安静立位時の暗算課題が上肢挙上の反応課題と先行随伴性姿勢調節に及ぼす影響 平成28年度 筑波技術大学大学院修士課程技術科学研究科 保健科学専攻 坂本禎典 目次 第1章 序論 1-1 背景 1-1-1 はじめに………………………………………………………… 1 1-1-2 姿勢調節………………………………………………………… 1 1-1-3 先行随伴性姿勢調節(APAs) ………………………………… 2 1-1-4 立位姿勢での右側上肢挙上におけるAPAsの身体的変化… 4 1-1-5 デュアルタスク(二重課題) …………………………………… 6 1-1-6 デュアルタスクとバランス能力……………………………… 6 1-1-7 デュアルタスクがパフォーマンスに及ぼす影響…………… 7 1-1-8 デュアルタスクとAPAsの関係性…………………………… 8 1-2 本研究の目的……………………………………………………………… 11 1-3 本研究の仮説……………………………………………………………… 11 第2章 方法 2-1 被験者と実験概要………………………………………………………… 12 2-2 倫理………………………………………………………………………… 12 2-3 作業と手順 2-3-1 測定機器・課題………………………………………………… 12 2-3-2 測定条件………………………………………………………… 15 2-3-3 プロトコル……………………………………………………… 16 2-3-4 データ分析……………………………………………………… 16 2-3-5 統計処理………………………………………………………… 19 第3章 結果 3-1 反応課題前における安静立位姿勢……………………………………… 20 3-2 反応課題後におけるAPAs及び主動作………………………………… 22 3-3 各条件内での関係性……………………………………………………… 25 3-4 デュアルタスク条件下での変化率における関係性…………………… 27 第4章 考察 4-1 反応課題前における安静立位姿勢……………………………………… 29 4-2 反応課題後におけるAPAs及び主動作………………………………… 31 4-3 各条件内での関係性……………………………………………………… 32 4-4 デュアルタスク条件下での変化率における関係性…………………… 33 第5章 結論………………………………………………………………………… 37 謝辞…………………………………………………………………………………… 38 参考文献……………………………………………………………………………… 39 用語対照表 COM 質量中心 (center of mass) COP 足圧中心 (center of foot pressure) AP-COP 前後方向のCOP(anterior-posterior center of foot pressure) ML-COP 左右方向のCOP(medial-lateral center of foot pressure) COP分散 反応課題前のCOP分散 COPの位置 前後方向のCOPの位置(踵からの距離/足長×100) APAs 先行随伴性姿勢調節 (anticipatory postural adjustments) Tz 垂直方向トルク(vertical torque) C条件 コントロール条件(安静立位) S条件 シングルタスク条件(安静立位+反応課題) D条件 デュアルタスク条件(安静立位+反応課題+暗算課題) 筑波技術大学 修士(理学療法学)学位論文 第1章 序論 1-1 背景 1-1-1 はじめに 臨床の中で、理学療法士が患者に対しバランス練習を実施する場面はよくみられる。西口らは、日常生活環境は非常に多くの課題に包囲された複数課題環境であると述べており1)、実際立位にて諸動作を行う際、人は動作を行いながら、それ以外のことを考えている場面が多くある。 ある種のデュアルタスク(二重課題)を実施することで、バランス能力のパフォーマンスが向上することは知られているが、予測的な姿勢の調節とデュアルタスクとの関係性についての報告は少ない。 そこで本研究では、立位時におけるデュアルタスクが無意識で予測的にバランスを崩さないようにしている時の姿勢調節の影響を検証し、将来、立位時におけるバランス練習をする上での理学療法的アプローチの知見の援助に繋げたいと考えた。 1-1-2 姿勢調節 バランスは、人が二足の立位・歩行を行う上で重要な役割を担う。このバランスを保つための姿勢調節は、人が日常生活を送る上で重要な機能を果たしている。Sherringtonは「posture follows movement like a shadow (姿勢は運動の影のように追従する)」と表現し、運動と姿勢の調節は表裏一体の関係にあることが強調されている2)。 質量中心(以下:COM)とは、物体や身体の質量が均等に分布する点であり、人体の重心は、人の第2仙椎の直前にある。一方、足圧中心(以下:COP)とは、支持基底面内の合成された床反力の作用点の位置であり、自ら動かすことができるもので、重心を安定させるためにCOPが移動する。姿勢調節は、COMが支持基底面に投射されたCOPによって表現できる。つまり、転倒せずに姿勢を保持するということは、COMとCOPの関係より、支持基底面の範囲内にCOPが必ず存在しているということを意味している3)。 運動を行うには、発生するCOMの変動を制御し、維持するための姿勢調節機能が必要である。特に随意運動は一般的にCOMが移動すると、姿勢の崩れを引き起こすとされ、この変動を修正するために中枢神経系は2 つの姿勢調節機能を働かせる3)。 1 つは、フィードフォワード機能と呼ばれ、随意的な運動が起こる直前か同時にみられる姿勢調整機能である。運動による姿勢の崩れを、予め最小限にするために調節されるもので、実際の運動が起こる前に、計画し調節される。この姿勢調節機能は、ある運動を行う際、その運動と類似した以前の経験に基づく中枢神経系のパターンで起動するといわれている。 もう1 つは、フィードバック機能と呼ばれ、随意的な運動あるいは外乱刺激に対しての運動が、実際に起こってからみられる姿勢調節機能である。実際の運動で起こった姿勢の崩れを修正するために調節されるもので、視覚系や前庭系、体性感覚系からの感覚入力が関与しているといわれている4)。予期せぬ外乱刺激に対しての運動の場合、COMとCOPの移動は運動後に大きくなることから、フィードフォワード機能はみられず、その場合、フィードバック機能は大きく出現するといわれている5)。 これらの機能は、生後から経験的に得られるものと、本能的に備わっているものとがあるが、経験的に得られたものでも、本能的に備わっているものと総合され機能する場合もある。 1-1-3 先行随伴性姿勢調節(APAs) 前述したフィードフォワード機能とは、先行随伴性姿勢調節(以下:APAs)といわれている。APAsは、随意運動によって生じるであろう重心動揺を予測して抑制しようとする、補償的な姿勢調節のことである6) 7)。この姿勢調節は、上位中枢からの指示によるものと考えられ、生得的な反射ではなく、フィードフォワード的に過去の体験記憶に基づいたもので、予測性姿勢調節とも呼ばれている8) 9)。 APAsは、以下のような研究によって数多く報告されてきた7)。例えば、上肢挙上運動6) 10) 11)、立位つま先立ち運動12)、片側の大腿挙上運動13)、前方体幹屈曲運動14)、椅子からの立ち上がり運動15)、垂直飛び16)、一歩踏み出し動作15)などである。このような研究で、APAsは上肢や下肢の随意的な運動に先行して出現し、姿勢調節において重心動揺を最小限にするため、転倒することなく髄意運動を行うために重要な役割を果たしていることが証明されてきた。 APAsに影響を及ぼす要因としては、1) 主動作のパフォーマンス11) 15) 17) 18)、2) 動作開始前の重心位置15) 19) 20) 21)、3) 主動作の種類10)、4) 姿勢平衡の不安定性17)などが報告されている。 特に、主動作のパフォーマンスにおいて、丸岡らは、運動に適した予測過程が行われることにより、我々は立位での上肢運動中にも転倒せずに姿勢を保持し動作を遂行することができる22)と述べており、立位時における随意的な上肢運動に対してのAPAsの重要性を示している。 APAsの発生メカニズムは随意運動のメカニズムと異なるとされ、APAsを発現させる中枢機構について、1992 年にMassion が提唱した2 つのモデル(図1参照)についての論争が継続されている23)。1 つは姿勢と運動のそれぞれの調節に関わる制御系に、上位中枢から同時に指令信号が下行するが、姿勢調節実行の信号は運動制御系に入力し、一時的にこの系を抑制するparallel mode、もう1 つは運動制御系が姿勢制御系よりも上位にあると考え、運動制御系から下行した信号が一部姿勢制御系へ入力し、主動作を円滑にする方向へ姿勢調節を促進するierarchical modeである。parallel modeは、主動作を伴わない姿勢調節課題だけでもAPAsが発現すること24)、hierarchical modeはAPAsと主動作それぞれの要素が密接に関連していること11) 18)が理由として挙げられる。解剖学的に上位中枢から脊髄を下りてくる遠心性神経線維の通る脊髄下行路は、脊髄通過部位によって大きく2 つに分類される。1 つは皮質脊髄路や赤核脊髄路を中心とする背外側系、もう1 つは網様体脊髄路や前庭脊髄路や視蓋脊髄路を中心とする腹内側系である。背外側系は運動制御系の下行路、腹内側系は姿勢制御系の下行路としてみなされ、それぞれの制御系は独立しているといえるかもしれない。しかし、Moriらは、皮質脊髄路とその副軸索は下行の途中で橋延髄網様体に位置する網様体細胞に興奮性のシナプス結合をしていることに着目した。そして、一次運動野、補足運動野、大脳基底核および小脳から網様体脊髄路の起始細胞の存在する網様体への投射、すなわち皮質網様体路が主動作を開始するための姿勢調整を可能にさせていることを示唆した25)。以上、運動と姿勢調節各々の制御系とそれをつなぐ経路は解明されつつある。 図1.APAsのメカニズム(Massion J, 1992) 23): parallel modeは、姿勢と運動のそれぞれの調節に関わる制御系に上位中枢から同時に指令信号が下行するが、姿勢調節実行の信号は運動制御系に入力し一時的にこの系を抑制するモードである。hierarchical modeは、運動制御系が姿勢制御系よりも上位にあると考え運動制御系から下行した信号が一部姿勢制御系へ入力し、主動作を円滑にする方向へ姿勢調節を促進するモードである。運動制御系は姿勢の調節を確実に行い、かつ、運動制御系を確実に抑制すると解釈する。姿勢調節系はAPAsを、運動制御系は主動作を意味している。また、主線は主作用の伝達経路を、破線は一部作用の伝達経路を意味している。 1-1-4 立位姿勢での右側上肢挙上におけるAPAsの身体的変化 APAsを観察するパラメータは、筋活動やCOP、加速度、モーションキャプチャーによる実際の動きによって示される。