第14回 日本聰覚障害学生 高等教育支援 シンポジウム これからの聴覚障害学生支援 ー今『対話』を考えるー 2018年10月28日 会場 早稲田大学 主催日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) 国立大学法人筑波技術大学 共催 早稲田大学 協力 東京大学バリアフリー支援室/日本社会事業大学    関東聰覚障害学生サポートセンター 後援 文部科学省/独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)    東京大学障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業(PHED)    京都大学高等教育アクセシビリテイプラットフォーム(HEAP) もくじ 代表挨拶・ 3 開催要項・ 4 プログラム・ 6 情報保障について 等 ・ 8 会場案内・10 昼食会場・11 セッション 聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2018・14 教職員による聴覚障害学生支援実践発表2018・15 関連団体活動紹介・16 ショートセミナー1 「情報保障支援者の養成に関する先駆的な取り組み―当事者が支援者になること―」・17 ショートセミナー2 基礎講座「建設的対話から始まる障害学生支援―合理的配慮の基本とは?―」・21 ショートセミナー3・展示 筑波技術大学企画「聴覚障害学生が輝く大学教育」・25 全体会 全体会企画 「『対話』がみちびく質の高い支援ー聴覚障害学生支援のスタンダードを探るー」・30 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)紹介・36 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) 正会員大学・機関紹介・44 聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2018 発表内容紹介・54 教職員による聴覚障害学生支援実践発表2018 発表内容紹介・72 【参考】前日特別企画 概要・82 第14 回シンポジウムの開催にあたって 国立大学法人 筑波技術大学長 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク 代表 大越 教夫 この度、第14 回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムを、早稲田大学にて開催する運びとなりました。全国よりご参加いただきました皆様を心より歓迎いたします。共催校である早稲田大学、及び、協力校・協力機関である東京大学バリアフリー支援室、日本社会事業大学、関東聴覚障害学生サポートセンターの皆様に、心より御礼申し上げます。 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)は、平成16 年から活動を開始し、全国23 の連携大学・機関の協力のもと、聴覚障害学生支援に関するノウハウを積み重ね、先駆的な取り組みを行ってきました。その間、「平成23 年の東日本大震災」、「平成28 年の熊本地震」を経験し、被災した大学への遠隔情報保障支援など、このPEPNet-Japan のネットワークを最大限活用することにより、災害時の聴覚障害学生支援のモデル事業となる取組も実施してきました。 これまでの14 年間の経験をもとに、より幅広い充実した聴覚障害学生支援体制を確立するため、平成30 年度から新たな体制で運営をスタートしました。新体制では会員制度をとることとなり、より多くの大学・機関及び個人の方に入会いただける組織になりました。現在までに、正会員として32 大学・機関、準会員45 大学・機関、個人会員168 名まで大きくなりました(2018 年9 月10 日現在)。今後、全国の一人でも多くの聴覚障害学生の教育活動を応援するために、全都道府県にて活動を展開できるよう会員数の拡大と支援体制の充実を目指しております。 さて、本シンポジウムは、『これからの聴覚障害学生支援―今「対話」を考える―』を全体テーマに据え、プログラムを構成しております。障害者差別解消法の施行以降、支援が広がりを見せる今、合理的配慮提供のための「建設的対話」の重要性に立ち返り、学生と大学教職員がどのような対話を積み重ねることが、今後の聴覚障害学生支援を作っていくかを皆様と考えたく、本テーマを設定いたしました。どの企画も、参加者同士の意見交換が活発に行われるよう工夫を凝らしており、参加された皆様にとって有意義な一日となりますことを願っております。 最後に、本シンポジウム開催にあたり、ご後援いただきました文部科学省、日本学生支援機構(JASSO)、東京大学 障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業(PHED)、京都大学 高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP)、そして実行委員、関係者の皆様に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。 開催要項 名称 : 第14 回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 目的 : 筑波技術大学では、平成16 年から日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)の事務局として、特に聴覚障害学生への支援体制が充実し、積極的な取り組みを行ってきている大学・機関と共同で、聴覚障害学生支援に関するノウハウを積み重ね、先駆的な事例の開拓を行ってきた。 そして障害者差別解消法の施行をはじめとする昨今の情勢の変化を受け、本ネットワークは平成30 年度から新体制をスタートさせ、より広く強固なネットワークの構築を目指している。 本シンポジウムでは、全国の大学における聴覚障害学生への支援実践に関する情報を交換するとともに、本学ならびに本ネットワークの活動成果をより多くの大学・機関に対して発信することで、今後の高等教育機関における聴覚障害学生支援体制発展に寄与することを目的とする。 日時 : 平成30 年10 月28 日(日)9:30~16:00 ※10 月27 日(土)には「前日特別企画」としてワークショップおよびキャンパスツアーを実施する。 会場 : 早稲田大学 早稲田キャンパス 国際会議場(新宿区西早稲田1-6-1) 対象 : 全国の大学等で障害学生支援を担当する教職員、及び聴覚障害学生、支援者 その他高等教育機関における障害学生支援に関心のある方々 主催 : 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)    国立大学法人 筑波技術大学 共催 : 早稲田大学 協力 : 東京大学バリアフリー支援室    日本社会事業大学    関東聴覚障害学生サポートセンター 後援 : 文部科学省    独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)    東京大学 障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業(PHED)    京都大学 高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP) 参加費 : 無料 プログラム 10 月28 日(日)受付 9 時15 分~ 午前 セッション企画(表あり) 午後 全体会(表あり) 情報保障について 基本的にすべてのプログラムに手話通訳ならびにパソコンによる文字通訳がついていますが、「聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2018」を含む参加者同士のコミュニケーションにつきましては各自ご配慮ください。 また、事前にお申し出のあった企画については、デジタルワイヤレスの補聴援助システムをご用意しております。専用マイクを通して、音声が直接補聴器に届くシステムです。ご不明な点がありましたら、スタッフまでお声がけください。 急病・ケガ・体調不良など 会場内に簡易な救護室を設けておりますので、休憩が必要な際にはスタッフにお声かけください。体調が優れず救護室の利用が必要な場合にも、お近くのスタッフにお声かけください。なお、急病の場合は病院へのご案内となります。 災害時の対応について 火事や地震など災害発生時には、落ち着いて身の安全を確保したあとスタッフの指示に従って避難してください。 写真及びビデオ撮影について 会場内での写真及びビデオの撮影はご遠慮ください。報告等のために写真が必要な場合は、事務局より提供いたしますので、ご連絡ください。 ただし、実践事例コンテスト、教職員実践発表、関連団体活動紹介の発表者が、報告等のために自分のブース、及び表彰式を撮影することは可能です。その場合も、他の参加者の顔が写らないよう、ご配慮をお願いいたします。 会場案内(図あり) 昼食会場(図あり) セッション 聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2018 PEPNet-Japan 【前半】 9:30~10:45 【後半】 10:45~12:00 会場:国際会議場 1 階ロビー 本シンポジウムでは、全国の大学・団体が日頃実践している支援の取り組みを発表し、参加者の投票によって優れた取り組みを表彰するコンテスト企画を設けております。