■中扉 分科会 報告 スライドは、当日資料に未掲載、または掲載後変更になったものについて掲載しております。 その他のスライドについては、『第13回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム当日資料』をご覧ください。 ■【分科会1】 「基礎講座 のぞいてみよう!大学の聴覚障害学生支援」 報告者:石野麻衣子(筑波技術大学/PEPNet-Japan事務局) ■企画趣旨  大学に入学したばかりの聴覚障害学生や、これから大学に進学する高校生にとって、大学における障害学生支援は未知の世界であり、たとえ支援を求めたいと思ってもアプローチの方法がわからず、困惑することも多いのが現状ではないだろうか。障害者差別解消法に基づき、情報保障をはじめとする合理的配慮の提供を受ける権利が保障されているとはいえ、実際の支援は本人の申し出を出発点として、対話と調整の過程を経てスタートするものである。だからこそ、聴覚障害学生は大学入学前から支援制度や大学における支援の実態について、十分な知識を持つ必要があるといえる。  本分科会では、大学において支援を利用するときの流れや、利用可能なサポート内容、大学入学前のオープンキャンパスや入学前後の面談、そしてこれに基づく支援体制構築や、学年・授業内容に応じた支援内容の変更に至るまで、複数の大学における実践例をご報告いただき、大学での障害学生支援を垣間見ることのできる機会とした。このように、大学の支援を概観できる機会があることは、支援を受けたい聴覚障害生徒・学生が一歩を踏み出す一助になり、支援担当教職員や特別支援学校教員の方々にとっても大いに参考になる内容となった。 ■講師 池谷航介氏(岡山大学 全学教育・学生支援機構 学生総合支援センター 講師) 森重尚子氏(酪農学園大学 学生部学生課 主任主事) 辻川 南氏(酪農学園大学卒業生) 太田琢磨氏(愛媛大学 教育学生支援部学生支援課 バリアフリー推進室 部員) ■司会 須賀朋子氏(酪農学園大学 教職センター 准教授) ■内容 1.大学において支援を進めるということ(講師:池谷航介氏)  大学における障害学生支援の考え方の「前提」とは何か。それは、イコールアクセス、つまり、どのような人でも等しく学びにアクセスできることである。  例えば、フェンス越しに野球の試合を見ようとするとき、背丈のばらばらな人たち全員に同じ高さの台を準備することは、公平・公正な配慮とは言い難い。同じリソースを同じだけ使えるようにするという平等性が配慮の場面に持ち込まれると、十分な配慮が提供できない結果、参加が難しくなってしまう人が生じてしまう。障害に基づく支援は、平等に同じものを提供するのではなく、本質に到達するためにどのような配慮が必要なのかを、個々に応じて考える必要がある。  2006年の国連における「障害者の権利に関する条約(通称:障害者権利条約)」採択以降、我が国ではこの条約への署名、批准という段階を経て、2016年4月、障害者差別解消法が施行されることとなった。この法律の柱は2つあり、1つ目は障害を理由とした不当な差別を禁止するものである。2つ目は、不均衡な部分について「合理的配慮」を提供することが義務づけられている点である。合理的配慮の提供は、国公立大学を含む行政機関は法的義務であり、私立大学を含む一般の事業者は努力義務と示されているが、大学は公私の別なく、公共性の高い施設であることも鑑み、差別禁止と合理的配慮の提供は「義務」であるということを共通理解としておきたい。大学で提供される全ての活動、コンテンツに対して配慮を行う必要がある。  一方、不当ではない例も法律また基本方針に示されている。まず、障害を理由として合理的配慮を求める場合は、より円滑に尚かつ適切に合理的配慮を進めるという必要性に基づいて、プライバシーの情報を確認することは不当ではないとされている。また、障害のある幼児・児童・生徒等のために特別な教育課程を編成することは、差別的な状況ではない、いわゆる障害の状況に応じた取扱だということが示されている。特別支援学校が差別的なものではないのと同様に、大学においても、例えば障害に配慮した特別なクラスやコースを設けることも可能性としてはありうる。このような課程を自己選択できる環境が大切ではないか。  合理的配慮は、基本的に「自分はどのような支援を求めたいか」という意思表明を出発点として、提供者と対話を進めていくことが大切になる。特に聴覚障害学生は、どのような情報が得られていないかについて捉えにくいところもあるため、これらを念頭に置きつつ対話することにより、合理的配慮の見直しを定期的に行う必要があるだろう。また、本人からの表明がなければ何もしなくてもいいのかというと、そうではない。合理的配慮が必要な状況が明白な場合は、支援に関して本人との相談機会等を働きかけていくと同時に、聴覚障害学生の意思表明の力を伸ばす、エンパワメントの取り組みも重要になる。  また、「過重な負担」という文言を扱う際には、文頭に「現時点における」という言葉をつけて考える必要があるだろう。各支援機関に財政的・人的リソースが現時点で不足している場合、そこからどのように是正していくのかという検討を進めていくことが重要である。 合理的配慮の提供にあたっては、個々のニーズに応じ合理性を確認した上で、たゆまぬ対話が必要になる。大学は聴覚障害学生の受け入れ、就学を前提として、まずどのようなことならできるかを検討し、第一歩を踏み出してほしい。そして、定期的な見直しを図ることにより、その進捗に合わせて対話を重ねつつ、相互に理解をしていくことができればよいのではないかと考える。 【写真 池谷氏】 2.【酪農学園大学】事務組織を中心に支援を展開している例 (1)酪農学園大学の支援例(講師:森重尚子氏)  本学では、2014年に障害者支援ワーキングが、2016年に障害学生支援委員会が発足し、障害学生支援を展開している。障害学生は年々増加しており、昨年度時点で89名の障害学生が在籍している。本学の場合発達障害・精神障害のある学生が多く、現在聴覚障害学生の在籍はない。  本学における障害学生支援は入学前から始まっており、入試課を中心にオープンキャンパスや入試の特別措置に関する取り組みを行っている。2015年度からは、合格者全員に健康管理カードを送付し、入学前に返信してもらうようにした。このことで、早期にニーズのある学生を把握することが可能である。ただし、入学前にニーズが把握できなかった学生については、日常的な学生支援の中でニーズをくみ取る。出席調査は、出席率が50%以下の学生に対して面談を行うもので、学生自身も気付かなかった困難を発見し支援につなげている。また、2学期連続でGPA 1 が1.0以下の学生は学類長が修学指導を行うが、それをきっかけに支援につながる学生もいる。  オープンキャンパスでの支援や入試の特別措置に関する情報は、入試課・教務課・学生相談室で共有し、合格者の中で支援が必要な学生について対応を検討する。本学には、障害学生支援室にあたる専門部署がないため、各部署の担当者の問題意識に応じて支援が行われている状況である。また、人事異動で担当者が変わると対応が変わってしまう。これらは、本学の課題であると感じている。  次に、本学の合理的配慮提供のためのシステムである、「配慮願い」の制度について説明したい。対象者は、疾病や障害のある学生のうち、本人が支援を希望し認められた学生である。未診断であっても、学生相談室で心理検査を行い、アンバランスな傾向がある、または発達障害のグレーゾーンの場合は支援を受けることが可能である。  学生は配慮願いの申請書類と根拠資料(“診断書”または“診断書に準ずる書類”)を提出し、これを受けて担当教職員が学生から困っている状況や希望する配慮を聞き取る。各科目担当教員に配布する「配慮願い」は、原案を担当職員が作成し、本人の確認・修正・承認のサインを経て最終決定する流れとなっている。配慮願いの制度を利用している学生は例年30名前後で、1学期間にのべ750科目前後について配慮願いを提出し、各教員に配慮を求めている。 本学はもともと配慮願いの制度はあったものの、教務課の学類担当者が対応の主体であり、また、入学時に決定した配慮願いはその後見直しが行われていなかった。現在は、教務課に支援担当者を置き、全学の障害学生に対して支援を提供しており、事例の蓄積も可能になった。半期に一度の支援担当者との面談により、年度途中で生じたニーズの変化にも対応できるようになっている。 【写真 森重氏】 脚注1. GPAとは、学生の成績全体を平均した数値。本文中のGPA1.0以下は、多くの単位を落としている状態と言える。 (2)支援を受けた卒業生の経験談(講師:辻川南氏)  私は酪農学園大学を3年前に卒業した。重度感音性難聴があり、等級としては2級である。中学は普通校に在籍しており、そのときはFM補聴援助システムを利用しつつ、聞き取れない部分は独学で補うことができていた。そのため、大学でも支援がなくとも勉学に特に支障はないだろうと甘く見ていたところがある。  実際に進学してみると、酪農学園大学にはすでに、座学の講義についてはノートテイクによる支援制度があり、ここで初めて経験した。すると、ノートテイクなしには講義の内容が全くわからないことに気が付いた。講義中のふとした瞬間に笑いが起ったときも、ノートテイクがあることで、少し遅れてだが笑うことができたことは何度もあった。中学の時は、本当の意味では全く授業に参加できていなかったことに気付き、大学ではノートテイクの支援を受けたことで「授業に参加している」という実感を持つことができた。  ただし、実習における支援は当初全くついていなかった。化学系の実習が多く、同じ専攻の友人に書いてもらいながら参加していたが、友人は同じ学年で初めて学ぶ内容は書き取ることができず、友人と自身の関係性がギスギスしてしまったこともあった。そこで、ゼミの教授に相談した結果、ゼミの先輩に支援を依頼することになり、そこからは安心して実習を受けられるようになった。先輩からの支援も、もともとは実習の手順書さえ見られれば細かなノートテイクは不要と考えられていたが、実際に私が経験してみると、私が手順書を見ている間に教員が実演したり、追加の説明があったりして情報を取り逃すことがあり、やはりノートテイクは常にしてもらうという形で落ち着いた。  聴覚障害は他障害と比較して克服しやすいように見られがちで、障害学生自身も、できれば障害を周囲に知られたくないと考える人が多いのではないか。私も中学までは同様で、自分の限界を超えるまで頑張ってしまっていた。大学で支援を求めるときにも、周囲には様々な反応があると思う。だが、現役の聴覚障害学生には、そのような時も、「自分は支援を受ける必要はない」「自分は支援を受けるような存在ではない」と、自己を軽視する必要はないと伝えたい。 【写真 辻川氏】 3.【愛媛大学】支援室を中心に支援を展開している例(講師:太田琢磨氏)  愛媛大学には38名の障害学生が在籍しており、うち聴覚障害学生は8名となっている。そのうち6名が、全ての授業にノートテイク等の文字通訳をつけて学んでいる。障害学生支援はバリアフリー推進室、総合健康センター、学生支援センターの3つの組織が連携して行っており、月に1度情報交換の場を設けている。推進室の主な業務は、講義で支援を必要とする学生を中心に担当している   障害学生の入学が決まった場合、まず障害学生との初回面談の場を設ける。この場では、いきなり支援メニューの話はしない。家族、出身地、苦手なこと、今までの支援経験等を聞いていく。話の中で過去の環境を把握できるよう努めることも大切。例えば、過去の経験から健聴者とのコミュニケーションに恐怖や不安を抱えていることもある。家族関係が良好であれば、一般的なコミュニケーションも得意であることが多いが、そうではないケースもある。支援を断られトラウマがあるケースもある。面談では学生の非言語表現も気にかけつつ対話を積み重ね、少しずつ安心して話せる状況を作っていく。4年間の大学生活を考えると、腹を割って話し合える関係性が必要で、信頼関係の構築は非常に重要だ。  職員が最もやってはいけないことは、頭から本人の希望を否定すること。傾聴し、まずは一度受け入れることを大切にしたい。そして、学生自身の意見をきちんとくみ取ることが重要である。保護者が様々なことに回答してしまうこともあるが、本人が必要としている支援と、保護者が必要だと思う支援は、必ずしも一致しない。そのような場合は、後日本人と1対1で話す機会を設けている。本人の希望を把握した上で支援を検討する必要がある。支援内容を決めることも大事だが、まずは信頼関係を構築してほしい。  聴覚障害学生は、初回面談で遠慮せず、ちょっとわがままだと思われるくらいの要望を出してよいと思う。その上でどこまでなら提供できるかを教職員と一緒に考えていけば良い。また、初回面談で何を説明したらよいのかわからなくなってしまう学生もいる。言葉が適切かわからないが「自分の取扱説明書」を作っておくとよい。障害の状況、過去の支援、聞こえやすい座席位置などをまとめておくと、教職員にとっても参考になると思う。  実際の支援はどのような内容かというと、愛媛大学の場合はパソコンノートテイクや手書きノートテイクを提供することが多く、学生の希望にあわせて手話通訳や代筆支援(黒板の板書の代筆)を提供することも。実験的に音声認識を利用した支援にも取り組んでいる。支援は使い始めてみて初めて「実は合わなかった」とわかることもある。そのようなときは、対話を重ねながらどんどん変えていく。予算面は教職員が調整するので、まずは学生のみなさんには、自分の力を最大限発揮するための支援を遠慮なく伝えてほしい。  また、本学では学年に応じ支援内容を変えている。授業支援のみならず、例えば1回生のはじめにはパソコンノートテイクに必要な準備を一緒にやってみて、そのときのやりとりを通して、自身にとって落ち着いてコミュニケーションできる手段を探していく。2回生はプレゼンテーションの練習、3回生は社会に出るにあたり必要な福祉制度の学習、プロジェクトリーダーの経験の蓄積、4回生は就職支援課と連携した就職支援を行っている。  ここまでで話したように、愛媛大学では意思表明や建設的対話を通して、少しずつ障害学生の支援を構築している。ぜひ障害学生支援を担当する教職員の皆様には「本人に直接聞く」ということを大切にしていただきたい。そして聴覚障害学生は「本当に相談して良いのか」と思うことも含めて悩みをぶつけてほしい。建設的対話を重ねながら、支援を構築していってほしいと思う。 【写真 太田氏】 4.質疑応答(質問紙より抜粋) Q.合理的配慮の提供義務について、意思表明がない場合はしなくてもよいのか。 池谷/障害者差別解消法基本方針の中に、意思表明がない場合でも、障壁が明白な場合は対話を働きかけるなどの取り組みが望ましいと示されている。聴覚障害学生の支援にあたっては、現状の情報保障の状態で全ての情報が伝わっているという誤解を抱きやすい。また、聞こえを活用しながら口形を読む等の方法で、「私には支援の必要はありません」という学生も少なからずいる。しかし、よく状況を確認すると、一部の情報が聞き取れていなかったという実態が見えてくることもある。聴覚障害学生の場合、自分自身で情報が十分に得られているかどうかの判断をすることが難しいことも多い。本人からの意思表明は非常に重要ではあるものの、この表明を促すための支援もまた、重要であると言えるだろう。詳細はこちらをお読みいただきたい。 『聴覚障害学生のための意思表明支援のために ―合理的配慮につなげる支援のあり方―』 発行:国立大学法人 筑波技術大学 編集:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク (PEPNet-Japan)「聴覚障害学生の意思表明 支援のために」編集グループ URLはこちら https://goo.gl/FzvsBN Q.支援制度が整っている大学は全国にどのくらいあるのか。 池谷/ここ数年来、多くの国公立大学で障害学生支援担当部局を設置し、教職員の雇用が進んできたように思うが、現状としては、全ての大学にこのような部局が位置づけられ、制度が整っているとは言えない。ただし、差別的取り扱いが生じないよう合理的配慮を提供するのはもはや義務である。どのような大学に進学した場合においても、まず相談の申し出を行ってもらえたらと思う。 Q.英語の講義について、どのように支援が実施されているか。 池谷/リスニングの授業をどのように文字化するかについては、非常に難しい問題があり、多くの大学で望ましい形を模索している状態かと思う。即時的に英語を文字化するには、支援者の技能も必要となる。このため、事前に資料を提出してもらう、パソコンノートテイクだけでなく必要に応じて横で書き取る人材を配置する等、様々な支援を検討し、本人に応じた方法について、対話を重ねつつ見極める必要がある。