遠隔部への鍼刺激による肩こりの変化 平成28年度 筑波技術大学大学院技術科学研究科 保健科学専攻 バトバヤル エンフマンダハ 目次 I. はじめに 1. 日本人と肩こり 1 2. 現在の日本人の肩こりの状況 1 3. 肩こりの増加の原因 1 4. 肩こりの定義 2 5. 肩こりの分類  2 6. 本態性肩こりの現代医学的な原因と東洋医学的な原因の解釈 2 7. 鍼灸治療について 3 8. 本実験研究の背景と目的 4 (1) 研究の背景 4 (2) 先行研究 4 (3) 本研究の目的 4 II. 方法 1. 「肩こり」アンケートの方法 5 2. 実験方法 5 (1) 実験期日 5 (2) 実験場所 5 (3) 対象者 5 (4) 実験担当者 5 (5) 使用した鍼と刺激回数 5 (6) 使用経穴 5 (7) 刺激時間 5 (8) 評価 5 (9) PEK-1の測定 6 3. 実験の手順 6 4. 検討項目 6 5. データの統計処理 7 6. 倫理的配慮 7 III. 結果 7 1. アンケートの結果 7 (1) 肩こりの頻度 7 (2) 肩こり以外の自覚症状 7 (3) 整形外科的な疾患 7 (4) 基礎疾患 8 2. 実験の結果 8 (1) 実験月日 8 (2) 実験場所 8 (3) 実験時間 8 (4) 刺激時間 8 (5) 対象プロフィール 8 (6) 肩こりの原因 8 (7) PEK-1筋硬度計の信頼性 8 (8) 刺激前後のNRS、触診、筋硬度計測定値の平均値 8 1) 触診の平均値 8 2) NRSの平均値 8 3) 硬度計の平均値 9 IV. 考察 9 1. アンケートの結果について 9 2. 実験方法について 9 3. 遠隔治療について 10 4. 筋硬度計PEK-1(井本製作所)について 11 5. PEK-1(井本製作所)を使った測定方法について 11 6. 本実験について 12 7. 今後の課題 13 V. 結論 13 VI. 引用文献 13 資料 15 図表 21 謝辞 38 筑波技術大学 修士(鍼灸学)学位論文 I. はじめに 1. 日本人と肩こり 古くから日本人には、肩こりの症状を訴える人が多いが、それは日本人が肩という部位に何らかの強い意識を持っていることの表われだと考えられている1)。日常生活の中で、身体の一部を表す語を使った日本語表現が多くあるが、「肩」という語を使った表現としては、肩で息をする、肩を入れる、肩をすくめる、肩を並べる、肩を持つなど、多くの表現がある。 また、肩こりは日本人に多く、アメリカ人には少ないという報告もある。アメリカ社会はStanding out societyといわれ、日本の社会はFitting in societyといわれている。つまり日本人は周りの状況に合わせ対人関係の緊張を肩で感じ取るが、アメリカ人は自己主体性が強く対人関係の緊張を肩で感じ取ることはないと言われている2)。 2. 現在の日本人の肩こりの状況 厚生労働省が実施した「平成25年度国民生活基礎調査の概要」の「世帯員の健康状況」(複数回答)3)で、自覚症状の症状別では、男性は「腰痛」を訴える者の率が最多で、次に「肩こり」、第3位は鼻がつまる、鼻汁が出る、女性は「肩こり」が最も高く、次に「腰痛」、第3位は「手足の関節の痛み」と報告されている。また、年齢層ごとに「今現在、気になっている体の症状」を調査した結果では、肩こりは20歳前後で増え始め、30歳前後から60歳くらいまでに有訴率がピークとなり、60歳を超えると訴える人が急激に少なくなると報告されている。兵頭らが1547名を対象に行った肩こりについてのアンケート調査結果では、男性は57%(661名中379名)、女性は78%(796名中617名)であり、女性の肩こりの有訴率が高い。また、年代別に調べると40歳代をトップとし、50歳代、30歳代、20歳代、10歳代がほぼ同率でこれに続き、70歳代以上の高齢者には、肩こりが少ないと報告している4)。このようなことから、肩こりは日本人の国民病として日常生活にも影響を及ぼしていると考えられる。 3. 肩こりの増加の原因 厚生労働省のVDT作業における労働衛生管理のための新ガイドライン5)に、若年者・中年者の肩こりの増加の原因としては、目の疲れ、すなわちVDT作業の影響が考えられ、それによるVDT症候群(Visual Display Terminal Syndrome )ある。近年、多くの職場でVDT作業を行うようになり、VDT機器を長時間使用する職種が急速に増大したことが指摘されている。肩こりが生じやすい職業としては、事務員、コンピューター作業を主体としているもの、医師、学校教員、清掃業者、調理師、看護師、保険外交員などと報告されている。 4. 肩こりの定義 肩こりとは、頸部、肩上部、肩甲間部にかけての張り感、凝り感、こわばり感、重だるさ、重苦しさ、痛みなどの症状を自覚し、頸肩部の動作時に運動制限が生じることもある場合を言う6)。 5. 肩こりの分類 肩こりは、本態性(原発性)、症候性、心因性に大別される。 本態性(原発性)肩こりとは、特別な基礎疾患がないものを指す。これらを引き起こす要因としては、姿勢不良、運動不足による筋力低下、不適切な運動、過労、冷えなどが挙げられる。 症候性肩こりとは、外傷や基礎疾患のあるものを指す。症候性肩こりを引き起こす整形外科疾患として、頸肩腕症候群、胸郭出口症候群、肩関節周囲炎、肩腱板損傷、肩関節不安定症、三角筋硬縮症、手根管症候群などがある。