会場には、教職員・学生など16 団体の応募者が力を入れて作成したポスターが並んでいます。 内容をご覧いただき、「この取り組みは参考になる!」と思った発表に投票してください。また、投票用紙の裏面にコメント欄を用意しています。投票される団体への応援コメントをご記入の上、投票していただけますよう、お願いいたします。 投票方法 ★みなさんの名札の中に投票用紙(2枚)が入っています。会場でポスターや発表をご覧いただき、これは良い!と思った発表に投票してください。投票箱は会場内の出入口2箇所に設置しています。 ★本コンテストでは、次のような観点から投票をお願いします。 ・こんな取り組みを自分の大学でも実現したい! ・ぜひ真似したいアイディアだ! ・今後の発展が楽しみな内容だ! ・日頃の努力が伝わってくる! ★発表いただいた各団体には、以下の賞を用意しています。 ・PEPNet-Japan 賞 ・準PEPNet-Japan 賞 ・グッドプラクティス賞 ・プレゼンテーション賞(障害の有無に関わらず、すべての参加者に伝わる発表になるよう工夫していた1団体) ・新人賞(コンテストへの参加回数が2回以下である団体のうち、今後の活動の展開に期待が寄せられ、最も得票数が多かった1団体) 参加団体 【前半】札幌学院大学/東北大学 特別支援室 利用学生・学生サポーター/東北福祉大学 障がい学生サポートチーム/千葉大学ノートテイク会/愛知教育大学 情報保障支援学生団体「てくてく」/愛媛大学 障がい学生支援ボランティア(CBP)/福岡教育大学 障害学生支援センター/特定非営利活動法人ゆに 【後半】北星学園大学 アクセシビリティ支援室 Note Takers/宮城教育大学 しょうがい学生支援室/早稲田大学 障がい学生支援室/東京学芸大学 障がい学生支援室/首都大学東京 ダイバーシティ推進室/日本福祉大学 学生支援センター/大阪教育大学 障がい学生修学支援ルーム/松山大学 障がい学生支援団体POP→各団体の発表内容紹介は53 ページ以降に掲載しています。 教職員による聴覚障害学生支援実践発表2018 時間:9:30~12:00 教職員対象 ※10:15~11:15 発表者在席 12:00~13:30 教職員以外の方も閲覧可能 会場:3階 第1会議室B 聴覚障害学生支援に関わる教職員を対象に、参加者みずからが日々の実践を発表し、新たな支援実践につなげることを目指して本企画を実施します。成功事例に限らず実践上の課題や計画中の企画等も含めて発表を行い、情報交換と交流の場となることを期待します。参加対象は、高等教育機関で聴覚障害学生支援に取り組んでいる教職員で、昼食休憩中はどなたでも閲覧可能です。 発表内容及び発表者一覧(表あり)各発表の内容は、71 ページ以降に掲載しています。 関連団体活動紹介 会場:3階 第1会議室A 大学間・関連機関間のネットワークの形成・活性化に寄与することを目的に、セッションの一企画として、活動紹介(展示)を行います。大学と聴覚障害者支援・情報保障支援に関わる地域の各種団体が、相互に活動の様子を知り交流を図る場となることを期待しています。 出展機関一覧 ● 日本財団 ● 東京大学 障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業(PHED) ● 京都大学 高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP) ● 株式会社 自立コム ● フォナック補聴器 ● 就労移行支援事業所 いそひと大手町 ● 全日本ろう学生懇談会 等 【 ショートセミナー1 】 時間:9:45~10:15 会場:3階 第2会議室 情報保障支援者の養成に関する先駆的な取り組み ―当事者が支援者になること― 司会・企画コーディネーター:斉藤くるみ氏(日本社会事業大学) 講師:斉藤くるみ氏(日本社会事業大学)    岩田恵子氏(日本社会事業大学)    平山彩美氏(卒業生/公立ろう学校教諭) Ⅰ.日本社会事業大学の聴覚障がいプロジェクトと支援者養成のための 「コミュニケーションバリアフリー課程」 斉藤くるみ 日本社会事業大学では、2008 年「手話によるろう者の大学事始め」と称して、ろう者の教授陣が日本手話で教える市民講座を開講、多くのろうの社会人が受講した。その後2009年には「日本手話」を語学科目と位置づけ、「日本手話」を必修科目とする特別支援教職課程も設置した。特別支援学校の教師を目指す学生の中には日本手話を母語とする学生もいるが、聴者の学生でもある程度の「日本手話」の知識をもつことを資格取得の要件としている。 2010 年には、日本財団の助成を受けて、大学・大学院・通信科、すべての授業に情報保障(PC テイクと手話通訳)をつけ、ろう・難聴の高校生のための大学進学塾も設置、2014 年には入試に「日本手話」という科目を導入した。これは一般の学生の入試が「国語」「英語」「面接」で実施される後期日程入試を、ろう者については「国語」「英語」「日本手話」「面接」で実施するというものである。(「面接」には昔から、手話通訳やPC テイクをつけてきた。) この間に、ろう・難聴だけでなく、盲ろう者も本学のオープンキャンパスに参加するようになり、そのときにろうの学生に案内させるとスムーズにガイドでき、とても聴者にはかなわないことを目の当たりにした。やがてろう・難聴の高校生の進学塾にも盲ろうの受講生が通ってくるようになり、また学部、大学院にも盲ろう者が入学した。ろう通訳というのはアメリカなどで最近非常に注目されているが、実は盲ろう支援には日本でも長い歴史がある。 つまり、聞こえる人が手話に通訳し、それをろう者が見て、より自然な手話に変えるというものである。盲ろう者の場合、ひとりひとりに触手話の通訳者がつくことが多いが、ろう・難聴の支援としては、従来の手話通訳者のように、多くのろう者に同時に見える形で行われるもので、国際会議などで頻繁に目にするようになった。 このような背景から、2016 年には、支援者養成のための「コミュニケーション・バリアフリー課程」を設置した。これは文科省BP(プラッシュアップ・プログラム)として開設されたものであり、手話通訳、PC テイカー、盲ろう支援者の養成の3種類のコースがある。 この中でろう当事者が活躍するのは手話通訳(ろう通訳)と盲ろう支援者である。 その後、論文を手話動画で提出できるように規則を改正したり、高校卒業程度認定試験(旧大検)の受験生のための手話動画と文字による対策講座をインターネット配信したり、私たちのプロジェクトは少しずつ進化している。 これだけのことが達成できたのはろう当事者主導で活動してきたからである。そして、ろう・難聴者を支援するソーシャルワーカーは自らろう・難聴者であることがベストであるという信念の下、学生を「当事者ソーシャルワーカー」に育てるという目標があったからでもある。 これらは「障害者の権利に関する条約」第24条3および4、第30条の実現である。 第24 条 3(a) ・・・障害者相互による支援及び助言を容易にすること。 (b) 手話の習得及び聾社会の言語的な同一性の促進を容易にすること。 (c) ・・・その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること。 4 締約国は、1 の権利の実現の確保を助長することを目的として、手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し、第30 条 4 障害者は、他の者との平等を基礎として、その独自の文化的及び言語的な同一性(手話及びろう文化を含む。)の承認及び支持を受ける権利を有する。 本日は、社会人として本学の支援者養成課程を履修し、本プロジェクトのスタッフとなった岩田恵子と、学生時代に同課程の科目を履修し、当事者教師となった平山彩美が「当事者が支援すること」の意味を実体験を通してお話しする。以下はその概要である。 II. 当事者が支援すること・・・・モデル1 岩田 恵子 (1) 自己紹介 両親がろう、自分もろう、親戚もろう者が5 人いる 聾学校15 年間+大学4 年間 埼玉県ろうあ者相談員24 年間+ろう老人ホームななふく苑施設長2 年間 現在、熊谷市ろう者協会会長、熊谷市障害者団体協議会会長 熊谷市社会福祉協議会評議員 (2) 日本社会事業大学との関わり 2017 年度「コミュニケーションバリアフリー課程」受講 2018 年6 月より聴覚障がい学生支援プロジェクト室に勤務中(非常勤) (3) 仕事の内容 1 手話検定(日本社会事業大学独自の検定:初級・中級・上級) 2 手話ランチ(昼休みに食べながら手話交流する) 3 ニュースレターの作成(大学内への情報提供) 4 その他 (4) 今後の関わり方について・当事者としての役割を果たすには ・聴覚障がい学生への支援について ・大学との関わりについて III. 当事者が支援すること・・・モデル2 平山彩美 (1) 自己紹介 ~2014 年 埼玉県立特別支援学校大宮ろう学園 卒業 2014~2018 年 日本社会事業大学 卒業(ろう教育、ソーシャルワーク) 2018 年~現在 埼玉県内の公立ろう学校 勤務 (2) 教育とソーシャルワーク 教 育 :ある人間を望ましい姿に変化させるために働きかけること ⇒個人に着目 ソーシャルワーク:QOL やWell-being を目的として、社会的な問題の解決を図ること ⇒社会に着目 (3) インサイダー言語からのアプローチ インサイダー言語:組織や集団の内部にいる人のみ通じる言葉、概念。 