100%これが正しいという方法はなく、本人とともに検討していくことが望ましいと考える。 Q.教職員が障害に対する理解がない。どのように理解してもらえばよいか。 森重/はじめの頃は理解がなくとも、学生本人、授業の担当教員、支援担当教職員、医務室など、関係者を巻き込んで話し合いを重ね、様々な方法を検討していくことで道は開けると思う。場合によっては、高校までに学生への支援を経験してきた関係者や学外の専門家に来てもらい、理解啓発のためのFD・SD(教員・職員向け研修)の機会を設けることも有効だ。 Q.障害学生の情報を開示するときの注意点について。 森重/事務部署や担当教員が共有しなければいけない学生の情報があり、どこまで開示してよいかは、申請を受けたときに確認し許可を取っていた。 Q.辻川さんに対して。支援を受けた経験の中で困ったことは。 辻川/資料が全てスライド形式で、配布もされなかったため、ノートテイカーがついていくことが困難な状況があった。教員に印刷したものを事前にいただきたいと申し出たが、他の学生と不公平になるという理由で断られた。結局可能な範囲でノートテイクしてもらい、授業後不明点を確認しに行ったが、これは大変だったこととして印象に残っている。 Q.非言語表現とは何か。また、支援は受けたいが積極的な対話を望まない学生への対応はどのようにしているか。 太田/個人の癖とは異なり、心理的な状況によって出る動作。わかりやすい例で言うと、思いがけず失敗したときに手を挙げたり、後ろめたいことを話すときに口元を隠したりすることがあると思う。面談場面でこれらの非言語表現に気付いたら、支援に活かすようにしている。また、支援は必要だが積極的な対話は望まない学生はよくいて、その場合はなぜ本人がコミュニケーションを取ろうとしないのか、背景を考えた上で対話をスタートしている。 ■まとめに代えて  障害者差別解消法の施行により、障害学生支援は大学の「義務」として行うべき時代になっている。大学としては、障害学生に差別的取り扱いが発生しないよう、合理的配慮を提供する必要があるが、その内容を決定する過程では、聴覚障害学生と大学とが信頼関係を築き、十分に建設的対話を重ねることが重要であると言える。本分科会をきっかけに、障害学生、大学双方が支援の新たな一歩を踏み出し、聴覚障害学生が本来持つ力を最大限発揮できる環境の整備が進むことを期待したい。 【写真 質疑応答の様子 左から須賀氏、池谷氏、森重氏】 【写真 会場の様子】 分科会1 <スライド1> 第13回日本聴覚障害学生高等支援教育支援シンポジウム 基礎講座「のぞいてみよう!大学の聴覚障害学生支援」 大学において支援を進めるということ 2017.10.29 岡山大学・学生総合支援センター 池谷航介 <スライド2> 理解のためのキーワード  学びへのイコールアクセス確保を全ての前提とする。  公平 (記号)ノットイコール 平等 <スライド3> 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律  2013年に成立(2016年4月施行)  全ての行政機関・事業者において、不当な差別的取り扱いを禁止し、合理的配慮の提供を義務づける法律(提供の義務については国公立は行政義務、私立は努力義務) <スライド4> 不当な差別的取り扱い例  障害があることを理由に受験、入学、授業受講、指導、実習、研修、フィールドワークなどへの参加を拒否すること。  手話通訳、手書きノートテイク、パソコンノートテイクなどの情報保障手段を用意できないからという理由で、障がいのある学生等の授業受講や研修、講習、実習等への参加を拒否すること。 <スライド5> 不当ではない例  合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障がい者である利用者に障がいの状況等を確認すること。  障がいのある幼児児童生徒等のため、特別支援学校・学級等において特別の教育課程を編成すること。 <スライド6> 合理的配慮の提供義務 「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、(中略)合理的配慮の提供をしなければならない」 <スライド7> 現時点における過重な負担  個別の事案ごとに、具体的場面や状況に応じて総合的、客観的に判断する。  障害者にその理由を説明し(説明責任)、理解を得るよう努めることが望ましい。 事務、事業への影響の程度(事務、事業の目的、内容、機能を損なうか否か) 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) 費用、負担の程度 事務、事業規模 財政、財務状況 <スライド8> 合理的配慮の提供にあたって 個々のニーズに応じ、合理性を確認した上で、すぐにできること、すぐにはできないが整備していくことを説明し、たゆまぬ対話によって、合意形成を図っていく。 <スライド9> 終わりに 他大学での前例などに該当するかではなく、本人との対話や活動への参与によってここのニーズを把握した上で、定期的な見直しを行いつつ、個に応じた配慮を提供する。 分科会1終り ■【分科会2】 「10年後の聴覚障害学生支援のあり方について考える ―北海道から語る地域連携とリソース共有―」 ■報告者:藤野友紀(札幌学院大学 人文学部人間科学学科 准教授) ■企画趣旨 障害者差別解消法が施行され、障害学生支援がすべての大学で何らかの義務となった今、これからの聴覚障害学生支援はどのような形で発展させていくべきなのだろうか。大学により現存するリソースが異なり、かつ障害学生数にも偏りがある中で、どこの大学に行っても一定レベルの支援を提供していける体制を構築していくためには、障害学生支援の責任を一大学に帰属させるのみではなく、地域で学生を受け入れ支援していく視点が必要なのではないだろうか。このような問題意識を持っている大学は少しずつ増えてきているものの、具体的な実践にはなかなか踏み出せないでいるのが現状だと思われる。 本分科会ではこうした現状を打開するため、北海道地区を一つの例として、地域連携に立ちはだかる課題を取り上げ、その解決方法について模索した。さらに他地域の実践も参考にしつつ、地域の大学が連携して支援を提供する障害学生支援のあり方を提示することを目的とし、議論を深めた。 ■講師 新國三千代氏(札幌学院大学 人文学部こども発達学科 教授) 佐々木 薫 氏(北星学園大学 教育支援課 第二課長) 土橋恵美子氏(同志社大学 障がい学生支援室 チーフコーディネーター) 三輪 紅 氏(要約筆記通訳者サークル「ふきのとう」) ■司会・企画コーディネーター 藤野友紀(札幌学院大学 人文学部人間科学学科 准教授) ■内容と論点  まず司会の藤野友紀(札幌学院大学)より北海道地区の大学数40校の分布が示され、石狩管内に25大学が集中している現状と、そのうち7大学に聴覚障害学生が在籍し、いずれもパソコンノートテイクでの支援が実施されていることが共有された。各大学の支援体制の限界として、①テイカーの需要と供給のアンバランス、②学生テイカーでは対応できないケースの存在、③大学間連携に向けた対応の必要性、の3点が示された。  そして北海道地区で思い描く連携の形が図1のように描かれ、大学を越えた連合体と、各大学在学生の他にも元支援学生のOB・OG、留学生、地域の要約筆記者なども加えた支援者集団をつくりたいと考えていることが述べられた。この実現に向けた重要ポイントとして、1)テイカーの共同養成と質の共同保証、2)テイカーの人材プールと派遣、3)情報保障活動の魅力を共同発信、4)新しく支援を始める大学の相談窓口、5)一般校で学ぶ聴覚障害生徒の情報保障の充実、の5点が示された。  本分科会では議論すべき課題を上記の1)と2)に絞り、連合体を形成するまでの具体的なステップと実現性について、各講師からの話題提供をもとに検討を行った。  最初に、新國三千代氏(札幌学院大学)より、1)テイカーの共同養成と質の共同保証 についてこれまでの事例をもとに話が進められた(資料は47ページ参照)。まず、支援者養成プログラムの大学間共有のメリットの多さが強調され、支援実績のある大学ではそれぞれに養成プログラムを有していること、PEPNet-Japanが提供する教材の活用が可能であること、これまでにも他大学に対して養成講座開催を実施していることなどから、養成プログラムを共有する土壌はすでに出来上がっているだろうとの見解が示された。養成プログラムの共通化・相互利用に向けて必要なステップが、①大学間プロジェクトの立ち上げ、②講義・養成講座等の開講状況把握、③養成プログラム・内容の把握、④養成テキストの共通化、⑤養成講座の講師育成、⑥養成講座の共同開催と相互利用、⑦支援の質保証・共通の養成テキストによる共同養成→資格/認定基準の設定、⑧余力のある大学から足りない大学へのテイカー派遣、の8段階に整理され、養成テキストの共通化を進める際には支援学生や利用学生の協力を得ることも重要であるとの指摘がなされた。続いて、これらのステップを円滑に進めるには大学間連携組織の立ち上げが望まれるとの見解にもとづき、その実現につながる実績として北海道内における過去の教職員連携事例が紹介された。また、多くの大学で課題となっている語学科目への対応として、クラス決定時の配慮事例の紹介や、留学生の協力を得るなどの方策が提案された。さらに、様々な支援技術の進歩により10年後の支援環境が劇的に変わるであろうとの期待とともに、遠隔情報保障による支援の活用や、地域の要約筆記と大学で求められる情報保障の質とスキルの違いを踏まえた上で連携の可能性を探るなど、今後の支援体制の展望が示された。  次に、佐々木薫氏(北星学園大学)より、テイカーの学外派遣に係る諸課題と「連合体」実現への過程について話題提供がなされた(資料は50ページ参照)。まず、ⓐ自大学の中でテイカーを必要数確保できる大学(学外に頼る必要がない)と、ⓑ自大学の中でテイカーの確保が難しい大学(学外の協力を求める必要あり)の意識・立場の違いを理解することが肝要であり、特にⓐの大学において、他大学の学生に対するサポートや、自大学の学生を学外へ派遣することに対する学内理解が課題になるだろうとの見解が示された。大学間連携を検討するにあたっては、各大学の障害学生支援の歴史を尊重すること、担当者レベルではなく大学間で承認を得ることが必要であり、連携によって現場の負担をいかに軽減できるか、相互にとってWin-Winの関係が築けるかどうかが地域連携のモチベーションとなり、ひいては連携体制を持続する鍵になるだろうと強調された。  連携に向けての具体的課題として、謝金単価の統一の必要性、謝金と交通費の支払い手続きの現実的選択肢が提示された。また、他大学へ支援に赴いた際の事故補償については、各大学の現行の加入済み保険(学生の加入が義務付けられている保険)やボランティア保険はいずれも有償のノートテイカー派遣の派遣には適用されないこと、社会福祉協議会の「福祉サービス総合保障」が有償のノートテイカー派遣に該当すると思われること、ただしこの保険は団体での加入が必要とされることが情報として提供された。これらを踏まえ、北海道内で既存の大学間連携にとらわれない新たな枠組みとしての「連合体」形成を実現するためには、事務負担の整理、リソース活用に向けたフェーズ転換が必要となることが確認された。「連合体」の段階として、①地域協議会、②各大学が承認するNPO法人の設置、③地域コンソーシアムの設置、の流れが想定され、具体的なレベルでは運営・活動費用の確保、各大学における体制の充実が求められると指摘された。また、組織の形成のみならず、利用学生と支援学生間の情報共有のための新たなシステムとしてSNS等の活用方法についても意見が述べられた。そしてこれらの体制構築は、関係者が学生支援への思いを持ち続け、その思いが繋がった時に実現できるものであろうとの見解が示された。  続いて三輪紅氏(要約筆記通訳者サークル「ふきのとう」)より、地域の要約筆記活動と大学の情報保障の違いについて話題提供がなされた(資料は54ページ参照)。まず、これまでの大学への派遣事例として、入学式等の式典・学会・講演会・スクーリング・ノートテイカー養成講座の講師担当等が挙げられた。意思疎通支援の福祉サービスである要約筆記は、その場で要約したものを文字にして伝えるものであり、主に中途失聴・難聴者の権利擁護のために行われている。要約筆記では結論を正しく早く伝えることが求められ、「速く」「正しく」「読みやすく」の三原則に基づいて、内容を的確に解釈して理解し、利用者が正しく受け止められるように表出することが重視される。一方、学びの場である大学の講義における情報保障は、解釈を行うのも聴覚障害学生自身であるとされ、解釈や翻訳を加えないそのままの情報をできるだけ速く情報伝達することが求められる。原文の約3分の1の分量まで内容を要約して伝える要約筆記と、大学の講義における情報保障では、ニーズが異なっている点に留意しなければならない。しかし、大学においても、要点をまとめる学習プロセスが関与しない、例えばグループ討議やフィールドワークなどの事実の伝達が重視される場面の情報保障には要約筆記者が積極的に携われるだろうし、テイカーが要約技術を学びたい場合の研修協力も可能であるとの見解が示された。具体的な連携に向けては、情報保障技術の平準化、コーディネーターの配置、機材や消耗品の環境整備、トラブル対応等の責任所在の明確化が課題として挙げられた。これらを踏まえて、要約筆記と大学における情報保障の違いを認識した上で、同じ聴覚障害者支援という目的を達成するために、今後「連合体」と連携していけるのではないかとの意見が述べられた。  最後に、土橋恵美子氏(同志社大学)より、関西地区の大学連合体である大学コンソーシアム京都の活動経緯について事例報告がなされた(当日資料参照)。関西地区では2001年頃より大学コンソーシアム京都を中心に障害学生支援の様々な取り組みを行っている。特に京都は大学の町でもあり、コンソーシアム加盟校は49大学となっている。現在の連携の基盤は、2005年に発足した日本学生支援機構の障害学生修学支援コーディネーター養成プログラム研究会であり、その後2008年に関西障害学生支援担当者懇談会(KSSK)の開催へと繋がっている。2004年度からはノートテイカー養成講座を大学コンソーシアム京都が開催しており、現在に至るまで約1,300名もの講座受講者を輩出している。このように養成講座の共同開催はすでに関西地区において実績があることから、北海道地区でも実現の可能性は高いだろうとの見通しが語られた。テイカーの学外派遣については、大学間で授業時間にズレがあるために派遣される学生は2コマ連続で空いている必要があること、語学科目における留学生の活用は有効な手段である一方、あ・うんの呼吸が必要な連携入力スキルの習得が比較的難しいこと、在学生のテイカーが手薄な学期始めにOB・OGや地域の方々の協力を得るメリットなどが紹介された。また、大学コンソーシアム京都の取り組みとして、障害学生支援コーディネーターの暗黙知を体系化する試みを行い、支援担当教職員を対象に自由にダウンロードして活用できるよう各種資料フォーマットを公開しているとの情報が提供された。地域ごとに特色は異なるので、北海道地区の歴史と資源を活かした「連合体」づくり、良い支援づくりを目指していただきたいとの期待で話が結ばれた。  各講師の話題提供を受け、フロアとのディスカッションを行った。まず、本シンポジウムの実行委員である北海学園大学の鈴木氏より、今年度途中に急遽必要となった支援ニーズに対応に対応するため、札幌学院大学の協力を得て支援スキルを習得した事例が紹介された。これに対して司会より、現在の担当者レベルでのネットワークから、今後は大学単位の連携に拡大していく必要があるのだろうとの見解が示された。次に北海道内の聴覚障害学生より、大学が集中している札幌圏とそれ以外の地域との連携についてどのような方法が考えられるかとの質問がなされた。これに対して新國氏より、10年後には遠隔情報保障技術が特別な技術を必要としなくても活用できる一般的なものとなり、実際に大学に赴かなくとも支援提供が可能になるだろうと見通しが語られた上で、現段階で努力すべきこととして、大学の教職員が聴覚障害学生支援について十分に理解すること、パソコンの設定等技術面で習熟している人を各大学に増やしていくことが挙げられた。続いて障害学生支援コーディネート担当職員より、他大学に派遣されるテイカー学生が活動に面白みを感じて継続していけるためのヒントを知りたいとの質問がなされた。これに対して土橋氏より、PEPNet-Japanの取り組みとして昨年度実施した熊本地震被災大学への遠隔情報保障支援の事例を踏まえて、学生にとって自分の通訳が遠方で困っている人に届けられるのは嬉しい経験であったこと、自大学とは異なる他大学の支援方法や支援ルールに触れて自分たちの技術を磨くきっかけを得たことなどが紹介された。