絶縁性Si3N4セラミックスに対する放電加工─ 特殊放電波形制御の効果 ─ 後藤啓光,谷 貴幸 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:放電加工,セラミックス,補助電極法, 放電波形制御 1.諸言 放電現象を金属材料の除去加工に利用した放電加工法は,炭素工具鋼や合金工具鋼,さらに超硬合金にいたるまで被加工物の硬度に依存することなく加工が可能である。しかしながら,加工対象となる材料は導電性の材料となるため,絶縁性の材料は加工の対象外とされてきた。しかしながら,補助電極法1)を適用することで絶縁性の材料に対する放電加工が実現する。本研究では絶縁性Si3N4セラミックスを加工対象とし,考案した特殊放電波形制御法の効果を調べた。 2.実験装置および実験方法 本研究では自作の形彫放電加工機を使用した。電源はトランジスタ方式とし,内部抵抗を用いて電流を制限した放電時間の設定にはアイソパルス方式を適用し,設定のパルス幅での放電を発生させることができる。また,加工中の極間電圧を参照し,Z軸の制御に用いている。加工液には放電加工油EDF-K2)を用い,浸漬させながら吹きかけを行った。なお,電極材料には中実の銅を使用し,回転させながら加工を行なった。 3.特殊放電波形制御法 放電検知電圧を100Vとし,放電時間を長パルス放電と同等の放電時間に設定して加工を行うことで,セラミックス表面に導電性被膜を安定して形成させる放電波形制御方式である。通常は,加工中の放電電圧が高くなることはないため,放電検知電圧の設定は低くためたれるが補助電極法を用いた加工では,加工中の抵抗が高くなるため,放電電圧が見かけ上高くなり,パルス幅を一定に保つことが困難である。本制御方式ではパルス幅を一定に保ちつつ,セラミックスに対する放電加工が安定して実現する。 4.実験結果 3.1 貫通穴加工時の加工速度 図1に実験方法の概要を示す。表1に示す加工件で,厚さ4.5mmの絶縁性Si3N4セラミックスに対して貫通穴加工を試み,その際の加工速度を調べた。 加工結果を図2に示す。放電時間が1000μs未満の場合,放電時間を長く設定し加工した場合,加工速度の向上が確認された。しかしながら,放電時間が1000μsを超えてからはほとんど差が見られなくなった。次に放電時間を2000μsに固定した状態で,デューティファクタを変化させて加工を行なった場合の加工速度を調べた。結果を図3に示す。デューティファクタの増加に伴い,加工速度の上昇か確認された。通常の制御方式でセラミックスに対する放電加工を行なった場合には,設定の放電時間と実際の放電時間にはあまり相間が見られないが,本波形制御法式を適用した場合には強い相間が認められた。 図1 実験方法の概要 表 1 加工条件 図2 放電時間と加工速度との関係 図3 デューティファクタと加工速度との関係 3.2 底付穴加工時の表面粗さ 図4に実験方法の概要を示す。表 2に示す加工件で,厚さ4.5mmの絶縁性Si3N4セラミックスに対して設定深さ1mmの底付穴加工を試み,その際の加工表面の粗さ測定およびSEM観察を行なった。 図4 実験方法の概要 表 2 加工条件 表面粗さの測定結果を図5に示す。表面に導電性被膜が残存した状態とショットピーニング処理を施し,セラミックスの素地を露出させた状態の表面粗さを測定した。導電性被膜が残存した状態では,放電時間の増加に伴い,表面粗さの増加が見られた。一方,セラミックス表面は放電時間が1000μs以上からは表面粗さにほとんど変化が見られなかった。表面の導電性被膜のSEM像および表面粗さプロファイルを図6に示す。放電持続時間を長くした方がより大きな放電痕が観察された。 図5 放電加工後の表面粗さ 図6 加工表面の導電性被膜の形成状態 4.成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果 本研究では放電検知電圧を100Vとし,長パルス放電と同等の放電時間に設定して加工を行うことで,導電性被膜がセラミックス表面に安定して形成されセラミックスの加工が安定して実現する特殊波形制御法の効果を調べた。今後はこの波形制御法を用いて様々なセラミックス材料に対する加工特性の調査が行なえるようになるため,当該材料の広域での利用に貢献できると考えられる。 5.成果の学会発表 1)Hiromitsu Gotoh, Takayuki Tani, Naotake Mohri:EDM of insulating ceramics by electrical conductive surface layer control, Procedia - CIRP Annals - Manufacturing Technology Vol.42, pp.201-205, (2016) 参照文献 [1] 福沢康,谷貴幸,岩根英二,毛利尚武:放電加工機を用いた絶縁性材料の加工,電気加工学会誌,29,60,pp.11-21,(1995)