聴覚障害者の音色認識に関する基礎研究 平賀瑠美 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:聴覚障害,音楽聴取,音色,拍 音楽を楽しむ聴覚障害者は多いが,音楽を聴取する場合に,何を聴取,認識,楽しんでいるかを知ることは,聴覚障害者が今後一層音楽を楽しむ機会を増やすための研究をするうえで重要である。本研究では,異なる音色でリズムを演奏したものについての聴取実験を行う予定で着手し,音色の分析方法ならびに,リズム聴取についての成果を得た。 一つの音楽でも編曲により様々な演奏(音色)で楽しむことが可能であるが,こういった音楽を聴覚障害者はどのようい楽しんでいるのかについては明らかにされていない。そこで,音色の聴きやすさを調査するためには,音楽からメロディとハーモニーの要素を除いたものを被験者に聴取してもらうことにした。したがって,実験としてはリズム演奏の聴取を行った。 リズム演奏の聴取はBeat Expertise Adaptive Test (BEAT)というカリフォルニア州立大学サンディエゴ校 (UCSD)のJ. R. Iversen博士が開発したシステムを基に変更を加えて実験を行った。BEATはWindows上で動くNeurobehavior Sciences 社のPresentationソフトウェアを用いて作成されており,0.1msの精度で入力時刻を得ることができる。BEATを用いた実験では,被験者はリズムを聴いて拍を取るが,被験者が拍をうまく取れると,BEATが提示するリズムは徐々に複雑になっていく。BEATでは,難度が4段階あり,合わせて55のリズムを提示し,最後には図1(矢印が拍にあたる)のようなリズムに対し拍をとることが求められる。BEATを用いて7名の被験者にBEATを10分間使用してもらった結果,聴覚障害者に共通の特徴はみられず,また,UCSDで過去に健聴者を対象にした同実験と比べた場合(統計的に検定は行っていない)特に差は見られなかった。ただし聴覚障害者を被験者とするにあたり,等拍に対して拍を取れるかどうかという基本情報を得ることが必要だということが分かった。メトロノームが提示するような等しい拍に対して拍生成を行うことが可能な聴覚障害者に対してのみ実験参加をお願いするスクリーニングが必要であるということは,健聴者を被験者とする場合との違いになる。 音色の分析については,各楽器の特定の音高を決まった長さで発音したものについてBrightness (ある周波数以上の構成要素が多いかどうか)/ Attack slope (発音時から音量が最大になるまでの時間)他,周波数に関し,重心,歪度,尖度 を分析し,聴覚障害者の聴きやすさと比べるという方針を立てた。弦・管・打・鍵盤楽器から数種類ずつ,音高のあるものについては,3オクターブ分について分析する。これらの音色でBEATの実験を行い,聴きやすさを調べる予定である。人工内耳装用者についてはもちろんであるが,補聴器使用者についても,聴覚障害者の音楽理解について音色から取り組んでいる研究はなく,聴覚障害者と音楽の音色は今後進めていくべき課題と考える。 研究成果は,UCSDの研究者との共著で隔年で開催される音楽認知の国際会議で発表し,その後英文ジャーナルに投稿する予定である。 図1 複雑なリズムと拍