聴覚障害学生に対する安全なスキー指導に関する研究 向後佑香,中島幸則 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター キーワード:聴覚障害,スキー,指導方法,安全教育 1.研究の背景と目的 聴覚障害者の体育・スポーツ指導においては,運動のきまりや施設・用具の使い方を十分説明し,衝突などの危険防止に努めること,聴覚及び平衡感覚機能の障害に起因する事故防止に十分留意する事等が,安全に活動するために重要であるとされている[1,2]。特に,スキー運動のような自然環境の中で実施される種目では,天候や雪の状態,地形,人口・自然の障害物,そして他人の動向など,常に変化する状況を適切に判断することが必要である。聴覚障害者にスキーを指導する際に,“聞こえない・聞こえにくい”事が,どのような危険を有しているのかについて,正しい知識を持つことは,現場の指導者にとって必要不可欠であると考える。そこで本研究では,スキー運動時に聴覚障害者が認知する不安と危険について明らかにすることで,聴覚障害学生に対する安全なスキー指導方法を確立するための基礎資料を得ることを目的とした。 2.研究の方法 本研究では,以下の調査対象者に対して,質問紙によるアンケート調査を実施した。 ①聴覚障害がある大学生 約40名 ②聴覚障害があるスキー指導者 約20名 ③大学体育スキー指導者 約40名 アンケートの内容は,1)回答者の属性,2)指導経験,3)スキー/スノーボード活動時の危険,であった。具体的には,スキー及びスノーボードを行う際に,「“聞こえにくい・聞こえない”事によって,どのような不安や危険を感じますか(もしくはどのような事が不安や危険となると思いますか)」という問いに対して,自由記述によって回答を得た。分析方法については,記述内容を集計・分類した後,状況及び場面ごとに危険因子を整理した。 3.成果の概要 本報告では,調査対象①及び②の結果(約60名分のデータ)について,記述の多かった回答のみ提示する 。 どのような事が危険(不安)になると思いますか? 「死角からの接近・気配に気がつかない」(17件・27.9%)   ・後ろから人が来ていることに気がつかない   ・後ろからの衝突 「注意喚起の声に気がつかない」(9件・14.8%)   ・危ない,どいて,と声をかけられてもわからない  ・リフト係員の声かけ 「放送の情報が伝わらない」(8件・13.1%)  ・放送が聞こえない  ・緊急時の知らせが聞こえないとき 「視覚情報の制限」(5件・8.2%)  ・視覚たよりなところ  ・ホワイトアウトした時 この他にも,「補聴器の取り扱い」,「はぐれる」,「緊急時の対応方法」などの記述が見られた。 4.成果の今後の教育上の活用 本研究では,スキー運動時に聴覚障害者が認知する不安と危険について調査を行い,スキー活動中のリスク要因について,ある程度整理することが出来た。これらの知見は実際の指導場面にも還元できる内容であると考える。今後,日本体育学会や大学体育研究フォーラム等の各種学会への成果発表等を行う予定である。 参照文献 [1] 国立特別支援教育総合研究所.『特別支援教育の基礎・基本』.独立行政法人ジアース教育新社.2015.130. [2] 愛知県教育センター.『特殊教育における生涯体育に関する研究』.愛知県教育センター研究報告書.1998年. 第149号〈http://www.apec.aichi-c.ed.jp/shoko/tokushu/syougai/top.htm〉2017年3月28日アクセス