末梢性顔面神経麻痺の鍼治療効果に関する研究 平成27年度 筑波技術大学大学院修士課程技術科学研究科 保健科学専攻鍼灸学コース 山口 智子 目次 第1章 序論 1.1 研究の背景  1.1.1 顔面神経の解剖 1  1.1.2 顔面神経麻痺の病態 2  1.1.3 顔面神経麻痺の治療の現状 3 1.2 顔面神経麻痺の鍼治療 3  1.2.1 海外における顔面神経麻痺の鍼治療の研究 4  1.2.2 本邦における顔面神経麻痺の鍼治療の研究 5  1.2.3 現在の結論 5 第2章 末梢性顔面麻痺に対する鍼治療 2.1 研究の目的 6 2.2 対象と方法 6  2.2.1 対象 6  2.2.2 方法 7   2.2.2.1 置鍼治療 7   2.2.2.2 鍼通電治療 7  2.2.3 評価方法 7   2.2.3.1 顔面麻痺スコア 7   2.2.3.2 ENoGの測定と評価 8  2.2.4 統計処理 8 第3章 結果 3.1 患者の背景   3.1.1 Bell麻痺患者の背景   8   3.1.2 Hunt症候群患者の背景   9   3.1.3 Bell麻痺患者とHunt症候群患者の経過の比較   9 3.2 高ENoG値患者の結果   3.2.1 高ENoG値Bell麻痺患者のスコアの変化   9   3.2.2 高ENoG値Hunt症候群患者のスコアの変化   10   3.2.3 高ENoG値のBell麻痺およびHunt症候群患者における鍼通電または置鍼治療による初診時に対するスコアの変化率の比較   10 3.3 低ENoG値患者の結果   3.3.1 低ENoG値Bell麻痺患者のスコアの変化   11   3.3.2 低ENoG値Hunt症候群患者のスコアの変化   11   3.3.3 低ENoG値のBell麻痺およびHunt症候群患者における鍼通電または 置鍼治療による初診時に対するスコアの変化率の比較   12 3.4 6ヶ月後後遺症保持患者数   3.4.1 Bell麻痺患者の6ヶ月後後遺症保持患者数   12   3.4.2 Hunt症候群患者の6ヶ月後後遺症保持患者数   13 3.5 結果のまとめ   13 第4章 考察 4.1 高ENoG値患者群における鍼治療の効果   13 4.2 低ENoG値患者群における鍼治療の効果   14 4.3 鍼通電療法の効果   15 第5章 本研究の限界と今後の展望   15 第6章 結論   15 謝辞   17 参考文献   18 図・表 筑波技術大学 修士(鍼灸学)学位論文 第1章 序論 1.1 研究の背景 1.1.1 顔面神経の構成1,2,3,4)  顔面神経は、表情筋とアブミ骨筋支配の運動神経成分(特殊内臓性)、涙液と唾液分泌にかかわる副交感神経節前成分(特殊感覚性)、触痛覚、深部知覚の成分(体性感覚性)、鼻咽頭、軟口蓋知覚成分(内臓遠心性)を含んだ混合神経である。顔面神経が障害されることで発現する徴候は、これらの異なる神経の障害により形成される。 1)皮質-橋  大脳皮質には、身体の運動機能に対するはっきりした身体局在性的配列がある。顔面表情を意識的に調節する皮質中枢は中心溝の前方にあり、広い範囲を占めている。皮質からの線維は内包、大脳脚、顔面神経核を経て顔面神経に投射される。  他の運動神経の皮質延髄路は交叉性であるが、顔面の前額部を支配する神経は一部非交叉性である。したがって核上性顔面神経麻痺(中枢性麻痺)では、前額部は両側性支配のため、麻痺を免れる。 2)顔面神経核  運動性顔面神経核には視覚刺激、聴覚刺激、表情筋の深部知覚のインパルスが入り、反射弓の一部を成している。顔面神経核は橋下部に存在し、迷走神経や舌咽神経に遠心性内臓神経を送っている疑核の直上、呼吸、血圧、体温調節など自律神経系や内分泌機能、あるいは姿勢における骨格筋の反射活動、覚醒や睡眠などの一般的な活動状態を中枢支配する上で役割を果たしている網様体の外側、同側および体側の蝸牛神経核から神経線維を受ける上オリーブ核の背側、三叉神経脊髄路の内側にある。さらに顔面神経核の神経突起はループをなして外転神経核の背側を取り巻くようにして顔面神経第一膝部を形成した後に脳下面から橋を去り内耳道に入る。 3)側頭骨  橋を出た顔面神経は、内耳道を前上方に向かい内耳道底では上内方の骨孔から中間神経と合体し、一つの神経束となって顔面神経管に入る。側頭骨内に膝神経節と3分枝がある。 a)大錐体神経  第2膝部から分枝する。軟口蓋の味覚、痛覚を感知する知覚神経成分と、涙液と鼻腔後端の粘液分泌神経成分とを持っている。軟口蓋と扁桃の痛覚枝の神経細胞は、膝神経節にあり、後口蓋神経、翼口蓋神経節を経て大錐体神経に入る。膝神経節から中枢へは中間神経を通って三叉神経核に入る。味覚にかかわる神経突起は、中間神経を通って孤束核の1/3の味覚領に入る。  涙液分泌神経は、第四脳室下面の核から中間神経とともに膝神経節に至り、大錐体神経、Vidian神経を経て蝶形口蓋神経節に入り、さらに、上顎神経の枝である頬骨神経からその交通枝をへて涙腺に達する。 b)アブミ骨筋神経  アブミ骨筋を収縮する運動神経成分である。顔面神経管下部における孔から分かれてでる細枝で錐体隆起の底に至り、隆起内のアブミ骨筋に入る。 c)鼓索神経  顎下線、舌下腺の唾液分泌をつかさどる副交感神経成分と舌前2/3の味覚を感知する知覚神経成分である。味覚線維は舌神経、鼓索神経、顔面神経を経由して膝神経節の神経細胞に達する。中枢への突起は、中間神経とともに上行して孤束核に入る。  これら3枝の機能の有無で側頭骨内障害の部位診断ができるとされている。 4)側頭骨外  茎乳突孔をでると耳下腺に入り、ここで枝分かれする。太い側頭顔面枝と細い頸顔面枝に分かれる。さらに、側頭枝、頬骨枝、頬枝、下顎枝に分かれている。  頬筋、耳介筋、前頭筋、茎突舌骨筋、額二腹筋後腹、広頸筋も支配する。顔面筋で顔面神経に支配されていないのは上眼瞼挙筋だけである。 1.1.2 顔面神経麻痺の病態(図1)  Bell麻痺は顔面神経麻痺の60%を占める、顔面神経麻痺の代表的疾患である。本疾患の年間発症率は人口10万人にあたり30人~40人と報告されている5)。発症に季節、性差はなく患側について左右差はないが1%に同時両側性の麻痺があり、4.9%に1側の再発性の麻痺がある。発症年齢は30~60歳代に多く、小児に少ない。