平成29年度 技術科学研究科 保健科学専攻 修士論文 はり基礎実習における筋に対する鍼通電の皮膚温変化を指標とした教育評価基準の作成に関する研究 国立大学法人 筑波技術大学大学院 技術科学研究科 保健科学専攻 鍼灸学コース 久保田 朋子 〔要約〕 1.背景 現在、はり師・きゅう師養成学校において、はり基礎実習での実技評価方法は各学校・養成施設もしくは実技担当者に任されており、統一された評価基準はない。実技指導における、筋に対する鍼通電刺激の評価方法としては、従来から通電時の筋収縮の有無を用いることが多いが、通常治療で用いる時間通電をした後の生体反応を指標として評価することは少なかった。 2.目的 本研究の目的は、はり師・きゅう師養成学校におけるはり基礎実習での筋に対する鍼通電刺激(筋パルス)の教育評価基準を作成することである。 3.方法 本研究の目的を遂行するために4つの研究を行った。 (1)下腿前面部(前脛骨筋)に対する鍼通電刺激による皮膚温、皮膚血流量、筋血液量と瞳孔直径の変化を観察し、教育評価基準として利用できるか検討した(研究1)。 (2)はり基礎実習の授業において客観的な教育評価基準として、皮膚温変化を用いることの妥当性を検討した(研究2)。 (3)皮膚温変化を客観的な教育評価基準として構成された教育評価基準表を作成し、授業実践を実施した。(研究3)。 (4)研究3で作成した教育評価基準表を全国のはり師・きゅう師養成学校へ送付し、教育評価基準表の利用可能性及びはり基礎実習の評価方法の実態を検討した(研究4)。 研究1は、男子学生15名(平均年齢24.9±1.0歳)を対象に行った。手順は、安静仰臥位20分後に介入刺激(鍼通電10分間、無刺激10分間)を行い、刺激後30分間を観察した。刺激は、長さ40㎜・太さ0.2㎜の単回使用毫鍼(セイリン社製)を用い、鍼通電群には、鍼通電刺激を足三里穴(ST36)と条口穴(ST38)に1Hz・10分間通電を行った。鍼通電装置はオ-ムパルサ- (LFP-4000A 全医療器社製)を用いて行った。測定装置は、瞳孔直径を瞳孔計(ET-200 ニューオプト社製) 、筋血液量を近赤外線分光法Tissue SO2/Hb Monitor (PSA-ⅢN Biomedical Science社製) 、皮膚血流量をドップラ-血流計(ALF 21D Advance社製)、皮膚温をサ-モグラフィ(JTG-5310 日本電子社製)で観察した。測定部位は、足三里穴(ST36)と条口穴(ST38)を結んだ中点で皮膚血流量、それより上部で筋血液量、下部で皮膚温を測定した。 研究2は、学生14名(平均年齢23.5±2.7歳)を対象とし、測定手順、鍼通電刺激方法、皮膚温測定部位は、研究1と同様に行った。測定装置は、皮膚温計 (TH-200 鈴木医療器社製)で観察した。 研究3では、皮膚温を客観的な指標とした教育評価基準表を独自に作成した。次に、専攻科理療科2年生2名を対象とし、作成した評価基準表を用いて、はり基礎実習の授業において鍼通電(筋パルス)の教育目標である鍼通電刺激の知識・技術を習得したのち、測定手順に従って皮膚温変化を観察する実習を行った。研究手順は、実技前に事前に生徒に配布し、実技後に回収し、次の授業までに授業担当者間で評価し、生徒へ返却した。さらに実技後に再評価した。皮膚温測定は、鍼基礎実習中に実習ペアを組み、学習した鍼通電を行った。皮膚温の観察、鍼通電方法、測定装置は、研究2の測定手順と同様とした。 研究4は、研究3で作成した教育評価基準表及び調査票をあん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師養成学校(視覚特別支援学校・盲学校、視力障害センター、鍼灸学系専門学校、鍼灸学系大学)116施設のはり実技担当教員に調査票を郵送し、回答後返送してもらった。 調査対象は、公益社団法人東洋療法学校協会加盟校42校、文部科学大臣指定(認定)医療関係技術者養成学校一覧の特別支援学校及び国立視力障害センター等視覚障害者を教育対象とする養成学校64校、鍼灸学系大学協議会10校とした。また、除外基準は、あん摩マッサージ指圧師のみの養成学校、東洋療法学校協会加盟校に所属していない鍼灸養成学校とした。調査票の内容は、研究3で作成した教育評価基準表に対する評価を含む「はり基礎実習指導の中での低周波鍼通電療法に関する調査」に関する8項目で構成され、回答方式は選択式と記述式を組み合わせた方法とし、所要回答時間が約10分の質問紙を独自に作成した。 統計解析は、研究1および研究2については、鍼通電刺激前をベースに一般線形モデルによる多重比較(Fisher LSD)で行い、研究1について刺激群と無刺激群の経時的な変化の間を一般線形による二元配置分散分析を行った。有意判定は、危険率5%とした。研究4は、調査票の内容を記述統計した。自由記述式の項目は、記述内容をコード化し内容の単純集計を行った。3群間「視覚特別支援学校・盲学校、視力障害センター(A)、鍼灸学系専門学校(B)、鍼灸学系大学(C)」の比較は、教員歴、臨床歴、鍼通電教育時間、鍼通電対象部位数(筋肉・末梢神経・関節)などの各項目をFisher(LSD)を用いて多重比較した。 研究1から研究4は、筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:H28-01、H29-2)。 4.結果 研究1では、前脛骨筋部の鍼通電(筋パルス)刺激によって瞳孔直径は縮小し、筋血液量及び皮膚血流は増加し、無刺激群との2群間の経時的変化の間に交互作用はなかった。皮膚温は上昇し、無刺激群との2群間の経時的変化の間に交互作用があった。したがって、はり基礎実習における教育評価基準を作成するための評価指標として、皮膚温を指標にできることが示唆された。 研究2では、はり基礎実習の授業において教育評価基準として、皮膚温変化を用いることの妥当性が示された。 研究3では、皮膚温変化を客観的な指標として構成された教育評価基準表は、授業実践で活用することができた。今後の課題としてカリキュラムとの整合性、項目の精選が必要であることが示された。 研究4では、皮膚温変化を教育評価基準として構成された、著者の提案する教育評価基準表は、今後、多くの先生方の意見を受け洗練させることで、全国のはり師・きゅう師養成学校で教育評価基準表として利用できる可能性が示された。 5.まとめ 本研究で、教育評価基準としての皮膚温上昇を中心とした、はり師・きゅう師養成校におけるはり基礎実習での筋に対する鍼通電刺激(筋パルス)の教育評価基準表を作成し、授業実践、全国のはり師・きゅう師養成学校への調査を通じて、一定の利用可能性が示唆された。 目次 要約 1-3 第1章 緒言 1.背景 1.1. はり基礎実習における教育評価基準の必要性 6 1.2. はり基礎実習における筋に対する鍼通電刺激の教育評価基準 7 1.3. 鍼刺激及び鍼通電刺激による自律神経機能への影響 7-9 2.目的 9 第2章 鍼通電刺激による下腿前面部(前脛骨筋)の皮膚温・皮膚血流量、筋血液量と瞳孔直径の変化 1.目的 10 2.方法 10-11 3.結果 11 4.考察 12 5.小括 13 第3章 はり基礎実習における筋に対する鍼通電刺激の皮膚温を指標とした教育評価基準の妥当性 1.目的 14 2.方法 14 3.結果 15 4.考察 15 5.小括 15 第4章 はり基礎実習における筋に対する鍼通電刺激の教育評価基準表の作成と授業実践 1.目的 16 2.方法 16-17 3.結果 17-18 4.考察 18-19 5.小括 19 第5章 はり基礎実習における鍼通電の教育および評価方法に関する調査 1.目的 20 2.方法 20-21 3.結果 21-23 4.考察 23-24 5.小括 24 第6章 課題と展望 25 第7章 まとめ 26 謝辞 27 参考文献 28-30 図表 31-60 第1章 緒言 1.背景 1.1. はり基礎実習における教育評価基準の必要性 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第2条により認定されるはり師国家試験受験資格を与える学校・養成施設(以下、「はり師・きゅう師養成学校」とする。)においては、はり基礎実習において実技能力を客観的に評価した上で、生徒・学生・利用者を臨床実習の段階へ送り出すことが求められている。 しかしながら、これまで、はり師・きゅう師養成学校において、はり基礎実習での評価方法は統一されておらず、各はり師・きゅう師養成学校もしくは、実技担当者に任されているのが現状である。単刺術を対象とする教育評価方法としては、森ら1)の『鍼灸基礎ノート』、東洋療法学校協会の「はりきゅう実技評価委員会」のはりきゅう実技評価2)などがあるが、これらははり師・きゅう師養成学校間での統一された教育評価とまでは至っていない。 はり実技において評価基準を用いた研究としては、遠藤ら3)による報告がある。日本鍼灸手技療法教育研究会で作成した鍼実技評価表を用いて49名の実技試験に対して2名の教員が評価を行った結果、鍼実技評価表は、スクリーニング機能を十分に果たしており臨床前評価法の目安となるとしている。また鍋田ら4)は、85校(返信率53.5%:85/159)の教員238名(専門学校教員100名:30校、大学教員28名:7校、盲学校・視覚特別支援学校、視力障害者センター110名:34校)を対象に、同一の実技試験映像に対して独自に作成した評価表を用いて評価を依頼した結果、養成校による評価の相違、複数教員での評価の差が現れたことを報告している。 