論 文 概 要 ○ 論文題目 足裏マッサージの基礎医学的研究 ○ 指導教員 技術科学研究科  保健科学専攻  野口栄太郎 教 授 ○ 副指導教員 技術科学研究科  保健科学専攻  藤井 亮輔 教 授 (所 属)  筑波技術大学大学院技術科学研究科保健科学専攻 (氏 名)  Noraini Azlin Binti Mohd Amin 目的: 足裏を対象とするマッサージは、「足裏マッサージ」「リフレクソロジー」や「足ゾーンセラピー」等様々な名称で呼ばれ世界各国で行われている。  足裏マッサージ(以下FM)の歴史は、1917年に医師である Fitzgerald W.H.博士がZone Therapy理論を発表したことに始まる。その理論を理学療法士の Ingham E.が臨床研究を基にReflexologyとして世界中に広めた。  海外では、Ernst E.による臨床研究を対象としたSystematic review(以下SR)が行われ、その結果として各種疾患への有効性を示唆するが臨床的証拠はないと結論づけている。我が国では、看護領域の研究者が数多くのSRを報告していて、生理的効果と心理的効果を認めている。  そこで本研究では、2つの実験を行なった。第1の実験はFMの神経性機序を解明する目的で麻酔動物を対象に鍉鍼を用いて足底の限局した部位への圧刺激が反射性反応を誘発するか否かを検討した。第2の実験は、ヒトをモデルとしてFMによる生理的反応を客観的に評価し臓器に対応したZoneの存在を実証する目的で実験を行った。 方法: 実験1:動物をモデルとした実験方法について、Wis t a r系雄性ラット(体重: 1 5 0~440g)22匹を用い、麻酔は8%イソフルランの吸引による非動化後ウレタン麻酔(urethane:1.5g/kg)の腹腔内投与で行った。人工呼吸下で、頸動脈より血圧・心拍数を、胃内圧をバルーン法にて測定した。鍉鍼による点状圧刺激は、先端が直径1mmの球体をした鍼治療用バネ式鍉鍼を改造して用い、押圧は100g、500g、1000gの3種類に設定した。さらに刺激部位は左第1・2足趾間および左右4・5足趾間間とし部位差の検討を設定した。 測定は、刺激前、刺激中、刺激後(30秒)、刺激後(60秒)の平均内血圧・心拍数及び胃内圧を計測し、この4群間を分散分析で比較し危険率5%で有意差を求めた。さらに神経性機序を検討する目的で、求心路および遠心路に関わる神経の切断を行った。(筑波技術大学動物実験委員会:承認番号29-1) 実験2:ヒトをモデルとした実験の対象と方法について、対象は同意を得た健常成人6名(27~63歳)に対し、客観的生理機能として左第5足趾の皮膚温・血流、左下腹部腸音、胸部ECGを測定した。FMは、左右の順序を入れ替えて各2回行った。実験は平成30年9~12月の室温21.8~26.1度の筑波技術大学大学院臨床研究室で実施した。生理機能測定は、FM前安静15分・左FM15分・刺激後安静30分間の連続測定を行った。また、次の7日目の同じ時間帯に左側で測定を行いながら、右FMを同様のプロトコルで行った。(同倫理委員会: 承認番号29-1) 結果:  実験1の結果:その結果500g以上の圧刺激で血圧上昇、心拍数は増加の有意な反応を示した。これらの反応に、足底の刺激部位の違いによる明確な差は観察されなかった。さらに、これらの反応は大腿・座骨神経の切断で消失し、迷走神経切断で胃内圧上昇が、大内蔵神経切断で血圧上昇が、交感神経心臓枝の切断で心拍上昇が消失した。胸髄部の切断の結果全の反応が消失した。  実験2の結果:左第5指足趾の平均血流量は15.0-20.4%と減少後上昇に転じた、右FMでは34.4~89.2%の上昇を示すが両者共にバラツキが著しかった。腸音は、刺激中6.61%減少し後にもとの値に復する変化を示した。心電図から解析したHRVのうち、心臓に対応するゾーンが存在する左FMで交感神経活動の指標と成るLF/HF比が統計学的に有意に増加した。 考察:  麻酔動物と覚醒したヒトを用いた2つの実験の結果から、FMをモデル化した麻酔ラット足底への点状刺激は坐骨神経と大腿神経切断実験により、FMは体性感覚神経から入力されて、迷走神経、内臓神経、交感神経心臓枝の複数の自律神経を遠心路とした反射性反応であることを明らかにした。また、脊髄を胸椎部で切断すると全ての反応が消失する事から、この反応は上脊髄を介した体性―自律神経反射と考えられた。  さらに、ヒトをモデルとした実験では左FMにより心電図の交感神経活動の指標であるLF/HF比が有意に増加し、心臓交感神経活動が亢進する反応が認められた。このことから、麻酔ラットでは認められなかった、左足に特異的に位置する心臓の刺激Zoneの存在の可能性が示唆された。 結論:酔動物の実験で、FMは体性感覚神経を求心路として複数の自律神経を遠心路とする上脊髄性の反射性反応であることが証明された。 ヒトの実験では、左足に特異的に位置する循環器への刺激Zoneの存在の可能性が示唆された。