平均年齢は44歳である。9%に糖尿病、16%に高血圧を認め、発症誘因としては、肩こり、肉体疲労、精神疲労などが多い6)。病因は単純ヘルペスウイルスⅠ型によるものが有力視されている7)。  Ramsay Hunt症候群(以下Hunt症候群)は水痘・帯状疱疹ウイルスの活性化によるものであり、末梢性顔面麻痺の10~15%を占め、年間の発症率は人口10万人あたり2~3人と報告されている。発症頻度に左右差はなく、性差、時期、誘因についてもBell麻痺と同じである。Bell麻痺と診断される症例の20%に無疱疹性帯状疱疹と呼ばれることが多い不全型Hunt症候群が存在する8)。Hunt症候群における第Ⅷ脳神経症状の合併頻度は、難聴耳鳴りは20%程度、めまいは30%程度である。また第Ⅷ脳神経症状以外の脳神経症状を併発することもある。特に迷走神経、舌咽神経の障害が多い。帯状疱疹は耳介のみならず、時に外耳道、口蓋、舌、顔面、項部などに認められる。Hunt症候群の予後はBell麻痺と比較して明らかに悪く、完全治癒は現在のところ50%程度である9)。 1.1.3 顔面神経麻痺の治療の現状  2011年に顔面神経研究会から発刊されたガイドライン10)では、顔面神経麻痺に対する標準的治療が推奨されており、急性期の麻痺の重症度に応じて、早期にステロイドと抗ウイルス薬の治療を開始する。高度麻痺例(顔面麻痺スコア8点以下)には発症一週間前後に誘発筋電図検査(Electroneurography:以下ENoG)を行い、ENoG値が10%未満に低下した場合には顔面神経減荷術を考慮すると記載されている。ステロイドは早期に投与するほど有効で,10日以内の投与開始が、抗ウイルス薬は麻痺発症3日以内の投与開始が効果が高いとしている。  Bell麻痺においては、ステロイド大量療法とアシクロビル併用ステロイド大量療法ともに、高い治癒率で統計学的有意差は認めないが、不全麻痺例ではプレドニゾロンの漸減経口投与(7~10日で漸減)を行い、重症例では1週間入院のうえアシクロビルを併用したStennert療法変法を行う。  Hunt症候群に対しては、不全麻痺例ではプレドニゾロンの漸減療法経口投与とアシクロビルの経口投与を行い、重症例ではBell麻痺と同様にアシクロビルを併用したStennert療法変法を行う11)。  不全型Hunt症候群が存在するため、Bell麻痺においてもアシクロビル併用が推奨されている。  ビタミン剤やATP製剤,循環改善薬は亜急性期以降も麻痺がある程度が改善するまで投与する12)。薬物療法以外に虚血の改善、抗炎症効果があるとして星状神経節ブロックも行われている13)。 1.2 顔面神経麻痺の鍼治療  東洋医学においては隋代(610年)巣元方の著である『諸病源候論』では、「口喎」と記されており、麻痺により顔が歪んでいることを意味する。麻痺は風邪が体の一部に滞留したものであると考えられていた。風邪が足陽明経と手太陽経に侵入した後に再び寒邪にも遇って筋肉が緊縮し顔面頬部を牽引し、そのため口角が歪斜して、言葉が発しにくくなり、両眼で水平に物を視ることができなくなる。脈を診察して浮で遅であるものは予後良好であると言われている14)。  日本現存最古の医学書と言われている『医心方』では、身体の部分的麻痺に関する事柄が記されており治療法としては灸、摩拭、軟膏、内服薬の記載がある15,16)。  1979年にWHOは末梢性顔面神経麻痺を鍼治療の適応の疾患の1つとして報告している17)。  以前より末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の効果や方法が報告されてきた18)。  1990年代より低周波電気刺激が顔面神経の再生を抑制したり、後遺症を強くすると報告が出てきたことをうけ19,20)、近年は置鍼を選択する臨床報告も少なくない21,22)。 1.2.1 海外における顔面神経麻痺の鍼治療の研究  顔面神経麻痺に対する鍼治療でのRCTでコクランライブラリーより2009年に鍼とBell麻痺について報告されている23)。ここでは、MEDLINE, EMBASEに収録された論文から2006年4月までに収録されたRCTを抽出してある。コントロール群のないもの、治療群に赤外線装置、漢方薬が入っているものなどが除外され抽出された6件について検討されている。  Liu他24)は、Bell麻痺患者130例を対象に鍼治療群65例と薬物治療群65例に分け検討を行っている。その結果、鍼治療群での治癒が74%、軽快した例は23%、効果なしは3%だった。薬物治療群での治癒45%、軽快した例は31%、効果なしは23%だった。著者は、鍼治療群が薬物治療群より統計学上有意に優れていると結論している。 Shao他25)は、Bell麻痺患者108例を対象に、薬物療法単独群(デキサメゾン、ビタミンB1,B12)と同様の薬物療法+鍼治療群とに分け検討を行った。薬物療法+鍼治療群の治癒が52%で、著しい効果があった例は26%、軽快した例は21%、効果なしだった例は2%だった。薬物療法単独群では治癒が12%、著しい効果があった例は54%、軽快した例は20%、効果なしだった例は14%だった。この結果、著者は薬物療法+鍼治療が有効と結論している。Yu他26)は、Bell麻痺患者50例を対象に鍼治療群と薬物療法群に分け検討している。鍼治療群での治癒が83%、軽快した例は16.7%だった。薬物療法群での治癒が45%、軽快した例は10%だった。結果は鍼治療群が有効と結論している。Yang他27)は、Bell麻痺患者60例を対象に鍼治療群、経皮的末梢神経電気刺激(TENS)を用いた理学療法群に分け検討を行った。治療後21日では鍼治療群では治癒23.3%、軽快した例76.7%、効果なしは0%だった。理学療法群では治癒例は13.3%、軽快した例は87.6%、効果なしは0%だった。結果は、鍼治療群と理学療法群の効果は同じであったと結論している。Ma他28)は、HIV陽性の顔面麻痺患者95例を対象に鍼、灸、鍼灸群とビタミンB1およびB12筋肉注射群とを比較検討した。その結果、鍼群では治癒が63%軽快した例は27%、効果なしが10%だった。ビタミンB筋肉注射群と比較した結果は、鍼灸併療群が最も有効としている。Li他29)は、Bell麻痺患者94例を対象に鍼通電治療群、徒手鍼療法群に分け検討を行った。