APAsの先駆けとなった研究で、まず初めに発見されたものは、主動作筋に先行して生じる姿勢保持筋の活動である6)。その後、姿勢保持を行っているという課題の中でCOPの変化も合わせて検討されるようになった。そして、これらが検討されるようになり、動作速度を変化させたなかでのAPAsについての検討も行われてきた22)。 APAsは、上肢や下肢の随意的な運動時に先行して出現することは分かっているが、本研究では特に、実際の日常生活の中で、立位にて諸動作を行う場面がより多くみられること、また、右利きの者が多いことから、立位姿勢での右側上肢挙上におけるAPAsの身体的変化について研究する。 立位姿勢にて、右側上肢を随意的に挙上する際のAPAsの身体的変化は、筋活動の特性として、主動筋である三角筋の筋活動開始前に、ヒラメ筋の筋活動抑制に続き、脊柱起立筋、大殿筋、ハムストリングスと前脛骨筋の筋活動が続くことが明らかになっている26) 27)。COPの特性として、前後方向のCOP(AP-COP)は、随意的な主動作(両側上肢でも一側上肢でも)に先行し、後方へ移動することが明らになっている。これは、ヒラメ筋の筋活動抑制と前脛骨筋の筋活動増加によって生じ、上肢を挙上した際には、重心が前方へ移動するので、それを抑制するため、予め後方へ移動すると考えられている28)。 人が最も安定する安静立位姿勢における前後方向のCOP(AP-COP)の平均は、成人では踵から足長の40 数%であると報告している29)。藤原ら30)は、上肢挙上前の初期COP位置についての研究で、運動開始前のCOPを踵から足長の30 %、45 %、60 %に設定した場合、それぞれにおける上肢挙上時の立位姿勢が、どのように調節されるか検討した。その結果、初期COP位置が踵から足長の30 %である場合、APAsとしてCOPの後方移動はみられなかった。これは、30 %というCOPの位置は安静立位姿勢の重心位置からかなり偏移し、不安定な姿勢であったためであり、上肢挙上によって、COPが前方へ移動し、むしろ立位姿勢の安定性が増大したと述べている。このことから、上肢挙上前の前後方向のCOP(AP-COP)の位置によって、その後の動作に伴うAPAsとしてのCOPが後方移動しない場合もある。 また、Bleuseらは、COPを軸とした、その周りで発生する水平面での垂直トルク(以下:Tz)が、運動を起こしている片側の腕と関連したAPAsを定量化することに役立つパラメータであることを証明した26)。Tzは、一側上肢を随意的に前方挙上した際にみられる(図2参照)。この主動作により、体には頭上からみて反時計回りのTzが出現する。APAsとしてのTzの現象として、それと反対の頭上からみて時計回りのTzが発生するといわれている。 図2.Tzの説明: Tzは、一側上肢を随意的に前方挙上した際にみられるCOPを軸とした垂直トルクである。左の図は、肩屈曲の主動作を横から見た図である。また、右の肩屈曲は、頭上から見て反時計周りの捻れるトルクが体に働く(右の図)。これに対し、APAsとして、それと反対の時計回りのトルクが発生する。 APAsでみられる筋活動やCOP、Tzは、上肢運動の距離と速度を上げることで、APAsの振幅(COP分散・筋電位)と期間が増加する26) 28)と報告されている。 1-1-5 デュアルタスク(二重課題) デュアルタスク(二重課題)とは、1 つの課題を行いながら、同時にもう1 つの課題を行うものである。人は、道具の使用や、高度な認知作業を同時に行うことができる。そのような意味では、立ち話や料理などの何気ない日常生活の場面でさえ、デュアルタスクと捉えることができる。 デュアルタスクを用いた先行研究は数多くあり、目的や対象者も多岐にわたる(表1参照)。人の生活様式に直結しているためか、静止立位や平均台上歩行などのバランス課題を2 つの課題の一方として採用するものが多い。もう一方の同時に課せられる課題は、反応、記憶、計算などの認知作業や、ボタンはめ、コップやビー玉を乗せたトレイ運び、指での力発揮等の微細な手指操作など多彩である31)。 本研究では、デュアルタスクが、特に健常者におけるバランス能力にどのように影響しているのかを中心に考え、類似した先行研究を参考に取り組んだ。 1-1-6 デュアルタスクとバランス能力 一般的に、バランス能力の評価には、立位保持や歩行動作のみを課題として提示するシングルタスク法32)が用いられている。しかし、実際の日常生活場面においては姿勢調節そのものに注意を向けることは少なく、周囲の環境にも注意を向けながら姿勢を調節することが多いことから、姿勢調節以外に注意を向けた際のパフォーマンスの変化にも注目する必要がある。そこで、バランス能力を評価する際の課題提示法の1つとして、立位保持課題と認知課題を同時に提示するデュアルタスク法が用いられるようになった33)。デュアルタスク下での運動機能は、有用な転倒リスク評価法となることが明かとなっている1) 34) 35)。 健常者の立位時におけるバランス能力は、デュアルタスクを課すことで、姿勢調節に払う注意配分や、姿勢調節の自動化によって影響を受ける31)。 姿勢調節に払う注意配分とは、情報処理能力のことを指し、姿勢調節に払う注意配分が少ないほど、COPの動揺は減少する。これは、姿勢調節が自動化されたためであり、その分、他のことをする余裕が増えるともとらえられる。 姿勢調節の自動化とは、姿勢調節が無意識に行われる程度が増えることである。すなわち、課題に対し意識するか、無意識化されるかで決まり、自動化が高いほど、COPの動揺は減少する。本来、デュアルタスクはシングルタスクと比較して、どちらか一方の課題パフォーマンスが低下するはずである。ところが、逆に課題パフォーマンスが向上したとの報告も多数ある。姿勢調節の自動化は、デュアルタスクで課題パフオーマンスが向上する場合の、キー概念のひとつである。 姿勢調節に払う注意配分や、姿勢調節の自動化は、それぞれ独立したものではく、相互に関係している31)。 1-1-7 デュアルタスクがパフォーマンスに及ぼす影響 デュアルタスクは、これまでの先行研究で、それを行うことでパフォーマンスを低下させる場合と、逆に向上させる場合が報告されている。 デュアルタスクでパフォーマンスが低下する例として、Vuillermeら36)は、デュアルタスクとして、難易度の異なる3 つの立位姿勢と音刺激への反応課題(ボタン押し)を課した研究を行った。立位姿勢は、二足静止立位、片足立位、軟弱なフォームパッド上での片足立ちを行った。その結果、デュアルタスクでバランス課題が難しくなるほど反応時間は遅れた。これは、バランス課題の難易度が高まると、姿勢調節に必要な注意配分が増加することを示唆している。Pellecchia37)は、シングルタスク(単一課題)として、フォームパッド上での二足静止立位を、デュアルタスクとして、静止立位と難易度の異なる3 つの認知課題を同時に課す研究を行った。認知課題は、容易な順に、数列の繰り返し、数の分類、連続減算(指示された数から連続して3 を引いていく)であった。その結果、デュアルタスクで認知課題が難しいほどCOP動揺軌跡が長くなり、バランスパフォーマンスが低下したとしている。このことから、運動課題は同時に課せられる認知課題に影響をうけることが示唆されている。この先行研究では、シングルタスクとしてフォームパッド上での二足静止立位を行っており、ただ床上で立位姿勢を保持することより不安定な姿勢であり、難しい課題と思われる。つまり、立位姿勢を保持するだけでもバランスの自動化ができないことになる。それに加え、認知課題を難しくすることで、COP動揺軌跡が長くなったと考えられる。 このように、デュアルタスクをすることで、一方のパフォーマンスが低下するのは、比較的理解しやすい。しかし、逆にパフォーマンスが向上することを示した先行研究もある。デュアルタスクでパフォーマンスが向上する例として、Vuillermeら38)は、シングルタスクとして床反力計上で閉眼安静立位姿勢を、デュアルタスクとして閉眼安静立位と難易度の異なる暗算課題を同時に課しCOP動揺の変化を調べた研究を行った。前後方向のCOP(AP-COP)と左右方向のCOP(ML-COP)の動揺を測定した結果、閉眼安静立位姿勢単独よりも、閉眼安静立位姿勢と暗算課題を同時に行ったほうが、前後方向のCOP(AP-COP)の動揺が減少したことを報告している。シングルタスクとして床反力計上で閉眼安静立位姿勢を行っており、安定した床上で立位姿勢の保持を行っていることから簡単な課題であると思われる。暗算課題を同時に行ったほうが、前後方向のCOP(AP-COP)の動揺が減少した理由として、足関節周囲筋のスティフネスが増加し、安定した重心を探知するためのCOPの動きである探索的動揺が減少したためだと考えられる。安静立位姿勢における姿勢調節は、本来、自動的なものであるが、運動課題である安静立位のみに意識を向けると、かえって姿勢調節機能が損なわれる。デュアルタスクをすることで、他の課題に注意が向けられ、姿勢調節の自動化が高められたことを意味している。Donkerら39)は、シングルタスクとして開眼および閉眼安静立位姿勢を、デュアルタスクとして立位姿勢と単語の逆綴りを同時に課した研究を行った。この研究では、バランス調節の自動化の指標として、COP軌跡のサンプルエントロピーを算出した。サンプルエントロピーとは,心拍時系列のような複雑な振舞いをする時系列の規則性を計るための「一定不変の統計量」として考案された解析法である40)。サンプルエントロピーの値が大きいほどランダム性が高い(規則性が低い)ことを示し、意識的制御が介在する可能性が低くなる。分析の結果、閉眼で開眼よりもサンプルエントロピーが高くなり、閉眼では、シングルタスクよりもデュアルタスクでCOP動揺軌跡長の変動性(標準偏差)は小さく、サンプルエントロピーは高くなった。この結果は、開眼安静立位姿勢より難しい運動課題(閉眼安静立位姿勢)では、デュアルタスクで認知課題を同時に課すことで、姿勢調節の自動化が高められ、姿勢調節の効率が向上することを示唆している。 本項で述べてきたように、デュアルタスクがパフォーマンスに及ぼす影響は、様々である。そこには、デュアルタスクにおける運動課題や認知課題の難易度が、姿勢調節に払う注意配分や姿勢調節の自動化と関与していることがいえる。 1-1-8 デュアルタスクとAPAsの関係性 前述したように、デュアルタスクをすることでパフォーマンスが向上する場合はあるが、デュアルタスクをすることでの主動作と、それに伴うAPAsがどう影響されるのかは不明な点が多い。 Jonesら41)は、シングルタスクとして反応課題であるバランスボール上での股関節屈曲を、デュアルタスクとして反応課題と暗算課題を同時に課し、デュアルタスクが姿勢調節にどう影響するかの研究を行った。筋電位を測定し、シングルタスクと比較しデュアルタスクでは、主動作の筋である大腿直筋の筋活動は低下し開始も遅れたが、APAsとして体幹の筋である脊柱起立筋の筋活動は変わらなかったという結果が得られている。