厚生労働省医政局が平成28年1月18日から9月12日の間に実施したあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師学校養成施設カリキュラム等改善検討会において取りまとめられた報告書5)には、国民の信頼と期待に応える質の高いあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師を養成するため、臨床実習の充実のための方策が盛り込まれており、さらに、今後の課題として、臨床実習前の学生の評価について、全国統一の基準による評価とすべきとの意見があり、将来的には卒業の判定に当たって、実技能力の審査制度の導入が望まれると指摘している。 以上より、現状においては、はり師・きゅう師養成学校間での統一されたはり基礎実習教育評価基準は存在しないものの、近い将来、はり師の質の向上のために、全国統一の教育評価基準が必要とされることが予想されることから、早期に教育評価基準を作成することが求められるといえる。 1.2. はり基礎実習における筋に対する鍼通電刺激の教育評価基準 1.1.において、はり基礎実習において全国統一の教育評価基準が必要であることを論じた。そこで述べたように、はり基礎実習の教育評価基準としては単刺術についての教育評価基準は存在するが、筋に対する鍼通電刺激(筋パルス)についての教育評価基準はない。鍼通電刺激は、文部科学省所管の学校においては、特別支援学校高等部学習指導要領(平成21年3月告示)および解説に、特殊な鍼法の区分内に低周波鍼通電療法として記載がある。 実際に鍼通電を治療手段として使用している者の割合は、小川ら6)によると2011年に医道の日本誌の購読者に対して、無作為に1,000人を抽出した中で有効回答383人のうち、主に使う鍼の治療手段のうち使用頻度の高い順に第1位にあげているのが鍼55.4%(212人)、鍼通電1.8%(7人)、第2位にあげているのが鍼18.5%(71人)、鍼通電5.2%(20人)、第3位にあげているのが鍼8.1%(31人)、鍼通電11.0%(42人)、第4位にあげているのが鍼3.9%(15人)、鍼通電4.7%(18人)と報告している。鍼の治療手段として鍼通電を第1位から第4位に挙げている人を合計すると22.7%(87人)となる。 以上より、鍼通電刺激は、鍼治療と併用または鍼治療で効果がなかった場合などに使用されており、治療手段として一定程度普及していると考えられることからも、筋に対する鍼通電刺激をはり基礎実習で指導する必要性および、教育評価基準が必要であると考えられる。 次に、筋に対する鍼通電刺激の教育評価基準を定めるためには、筋に対する鍼通電刺激の生体への影響を客観的に数値化できる指標が必要となる。主観的評価のみでは評価者による差が発生すること、評価の公平性の担保が困難であることから、客観的な教育評価基準が望ましいと考えられる。 では、筋に対する鍼通電刺激の教育評価基準として何を指標とすべきだろうか。教育現場においては、著者の学生時代から教員時代を含めた経験では、通電した際に目的の筋が収縮していることをもって、筋に対する鍼通電刺激成功とみなすことがほとんどであった。その際、通電して数秒から長くても2~3分で終了するため、はり基礎実習の授業において、通電による生体への影響を観察した(させた)経験はない。そのため、筋収縮を指標とした場合、通電開始時の評価しかできず、通電中に痛覚や刺激感覚を伴うことによる通電効果の減弱までをフォローすることができないため、鍼通電刺激開始時の評価はできても、鍼通電刺激による生体への影響を評価することができない。すなわち、鍼通電による生体への刺激量が適切であることによって現れる治療効果を指標とすることが望ましいと考えられる。これまでに、鍼刺激及び鍼通電刺激による生体への影響を観察する測定指標として、皮膚温、皮膚血流量、筋血液量などについて報告されている7)。 1.3. 鍼刺激及び鍼通電刺激による自律神経機能への影響 鍼刺激及び鍼通電刺激による生体への影響について過去の論文を検討するとともに、何が適切な測定指標となり得るかを考察する。 自律神経機能への影響については、心拍数、血圧、瞳孔直径、皮膚温、皮膚血流量、筋血液量について論じられている。 鍼刺激の心拍数への影響は、交感神経機能の抑制、副交感神経機能の亢進、またいずれか一方が惹起することで心拍数の減少が起きると報告されている8-15)。すなわち、鍼刺激が単純な痛み刺激とは異なることがわかっている。 鍼刺激および鍼通電刺激が血圧に及ぼす影響については降圧効果を認めたという報告16-22)が多く、鍼治療に一定の降圧効果が期待される。一方鍼通電刺激後に血圧が上昇したという報告23-24)もある。 瞳孔直径については、鍼刺激によって縮瞳が得られたことが報告されており25-30)、これは副交感刺激を介した機序が推定されている。 鍼通電刺激による皮膚温・皮膚血流量・筋血液量への影響については、僧帽筋、腰部脊柱起立筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋への筋パルスによる皮膚温、皮膚血流および筋血液量の反応を検討した報告がある7,31)。その結果、鍼通電刺激後に、各筋部の筋血液量・皮膚血流量の増加・皮膚温上昇を示した。一方、皮膚温、皮膚血流の反応は、刺激部位によって異なる反応を示したと報告されている7,31)。すなわち皮膚温は、僧帽筋、腰部脊柱起立筋、大腿四頭筋(大腿直筋) への鍼通電刺激(1Hz、5分間)によって該当筋の表層の皮膚温は上昇したが、下腿三頭筋(腓腹筋)への鍼通電刺激では、該当筋の表層の皮膚温に変化がなかった。また、通電による皮膚温の変化を検討した報告としては、両側の足三里(ST36)と上巨虚(ST37)へシャム鍼(SA)、手技鍼(MA)、電気鍼(EA)、およびTENSによる刺激を加えた報告があり32)、その結果、手背皮膚温の刺激前と刺激中変化でEAがSAとMAに比べ大きな変化を示した。これらの鍼通電による変化は、局所の血流量、皮膚温を変化させ、中枢を介して遠隔部へ反応を示すと考えられている。これらの報告からは、筋に対する鍼通電刺激による生体への反応として各筋部の皮膚温・皮膚血流量・筋血液量は一定の条件下においては指標となると考えられる。 鍼通電の刺激条件としては、刺激時間、刺激強度、周波数があげられる33)。 まず、鍼通電の刺激時間の違いによる反応の影響について、森ら31)は、5分、10分、15分の3つの刺激時間による筋血液量、皮膚血流量への影響を検討している。筋血液量は5分、10分、15分のすべてにおいて増加が認められた。皮膚血流量は10分、15分において増加が認められた。また著者は、刺激時間5分間での前脛骨筋への鍼通電刺激による筋血液量および皮膚血流量の反応を検討した。その結果、筋血液量の増加を示したが、皮膚血流量の変化は認められなかった34)。また、刺激時間の違いによる皮膚温の反応を検討した文献は見られなかったが、皮膚血流量や筋血液量の上昇は皮膚温の上昇に影響を及ぼすと考えられている。これらの知見から、皮膚温・皮膚血液量・筋血液量を検討する際、鍼通電の刺激時間は10分以上で一定の反応が得られると考えられる。 次に、刺激強度・周波数に関しては、筋肉が単収縮する程度の刺激強度と周波数は1Hzが頻用されている35)。このことから、筋に対する鍼通電刺激の生体の自律神経機能への影響をみるためには、刺激時間10分、単収縮が起きる程度の刺激強度、周波数1Hzが最適であると考えられる。 なお、鍼通電刺激は、筋肉を単収縮させることで筋血管の血管収縮・拡張を通電中に繰り返す。この単収縮が筋循環のポンプ作用を促すことが考えられる。歩行時の筋肉の動きは、筋肉内の血流量を変動させることをSheriff DD36)が動物(ラット)で確認している。また、筋肉の収縮とストレッチの筋内血流量の変動を筋ポンプ作用として重要であることを示している37)。鍼通電刺激による皮膚温上昇には筋ポンプ作用による影響もあることが考えられる。 2.目的 本研究の目的は、はり師・きゅう師養成学校におけるはり基礎実習での筋に対する鍼通電刺激(筋パルス)の教育評価基準を作成することである。 (1)はり基礎実習における教育評価基準を作成するため、下腿前面部(前脛骨筋)に対する鍼通電刺激による皮膚温、皮膚血流量、筋血液量と瞳孔直径の変化を観察し、教育評価基準として利用できるか検討した(研究1)。 (2)はり基礎実習の授業において教育評価基準として、皮膚温変化を用いることの妥当性を検討した(研究2)。 (3)皮膚温変化を教育評価基準として構成された教育評価基準表を作成し、授業実践を実施した。(研究3)。 (4)研究3で作成した教育評価基準表を全国のはり師・きゅう師養成学校へ送付し、教育評価基準表の利用可能性及びはり基礎実習の評価方法の実態を検討した(研究4)。 第2章 鍼通電刺激による下腿前面部(前脛骨筋)の皮膚温・皮膚血流量、筋血液量と瞳孔直径の変化 1.目的 はり基礎実習における教育評価基準を作成するため、下腿前面部(前脛骨筋)に対する鍼通電刺激による皮膚温、皮膚血流量、筋血液量と瞳孔直径の変化を観察し、教育評価基準として利用できるか検討した(研究1)。 2.方法 (1)対象 ヘルシンキ宣言を遵守し、事前に研究の趣旨と概要を説明し、同意の得られた男子学生15名(平均年齢24.9±1.0歳)に行った。除外基準は、眼疾患、循環疾患を有しないものとした。なお、研究は筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て行った(承認番号 H28-01)。 研究対象者は、「1回目鍼通電刺激・2回目無刺激」(8枚)、または「1回目無刺激・2回目鍼通電刺激」(7枚)と記述された15枚のカードを1枚選択し、2つの介入〔1回目鍼通電刺激(N=8)・1回目無刺激(N=7)、2回目鍼通電刺激(N=8)・2回目無刺激(N=7)〕を行い、介入間隔を1週間以上あけて行った(図1A)。 (2)鍼通電刺激の方法 研究手順は、安静仰臥位20分後(Pre)に介入刺激(鍼通電10分間、無刺激10分間) (Stim., No-stim.) を行い、刺激後(post) 30分間を観察した(図1B)。 刺激は、鍼施術への40年の経験があり、鍼通電刺激に十分な経験をもっている鍼灸師が1人で行った。使用鍼は、長さ40㎜・太さ0.2㎜の単回使用毫鍼(セイリン社製)とした。刺激部位は、足三里穴(ST36)と条口穴(ST38)とした(図2A)。刺入深度は、筋肉内に到達する10mmから15mmの深さとした。鍼通電装置はオ-ムパルサ- (LFP-4000A 全医療器社製)を用いた。周波数と通電時間は1Hz・10分間通電、刺激強度は、痛みなく単収縮が起きる程度とした。 なお、対象部位は、筋に対する鍼通電刺激の初学者が学びやすいという観点から、安全性が高く技術的にも難易度の低いと考えられる下腿前面部(前脛骨筋)を選択した。 (3)測定方法および測定装置と測定部位 測定方法は、室温〔刺激群24.3±0.2℃、無刺激群24.3±0.2℃〕、湿度〔刺激群54.3±3.0%、無刺激群57.8±1.8%〕の条件下で行った。対象者は、膝部から下腿部、足部を露出した状態で仰臥位を保った。 測定手順は、安静仰臥位15分後から刺激前(Pre)、鍼通電刺激中5分後(Stim.5)、刺激終了直後(post0)、その後5分間隔に5分後(post5)、10分後(post10)、15分後(post15)、20分後(post20)、25分後(post25)、30分後(post30)に測定した。無刺激群も同様の測定手順で行った(図1B)。 皮膚温は、任意枠(1×1㎝)を下腿前面部に作成し、測定9時点のデータを測定解析した。皮膚血流量、筋血液量は、測定9時点の5分間を測定解析した。瞳孔直径は、測定9時点の5秒間を測定解析した。 測定装置は、皮膚温をサ-モグラフィ(JTG-5310 日本電子社製) 、皮膚血流量をドップラ-血流計(ALF 21D Advance社製)、筋血液量を近赤外線分光法Tissue SO2/Hb Monitor (PSA-ⅢN Biomedical Science社製)、瞳孔直径を瞳孔計(ET-200 ニューオプト社製)で観察した。 測定部位は、足三里穴(ST36)と条口穴(ST38)を結んだ中点で皮膚血流量、それより上部で筋血液量、下部で皮膚温を測定した(図2B)。ゴーグルタイプの測定部を顔面部(眼部)に装着し、暗順応下で瞳孔直径を測定した。 (4)統計解析 統計解析は、皮膚温、皮膚血流量、筋血液量、瞳孔直径の各群に対して鍼通電刺激前(Pre.)をベースに一般線形モデルによる多重比較(Fisher LSD)で行った。2群間の経時的変化の比較は、一般線形による二元配置分散分析で解析した。危険率は、5%とした。解析ソフトは、IBM SPSS Statistics Ver.22を用いた。数値は、平均値と標準誤差(SE)で表した。なお、効果量(dz)を、G power Ver. 3.1で求めた。 3.結果 (1)皮膚温 皮膚温は、Preに比べてpost5(p=0.015)、post10(p=0.002)、post15(p=0.001)、post20(p=0.002) 、post25(p<0.001) 、post30(p=0.001)で皮膚温が上昇した。無刺激群は変化がなかった。2群間の経時的変化の間に交互作用があった(p=0.001)(図3) 。 (2)皮膚血流量 皮膚血流量は、Preに比べてStim.5(p=0.005)、post0(p=0.002)、post5(p=0.028)、post15(p=0.046)で血流量が増加した。無刺激群は変化がなかった。2群間の経時的変化の間に交互作用はなかった(図3)。 (3)筋血液量 筋血液量は、Preに比べてpost0(p=0.008)、post20(p=0.032)、post25(p=0.049)で筋血液量が増加した。無刺激群は変化がなかった。2群間の経時的変化の間に交互作用はなかった(図3)。 (4)瞳孔直径 右側瞳孔直径はPreに比べてpost10(p=0.021)で縮小した。無刺激群は変化がなかった。2群間の経時的変化の間に交互作用はなかった(図4)。 左側瞳孔直径はPreに比べてpost10(p=0.025) で縮小した。無刺激群は変化がなかった。2群間の経時的変化の間に交互作用はなかった(図4)。 4.考察 はり基礎実習における筋に対する鍼通電刺激の教育評価基準の指標として、瞳孔、筋血液量、皮膚血液量、皮膚温が妥当な指標かを検討した。その結果、瞳孔径の縮小、筋血液量の上昇、皮膚血流量、皮膚温上昇が認められた。このうち、瞳孔径の縮小、筋血液量の上昇、皮膚血流量については、鍼通電群と無刺激群との経時的変化の間に交互作用がなかった。これは、鍼通電群が群内で有意な差を示すものの、無刺激群の血液量の経時的な変化パターンと類似していることを示している。しかし皮膚温では、鍼通電群と無刺激群の経時的な変化パターンに交互作用を示した。すなわち、無刺激での皮膚温では経時的な変化が得られず、鍼通電刺激では経時的な変化が得られた。また、皮膚温の効果量(dz)は、刺激群20.5%、無刺激群4.5%、皮膚血液量の効果量(dz)が刺激群18.6%、無刺激群3.0%、筋血液量の効果量(dz)が刺激群0.9%、無刺激群0.8%、右側瞳孔の効果量(dz)が刺激群18.1%、無刺激群14.4%、左側瞳孔の効果量(dz)が刺激群14.4%、無刺激群11.1%と皮膚温の刺激群で効果量が高かった。以上より、筋に対する鍼通電刺激の生体の自律神経反応を観察するには、皮膚温上昇を指標とするのがよいと考えられる。 以上の変化について機序を考察する。 物理的刺激による実験動物での遠隔部に対する反応は、体性-自律神経反射によるものと検証されている38)。すなわち、体性-自律神経反射によって副交感神経機能の興奮または交感神経機能の抑制、あるいはその両方が全身性に起こると考えられる。 鍼刺激における縮瞳反応の報告は、Mori, et al.39)が鍼刺激(浅刺・呼気時・坐位の刺鍼法)による暗順応及び明順応で鍼刺激後に起きると報告している。瞳孔を支配している自律神経機能は、副交感神経機能が有力である40-41)。本研究の鍼通電刺激が縮瞳反応を起こし、Mori, et al28)の報告で心拍数減少とともに縮瞳を報告していることから、本研究の縮瞳も類似した反応と考えられる。従って鍼通電刺激による縮瞳反応は、副交感神経機能の亢進によるものと考えられる。 皮膚温上昇については体性-自律神経反射による交感神経機能の抑制によって皮膚末梢血管が拡張し、皮膚の循環改善が起きることで皮膚温が上昇すると考えられる。 また、局所の血流量、皮膚温に対する反応のメカニズムは、Sato Aらによって軸索反射として報告されてきている38)。鍼刺激による動物の皮膚に対する末梢性機序の血管拡張の変化は、神経終末から血管拡張物質であるサブスタンスP やカルシトニン遺伝子関連ペプタイド(CGRP:calcitonin gene related peptide)が放出されることが確認されている38,42-44)。また鍼通電は、通電対象の筋を単収縮させることで筋血管の血管収縮・拡張を通電中に繰り返す。この単収縮が筋循環のポンプ作用を促していると考えている。 以上のことから、筋に対する鍼通電刺激の生体への影響の機序としては、体性-自律神経反射による中枢を介した遠隔部への生体反応、軸索反射によって起きる局所の生体反応、筋収縮によるポンプ作用など多因子によるものと考えられる。 5.小括 はり基礎実習における教育評価基準を作成するための評価指標として、皮膚温を指標にできることが示唆された。 第3章 はり基礎実習における筋に対する鍼通電刺激の皮膚温を指標とした教育評価基準の妥当性 1.目的 第2章において、はり基礎実習における評価基準として皮膚温を指標とできることを論じた。 次に、はり基礎実習の授業において教育評価基準として、皮膚温変化を用いることの妥当性を検討した(研究2)。 2.方法 (1)対象 事前に研究の趣旨と概要を説明し、同意の得られた学生14名(男性12名、女性2名)、平均年齢23.5±2.7歳に行った。研究対象者が、鍼通電(筋パルス)の教育目標である鍼通電刺激の知識、技術を習得したのち、測定手順に従って皮膚温変化を観察する目的で授業時間中に行った。なお、研究は筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て行った(承認番号H28-01)。 (2)研究手順 研究手順は、はり基礎実習中に実習ペアを組み、学習した鍼通電を行った。皮膚温の観察は、安静仰臥位15分後から刺激前(Pre)、鍼通電刺激中5分後(Stim.5)、刺激終了直後(Post0)、その後5分間隔に5分後(Post5)、10分後(Post 10)、15分後(Post 15)、20分後(Post 20)、25分後(Post 25)、30分後(Post 30)に測定した。 (3)鍼通電刺激方法 使用鍼、刺激部位、刺入深度、鍼通電装置、周波数、通電時間、刺激強度は、研究1と同様とした。使用鍼は、長さ40㎜・太さ0.2㎜の単回使用毫鍼(セイリン社製)とした。刺激部位は、右足三里穴(ST36)と右条口穴(ST38)とした(図2A)。刺入深度は、筋肉内に到達する10mmから15mmの深さとした。鍼通電装置はオ-ムパルサ- (LFP-4000A 全医療器社製)を用いた。周波数と通電時間は1Hz・10分間通電、刺激強度は、痛みなく単収縮が起きる程度とした。 