目指しているところはそれじゃないので、そんなものは別に要らないと思いますし、うん、あの、お友達ができてよかったなぐらいの、私も役に立てたし、あの人からも何かもらったって思えて卒業すればいいかなと私は思っているので(A6:19)。 ・それが、なので、自分を出せるとか、居場所ということにもつながってますけど、そこでちょっと人間関係とか、社会に出る前の練習をして、失敗でもしといてもらえばいいかなと思ってます(A6:21)。 また実際に学生はコーディネーターとの関わりの中で支援コミュニティという場に対する安心感を得ることで、支援コミュニティに対する安心感を得られ継続していく動機となっていることが語られた。 ・支援されてるっていうよりかは、なんか、なんだろう、安心感をもらえる感じかなっていうふうに私は思っていて。なんだろう、こう、その、テイクとかも初めてだから、4月とか、なんか緊張して、「できるのかな?」とかって思ったりしたことあったんですけど、ま、支援室に行ったら優しく迎えてくれたりとか、そういう安心できる環境があるってことは、その、支援学生、ま、テイクする側の学生としてもうれしいし。その、なんか、優しい温かい環境があるから、まあ、「続けよう」って思うし、みたいな効果はあるかなっていうふうに思います(B8:10)。 ・毎回支援室に行くことによって、コーディネーターさんも話し掛けてくださるんですよ。その、パソコンとか、なんか、忙しいときでも、入ってきたら、支援室に入ったら、「こんにちは」とか「お疲れさま」とか言ってくださって。それを毎回してくださるので、それで、なんか、「優しいなあ」とか思ったりとか。あと、行きやすい。支援室に行きやすいなって思いますね。 テイクって授業中だけのつながりなので、顔とか分からない人とかも多くて、だから、そのときに、なんか、テイク、ちょっとなんかやりづらいなって思ったりとかする人もいるので、それをなるべくそういう気持ちにならないために話す、話し掛けてくださるっていうのは、うん……。うん、なんか安心もあるなって思います(B7:10)。 ・もしコーディネーターさんがすごい怖い人だったら、絶対「もう行きたくない」って思うと思うんですけど、その安心感とか、その優しさとかがあると、ま、行きたいって思うし、その、悩みがあったら相談しようって思うし。なんか、具体的に何かにつながったとかっていうのはちょっと思い付かないんですけど、その環境があることで、普段こう、毎週テイクに参加できてたのかなっていうふうには思います(B8:11)。 ・入学前に支援センターの人と集まって話をするときがあったんですけど、その時に自分の居場所とか悩みを話せる場所がなかったので、話せる人がいるのが支援センターにいる人だったのでそこなら職員もいるので職員の人といろいろ話や相談をしてました(C3:7)。 このように、支援コミュニティへの安心感が、支援コミュニティという場をさらに多様な機能を有するものへと発展させており、望ましい支援コミュニティが構成されていくプロセスとなっていることがわかる。 概念13[柔軟な参加様式]  [柔軟な参加様式]とは、支援コミュニティに対してそれぞれの意思や考え方に合わせた関わり方が出来ることである。 支援コミュニティには、コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生を始めとした様々な人が参加している。第1章でも指摘したとおり、組織全体の運営を担うコーディネーターや、企画を立てる学生スタッフを始めとしたコア・メンバー、必要に応じて専門的知識や情報を提供する参照メンバー、日常的に活動に参加するメンバー、普段は参加しないが関心のある時には参加するメンバーなど、どのメンバーも支援コミュニティとって重要な構成員である。 このため、望ましい支援コミュニティでは、構成員に対して画一的な参加の形式を強制することなく、それぞれの価値観に合わせて自然体で参加できる雰囲気を醸成することが求められていた。あるコーディネーターの語りから、「やらされている感」を持つ構成員の存在がうかがえるが、これは自らの気持ちとは異なる参加の形態を求められた結果であり、ここから[柔軟な参加様式]が求められていることがわかる。 ・うーん……。まあ、自分が活動してきたときに、いろんなやりたいって思うことをたくさんやってきたけども、今、学生見てると、なんというか、テイクの活動だけで終わったりとか、なんというか、「やらされている感」たいな人も中にはいたりもする?うん。「ボランティアだからやってます」みたいなところもあったりするかなっていうところで(A1:15-16)。 このように、支援コミュニティに対する所属意識が薄い状態であったとしても、コミュニティのメンバーとなれることを周知することで、柔軟に参加することができるようになるだろう。 ・5月、うーんと、まあ、4月の早い段階に交流会を開いたりとかしていて、それは他の大学でも多分やれていることだと思うんですね。特に1年生とかは結構いっぱい参加してもらって、2年生以降はね、参加者が減っていくんだけども、それは多分、自分のサークルとか他の居場所があるから、まあ、あの、参加率が下がってきたりすると思うんだけども(A7:19)。 ・何て言ったらいいかな。利用学生というだけで、ほぼ自動的に運営の手伝いをさせられているんじゃないかなって思うときはあって、「それはいいんだろうか?」と思うことはあります(B1:2)。 学生の間においても、運営に関わる学生と支援のみに関わる学生の間で意識の違いがあることが示され、支援コミュニティへ対する参加の意識を再検討するプロセスの重要性がわかる。 ・なんか、その、スタッフ、学生スタッフとして関わってる人は、みんな仲が良くて、話もしやすい感じになってるんですけど、あの、スタッフじゃない人とか、普通にボランティアとして支援をしているっていう人になると、支援だけの関係になっているっていう、まあ、話題になって……、スタッフの中でもそういう話題になってるので、そういう人たちも一緒になって、機会とか、会をつくるっていうことが、これからは大事になると思います(B5:9)。 ・障害のある学生みんなが、例えば手話サークルは入らないとっていうわけではなくて、あの、その人自身がやりたいこととか考えを優先させるべきと思っていて。 その場のノリとか雰囲気が少しそこに絶対に合わせるっていう必要はないし、そこが苦手って思ったら大丈夫なので、もっともっと丁寧なケアが必要だからこそ、こうやって、あの、話し合う場もあるから、あの、それで、本当にサークルで仲間を作りたいって思っている聴覚障害のある学生は、絶対にその意思を尊重しないといけないし、だからこそ、この、この聴覚障害のある学生と支援者の学生と、あと職員スタッフの連携は、その丁寧なケアのために、つながることは必要だと思います(B9:21)。 以上のことから、柔軟な参加様式が整えられていることで、個々の構成員にあった参加の仕方ができるようになり、支援コミュニティの成立に繋がっていくことがうかがえる。 第2項 《支援のための対話基盤≫ カテゴリー3【支援の基盤】 【支援の基盤】というカテゴリーは、望ましい支援活動を行うために、構成員同士の状況を把握できる環境を整え、支援コミュニティが支援活動を発展させていく基礎を構築するプロセスを示している。 これは、①[お互いのコンディション共有の場]、②[内包された知恵の学習]、③[授業の場でのコミュニケーション]、④[支援のフィードバック]という4つの概念から生成される。 概念14[お互いのコンディション共有の場]  [お互いのコンディション共有の場]とは、支援コミュニティの構成メンバーの状態や、支援活動を進める上で生じている間題を把握し、共有できる場を設定することである。 聴覚障害学生、支援学生、コーディネーターと、それぞれ異なる属性のメンバーで構成されている支援コミュニティでは、お互いがお互いの立場を理解し、支援に対するニーズや課題などを繊細に感じ取り、共有していくことが重要となっている。 ・利用学生も含めて。そのスタッフが一緒にミーティングを行っている。で、私たちももちろん含まれているんですけど、そこで、その、テイクの派遣の調整をしたりですとか、あとは、サポ―トしている学生さんの意見を利用学生さんに伝えたりですとか、利用学生さんから、サポ―トしている学生さんに伝える、意見を伝えるとかという。利用学生さんが利用しやすい環境をつくることが大事だと思っているので、利用学生さんにも参加していただいて、意見を言ってもらっている(A4:4)。 ・テイクをする前に、顔合わせみたいなのを、あって、誰がどこに入るかっていうのを会って確認するときに、ゲームとかも一緒にやって楽しんだりとか、前期が終わったぐらいに、後期の講義も決まるので、そのときに、前期お疲れさまということと、後期も頑張ろうっていうので、そのときもゲームとか、なんか、お菓子とか食べながら、みたいな交流会です(B5:4)。 ・自分は、「こういう方法で支援したらいいんじゃないか」とか、利用学生、聴覚障害学生と話したりとかして、「こういう方がいいんじゃないかな」とか思っているけど、他の人がどう考えているか、どういう方法で支援をしているのかというのは、自分がいない所ではどういうものになっているか分からなかったし、うーん、何か、あんまり情報が入ってこなかったりとかしたから、どんな感じがいいとかをもっと自分の中で考えたいなって思ったのと、他の人とそういう話をしたいなと思ったのと(B3:1)。 ・運営学生として利用学生さん、聴覚障害学生と関わるときにしていることは、まずは、会ったときには普段のテイク、テイカーの関わり、どう……支援者とどんな感じで関わっていくかということを聞くようにはしています。 やっぱり運営学生になっても、それぞれのテイカーに「こんな感じで支援をしてください」ということとか、練習会で育てることはできるけれども、実際、現場でどんな感じになっているのかとか、悩みを抱えたまんま、あんまり支援学生と聴覚障害学生が関われていないときに、このテイカーの様子を見ていると「うん」と思う……思っているかもしれないけど、それを言えていない場合は、やっぱりそれを聞きたいなとは思っていて、それをまずは聞くようにしています(B1:2)。 ・なんか、支援室の人、すごい優しくて、温かい人が多くて。なので、それで、なんかこう、いつも会うときに「うれしいな」とか。あとは、その、テイク終わった後に感想を言って、なんか、1個、ビデオを見る授業があったんですけど、それに字幕が付いてなくて、「今日のテイクは大変でした」みたいなのを言うと、「じゃあ、後で先生に言っときますね」とか言ってくれたりして。まあ、そういう大変なときは、なんか、言ったら、多分行動してくれるかなっていう感じです(B8:9)。 ・私は、会って、こんにちはとかお早うしざいますとか、今日テイクよろしくおねがいします。紙とペンとかも直接渡すときにきちんと言葉もつけて有難うしざいますとか、また同時テイクのときは、先生の話し方はどうですか?わかりやすいですかとか、書きづらいという点は大丈夫ですかとか、あの先生、早いと思うんだけどどう?と、声かけるように意識します(C2:9)。 また、場とは物理的なものに限らずシステム的な共有の場も重要であることが語られている。 ・大事だなって思うことは、連絡とかをきちんとこう、三者でうまく取れればいいのかなと思っていて。と、今この大学①ではその連絡手段がきちんと確立されてると思うんですけど、なんかこう、テイカーが病気になって、そのテイクに入れませんっていうときは、ほかの代理テイカーさんを、そう、探せるようなメールのシステムとかがあるので、その代理をしっかり探して、ま、代わったら、その、聴覚障害学生にメールで伝えてみたいな連絡手段が確立しているので、まあ、なんだろう、その、突然病気で休んじゃってテイカーさんが来ないみたいなこともないと思うし、それが、まあ、なんだろう、確率されてなか、なかったら、逆にこう、うまくその口者の関係が成り立たないのかなと思ってて。この連絡は、しっかりやったほうがいいし、ま、なんだろう、大学①では確率されてるから、これを続けていったほうがいいかなっていうふうに思います(B8:17)。 場合によっては、支援コミュニティの人数の多さやさまざまな制約のため、十分に状況が把握できないこともあるが、そのような状況下でも何らかの形で把握していくための工夫がなされている。 ・ボランティア学生も多いものですから、どこで誰が何をしているかが毎日は把握できていませんが、あの、ボランティア学生がボランティアをしっぱなしではなくて、どこかで認めていく。あの、褒めるでもお礼を言うでも、ちょっとした声掛けだけなんですけれども、モチベーションを保ってもらいたいというのが一つと、あとは、テイクだったら聴覚障害学生との間がうまくいっているのか、言えないことはないかっていうのを……。聞き取ったりとか、そういうことはしてますね(A6:18)。 ・聴覚障害学生支援の学生がいますけど、えっと、それぞれの授業でやってもらっていて、普段はばらばらなんですけれども、学生スタッフが企画する交流会に参加してもらったり、あの、テイクの練習会をやったりとか、そういうこと、ときに集まって、あの、みんなで活動するっていうのが、今は、やってることですね。それ以外はばらばらですので、テイクをしている教室に私たちが行って声を掛けたりという、個人個人の働き掛けになってます(A6:18)。 また、コーディネーターが学生のサポ―トを行うため、普段から話を聞くとともに、相談を受けた学生の情報などをコーディネーター同士で状況を共有することもある。このような情報共有がなされている結果、得られた情報を実際の支援の現場で生かすことが可能となっている。 ・その子その子のそのときの状況っていうのを把握していたいなと思います。例えば、その日、「おはよう」と声を交わしたときに、「あれ?元気がないな」とか、「ご飯食べてきた?」とか、「今日はどんなスケジュールなの?」とか、「バイトし始めたの?」とか、その辺のお話も雑談の中で聞いて、その子の状況をなるべく知っておいて、例えばサポートなんかするときも負担にならないようにとか、そういうことはさりげなく配慮してます(A5:3)。 ・それこそ昔は、1日1人だけで、例えば私が今日仕事をしたら、その内容を明日担当する人のために、こう、書いておいていって、で、また来たら読んで、みたいな方法の引き継ぎだったんです。で、学生にしてみたら毎日支援室は開いてるので、まあ、いつ来てもいいんだけども、なんか、情報の共有というのが、働いてる側からすると、すごく大変。うん。というか、工夫が必要だった(A2:9)。 これらの語りから、支援コミュニティの構成員がお互いの状況や悩みを把握し、それを共有できる状況を構築することで、構成員の間に望ましい関係性が生まれ、支援コミュニティが活性化していく際の基盤となることがわかる。 概念15[内包された知恵の学習] [内包された知恵の学習]とは、支援コミュニティの中に蓄積・継承されてきた聴覚障害学生支援の手法や文化を学ぶことである。 各大学で行われている聴覚障害学生支援のあり方は、それが行われるようになったきっかけや発展経緯、大学内での組織的な位置付け、聴覚障害に対する教職員や学生の考え方などにより、さまざまな違いが見られる。そのため、支援コミュニティの構成員は、このような違いを認識するとともに、それが生まれてきた背景を知ることで、より実地にあった効果的な支援を行うことができるようになる。 このため、コーディネーターや支援学生、聴覚障害学生といった立場を超えて、支援コミュニティに継承されている知識を学ぶことが重要と考えられていた。 ・私は、もともと知的障害者の施設で支援員をしておりました。なので、聴覚障害の方と関わる機会がほとんどなくて、ここに勤務してから、要約筆記ですとか、あとは手話ですとか、えっと、聴覚障害の方についての勉強をするようになりました。まだまだ分からないことがたくさんあるので、学生さんに教わりながら仕事をしております(A4:2)。 ・障害に関しては、ここに来て初めて、こう、学生たちと一緒に対応する中でいろいろ覚えながらやっています(A4:1)。 ・もともとこの情報保障の会を立ち上げたときにも、いずれ大学が公的に支援をしてくれるようになるだろう、なってほしいから、そのときに、ここでその技術を磨いて、いろんなその経験を積んでおいたら「大学がやります」って言ってくれたときには「はい」ってできるように活動してきたんだけれども、やっぱりその、そうやって立ち上げるときの、なんていうか理由とかその流れとかをもう卒業していくので、学生はそれ、要するに後に残された学生は、全部は分からないまま活動するので、何で、自分たちが頑張ってきたのに、今まで大学は何もやってくれなかったのに突然「やる」って言われるみたいな。なんかそういう誤解が生じてっていう面もあって、で、私が採用されたときにも、やっぱり学生としては面白くない、「今まで自分たちが頑張ってきた」っていう自負もあるから、面白くないっていう面もあったと思うので、その辺りをどういうふうに、まあ、コーディネーターとして何をやるのか、学生としては何をやるのかっていうのを、どう役割を分担するのかっていう相談をしながらやっていって(A1:7)。 また学生の間では、聴覚障害学生の受け入れの流れが受け継がれており、それぞれの大学に適した方法が定着していることがわかる。 ・マニュアルみたいなのがあるわけじゃないんですけど、なんか、2月、3月くらいになったら、そろそろ新入生が来るからみたいな感じで打ち合わせとかをして、で、それによって、聴覚障害を持つ人がいるんだったら、そのテイクが要るか、要らないか。で、要るんだったら、その、どこに誰が入るかみたいな。普通というか当たり前になってる(B4:8)。 以上のことから、それぞれの大学に内包された知識はそれぞれであり、支援コミュニティを維持・発展させていくためには、短期的な知恵ばかりでなく、長期的に積み上げられてきたさまざまな知恵についても、正しく学習し、活用していくことが重要であることがわかる。 概念16[支援のフィードバック]  [支援のフィードバック]とは、行われた支援に対して振り返りを行い、聴覚障害学生と支援学生それぞれに対するサポ―トへ役立てることである。 大学における聴覚障害学生支援では、聴覚障害学生が受講する授業を中心に支援活動が行われているため、通常、一つの支援が1学期間から1年間と比較的長期にわたって継続して行われる。また、一人の学生に対しても4年間と長期の関わりを持つことになるため、単に、授業時間を把握して、支援学生を配置して終わりとするのではなく、授業におけるフィードバックを受けて継続的なサポ―トを行っていく必要がある。 ・サポ―トをしなければいけない授業、サポ―ト派遣が多過ぎて、そこに関わるサポ―ト学生の状況とかを把握するために、一生懸命そっちをしてたらば、本人、利用する本人のお話っていうところ、希望だったりとか、そこが少し漏れてしまったっていうことがありました(A5:3)。 ・私たちが、こう、派遣をしなくてはいけないということに必死だったために、実際、派遣した後のその授業の状況、利用学生もきちんとした支援を受けられているのか、サポーターもきちんと支援をしているのか、その支援がその需要に合ったものだったのか、というものをきちんと確認することがちょっと漏れたような気がします(A5:3)。 このように、支援の枠組みを整えるだけでなく、支援コミュニティの中で継続的にお互いを気にかける関係性を作っていくことが大切であるとわかる。聴覚障害学生の授業の保障が大切なのは言うまでもないことだが、支援学生やそれを含めた関係性までサポ―トしていくことで、構成員の相互作用が増加し、支援コミュニティの発展へつながっていく。 概念17[授業の場でのコミュニケーション]  [授業の場でのコミュニケーション]とは、授業を中心とする支援の現場で、支援学生と聴覚障害学生、あるいは支援学生同士が互いにやりとりをすることで情報保障の改善を担っていくことである。 大学における聴覚障害学生支援では、授業を中心とする教育場面に支援学生が派遣され、支援を担う形が一般的である。このため、授業の前後に顔を合わせ、支援の方法や互いのニーズについてやり取りを行うことで、よりよい情報保障を目指すことができる。 しかし、中には支援をする、される関係だけで終わってしまい、互いに気になることがあっても確認し合えていないこともあり、こうした状況を改善していくための働きかけの必要性についても述べられている。 ・利用学生と支援学生が授業の場で確認し合えばいいんですけれども、そういう関係性もない。ただ、「支援をした、支援を利用する」という関係だけに終わってしまっていたり、そこの部分をつなぐっていうのもコーディネーターの役目であるなということを感じますね(A5:3)。 ・多分、学生の数が増えてきているんで、前と比べると、聞こえるテイカーの数もだし、聞こえない学生の数もだし、毎年10人前後ぐらいは聞こえない学生がいるので、まあ、テイクを利用する学生と利用しない学生も、まあ、合わせてですけれど、10人ぐらいいるから、テイカーとしては、その10人の中の誰のテイクを担当するかで、会ったことのない、やっぱり大学生も出てくるし。それでテイカーの数も増えているので、「初めまして」って言って、テイクを一緒にやってっていう状態もあるんで、やっぱりその中で利用学生と、テイカーとか、お互いに自分と話すっていうまでの時間が結構必要なのかもしれないですけど、なかなか講義の前と後、終わった後と始まる前の10分・10分のその休憩だけで仲良くなるとかっていうところまでが難しかったりして。フォロー、素直に思ったことを言うっていうことに難しさを感じてしまったり、遠慮してしまうっていうことが起きてるのかもしれないです(B:10)。 ・講義のあととかで 、「先生、こういうことを言ってたよ」っていうのは 紙に書いたり、パソコンで、パソコンテイクをやっているパソコンでそのまま送ったりします( B4:3 )。 ・いつもテイクに入るんですけど、なんか、やっぱ早い、しゃべるのが早 い教授とかだと、すごい下手くそになっちゃうときがあって。そういう ときに、なんか、どう思ってるか、なんだろ、「聴覚障害学生がどう思ってるかな? 」とか、「ちゃんと伝わってるのかな? 」っていうときが結 構あって。そういうときは、なんか、「申し訳ないな」って思ったりと か、あ、もう少しレベル上げたら、自分のレベルが上げられたらいいの かなというふうには思うんですけど。なんだろう、それを直接聞く機会もないので、どう思ってるのかを聞ける機会とかあったらいいんですけど。 多分、聴覚障害学生のほうも、多分私たちがやってるから、なんだろ う、そういう要望とか言いにくいだろうし。その要望を、まあ、私は全 然いつでも言ってもらっていいと思うんですけど、そういうのは言いにくいのかなって思うので、なんか要望とかがあったら言える環境があれ ばいいかなっていうふうには思います(B8: 12)。 一方で 、授業の場で学生同士がコミュニケ―ションをとることで 、状況に合わせて教員へ働きかけるなどの行動が行うことができるようになっていることが示されている。 ・私のテイクに入ってくれる方は同時テイクの方が多い。その講義を受けている学生で 、受けながら私のテイクをしていただいているので。私の テイクをしてくれながら、自分もわからないところを確認して、その後 にあ互いにわからないところ勉強し合ったりそういう支援。またそれ以外にも、担当の先生の配慮についても支援学生と話して、いってみようかと一緒に声をかけたりとか配慮をお願いしたりしているのでその面では、一年生のときはすごく遠慮していたのでそのテイクをその場で受けているだけの感じだったのが、今はもう配慮をしてもらえない状況で私もテイカーも困るそのつながりから働きかけていくという考えが芽生えてきた(C2:5)。 これらの語りから、支援コミュニティの授業の場でのコミュニケ―ションによって得られる効果は大きなものであるが、関係性の構築での困難や、時間的規模的な制約によって、支援コミュニティの活動がスムーズに行われていないこともあることわかる。 カテゴリー4【個々にフォーカスした支援】 【個々にフォーカスした支援】というカテゴリーは、構成員同士の相互関係が活発に行われ、相互的な関わりの中で学生の意思の表明をきっかけとして個々に合わせた支援が行われるようになるプロセスを示している。 これは、①[学生の意思表明]、②[継続したインタラクティブな関係性]、③[経験共有の仕組み]、④[個々の状態に合わせた支援のあり方]という4つの概念から構成される。 概念18[継続したインタラクティブな関係性]  [継続したインタラクティブな関係性]とは、支援の状況を絶えずモニタリングし、改善に向けた意見や課題がないかを確認し続けられる関係性のことである。 大学における聴覚障害学生支援では、コーディネーターが聴覚障害学生のニーズや支援学生の空き時間などを考慮して必要なコーディネートを行う。しかし、聴覚障害学生に対する合理的配慮は、一度、提供すればそれで確定というものではなく、絶えずモニタリングをして、さまざまな調整を行う必要がある。 以下の語りでは、学期の終わりにまとめて改善点や要望を伝えられたことで、必要な時に必要な改善を行うことができていなかった可能性を指摘している。ここから、日々の継続的なやりとりの重要性が示唆される。 ・授業が、前期か後期の授業が終わった後に、「実は情報がもう少し欲しかったです」とか、「この方法じゃないほうがよかった」とかという意見を聞くことがあったので。うん、事前にもう少し聞けるような環境がつくれればよかったなと思っています(A4:3)。 以上のことから、支援コミュニティの成立から双方向的な関係性を保つことによって、支援コミュニティにおける間題や課題に早期に気付き、発展に向かうことができることがわかる。 概念19[個々の状態に合わせた支援のあり方] [個々の状態に合わせた支援のあり方]とは、個々の学生の状況を把握し、それに合わせた支援を行うことである。 支援コミュニティの中では、聴覚障害学生のみならず、支援を担う支援学生もさまざまな悩みを抱えたり、何らかの負担を感じたりしていることがある。そしてこうした負担は、支援を継続していくための阻害要因にもなる可能性がある。このため、普段の会話や何気ないやりとりの中から個々の構成メンバーの状態を把握していくことで、学生の状況にあわせた支援を行っていくことができる。 ・その子その子のそのときの状況っていうのを把握していたいなと思います。その日、「おはよう」と声を交わしたときに、「あれ?元気がないな」とか、「ご飯食べてきた?」とか、「今日はどんなスケジュールなの?」とか、「バイトし始めたの?」とか、その辺のお話も雑談の中で聞いて、その子の状況をなるべく知っておいて、例えばサポ―トなんかするときも負担にならないようにとか、そういうことはさりげなく配慮してます(A5:2)。 ・支援学生にも配慮しながら。サポ―トを受けている学生だけでなく、支援している学生にも配慮しながら。そうですね。共に学べる環境をつくるっていうことが目的の一つでもあるので(A4:2)。 また、こうした情報を取得する過程では、個人のプライバシに配慮し、バランス感覚を持つことの重要性も指摘されていた。 ・サポ―トをしなければいけない授業、サポ―ト派遣が多過ぎて、そこに関わるサポ―ト学生の状況とかを把握するために、一生懸命そっちをしてたらば、本人、利用する本人のお話っていうところ、希望だったりとか、そこが少し漏れてしまったっていうことがありました。 私たちが、こう、派遣をしなくてはいけないということに必死だったために、実際、派遣した後のその授業の状況、利用学生もきちんとした支援を受けられているのか、サポ―タ―もきちんと支援をしているのか、その支援がその需要に合ったものだったのか、というものをきちんと確認することがちょっと漏れたような気がします(A5:3)。 そして、実際に聴覚障害学生においては、自分にあった情報保障の使い方を検討していると語られた。 ・私は最初は情報保障を受けようとは思っていなかった。健聴の学校で育ったので自分が情報保障に関わるなんて思っていなかった。でも、はじめ、どうやって使ったらいいのかわからなくて、一年間使ってみて、情報保障がいらないと思ってる授業もあるので、うまく来年から使っていったらいいかなと思っています(C4:2)。 このような、聴覚障害学生、支援学生の個々の状況やニーズを把握する行動は、自然と互いのコミュニケ―ションも誘発する結果となり、支援コミュニティの発展に必要な中核的機能が成熟されていくことにもなると考えられた。 概念20[経験共有の仕組み] [経験共有の仕組み]とは、コーディネーターや学生同士の経験を共有できる仕組みが設定されていることである。 支援コミュニティでは、基本的に所属する学生は4年間で卒業することから、学生の経験を伝えていく機会が求められる。そのため、ミーティングや先輩後輩の関係性などを生かすことによって、経験共有の機会を作っていく必要がある。 ・毎年誰かは参加するので、去年出たことがある人から、「去年はこんな方向でやったよ」とか、「他の大学はこんな発表だったよ」というのをお話ししたり、資料を見たりして、「じゃあ、今年はうちの大学はどんなテーマでやろうね」っていうのをみんなで話し合って(コーディネーターも含めて)、決めてます(A5:2)。 ・入学して、テイクを始める前の説明会とかはあったので、そのときは、その先輩の人にテイクのやり方を聞いたりとか、そういうことはありました(B5:5)。 ・スタッフの方がこの部屋で、えっと、コーディネーターさんはいなくて、あの、テイクのやってる中で困ってることとかを話せる場を昼に開いてくれて、そこによく来ているんですけど。月に1回あって、それをスタッフさん、あの、2年生の方がやってくださっていて(B9:19)。 この語りから、ミーティングの中で自然と先輩後輩同士による経験の共有が行われていることがわかる。それぞれの経験を絶やすことなく共有し、生かしていくことで、支援の基盤が整えられる機会が機能し、支援コミュニティ全体の発展へつながっていくことがわかる。 概念21[学生の意思表明]  [学生の意志表明]とは、学生が支援コミュニティや学内の環境に対して感じていることを表明する行為のことである。 障害者差別解消法においても、合理的配慮の提供は障害者の意志表明から始 まる。大学においてもこうした学生自身の意志表明が支援の起点となっており、学生自身がニーズを発信し続けることが、大学を変えていく原動力となるととらえられていた。こうした学生による意思の発信は、合理的配慮の提供にとどまらず、支援のあり方や支援コミュニティの方向性を変えていく上でも重要と考えられ、望ましい支援コミュニティへ至るプロセスの中でも特に重要な概念であるといえる。 ・私たち職員側から大学に働き掛けるよりも、学生自身の声が上がったほうが、きっと変わる可能性が高いと思うので、学生たちに、そういう、 自分たちの思いを発信する力を付けさせたいと思います(A5: 14)。 ・自分から先生にお願いしたりとか、自分からとにかく動かないことには、授業を受けられないという状況に。