この研究において、Jonesらは、デュアルタスクにおいて、課題に対する注意配分の増減により一方の課題に対する遂行能力が低下したことを示している。 また、Jacobsら42)は、シングルタスクとして歩行開始前の1 歩踏み出し動作を、デュアルタスクで1 歩踏み出し動作と聴覚に対するストループテストを同時に課した研究を行った。ストループテストとは、同時に二つの情報が干渉しあう現象を利用したテストであり、1935年に心理学者Stroop JRによって報告されたことからこの名で呼ばれる43)。COPの開始時間を測定し、シングルタスクと比較しデュアルタスクでは、認知課題への注意配分が増加したことで、主動作の開始時間は遅れ、APAsの開始時間も遅れたという結果が得られている。Melzerら44)は、シングルタスクとして反応課題である合図後に前方へのステップ動作を、デュアルタスクとして反応課題と視覚に対するストループテストを同時に課した研究を行った。APAsとしてCOPを測定し、シングルタスクと比較しデュアルタスクは、反応課題である前方へのステップ動作における遊脚相の前の準備相の段階で、認知課題への注意配分が増加したことで、支持脚への十分な体重移動が行えず、また、前後方向への力が最大になるまでの時間も遅れたという結果が得られている。同じくMelzerら45)は、シングルタスクとして反応課題である合図後に左右、前方、後方へのステップ動作を順番に行う課題を、デュアルタスクとして反応課題と視覚に対するストループテストを同時に課した研究を行った。APAsとしてCOPを測定し、シングルタスクと比較しデュアルタスクは、反応課題の前方または後方へのステップ動作で、APAsとしてのCOP開始時間に有意差は認められなかったが、左右のステップ動作における遊脚相の前の準備相の段階で、認知課題への注意配分が増加したことで、APAsとしてのCOP開始時間が遅れた結果が得られている。 これらの先行研究より、デュアルタスクによるAPAsは、どのデータ項目を測定するかで結果が変化し、デュアルタスクで主動作とそれに伴うAPAsがどう変化するかは一概に言えないことが分かる。また、暗算課題をすることで、安静立位時のCOPの動揺は減少し、静的安定性には有意に働くことは先行研究より分かっているが、反応課題前のCOPの動揺が減少した人ほど、反応課題後の主動作とそれに伴うAPAsがどう変化したかについては分かっていないのが現状である。 表1.デュアルタスクにおける主な先行研究一覧 デュアルタスクによる先行研究により、デュアルタスクによるAPAsの効果はどのデータ項目を測定するかで結果が変化し、デュアルタスクで主動作とそれに伴うAPAsがどう変化するかは一概に言えないことが分かる。 1-2 本研究の目的 本研究では、安静立位時での暗算課題が、反応課題である最大速度での一側上肢挙上と、それに伴うAPAsにどのような影響を及ぼすのかを以下の3 つの観点より検証することを目的とした。 第1 の目的として、姿勢保持のみのコントロール・反応課題を行うシングルタスク・反応課題と暗算課題を同時に行うデュアルタスクでの3 条件でCOP分散を比較し、暗算課題が安静立位の安定性にどう影響するのかを検証した。 第2 の目的として、反応課題後のAPAsと主動作をシングルタスクとデュアルタスクの2 条件で比較し、暗算課題が反応課題にどう影響するのかを検証した。 第3 の目的として、デュアルタスク条件下で、反応課題前と反応課題後にどのような関係性があるかを、相関分析を用いて検証した。 1-3 本研究の仮説 第1 の目的に対して、Vuillermeら38)の先行研究より、同様の実験方法を採用した。デュアルタスク条件では、暗算課題の影響を受けるので、安静立位姿勢での姿勢調節へ向ける注意が減少しバランスが自動化されるので、コントロール条件・シングルタスク条件と比較しCOPの動揺が減少すると仮説を立てた。 第2 の目的に対して、反応課題後の主動作とAPAsの開始時間は、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件では、Jacobsら42)やMelzerら44) 45)の先行研究の結果より、認知課題への注意配分が増加するので、反応課題である主動作の開始時間は遅れ、APAsの開始時間も遅れると仮説を立てた。 第3 の目的に対して、デュアルタスク条件下において、COPの動揺が減少している被験者では、その分、暗算課題の影響をより受けるので、反応課題への注意が減少し、主動作の開始時間がより遅れ、APAsの開始時間もより遅れると仮説を立てた。 第2章 方法 2-1 被験者と実験概要 被験者は健常成人11 名(男性8 名、女性3 名)、平均年齢と標準偏差、26.2±4.8 歳であった。包含基準は、利き手が右利きである者とした。除外基準は、体幹・四肢で筋骨格系に関する整形外科疾患、中枢性疾患の既往歴がある者、または現在内服薬を服用している者で、実験結果に支障をきたすと思われる者とした。 本実験は、床反力計上に立ち、安静立位姿勢を保持し難易度の異なる3 つの条件で測定した。反応課題は、音刺激を合図に右側上肢を挙上する課題であった。認知課題は、測定開始から21 問の計算問題を暗算する課題であった。測定項目はCOP、Tz、右側上肢の角速度であった。 2-2 倫理 本研究は、筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター医の倫理審査委員会の承認を得て実施した。全ての被験者には、任意性と同意撤回の自由、利益・不利益、研究結果の公表、個人情報の保護について、文章と口頭による説明を行い、以下の事項について同意を得た後に実験を実施した。 1.途中で同意を撤回しても不利益は生じないよう配慮される。 2.被験者の秘密は守られ、名前や個人を鑑別する情報は非公表とする。 3.研究で得られた情報は、筑波技術大学院を通じて、関連学会へ投稿される。 4.個人を識別する情報は非公表とし、この研究に関わる関係者、この研究を審査する委員会担当者が対象被験者の個人記録等を閲覧する場合があるが、この場合であってもプライバシーは保護される。 2-3 作業と手順 2-3-1 測定機器・課題 1.床反力計(フォースプレート)と三次元動作分析装置(バイコン) COPとTzの測定には、床反力計を利用した。床反力計には、歩行、重心動揺解析用可搬式多成分フォースプレート(600×500 mm KISTLER社製 型式:9260AA)が用いられた。床反力計の天板に力がかかると、取り付け用台座と天板の間に配置された4 箇所の3 成分力センサにより、その力が分離される。そして、それぞれのセンサのうちの1 枚は鉛直方向の力を感知し、残りの2 枚は前後方向(Fy)と左右方向(Fx) の力を感知する装置である46)。 本実験では床反力計は2 台使用され、1 台は被験者の立位姿勢での前後方向のCOP(AP-COP)、左右方向のCOP(ML-COP)、Tzを測定するために使用された。もう1 台は、測定中に験者が打腱器でプレート上を軽く叩き音を出し、その音刺激を合図に、被験者が右側上肢を挙上するための時間記録のために使用された。 反応課題での主動作に伴うAPAsとしてみられるCOPの後方移動は、安静立位姿勢の初期COP位置に影響されるといわれている30)。そこで、COPが足のどこにあるのか確認するため、三次元動作分析装置(VICON MOTION SYSTEMS社製 Vicon BONITA)を使用し、床反力計上での立位姿勢時の足部の位置を測定した。反射マーカーは、右足の踵骨隆起、外果突端部、母趾(第1 末節骨背部)の爪に両面テープで貼付し、6 台のカメラでマーカーの位置を確認した。 被験者は、床反力計上に裸足で立ち、閉眼にて50 秒間立位姿勢を保持した。安静立位姿勢のポジションは、被験者が意識しないで自然に立つよう口頭にて指示した。両上肢は、体幹の側方に沿うようにし、手掌が内側に向くよう設定した。足部の位置は、プレート上に自然に立つよう、両つま先を15 度外旋位とし、左右の踵の距離を3 cm離すよう設定した38)。 床反力計に立つ位置は、測定毎に常に同じ位置となるよう設定した。場所は、プレート上の後方の淵から、15 ㎝前方に左右の踵が位置し、左右の母趾のつま先がずれないよう、予めプレート上にテープで印を付けた後に測定した。 床反力計は、各測定毎にゼロ補正を実施した。これは、床反力計上に、被験者を含む全ての物がなく、どの方向にも力が加わっていない状態を0 と設定した。 三次元動作分析装置は、各被験者の実験前にキャリブレーションを実施した。これにより、床反力計が周囲のカメラで見た時どこに位置するのか、また、足部の反射マーカーを感知するカメラはどこに位置するのかを確認した。 右足部の反射マーカーに、ノイズが入らないよう、遮光カーテンで周囲の光が入らないよう配慮した。さらに、マスク処理を実施し、反射マーカー以外の光がカメラに投影されないよう配慮した。 2.角速度センサ 右側上肢の前方挙上90 度までの角速度を測定するため、角速度センサ(MicroStone社製 6 軸モーションセンサ MP-M6シリーズ MP-M6-02-2000C, W230×D120×H50 mm, 約3 g)を用いた。センサは、3 軸加速度センサと3 軸ジャイロセンサをワンパッケージ化したものである47)。 センサの延長線が被験者の第3 中手骨上になるよう、右手背の手根骨の皮膚上に両面テープで貼付した。 測定する際、センサは3 軸のため、センサを床に対して垂直を保つよう配慮する必要があった。そのため、右側上肢を挙上する際は、手掌を常に内側に維持するよう口頭にて指示した。 また、パイロットデータより、反応課題で音刺激の合図後に上肢を素早く挙上する直前に、被験者が無意識に腕を後方へ引いてしまい、その後の上肢の前方挙上がより急速になり、データの正確性に欠けることがわかった。そのため、本実験では、上肢を挙上する瞬間、できる限り後方へ引かないよう予め口頭で指示した。 3.反応課題 反応課題は、音刺激を合図に、右側上肢をできるだけ素早く90 度前方挙上する課題とした。音合図の時間記録に、床反力計のプレートを使用した。験者は、測定開始後約42 秒時に、打腱器を使用しプレートを軽く叩き音を出した。 4.暗算課題 暗算課題は、1 桁の整数の加減を2 秒間隔で流し、暗算をする課題とした。計算問題は、人声で録音したものを計20 通り用意し、パソコンより開始から終了まで一定の音量で流した。回答は、測定修了後に被験者に口頭で確認した。正解の誤差範囲を±2 とした。 2-3-2 測定条件 測定条件として以下の1~3 の3 条件を設定した(図3参照)。全条件において、床反力計上で閉眼安静立位姿勢を50 秒間保持した。コントロール条件を3 回、シングルタスク条件・デュアルタスク条件をそれぞれ5 回測定し、各被験者につき計13 回測定した。なお、各条件の順番は全6 通りあり、その回数が偏らないようにするため被験者毎に擬似ランダムで実施した。休憩時間は1 回の測定につき約1 分、条件間は約5 分とした。 1.コントロール条件 安静立位姿勢を50 秒保持する対照条件とした。 2.