測定装置は、皮膚温計TH-200(鈴木医療器社製)を用いた。(図5-A)。測定部位は、足三里穴(ST36)と条口穴(ST38)を結んだ中点で皮膚温を測定した(図5-B)。 室内環境は、室温24.3±0.3℃、湿度31.5±0.8%であった。 (4)統計解析 統計解析は、鍼通電刺激前(Pre)をベースに一般線形モデルによる多重比較(Fisher’s LSD)で危険率5%とした。統計解析は、IBM SPSS Statistics Ver.22を用いた。数値は、平均値、標準誤差(SE)とした。 3.結果 (1)皮膚温変化 ベース(Pre)30.6±0.3℃に比べて刺激中(Stim.5)31.1±0.3℃(p=0.018)、Post 0 31.4±0.3℃(p=0.002)、Post5 31.6±0.3℃(p=0.001)、Post10 31.7±0.4℃(p<0.001)、Post15 31.5±0.4℃(p=0.001)、Post20 31.5±0.4℃(p=0.003)、Post25 31.4±0.4℃(p=0.006)、Post30 31.6±0.4℃(p=0.003)で皮膚温が上昇した(図6)。 (2)変化率からみた皮膚温変化の判定基準 表1は、通電前(Pre)をベースに個々の皮膚温変化を変化率「⊿%=(stim. 5・Post 0~30)-Pre/Pre×100」で表したものである。 各時点の平均値(average: Av)から信頼区間(confidence interval: CI)を引いた値を基準値とし、その値より大きい値を示したものを皮膚温が上昇と判定とした。各時点の平均値から信頼区間を引いた値(Av-CI)の平均値は、1.26⊿%であった。 4.考察 皮膚温のcutoff値では、刺激後30分以内に皮膚温変化が刺激前(Pre)に比べて1.26⊿%以上あれば、鍼通電によって皮膚温変化があったと判定できた。対象者14名中10名、つまり71.4%で1.26⊿%以上の皮膚温の上昇を観察したことから、教育現場において教育評価基準として皮膚温変化を用いることに一定の利用可能性があると考えた。 なお、皮膚温上昇が基準値1.26⊿%を下回った4名の学生については、鍼通電実技の操作に誤りがないか一つ一つ確認し、本人へフィードバックし、操作の誤りを一つ一つスモールステップで解決していく必要がある。その際、学生がどの段階でつまずいているのか、そのつまずきは前提となる解剖学的知識の不足によるものなのか、それとも触察能力の不足なのか、それとも刺鍼技術の課題であるのか、いずれの段階にあるのかを正確に教師が把握し、それを当人に気付かせることが肝要である。そのためには、鍼通電手技に必要な要素を細分化し、段階毎に項目が示された評価表の存在が教師にとっても学生にとっても有用となると考えられる。 これらの再教育をクリアした上で、再度、皮膚温測定を行うことが望ましい。しかし、再教育において鍼通電刺激の操作に何ら問題点が見つからない場合、学生側の操作の問題ではなく、患者役の反応性の個体差、その時の状態等が影響することは否めない。そこで、再度の皮膚温測定時には、患者役の反応性を考慮に入れ、基準値以上の皮膚温上昇が現れた生徒もしくは教員を対象として測定を行うことで、公平性を保てるものと考える。 このことから、はり基礎実習の授業において皮膚温変化を教育評価基準として用いる際には、これらの問題点を考慮に入れる必要があると考えられた。 5.小括 はり基礎実習の教育評価基準としては、皮膚温変化を用いることの妥当性が認められた。 第4章 はり基礎実習における筋に対する鍼通電刺激の教育評価基準表の作成と授業実践 1.目的 第3章において、鍼通電手技に必要な要素を細分化し、段階毎に項目が示された評価表が必要であることを論じた。評価表に基づいた合理的で効果的な教育指導を行うことで、短時間でより多くの教育内容を生徒に身につけさせることが期待されるとともに、生徒自身が実技操作上の目標や注意点を明確に捉えることが可能となる。これにより、学習内容の理解が深まることで、関心・意欲の向上による技術力の伸長および習得時間の短縮が期待される。 そのため、皮膚温変化を客観的な教育評価基準として構成された教育評価基準表を作成し、授業実践で用いることができるかを検討した(研究3)。 2.方法 (1)対象 鍼通電を学習する専攻科理療科2年生3名を対象のうち、事前に研究の趣旨と概要を説明し、同意の得られた対象者(生徒)2名に実施した。研究対象者は、鍼通電療法(筋パルス)の教育目標である鍼通電刺激の知識、技術を習得したのち、測定手順に従って皮膚温変化を観察する目的で、はり実技の授業中に実習および測定を行った。なお、研究は筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て行った(承認番号H28-01、H28-18)。 (2)研究手順 1)鍼通電刺激の教育評価基準表(表2) 鍼通電刺激の学習開始前に、予め生徒に評価基準表(添付資料は小さな文字となっているが、授業用には、弱視用として16ポイント程度)を配布した。これにより、アクティブラーニングとして、筋に対する鍼通電刺激実技の到達点と中間目標、および注意すべき点や努力すべき点を予め生徒に意識させた上で実技指導に臨んだ。 実技指導毎に評価基準表を回収し、次回の授業までに評価を教員が記入し、生徒へ返却をし、フィードバックを行った。 また、第6段階の6201効果測定(皮膚温変化の測定)については、通常の盲学校における授業時間内(1コマ授業(50分))では時間が不足するため、2コマ連続の授業(100分)で行った。 皮膚温測定後に、皮膚温測定による鍼通電実技の教育効果を調査するため、生徒を対象としたアンケ-トを行った(表3)。 2)皮膚温測定 測定手順は、はり基礎実習中に実習ペアを組み、学習した鍼通電を行った。皮膚温の観察は、安静仰臥位15分後から刺激前(ベース)、鍼通電刺激中5分後、刺激終了直後、その後5分間隔に5分後、10分後、15分後、20分後、25分後、30分後に測定した。 3)鍼通電刺激方法 刺激方法は、長さ40mm・太さ0.2mmの単回使用毫鍼(セイリン社製)を用いて、鍼通電刺激を右足三里穴(ST36)と右条口穴(ST38)に1Hz・10分間通電を行った。鍼通電装置はオ-ムパルサ- LFP-4000A(全医療器社製)を用いて行った(図5-A)。測定装置は、皮膚温計TH-200(鈴木医療器社製)で観察した。測定部位は、足三里穴(ST36)と条口穴(ST38)を結んだ中点で皮膚温を測定した(図5-B)。室内環境は、室温25.0±0.1℃、湿度30.5±0.1%であった。 4)評価法 表2の評価記載方法に沿って評価を行った。 なお、一度×がついた項目について、次回以降の授業で改善がみられた場合には○をつける。また、逆に一度○がついた項目について、次回以降に増悪がみられた場合には×をつけることもある。 3.結果 (1)皮膚温変化について 皮膚温変化は、対象者1が通電前31.1℃から通電中5分31.3℃、通電終了直後30.6℃、通電後5分後30.9℃、10分後30.7℃、15分後30.6℃、20分後30.7℃、25分後30.9℃、30分後31.4℃の変化であった。対象者2では、通電前32.3℃から通電中5分32.3℃、通電終了直後32.8℃、通電後5分後32.7℃、10分後33.2℃、15分後33.3℃、20分後32.6℃、25分後32.6℃、30分後33.1℃と皮膚温が通電前に比べて上昇した。 (2)皮膚温測定の教育効果について 生徒からは、皮膚温測定の後に行ったアンケートで以下の回答が得られた。 質問1に対しては、「2.あまり意義は理解できなかった」が1名、「3.意義は理解できなかった」が1名であった。 質問2に対しては、「1.わずらわしさを感じた」が1名、「2.どちらともいえない」が1名であった。 質問3に対しては、「2.どちらともいえない」が2名であった。 質問4に対しては、「2.どちらともいえない」が1名、「3.有益でない」が1名であった。 自由記述では、「痛かった」「施術足と非施術足と比較したほうが良いのでは」などの回答があった。 (3)教育評価基準表について 授業を担当しているもう1名の教員からは、以下の意見が出された。 ・漠然と「良い」「悪い」と大まかに評価するのではなく、個別具体的にどの項目ができていて、どの項目ができていないかを把握することができる。 ・授業において評価すべき項目が具体化されており、評価の見落としが少なくなる。 ・生徒ごとに重点的に指導すべき点を、指導者の間で共通理解しやすい。 ・項目数が多すぎるかもしれない。 4.考察 生徒を対象としたアンケートでは、「皮膚温測定の意義が理解できない」などの回答があった。これは、生徒が皮膚温測定と治療効果との関係、すなわち、鍼通電刺激による自律神経系への影響がきちんと理解できていなかった可能性が考えられる。今回の授業実践においては、測定実習の前に簡単に鍼通電刺激による自律神経系への影響について説明をしたのであるが、説明が不十分であり、生徒が理解できているかの確認が不足していたと言わざるを得ない。そこで、改善策の一つとして、生理学、鍼灸理論などの関連する座学の授業において関連分野の学習が行われた後に、本実習を行えるようにカリキュラム編成を工夫することが考えられる。さらに、もう一つの改善策として、生徒が理解していることを確認するため、教育評価基準表に「筋パルスにより該当筋の表層の皮膚温上昇が起こる機序が説明できる」との項目を新たに設けることが考えられる。挿入箇所としては、「第6段階の項目2の項目コード6201該当筋の表層の皮膚温を上昇させることができる。」の前に入れるのがよいと考えられる。