下肢陽圧免荷歩行が高齢運動器障害者の身体諸機能に与える影響の検討の研究 三浦美佐1),平山 暁1),大和田滋2),伊藤 修3),上月正博4) 筑波技術大学 保健科学部1) 北柏リハビリ総合病院2) 東北医科薬科大学医学部リハビリテーション学3) 東北大学大学院医学系研究科内部障害学4) キーワード:下肢陽圧免荷歩行,臥位駆動型エルゴメータ,安全性,心臓自律神経機能改善,身体運動機能 1.背景 近年超高齢社会を迎えて,疾病の重度化や障害の重度化のため,長期臥床を余儀なくされている障害者が急増している。中でも高齢運動器疾患障害者は超高齢社会の到来と共に増加傾向にあり,若年者や壮年者と比較して身体活動制限や介護負担を伴っており,患者のQOLの低下,医療費向上など大きな社会問題となっている。また,運動習慣のない者や運動耐容能の低い者の生命予後は不良であることが判明している[1]。一方,股関節あるいは膝関節術後早期の患者での水中トレッドミルやリフトによる体重免荷トレッドミルによる長期間の運動療法で,筋力やADLが改善したという報告はあるが,運動器疾患をもつ維持期の高齢者への検討は少ない。従って,運動器障害を有しながらも合併症が少なく,元気で生きがいのある生活を送るための,効果的で安全なリハビリテーションプログラムの確立が急務となっている。 2.目的 本研究では腰痛や膝痛などの運動器障害を持つ高齢患者を対象として,下肢陽圧式空圧免荷トレッドミル装置(以下LBPP),または臥位駆動型エルゴメータを用いて,その有効性を検討することを目指す。すなわち,運動耐容能,上下肢筋力,自律神経機能,各種生化学検査などのパラメーターで比較検討し,安全性,アドヒアランス,時間効率などで最も効果的な方法を決定し,高齢者へのリハの科学的メニュー設定のための一助とすることを目的とした。 3.対象と方法 本研究の対象者は60歳以上で,膝痛や腰痛等の運動器疾患を起因とする痛みの訴えがある者のうち3か月以上ADLに変化のない15名を3群に分け,(1)LBPP運動療法群5名(図1),(2)臥位駆動型エルゴメータ運動療法群5名(図2),(2)対象群(通常のリハビリテーション実施群)5名とする。介入前後で運動耐容能や上下肢筋力,自律神経機能,生化学検査値の変化を即時的かつ長期的に検討することとする。運動療法の具体的実施方法は重度心不全患者で申請者らが,過去に行った方法に準じる[2]。 図1 LBPP運動 図2 自転車エルゴメータ運動 4.結果 1回目の介入前後の短期の影響は,LBPP運動群では,5例中4名で痛みが軽減し,臥位駆動型エルゴメータ群と対照群では変化は認められなかった。次に,運動が身体に与える長期効果では,LBPP群で背筋力と大腿四頭筋筋力が10.20%増加したが,臥位駆動型エルゴメータ群では10%以内の大腿四頭筋筋力の変化にとどまった。貧血因子や栄養因子等の生化学検査パラメータに変化は認められなかった。一方で,LBPP運動群と臥位駆動型エルゴメータ運動群で,介入前後に唾液アミラーゼ濃度に影響が認められたが,対照群に変化は認められなかった。 5.考察 これらの結果から,LBPP運動と臥位駆動型エルゴメータ運動は関節の痛みを軽減し,安全で有効に身体機能を改善させる影響があることが示唆された。今後は介入期間を延長し,対象者数を増加させて,さらなる検討を重ねる必要があると考える。 参照文献 [1] Johansen KL. Exercise in the end-stage renal disease population. J Am Soc Nephrol. 2007;18(6):1845-54. doi: 10.1681/ASN.2007010009. PubMed PMID: 17442789. [2] Dobsak P, Novakova M, Siegelova J, Fiser B, Vitovec J, Nagasaka M, et al. Low-frequency electrical stimulation increases muscle strength and improves blood supply in patients with chronic heart failure. Circ J. 2006;70(1):75-82. PubMed PMID: 16377928.