シングルタスク条件 測定開始の合図で安静立位姿勢を保持し、42 秒後の音刺激を合図に、被験者は右側上肢を素早く前方へ90 度挙上した。被験者は、測定終了時まで、上肢を挙上したまま姿勢を保持する単一課題条件を行った。音刺激による合図は、測定開始後、約42秒後に行った。但し、測定開始から何秒後に音合図を出すのかは被験者に知らせていなかった。 3.デュアルタスク条件 測定開始の合図で安静立位姿勢を保持し、パソコンから録音された計算問題を出題し、暗算課題を実施した。その後の音刺激を合図に、右側上肢を素早く前方へ90 度挙上する反応課題を行う二重課題条件とした。音刺激は、シングルタスクと同様に測定開始後、約42 秒後に行った。但し、計算問題が何問出題されるか、また、音合図の時間のことは被験者に知らせなかった。 図3.測定条件: 図3のCはコントロール条件(安静立位姿勢保持のみ)を、Sはシングルタスク条件(安静立位と右側上肢挙上)を、Dはデュアルタスク条件(安静立位と右側上肢挙上と暗算課題)をそれぞれ意味している。 2-3-3 プロトコル 本研究における内容の説明・同意を口頭及び書面にて実施した。その後、角速度センサ・足部マーカーを皮膚上に貼付し、裸足で床反計上に立ち、足部の位置を決め安静立位姿勢を保持した。測定は、床反力計上での立位姿勢におけるCOP、反応課題における右側上肢挙上に対する角速度、Tzを測定した。なお事前に、センサは正しく働くか、主動作である右側上肢の前方挙上は問題なく行えるか、測定前にリハーサルを1 回行い確認した。暗算課題における計算問題も、リハーサル時に音量を調節し、問題が被験者に聞こえるか確認した後に測定した。先行研究より、測定中は、声を出さず、体幹や上肢は、できる限り動かさないよう被験者へ口頭にて指示した38)。測定終了後は、暗算課題の回答を被験者へ口頭にて確認し、回答を間違えた場合は、再度測定した。 2-3-4 データ分析 データ収集には、VICON MOTION SYSTEMS社製Vicon Nexus Ver.1.8.5を使用した。サンプリング周波数を2 KHzとし、データは測定と同時にA/D変換した後、パソコンに転送された。デジタル化したデータ値は、Nexusを使用しCSV形式のファイルに保存された。 これらのファイルは、数値計算言語MATLAB(MathWorks社製バージョン8.2.701(R2013b))を使用し、床反力計からの信号には10 Hzのローパスフィルタを通し、以下のデータ値を分析した。 反応課題前のデータ分析には、立位開始5 秒から37 秒のデータを用い、前後方向のCOP(AP-COP)分散・左右方向のCOP(ML-COP)分散・COPの位置(踵からの距離/足長×100)を算出した。 反応課題後のデータ分析には、音合図から最大値までのデータを用い、Tz開始時間・右側上肢の挙上開始時間・右側上肢の挙上開始時間とTz開始時間の差、また、最大Tz・最大上肢速度・最大Tzスロープ・COPの位置(踵からの距離/足長×100)を算出した。 先行研究より、最大速度での右側上肢挙上は、APAsとして、時計回りへのTzが先行し出現することが分かっている26)。図4より、床反力計より出力されたMzは、床反力計の中央を軸とした垂直トルクである。また、同じく床反力計より出力されたFxとは、左右方向に対して働く力のことであり、Fyとは、前後方向に対して働く力のことである。xCOPとは、左右方向におけるCOPの位置であり、yCOPとは、前後方向におけるCOPの位置のことである。これらの数値をもとに、Tzは、Tz=Mz+yCOPFx-xCOPFyの方程式より算出された26)。 図4.Tzの計算に必要なデータ: 図4は、床反力計を真上からみたものである。Mzは、床反力計の中央を軸とした垂直トルクである。また、同じく床反力計より出力されたFxとは、左右方向に対して働く力のことであり、Fyとは、前後方向に対して働く力のことである。xCOPとは、左右方向におけるCOPの位置であり、yCOPとは、前後方向におけるCOPの位置のことである。 最大Tzスロープは、Tz開始から最大値までの期間における、単位時間あたりのトルクの最大変化率であり、0.5 m秒ずつずらしながら、50 m秒分のTzデータに対し近似直線を引いていき、直線の傾きの最大値として算出した。 COPの位置は、足部マーカーを貼付し足部の位置を確認することで、床反力計上で、それに基づいて各測定期間において、測定開始後5 秒から37 秒までの32 秒間(32×2,000 ポイント)の平均値が、前後方向のCOP(AP-COP)が踵から足長の何%か、あるいは、音合図における反応課題時にCOPが踵から足長の何%かを算出した。 さらに、暗算課題の影響をみるため、シングルタスク条件でのデータ値を100%としベースラインとした時、デュアルタスク条件下では、シングルタスク条件よりどれくらい変化したのかを、デュアルタスク条件での変化率とし算出した。そして、反応課題前の安定した姿勢(COP分散)と、反応課題後で起こるAPAsと主動作の変化をみるために、デュアルタスク条件下での各データ値の関係性をみた。 図5の4 つのグラフは、上から順に右側上肢の角速度、前後方向のCOP(AP-COP)、左右方向のCOP(ML-COP)、Tzを示している。左のグラフは、1 回の測定での全体50 秒間を示し、右のグラフは、音合図を0 秒とした時の0.5 秒前~1.5 秒後を示している。1 番目のグラフは、右側上肢の角速度であり、音合図後に前方挙上した際、上へ変化する。上から2 番目、3 番目のグラフの振幅は、COPの移動距離を示し、前後方向のCOP(AP-COP)は上へ移動した場合は前方に、下に移動した場合は後方へ移動したことを意味している。左右方向のCOP(ML-COP)は上へ移動した場合は右側に、下へ移動した場合は左側へ移動したことを意味している。1 番下のグラフの振幅はTzの大きさを示し、音合図を0 Nmとし、0 Nmより上は頭上からみて時計回りのトルクを、下は反時計回りのトルクが発生したことを意味している。 図5の左のグラフより、立位開始後5 秒から37 秒のデータから、反応課題前における前後方向のCOP(AP-COP)・左右方向のCOP(ML-COP)分散を求めた。 図5の右のグラフより、反応課題後における最大Tz・最大上肢速度は、音合図を0とした時、最も上へ変化した位置とした。 Tz開始時間と右側上肢挙上開始時間は、それぞれ最大値を算出し、その5 %を超えた位置とした。Tz開始から右側上肢挙上開始するまでの時間は、上肢挙上開始時間からTz開始時間の値を引いて算出した。 最大Tzスロープは、Tzのデータにおける単位時間あたりのトルクの最大変化率として算出された。 前後方向のCOP(AP-COP)の最大値・開始時間も同様に算出した。先行研究より、APAsとして、本来COPの後方移動が観察されると思われたが、実験の結果、APAsとしてCOPの後方移動がみられる場合と、みられない場合があり、今回はAPAsとしてTzのデータを用いた。シングルタスク条件・デュアルタスク条件で5 回ずつ計10 回測定し、COPの後方移動がみられない回数の平均値と標準偏差は、3.18±2.66 回だった。図5における前後方向のCOP(AP-COP)のグラフは、後方移動が観察されない例を示したものである。 図5.反応課題前後における主動作とそれに伴うAPAsの変化: 図5における4つのグラフは、上から順に右側上肢の角速度、前後方向のCOP(AP-COP)、左右方向のCOP(ML-COP)、Tzを示している。左のグラフは、1回の測定での全体50 秒間を示し、右のグラフは、音合図を0 秒とした時の0.5 秒前~1.5 秒後を示している。右側上肢の角速度は、音合図後に前方挙上した際、上へ変化する。COPの縦軸は、移動距離を示し、前後方向のCOP(AP-COP)は、上へ移動した場合は前方へ、下へ移動した場合は後方へ移動したことを意味している。左右方向のCOP(ML-COP)は、上へ移動した場合は右側に、下へ移動した場合は左側へ移動したことを意味している。Tzの縦軸は、大きさを示し、音合図を0 Nmとし、0 Nmより上は頭上からみて時計回りのトルクを、下は反時計回りのトルクが発生したことを意味している。 2-3-5 統計処理 反応課題前の安静立位姿勢におけるCOP分散を3 条件(コントロール条件・シングルタスク条件・デュアルタスク条件)は、統計処理として、重複一元配置分散分析を用いた。 COPの位置は、シングルタスク条件での反応課題前と反応課題時、デュアルタスク条件での反応課題前と反応課題時、シングルタスク条件とデュアルタスク条件での反応課題前、シングルタスク条件とデュアルタスク条件での反応課題時の其々2 条件を、二元配置分散分析を用い統計処理を実施した。なお、α = 0.05と設定した。さらに、対応のあるt検定を用い、どの条件間に有意差があるのかを確認し、その後、事後検定としてBonferroni法を用い、複数回のt検定(本実験の場合3 回実施したのでp < 0.017)の値より、小さい値を統計学的有意差とし、p値が5 %未満でありながらも、その確率が増えないよう調節した。 また、反応課題後における2 条件(シングルタスク条件・デュアルタスク条件)は、対応のあるt検定を用いた。危険率は、分散分析同様にα = 0.05と設定した。 反応課題後での各条件内(シングルタスク条件とデュアルタスク条件)の関係性をみるため、また、デュアルタスク条件下での変化率より、反応課題前と反応課題後の関係性をみるために、Pearsonの相関係数を用いた。 反応課題後での各条件内(シングルタスク条件・デュアルタスク条件)及びデュアルタスク条件下での反応課題前と反応課題後の関係性、それぞれの相関係数を多数算出しており、統計学的に甘くならないようにするため、rが0.735より大きい、または-0.735より小さい時、p < 0.01となり、有意な相関があると設定した(α= 0.01)。統計処理ソフトはMicrosoft社製Excel 2010とIBM社製SPSS Ver.21.0を使用した。 第3章 結果 結果のデータ値は、被験者11 名全員より算出された値を用いた。 COPの位置は、シングルタスク条件での反応課題前の平均値と標準偏差は、45.9±4.9 %であり、デュアルタスク条件での反応課題前の平均値と標準偏差は、46.0±5.5 %であった。また、シングルタスク条件の反応課題時の平均値と標準偏差は、45.1±4.8 %であり、デュアルタスク条件での反応課題時の平均値と標準偏差は、45.9±5.7 %であった。この値より、二元配置分散分析を実施した結果、反応課題前と反応課題時で、またシングルタスク条件とデュアルタスク条件で、それぞれ有意差はみられなかった。 デュアルタスク条件における暗算課題の回答の正誤は、不正解だった回数の平均値と標準偏差が0.72±0.86 回であり、一番間違えた被験者でも2 回であった。 3-1 反応課題前における安静立位姿勢 反応課題前の安静立位時における前後方向のCOP(AP-COP)分散、左右方向のCOP(ML-COP)分散を図6、図7に示す。