あわせて、被災地域で支援を利用した大学の担当者からは、支援を利用した学生が遠方の大学からの支援に感謝していた様子が伝えられた。時間の関係でディスカッションはここまでとなったが、最後に司会より北海道地区を代表して、ここで検討した課題を次のステップへと具体的に繋げていきたいとの意思が表明された。 【図1 北海道地区で思い描く連携の形】 地域連携:思い描く「夢の形」 現在 A大学、B大学、C大学それぞれに支援学生がいて連携がない状態 将来 3つの大学は連合体となって遠隔情報報償技術によってOB,OG や在学生、留学生、地域の要約筆記者が連携して地域ニーズ(聴覚障害のある生徒・社会人)に答えていく形 【写真 新國氏】 【写真 佐々木氏】 【写真 三輪氏】 【写真 土橋氏】 【写真 報告者 藤野】 ■到達点と課題  本分科会では北海道地区の10年後の聴覚障害学生支援のあり方について考えた。限られた時間ではあったが、現行の大学単位の支援体制が抱える限界を踏まえて、大学を越えた「連合体」と支援者集団づくりの有用性を共通理解し、その将来像に向けた具体的な課題を抽出して解決へのステップを整理することができた。北海道地区の大学関係者だけでなく、地域で活動する要約筆記者、そして地域連携をすでに実践している他地域からも話題提供を受け、北海道地区の将来の地域連携について多角的に検討できたのはたいへん有意義であった。本分科会では北海道という一つの地区に焦点を当てて議論が進められたが、当日の質疑や終了後のアンケートを見る限り、フロア参加者の多くは自分の地区の現状や課題と照らし合わせ、10年後の各地域の将来像に思いを馳せながら「地域連携」「リソース共有」について検討する契機として下さったようである。最後に、今回のシンポジウム終了後の北海道地区の動向について報告したい。シンポジウム実行委員会に参加した札幌圏の大学の聴覚障害学生支援に関わる教職員によって、「連合体」形成の第1段階である地域協議会につながる情報交換会を定期開催することが決まった。この地域連携の契機を逃さずに継続・発展させ、北海道地区の歴史と資源を活かした「連合体」を実現できたときが、本分科会の最終的なゴールだと考えている。 【写真 会場の様子】 分科会2 新國 <スライド1> 課せられたお題 1 養成プログラムを大学間で共有することのメリット及びデメリットの整理 2 養成プログラムを共有化し相互理解するための具体的ステップの提示 3 語学授業など高い専門性が必要とされるテイカーの募集及び養成方法の提案 4 求められる情報保障の質に応じた派遣マッチングの課題の整理 <スライド2> お題1 養成プログラムを大学間で共有することのメリット及びデメリットの整理  これまでの歴史を振り返って考えてみると、大学間で共有するメリットは多い。始めて導入する大学は速やかに支援開始可能。各大学で蓄積したノウハウ、リソースの活用が可能。支援の質の保障も可能になる。また、余力ある大学の支援者活用につながる。共有した課題を共同で解決できる。大学間で共有するデメリットは思いつかない。 <スライド3> これまでの歴史を振り返って考えてみると  他大学の経験や地域の支援団体から学び、それらを参考にする形で始まる。例えば札幌学院大学(1999年から)手書きノートテイクは筑波大学、北海道教育函館、「ふきのとう」から学んだ。パソコンノートテイクは2001年からIPtalk、試行錯誤でスキルを習得し、テキストを作成して養成した。単独入力から連携入力へ。PEPNet-Japan のリソース活用(2004年10月設立)  学生プラス教員協働で支援者養成から先輩学生がテキスト作成、更新を行い、後輩の養成、先輩が後輩の指導者も養成した。 札幌学院大学と他大学との交流 始めて導入する大学との交流例 1 名寄市立大学(ノートテイク体験講座、学生6名派遣、2006年5月) 2 浅井学園大学(本学学生ノートテイカー9名派遣、2006年後期~?迄) 3 北海道情報大学(本学PCテイク講習会参加(教員+学生10名)、2008年5月) 4 北海道大学(ノート&PCテイク実演・紹介、学生6名派遣、2011年11月) 5 國學院大学北海道短期大学部(ノートテイク養成講座、学生2名派遣、2013年5月) 6 北海学園大学(PCテイク養成講座、学生4名派遣、2017年9月) ・教職員対象テイクセミナー:北海学園大学、教員2名、2015年7月 ・遠隔情報保障:T-TAC Caption、PEPNet-Japan の支援のもと(2014年~)北星学園大学、筑波技術大学との間で実施、北海道大学との実験 <スライド4> 支援者養成の現状と課題  現状は共同化する土壌は出来ている。大学の教職員や学生が自前で養成プログラムを作成して養成、他大学の協力やPEPNet-Japan支援で支援者養成を通して、各大学でノウハウ・リソースの蓄積やPEPNet-Japanが提供するリソースの活用が広がる 共通する課題は、支援者不足(絶対数が足りない、支援学生の卒業、空き講利用難)、支援者養成の継続性(担当教職員の異動、新入生養成)、支援中断(利用学生卒業)、支援者過多(大規模大学)、支援の質保障 解決の方策として考えられることは大学間でリソース共有、支援者共同養成、支援者活用、ICTの活用である。これは大学間の交流の歴史を考えると、実現可能 <スライド5> 養成プログラムの大学間共有のメリット 方法がほぼ確立し、養成のノウハウ、リソースの共有可能。ここの大学の負担軽減(一旦できあがると更新、編集して利用可) 始めて導入する大学は、導入用の養成プログラムで支援者を養成し、速やかに支援開始できる。 支援の質保障が可能になる。余力のある大学の支援学生の活用にも繋がる。 大学内で大変さを抱える必要はない。継続性も保障される。結果として支援の広がり、受験生が行きたい大学に進学できる。(不本意入学が減少する) 実は、「養成プログラムの大学間共有」は難しくはない。 <スライド6> お題2 養成プログラムを共有化し相互理解するための具体的ステップ 1 教職員で構成、実現可能な形で大学間プロジェクトの立ち上げ 2 講義、養成講座などの開講状況把握  北海道大学の例ではカリキュラム科目(単位あり)・・・参考資料1  大半の大学は講座、講習会(単位無し) 3 養成プログラム・内容の把握  共通部分(基礎編)は理論プラス支援技術(スキル)・・・参考資料2  大学毎の個別対応(個別編)はルール、準備、手続きなど  外国語など専門的なスキルが必要(専門編)  始めて支援者を養成する大学向け(導入編)  新しい技術紹介(紹介編)などなど 4 養成テキストの共通化  基礎編の理論は各大学のテキストプラスPEPNet-Japanのリソースを参考にし、支援技術は支援、利用学生の協力も得る(学生情報交換・交流)。  導入編は経験のある大学のテキストプラスPEPNet-Japanのリソースを参考にする。  専門編は先行する大学に提供していただく。   紹介編は遠隔情報保障など実施経験のある大学でサンプル作成。 <スライド7> 実現への一歩 5 養成講座の講師養成 対象は教職員、学生、地域住民(学生は支援技術で経験を積んだ支援学生や利用学生の現場体験が役に立つ) 6 テイカー養成講座の共同開催と相互利用 休業期間や短期集中、だれでも参加が可能で講師の派遣可の「集中講座の共同開催」 または、講師は自前か、派遣でだれでも参加可で「各大学での開催」。ここで遠隔情報保障技術の活用をする。(遠隔から講習会に参加、スキルの練習も可能になる。) 初めて導入する大学に講師派遣、他大学で開催する講座に参加する「導入講座」 7 支援の質保証。共通の要請テキストによる共同養成により資格、認定基準の設定をする。 将来的には要約筆記者の全国統一試験の受験資格取得を検討する。 8 余力のある大学から足りない大学にテイカー派遣 テイカーの過不足情報の共有、不足している大学から余力のある大学に要請する形 OB、OG、地域住民の協力や遠隔情報保障の活用から、大学間連携に必要な組織体制を見出す。 これは大学間で共有すべき情報、人材確保、学生の技術交流のサポート、 派遣支援者や講師の謝金、交通費(派遣先の大学の謝金単価で対応、交通費込みで工面)、 集中講座、講習会の会場と使用機器は可能な大学が持ち回りで提供するなどして 大学間連携の組織(協議会、連合体など)の実現につながる。) <スライド8> 地域連携を目指す土壌はある。道内の大学、短大の教職員のネットワーク 障害学生支援に関わる道内の教職員のネットワークがある。 2007年8月「北海道障害学生修学支援懇話会」設立(JASSO石田久之氏の支援) 「障害学生にほかの学生と同じ学習環境を!限られた学内資源を効果的に利用し、質の高い支援環境を整えるために、みんなで経験や知識を持ち寄りませんか。困ったときには声を掛けあい、毎日進行する”現場”を少しでも改善していけるように知恵を出し合えるような場を作っていきませんか。」(呼び掛け文) 14大学1短大1高専(教職員、教務・学生課/学生相談室/保健室/サポートセンター他)が参加。 2007年から2008年度は6回の懇話会を大学持ち回りで開催 石田久之氏による4回の連続講座 第1回「支援体制とその構築」、第2回「学内啓発」、第3回「学びと成長」、第4回「自立支援としての修学支援」 第5回 各大学における障害学生の現状についての情報交換会、受験生への周知など 第6回 「障害学生修学支援担当者のための事例解説」の学習会 JASSO北海道支部主催、共催で障害学生支援フォーラム、セミナーを2回開催 講演(石田久之氏、白澤麻弓氏)、ノートテイカー養成講座(ふきのとう) 講演(大椿裕子氏)、パソコンテイクの方法を実践ととおして学ぶ(ふきのとう) 2014年11月「北海道障害学生支援ネットワークML」開設 70名弱、支援に関わる教職員、障がい者就業・生活支援センター相談員、障がい者  団体関係者などが参加。 <スライド9> お題3語学授業など高い専門性が必要とされるテイカーの募集及び養成方法の提案 日本語以外の言語を使用する授業では何が問題か。それは当該言語に堪能な支援者及び指導者不足である。 大半は得意な学生でなんとかしのいでいる。 A大学の例では語学教育ではその都度対応を考えて、授業に参加できるようにしている。 学生本人が履修するクラス(英語、初修外国語)を決定する。 これは学期の授業開始前に本人と語学担当者(英語及び初修外国語の責任教員を含む授業担当教員)と支援室(相談員、コーディネーター)が集まって授業への参加や学習方法について相談する。 例えばリスニング中心であればリーディング、スピーキング中心であればライティングなど 事前に対応を検討する 例えば口頭発表は本人が対応可能な方法や、 音声聞き取りは音声と同じスピードで英語の文字を読み取ったり、 動画は教員自作で著作権上の問題がないものについては教員側が字幕を入れたりなど 留学生をテイカーとして配置、日本語も入る授業には日本語を母語とする学生も配置する。 (日英バイリンガルの学生がいたときはうまく対応できた。) 問題は語学教育以外の授業で日本人や外国人が英語で教える授業の情報保障であり、 英語母語話者でない留学生や教員の英語に対応しなければならない。 テイカーの募集と養成 対象は留学生、外国語が堪能な学生(帰国子女)。 養成の講師は英語を専門とする教員、スライド資料を英語で作成し、英語で講義。 問題点は変換がないために速く打てるが、日本語連携入力のコツやスキルは使えない。 どこで区切るべきなのか(sentence,paragraph)、入力欄のどの位置か、構文はどこで区切るべきか などの課題を受講生と一緒に考えながら模索していく。 <スライド10> 養成の大学間連携の可能性 A大学の語学教員への聞き取りから、 現在の対応は応急措置である。カリキュラム編成時に障害のある受講生のことを考えたカリキュラムを最初から作れば起きない問題。 大学間連携はとても重要で留学生の活躍の場も広がる。留学生の協力を得ることは他大学の留学生にとってもよい。 将来は小中高校でも留学生が活躍できるかもしれない。 遠隔情報の活用(移動時間のロスの解消) 今後の高い専門性が必要とされる授業の大学間連携 先行する大学の協力を得る(人材、テキスト)先行する大学のテイカー養成講座にだれでも参加可能。 テイカーの派遣(遠隔情報保障含む) <スライド11> お題4求められる情報保障の質に応じた派遣マッチングの課題の整理 大学における情報保障の質保証で求められるスキル 1 要約ではなく全文(できるだけ忠実に話された言葉を文字にする) 中でも、不要な言葉は省略可、言葉の言いかえはダメ(的確な言いかえになっているか) 結論に至る過程の省略もダメ(結論を導く過程も重要)、内容を把握して要約するのは利用学生がやることであり、支援者がやることではない。 2 利用学生の耳となり、音声を文字に変換することに徹する。内容の理解は求められない。 3 全文文字化は練習を積めばだれでもできる。 ある程度の日本語理解力は必要、専門用語を知っていることも必要。(漢字変換で力を発揮) 大学の主流はPCノートテイク (記号)ノットイコール 要約筆記サークルのスキル 求められる情報保障の質とスキルの違いを踏まえた、地域連携 <スライド12> まとめ お題1養成プログラムは大学間で共有可能 お題2養成プログラムの共通化、相互利用ステップは提示していく お題3語学授業など高い専門性が必要とされる支援者養成は可能性の提示 お題4求められる情報保障の質に応じた派遣マッチングの課題の整理は違いを踏まえた地域連携の広がりに期待 見通し 教職員の協働プロジェクトから大学間連携の組織づくりを通して地域との連携。 支援学生と利用学生の大学を超えた技術交流、アピールの場も必要。 10年後、技術の進歩が支援環境を劇的に買えるかもしれない。 <スライド13> 参考資料1 北海道大学カリキュラム科目 「キャンパスアクセシビリティ入門」(1年生、全学共通、人数制限)、2単位 (公開されているシラバスから一部抜粋) 授業の目標 本授業では、障害のある学生が充実した大学生活を過ごすために必要なアクセシビリティについて理解を深めるとともに、障害のある学生のキャンパスライフをサポートするための基礎的な支援内容や支援技術を体験的に習得していくことを目指しています。 ・授業計画 1 ガイダンス 高等教育における障害学生の現状 2 障害のある学生の理解1(視覚障害・発達障害) 3 「見ること」に関する情報保障1 4 「見ること」に関する情報保障2 5 「見ること」に関する情報保障3 6 障害のある学生の理解2(聴覚障害・精神障害) 7 「聴くこと」に関する情報保障1 8 「聴くこと」に関する情報保障2 9 「聴くこと」に関する情報保障3 10 障害のある学生の理解3(肢体不自由・病弱) 11 学内におけるアクセシビリティ調査 12 「移動」に関する支援1 13 「移動」に関する支援2 14 グループワーク 15 高等教育における修学支援の展望  <スライド14> 参考資料2 養成プログラムの内容例 養成講座、講習会(単位なし)(A、B、C大学はPCノートテイクが大半) 以下図 それぞれの大学の養成プログラムの内容を表にしてまとめてある。 情報保障の理論やノートテイクとパソコンテイクの理論、練習などの回数、 講師の身分、補助する人の身分をが書かれている。 <スライド15> 養成プログラムスケジュール例(新國編集) 例1 ノートテイクアンドパソコンテイク養成 第1回 大学の支援体制、聴覚障害の理解、合理的配慮、情報保障、ノートテイク(PC含)とは  第2回 手書きノートテイクの基本、姿勢、文字の大きさ、表記方法、話す速さへの対処法、ルール 第3回 PCノートテイク、全文入力、PEPNet-Japan教材紹介、タイピングから単独入力そして連係入力、各スキルのポイント、キー入力に不向き情報対処(手書きと併用) (練習は個別、PC練習:職員対応) 例2 パソコンテイク養成 第1回 聴覚障害の理解と情報保障 第2回 入力時のコツ、変換、修正 第3回 IPtalkの機能/テイク時のルール 第4回 連係入力に初挑戦 第5回 連携入力のポイント、タイピング 第6回  iPad/スクリーンに映す方法 第7回 模擬講義でテイク 練習は個別+先輩付き、実際の授業2回それから、他社評価による見極め 例3 ノートテイク養成 第1回 聴覚障害の理解と情報保障 第2回 要約力を鍛える 第3回 ノートテイクの表記ルール 第4回 テイク時のルール 第5回 補記 第6回 英語のテイク   第7回 模擬講義でテイク 練習は個別+先輩付き、実際の授業2回それから、他社評価による見極め 例4 ノートテイクアンドパソコンテイク 第1回 聴覚障害の理解と情報保障 第2回 ノートテイクの基本 第3回 授業の特徴を知るⅠ、練習 第4回 授業の特徴を知るⅡ、練習 第5回 連係入力、自己評価 第6回 7回 ペア練習(自己、他者評価)   第8回 まとめ、長時間連携入力練習 分科会2 佐々木担当 <スライド1> 1 初めに整理しておきたいこと 学外のテイカーの必要性 (ア)自他大学の中でテイカーを必要数確保することができる。