鍼通電治療群で治癒した例は62.5%、著しい効果があった例25%、軽快した例12.5%、効果なしの例0%だった。徒手鍼療法群は治癒した例63%、著しい効果があった例は28%、軽快して例は9%、効果なしは0%だった。この結果、両者の治療の効果には差はないと結論している。  文献検索の結果49件の関連性のある文献が検出され、この中の6件のRCTがシステマティックレビューの対象となり、Bell麻痺患者537症例が分析された。この調査において鍼治療による有害な副作用は、試験のいずれにおいても報告されていなかった。  分析の結果、薬物療法、理学療法、ビタミンの筋肉注射、手技療法と様々なものと比較された鍼治療群は対象群に比べ有効もしくは差はないと判定されたものが多かった。  さらに、これらのRCTは無作為化の方法が不明確で、盲検方法や治療の割り振り等の研究デザインに関する不備が多い質の悪い論文が多かった為、鍼治療の有効性について信頼できる結論を導くことが出来ていない。  以上の結果から、レビューアが鍼治療の有効性について結論するには不十分であると評価している(表1)。 1.2.2 本邦における顔面神経麻痺の鍼治療の研究(表2)  鍼治療による顔面神経麻痺の治療は鍼通電療法や置鍼療法などによる臨床的研究で報告されている。  粕谷ら30)は、末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療を検討し、麻痺の時期においては薬物単独の方が回復が早い傾向であると報告した。薬物療法単独群と鍼治療を併用した群において、鍼治療する事で回復を早められるという効果は無かったが回復を遅延させるといった逆効果も認められなかったと報告した。  稲中ら21)は顔面神経麻痺鍼治療における通電の影響を検討し、麻痺後31~60日に治療を始めた群では通電群が非通電群治癒率より高く、他の時期においては差を認めなかったと報告した。鍼通電療法は顔面神経麻痺の治癒に悪影響を及ぼしたとは言えなかったと報告した。  蛯子ら22)は、難治性のBell麻痺及びHunt症候群に対する鍼治療効果を検討し、ENoG最低値が0%に陥った場合の予後は極めて不良と考えられるが、17.2%が完全治癒し鍼治療の有効性が示唆されたと報告した。さらに、顔面麻痺スコアの変遷と後遺症スコアについては通電による悪影響は特に認められなかったとしている。 1.2.3 現在の結論  2011年顔面神経研究会は「顔面神経麻痺 診療の手引き2011年」10)において各種に治療の推奨度を分類している。  その中で、最も望ましい標準的治療としてステロイド剤の投与を上げ、ステロイド剤は早期に投与するほど有効で,10日以内の投与開始が望ましいとしている(グレードA)。さらに抗ウイルス剤は麻痺発症3日以内の投与開始を推奨している (グレードC1) 。  しかし鍼治療については、鍼単独の報告がいくつかあるものの、エビデンスレベルは低く有効性を立証するには至っていないとして、科学的根拠が無いので勧められない(グレードC2)に分類されている31)(表3)。 第2章 末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療 2.1 研究の目的  顔面神経麻痺患者においては、症状改善を目的に鍼治療が選択肢の一つと考えられている。病院の認可研修施設を対象に行なったアンケート調査32)では、鍼治療を実施している施設は11.1%と報告もあることから鍼治療を受ける患者は多いと考えられる。  現在まで末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の効果について数多くの報告があるが、効果については未だに明確になっておらず、鍼治療の有効性について研究されつつあるが、報告は散発的で、効果に対するエビデンスはいまだ十分とは言えない。  本学東西医学統合医療センターでは、医師による診察・検査および、併設する施術所における鍼灸師による鍼治療が連携して行なわれており、医学的診断に加えて電気生理学的な評価もふまえて鍼治療の効果について詳細に分類し検討出来る環境にあると考えられた。  本研究においては顔面神経麻痺患者に対する鍼治療効果が治療法によって異なるのか、および鍼治療による効果が期待できるのはどのような病態なのかを明らかにすることを目的として、過去の症例データを集積し、さらに症例数を増やし、症例の臨床像と鍼治療の効果について分析を行った。 2.2 対象と方法 2.2.1 対象  2003年2月〜2013年4月の約10年間に来院している末梢性顔面麻痺患者の症例を集積し、顔面麻痺の実態および鍼灸治療の効果について調査した。この期間に、神経内科を受診し末梢性顔面麻痺と診断された患者は52名で、その内訳はBell麻痺52%、Hunt症候群は48%とBell麻痺患者がわずかに多く来療していた(図2)。施術は教員と研修生が担当していた。  そこで今回は、来院数の多いBell麻痺とHunt症候群の診断を受けた症例を集積し、病態別および重症度別に分類し、鍼治療の効果を分析した。さらに病態ごとの分析では、鍼治療の効果を鍼通電治療群(Electro acupumcture:EA)と置鍼治療群(Retaining needl:RN)の2群に分類し、その効果についても検討した。  病態別の治療は、Bell麻痺群では鍼通電群は15例、置鍼群12例で、Hunt症候群は鍼通電群が17例、置鍼群8例であり、それらを対象に検討した。  初期の薬物療法は基本的にプレドニン内服療法が行われており、抗ウイルス剤については医師の診断により重症度に応じて内服療法が行われている。  本研究は、研究実施に先立ち本学東西医学統合医療センター医の倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:24-1)。 2.2.2 方法 2.2.2.1 置鍼治療  置鍼治療群では、前頭筋上にある「陽白」、眼輪筋上にある「四白」、口輪筋上にある「地倉」、頰筋上にある「顴髎」、ならびに顔面神経走行上の「翳風」、「下関」33)にセイリン社製の太さ0.18mm、長さ4㎝のステンレス鍼を用いて15分間の置鍼を行った(図4)。 