もちろん、私たちコーディネーターもお手伝いは十分しますが、今のところ、どっちかというとそこに頼ることがすごく多くて、自分から先生に言わなかったりというのもあるので、逆に、職員側が先生にお願いをしておいたのに本人が授業に出ないとか、そういう失礼なことが結構多いので(笑)、基本は自分から発信を、という感じにできたらいいなと思います(A5:15)。 このように学生自身の意思の表明が行われる環境では、自ずと対話が生まれ、これが支援の基盤を形成することがわかる。また、意志表明については、単に思いをそのまま伝えるだけでなく、説明の仕方や手順についても工夫していく必要性があることも語られている。 ・うーん。なかなかないとは思うんですけど、でもやっぱり常にそうやって理解を求めていくっていう気持ちだったり姿勢っていうのは必要になるんだと思うし、こう、諦めずに、諦めずに説明をしていくっていうことは必要になるんだと思うし。それは、障害を持ってる学生も同じだし。1回言って諦めて、うーん。もう理解してもらえなかったってなってしまう学生も多いんですけど、そうじゃないよっていうことを私たちが、うーん、「ほら、理解してもらえるから、説明はしていこう」っていう、ちょっと、説明の仕方を4年間で学んで、社会に出てもらいたいなっていうふうに思って、学生と関わっているので(A2:21)。 このように、学生の意志表明に対する支援が行われ、学生が工夫して意志表明ができるようになることは、支援の基盤が整えられていることを示している。支援コミュニティが共有する聴覚障害学生支援のテーマを達成するためにも、学生の意志表明は非常に重要である。 カテゴリー5【学生の活動を推進する力】 【学生の活動を推進する力】というカテゴリーは、学生という立場を活用することで相互作用を生み出し、個々の力を支援コミュニティの活動へ盛り立てていくプロセスを示している。 これは、①[刺激の相乗作用]、②[点を線に変えていく機能]、③[学生の境界線意識の活用]、④[境界線意識の調整]という4つの概念から生成される。 概念22[刺激の相乗作用] [刺激の相乗作用]とは、支援コミュニティでの活動を通して、さまざまな構成員と交流することで、互いに刺激を受け、新たな目標や活動が生まれるなどの相互作用が起きることである。 支援コミュニティでは、日々さまざまな人との関わりの中で、互いに刺激し合い、成長していく姿が見受けられている。あるコーディネーターは、そうした相互作用の中で学生が目標を持って活動に取り組むことができるようになると良いことを述べている。 ・学生たちが何かこう目標を持って支援に関わってくれるような、そういう関係性をつくっていきたいという(A2:19)。 ・まあ、あの、学生スタッフですので、仕事があるので、それをやっていく中で自信を付けてもらうとか、あの、できたと、自分も自分のことを評価できるといいなと思って、まあ、声掛けですとか、そういうことしか私たちはできない。逆にできないかなと。職員ができる、して何か伸びるというよりは、見つけてほしいなと思っているっていう感じですが、機会を提供するという意味だとか、あと、その、資格を、さっき言った与えるというのも、その一つの手段かなって。別に、それが目的ではないかなと思います(A6:20)。 ・私も最初ここに仕事を始めたときは、コーディネーターって何かなって思うぐらいのレベルから始めてますので、はい、障害……、障害学生さんがハードルなく学べるようにお手伝いするのかなと思って、あの、始めたんですけれども、ボランティア学生とも関わっていく中で、そうじゃなかったなと。あの、学生さんそれぞれ力があるので、障害学生もボランティア学生もそうですけど、それがこう伸びるというか、成長するように助ければいいのかなというふうに、私の考えは変わりました(A7:1)。 このように、構成員との交流を通して活動から刺激を受け、支援コミュニティの場で構成員同士が互いに支援されながらコミュニティの活動を盛り立てていくことが支援の基盤となっていくことがわかる。 概念23[点を線に変えていく機能]  [点を線に変えていく機能]とは、個人の思いや活動を支援コミュニティの場で形にし、構成員が力を合わせて何らかの活動に繋げていくことを意味している。 さまざまな構成員が所属する支援コミュニティでは、構成員同士で協力してコミュニティの活動を推進していかなくてはならない。そのためには、個人の思いや意志をコミュニティの活動につなげていく機能が求められる。あるコーディネーターの語りから、学生が力を合わせて活動していくまでの間には、何らかの段階が存在し、支援コミュニティの活性化のためには、その段階を押し上げていくような機能が必要なことが示唆されている。 ・その上の、何て言う……、うん、まだ彼女たちが積極的にいいグループをつくろうというところまでいってないんです。個人個人の障害学生に対する思いなどはたくさん持っている子たちですけれども、みんなの力で何かしようと学生はまだ思い至っていないと、私は見てます(A6:20)。 以上のことから、個人の思いをつなげて線にしていくことで、構成員の中で新たな取り組みが生まれ、これが支援コミュニティの機能をより向上させていく原動力にもなっていることがわかる。 概念24[学生の境界線意識の活用]  [学生の境界線意識の活用]とは、支援する側と支援される側という互いの立場に関する意識が完全に分かれていない学生同士の立場を活用することによって、構成員同士の関係を作っていくことを指している。 一般的に、障害者支援という文脈の中では、支援する側と支援される側という構図が強調されがちであるが、大学における聴覚障害学生支援は、支援の担い手も受け手も同じ学生同士であり、同一のコミュニティに所属する仲間同士である点で特徴的である。このため、障害の有無に関わらない互いに支え合う関係を築きやすい状態にある。あるコーディネーターは、学生という立場だからこそ築ける関係があることについて語っており、その関係を大切にしてほしいことを述べている。 ・障害の有無に関係なく、1人の人として関わることっていうのが大事なことだと思っていて……。そうですね、それをこう……何て言うんでしょうね、関係なく関われるように、私が職員として支援学生と支援される学生との間に入ってお話をしたりとか、理解を深めて、お互いの、っていうお手伝いができたらなというふうに思っています。うん。 なぜそう思ったかというと、学生時代でないと、やっぱり学べないかなというふうに思いました。学生が、卒業すると、どうしても、えっと、利用者と支援者という形で分かれてしまう。で、お互いの気持ちを知るっていう機会が少なくなるかなというふうに思うので。学生時代であれば、お互いに思っていることが聞ける、聞きやすいから、それを持って卒業することによって、将来、自分が支援しやすい環境をつくるときに、自分に助けになるかなっていうふうに思うので(A4:9)。 ・謝金は発生していないので、でも、大学を卒業すると、お金が発生して、発生すると、「私は利用しています」という立場、「支援しています」っていう立場にすごく分かれるかなというふうに思うし。学生であれば、その、何て言うんでしょうね、境界線っていうのが少ない可能性を感じていて。一緒につくっていく、活動していくっていうふうに思って(A4:9)。 ・同じ学生として、学ぶ。で、やっぱり健常の人だって、困っていることってあると思うんですよね。でも、障害があるからさらに困ることって増えるし、時間もかかるし、でも、同じく一緒に学びたいっていう気持ちで手伝いをする。ちょっとでも自分の空きコマをそこに充てられたらっていう、その、何だろうな、同じ年代を生きている学生として、その、支え合うというのかな。そこは、うん。 大人になったら経験できない。多分、私たち職員が支援をするってなると、またちょっと違うと思うんですね。「サービスを利用する」っていうような感覚になると思うので(A5:10)。 実際に支援学生と聴覚障害学生の間では、支援をするされる関係が徐に変わっていったことが述べられている。 ・聴覚障害の学生とは、1年生のときは、なんかまだ仲良くはなれなかった。支援と、私が支援をする、だし、向こうからすれば支援をしてもらうっていう関係が、多分強かったんじゃないのかなって思うんですけど、まあ、徐に生活とか、基本、同じ学部の人の支援をしているので、必ず、毎日会ったりはするので、その関係であいさつとかできるようになって、なんか、友達みたいな感じになったとは思います(B4:1)。 ・聴覚障害学生だからとか、支援学生だからっていう関係じゃなくて、同じ学生同士っていうか、同じチーム、同じサークルの仲間として困ってること、手伝ってほしいことがあれば、なんか、気軽に言えるとか、そういう関係でありたいなっていうのは、ちょっと思ってます。テイクだけの関係じゃなくて、なんかもうちょっと、ちょっと支援室に行ったときに、ちょっとしたことでもいいから話をするとかっていうのも、なんか、大切というか、心掛けることが必要なのかなっていうふうには思ってます(B6:20)。 これらの語りから、構成員同士が互いに立場を超えて支え合える関係性が、共に学ぶ関係性を生み出し、これが同じ目的に向かって進む支援コミュニティの発展に大いに寄与していることがわかる。 概念25[境界線意識の調整]  [境界線意識の調整]とは、支援学生と聴覚障害学生の間で、立場の違いによって生じる遠慮や思いをとりのぞき、互いにあるべき立ち位置に来られるよう調整する機能のことである。 概念24で述べたとおり、大学における聴覚障害学生は、互いに学生同士で行うことから、支援する、支援される関係性よりも、学生同士という意識の方が前面にくる傾向はある。ただ、そうした関係においても、やはり、障害による遠慮や互いの思いがわからないことによる不安などは存在する。このような場合、コーディネーターが学生の境界線意識を調整し、支援学生と聴覚障害学生の間をとりもつことが大切となる。こうした機能は、構成員同士の壁のない交流を生みだし、支援コミュニティの活性化につながるとともに、コミュニティの機能を発展させる力となる。 ・「聞こえない学生だけで考えててもそこは解決しないから、そこは支援学生に言ったほうがいいよ。でも、言い方どうする?」みたいなところで相談をしたり、支援学生だけで、まあ、考えても、利用学生のためにはならないから、そのときは「言ったほうがいいよ。じゃあどういうふうにやるかも相談したほうがいいよ」っていう、こう、相談するようには、心掛けてます(A2:9)。 ・単純なとこで言うと、その聞こえない学生とのコミュニケ―ション方法が分からなくて、どうやって、なんか、話しかけていいのか悪いのかも分かんないとか、どうやって、なんかこう、コミュニケ―ションすればいいのか分かんないとかって、言うから、「じゃ、ちょっとまず」、その、なんだろ、「会ってみなよ」とか。その。会っていいっていう、なんか、誰かに後押ししてほしいっていうのを言ったりとか、この会う場を、支援室を、こう、「使っていいよ」って言ってあげて。もしその2人だけで、あの、困ったときには、まあ、部屋の中にはいるので。まあ、なにかあったら、すぐに助けがもらえるとか(A3:16-17)。 学生同士であっても、支援をする、される関係は意識されることがあり、その関係を意識してしまうからこそ、伝えることが難しい場合がある。このようなとき、学生の間をコーディネーターが仲介することで、支援コミュニティの発展へつながると言える。 ・あの、普段、学生の話を聞いている中で思うのは、支援学生は、あの、障害学生の間の壁を取りたいと思っています。うん。でも、あの、障害学生は、やっぱりやってもらっているっていう気持ちが大きいようで、あまり勝手なことは言えないっていうのがあるかなって感じます。で、時々、障害学生さんのほうから、この子のテイクはさすがに分かりづらいとか、うん、やっぱり支援が足りていない。まあ、世話を焼き?ぎるというのもありますし、いろいろな、自分からは支援学生には言いづらいという悩みを職員のほうに言ってくることもあるので、その間に入る役目が支援センターという部分もあるかなと思います(A6:7)。 このように、支援コミュニティの中でコーディネーターの仲介が効果的に行われることで、支援の枠組みがスムーズに周り、支援コミュニティ自体の活性化へつながっていくことが分かる。 第3項 《学生主体の成長システム》 カテゴリー6 【構成員個々のアップグレード】 【構成員個々のアップグレード】というカテゴリーは、構成員が変化していく活動の中で当事者感を取り戻し、外部の目を通して支援コミュニティを捉えることで、さらなる成長へつなげるプロセスを示している。 これは、①[当事者意識のアップグレード機会]、②[ポジティブな相対化の視座]、③[第三者からの称賛]、④[前進が可視化される機会]という4つの概念から生成される。 概念26[当事者意識のアップグレード機会]  [当事者意識のアップグレード機会]とは、支援コミュニティの設立当初、あるいは活動に意識を持って取り組んでいた時代に構成員が抱いていた当事者感を、新しいコミュニティの構成員に合うようにアップグレードしていく機能のことである。 学生は、入学と卒業によって構成員が変化していく。そのため、当初の学生の活動がどのような経緯で始まり、なぜやることになったのかといった当事者意識が共有されないまま、「やらされている感」を覚えてしまうことがある。このため、支援コミュニティの中では、その時の構成員の状態に合せた当事者意識を醸成していく必要があるとされていた。 ・引き継ぎとかっていう話があったと思うんですけど、その仕事の内容を引き継ぐとかっていうことは毎年されてるんですけど、あるし、ちゃんと、その引き継ぎもされてると思うんですけど、その、「なんでこれをやらなきゃいけないのか」とか、「なんでこれをやろうと思ったのか」とか、「なんでこれをやり始めたのか」みたいなところって、だんだんだんだん、消えていくんですよね。そうすると、こう、引き継がれたほうは、理由は分かんないけどやらなきゃいけない。だから、「やらされてる」みたいになって。(A2:24)。 このように、活動の内容は引き継がれたとしても、根っこの部分で齟齬が生じることがある。また仕事のみならず、学生の年代の変化によって、支援コミュニティ全体の方針に齟齬が生じてしまうこともある。 ・もともとこの情報保障の会を立ち上げたときにも、いずれ大学が公的に支援をしてくれるようになるだろう、なってほしいから、そのときに、ここでその技術を磨いて、いろんなその経験を積んでおいたら「大学がやります」って言ってくれたときには「はい」ってできるように活動してきたんだけれども、やっぱりその、そうやって立ち上げるときの、なんていうか理由とかその流れとかをもう卒業していくので、学生はそれ、要するに後に残された学生は、全部は分からないまま活動するので、何で、自分たちが頑張ってきたのに、今まで大学は何もやってくれなかったのに突然「やる」って言われるみたいな。なんかそういう誤解が生じてっていう面もあって、で、私が採用されたときにも、やっぱり学生としては面白くない、「今まで自分たちが頑張ってきた」っていう自負もあるから、面白くないっていう面もあったと思うので、その辺りをどういうふうに、まあ、コーディネーターとして何をやるのか、学生としては何をやるのかっていうのを、どう役割を分担するのかっていう相談をしながらやっていって(A1:7)。 こうした、当事者意識の欠如による発展の鈍化や、支援コミュニティの価値観が揺らいでしまう出来事に対処するため、主にコーディネーターが当事者意識をアップグレードし、支援コミュニティの活動に対する認識を新たにすることで、当事者感覚を持って支援コミュニティを発展させていくことにつながる。 ・それは運営スタッフのほうも同じで、前、学生団体でやってたときは、みんな、やらなきゃいけないっていう、とか、やりたい、やらなきゃいけないってやってたんだけど、その、なんで運営スタッフっていう役割が残っているのか。こっちで練習会をやろうと思えばやれる。反省会も企画しようと思えばやれる。けど、じゃなくて、学生の運営スタッフにやってもらいたい。そこにお願いをしているっていう理由とか、経緯っていうのは、あの、やっぱり、だんだんこう、見えなくなってくるので、なんでこれをやらなきゃいけないのか、学生運営スタッフがいる意味がなんなのか。っていうのが見えなくて、モチベーションも下がるし、やる気もなくなるみたいなのが出てきていて。私たちは、その都度その都度、まあ、支援室が立ち上がった経緯とか、学生運営スタッフがある理由とか、経緯とかを話していかなきゃいけないんだろうな、伝えていかなきゃいけないんだろうなっていうふうには感じています。そういうのを知って、「ああ、そうか。じゃあ、それは必要ですね」みたいになる学生もあるんで、やっぱりそういう、根元のこの部分が漏れてしまうと、表面だけ続けていくことになるなっていうことを思っています(A2:24)。 このように、恒常的に学生の顔ぶれが変化する支援コミュニティにおいては、意識的に支援コミュニティにおける構成員の活動の歴史や経緯にふれ、自らのものとして考えられるようになる機会が必要であることがわかる。 概念27[ポジティブな相対化への視座] [ポジティブな相対化への視座]とは、支援コミュニティの中で物事や人物を比較しすぎてしまうのではなく、「今」のコミュニティの状態を見る視点を持つことである。 コーディネーターが学生と対する時、これまでの支援コミュニティで関わってきた学生や自らの経験との比較から、考え方の違いや対応方法につまづいてしまうことがある。学生に対して当事者意識のアップグレード機会を提供すると共に、コーディネーター自身も現在の支援コミュニティを活性化させていくために認識を新たにするプロセスが必要となる。 ・10年たって、今の学生はまだ18とか、22。だけど、ま、私たちはどんどん、大人になって。ここの、その差が、なんか、今後はもうずうっと開いていく。うん。それとやっぱり、ここの経験値を私たちは持ってるけど、学生は持ってないっていうその当たり前のことを私たちも忘れがち。なんか、「昔の学生はできたのに、なんか今の学生はできないの、なんでなんだろう」みたいな気持ちになってしまう。のではないかなっていうことを、なんかこう、自分に言わなきゃいけないなって(A3:17)。 ・ああ、例えば、やっぱり、10年前は大学に入ってくるこう、障害のある学生が、なんか、まじめな人しか入ってこれないみたいな状態だったのが、まあ、今は……。それと、いろんな学生が入ってくるようになったのが、なんか、ちょっと原因は分からないんだけど、例えばその、講義をサボるっていうところの権利を主張したりとか、うん。なんかこう、人として「?」なことを主張してくるっていうことに対してどう対応すればいいのか、なんか、迷う(A3:17)。 ・なんか、なんかこっちが基本的に思っているコミュニケ―ション方法、例えば会って話す、とかっていうこととかは違うのかもしれない。やっぱり、その、みんなでTwitterで登録し合ってて、そこで顔は知らないけれども意見を言う。名前は隠すけれども意見を言う、みたいなこともコミュニケ―ション、ていう気持ちなのかも(A3:22)。 これらの語りから、以前の支援コミュニティとの考え方の違いを認識した上で、現在の支援コミュニティを客観的に見ていかなくてはならないことがわかる。 概念28[前進が可視化される機会] [前進が可視化される機会]とは、支援コミュニティで構成員が活動してきた結果が可視化され、実感できる機会を提供していく機能のことである。 これには、活動の成果を目に見える形でまとめたり、言葉にしたりといったことが含まれるが、普段、構成員が行っている活動の成果が形となって見えるようになることで、自らの手で発展させてきた結果を客観視することができる。この結果、さらなる成長を志し、支援コミュニティの活性化へつながることがうかがえる。 ・私たち職員側から大学に働き掛けるよりも、学生自身の声が上がったほうが、きっと変わる可能性が高いと思うので、学生たちに、そういう、自分たちの思いを発信する力を付けさせたいと思います。例えば、えっと、聴覚ではないけれども、バリアフリー調査を毎年行って、そこで、自分たちがこうなってたらいいなという理想像を提案して、毎年提出しています。それによって、いろいろ良く変化している部分もすごく目に見えてあるので、そこは学生たちもすごく楽しみにして、調査をしています(A4:14)。 ・ボランティア学生も多いものですから、どこで誰が何をしているかが毎日は把握できていませんが、あの、ボランティア学生がボランティアをしっぱなしではなくて、どこかで認めていく。あの、褒めるでもお礼を言うでも、ちょっとした声掛けだけなんですけれども、モチベーションを保ってもらいたいというのが一つと、あとは、テイクだったら聴覚障害学生との間がうまくいっているのか、言えないことはないかっていうのを……。聞き取ったりとか、そういうことはしてますね。はい(A6:18)。 これらの語りから、ささやかな日の達成感が支援コミュニティの発展につながっていくことが分かる。自らの手でコミュニティが進歩している実感を得ることによって、構成員個々の成長がなされ、支援コミュニティ全体へ波及していく。 概念29[第三者からの称賛] [第三者からの称賛]とは、第3者から支援コミュニティの構成員の活動を認められることで、自信を高めるプロセスのことである。 普段、各大学の支援コミュニティの活動は、コミュニティの内部で閉じていることが多いため、外部の目に触れること機会は少ない。しかし、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークをはじめとした外部団体や、学内でも学長等、支援コミュニティの外あるいは周辺にいる人から称賛を受けることで、活動の成果を客観視し、自らの活動に自信を得ることにつながる。 ・一昨年になるのかな、北海道であったシンポジウムのときには、初めて準PEPNet賞という賞をもらったというのも、すごい彼らにとってはいい経験で、なんか、あまり今まで、そんな賞を取るっていうことを目的でやってはいなかったんですけれども、ちょっと、頑張ればそういうのもできるんだなっていう、自分たちに自信が生まれたように見えました。(A4:2)。 このように、第三者の目に認められることが、支援コミュニティの発展につながるプロセスとなることがわかる。中でも日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークの聴覚障害学生実践事例コンテストのような場は、自らの活動を客観的に捉えるとともに、第三者からのポジティブな評価を得られる場として活用されていることがわかる。 カテゴリー7【支援活動を通した成長】 【支援活動を通した成長】というカテゴリーは、支援コミュニティの中での相互作用を通して、構成員の成長に結びつくような仕組みが存在し、かつそれが機能していくためのプロセスを示している。 これは、①[「できる」を再発見する体験]、②[「あたりまえ」の再考プロセス]、③[実りへつながる達成システム]、④[社会での環境構築能力]という4つの概念で生成される。 概念30[「できる」を再発見する体験]  [「できる」を再発見する体験]とは、支援される、する経験を通して、自分にできないと思っていたことができることだと再発見し、自信につなげるプロセスである。 支援コミュニティでお互いに困っていることを補い合う中で、できないと思っていたことが自分にもできるということを知ることがある。こうした経験が自信と成長につながり、支援コミュニティの活性化につながっていくとされていた。 ・自分に合った環境がつくれるように。そして、なんか、困っていることっていうのは人それぞれ。で、ここのサークルのいいところは、聴覚障害だけじゃなくて、いろんな障害の子も一緒に活動をします。「できない」だけじゃなくて、例えば、聞こえなくても見ることができるから文字を書けますよね。だから、弱視の人に書いてサポ―トしてあげるとか、お互いに困っていることを補うっていうのがあるので、うん、そういうことを知るというのもすごく良くて、支援を受けるだけではなく、自分もどういうふうに社会参加ができるかとかを考えて、なんか、その、「できない」っていうんじゃなくて、そこで、こう、「できる」っていう自信にもつながると思うので(A4:9)。 また、支援コミュニティでの経験が、大学卒業後、社会に参加していく際の自信やスキルになるとよいと語る声も複数聞かれた。 ・支援学生には、支援をしてもらえばいいとも思っていたんですけども、さっきも言ったように、支援学生の悩みとかに触れていくうちに、支援することで自信を付けて、例えば、パソコンテイクだけは自分はうまいとか、あの、学生スタッフとして4年間頑張ったとか、そういうことを、もう本当にそのちょっとしたことをよりどころにして社会に出ていく支援学生がたくさんいますので、あの、お互いのための支援だなというのは実感してます(A6:11)。 ・なんていうか、うーん、学生がなんか、結構、ま、さっきも言った、遠慮をしているところもあるっていうのもある。なんか、「これやってみたいな」とか、「こういう方法どうかなみたいな」とか、あると思うんですけど、そういうのを積極的にやってほしいなあっていう思いはあって。なんか。うん。楽しいことやりたいなって思うんであれば、いろいろ企画してみてもいいと思うし。うん。そういう、なんだろ(笑)。ハなんて言おう。遠慮しないでやってもらいたいな。私じゃない、私の、こう、雰囲気が悪くて言えないのかもしれないけど(A1:15)。 これらの語りから、学生ができなかったり、やろうとしても言い出せなかったりすることを、できることだと実感できる体験が求められていることがわかる。このような支援活動を通した成長が、支援コミュニティの活性化につながる機能となっていることがわかる。 概念31[「あたりまえ」の再考プロセス]  [「あたりまえ」の再考プロセス]とは、支援に関する自らのあたりまえを再検討することである。  障害学生支援を取り巻く状況は変化し続けており、現在受けている支援は当たり前のものではないことを認識した上で、学生自身が主体となってどのような環境に身を置きたいかを再考していくプロセスが求められている。これによって、一度自らで作り上げてきた支援コミュニティの状況を見つめ直す事ができ、改めて支援コミュニティのあり方について再検討することで、さらなる成長に繋げていくことができる。 ・利用学生自身も、そういう、何でしょうね、「どんな支援が欲しいか」とか、「他の大学がどうなっているか」という情報は、PEPのシンポジウムに行ったときに知って、何でしょう、初めて知るっていうのかな。うん。今の支援に、割と、満足しているではないけど、「もうこれでもいいかな」という気持ちでいることが多いと思います。 でも、多分、今年は、春からを考えると、なんか、大学は全コマ派遣をずっとしてるんですね。一番多かったときで90コマぐらい派遣してました。でも、去年も、40コマぐらいを派遣したときに、本当に大変な状況だったけれども、何とかこう頑張って派遣をしました。でも、すごくそれはいろんなところに無理があっての派遣だったんですけれども、私たちコーディネーター自身も、派遣することにばかり目が向いていて、すごく利用学生もサポートする学生も、ちょっと負担を感じたんじゃないかなという反省もあり、今度4月から新入生も入ってきて、ますますノートテイクの利用が増えるので、全コマ派遣は無理だともう思って、「全コマ派遣はしない」と宣言をしました。 全コマ派遣でもしなくても、絶対情報保障は必要となるので、そこを補うためにUDトークを去年から導入したので、そこはUDトークを使いましょう。UDトークがいいのかノートテイクがいいのかは、利用学生が判断してもらって、「1人何コマまで」というようなテイクを使えると制限しようかなと考えています。 そうなったときに、何か、利用学生たちの、自分に合う情報保障って何だろうとか考えるきっかけになるかなというふうに。事態をマイナスとは捉えないで、と思います(A4:14)。 ・利用学生の場合は、1回のその一つの授業とか、同じテイカーしか支援を受けたことがない場合は、他のことが分からないので、「ん?」と思っても、まあこんなものかなとか思っているし、支援学生も同じパートナーと同じ授業……難しいなと思っても、まあ、これが普通かなとか思うかもしれないし、大丈夫って思うだろうと思うんですけど、経験を積み重ねていく中で、ちょっとその人の中で普通というものができたから……。普通というものができたのか、理想というものができたのかは分からないんですけど、どっちかができると、「これはおかしいんじゃないか」とか思うようになって、それを人に言ってみようかなとか思ったのかな(B3:12)。 こうした語りから、支援コミュニティの構成員が自らの「当たり前」を客観的に認識し、常識にとらわれない形で取りうる手段を模索していけることが望ましい支援コミュニティを構成していく上で重要となることがわかる。 概念32[実りへつながる達成システム] [実りへつながる達成システム]とは、支援コミュニティでの活動で得られるスキルを何らかの形で評価し、社会的評価にも結びつくような形で提供していく仕組みのことである。 大学で行われる支援コミュニティの活動の中には、一定のスキルが求められ、それが社会的にも評価に値する内容であることが多い。また、教育機関としての大学の機能として、社会へ向かう学生の力を育てていくような役割も求められる。よって、支援コミュニティでは、コーディネーターを中心に学生の能力を客観的に評価・認証し、フィードバックしていくとともに、それが支援活動の活性化にも繋がるようなシステムを構成していくことが求められる。 ・5月、うんと、まあ、4月の早い段階に交流会を開いたりとかしていて、それは他の大学でも多分やれていることだと思うんですね。特に1年生とかは結構いっぱい参加してもらって、2年生以降はね、参加者が減っていくんだけども、それは多分、自分のサークルとか他の居場所があるから、まあ、あの、参加率が下がってきたりすると思うんだけども、もう少し、例えばテイクに入っている学生さんなんかも、ずっと4年間やって、あの、関わってきたりするんだけれども、なんかそのあたりが技術として、こう、何て言うのかな、お墨付きがあって認定されて、で、それが卒後も目に見える形で出していくようなところが必要かなというふうに思っているところですね(A7:19)。 ・コアのコアのコミュニティっていうことも考えているところが実はあって、ある程度の支援技術を有する学生さんは、認定して、そこで、あの、何て言うのかな、え、コアスタッフとして支援に当たっていくっていう方法が、目標が見えていくっていうこともあるんじゃないかなと思ってはいるんだけども、これからまさにそれを考えていこうかなと思っているところですね(A7:19)。 ・それを目指す……、何かもらえる、認定をもらえるっていうことで自信を持って社会に出れる学生もいるとは思うので、いいとも思うんですけど、学生によっては、それはなくても、あの、自分がやれたというものを持って、自分で持っていけばいいのかなと思いますので、その子によってしまうので、あの、コミュニティとして考えられている〇さんへのお答えにはならないかもしれないんですけど、どっちがいいか、ちょっと分からないですね。まあ、両方の立場のいろんな学生がいるということを想定して、システムをつくればいいとは思いますが(A6:18-19)。 ・あとは、自分にノートテイクをしたいっていうふうに来ても、そのスキルがまだ足りない子も中にはいる。でも、やる気はすごくある。こちらから見て、もう少しちょっと練習しないと実際の派遣は難しいなという場合で、その、「まだ派遣できない」っていうのを自分で認識できない子に対して、どういうふうにそのモチベーションを持っていったらいいんだろう。何かこう、例えば、実際に活動する基準とかレベルがあれば、実際にこう、そこになったらば、実際に活動して謝金が発生するみたいなことにできるのかなとか。そういう意味でも、ちょっと謝金を出してほしいなと思っています(A4:11)。 ・当該支援学生にとって、就職活動に、例えば履歴書に書けるような認定書が発行されたりとかいうところ。その手前には、ある一定層の支援技術を有するような基準をつくっていくだとかいうところかな(A7:19)。 ・このように、学生のスキルや成果を形として認定し、生かすことができる仕組みを作ることで、支援活動を通して学生が積極的にスキルを高め、コミュニティ全体の活性化に繋がることがわかる。 概念33[社会での環境構築能力の養成]  [社会での環境構築能力の養成]とは、学生が社会へ出た後、自らに合った環境を構築していくことができる能力を醸成することである。 支援コミュニティに所属する学生は、卒業して支援コミュニティから社会へ出ていくことが前提となっている。またコーディネーターは、学生が社会へ出て行く前に支援コミュニティの中でさまざまな経験を積んでほしいと考えている。よって、支援コミュニティの中で、社会で働く際に役立つ能力を養成していく視点が必要となるし、これにより、支援活動を通した成長が実現され、学生主体の成長システムが機能し、支援コミュニティが発展することとなる。 ・なので、そういう自分の、自分の学びやすい環境をつくっていけるような意思表明の支援をするとか、そういう、あの、そういうことがうまくできたら、社会に出たとき、今度は支援室はないけれども、自分からそういう環境をつくっていけるようになれるかなって思っています。なんか、うまく……、うまく伝わらないかな(A5:9)。 ・もしかしたら、100年後とか200年後は自分で言わなくても周りがみんな助けてくれるっていう社会になってる、かもしれないけど、それは分からないので。やっぱり自分が大学にいる間に、いろんな経験をして、困ることとか失敗もしてもらって、で、その失敗から学んでもらって、社会に出たときに自分が必要なことをきちんと伝えられる人になってほしいなって思って、学生とは接しているし、それは支援学生も同じで、社会に出たときに、なにか、この大学にいたときの経験が、卒業して終わりではなくて、つないでいってもらえればいいなって思っている……(A2:21)。 これらの語りから、障害の有無にかかわらず大学でのさまざまな経験や失敗が、社会においても役立つということを理解することができ、そこから生じる刺激が支援コミュニティの活性化に繋がっていることがわかる。 カテゴリー8【支援コミュニティのアップグレード】 【支援コミュニティのアップグレード】というカテゴリーは、時代や学生の変化に対応して、支援コミュニティの方向性やあり方を検討していくプロセスを示している。 これは、①[時代に合わせた運営方法の変化]、②[学生の意向のコミュニティへの活用]、③[必要条件を満たす構成員のバランス]という3つの概念から生成される。 概念34[時代に合わせた運営方法の変化] [時代に合わせた運営方法の変化]とは、学生の考え方や大学の変化に合わせて、支援コミュニティの運営方法を変化させていくことである。 障害学生支援を取り巻く環境は大きく変化しており、時代に応じて考え方や学生層なども変わり続けている。それらの変化に対応して、支援コミュニティの在り方や価値観、目指すところも変化、発展していくことで、持続的に支援コミュニティを発展させていくことが可能となる。あるコーディネーターは、時代による支援活動の変化を次のように語っている。 ・時代は本当に変わっている。昔はそうやって、「友達だから支援しよう」とか、友達同士の支援ということに大学も委ねてやっていたと思うんですね。でも、今は、世の中的にも、きちんと整備して、学ぶ環境を整えてみたいになって、その流れもあり、こういう支援室というのが立ち上がった(A5:8)。 ・学生のコミュニティの在り方が変わってきているところは、一般的なサークル活動もしかりかなと思いますし、あと、大学③は学生自治会活動が非常に盛んだったんだけれども、最近はあまり予算執行もできてない状況で、学生、構成員である学生に還元できてない状況があるんですね。 いわゆるこう、障害学生支援団体だと、パソコンテイクサークルっていうのが以前はあって、自分たちで連携の練習をして、で、支援センターからのオーダーに応えてパソコンテイカーを派遣していくっていう形の、一つの自治組織として支援団体が成り立っていたんだけれども、やっぱりその、チームっていうコミュニティがちょっとしたきっかけでつくれなくなったことで、みんなフェードアウトしちゃったんですね。で、今はもう、パソコンテイクは学生支援センターの学生スタッフが私たちの指示のもと動いているっていう形に変わってます。 字幕付けを作るサークルで「くまじ」っていうのがあるんですけども、「くまじ」の場合は、先生方からもらった映像教材のDVDを、2週間後に行うからやってくださいねって依頼をするんだけども、私の見方としては、まあ、1人1人で作業していくところがあるんで、そんなにチームワークでっていうところは求められないところもあったりして、今もメンバーが多いし、持続できているところがある(A7:14-15)。 時代の変化に合わせて支援に対する考え方が変わってきたことによって、支援コミュニティのあり方についても今後の展望が考えられている。 ・コミュニティの在り方の変化っていう面では、チームワークのつくり方みたいなところが、学生任せだと回っていかないところも出てきているんじゃないかなというのは感じてます(A7:15)。 ・学生自らが、誰かがリーダーシップを取って企画して実現していくというところが難しい中で、いわば大学の公式の場所である障害学生支援室というところが受け皿になって、その実現に向けた、まあ、手助けをしていくというふうが、な役割に、少しずつ変化してきているのかなというふうには思うんだけども(A7:15)。 ・無理に今のリーダーになれ……、なりづらい学生、支援学生の層、様子を見ていると、そういう形を求めなくてもいいのかなと私は思えてきていまして、さっきからずっと言っているのは、自然な形の、人と人としての付き合いをしてもらえばいいのかなというふうに思えてきてます(A6:15)。 また、時代の変化に合わせて、障害学生支援の担い手が学生から大学に移ってきたことで支援コミュニティのあり方も変換してきたことに言及する声もあった。 ・さっき言っていたように、この支援室が立ってないときには、学生だけで集まって、聞こえない学生と、こう、いろいろ、ノートテイクをやりたいという学生だけが集まって、情報保障の会っていうものを作って、ずっとこう活動をしていたんです。 で、まあそれはまあ、大学がこういう支援の必要性というのをまだ認識してくれなかったので、仕方なく学生だけで活動をしなければいけなかった。その後に、大学としても、きちんと、この障害のある学生の支援をしていかなければいけないと分かって、「うん、じゃ、大学としてきちんと責任を持ってやろう」って決めたので、結局、その役割が二つ起こってしまうことになるので、この今まで頑張ってきた役割を、大学に移行するような方法を取ったんです。 なので、もともとが、やっぱり学生が頑張ってきたというところが一番大きくて、で、その状況っていうのは今も大切にしたいと思っているので、大学がつかまっ……、あの、その動きを移行しても、やっぱり学生が、こう動ける形は残したいと思ったんですね(A3:3)。 ・大学の規模も、大きさも小さい、他の、まあ、総合大学と比べても教育学部だけの小さな大学なので、そういうことも、まあ、いいことなのかというのが、あって。あの、障害学生支援室はるけれども、大学全体として、障害学生支援はやっていくっていうことになってるんです(A1:3)。 ・推薦入試は大学として「この学生が欲しい」と言って合格をさせるものなので、聞こえない学生が合格したのに大学として何もやらないっていうのはおかしいねっていうことになって、で、障害学生支援室ではではなくて、その前の段階としてそのプロジェクト。プロジェクトが立ち上がって。で、大学が紙とペンは準備をしてくれるようになったんです。 その後、平成19年度、2007年に予算が取れたので、まあ、やっとやれるようになって。で、大学が、学生だけで頑張って活動してきたっていう流れがあったので、大学がそのペンとか紙を買うとか、そうやって、「大学として公的に支援をしますよ」って言ったときに、こちらの学生は反発をしたわけです。「今まで頑張ってきたのは私たちなのに、それを全部取られる、活動を取られる」みたいに思ってしまって、本当はそういう意味ではないんだけれども、学生としてはそういうふうに思ってしまって、で、反発をして。なかなか、大学と学生がどうやって一緒に活動していくかっていうのが、うまくこう、連携をしていくっていうのが初めのほうは難しかった(A1:6)。 さらに、考え方の多様化によって、学生の支援活動に関する考え方にも以前には見られなかったものが出てきていた。 ・その学生同士の関係とか、まあ、決めても嫌だって、学生だからどう、同じ学生だから、「その講義は嫌だ」とか、「その聞こえない学生のテイクには入りたくない」みたいなのを、簡単に言ってしまうみたいなところもあって(A1:7)。 これらの語りから、支援コミュニティが時代の変化に合わせて運営方法や支援コミュニティのあり方を検討することで、継続的に発展していく機能を働かせていくことが重要であるとわかる。 概念35[学生の意向のコミュニティへの活用] [学生の意向のコミュニティへの活用]とは、支援コミュニティにおける学生の意向をコミュニティの方針へ活用することである。 支援コミュニティでは、学生が大きな役割を担っていることから、学生の成長を意識して、支援コミュニティに学生の考えを活用していくプロセスが求められている。 ・昔は、今よりももっと派遣数が多かった時代は、私たち職員側が、こう、何でしょう、意見調整というか、割とまとめている感じだったんですけれども、やはりそこには学生の意見とか学生同士の活動っていうものも大事にしたいなと思って、えっと、ちょっといろいろ、グループ分けをして、それぞれ、例えば要請する班とか、募集する班とか、役割を持たせて活動をし始めました。私たちも一応関わりますけれども、基本は学生たちの意見をもとに、学生たちがどういうふうにやりたいかっていうところを大事にして、そこに私たちは後押しをするというのか、必要なものがあれば準備してあげたりとかというような形で……(A5:4)。 ・コーディネーターさんと一緒じゃなきゃいけないみたいな雰囲気が結構あるので、なんか、そうじゃなくて、学生主体で動いてるので、学生がやりたいことはやりたいってことで。で、今、その、障害学生、うん、なんか、手話が必要だみたいな、なんか、「手話を勉強したい」っていう人も多くて。と、パソコンのレベル上げたいっていう人も多いので、そういうときに、その、すぐに集まれるような、なんか、LINEとか、ま、意識というか、強くしたいなって思ってます(B7:18)。 このように、支援コミュニティの構成員の声をコミュニティの運営に反映させていくことで、構成員全体が参加者意識を持って取り組んでいけることがわかる。 概念36[必要条件を満たす構成員のバランス] [必要条件を満たす構成員のバランス]とは、支援コミュニティの意義を果たすために、数と質のバランスがとれていることである。 聴覚障害学生支援組織では、実際の支援の多くを学生が担っている。このため、所属している聴覚障害学生の支援を担うことができるだけの学生数を確保していく必要性にかられる。その際、支援コミュニティに所属するきっかけや思い入れは様であることから、構成員の思いに合わせた支援コミュニティの運営方法や方向性を考慮する段階がある。 ・うーん。その、永遠の課題かもしれないんですけど、数をとるか質をとるか。で、昔は、聞こえない学生と「会う」っていうのがまず最初で、会って、なにか関わりたいからテイクを始める。だけど、やっぱりその、数が足りないとかっていう間題が起こったときに、もう、とにかく数を集めなきゃいけないってなると、じゃあ、ノートテイクの活動はやりたい。でもそのときに、その聞こえない学生っていう存在はないまんま始まっている。そうなると、その技術を取るか、質というか気持ちのつながり具合を取るかっていうところの、なにかこう、葛藤が……。まあ、どうしてもずっと続くのかなと(A3:22)。 ・なんか、テイカー、足りないんで、いっぱい説明会も開いて、募集もして、登録もたくさんの人がしてくれた。けれども実際は、実際、活動できる人はその中でも少なくて、結局、人は集めたけれども、なかなか、派遣が難しかった、みたいなのはあるのかなあ(A1:23)。 ・まあ、どっちを取るかっていうことではないかもしれないけど、例えば質を取るんだったら、入学式で募集するとかPRするとかってことはもうやらないで、聞こえない学生が合った人にお願いをして、1人ずつ、合った人に、頼みたいと思った人にお願いをして、で、テイカー登録をしてもらうっていう方法でやれば、聞こえない学生ともつながっている人のテイカーの数が増えて、で、本当にやりたいと思ってやってくれる人が続けてくれるのかもしれない。ただ、それになると、多分限界、数の限界があるので。1年間で登録できる人の数が、まあ10人とかぐらいになってしまうのかもしれない。そしたら、多分今の、今のこの状況、聞こえない学生が10人ぐらいいるっていう中だと、やっぱりテイカーが足りない。 で、質だけを取るっていうのも難しいし。だからといって、逆に数だけたくさん集めようと思って、今言ったみたいに説明会をいっぱい開いて集まって来てもらっても、この先を工夫をしないと結局続かない。ので、どっちがいいとかどっちを取るとかではなくて、その両方のなんかバランスをうまくやっていかなければいけないのかなとは思います(A2:23)。 このように、支援コミュニティに必要な構成員の数とバランスを考えていくプロセスでは、支援コミュニティの構成員の変化に応じてコミュニティとしての価値観を再考していくことも必要となる。しこれにより常に支援コミュニティのあり方をアップグレードしていくことが求められる。 第4項 《社会背景の反映と実現》 カテゴリー9【大学の理解と当事者感覚】 【大学の理解と当事者感覚】というカテゴリーでは、大学が支援コミュニティの活動の意義を理解し、当事者意識を持って共に成長していくプロセスを示している。 これは、①[情報保障の正当な価値認識]、②[大学との相互関係]という2つの概念から構成される。 概念37[情報保障の正当な価値認識] [情報保障の正当な価値認識]とは、大学側と学生の双方が情報保障に対する正当な価値を認識することである。 支援コミュニティによって行われる情報保障の取り組みは非常に高度で責任の大きな仕事である。障害者差別解消法をはじめとした法制度によって、教育の機会の平等がスタンダートな教育環境となり、大学が情報保障の必要性を認識し、支援コミュニティと協力して当事者感覚を持ち支援に取り組んでいく必要がある。 ・お金は目的ではないんだけれども、この学生たちのやっている活動は、非常に尊いことだし、それだけ価値があることだって大学に知ってほしいんですね。こうやって外部に通訳を派遣すればお金を払うことは当たり前なんだけれども、大学の中では無償なので、なんか、軽く思われてる?でも、それは利用学生も同じ気がしますね。お金を払ってないので、簡単に「休む」って言ったりとか(A5:11-12)。 ・意識的な部分で、やっぱりお金が大きい。なんかこう、大学が学生に感謝をしてほしいです。私たちも学生たちを育てて一緒に。すごく、やっぱ労力……、労力っていう言い方がいいか分からないけど、いろいろ丁寧に対応して育てているので、なんかこう簡単にできることではないことだと思ってます。 授業を保障するっていうレベルに持っていくには、本当に大変なことなので、なんかその、学生に頼るだけじゃない支援とか、いろいろ考えてほしいなと思っています。障害のある子の配慮も、それだけお金もかかるし、時間もかかるっていうのを分かってもらいたいなと。それを利用学生たちも訴えていけるようになれたらいいのかな。今でも、少しずつ輪が広がっていっていると思います。理解のある、その、個々の職員だったりとか、少しずつ、今、広がっています(A5:12)。 ・例えばテイクに入っている学生さんなんかも、ずっと4年間やって、あの、関わってきたりするんだけれども、なんかそのあたりが技術として、こう、何て言うのかな、お墨付きがあって認定されて、で、それが卒後も目に見える形で出していくようなところが必要かなというふうに思っているところですね(A7:19)。 法律で定められているにも関わらず、大学の認識によって十分な支援を行うことができない現状についても言及されている。 ・今、この、学生がサークルとしてやっている活動、支援活動は、えっと、多分もう法律的に大学がやらなくてはいけないことだと思っていますね。でも、その認識が、ちょっとお聡ずかしい話、うちの大学はまだそこまで……。「大学がやらなくてはいけない」っていうふうにっていう考えには、まだ、真剣に思ってない。うんうん。昔のまんま、「学生が友達同士で支援をする、それがサークル活動である」っていうまま。だから、謝金も発生しない(A5:10)。 ・お金が目的ではないんだけれども、学生たちも忙しい中でいろいろな、……何だろう、健常の子でも悩みとかを抱えながら活動していて、一応、自分の勉学がきちんとできて、その余力で活動するっていうルールにしているので、例えば、えっと、試験が近いとか、自分のバイトがあるとか、そういうことで休むこともあります。正直。 そうすると、利用学生は困ってしまいます。テイクがないと授業が困るという、その認識を持ってもらいたいな。でも、やっぱり自分の授業やバイトが大事。そう思うと、こちらは強く言えません。そういうときに、もしもお金を払っていれば、それはアルバイトとして、「その時間あなたと契約している時間ですよ」っていうふうに拘束することができる(A5:11)。 また大学が情報保障の重要性を認識することで、支援体制が整えられたこともあげられている。 ・もともとこの情報保障の会を立ち上げたときにも、いずれ大学が公的に支援をしてくれるようになるだろう、なってほしいから、そのときに、ここでその技術を磨いて、いろんなその経験を積んでおいたら「大学がやります」って言ってくれたときには「はい」ってできるように活動してきた(A1:7) ・さっき言っていたように、この支援室が立ってないときには、学生だけで集まって、聞こえない学生と、こう、いろいろ、ノートテイクをやりたいという学生だけが集まって、情報保障の会っていうものを作って、ずっとこう活動をしていたんです。まあそれはまあ、大学がこういう支援の必要性というのをまだ認識してくれなかったので、仕方なく学生だけで活動をしなければいけなかった。その後に、大学としても、きちんと、この障害のある学生の支援をしていかなければいけないと分かって、「うん、じゃ、大学としてきちんと責任を持ってやろう」って決めたので、結局、その役割が二つ起こってしまうことになるので、この今まで頑張ってきた役割を、大学に移行するような方法を取ったんです(A3:3)。 こうした語りから、支援コミュニティが大学の中で重要な役割を果たしていることを理解してもらう必要があると共に、その?程で大学との関係を構築していくことが求められる。 概念38[大学との相互関係] [大学との相互関係]とは、大学と支援コミュニティがお互いにとってなくてはならない存在であり、お互いに相互関係が成り立っている状態のことである。 大学における聴覚障害学生支援は、支援コミュニティの構成員だけでは発展させていけない部分もたくさん含まれる。このことから、大学の力をうまく活用していく方法を考えるとともに、大学との密接な関係性の中に支援コミュニティも存在することを認識する必要がある。 ・大学なので、教育機関と同時にサービステイク、サービス側、受け……、する側でもあるっていうところの中で、障害学生支援のコミュニティをつくっているっていうところで、そういった面では、いろいろこう、あの、何て言うんだろう、守られたコミュニティっていうところがあるのかなと思ってます(A7:21)。 ・社会に出ていくときのというところを4年間で見ていけるっていうところに関しては、その、外のコミュニティにも接点を持っていくというところも大事かなと。その点、この大学は卒業生もいっぱいいるので、やっぱり卒業生と接点を持ってロールモデルを見てもらうっていうことでも十分かなというところを思ってるんですけども、なるべくそれを4年間の中で、いっぱい刺激を持ってもらうっていう形、外に出ていくっていうところが、あの、自分たちは内発的に発展していくというところのポイントかなとは思ってます(A7:21)。 ・うーん。障害学生支援コミュニティがあるから、あの、日常の授業の情報保障しかり、移動支援しかりという形で、障害のある学生を支援するっていうのは、やっぱり、何だかんだ言って多くのマンパワーが必要になってくるところがあるので、だから、大学にとってもそれは必要なコミュニティだというところがまず一つあるのかなと(A7:21)。 ・まあ、人の入れ替わりも人事異動もあるので。3年間いて、理解したと思ったらまた変わって、新しい人が入ってきて、で、またその人に理解してもらうために説明をしていかなきゃいけないとかっていうのは、その繰り返しなので、全部に理解しててもらう、まあ、学生も同じだよね。 1年生が入ってくるたびに理解をしてもらうように働き掛けなきゃいけないから。だからそれが何年間で終わりっていうのは、とても難しいと……(A2;21)。 ・経験。まあ、学生のときに、学生だけで活動していて、で、「大学が分かってくれない」とかあって、「理解してくれないんだ」とか、そういう反発した気持ちから、活動はすごい盛り上がるし、あの、維持する力にもなったと思うので、それはそれで一つのモチベーションを保ったり高めたりする手段というか理由にはなるのかなっては思うんですけど、やっぱり、学生だけでやれることって限られているんで。うん。学生がいくら頑張っても難しいことがたくさんあった。でも、支援の組織が、組織が広がれば、大学全体として考えてくれるようになれば、簡単にできるようになることっていう、あるんで。その、支援室だけが障害学生支援の必要性とか、やらなきゃいけないっていうことを分かっている、では、多分、大学の中全体に理解は広まっていかないと思って。先生とか、職員とか、ま、学生とか、一人一人がその必要性とか、意味を理解してもらえる、ま、だいぶ理想ですけども、全員が理解してもらえれば、別に支援室がなくても。支援は。支援というか、障害を持ってる学生は、普通に講義に参加ができるようになる?まあ、テイクとかは必要だから、支援がゼロでやれるっていうわけではないけども。別に、例えば、その、車い、車いすの学生が困っていたら、普通に支援学生を派遣するとかじゃなくて、その近くにいる人が助けて、手伝えば、それでもいいわけですよね(A2:13-14)。 これらの語りから、支援コミュニティの役割や求められる内容も、大学との関係性によって変化していくことがわかる。 カテゴリー10【支援コミュニティの価値観拡大】 【支援コミュニティの価値観拡大】というカテゴリーは、持続的な活動を通して、支援に対する意識をコミュニティの外へ広げ、社会とのつながりを考えていくプロセスを示している。 これは、①[支援意識の裾野を広げる]、②[持続的な視点と取り組み・検証]、③[大学とのパートナー関係]という3つの概念で構成される。 概念39[支援意識の裾野を広げる] [支援意識の裾野を広げる]とは、支援に対する意識をコミュニティや学内へ広げることである。 現在、大学における障害学生支援は、障害学生支援室をはじめとする支援コミュニティの中心メンバーによって運営されている。しかし、実際には、こうしたコミュニティの外あるいは周辺にいる学生や教職員の意識が重要で、それらの人の中に合理的的配慮の意識が根付いていなければ、大学全体の差別解消は進められないだろう。このため、支援に対する意識を支援コミュニティの中だけで閉じてしまうのではなく、より広い範囲に広げていく機能が求められている。 ・時代は本当に変わっている。昔はそうやって、「友達だから支援しよう」とか、友達同士の支援ということに大学も委ねてやっていたと思うんですね。でも、今は、世の中的にも、きちんと整備して、学ぶ環境を整えてみたいになって、その流れもあり、こういう支援室というのが立ち上がったんですけれども、逆にそれが立ち上がったことによって、障害学生に対する支援はそこの部署がやればいいんじゃないかっていうような風潮になるのは、ちょっと怖いです。むしろ、なかったときに、見かけた人が助けてあげるというようなほうがよかったのかなあとも思います。でも、それには障害学生のエンパワメントもすごく必要で、自分から「助けてほしい」って求めなくちゃいけない。あと、周りの学生も、困っている人を見たら声を掛けなきゃっていうふうにならなきゃいけない。でも、いろんなことで世の中は忙しくなり、学生たちの状況を見ても、自分の授業を受けたり自分の生活だけでもいっぱいなのに、周りを見る余裕がない(A5:8)。 ・社会の流れの中で、ダイバーシティ・インクルージョンとか、多様性を受容していきましょうみたいなことは出ていて、大学自体も推進していきましょうって音頭は取ってるんだけども、大事なのは一人一人、学生、教職員、全ての構成員の一人一人のマインドというか、というところになってくると思うので、なので、うーんと、まあ、学生支援センターも、初年次教育といって、1年生の授業を使って、ぜひ障害学生支援活動でノートテイク、パソコンテイクに挑戦してみてくださいとか、ということをやってるんだけども、最後、落としどころとしては、支援活動とかボランティア活動っていうとこまで行かなくてもいいので、日々のところで、なんかお手伝いを必要としてるなと思う人がいたらば、「何か私で手伝うことありませんか」っていうことを、声を掛けてみましょうとか。うん、そういったところで、みんなが安心して生活しやすいキャンパスを目指していきましょうって、だから、落としどころにしているところがあります。  ?その理想的なところのアプロ―チをしていくという面では、障害のある学生にとっての困り感っていうのはそれぞれなんだけども、例えば、先生方にも配慮願という形で同じものを配ってるんだけども、その受け止め方が違ったりする場面があって、うん、先生方の中で、こう、推し量りながら、上手にその学生がその場所で安心して勉強できるかどうかっていうところに関しては、うん、何て言えばいいのかな。先生たちの……、うん、ねえ、そういう、推し量り力っていうふうにいつも僕は表現してるんだけども、そんなことが持てるようなところになれば、うん、いいのかなと思ってます。 前に、聴覚障害ではないんですけれども、あの、身体障害のね、学生のエレベーターの利用について、教員の勉強会っていうのをやったんですけれども、そのときにお願いしたのは、別に誰にでもできる支援ですよ、「エレベーター乗りますか」って車椅子の学生に声を掛けるとか、ボタンを押すとか、講義棟のドアを開けるとか、別に何の技術もなく、人として普通にできることがたくさんありますので、あの、それを学生にひひ伝えてほしいと。車椅子学生が授業に出てたら、「あ、誰かドア、開けてあげて」と一言言ってほしいと。 本当はもうそんなこと言わなくてもしてほしいんですけども、あの、先生の声掛けでだいぶ違うんですっていうお話はしたことがありまして、まあ、そういうことの積み重ねしかないのかなとは思いますけれども、何か、あの、特別な技術……、特別な技術を持った特別な活動をする人たちがボランティア団体ではなくて、別に誰でも気が付けばいいのかなっていうのを全体に広げたいなと。うん。先生方もできますし、別に、あの、先生方も自然に言っていただきたいと思ってます(A7:17)。 ・FDで実際にね、障害学生と、それから、あの、テイクに入っている学生さんが来て、で、あの、しゃべってもらったんだけども、まさに今言ったように、例えば、車椅子の学生さんが考える合理的配慮っていう部分があると、エレベーターに乗っていると、乗ろうとすると、うん、あの、みんながサッといなくなっちゃうんだって。で、私が求めている合理的配慮はそうじゃなくて、一緒に乗ってもらって、ボタンを押してっていうところを声を掛けてほしいんです、みたいなところだったりとか。うん。まあ、説得力があるというか、障害のある学生からそういったところを発信することによって、受け止め方が違うので、なんかこう支援室と学部との関係という面での一つのヒントを得たかなというふうに思ってます。 あとは、テイクに入っている支援学生なんかも、あの、雑談なんかもテイクしてますよとかいう話とか、あとは、先生方から、あの、パワーポイントだったらば、あの、えっと、細かい、じゃない、大きめのものをすって渡して、「これ、使ってくださいね」とか、「私のしゃべり方、大丈夫ですか」とか言われると、なんかすごくやる気が出てくるというところで、単なる授業の補助者じゃなくて、先生の重要なパートナーとしてテイカーさんがいるっていうことが受け止められたことが、すごく、何て言うのかな、あの、自分の気持ちとしてやる気が上がりました、みたいな話があったんで、うん、そういったところが一つの工夫かなと思ってますね(A7:17-18)。 ・支援、支援室はあるんですけど、やっぱりその支援室だけが全てを担うのではなくて、全ての大学の中にいる人、全ての人が、障害学生支援に関わってもらえるっていうような障害学生支援の在り方がいいなっていうのは、まあ、思うんですけど。そのために、1D研修とか、先生たちにも理解を広めるとかっていう活動もしていますし。まあ、うんと、学生だけがやるとか、支援室だけがやるとか、障害を持ってる学生だけが頑張るとかじゃなくて、お互いに、こう、支え合いながらというか、協力しながら支援をしていけるっていうのができればいいなとは思ってます(A2:14)。 ・もっと上のなんか理想で、障害者と障害じゃない人が何も分け隔てなく別に存在する社会というふうに見るんであれば、あの、リーダーが何かをやらなくても、個人の気持ちが成長すればいいのかなと。何て言うか、下から上げていくって、ボトムアップですかね。っていうやり方もあると私は思いますが(A6:15)。 ・私は何を求めて入ったかなって考えたんですけど、何ていうか、居場所として求めていなくて、じゃあ、どういう居場所に……運営学生としてどういう居場所になったらいいと思うかなって思ったときに、私は特支の学生じゃないからなおさらだと思うんですけど、特支の学生以外は、支援、特別な支援とかにあまり身近じゃないと思うんですね。だから、その入り口、考える入り口として機能して、居場所になればいいのかなって思いました(B1:7)。 