つまり当然学外に頼らなくても大丈夫。 (イ)自大学の中でテイカーを必要数確保することができない。これは学外の協力、援助を求める必要が生じる。 (ア)と(イ)の両者間における、意識、立場の違いの理解が必要。 (ア)に属する大学は(イ)に頼られる可能性が非常に高い。 (ア)の立場を考えると、頼られる側と頼る側の意識の温度差がある。どう共有し、共通の理解、認識ができるのかがカギとなる。 <スライド2> 障害学生支援の受け止め方 「自大学の支援、サービス」と「地域における大学教育に求められるサービス」 (ア)はどちらの視点も間違ってないが、立場は異なる (イ)は札幌近郊、北海道における大学教育の在り方を、どう捉え、考えていくのかとも密接に関係してくるのではないだろうか。 学外ノートテイカーを実現するために必要なこと (ア)他大学の学生へ支援することについて、各大学の理解、協力が不可欠。 学外へ派遣するという発想への容認と理解が必要。 <スライド3> 2 大学間での協力、連携検討と現状整理 現状 各大学における障害のある学生の支援の在り方はそれぞれに歴史がある。その積み重ねてきた結果が現状に至っている。 このことへの理解と敬意を払い、尊重することが大切。 各大学には事情、思想、文化を別個に形成している。 これは障害学生支援に取り組む中で培われたノウハウなどを他大学に公開することへ躊躇が当然考えられる。 <スライド4> ポイント 1 何を乗り越えれば、ノウハウを共有して地域全体の支援の底上げにつなげられるのか。 各大学が取り組んできたのは、自大学の学生に対する教育的支援がほとんど。 他大学のために学内で支援ができるためのスキル教育を受けた学生のマンパワーを提供するという考え方は、新たな発想、視点である。 2 大学間連携を検討する場合、担当者間の話だけで済むものではなく、各大学の事情、各種制度の調整、整理などを行い見通しが立ったうえで始めて進めることが可能になる。 <スライド5> 大学間、地域との連携を検討する上での課題 ポイント 関わり方や負担度などの明示が必要。これで各大学の判断も異なってくる。 大学の社会責任という言葉は理解できる。でも費用負担、人的労力の提供、学生の負担度などが大きいと、取り組むのは難しいのが現実。 考えどころは課題、問題を一つ一つクリアしていかないと一部の人が盛り上がっただけで終わってしまう。 キーワードは現場の負担軽減、ウィンウィンの関係づくり 地域連携の仕組みを作るためのモチベーションの一つであり、持続のカギ。 <スライド6> 課題1 謝金の単価を統一することのメリット、デメリットの整理 ノートテイカーに支払う謝金単価は各大学が独自に決定している。 それぞれの大学が抱える事情の中で、学内で交渉と努力を重ねた結果でもある。 これは単なる単価ではなく、各大学における意味、意義についても理解したうえで進める必要がある。 メリット1 単価の統一により、他大学への派遣依頼をする場合の負担軽減 デメリット1 現時点で単価が高い大学は支援者の負担の確保の要素にもつながっているため、人材の確保に関わる。 デメリット2 単価の低い大学では、財政面での負担が生じる。また、学内での理解を得る必要がある。 <スライド7> 課題2 謝金と交通費の支払い手続きについての実現的選択肢の整理 支援を要請する大学(要請大学)と依頼を受ける大学(受諾大学)間での対応パターン 支援要請があった場合、受諾大学が窓口になり対応する場合 1支援内容を学内に周知し、募集をする。 2支援ができる学生からの申し出を受付け、要請大学に報告する。 3受諾大学が、要請大学と支援をする学生との連絡、調整窓口になる。 要請大学にて対応する場合 1要請大学からの情報を提供する。 2支援をしたい学生は、自ら要請大学と学生との間で直接結ぶことになる。 交通費はどこを起点とするのか、支払いの対象とするのかについても考えなくてはならない。 <スライド8> 3 事故補償をカバーできる各種保険の実際的比較と提案 大学の教育活動に関わり学生が加入している保険などの整理 多くの大学で加入が義務付けられている保険 学生教育研究災害傷害保険(別称、学研災) 対象は正課中、学校行事、学校施設内、課外活動(クラブ活動)、通学中、学校施設等相互移動中に加入している学生本人が被った災害傷害について必要な給付を行う保険。 学研災付帯賠償責任保険(別称、学研賠) 対象は正課、学校行事、ボランティアクラブ等での課外活動及びその往復で他人にケガをさせたり、他人の財物を損壊した事により被る法律上の損害賠償を補償する保険。インターンシップ、教育実習を含む各種実習に適用される。? 学研災、学研賠が学校行事などについて適用されるものであるため、ノートテイカーを学外に派遣する場合は、 学内でその活動を事前に学校行事と位置付ける必要がある。 <スライド9> 学校行事に位置付けられないケースへの対応 ボランティア活動保険(別称、ボランティア保険) 対象は日本国内における自発的な意思により他人や社会に貢献する無償のボランティア活動で次のいずれかに該当する活動。 1 グループ会則にのっとり、立案された活動であり、社会福祉協議会に登録されていること 2 社会福祉協議会に届け出た活動であること 3 社会福祉協議会に委嘱された活動であること ただし、活動のための学習会または会議、自宅などとボランティア活動を行う場所との通常の経路による往復途上を含む(自宅以外から出発する場合も適用される) <スライド10> 対象とならないボランティア活動について 1 自発的な意思による活動地は考え難いもの。つまり学校で行う、関わるものは該当とならない。 例、学校管理下にある先生、生徒のボランティア活動、免許、資格、単位取得を目的とした活動。 2 PTA,自治会,町内会,老人クラブなどボランティア活動以外の目的でつくられた団体・グループが行う組織運営や団体構成員の親睦のための活動 例、自治会などの総会、懇親会、レクリエーション活動など 3有償のボランティア活動(交通費、昼食代、活動のための原材料費などの実費弁償としての支給については無償とみなします。) 例、報酬が時給、日給、月給などで支払われる場合 重要なことはボランティア保険3より、有償のノートテイカーは保険適用外。 有償の代わりに単位取得とした場合も保険適用外 <スライド11> 保険の適用範囲から整理する 一つ目のボランティア活動保険 1 NPO法人、コンソーシアム等の団体も「社会福祉協議会」に登録が必要。 2 ノートテイカーを無償で活動する形にしないと、加入することが出来ない。しかし無償化は現実的には難しい。 二つ目の学研災、学研賠 1 他大学へノートテイカーを派遣し、互いに協力する体制が構築されていることが前提。このような場合、学校行事に位置づける必要が生じるため、ノートテイカーの他大学への派遣を、各大学の会議体において承認を得ることが可能になる。しかし現実的問題として、各大学から理解を得ることは難しい。 コンソーシアムやNPO法人といった活動団体、ノートテイカーに対し有償とした場合でも加入、適用が認められる保険が必要になる。 <スライド12> ノートテイカーを有償にして加入できる保険 福祉サービス総合保障(社会福祉協議会) 1 加入の資格 社会福祉協議会およびその構成員、会員である団体、社会福祉協議会が運営するボランティア、市民活動センターなどに登録されているボランティアグループ(団体)。 団体は、NPO法人、社団法人、学校法人など福祉サービスを通じて地域の福祉活動の推進に取り組む団体を指す。登録方法は、社会福祉協議会担当。 2 対象となる活動 ボラン的ア段対、グループで行う有償のボランティア活動(福祉サービス)も対象になる。また、ケガ、賠償責任、感染症等を受けることが可能. 3 加入に当たって整理しておくべきこと 加入するためには、コンソーシアムやNPO法人等の「団体」が必要。 団体として活動するに当たり「規程」等が必要。 「掛け金」の負担方法と責任の所在を確認しておく必要がある。 <スライド13> 4北海道地区における「連合体」実現に向けての具体的ステップの提示 諸手続の統一など、すたーとにあたって事務的負担の整理 事務的負担はスタート段階には増加することが予想される。 これはシステム作りに係る一時的な負担に押さえることが出来れば良いが、恒常的な 煩雑さになってしまうと地域連携を続ける意欲が減退する恐れがある。 大学間と地域連携の実現に向けて 培われてきたリソースの活用に向けたフェーズへの転換 ステップ1 必要となる体制の機能、役割の整理 ステップ2 連合体を形成するに当たっての整理 ステップ3 想定される連合体の形態 <スライド14> 培われてきたリソースの活用に向けたフェーズへの転換 新國三千代教授の話題提供から抜粋 1 地域連携を目指す土壌 障がい学生支援に関わる教職員のネットワークがある! 北海道障害学生就学懇話会 北海道障害学生支援ネットワークML 2 情報保障の質に応じた派遣マッチング テイカー養成の協働プログラム実施の検討 求められるスキル、課題etc a)要約ではなく全文 b)利用学生の耳となり、音声を文字に転換することに徹する c)全文文字化は練習を積めば誰でも出来る。 <スライド15> ステップ1 必要となる体制の機能、役割の整理1 地域連携により解決したいこと(藤野先生の提言から抜粋) テイカーの需要と供給のバランス、テイカーの人材プールと派遣など 求められる役割 各大学からの支援要請の受付、他大学からの支援可能者の情報集約、要支援者と支援者のマッチング、ノートテイカー経験者の登録、派遣先との連絡、調整支援者への支払い、連合体と加盟大学の調整、運営に必要となる規定&規約の作成など 要支援者とノートテイカーのマッチング機能の構築 在学する大学以外にも依頼が可能となることで、学生の頼みづらさと支援依頼を受けた大学の「人材不足の悩み」の解消、改善の一助につながる。 <スライド16> ステップ1 必要となる体制の機能、役割の整理2 要支援者とノートテイカーのマッチング機能を構築する上での課題 その1まず、各大学で「他大学の学生を、支援すること」への理解を得ることが重要。 その2人材と人員の確保が不可欠! 在学生だけにしない形が必要。ノートテイカー経験者(卒業生など)にも参加してもらえる仕組みをつくる。 既存の「大学間連携や協力」の枠組みでは、各大学に新たな業務と負担が生じさせる可能性があるため、新たな対策が必要。 <スライド17> ステップ2 連合体を形成するに当たっての整理 「再整理」  有償のノートテイカーに対して、事故補償にも対応可能な保険に加入するためには、団体を作る必要がある。  要支援者と支援者のマッチング機能を実現するために 1 既存の形で担当する形は、負担が大きく維持、運営面を考慮すると限界が有り、難しい。 2 人材の確保と派遣をするためには、卒業生(ノートテイカー経験者)にも参加してもらえる仕組みと派遣(調整)をする仕組みを作り出す必要がある。 以上の用件を満たすためには、大学間の枠組みを超えた連携(以下、連合体)を形成し対応する必要がある。 <スライド18> ステップ3 地域における協議会等を形成する1 第一段階 地域における協議会等を形成する 各大学の理解の下、障害学生支援に関わる同様の悩みなどを抱えル大学と連携、情報共有を行える体制を整えていく。この過程で、自治体にも理解を深めてもらい、次のステップに向けた土台を作る。 第二段階 各大学承認の下「NPO法人」を設置する。 要支援者と支援者のニーズのマッチング、大学間の枠組みを超えた人材派遣の実現を考えると、即効性のある対応といえる。NPO法人による対応は「現状課題の早期解決と立ち上げ段階の対策といえる。 第三段階 地域におけるコンソーシアムの設置 最終的に目指す形、大学間、自治体等を交えた「地域におけるコンソーシアム」を形成し、展開できる形になることが理想といえる。この段階になると、地域における大学教育の考え方、位置づけが確立され、障害学生支援を含めた共通業務の一元化が展開されていくものと想定される。 <スライド19> ステップ3 地域における協議会等を形成する2 課題 1 運営、活動費用の確保が不可欠 各大学に出資を求める。 協賛してくれる団体、企業。 自治体との連携に向けた協力関係の構築が必要。 コンソーシアムの形成やNPOを設立した場合は、専従職員を雇用も必要になる。 要支援学生と支援学生が情報を共有、交換できるシステムが必要。 2 大学に求められること  連合体の設置、充実を図る一方で、各大学の体制も重要となる。 特に事務職員には、障害学生支援に関わる適性と資質に加え、自大学の教育に精通し「教職協働」に耐えうるための専門性とスキル、知識を有することが求められるため、人材の育成と配置が必要となる。 <スライド20> 組織、体制を整えることは重要! 「要支援学生と支援学生が情報を共有、交換できる」環境、仕組みが不可欠 機能できないで終わる可能性がある。 理想は、コンソーシアムを形成し、参加大学共通のプラットフォーム(教務システムなど)を開発する。その二次的展開として、要支援学生の「時間割データ」を共有とマッチングを可能にする(理系の参加大学への協力要請も可能だろう)。 しかし、現状でシステム開発まで手がけるのは困難。各大学の担当者間での調整が増えるだけになると問題の複雑化を招く。 なので、当面は既存のSNS(Facebookなど)を活用し、メンバーを限定しての対応が考えられる。 例、要支援学生に時間割を「写真、PDF」でアップしてもらい。情報の共有することで凌げるのではないか?それをみて支援できる学生が申し込む。 分科会3 三輪 <スライド1> 大学への派遣事例 1 式典 2 学会 3 講演会 4 スクーリング 5 テイカー養成 <スライド2> 要約筆記とは 1 意思疎通支援の福祉サービス 2 音声言語を文字言語で伝える 3 その場で要約し、文字にする 4 主に中途失聴、難聴者が対象 5 権利擁護のための情報保障 <スライド3> 要約筆記の目的 「その場で立つ通訳」として 1 結論を「速く、正しく」伝える。 利用者自身が考え、行動できる 2 音声情報からの阻害を解消。 利用者の権利を守る <スライド4> 要約筆記の三原則 要約筆記の目的達成のために 1 「速く」 話に遅れない 2 「正しく」 内容を正しく伝える 3 「読みやすく」 利用者の負担減 <スライド5> 情報保障ニーズの違い 大学の情報保障 a.学びの場 b.話し手が使った言葉 c.話されたこと d.より多い表出 要約筆記 a.社会参加の場 b.通訳が置き換えた言葉 c.伝えようとしたこと d.簡潔な表出 <スライド6> 全文か要約か 以下図の説明 左側に話者が話した原文があり、右側に全文がある。 原文は「何々ということ」、「ことですね」という文末を全文では「何々こと」とまとめている。また話し言葉の「っていう」を「という」と変換している。 原文は216文字に対し、全文は201文字だった。 「パソコンノートテイクスキルアップ教材集」(PEPNet-Japan)P.118~119 <スライド7> 全文か要約か 以下図の説明 左側に話者が話した原文があり、右側に要約文がある。 話し言葉や、必要のない情報をカットし、接続語を簡単なものに変換して72文字に要約されている。 <スライド8> 要約筆記者養成カリキュラム 1 聴覚障害、聴覚障害者への理解 2 福祉制度、権利擁護、対人援助 3 日本語、伝達、要約の学習 4 要約筆記の知識、技術 5 多様なニーズへの対応 (講義、実技 合計84時間以上) <スライド9> 全国統一要約筆記者認定試験 筆記試験120点以上、かつ実技試験各70点以上 1 筆記試験 聴覚障害の基礎知識50点 社会福祉の基礎知識50点 要約筆記の基礎知識(対応力20点を含む)70点 日本語の基礎知識30点 2 実技試験 表記25点、内容50点、文章15点、語句10点 手書き ロール100点、ノートテイク100点、計200点 パソコン 2問各100点、計200点 3 合格率 30%前後 <スライド10> 大学における聴覚障害学生支援と要約筆記者の連携 1 相違を認識し、適切な手段を選択できる体制が理想 2 要約筆記者が適する場面 グループ討議、フィールドワーク、実習など <スライド11> 大学と要約筆記者の連携に向けて実務面の課題 1 情報保証技術の平準化 2 環境整備 コーディネーター、機材、消耗品など 3 責任の所在 事故補償、トラブル対応 <スライド12> まとめ 1 大学の情報保障も要約筆記者も目的は聴覚障害者支援 2 それぞれの相違を認識し、補完しあう方向へ 3 大学連合体と要約筆記者の連携へ 分科会2終り ■【分科会3】 「教育の質保証と障害学生支援のあり方をめぐる問題 ―合理的配慮と教育の質の間のジレンマ―」 ■報告者:松川敏道(札幌学院大学 人文学部 准教授) ■企画趣旨  大学教育における質保証は、「我が国の高等教育の将来像」をめぐる課題としてこの十数年政策的にも自主的にも取り組みが進められ、大学関係者にとって教育の質をいかに高めるかは常に重要な課題となっている。