2.2.2.2 鍼通電治療  鍼通電治療群では、眼輪筋に対し「陽白」―「四白」を、口輪筋に対しては「地倉」―「顴髎」を1~50Hzの通電を行い、また顔面神経刺激を目的に「翳風」―「下関」33)を1Hzで、セイリン社製の太さ0.2mm、長さ4㎝のステンレス鍼を介して低周波鍼通電装置(全医療器社製Ohm Pulser LFP-4000A)にて、15分間の鍼通電療法を行った。通電の強度は患者に痛みがなく筋収縮が認められる程度とした(図3)。 2.2.3 評価方法 2.2.3.1 顔面麻痺スコア(柳原法)  安静時の左右対称顔面表情と主要な動きを9項目(額のしわ寄せ,軽い閉眼,強閉眼,片目つぶり,鼻翼を動かす,額を膨らます,イーと歯を見せる,口笛,口をへの字に曲げる)に分け、各項目を4点(ほぼ正常)、2点(部分麻痺)、0点(高度麻痺)の3段階で評価する。その合計点を顔面麻痺スコア(以下スコア)とした。40点満点で36点以上を正常、10点以上を不全麻痺、8点以下を完全麻痺と定義されていて、36点以上が完全治癒と考えられる。この評価方法は、麻痺回復過程における随意運動の変化を経時的に評価することが容易であるほか顔面の各部位別に評価が可能であると考えられている34) (表4)。 2.2.3.2 ENoGの測定と評価  Electroneurography(ENoG)は誘発筋電図の一種である。茎乳突孔付近で顔面神経本幹を電気刺激すると顔面皮膚上においた表面電極により複合筋活動電位(CMAP)が記録される。電気刺激を強くしていくと刺激される神経電位数が増加しCAMPは増幅するがすべての神経が刺激される最大上刺激では、CAMPは一定となる。最大上刺激で得られたCAMPの比(患側/健側)をENoG値と呼ぶ35)。Bell麻痺ではENoG値の最低値が10%以上の例は4ヶ月以内に麻痺は回復するが、10%以下の例は非治癒が多くなるといわれている36)。今回はENoG値10%を境に検討を行った。CMAPは鼻唇溝においた皿電極により口輪筋を記録し、瞼上においた皿電極により眼輪筋を記録した(図4) 。 2.2.4 統計処理  統計処理は各調査項目について性別ではχ二乗検定を、年齢、初診時までの日数、ENoGについてはStudentのt検定とMann-Whitney U検定を用い、両群の平均値を比較した。  スコアの経過は、Repeated Measure Analysis of Variance(ANOVA)により初診時から6ヶ月後までの7群間の変化を比較した。また各時点での鍼通電群と置鍼群の比較はStudentのt検定を用いて危険率5%以下を有意とした37)。データ処理にはInstat for Macintosh(Ver.3.0b:GraphPad社製)を使用した。 第3章 結果 3.1 患者の背景 3.1.1 Bell麻痺患者の背景  Bell麻痺患者27例を対象に、鍼通電群と置鍼群の各項目を統計学的に検討した。  鍼通電群は女性5例、男性10例の計15例で、置鍼群は女性7例、男性5例の12例であった。患者の平均年齢(±S.D.)は、鍼通電群で50.1±19.7歳、置鍼群では55.3±15.3歳だった。発症から鍼灸治療初診時までの期間および平均日数(±S.D.)は、鍼通電群は4〜246日で平均40.1±59.8日で、置鍼群では6〜147日で平均42.4±45.7日だった。  初診時のENoGの平均値(±S.D.)は、鍼通電群では21.8±22.2%で、置鍼群では34±31.5%だった。  以上の男女、年齢、期間、ENoG値において、鍼通電群と置鍼群の間には統計的な有意差は認められなかった(表5)。 3.1.2 Hunt症候群患者の背景  Hunt症候群患者25例を対象に、鍼通電群と置鍼群の各項目を統計学的に検討した。  鍼通電群は女性8例、男性9例の計17例で、置鍼群は女性4例、男性4例の8例であった。患者の平均年齢(±S.D.)は鍼通電群で50.9±16.5歳、置鍼群では47.9±11.2歳だった。発症から鍼灸治療初診時までの期間および平均日数(±S.D.)は、鍼通電群は4〜255日で平均91.6±66.8日で、置鍼群では4〜189日で平均69.6±74.5日だった。初診時のENoGの平均値(±S.D.)は、鍼通電群では20.7±18.5%で置鍼群では30.8±33.0%だった。  以上の男女、年齢、期間、ENoG値において、鍼通電群と置鍼群の間には統計的な有意差は認められなかった(表6)。 3.1.3 Bell麻痺患者とHunt症候群患者の経過の比較  図5のグラフは、Bell麻痺患者群とHunt症候群患者群の初診時から6ヶ月後までの経過を示す。Bell麻痺患者群は初診時平均スコア(±S.D.)が16.2±9.5点(最高点:36-最低点:4点)から30.0±9.4点最高点:40-最低点:5点)と有意な改善を示した。  また、Hunt症候群患者群でも初診時平均13.8±8.5点(最高点:36-最低点:4点)から30.9±7.3点(最高点:40-最低点:18点)と有意な改善を示す。  治癒と評価される36点を超えたものは6ヶ月間に、Bell麻痺患者9名(34.6%)でHunt症候群患者は11名(50.0%)であった。 3.2. 高ENoG値患者の結果 3.2.1 高ENoG値Bell麻痺患者のスコアの変化  高ENoG値のBell麻痺における、鍼通電患者群と置鍼患者群の治療経過についてRepeated measures ANOVAを用い初診時から6ヶ月後の7群間のスコアの変化を比較した。  高ENoG値患者群の、初診時から6ヶ月後のスコア変化は、鍼通電群で初診時17.5±8.8点から1ヶ月後24.0±10.7、2ヶ月後28.7±11.3、3ヶ月後30.9±9.4、4ヶ月後31.6±8.6、5ヶ月後32.55±8.00、6ヶ月後には33.57点に、置鍼群では初診時18.2±10.70点から1ヶ月後24.4±10.0、2ヶ月後28.9±9.9、3ヶ月後31.1±8.2、4ヶ月後31.8±8.0、5ヶ月後31.8±8.0、6ヶ月後には31.8±31.8点に変化した。この7群間の変化は鍼通電群と置鍼群共に危険率0.01%未満で有意だった。また、初診時から6ヶ月後の間の鍼通電群と置鍼群の2群間の平均値には統計学的な有意差は認められなかった(図6)。 3.2.2 高ENoG値Hunt症候群患者のスコアの変化  高ENoG値のHunt患者における、鍼通電患者群と置鍼患者群の治療経過について初診時から6ヶ月後の7群間のスコアの変化を同様の方法で比較した。  