アンケート結果より、実技指導においては、単に技術を習得させるのみならず、鍼通電刺激により期待される効果について考える力を身につけさせる必要性があり、鍼通電刺激による自律神経系に及ぼす影響について理解しておくことが、本実習を効果的に行うための前提(レディネス)であるといえる。 一方、教育評価基準表に対する指導者の意見からは、指導者間の実技指導に対する共通認識が深まることや実技指導項目が具体化できるなどはり基礎実習における筋に対する鍼通電刺激の実技指導に、教育評価基準表が貢献できたと考えられる。しかし、評価基準の項目数については、数が多いことを指摘されていることから、今後より多くの指導者からの意見をフィードバックし、項目数の精選・補充などの見直しをしていくことが必要であると考えられる。 今回の実習で皮膚温の有意な上昇がみられなかった生徒について考察する。皮膚温変化について、1名は上昇したが、1名では有意な上昇がみられなかった。皮膚温の有意な上昇がみられなかった学生については、アンケートの自由記述欄にあった「痛かった」との関連もあるものと考えられる。すなわち、通電中の痛み刺激により、交感神経機能が亢進したことで局所の皮膚血管収縮をもたらした可能性が考えられる。なお、通電開始時には実技を行った生徒は痛みの有無を患者役の生徒に尋ねているが、痛みを訴えていないことから、痛みは通電中に生じた可能性がある。つまり、通電開始時に筋収縮があるかないかを確認するだけでは、その後に発生し得る痛みによる治療効果の減弱を含めた治療効果の評価にはなっておらず、単に筋収縮が起きていることの確認しかできていない。一方で、皮膚温上昇を指標とすることは、通電開始時には見つけられなかった治療効果を低下させる因子を見つけ出すことに役立つ可能性がある。また、副次的な教育効果としては、鍼通電により過剰な痛み刺激を与えてしまった場合、皮膚温が低下することもあり得るという座学で学んだ理論を、実証体験することができたといえる。その上で、この経験を反省材料とし、患者に対して痛み刺激とならないように配慮するにはどうすればよいかを施術者として考えるための大事な学びの機会であるといえる。今回のように皮膚温上昇がみられなかった場合、失敗した結果を教育に活かせるかどうかは、その原因がどこにあるのか、どうすればそれが防げたのか、臨床ではどこに気をつければよいのかを生徒が考えられるように教師が適切に指導できるかにかかっているといえる。なお、対象のクラスにおいては、皮膚温測定実習の前段階としての通電実技の学習において、評価表の「第5段階の項目2の項目コード5208通電中に離席せず、すぐに刺激の強度を変更できる。」の達成を十分に確認できるだけの実習時間が確保できなかったことが、通電中に痛みを発生させてしまった原因の一つとして考えられる。しかし、授業実践を行った学校においては、鍼通電実技の学習時間として確保できるのは、1か所の実技に対して数時間という計画であるため、現実的には正規の授業時間内に何度も通電時間を確保することは難しい。このような授業時間との兼ね合いは全国的にも大きく変わらないことが想像されることから、通電中の不快な刺激の発生については、第6段階の皮膚温測定の際に学習しても良いと考える。また、皮膚温測定の結果をフィードバックし再教育するために時間を、予め年間指導計画上に組み込んでおくことも、実習を効果的に行うための前提条件であると考えられる。 さらに、今回の実践においては、弱視の生徒が対象であったため、教育評価基準表を各自の見やすい大きさとして16ポイント相当の文字の大きさで配布した。16ポイント相当は盲学校で配布する資料の文字の大きさとしては標準的であるが、それでも18ページ分に及んだ。視力の状況によっては24ポイント相当で配布する場合もあり、また点字化した場合にもかなりのページ数になることが容易に予想される。これらの解決のためには、表をデータでやりとりできるようなIT環境の整備やそのための成績に関わる個人情報の安全な保管体制が整備されることが必要であろう。 5.小括 皮膚温変化を客観的な指標として構成された教育評価基準表は、授業実践で活用することができた。今後の課題としてカリキュラムとの整合性、項目の精選が必要であることが示された。 第5章 はり基礎実習における鍼通電の教育および評価方法に関する調査 1.目的 皮膚温変化を教育評価基準として構成された教育評価基準表を全国のはり師・きゅう師養成学校へ送付し、教育評価基準表の利用可能性及びはり基礎実習の評価方法の実態を検討した(研究4)。 2.方法 (1)対象 対象は、あん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師養成学校(視覚特別支援学校・盲学校、視力障害センター、鍼灸学系専門学校、鍼灸学系大学)116施設のはり実技担当教員とした。各施設には調査票を郵送し、回答後返送してもらった。 本研究は、筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:H29-2)。 (2)調査方法 調査方法は、公益社団法人東洋療法学校協会加盟校(https://www.toyoryoho.or.jp)42校、文部科学大臣指定(認定)医療関係技術者養成学校一覧の特別支援学校及び国立視力障害センター等視覚障害者を教育対象とする養成学校(https://www.mext.go.jp)64校、鍼灸学系大学協議会(https://www.jsacu.jp)10校の合計116校に郵送した。また、除外は、あん摩マッサージ指圧師のみの養成校、東洋療法学校協会加盟校に所属していない鍼灸養成校とした。 調査票の内容は、第4章で作成した教育評価基準表(表2)に対する評価を含む「はり基礎実習指導の中での低周波鍼通電療法に関する調査」に関する8項目で構成される。回答方式は、選択式と記述式を組み合わせた方法とし、所要回答時間が約10分の質問紙を独自に作成した(表4)。 調査内容は、以下の通りである。基礎項目では、性別、年齢、所属、所有資格、教員歴、臨床歴とした。選択式の質問としては、「Q1. 低周波鍼通電療法を教育していますか(実習に取り入れていますか)?」、「Q2. 低周波鍼通電療法の評価基準を設定していますか?」、「Q3. 添付の評価基準(表2)を一読して、貴校でも使用したいと思いますか?」、「Q4. 添付の評価基準を一読して、内容が不十分と思いますか?」、「Q6. 通電部位について、筋肉、末梢神経、関節で実習をしているのはどこですか。」とした。自由記述の質問としては、「Q5. 添付の評価基準を一読して、ご意見があればお書きください。」、「Q7. 周波数と通電時間についてどのように教育していますか。具体的に記入して下さい。」、「Q8. 低周波鍼通電による鍼の腐食についてどのように教育していますか?」とした。 (3)統計解析 記述統計を行った。自由記述式の項目は、記述内容をコード化し内容の単純集計を行った。3群間「視覚特別支援学校・盲学校、視力障害センター(A)、鍼灸学系専門学校(B)、鍼灸学系大学(C)」の比較は、はり実技担当教員の年齢、教員歴、臨床歴、鍼通電の教育開始年次、鍼通電の教育時間、鍼通電の対象部位数(筋肉・末梢神経・関節)の各項目について Fisher(LSD)で多重比較した。統計ソフトは、IBM SPSS Statistics Ver.22を用いて、有意水準は5%とした。 3.結果 調査票は、116施設に郵送し65施設から回答を認めた。有効回答率は56.0%であった。そのうち、2施設で鍼通電の教育がされていなかった。はり実技担当教員からの回答は、69名であった。年齢は、24歳から65歳(平均年齢43.0±8.9歳)、空白4名であった。性別は、男性55名、女性11名、空白3名で、視覚特別支援学校・盲学校・視力障害センター38名、鍼灸学系専門学校24名、鍼灸学系大学6名、その他1名であった。所有資格は、はり師・きゅう師15名、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師52名、空白2名であった。教員歴は、0.3年から36年(平均年数13.6±8.6年)、空白2名であった。臨床歴は、0年から40年(平均臨床歴12.3±9.5年)、空白9名であった。 (1)単純集計 「Q1. 低周波鍼通電療法を教育していますか(実習に取り入れていますか)?」には、67名が回答し、「している」97.0%(65名)、「していない」3.0%(2名)であった(図7)。教育していない理由では、「東洋医学的手法の実技教育が中心なため」などの回答があった。 「鍼通電療法を教育している該当年次」には、67名が回答し、1年次4名、1・2年次1名、1・2・3年次1名、1.5年次1名で、2年次38名、2・3年次15名で、3年6名、3・4年次1名であった。教育開始年次は、1年次からが10.4%(7名)、2年次79.1%(53名)、3年次10.4%(7名)であった(図8)。「鍼通電療法を教育している時間数(1コマ90分)」には、64名が回答し、1時間から160時間で平均19.7±26.3時間であった。 「Q2. 低周波鍼通電療法の評価基準を設定していますか?」には、66名が回答し、「している」59.1%(39名)、「していない」40.9%(27名)であった(図9)。「していない」の理由には、25名が回答した。25名の自由記述をコード化した結果は、使用されている単語の多い順に「ない」60.0%(15名)、「評価」32.0%(8名)、「試験・実技・科目・授業」28.0%(7名)の順であった。 「Q3. 添付の評価基準を一読して、貴校でも使用したいと思いますか?」には、65名が回答し、「使用したい」64.6%(42名)、「使用したくない」35.4%(23名)であった(図10)。