一方で、「質」という言葉の定義は容易ではなく、「誰にとってのどのような質なのか」が曖昧のまま使用しがちな概念でもあり、その共通理解は必ずしもできていないという問題も指摘されている。  こうした中、障害学生支援の場においても合理的配慮の導入による教育の「質」の問題が浮上するようになった。合理的配慮は、「教育の目的・内容・評価の本質を変えずに,過重な負担にならない範囲において教育の提供方法を柔軟に調整する」ものであるが、こうした授業方法の変更や調整等が、個々の授業においてしばしば教育の質に影響すると思われる状況が指摘されている。このことは、大学教育一般における質保証の問題と共通性を持ちながらも、障害学生支援における合理的配慮と教育の質をめぐる新たな問題を提起しているように思われる。とりわけ、「誰にとってのどのような質なのか」は、教育の「本質」と関わって障害学生支援の根源的な問いを投げかけてもいる。  本分科会では、まず新たな概念としての合理的配慮の導入が教育の質のどのような問題として立ち現れているのか、その状況を具体的な事例を通して確認するとともに問題の所在と対応のあり方について検討してみたい。  また、合理的配慮は教育の本質を変更しないことが前提とされるが、その「本質」についての議論はこれまで必ずしも深化してきたとは言えず、どちらかといえば暗黙の了解としてこの前提が語られてきたように思われる。そもそも個々の授業において求められる「本質」とはどのようなことで、何をどこまで明らかにすれば「本質」が確定されたことになるのか、あるいはそれは可能なのか。そして何よりも、その教育で必要と考えられている「本質」とは、障害のある学生にとって必要とされる本質的な「能力」と常に一致するものなのかなど、合理的配慮の前提である「本質」をめぐる問いは簡単ではない。そしてこの問いかけははじまったばかりでもある。このようなことから、本分科会ではこの「本質」をめぐる課題も議論の俎上に載せ、おそらく今後も問われ続けるであろう「誰にとってのどのような質なのか」を障害学生支援の場としてどのように考えていくべきなのか、その端緒を得ることも試みたい。 ■講師 田口達也氏(愛知教育大学 教育学部 准教授) 中野聡子氏(大阪大学 キャンパスライフ健康支援センタ― 講師) 柏倉秀克氏(日本福祉大学 学生支援センタ― 教授) ■司会 松川敏道(札幌学院大学 人文学部 准教授) ■内容 1.企画主旨と論点について(企画コーディネーター/司会 松川敏道)  議論に入る前に、上述の企画趣旨に若干の補足を加えるとともに、想定される論点を確認しておきたい。まず、障害学生支援における教育の質を考えるにあたっては、大学教育そのものの質の議論をおさえておく必要がある。大学教育の質をめぐる議論の高まりは、中央教育審議会の2002年と2005年の答申が大きな契機であったと言えるが、この中心的課題のひとつは「高等教育の質の保証」であった。しかし、これらの動向において指摘されている問題は、保証されるべき「教育の質とは何か」が明確にされていないことである(スライド2)。すなわちこのことは、大学教育の質保証とは「誰のために何を保証しようとしているのか」があいまいということでもあり、教育の目的・内容・評価の「本質」を変えないとする合理的配慮の内実を考える上でおさえておくべき点である。 1)誰のために何を保証しようとしているのか  大学教育の質は誰のために何を保証しようとしているのか。考えられることとしては、例えば①授業料を支払う学生に対する消費者保護としての質保証、②産業界が卒業生に要求する資質の保証、③アカデミックな能力の育成といった大学の使命としての質保証、④公費が投じられている公的機関による説明責任としての質保証、⑤顧客満足度としての質保証、⑥わかりやすい説明の仕方・教材の工夫等々いわゆる授業の運営や技術的な問題としての質保証などがあるだろう(スライド3)。  このように「教育の質とは何か」についてざっと概観してみても、「利害関係者」ごとにその観点が多様に存立しうることがわかる。したがって、教育の質とは何かをめぐって「誰」や「何」を単一に特定することはそもそも相当に困難であると言えよう。さらに、産業界が求めるような質といってもそれは大学教育のみで培われるものでもないだろうし、顧客満足度と言ってもそれはきわめて「主観的」でもある(そもそも質は主観的なものでもあるが)。また、質を保証するということは学習の成果に対して検証できなければならないはずだが、その方法に対する答えは未だ明確にはなっていないとの指摘もあるし、実際我々もそれを知らない。総じて、大学教育の質とは何かを説明することの困難性故に、あいまいのまま「質の向上」が謳われてきたと言えるのかもしれない(スライド4)。 2)教育の質と合理的配慮  しかし、合理的配慮はこの曖昧さを許容しない。なぜなら、合理的配慮は個別の状況に応じて必要な変更・調整を行うものであるから、「誰に対して何をどのように」という問題がこの概念にはすでに存在し常に問われるからである。ある意味では、大学教育における質のあいまいさは、こうした合理的配慮の性質によって先鋭化するとともに、「質とは何か」「本質とは何か」について障害学生支援の視角から問い直しが図られようとしているとも言える。ただし、この分科会では大学教育一般の質について議論する場ではない。あくまで、合理的配慮の導入によって浮上してきた聴覚障害学生支援の場における教育の質を考えることである。したがって本分科会では、まずは聴覚障害学生支援の場において教育の質がどのような問題として立ち現れているのか、具体的事例をもとにその状況を確認し、問題の所在と対応のあり方について検討することとしたい(スライド5)。 3)本分科会の論点  以上のことをふまえ、本分科会で想定される論点を3つ示しておきたい。①情報保障(支援)環境の問題についてである。聴覚障害学生支援における教育の質は、支援学生のスキルなど一義的には情報保障の手段や条件に依存する。いわば常なる問題であり、こうした情報保障環境をめぐる問題の所在と対応のあり方について。②情報保障(支援)環境の問題に収まらない問題についてであり、いわゆる〈ジレンマ状況〉である。仮に情報保障環境が整っていたとしても、例えば「誰に対して何をどのように」変更・調整すべきかをめぐってジレンマ状況が生じうる。これは教育の目的・内容・評価の間にある種のズレを生させている状況と考えられるが、こうしたズレ≒ジレンマをめぐる問題の所在と対応のあり方について。③最後に教育の「本質」をめぐってである。合理的配慮は教育の本質を変更しないことが前提とされるが、そもそも個々の授業において求められる「本質」とはどのようなことで、何をどこまで明らかにすれば「本質」が確定されたことになるのか、あるいはそれは可能なのか。これらの論点をふまえながら各講師より発言をいただくこととしたい。 【写真 松川】 2.語学教育における聴覚障害学生への合理的配慮と教育の質保証のジレンマ (講師:田口達也氏)  大学の英語教育は、グローバル化により読む、書く、話す、聞くの4技能の授業が推奨され、英語で英語の授業を提供することが評価される。愛知教育大学の教員養成課程では英語コミュニケーションの授業が必修であるため、1クラス30人から50人の中に1~2人の聴覚障害学生が属している。そうした授業実践の中からいくつかの事例と課題を紹介したい。 1)使用言語の問題  英語で授業をする際、情報保障がついていても、英語で伝えた指示を手話通訳者やパソコンノートテイカーがとらえられないのではないかという問題点が起こる。 2)授業活動  大学で求められる教育内容を考慮すれば音声中心の活動に傾くが、その結果、聴覚障害学生の活動が制限されてしまう。実態調査をしたところ、音声中心の授業で聴覚障害学生をサポートするには限界があるのではないかと考えている教員もおり、どうすれば双方が満足する活動になるかを探ることがポイントになると思われる。 3)リスニングと教育評価  コミュニケーションの授業でリスニングやスピーキングの評価をする際、聴覚障害学生に公平な評価をするにはどのような代替方法があり得るかといった問題がある。代替した結果、問題の難易度や評価基準は本当に元の方法と同じと言えるのか、検討が必要である。例えば、ディクテーションの試験をする場合、聞き取りの難しい聴覚障害学生には問題文の内容を覚えて訳してもらうという方法に代替したとすると、「ディクテーション」と「訳す」は同じレベルの能力を扱っていると言えるのか、疑問が残る対応であると思う。 4)情報保障と教育評価  聴覚障害学生への正確な伝達のためには手話が有効だが、英語の授業で使った場合、英語教育が成立するのかという課題がある。例として、英語会話の演習で、補聴器を活用してある程度聞き取りのできる聴覚障害学生と手話ができる聞こえる学生がペアになり、以下の例のようなやり取りがあった。  聴覚障害学生:What subject do you like?  聴こえる学生:I like reading books.(日本手話で、私/好き/読む/本 と表現)  聴覚障害学生:I see. この場合、聴覚障害学生は英語を理解して反応したのか、手話を理解して反応したのか、本当の英語力を測れず、評価上問題が生じてしまう。 5)グループワーク  ペアワークやグループワークを行う場合、学生同士の心理的な壁もあり聴覚障害学生とのワークがうまくいかず、時間がかかってしまったり、その結果英語を使う活動が十分にできないという問題がでてくる場合もある。聴覚障害学生とともに学ぶ授業ではグループ学習は合わないと判断すべきなのか、もっと時間を延ばすような配慮で解決ができるのか、授業担当者としては悩みどころと言える。 これらの例のように、英語教員としては、どの学生も満足でき公平に評価できる授業づくりを模索している現状である。今後、さまざまな課題の解決方法を見出し、バランスのとれた授業運営を目指していきたいと考えている。 【写真 田口氏】 3.対等な学びの環境を提供する「聞く」「話す」の合理的配慮とは(講師:中野聡子氏)  私は大学生の時初めて情報保障支援を受け、現在は障害学生支援室で支援に係わる仕事をしている。「質」の問題について非常に重要なことは、聴覚障害学生が聴こえる学生と同等の教育を受けられること、同等の評価を受けられることだと考えている。学生時代に忘れられない出来事があった。聴覚障害のある先輩が論文発表会で発表したのだが、発音が明瞭でないので先生方は本人の発表を聴くよりも資料を読んで質問をしていた。情報保障がないので質問は本人に伝わらず、質疑応答が成り立っていなかった。これできちんと正当な論文審査が受けられているといえるのだろうかと疑問に思った。この経験が聴覚障害にとって同等の教育と評価を受けるために支援は不可欠のものであり、のちに聴覚障害学生支援に身を投じるきっかけにつながったと考えている。 1)聴覚障害学生・一般学生双方にとって教育の質を低下させない合理的配慮とは  合理的配慮の提供とは、卒業を保証するものではなく、聴こえる学生と同様の教育を受けられることを保証するものであり、本質的には学力の問題とは切り離して考えるべきである。大阪大学では、パソコンノートテイクは情報保障支援であるため、要約を行わず全文入力で提供する方針で行っている。聴こえる学生とほぼ同等に授業内容をつかめる情報保障が提供されている状態で、「内容がよくわからない」というようなことがあれば、それは情報保障者に要約を頼むような話ではなく、聴覚障害学生が自ら教員やTAに教えを乞いに行くべきということである。聴こえる学生と同等の情報が受け取れるような支援を行うという点で、本学で行っている4つのアプローチを紹介したい。 ① 派遣可能水準の引き上げと適材適所性の強化  大学院の授業は内容が高度専門的で、ディスカッションもあるため、全体的なノートテイクスキルの引き上げと、個々の派遣学生のスキル特性を客観的に分析・把握してシフト調整に活かすことが必要であった。そのため、情報保障評価シートを作成しスタッフが現場でテイクスキルをチェックし支援学生にフィードバックするようにした。また、支援を利用する聴覚障害学生も、自分の授業に適したノートテイカーは誰なのかを、評価結果から判断できるようになっている。 ② 通訳スキル養成の強化  通訳スキルの強化のために、講習会の実施時間を増やしている。一人でも連係入力練習ができる個別スキルアップ教材を作成し、何をクリアすれば次の段階に進めるのかという見通しを明らかにして、支援学生のスキル向上のモチベーションにつなげている。 ③ 通訳環境の向上  情報保障の質の向上は支援者の入力スキルのみで解決できるものではない。利用学生、支援学生、授業担当教員、部局の教職員がそれぞれの立場で情報保障の円滑な実施と質の向上に協力し合えるようにガイドラインを設けている。支援学生向けのマニュアルやガイドラインを作成している大学はよく見られるが、情報保障に関わる関係者すべてを対象とし、かつ利用学生に対して情報保障支援を受けるうえで担うべき責任についても明確に記しているところに特徴がある。  FD研修においては、発達障害を含む全ての学生に対して分かりやすいユニバーサルデザイン(UD)型の授業を提案している(スライド17)。注意いただきたいのは授業のUD化が教育の内容や質を落とすものではないということ。例えば同じ内容を伝えるにしても、ポイントをわかりやすく整理して話すのは、要点がつかみにくい話をだらだら長時間続けるのよりもはるかに効果的で、こうしたことは情報保障の上でも、ノートテイクの入力がしやすいなどプラスとなる。 ④ 指導教員等によるチュートリアルの実施  どんなベテランのノートテイカーであっても入力には脱落やミスがあり、聴こえる学生と同等の情報にアクセスできているとは言えないときもある。適宜、授業担当教員にログをチェックしてもらうとともに、不十分な情報保障を補完する合理的配慮としてチュートリアルをお願いすることもある。聴覚障害学生の学力的な問題への対応として行うチュートリアルは、教員の裁量で行われる学生指導の範疇としている。 2)教育の本質を変更しない範囲のルールや環境の改善・変更・調整 とは ①認知処理プロセスの違いから代替手段を考える  英語の授業では音読をさせることがあるが、聴覚障害学生は音読に困難を示すことがある。このようなとき教育の本質を変更しない範囲で調整するにはどうしたらよいだろうか。音読が、英語学習にとってどのような効果をもたらすかを考える必要がある。先行研究によると聴こえる学生は黙読をしている時も頭の中で音声変換が行われ、情報処理に聴覚経路が重要な役割を担っていることがわかる。しかし、聴覚障害者は視覚経路による情報処理が中心で特に重度の場合は、文字は文字のまま脳に伝達される経路が活性化されていることが多いと推測される。つまり、声に出して読んでも、英語を英語のまま理解する読みにはつながらないと言える。そのため聴こえる学生の音読と同等の効果をもたらすやり方への変更を、合理的配慮として考える必要がある。たとえば、聴こえる学生が音読している行を支援者が指し示し、意味や文法のまとまりで読みやすい句切れの位置にスラッシュを入れながら黙読させるといった作業が、代替手段の一例として考えられる(スライド20)。 ②「伝える力」「コミュニケーション力」をトータルに捉える  例えば大阪大学大学院人間科学研究科のディプロマポリシーを見てもわかるように、特殊な分野をのぞき高等教育の到達点として求められるのは、「聞き取れる」「発声できる」ではなく、「伝える力」「コミュニケーションの力」である(スライド22)。音声以外にもさまざまな伝達方法があり、聴覚障害学生にとって利用しやすく、かつ効果的な伝え方は聴こえる学生とは異なる。そしてもう一つ、聴こえる学生と異なることとして、聴覚障害学生が「伝える力」「コミュニケーションの力」を発揮するには、情報保障をうまく使いこなす力、コントロールする力が求められる。  これらに関わる例として、通常学校での教育実習におけるサポート事例を紹介する。教育実習生の聴覚障害学生は発音が不明瞭であったが、生徒たちと口話で直接コミュニケーションしたいと強く考えていた。そこで、実習生と生徒の間で確実に伝わるコミュニケーション方法を用意する必要があることを話した。