一方で、支援コミュニティがあることで、障害学生が受験しようとした時にすぐに情報が入り合理的配慮を実施することができている面もある。あるコーディネーターは入学から卒業までの大学内での流れができてきたことを語っている。 ・支援室があって、その中でコーディネーターがいるっていうのを、やっぱり大学の他の人たちも知ってるので、例えば入試担当の人は、もしその障害のある受験生の情報が来たら、「ああ、じゃ、その支援室に渡せばいい」とか。あと、その、入る前から卒業するまでの流れみたいなものがこう、正式にできてきたなとは、うん(A2:7)。 このように、望ましい支援コミュニティを構築するプロセスでは、自ずと支援コミュニティに関わる人の意識や環境に働きかけいく必要があることがわかる。 概念40[半径100mの可視化と体感] [半径100mの可視化と体感]とは、普段生活していている社会を可視化し、どのような社会がよいか考えることである。 支援コミュニティでは、多様な立場の立場や関わりが生じることから、大学へ入学する以前は体験することのなかった間いや葛藤に直面することも多い。そのため、支援コミュニティの構成員は、支援コミュニティを一つの社会として捉え、どのような社会が望ましいのか一緒に考えていくことが求められるし、そうすることで構成員の成長に繋がると考えられていた。 ・他のサークルと同じような形で、A2さんがおっしゃったような形で、やっぱりこう、えっと、うん、手段としてはいろいろあるのかもしれないけども、目標としては、障害あり・なしにかかわらず、えっと、まあ、何て言うのかな、お互いに暮らしやすい社会をつくっていくっていうところの一つの、あの、いろんな、何て言うのかな、トレーニングをしていく場所っていうところもあるので、サークルとの違いというところに関して言うならば、大学としてやっていかなくちゃいけない部分のコミュニティを持続していくというところも担いつつ、彼ら・彼女たちには、あの、理想、まさに今日の、何と言うか、理想的な社会のコミュニティということも考えていってもらうというところなのかな。ごめんなさい、うまく表現できなくて(A7:21-22)。 このように、支援コミュニティには、多様なメンバーが関わる環境があり、ここでの経験が障害の有無に関わらずよりよい社会を作るための一歩としてとらえられる条件が整っていることがわかる。 概念41[持続的な視点と取り組み・検証] [持続的な視点と取り組み・検証]とは、持続的な取り組みより、これまでの実践を検証し、支援コミュニティに必要な次の一手を見出すことができる機能のことである。 支援コミュニティの活動においては、さまざまな変化に対応するとともに、時代に合わせて支援コミュニティの価値観を広げていくことが求められる。このため、持続的かつ継続的な視点を持ちつつ活動を行っていく必要があるとされていた。 ・障害学生支援の技術はもちろんのことだけれども、持続的な支援をしていくというところで、大人のマンパワーは必要じゃないかなと、僕は思ってます。うん。障害学生支援の技術はもちろんのことだけれども、僕の意見としては、時代は一歩進んだかなと思っていて、逆に、大学の支援室の役割が、学生間の状況を仲介することによって(A7:15)。 ・まあ、その、職員だからできることっていうのはやっぱりあって、学生だけだったらどうしても、それこそいろいろな別の組織とつながるとか、お金を使えるとか。続けられるとか。学生はどうしても4年間とかで卒業して入ってとかを繰り返すのを、結局、ここは10年間ずっとこう、積み重ねができたりとか(A1:7)。 ・継続、理想に近づくために継続することも大事だなとは思っていて、そのテイクのPRの活動もだけれども、教職員に対する研修会も毎年毎年支援室で企画している。初めのころは、まあ、参加する人も職員だけとか、少なかったけれども、毎年ずうっとやって。まあ、いろんな学生がいるっていうのもあるけれども、ずうっとやってることで、いろんな先生、職員、参加してくれるようになったし、昔に比べると、こう、障害に対して理解してくれる人も増えたなとは思うので、まあ、続けていくことも大事なことだなと……(A1:22)。 持続的な活動によって、あたりまえではなかった価値があたりまえとなっていくことがわかる。 ・なんか、これからのことを説明するのは本当に難しいんですけど。今までのことを、こう、振り返ったときには、まあやっぱりその、10年前に「ノートテイク」っていう言葉を言っただけで通じる人っていうのは限られていた。 それが今は、もう誰に言っても「ああ」って言う。基本的な知識はみんな持ってくれているっていうのは、なんか、うん。だいぶなんかすごいなと思うし(A3:21)。 これらの語りから、構成員による持続的な活動が支援コミュニティの価値観を広げていき、これが実際の大学あるいは社会に大きな変化をもたらしてきたことがわかる。 第5章 考察 本章では、「聴覚障害学生支援において、支援コミュニティを構成する一員が支援コミュニティを活性化していくプロセス」の調査結果を踏まえ、支援コミュニティを構成するコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生による支援コミュニティの活性化において、概念モデルをどのように考えるとよいのか、重要だと考えられる視点から考察していく。 第1節 本研究で得られた結果のまとめ 本研究を通して、聴覚障害学生支援組織における支援コミュニティの構成員(コーディネーター、聴覚障害学生、支援学生)の中で、支援コミュニティが活性化していくプロセスを説明する説明力のある概念モデルを示すことができた。 生成された概念モデルは、《支援コミュニティの成立》、《支援のための対話基盤》、《学生主体の成長システム》、《社会背景の反映と実現》の4つのコアカテゴリーがそれぞれ包摂される形となっている。 《支援コミュニティの成立》は、さまざまなきっかけを通して構成員が支援コミュニティと出会うとともに、情報保障の意義や役割を知り、コミュニティの目指すべき方向性が共有される様子を表している。同時に、自分がありのままに受け入れられる関係性の中で、支援コミュニティを居場所として感じ、構成員一人一人が支援コミュニティに愛着を持って活動を行う状態が必要とされていた。 《支援のための対話基盤》は、実際に授業で支援活動を行うための基盤となる部分で、聴覚障害学生のニーズに基づき、支援の方法を組み立てていくとともに、絶えずフィードバックを続けながら、よりよい支援を作っていくためのプロセスが示されている。同時に、障害の有無に関わらない「友達」としての関係性を基盤に、支援学生と聴覚障害学生が授業の場でのコミュニケ―ションや個々の力を合わせる機会を生かし互いに相互作用を深めることで、構成員一人一人の力が結びつき支援コミュニティの機能を発展させていくことになる。 《学生主体の成長システム》は、教育機関としての大学の機能が強く表出されている部分で、これまで「あたり前」とされてきた活動を見直したり、「できる」ことを発見していくことで、支援活動を通した構成員の成長が期待できる他、第3者からの評価を受けたり、成長していることを実感できる機会を得ることで、個々の成長ならびにコミュニティ全体の成長へと繋がる様子が示されている。 《社会背景の反映と実現》は、聴覚障害学生、支援学生、コーディネーターの3者によって作り上げられてきた支援コミュニティの価値観がコミュニティの外に広げられるプロセスを示したもので、キャンパス全体や社会とのつながりに意識を向け、長期的な視野と広い視点を持って活動を展開することで、大学組織全体に当事者意識を広げるとともに、支援コミュニティの活動が社会全体の考え方にも変化をもたらしていく可能性があることをも示している。 第2節 支援活動に照らし合わせた概念モデルの解釈 本節では、本研究の結果生成された概念モデルを、実際の支援現場に照らし合わせたときに見えてくる概念モデルの解釈について述べる。はじめに概念モデル全体によって示された支援コミュニティの形成発展プロセスを概観するとともに、概念モデルを参考に、実際の支援コミュニティにおける課題を発見する際の捉え方について考察する。加えて、システム構造に着目し、よりマクロな視点からコミュニティを見たときの広がりについても言及する。 概念モデルに見る支援コミュニティ形成発展プロセス 生成された概念モデルは、4コアカテゴリー、10カテゴリー、41概念によって構成された。 このうち、支援コミュニティの支援コミュニティたる所以を決定づける基盤となるのが2段階目の《支援のための対話基盤》であろう。すなわち、一人一人の聴覚障害学生や支援学生、コーディネーターが向き合い、対話を繰り返しながら、よりよい支援の提供に結び付けていくプロセスで、この機能なしには支援コミュニティは成立しないものと考えられる。このことは、障害学生支援を開始したばかりの大学で、ひとまず障害学生との対話機会を持ち、支援者を授業に配置するといった取り組みが行われていることからもわかる。これらは、《支援のための対話基盤》の一部の機能が生まれ、実装され始めた状態で、当面必要な支援が開始されるための第1歩と言えよう。 しかし、こうして開始された支援が、単なる「支援」にとどまらず、支援コミュニティへと形成・発展していく?程を考えると、その?程には、支援学生や聴覚障害学生をはじめとするコミュニティの構成員が、支援コミュニティに所属感を感じ、愛着をもって関わろうとするプロセスが求められる。大学における聴覚障害学生支援の中で、支援学生と聴覚障害学生の懇談会を設けたり、コーディネーターが関わりを持つ構成員の様子を見ながら声かけしたりするのはこのためで、こうした関わりにより〈隣人への関心〉や〈うなずきあえる関係と場〉のようなお互いの存在に触れて仲を深め合うプロセスが生まれ、これが本当の《支援コミュニティの成立》につながっていると考えられる。 そして、この《支援コミュニティの成立》が、先に芽生えた萌芽としての《支援のための対話基盤》の発展を支え、繰り返し行われるフィードバックに基づき、個々の学生のニーズに寄り添った支援が行える状態へと発展していくとともに、学生同士の関係性にも深まりが生まれてくることになるのだろう。 一方、こうして形成された支援コミュニティが、さらに充実していくためには、構成員自身が支援を通して「成長している」と実感できる機会が求められる。支援コミュニティの中で、時折、活動を振り返り、目指すべき方向性を共有したり、実践事例コンテストのような場で取り組みの報告を行うのもこのためで、〈前進が可視化される機会〉を持ったり、〈第三者からの賞賛〉を受ける機会を意識的に作っていくことで、コミュニティの構成員がアップデートされた意識を持って自律的に成長することのできる《学生主体の成長システム》が実装されていくことになる。 そして、これからの支援について考え、成長する支援コミュニティでは、情報保障に対する周囲の人の認識や授業における教員とのコミュニケーションなど、支援コミュニティの中だけでは解決できない間題に直面することになる。こうした間題を解決し、より広い視野で改善を図るため、支援コミュニティの外に目を向けるようになっていく。これにより周囲の学生や教職員、大学組織など、支援コミュニティが接する社会的な環境に対して働きかけを行っていくプロセスが生まれ、これが《社会背景の反映と実現》へつながっていくと考えられる。 実際の支援コミュニティにおける概念モデルの捉え方 今回の研究で生成された高等教育機関における聴覚障害学生支援コミュニティの形成と発展プロセスを示す概念モデルは4つのコアカテゴリーから形成されている。このコアカテゴリーは単純に下のカテゴリーから上のカテゴリーへ向かうプロセスを示しているではなく、それぞれのコアカテゴリーが相互的に関わりあう重層的なシステムになっていると考えられる。 というのも、概念モデルの中に示された4つのコアカテゴリーは、《支援コミュニティの成立》から順に、1つのコアカテゴリーが達成されてから次のコアカテゴリーに移るという性質のものではないと考えられるからである。図4-1の中では、この様子を、《支援コミュニティの成立》を中心とする楕円形の同心円によって示したが、この同心円の内側にあるコアカテゴリーほど支援コミュニティが形成発展していく上で核となるものであり、これが充実するほど外側のコアカテゴリーがより機能しやすくなる関係性にあると考えている。つまり《支援コミュニティの成立》が内包するカテゴリーや概念が充実し、機能しているほど、その外側にある《支援のための対話基盤》が円滑に働く。逆に、《社会背景の反映と実現》や《学生主体の成長システム》など、円の外側にあるコアカテゴリーが充実することで、内側のコアカテゴリーの発展が高まることもあるが、《支援コミュニティの成立》や《支援のための対話基盤》がまったくなされないのに、その外側だけが充実していくということは考えづらいと言えよう。 このため、大学の支援コミュニティにおいて、今後のコミュニティの発展の方向性を検討する際には、単純に現在の支援コミュニティがどの段階に位置付けられるのかを検討するのではなく、支援コミュニティが目指している状態像から逆算して、現在の支援コミュニティでは、どの概念やカテゴリーが達成されていないのかを検討することで、次の戦略を検討する参考にできると言えるだろう。 そして、このためには、概念モデルを一方向の流れではなく濃淡の視点で捉えることが重要となると考えられる。【支援コミュニティの理解と定着】において述べてきたように、大学の支援コミュニティは学生が流動的である特性がある。そのため同じ支援コミュニティのなかでも、時期によっては新入生の勧誘が活発に行われ、《支援コミュニティの成立》に必要な初心者講座や交流会が積極的に行われたり、それにより学生同士の議論が盛んになったりして《学生主体の成長システム》が活発に機能している状態が生じるだろう。そのため、概念モデル全体をそのときの状況に合わせてヒトマップのように濃淡をつけて見る必要があると考えられる。 一方、同じ時期の支援コミュニティでも、個々の学生に焦点をあてて見ると、この濃淡の状況が異なることも考えられるだろう。例えば、ある聴覚障害学生に着目するとあ個々にフォーカスした支援がよく機能しており、支援の充実にも繋がっているが、同じ時に別の聴覚障害学生に着目すると、十分な対話基盤が成立しておらず、カテゴリーの一部がうまく機能していないことが考えられる。こうした場合、それぞれの学生にとっての濃淡の差を見ることで、例えば後者の学生には〈うなずきあえる関係と場「が不足しているなど、間題の発見に繋げることができるかもしれない。同様にコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の3者それぞれの立場やそれにともなう考え方の相違や一致によって、概念やカテゴリーに対する解釈が異なる可能性があることに注意しなくてはならない。 このように、コアカテゴリーの枠組みを重層的に位置付け、それぞれの構成員に焦点をあてた相互的な関係を見ていくことで、支援コミュニティに所属する構成員(コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生)の状況や特性に応じたよりよい支援コミュニティのあり方を検討する一助となるものと考えている。 システム構造の発展 ここまで、本研究において構成してきた概念モデルの解釈について説明をしてきた。一方、今回作成した概念モデルは、コミュニティ・エンパワメントのシステム構造(安梅,2005)におけるミクロシステムに絞ったモデルである。 しかし安梅(同上)は、コミュニティをミクロシステムを一番小さな単位として、外側にメゾシステム(環境)、エクソシステム(利害関係者)、マクロシステム(社会背景)、クロノシステム(時間)などが存在することを指摘している。そのため、生成された概念モデルは、ミクロシステムを取り巻くその他のシステムを考慮に入れることで、さらなる広がりを持つと言える。 例えば、今回の研究では、ミクロシステムの構成員を聴覚障害学生、支援学生、コーディネーターのみに限定した。しかしながら、実際にはミクロシステムの中にも、こうしたコミュニティが抱える間題に一次的に対応する当事者のみでなく、コミュニティを黒子的な立場からサポ―トする存在も含まれていることに注意しなくてはならない(安梅,2005)。聴覚障害学生支援の場合、支援室の仕事を事務的な側面から支える大学職員や、支援室の担当教員、場合によっては地域の通訳者や大学の支援体制に助言を行う専門家などが考えられる。安梅(2005)は、こうした黒子的存在の役割を7つに定義しており、それぞれ環境を整えるファシリテーター、専門的な立場で協力するコンサルタント、効果を検討する評価者、コミュニティの既存の資源を結びつけるシステム・オーガナイザー、コミュニティへの啓発を行う教育者、新しい方法や展開を提案する参与型研究者と位置付けている。ここから、支援コミュニティをそばで支える大学職員や、障害学生支援室の部長や課長、室長などは、ファシリテーターの役割を担っていると考えられるだろうし、大学全体の方針を定める学長や理事なども、時にファシリテーターとして、また日常的には評価者として機能しているものと考えられる。また、授業を担当する教員の中でも、積極的に支援に携わり、参与型研究者としてさまざまな知見をもたらしてくれる存在があるだろうし、場合によっては他大学のコーディネーターや、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークをはじめとした大学外の資源もコンサルタントとして取り込むことも可能になると言える。 一方、ミクロシステムを一段上から取り巻くメゾシステムは、ミクロシステムに直接影響を与える環境に関する要素である。これには物理的な環境や、地域の条件、制度、経済的環境など様な要素を含んでいる。例えば、大学における聴覚障害学生支援の場合、単純に障害学生支援室のような支援コミュニティの拠点が、キャンパス内のどこにあるのか、どんな環境の中に置かれているのかといったことが支援コミュニティの形成発展に大いに影響してくることだろう。多くの学生や教職員が立ち寄りやすい場所にあれば、それだけ活動の広がりが期待できるだろうし、活動を行うために十分なスペスは確保されているか、支援室自体が明るい開かれた空間にあるかといった物理的条件も影響は大きいものと考えられる。また、キャンパスが置かれた環境や大学の特性なども、障害学生支援に大いに影響を与える要因になり得るだろう。キャンパスが複数にまたがっている大学では、相互に連携ができる半面、支援者が分散してしまって必要なキャンパスに必要な数の支援者が集まりづらいなど、長所・短所が現れるものと考えられるし、理系学部が多いキャンパスと、文系学部が多いキャンパスでも学生の質や支援への興味の度合い、空き時間の量など、状況が変わり、これによって求められる支援コミュニティの性格は大きく変わってくると考えられる。 このほか、一段上から包摂するエクソシステムは、間接的にミクロシステムに影響を与える利害関係者を表している。聴覚障害学生支援の場合、支援コミュニティに所属していない友人や、同じ学科の知人などが含まれるだろうし、支援に深くかかわっているわけではない学科の教職員なども重要な存在と言える。 さらに、日本においては、学生の手による支援活動が行われているが、アメリカでは専門の手話通訳者や文字通訳者が職員として支援の中心を担っている。こうした、国や地域を含む社会的背景の違いなどは、マクロシステムによって説明され、障害者差別消法の制定により、大きく時代背景が変化した流れなどは、クロノシステムによって説明が可能になるものと考えられる。 このように今回ミクロシステム内で生成された概念モデルは、今後、さらに大きなシステム構造を取り入れ、精緻化していくことにより、より広い視点で、様々な立場の人を包含するモデルになり得るものと考えている。 これらシステム構造の広がりと、考えられる対象について図1に示す。 (図5-1)支援コミュニティを取り巻くシステム構造 (図) 第6章 結論 本章では、考察から導かれる結論と最終的に生成された概念モデルを提示するとともに、最後に本研究の意義と限界、今後の課題について述べる。 第1節 結論 本節では、考察で見出された「聴覚障害学生支援において、システム構造のなかに位置付けられる支援コミュニティで構成員である3者がそれぞれのカテゴリーの中で相互に作用することで活性化する支援モデル」を提言する。 3者の軽重 考察において、概念やカテゴリーの定義の解釈はコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生や個々によって異なり、概念モデルをヒトマップのように濃淡で見ていくことが必要であると述べた。つまり、支援コミュニティが活性化していく概念モデルを応用して行く際は、概念やカテゴリー、コアカテゴリーをコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生それぞれがどのように捉えるかを意識した上で活用する必要がある。そのため、生成される支援モデルでは概念カテゴリー、コアカテゴリーごとにコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の視点が加味されるとともに、システム構造の広がりを意識してどのような影馨が与えられているか考えていかなければならない。 以下、調査結果を踏まえた支援の概念モデルを提示する。下位のコアカテゴリーは上位のコアカテゴリーによって内包され、支援コミュニティの状態によって活性化するプロセスのどこが欠けているか見ることが可能となる。 ①3者による支援コミュニティの成立 3者による支援コミュニティの成立は、コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生によって支援コミュニティが形作られる段階である。支援コミュニティの価値観を共有し、構成員の所属意識が高められる機能が働くことによって、それぞれにあったコミュニティヘの参加が行われる。 ②3者による支援のための対話基盤 支援コミュニティの構成員が共有する聴覚障害学生支援という活動の軸を達成するための条件がこのコアカテゴリーで整備される。対話の基盤が整えられることで、よりよい支援活動や支援コミュニティの発展の基盤が整えられる。支援コミュニティの中で授業の場や学生同士の障害に関わらない関係など対話を元にしたコミュニケ―ションが非常に重要な中核となっていた。 ③3者によって形成される学生主体の成長システム 支援の条件が整えられると、教育機関としての面が強調され学生を中心とした構成員の成長やコミュニティのあり方を考える段階となる。ここでは、客観性を軸として外部の視点や変化を取り込んで成長していく段階となっていた。コーディネーターは学生の考えを促進し、考えさせる視点での取り組みを行っている。 ④3者による社会背景の反映と実現 構成員が自らの活動や支援コミュニティを見直す中で、自ずと社会とのつながりを意識するようになる。支援コミュニティに所属していない学生や教職員との関係によって、より広い範囲で支援コミュニティの価値観やあり方を考え協力していくことが考えられる。 これらを含む支援コミュニティの活性化のプロセスを含んだ概念モデルを、図6-1に示す。 (図) 第2節 研究の意義と限界 本節では本研究の意義と限界について、調査対象者と研究内容、研究結果ごとに示す。 研究対象に関する意義と限界 本研究の対象は聴覚障害学生支援組織においてコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生による支援コミュニティの形成と発展プロセスであり、概念モデルを適用できる対象者は限定されている。特に研究する領域を聴覚障害学生支援組織としたため、聴覚障害以外の視覚障害や発達障害のある学生については言及していない。またコーディネーターと支援学生、聴覚障害学生の3者を支援コミュニティの構成員という1つのまとまりとして扱ったため、教職員や大学職員などに当てはまる概念モデルとなっていない。 しかし、これまで支援コミュニティの中に所属する支援学生や聴覚障害学生個々に対する断片的な支援しか語られていなかった現状に対して、支援コミュニティの構成員全体を包括的に捉え、コミュニティが発展していく概念モデルを提示できた点は意義があると考える。支援コミュニティという着眼点を通した支援を行っていく必要性を示すことができた。 研究方法の限界 本研究では分析方法としてM-GTA法を選択したため、方法論的限定によって限界がある。つまり「聴覚障害学生支援領域」という実践現場の限定と、「コーディネーター、支援学生、聴覚障害学生」という構成員の限定という条件のもとでのみ説明力があるものとなる。 また、インタビューのデータの収集時には、支援コミュニティを有し、かつその中で聴覚障害学生、支援学生、コーディネーターの3者による活発な活動が行われている大学から、対象者を選定し、20人にインタビューを行った。インタビューデータから分析を行った結果、主要な概念のワークシートが生成され、論理的に想定される概念の可能性(木下,2007)がある程度検討できたため追加データの収集は行わなかったが、各大学の支援コミュニティの実態はさまざまであり、追加のデータを収集することで、さらに異なる概念が生成されることも考えられた。特に本研究では、調査対象を教育や福祉を中心とした文系の大学としたため、理系学部を中心とする大学や医科大学、薬科大学などの単科大学、あるいは短期大学などの形態の異なる大学については、対象に含まれていない。これらの大学では、学生数や学生の質、授業時間数等の面で今回対象となった大学とは異なる側面を有しており、適する支援の形も異なってくる可能性があるだろう。 しかし、M-GTAによって生成された概念モデルはモデルの正否を間うものではなく、実践者(支援コミュニティの構成員)が置かれている状況に合わせて応用・修正しながら活用していく枠組みとも言えるものである。このため、今回の対象者による語りから示した概念モデルについても、多様な聴覚障害学生支援の現場で一定の参考になる指標となり得るのだろうと考えている。 時代の変化や支援に対する見方の違いによる限界 前項でも述べた通り、本研究では、現時点で活発な支援活動を行っている支援コミュニティの構成員を対象に調査を行った。しかし、学生の質は年々変化しているものであり、これにともないコミュニティのあり方も変化していくものと考えられるだろう。本研究の結果でも、《つっかえ棒としての大人の存在》や《柔軟な参加形式》など、多様な学生がいることを踏まえたモデルが構成されているが、今後、学生の気質が変化し、自主的にコミュニティを形成する機運が生まれてこないような環境になってくると、支援コミュニティの存在をベースとした支援のあり方についても間われることになるかもしれない。 実際、現在でも聴覚障害学生支援を進めるうえで、必ずしもこうした支援コミュニティは必要ではなく、制度として淡々と支援が行われていることの方が重要であるとの見方もある。また、アメリカのように専門職として手話通訳者・文字通訳者が雇用されるようになると、学生による支援自体が必要とされない可能性もあるだろう。このような形態の支援では、本研究の結果として構成した概念モデルを応用することは困難であり、別のアプロ―チが必要となると考える。 第3節 まとめ 近年障害者差別解消法とそれに伴うさまざまな動でによって、聴覚障害学生支援の現場でも変化が見られる。障害学生の支援が法に基づいた大学の義務として行われるようになり、個人の取り組みによって支援活動が行われ始めた比べ大きく進歩している現状がある。しかし、このような状況だからこそ、今一度支援活動のあり方を考えなくてはならない時期となっている。 本研究では聴覚障害学生支援に関わる3者によって構成される場を支援コミュニティとして捉え、支援コミュニティが構成員の手によって発展していくプロセスを概念モデルとして提示した。これによって、コミュニティの活性化による支援活動を発展させていく視点を明らかにした。しかし、生成した概念モデルが実践の場で応用可能なものであるか実証されていない。今後は、生成した概念モデルが実践者にとってアレンジ可能なものであるかどうか実証するとともに、より多様な支援コミュニティのデータに基づいた概念モデルの生成が求められると考える。 文献リスト 1.赤畑淳(2014)聴覚障害と精神障害を併せ持つ人への支援の概念モデルの構築―支援につける複合的交互作用現象―.ルーテル学院研究紀要, No.48.425-431. 2.安梅勅江(2005)コミュニティ・エンパワメントの技法当事者主体の新しいシステムづくり.医歯出版株式会社 3.有海順子(2013)聴覚障害学生に対するパソコン要約筆記の特徴に関する研究: 大学の授業場面・支援者・当事者の要因から.筑波大学(University of Tsukuba) 4.石野麻衣子・白澤麻弓・中島亜紀子・磯田恭子・萩原彩子・五十嵐依子・小林洋子(2016)聴覚障害学生に対するエンパワメントプログラムの検討―エンパワメント研修会成果 報告―.筑波技術大学テクノレポート,23(2), 81-87. 5.木下康仁(2007)ライブ広義M-GTA実践的質的研究法修正版グラウンデッド・セオリー・アプロ―チのすべて.弘文堂 6.小林優子・永井美帆・田原敬(2017)大学における聴覚障害学生への情報保障に関する課題. 上越教育大学研究紀要, 第36巻, 第2号, 7.松岡克尚(2014)〈動向〉大学における障害学生支援のあり方と合理的配慮の考え方:障害者権利条約と障害者差別解消法を受けて. 関西学院大学人権研究, 18, 27-31. 8.文部科学省(2012)障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ).文部科学省ホームページ.〔https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/12/1329295.htm〕(最終検索日:2019年1月10日) 9.文部科学省(2017)障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ). 文部科学省ホームページ. 〔https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/074/gaiyou/1384405.htm〕(最終検索日:2019年1月10日) 10.内閣府(2016)平成28年度版障害者白書(概要)第2章障害者権利条約批准後の動き.内閣府ホームページ〔https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h28hakusho/gaiyou/h02.html〕(最終検索日:2020年2月13日) 11.日本学生支援機構(2009)聴覚障害学生支援の実践事例集-聴覚障害学生支援研究会 報告書-.独立行政法人日本学生支援機構学生生活部特別支援課 12.日本学生支援機構(2013)平成25年度(2013年度)大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書. 