「添付の評価基準を使用したくない」理由には、23名が回答した。23名の自由記述をコード化した結果は、使用されている単語の多い順に「評価・項目」69.6%(16名)、「多・細」・「ない」43.5%(10名)の順であった。 「Q4. 添付の評価基準を一読して、内容が不十分と思いますか?」には、63名が回答し、「不十分でない(適切と思う)。」82.5%(52名)、「不十分である(適切でない)。」17.5%(11名)であった(図11)。「不十分である(適切でない)。」と回答した際の追加すべき内容としては、11名が回答し、以下の追記が認められた。その追記を記述通りに示すと①「課題遂行度。筋や神経をねらって通電した場合、筋:単独で目的の筋が動く。神経:支配している筋全てが動く(例えば、顔面神経パルスの場合、多数の表情筋を動かすことができているなど)。」、②「もう少し「通電」のみの内容にすれば良い。」、③「低周波鍼通電機器としての内容はあるが「療法」としての筋収縮に関しての具体的な項目がない。神経を刺激できているという具体的な項目もない。」、④「評価の皮膚温。追加 抜鍼前のコードの扱い。メカニズムの説明」、⑤「追加が特に必要だとは思わないが、何をもって正確と評価するのか、その基準は示した方が良いかと思う。」、⑥「おおむね適切であると思いますが、あえて追加するとすれば以下の項目について検討の余地があるかもしれません。⑥ -1通電装置の衛生管理ができる。⑥-2目的の筋に通電できている理由が説明できる。⑥-3(視覚障害者が)自分の見やすい通電コードの色を選択できる。⑥-4クリップ装着時に、片方の手で把握した上でもう一方の手で装置できる 等。」、⑦「余分なものが多すぎる。」、⑧「第3段階と重なる部分ですが、実際に通電した際にどの筋が動いているのか、逆にどの筋は動いてはいけないのか。目的の筋が動かなかった際に、なぜ動かなかったのか。どう改善すれば動く可能性があるのか。について説明できる力を評価する項目があるとよいと思います。また、触擦の評価の部分では、筋だけでなく、ランドマークになる部位(第7頸椎や第12肋骨、腸骨稜等)も的確に触れているか評価してもよいと思います。」、⑨「逆に細かすぎる。」、⑩「通常の刺鍼技術が評価、コメントに含まれていない。切皮痛、適切な押手圧、押手の安定性、刺鍼に伴うひきつり感の有無。→低周波鍼通電の刺鍼技術を、鍼施術としてではなく、電極として、とらえてしまってはいないか?」、⑪「効果判定で筋硬度等を追加してもよいのではないか。」であった。 「Q5. 添付の評価基準を一読して、ご意見があればお書きください。」には、39名が回答した。39名の自由記述をコード化した結果は、「肯定文」41.0%(16名)、「否定文」33.3%(13名)、「細かい・整理」20.5%(8名)、「参考・利用」10.3%(4名)などであった(図12)。 「Q6. 通電部位について、筋肉、末梢神経、関節で実習をしているのはどこですか。」には、「(実習をしている)筋肉」には66名が回答し、対象筋肉は2か所から44か所、平均17.8±10.1か所であった。学校・養成施設の多い順に示すと、「僧帽筋」93.9%(62名)、「前脛骨筋」90.9%(60名)、「脊柱起立筋」90.9%(60名)であった(図13)。「(実習をしている)末梢神経」には、53名が回答し、対象末梢神経は1か所から14か所、平均3.5±2.5か所であった。学校・養成施設の多い順に示すと、「坐骨神経」84.9%(45名)、「正中神経」49.1%(26名)、「脛骨神経」49.1%(26名)であった。「(実習をしている)関節」には、36名が回答し、対象関節は1か所から5か所、平均2.5±1.3か所であった。学校・養成施設の多い順に示すと、「椎間関節」61.1%(22名)、「膝関節」61.1%(22名)、「肩関節」50.0%(18名)であった。 「Q7. 周波数と通電時間についてどのように教育していますか。具体的に記入して下さい。」には、63名が回答した。63名の自由記述をコード化した結果は、周波数が「1Hz」71.4%(45名)、次いで「50Hz」20.6%(13名)、「100Hz」19.0%(12名)の順で多かった(図14)。治療時間は、「15分」57.1%(36名)、「10分」47.6%(30名)の順で多かった(図15)。内容では、「鎮痛」17.5%(11名)、「循環」7.9%(5名)、「血管」3.2%(2名)、「消炎」3.2%(2名)の順で多かった(図16)。1Hz・15分の治療方法で教育し、鎮痛効果を主とした説明をしていることが示唆された。 「Q8. 低周波鍼通電による鍼の腐食についてどのように教育していますか?」には、61名が回答した。61名の自由記述をコード化した結果は、次の単語を抽出した。「単回・ディスポ・シングル・1回」44.3%(27名)、「腐食・電食」34.4%(21名)、「3番」19.7%(12名)、「銀」6.6%(4名)の順で多かった(図17)。つまり、通電による金属の腐食について教育し、鍼の太さは3番(0.2mm)以上、単回使用を行い、銀を素材とした鍼に対して通電を避けることが示唆された。 (2)はり師・きゅう師養成学校3群間「(視覚特別支援学校・盲学校・視力障害センター(A)、鍼灸学系専門学校(B)、鍼灸学系大学(C)」での各項目の比較(図18) はり実技担当教員の年齢は、A 43.4±1.6歳とB 41.4±1.6歳(p=0.416)、A とC 47.0±5.0歳(p=0.399)、B と C(p=0.212)で群間差を認めなかった。 はり実技担当教員の教員歴は、A 14.7±1.6年とB 11.8±1.4年(p=0.222)、A とC 13.2±4.1年(p=0.694)、B と C(p=0.739)で群間差を認めなかった。 はり実技担当教員の臨床歴は、A 11.2±1.8年とB 12.8±1.8年(p=0.537)、A とC 16.7±4.5年(p=0.198)、B と C(p=0.375)で群間差を認めなかった。 鍼通電の教育開始年次は、A 1.9±0.1年次とB 2.0±0.1年次(p=0.434)、A とC 2.2±0.2年次(p=0.284)、B と C(p=0.563)で施設の群間差を認めなかった。 鍼通電の教育時間は、A 18.3±4.6時間とB 25.0±5.8時間(p=0.358)、A とC 9.5±2.7時間(p=0.448)、B と C(p=0.208)で施設の群間差を認めなかった。 鍼通電の対象部位数(筋肉)は、A 16.7±1.3ヵ所とB 20.4±2.7ヵ所(p=0.173)、A とC 15.2±4.7ヵ所(p=0.733)、B と C(p=0.264)で施設の群間差を認めなかった。 鍼通電の対象部位数(末梢神経)は、A 3.2±0.3ヵ所とB 4.5±0.9ヵ所(p=0.092)、A とC 2.5±0.6ヵ所(p=0.571)、B と C(p=0.144)で施設の群間差を認めなかった。 鍼通電の対象部位数(関節)は、A 2.5±0.3ヵ所とB 2.7±0.4ヵ所(p=0.672)、A とC 1.5±0.5ヵ所(p=0.324)、B と C(p=0.245)で施設の群間差を認めなかった。 4.考察 全国のはり師・きゅう師養成学校では、97.0%の施設で鍼通電刺激の実技指導を実施していた。このことから、鍼通電刺激の指導は全国的に実施されているものであり、全国統一の評価基準を作成する必要性が高い治療方法であるといえる。しかしながら、鍼通電刺激の評価基準を設定しているはり師・きゅう師養成学校は59.1%であった。評価基準を設定していない理由に、鍼通電刺激を指導はしているが、評価対象にしていない、担当者に任されており校内で統一されていない、目的の筋への刺入ができればよい、などの回答があることから、評価に対する教員の意識がさまざまであることがうかがえる。このことから鍼通電刺激実技に対する評価基準の必要性は感じつつも各はり師・きゅう師養成学校における評価基準が設定されていなかったり、全国で共通化された評価基準が存在しないことから、現状の評価方法に課題を感じている教員が少なくないことが考えられる。これは、国家資格であるはり師の実技能力が全国的に一定水準であるとは言い難い現実を表しているともいえる。 また、著者の提案する教育評価基準表を使用したいと回答したはり師・きゅう師養成学校は64.6%であった。使用したくないとの回答の理由に、授業の参考にしたい、評価が細かすぎる・多すぎる、本校独自の評価表がある、時間がかかりすぎるなどの回答があることから、評価基準表の項目そのものは指導の際の参考にはなるが、試験などで評価するには項目が多すぎて実用的ではなく、自校の状況に合わせた評価表が良いとの現場の実情を反映しているものと考えられる。評価項目の多さについては第4章でも課題となっていたものが、全国調査によっても同じ結果が得られており、再検討が必要である。評価時間の確保についても第4章でも課題となっていた点である。鍼通電療法を教育している時間数は1時間から160時間と、かなりばらつきがある。またこの中には基礎実習だけでなく、臨床実習において指導する時間も含まれているものと考えられるため、はり基礎実習の時間内で鍼通電を指導できる時間は、限りがあることが全国調査においても、明らかとなった。しかし、鍼通電実技を学習するすべての部位に対して、評価表第6段階の皮膚温測定まで実施することは難しいが、学習した中で一箇所だけでも皮膚温測定を実施することで、第4章で論じた教育効果が上がることから、カリキュラム上の工夫によって実現されることが期待される。