具体的には、生徒一人ひとりに小さなホワイトボードを配布し、意見があるときは書いて掲げてもらうという方法を取り入れ闊達なコミュニケーションが実現した。挙手して意見を言うのは躊躇してもホワイトボードならば言いやすいなど、聴覚障害ならではの代替コミュニケーションゆえの効果も得られた。  教育の本質を変えることなく配慮を提供することで、聴覚障害学生が聴こえる学生と同等の教育を保障されるのであれば、学生からアウトプットされたものを公平に評価すればよいということになる。ただし、聴覚障害ならではのやり方を編み出したり身につけたりすることについては、一般の教職員から助言することがなかなか難しいため、聴覚障害者当事者のメンターによるサポート体制を設けるなど、当事者間で情報交換やアドバイスができるようなしくみ作りが必要ではないかと感じている。 【写真 中野氏】 4.教育の質保証と障害学生支援―文科省第二次まとめにおける議論から (講師:柏倉秀克氏)  今日は企画主旨の中で提示された論点のうち、「教育の本質」を中心に、文部科学省の検討会でどのような議論があり、「障害のある学生の修学に関する検討会報告(第二次まとめ)」でどのように報告されているかについて話したい。 1)障害学生支援における合理的配慮とは  「合理的配慮」とは、もともとは障害者の権利条約で主張されているもの(スライド2)。障害者にとって機能障害と別のもう一つの困難である社会的障壁は、努力すれば解決できることも多々あり、この障壁をなくすためのツールが合理的配慮であるといえる。  「障がいのある学生の修学に関する検討会報告(第一次まとめ)」では、「教育を受ける権利を享有・行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・調整を行なうことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じて、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」と記されており、障害者差別解消法の2つの柱、「不当な差別的取扱いの禁止」「合理的配慮の提供」を大学でもきちんと押さえていくことを共通認識確認としたい。  合理的配慮の構成要素としては、岡山理科大学の川島先生が提案した7点が今の日本の標準的な捉え方であると思われる(スライド5)。さらに第二次まとめでは合理的配慮の内容の決定手順が示されており、一方向ではなく障害の状況やその変化、学年進行、不断の建設的対話・モニタリングの内容を踏まえて、その都度繰り返されるものとされている(スライド6)。また、合理的配慮の検討は学生さんの意思の表明によってスタートするが、自分から配慮を申し出ることができない学生については支援者が意思表明の支援を行うという点が文部科学省の対応指針で示されている。  建設的対話とは一方的に配慮内容を通告するのではなく、対話のキャッチボールを適切に行うことであり、できれば一対一の対応ではなく支援室と学部の教員双方が関わる等、客観性も必要になる。  重要なのはモニタリングのプロセスで、日本学生支援機構がまとめた紛争解決事例の中では、「協議の結果、苦情が口に出されないので解決したものと思われる」という事例も出されているが、それは本当に解決したと言えるのか疑問が残る部分もある。やはり事後のモニタリングが必要であり、次の支援につなげていくことが重要だと思う。 2)合理的配慮の内容決定の際の留意事項  障害学生への配慮は、「できません」という先生がいる一方、「なるべく支援しよう」と考え、方法を講じる場合もある。どう対応すれば良いか考える際のポイントになるのは、「教育の目的」と、やらなければならない「内容」は何かという点。さらにきちんと「評価」をしなければならないが、実際にはうまくいかない場合も多い。  教育の目的については、教員個人の問題ではなく学内できちんと議論すべき問題で、障害者差別解消法が施行された後、大学のディプロマポリシーやシラバス等で掲げている内容が、不当な差別的取扱いを含むものでないかどうか、もう一度法律の視点で見直す必要がある。教育の目的を踏まえた上で、教育の提供方法の変更を検討することが重要になる。  スライド8に合理的配慮提供のモデル図を示しているが、このうち「教育の本質を変えるものになっていないか」という視点が合理的配慮をとらえる上で重要になる。以前はダブルスタンダードという言葉が使われたこともあったが、本来は、この授業はどういう目的があって、どの範囲で合理的配慮が提供できるのかを考えて行くことが求められている。あるいは、この資格を出すにあたって本来満たすべき要件は何かを押さえた上で、障害のある学生が授業に入っていけない状況を排除しようと考えていくことが重要である。例えば、イギリスやオーストラリアの大学のディプロマポリシーでは、専門職の資格取得に関しては厳格な要件が具体的に記されているが、実際のところ、実験実習の場合は特にこうした検討が難しい状況がある。  したがって、学位の授与に必要なディプロマポリシーや、授業の本質を示すべきシラバスの内容をきちんと見直していく必要がある。その授業の本質は何であるかを教員がきちんと答えられない状況では、解決すべき配慮内容にたどり着くことは難しい。 最後に、まとめとして合理的配慮をめぐる論点を示した(スライド10)。今般、東京大学と京都大学が文部科学省のプラットフォーム事業を担うこととなり、今後はそうした大学にさまざまな専門人材や助言を求めたり、大学間で連携を図ったりしていくことが重要であると考えている。 【写真 柏倉氏】 ■到達点と課題  本分科会のテーマは、PEPNet-Japanがこれまで開催してきたシンポジウムでも初めて取り上げたテーマであった。3人の講師による報告は、障害学生支援に関わっているそれぞれの立場からの問題提起であり、いずれも重要な論点が示されていた。このテーマについての検討が端緒についたばかりであることを考えると、具体的な事例をもとにこのような問題提起がされたこと自体にまずは大きな意義があったと考える。分科会では、時間の制約からこれらの報告について議論を深めるにはいたらなかった。そのため、報告者の所感を述べてこの報告のまとめとしたい。 田口氏からの報告は、語学教育において他の学生と公平な評価を可能とするための合理的配慮のあり方についてであった。代替手段をとることにより語学教育の何を評価しているのかが判然としなくなる課題が報告された。まさに教育の目的・内容・評価をめぐるジレンマであるが、代替手段によって語学教育の既存の目的・内容・評価に近づけようと考えるのか、それとも語学教育の目的あるいは聴覚障害学生にとって語学教育を学ぶ目的はどこにあると考えるのか、によってこの報告の論点は広がりをもつと思われた。 一方中野氏の報告は、教育の本質をどのように考えるかについてであった。器官レベルでの「聞く能力」「話す能力」が教育の本質として必ずしも求められていないはずだとして、「伝える力」「コミュニケーション力」をトータルにとらえることの重要性が指摘された。このことは、教育の目的・内容・評価の本質が何であるかのとらえなおしを求めるものであり、先の田口報告とも関連する論点である。また、情報保障と学力の問題を切り離して考えることの重要性が述べられたが、この点は情報保障環境のあり方が常に問われる続ける課題であることも意味している。ただ、情報保障と学力の問題ははたして明確に分けられるのかは議論が残ると思われた。 柏倉氏からは、文部科学省「障害のある学生の修学に関する検討会報告(第二次まとめ)」において、教育の本質がどのように議論されたかについて報告があった。授業(教育)の本質を教員が把握することと、ディプロマポリシーやシラバス等にそれを明示することの必要が述べられ、あらためてその重要性を再確認する機会となった。一方でその「本質」とはそもそも何かが気になるところであったが、これに関連しフロアからその具体的な例示を求める旨の質問があった。柏倉氏からは、例えば実験の授業において道具を準備することがその授業がもつ目的の本質であるかどうかの見直しが必要との説明があった。これは差別的取扱いに関わる問題であり、「本質」とは何かを考える際のひとつの視角である。 以上のように各報告には重要な論点が含まれていたが、各講師間やフロアとの議論がほぼもてなかったのが残念であった。このテーマに関して今後の課題を述べるならば、やはり「本質」とは何かをめぐっての議論を深めていくことだろう。おそらく「本質」は絶対的なものとしてあるのではなく、つねに「ゆらぎ」をもつものとして考えることが重要になるように思われる。そうした「本質」とは何かを探るためにも、現に障害学生支援の場で起きている「ジレンマ」状況をしっかりとらえることが今求められていると言えよう。 【写真 会場の様子】 分科会3 松川 <スライド1> 第3分科会 教育の質保障と障害学生支援のあり方をめぐる問題 合理的配慮と教育の質の間のジレンマ 企画趣旨説明 1 教育の質保障をめぐる議論の高まり 2 誰のために何を保障しようとしているのか 3 教育の質と合理的配慮 4 本分科会の論点 参考資料 札幌学院大学 松川敏道 2017年10月29日 <スライド2> 1 教育の質保障をめぐる議論の高まり 「質の保証に係る新たなシステムの構築について」 2002年中央教育審議会答申 これを機に政策課題化した。 「我が国の高等教育の将来像」 2005年中央教育審議会答申 「高等教育の危機は社会の危機」として高等教育のあり方や役割を提示。 その危機の中心的課題の一つが「高等教育の質の保障」であった。 しかし、教育の質とは何かという定義に踏み込んでいたわけではない。 <スライド3> 2 誰のために何を保障しようとしているのか 消費者保護として 授業料を払う学生に対する教育サービスや学位の信頼性という観点での質保障。 産業界が求めるものとして 産業界が雇用する卒業生に要求する資質という観点での質保証。教育過程そのものよりも教育課程の結果について成果が求められる。 大学の使命として 学問研究を通して身につくアカデミックな能力の育成や教養教育という観点での質保証。 社会が求めるものとして 公費が投じられている公的機関としての説明責任という観点での質保証。行政改革的な圧力とも言える。 顧客満足度として 顧客(学生)のニーズを満たす度合いという観点での質保証 その他として わかりやすい説明の仕方、教材の工夫、活舌の良さ等々、授業の運営や技術的な問題にかかわる観点での質保証。アクティブラーニングもここに含まれるかもしれない。 <スライド4> 2 誰のために何を保障しようとしているのか 教育の質は「利害関係者」ごとにその観点が多様に存立。 「誰」や「何」を谷津に特定することの困難さ。さらに産業界が求めるような質(能力)といっても大学教育のみで培われるものでもない。 顧客満足度といっても「主観的」。そもそも質は主観的なもの。 学習の成果に対する検証方法は未だ明確になっていない。 教育の質を説明することの困難さ。 質とは何かを明確にすることの困難性故に曖昧のままにされてきた。 あいまいではあっても質の向上に向けての取組はされてきた。 <スライド5> 3 教育の質と合理的配慮 しかし合理的配慮はこの曖昧さを許容しない。 なぜなら「誰に対して何をどのように」という問いがすでにそこに存在するから。 「新たな問題を提起している」ことの意味はこのことである。 合理的配慮をめぐる質の問題 本分科会は教育の質そのものを議論する場ではない。しかし、本分科会のテーマを考える上でこの問題と切り離すことも出来ない。 この点を念頭に置きつつ、本分科会ではまず聴覚障害学生支援の場において、どのような「質の問題」が立ち現れているのか、具体的事例をもとにその状況を確認し問題の所存と対応のあり方について検討する。 <スライド6> 4 本分科会の論点 1 情報保障(支援)環境の問題として このように支援したいという教員の立場とこのように授業を受けたいとする学生の立場から生まれる合理的配慮と質の保証をめぐる問題は、一時的には情報保障の手段や条件に依存する。 いわば常なる問題。こうした情報保障をめぐる問題の所在と対応のあり方について。 2 情報保障(支援)環境の問題に収まらない問題について いわゆるジレンマ状況。仮に情報保障環境が整っていたとしても、例えば「誰に対して何をどのように」変更、」調整すべきかをめぐってジレンマ状況が生じうる。 これは教育の目的、内容、評価の間にある種のズレを生させている状況と考えられるが、こうしたズレ (記号)イコール ジレンマをめぐる問題の所在と対応のあり方について。 3 教育の「本質」をめぐって 個々の授業において求められる「本質」とはどのようなことで、何をどこまで明らかにすれば「本質」が確定されたことになるのか、あるいはそれは可能なのか。 また、その教育で必要と考えられる「本質」とは、障害のある学生にとって必要となる本質的な「能力」と一致するものなのか。 <スライド7> 参考資料 大林守(2017)「大学教育の質の計測」『専修商学論集』2017-01、101-108 髙祖敏明(2016)「大学教育の質保証は進展しているか : 中央教育審議会の三つの答申を手がかりに」『大学評価研究』 (15)、9-17 田中弥生「大学の質保証とは何か」http://lite.blogos.com/article/80716/?axis=&p=1(2017/09/13アクセス) 中央教育審議会(2002)「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)」平成14年8月5日 中央教育審議会(2005)「我が国の高等教育の将来像(中央教育審議会答申ポイント)」平成17年1月28日 分科会3 田口 <スライド1> 語学教育における聴覚障がい学生への合理的配慮と教育の質保障のジレンマ 愛知教育大学 外国語教育講座 田口達也 <スライド2> 謝辞 本発表は、発表者である田口の教授経験および、岩田科研(基盤C:16K04825 「聴覚障害学生の英語学習実態調査と英語力向上に向けての提言」)を含む一連の研究調査の成果に基づいています。共同研究者の岩田吉生先生、浜崎通世先生、小塚良孝先生に感謝申し上げます。 <スライド3> 日本の英語教育の現状 コミュニケーション重視の教育 2技能(読む、書く)から4技能(読む、書く、聴く、話す)へ 英語による授業の実施(「グローバル人材育成」に向けて、英語で授業を行うことが大学評価の指標の一つ) 音声を中心としたコミュニケーションの授業 <スライド4> 愛知教育大学の英語授業 英語授業科目 「英語」(2~4技能全般) 「英語コミュニケーション(英コミ)」 クラス編成 教育過程単位・学生番号順によるクラス配置 健聴学生と聴覚障害学生との混合クラス (「英語」は50人中1人)(「英コミ」は30人中1人) 健聴学生中心のインクルージョン教育 記号(右矢印) ジレンマ <スライド5> 合理的配慮とは? 「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うこと」(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」 ) 障害者からの意思の表明がある場合だけでなく、意思表明をしにくい場合もあるため、教員側から見て、教育上、社会的障壁の除去が望ましいという場合も含める。 <スライド6> 事例1 (授業内容関係) 授業運営言語 教育の質 学習者のリスニング力向上と英語使用の雰囲気の促進のため英語を使用。 合理的配慮 教員の指示説明などを手話通訳者やパソコンテイカーが伝達しやすい日本語を使用 問題点・ジレンマ 英語で指示説明等を行っても、手話通訳者やパソコンテイカーが英語を聴覚障害学生に十分に伝えられないことがある・・・ 英語と日本語のどちらを授業運営の主言語とする方が良いのだろうか? <スライド7> 事例1 (授業内容関係) 以下説明 動画がスライド上部にあり、一人の女性の先生が高校生を相手に教室内で授業をしている様子の内容。 下部に動画内で先生が発した英語をディクテーション(書き起こし)した文がある。 <スライド8> 事例2 (授業内容関係) 授業活動の種類 教育の質 音声中心活動(リスニング、スピーキング、発音) 合理的配慮 文字中心活動(リーディング、ライティング) 問題点・ジレンマ 音声中心の授業を行うと、聴覚障害学生の活動が制限されてしまい、一方でコミュニケーションの授業では文字中心の活動を行うことは難しい・・・ 聴覚障害学生と健聴学生のどちらを中心とした活動が良いのだろうか? 折衷案として、個別に対応した活動が良いのだろうか? 