例)ろう、難聴、ろう文化、日本手話、日本語対応手話 アウトサイダー言語:組織や集団の外部にいる人に通じる言葉、概念。 例)聴覚障がい、耳が聞こえない、手話 ろう教員として、生徒同士のインフォーマルコミュニケーション(おしゃべり、偶発的情報) にアクセスしやすい。 ⇒ 生徒間にあるトラブル、いじめをいち早くつかむことが多いのはろう教員。 (3) 当事者性とは 1) ろう文化と聴文化の間に生じるズレ 2) ろう通訳 3) 非当事者に「当事者性」を説明・言語化する 自分自身が「ろう」であることをどれくらい理解しているか =どれくらいの当事者意識を持っているか、当事者性を分かっているか IV.おわりに 斉藤くるみ 聴覚障がい当事者から得られる知見は、障がい者を認知的・文化的マイノリティーと捉える『障害学』やICF に反映されることとなった。WHO が「国際疾病分類(ICD)」の補助として発表した「WHO 国際障害分類(ICIDH)」は広く用いられてきたが、2001 年その改訂版として「ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)」が採択されてから、障がい観は大きく転換された。すなわち、障がいをプラス面からみるようになり、これは「障がい者の権利に関する条約」の第8 条に反映されている。 1.(c) 障害者の能力及び貢献に関する意識を向上させること。 2.(a) 次のことのための効果的な公衆の意識の啓発活動を開始し、及び維持すること。 (ⅰ) 障害者の権利に対する理解を育てること。 (ⅱ) 障害者に対する肯定的認識及び一層の社会の啓発を促進すること。 (ⅲ) 障害者の技能、長所及び能力並びに職場及び労働市場に対する障害者の貢献に ついての認識を促進すること。 本学のコミュニケーションバリアフリー課程も講師はほとんど当事者である。最初に述べたように、日本社会事業大学の聴覚障がい者大学教育支援プロジェクトの成功は日本財団の深い理解と当事者主導の実施のおかげである。本セミナーが、ご参加の皆様の今後の活動のお役にたつことを願っている。 【 ショートセミナー2 】 時間:10:30~11:15 会場:3階 第2会議室 基礎講座 建設的対話から始まる障害学生支援 ―合理的配慮の基本とは?― 司会・企画コーディネーター:山本 篤氏(関東聴覚障害学生サポートセンター) 講師:太田琢磨氏(愛媛大学 バリアフリー推進室) 講義の柱 ①合理的配慮の定義について ②面談時における対話の例(どのように建設的対話につなげるか) 企画趣旨 障害者差別解消法が施行されてから3年が経過した。法施行によって、障害学生支援への意識が高まり、支援体制構築や見直しを行った大学が多い。しかしながら、いざ体制を整えて支援をしようとしても、教職員が合理的配慮について十分に理解できていなければ障害学生との間でトラブルが生じる可能性が高い。入学決定から支援開始までの限られた時間内に、障害学生本人の申し出から対話と調整というプロセスを経て合理的配慮の提供を決定しなければならない。 しかし、障害学生も保護者も自らのニーズ把握・支援内容等について十分に理解しているとは限らず、担当者がそれを汲み取って対話と調整を行えなければ、それは結果的に聴者と同等の修学機会を失わせてしまう事になるからである。もちろん、聴覚障害学生の方も、自らの障害と支援のニーズ、支援開始までのプロセスについて理解することは、双方にとって対話と調整がスムーズになるため必要なことだと言える。 本セミナーでは、大学で聴覚障害学生を受け入れ、「合理的配慮の提供」をするにあたってのプロセス、大学入学前後の面談の進め方、面談内容に基づき支援内容を決定する流れについて、事例を基に双方の観点から重点的に解説する。支援に至るプロセス、特に「合理的配慮の提供」に必要な「建設的対話」の必要性について理解頂く事で、支援担当者や聴覚障害学生にとって大学における今後の障害学生支援のスタートを切るための準備の一助になると考える。 スケジュール 10:30~10:35 企画主旨説明・講師紹介 10:35~11:00 講義 11:00~11:15 ワーク・まとめ (スライドあり) 【ショートセミナー3】時間:9:30~12:00 出入自由 会場:3階 第3会議室 聴覚障害学生が輝く大学教育 ―筑波技術大学産業技術学部の取り組み― 講師:谷 貴幸氏、井上正之氏(筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科) 山脇博紀氏、守屋誠太郎氏(筑波技術大学 産業技術学部 総合デザイン学科) 筑波技術大学では、“伝わる大学、伝える大学”を目標として、障害のある学生に視覚提示資料、手話等を用いて、直接的な教育を行っています。ショートセミナーでは、聴覚障害学生が輝く大学教育として、産業技術学部において実践している特別支援学校との連携事業、アクティブラーニング・UD 研修など学生が主体的に活動できる取組等を紹介するとともに、本学部で行っている直接的な授業の一端を体験して頂ければと思います。 ①特別支援学校との高大連携の取り組み筑波技術大学がこれまでに培ってきた聴覚障害者への専門的教育環境・教育資産を活かし、大学と特別支援学校との組織間連携における協調型教育プログラムを実践するための教育拠点の形成を目指しています。筑波技術大学産業技術学部では、全国的な聴覚障害者コミュニティを一つの地域として捉え、その活性化のために教育資源を蓄積し還元していく取り組みをしています。 【事業例】 ●東京都立葛飾ろう学校 合同インターンシップデザイン関連の授業を実施,文泉こどもクラブ・交流会の実施 ●立川ろう専攻科 合同修了研究発表会(中間発表,最終発表会を実施) ●筑波大学附属聾学校 高大連携出前授業 ●北海道高等聾学校 デザイン関連の出前授業・遠隔授業の実施 ●旭川ろう学校 アメリカ手話・英語の遠隔授業を実施(小中学部対象) ●茨城県教育委員会との連携事業(茨城県下特別支援学校との連携事業) ・県教育情報ネットワーク下TV 会議システムのテスト ・上記システムを用いた担当者間会議実施 ・県下特別支援学校(3校)に光回線敷設工事実施 ●フォーミュラカーの展示と産学連携事業の紹介 オープンキャンパスにて実施 【研究コンテストの実施】 <テーマ>デジタル写真技術:撮影から合成まで(図あり) 【文泉こどもクラブの実施】 東京都立葛飾ろう学校での放課後等活動「文泉こどもクラブ」で、聴覚障害の児童・生徒を相手に絵画・造形教室を開講。(年間5~7回、月1回の土曜日に実施)学生ボランティアが主体となり、企画を行っています。(図あり) ②アクティブラーニングの実践 【アクティブラーニングの実践】 ●実践事例1:「デザイン基礎論・演習」 課題:ショッピングセンターの休憩場面を観察、物理的な環境要素を捉える。 AL の手法:ディスカッションを導く技法、学生を交互に学ばせる技法、事例から学ばせる技法 予想される効果:〈メタ認知力、表現力、協働的な学習〉 ●実践事例2:「環境計画演習1」 課題:学生寄宿舎の目隠しフェンスをデザインする。 AL の手法:問題に取り組ませる技法、経験から学ばせる技法 予想される効果:〈表現力、協働的な学習、計画・実行〉 ③つくば市UD研修 本学とつくば市とが連携で進めるユニバーサルデザイン推進事業は、2004 年の「全国地方自治体のUD 事業調査/つくば市民のUD 意識調査」以降継続しておこなわれています。2005 年には前年に実施した事前調査を踏まえて「つくば市ユニバーサルデザイン基本方針」がまとめられました。2007 年より始まった「つくば市職員を対象にしたユニバーサルデザイン研修」は、2011 年よりつくば市新人職員を対象とした研修へと変わり、本年度で11 回目を迎えています。 研修概要(平成29 年度実績より) 教育講演:全国ユニバーサルサービス連絡協議会 理事 田中啓一 氏 体験型研修実施者:筑波技術大学 教員17 名、学生8 名(※) つくば市聴覚障害者協会3 名 ※産業技術学部専門科目「産業技術学部プロジェクトA」受講生 視覚障害歩行体験 高齢者シミュレーション 他に 妊婦・子連れ体験 車イス体験 〈聴覚障害系体験〉 窓口体験 コミュニケーション体験 (視覚障害系体験) 申請書類の見え体験 案内書類の見え体験 など ④月曜4・5限プロジェクト(ミニ卒研の実施) 本学の産業情報学科・情報科学専攻では、 ・課題解決能力の育成 ・学年を超えたグループ活動を通しての社会性の育成・強化 などを狙いとして、2018 年度から新たな試みとして毎週月曜の4 限目・5 限目(14 時40 分~17時50 分)に「月曜4・5 限プロジェクト」を実施しています。 本年度の1 学期は、「ミニ卒研」を実施しました。各学年から1 名ずつ計4 名程度でランダムに結成された16 のチームそれぞれに教員が1 名付き、情報科学に関する様々なテーマ(ハードウェア、ソフトウェア、データ処理など)に月1 回以上のペースで取り組んでいきました。夏休み前の7 月にミニ卒研の発表会を行いましたが、短い期間ながらもゲーム・教材などの試作、IoTの聴覚障害者支援への応用に関する考察など興味深い内容も多くみられました。 2 学期については、 ・大学のボランティアプログラムへの参画 ・OB が就職している会社への訪問 ・テレビ会議システムなどを用いた海外の交流連携大学との国際交流 などを予定しています。 本プログラムの実施を通じて、将来社会に出たときに必要とされる様々なスキルを身に着けていくことが期待されます。 ⑤体験授業:誰でも分かるコンピュータシミュレーション 本学では、聴覚に障害のある学生に対して、専門的な教育内容を視覚資料の提示や手話等を使って直接的に行っています。 