論文の要旨 熱可塑性CFRPの加工に関する研究 ―超音波穿孔加工の試み― 平成30年度 筑波技術大学大学院技術科学研究科産業技術学専攻 菅野 啓太 指導教員 後藤 啓光 1.研究背景および本研究の目的  CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化樹脂)は強化材としての炭素繊維と,強化材と一体化して応力の伝達を担うマトリックスとしての樹脂とで構成された複合材料であり,樹脂の種類により熱硬化性CFRPと熱可塑性CFRPの2種類に分けられる.熱可塑性CFRPに用いられる樹脂は温度を上げることで軟化するため,短時間のプレス成形に向いており,自動車などの量産品への応用が期待されている.  CFRPに対する加工手法としては,切削加工,研削加工,AWJ加工,放電加工,レーザー加工,ブラスト加工などが適用されている.しかしながら,いずれの加工手法を用いた場合でも,強化材である連続繊維の炭素繊維を切断してしまうことになり,機械的特性の低下を避けることは困難である.  そこで,成形された熱可塑性CFRPに対して2次加工を行なう場合,炭素繊維の切断を抑制した状態で孔加工する方法として,針状工具を使用した『超音波穿孔加工法』を考案した.本研究では,考案した加工手法を用い,熱可塑性CFRPに対する穿孔加工を実施し,その可能性について検討することを目的とする. 2.超音波穿孔加工法について  本研究で実施する超音波穿孔加工法の構想を図1に示す.超音波穿孔加工法とは,針状工具に超音波振動を付与し,熱可塑性CFRPに対して接触させることにより生じる摩擦熱を利用し,マトリックス樹脂を軟化させることで,炭素繊維の切断を抑制した状態で孔加工を行なう手法である.  超音波穿孔加工を実現するための実験装置を設計・製作した.実験装置は市販の超音波カッターを基に構築した.超音波カッターの先端に針状工具を固定し,上方より加工ステージに固定したCFRP試験片を自重にて押し付ける方式とした.   図1 超音波穿孔加工法の構想 3.本研究の結果および考察 3.1加工孔の観察  厚さ1[mm]のCFRP(綾織)に対して,直径500[μm]の針状工具を使用して穿孔加工を実施した.その結果,おおよそ1[s]程度で孔加工が実現した.また,加工孔の周囲の繊維が押しのけられている様子が観察された.しかしながら,中心部分を通る繊維には破断した繊維が確認された.さらに,加工後の孔は,直径が380[μm]程度となっていることが分かった.これは穿孔加工を行なった後,軟化したマトリックス樹脂にひずみ回復が生じたために孔直径が縮小したものと考えられる. 3.2穿孔加工後の強度評価  超音波穿孔加工であけられた孔の外周部には,炭素繊維が切断されず,押しのけられている様子が観察された.そこで,有孔試験片に対する引張試験を実施した.図2に試験片の概要を示す.1方向材(UD材)のCFRPに対し,繊維方向と引張方向とが平行となるように,定型の試験片(厚さ2 [mm],幅5[mm],長さ70[mm]以上)を作製し,5箇所の孔加工を実施した.また,作製した有孔試験片に対する引張試験を実施し,孔加工よって生じる強度低下について調べた.なお,比較のため切削加工による孔加工を実施し比較した.その結果,切削加工の場合と比較し,超音波穿孔加工で孔加工を実施した試験片は約2倍程度の引張強度が得られた.  このような引張強度の向上は,超音波穿孔加工において,針状工具で炭素繊維を押しのけるように,樹脂を軟化させながら進むため,炭素繊維の切断を抑制し,さらに応力の集中する孔外周部に残留させることで得られたと考えられる. 図2 有孔試験片の引張試験におけるCFRP試験片の概要 3.3超音波穿孔加工法による部材締結  超音波穿孔加工を実施した際の孔径が使用した針状工具の直径よりも縮小することが確認された.そこで,図3に示すように針状工具に溝形状を付与した状態で,図4に示すように孔加工を実施した後,超音波振動を停止させることにより部材と針状工具を一体化させ,部材締結を行ない,その際の針状工具の引き抜きを実施し,その際の引張強度を評価した.その結果,溝を加えていない針状工具と比較し,10倍以上に向上した.  このような引張強度の向上は,マトリックス樹脂のひずみ回復によって炭素繊維もともに移動し,溝内部に侵入したことによって得られたと考えられる.今後,溝形状を改良することで,より強固に部材を締結することができると考えられる.   図3 溝形状を施した針状工具のSEM画像 図4 超音波穿孔加工法による部材締結 4.結論  本研究では,炭素繊維の切断を抑制した状態で孔加工する方法として,針状工具を使用した『超音波穿孔加工法』を考案し,考案した加工手法を用い,熱可塑性CFRPに対する穿孔加工を実施し,その可能性について検討した.  その結果,有孔板材に対する引張試験において,切削加工を行なった場合と比較し,強度の低下を抑制する効果があることが確認された.また,加工後の孔形状が縮小するという特性を応用し,溝形状を付与した針状工具を使用してCFRP部材を締結することにより,強固に部材締結を行なうことができることが確認された.  このように,考案した超音波穿孔加工法は,今後需要が拡大すると予測される熱可塑性CFRPに対する孔加工手法,また,部材締結手法として有益であることを示すことを示した.