教師の声 「音声重視・英語使用の授業形態はどのようなサポートをしても限界があると感じた」(岩田他,2015,p.36) <スライド9> 事例3 (評価関係) 評価基準の公平性 教育の質 リスニング・スピーキング試験 合理的配慮 リスニング・スピーキング以外の試験による代替評価 問題点・ジレンマ リスニング・スピーキング試験と代替試験の難易度を同じにすることは非常に困難・・・ 健聴学生と同じように、リスニング・スピーキングの評価が良いのか? あるいは他の試験による代替が良いのか? その場合、難易度を含む公平な評価は可能か? <スライド10> 事例3 (評価関係) 聴く(健聴学生)か読む(聴覚障害学生)かの違いだが、どちらも設問内容をすぐに理解する力を評価している。 以下図の説明 健聴学生用と聴覚障害学生用の問題を図に示しており、問題内容には違いがないが設問の説明の仕方が健聴学生用は音声で、聴覚障害学生用は問題用紙に書かれてある。 <スライド11> 事例3 (評価関係) ディクテーション(健聴学生)と暗記したことを書くこと(聴覚障害学生)は同じ力を評価している? 以下図の説明 健聴学生用と聴覚障害学生用の問題を図に示している。出題箇所はどちらも同じだが健聴学生は音声による読み上げを聴いて書くが、聴覚障害学生は日本語で書かれた文を英文に訳して書く問題の答え方。 <スライド12> 事例4 (評価関係) 英語力の評価 教育の質 学習者全員に対して、真の英語力を公平に評価 合理的配慮 手話通訳者、教員、学生が情報保障のため内容を伝達 問題点・ジレンマ 情報保障のためには手話通訳者等は必要だが、情報伝達の際に日本語や手話で伝えられると真の英語力を評価できているのだろうか・・・ 教員の声 「健聴者や教員が話している英語を、学生が手話で通訳する場合、日本語にして訳すことが往々にしてあったため、英語の学習としては成り立っていない気がしました」(浜崎他,2015,p.12) <スライド13> 事例4 (評価関係) 聴覚障害学生 "What subject do you like?" 健聴学生 "Japanese. I like reading books."(下の絵のような手話を添えて) 聴覚障害学生 "I see." 聴覚障害学生は英語を理解したのか?日本語・手話を理解したのか? イラスト出典元:NECソリューションイノベータ手話勉強会(n.d.) 以下図の説明 「国語/本(を)/読む(のが)/好き」という順序で手話を表しているイラスト <スライド14> 事例5 (協働活動関係) 協働活動時のコミュニケーションの壁 教育の質 協働活動を通じて内容の発展と理解の深化 合理的配慮 インクルーシブ教育のため健聴者と一緒に活動 問題点・ジレンマ 健聴学生が手話に通じておらず、健聴学生と聴覚障害学生が互いになじみがないため、ペア・グループ活動の際、双方の間にコミュニケーションの壁ができ活動がうまくいかない・・・ どちらをより積極的にさせる方が良いのか? 教員の声 「私は授業の様子を窺いながら、健聴学生と聴覚障害学生との協働的なアクティビティを取り入れるつもりだったのですが、健聴学生の側が聴覚障害学生を受け入れる気配が少しも感じられなかったので、取り入れませんでした。(中略)健聴学生がたぶんどう接していいか全く分からなかったのだと思います」(浜崎他,2015,p.7) <スライド15> 事例6 (協働活動関係) 時間配分 教育の質 協働作業を通じて内容の発展や理解の深化 合理的配慮 筆談や手話でのやりとりにより健聴者と協働活動 問題点・ジレンマ 聴覚障害学生がいるペア・グループは、筆談や手話によるやり取りのため活動時間がより必要となる。彼らの活動が終わるまで待つのが良いのだろうが、他の学生の進捗状況次第では、活動が途中で終わってしまう。それも仕方がないのかもしれないが・・・ 教員の声 「課題については、ペアの相手とは筆談や手話でのやり取りのため、活動時間が他のグループよりも余計に時間がかかってしまうので、時間の調整が難しく、活動の時間が足りなくなり、中途半端な内容になってしまうことがありました」(浜崎他,2015,p.7) <スライド16> 参考文献 NECソリューションイノベータ手話勉強会(n.d.)『手話勉強会』http://www.syuwabenkyokai.jp/syuwa/(2017年10月16日閲覧) 大分県教育庁チャンネル(2016, 11月9日)『授業まるごと!大分県立三重総合高校 1年 コミュニケーション英語Ⅰ 藤塚紀子指導教諭』 https://www.youtube.com/watch?v=34DLRpm93Y8(2017年10月19日閲覧) 岩田吉生・田口達也・小塚良孝・浜崎通世(2015)「聴覚障害学生の英語学習の教育支援に関する実態調査」『教養と教育』15, 26-36. 内閣府(2015)「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html(2017年9月7日閲覧) 浜崎通世・岩田吉生・田口達也・小塚良孝(2016)「聴覚障害学生に対する教室での具体的英語指導ー愛知教育大学における取組と課題ー」『教養と教育』16, 1-12. <スライド17> 英語授業の協働活動に向けて 授業内容関係(①授業運営言語、2授業活動の種類) 評価関係(3評価基準の公平性、4英語力の評価) 協働活動関係(5協働活動時のコミュニケーションの壁、6時間配分) 解決策私案 ① 英語のできる手話通訳者・パソコンテイカーの確保・育成 ② 活動内容に応じた日本語・英語の使用 ③ ライティングとスピーキング活動の段階統合 ④ プレゼンテーションの場合、聴覚障害学生が発表内容を英語で書き、それを他の人が代読(Darroch, 2013) ⑤ 小グループ分けとメンバーのグループ間ローテーション(Sutherland, 2008) 参考文献 Darroch, K. (2013). Interpreting for deaf students in foreign language classes. ALVIC News, 29(2), 1-6. Sutherland, I. M. (2008). Everybody wins: Teaching deaf and hearing students together. In T. Berberi, E. C. Hamilton, & I. M. Sutherland (Eds.), Worlds apart? Disability and foreign language learning (pp. 43-69). New Haven, CT: Yale University Press. 分科会3 中野 <スライド1> 第13回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 分科会3「教育の質保証と障害学生支援のあり方をめぐる問題―合理的配慮と教育の質の間のジレンマ」 対等な学びの環境を提供する「聞く」「話す」の合理的配慮とは 大阪大学キャンパスライフ健康支援センター 中野聡子 <スライド2> 2つの問い 聴覚障害学生・一般学生双方にとって教育の質を低下させない合理的配慮とは 聴覚障害にとって教育の本質を変更しない範囲のルールや環境の改善・変更・調整とは <スライド3> 聴覚障害学生・一般学生 双方にとって教育の質を低下させない合理的配慮とは <スライド4> 高等教育における合理的配慮の大前提 「合理的配慮」記号 ノットイコール 「単位の取得・卒業/修了の保証」 記号 下矢印 合理的配慮の提供にあたって 聴覚障害そのものに対する合理的配慮 聴覚障害学生自身の学力的問題 しっかりと分けて考えることがポイントではないか <スライド5> つまり 聴覚障害そのものに対する合理的配慮 記号 右矢印 聴覚障害学生支援での対応 聴覚障害学生自身の学力的問題 記号 右矢印 個々の教員の裁量・判断による指導としての対応 <スライド6> 情報保障の質の問題に関する事例 聴覚障害学生 テイクが先生の言っていることと全く正反対の間違いをしていたりする。 ここが知りたいという細部や主要ポイント、論旨説明に限って、テイクが省略されてしまったり完結した文章となっていなかったりする。 話者の判断がわかる部分なのに、要約技法による文末処理にかけられてなくなってしまっている(例:あるんです→ある)。 支援学生 先生の話が早すぎてテイクが追いつかない。 学生の発言は声が遠かったり、要をえない話し方でテイクしづらい。 ディスカッションのとき、一斉に話すのでテイクができない。 英語の専門用語が多くて聞き取れない。 教員 以前に聴覚障害学生が受講する授業があり、ノートテイクの打つ速度に合わせて、ゆっくり同じことを繰り返して話していたら、受講生からつまらないと授業をちゃんと受けてもらえなくてクラス崩壊状態になったことがあったのでノートテイクが入ることに不安があるのだが…。 聴覚障害学生支援として対応すべき問題 <スライド7> 情報保障の質的向上・補償に対する4つのアプローチ 1 派遣可能水準の引き上げと適材適所性の強化 2 通訳スキル養成の強化 3 通訳環境の改善 4 指導教員などによるチュートリアルの実施 <スライド8> 1 派遣可能水準の引き上げと「適材適所」性の強化 情報保証評価シート 通訳スキルの客観的・分析的把握 以下図の説明 質問項目は16あり、大きく分けて開始前、タイピングについて、連携スキルについて、入力文章全体についての4つに分かれている。 16の質問それぞれによく出来たなら4、まぁまぁ出来たなら3、あまり出来なかったなら2、全く出来なかったなら1を答えるシートになっている。 <スライド9> 1 派遣可能水準の引き上げと「適材適所」性の強化 授業レベル(博士課程・修士課程・学士課程) 授業形式(講義、演習、実習、ゼミ) 教員の話し方、参考資料の量 聴覚障害学生にとっての優先度 聴覚障害学生の授業への関与の仕方 支援学生の専門分野 テイク経験 テイクスキルにおけるウィークポイント 瞬時理解力 通訳作業速度(情報処理速度) ペアの学生によるカバーの度合い 総合的に見た伸びしろ ログに関するフィードバック(授業担当教員) 支援者派遣の「適材適所」性を高める 派遣可能水準の全体的な引き上げ <スライド10> 2 通訳スキル養成の強化 スクリーニング e-typingスコア200以上 ノートテイク講習会 90分かける7回 4.5時間増し 外部講師の一部利用 当事者視点のテイク解説 支援学生登録 支援現場派遣 派遣レベルに達しない学生や実際の支援現場でスキル不十分と判断された学生は 個別スキルアッププログラムに参加する <スライド11> 個別スキルアップ練習教材の例 本学共通教育の授業を利用した連携テイク練習教材の映像挿入 <スライド12> 3 通訳環境の向上 ノートテイク支援ガイドライン 情報補償の質は、支援者の通訳スキルだけで決まるものではないことを認識共有し、関係者それぞれの立場で協力できることを促す。 以下図の説明 ノートテイク支援ガイドラインの冊子の一部がある。 左側に表紙が有り、右側には目次がある。 <スライド13> 3 通訳環境の向上 授業のUD化 情報補償の質の担保、不完全な情報保障の補完にプラスの効果 授業のUD化はそもそも全ての学生にとって教育の質の向上につながるはずのもの 以下図の説明 大阪大学H28年度FDフォーラム手使用したスライド資料3枚がある 構造化、視覚化、焦点化のタイトルで分かれている。 <スライド14> ケーススタディ PCとプロジェクターの接続がうまくいかず授業の開始が遅れたから焦っていたのかもしれないんですが、トップレベルのテイクスキルをもつベテランテイカ―が必死で打っても追いつかないような早口で先生がしゃべりまくって… これは授業担当教員の配慮の問題 パソコンテイクですが入力は一人の学生がやっていて、それもあまりスキルが十分とは言えず…。そのため、テイクに合わせたスピードで、ゆっくり何回も同じことを繰り返して話していたので、授業が予定の半分のところで終わってしまいました。 これは不十分な支援者養成の問題 <スライド15> 合理的配慮とUD対応の関係 以下図の説明 教育環境パターンが2つあり、1番はUD化による対応が大きく、合理的配慮の負担が少ないことで支援の質も向上すると図で示している。 2番はUD化による対応が小さく、合理的配慮の負担が大きい。支援の質向上については触れていない。 <スライド16> 4 指導教員などによるチュートリアルの実施 ある一定以上の通訳スキルを持つ支援者を配置できたとしても、通訳ミス、漏れは必ず生じる。 情報保障に対する教員の協力、ユニバーサルデザイン的対応には個人差があり、情報保障の質の担保に関しては不確定要素にならざるを得ない。 不完全な情報保障を補完するための合理的配慮として実施依頼 <スライド17> 聴覚障害にとって教育の本質を変更しない範囲のルールや環境の改善・変更・調整とは <スライド18> 代替手段や成績評価に関して教育の本質を考える 1 認知処理プロセスの違いから代替手段を考える 2 「伝える力」「コミュニケーション力」をトータルに捉える <スライド19> 1 認知処理プロセスの違いから代替手段を考える 事例 外国語の授業 (英語の授業で)「順番に音読させられるけど、聞こえない私は発音も悪いしあてられると困るし、授業に参加したくない…」。 「教育の本質」を考えるならば 障害に起因した「できる/できない」だけでなく、音読させる目的は何なのかを考える必要 <スライド20> 聴覚障害者が英語を英語のまま理解できるようにするには? 聴覚障害者は韻律よりも意味や文法単位の区切りを自動化 英語の読み能力が同等の聴覚障害者、聴者各5名を対象 英語音声認識字幕の文章を黙読しながら、読みやすい位置にタブレットペンでスラッシュを挿入。 聴覚障害者群は聴者群よりも、音の句切れが入る位置でのスラッシュ挿入が有意に少なく、韻律情報に依存しない処理形式をとっていると考えられた。(中野他,2011) 聴学生が音読している行を支援者が指し示し、意味や文法のまとまりで読みやすい句切れの位置にスラッシュを入れながら黙読させるといった作業が代替手段となりうるかもしれない。 聴覚障害学生向けの授業の開講や教員の個別指導による対応ができればなお良いが、大学よって事情はさまざま。 <スライド21> 2 「伝える力」「コミュニケーション力」をトータルに捉える (一部の特殊な分野を除いて) 感覚器官レベルでの「聞く能力」、音声器官レベルでの「話す能力」が教育の本質ではないはず。 <スライド22> 大阪大学人間科学研究科修士課程ディプロマ・ポリシー 日本および国際社会に貢献する学際的で幅広い知識を十分に身につけている。 行動学、社会学、人間学、教育学、共生学の高度な知識を体系的に理解している。 現代社会やそこに生きる人間に深い関心を持ち、現代という未曾有の転換期の学問的・社会的要請に応え、解決しようとする意欲を持っている。 自ら設定した課題を実験・調査・フィールドワークなどによって解決する実践的能力を持っ ている。 自ら設定した課題についての専門的知識、およびそれを科学的・実証的・統計的手法、並びに人文学的・文献調査的手法を用いて分析・考察できる研究スキルを修得している。 自らの思考・判断のプロセスを説明し、伝達するためのプレゼンテーション能力や技術、コミ ュニケーション能力を持っている。 グローバルにコミュニケートする能力を持ち、自身の研究で得た知見を日本およひび世界に発信する能力と意欲を持っている。 <スライド23> 聴覚障害者にとっての「伝える力」「コミュニケーション力」 音声との併用、あるいは音声以外の手段による効果的な伝達の工夫 論旨が明快に伝わる発表展開の構成 視覚的にわかりやすく、徴収の関心を引き寄せるスライド資料や参考資料の作成 文字や通訳を介したコミュニケーションの適宜利用 「通訳」を使いこなす力 通訳は基本的に音声伝達という物理的障壁を解消・軽減するのみ 学術性の高い内容では通訳者に対する事前フォローが必要 通訳を付けてもコミュニケーション力そのものが向上するわけではない <スライド24> 事例 教育実習 (一般校での教育実習に関する聴覚障害学生との面談相談で)「自分でしゃべって授業をしたいし、生徒と口話で直接コミュニケーションしたい」。 慣れていない人には聞き取りづらい発音・発話 生徒たちに聴覚障害に配慮した話し方を求めるのは難しい 日常会話のコミュニケーションと違い、中等教育の授業に関する内容の質問やりとり 聞こえる教育実習生と同じやり方をしていては低い評価になるのは当然 <スライド25> 考えられる対策 発音不明瞭でも生徒が音声を聞き取りやすくするための、音声と視覚提示の併用 「見るだけ」でも内容が一目で把握できるような視覚的提示、板書、教材の工夫 どの生徒にとってもわかりやすい授業展開 …ユニバーサルデザイン型の授業 生徒1人1人にホワイトボードを配布し、質問、意見など自由闊達な双方向コミュニケーションの実現 音声情報に強く依存しなくても効果的な指導を行う手立てはいくつもある ユニバーサルデザイン性の高い授業、文字による双方向コミュニケーションなど、聴覚障害があるが故に新しい効果的なやり方を生み出すことも可能…ダイバーシティの発想 <スライド26> 事例3 学会発表 (聴覚障害学生が学会発表の質疑応答に手話通訳を入れたときの様子について)「聴者の参加者が聞いても要を得ない質問の仕方だったらしい。