体験授業では、その講義の雰囲気を体験して頂ければと思います。 講義内容 ・ものづくりにおけるシミュレーションとは? ・PC を使わないシミュレーションの体験 (光を使った可視化技術) ・PC による設計から計算までの流れ ・意外と単純!コンピュータの中での計算手法!! 光の屈折を使った解析の解析 力の解析 熱の解析 全体会 【 全体会企画 】 時間:13:50~15:20 会場:1階 井深大記念ホール 「対話」がみちびく質の高い支援 ―聴覚障害学生支援のスタンダードを探る― 企画コーディネーター:田中啓行氏(関東聴覚障害学生サポートセンター) 中津真美氏(東京大学 バリアフリー支援室) 司会:中津真美氏 講師:田中啓行氏 藤島省太氏(宮城教育大学) 吉川あゆみ氏(関東聴覚障害学生サポートセンター) 討論の柱 ➀ 聴覚障害学生支援に特有の「対話」の困難とは。 ➁ 聴覚障害学生支援のスタンダートになり得る、より質の高い支援を導く 「対話」の在り方とは。 企画趣旨 障害者差別解消法が施行され、聴覚障害学生の支援体制を構築、発展させる高等教育機関が増加している。今後、さらに聴覚障害学生支援を充実させるためには、聴覚障害学生と教職員の各々が、「合理的配慮とは、聴覚障害学生と教職員との建設的対話による相互理解を通じて提供されるべき性質のものであり、このプロセスこそが大切である」という法の趣旨を改めて理解していくことが求められる。 本企画では、“聴覚障害学生と教職員の双方が「対話」を重ね、つねにその時々の支援ニーズを確認し、支援の最善策をともに検討し、合意形成していく”ことを支援のスタンダードと捉え、より質の高い支援を導く「対話」とは何かについて、具体的な例を提示しながら検討する。 【講師紹介】 中津 真美氏 (東京大学 バリアフリー支援室 特任助教) 青少年を対象とした福祉・教育領域の現場勤務を経て、平成17年より東京大学バリアフリー支援室に入職。以降、10 数年にわたり、支援コーディネーターとして、障害のある学生・教職員支援、全学構成員へのバリアフリー理解促進のための業務に携わっている。専門は、障害者支援、聴覚障害学。博士(生涯発達科学)。CODA(聴覚障害の親をもつ聞こえる子ども)の立場でも、聴覚障害の世界に関わり続けている。 田中 啓行氏 (関東聴覚障害学生サポートセンター) 学生時代にノートテイクなどのボランティアを始め、関東聴覚障害学生懇談会で活動。2001 年から関東聴覚障害学生サポートセンターに加わり、大学の支援体制構築のサポートなどを担当している。また、2006 年3 月に早稲田大学障がい学生支援室が設置された際に職員となり、2015 年3 月まで毎年5~10 名程度の聴覚障害学生の支援を担当した。在職中PEPNet-Japan の遠隔情報保障事業の委員を務め、早稲田大学での遠隔情報保障の導入に携わった。 藤島 省太氏 (国立大学法人宮城教育大学特別支援教育講座・教授(兼)しょうがい学生支援室副室長) 1983 年東北大学大学院教育学研究科博士後期課程中退、同年国立特殊教育総合研究所聴覚・言語障害教育研究部研究員、1991 年から現職。2004 年に宮城教育大学における『障害学生修学支援プロジェクト』、2005 年度JASSO「障害学生修学支援事業設立準備委員会」委員、2006~2007 年度JASSO「障害学生就学支援ネットワーク事業運営委員会」委員を経て、2005 年12 月より宮城教育大学がJASSOネットワーク『拠点大学』となった以後、2009(平成21)年度宮城教育大学に『しょうがい学生支援室』が設置されるとともに副室長として現在に至る。 吉川 あゆみ氏 (関東聴覚障害学生サポートセンター) 1 歳11 か月の時に失聴。聾学校を経て小学2 年生から一般校に通い、友人によるノートテイク、外部の手話通訳、院生によるパソコンテイク等を通して学ぶ。新たな情報保障と出会う度に自己認識が変容していくことを体感する一方で、公的な支援体制と利用者としての私生活のはざまで揺れ動く。大学在学中より20 数年間、関東聴覚障害学生サポートセンターで聴覚障害学生や大学の支援活動に携わる。現在、同センタースタッフの他、大学非常勤講師として手話、情報保障等を担当。社会福祉士。 (スライドあり) 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)紹介 PEPNet-Japan 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク ―聴覚障害学生支援の明日を切り拓く 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)は、2004年筑波技術大学の呼びかけにより結成されたネットワークです※。事務局は、筑波技術大学障害者高等教育研究支援センターに置かれており、聴覚障害学生を受け入れ、積極的に支援を行っている連携大学・機関にとともに活動を続けています。 ※設立当初は、日本財団の助成によるPEN-International(聴覚障害者のための国際大学連合)の支援を受け、発足しました。現在は、筑波技術大学の実施する「聴覚障害学生支援・大学間コラボレーションスキーム構築事業」内で運営されています。 2013 年度バリアフリー・ユニバーサル デザイン推進功労者表彰を受賞! 本ネットワークのこれまでの取り組みが認められ、2013 年 12 月9日に、内閣府による平成 25 年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰【内閣総理大臣表彰】を受賞しました。皆様のご理解、ご協力に厚く感謝申し上げます。 (授賞式にて安倍晋三内閣総理大臣から表彰される村上芳則前代表) 本事業の目的は、全国の聴覚障害学生が在籍する大学および関係諸機関間のネットワークを形成し、高等教育機関で学ぶ聴覚障害学生への支援体制確立を図ることです。支援にまつわる情報や実践の蓄積と、全国の大学・機関に向けた発信を目指して活動を行っています。 (画像 4ページ分あり) 運営組織 代表 大越教夫 筑波技術大学・学長 運営委員 井坂行男  大阪教育大学障がい学生修学支援ルーム・ルーム長 三好茂樹  筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・教授 藤野友紀  札幌学院大学人文学部・准教授 松﨑 丈  宮城教育大学教育学部・准教授/みやぎDSC・代表 金澤貴之  群馬大学教育学部・教授 斉藤くるみ  日本社会事業大学・教授 山本 篤  関東聴覚障害学生サポートセンター・代表 志磨村早紀  早稲田大学スチューデントダイバーシティセンター       ・障がい学生支援コーディネーター 広瀬洋子  放送大学・教授 太田知啓  愛知教育大学なんでも相談室・学務部長 柏倉秀克  日本福祉大学学生支援センター・センター長 阪田真己子  同志社大学学生支援センター・障がい学生支援室長 中野聡子  大阪大学キャンパスライフ健康支援センター・講師 松岡克尚  関西学院大学人間福祉学部・教授 加藤哲則  愛媛大学教育学部・准教授 石原保志  筑波技術大学・副学長 佐藤正幸  筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・センター長 白澤麻弓  筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・准教授 事務局 事務局長 白澤麻弓  筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・准教授 事務局長補佐 萩原彩子   筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助手 事業コーディネーター 磯田恭子   筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助手 中島亜紀子   筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助手 事務局員 小暮聡子   筑波技術大学聴覚障害系支援課・課長 三好茂樹   筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・ 教授 河野純大 筑波技術大学産業技術学部産業情報学科・准教授 事務補佐員 石野麻衣子筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・特任研究員 坂井 肇筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・技術補佐員 PEPNet-Japan 正会員 大学・機関 札幌学院大学★ 北海道大学 北星学園大学 宮城教育大学★ みやぎDSC★ 群馬大学★ 東京大学 早稲田大学★ 立教大学 日本社会事業大学★ 関東聴覚障害学生サポートセンター★ 放送大学★ 千葉大学 静岡福祉大学 名古屋大学 静岡大学 愛知教育大学★ 日本福祉大学★ 同志社大学★ 京都大学 京都産業大学 特定非営利活動法人ゆに 大阪大学★ 大阪教育大学★ 関西学院大学★ 広島女学院大学 愛媛大学★ 松山大学 福岡教育大学 九州大学 九州ルーテル学院大学 筑波技術大学★★ ★は幹事大学・機関 ★★は代表幹事大学 お問い合わせ先 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク事務局 〒305-8520 茨城県つくば市天久保4-3-15  筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター  URL http://www.pepnet-j.org  TEL/FAX 029-858-9438  E-mail pepj-info@pepnet-j.org 担当:白澤麻弓(筑波技術大学 准教授) 本事業は、筑波技術大学「聴覚障害学生支援・大学間コラボレーションスキーム構築事業」の活動の一部です。 