また、内科外科疾患としては、片頭痛、緊張型頭痛、循環器疾患(高血圧、狭心症、心筋梗塞、心外膜炎、解離性大動脈瘤、動脈炎症候群)、消化器疾患(胃、十二指腸、肝臓、膵臓疾患)などで起こるが、特に胆石症や膵炎による発生頻度が高い。その他に、呼吸器疾患(胸膜炎、肺尖部腫瘍、横隔膜炎)、神経疾患(脳出血、脳梗塞、パーキンソン病、頸部ジストニア、虚血性抹消神経障害)、眼科疾患、耳鼻科疾患、歯科疾患などが挙げられる。 心因性肩こりは、精神的な負荷により生じたものを指す。ストレスや心身症、うつ病、パニック障害などが原因で起こる7)。 6. 本態性肩こりの現代医学的な原因と東洋医学的な原因の解釈 本態性(原発性)肩こりの原因を現代医学的、東洋医学的に分けて説明をする。 現代医学的には、肩から腕にかけての筋肉群の持続的な等尺性収縮や、長時間の姿勢不良、筋疲労などによる筋・筋膜性疼痛により、筋肉が過度の負荷(ストレスなども含めて)を受けることで末梢神経のNa⁺チャンネルが増加し、その過剰興奮は筋・筋膜を貫いている脊髄神経後枝を刺激する。これにより反射性に運動神経、交感神経への下行性インパルスが生じ、その結果筋肉の緊張や凝りを生じる。特に筋疲労による筋硬度の増加は、日常的に体感される現象であり、蓄積された代謝産物が血流を阻害し、筋内外の浸透圧を上昇させ、筋線維内に水分が蓄積することによって筋内圧が上昇することによると考えられている。さらに局所では虚血や内因性の発痛物質(ブラジキニン、プロスタグランジン、ヒスタミン)の蓄積がおこり、痛みの悪循環を構築すると説明される⁷)。 東洋医学では、江戸時代には、日本では肩こりを「痃癖」と言い、痰湿によるものと風寒湿によるものがあるとされた。いずれもそれらの病因により気血の滞った状態にあるものと気血の不足の状態にあるものとして考えられている8)。 現代医学的には、気は、無形のエネルギー、生命力の意味に解されており、その捉え方や説明の対象の違いによって、元気、経気、脈気などと言われる。また、血は、有形の血液あるいは体液の意味に解される。また、多くの場合に気の作用により血がその機能を発揮するため、気を中心に気血一体となって生命活動の原動力を発現するものと考えられている9)。 東洋医学的には、気は身体の成長と発育を促し、物質代謝を行い、体液を調節し、身体を温め体温を維持し、身体を各種病原微生物から防護するものである。 血は脈中を流れ、身体各部に水穀の気(栄養素)と正気(酸素)を与え、全身の組織を滋養するとともに、各組織に潤いを与える。また血は精神活動の基本的な物質であるとされている10)。 7. 鍼灸治療について 肩こりの改善方法としては、鍼灸療法、按摩マッサージ療法、温熱寒冷療法、光線療法、運動療法、電機療法、薬物療法などが行われている。 そのうち、鍼灸治療とは、古代中国で体系化された経験医術である。 鍼施術は、鍼具を用いて身体の表面の一定部位に接触または刺入し、生体に一定の機械的刺激を与え、それによっておこる反応を利用し、生体の変調を矯正し、保健及び疾病の予防または治療に広く応用する施術である。古代の鍼には、刺す鍼、刺入しないで皮膚を刺激する鍼、切開する鍼の3種類があった。そのうち、切開するものはメスとなり、刺す鍼が現在最も広く行われている鍼であり、皮膚を刺激する鍼は皮膚接触刺激を目的とするものである。灸には、皮膚を火傷させる有痕灸と火傷させない無痕灸とがある。その熱源は、菊科の植物のヨモギから作られるモグサが用いられる11)。 鍼灸治療には、局所治療と遠隔治療がある。 局所治療とは、疾病や症状がある部位(局所)に鍼灸治療を行う方法のことを言い、近年においては、腧穴(ツボ)を刺鍼するだけでなく、神経走行や神経分節の考え方など、現代医学的な考え方で取穴され、治療をする方法としてまとめられている。圧痛点療法や圧診点治療、トリガーポイント療法などが、その考えに基づく治療法である。 一方、遠隔治療とは、疾病や症状がある部位から離れた周辺部や四肢などの遠隔部位に、鍼灸で刺激する治療法を指す。一般的に、肘以下、膝以下の末梢部に鍼灸刺激を行い、頭頸部や体幹部の症状を変化させることを言う。遠隔の治療部位は、症状のある部位を走行する経絡(注1)上(上下肢部)に、一定の理論で選穴される。遠隔治療は、局所治療より少ない刺激で効果が出現しやすく、一つの経穴に刺鍼した場合、変化の範囲が広く、比較的効果が長く持続すると報告されている12)。 (注1)経絡:経絡は全身に分布し、その中を循行する気、血により臓腑をはじめ皮膚、肌肉、筋骨など身体一切の組織を滋養し、また身体各部の機能を主る。したがって、臓腑に変調が生じたり、経絡を循行する気血に異常が生じると、関連する経絡に様々な症状が 現れる13)。 8. 本実験研究の背景と目的 (1) 研究の背景 これまで述べたように、肩こりの考え方や治療法は様々であるが、東洋医学の立場から、肩こりは、人体の生命活動に必要と言われている気血が肩部で滞っている、または不足している状態であると捉え、陰陽表裏関係を踏まえた遠隔治療がある10)。その考え方は、陽経に病位があればその原穴(注2)を取り、さらに陰経の絡穴を取る。陰経に病位があればその原穴を取り、さらに陽経の絡穴(注3)を取るというものである。具体的には、肩こりを自覚することが多い部位である肩と背部を走行する足の太陽膀胱経に肩こりという病態があると考え、陰経である足の少陰腎経の絡穴に対して刺激を行う方法である。著者は、臨床上、肩こりの患者の大鍾に刺鍼を行って、肩上部の肩こりの自覚的な変化と触診上の変化があることを経験しており、この考え方と同様の結果を得ている。 このように、臨床経験上、本態性肩こりの緩和に少陰腎経の絡穴が有用であることが想定されるが、その影響の範囲や程度は明確ではない。そこで、本研究では、少陰腎経の絡穴である大鍾(KI4)の刺鍼が肩こりに対してどのように影響するか検討することとした。 (2) 先行研究 まず、遠隔治療に関連する先行研究の文献調査を医中誌Web(http://www.jamas.or.jp/serv