前後方向のCOP(AP-COP)分散は、コントロール条件とデュアルタスク条件間でp = 0.006であり、シングルタスク条件とデュアルタスク条件間でp = 0.002であった。この結果より、コントロール条件と比較してもシングルタスク条件と比較しても、デュアルタスク条件で有意に減少がみられた。左右方向のCOP(ML-COP)分散は、コントロール条件とデュアルタスク条件間でp = 0.003であり、シングルタスク条件とデュアルタスク条件間でp = 0.012であった。この結果より、左右方向のCOP(ML-COP)も、前後方向のCOP(AP-COP)同様、コントロール条件と比較してもシングルタスク条件と比較しても、デュアルタスク条件で有意に減少がみられた。 図6.反応課題前における前後方向のCOP(AP-COP)分散: 図6~図13におけるグラフの黒い線は各条件の平均値を示し、エラーバーは±1SDを示している。図6・図7の*は p < 0.017を意味している(Bonferroni correction)。 前後方向のCOP(AP-COP)分散は、コントロール条件と比較してもシングルタスク条件と比較しても、デュアルタスク条件で有意に減少した。 図7.反応課題前における左右方向のCOP(ML-COP)分散: 左右方向のCOP(ML-COP)も、前後方向のCOP(AP-COP)同様、コントロール条件と比較してもシングルタスク条件と比較しても、デュアルタスク条件で有意に減少した。 3-2 反応課題後におけるAPAs及び主動作 反応課題後におけるAPAsであるTz開始時間を図8に示す。シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に遅れた。 主動作である右側上肢挙上開始時間を図9に示す。この結果もAPAsであるTz開始時間同様、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に遅れた。 図8.反応課題後におけるAPAs開始時間(Tz開始時間): 図8・図9の** は p < 0.01であり図10・図11の* = p < 0.05を意味している。 Tz開始時間は、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に遅れた。 図9.反応課題後における主動作開始時間(右側上肢挙上開始時間): 右側上肢挙上開始時間は、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に遅れた。 次に、APAsであるTz開始から、主動作である右側上肢挙上開始までの時間差(右側上肢挙上開始時間-Tz開始時間)を図10に示す。APAs開始から主動作が開始するまでの時間差は、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に遅れた結果となった。 図10.反応課題後におけるAPAs開始から主動作開始までの時間: APAsの開始から主動作開始までの時間差(右上肢挙上開始-Tz開始)もシングルタスク条件と比較してデュアルタスク条件で有意に遅れた。 最大Tzスロープの変化を図11に示す。シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に減少し緩やかになった。 図11.反応課題後における最大Tzスロープ: 最大Tzスロープは、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に減少し緩やかになった。 反応課題後におけるAPAsである最大Tzを図12に示す。シングルタスク条件の平均値と標準偏差は、2988.0±1124.9 Nmであり、デュアルタスク条件の平均値と標準偏差は、2614.8±1197.8 Nmであった。また、最大Tzは、シングルタスク条件とデュアルタスク条件間でp = 0.063であった。この結果より、シングルタスク条件とデュアルタスク条件で有意差はみられなかった。 主動作である右側上肢挙上の最大速度を図13に示す。シングルタスク条件の平均値と標準偏差は、472.6±110.5 °/秒であり、デュアルタスク条件の平均値と標準偏差は、448.0±102.4 °/秒であった。また、右側上肢挙上の最大速度は、シングルタスク条件とデュアルタスク条件間でp = 0.190であった。この結果からもAPAsである最大Tz同様、シングルタスク条件とデュアルタスク条件で有意差はみられなかった。 図12.反応課題後におけるAPAsの最大値(最大Tz): シングルタスク条件・デュアルタスク条件間でp = 0.063であり、有意差はみられなかった。 図13.反応課題後における主動作の最大速度(右側上肢挙上の最大速度): シングルタスク条件・デュアルタスク条件間p = 0.190であり、で有意差はみられなかった。 3-3 各条件内での関係性 反応課題後におけるAPAsであるTzと主動作である右側上肢の動きの各データ値に関係性があるか確認した。その結果、シングルタスク条件・デュアルタスク条件ともに、最大Tzと最大Tzスロープ(図14参照)に、また最大上肢速度と最大Tzスロープ(図15参照)に相関がみられた。各データ値の相関行列を表2に示す。 表2.APAsとしてのTzと右側上肢挙上の各データ値の相関行列 Sはシングルタスク条件を、Dはデュアルタスク条件をそれぞれ意味している。 はrが0.735より大きい、または-0.735より小さい時、p < 0.01となり、α= 0.01で有意な相関があったことを示している。 図14.最大Tzと最大Tzスロープの散布図: 図14・図15・図17の**は p < 0.01を意味している。 シングルタスク条件・デュアルタスク条件とも最大Tzと最大Tzスロープに正の相関がみられたが、デュアルタスク条件でより強い相関がみられた。 図15.最大上肢速度と最大Tzスロープの散布図: シングルタスク条件・デュアルタスク条件とも右側上肢の最大上肢速度と最大Tzスロープに、同じ程度の正の相関がみられた。 3-4 デュアルタスク条件下での変化率における関係性 デュアルタスク条件下での反応課題前と反応課題後の関係性をみた結果を表2に示す。暗算課題の影響をみるため、シングルタスク条件でのデータ値を100 %としベースラインとした時、デュアルタスク条件下では、シングルタスク条件よりどれくらい変化したのかを、デュアルタスク(D)/シングルタスク(S)×100の式より、デュアルタスク条件下での変化率とし算出した〔D/S(%)〕。 そして、デュアルタスク条件下での変化率〔D/S(%)〕から、反応課題前の安定した姿勢(COP分散)と、反応課題後で起こるAPAsと主動作の各データ値の関係性(相関)をみた。各データ値の相関行列を表3に示す。 反応課題前の前後方向のCOP(AP-COP)分散に対し、反応課題後のAPAsであるTz開始時間には相関がみられなかった(図16参照)。しかし、反応課題後での最大Tzスロープには負の相関が、また、主動作である右側上肢の挙上開始時間には正の相関がみられた(図17参照)。 表3.デュアルタスク条件下での変化率の相関行列 はrが0.735より大きい、または-0.735より小さい時、p < 0.01となり、α= 0.01で有意な相関があったことを示している。 図16.反応課題前における前後方向のCOP(AP-COP)分散と反応課題後のTz開始時間の散布図(デュアルタスク条件下での変化率〔D/S(%)〕: 反応課題前における前後方向のCOP(AP-COP)分散と、反応課題後の主動作に伴って起こるAPAsとしてのTz開始時間には相関がみられなかった。 図17.反応課題前における前後方向のCOP(AP-COP)分散と反応課題後の右側上肢挙上開始時間・最大Tzスロープの散布図(デュアルタスク条件下での変化率〔D/S(%)〕: 反応課題前における前後方向のCOP(AP-COP)分散と、反応課題後での主動作の開始時間には、正の相関があり、反応課題前における前後方向のCOP(AP-COP)分散が減少しづらかった被験者ほど、反応課題後での主動作の開始時間は遅れた。また、主動作に伴って起こるAPAsとしての最大Tzスロープには負の相関があり、反応課題前における前後方向のCOP(AP-COP)分散が減少しづらかった被験者ほど、最大Tzスロープは緩やかになった。 第4章 考察 4-1 反応課題前における安静立位姿勢 反応課題前における姿勢の安定性として、コントロール条件・シングルタスク条件と比較し、デュアルタスクタスク条件では、姿勢調節におけるバランスの自動化が向上するため、COPの動揺が減少すると仮説を立てた。本実験の結果、安静立位時における前後方向のCOP(AP-COP)分散は、コントロール条件・シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で減少した(図6参照)。この結果は仮設と一致している。 今回の実験方法で3 条件と設定し、コントロール条件を基準としたのは、シングルタスク条件では、事前に被験者へ反応課題を実施することを伝えており、注意が安静立位姿勢保持の姿勢調節だけでなく、反応課題にも向いてしまう可能性があり、そのことがCOPに影響すると思われたためである。その結果、コントロール条件と比較しシングルタスク条件にはCOPの分散に有意差はみられなかった。これは、安静立位姿勢を保持しなければならないというコントロール条件と比較し、姿勢保持と反応課題である右側上肢を挙上しなければならないというシングルタスク条件では、姿勢に向ける注意配分が反応課題への注意配分より多く、姿勢を保持しようとする意識が働き、姿勢の自動化がされなかったためだと考えられる。 コントロール条件・シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件でCOP分散が減少したことに対して、2 つのことを考えた。1 つ目に、3 条件とも安静立位の姿勢保持を意識させたが、本来、安静立位における姿勢調節は、自動的なものであり、デュアルタスク条件で暗算課題にも注意が向いたことで姿勢調節機能の自動化が促され、COP分散が小さくなったと考えられる。さらに、デュアルタスク条件では、暗算課題に注意が向き、姿勢調節における注意配分が減少したと考えられる。2 つ目に、本研究の結果は、暗算課題を同時に課すことで、足関節周囲筋のスティフネスが増加し、安定した重心を探知するためのCOPの動きである探索的動揺が減少したことで、バランスの自動化が向上したとの先行研究と一致している38)。これらより、姿勢保持が無意識化され、COPの動揺が減少したと考えられる。 反応課題前の安静立位時における左右方向のCOP(ML-COP)分散がコントロール条件・シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で減少した結果について述べる(図7参照)。これは、安静立位姿勢のポジションが関係していると思われる。今回は、両つま先を15 度外旋位とし、左右の踵の距離を3 cm離すよう設定した。