論文の要旨 視覚障害者用タッチスクリーンキーボード作成のためのボタン配置に関する研究 平成28年度筑波技術大学大学院技術科学研究科保健科学専攻 大橋 隆 指導教員 大西淳児 視覚障害者のためのタッチスクリーン端末のアクセシビリティ機能は、日進月歩で発展している、主な機能としては、全盲者のためのスクリーンリーダや、弱視者向けの画面拡大機能や、コントラストや色の調整機能などがある。アクセシビリティ機能は日々発展しているが、これらの機能があっても、特に全盲者が使用するためには課題がある。タッチスクリーン端末は、パソコンや従来の携帯電話などと異なり、ハードウェアスイッチが少ないため、触覚フィードバックを頼りに使用する全盲者にとっては、操作が困難である。また、アクセシビリティ機能を有効にした場合、操作方法が通常とは大きく異なり、直感的な操作は行えない。そのため、彼らがタッチスクリーン端末を使用するためには、事前に操作手順を習得する必要がある。また、画面を見ずにスクリーンリーダの音声のみで使用するユーザにとっては、画面上のオブジェクトの配置によっては、目的のオブジェクトの探索に多くの時間がかかり、操作効率が低下する。このような状況の中、昨今では、SNSの普及もあり、タッチスクリーン端末の用途は、表示されている情報を読み取るだけでなく、数多くの選択肢の中から目的のボタンなどを選び、効率的に操作を行う必要がある。コミュニケーションツールとしての用途で使用するためには、自ら情報を発信する機会も多く、キーボード操作が必要不可欠である。しかし、全盲者が、スクリーンリーダを用いて文字入力を行うためには、日本語フルキー入力の場合、50個程度のボタンの中から目的のボタンを迅速に選択し、その操作を連続で正確かつ効率的に行わなければならない。タッチスクリーン端末の文字入力に関する関連研究も複数あり、視覚障害者が利用可能な入力方式としては、音声認識を活用した方法や、特殊なジェスチャ操作を活用した方法などの研究がある。しかし、現時点では、文字入力のデファクトスタンダードになっているものはない。本研究の目的は、視覚障害者が正確かつ効率的にキー入力操作を行えるボタン配置の条件を明らかにすることである。特に、ボタンの個数と大きさの最適条件を明らかにすることを目的とし、実験的なアプリケーションを開発して検討した。キー入力のためには、多くのボタンの中から正確かつ効率的に操作を行わなければならないが、単一ボタンや少ない個数のボタンにおける先行研究は多く存在するが、キーボードのような多くのボタン数における定量的な検討を行った研究は少ない。そこで、本研究では、はじめにランダムに配置したボタンの中から目的のボタンを選択するためには、どのような配置であれば、効率的に操作が行えるかを検討した。次に、キーボードを想定し、規則的に並んだ数多くのボタンから、正確かつ効率的に操作を行うための最適なボタンの個数やサイズを検討した。また、スクリーンリーダ環境下では、極端に小さなサイズのボタンでも操作が可能である。このため、極端に小さなボタンサイズにおける操作性の検討を行った。実験には、筑波技術大学の学生、卒業生の全盲者および、弱視者に協力頂いた。なお、弱視者が実験を行う場合は、画面を非表示にするスクリーンカーテン機能を有効にして、画面が見えない状態で実験を行った。定量的な評価を行うため、実験アプリケーションにおいて、操作結果をログファイルに出力した。評価に用いた項目は、画面を表示してからボタンを押すまでの操作時間と、指示通りに正しいボタンを押したか否かである。すべての実験において、同じ実験パターンを 10回繰り返し行った。また、実験終了後に、普段の使用状況や、実験に関するインタビューを行ったこれらの実験の結果、毎回出現する位置が異なるようなランダムに出現するボタンの場合、目的のボタンを効率的に選択するためには、直線に一次元的に並べることで、ボタンを押すまでの操作時間が短くなった。また、キーボードのように規則的に並んだボタン配置においては、ボタンの個数の増加に比例して操作時間は長くなった。特にボタンの個数が50個の場合、極端に操作時間は長かった。また、ボタンのサイズについては、タッチスクリーン端末の使用経験による個人差があるものの、ある程度のサイズまでは大きな差はなかった。本研究では、実験端末に iPhone5sを使用したが、画面のフルスクリーンを 100%としたとき、 50%のサイズまでは、正答率の低下や、操作時間が極端に長くなることはなかった。しかし、更に小さな 25%サイズや 10%サイズの結果は異なった。 25%以下のボタンサイズでは、50%以上のサイズと比較し、極端に操作時間が長くなった。また、正答率は、10%サイズの場合に極端に低下した。また、一つのボタンの縦または横のサイズが、10ピクセルを下回った場合、極端に正答率が低下することが明らかになった。このような結果より、全盲者にとっては、30個程度のボタンで操作が可能なローマ字入力が効率的であり、ボタンサイズにおいては、スマートフォンなどの小型の端末の小さなボタンでも操作は可能である。