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) 正会員大学・機関 紹介 掲載している各大学の情報は、PEPNet-Japan で運営する【聴覚障害学生支援MAP (PEP なび)】より引用しています。 支援に関するより詳細な情報は、PEP なびをご覧ください。 なお、大学により、PEP なびに登録していない場合がございます。 その場合は、各問い合わせ先まで直接お問い合わせください。 聴覚障害学生支援MAP PEP なび http://pepnavi.net/ 聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2018 発表内容紹介 < 前半9:30~10:45 > ・札幌学院大学 ・東北大学 特別支援室 利用学生・学生サポーター ・東北福祉大学 障がい学生サポートチーム ・千葉大学 ノートテイク会 ・愛知教育大学 情報保障支援学生団体「てくてく」 ・愛媛大学 障がい学生支援ボランティア(CBP) ・福岡教育大学 障害学生支援センター ・特定非営利活動法人ゆに < 後半10:45~12:00 > ・北星学園大学 アクセシビリティ支援室 Note Takers ・宮城教育大学 しょうがい学生支援室 ・早稲田大学 障がい学生支援室 ・東京学芸大学 障がい学生支援室 ・首都大学東京 ダイバーシティ推進室 ・日本福祉大学 学生支援センター ・大阪教育大学 障がい学生修学支援ルーム ・松山大学 障がい学生支援団体 POP 教職員による聴覚障害学生支援実践発表2018 発表内容紹介 <時間> 9:30~12:00 教職員対象 うち10:15~11:15 発表者在席 12:00~13:30 教職員以外の方も閲覧可能 <発表団体一覧> ・宮城教育大学 しょうがい学生支援室 ・東北大学 学生相談・特別支援センター 特別支援室 ・群馬大学 学生支援センター・手話サポーター養成プロジェクト室 ・目白大学・目白短期大学部 障がい等学生支援室 ・首都大学東京 ダイバーシティ推進室 ・放送大学 情報コース ・筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター ・小田原短期大学 ・関西学院大学 総合支援センター キャンパス自立支援室 未来の大学生に向けたしょうがい学生支援に関する理解・啓発 ~オープンキャンパスでの活動を通して~ 宮城教育大学 しょうがい学生支援室 前原明日香 及川麻衣子 佐藤晴菜 本学のオープンキャンパスには、毎年しょうがいのある高校生が参加をしている。学内で様々な企画が行われる中、しょうがい学生支援室を開放し、在学中のしょうがいのある大学生との懇談やボランティア体験等の企画を実施し、しょうがいの有無にかかわらず高校生がしょうがいのある大学生とかかわる機会や支援活動に触れ合う機会を設けている。 今年度は53 名(保護者・引率者含む)が来室した。 今回の実践発表では、しょうがい学生支援室で行っている企画内容、またその効果について紹介する。 1.しょうがいのある大学生との懇談 実際に、支援を利用しながら講義を受けているしょうがいのある大学生と話す機会を設けている。参加した高校生は、大学での講義の受け方や支援内容、試験対策など、自分に合ったコミュニケーション手段で気軽に確認する機会となり、具体的に大学生活をイメージすることができる。 2.ボランティア体験 参加する高校生にもボランティアの体験をしてもらうため、3 年前から実施している。今年度、聴覚しょうがい関連の体験として、ノートテイクと、手話での自己紹介を行った。学生スタッフに協力を依頼し、参加者は、ホワイトノイズを使用して聴覚しょうがい学生になりノートテイクから情報を得る体験、また、学生スタッフが話した内容を、実際にノートテイクする体験を行った。視覚しょうがい関連の体験として、点図作成体験や、アイマスクをつけてお茶やコーヒーを入れる体験、肢体不自由関連の体験として、車椅子を使い学内をまわるという体験を行った。 3.効果 オープンキャンパスでの活動を通して、しょうがいのある高校生は本学のしょうがい学生支援について理解し、在学中のしょうがいのある大学生とつながりを持つことができる。 また各種ボランティア体験を通して、大学入学前から学内での支援活動に触れてもらうことで、大学入学後に実際にボランティア登録をするなど、支援学生を増やす一助ともなっている。 一方で、在学中のしょうがいある大学生にとっても、自分のしょうがいについて説明したり、これまでの経験について振り返って話したりする貴重な機会ともなっている。支援学生にとっても、普段行っている支援活動を紹介する良い機会となっている。 問い合わせ先 宮城教育大学 しょうがい学生支援室 TEL/FAX:022-214-3651 E-mail:csd@adm.miyakyo-u.ac.jp 本学における聴覚障害学生支援の資源利用に関する報告 東北大学 学生相談・特別支援センター 特別支援室 髙橋 真理 榊原 佐和子 1.本学における聴覚障害学生 本学は,毎春新入生へ入学手続き案内の書類を送付しており,その中に障害や疾患の有無,支援や配慮の希望有無を尋ねる書類も同封している。この書類の回答状況から考えると,毎年1,2 名程度,聴覚障害のある学生が入学している。この書類もしくは直接来談により特別支援室と繋がった聴覚障害のある学生はこれまで4 名おり,聴力レベル・教育歴・高校までの支援有無・特別支援室への来談時期・所属学部(大学院)等はさまざまである。 本学に特別支援室が設置された平成26 年当初,学生の困り感や支援ニーズに応えるには学内外の支援関係者(資源)との協働が不可欠だった。その経緯を報告する。 2.聴覚障害学生の困り感と利用した資源 特別支援室での相談過程で把握した学生の困り感や支援ニーズのうち,各学生に共通していた事柄を一部取り出し,どのような資源を利用したのか以下に示した。 1)学生の困り感:授業で先生の声が聞こえない <特別支援室の役割>①学生と継続的に会い,困った場面を丁寧に聞きながら個々の聞こえの特徴や対応策を整理,②学生に情報保障や支援機器に関する情報を提供,③支援機器メーカーに大学まで来てもらい学生に紹介,④合理的配慮に関する手続きと支援のモニタリング,⑤情報保障を担う支援学生組織の立ち上げ。<資源利用>上記②⑤について,聴覚障害学生支援体制が整備されていた複数の大学に支援機器や情報保障を担う支援学生組織等の情報をもらった。上記③について,近隣の大学から県内の医療機関と支援機器メーカーを紹介してもらった。支援機器メーカー担当者に本学に来てもらい,学生の補聴器調整,様々な支援機器の試行会を開いてもらった。上記④について,学生の所属部局や授業担当者とともに合理的配慮の手続きを進めた。支援提供の結果を共有した。<結果>学生の一人は補聴器を買換え「これまで授業では2 割程度しか聞こえてなかったことが分かった」との感想を述べた。その他の学生も実験や実習において支援機器の導入に至った。 2)学生の困り感:ゼミや演習への参加が難しい <特別支援室の役割>①1)と同様,②擬似演習場面で学生と支援機器の効果検証,③同じゼミ(演習)の学生に障害を開示することのメリット・デメリットを学生と一緒に整理,④演習場面を事前に学生と視察・対応策検討,⑤授業担当者にどのような場面でどのような配慮を求めるか学生と一緒に整理,⑥音声認識アプリ導入,教職員の理解啓発<資源利用>上記②について,支援学生の協力で擬似演習場面を作り,支援機器メーカーと支援機器の効果検証,支援機器以外にも座席配置による聞こえの違いがあるか等検討をした。上記③について,近隣大学に当事者である教員を紹介してもらい,学生とともに半年に一度補聴相談をしてもらった。上記④について,所属部局と授業担当者の協力のもと実施。上記⑥について,既に同アプリを導入している複数の大学に有用性や運用方法等について情報を提供してもらった。予算確保にあたっては本学の教育担当理事に相談した。 <結果> 周囲の協力を得ながら,多角的な方法での情報保障を検討・実施することができた。 3.まとめ 本学には第一言語として手話を使用する学生がいる一方,高校まで授業中の聞き漏らしは自学で補ってきた為,他者に困り感を知られたくないと話す学生もいる。そのような異なる背景を持つ聴覚障害学生の多様な困り感や支援ニーズに的確に応えていくには,学内外の資源をさらに活用しながら一つの大学に閉じることのない支援が必要になるだろう。 問い合わせ先 東北大学 学生相談・特別支援センター 特別支援室 ℡:022-795-7696 FAX:022-795-4950 E-mail:t-sien@ihe.tohoku.ac.jp 授業における手話通訳者養成の実践報告 手話通訳養成講座初級レベル準拠「日本語と日本手話の違いを学ぶⅠ」について 群馬大学 1)学生支援センター・手話サポーター養成プロジェクト室 2)教育学部 能美由希子1) 二神麗子1) 川端伸哉1) 金澤貴之2) 下島恭子1) 1、はじめに:科目開講の背景 本学では、2017 年度より日本財団助成による「学術手話通訳に対応した養成事業」を行っている。従来、手話奉仕員養成講座から手話通訳者養成講座の受講修了まで5 年以上必要だが、本事業におけるカリキュラムは、その期間を3 年に短縮することを試みている。