論 文 の 要 旨 あん摩マッサージ指圧師養成課程の臨床実習における評価について -アンケート調査と臨床指導実践での評価チェックシート試案活用を通して- 平成29年度 筑波技術大学大学院 修士課程 技術科学研究科 保健科学専攻 郡 拓也 指導教員 緒方 昭広 Ⅰ 目的 あん摩マッサージ指圧師養成学校における校内臨床実習の教育内容と評価方法の現状を明らかにするとともに、各校指導者の意見を取り入れた教材の提案・臨床指導実践での試用を通してあん摩マッサージ指圧臨床実習評価の標準化に向けた「あん摩マッサージ指圧臨床実習評価チェックシート」を作成することである。 Ⅱ 方法 あマ指師養成を行う88施設(盲学校・視覚特別支援学校59施設、視力障害センター5施設、専門学校23施設、大学1施設)の臨床実習担当教員を対象に、以下の手順で研究を実施した。 1.あマ指校内臨床実習評価の実態に関する基礎資料作成を目的としたアンケート調査 の実施:88施設に対し、質問紙によるアンケート調査を実施した。質問紙は、Ⅰ~Ⅵの6領域・全23の質問から構成される。 2.臨床実習評価チェックシートの試案に関する調査:45施設に対し、チェックシート試案についてのアンケート調査を実施した。試案は、A:施術前チェック8問、B:施術中チェック16問、C:施術後チェック5問の全29問から構成され、各項目を4段階で評価する。 3.臨床指導実践におけるチェックシートの活用(あマ指校内臨床実習におけるチェックシートのモニター使用):12施設に対し、チェックシートおよび事後アンケート調査を実施した。 Ⅲ 結果 1.基礎資料作成に向けたアンケート調査 回収率:88校中52校(59.1%) 指導内容では実習で重点的に習得させたい能力としてあマ指技術、コミュニケーション能力、問診技術、身だしなみ・接遇、衛生管理能力が挙げられた。 成績評価対象項目について、あマ指技術・コミュニケーション能力は86.5%、問診技術は82.7%、検査技術は80.8%、身だしなみ・接遇は76.9%、衛生管理能力・カルテ管理能力は73.1%が成績 評価対象としている。また、それらの評価方法として目視・触察が最も多く取り入れられていることがわかった。 評価者は、臨床実習担当教員のみ51.9%、臨床実習担当教員と実習助手26.9%であった。また、評価者が視覚障害を有する場合の評価方法の工夫では、触察・会話・晴眼者の補助を活用する47.6%であった。 項目別評価基準の有無と使用状況について、基準があり現在使用していると回答した学校は52校中32校(61.5%)であった。項目別評価基準の必要性については、80.8%が必要と感じており、73.1%の学校に評価チェックシートのニーズがある。 事前指導は96.2%で実施され、実習へのスムーズな導入、技術水準の確認を目的に実施されている。方法としては、オリエンテーション100.0%、実技試験70.0%、OSCE22.0%等であった。 2.チェックシート試案に関する調査 回収率:45校中35校(77.8%) 試案に対する意見として、評価基準の簡略化、身だしなみに関するチェック項目の統合・表現に関する意見、項目の精選に関する意見等があった。 3. 臨床指導実践におけるチェックシートのモニター調査 回収数:12部 使用時の補助等については、83.3%が臨床実習担当教員単独で使用し、受付担当者や実習助手に依頼した例は16.7%であった。83.3%がチェックシートは学生・生徒の指導に役立つと回答した。 チェック項目の数について、83.3%がちょうどよいと回答した。使いやすさについて、50.0%が使いやすいと回答した。適切な使用場面として、66.7%が臨床実習前試験時、50.0%が定期試験時、41.7%が平常の臨床実習と回答した。 ストレスなく使える使用頻度は、58.3%が各学期に1回程度と回答した。 使用感や課題点等について、肯定的な意見として「形成的評価に活用可能」、「項目は妥当である」との意見があった。課題として、評価対象能力に対する設問数のバランスの再考、使用マニュアルの作成等が必要であるといった意見が挙げられた。 Ⅳ 考察 1.基礎調査 習得させたい能力ではあマ指の技術とともに身だしなみ・接遇、コミュニケーション能力、問診技術、衛生管理能力の優先度が高かった。直接患者に触れる時間の長いあマ指治療の特性を考慮すれば結果は妥当であると考える。各能力の評価方法として目視・触察が多用されている。この方法は簡便であるが、評価者の経験値や主観が影響されやすい短所がある。主観的感覚が重視されるあマ指施術の特徴や、評価者が同時に複数の学生を指導及び評価しなければならない実情を踏まえると、目視・触察を中心にしながら、養成校間で共通の評価教材を用いることによる標準化を目指す必要があると考える。 2.チェックシート試案に関する調査 施術中チェックの問診、検査の解釈について、臨床実習では基礎実習や臨床医学系の科目で習得した能力を実際の患者に適切に応用する力を評価する必要があるため、詳細な評価は基礎実習・臨床医学系科目の段階で行うべきと考える。また、施術後チェックの運用については、各校の時間割編成等の実態に合わせた項目の活用が望ましいと考える。 3.臨床指導実践における教材のモニター調査 チェックシート試用に際しては、83.3%が教員単独で使用している。視覚障害を有する教員は、点字・拡大文字・テキストデータを活用して単独使用が可能となったと考えられる。学生・生徒の指導に役立つかの問いに対しては、83.3%が役立つと回答した。基礎調査、シート試案作成の段階から今回のモニター使用協力校の教員と意見交換を行ってきたことが関係していると考えられる。適切な使用頻度について58.3%が各学期1回としている。使いやすさでは一定の評価を得たと思われ、平常臨床実習で活用するには、1週間に1回~学期に1回の幅で各校の実態に応じた活用が望ましいと思われる。臨床前指導や定期試験の補助教材としても活用可能と考えられる。評価チェックシートが今後多くの実習での活用を通して議論されることで、あん摩マッサージ指圧臨床実習評価の標準化に貢献できると考える。 Ⅴ 結論 1.あん摩マッサージ指圧師校内臨床実習評価に関する調査の結果から、各校のあん摩マッサージ指圧臨床実習で指導者が重点的に指導している教育内容とその評価方法を明らかにすることができた。 2.あん摩マッサージ指圧臨床実習評価の標準化に向けて、活用可能な「あん摩マッサージ指圧臨床実習評価チェックシート」を作成することができた。