評価基準表が指導の参考になるとの意見が得られた点については、著者が本評価基準表を作成した意図として、鍼通電手技に必要な要素を細分化し、段階毎に項目が示された評価表が必要であるとの問題意識があるため、指導内容を共通化させていく一端としてのたたき台になることは意義のあることといえる。一方で項目が多いとの意見については、評価表を用いるのは試験時ではないという、調査票の意図が誤解された可能性もあり、質問が適切ではなかった点は反省材料であるとともに、得られた回答をもとに、評価基準の項目数は、再検討が必要と考えられる。また、独自の評価表があるとの意見については、各校での評価表に基づいた指導が適切になされているものの、実技水準がはり師・きゅう師養成学校ごとに異なっていて良いのかという疑問が残る。 また、評価基準項目の内容では、82.5%が内容を適切としており、利用可能性を支持できたと考えられる。 なお、研究4の調査時には、皮膚温上昇の計算方法および基準値について教育評価基準表(表2)に掲載していなかったが、第3章で論じたように、鍼通電刺激後に1.26⊿%以上で皮膚温を観察することが効果判定基準と考えている。 5.小括 皮膚温変化を教育評価基準として構成された、著者の提案する教育評価基準表は、今後、多くの先生方の意見を受け項目内容・数を洗練させることで、全国のはり師・きゅう師養成学校で教育評価基準表として利用できる可能性が示された。 第6章 課題と展望 研究1から4の問題点を挙げる。 研究1の問題点はサンプルサイズの設定である。従って、サンプルサイズの計算をG power Ver.3.145)を用いて計算した。第1過誤率5%、第2過誤率80%、観測時点9時点、効果量(dz)40%で計算した場合では、12名であった。研究1の対象者は、15名とサンプルサイズ12名を満たしていたことから、妥当性のある経時的な変化と考えられた。さらに研究2の対象者が14名であることからも適切なサンプルサイズであった。 研究2・3の問題点として、少人数のはり師・きゅう師養成学校における基準値の設定があげられる。学校・養成施設の生徒数が大きければ、より正確な基準値を求めることも可能となろうが、少人数教育を特徴とする特別支援学校(盲学校)においては、各学校単独で基準値を設定することは困難である。したがって、暫定的に本研究で求めた基準値を使うことが有効であると考えている。現段階の評価基準表は、完成された教育評価基準表でないため、さらに授業実践を通じて、必要な項目を増やし、不要な項目を削除しつつ、洗練させていくことで、理想的な評価基準表となると考えている。 また、研究3では、実技学習前の生徒のレディネスが不十分であったこと、皮膚温測定後の再教育対象者へのフィードバックが指導時間内において不十分であったことがあげられる。この点については、予め、年間指導計画を立案する時点において、鍼通電刺激の学習時間設定の中で、効果測定(皮膚温測定)の後に再教育のための時間を設ける必要があると思われる。 研究4の調査の問題点として、教育評価基準表を使用するタイミングを試験の際と誤解した回答が多くみられたが、実際には、該当単元の指導中に用いることを想定して作成したため、「項目が細かすぎる」「時間が足りない」といった回答がみられた。適切な質問文になっていなかった点は反省材料である。 本研究をもとに、今後は、本調査を踏まえ教育評価基準表の項目を精選し、さらに現場の声をフィードバックしつつ改良していくことが必要と考えられる。その際、評価基準の項目は、信頼性を有するか、再現性を認めるかなどの観点から検討していく必要がある46)。 今後の展望として、本研究で作成した評価基準表を教育現場においてより有効に活用するために、ICT機器を用いた運用が望まれる。具体的には、教育のIT化に対応するため、教育評価基準表をデータとして提供し、リアルタイムで評価を反映させることや、評価基準表の項目ごとにお手本としての模範映像や悪い例の映像を学生等に提供し、自学自習に役立たせることが考えられる。また、授業中の生徒の動作風景を映像化して本人にフィードバックし自己修正に役立たせることも考えられる。 第7章 まとめ 本研究は、はり師・きゅう師養成学校におけるはり基礎実習での筋に対する鍼通電刺激(筋パルス)の教育効果を客観的に評価するため、教育評価基準を作成することを目的として行った。 研究1では、下腿前面部(前脛骨筋)に対する鍼通電刺激による皮膚温、皮膚血流量、筋血液量と瞳孔直径の変化を観察することで、教育評価基準として利用できるか検討し、評価指標として皮膚温を指標にできることが示唆された。 研究2では、はり基礎実習の授業において教育評価基準として、皮膚温変化を用いることの妥当性を検討し、皮膚温変化を用いることの妥当性が認められた。 研究3では、皮膚温変化を教育評価基準として構成された教育評価基準表を作成し、授業実践を通じて、教育評価基準表の利用可能性を検討し、授業実践で実施可能であること、また、今後の課題としてカリキュラムとの整合性、項目の精選が必要であることが認められた。 研究4では、研究3で作成した教育評価基準表を全国のはり師・きゅう師養成学校へ送付し、教育評価基準表の利用可能性及びはり基礎実習の評価方法の実態を検討した。その結果、今後、多くの先生方の意見を受け項目内容・数を洗練させることで、全国の学校・養成施設で教育評価基準表として利用できる可能性が示された。 本研究によって、下腿前面部(前脛骨筋)に対する鍼通電刺激によって皮膚温が上昇することが明らかとなり、皮膚温変化を教育評価基準とした教育評価基準表を作成し、授業で使用可能であること、全国調査によって他校においても利用可能性のあることが示唆された。 謝辞 筑波技術大学の森 英俊教授、鮎澤 聡准教授には、本研究全般にわたって研究の方法、論文執筆について基礎からご教授賜りました。筑波大学大学院 生命環境科学研究科 森澤建行先生、筑波大学 生命環境系 羽生一予先生、大阪医科大学 附属病院麻酔科・ペインクリニック 久下浩史先生には、実験データの収集・解析においてご協力を賜りました。東京都立八王子盲学校 國松利津子校長先生には、教育実践としてはり基礎実技における研究を実施させてくださいました。同校齋藤博教諭、松村浩樹教諭には、はり実技担当として評価基準作成に御助言を賜りました。先生方のご支援無くしては本研究を行うことはできませんでした。心より感謝申し上げます。 参考文献 1) 森 英俊,佐々木和郎 編:鍼灸基礎実習ノ-ト.医歯薬出版.東京.2009;13-28. 2) 東洋療法学校協会:はり実技評価表及びはりきゅう実技評価委員会評価マニュアル.2016;1-8. http://www.toyoryoho.or.jp/practical_exam/detail.php?id=1(2017年9月22日調べ) 3) 遠藤好美:日鍼教の鍼実技評価表モデルを用いた評価の実例報告.鍼灸手技療法教育.2011;7:12-17. 4) 鍋田智之,野口栄太郎,江川雅人 他:はり師・きゅう師養成教育における実技評価の施設差について.医道の日本.2015;74(11):160-164. 5) 厚生労働省医政局:あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師学校養成施設カリキュラム等改善検討会. 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Behavior Research Methods. 2007; 39: 175-191. 46)土屋政雄.尺度研究の必須事項.行動療法研究.2015;41(2):107-116. 図表 図1 測定手順 control groupは無刺激群、EA groupは刺激群 STは皮膚温、SBFは皮膚血流量、MBVは筋血液量、PDは瞳孔直径 EAは鍼通電 ST、SBF、MBVおよびPDのベースライン(Pre)、EA開始後5分(Stim.5)に、EA終了直後(post0)、5分(post5)、10分(post10)、15分(post15)、20分(post20)、25(post25)および30分(post30)を記録した。 図2 刺激部位および測定部位 図3 EA刺激を前脛骨筋に加えた際のST、SBFおよびMBVの変化 EA groupは刺激群、control groupは無刺激群 STは皮膚温、MBVは筋血液量、SBFは皮膚血流量、EAは鍼通電 皮膚温単位(℃)、筋血液量単位(cm・g/ℓ)、皮膚血流量単位(ml/min/100g) 刺激前(Pre)、刺激中5分(Stim.5)、刺激直後(post0)、5分(post5)、10分(post10)、15分(post15)、20分(post20)、25分(post25)および30分(post30) ※p<0.05 vs Pre 数値を平均(S.E.)で示した。 図4 EA刺激を前脛骨筋に加えた際のPDR、PDLの変化 EA groupは刺激群、control groupは無刺激群 PDRは右瞳孔直径、PDLは左瞳孔直径、EAは鍼通電 瞳孔直径単位(mm) 刺激前(Pre)、刺激中5分(Stim.5)、刺激直後(post0)、5分(post5)、10分(post10)、15分(post15)、20分(post20)、25分(post25)および30分(post30) ※p<0.05 vs Pre 数値を平均(S.E.)で示した。 図5 測定装置および皮膚温測定部位 図5-A 皮膚温計 TH-200(鈴木医療器社製) 図5-B 測定部位 図6 鍼通電(筋パルス)による皮膚温変化 刺激前(Pre)、刺激中5分(Stim.5)、刺激直後(post0)、5分(post5)、10分(post10)、15分(post15)、20分(post20)、25分(post25)および30分(post30) 皮膚温単位(℃) ※p<0.05 vs Pre 数値を平均(S.E.)