当該授業は、昨年度1 年間で手話奉仕員養成講座相当レベルの手話を習得した学生が、今年度前期に受講した科目である。 2、「日本語と日本手話の違いを学ぶⅠ」概要 1)到達目標:各都道府県必須事業の手話通訳者養成講座初級レベルの内容を習得する。 2)形式:演習(手話表現・手話通訳実技を含む) 3)履修登録者:18 名(全て教育学部在籍。うち16 名は障害児教育専攻2 年生の全数) 4)提出課題:週3 回(シャドーイング12 回、聞き取り通訳18 回、読み取り通訳3 回) 5)授業および課題提出の工夫: ・モチベーションを高めるため、できている点や改善できた点を明示 ・学生同士で見る目を養うため、既習事項(音韻・NMS 等)に基づいたフィードバック ・課題に取り組みやすい環境の整備 例)・プロジェクト室にて課題撮影し、機材設定等の負担を軽減 ・プロジェクト室勤務のろう研究員が適宜手話表現等の質問対応 ・空きコマを授業時に把握し、複数人で集まって課題を取り組むように促す 3、授業担当教員および複数の研究員(ろう・聴者)による課題フィードバック 学生から提出された課題は、授業担当教員だけではなく、プロジェクト室勤務のろう・聴研究員もチェックした。学生に対しては、適宜コメントとしてフィードバックすることで、手話通訳技術の改善を図った。 【学生へのコメント例】 ・単語毎にうなずきがち→文のかたまりを意識し、動作をコントロールするよう指摘 ・うなずき動作の単調さ→うなずきのバリエーションの説明 (頭を前に出して止めるうなずき、単語から遅れて表示されるうなずき、等) ・手話とマウジングの拍のズレ→複合語の表現(音韻変化)の説明 (一つのまとまりになるように表現する。マウジングの速度を2 倍してみる、等) 4、関連講座「手話検定試験対策講座」の開講 自学として語彙を増やす機会を設けるため、手話検定試験への受験を促した。受験予定者のうち希望者に対して、手話検定試験対策試験対策講座(全2 回)を開講した。 【概要】 ・筆記試験対策の勉強方法 ・音韻(手の形・動き・位置)への意識づけによる正確な記銘方法 ・ミニマル・ペアを活用した想起方法 ・模擬面接およびフィードバック 問い合わせ先 群馬大学手話サポーター養成プロジェクト室 http://sign.hess.gunma-u.ac.jp/ TEL:027-220-7157 FAX: 027-220-7390 聴覚障がい学生の聴こえにあわせたノートテイカーの養成や配置の工夫について 目白大学・目白短期大学部 障がい等学生支援室 荒木朋依 目白大学では、平成26 年度に副学長を委員長とする障がい等学生修学支援委員会及び専門部会を設置、平成27 年度には専門のコーディネーターを配置した障がい等学生支援室を設置し、障がいのある学生の修学支援体制の構築に努めている。 本学では、障害者差別解消法施行前より、車いす利用などの肢体不自由学生や視覚障がいのある学生を受け入れてきたが、近年は発達障がいや精神障がいのある学生の入学が増えている。また、短期大学部での受け入れしかなかった聴覚障がい学生を、平成28 年度より毎年、大学で受け入れている。 現在1~3 年生まで6 名の聴覚障がい学生が在籍し、情報保障として学生サポーターによるノート(またはPC)テイクを提供している。学生のテイク支援に加え、聴覚障害者支援システムLiveTalk(富士通株式会社)や、補聴が可能な聴覚障がい学生にはロジャーマイク(フォナック)を活用し、より精度の高い情報保障の在り方を模索しているところである。 現在の聴覚障がい学生数と支援状況は下記の通りである。 H28 年度 H29 年度 H30 年度(春学期) 聴覚障がい学生数 1 3 6 ノートテイカー登録者数 34 33 45 LiveTalk(科目数) 3 2 6 ロジャーマイク(科目数) - 22 22 年々聴覚障がい学生が増加する中で見えてきたこととして、情報保障と一口に言っても、その内容や方法は、聴覚障がい学生の聴こえの程度や履修科目、学年など、個々のニーズにあわせてコーディネイトされることが望ましく、そのためのサポーターの配置や養成方法にも工夫が必要である。 問い合わせ先:目白大学障がい等学生支援室 荒木朋依 03-5996-3123、shogai.shien@mejiro.ac.jp ダイバーシティ推進事業を基盤とした支援学生の養成 首都大学東京 ダイバーシティ推進室 横山正見、藤山新(ダイバーシティ推進室)、中西翼(学長室) 1、支援体制の概要 首都大学東京は2011 年に「男女共同参画推進」、「障がいのある構成員支援」、「多様性を踏まえた構成員支援(セクシュアルマイノリティ支援、多文化理解等)」を柱としたダイバーシティ推進宣言を行った。この宣言を実現するため、学長直属の「ダイバーシティ推進委員会」及び「ダイバーシティ推進室」を創設し、各種事業を同一の部屋で行っている。聴覚障がい学生支援には2017 年度より取り組んでおり、昨年度は延べ445 コマの授業で情報保障を行った。 なお、本学は学生数9,086 名、制度利用の身体障がい学生は9 名(うち聴覚は3 名)が在籍し、支援学生は約90 名が登録している。(学生数は2018 年5 月時点、その他は2018 年8 月現在) 2、多様なプログラムによる支援学生の養成 本学は多様な機会を通じて、支援技術のみならず幅広い視野を兼ね揃えた支援学生を養成することを目指し、以下の取り組みを行っている。 1)、支援技術や障がいに関する講習会 支援技術習得のため、「ノートテイク講習会」、「パソコンノートテイク講習会」を開催し、理解啓発のための「バリアフリー講習会」を年に3 回開催している。その他通年の「手話講習会」開催している。それぞれの講習会は、障がい学生、支援学生及び障がい当事者が講師として関わっている。 2)、ダイバーシティ推進に関する講習会 障がい分野以外に、「男女共同参画推進」、「セクシュアルマイノリティ支援」を中心にダイバーシティ推進の現状と課題を学ぶため、昼休みに「ランチタイムレクチャー」という連続講座を開催している。各回とも、その分野の専門家や当事者が話題提供し、学生とディスカッションの機会を設けている。 3)、学生が語りあう勉強会 障がい学生及び支援学生が講師役を担う「支援スタッフ勉強会」を定期的に開催している。内容は、自身の障がいや支援活動に関わって考えたことを報告し、参加者が自由に語り合う。障がい学生にとっては、自身の困難を自分の言葉で伝える機会につながり、支援学生にとっては、支援について再考する場となっている。 4)、支援場面以外でのコミュニケーション 月例の定例会を開催し、障がい学生、支援学生及びコーディネーターの間で情報共有を図っている。挙げられた課題については、改めて検討の機会を作り、課題発見から解決までのプロセスを共有するように心がけている。今年度は「音声認識技術について」、「理系科目の支援」、「語学の支援」等が挙げられた。その他、交流会や他大学訪問を企画し、支援場面以外でのコミュニケーションの促進を大切にしている。 3、まとめ 各大学の支援体制整備が進み、授業場面を中心とした情報保障が大学のサービスとして取り組まれつつある。今後、授業場面に加えて日常の大学生活においても聴覚障がい学生が情報から取り残されることなく、主体的に活動に参加できる環境作りが課題となるだろう。支援体制整備とともに、聴覚障がい学生、支援学生及び教職員が課題を共有し、豊かな人間関係を構築しながら、ともに聴覚障がい学生支援に取り組むことが求められている。 問い合わせ先 首都大学東京 ダイバーシティ推進室 連絡先(TEL:042-677-1337 e-mail:diverwww@tmu.ac.jp) インターネット配信によるラジオ講義の画像・字幕付与型コンテンツの開発研究 放送大学 情報コース 広瀬洋子 1.目的 障害者差別解消法のもと、本学の聴覚障害者へのラジオ授業の情報保障は喫緊の課題である。これまで実験的に「ラジオ授業の画像・字幕付与型コンテンツ」の試作を行い、実験配信を行ってきた。教育コンテンツとしては、聴覚障害学生及び関係者から一定の評価を得ているが、制作の過程においては、講師、コーディネータ、製作者、著作権担当者などの分担、工程や業務などが錯綜している。そこで、今回はこれまでの制作の工程を可視化し、講師、ディレクター、コーディネータ、著作権係、画像のデザイナーの役割と準備、製作過程でのコミュニケーション方法などにおいて、制作コストと時間効率、品質の保持という観点からの最適化し、制作マニュアルを作成し、新しいメディア・コンテンツ開発の一助とする。 2.方法 1)コーディネータ・講師・制作者が静止画の選定、挿入タイミング、レイアウト等について全体の構成、画像作成などの分類と整理。 2)著作権フリーのPPT 素材の入手方法、許諾を取りやすい省庁、NPO のリストアップ。 3)素材の準備の役割分担:音源・台本・講師情報・PPT・PPT 挿入指示書。 4)BOX の利用法の確立:制作者・講師・コーディネータが字句・画像挿入タイミング・仮ミックス・最終版のやりとりの手順の整理。 5)日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク・筑波技大の聴覚障害関係の教員による評価。 6)作業過程の精査、講師・制作者の意見の分析、改善点を見出し「制作マニュアル」を作成。 3.結果 上記の図は、工程の流れと、作業の内容を記したものである。 例)作業の煩雑さの解消 ①教員による台本修正 ⇒ 音声認識システムによるテキスト化。 ②PPT in/out 指示 ⇒ 音声認識テキストに指示or 音源タイムコードに書き入れる。 