ice/ichu/about.html

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日現在)で行った。 鍼灸と遠隔治療108件、筋硬度計103件、遠隔鍼灸治療98件、頸肩こり・鍼灸治療86件、肩こり・臨床整形外科34件、肩こり・局所鍼灸治療27件,肩こり・筋硬度計23件、頸肩部痛・鍼灸治療21件、頸肩部の疼痛・痛み・鍼灸療法21件、鍼遠隔治療19件、遠隔鍼灸治療・局所鍼灸治療比較6件、肩こり・筋硬度計相関5件、肩こり・遠隔鍼灸治療4件、ハリ・遠隔治療0件だった。これらの結果から肩こりの遠隔鍼灸治療の研究は少ないことが伺われる。 (3) 本研究の目的 以上を踏まえ、本研究では、外傷や基礎疾患のない本態性(原発性)肩こりに対して、遠隔部の1経穴への鍼刺激を行って、鍼刺激が肩部にどのような影響を与えるか、主観的指標(Numerical Rating Scale:NRS、触診)と客観的指標(筋硬度計PEK-1、井本製作所)を用いて、検討した。 注2)原穴:原穴とは、原気(元気)が多く集まるところで、原気(元気)の状態が現れる。『霊枢』『難経』ともに臓腑の病に原穴を用いるとされている。 注3)絡穴:絡穴とは、本経脈が他の経脈と連絡するために分支するところである。 この穴は、その経脈の虚実が現れやすいところで、表裏する経を同時に治療する作用があるので、慢性症状の反応点・診断点・治療点として広く用いられる13)。 II. 方法 1. 「肩こり」アンケートの方法(資料1~3) 筑波技術大学の鍼灸学専攻の全学生59名、保健科学部統合医療センター鍼灸部門の全研修生17名、合計76名に、平成28年5月の23日~27日の間に、肩こりに関するアンケートを実施した。 アンケート項目のうち、質問1で、18歳~19歳と答えたもの、質問4で、肩こりを月に数回感じると答えたもの、数か月に1回感じると答えたもの、たまに感じると答えたもの、質問6で、外科的疾患があると答えたもの、質問7で、循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、自律神経疾患、精神性疾患などがあると答えた者を本研究対象外として除外した。 アンケートの結果により、対象者となった者にインフォームドコンセントを行い、説明し同意し、実験当日に同意書を提出した23名に以下の実験を行った。 2. 実験方法 (1) 実験期日 実験日は、平成28年6月20日、27日、7月1日、4日とした。 (2) 実験場所 実験は、筑波技術大学東洋医学研究室で、行った。 (3) 対象者 23人の対象者を1回約6人ずつ、4回に分けて行った。 (4) 実験担当者 実験の担当者は、鍼施術者、測定者、記録者の3人であった。 (5) 使用した鍼と刺激回数 鍼は長さ40ミリ、直径0.16ミリステンレス製(セイリン社製)を用い、1分間前後刺鍼した。深さは約10ミリ前後で刺激回数は一人の対象者に1回行った。 (6) 使用経穴(図1) 使用経穴は、足少陰腎経の大鍾(足の内側内科の後下方、踵骨上方、アキレス腱付着部の前内側)とした。 (7) 刺激時間 刺激時間は、肩上部の触診上の緊張が変化するまでとした。 (8) 評価 1) 主観的評価 ① 肩こり感の主観的評価として、対象者への刺激前後に、肩こりの程度を0~10の11段階でNRSで評価した。10は、最も強く感じた肩こり感、0は全く感じない状態、とした。 ② 測定者の主観的評価として、左右の肩井穴に鍼刺激前後で、浅部、深部に分けて触診を行い、1、2、3、4、5の5段階で評価した。 2) 客観的評価は、筋硬度計PEK-1(井本製作所)を用いて行った(図2)。 (9) PEK-1の測定(図3) 1) 測定方法は、対象者に、背もたれのある座椅子に長座位で座り、両手を下げ、前に向いた状態にしてもらい、筋硬度計を測定面に対して垂直方向に一定の負荷をかけて、行った。 2) 測定部位(図4) 測定部位は、肩井(GB21)(第7頸椎棘突起と肩峰との中点)の外方1㎝(以下、肩井とする)、肩中兪(SI15)(第7頸椎棘突起の外報2寸)の外方1㎝、肺兪(BL13)(第3胸椎棘突起の外報1寸5部)の3部位とした。 また、測定の深さを2部位とし、通常の筋硬度計の状態で測定する場合を深部、筋硬度計の副筒の先端部に5㎜の厚さの段ボール紙を貼って浅い部の測定ができるようにしたものを浅部とした。 3) 測定値(図1) 測定は、筋硬度計を用いて、鍼刺激前後で、左右3部位(計6部位)の深部と浅部を、3回ずつ、測定し、3回の平均を測定値とした。 3. 実験の手順 実験は、次の手順に従って行った。 ① 実験の前に対象者の身長、体重、年齢、肩こりの原因などを尋ねた。 ② 対象者は、背もたれのある座椅子に、両手を下げ、前に向いた状態で5分間長座位にて安静にさせた。 ③ 肩井部位で浅部、深部の触診をした。 ④ 肩井、肩中兪、肺兪の3部位のNRSを尋ねた。 ⑤ 左右の肩井、肩中兪、肺兪部位を筋硬度計で測定。 ⑥ 大鍾に刺鍼。 ⑦ 肩井部位に対し、浅部、深部の触診。 ⑧ 肩井、肩中兪、肺兪のNRSを尋ねた。 ⑨ 5)と同様に、左右の肩井、肩中兪、肺兪部位を筋硬度計で測定。 