この姿勢は、前後方向より左右方向への動揺は少ないとはいえ、左右方向での支持基底面が狭くなり、このポジションが、コントロール条件・シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に減少した結果に繋がったと考えられる。仮に、左右の踵の距離を3 cmより広くし、支持基底面を大きくした場合、姿勢の安定性が向上し、左右方向のCOP(ML-COP)分散には有意差がみられなかった可能性があると思われる。 COPの位置について、反応課題前と反応課題時で、またシングルタスク条件とデュアルタスク条件で、それぞれ有意差はみられなかった。APAsとしてのCOPの後方移動について、藤原ら30)の先行研究では、初期COP位置が踵から足長の30 %である場合、APAsとしてCOPの後方移動はみられなかった結果が得られている。これは、30 %というCOP位置が安静立位姿勢のCOP位置からかなり偏移し、不安定な姿勢であったためであり、上肢挙上によって、COPが前方へ移動し、むしろ立位姿勢の安定性が増大したためであると述べている。今回の実験の場合、反応課題前でのシングルタスク条件・デュアルタスク条件、また反応課題時でのシングルタスク条件・デュアルタスク条件でのCOPの位置の平均値は、全てにおいて踵から足長の45 %程度にあり、反応課題も暗算課題も、COPの位置が変化していないことが分かる。このことより、本研究の結果から、APAsとしてCOPの後方移動がみられない理由として、初期COPがもともと後方にあったという理由は除外される。 APAsとしてCOPの後方移動がみられなかった場合、そもそもAPAsを出現させる必要がなかったとも解釈できる。これは、もともとの安静立位姿勢の状態から、主動作である右側上肢挙上における前方への姿勢の変化が小さく、バランスを崩さずに済んだためであると考えられる。仮にAPAsとしてCOPの後方移動を確実に出現させるためには、重錘などの重りを持った状態で、上肢を素早く前方挙上させる、あるいは、一側ではなく両側上肢を素早く前方挙上させるなど、より、COPが前方へ移動する動作を行わせる必要があったと思われる。 また、図5の左側のグラフより、音合図前の前後方向のCOP(AP-COP)とTzの波形を比較すると、前後方向のCOP(AP-COP)は、もともとの移動が大きく、Tzはもともとの移動が小さいことも関係していると思われる。COPは普段から移動しているが、その移動の範囲が大きければ、APAsとしてのCOPの後方移動は、検出されづらいのではないかと考えられる。 4-2 反応課題後におけるAPAs及び主動作 反応課題後のAPAsと主動作の開始時間は、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件では、認知課題である暗算課題への注意配分が増加することで、反応課題である主動作の開始時間は遅れ、APAsの開始時間も遅れると仮説を立てた。本実験の結果、両者ともにデュアルタスク条件で開始時間が遅れた(図8・図9参照)。この結果は仮設と一致している。 APAsであるTz開始と主動作である右側上肢挙上開始までの時間差が、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で遅れたこと(図10参照)に対して、随意運動とAPAsの発生するメカニズムが異なることから、図1に示したような、上位中枢からの2 つのモードの信号から検証をする。 図10の結果をふまえると、2 つのモードのうち、hierarchical mode で運動制御系がより強く運動の実行を支持している。図18が本研究の結果をよく説明すると考えられる。 図18.APAs・主動作開始の時間差が遅れた可能性(Massion J, 1992)23): 姿勢調節系はAPAsを、運動制御系は主動作を意味している。また、主線は主作用の伝達経路を、破線は一部作用の伝達経路を意味している。本研究の結果を占める、Massionのhierarchical modeの加筆である。 主動作である右側上肢挙上開始時間が、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で遅れたことに対して、デュアルタスク条件では暗算課題へ注意が向き、反応課題への注意配分が減少したため、主動作の開始時間が遅れたと考えられる。この結果は、デュアルタスク条件で、課題に対する注意配分の増減により、一方の課題の遂行能力が低下したとの先行研究と一致している40)。 4-3 各条件内での関係性 最大上肢速度と最大Tzスロープにはシングルタスク条件でもデュアルタスク条件でも正の相関があった(表2参照)。つまり、右側上肢の挙上速度が速くなればなるほど、最大Tzスロープも急になる。ただし、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件では、最大Tzスロープは緩やかになったが、最大上肢速度には有意差がみられなかった(図13参照)。この結果は、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件では、最大Tzスロープが緩やかになったにも関わらず、最大上肢速度は維持できたともいえる。 APAsの振幅と期間は、上肢運動の距離と速度を上げることで増加する26)28)と報告され、今回の実験では、右側上肢をできるだけ素早く90 度前方挙上する課題であった。本来であれば、上肢の距離はシングルタスク条件でもデュアルタスク条件でも変化しないが(課題としての前提より)、上肢の速度は変化する可能性があった。しかし、最大上肢速度は、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意差がみられなかった点から、主動作の上肢挙上速度自体は変化していなかったといえる。 以上の点から、主動作の距離と速度がシングルタスク条件とデュアルタスク条件で変化していないという観点より、APAsの機能は、シングルタスク条件でもデュアルタスク条件でも機能していると考えられる。 APAsとしての機能が、シングルタスク条件とデュアルタスク条件で機能している証明として、シングルタスク条件とデュアルタスク条件でのTz開始時間の遅れ具合が主動作の遅れ具合と比較し少なく、それだけAPAsがより先行して出現したこと、また、最大Tzはシングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意差がみられなかったことが挙げられる。 4-4 デュアルタスク条件下での変化率における関係性 デュアルタスク条件下において、反応課題前で前後方向のCOP(AP-COP)の動揺が変化の少ない被験者と比較し、前後方向のCOP(AP-COP)が減少した被験者では、暗算課題の影響を受ける。そのため、安静立位姿勢で姿勢調節への注意配分が減少しバランスが自動化され、COPの動揺は減少する。これらの被験者では、その分、暗算課題の影響をより受けるので、反応課題への注意配分が減少し、主動作の開始時間が遅れ、APAsの開始時間も遅れると仮説を立てた。本実験の結果、反応課題前で前後方向のCOP(AP-COP)分散の変化が少ない被験者と比較し、反応課題前で前後方向のCOP(AP-COP)分散が減少した被験者では、反応課題後の主動作である右側上肢挙上開始時間は変化が少ない(相関がある)結果となり、APAsとしてTz開始時間は遅れる(相関はない)結果となった(図16・図17参照)。この結果は、仮説と一部一致している。その理由として、反応課題前での安静立位姿勢における姿勢調節への注意配分が減少し、バランスの自動化が向上したことがCOP分散を減少させたと思われるが、その分の注意力が、反応課題だけでなく、暗算課題へ配分されたことで、主動作の開始時間の変化が少なく、APAsの開始時間が遅れたと考えられる。 デュアルタスク条件下で、反応課題前の前後方向のCOP(AP-COP)分散が変化した被験者ほど、反応課題後の右側上肢挙上開始時間と最大Tzスロープの変化が少なく、姿勢調節に必要なバランスが自動化された可能性がある(図18参照)。つまり、暗算課題でバランスが自動化された被験者ほど、バランス制御に必要な注意配分が減少し、姿勢保持以外の他の事(本実験の場合、反応課題)をする余裕があったと考えられる。 逆に、反応課題前の前後方向のCOP(AP-COP)分散の変化が少なかった被験者ほど、右側上肢挙上開始時間が遅れ、最大Tzスロープも緩やかになり、姿勢調節に必要なバランスが自動化できなかった可能性ある。つまり、暗算課題でバランスが自動化できない被験者ほど、バランス制御に必要な注意配分の減少は少なく、姿勢保持以外に他の事をする余裕がなかったと考えられる。注意配分の増減により、姿勢調節に必要な注意配分がどう変化したかについて図19を用いて説明する。 図19.姿勢調整における注意配分の割合: 図19の表は、各条件における注意配分を模式的に数値化した表である。被験者1人に対する注意配分の合計の値を10だと仮定した場合、?はコントロール条件(C条件)では立位姿勢だけであり余裕があったため、実験以外の他の事を考えていたと思われるので2とし、課題が増えたシングルタスク条件(S条件)では1と仮定した。デュアルタスク条件(D条件)では暗算課題も加わったので余裕がなくなり0とした。暗算課題をデュアルタスク条件(D条件)で加えたが、暗算課題に対する注意配分は、回答を間違えた場合は除外したので一定だと仮定した。反応課題前のCOP分散はコントロール条件(C条件)・シングルタスク条件(S条件)間では変化がなく、デュアルタスク条件(D条件)で有意に減少しており、立位姿勢への注意配分の減少はCOP分散を減少させることが分かっているので、8・6・3とした。反応課題をシングルタスク条件(S条件)・デュアルタスク条件(D条件)で行ったが、反応時間はデュアルタスク条件(D条件)で有意に遅れた。反応課題への注意配分が減少すると反応時間が遅れることが先行研究より分かっているので、デュアルタスク条件(D条件)ではシングルタスク条件(S条件)より少ない値とした。上の表でのデュアルタスク条件(D条件)の数値を下のグラフの平均とした場合、平均より左側と右側では、立位姿勢と反応課題の注意配分の増減により、課題の遂行能力が決定されると思われる。 本研究の場合、デュアルタスク条件でやるべきことは、安静立位姿勢保持と反応課題である右側上肢挙上と認知課題である暗算課題の3 つであった。そのうち、暗算課題は回答を間違えた場合は除外したので、暗算課題への注意配分は一定だったと思われる。 デュアルタスク条件下での変化率の結果より、姿勢保持と反応課題の両者の注意配分の増減により、課題の遂行能力が決定される。 本実験では、タスクの情報能力は各個人においてほぼ同一であり、かつ実験中は一定であったと仮定した。図19は3 つのやるべきことにおける、被験者1 人に対する注意配分を模式的に示し、注意配分の合計の値を10だと仮定する。 コントロール条件では合計の注意配分を10だと仮定した場合、立位姿勢の保持に向ける注意以外に、実際には、他の事へ注意が向いている(?=実験以外の何か他の事に注意を向けている)可能性もあるため、立位姿勢に対する注意配分が10以下の値となると考えられる(8と仮定する)。