4.制作マニュアル 制作マニュアルをつくることで、作業工程、担当者の分担整理によって、制作工数の削減が見込まれ、制作コストが軽減される。情報保障として有益。低廉な制作コストで情報量の多いメディア・コンテンツとして一般学生にも有益である。 作業工程 問い合わせ先 放送大学 情報コース 広瀬洋子 連絡先(hirose@ouj.ac.jp) スポーツ分野におけるろう者学教育コンテンツの開発-競技スポーツ経験における自己変容に着目して- 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 門脇 翠 小林 洋子 大杉 豊 1.ろう者学教育コンテンツの概要 当事業では、ろう・難聴者の様々な生き方や考え方、自立に必要な知識などを指導する「ろう者学(デフ・スタディーズ)」の教育コンテンツと指導案を開発・整備する取組を行っており、平成29〜30 年度は下記内容をウェブサイトに公開している。 ・聾学校(聴覚特別支援学校)における「自立活動」の指導案と教育コンテンツ・本学開講科目「デフコミュニティと社会参加」の指導案と教育コンテンツ・きこえない大学生などを対象とするろう者学関連講義の指導案と教育コンテンツ・社会で活躍しているろう・難聴者のキャリアインタビュー記事 2.スポーツ分野の教材コンテンツの増強 スポーツ庁が平成28 年にまとめた「地域における障害者スポーツの普及促進について」に、聴覚障害者の世界的な規模なる総合スポーツ競技大会「デフリンピック」の概要が紹介されている。本事業においてもデフリンピック啓発を図るための教育コンテンツが作成されているが、聴覚障害者の競技スポーツにおける差別事例など歴史学習に主眼が置かれている。そこで、実際に競技スポーツに取り組む聴覚障害者の経験からスポーツとの関わり方を学ぶことに主眼を置く教材コンテンツを新しく開発することとした。 3.競技スポーツ経験における自己変容 今回の教材開発でインタビュー調査に協力いただいたきこえない女性は、一般の学校教育を経て、プロのバレーボール選手としてきこえる選手に交じってVリーグで活躍した経歴に加え、4 度のデフリンピック出場できこえない選手とともに国際大会を戦った経験を持つ。デフリンピック出場を重ねる中で、徐々にきこえない自分の存在を肯定し、手話コミュニケーションに参加するようになり、さらに周囲のきこえる人たちにきこえない選手としての自分の存在をアピールするようになったという彼女の経験は、聴覚障害のある競技者がスポーツと関わる中で自身やスポーツに対する意識を変容させていく過程(門脇2017)、いわば自己の「価値観の転換」を示す事例であろう。彼女の語りを収録した動画を教育コンテンツとして編集し平成30 年度中にウェブサイト公開する予定である。 4.スポーツ分野におけるろう者学教育コンテンツの役割 “自分なりの価値観”こそ、きこえない人が社会に出て人間関係を築いていくために必要な基礎力の一つであると考える。スポーツ分野においては、(きこえない人同士の)デフスポーツと(きこえる人に交じる)一般スポーツという二つの世界の存在と意義を学び、それぞれにうまく対処して人間関係を築くための「価値観の転換」のあり方を考える教育コンテンツの開発に大きな可能性があるのではないだろうか。 【参考文献】 ・門脇翠(2017):聴覚障害のある競技者とスポーツとの関わり−デフスポーツにおける意識変容過程に着目して−, 筑波大学大学院体育系修士研究論文. 問い合わせ先 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター(天久保) ろう者学教育コンテンツ開発プロジェクト FAX: 029-858-9340 E-mail: info@deafstudies.jp Web: http://www.deafstudies.jp/ 先進校において選択的に支援を受けず卒業・就職した聴覚障害学生の1例 小田原短期大学 杉中 拓央 1.はじめに いわゆる検討会報告(第二次まとめ)において、学生生活における支援範囲の拡大や、進学・就職といった接続に対する言及があった。これに添えば、聴覚障害学生支援においても、当事者のライフキャリアに見通しをもち、情報支援をとおして支えるという視座は、より重要になる。本稿においては、支援体制が整備された先進的な大学において、入学時より断続的に担当教職員の接触がありながらも、情報支援を受けず卒業・就職に至った事例を紹介し、彼/彼女の思いについて、逐語録より考察する(発表時に補足資料を提示する)。 2.方法 1)調査対象者 A さん。23 歳。社会人1 年目(エンジニア)。先天性重度感音難聴、初等教育期に人工内耳手術。インテグレーション、小学校低学年より情報支援を受ける(中学校途中で支援を辞退)。その後、障害学生支援の専任部署を有する総合大学の理系学部に進学、卒業した。 2)調査方法 大学時代の情報支援について、共構築(Brott,2014)の態度をもって、ともに調査対象者の学生生活の節目を整理しながら聴き取りを実施した。本稿にはその一部を要約した。 3.結果 A さんは合格発表後、保護者同伴の下、大学の障害学生支援の部署の職員と面談し、自身の聴覚障害について伝えた。その際に、情報支援を活用するよう勧められたが、断った。 入学後も、これまでの卒業生の支援実績とともに「“あなたのようなタイプは(支援を)つけないとだめ”みたいなことを言われ」教員経由で再三コンタクトを受けたが、すべて断っていたところ、徐々に職員の態度が不遜になり、嫌われてしまったと感じた。 情報支援を断った理由は、既に小学生・中学生の時分に、保護者の意向でノートテイクを受けた経験があり、英語に始まり、国語等にもその支援範囲を拡げられたが、支援者の誤字(打鍵の誤り)が多く、知識(文法を解さない支援者を英語の授業に配置された)等の問題からも機能していないと感じ、情報支援についての疑問を持ち続けていた。また、常時視線が集まることで、気が散って余計に集中できなかった。そこからは自習をがんばり、偏差値の高い大学に入学できたことから、より支援は不要という考えに至った。 大学の教育形態については当時、十分に理解しておらず、大講堂等の講義に最初は面食らったが、じきにほとんど諦め、いつも映画を観ていた。また、時折内職もしていたので、支援があればそれも難しかったし、教室で「いい意味でふまじめな」友達とも知り合えなかった。「そんな自由な自分が評価されたからこそ、いい企業にも入れた」と考えた。 4.考察 充実した学生生活が窺えるものの、他方で支援に対する誤解もあり、大学において取得できる/すべき情報量や、それに伴う時空間の拡大機会を逸した可能性も残る。近年は入学前に被支援経験のある者も増えたため、事前に支援に対する印象の好悪を把握することも大切である。職員側の心情も理解できるが、業務に熟練するほど、無意識下に学生を類型化したり、先入観が生じたりということもあろう。従って、既知の知識や経験をそのまま適用することに慎重であろうとする「無知(not-knowing)の姿勢」の概念を含み置きたい。 支援のすそ野拡大や、人工内耳健保適用世代の学齢期到達もあり、ポストモダンの聴覚障害学生支援においては、個別性ある学生のキャリアを押さえる姿勢が、より求められる。 問い合わせ先:杉中 拓央 t.suginaka.t@odawara.ac.jp ※本報告は筆者の関係する諸機関の事例ではありません。なお、対象者には発表許可を取っております。 対象者の個人情報に関する問い合わせには一切お答えできません。 キャンパス間遠隔情報保障の検証結果と今後の課題について ○松浦考佑 生野茜 関西学院大学総合支援センターキャンパス自立支援室 本発表の目的 • 関西学院大学キャンパス自立支援室では近年、各キャンパスの支援内容やサポート体制の統一、バリアフリーマップ作成等、様々な支援活動に取り組んできた。 本発表では、今後のパソコンテイカーの人材不足を鑑み、キャンパス間連携による遠隔情報保障が可能かどうか、2018年の春学期に検証した結果を紹介し、これからの多様な情報保障と人材の活用について示唆することを目的としている。 キャンパス自立支援室の近年の取り組み 学生サポートスタッフの活動内容の統一(2016年~2017年) ・ノートテイク以外のサポート体制(字幕付け・テキストデータ化・ガイドヘルプ等)を充実させた。 ・キャンパスごとにノートテイカーの養成講座を実施していたが、利用学生のニーズの多様化、異なるキャンパスでの履修機会の増加も鑑み、聴覚以外の多様な障害を学べる内容に変更した。 (1日目を座学、2日目を実技とし、2日間のプログラムで開催) ・IPtalkスキルを習得したノートテイカーを増やすために、毎学期「IPtalk講習会」を実施した。 ・各キャンパスのミーティングにweb会議ツールを用い、学生サポートスタッフの交流が増えた。 各キャンパスのサポート体制の統一(2016年) ・「学生サポートスタッフマニュアル」(ノートテイクや字幕付け等に関するマニュアル)を統一した。 ・「サポートガイド」(学生サポートスタッフ・利用学生のためのルールブック)を作成した。 AR(アクセシビリティー・リサーチ)の活動(2016年~2017年) ・アクセシブルで開けた大学を目指して、学内の環境調整や現状の調査を行うため、学生サポートスタッフの活動の中に「AR(アクセシビリティーリサーチ)」を導入した。バリアフリーマップや、トイレやエレベーターの設備を調べたブックレットを作成した。 ・学生サポートスタッフの紹介動画を作成し、ホームページに掲載した。 