4. 検討項目 以下のように比較した。 ① 刺激前後のNRSの平均値を、刺激側および非刺激側で比較した ② 刺激前後の触診の平均値を、刺激側、非刺激側および深部、浅部で比較した。 ③ 刺激前後の筋硬度計の3回測定の平均値を、刺激側、非刺激側、浅部、深部で比較した。 5. データの統計処理 (1) 筋硬度計を用いた測定の信頼性については、Pearsons順位相関係数を用いた。 (2) 刺激前後の筋硬度計、NRS、触診の値の変化はWilcoxon符号付順位検定を用いて、有意差を検定した。 (3) BMI SPSS バージョン19とエクセル統系 バージョン○を使用した。 6. 倫理的配慮 本実験研究は、筑波技術大学の倫理委員会の承認を平成27年8月31日に受けて実験を行った。実験前に、対象者に実験の内容と、実験に協力をしなくても不利益がないこと、途中でいつでも自分の意志で止めることが出来ること、個人情報の漏洩がないようにすることを説明した。研究参加に同意を得た上で、記名とサイン又は捺印をした同意書を提出してもらった。 III. 結果 1. アンケートの結果 アンケートの参加者76名で有効回答数は67名(88.1%)、女性21名、男性46名であった。その中で肩こりを自覚している者は46名(68.6%)であった。 (1) 肩こりの頻度(表1、図5) 「どのぐらいの間隔で肩こりを感じていますか」という質問に対し、毎日が24名(52.2%)、週3回くらい13名(28.3%)、月に数回8名(17.4%)、たまに1名(2.2%)、数か月に1回が0名であった。 (2) 肩こり以外の自覚症状(表2、図6) 「肩こり以外の自覚症状がありますか」という質問に対し、ない16名(34.7%)、ある30名(65.2%、複数回答)で、不眠が21名(38.9%)、頭痛が17名(31.5%)、吐き気が6名(11.1%)、眩暈が3名(5.6%)、眼の疲れが2名(3.7%)、その他が5名(9.3%)であった。 (3) 整形外科的な疾患(表3、図7) 「整形外科的な疾患ありますか」という質問に対し、ない41名(89.1%)、ある5名(10.8%)であった。むち打ち損傷が2名(40.0%)、胸郭出口症候群が1名(20.0%)、その他が各2名(40.0%)であった。 (4) 基礎疾患(表4、図8) 「以下の病気にかかったことがありますか」という質問に対し、ない32名(69.5%)、ある14名(30.4%)であった。循環器疾患、呼吸器疾患が各5名(31.3%)、精神性疾患が3名(18.8%)、自律神経失調症が2名(12.5%)、その他が1名(6.3%)であった。 2. 実験の結果 アンケートの回答により、本態性肩こりの基準に当てはまる23名に実験を行った。以下の数値は、平均値±標準偏差で示す。 (1) 実験月日:平成28年度6月20日、27日、7月1日、4日。 (2) 実験場所:筑波技術大学東洋医学研究室 室温28.6±2.4℃、湿度69.4±3.9%の環境で行った。 (3) 実験時間:1人あたりの実験時間は約30分。 (4) 刺激時間:137.0±72.6秒。 (5) 対象者のプロフィール 対象者は、男性16名、女性7名、年齢は30.2歳±12.3歳、身長は165.3±8.7㎝、体重62.3±10.5㎏であった。 (6) 肩こりの原因 実験前に23名に肩こりの原因を訪ねたところ、姿勢が悪いと答えたものが13名(52.1%)、作業と答えたものが6名(26.0%)、重い荷物(鞄、リュック)の負担と答えたものが4名(17.3%)、眼精疲労と答えたものが3名(13.0%)の順に多かった。 (7) PEK-1筋硬度計測定の信頼性1か所に対し3回続けて測定したが測定値にばらつきがなく再現性が高かった。 肩井に対する筋硬度計測定の相関係数は浅部0.96~0.98、深部0.93~0.96、肩中兪に対する筋硬度計測定の相関係数は浅部0.95~0.98、深部0.91~0.98、肺兪に対する筋硬度計測定の相関係数は浅部0.97~0.99、深部0.97~0.99で相関が高かった。 (8) 刺激前後のNRS、触診、筋硬度計測定値 1) 触診の平均値(表5) 測定者に尋ねた触診の値は、刺激側の深部、刺激前2.80±1.09、刺激後2.48±0.66、刺激側浅部、刺激前3.17±0.87、刺激後2.37±0.64、非刺激側の深部2.87±0.69、刺激後2.65±0.78で、非刺激側の浅部、刺激前3.39±0.69、刺激後2.54±0.73であった。刺激側の浅部、非刺激側の深部、浅部のすべて減少を示し、刺激側深部、浅部は有意差がみられた(p<0.01)。 2) NRSの平均値(表6) 被験者に尋ねたNRSの値は、刺激側の肩井は、刺激前5.78±2.09、刺激後4.09±1.76であった。肩中兪は、刺激前4.78±2.00、刺激後3.65±1.92、肺兪は、刺激前4.26±2.38、刺激後3.30±2.08であった。非刺激側の肩井は、刺激前5.22±2.15、刺激後3.74±1.96で、肩中兪は、刺激前4.61±2.23、刺激後3.74±2.16、肺兪は、刺激前3.96±2.06、刺激後2.93±1.94であった。刺激側と非刺激側の6か所全て減少を示し、有意差がみられた。(刺激側肩井、肩中兪、肺兪、非刺激側肩井、肺兪;p<0.01、非刺激側の肩中兪;p<0.05)。 3) 硬度計の平均値 ① 深部の筋硬度計の平均値(図9) 刺激側の肩井は、刺激前50.96±5.13、刺激後52.68±4.45、肩中兪は、刺激前55.61±5.64、刺激後57.03±6.07、肺兪は、刺激前50.83±4.98、刺激後50.78±4.37であった。