〔https://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/chosa/2013.html〕(最終検索日:2019年1月7日) 13.日本学生支援機構(2018)平成30年度(2018年度)大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書. 〔https://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/chosa/2018.html〕(最終検索日:2019年1月7日) 14.日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)平成25・26年度モデル事例構築事業合同企画ワーキンググループ(2015)学生同士がつながる支援コミュニティづくり―支援学生の「主体性」を引で出すマネジメント― 15.日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)(2017)聴覚障害学生の意志表明支援のために―合理的配慮につなげる支援のあり方― 16.日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)(2018)第14回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム報告書 17.白澤麻弓(2016)全国的な動向を踏まえた間題提起第54回日本特殊教育学会自主シンポジウム「我が国における障害学生支援の現状と課題(1)」当日資料. 18.杉中拓央, 土井 幸輝, 畠山 卓朗(2011)高等教育において聴覚障害学生が抱える具体的困難の抽出.日本生活支援工学会誌,11(1),26-33. 19.杉中拓央,土井 幸輝,畠山 卓朗(2012)高等教育機関に在籍する聴覚障害学生に対する支援の一考察.電子情報通信学会技術研究報告. ET, 教育工学, 111(394),31-34. 巻末資料 M-GTA 分析ワークシート ワークシート1 (表) 概念名 初期衝動の受け皿 定義 なにかをしたいと支援コミュニティに入った時に、受け皿となりできることを示すことでつかんで離さない機能 ヴァリエーション ・ボランティア登録者が300人ぐらいいるんだけれども、支援者として、マンパワーとしてのコミュニティを考えると、多分、何か自分ができるということを思ってボランティア登録をしてもらったので、何かこう自己実現ができるような、目に見えるような形をつくっていくっていうところが大事かなと思います(A7:18)。 ・支援を始めたきっかけは、入学ガイダンスのときにパソコンテイクをやってるのを見て、「ああ、いいな」と思って、始めました。聴覚に障害がある学生も同じ空間に普通に聞いてるのがいいなと思って。ま、自分もやれたらいいなと思って(B6:2)。 ・例えば、聴覚障害学生が直接働きかけるというの一年生の4月のときに初めの講義で自己紹介、オリエンテーションのときに自己紹介をする。自分は支援が必要ですということを言葉にして、支援してくださる学生を集めるということはあります。または、学生スタッフが開いてる、マッチング会とか交流会の中で支援学生と交流を深めて支援に対する考え方の意見交換をしたりとか自分のていくに入ってもらうなどの活動はあります(C2:2)。 理論的メモ ・コミュニティに入った時に、つかんで離さない機能 ・入学してなにかしたい、自分にはなにか出来ると考えている学生に対して、支援コミュニティでできることなどのビジョンを示すことによって、初期衝動の受け皿、きっかけをつくり支援コミュニティへはいりたいと考えるようになる? ・3者によって受け止め方が異なり、支援コミュニティが形成発展して行く上で初期の段階の機能となるのではないか。 ワークシート2 概念名 隣人への関心 定義 コミュニティを構成するメンバーに対して、その人を知りたい気持ちがある ヴァリエーション ・私は、ここの職に就いて初めて障害のある人と関わりを持ちました。深く。で、私はもともと事務職員なので、コーディネートっていう業務ではなく、本当に事務的なことと思っていたんですが、やっぱり、やっていく中で、その人を知らないことには支援が始まらない。本当に手話とかもできなくて、やっと、ここ最近、こう、覚えたい、お話ししたいっていうところから、覚えようと思って、使い始めています。やっぱり心を開いてくれないと始まらないよねと(A5:7)。 ・障害とか障害がないとかじゃなくて、人間として、なんかお互いを知りたいなというほうがすごく大事で、昔、大学②にはこういう障がい学生支援室はなかったんですよね。でも、ずっともっと前から、障害のある人はいつも入学をしていました。私もここの大学の出身なので、そういう人がいるのも見てはいました。見たけど何かしたわけではないし、でもまあ、「困ってそうだったら助けてあげるよ」っていう気持ちは一応あって、でも、どういう、どうにかしてみんなちゃんと勉強して、卒業していっていたようでした。……というような、他人ごとのように見てたんですけれども(A5:7)。 ・利用学生に、パソコンテイクをすることがどんなに大変かを体験してもらう(笑)。やっぱり、そういう、聞こえないっていっても、例えば、「補聴器を付ければ聞こえるんだよね」とか、「聞こえ方っていうのも人それぞれ違うんだよ」というのも、ちょっと理解できました、とか。私たちの聞こえとは少し違う(A5:10)。 ・障害がある、ある人と、あ、関わりがあるか、ないかで、なんか、これやったほうがいいかなとか。そういうことを考えるきっかけっていうのがない、ないっていうか、できないっていうか、考え付かないっていうか、あるんじゃ。なんか、私は、えっと、ここ、大学に入るまでは福祉の勉強をやってこなかったんで、大学に入って、そういう、人がいることも知らなかったし、大学に障害を持っている人もいることも知らなかったし、関わってみて、やっぱ、なんか考え方も変わってきているので(B4:8)。 ・自分のコースに、えと、聴覚障害のある人が2人いて、ま、日常的にその人……、まあ、その子と会話する上で、まあ、手話を覚えたりとか、あとは話し方に気を付けたりとかっていうことを心掛けるようになったっていうのは、すごい大きな変化だったかなっていうふうに思っていて。ま、高校まででは、その、聴覚障害のある人と話したこととかがなかったので、それで、まあ、大学に入って、こう、まあ、新たな1年というか、ま、手話を覚えたこともそうだし、テイクをやるようになったこともそうだし、すごい大きな変化があったかなっていうふうには、自分では思います(B8:3)。 ・はじめ指文字で。あの、それ、最初の話とちょっと矛盾してるんですけれど、あの、その、さっき言ってた、このA1さんと同じ学年の子が、えっと、自動車学校のバスに乗ってるときに、あの、「お疲れ」と、あと名前、指文字でやるっていうことをしたら、すごく、あの、笑ってくれて……。すごく(B9:4)。 ・聴覚障害の人のイーメジが暗いっていうか、なんか、うーん、障害あるから。みたいなイメージがあったんですけど、ま、その先輩、聴覚障害の先輩が話聞いたりするときに、うーん……。なんか、いろんなところに、なんか、遊びに行ってる。で、「そういうのなんか楽しそうだなあ」と思って。「なんか、私も一緒に行きたいなあ」とか、そういうの、なんて思って。で、なんか、そっから話したいなと思って。なんか、「視野が広がるかなあ」と思ったんで(B7:5)。 ・僕は、最初、口話とか筆談が多くて。で、それで、自分が手話を覚え始めて、少しずつなんか使い始めたら、なんかすごいお互い話しやすかったっていうか……。っていうのがあって。あ、その、聴覚障害の学生本人が手話を基本コミュニケ―ションにしてたので、「あ、自分がもう手話を覚えたら、もう普通に話ができるんだ」っていうのにそこで、や、やっと気付けたっていうのがあって(B6:7)。 理論的メモ ・その人を知るとはどういうことなのか? ・手話ができる聴覚障害学生が心をひらいていくれるためには、コーディネーターも手話で話ができなければならないのだろうか? ・その場合し手話の力はどの程度必要となるのか? ・コーディネーターだけでなく、支援学生も手話ができたほうがよいのだろうか? ・その人を知らないと支援がはじまらないとはどういうことだろうか? ・コミュニティの一員である一人の聴覚障害学生 ・聴覚障害学生が心を開くとは具体的にはどのような状態なのだろうか?手話や筆談などし聴覚障害学生が一番やりやすい方法でコミュニケーションができ雑談など気軽にやりとりができること? ・障害があるなし以前にお互いのことを知りたいという気持ちが大切。支援コミュニティではなくただのコミュニティとして人と人のつながりとしてとらえたとき、 ・その人がそこにいて存在していて、生きていていろんなことを考えている一人の人間であり、知りたいと思うことが根本にあるのだろうか? ・人に対する関心、好奇心、知りたいと願う気持ちが望ましい支援、コミュニティで支援の始まりとなる? ・障害の疑似体験が支援学生に与える影響とはどのようなものだろうか? ・利用学生がパソコンテイクを体験することで支援コミュニティにどのような影響があるのだろう? ・相互理解?想像力の拡張?望ましい支援コミュニティに至るためには、お互いの立場を経験することが重要なのだろうか? ・またコーディネーター自身もし聴覚障害学生の疑似体験し支援学生のパソコンテイクを経験することが大切と考えられるだろうか? ・自分の聞こえとは違うことを実感することで、テイクに対する意識に影響があるのだろうか? ワークシート3 概念名 活動への肌触り感 定義 支援に対して実際に関与し成長している肌触り感がある ヴァリエーション ・私も自分がこの学生のときに、例えば、やっぱり聞こえない学生と実際に会う、会うとか、会って話すとか、なんかこう意識が通じるとか、なんかこう間題を一緒に解決できたと、なんかそんないろいろ、自分が動いて解決した喜びとか、なんか自分が動いてできたこととかって、なんかその経験するっていうことがすごくなんうれしかったので、なにかちょっとそういう経験を、ぜひ今の学生にも提供したいなって、あって(A3:15)。 ・1年生の4月に、か、テイク活動始めたときは、テイクだけの関係、そんな普段から会うような感じではなかったんですけど、1年生の10月くらいに、その、テイクをやるサークルの運営スタッフみたいなのを一緒にやらないかっていうのに誘われてから、と、交流が増えてったんですけど。 で、最初は、その、まだ手話とかも分かんなくて、口話とか、筆談とかで話してたんですけど、その、大学①さんと交流会をやったときでに、大学①さんは全員が手話が使えてるのにびっくりして。私たち大学②はなんか全然分かんないみたいな。先輩1人、健聴の先輩が1人くらいしか手話できる人がいなくて、「あー、これ、すごいっていうかちょっとびっくり、環境が全然違うんだな」っていうのにびっくりして、自分はなんか手話をやってみようかなっていうのは、ありました(B6:3)。 ・一年間で最初のときはていくというのは全部書いてもらうのかと思っていた。でも限界もあるので、限界に合わせてどういう方法が良いのかなと、講義の先生によっては、わかりやすい先生とわかりにくい先生でいろんな差があった。どうやったらやりやすいのかということで悩んでいました。でも、夏休みが終わって、秋、後期の講義がはじまって、前期に一緒にテイクを受けていた同期とか先輩と話すような感じになった。お互いに悩みがあるときはそれについて話し合ったりとかどういう方法だったらいいのかとかどういうところが一番大事なのかについて話しったりしたのでそこで変化があったなと思います(C1:6)。 ・テイカーが支援室に来て、なんか悩みごとを言って。それに対しての解決策は私たちが持っている。これを出せば簡単にもう悩みは多分消せるっていうの、分かるけど、まずはその、「言ってみな」という声掛けをしたりとかは。考える経験とか、悩む経験とか、一緒にこう、話し合う経験とかっていうのは、させたいなとは。失敗させる経験とか。 単純なとこで言うと、その聞こえない学生とのコミュニケ―ション方法が分からなくて、どうやって、なんか、話しかけていいのか悪いのかも分かんないとか、どうやって、なんかこう、コミュニケーションすればいいのか分かんないとかって、言うから、「じゃ、ちょっとまず」、その、なんだろ、「会ってみなよ」とか。その。会っていいっていう、なんか、誰かに後押ししてほしいっていうのを言ったりとか、この会う場を、支援室を、こう、「使っていいよ」って言ってあげて。もしその二人だけで、あの、困ったときには、まあ、部屋の中にはいるので。まあ、なにかあったら、すぐに助けがもらえるとか(A3:16)。 理論的メモ ・学生自身が支援コミュニティのなかでなにかを成し遂げることが大切なのだろうか? ・支援コミュニティのなかで学生がいきいきと活動できるためにはなにが必要なのだろうか? ・活動に対して参加している実感や新しい体験をしていることなどが影響しているのだろうか。 ・これも初期の段階に信頼関係や支援コミュニティへの所属意識などに影響しているのだろうか。 ワークシート4 概念名 聴覚障害学生の存在 定義 大学内に支援が必要な聴覚障害学生が存在する ヴァリエーション ・大学で障がい学生支援室が立ち上がったのが、2006年でした。当初は、聴覚障害の学生が多くおりましたので、そこの情報保障という支援がメインでした。他には、車椅子を利用する学生ですとか、あとは弱視だったりとか、身体の障害の学生の大学生活の環境を整えるということで一緒に考えながらやってでました(A5:1)。 理論的メモ ・学生自身が支援コミュニティのなかでなにかを成し遂げることが大切なのだろうか? ・支援コミュニティのなかで学生がいきいきと活動できるためにはなにが必要なのだろうか? ・聴覚障害学生の存在が、支援コミュニティの形成発展維持の鍵となっている可能性。前提条件となっているのだろうか? ワークシート5 概念名 障害学生のコミュニティ 定義 聴覚障害学生が継続的に入学していることによる継続的な支援の実施 ヴァリエーション ・聴覚障害学生はしこの大学は一応、継続して常に入学があるので、聴覚障害学生に対する支援というのは、一応ずっと続いていると。10年以上(A5:2)。 ・多分、学生の数が増えてきているんで、前と比べると、聞こえるテイカーの数もだし、聞こえない学生の数もだし、毎年10人前後ぐらいは聞こえない学生がいるので、まあ、テイクを利用する学生と利用しない学生も、まあ、合わせてですけれど、10人ぐらいいる(A2:10)。 理論的メモ ・望ましい支援コミュニティのためには4年間の内一人でも聴覚障害学生が、在籍していたほうが良いのか? ・障害学生が一人もいない場合、支援室のコーディネーターはどうなってしまうのか? ・障害学生が一人もいない場合、それまでの支援学生はどうなってしまうのか? ・継続的な支援の実施が聴覚障害に対する知識などにも影響していることが考えられる。 ワークシート6 概念名 聴覚障害の知識・情報保障の知識 定義 支援に必要となる聴覚障害者と情報保障についての知識の習得 ヴァリエーション ・私は、もともと知的障害者の施設で支援員をしておりました。なので、聴覚障害の方と関わる機会がほとんどなくて、ここに勤務してから、要約筆記ですとか、あとは手話ですとか、えっと、聴覚障害の方についての勉強をするようになりました。まだまだ分からないことがたくさんあるので、学生さんに教わりながら仕事をしております(A5:1)。 ・専門的な知識は必要だし、うーん、方法とか、いろいろ知っている場所が支援室であって、それを、うん……。 やるのは、うーん、当たり前っていう感じです。専門的な知識がなくてもやれることもあるし、えーと……。支援室の、その障害のある、学生のことを理解している場所が増えれば増えるほどいい、学生にとっては生活しやすい場所になるのかな、とは思います(A2:15)。 ・私のコースにいる2人の聴覚障害学生は手話が使えなくて、今年の4月から一緒に覚えてるみたいな感じなので、逆に、なんだろう……。その、手話だと通じないっていうか、まあ、こっちが知ってても あっちが単語を知らないとかだったら通じないから、なんか、その、聴覚障害があっても手話を使えない学生もいるから、まあ覚えておいたほうがいいに越したことはないけど、なんか、なんだろう、それだけに頼るのも難しいかなっていうか。まあ、そういう感じですかね……(B8:4)。 ・私は今までろう学校にしか通っていない、大学に入って、自分の障害を改めて説明しないといけない。という面ではろう学校では体験できない、ろう学校には手話があるから説明する必要も配慮をして貰う必要もあまりない。ですけど、大学に入って、自分と違うということでどうしたらコミュニケ―ションが取れるか、どうしたら情報を得られるのかということを考えて説明するという経験をできたのは自分の中で相手の中での聴覚障害に対する考え方に影響があるのかなと思います(C1:3)。 ・障害について説明する、私は逆にずっと健聴の学校に通っていたので、自分の障害に関して聞かれたことがあっても、あまり深く言われないので、補聴器をなんでつけているのと言われたことはあっても、その時私は眼鏡と一緒みたいな言い方をしていたので。大学に入ってからいろいろな聴力レベルの人がたくさんいる中で、どれくらい聞こえているかと聞かれたときは一番説明が難しいと思う(C2:4)。 理論的メモ ・聴覚障害についての知識をどこで学ぶのか? ・聴覚障害者と関わる機会が人生のどこにあるのかはコーディネーターが望ましい支援コミュニティの構成していくプロセスに関係があるのか? ・聴覚障害者のコミュニケ―ション方法や情報保障の方法について知る ・聴覚障害学生の立場から見ると、自分の障害について新たに気づく視点が考えられる。うなずき合える友達との関係の中でなど試行錯誤している様子がある。 ワークシート7 概念名 情報保障の意義把握 定義 情報保障の前提条件、聴覚障害学生が平等に教育を受けることができるようにするという意義を把握する ヴァリエーション ・望ましい生涯学習支援ということに焦点を当てるんだったら、やっぱり障害学生さんが、あの、平等に学べるっていうのがもちろん一番あるので、それができてなければいけないとはもちろん思うんですけれども、まあ、そのために、今、学生だけでできないんだったら、職員の手が必要っていうことになってますけれども(A6:15)。 ・大学の中にいる、聴覚障害だけじゃなくて、全ての障害のある学生に対して、あの、講義を、障害のない学生と同じように受けられるように支援をするっていうことをしています(A2:2)。 ・私は支援はいらないと思っていたが、大学の教室は広い。人も多いので聞こえにくいということに気づいて、一年生の後期からテイクをうけることになった。初めはテイクを受けることが、抵抗があった。受けるようになってからは自分が聞き取れないことはたくさんあるしそれをテイカーさんに聞いたら教えてくれることが嬉しいことだと気づいた。でもテイカーさんや支援センターにいる人に助けてもらって、それは仲良くなれてよかったと思う(C1:7)。 理論的メモ ・聴覚障害学生支援については、障害学生がすべての学生と同じく平等に学ぶことが出来るという前提条件・意義の把握が必要なのだろうか? ・情報保障を知ることで支援コミュニティに対する見方や考え方に対してい影響している可能性。 これも前提としてコアになる概念だろう。 ワークシート8 概念名 つっかえ棒としての大人の存在 定義 いざというときは大人がいることによる活動や関わりへの安心感がある ヴァリエーション ・発達障害や精神障害の学生もいますので、ぶつかってしまうこともありますし、けんかになったり傷つけたりするっていうこともあるんですけれど、あの、大人がいる場所ということで、多分、安心しているっていうのはあると思いますので、本当につらかったら言ってきますし、はい。言ってこなくても、様子を見ていてそろそろ出ようかなみたいな感じで声を掛けたりはしますね。なので、外の世界ではもしかしたらうまくやれないところを、少しこの大人の見守る場所で成長してもらいたいなと考えています(A6:11)。 ・他のサークルにも、障害学生はいるので、あの、状態としては似たような感じだとは思うんですけれども、まあ、生川さんが言っているように、大人がいる守られた環境ですので、障害学生支援のコミュニティは、まあ、困ったらそこへ行けばいいし、そこの中では失敗してもいい場所?障害学生のほうから見ると、そうなんじゃないかなと思っています。まあ、大人の目があるっていうのが大きな違いですかね(A6:21)。 ・単純なとこで言うと、その聞こえない学生とのコミュニケーション方法が分からなくて、どうやって、なんか、話しかけていいのか悪いのかも分かんないとか、どうやって、なんかこう、コミュニケーションすればいいのか分かんないとかって、言うから、「じゃ、ちょっとまず」、その、なんだろ、「会ってみなよ」とか。その。会っていいっていう、なんか、誰かに後押ししてほしいっていうのを言ったりとか、この会う場を、支援室を、こう、「使っていいよ」って言ってあげて。もしその二人だけで、あの、困ったときには、まあ、部屋の中にはいるので。まあ、なにかあったら、すぐに助けがもらえるとか(A3:16-17)。 ・支援センターにいる職員さんはすごく色々話すようになりました。悩み相談とかいろいろです。親に言ってもわかってもらえないことがあって、それを支援センターにいる職員さんに言ってみると安心するようになったのでいうようになりました(C1:6)。 ・いろんな形があると思うんですけど、うん……職員さんなのか、教員なのか、リーダーシップをとって、障害学生支援に関わるそれぞれの人たちをうまく調整していけるような人が必要なのかなと思います。やっぱり職員になると、教員には言いにくいとか、そういうこともあるかもしれないし、何かもっと上の職員さんとかには言いにくいとかがあるかもしれないので、立場というよりは、大事にされる……何だろう、意見を聞いてもらえる、専門職として頼ってもらえるような職員になれたらいいのかなと思っています(B3:6)。 理論的メモ ・大人がいるコミュニティの安心感があるのだろうか? ・大人がいるってどういうことだろうか?人生経験豊富な大人がいるから相談できる。なにか間題が起こった時に相談できる?同世代に相談しにくいことを相談できる?障害学生やし支援学生に直接言いにくいことを相談できる?大学という組織に対する窓口としての存在?間題を解決してくれるという安心感?漠然とした不安を吐で出せる?最後のストッパーとしての存在感?なにか起こったとしても最後には大人がどうにかしてくれるだろうという安心感?コミュニティの基盤?コミュニティの門?コミュニティのつっかえ棒?いざというときの用心棒のような存在?コミュニティの潤滑油? ・学生から考えた時、職員がいることによって大学や教員対外的な交渉間題が起きたときなどいざという時は頼ることができるという気持ちが生じるのだるか? ・いることが大事であり、話をすることで支援コミュニティの維持に繋がっている様子。 ワークシート9 概念名 うなずき合える関係と場 定義 大学生活についてただ話をしてうなずきあえる環境と場がある ヴァリエーション ・私たちと、大人、職員と信頼関係をつくれるようには気は配ってますね。まあ、声掛けですとか、気付いたことを話し合ったりはしているので、なので、多分、そこ、そこから学生のほうに安心感が生まれ、自分が出し、出せて、失敗もすると、けんかもするというコミュニティになっているんだと思います(A6:22)。 ・自分が落ち込んだこと、悩みを私に話してくれたときなんかに少しずつ、あなたが何に役に立っているかという話をしたり(A6:11)。 ・気兼ねなく、友達とまでいくのはちょっと人それぞれあると思うので、ちょっとした時間に、こうした方がいいかなみたいなふうにやりとりできる気軽さがあったらいいなと思いました(B2:3)。 ・より良い大学生活をするには、っていうのを、利用学生もだし、サポ―トする周りの学生も発信してほしい……。 でも、そのために、……何だろう。「そう思ってるのって自分だけかな」って、「なかなか口に、これを出していいのかな」っていう思いがあると思うんです。「そう思ってるのは自分だけかな、変かな、変って言われるかな」。でも、多分、今の、みんな、今の子たちって、普通であろう、一般的多数派であろうという子が多い。でも、その中で、「自分はこう思うけど」というのを、声を出せる場っていうのが、ここの障がい学生サポートチーム。それで、「自分も実はそう思ってたんだ」って言って、「なんだ」という感じで、みんなの意見で大学にお願いするとか。そういうふうに学生たちが何でも言える場をつくるのが、私たち職員の役目と思ってるんです(A5:15)。 ・まあ、うーんと、学生だけがやるとか、支援室だけがやるとか、障害を持ってる学生だけが頑張るとかじゃなくて、お互いに、こう、支え合いながらというか、協力しながら支援をしていけるっていうのができればいいなとは思ってます。何でもいい、その、うーんと、理想だとか深い悩みだけとかじゃなくて、日常的に顔を合わせる機会とか、普通の日常生活に、たわいのない、なんでもない、普通の話を、世間話をするみたいな関係が作れるといいなとは、うん。それができてると、まあ、例えば実習のときどうしようかなって悩んだときに普段から、ね、会っていればすぐに聞けるけれども、ないから、なんか、「先輩に聞くといいよ」って言っても聞いてないとか(A2:14)。 ・UDトークという音声を文字にするスマホのアプリがあるんですけど、それを使って、必要だったかどうかは分からないんですけど、それを使ってテイカーと利用学生で話すという形だったんですけど、その、それぞれが不安を話して、「それは利用学生はどうなの?」というふうで、こうですって答えてもらうという形で、結構みんな不安に思って、ちゃんと考えているんだなというのも分かったし、利用学生もこう考えているんだなっていうのが分かって、良かったと思いました(B1:12)。 ・職員さんが間に入って、聴覚障害学生と支援学生の間で調整とかもあると思うんですけど、それよりは、それぞれが関係をつくれるようになることが大事じゃないかなって思います。関係をつくるためには、信頼?とかもあると思うので、やっぱり、会ったりとか、話すっていうことが大事になると思います。交流会とか、その……、友達だったら、普段から会える機会もあったり、自分から声掛けとかもできると思うんですけど、支援学生とかちし生となると、なんか、言いにくいっていう意見もまだあるので、話ができる機会をつくることが必要じゃないかなって(B5:9)。 ・テイク活動っていうのは、支援をする、ま、サークルか団体なんですけど、うーん、困ったこととか、悩みとかが、一番、言える雰囲気っていうのが大事かなって思ってて。それが、うーんと、障害学生だけでなくて、ま、コーディネーターさんとか、テイカーさんとかも、お互いに、何がよくて何がなのか、言えるような雰囲気。なんか、うーん、聴覚学生を支援するサークルっていうイメージがあるんですけど、その、なんか、全員が言えるような雰囲気を作るために、うーん、自分から声掛け、「どう?」とか。やっぱ日常会話って大事だと思ってて。あの、ま、仕事とかじゃないですけど、その、やってる、テイクしてるとき、授業中とかのときに、ま、言いづらいこともたくさんあるので、そのときに、なんか、友達のような関係であれば、日常会話とかしてて。言いやすくなるのかなって思います。だから、あの、サークルだけの関係じゃなくて、支援室に行ったときとか、その、すれ違うときに「お疲れ」とか、「よ」みたいなことを言えればいいのかなって思います(B7:16)。 ・私の場合は支援について考えるようになって、自分のために、自分の支援のためには何をしたらいいのかというのを考える。それの一番はやっぱり支援学生の負担を軽くすること、が一番。支援学生がやりやすい方法でやることで情報を多く、情報を提供していただけるというのが、私の中ではあるんです。先生に対してこの配慮をお願いしたい。パワーポイントがあるときはそのスライドの資料をもらうとか、ビデオに字幕を付けてくださいとか話すときはできるだけスクリーン(?)を見て話すスピードを調節してくださいとか、声にしたりするんですけど先生によってはこれはできないとかいう先生もいます。なのでそんな先生がいると、あーっ!となってそれを支援センターの人にあの先生おかしいです!みたいに愚痴を話して(C2:8)。 ・具体的じゃないんですけど、それぞれいろんな立場の人たちが、それぞれで自分の理想の障害学生支援コミュニティは何かということを考えながら、支援活動というか、支援のつ仕事をすることかなとか、難しいんですけど、rん……やっぱりいろんな人と話をすると、それぞれで何か思っていることは言うんですけど、それが何かあんまり普段の仕事の中からは見えてこないとか、仕事というか、聴覚障害学生も、「思っていることはあるけど、言わない」とか、まあ、職員さんも「大丈夫かな?」と見守ってくれてはいるけど、実際に、じゃあ、どうやって仕事の連携とかをしたらいいかとかは話ができなかったりとかして、まあ、支援学生のみんなも何かそれぞれ思っていることはあるかもしれないけど、なかなか大きい研修会の場所じゃないと話ができなかったりとかするので、考えながら、あの、その支援のコミュニティーとしての動きをしつつ、それを何かお互いに交流しながらというか、みんなで一緒に考えながらやることが大事なのかなとか(B3:4)。 理論的メモ ・うなずき合える関係が障害学生支援の基盤となっているのではないだろうか。 ・自分の思いを伝えることに対して不安があると、なかなかお互いの立場による遠慮や思いを伝え合うことが難しいことがうかがえる。 ・悩みをなんでも話せるなど、雑談や日常会話が重要であると考えていることが多く見られた。これは支援コミュニティの中で多様な存在がいることによる、コミュニケ―ションの重要性が語られている。 ・信頼できる大人や、支援コミュニティに対する印象や考え方など支援活動がうまく行くかどうかはここにかかっているのではないかと考えられる。 ワークシート10 概念名 行けば話せる拠点の存在 定義 支援コミュニティの構成員の活動の軸となる行けば会える拠点がある ヴァリエーション ・私が採用されたときにも部屋はなかったんです。あの、「仮」の部屋で、仕事はしていて。なので、学生としてはどこに行けば相談ができるのかみたいなのが、あまりよく分からない状態だったと思うんですけど、その後、平成21年にここに部屋が正式に立ち上がって、そこからは、相談に行く場所っていうのとか、集まって活動が、する場所みたいなのが明確になって。活動の幅は広がったんじゃないかなとは思うし、分かりやすくなったのかなとは思います(A1:21)。 ・先生が来るとか、学生が来る、相談に来るっていうときも、どこに行けばいいのか、どこに相談すればいいのかっていうのが、ここに行けばいいっていうのが分かるようになったって意味では、少し広がったきっかけかなっていうふうには思います(A1:21)。 ・1回すごい困ったということがあって、そのときには、たまたまオフィスに行ったら運営学生の人がいて、相談できたのは良かったと思います(B1:10)。 ・支援センターへ入りやすい人と、入りにくい人がいるらしくて。あの、交流会とかの機会があれば、あの、知ってる人も増えて、そういう支援センターとかにも行きやすくなるのかなって。仲のいい人が集中していて、で、そこと、多分、知ってる人がその中にいれば行きやすくて、声掛けもできると思うんですけど、やっぱしここで集まっている人が知らなかったら、なんか、行きにくくなるので(B5:6)。 ・今も、同じスタッフで活動している先輩とは話すことができるんですけど、ボランティアでやってくださる先輩はあまり話さないです。ほぼ毎日支援センターで会うしいろいろと話す機会が多いというのが、多いのが一番かなと思います(C3:7)。 理論的メモ ・支援室のような場としての機能があることによって、構成員の活動や困りごとが生じた際の基盤としての機能となっているのではないか。 ・どの大学も支援室を当たり前のように活用している様子がうかがえた。 ・学生が支援室へ足を向けるシステムがある大学では距離感が近くなっているのではないだろうか。 ・支援コミュニティという場を象徴する存在となっている。 ・物理的に足を運ぶことができる場としての機能。促進する働き。 ワークシート11 概念名 支えを求める自分の肯定 定義 助けを必要としている自分をありのまま表明していいと感じられる安心感がある ヴァリエーション ・うん。何て言うか、今のままの自分でもいていいっていう安心感がまずないと。あの、学生の質が想像していただいているものと違うのかなという気もするんです。かもしれないんですけれども。今の学生のスタッフ、コアのメンバーというのも、非常に弱い子が多いので。はい。で、何か助けを必要として支援をしようとしている子のほうが多いので、はい、少しニュアンスが変わってしまって申し訳ないですけど、まず自分を出せること。その子たちが(A6:20)。 理論的メモ ・助けを必要として支援をしようとしているとはどういうことだろうか?自分では気づいていないけど誰かの助けを必要としている?無意識なものなのかもしれないし意識的なものかもしれない。誰かを助けることを通して自分も助けられたいと考えている?誰かを助けること自体が自身を助けることにつながっていると無意識のうちに考えている?障害学生を支援するというコミュニティの特徴にひかれた?助けることで助けられるし助けられることで助ける?助けることで安心感を得たい?誰かを助けている自分に助けられている?助けを必要としている自分、つまり助けを必要としているありのままの自分がいていいいと感じられる安心感があることが望ましい支援コミュニティを構成する要素としてあるのだろうか? ・今のままの自分でいていいという安心感とはどういうことだろうか?本音で話せること?違う自分になりたいと考えていないこと?今の自分を肯定できること?受け入れること?自らのアイデンティティが確立していること? ・当事者研究での松崎先生がおっしゃっていた「弱さの公開」につながる概念と考えられる ・過去から積み重ねてきたもの全体に対する工程 ・支援に対する意識が支援活動や対話に影響する。 ワークシート12 概念名 居場所としての安心感 定義 支援コミュニティの中でたくさんの経験をありのままでできる安心感がある ヴァリエーション ・学生のモチベーションを上げるためとか、支援活動を活性化するためには、それは有効だと思うんですけれども、本当の目指しているところはそれじゃないので、そんなものは別に要らないと思いますし、うん、あの、お友達ができてよかったなぐらいの、私も役に立てたし、あの人からも何かもらったって思えて卒業すればいいかなと私は思っているので(A6:19)。 ・それが、なので、自分を出せるとか、居場所ということにもつながってますけど、そこでちょっと人間関係とか、社会に出る前の練習をして、失敗でもしといてもらえばいいかなと思ってます(A6:19)。 ・支援されてるっていうよりかは、なんか、なんだろう、安心感をもらえる感じかなっていうふうに私は思っていて。なんだろう、こう、その、テイクとかも初めてだから、4月とか、なんか緊張して、「できるのかな?」とかって思ったりしたことあったんですけど、ま、支援室に行ったら優しく迎えてくれたりとか、そういう安心できる環境があるってことは、その、支援学生、ま、テイクする側の学生としてもうれしいし。その、なんか、優しい温かい環境があるから、まあ、「続けよう」って思うし、みたいな効果はあるかなっていうふうに思います(B8:10)。 ・毎回支援室に行くことによって、コーディネーターさんも話し掛けてくださるんですよ。その、パソコンとか、なんか、忙しいときでも、入ってきたら、支援室に入ったら、「こんにちは」とか「お疲れさま」とか言ってくださって。それを毎回してくださるので、それで、なんか、「優しいなあ」とか思ったりとか。あと、行きやすい。支援室に行きやすいなって思いますね。 テイクって授業中だけのつながりなので、顔とか分からない人とかも多くて、だから、そのときに、なんか、テイク、ちょっとなんかやりづらいなって思ったりとかする人もいるので、それをなるべくそういう気持ちにならないために話す、話し掛けてくださるっていうのは、うーん……。うーん、なんか安心もあるなって思います(B7:10)。 ・もしコーディネーターさんがすごい怖い人だったら、絶対「もう行きたくない」って思うと思うんですけど、その安心感とか、その優しさとかがあると、ま、行きたいって思うし、その、悩みがあったら相談しようって思うし。なんか、具体的に何かにつながったとかっていうのはちょっと思い付かないんですけど、その環境があることで、普段こう、毎週テイクに参加できてたのかなっていうふうには思います(B8:11)。 ・入学前に支援センターの人と集まって話をするときがあったんですけど、その時に自分の居場所とか悩みを話せる場所がなかったので、話せる人がいるのが支援センターにいる人だったのでそこなら職員もいるので職員の人といろいろ話や相談をしてました(C3:7)。 理論的メモ ・ありのままでいられる場所 ・ありのままの自分でいることができ、そのままの自分が行動して安心して失敗できるのが望ましい支援コミュニティなのだろうか。 ・過去ではなくいまに焦点を当てていろいろな経験をして失敗してもいい雰囲気があるということ。過去の自分を肯定できていたとしても、いま失敗することが怖いということも考えられる ・安心感というキーワード ・安心感の種類が間題 ・安心感が支援活動のコアとなりスムーズな対話や石表明支援などに繋がっているのではないか。 ワークシート13 概念名 柔軟な参加様式 定義 支援コミュニティに対してさまざまな参加方法を受け入れる雰囲気がある(それぞれの意思や考え方にあわせた支援コミュニティへの関わり方が出来る) ヴァリエーション ・うーん……。まあ、自分が活動してきたときに、いろんなやりたいって思うことをたくさんやってきたけども、今、学生見てると、なんというか、テイクの活動だけで終わったりとか、なんというか、「やらされている感」たいな人も中にはいたりもする?うん。「ボランティアだからやってます」みたいなところもあったりするかなっていうところで(A1:15-16)。 ・5月、うーんと、まあ、4月の早い段階に交流会を開いたりとかしていて、それは他の大学でも多分やれていることだと思うんですね。特に1年生とかは結構いっぱい参加してもらって、2年生以降はね、参加者が減っていくんだけども、それは多分、自分のサークルとか他の居場所があるから、まあ、あの、参加率が下がってきたりすると思うんだけども(A7:19)。 ・何て言ったらいいかな。利用学生というだけで、ほぼ自動的に運営の手伝いをさせられているんじゃないかなって思うときはあって、「それはいいんだろうか?」と思うことはあります(B1:2)。 ・なんか、その、スタッフ、学生スタッフとして関わってる人は、みんな仲が良くて、話もしやすい感じになってるんですけど、あのー、スタッフじゃない人とか、普通にボランティアとして支援をしているっていう人になると、支援だけの関係になっているっていう、まあ、話題になって……、スタッフの中でもそういう話題になってるので、そういう人たちも一緒になって、機会とか、会をつくるっていうことが、これからは大事になると思います(B5:9)。 ・障害のある学生みんなが、例えば手話サークルは入らないとっていうわけではなくて、あの、その人自身がやりたいこととか考えを優先させるべきと思っていて。 その場のノリとか雰囲気が少しそこに絶対に合わせるっていう必要はないし、そこが苦手って思ったら大丈夫なので、もっともっと丁寧なケアが必要だからこそ、こうやって、あの、話し合う場もあるから、あの、それで、本当にサークルで仲間を作りたいって思っている聴覚障害のある学生は、絶対にその意思を尊重しないといけないし、だからこそ、この、この聴覚障害のある学生と支援者の学生と、あと職員スタッフの連携は、その丁寧なケアのために、つながることは必要だと思います(B9:21)。 理論的メモ ・いろいろな立場の学生を内包したシステムをつくる、 ・それぞれの学生にとって理想的なコミュニティの関わり方ができるために必要な条件を考える ・今の学生の質に合わせたコミュニティというのをどういうふうに捉えていったらいいのか ・「やらされてる感」は望ましい支援コミュニティにとってよくないこと? ・コーディネーターと学生の間のギャップが存在しているということだろうか? ・支援活動をしていても、支援コミュニティへの所属意識はない、またはうすい学生もいる。こうした学生に対して望ましい支援コミュニティではどのような機能・要素を持っているのだろうか? ・コミュニティに対する参加意識の間題 ・参加意識の強弱がコミュニティそのものに対する意識の強さとなっているのか。 ・様々な参加の仕方を認識し認める必要性が考えがられる。 ワークシート14 概念名 お互いのコンディション共有の場 定義 コミュニティの状態や間題を共有できる場を設定する ヴァリエーション ・利用学生も含めて。そのスタッフが一緒にミーティングを行っている。で、私たちももちろん含まれているんですけど、そこで、その、テイクの派遣の調整をしたりですとか、あとは、サポ―トしている学生さんの意見を利用学生さんに伝えたりですとか、利用学生さんから、サポ―トしている学生さんに伝える、意見を伝えるとかという。利用学生さんが利用しやすい環境をつくることが大事だと思っているので、利用学生さんにも参加していただいて、意見を言ってもらっている(A4:4)。 ・テイクをする前に、顔合わせみたいなのを、あって、誰がどこに入るかっていうのを会って確認するときに、ゲームとかも一緒にやって楽しんだりとか、その、テイ……、前期が終わったぐらいに、後期の講義も決まるので、そのときに、前期お疲れさまということと、後期も頑張ろうっていうので、そのときもゲームとか、なんか、お菓子とか食べながら、みたいな交流会です(B5:4)。 ・自分は、「こういう方法で支援したらいいんじゃないか」とか、利用学生、聴覚障害学生と話したりとかして、「こういう方がいいんじゃないかな」とか思っているけど、他の人がどう考えているか、どういう方法で支援をしているのかというのは、自分がいない所ではどういうものになっているか分からなかったし、うーん、何か、あんまり情報が入ってこなかったりとかしたから、どんな感じがいいとかをもっと自分の中で考えたいなって思ったのと、他の人とそういう話をしたいなと思ったのと(B3:1)。 ・運営学生として利用学生さん、聴覚障害学生と関わるときにしていることは、まずは、会ったときには普段のテイク、テイカーの関わり、どう……支援者とどんな感じで関わっていくかということを聞くようにはしています。 やっぱり運営学生になっても、それぞれのテイカーに「こんな感じで支援をしてください」ということとか、練習会で育てることはできるけれども、実際、現場でどんな感じになっているのかとか、悩みを抱えたまんま、あんまり支援学生と聴覚障害学生が関われていないときに、このテイカーの様子を見ていると「うーん」と思う……思っているかもしれないけど、それを言えていない場合は、やっぱりそれを聞きたいなとは思っていて、それをまずは聞くようにしています(B1:2)。 ・なんか、支援室の人、すごい優しくて、温かい人が多くて。なので、それで、なんかこう、いつも会うときに「うれしいな」とか。あとは、その、テイク終わった後に感想を言って、なんか、1個、ビデオを見る授業があったんですけど、それに字幕が付いてなくて、「今日のテイクは大変でした」みたいなのを言うと、「じゃあ、後で先生に言っときますね」とか言ってくれたりして。まあ、そういう大変なときは、なんか、言ったら、多分行動してくれるかなっていう感じです(B8:9)。 ・私は、会って、こんにちはとかお早うございますとか、今日テイクよろしくおねがいします。紙とペンとかも直接渡すときにきちんと言葉もつけて有難うございますとか、また同時テイクのときは、先生の話し方はどうですか?わかりやすいですかとか、書きづらいという点は大丈夫ですかとか、あの先生、早いと思うんだけどどう?と、声かけるように意識します(C2:9)。 ・大事だなって思うことは、連絡とかをきちんとこう、三者でうまく取れればいいのかなと思っていて。と、今この大学こではその連絡手段がきちんと確立されてると思うんですけど、なんかこう、テイカーが病気になって、そのテイクに入れませんっていうときは、ほかの代理テイカーさんを、そう、探せるようなメールのシステムとかがあるので、その代理をしっかり探して、ま、代わったら、その、聴覚障害学生にメールで伝えてみたいな連絡手段が確立しているので、まあ、なんだろう、その、突然病気で休んじゃってテイカーさんが来ないみたいなこともないと思うし、それが、まあ、なんだろう、確率されてなか、なかったら、逆にこう、うまくその三者の関係が成り立たないのかなと思ってて。この連絡は、しっかりやったほうがいいし、ま、なんだろう、大学①では確率されてるから、これを続けていったほうがいいかなっていうふうに思います(B8:17)。 ・ボランティア学生も多いものですから、どこで誰が何をしているかが毎日は把握できていませんが、あの、ボランティア学生がボランティアをしっぱなしではなくて、どこかで認めていく。あの、褒めるでもお礼を言うでも、ちょっとした声掛けだけなんですけれども、モチベーションを保ってもらいたいというのが一つと、あとは、テイクだったら聴覚障害学生との間がうまくいっているのか、言えないことはないかっていうのを……。聞き取ったりとか、そういうことはしてますね(A6:18)。 ・聴覚障害学生支援の学生がいますけど、えっと、それぞれの授業でやってもらっていて、普段はばらばらなんですけれども、学生スタッフが企画する交流会に参加してもらったり、あの、テイクの練習会をやったりとか、そういうこと、ときに集まって、あの、みんなで活動するっていうのが、今は、やってることですね。それ以外はばらばらですので、テイクをしている教室に私たちが行って声を掛けたりという、個人個人の働で掛けになってます(A6:18)。 ・その子その子のそのときの状況っていうのを把握していたいなと思います。例えば、その日、「おはよう」と声を交わしたときに、「あれ?元気がないな」とか、「ご飯食べてきた?」とか、「今日はどんなスケジュールなの?」とか、「バイトし始めたの?」とか、その辺のお話も雑談の中で聞いて、その子の状況をなるべく知っておいて、例えばサポ―トなんかするときも負担にならないようにとか、そういうことはさりげなく配慮してます(A5:3)。 ・それこそ昔は、1日1人だけで、例えば私が今日仕事をしたら、その内容を明日担当する人のために、こう、書いておいていって、で、また来たら読んで、みたいな方法の引き継ぎだったんです。で、学生にしてみたら毎日支援室は開いてるので、まあ、いつ来てもいいんだけども、なんか、情報の共有というのが、働いてる側からすると、すごく大変。うん。というか、工夫が必要だった(A2:9)。 理論的メモ ・ミーティングは週に一回 ・学生同士はどのような情報を共有しているのか? ・ミーティングの進行方向や、議題の設定はどのようになっているのか? ・ミーティングで話し合った内容は他の学生に共有されるのか?されるとしたらどのような方法か? ・ミーティングでの情報保障の方法は?誰が担当するのか?仕事としてするのか? ・スタッフの学生はどのようになるのか?選ばれるのか? ・ミーティングに参加しない学生の疎外感はあるのだろうか? ・ミーティングに参加しない学生の意見などをすいあげる仕組みはあるのか? ・ミーティングで言いにくい内容はどうするのか? ・ミーティングを通して支援コミュニティの状態を把握できるのだろうか。週一回のミーティングにしている効果や意味は? ・お互いの情報やニーズを共有するとともに、共有できる場が重要であり求められているのではないかと考えられる。 ワークシート15 概念名 内包された知恵の学習 定義 支援コミュニティに蓄積された聴覚障害学生支援の方法や文化を学ぶ姿勢 ヴァリエーション ・私は、もともと知的障害者の施設で支援員をしておりました。なので、聴覚障害の方と関わる機会がほとんどなくて、ここに勤務してから、要約筆記ですとか、あとは手話ですとか、えっと、聴覚障害の方についての勉強をするようになりました。まだまだ分からないことがたくさんあるので、学生さんに教わりながら仕事をしております(A4:2)。 ・障害に関しては、ここに来て初めて、こう、学生たちと一緒に対応する中でいろいろ覚えながらやっています(A4:1)。 ・もともとこの情報保障の会を立ち上げたときにも、いずれ大学が公的に支援をしてくれるようになるだろう、なってほしいから、そのときに、ここでその技術を磨いて、いろんなその経験を積んでおいたら「大学がやります」って言ってくれたときには「はい」ってできるように活動してきたんだけれども、やっぱりその、そうやって立ち上げるときの、なんていうか理由とかその流れとかをもう卒業していくので、学生はそれ、要するに後に残された学生は、全部は分からないまま活動するので、何で、自分たちが頑張ってきたのに、今まで大学は何もやってくれなかったのに突然「やる」って言われるみたいな。なんかそういう誤解が生じてっていう面もあって、で、私が採用されたときにも、やっぱり学生としては面白くない、「今まで自分たちが頑張ってきた」っていう自負もあるから、面白くないっていう面もあったと思うので、その辺りをどういうふうに、まあ、コーディネーターとして何をやるのか、学生としては何をやるのかっていうのを、どう役割を分担するのかっていう相談をしながらやっていって(A1:7)。 ・マニュアルみたいなのがあるわけじゃないんですけど、なんか、2月、3月くらいになったら、そろそろ新入生が来るからみたいな感じで打ち合わせとかをして、で、それによって、聴覚障害を持つ人がいるんだったら、そのテイクが要るか、要らないか。で、要るんだったら、その、どこに誰が入るかみたいな。普通というか当たり前になってる(B4:8)。 理論的メモ ・コーディネーターのほうが、聴覚障害学生や支援学生より支援に関する経験が少ない時期がある ・経験年数に限らず、学生から学ぶ姿勢は必要だろうか? ・コーディネーターの経験年数と望ましい支援コミュニティの構築は関係があるのか? ・学生から何を教わるのだろうか? ・学生から教わることができないこととは? ・学生から教わるとは学生がなにを考えているか、学生のことを知ることにつながっているのでは? ・それぞれの支援コミュニティの方法が実践されること。 ワークシート16 概念名 支援のフィードバック 定義 行った支援に対して振り返りを行い、聴覚障害学生と支援学生それぞれに対するサポ―トへ役立てる ヴァリエーション ・サポ―トをしなければいけない授業、サポ―ト派遣が多過ぎて、そこに関わるサポ―ト学生の状況とかを把握するために、一生懸命そっちをしてたらば、本人、利用する本人のお話っていうところ、希望だったりとか、そこが少し漏れてしまったっていうことがありました(A5:3)。 ・私たちが、こう、派遣をしなくてはいけないということに必死だったために、実際、派遣した後のその授業の状況、利用学生もきちんとした支援を受けられているのか、サポーターもきちんと支援をしているのか、その支援がその需要に合ったものだったのか、というものをきちんと確認することがちょっと漏れたような気がします(A5:3)。 理論的メモ ・支援をしたら終わりではなくフィードバックが必要であると考えられる。 ・コーディネーターの視点が強い。やりっぱなしではいけないことがわかる。 ワークシート17 概念名 授業の場でのコミュニケ―ション 定義 授業の場で学生同士がやりとりすることで情報保障の改善を担う ヴァリエーション ・利用学生と支援学生が授業の場で確認し合えばいいんですけれども、そういう関係性もない。ただ、「支援をした、支援を利用する」という関係だけに終わってしまっていたり、そこの部分をつなぐっていうのもコーディネーターの役目であるなということを感じますね(A5:3)。 ・多分、学生の数が増えてきているんで、前と比べると、聞こえるテイカーの数もだし、聞こえない学生の数もだし、毎年10人前後ぐらいは聞こえない学生がいるので、まあ、テイクを利用する学生と利用しない学生も、まあ、合わせてですけれど、10人ぐらいいるから、テイカーとしては、その10人の中の誰のテイクを担当するかで、会ったことのない、やっぱり大学生も出てくるし。それでテイカーの数も増えているので、「初めまして」って言って、テイクを一緒にやってっていう状態もあるんで、やっぱりその中で利用学生と、テイカーとか、お互いに自分と話すっていうまでの時間が結構必要なのかもしれないですけど、なかなか講義の前と後、終わった後と始まる前の10分・10分のその休憩だけで仲良くなるとかっていうところまでが難しかったりして。フォロー、素直に思ったことを言うっていうことに難しさを感じてしまったり、遠慮してしまうっていうことが起きてるのかもしれないです(B:10)。 ・講義のあととかで、「先生、こういうことを言ってたよ」っていうのは紙に書いたり、パソコンで、パソコンテイクをやっているパソコンでそのまま送ったりします(B4:3)。 ・いつもテイクに入るんですけど、なんか、やっぱ早い、しゃべるのが早い教授とかだと、すごい下手くそになっちゃうときがあって。そういうときに、なんか、どう思ってるか、なんだろ、「聴覚障害学生がどう思ってるかな?」とか、「ちゃんと伝わってるのかな?」っていうときが結構あって。そういうときは、なんか、「申し訳ないな」って思ったりとか、あ、もう少しレベル上げたら、自分のレベルが上が、上げられたらいいのかなというふうには思うんですけど。なんだろう、それを直接聞く機会もないので、どう思ってるのかを聞ける機会とかあったらいいんですけど。  多分、聴覚障害学生のほうも、多分私たちがやってるから、なんだろう、そういう要望とか言いにくいだろうし。その要望を、まあ、私は全然いつでも言ってもらっていいと思うんですけど、そういうのは言いにくいのかなって思うので、なんか要望とかがあったら言える環境があればいいかなっていうふうには思います(B8:12)。 ・私のテイクに入ってくれる方は同時テイクの方が多い。その講義を受けている学生で、受けながら私のテイクをしていただいているので。私のテイクをしてくれながら、自分もわからないところを確認して、その後にお互いにわからないところ勉強し合ったりそういう支援。またそれ以外にも、担当の先生の配慮についても支援学生と話して、いってみようかと一緒に声をかけたりとか配慮をお願いしたりしているのでその面では、一年生のときはすごく遠慮していたのでそのテイクをその場で受けているだけの感じだったのが、今はもう配慮をしてもらえない状況で私もテイカーも困るそのつながりから働きかけていくという考えが芽生えてきた(C2:5)。 理論的メモ ・授業の場で学生同士が情報共有できないのはなぜなのか? ・望ましいコミュニティではよりよい情報保障のため、支援学生と聴覚障害学生の現場(講義の場)でのやりとりやフィードバックが必要なのだろうか? ・やりとりというよりそれ以前、やりとりの必要性を認識しているかどうか。 ・または聴覚障害学生が支援を受けいているのに細かいことを言うのは申し訳ないという心理なのか? ・または支援学生の、大丈夫かどうか聞きたいが手話がわからない、どうやって聞いたらよいかわからないという思いから? ・または必要性を感じていない?アルバイト感覚であること?先生の話を文字にできている分、それ以上の工夫や試行錯誤の余地があるとはまったく考えてもいない? ・聴覚障害学生が支援学生にその場でいうという発想がない?言ってもよいという感覚がない、または少ないのだろうか? ・それまでの教育歴や、情報保障を受けてきた経験などから、主体は講義を受けている聴覚障害学生であることを意識できていないことも考えられるか? ・そうなると、そもそもの情報保障を受ける以前の意思表明支援が必要になるプロセスがあるのだろうか?(PEPNet-Japan) ・学生は友達となってコミュニケ―ションを行っている傾向がある。 ・授業は講義実習など様々な携帯を含むので、それぞれの場合も考えなくてはならない。 ワークシート18 概念名 継続したインタラクティブな関係性 定義 支援に対する意見を伝えやすく引き出していける環境と仕組みの構築 ヴァリエーション ・授業が、前期か後期の授業が終わった後に、「実は情報がもう少し欲しかったです」とか、「この方法じゃないほうがよかった」とかという意見を聞くことがあったので。うん、事前にもう少し聞けるような環境がつくれればよかったなと思っています(A4:3)。 理論的メモ ・授業期間中でも支援学生や聴覚障害学生が、支援の改善に繋げられる機会が大事なのだろうか? ・支援学生も聴覚障害学生も、改善が必要だと感じていても、具体的にどのような改善が必要なのか言語化できるとは限らないのではないか? ・となると、コーディネーターの側から支援の状態を把握し、学生の授業の状態や改善点を引き出すはたらきかけが大切となる? ・そのためには定期的に学生とあえる機会がまず前提となるのではないか。 ・学生だけなく聴覚障害学生がうけている授業の担当教員からも情報を得ることができる可能性も ・聴覚障害学生は教員から発せられる元の情報量を把握することができないため、コーディネーターの注意が必要となりうるのか? ・支援学生のテイクの技術的な状態などは、コーディネーターが把握する必要がある? ・学生がテイク中に感じたことをメモしてコーディネーターのみに共有できるような仕組みがあると良い? ・聴覚障害学生が授業のコマが全て終わったあとに、改善点をコーディネーターに伝えた理由とは?機会がなかった?忙しそうだった?これ以上言うことに対する申し訳のなさ? ・そうであったなら学生が「支援に対する改善点」を伝えることは支援コミュニティ・聴覚障害学生支援についてなによりもの重大事であることを認識している状態なら、何をおいてもコーディネーターにそのことを伝え、改善を行うことができたのだろうか? ワークシート19 概念名 個々の状態に合わせた支援のあり方 定義 個々の学生の状況把握による、個々の学生に合わせた支援を行う ヴァリエーション ・その子その子のそのときの状況っていうのを把握していたいなと思います。その日、「おはよう」と声を交わしたときに、「あれ?元気がないな」とか、「ご飯食べてきた?」とか、「今日はどんなスケジュールなの?」とか、「バイトし始めたの?」とか、その辺のお話も雑談の中で聞いて、その子の状況をなるべく知っておいて、例えばサポ―トなんかするときも負担にならないようにとか、そういうことはさりげなく配慮してます(A5:2)。 ・支援学生にも配慮しながら。サポ―トを受けている学生だけでなく、支援している学生にも配慮しながら。そうですね。共に学べる環境をつくるっていうことが目的の一つでもあるので(A4:2)。 ・サポ―トをしなければいけない授業、サポ―ト派遣が多過ぎて、そこに関わるサポ―ト学生の状況とかを把握するために、一生懸命そっちをしてたらば、本人、利用する本人のお話っていうところ、希望だったりとか、そこが少し漏れてしまったっていうことがありました。 私たちが、こう、派遣をしなくてはいけないということに必死だったために、実際、派遣した後のその授業の状況、利用学生もきちんとした支援を受けられているのか、サポーターもきちんと支援をしているのか、その支援がその需要に合ったものだったのか、というものをきちんと確認することがちょっと漏れたような気がします(A5:3)。 ・私は最初は情報保障を受けようとは思っていなかった。健聴の学校で育ったので自分が情報保障に関わるなんて思っていなかった。でも、はじめ、どうやって使ったらいいのかわからなくて、一年間使ってみて、情報保障がいらないと思ってる授業もあるので、うまく来年から使っていったらいいかなと思っています(T:2)。 理論的メモ ・学生の状況を把握することが望ましい支援コミュニティにつながると考えられるが、それはなぜなのだろうか? ・大前提として大学の職員として教育機関でもある大学の役割がある。支援コミュニティは大学という組織の中に位置づけられる。 ・個々の学生の状態を知ることで、その学生に合わせた支援ができる ・個々の学生に合わせた支援は、初年次から4年次まで相手との関わる量が増えれば増えるほど相手に適した支援を行うことができると考えてよいのか? ・雑談によってわかることとは? ・支援する聴覚障害学生の数が多すぎると、まずはいちばん重要である講義での授業保障を達成するために、余裕がなくなってしまうので、そういうときこそ学生の個々の状態に合わせた支援のあり方を実践することが大切か? ・学生の意志表明と強く繋がっている部分ではないか。 ・個々の状態に合わせてプラス面にもマイナス面にも働く。支援コミュニティのプロセスとしてし合理的配慮という最低限のラインに繋がっている。 ワークシート20 概念名 経験共有の仕組み 定義 学生同士の経験を継承できる仕組みが設定されている ヴァリエーション ・毎年誰かは参加するので、去年出たことがある人から、「去年はこんな方向でやったよ」とか、「他の大学はこんな発表だったよ」というのをお話ししたり、資料を見たりして、「じゃあ、今年はうちの大学はどんなテーマでやろうね」っていうのをみんなで話し合ってコーディネーターも含めて、決めてます(A5:2)。 ・入学して、テイクを始める前の説明会とかはあったので、そのときは、その先輩の人にテイクのやり方を聞いたりとか、そういうことはありました(B5:5)。 ・スタッフの方がこの部屋で、えっと、コーディネーターさんはいなくて、あの、テイクのやってる中で困ってることとかを話せる場を昼に開いてくれて、そこによく来ているんですけど。月に1回あって、それをスタッフさん、あの、2年生の方がやってくださっていて(B9:19)。 理論的メモ ・単に、例えば先輩から後輩へこれまでのことは役立つ知識が継承されているとしても、その根底として継承される場や仕組みがあるということが考えられる。 ・定期的なミーティング(仕組み)による考えの共有が、よい支援に結びつき、PEPNet-Japanで賞をとることにつながったと考えられる。 ・学生にとってはコーディネーターが一緒に考えてくれる環境がとても心強いのでは。 ・多くの支援活動は学生の手によって行われており、現場の細やかな部分はコーディネーターより学生の方がわかっていることが考えられる。 ・つまり個々の学生に合わせた支援のやり方、合わせ方を身につける経験共有の場が必要となっているのか? ワークシート21 概念名 学生の意思表明 定義 学生が学内の環境に対して意思表明を行う ヴァリエーション ・私たち職員側から大学に働き掛けるよりも、学生自身の声が上がったほうが、きっと変わる可能性が高いと思うので、学生たちに、そういう、自分たちの思いを発信する力を付けさせたいと思います。  例えば、えっと、聴覚ではないけれども、バリアフリー調査を毎年行って、そこで、自分たちがこうなってたらいいなという理想像を提案して、毎年提出しています。それによって、いろいろ良く変化している部分もすごく目に見えてあるので、そこは学生たちもすごく楽しみにして、調査をしています(A5:14)。 ・自分から先生にお願いしたりとか、自分からとにかく動かないことには、授業を受けられないという状況に。もちろん、私たちコーディネーターもお手伝いは十分しますが、今のところ、どっちかというとそこに頼ることがすごく多くて、自分から先生に言わなかったりというのもあるので、逆に、職員側が先生にお願いをしておいたのに本人が授業に出ないとか、そういう失礼なことが結構多いので(笑)、基本は自分から発信を、という感じにできたらいいなと思います(A5:15)。 ・うん。なかなかないとは思うんですけど、でもやっぱり常にそうやって理解を求めていくっていう気持ちだったり姿勢っていうのは必要になるんだと思うし、こう、諦めずに、諦めずに説明をしていくっていうことは必要になるんだと思うし。それは、障害を持ってる学生も同じだし。1回言って諦めて、うん。もう理解してもらえなかったってなってしまう学生も多いんですけど、そうじゃないよっていうことを私たちが、うん、「ほら、理解してもらえるから、説明はしていこう」っていう、ちょっと、説明の仕方を4年間で学んで、社会に出てもらいたいなっていうふうに思って、学生と関わっているので(A2:21)。 理論的メモ ・意志表明支援が行われている。 ・プロセスとして非常に重要 ・コーディネーターの立場からは学生の意志表明を促すための支援のあり方が考えられている。 ワークシート22 概念名 刺激の相乗作用 定義 支援コミュニティでの活動を通して、新たな目標や活動など相互作用が起きている ヴァリエーション ・学生たちが何かこう目標を持って支援に関わってくれるような、そういう関係性をつくっていきたいという(A2:19)。 ・まあ、あの、学生スタッフですので、仕事があるので、それをやっていく中で自信を付けてもらうとか、あの、できたと、自分も自分のことを評価できるといいなと思って、まあ、声掛けですとか、そういうことしか私たちはできない。逆にできないかなと。職員ができる、して何か伸びるというよりは、見つけてほしいなと思っているっていう感じですが、機会を提供するという意味だとか、あと、その、資格を、さっき言った与えるというのも、その一つの手段かなって。別に、それが目的ではないかなと思います(A6:20)。 ・私も最初ここに仕事を始めたときは、コーディネーターって何かなって思うぐらいのレベルから始めてますので、はい、障害……、障害学生さんがハードルなく学べるようにお手伝いするのかなと思って、あの、始めたんですけれども、ボランティア学生とも関わっていく中で、そうじゃなかったなと。あの、学生さんそれぞれ力があるので、障害学生もボランティア学生もそうですけど、それがこう伸びるというか、成長するように助ければいいのかなというふうに、私の考えは変わりました(A7:1)。 理論的メモ ・学生がコーディネーターとの関わりを刺激に活性化され、支援コミュニティになかでなにかをしたいできるようになりたいなど、なにか目標ができるということだろうか。 そうであるなら、望ましい支援コミュニティでは、コミュニティの中での活動から刺激を受けることで新しいなにか目標などが生まれるということになるだろうか? ・個々の力が高まり並行して、複数のチームやコミュニティの活動へつながっているのか。 ワークシート23 概念名 点を線に変えていく機能 定義 個人の思いや活動をコミュニティの活動に変えていく ヴァリエーション ・その上の、何て言う……、うーん、まだ彼女たちが積極的にいいグループをつくろうというところまでいってないんです。 個人個人の障害学生に対する思いなどはたくさん持っている子たちですけれども、みんなの力で何かしようと学生はまだ思い至っていないと、私は見てます(A6:20)。 理論的メモ ・望ましい支援コミュニティに至るまでには、コミュニティのメンバーみんなでなにかをしようと思うまでのプロセスが存在するということだろうか? ・自分のことで精一杯という意味? ・点を線に変えていくような機能が支援コミュニティにはある? ・個人の力を、チームやコミュニティの力に変えていく機能があると考えられるだろうか? ワークシート24 概念名 学生の境界線意識の活用 定義 学生という支援する側と支援される側の意識が完全に分かれていないことによる関係性の作りやすさがある ヴァリエーション ・障害の有無に関係なく、1人の人として関わることっていうのが大事なことだと思っていて……。そうですね、それをこう……何て言うんでしょうね、関係なく関われるように、私が職員として支援学生と支援される学生との間に入ってお話をしたりとか、理解を深めて、お互いの、っていうお手伝いができたらなというふうに思っています。うん。なぜそう思ったかというと、学生時代でないと、やっぱり学べないかなというふうに思いました。学生が、卒業すると、どうしても、えっと、利用者と支援者という形で分かれてしまう。で、お互いの気持ちを知るっていう機会が少なくなるかなというふうに思うので。学生時代であれば、お互いに思っていることが聞ける、聞きやすいから、それを持って卒業することによって、将来、自分が支援しやすい環境をつくるときに、自分に助けになるかなっていうふうに思うので(A4:9)。 ・謝金は発生していないので、でも、大学を卒業すると、お金が発生して、発生すると、「私は利用しています」という立場、「支援しています」っていう立場にすごく分かれるかなというふうに思うし。学生であれば、その、何て言うんでしょうね、境界線っていうのが少ない可能性を感じていて。一緒につくっていく、活動していくっていうふうに思って(A4:9)。 ・同じ学生として、学ぶ。で、やっぱり健常の人だって、困っていることってあると思うんですよね。でも、障害があるからさらに困ることって増えるし、時間もかかるし、でも、同じく一緒に学びたいっていう気持ちで手伝いをする。ちょっとでも自分の空きコマをそこに充てられたらっていう、その、何だろうな、同じ年代を生きている学生として、その、支え合うというのかな。そこは、うん。大人になったら経験できない。多分、私たち職員が支援をするってなると、またちょっと違うと思うんですね。「サービスを利用する」っていうような感覚になると思うので(A5:10)。 ・聴覚障害の学生とは、1年生のときは、なんかまだ仲良くはなれなかった。支援と、私が支援をする、だし、向こうからすれば支援をしてもらうっていう関係が、多分強かったんじゃないのかなって思うんですけど、まあ、徐々に生活とか、基本、同じ学部の人の支援をしているので、必ず、毎日会ったりはするので、その関係であいさつとかできるようになって、なんか、友達みたいな感じになったとは思います(B4:1)。 ・聴覚障害学生だからとか、支援学生だからっていう関係じゃなくて、同じ学生同士っていうか、同じチーム、同じサークルの仲間として困ってること、手伝ってほしいことがあれば、なんか、気軽に言えるとか、そういう関係でありたいなっていうのは、ちょっと思ってます。テイクだけの関係じゃなくて、なんかもうちょっと、ちょっと支援室に行ったときに、ちょっとしたことでもいいから話をするとかっていうのも、なんか、大切というか、心掛けることが必要なのかなっていうふうには思ってます(B6:20)。 理論的メモ ・大学という環境の特性を支援コミュニティに生かすということだろうか? ・大学では支援する人、される人の境界線は社会より少ない可能性があるとはどのようなことか? ・支援する人、される人という境界線以前に、同じ大学の同じコミュニティの一員である意識のほうが強く働く?そうなるとただ事務的に支援し、支援される関係の大学では利用学生に自分は被支援者であるという意識が占める割合が大きくなってしまう可能性があるのだろうか? ・同じ学生同士という意識がはたらくので、お互いに干渉しやすい、また大学生ということで新しい出会いを求め柔軟に考えを変化させていくことも出来る年代であることも影響があるのだろうか? ・望ましい支援コミュニティについては、学生同士の境界線があいまいであり、結果としてお互いに困っていることをさらけだし、助け合えることが支援コミュニティの成長につながるのだろうか? ・大学における支援コミュニティは、立場が支援する側と支援される側に完全に分かれていない状態にあることが、一つの望ましい要素・機能としてあるということだろうか?これによって学生同士で踏み込んだ話や関係性を作りやすく、それぞれが将来社会へ出ていく際に役立つものとなるということだろうか? ・うまい概念名が思いつかない… ・他の障害種の学生との関わりに置いても、境界線意識の活用がポイントとなるだろうか? ・望ましい支援組を作り上げていくプロセスには、聴覚障害学生への支援だけではなく、他の身体障害や発達障害の学生の存在もあると良い? ・コーディネーター自身は聴覚障害学生だけではなく、他の障害種の学生との関わりの中で、聴覚障害学生支援に生かすことができる学びや実践などを得ている可能性があるか? ワークシート25 概念名 境界線意識の調整 定義 立場の違いによる遠慮や思いを支援コミュニティの中で調整する機能がある ヴァリエーション ・「聞こえない学生だけで考えててもそこは解決しないから、そこは支援学生に言ったほうがいいよ。でも、言い方どうする?」みたいなところで相談をしたり、支援学生だけで、まあ、考えても、利用学生のためにはならないから、そのときは「言ったほうがいいよ。じゃあどういうふうにやるかも相談したほうがいいよ」っていう、こう、相談するようには、心掛けてます(A2:9)。 ・単純なとこで言うと、その聞こえない学生とのコミュニケーション方法が分からなくて、どうやって、なんか、話しかけていいのか悪いのかも分かんないとか、どうやって、なんかこう、コミュニケーションすればいいのか分かんないとかって、言うから、「じゃ、ちょっとまず」、その、なんだろ、「会ってみなよ」とか。その。会っていいっていう、なんか、誰かに後押ししてほしいっていうのを言ったりとか、この会う場を、支援室を、こう、「使っていいよ」って言ってあげて。もしその二人だけで、あの、困ったときには、まあ、部屋の中にはいるので。まあ、なにかあったら、すぐに助けがもらえるとか(A3:16-17)。 ・あの、普段、学生の話を聞いている中で思うのは、支援学生は、あの、障害学生の間の壁を取りたいと思っています。うん。でも、あの、障害学生は、やっぱりやってもらっているっていう気持ちが大きいようで、つまり勝手なことは言えないっていうのがあるかなって感じます。で、時々、障害学生さんのほうから、この子のテイクはさすがに分かりづらいとか、うん、やっぱり支援が足りていない。まあ、世話を焼き過ぎるというのもありますし、いろいろな、自分からは支援学生には言いづらいという悩みを職員のほうに言ってくることもあるので、その間に入る役目が支援センターという部分もあるかなと思います(A6:7)。 理論的メモ ・意識のずれ、つまり聴覚障害学生と支援学生のずれがある。 ・支援をされる立場と支援をする立場があるが、大学ではどちらも学生という立場が先に来ていることがある。 ・コーディネーターの立場から見ると、積極的に両者の間を調整している様子がある。 ・学生の手によって支援が行われていることによる働きと考えられるか。 ワークシート26 概念名 当事者意識のアップグレード機会 定義 以前の活動に起因するものごとの当事者感を、新しいコミュニティの構成員の当事者感にあうようにアップグレードする ヴァリエーション ・引き継ぎとかっていう話があったと思うんですけど、その仕事の内容を引き継ぐとかっていうことは毎年されてるんですけど、あるし、ちゃんと、その引き継ぎもされてると思うんですけど、その、「なんでこれをやらなきゃいけないのか」とか、「なんでこれをやろうと思ったのか」とか、「なんでこれをやり始めたのか」みたいなところって、だんだんだんだん、消えていくんですよね。そうすると、こう、引き継がれたほうは、理由は分かんないけどやらなきゃいけない。だから、「やらされてる」みたいになって。(A2:24)。 ・もともとこの情報保障の会を立ち上げたときにも、いずれ大学が公的に支援をしてくれるようになるだろう、なってほしいから、そのときに、ここでその技術を磨いて、いろんなその経験を積んでおいたら「大学がやります」って言ってくれたときには「はい」ってできるように活動してきたんだけれども、やっぱりその、そうやって立ち上げるときの、なんていうか理由とかその流れとかをもう卒業していくので、学生はそれ、要するに後に残された学生は、全部は分からないまま活動するので、何で、自分たちが頑張ってきたのに、今まで大学は何もやってくれなかったのに突然「やる」って言われるみたいな。なんかそういう誤解が生じてっていう面もあって、で、私が採用されたときにも、やっぱり学生としては面白くない、「今まで自分たちが頑張ってきた」っていう自負もあるから、面白くないっていう面もあったと思うので、その辺りをどういうふうに、まあ、コーディネーターとして何をやるのか、学生としては何をやるのかっていうのをどう役割を分担するのかっていう相談をしながらやっていって(A1:7)。 ・それは運営スタッフのほうも同じで、前、学生団体でやってたときは、みんな、やらなきゃいけないっていう、とか、やりたい、やらなでゃいけないってやってたんだけど、その、なんで運営スタッフっていう役割が残っているのか。こっちで練習会をやろうと思えばやれる。反省会も企画しようと思えばやれる。けど、じゃなくて、学生の運営スタッフにやってもらいたい。そこにお願いをしているっていう理由とか、経緯っていうのは、あの、やっぱり、だんだんこう、見えなくなってくるので、なんでこれをやらなきゃいけないのか、学生運営スタッフがいる意味がなんなのか。っていうのが見えなくて、モチベーションも下がるし、やる気もなくなるみたいなのが出てきていて。私たちは、その都度その都度、まあ、支援室が立ち上がった経緯とか、学生運営スタッフがある理由とか、経緯とかを話していかなきゃいけないんだろうな、伝えていかなきゃいけないんだろうなっていうふうには感じています。そういうのを知って、「ああ、そうか。じゃあ、それは必要ですね」みたいになる学生もあるんで、やっぱりそういう、根元のこの部分が漏れてしまうと、表面だけ続けていくことになるなっていうことを思っています(A2:24)。 理論的メモ ・学生の入れ替わりによる作用が起きているのだろうか? ・当時たてた目標がしっかりと引き継がれていなかったことによる現象なのだろうか?コミュニティの中核を受け継ぐ? ・またコミュニティの歴史にも関わること?つまりコミュニティの歴史、歩みを把握している長く務めるコーディネーターや、しっかりと引き継がれたコーディネーターが望ましい支援コミュニティには必要であり、また支援コミュニティに内包された知恵を学習することも大事なのか? ・当事者感を共有する仕組みがあると良い? ・理解することが大切?説明することが大切?大学がやることに限らず研修会や交流会などなぜやっているのかわからないまま、以前やっていたからやるという考えだと戸惑いやモチベーションの喪失につながる。 ワークシート27 概念名 ポジティブな相対化への視座 定義 物事や人物を比較しすぎてしまうのではなく、今を見る視点がある ヴァリエーション ・10年たって、今の学生はまだ18とか、22。だけど、ま、私たちはどんどん、大人になって。ここの、その差が、なんか、今後はもうずうっと開いていく。うん。それとやっぱり、ここの経験値を私たちは持ってるけど、学生は持ってないっていうその当たり前のことを私たちも忘れがち。なんか、「昔の学生はできたのに、なんか今の学生はできないの、なんでなんだろう」みたいな気持ちになってしまう。のではないかなっていうことを、なんかこう、自分に言わなきゃいけないなっては(A3:17)。 ・ああ、例えば、やっぱり、10年前は大学に入ってくるこう、障害のある学生が、なんか、まじめな人しか入ってこれないみたいな状態だったのが、まあ、今は……。 それと、いろんな学生が入ってくるようになったのが、なんか、ちょっと原因は分からないんだけど、例えばその、講義をサボるっていうところの権利を主張したりとか、うん。なんかこう、人として「?」なことを主張してくるっていうことに対してどう対応すればいいのか、なんか、迷う(A3:17)。 ・なんか、なんかこっちが基本的に思っているコミュニケ―ション方法、例えば会って話す、とかっていうこととかは違うのかもしれない。やっぱり、その、みんなでTwitterを、で登録し合ってて、そこで顔は知らないけれども意見を言う。名前は隠すけれども意見を言う、みたいなこともコミュニケ―ション、ていう気持ちなのかも。うん(A3:22)。 理論的メモ ・たぶん「支援コミュニティだからこその機能」みたいなカテゴリーがあると思う ・学生とコーディネーターの経験値の差はなぜ生じるのだろうか? ・「昔の学生はできたのに、なんか今の学生はできないの、なんでなんだろう」みたいな気持ちはなぜ起きるのだろうか?時代の差?学生個人の差?コーディネーターの行っていることが似たようなことの繰り返しだから? ・この気持が起きることによってなにが起きてしまう?コーディネーターのイライラ感、学生に理由を求めてしまう、学生に申し訳無さが生じてしまう、申し訳無さが生じることによってコーディネーターに相談などができなくなる、自分を責める、支援コミュニティをやめてしまう、コーディネーターの自己嫌悪、 ・なにかとなにかを比較するのではなく、ありのままの今を見つめて末来を向かう姿勢がコミュニティには求められる? ・他大学との比較、他学生の比較、昔の学生との比較 ワークシート28 概念名 前進が可視化される機会 定義 コミュニティが実際に行動してきた結果を可視化して実感できる機会がある ヴァリエーション ・私たち職員側から大学に働き掛けるよりも、学生自身の声が上がったほうが、きっと変わる可能性が高いと思うので、学生たちに、そういう、自分たちの思いを発信する力を付けさせたいと思います。 例えば、えっと、聴覚ではないけれども、バリアフリー調査を毎年行って、そこで、自分たちがこうなってたらいいなという理想像を提案して、毎年提出しています。それによって、いろいろ良く変化している部分もすごく目に見えてあるので、そこは学生たちもすごく楽しみにして、調査をしています(A4:14)。 ・ボランティア学生も多いものですから、どこで誰が何をしているかが毎日は把握できていませんが、あの、ボランティア学生がボランティアをしっぱなしではなくて、どこかで認めていく。あの、褒めるでも お礼を言うでも、ちょっとした声掛けだけなんですけれども、モチベーションを保ってもらいたいというのが一つと、あとは、テイクだったら聴覚障害学生との間がうまくいっているのか、言えないことはないかっていうのを……。聞き取ったりとか、そういうことはしてますね。はい(A6:18)。 理論的メモ ・目に見えることによって、なにかよいことがあるのだろうか? ・学生が楽しみにしているということが大事なポイントになりそう。 ・良い方向に変化していることがわかることで、支援コミュニティの成長を実感できるメリットがあるということだろうか。 ・進捗の可視化?成長の可視化されることによって、コミュニティの成長を実感できる仕組みがあることが望ましい支援コミュニティに必要なのだろうか? ・コミュニティが実際に行動してきた結果を実感できる機会や仕組みがあることが大切だと考えられるだろうか。 ワークシート29 概念名 第三者からの称賛 定義 第3者との交流や認められることから、自信を深めるプロセス ヴァリエーション ・一昨年になるのかな、北海道であったシンポジウムのときには、初めて準PEP-Net賞という賞をもらったというのも、すごい彼らにとってはいい経験で、なんか、つまり今まで、そんな賞を取るっていうことを目的でやってはいなかったんですけれども、ちょっと、頑張ればそういうのもできるんだなっていう、自分たちに自信が生まれたように見えました(A4:2)。 理論的メモ ・コーディネーター自身はどのように思っていたのかだろうか? ・コーディネーター自身の自信にもつながったことが考えられる? ・コーディネーターの仕事が第3者から認められる機会が望ましい支援コミュニティの構成プロセスに含まれる? ・ここで述べられている目的とはなんだろうか? ・PEPNet-Japanでの交流や賞をもらい自信を得たことで、変化したことなどはあるのか? ワークシート30 概念名 「できる」を再発見する体験 定義 支援される、する経験を通して、自分にできないと思っていたことができることだと再発見し、自信につなげる ヴァリエーション ・自分に合った環境がつくれるように。そして、なんか、困っていることっていうのは人それぞれ。で、ここのサークルのいいところは、聴覚障害だけじゃなくて、いろんな障害の子も一緒に活動をします。「できない」だけじゃなくて、例えば、聞こえなくても見ることができるから文字を書けますよね。だから、弱視の人に書いてサーポトしてあげるとか、お互いに困っていることを補うっていうのがあるので、うん、そういうことを知るというのもすごく良くて、支援を受けるだけではなく、自分もどういうふうに社会参加ができるかとかを考えて、なんか、その、「できない」っていうんじゃなくて、そこで、こう、「できる」っていう自信にもつながると思うので(A4:9)。 ・支援学生には、支援をしてもらえばいいとも思っていたんですけども、さっきも言ったように、支援学生の悩みとかに触れていくうちに、支援することで自信を付けて、例えば、パソコンテイクだけは自分はうまいとか、あの、学生スタッフとして4年間頑張ったとか、そういうことを、もう本当にそのちょっとしたことをよりどころにして社会に出ていく支援学生がたくさんいますので、あのー、お互いのための支援だなというのは実感してます(A6:11)。 ・なんていうか、うーん、学生がなんか、結構、ま、さっきも言った、遠慮をしているところもあるっていうのもある。なんか、「これやってみたいな」とか、「こういう方法どうかなみたいな」とか、あると思うんですけど、そういうのを積極的にやってほしいなあっていう思いはあって。なんか。うん。楽しいことやりたいなって思うんであれば、いろいろ企画してみてもいいと思うし。うん。そういう、なんだろ(笑)。ハなんて言おう。遠慮しないでやってもらいたいな。私じゃない、私の、こう、雰囲気が悪くて言えないのかもしれないけど(A1:15)。 理論的メモ ・できないと思っていたことを、サークルの中でお互いに困っていることを補い合う中で、自分にもできるということを知り、それが自信にもつながる。 ・いろいろな障害のある学生が一緒に活動することで、できないをできるへ、自らの視野を広げることができるのだろうか? ・いろいろな障害のある学生がいることが必要な条件なのだろうか? ・支援されるだけでなく、支援する、自分にも支援コミュニティの中でできることがあるという発見が自信につながり、社会の中で自分にできることはなんだろうという考えにつながるのか? ワークシート31 概念名 「あたりまえ」の再考プロセス 定義 支援に関する自らのあたりまえを再検討する ヴァリエーション ・利用学生自身も、そういう、何でしょうね、「どんな支援が欲しいか」とか、「他の大学がどうなっているか」という情報は、PEPのシンポジウムに行ったときに知って、何でしょう、初めて知るっていうのかな。うん。今の支援に、割と、満足しているではないけど、「もうこれでもいいかな」という気持ちでいることが多いと思います。でも、多分、今年は、春からを考えると、なんか、大学は全コマ派遣をずっとしてるんですね。一番多かったときで90コマぐらい派遣してました。でも、去年も、40コマぐらいを派遣したときに、本当に大変な状況だったけれども、何とかこう頑張って派遣をしました。でも、すごくそれはいろんなところに無理があっての派遣だったんですけれども、私たちコーディネーター自身も、派遣することにばかり目が向いていて、すごく利用学生もサポ―トする学生も、ちょっと負担を感じたんじゃないかなという反省もあり、今度4月から新入生も入ってきて、ますますノートテイクの利用が増えるので、全コマ派遣は無理だともう思って、「全コマ派遣はしない」と宣言をしました。全コマ派遣でもしなくても、絶対情報保障は必要となるので、そこを補うためにUDトークを去年から導入したので、そこはUDトークを使いましょう。UDトークがいいのかノートテイクがいいのかは、利用学生が判断してもらって、「1人何コマまで」というようなテイクを使えると制限しようかなと考えています。そうなったときに、何か、利用学生たちの、自分に合う情報保障って何だろうとか考えるきっかけになるかなというふうに。事態をマイナスとは捉えないで、と思います(A4:14)。 ・利用学生の場合は、1回のその一つの授業とか、同じテイカーしか支援を受けたことがない場合は、他のことが分からないので、「ん?」と思っても、まあこんなものかなとか思っているし、支援学生も同じパートナーと同じ授業……難しいなと思っても、まあ、これが普通かなとか思うかもしれないし、大丈夫って思うだろうと思うんですけど、経験を積み重ねていく中で、ちょっとその人の中で普通というものができたから……。普通というものができたのか、理想というものができたのかは分からないんですけど、どっちかができると、「これはおかしいんじゃないか」とか思うようになって、それを人に言ってみようかなとか思ったのかな(B3:12)。 理論的メモ ・あたりまえだと思っていて、もうこれでもいいかなとの思いを打破する機会が必要ということだろうか? ・他の大学の支援を知ることで、自分の支援や考えを見直す機会になるのだろうか? ・支援学生についてもペアを組む学生との違いによって支援の仕方やコミュニケ―ションの取り方など、ここに合わせた最適な方法がわかってくることが考えられる。 ワークシート32 概念名 実りへつながる達成システム 定義 支援コミュニティでの活動を通して、今後の人生につながる実りを得ることができる ヴァリエーション ・5月、うーんと、まあ、4月の早い段階に交流会を開いたりとかしていて、それは他の大学でも多分やれていることだと思うんですね。 特に1年生とかは結構いっぱい参加してもらって、2年生以降はね、参加者が減っていくんだけども、それは多分、自分のサークルとか他の居場所があるから、まあ、あの、参加率が下がってきたりすると思うんだけども、もう少し、例えばテイクに入っている学生さんなんかも、ずっと4年間やって、あの、関わってきたりするんだけれども、なんかそのあたりが技術として、こう、何て言うのかな、お墨付きがあって認定されて、で、それが卒後も目に見える形で出していくようなところが必要かなというふうに思っているところですね(A7:19)。 ・コアのコアのコミュニティっていうことも考えているところが実はあって、ある程度の支援技術を有する学生さんは、認定して、そこで、あの、何て言うのかな、えー、コアスタッフとして支援に当たっていくっていう方法が、目標が見えていくっていうこともあるんじゃないかなと思ってはいるんだけども、これからまさにそれを考えていこうかなと思っているところですね(A7:19)。 ・それを目指す……、何かもらえる、認定をもらえるっていうことで自信を持って社会に出れる学生もいるとは思うので、いいとも思うんですけど、学生によっては、それはなくても、あの、自分がやれたというものを持って、自分で持っていけばいいのかなと思いますので、その子によってしまうので、あの、コミュニティとして考えられている〇さんへのお答えにはならないかもしれないんですけど、どっちがいいか、ちょっと分からないですね。まあ、両方の立場のいろんな学生がいるということを想定して、システムをつくればいいとは思いますが(A6:18-19)。 ・あとは、自分にノートテイクをしたいっていうふうに来ても、そのスキルがまだ足りない子も中にはいる。でも、やる気はすごくある。こちらから見て、もう少しちょっと練習しないと実際の派遣は難しいなという場合で、その、「まだ派遣できない」っていうのを自分で認識できない子に対して、どういうふうにそのモチベーションを持っていったらいいんだろう。何かこう、例えば、実際に活動する基準とかレベルがあれば、実際にこう、そこになったらば、実際に活動して謝金が発生するみたいなことにできるのかなとか。そういう意味でも、ちょっと謝金を出してほしいなと思っています(A4:11)。 ・当該支援学生にとって、就職活動に、例えば履歴書に書けるような認定書が発行されたりとかいうところ。その手前には、ある一定層の支援技術を有するような基準をつくっていくだとかいうところかな(A7:19)。 理論的メモ ・支援コミュニティでの活動を通して、なにか手応えをえることができたかということだろうか? ・活動を通したなんらかの実りがある?それは支援に対する客観的な指標をしめす認定証のようなものでも良いし、自分自身でなにか得たものがあると自覚するようなものでもよい? ・つまりなんらかの実りが得られるプロセスを包括したシステムがコミュニティに備わっているとよいのだろうか? ・実りは望ましい支援コミュニティに必要な要素なのだろうか? ・実りではなく種でもよいのだろうか? ・実りへつながるシステムがあると考えると良い?実りとは支援コミュニティでの経験を通して得られるなんらかの考えや、自信、認定など、 ワークシート33 概念名 社会での環境構築能力の養成 定義 学生が社会へでて自らにあった環境を構築していくことができる能力を養成する ヴァリエーション ・なので、そういう自分の、自分の学びやすい環境をつくっていけるような意思表明の支援をするとか、そういう、あの、そういうことがうまくできたら、社会に出たとき、今度は支援室はないけれども、自分からそういう環境をつくっていけるようになれるかなって思っています。なんか、うまく……、うまく伝わらないかな(A5:9)。 ・もしかしたら、100年後とか200年後は自分で言わなくても周りがみんな助けてくれるっていう社会になってるしかもしれないけど、それは分からないので。