ノートテイクの風景 IPtalk講習会の風景 キャンパス間遠隔情報保障の検証(2018春) ≪2キャンパス間での検証≫ これまで、各キャンパス内では教室内・教室外の遠隔情報保障を実施してきたが、今後のパソコンテイカーの不足を鑑み、キャンパス同士での情報保障が可能かどうか、ARの活動として2018年の春学期に検証した。 【検証日程】毎週水曜日の4限に実施(全9回) 1 回目~3 回目:IPtalkの基本機能習得 4 回目~7 回目:キャンパス自立支援室内での検証 8 回目:実際の授業での検証 9 回目:検証のまとめ 【検証方法】 ① 支援室内(同じキャンパスのテイカー同士で連携入力) Iptalkを用い、一方のキャンパスで読み上げた音声を各キャンパスでテイクし、各キャンパスに置いている「iPad」に文字情報を送信し、タイムラグがないか、通信が途絶えないかどうかチェックした。 ② 支援室内(異なるキャンパスのテイカー同士で連携入力)上記と同じ内容を実施。 ③ 授業中(同じキャンパスのテイカー同士で連携入力) 授業の様子をweb会議ツールを使用して、各キャンパスに映像・音声を共有し、キャンパスごとにテイクを行い、教室に置いている「iPad」に文字情報を送信した。また、授業教室内にいる学生がタイムラグや通信状況があるかチェックした。 検証結果 ・教室に設置する集音マイクの種類や設置場所、教員の声量によりテイカーに届く音声の大きさや音質が悪かった。 ⇒ 外付けスピーカーをつけたり、分配器を利用し各自イヤホンで聞いたり、できる限り工夫したが、音声や音質の改善が今後必要である。 ・学内の無線LANの通信状況が悪く、文字情報を受信しているiPadが途中で何秒かフリーズしたり、文字が届かなくなる不具合が生じた。 ⇒リアルタイムでの情報保障が円滑にできるように、安定性のある通信状況の確保が必要になる。 ・異なるキャンパスのテイカー同士で連携入力をした際、音声伝達に0.5秒程度のラグが発生したが、お互いに問題なく連携することが出来ていた。 Aキャンパスの検証風景 Bキャンパスの検証風景 ≪英語での講演会の検証≫ Aキャンパスに所属する聴覚障がい学生が、Bキャンパス開催の講演会に参加を希望した際、Bキャンパスに英語のテイクができるパソコンテイカーが不足したため、キャンパス同士で連携した遠隔情報保障を実施した。 【検証方法】 英語での講演会前にパソコンテイカー同士での練習会を実施した。 Aキャンパスではパソコンテイカー3名、Bキャンパスでは英語のテイクであることや、通信が途絶える可能性も考え、利用学生の横に手書きテイカー1名を派遣した。 web会議ツールにて、Bキャンパスに映像と音声を共有し、パソコンテイカーがテイクを行い、講演会会場の「iPad」に文字情報を送信した。 検証結果 ・映像と音声を送信するパソコンを話者の正面に設置したが、話者のマイクの音声が教室の左右のスピーカーから聞こえることで、集音マイクに届く音声が小さかった。また、スクリーンのスライドが見えにくかった。 ⇒ パソコンを設置する場所のさらなる検証が必要である。 ・通信が途絶えることもなく、スムーズな情報保障を実施することが出来た。 初めての英語での講演会の検証だったが概ねうまくいった。 今後の課題 ① 音声の受信がうまくいかず、声が聞こえない場面があったため、教室に設置する集音マイクの種類や設置場所を考える。 ② 文字情報の送受信が悪く、途中でフリーズしたり文字が届かなくなる不具合があったため、安定した通信状況を確保する。 ③ 学生サポートスタッフや利用学生との事前準備や確認、テイク終了後のフィードバックをどう実施していくのか検討する。 ④ 外国語のテイクスキルが習得できるような講習会を企画・開催していく必要がある。 第14回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム2018年10月28日@早稲田大学 【参考】前日特別企画概要 前日特別企画 概要 【 ワークショップ 】 聴覚障害学生支援に関わるトピックスを取り上げ、少人数でのディスカッションやワークを通じて各テーマへの理解を深めるとともに、参加者同士の情報交換を行い、各大学等における支援の充実と発展に寄与することを目的とする。 日時:10 月27 日(土) 13:00~16:00 会場:早稲田奉仕園 セミナーハウス(新宿区西早稲田2-3-1) 対象 タイトル/概要/講師 定員 1 聴覚障害学生 「当事者研究をやってみよう!」 聴覚障害学生が、自身の抱える困りごとについて言語化することを通し、問題点を整理するとともに、周囲に伝えたり解決策を講じたりするための方法を学ぶ。 講師:松﨑丈氏(宮城教育大学) 綾屋紗月氏(東京大学) 20 名 2支援学生・聴覚障害学生・教職員 「作ろう支援の大三角―みんなの視点を対話でつなぐ―」 ゲームや対話等のグループ活動を通し、聴覚障害学生・支援学生・担当教職員それぞれが、お互いの見ている世界の違いを理解し、よりよい支援を考える。 講師:杉中拓央氏(小田原短期大学) 志磨村早紀氏(早稲田大学) 黒田泰氏(早稲田大学) 秋元麻氏(元支援学生) 川口雅史氏(元支援学生/ (株)スポーツIT ソリューション) 40 名(教職員15 名、学生25 名程度) 3 教職員 「支援体制整備のその先にある課題とは?」 障害学生支援の体制が発展してもなお、解決が難しく残される支援上の課題とは何か、参加者の意見をもとに洗い出し、今後の支援のあり方について協議する。 講師:金澤貴之氏(群馬大学) 白澤麻弓氏(筑波技術大学) 25 名 【 早稲田大学キャンパスツアー 】 本シンポジウムを早稲田大学にて開催することにあわせ、全国からの参加者を対象として会場となる早稲田大学キャンパスツアーを実施する。大学内の伝統的な校舎や特徴的な施設を学生ガイドの案内でまわり、バリアフリー状況ならびに最新設備等を見学することを目的とする。 日時:10 月27 日(土) 1 回目:13:30~15:00/2 回目:15:30~16:30 会場:早稲田大学 早稲田キャンパス ※集合及び解散場所は参加者に別途連絡する 実施時間 定員 備考 1 回目 13:30~15:00 18 名 通常60 分でまわるプログラムを90 分かけてゆっくりまわるコース。定員を超えた場合は、移動に困難がある方を優先。 2 回目15:30~16:30 55 名 ※ワークショップ、キャンパスツアーともに、事前申込み制として定員を設け実施した。 第14回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 実行委員 大会長 筑波技術大学 学長 大越 教夫 実行委員長 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター センター長 佐藤 正幸 事務局長 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 准教授 白澤 麻弓 幹事 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 助手 磯田 恭子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 助手 中島亜紀子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 助手 萩原 彩子 実行委員 早稲田大学 スチューデントダイバーシティ センター長 三神 弘子 早稲田大学 障がい学生支援室 課長 大久保裕子 早稲田大学 障がい学生支援室 専任職員 黒田 泰 早稲田大学 障がい学生支援室 常勤嘱託職員 志磨村早紀 小田原短期大学/ 早稲田大学 講師/招聘研究員 杉中 拓央 東京大学 バリアフリー支援室 特任助教 中津 真美 日本社会事業大学 教授 斉藤くるみ 関東聴覚障害学生サポートセンター コーディネーター 山本 篤 関東聴覚障害学生サポートセンター コーディネーター 田中 啓行 宮城教育大学 教育学部 准教授 松﨑 丈 群馬大学 教育学部 教授 金澤 貴之 筑波技術大学 副学長 石原 保志 筑波技術大学 聴覚障害系支援課 課長 小暮 聡子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 教授 三好 茂樹 筑波技術大学 産業技術学部 教授 谷 貴幸 筑波技術大学 産業技術学部 准教授 井上 正之 筑波技術大学 産業技術学部 准教授 河野 純大 筑波技術大学 産業技術学部 講師 守屋誠太郎 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 特任研究員 石野麻衣子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 技術補佐員 坂井 肇 第14 回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 発行日:2018 年10 月28 日 発行:第14 回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム実行委員会 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局 〒305-8520 茨城県つくば市天久保4-3-15 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター ※本事業は、筑波技術大学「聴覚障害学生支援・大学間コラボレーションスキーム事業」の活動の一部です。 表紙デザイン:平井望(筑波技術大学大学院 技術科学研究科 情報アクセシビリティ専攻 学生)