シングルタスク条件では、反応課題が加わるため、他の事を考える余裕が少なくなるため、合計を10あるうちの6と仮定し、デュアルタスク条件では、認知課題も加わるので、さらに他の事を考える余裕がなくなるため、合計を10あるうちの3と仮定した。反応課題をシングルタスク条件・デュアルタスク条件で行ったが、反応時間はデュアルタスク条件で有意に遅れた。反応課題への注意配分が減少すると反応時間が遅れることが先行研究より分かっているので、デュアルタスク条件ではシングルタスク条件より少ない値とした(シングルタスク条件を3、デュアルタスク条件を2と仮定した)。 この時、立位姿勢と反応課題の注意配分の増減により、主動作のパフォーマンスが変化すると思われる。 図19の平均値より、左側の円の場合、デュアルタスク条件下における反応課題前で前後方向のCOP(AP-COP)分散が減少した被験者ほど、立位姿勢に向ける注意配分が減少し、反応課題に対する注意配分が増加したと思われる。前後方向のCOP(AP-COP)分散が減少した被験者ほど、立位姿勢に向ける注意配分が減少し、反応課題に対する注意配分が増加したため、反応課題である右側上肢の挙上開始時間は変化が少なかったと思われる。 逆に右側の点線で示した楕円の場合、デュアルタスク条件下における反応課題前で前後方向のCOP(AP-COP)分散が減少しづらかった被験者ほど、立位姿勢に向ける注意配分が増加し、反応課題に対する注意配分が減少したと思われる。前後方向のCOP(AP-COP)分散が減少しづらかった被験者ほど、立位姿勢に向ける注意配分が増加し、反応課題に対する注意配分が減少したため、反応課題である右側上肢の挙上開始時間が遅れたと思われる。 本研究の限界と今後の課題として、主に以下の3 つが考えられる。 1 つ目に、暗算課題に対する注意配分は、計算問題が不正解だった場合、減少したといえるが、正解した場合、注意配分が増加したのか変化しなかったのかについては明確に判断ができないことである。 2 つ目に、姿勢調節は、COMが支持基底面に投影されたCOPによって表現できるが、実際の重心がどう変化したかについては、モーションキャプチャーによる動きを測定しないと判断できないことである 3 つ目に、今後の臨床場面での転倒予防訓練などへの応用を考えると、若年健常者だけでなく、高齢者や障害者との比較検討が必要なことなどが挙げられる。 デュアルタスクは、人の生活様式に沿ったバランス能力を評価することが可能である。本研究の結果から、臨床でのリハビリテーションでの、立位時におけるバランス練習をする上での理学療法的アプローチを考えると、立位バランスの自動化の程度が、上肢挙上開始時間と最大Tzスロープに影響することが示唆された。安静立位姿勢の自動化を如何に促せるかで、より効果的な手咽頭予防訓練になると考えられる。 仮に高齢者を対象とし、本研究と同様の方法で実験した場合、若年健常者と比較し、次のような結果が得られる可能性があると考えられる。 高齢者は、APAsの機能は劣り、バランス制御に関わる身体機能および認知機能も劣る。デュアルタスクでは、これを補うため、課題の優先順位が若年者と異なると言われている31)。若年健常者では、注意を認知課題に優先的に向けることで、バランス制御の自動化を高めるのに対し、高齢者では、バランス課題を優先し、バランスを意識的に回復するよう努めると思われる。そのため、本研究の場合、反応課題前のCOP分散は3 条件で有意差が出ない可能性があると考えられるが、その分、暗算課題の誤回答が増える可能性が考えられる。さらに、反応課題後の主動作・APAsの開始時間は、若年健常者と比較しさらに遅れ、最大上肢速度・最大Tzにも有意差がでる可能性があると推察する。 第5章 結論 本研究では、安静立位時での暗算課題が、反応課題である最大速度での一側上肢挙上と、それに伴うAPAsにどのような影響を及ぼすのかを以下の3 つの観点より検証した。 第1 の目的として、コントロール・シングルタスク・デュアルタスクでの3 条件で比較し、暗算課題が安静立位の安定性にどう影響するのかを検証した。 その結果、前後方向のCOP(AP-COP)及び左右方向のCOP(ML-COP)分散は、コントロール条件と比較してもシングルタスク条件と比較しても、デュアルタスク条件で有意に減少がみられた(図6・図7参照)。 第2 の目的として、反応課題後のAPAsと主動作をシングルタスクとデュアルタスクの2 条件で比較し、暗算課題が反応課題にどう影響するのかを検証した。 その結果、APAsとしてのTz開始時間と、主動作である右側上肢挙上開始時間は、両者ともにシングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に遅れた(図8・図9参照)。また、APAs開始から主動作開始までの時間差もシングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に遅れる結果となった(図10参照)。 最大Tzスロープは、シングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意に減少した(図11参照)。 最大上肢速度と最大Tzはシングルタスク条件と比較しデュアルタスク条件で有意差は認められなかった(図12・図13参照)。 シングルタスク条件・デュアルタスク条件ともに、最大Tzと最大Tzスロープに、また最大上肢速度と最大Tzスロープに正の相関がみられた(表2参照)。 第3の目的として、デュアルタスク条件下で、反応課題前と反応課題後にどのような関係性があるかを検証した。 その結果、デュアルタスク条件下における反応課題前の前後方向のCOP(AP-COP)分散に対し、反応課題後のAPAsであるTz開始時間には相関がみられなかった。しかし、反応課題後での最大Tzスロープには負の相関が、また、主動作である右側上肢挙上開始時間には正の相関がみられた(表3参照)。 以上から、安静立位時での暗算課題は、反応課題における主動作とそれに伴うAPAsの両者ともに開始時間を遅らせ、さらに、最大Tzスロープも緩やかにさせたが、主動作の上肢挙上速度自体は、シングルタスク条件とデュアルタスク条件で変化はなく、APAsとしての機能を充分果たしていた。安定した立位姿勢が確保できれば、姿勢の自動化が行えるので、姿勢自動化の程度が主動作にもAPAsにも影響を与えることが分かった。 謝辞 本研究を行うにあたり、多くの方々のご支援を頂きました。 研究指導を頂きました筑波技術大学大学院 技術科学研究科 講師 井口 正樹先生、教授 松下 昌之助先生には、本研究の実施および修士論文の執筆にあたり、終始暖かい激励と御指導、御鞭撻を頂きました。心より厚く御礼申し上げます。 また、筑波技術大学大学院 技術科学研究科 教授 薄葉 眞理子先生には、主査として、教授 木下 裕光先生には、副査として御指導ならびに御鞭撻を頂き心より厚くお礼申し上げます。 研究遂行にあたり、日頃より有益なご助言を頂いた、筑波技術大学 保健科学部 理学療法学専攻 教授 石塚 和重先生、准教授 三浦 美佐先生、准教授 佐々木 恵美先生、助教 中村 直子先生、並びに助教 松井 康先生には、大変お世話になりました。心より感謝申し上げます。 さらに、本実験を実施するにあたり、機器について御指導を頂きました、附属東西医学統合医療センター 助教 佐久間 亨先生には、大変お世話になりました。感謝申し上げます。その他、研究を進めるにあたり、貴重な御意見を頂きました、筑波技術大学の多くの先生方に心より感謝申し上げます。 また、被験者として本実験に協力して頂いた皆様に心より感謝申し上げます。 最後に、大学院へ通うことを理解し、支えてくれた家族に心より深く感謝致します。 参考文献 1) 西口周, 山田実, 青山朋樹. 能力評価におけるデュアルタスクの可能性 デュアルタスク下の歩行関連動作能力の評価と転倒リスク. 体育の科学 65(5):319-323, 2015 2) Sherrington C. The integrative action of the nervous system. Yale Univ.Press,New Haven, 1947 3) 細田多穂. 理学療法の基礎と評価 理学療法ハンドブック 改訂第4版. 協同医書出版株式会社 pp609, 2010 4) 中村隆一, 齋藤宏, 長崎浩. 基礎運動学 第6版. 医歯薬出版株式会社 pp354, 2005 5) Santos MJ, Kanekar N, Aruin AS. The role of anticipatory postural adjustments in compensatory control of posture: 2.Biomechanical analysis. J Electromyogr Kinesiol 20(3):398-405, 2010 6) Belen,kii EV, Gurfinkel,VS, Pal'tsev EI. Elements of control of voluntary movement. Biofizika 12(1) :135-141, 1967 7) 伊藤太郎. 先行随伴性姿勢調節の機能的意義.英和大学人文科学研究室紀要. 人間文化(9):2-57, 2005 8) 東隆史. 運動開始時の初期重心位置の違いが先行随伴性姿勢調節と運動成果に及ぼす影響について. 四天王寺大学紀要(49):325-353, 2010 9) 藤原勝夫. 