非刺激側の肩井は、刺激前51.99±4.75、刺激後51.62±5.02、肩中兪は、刺激前54.96±3.45、刺激後55.84±5.53、肺兪は、刺激前50.84±5.28、刺激後52.28±5.12であった。他の部位は増加を示し、中でも非刺激側の肺兪が有意に増加した(p<0.05)。 ② 浅部の筋硬度計の平均値(図10) 刺激側の肩井は、刺激前17.16±2.80、刺激後16.74±3.08、肩中兪は、刺激前17.81±3.85、刺激後19.94±2.83、肺兪は、刺激前15.99±3.12、刺激後15.98±2.67であった。非刺激側の肩井は、刺激前16.25±3.14、刺激後16.76±3.60、肩中兪は、刺激前18.26±3.68、刺激後19.19±3.24、肺兪は、刺激前15.68±3.37、刺激後16.25±3.61であった。 刺激側の肩井が、0.4減少し、他の部位は増加を示した。刺激側の肩中兪が有意に増加した(p<0.02)。 IV. 考察 1. アンケートについて 本態性肩こりの基準に当てはまる対象者を絞り込むために行ったアンケートの結果では、全参加者数76名中、有効回答率は67名(88.1%)であった。そのうち、肩こりを自覚している者は46名(68.6%)であり、伊藤らが行った509名の学生を対象にした肩こりのアンケート調査でも肩こりがあると回答した者が64.1%で、若年者の肩こりが増加傾向にあると報告している14)。本アンケート調査でも同様の結果であった。肩こりを自覚している46名のうち、他の不定愁訴がある者は30名で、不眠が21名(38.9%)で一番多かった。 2. 実験方法について 本実験は測定者、記録者、鍼刺激者の3人で行った。測定者には、測定中筋硬度計の数 値が分からない様にして記録し、測定者による測定バイアスを最小限に抑えた。また、被験者が姿勢変換することによる肩への影響を考慮し、実験中の30分間、肩上部に対する負荷がかからない様に配慮して、背もたれのある座椅子に長坐位にした姿位を取らせた。被験者に実験前5分間安静にしてもらい、実験中には安定した状態を保つように指示した。触診者の触診評価にNRSの影響が出ないように、触診後にNRSを訪ねることにした。 実験方法の触診による主観的評価では1~5の5段階の評価としたが、実験中の触診のさいには、微妙な変化を評価するため、0.5,1.5,2.5,3.5,4.5も評価した。その結果は、統計による評価に影響を及ぼしたが、今後触診上のわずかの変化を明確にするため10段階評価なども検討する必要があるものと考える。 3. 遠隔鍼治療について 鍼灸の遠隔治療の有効性は、現代医学的には、手足への鍼灸刺激による求心性入力が上行して脳幹で統合され、自律神経を介する上脊髄反射による反応と考えられる15)。しかし、東洋医学的には、生命活動に必要なエネルギーである気血が、全身をくまなく網羅していて、その流れが停滞または不足すると体は不調となり、気血が滞った部位(経穴)にこり、不足した部位に(経穴)に弾力の無さなどの反応が現れ、身体の異常所見として触知される。その滞った部位または不足した部位、あるいはそれに関連した部位に鍼灸で刺激を与えることにより、気血の滞りが解消し、病態を改善する治療と考えられている16)。 小川らは、「遠隔部治療部を、症状発現部位にとらわれず、経絡走行部位への治療及び全身反応(自律神経調節・中枢反応等)を期待できる部位であり、その治療目的も部分的でなく全身的な効果に関与する」と報告している17)。また、松本らは、手の落枕(奇穴)穴または後谿SI3に刺鍼し、頸部の筋緊張緩和作用を明らかにするため、ROMを指標とした研究で、「落枕(奇穴)穴置鍼では, 屈曲、両側屈、両回旋で平均3~12度の有意な角度改善を示し, 側屈、回旋は置鍼側に比較し反対側が約2倍の改善を示した。後谿SI3穴置鍼では, 両側屈と両回旋で平均4~10度の有意な改善を示した」と報告している18)。また、遠隔治療に対する論文や症例報告を見ると遠隔治療を行う場合の利点の一つとしては、患者が感じる痛み等の不快な刺激感を起こさなくても治療効果が見られるとされている12)。 また、急性的に起こった病態で、局所部位に直接刺激を与えることができない場合などには、遠隔治療は有用であるとされる。そして肩こりの局所の鍼治療は気胸を起こしやすい部位なので、気胸の発生のない遠隔鍼治療が有用であると確認されれば遠隔で治療行う意義は高くなると考える。 4. 筋硬度計PEK-1(井本製作所製)について (図2) PEK-1は、片手に収まる電池式のコンパクトな装置で、2重のバネ秤機構が特徴であり、測定点に、ブザー音を発するまで本体を手で準静的に押し込むと、外周の支持筒(約13.9cm2)に一定加重が加わった事を検知し、その瞬間における中央の探触子(プローブ)の変位に相関する数値をデジタル表示する機械である19)。 鈴木らは、「筋弛緩時での筋硬度測定では,筋肉量を考慮することなく安静時筋緊張の測定が可能であり,また体脂肪の影響がほとんどなく測定可能である。このため筋硬度計(PEK-1)による筋硬度測定は,安静時の筋緊張の変化を把握するのに適応があるといえる」と報告している20)。 本実験で使用した筋硬度計の先行研究は、17件で、筋硬度計の測定値が刺激後または治療後に優位に減少したと報告している文献は9件、測定値が増加したと報告している文献が5件、測定値に変化が見られなかったと報告している文献は3件だった。