高ENoG値患者群の、初診時から6ヶ月後のスコア変化は、鍼通電群で初診時20.2±9.21点から1ヶ月後25.33±10.91、2ヶ月後27.33±10.95、3ヶ月後28.44±10.14、4ヶ月後30.44±8.98、5ヶ月後31.78±8.30、6ヶ月後には34.22±7.02点に、置鍼群では初診時8.5±3.6点から1ヶ月後19.3±10.9、2ヶ月後26.0±6.9、3ヶ月後30.±8.1、4ヶ月後31.8±7.2、5ヶ月後31.8±7.2、6ヶ月後には31.8±7.2点に変化した。  この7群間の変化は鍼通電群と置鍼群共に危険率0.01%未満で有意だった。また、初診時から6ヶ月後の間の鍼通電群と置鍼群の2群間の平均値には統計学的な有意差は認められなかったが、置鍼群で初診時のスコアが有意に(t-test:p=0.03)低かったのにも係わらず、2ヶ月後には初期のスコアが高かった鍼通電群と同等のスコアと成っていた(図7)。 3.2.3 高ENoG値のBell麻痺およびHunt症候群患者における鍼通電または置鍼治療による初診時に対するスコアの変化率の比較  鍼通電群と置鍼群との治療法による違いを検討する目的で、初診時のスコアに対する毎月のスコアとの差を求め初診時に対する各月毎の増加率を鍼通電群と置鍼群の2群間で検討した。  高ENoGのBell麻痺患者の鍼通電群では、1ヶ月後の平均変化率55.1±23.6%、2ヶ月目101.5±43.7%、3ヶ月目130.0±55.3%、4ヶ月目136.6±55.0%、5ヶ月目150.6±63.4%、6ヶ月目161.8±67.9%で、置鍼群では1ヶ月後の平均変化率86.8±58.82%、2ヶ月目122.0±59.69%、3ヶ月目137.3±58.29%、4ヶ月目145.1±60.2%、5ヶ月目145.1±60.2%、9ヶ月目145.1±60.2%であった。  各時点で鍼通電群と置鍼群に16.7〜31.7%の差が認められたが2群の統計学的比較では有意ではなかった(図8上段)。  Hunt症候群患者の高ENoGの鍼通電群では、1ヶ月後の平均変化率28.6±11.7%、2ヶ月目43.1±14.1%、3ヶ月目52.7±15.1%、4ヶ月目69.6±18.5%、5ヶ月目81.5±22.4%、6ヶ月目103.5±30.4%で、置鍼群では1ヶ月後の平均変化率237.5±171.5%、2ヶ月目316.5±151.2%、3ヶ月目373.2±144.9%、4ヶ月目383.0±141.3%、5ヶ月目383.0±141.3%、6ヶ月目383.0±141.3%であった。  高ENoG値のHunt症候群患者の鍼通電群では、1ヶ月後の平均変化率28.6±35.0%(最大:111〜最小:0%)、置鍼群では237.5±343.0%(最大:825〜最小:0%)と208.9%の差が認められたが2群の統計学的比較では有意ではなかった。  しかし2ヶ月後以降、3ヶ月,4ヶ月,5ヶ月,6ヶ月と鍼通電群と置鍼群の差は危険率0.01%未満で統計学的に置鍼群が有意だった(図8下段)。 3.3 低ENoG値患者の結果 3.3.1 低ENoG値Bell麻痺患者のスコアの変化  初診時のENoG値10%未満の、低ENoG値のBell麻痺患者における、鍼通電患者群と置鍼患者群の治療経過について初診時から6ヶ月後の7群間のスコアの変化を同様の方法で比較した。  この結果、低ENoG値患者群の初診時から6ヶ月後のスコア変化は、鍼通電群で初診時14.5±10.9点から1ヶ月後19.0±8.4、2ヶ月後21.5±6.6、3ヶ月後23.5±6.0、4ヶ月後25.5±6.6、5ヶ月後26.5±7.7、6ヶ月後には27.0±8.4点に、置鍼群では初診時7.33±3.06点から1ヶ月後8.33±3.51、2ヶ月後10.33±4.73、3ヶ月後13.67±7.51、4ヶ月後15.67±9.29、5ヶ月後15.67±9.29、6ヶ月後には15.67±9.29点に変化した。この7群間の変化は鍼通電群と置鍼群共に危険率0.01%未満で有意だった。  初診時から6ヶ月後の間の比較では、鍼通電群と置鍼群の初診時スコア平均値は7.2点で6ヶ月後が11.3点の2群間の平均値に差が認められたが、統計学的な有意差は認められなかった。また、鍼通電群では初診時に対して1ヶ月後から有意なスコアの増加が認められるのに対して、置鍼群では4ヶ月後まで有意な増加は認められなかった(図9)。 3.3.2 低ENoG値Hunt症候群患者のスコアの変化  初診時のENoG値10%未満の、低ENoG値のHunt患者群における、鍼通電患者群と置鍼患者群の治療経過についてRepeated measures ANOVAを用い初診時から6ヶ月後の7群間のスコアの変化を比較した。  鍼通電群で初診時10.8±4.2点から1ヶ月後13.8±4.5、2ヶ月後17.3±5.7、3ヶ月後21.8±6.7、4ヶ月後24.0±6.1、5ヶ月後27.0±5.7、6ヶ月後には29.0±6.0点に、置鍼群では初診時9.75±6.12点から1ヶ月後15.88±10.61、2ヶ月後20.50±10.22、3ヶ月後24.13±11.10、4ヶ月後26.13±9.62、5ヶ月後28.63±8.11、6ヶ月後には29.13±7.54点に変化した。  この7群間の変化は鍼通電群と置鍼群共に危険率0.01%未満で有意だった。  また、初診時から6ヶ月後の間の鍼通電群と置鍼群のスコアに平均値で3.8〜5.2点で差は認められなかった。鍼通電群と置鍼群間の平均値には統計学的な有意差は認められなかった(図10)。 3.3.3 低ENoG値のBell麻痺およびHunt症候群患者における鍼通電または置鍼治療による初診時に対するスコアの変化率の比較  低ENoG値のBellおよびHunt症候群患者における鍼通電群と置鍼群との治療法による違いを検討する目的で、初診時のスコアに対する毎月のスコアとの差を求め初診時に対する各月毎の増加率を鍼通電群と置鍼群の2群間で検討した。  低ENoGのBell麻痺患者の鍼通電群では、1ヶ月後の平均変化率58.6±37.1%、2ヶ月目96.1±58.9%、3ヶ月目122.6±73.2%、4ヶ月目146.4±87.4%、5ヶ月目163.1±103.6%、6ヶ月目171.4±111.7%で、置鍼群では1ヶ月後の平均変化率15.0±7.6%、2ヶ月目40.0±17.6%、3ヶ月目76.7±28.9%、4ヶ月目76.7±43.3%、5ヶ月目100.0±43.3%、6ヶ月目100.0±43.3%であった。  