講座・姿勢・4 予測性姿勢調節. PTジャーナル25(4):265-272, 1991 10) Zattar M, Bouisset S. Chronometric analysis of the posturo-kinetic programming of voluntary movement. J Mot Behay 18(2):215-223, 1986 11) Lee WA, Buchanan TS, Rogers MW. Effects of arm acceleration and behavioral conditions on the organization of postural adjustments during arm flexion. Exp Brain Res 66(2):257-270, 1987 12) Diener HC, Dichgans J, Guschlbauer B, Bacher M, Rapp H, Langenbach. Associated postural adjustments with body movement in normal subjects and patients with parkinsonism and cerebellar disease. Rev Neurol 146(10):555-563, 1990 13) Rogers MW, Pai YC. Dynamic transitions in stance support accompanying leg flexion movements. Exp Brain Res 81(2):398-402, 1990 14) Crenna P, Frigo C, Massion J, Pedotti A. Forward and backward axial synergies in man. Exp Brain Res 65(3):538-548, 1987 15) Crenna P, Frigo C. A motor programme for the initiation of forward-oriented movements in humans. J physiol 437:635-653, 1991 16) Le Pellec A, Maton B. Anticipatory postural adjustments are associated with single vertical jump and their timing is predictive of jump amplitude. Exp Brain Res 129(4):551-558, 1999 17) Slijper H, Latash M. The effects of instability and additional hand support on anticipatory postural adjustments in leg,trunk,and arm muscles during standing. Exp Brain Res 135(1):81-93, 2000 18) Ito T, Azuma T, Yamashita N. Anticipatory control related to the upward propulsive force during the rising on tiptoe from an upright standing position. Eur J Appl Physiol 92(1-2):186-195, 2004 19) 山下謙智. 立位つま先立ち動作における初期重心位置が反応時間及び予測性姿勢調節に及ぼす影響. 第12回日本バイオメカニクス大会論集, 1994 20) 東隆史. 一歩踏み出し動作における動作開始時の重心位置、動作速度、および動作開始前に現れる見越し活動の相互関係. 英知大学人文科学研究室紀要.人間文化 1 :113-125, 1998 21) 東隆史, 伊藤太郎, 山下謙智. 一歩踏み出し動作における運動開始時の重心位置、動作時間および運動開始前に出現する先行随伴性活動の相互関係. 体力科学 51(6):552, 2002 22) 丸岡祥子, 鈴木俊明. 上肢運動に際した先行随伴性姿勢調節に関する文献的研究. 関西医療大学紀要 6:116-122, 2012 23) Massion J. Movement, posture and equilibrium: interaction and coordination. Prog Neurobiol 38(1):35-56, 1992 24) Aruin AS, Shiratori T, Latash ML. The role of action in postural preparation for loading and unloading in standing subjects. Exp Brain Res 138(4):458-466, 2001 25) Mori S, Matsuyama K, Mori F, Nakajima K. Supraspinal sites that induce locomotion in the vertebrate central nervous system. Adv Neurol 87:25-40, 2001 26) Bleuse S, Cassim F, Blatt JL, Defebvre L, Derambure P, Guieu JD. Vertical torque allows recording of anticipatory postural adjustments associated with slow, arm-raising movements. Clinical Biomechanics 20(7):693-699, 2005 27) Zattara M, Bouisset S. Posturo-kinetic organisation during the early phase of voluntary upper limb movement. 1 Normal subjects. J Neurol Neurosurg Psychiatry 51(7):956-965, 1988 28) Huang M, Brown SH. Age differences in the control of postural stability during reaching tasks.Gait Posture 38(4):837-842, 2013 29) 藤原勝夫, 池上晴夫, 岡田守彦. 立位姿勢における足圧中心位置およびその規定要因に関する一考察. 姿勢研究 4:9-16, 1984 30) 藤原勝夫, 外山寛, 浅井仁, 山科忠彦. 急速上肢挙上時の立位姿勢調節に対する身体重心の前後方向の位置と重量負荷の影響. 体力科学 40(4):355-364, 1991 31) 板谷厚. 能力評価におけるデュアルタスクの可能性 デュアルタスクによるバランス能力の評価. 体育の科学 65(5):324-329, 2015 32) 望月久, 峯島孝雄. 重心動揺計を用いた姿勢安定性度評価指標の信頼性および妥当性. 理学療法学 27(6):199-203, 2000 33) Fraizer EV, Mitta S. Methodological and interpretive issues in posture-cognition dual-tasking in upright stance. Gait Posture 27(2):271-279, 2008 34) Yamada M, Aoyama T, Arai H, Nagai K, Tanaka B, Uemura K, Mori S, Ichihashi N. Dual-task walk is a reliable predictor of falls in robust elderly adults. J Am Geriatr Soc 59(1):163-164, 2011 35) Chu YH, Tang PF, Peng YC, Chen HY. Meta-analysis of type and complexity of a secondary task during walking on the prediction of elderly falls. Gariatr Gerontol Int 13(2):289-297, 2013 36) Vuillerme N, Nougier V. Attentional demand for regulating postural sway: the effect of expertise in gymnastics. Brain Res Bull 63(2):161-165, 2004 37) Pellecchia GL. Postural away increases with attentional demands of concurrent cognitive task. Gait Posture 18(1):29-34, 2003 38) Vuillerme N, Vincent H. How performing a mental arithmetic task modify the regulation of centre of foot pressure displacements during bipedal quiet standing. Exp Brain Res 169 (1):130-134, 2006 39) Donker SF, Roerdink M, Greven AJ, Beek PJ. Regularity of center-of-pressure trajectories depends on the attention invested in postural control. Exp Brain Res 181(1):1-11, 2007 40) 有働直美, 村山伸樹, 林田祐樹, 伊賀崎伴彦, 近藤裕一. 低出生体重児の生理機能データに関する非線形的解析の検討.平成19 年度 電気関係学会九州支部連合大会 07-1P-04, 2007 41) Jones.P, Sorinola I, Strutton PH. Effect of dual tasking on postural responses to rapid lower limb movement while seated on an exercise ball. Gait Posture 40(2):297-304, 2014 42) Jacobs JV, Kasser SL. Effects of dual tasking on the postural performance of people with and without multiple sclerosis: a pilot study. J Neurol 259(6):1166-1176, 2012 43) Stroop JR. Studies of interference in serial verbal reactions. J Exp Psychol Gen. 28:643-662, 1935. 44) Melzer I, Liebermann DG, Krasovsky T, Oddsson LI. Cognitive load affects lower limb force-time relations during voluntary rapid stepping in healthy old and young adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 65(4):400-406, 2010 45) Melzer I, Oddsson LI. The effect of a cognitive task on voluntary step execution in healthy elderly and young individuals. J Am Geriatr Soc 52(8):1255-1262, 2004 46) 歩行、重心動揺解析用可搬式多成分フォースプレート型式:9260AA 取扱説明書 47) マイクロストーン株式会社. ``MP3シリーズ モーションセンサ事業 MP-G3/MP-M6シリーズ`` http://www.microstone.co.jp/product/motion
-
MP
-
G3b.html
(参照2016-02-09)