第5回 日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 報告書 もくじ はじめに 3 プログラム 4 【分科会1】 「基礎講座一1からわかる聴覚障害学生支援入門一」報告 8 【分科会2】 「教職員に対する障害学生支援の理解向上のために」報告 14 【分科会3】 「コーディネーターの専門性と身分保障」報告 20 【分科会4】 「支援学生のスキルアップ 一聴覚障害学生のニーズに応えるために一」報告 24 【パネルディスカッション】 「聴覚障害学生の主体性を引き出す環境作り 一社会生活・就労を見据えたエンパワメント一」報告 30 【ランチセッション】 「聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2009」報告 36 はじめに 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク( PEPNet-Japan)では、特に聴覚障害学生への支援体制が充実し、積極的な取り組みを行ってきている大学・機関と共同で、聴覚障害学生支援に関するノウハウを積み重ね、先駆的な事例の開拓を行ってきました。我々の活動の成果をより多くの大学・機関に向けて発信するとともに、全国の高等教育機関における支援実践についての情報交換をすることを目的とし、年に1回シンポジウムを開催しております。 今回第5回目となった日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムには、関係者も含め約 290名の方々にご参加頂きました。今年はより深い議論のために、これまで3つだった分科会を4つに増やし、内容も FD(ファカルティディベロップメント)やコーディネーターの専門性、支援学生のスキルアップという新たなテーマを設けた他、基礎講座では少人数のグループによる Q&A方式を取り入れました。どの分科会でも活発な議論、意見交換が行われていました。午後は聴覚障害学生のエンパワメントをテーマとしたパネルディスカッションを開催し、卒業後の杜会生活や就労を見据えた支援のあり方が議論されました。 また、2回目となる聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテストは、たくさんの参加者で会場は前回に勝るとも劣らない熱気があふれ、あちこちで活発な情報交換が行われていました。 当日参加された方、残念ながら参加されなかった方のどちらにもお読みいただきたく、それぞれの企画の内容を纏めさせて頂きました。 本シンポジウム開催に当たり、ご後援頂きました文部科学省並びに独立行政法人 日本学生支援機構に対しまして深謝いたします。 そして、各企画にご協力頂きました講師の皆様、 PEPNet-Japan連携大学・機関の皆様、第5回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム実行委員の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。 2010年 1月吉日 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局 プログラム 《第1部》10:00〜12:00 分科会 ・分科会1「基礎講座一1からわかる聴覚障害学生支援入門一」 司 会 山本篤氏(関東聴覚障害学生サポートセンター) ミニレクチヤー 太田琢磨氏(愛媛大学 バリアフリー推進室) 及川麻衣子氏(宮城教育大学 しょうがい学生支援室) 後藤音彦氏(フヱリス女学院大学 バリアフリー推進室).. アドバイザー 新国三千代氏(札幌学院大学 人文学部こども発達学科) 松崎 丈氏(宮城教育大学 特別支援教育講座) 藤井克美氏(日本福祉大学 障害学生支援センター) ・分科会2「教職員に対する障害学生支援の理解向上のために」 司 会 青野透氏(金沢大学 大学教育開発・支援センター) 倉谷慶子氏(関東聴覚障害学生サポートセンター) 話題提供 藤島省太氏(宮城教育大学 特別支援教育講座) 小林直人氏(愛媛大学 教育・学生支援機構 教育企画室) 青野 透氏 (金沢大学 大学教育開発・支援センター) 情報提供 倉谷慶子氏(関東聴覚障害学生サポートセンター) ・分科会3「コーディネーターの専門性と身分保障」 司 会 金津貴之氏 (群馬大学 教育学部障害児教育講座) 情報提供 大椿裕子氏(関西学院大学 教務部キヤンパス自立支援課) 新津晶子氏(群馬大学 学務部学生支援課障害学生支援室) 清水里奈氏(早稲田大学 障がい学生支援室) コメンテーター 山下恒生氏(大阪教育合同労働組合) ・分科会4「支援学生のスキルアップ一聴覚障害学生のニーズに応えるために一」 司 会 甲斐更紗氏 (鹿児島大学 教育学部付属教育実践総合センター) 