各時点で鍼通電群と置鍼群に43.6〜71.4%と差が認められ鍼通電群の差が大きかったが2群の統計学的比較では有意ではなかった(図11上段)。  低ENoGのHunt症候群患者の鍼通電群では、1ヶ月後の平均変化率30.4±9.53%、2ヶ月目68.5±17.2%、3ヶ月目116.5±21.7%、4ヶ月目145.8±26.6%、5ヶ月目183.3±36.4%、6ヶ月目204.6±40.2%で、置鍼群では1ヶ月後の平均変化率23.1±5.4%、2ヶ月目46.7±25.8%、3ヶ月目67.5±33.5%、4ヶ月目101.8±35.8%、5ヶ月目140.9±71.0%、6ヶ月目154.0±85.0%であった。  各時点で鍼通電群と置鍼群に7.3〜50.7%の差が認められ鍼通電群の差が大きかったが2群の統計学的比較では有意ではなかった(図11下段)。 3.4 6ヶ月後の後遺症保持患者数 3.4.1 Bell麻痺患者の6ヶ月後後遺症保持患者数  表7に、Bell麻痺患者の6ヶ月後後遺症保持患者数の四分画表を示す。6ヶ月後に後遺症を呈した患者は、鍼通電群で5名、置鍼群で1名と鍼通電群に多く認められた。χ2検定の結果は有意では無かった。 3.4.2 Hunt症候群患者6ヶ月後後遺症保持患者数  表8に、Hunt症候群患者の6ヶ月後後遺症保持患者数の四分画表を示す。6ヶ月後に後遺症を呈した患者は、鍼通電群で8名、置鍼群で3名と鍼通電群に多く認められた。χ2検定の結果は有意では無かった。 3.5 結果のまとめ 1)Bell麻痺患者とHunt症候群患者ごとに鍼通電治療群と置鍼治療群に分けて患者背景を比較したところ、統計学的に有意な差は認められなかった。 2)ENoG値10%を境に、高ENoG群(33名)と低ENoG群(19名)に分類して検討を行った。 3)高ENoG値患者の結果、Bell麻痺患者では鍼通電群と置鍼群でスコアの変化に差は認められなかったが、Hunt症候群患者群では初期値に対する変化率で比較すると鍼通電治療群より置鍼治療群の方が有意にスコアの改善が認められた。 4)低ENoG値患者の結果、Hunt症候患者群では鍼治療方法によるスコアの差は認められないが、変化率で比較すると鍼通電治療が置鍼治療に比べ変化率が高い傾向が見られた。 5)6ヶ月後の後遺症保持患者数は、Bell麻痺およびHunt症候群患者ともに鍼通電治療群に多かったが統計学的に有意ではなかった。 第4章 考察  本研究では、末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の効果を明らかにする目的で、患者を病態によりBell麻痺とHunt症候群患者、および治療方法として鍼通電治療群と置鍼治療群とに分類し、さらに神経変性の程度を客観的評価する指標としてENoG値で分類し麻痺の程度が軽度の高ENoG値患者群と高度の顔面麻痺を呈する低ENoG値患者群に分類して検討を行った。  ENoG値は予後を反映すると考えられている。そこで予後不良と言われているENoG値10%以下を基準に高ENoG値患者群と、低ENoG値患者群に分けて鍼治療の効果を鍼通電群と置鍼群で比較検討した。 4.1 高ENoG値患者群における鍼治療の効果  Bell麻痺は全顔面神経麻痺の60%を占める代表的疾患である。比較的予後は良好でPeitersenによると本疾患の1,701例の患者を無治療で観察した場合、70%が自然治癒すると報告している38)。  本研究のBell麻痺の高ENoG値患者では鍼通電群と置鍼群でスコアの変化に差はほとんど認められなかった。  予後良好と言われているBell麻痺かつENoG値10%以上である軽症麻痺患者に於いてはほとんどの症例が治癒するといわれている。このため、高ENoG値を示す患者群では鍼灸治療の影響は観察されなかったと考えられる。  粕谷ら28)は、BellとHunt症候群が混在したENoG値41%以上の患者群で、鍼単独治療の成績がステロイド経口投与群より劣ること、またENoG値21%以上の麻痺患者群ではステロイド経口投与群と鍼治療併用群では有意差が認められなかったことを報告している。このことは、今回の患者群はBell麻痺に限定されているが高ENoG値の患者では鍼灸治療の効果は見いだせなかった結果と一致していた。  Hunt症候群は全顔面麻痺の10~15%を占め、予後はBell麻痺と比較して明らかに悪く完全治癒率は50%と報告されている。  本研究においてHunt症候群の高ENoG値患者群では鍼通電治療と置鍼治療で6ヶ月後のスコアには差は認められなかった。  しかし、初診時から2ヶ月後のスコアの変化を観察すると初期のスコアが低値であった置鍼治療群の変化が著しく、2ヶ月後には初期のスコアがすでに高かった鍼通電治療群と同等のスコアになっていることが観察された。  そこで初期値に対する変化率で比較すると、鍼通電治療群より置鍼治療群の方が有意にスコアが改善している事が解った。このことは、病態により適応する鍼治療方法が異なることを示唆していると考えられる。また、Hunt症候群患者で10%以上のENoG値を示す患者群において、鍼治療の効果を前向きに比較検討することでその有効性を証明できる可能性があると考えられた。  蛯子ら39)は、難治性と判断されたHunt症候群患者で鍼通電治療と置鍼治療の効果を比較して発症6ヶ月時点では有意差は認められなかったと報告している。この結果は、我々の結果と同じであった。しかし、鍼治療方法による相違が認められていて鍼通電治療が効果的であった結論している。このことについては我々の結果とは異なるが、蛯子らの対象がENoG 0%の高度麻痺患者であり我々のHunt患者はENoG値10%以上の麻痺程度が軽い患者群であった事を考慮すると同病態の患者でも病期により効果的な鍼治療が存在する可能性があると考えられる。 4.2 低ENoG値患者群における鍼治療の効果  Bell麻痺患者の低ENoG群では、6ヶ月時点でのスコアに差が認められ鍼通電治療が置鍼治療に比べ早期に回復する傾向が見られた。スコアの変化率において鍼通電治療の方が改善率が良い傾向を示したが統計学的な有意差は認められなかった。  