やっぱり自分が大学にいる間に、いろんな経験をして、困ることとか失敗もしてもらって、で、その失敗から学んでもらって、社会に出たときに自分が必要なことをきちんと伝えられる人になってほしいなって思って、学生とは接しているし、それは支援学生も同じで、社会に出たときに、なにか、この大学にいたときの経験が、卒業して終わりではなくて、つないでいってもらえればいいなって思っている……(A2:21)。 理論的メモ ・望ましい支援コミュニティは大学を卒業する学生に対してどのような影響をもたらすのだろうか? ・望ましい支援コミュニティが大学を卒業し社会へ出ていく学生のために備えるべきでつろr機能とは? ・社会の中で学生が自分にあった環境を構築していくことができる力を身につけることができる機能?つまり自分を知り、それに基づき配慮や要望、意思を表明し、交渉して自分の環境をコーディネートしていける力? ワークシート34 概念名 時代に合わせた運営方法の変化 定義 学生の考え方や大学の変化に合わせて支援コミュニティの運営方法を適したものに変化する ヴァリエーション ・時代は本当に変わっている。昔はそうやって、「友達だから支援しよう」とか、友達同士の支援ということに大学も委ねてやっていたと思うんですね。でも、今は、世の中的にも、きちんと整備して、学ぶ環境を整えてみたいになって、その流れもあり、こういう支援室というのが立ち上がった(A5:8)。 ・学生のコミュニティの在り方が変わってでているところは、一般的なサークル活動もしかりかなと思いますし、あと、A1大は学生自治会活動が非常に盛んだったんだけれども、最近はつまり予算執行もできてない状況で、学生、構成員である学生に還元できてない状況があるんですね。いわゆるこう、障害学生支援団体だと、パソコンテイクサークルっていうのが以前はあって、自分たちで連携の練習をして、で、支援センターからのオーダーに応えてパソコンテイカーを派遣していくっていう形の、一つの自治組織として支援団体が成り立っていたんだけれども、やっぱりその、チームっていうコミュニティがちょっとしたきっかけでつくれなくなったことで、みんなフェードアウトしちゃったんですね。で、今はもう、パソコンテイクは学生支援センターの学生スタッフが私たちの指示のもと動いているっていう形に変わってます。字幕付けを作るサークルで「くまじ」っていうのがあるんですけども、「くまじ」の場合は、先生方からもらった映像教材のDVDを、2週間後に行うからやってくださいねって依頼をするんだけども、私の見方としては、まあ、1人、1人で作業していくところがあるんで、そんなにチームワークでっていうところは求められないところもあったりして、今もメンバーが多いし、持続できているところがある(A7:14-15)。 ・コミュニティの在り方の変化っていう面では、チームワークのつくり方みたいなところが、学生任せだと回っていかないところも出てでているんじゃないかなというのは感じてます(A7:15)。 ・学生自らが、誰かがリーダーシップを取って企画して実現していくというところが難しい中で、いわば大学の公式の場所である障害学生支援室というところが受け皿になって、その実現に向けた、まあ、手助けをしていくというふうが、な役割に、少しずつ変化してきているのかなというふうには思うんだけども(A7:15)。 ・無理に今のリーダーになれ……、なりづらい学生、支援学生の層、様子を見ていると、そういう形を求めなくてもいいのかなと私は思えてでていまして、さっきからずっと言っているのは、自然な形の、人と人としての付で合いをしてもらえばいいのかなというふうに思えてきてます(A6:15)。 ・さっき言っていたように、この支援室が立ってないときには 、学生だけで集まって、聞こえない学生と、こう、いろいろ、ノートテイクをやりたいという学生だけが集まって、情報保障の会っていうものを作って、ずっとこう活動をしていたんです。で、まあそれはまあ、大学がこういう支援の必要性というのをまだ認識してくれなかったので、仕方なく学生だけで活動をしなければいけなかった。その後に、大学としても、きちんと、この障害のある学生の支援をしていかなければいけないと分かって、「うん、じゃ、大学としてきちんと責任を持ってやろう」って決めたので、結局、その役割が二つ起こってしまうことになるので、この今まで頑張ってきた役割を、大学に移行するような方法を取ったんです。なので、もともとが、やっぱり学生が頑張ってきたというところが一番大きくて、で、その状況っていうのは今も大切にしたいと思っているので、大学がつかまっ……、あの、その動きを移行しても、やっぱり学生が、こう動ける形は残したいと思ったんですね(A3:3)。 ・大学の規模も、大きさも小さいし他の、まあ、総合大学と比べても教育学部だけの小さな大学なので、そういうことも、まあ、いいことなのか、あって。あのー、障害学生支援室はるけれども、大学全体として、障害学生支援はやっていくっていうことになってるんです(A1:3) ・推薦入試は大学として「この学生が欲しい」と言って合格をさせるものなので、聞こえない学生が合格したのに大学として何もやらないっていうのはおかしいねっていうことになって、で、障害学生支援室ではではなくて、その前の段階としてそのプロジェクト。プロジェクトが立ち上がって。で、大学が紙とペンは準備をしてくれるようになったんです。その後、平成19年度、2007年に予算が取れたので、まあ、やっとやれるようになって。で、大学が、学生だけで頑張って活動してきたっていう流れがあったので、大学がそのペンとか紙を買うとか、そうやって、「大学として公的に支援をしますよ」って言ったときに 、こちらの学生は反発をしたわけです。「今まで頑張ってきたのは私たちなのに、それを全部取られる、活動を取られる」みたいに思ってしまって、本当はそういう意味ではないんだけれども、学生としてはそういうふうに思ってしまって、で、反発をして。なかなか、大学と学生がどうやって一緒に活動していくかっていうのが、うまくこう、連携をしていくっていうのが初めのほうは難しかった(A1:6)。 ・その学生同士の関係とか、まあ、決めても嫌だって、学生だからどう、同じ学生だから、「その講義は嫌だ」とか、「その聞こえない学生のテイクには入りたくない」みたいなのを、簡単に言ってしまうみたいなところもあって(A1:7)。 理論的メモ ・支援コミュニティの在り方・作り方の変化 ・コミュニティの変化や学生層の変化に対応した支援のあり方を考える ・卒業する学生では対応できない長期的な変化に対する対応 ・支援組織の姿を考える ・時代に合わせたコミュニティの運営方法の変化が必要ということだろうか? ワークシート35 概念名 学生の意向のコミュニティへの活用 定義 学生の意向をコミュニティの方針へ活用する ヴァリエーション ・昔は、今よりももっと派遣数が多かった時代は、私たち職員側が、こう、何でしょう、意見調整というか、割とまとめている感じだったんですけれども、やはりそこには学生の意見とか学生同士の活動っていうものも大事にしたいなと思って、えっと、ちょっといろいろ、グループ分けをして、それぞれ、例えば要請する班とか、募集する班とか、役割を持たせて活動をし始めました(A5:4)。 ・コーディネーターさんと一緒じゃなでゃいけないみたいな雰囲気が結構あるので、なんか、そうじゃなくて、学生主体で動いてるので、学生がやりたいことはやりたいってことで。で、今、その、障害学生、うん、なんか、手話が必要だみたいな、なんか、「手話を勉強したい」っていう人も多くて。と、パソコンのレベル上げたいっていう人も多いので、そういうときに、その、すぐに集まれるような、なんか、LINEとか、ま、意識というか、強くしたいなって思ってます(B7:18)。 理論的メモ ・後押しとはどのようなものなのか? ・コーディネーターはどのように関わっているのか? ・学生目線から見たとき、ミーティングなどの場にコーディネーターがいる意味はどのようなものだと考えられるか? ・学生たちがどのようにやりたいか自体がわからない場合はどうするのか? ・なぜ学生が何をしたいかを大事にしているのか? ・学生主体 ・学生の成長ができる場としての支援コミュニティが求められているのだろうか。 ワークシート36 概念名 必要条件を満たす構成員のバランス 定義 学生の意向をコミュニティの方針へ活用する ヴァリエーション ・うーん。その、永遠の課題かもしれないんですけど、数をとるか質をとるか。でし昔は、聞こえない学生と「会う」っていうのがまず最初で、会って、なにか関わりたいからテイクを始める。だけど、やっぱりその、数が足りないとかっていう間題が起こったときに 、もう、とにかく数を集めなでゃいけないってなると、じゃあ、ノートテイクの活動はやりたい。でもそのときに 、その聞こえない学生っていう存在はないまんま始まっている。そうなると、その技術を取るか、質というか気持ちのつながり具合を取るかっていうところの、なにかこう、葛藤が……。まあ、どうしてもずっと続くのかなと。うん(A3:22)。 ・なんか、テイカー、足りないんで、いっぱい説明会も開いて、募集もして、登録もたくさんの人がしてくれた。けれども実際は、実際、活動できる人はその中でも少なくて、結局、人は集めたけれども、なかなか、派遣が難しかった、みたいなのはあるのかなあ(A1:23)。 ・まあ、どっちを取るかっていうことではないかもしれないけど、例えば質を取るんだったら、入学式で募集するとかPRするとかってことはもうやらないで、聞こえない学生が合った人にお願いをして、1人ずつ、合った人に、頼みたいと思った人にお願いをして、で、テイカー登録をしてもらうっていう方法でやれば、聞こえない学生ともつながっている人のテイカーの数が増えて、で、本当にやりたいと思ってやってくれる人が続けてくれるのかもしれない。ただ、それになると、多分限界、数の限界があるので。1年間で登録できる人の数が、まあ10人とかぐらいになってしまうのかもしれない。で、質だけを取るっていうのも難しいし。だからといって、逆に数だけたくさん集めようと思って、今言ったみたいに説明会をいっぱい開いて集まって来てもらっても、この先を工夫をしないと結局続かないfので、どっちがいいとかどっちを取るとかではなくて、その両方のなんかバランスをうまくやっていかなければいけないのかなとは思います(A2:23)。 理論的メモ ・理想か現実か?数か質か?どちらかだけが正解というわけではなく、バランスが大事 ・数を集めたあと質を磨くのが一番よいのだろうか? ・常に葛藤することが大切となる? ・聴覚障害学生の数によって最低限支援コミュニティに必要な構成員の数が決まってしまう数のジレンマがあるということだろうか?和のジレンマとは? ・支援コミュニティのあり方や運営に関わってくる割合が高いと考えられる。 ワークシート37 概念名 情報保障の正当な価値認識 定義 大学側と学生の双方が情報保障に対する正当な価値を認識し報酬を払う ヴァリエーション ・お金は目的ではないんだけれども、この学生たちのやっている活動は、非常に尊いことだし、それだけ価値があることだって大学に知ってほしいんですね。こうやって外部に通訳を派遣すればお金を払うことは当たり前なんだけれども、大学の中では無償なので、なんか、軽く思われてる?でも、それは利用学生も同じ気がしますね。お金を払ってないので、簡単に「休む」って言ったりとか(A5:11-12)。 ・意識的な部分で、やっぱりお金が大きい。なんかこう、大学が学生に感謝をしてほしいです。私たちも学生たちを育てて一緒に。すごく、やっぱ労力……、労力っていう言い方がいいか分からないけど、いろいろ丁寧に対応して育てているので、なんかこう簡単にできることではないことだと思ってます。 授業を保障するっていうレベルに持っていくには、本当に大変なことなので、なんかその、学生に頼るだけじゃない支援とか、いろいろ考えてほしいなと思っています。障害のある子の配慮も、それだけお金もかかるし、時間もかかるっていうのを分かってもらいたいなと。それを利用学生たちも訴えていけるようになれたらいいのかな。今でも、少しずつ輪が広がっていっていると思います。理解のある、その、個々の職員だったりとか、少しずつ、今、広がっています(A5:12)。 ・例えばテイクに入っている学生さんなんかも、ずっと4年間やって、あの、関わってきたりするんだけれども、なんかそのあたりが技術として、こう、何て言うのかな、お墨付きがあって認定されて、で、それが卒後も目に見える形で出していくようなところが必要かなというふうに思っているところですね(A7:19)。 ・今、この、学生がサークルとしてやっている活動、支援活動は、えっと、多分もう法律的に大学がやらなくてはいけないことだと思っていますね。でも、その認識が、ちょっとお恥ずかしい話、うちの大学はまだそこまで……。「大学がやらなくてはいけない」っていうふうにっていう考えには、まだ、真剣に思ってない。うんうん。昔のまんま、「学生が友達同士で支援をする、それがサークル活動である」っていうまま。だから、謝金も発生しない(A5:10)。 ・お金が目的ではないんだけれども、学生たちも忙しい中でいろいろな、……何だろう、健常の子でも悩みとかを抱えながら活動していて、一応、自分の勉学がきちんとできて、その余力で活動するっていうルールにしているので、例えば、えっと、試験が近いとか、自分のバイトがあるとか、そういうことで休むこともあります。正直。 そうすると、利用学生は困ってしまいます。テイクがないと授業が困るという、その認識を持ってもらいたいな。でも、やっぱり自分の授業やバイトが大事。そう思うと、こちらは強く言えません。そういうときに、もしもお金を払っていれば、それはアルバイトとして、「その時間あなたと契約している時間ですよ」っていうふうに拘束することができる(A5:11)。 ・もともとこの情報保障の会を立ち上げたときにも、いずれ大学が公的に支援をしてくれるようになるだろう、なってほしいから、そのときに、ここでその技術を磨いて、いろんなその経験を積んでおいたら「大学がやります」って言ってくれたときには「はい」ってできるように活動してきた(A1:7) ・さっき言っていたように、この支援室が立ってないときには、学生だけで集まって、聞こえない学生と、こう、いろいろ、ノートテイクをやりたいという学生だけが集まって、情報保障の会っていうものを作って、ずっとこう活動をしていたんです。まあそれはまあ、大学がこういう支援の必要性というのをまだ認識してくれなかったので、仕方なく学生だけで活動をしなければいけなかった。その後に、大学としても、きちんと、この障害のある学生の支援をしていかなければいけないと分かって、「うん、じゃ、大学としてきちんと責任を持ってやろう」って決めたので、結局、その役割が二つ起こってしまうことになるので、この今まで頑張ってきた役割を、大学に移行するような方法を取ったんです(A3:3)。 理論的メモ ・情報保障というものが専門的なスキルを要するものだと大学側も学生側も認識していない状態にあることが間題となっているのではないか。 ワークシート38 概念名 大学との相互関係 定義 お互いにとってなくてはならないコミュニティであり、お互いに相互関係が成り立っている ヴァリエーション ・大学なので、教育機関と同時にサービステイク、サービス側、受け……、する側でもあるっていうところの中で、障害学生支援のコミュニティをつくっているっていうところで、そういった面では、いろいろこう、あの、何て言うんだろう、守られたコミュニティっていうところがあるのかなと思ってます(A7:21)。 ・社会に出ていくとでのというところを4年間で見ていけるっていうところに関しては、その、外のコミュニティにも接点を持っていくというところも大事かなと。その点、大学③は卒業生もいっぱいいるので、やっぱり卒業生と接点を持ってロールモデルを見てもらうっていうことでも十分かなというところを思ってるんですけども、なるべくそれを4年間の中で、いっぱい刺激を持ってもらうっていう形、外に出ていくっていうところが、あの、自分たちは内発的に発展していくというところのポイントかなとは思ってます(A7:21) ・うーん。障害学生支援コミュニティがあるから、あの、日常の授業の情報保障しかり、移動支援しかりという形で、障害のある学生を支援するっていうのは、やっぱり、何だかんだ言って多くのマンパワーが必要になってくるところがあるので、だから、大学にとってもそれは必要なコミュニティだというところがまず一つあるのかなと(A7:21)。 ・まあ、人の入れ替わりも人事異動もあるので。3年間いて、理解したと思ったらまた変わって、新しい人が入ってきて、で、またその人に理解してもらうために説明をしていかなきゃいけないとかっていうのは、その繰り返しなので、全部に理解しててもらう、まあ、学生も同じだよね。1年生が入ってくるたびに理解をしてもらうように働き掛けなきゃいけないから。だからそれが何年間で終わりっていうのは、とても難しいと……(A2:21)。 ・経験。まあ、学生のときに、学生だけで活動していて、で、「大学が分かってくれない」とかあって、「理解してくれないんだ」とか、そういう反発した気持ちから、活動はすごい盛り上がるし、あの、維持する力にもなったと思うので、それはそれで一つのモチベーションを保ったり高めたりする手段というか理由にはなるのかなっては思うんですけど、やっぱり、学生だけでやれることって限られているんで。うーん。学生がいくら頑張っても難しいことがたくさんあった。でも、支援の組織が、組織が広がれば、大学全体として考えてくれるようになれば、簡単にできるようになることっていう、あるんで。その、支援室だけが障害学生支援の必要性とか、やらなきゃいけないっていうことを分かっている、では、多分、大学の中全体に理解は広まっていかないと思って。先生とか、職員とか、ま、学生とか、一人一人がその必要性とか、意味を理解してもらえる、ま、だいぶ理想ですけども、全員が理解してもらえれば、別に支援室がなくても。支援は。支援というか、障害を持ってる学生は、普通に講義に参加ができるようになる?まあ、テイクとかは必要だから、支援がゼロでやれるっていうわけではないけども。別に、例えば、その、車い、車いすの学生が困っていたら、普通に支援学生を派遣するとかじゃなくて、その近くにいる人が助けて、手伝えば、それでもいいわけですよね(A2:13-14)。 理論的メモ ・大学というコミュニティに守られた支援コミュニティとしての存在があるのだろうか? ・お互いにとってはなくてはならない存在となっている?大学にとっては教育学的、障害者差別解消法などの多様性を知る機会にもなっているし、支援コミュニティについても大学内でのつながりや学生の学びなどにつながっているのではないだろうか。 ・大学という一体感と当事者感覚があるかどうかが重要だろうか。 ワークシート39 概念名 支援意識の裾野を広げる 定義 お互いにとってなくてはならないコミュニティであり、お互いに相互関係が成り立っている ヴァリエーション ・時代は本当に変わっている。昔はそうやって、「友達だから支援しよう」とか、友達同士の支援ということに大学も委ねてやっていたと思うんですね。でも、今は、世の中的にも、きちんと整備して、学ぶ環境を整えてみたいになって、その流れもあり、こういう支援室というのが立ち上がったんですけれども、逆にそれが立ち上がったことによって、障害学生に対する支援はそこの部署がやればいいんじゃないかっていうような風潮になるのは、ちょっと怖いです。むしろ、なかったときに、見掛けた人が助けてつげるというようなほうがよかったのかなあとも思います。でも、それには障害学生のエンパワメントもすごく必要で、自分から「助けてほしい」って求めなくちゃいけない。あと、周りの学生も、困っている人を見たら声を掛けなきゃっていうふうにならなきゃいけない。でも、いろんなことで世の中は忙しくなり、学生たちの状況を見ても、自分の授業を受けたり自分の生活だけでもいっぱいなのに、周りを見る余裕がない(A5:8)。 ・社会の流れの中で、ダイバーシティ・インクルージョンとか、多様性を受容していきましょうみたいなことは出ていて、大学自体も推進していきましょうって音頭は取ってるんだけども、大事なのは一人一人、学生、教職員、全ての構成員の一人一人のマインドというか、というところになってくると思うので、なので、うんと、まあ、学生支援センターも、初年次教育といって、1年生の授業を使って、ぜひ障害学生支援活動でノートテイク、パソコンテイクに挑戦してみてくださいとか、ということをやってるんだけども、最後、落としどころとしては、支援活動とかボランティア活動っていうとこまで行かなくてもいいので、日々のところで、なんかお手伝いを必要としてるなと思う人がいたらば、「何か私で手伝うことありませんか」っていうことを、声を掛けてみましょうとか。うん、そういったところで、みんなが安心して生活しやすいキャンパスを目指していきましょうって、だから、落としどころにしているところがあります。  その理想的なところのアプロ―チをしていくという面では、障害のある学生にとっての困り感っていうのはそれぞれなんだけども、例えば、先生方にも配慮願という形で同じものを配ってるんだけども、その受け止め方が違ったりする場面があって、うん、先生方の中で、こう、推し量りながら、上手にその学生がその場所で安心して勉強できるかどうかっていうところに関しては、うん、何て言えばいいのかな。先生たちの……、うん、 ねえ、そういう、推し量り力っていうふうにいつも僕は表現してるんだけども、そんなことが持てるようなところになれば、うん、いいのかなと思ってます。前に、聴覚障害ではないんですけれども、あの、身体障害のね、学生のエレベーターの利用について、教員の勉強会っていうのをやったんですけれども、そのときにお願いしたのは、別に誰にでもできる支援ですよ、「エレベーター乗りますか」って車椅子の学生に声を掛けるとか、ボタンを押すとか、講義棟のドアを開けるとか、別に何の技術もなく、人として普通にできることがたくさんありますので、あの、それを学生にぜひ伝えてほしいと。車椅子学生が授業に出てたら、「あ、誰かドア、開けてあげて」と一言言ってほしいと。本当はもうそんなこと言わなくてもしてほしいんですけども、あの、先生の声掛けでだいぶ違うんですっていうお話はしたことがありまして、まあ、そういうことの積み重ねしかないのかなとは思いますけれども、何か、あの、特別な技術……、特別な技術を持った特別な活動をする人たちがボランティア団体ではなくて、別に誰でも気が付けばいいのかなっていうのを全体に広げたいなと。うん。先生方もできますし、別に、あの、先生方も自然に言っていただきたいと思ってます(A7:17)。 ・FDで実際にね、障害学生としそれから、あのー、テイクに入っている学生さんが来て、で、あの、しゃべってもらったんだけども、まさに今言ったように、例えば、車椅子の学生さんが考える合理的配慮っていう部分があると、エレベーターに乗っていると、乗ろうとすると、うん、あの、みんながサーッといなくなっちゃうんだって。で、私が求めている合理的配慮はそうじゃなくて、一緒に乗ってもらって、ボタンを押してっていうところを声を掛けてほしいんです、みたいなところだったりとか。うん。まあ、説得力があるというか、障害のある学生からそういったところを発信することによって、受け止め方が違うので、なんかこう支援室と学部との関係という面での一つのヒントを得たかなというふうに思ってます。あとは、テイクに入っている支援学生なんかも、あの、雑談なんかもテイクしてますよとかいう話とか、あとは、先生方から、あのー、パワーポイントだったらば、あの、えっと、細かい、じゃない、大きめのものをすって渡して、「これ、使ってくださいね」とか、「私のしゃべり方、大丈夫ですか」とか言われると、なんかすごくやる気が出てくるというところで、単なる授業の補助者じゃなくて、先生の重要なパートナーとしてテイカーさんがいるっていうことが受け止められたことが、すごく、何て言うのかな、あの、自分の気持ちとしてやる気が上がりました、みたいな話があったんで、うん、そういったところが一つの工夫かなと思ってますね(A7:17-18)。 ・支援、支援室はあるんですけど、やっぱりその支援室だけが全てを担うのではなくて、全ての大学の中にいる人、全ての人が、障害学生支援に関わってもらえるっていうような障害学生支援の在り方がいいなっていうのは、まあ、思うんですけど。そのために、FD研修とか、先生たちにも理解を広めるとかっていう活動もしていますし。まあ、うーんと、学生だけがやるとか、支援室だけがやるとか、障害を持ってる学生だけが頑張るとかじゃなくて、お互いに、こう、支え合いながらというか、協力しながら支援をしていけるっていうのができればいいなとは思ってます(A2:14)。 ・もっと上のなんか理想で、障害者と障害じゃない人が何も分け隔てなく別に存在する社会というふうに見るんであれば、あの、リーダーが何かをやらなくても、個人の気持ちが成長すればいいのかなと。何て言うか、下から上げていくって、ボトムアップですかね。っていうやり方もあると私は思いますが(A6:15)。 ・私は何を求めて入ったかなって考えたんですけど、何ていうか、居場所として求めていなくて、じゃあ、どういう居場所に……運営学生としてどういう居場所になったらいいと思うかなって思ったときに、私は特支の学生じゃないからなおさらだと思うんですけど、特支の学生以外は、支援、特別な支援とかにつまり身近じゃないと思うんですね。だから、その入り口、考える入り口として機能して、居場所になればいいのかなって思いました(B1:7)。 ・支援室があって、その中でコーディネーターがいるっていうのを、やっぱり大学の他の人たちも知ってるので、例えば入試担当の人は、もしその障害のある受験生の情報が来たら、「ああ、じゃ、その支援室に渡せばいい」とか。あと、その、入る前から卒業するまでの流れみたいなものがこう、正式にできてきたなとは、うん(A2:7)。 理論的メモ ・時代は学生の自助努力から、法制度を根拠として支援が行われる体制となってきている。その良い面と悪いとはいかなくても以前と比べ薄くなってしまった面があることは確かなのだろうか ・なぜ支援がなかった時に、見かけた人が助けてあげるような形のほうが良かったと思うのだろうか? ・全学的な支援が必要ということだろうか。または教育的な意味での心配なのであろうか? ・隣の人を気にかける余裕がなくなっている? ・障害学生支援は障害学生支援組織がやればいいという風潮になることでなにが起きてしまうのだろうか?_日常生活で見かけたときの助け合いが減る?見かけても支援室の仕事だからしなくてもよいだったり、むしろ知識や技術のない自分ではしないほうが相手のためだ、支援室に任せたほうがよいみたいに考えてしまう可能性も? ・このことを防ぐために、望ましい支援コミュニティにはどのような機能、どのような存在であるとよいのだろうか? ・支援組織が支援を行うことと、誰もがお互いに助け合う行動をとれることが両立できている状態が望ましいとすると、支援コミュニティは何ができる? ・視野を広げる機能?お互いを知る機能?支援の ・支援に対する意識をコミュニティや学内など裾野を広げて行う。それによって支援コミュニティを頂点とした山形の意識が醸成できる? ・支援意識ってもっと具体的な単語で言い表せるのでは? ワークシート40 概念名 半径(100m社会)の可視化と体感 定義 普段生活していている社会というコミュニティを可視化し、どのような社会がよいか考える ヴァリエーション ・他のサークルと同じような形で、梅田さんがおっしゃったような形で、やっぱりこう、えっと、うん、手段としてはいろいろあるのかもしれないけども、目標としてはし障害あり・なしにかかわらず、えっと、まあ、何て言うのかな、お互いに暮らしやすい社会をつくっていくっていうところの一つの、あの、いろんな、何て言うのかな、トレーニングをしていく場所っていうところもあるので、サークルとの違いというところに関して言うならば、大学としてやっていかなくちゃいけない部分のコミュニティを持続していくというところも担いつつ、彼ら・彼女たちには、あの、理想、まさに今日の、何と言うか、理想的な社会のコミュニティということも考えていってもらうというところなのかな。ごめんなさいうまく表現できなくて(A7:21-22)。 理論的メモ ・社会の縮図としての支援コミュニティの機能?いろいろな人がいて、いろいろな関わり方があるということを体感する場? ・大人がいて、学生がいて、 ・身の回りの可視化? ・社会につながるという視点を入れたほうがいい ワークシート41 概念名 持続的な視点と取り組み・検証 定義 持続的な取り組みより、これまでの実践を検証し、支援コミュニティに必要な次の一手が見出すことができている ヴァリエーション ・障害学生支援の技術はもちろんのことだけれども、持続的な支援をしていくというところで、大人のマンパワーは必要じゃないかなと、僕は思ってます。うん。障害学生支援の技術はもちろんのことだけれども、僕の意見としては、時代は一歩進んだかなと思っていて、逆に、大学の支援室の役割が、学生間の状況を仲介することによって(A7:15)。 ・まあ、その、職員だからできることっていうのはやっぱりあって、学生だけだったらどうしても、それこそいろいろな別の組織とつながるとか、お金を使えるとか。続けられるとか。学生はどうしても4年間とかで卒業して入ってとかを繰り返すのを、結局、ここは10年間ずっとこう、積み重ねができたりとか(A1:7)。 ・継続、理想に近づくために継続することも大事だなとは思っていて、そのテイクのPRの活動もだけれども、教職員に対する研修会も毎年毎年支援室で企画している。初めのころは、まあ、参加する人も職員だけとか、少なかったけれども、毎年ずうっとやって。まあ、いろんな学生がいるっていうのもあるけれども、ずうっとやってることでいろんな先生、職員、参加してくれるようになったし、昔に比べると、こう、障害に対して理解してくれる人も増えたなとは思うので、まあ、続けていくことも大事なことだなと……(A1:22)。 ・なんか、これからのことを説明するのは本当に難しいんですけど。今までのことを、こう、振り返ったときには 、まあやっぱりその、10年前に「ノートテイク」っていう言葉を言っただけで通じる人っていうのは限られていた。それが今は、もう誰に言っても「ああ」って言う。基本的な知識はみんな持ってくれているっていうのは、なんか、うん。だいぶなんかすごいなと思うし(A3:21)。 理論的メモ ・それに合わせて検証も必要なのではないだろうか ・今コミュニティがどういう状況、ステージにいて、次どのような手を打つとよいのかが考えられているプロセス 謝辞 本研究を行うにあたって、指導教員である白澤麻弓先生に、多くのご指導を賜りました。心身の不調から、分析の過程まで多くのご援助をくださりましたことに、心よりお礼申し上げます。 インタビュー調査にご協力いただいた各大学のコーディネーター、支援学生、聴覚障害学生の皆様のご協力がなければ研究を形とすることはできませんでした。心より感謝申し上げます。本研究が聴覚障害学生支援についてわずかでも一助となれますことを願っております。 大学院での生活について共に講義を受けたくさんの学びを交わした大学院の学友達、T-TACのスタッフの皆様、そして家族へ感謝の意を表し謝辞とさせていただでます。 令和2年2月 見山陽介