これらの研究は、すべて本研究で深部とした形で測定を行っていた。 今回の実験に先駆け、30名に対して予備実験を行った結果では、本実験と同様の左右3部位に対する刺激後の筋硬度測定3回の平均値は、NRSと触診が減少したのに対して、増加傾向を示した。そこで、筋硬度計の製作者からその問題点についてアドバイスを受け、肩こりの測定の場合、通常測定される深さより浅い部位を測定したほうがより測定値が肩こりを反映する可能性があることを指摘され、そこで、通常の部(深部)とそれより浅い部(浅部)の2部位を測定した。PEK-1による浅部の測定はこれまで報告がなく、本研究が初めての試みであった。 5. PEK-1(井本製作所製)を使った測定方法について 測定する際に、測定部位に形のわかるシールを貼り、測定部位をずれないように配慮した。筋硬度計の測定は、各箇所を深部、浅部に分けそれぞれ3回ずつ続けて測定を行った。 浅部の測定を行ったのは、肩の測定の際は、通常の筋硬度計が10㎜の深さを測定しているので、肩こりの測定にはより浅い部が適切であると考え、筋硬度計の副筒の先端の部に5㎜の厚さの段ボール紙を貼って測定した。そのことで、肩上部の比較的浅い部にある皮膚や皮下組織の張り感の硬度を測ることができたのではないかと考える。 先に述べたように予備実験のさいには、測定は座位、刺激は臥位で行ったが、途中に退位変換したことが測定値に影響を与えた可能性があると考え、本実験の場合には、背もたれによりかかる座位の姿勢で、測定も刺激も行い、退位変換の影響がないようにした。 また、大鍾への鍼刺激時には、対象者に刺鍼が痛い場合は申告するように要請していたが痛いと言う訴えは1例もなかった。 そして、被験者に実験中に安定した状態を保つように指示し、安静時、筋弛緩時に筋硬度計の測定を行えたことにより、1回目と2回目、2回目と3回目、3回目と1回目は高 い相関を示した(pearsons順位相関係数による)。 6. 本実験について 本実験研究では、足部の大鍾穴を鍼で刺激し、全対象者23名の肩こりに対し、どのような影響があるかを両側の3ヵ所(肩井付近、肩中兪、肺兪)の深部、浅部で検討した。 測定者の触診の値は、刺激側の深部と浅部が有意に減少し、対象者に尋ねたNRSは、刺激側、非刺激側6か所全て有意に減少した。被験者と測定者の自覚的には、肩こりの改善が見られたと考えられる。刺激側と非刺激側の肩中兪、肺兪の有意な減少が見られたことは、『霊枢』経別篇第十一には『足の少陰腎経の別行する正経は、本経から別れて膝膕中に入り、別の一脈は太陽膀胱経と合して上行し、腎臓を経て第一四椎両傍の腎兪から出て、帯脈に属します。また別に直行するものは、上行して舌根につながり、再び項に出て太陽膀胱経に合します。』21)とあり、腎経に刺激したことで背部に影響した可能性があると考える。 筋硬度計測定平均値は、通常の測定部である深部においては、筋硬度の平均値は、肩井において、刺激側は刺激後増加し、非刺激側は刺激後0.37減少したが、刺激後の変化は有意ではなかった。また、ほかの部(肩中兪、肺兪)はすべて刺激後増加した。 刺激側ではない反対側(非刺激側)の変化を目的とする治療法は、鍼の刺法の一つに巨刺という方法があり、左側に症状があれば右側に、右側に症状があれば左側に刺鍼するという刺法である。この方法について、中澤らは筋疲労が経絡に及ぼす影響についての研究を行った報告では、経脈が督脈と任脈を中心として左右で連絡しているという理論に基づいて用いられる手法であると報告している22)。中澤らの報告のように、巨刺の考え方で、大鍾刺激により非刺激側の肩井付近に影響した可能性があると考えられる。 一方、浅部においては、筋硬度の平均値は刺激側の肩井は有意ではなかったが、0.42減少し、非刺激側は増加した。また、肩中兪、肺兪も浅部はすべて刺激後増加した。このように、肩井付近で刺激側の値が減少し、非刺激側の値が増加して、左右の刺激後の値がほぼ同じ値16.74±3.08と16.76±3.60に近づいたことは、刺激前浅部の左右肩井付近の張りのアンバランスが刺激後是正され、バランスの取れた状態に近づいた結果であり、そのことを研究対象者はNRSで、実験者は触診で、数値の減少という形で表現したのではないかと考える。以上のように、大鍾への鍼刺激は、測定した3ヵ所では、肩井付近のみで筋緊張緩和を引き起こすように影響を与えたと推察され、被験者の肩こり感も減少したと考えるが、今後更に症例を増やして、研究を行うことが必要であると考える。 これらの結果から、大鍾は、上脊髄反射により、左右肩上部の筋血流量や皮膚血流量に影響し、皮膚や皮下組織、筋などの軟部組織の緊張や弾力の無さを軽減させ、また、東洋医学的には、肩井付近の気、血の滞りや、不足を改善し、肩こりを緩和する可能性があることが示唆された。 7. 今後の課題 本実験研究の今後の課題としては、身体の変化をより正確に把握出来る機器による実験が求められることと、遠隔治療が影響及ぼす身体部位の明確化やその影響のメカニズムをさらに明らかにする必要があると考える。また、予備実験やプロトコルの検討を十分に行うことが今後、より厳密な研究成果を生み出すものと考える。 V. 結論 本研究では、外傷や基礎疾患のない本態性(原発性)肩こりに対して遠隔部の大鍾への鍼刺激を行って、鍼刺激が肩部にどのような影響を与えるか、主観的指標(NRS、触診)と客観的指標(筋硬度計PEK-1、井本製作所)を用いて、検討した。その結果、大鍾の刺激前後で、肩井、肩中兪、背兪のNRS、肩井の触診の値は有意に減少したが、筋硬度計測定値では、肩井、肩中兪、背兪のいずれにも有意な減少は認められなかった。