で示した。 表1 鍼通電前をベースとした個々の皮膚温変化率 通電前(Pre)をベースに個々の皮膚温変化を変化率「⊿%=(stim. 5・Post 0~30)-Pre/Pre×100」で表した。 各時点の平均値(average: Av)から信頼区間(confidence interval: CI)を引いた値(Av-CI)の平均値は1.26⊿%であった。その値より大きい値を□(黄色) で示した。 表2 はり基礎における筋に対する教育評価基準表 対象筋:僧帽筋 腰部脊柱起立筋 大腿四頭筋 下腿三頭筋 前脛骨筋 (         )  教育目標  鍼通電刺激を行うにあたり必要な知識、および安全で正確な技術を習得する。  到達目標 1.鍼通電装置の構造と機能を理解し、安全かつ円滑に鍼通電装置の操作ができる。 2.基本的な刺鍼操作が安全かつ円滑に行える。   (□ 寸6・3番鍼(50mm・20号鍼)を用いて鍼通電を行う。)   (□ 寸3・3番鍼(40mm・20号鍼)を用いて鍼通電を行う。) 3.目的とする筋の運動点に正確に刺鍼できる。 4.目的の筋の筋血液量(皮膚温を含む)を上昇させることができる。 5.目的の筋を可能な限り少ない電流量で収縮させることができる。 評価基準 評価基準は6段階とする。 判定基準 1.各段階では評価基準に達した場合に認定を行う。 2.既に認定を受けた段階でも、評価基準を満たしていない項目があった場合は認定を取り消す場合がある。 評価記載方法 判定基準を満たしている場合を可=○、 判定基準を満たしていない場合を不可=×で判定する。 評価項目の判定方法 評価の判定は、明確な基準をもって行われる。 評価者は評価前に各項目内容の判定基準を明確に説明する。 各項目内容の評価は、記述されている行為が判定基準を満たしているか否かで評価する 各項目分類の項目評価は、すべての項目内容に可=○がつけられた場合に項目認定とす 各段階の総合評価はすべての項目分類が項目認定されたことにより段階認定とする。 全段階の段階認定をもって、本単元の技術認定とする。 第1段階 鍼通電装置の理解と点検 鍼通電装置の構造と機能を理解し、安全かつ円滑に鍼通電装置の操作ができる。 補足第1段階では、鍼通電刺激前の基本事項を習得する。 (表) 第2段階 鍼通電刺激前準備 鍼施術者としての心構えをもち、適切な服装・手洗い・消毒・道具の準備・姿勢ができる。 補足第2段階では、単刺術の学習で身に付けた基本事項を再度確認する。 (表) 第3段階 刺入点の決定 目的の筋を同定し刺入点を定めることができる。 補足第3段階では、解剖学的理解と触察力を活用する。 (表) 第4段階 刺入 刺入点に安全かつ正確に痛みなく刺入できる。 補足第4段階では、第3段階で定めた刺入点に正確に刺入する。 第5段階 通電 安全かつ円滑に目的の筋に鍼通電刺激ができる。 補足第5段階では、正確かつ安全に鍼通電装置の操作を行う。 (表) 第6段階 抜鍼と効果測定 安全かつ円滑に抜鍼ができるとともに、測定で効果を出すことができる。 補足 第6段階では、円滑な抜鍼をする。    治療効果の測定として、皮膚温計を用いて、鍼通電刺激を行った筋の皮膚温上昇を測定する。 (表) 表3 鍼通電実習での学習評価(皮膚温測定)についての調査 調査項目 〔1〕鍼通電刺激の効果を皮膚温で評価することの意義は理解できましたか。 1. 意義は理解できた 2. あまり意義は理解できなかった 3. 意義は理解できなかった 〔2〕皮膚温測定の操作にわずらわしさを感じましたか。 1. わずらわしさを感じた 2. どちらともいえない 3. わずらわしさを感じない 〔3〕仮に「鍼通電の効果が確認できない」ということになると「鍼通電がうまく行えなかった」ということになります。鍼通電がうまく行えたか行えなかったかの学習上でのフィ-ドバックになると考えますか。 1. フィ-ドバックになる 2. どちらともいえない 3. フィ-ドバックにならない 〔4〕鍼通電刺激の効果を皮膚温で客観的に評価することは学習上有益であると考えますか。 1. 有益である 2. どちらともいえない 3. 有益でない 〔5〕その他(感想・意見などがあれば) 表4 低周波鍼通電療法に関する調査 低周波鍼通電療法に関する調査(案) 本調査票の記載者について、該当するところに○印もしくは直接記入をして下さい。 ・性 別(男・女) ・年 齢( 歳) ・所 属(大学、専門学校、視覚特別支援学校・盲学校、視力障害センター) ・資 格(はり師・きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師) ・教員歴( 年) ・臨床歴( 年) Q1. 低周波鍼通電療法を教育していますか(実習に取り入れてますか)? (1)している。 (1-1)該当年次;( )年 (複数年にわたる場合は、具体的に記入して下さい。 ) (1-2)時間数;( )コマ (1コマを90分として換算して下さい。複数年にわたる場合は合計時間数を記入して下さい。) (2)していない。 (理由: ) Q2. 低周波鍼通電療法の評価基準を設定していますか? (1)している。 (2)していない。 (理由: ) Q3. 添付の評価基準を一読して、貴校でも使用したいと思いますか? (1)使用したい。 (2)使用したくない。 (理由: ) Q4. 添付の評価基準を一読して、内容が不十分と思いますか? (1)不十分でない(適切と思う)。 (2)不十分である(適切でない)。 (どのような内容を追加しますか?具体的にお書き下さい。: ) Q5. 添付の評価基準を一読して、ご意見があればお書きください。 Q6. 通電部位について、筋肉、末梢神経、関節で実習をしているのはどこですか。該当するもの全てに○印をして下さい。 筋 肉 僧帽筋 頭板状筋・頸板状筋 肩甲挙筋 斜角筋 菱形筋 棘上筋 棘下筋 小円筋 三角筋 上腕二頭筋 上腕三頭筋 長母指外転筋 短母指伸筋 尺側手根屈筋 円回内筋 腕橈骨筋 脊柱起立筋 腰方形筋 大殿筋 中殿筋 小殿筋 梨状筋 大腿筋膜張筋 薄筋 大内転筋 大腿二頭筋 半腱様筋 半膜様筋 大腿四頭筋 下腿三頭筋 前脛骨筋 長母指伸筋 長指伸筋 長腓骨筋 短腓骨筋 後脛骨筋 長指屈筋 長母指屈筋 その他( ) 末梢神経 肩甲背神経 橈骨神経 尺骨神経 正中神経 坐骨神経 陰部神経 閉鎖神経 大腿神経 伏在神経 脛骨神経 その他( ) 関 節 肩関節 肘関節 椎間関節 仙腸関節 股関節 膝関節 足関節 その他( ) Q7. 周波数と通電時間についてどのように教育していますか。具体的に記入して下さい。 Q8. 低周波鍼通電による鍼の腐食についてどのように教育していますか? 調査は、以上です。御多忙中、御協力ありがとうございました。 図7 Q1.低周波鍼通電療法を教育しているか?(回答数67) している97% していない3% 図8 Q1.鍼通電の実技教育開始年次(回答数67) 1年次10.45% 2年次79.1% 3年次10.45% 図9 Q2.低周波鍼通電療法の評価基準を設定しているか?(回答数66) している59.1% していない40.9% 図10 Q3.添付の評価基準を使用したいか?(回答数65) 使用したい64.6% 使用したくない35.4% 図11 Q4. 添付の評価基準の内容が不十分と思うか?(回答数63) 不十分でない(適切と思う)82.5% 不十分である(適切でない)17.5% 図12 Q5. 添付の評価基準に対する自由記述(コード化、重複回答)(回答数39) 参考・利用に関する単語 10.3% 肯定に関する単語 41.0% 否定に関する単語 33.3% 細・整に関する単語 20.5% 図13 Q6.基礎実習で通電対象とする筋(回答数の多い順、重複回答)(回答数66) 僧帽筋 93.9%  前脛骨筋 90.9% 脊柱起立筋 90.9% 大腿四頭筋 69.7% 肩甲挙筋 68.2% 図14 Q7.実習で用いる周波数(回答数63、重複回答) 1HZ 71.4% 2HZ 7.9% 3HZ 11.1% 5HZ 3.2% 10HZ 4.8% 30HZ 14.3% 50HZ 20.6% 100HZ 19.0% 図15 Q.実習で用いる通電時間(回答数63、重複回答) 5分 1.6% 10分 47.6% 15分 57.1% 20分 11.1% 図16 Q7.周波数と通電時間の説明に用いる用語(コード化、重複回答)(回答数63) 循環に関する単語 7.9% 血管に関する単語 3.2% 鎮痛に関する単語 17.5% 消炎に関する単語 3.2% 図17 Q8.鍼の腐食の説明に用いる用語(コード化、重複回答)(回答数61) 3番に関する単語 19.7% 単回・ディスポ・シングル・1回に・・・ 44.3% 腐食・電蝕に関する単語 34.4% 銀に関する単語 6.6% 図18 はり師・きゅう師養成学校3群間での各項目の比較 数値を平均(S.E.)で示した。 視覚特別支援学校・盲学校、視力障害センター(A)、 鍼灸学系専門学校(B)、 鍼灸学系大学(C)   表 EA刺激を前脛骨筋に加えた際のSTの変化 図3(33ページ)参考資料 表 EA刺激を前脛骨筋に加えた際のMBVの変化 図3(33ページ)参考資料 表 EA刺激を前脛骨筋に加えた際のSBFの変化 図3(33ページ)参考資料 表 EA刺激を前脛骨筋に加えた際のPDRの変化 図4(34ページ)参考資料 表 EA刺激を前脛骨筋に加えた際のPDLの変化 図4(34ページ)参考資料 表 鍼通電(筋パルス)による皮膚温変化 図6(36ページ)参考資料 表 はり師・きゅう師養成学校3群間での各項目の比較 はり師・きゅう師養成学校3群間での各項目の比較では、有意差がなかった。 図18(53ページ)参考資料