予後不良と言われているHunt症候群の低ENoG麻痺患者群では、スコアの変化に鍼治療方法による差は認められなかった。しかし、変化率で比較すると鍼通電治療が置鍼治療に比べ変化率が高い傾向が見られたが統計学的には有意ではなかった。このことは、蛯子ら39)の難治性Hunt症候群患者で鍼通電治療と置鍼治療の効果を比較した結果と一致する。これらの結果からは、高度の麻痺を呈するHunt症候群患者では鍼通電療法が有用である可能性が考えられた。 4.3 鍼通電療法の効果  今回の検討では、Hunt症候患者の低ENoG群において鍼通電治療が置鍼治療に比べ変化率が高い傾向が見られたが統計学的な有意差は認められなかった。また、6ヶ月後の後遺症保持患者数はBell麻痺、Hunt症候群両群で鍼通電治療を行った群に多く認められたが、統計学上の有意差はなかった。  鍼通電療法の効果についてはいまだ議論がされている。青野ら19)はモルモットの眼輪筋の神経に対する電気刺激の実験結果から電気刺激が顔面神経麻痺回復を抑制する可能性がある報告した。この結果を踏まえ日本顔面神経研究会は、電気刺激が病的共同運動や顔面拘縮を助長させる可能性があるとして顔面麻痺のリハビリテーションにおいて低周波治療は有害であると勧告した40)。一方新井ら41)は、長期にわたる高頻度非同期鍼通電療法が、後遺症状のなかでも最も苦痛とされる病的共同運動など、後遺症状の抑制に寄与している可能性を報告している。岡田ら42)も周波数の違いが麻痺筋の回復に影響を及ぼしている可能性が示唆されるとして、病的共同運動が非同期的な鍼通電により改善したと報告している。この様に,積極的に鍼通電療法を後遺症の治療に用いている報告もあり、今後、更なる検討が必要である。 第5章 本研究の限界と今後の展望  症例数が少なく、さらに細かく検討するに至らなかった。年齢別、投薬別、糖尿病等の合併の有無など分類した上で背景因子を統一した検討が必要であると考えられる。しかし今回有効であったと考えられた、軽度のHunt症候群患者に置鍼療法について前向きな研究方法で検討して行くことで鍼治療の有効性を証明できる可能性があると考えられた。  粕谷ら43)は付随する不定愁訴や、顔面のこわばり感を改善することで患者のQOLを向上させる可能性を示唆している。顔面神経麻痺は容貌も含め、患者のQOLを著しく低下させるため、鍼治療について検討する価値が高いと考えられる。 第6章 結論  筑波技術大学東西統合医療センターに来療した末梢性顔面神経麻痺患者で鍼治療を受けた患者の効果についてretrospectiveに症例集積し検討を行った結果以下のことが解った。  1. 高ENoG値Bell麻痺患者では鍼通電群と置鍼群でスコアの変化に差は認められなかった。  2.高ENoG値のHunt症候群患者群で、初期値に対する変化率で比較すると鍼通電治療群より置鍼治療群の方が有意にスコアの改善が認められた。  3.6ヶ月後の後遺症保持患者数はBell麻痺、Hunt症候群両群で鍼通電治療を行った群に多く認められたが統計学上の有意差はなかった。 謝辞  本研究を行うにあたり、終始ご丁寧な指導、ご鞭撻を頂きました野口 栄太郎 筑波技術大学大学院教授に感謝申し上げます。野口教授にはデータの収集から分析まで貴重なお時間を割いてご指導頂きました。心より御礼申し上げます。研究を進めていくにあたり終始懇切丁寧なご指導を頂きました鮎澤 聡 筑波技術大学大学院准教授に深く感謝の意を表します。データの集積にあたり、神経内科医のお立場から多大なご尽力、ご助言を賜りました大越 教夫 筑波技術大学学長に感謝いたします。  また、熱心なご指導を頂きました森山 朝正 筑波技術大学名誉教授に感謝致します。顔面神経麻痺研究の機会を与えて下さり、懇切丁寧なご指導頂きました坂井 友実 東京有明医療大学教授に感謝いたします。  顔面神経麻痺の検査の手順から細部まで丁寧にご指導頂きました、筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター検査室の木村 里美 技師に深謝致しますと共に東西医学統合医療センターの皆様に厚く御礼申し上げます。 参考文献 1. 村上 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Cochrane Database of Systematic reviews 2009]  MEDLINE, EMBASE, LILACSによって2006年4月までに報告された顔面神経麻痺に対する鍼灸治療でのRCTを検索し、コントロール群のないもの、治療群に灸、赤外線装置、漢方薬が入っているものなどが除外された結果、抽出された6件について検討された。 表2 顔面神経麻痺に対する鍼灸治療の国内の文献  RCTは存在しないが 顔面神経麻痺の鍼治療を行い、病態別、鍼通電療法と置鍼療法、薬物療法に追加した鍼治療の効果などの臨床的研究が報告されている。 表3 顔面神経麻痺の治療の推奨度分類  2011年顔面神経研究会は「顔面神経麻痺 診療の手引き2011年」において各種に治療の推奨度を分類している。  標準的治療では、麻痺の重症度に応じて早期にステロイドと抗ウィルス薬の治療を開始する。  鍼治療単独の報告があるものの、エビデンスレベルは低く有効性を立証するには至っていないとして、科学的根拠が無いので勧められない「グレードC2」に分類されている。 図2 来療した顔面神経麻痺の患者の内訳  東西医学統合医療センターに来療した顔面麻痺患者の内訳(2003年2月〜2013年4月の約10年間) この期間に、神経内科を受診し末梢性顔面麻痺と診断された患者は52名の内訳は、Bell麻痺27名(52%)、Hunt症候群は25名(48%)、Bell麻痺患者がわずかに多く来療していた。 図3 鍼治療の方法と部位  右鍼通電治療(以下、EA群):眼輪筋に対し「陽白」-「四白」間を口輪筋に対し「地倉」-「顴髎」間を1~50Hzで、顔面神経刺激を目的に「翳風」-「下関」間を1Hzで、セイリン社製の太さ0.2mm、長さ4㎝を介して低周波鍼通電装置にて15分間の鍼通電療法を行った。  通電の強度は患者様が痛みがなく筋収縮が認められる程度とした。 左置鍼治療(以下、RN群):前頭筋上にある「陽白」、眼輪筋上にある「四白」、口輪筋上にある「地倉」、頰筋上にある「顴髎」、ならびに顔面神経走行上の「翳風」、「下関」にセイリン社製のセイリン社製の太さ0.18mm、長さ4㎝を用いて15分間の置鍼を行った。 