しかし、肩井での刺激側の浅部と非刺激側の深部の値は減少し、腎経の大鍾の鍼刺激が肩井付近の筋緊張の緩和、弾力の無さを軽減させるように影響したことが示唆された。 Ⅵ.引用文献 1. 吉竹博.日本人の生活と疲労.労働科学研究所.1983.(労働科学叢書, 67)p.92-102. 2. 高木克公.肩こりの予防と治療.日本臨床整形外科医会会誌. 2003. 28(1), p.12-17. 3. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/、2017年1月15日 4. 兵頭正義. 肩こり. 日本鍼灸良導絡医学会誌. 1992. 21(3). p.4-16. 5. http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/04/h0405-4.html、2017年1月15日 6. 坂井友実.肩こり・頸部痛に対する鍼治療.ペインクリニック.28(2).p179-187.2007.02. 7. 森本昌宏.<総説>肩こりの臨床:適切な診断と治療のために.近畿大学医学雑誌. 2010. 35(3-4), p.151-156. 8. 本郷正豊著,小野文恵解説.解説鍼灸重宝記.医道の日本社,1963. p.174-175【肩こり頸部痛に対する鍼治療5, 鍼灸重宝記】 9. 大阪市立盲学校理療科研究部. 経絡経穴概論 : 盲学校理療科標準教科用図書. 日本ライトハウス点字情報技術センター.1991. p.24-25. 10. 矢野忠.東洋医学一般:盲学校保健理療科標準教科用図書.日本ライトハウス点字情報技術センター. 1992. p.81-87. 11. 森和, 西條一止. 鍼灸医学大辞典.医歯薬出版.2012. p.310-311. 12. 前田尚子,形井秀一.遠隔治療による体表所見の変化に伴い、主訴が改善した一症例.伝統鍼灸. 2013. 40(1), p.68-69. 13. 教科書執筆小委員会著;日本理療科教員連盟,東洋療法学校協会編.新版 経絡経穴概論.医道の日本社, 2013. p.10-11. 14. 伊藤和憲,南波利宗,西田麗代,河本真,越智秀樹,北小路博司.大学生の肩こり被験者を対象にしたトリガーポイント鍼治療の試み 肩こりに関するアンケート調査と鍼治療の効果に関する臨床試験,全日本鍼灸学会雑誌.2006.56(2),p150-157. 15. 佐藤昭夫著:佐藤優子著:R.F.シュミット著:山口真二郎監訳.体性-自律神経反射の生理学:物理療法,鍼灸,手技療法の理論.シュプリンガー・ジャパン,2007.p.99-100. 16. 南山堂医学大辞典第20版. 南山堂, 2015. p.665-666. 17. 小川卓良,形井秀一,篠原昭二.局所治療と遠隔部治療アンケート調査.全日本鍼灸学会雑誌. 2004. 54(1), p.14-26. 18. 松本勅,寺沢宗典,井上基浩.遠隔部刺鍼の筋緊張緩和作用に関する研究:落枕穴、後谿穴刺鍼による頚部ROMの変化. 全日本鍼灸学会雑誌. 1995. 45(1), p.68. 19. 津田康民,内田誠也,蔵元逸雄,菅野久信,新田和男.肩の柔らかさ(肩こり)計測法の検討(1).J,Intl.Soc.Life Info.Sci.23(2);335-336.2005. 20. 鈴木敏和.筋硬度計による筋硬度測定の適用.理学療法学.2007. 34(Supplement_2), p.151. 21. 小曽戸丈夫,浜田善利,意釈黄帝内経霊枢,築地書館株式会社. 1972.P69. 22. 中澤寛元,島村元,有馬義貴,村瀬智一,沢崎健太.筋疲労が経絡に及ぼす影響.東方医学.27(1),p39-45.2011. 資料 資料1 「肩こりに対する鍼治療の効果の検討」の実験研究のアンケート調査のお願い 実験研究名:遠隔部への鍼刺激による肩こりの変化 平成27年8月31日 所属 筑波技術大学大学院 技術科学研究科保健科学専攻鍼灸学コース2年生 氏名 バトバヤル エンフマンダハ 連絡先 筑波技術大学東洋医学研究室内線3208 指導教授 形井秀一 鍼灸治療には様々な治療法があります。今回は症状のある部位から離れた場所に鍼刺激を行うと、症状のある筋の緊張が緩和されることを確認する実験研究を行います。具体的には、外傷や基礎疾患を持たない肩こり(頸肩部の過緊張)の人を対象とします。肩こりで診られる頸肩部の過緊張が、上下肢(手足)の鍼刺激で緩和されるかどうかを客観的に確認します。 手順は、頸肩部の筋の過緊張に対し、足部にある大鍾穴に1分間置鍼します。置鍼前後に筋の硬度を筋硬度計で測定します。 そこで学生の皆さんにご協力をお願いいたします。 なおアンケート用紙は研究者が厳重に管理し、調査結果は本研究以外の目的では使用しません。ご協力よろしくお願いいたします。 ここからアンケートです。 各質問に対して該当する答えの番号に○を付けるか、または記入をしてください。ただし、肩こりは下記のように定義します。 肩こりとは、肩、背中にかけての張り感、こり感、痛み、こわばり感、重だるさ、重苦しさなどを感じ、頸肩を動かす際にツッパリ感や動かしづらさなど何れかを自覚する場合とします。 質問1 次のことについてお答えください。 氏名( ) 年齢 a. 18~19歳 b. 20~29歳 c. 30~39歳 d.40~49歳 e.51歳以上 性別 1. 女性 2.男性、 学科: 専攻: 質問2 日頃肩こりを感じていますか。 1. 