話題提供 児玉英之氏(慶慮義塾大学 環境情報学部) 窪田祥子氏(筑波大学 人間総合科学研究科) 事例紹介 辻井美帆氏(立命館大学 産業社会学部) 山田洗平氏(札幌学院大学 人文学部) 瀬戸今日子氏(Team ACS 事務局) 《ランチセッション》 12:00〜14:00(2階ロビー)  聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト 2009  聴覚障害学生支援に関する機器展示 《第2部》 14 00〜17:00 全体会(一橋記念講堂) 14:00〜14:15 開会式 14:15〜16:15 パネルディスカッション 「聴覚障害学生の主体性を引き出す環境作り 一社会生活・就労を見据えたエンパワメント一」 司 会 白津麻弓氏 (筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) パネリスト 長野留美子氏(関東聴覚障害学生サポートセンター) 山本幹雄氏(広島大学 アクセシビリティセンター) 平尾智隆氏(愛媛大学 教育・学生支援機構) 石原保志氏(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) 16:15〜 16:30 休憩 16:30〜 16:50 聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト結果発表 16:50〜 17:00 閉会式 報告 【分科会1】 「基礎講座一1からわかる聴覚障害学生支援入門一」 報告者 山本 篤(関東聴覚障害学生サポートセンター) 近年、全国各地の大学において聴覚障害学生の入学が増加している。それに伴って支援室などを設置する大学が増えてきているのは大変喜ばしい事である。 しかしながら、聴覚障害についてどれだけ理解できているか、という事になると一抹の不安が残る。支援すると決めたは良いが、障害の特性が分からず、どうしたら良いか右往左往している所が多いのではないだろうか。 障害がどういうものか理解できていなければ、適切な支援を行う事はできない。聴覚障害の特性と情報保障の方法とは、密接な関係がある。特性によっては、適している支援方法もまた変わってくるからである。 本分科会では、まずミニレクチャーで聴覚障害の基本・特性を理解していただき、グループ討議で障害の特性に応じた支援方法について意見交換・共有を行う事で、新たな支援の方針を見出す契機とすることが目的であった。グループ討議の形にしたのは、より深く活発な質疑応答を期待したためである。 内容 (1)聴覚障害とは (2)様々な情報保障の方法 (3)支援体制作りの基本 <ミニレクチャー> まず、討論の柱となる3つのテーマに沿って、3名の講師にそれぞれミニレクチャーをしていただいた。今回は、これから初めて障害学生支援に関わるという教職員の方が多かった事もあって、基本を学ぶという点では良かったのではないかと思われる。 最初に、ご自身も聴覚障害者である太田琢磨氏(愛媛大学バリアフリー推進室)から、「聴覚障害とは」というテーマに沿って、聴覚障害者の特性や、聞こえ方の特徴等をお話しいただいた。健聴者と聴覚障害者とでは、「聴く」時のプロセスが違う(聴覚障害者は、視覚・聴覚情報を統合して、情報を整理して、抜け落ちた情報を頭の中で補完するという作業がある)という点や、健聴者が抱きがちな誤解についての説明が参加者にとっては参考になったという声が多かった。 次に、及川麻衣子氏(宮城教育大学しょうがい学生支援室)より、「様々な情報保障の方法」について、スタンダードな方法から最先端の取り組み、それらのメリット・デメリットを中心にお話しいただいた。手書きノートテイクは1分間に 50文字程度しかカバーできないが、パソコンノートテイクとなると、1分間で 120〜150文字、音声認識通訳では、1分間に 250〜280文字と格段の差がある。しかし、費用や人員募集・養成に多大な負担がかかるとの説明がされた。特に音声認識通訳の方法については、会場の関心も高く、積極的な質問が見られた。 ミニレクチャーの最後に、コーディネーターの立場から後藤吉彦氏(フェリス女学院大学バリアフリー推進室)より、「支援体制作りの基本」というテーマで、ゼロから創り上げていく支援体制作りのプロセスについてお話しいただいた。これまでの支援体制作りといえば、制度化や組織化など、これから始める者にとっては難しくハードルが高いイメージがあった。しかし、後藤氏から「支援とは何も大がかりなプロジェクトである必要はない。小さな事からでも始める事は出来る。障害学生を取り巻く支援一つ一つは小さなものだが、それらのつながりが全体的に支援“体制rとなる。」という説明があった。大がかりな支援体制構築を考えるより、一つ一つでもよいから、今出来る事を考え、つなげていく事の方が重要であるという事なのであろう。