表4 顔面麻痺スコア(柳原法) 上段:スコアカードの実際 下段:各項目の説明  安静時の左右対称顔面表情の主要な動きを9項目に分け、各項目を4点(ほぼ正常)、2点(部分麻痺)、0点(高度麻痺)の3段階で評価する。その合計点を麻痺スコアとした。40点満点で36点以上を正常、10点以上を不全麻痺、8点以下を完全麻痺と定義している。 図4 ENoGの測定  Electroneurography(ENoG)は誘発筋電図のひとつである。  M波潜時・波形数・振幅を一側ずつ観察するが、CMAPは鼻唇溝においた皿電極により口輪筋を記録し、瞼上においた皿電極により眼輪筋を記録した。 表5 Bell麻痺患者群の背景 表6 Hunt症候群患者群の背景 図5 Bell麻痺とHunt症候群のスコアの変化  Bell麻痺患者群とHunt症候群患者群の初診時から6ヶ月後までの経過を示す。 Bell麻痺患者群は初診時平均スコア(±S.D.)16.15±9.54点から29.96±9.40点と有意な改善を示した。  また、Hunt症候群患者群でも初診時平均13.84±8.45点から30.92±7.32点と有意な改善を示した。治癒と評価される36点を超えたものは6ヶ月間でBell麻痺患者9名(34.6%)でHunt症候群患者は11名(50.0%)であった。 ●Bell麻痺患者群、ANOVA:P<0.0001 ■Hunt症候群患者群、ANOVA:P<0.0001 図6 Bell麻痺高ENoG値患者のスコアの変化  この7群間の変化は鍼通電群と置鍼群共に危険率0.01%未満で有意差を認めた。また、初診時から6ヶ月後の間の鍼通電群と置鍼群の2群間の平均値には統計学的な有意差は認められなかった。 ●Bell麻痺の高ENoG鍼通電群n=11、ANOVA:P<0.0001、*P<0.05、**P<0.01 ■Bell麻痺の高ENoG置鍼群n=9、ANOVA:P<0.0001、*P<0.05、**P<0.01 図7 Hunt症候群・高ENoG値患者のスコアの変化  この7群間の変化は鍼通電群と置鍼群共に危険率0.01%未満で有意差を認めた。また、初診時から6ヶ月後の間の鍼通電群と置鍼群の2群間の平均値には統計学的な有意差は認められなかったが、置鍼群で初診時のスコアが有意に(t-test=0.03)低かったのにも係らず、2ヶ月後には初期のスコア高かった鍼通電群と同等のスコアと成っていた。 ●Hunt症候群の高ENoG鍼通電群n=9、ANOVA:P<0.0001、*P<0.05、**P<0.01 ■Hunt症候群の高ENoG 置鍼群n=4、ANOVA:P<0.0001、*P<0.05、**P<0.01、t-test=0.03 図8 高ENoG値のBell麻痺およびHunt症候群患者における鍼通電または置鍼治療による初診時に対するスコアの変化率の比較  上段:高ENoG値のBell麻痺患者群では、各時点で鍼通電群(青棒)と置鍼群(赤棒)に16.7〜31.7%の差が認められたが2群の統計学的比較では有意差は認められなかった。  下段:高ENoG値のHunt症候群患者群において、鍼通電群(青棒)では、1ヶ月後の平均変化率28.6±35.0%(最大:111〜最小:0%)、置鍼群(赤棒)では237.5±343.0%(最大:825〜最小:0%)と208.9%の差が認められたが2群の統計学的比較では有意差は認められなかった。  しかし、2ヶ月後以降、3ヶ月,4ヶ月,5ヶ月,6ヶ月と鍼通電群(青棒)と置鍼群(赤棒)の差は危険率5%未満で統計学的に有意だった 。 ■鍼通電群、*P<0.05、N.S:not significant ■置鍼群、N.S:not significant 図9 Bell麻痺低ENoG値患者のスコアの変化  初診時から6ヶ月後の間の比較では 鍼通電群と置鍼群の初診時スコア平均値は7.2点で6ヶ月後が11.3点の2群間の平均値に差が認められたが、統計学的な有意差は認められなかった。  初診時から6ヶ月後の間の比較では、鍼通電群と置鍼群の初診時スコア平均値は7.2点で6ヶ月後が11.3点の2群間の平均値に差が認められたが、統計学的な有意差は認められなかった。  また、鍼通電群では初診時に対して1ヶ月後から有意なスコアの増加が認められるのに対して、置鍼群では4が月後まで有意な増加は認められなかった。 ●Bell麻痺の低 ENoG鍼通電群n=4、ANOVA:P<0.0019、*P<0.05、** P<0.01 ■Bell麻痺の低ENoG置鍼群n=3、ANOVA:P<0.0219、*P<0.05、**P<0.01 図10 Hunt症候群低ENoG値患者のスコアの変化  この7群間の変化は鍼通電群と置鍼群共に危険率0.01%未満で有意だった。  また、初診時から6ヶ月後間の鍼通電群と置鍼群のスコアに平均値で3.8〜5.2点で差は認められなかった。鍼通電群と置鍼群間の平均値には統計学的な有意差は認められなかった。 ●Hunt症候群の低ENoG鍼通電群n=7、ANOVA:P<0.0001、*P<0.05、**P<0.01 ■Hunt症候群の低ENoG置鍼群n=4、ANOVA:P<0.0001、*P<0.05、**P<0.01 図11 低ENoG値のBell麻痺およびHunt症候群患者における鍼通電または置鍼治療による初診時に対するスコアの変化率の比較  上段:Bell麻痺の低ENoG群では各時点で鍼通電群(青棒)と置鍼群(赤棒)に43.6〜71.4%と差が認められ鍼通電群の差が大きかったが2群の統計学的比較では有意差は認められなかった。  下段:Hunt症候群の低ENoG群では各時点で鍼通電群(青棒)と置鍼群(赤棒)に7.3〜50.7%の差が認められ鍼通電群の差が大きかったが2群の統計学的比較では有意差は認められなかった。   ■鍼通電群、*P<0.05、N.S:not significant ■置鍼群、N.S:not significant 鍼通電群 置鍼群 計 高ENoG 3 1 4 低ENoG 2 0 2 計 5 1 6 (人) 表7 Bell麻痺6ヶ月経過後後遺症患者率 鍼通電群 置鍼群 計 高ENoG 5 1 6 低ENoG 3 2 5 計 8 3 11 (人) 表8 Hunt症候群6ヶ月経過後後遺症患者率