感じている 2. 感じていない 質問2で、感じていると答えた方は質問3以降にお答えください。 質問3 肩こりをいつから感じていますか。 a. 1年未満 b. 1年以上2年未満 c. 2年以上3年未満 d.3年以上4年未満 e.4年以上5年未満 質問4 肩こりをどのぐらいの間隔で感じますか 。 a. 毎日感じる、 b. 週3回くらい感じる、 c. 月に数回感じる d. 数か月に1回感じる e. たまに感じる 質問5 肩こり以外の自覚症状はありますか。 1.ない 2.ある(次のいずれですか) a,吐き気 b.頭痛 c.目の疲れ d.不眠、e.めまい f.その他( ) 質問6 整形外科的疾患はありますか。 1.ない、 2.ある(次のいずれですか) a.むち打ち損傷 b.頚椎症 c.胸郭出口症候群 d.頸肩腕症候群 e.三角筋硬縮症 f.その他( ) 質問7 以下の病気にかかったことがありますか。 1.ない 2.ある(次のいずれですか) a.循環器疾患 b.呼吸器疾患 c.消化器疾患 d.自律神経失調症 e.精神性疾患 f.その他( ) ご協力をいただきありがとうございました。 資料2 平成28年6月 研究協力者様 筑波技術大学大学院 技術科学研究科保健科学専攻鍼灸学コース2年生 氏名 バトバヤル エンフマンダハ 連絡先 筑波技術大学東洋医学研究室内線3208 指導教授 形井秀一 実験研究の説明 この研究は、肩こりに対する遠隔鍼治療の有効性および信頼性について明らかにしようとするものです。遠隔鍼治療とは、疾病や症状の発現部位から離れた遠隔部に取穴し、鍼で刺激することを言います。一般的には、肘以下、膝以下の経穴を取穴し、頭頸部や体幹部の症状を変化させることを言います。遠隔治療の文献では、遠隔治療は局所治療より少ない刺激で効果が出現しやすく、一つの穴に刺鍼した場合にも広範囲の変化がみられ、比較的効果が持続すると報告されています。本研究は、外傷の既往がなく、現在基礎疾患がなく、肩部の過緊張を自覚している方が対象となります。 治療で使用する鍼はいずれも滅菌された使い捨てのもので、皮膚消毒等についても十分に注意をいたします。なお、鍼により、刺鍼部での微小出血や内出血、また全身のだるさ等の一時的な不快な現象が出現することが報告されています。しかしそれらは時間とともに速やかに解消されます。治療部位は下肢に1か所です。また治療は、一人の対象者に1回行います。そのほかの詳細については担当の鍼灸師に遠慮なくお聞きください。 この研究に参加されるかどうかは自由です。研究に参加されない場合でも授業の成績等には影響しません。なお、本研究で取得した情報は本研究の目的以外には使用しません。実験研究中いつでも中止することができますので申し出てください。 本研究で遠隔鍼治療の効果をさらに明確にして行きたいと考えていますのでご協力をお願いいたします。 資料3 同意書 筑波技術大学保健科学部保健学科鍼灸学専攻 大学院生 バトバヤル エンフマンダハ 教授 形井秀一殿 私は、研究課題名「遠隔部の鍼刺激による肩こりの変化」に関し、研究の目的、研究の内容・方法、プライバシーの保護、身体面、精神面等への配慮、不利益及び危険性に対する配慮、同意しない自由の保障等について説明文書に基づき十分な説明を受け、その内容を十分に理解し納得しましたので、私の自由意志により本研究の研究対象者となることに同意します。 ただし説明にもあった通り、この同意は一切の不利益を受けることなくいつでも撤回できるものであることを確認しました。 平成 年 月 日 研究対象者氏名 署名または捺印 図、表 表1 対象者の肩こりの頻度 頻度 回答数 毎日 24 週3回くらい 13 月に数回 8 たまに 1 数か月に1回 0 合計 46 図5肩こりの頻度 表2 肩こり以外の自覚症状 自覚症状 回答数 眼の疲れ 2 頭痛 17 不眠 21 吐き気 6 眩暈 3 その他 5 合計 54 図6肩こり以外の自覚症状 表3 整形外科的な疾患 整形外科疾患 回答数 むち打ち損傷 2 胸郭出口症候群 1 頚椎症 0 頸肩腕症候群 0 三角筋硬縮症 0 その他 2 合計 5 図7整形外科的な疾患 表4 基礎疾患 疾病 回答数 循環器疾患 5 呼吸器疾患 5 精神性疾患 3 自律神経失調症 2 消化器疾患 0 その他 1 合計 16 図8基礎疾患 表5 触診の刺激前後の測定値 表6 NRSの刺激前後の測定値 謝辞 本研究の支持および修士論文の執筆に温かい激励とご指導、御鞭撻をいただきました筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 形井秀一教授に心より感謝を申し上げます。 研究をするにあたり貴重なご指導とご助言をいただきました筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 緒方昭広 教授に心より感謝を申し上げます。 研究の文献収集の検索とデータの統計と分析に至るまでご指導をいただきました筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 津嘉山 洋 教授に心より感謝を申し上げます。 研究を進めるにあたり、文献の収集にてお世話になりました筑波技術大学視覚障害系図書館の職員の皆様に心より感謝を申し上げます。 研究を進めるにあたり、ご支援、ご協力をいただきました客員研究員の前田尚子先生、研修生の金子純子先生、末武良太先生、岡田浩先生、福岡彩音先生、渡部みなみ先生の皆様に心より感謝を申し上げます。 本当にありがとうございました。