あらかじめ『手話通訳が入っているからわかりやすく質問してください』って協力をお願いするとよかったのかなあ」 <スライド27> 質問相手から質問意図や相手の問題意識を探り当てていくコミュニケーション 「今、○○さんがおっしゃったのは△△ということでしょうか」 「質問の意味がよくつかめなくてすみません。○○というふうに私は理解したのですが、これで合っていますでしょうか」 「このような説明で、聞かれたことへのお答えになっていますでしょうか」 (たくさん質問があって覚えきれない場合に、1つめと2つめの質問に答えたあと)「すみません、3つめの質問、もう一度おっしゃっていただいてもよろしいでしょうか」 <スライド28> そして評価は… そもそも伝達方法よりも伝達内容のほうが評価の主軸 適切な合理的配慮がなされていれば、教員はアウトプットされたものをピュアに見ればよい 聴覚障害ならではの「伝える力」「コミュニケーション力」を身につけるには、教員・支援室教職員からのアドバイスや、聴覚障害当事者間でのメンター活用などの仕組みづくりが必要 分科会3 柏倉 <スライド1> 教育の質的保障と障害学生支援 ー文科省第二次まとめにおける議論から 日本福祉大学 柏倉秀克 <スライド2> 合理的配慮:障害者権利条約①と障害者差別解消法② ①障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。 ②障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁(社会的障壁)と相対することによって生ずるものという、いわゆる「社会モデル」の考え方を取り入れており、この社会的障壁を除去するために合理的配慮が行われる。 <スライド3> 障害学生支援における合理的配慮:第1次まとめ 障害のある者が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・調整を行なうことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じて、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの。 かつ大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの。 <スライド4> 第2次まとめ:大学における実施体制 不当な差別的取扱いを防ぎ、必要な合理的配慮をできる限り円滑かつ迅速・適切に決定・提供するためには、それぞれの大学等の状況を踏まえた体制整備が不可欠である。これらの体制整備に必要な観点や定めておくべき手順を以下に示す。 ①事前的改善措置 ②学内規程 ③組織 委員会、支援専門部署、紛争解決の第三者組織 <スライド5> 第2次まとめ:合理的配慮の構成要素 ①個々のニーズ ②社会的障壁の除去 ③非過重負担  ④本来業務付随 ⑤機会平等 ⑥本質変更不可 ⑦意向尊重 ただしオーバーラップしうるものもある (川島聡 岡山理科大学) <スライド6> 第2次まとめ:合理的配慮の内容の決定の手順 これらの手順は一方向のものではなく、障害の状況の変化や学年進行、不断の建設的対話・モニタリングの内容を踏まえて、その都度繰り返されるものである。 ①障害学生からの申出 ②両者の建設的対話 ③内容決定の際の留意事項 ④決定された内容のモニタリング 以下図の説明 スライド右側に 意思の表明、建設的対話、合意形成の順序で矢印で結ばれた図がある。 <スライド7> 第2次まとめ:合理的配慮の内容決定の際の留意事項 合理的配慮の申し出の内容が教育にかかわる場合 ・ 教育の目的  ・ 教育の内容 ・ 教育の評価   記号 こめじるし本質的部分の確認が必要 本質が不当な差別的取扱いに該当しないことを確認し ・ 本質を変えず ・ 過重な負担にならない範囲で 教育の提供の方法を変更 <スライド8> 合理的配慮を構成する要素(モデル図) 以下図の説明 学生が意思の表明をし、 教育は教育の本質と方法 法律・規定はルール、考え方 心理・医療は機能障害の評価 が合理的配慮につながる ことを説明した図 <スライド9> 関連情報:合理的配慮を提供するために必要な要素 “教育(授業,実験・実習)の目的,内容,機能の明確化” ・ 入試で求められているものはアドミッションポリシー,    学位授与に必要なディプロマポリシー,各授業におい     てはシラバス等で提示。これはきわめて曖昧 ・ これらの明確化が教育の側に求められている (イギリスやオーストラリアの大学) 専門職の要件,資格を与えるための要件等を明文化   <スライド10> 合理的配慮をめぐる論点:まとめにかえて ①合理的配慮と基礎的環境整備の問題 ②合理的配慮の妥当性と合意形成に向けたプロセス ③合理的配慮における本人の意思表明の問題 ④合理的配慮と教育の本質部分 ⑤合理的配慮と根拠資料(エビデンス)をめぐる問題 ⑥合理的配慮と専門人材の育成・配置 ・ 大学は根拠資料が得られやすい環境を整える必要 ・ 個々の大学での専門人材の配置は非現実的 ・ 専門人材を拠点大学に配置,必要に応じ専門的助言 (記号)こめじるし本報告は京都大学 村田先生から資料提供を得ています。 分科会3終り ■【分科会4】 「聴覚障害学生の意思表明を支える関わりとは」 ■報告者: 吉川あゆみ(関東聴覚障害学生サポートセンター) 有海順子(山形大学・関東聴覚障害学生サポートセンター) 益子徹(日本社会事業大学大学院・関東聴覚障害学生サポートセンター) 甲斐更紗(九州大学・関東聴覚障害学生サポートセンター) ■企画趣旨  聴覚障害学生への合理的配慮の提供は、本人からの意思表明を契機として対話を重ねていき、関係者の合意のもとで支援の内容が決定されることとなる。一方で、大学入学以前に支援の乏しい環境で過ごさざるを得ない聴覚障害学生の多くは、自ら意思表明をする経験が浅いことが少なくない。それゆえ、意思表明に関わるスキルや経験を十分に持ち合わせていないことが多く、本人からの意思表明を促していくための支援が必要とされる。しかしながら、大半の支援環境においては、こうした意思表明支援が十分に行なわれているとは言えず、それゆえ本人が支援の必要性や改善点を表明して、より良い支援に繋げていくといった段階にまで至らないことが課題とされている。中でも、支援学生や支援担当教職員との間のコミュニケーションスキルについては課題の一つとなっており、今後の支援の質的向上に向けて改善が期待される。  そこで、本分科会は聴覚障害学生が意思表明に至るまでの過程や、彼らへの必要な支援について学びあうことを目的とし、聴覚障害学生の意思表明に関わると思われる事例を互いに提供し、グループディスカッションを行った。 ■司会・企画コーディネーター 吉川あゆみ(関東聴覚障害学生サポートセンター) ■話題提供者 有海順子(山形大学・関東聴覚障害学生サポートセンター) 益子徹(日本社会事業大学大学院・関東聴覚障害学生サポートセンター) ■指定討論者 甲斐更紗(九州大学・関東聴覚障害学生サポートセンター) ■内容 1.企画趣旨説明(司会・企画コーディネーター:吉川あゆみ)  「意思表明」をどう捉えるかはさまざまな解釈があるかと思う。例えば、学内に設置されている支援室に対して、講義の情報保障として手話通訳またはノートテイクを申請する行為を「意思表明」と考える人が多いかもしれないが、実際はもっと幅広い意味を持ち、聴覚障害学生本人と、本人を取り巻く周囲を広く支援することを「意思表明」と我々は捉えている。そのような幅広い支援がなければ、聴覚障害学生にとって、情報保障の必要性を認識し、自分に合った情報保障を選別して申請するまでの過程は非常に厳しいものであると実感している。関東聴覚障害学生サポートセンターでは、昨年度「PEPNet-Japan新たな時代のニーズに対応したモデル事例構築事業」として意思表明に関するテーマに取り組んだ。その成果を皆様と共有し、深める場として本企画を設けた。 【写真 吉川】 2.意思表明支援とは(事業報告)(話題提供者:益子徹)  前述した事業で、聴覚障害学生支援の実績がある教職員13名に聴覚障害学生への意思表明支援に関するインタビューを行い、分析の結果、35個の支援ポイントをまとめ、意思表明支援相関図(家モデル)を作成した(スライドは87ページ参照)。  「1.初回面談での対応」が1階部分にあたるが、高校までに情報保障を活用したことがない聴覚障害学生が多く、コミュニケーション方法も様々である。そこで、まず対象の聴覚障害学生とどのようにコミュニケーションを取っていくとよいかについて考える必要がある。高校までに感じていた困りごとや自己語りを引き出そうとするが、言語化が難しい状況にあることも少なくない。聴覚障害学生のコミュニケーションの特性を把握しながら、支援方法を提供していく、また、情報保障の体験をしてみようと提案したりすることも、支援ポイントになることが明らかになった。  次に、情報保障のニーズを聴覚障害学生が自分の言葉でうまく出せるように言語化を促してみたり、聴覚障害学生のニーズを察知できる通訳者を配置してみたりなどの取り組みを「2.情報保障の基盤形成」とした。そして、屋根を「3.情報保障の実践的見識の形成」と位置付け、例えば、ノートテイクを使ってみたがパソコンノートテイクの方がいい、ゼミのときは手話通訳を使いたいといった[支援内容の変更にともなう調整]などがこれにあたる。しかし、日々支援を受けていく中で簡単に形成できるとは限らず、葛藤が起きる。その葛藤を受け止めつつ支援をしていかないと情報保障の選択がスムーズに行かない場合もあるので、それを意思表明支援相関図(家モデル)の両壁である「4.関係性の構築と促進」と「5.聴覚障害学生の当事者性の涵養」が支えている形になっている。特に右側の壁にある「5.聴覚障害学生の当事者性の涵養」は、聴覚障害教職員のピアとしての存在が大事になってくるので[聴覚障害教職員の当事者性の活用]を含めた。また、情報保障を利用しない聴覚障害学生との関係については左側の壁に盛り込んだ。これは、在学中に支援を利用しないからといって支援室と関係を持たないとするのではなく、何らかの形でコミュニケーションを取っておくことが大事であるという意見が見られたためである。  これらのことを踏まえると、支援担当教職員がやらなければならないことが多く、すべてを一人で担うには限りがあるため、他との連携が非常に大事になってくる。したがって、土台を「7.環境整備」とし、相談しやすい環境の整備や聞こえる学生へ啓発が重要であるとした。また、保護者とのコミュニケーションに関する情報収集も欠かせないことがわかった。高校までは保護者の影響が大きいが、初回面談においては、保護者が大丈夫と言っても聴覚障害学生本人にとっては大丈夫ではない場合もあるため、保護者との関係をどのように構築していくかも重要である。最後に、同じく土台にあった「8.支援担当教職員が持つ支援技術」も重要な要素であることがわかった。  以上のように、インタビューを通して支援ポイントが明らかになったが、全体を通して「先手を打たない支援」が大事だとまとめることができるだろう。 【写真 益子】 3.アンケート集計結果より(話題提供者:有海順子)  本分科会でグループディスカッションを行うにあたり、事前に参加者にアンケートを行った。1つ目として、聴覚障害学生には意思表明を伝えるのが難しかった経験について尋ね、2つ目に、意思表明をうまく引き出してもらえた、あるいはこういう方法なら伝えやすいという場面について聞いた。また、支援学生および教職員には、意思表明をうまく引き出せたと感じた場面とその方法について尋ねた(スライドは89ページ参照)。  参加者の方々には限られた期限の中で回答して頂いたが、どれも興味深い内容で日頃から意思表明支援や意思表明というものに向き合っている様子が伺えて意識の高さを感じた。  それぞれの回答の説明をする前に、改めて意思表明のステップについて説明したい。まず、聴覚障害学生本人が「意思を持つ」あるいは「意思を育てていく」ステップがあるかと思う。いきなり意思表明はできないので、自ら意思を持って育ててこそ、次のステップである「意思を伝える」に進むことができる。また、意思は伝えるだけでなく、意思を受け取る側を含めて意思表明と言えるのではないかと、昨年度事業の調査結果あるいは今回のアンケート調査の結果を見て思う。意思表明支援とは、この3つのステップにそれぞれ働きかけていかねばならないものと個人的には思っている。  これら3つの観点でアンケートの回答をまとめたので以下に紹介する。まず、聴覚障害学生からはステップ1(意思を持つ、育てる)とステップ2(意思を伝える)に当てはまる困難さが挙げられていた。大学1~2年生の時に、自分の聞こえの状況や支援内容についての知識不足、経験不足で何をどのように説明したらわからない。また、その意思も育っていないため、どう表明したらよいか、何を言ったらよいかわからないという困難さがあることがわかった。一方で、意思が生まれそれを育てることができても、複数の聴覚障害学生が同じ支援を利用している場合に、互いの要望をすり合わせねばならないことが難しかったという発展的な困難さも見られ、意思を育てていく上での困難があるように感じた。  また、どの聴覚障害学生も集団でのコミュニケーションの難しさを回答していた。例えば、集団での会話に入れず意思表明をしたくてもできない、話されている内容を教えてもらいたいが受け入れてもらえなかったらどうすればよいかと迷う、会話に入りたくても盛り上がっているところに水をさすようで申し訳なく遠慮してしまうなどの回答があった。  支援学生からの回答でも集団でのコミュニケーションの難しさが出されていた。例えば、聴覚障害学生の要望でグループディスカッションの通訳をしたが思うように伝えきれなかったのではないか、聴覚障害学生が話し合いに参加しづらい雰囲気を作ってしまったのではないかといった例があった。また、手話がうまく読み取れない場合に何度も聞き返すのを申し訳なく思い、曖昧に返事をしてしまったり、互いに遠慮したりして、わかったふりをしてしまう状況にあることがわかった。  教職員からは、3つの困難さが挙げられていた。1つは、学生が現状に満足していて意思が生まれてこない場合。2つは、聴覚障害学生に他者とのコミュニケーションの経験が不足しているため、なかなか伝わらない場合、それをどう引き出せばよいのか。最後に、自己の聴覚障害を知られたくない場合、周囲にどう伝えればよいか。  これらに対して、聴覚障害学生からは意思表明ができたと感じた場面について大きく2つのことが挙がった。「グループディスカッションで、文字通訳や手話通訳といった様々な情報保障が提供されたおかげで自らの質問や意見を述べることができた」といった成功体験を通して、自分がどのような場面でどのような支援を必要としているかの自己理解につながったという回答が寄せられた。そのために、まずは意思表明しやすい雰囲気を作ってほしいという意見もあった。これらは、意思表明支援相関図(家モデル)でいう「4.関係性の構築と促進」「7.環境整備」の部分にあたるのではないかと思われる。聴覚障害学生からは、具体的に「話わかる?」など声をかけてくれるような、聴覚障害学生とコミュニケーションをとって受容しようとする姿勢があると、自分を受け止めてもらえるのだと思えるとの意見があり、そういった働きかけが重要であることが示唆された。支援学生からは、時間をかけて向き合うことで、意思表明を引き出せるのではないかという意見が挙がっていた。あわせて、聴覚障害学生の多くは、集団でのコミュニケーションに困難さを抱えているため、まずは1対1でコミュニケーションをとり関係を築いたうえで、集団でのコミュニケーションに発展させるということが大事だと思う。これは、意思表明支援相関図(家モデル)でいう[ラポール形成を意識した話し方・接し方]にあたる。  そして、教職員からは、雑談から本題につなげて意思を引き出すようにしている例や、具体的な質問をしてニーズをうまく言語化していった例が挙げられていた。その他、学生同士の交流の場を設けて、自己の語りを共有するといった方法などで具体的な関わり方の例の回答も見られた。中には、保護者との連携も重要であり、保護者と一緒に意思を育てていくという意見もあった。また、本人の意思、気持ちに寄り添って心理状態を受け止めて、意思表明を育てていきたいという回答も見られ、どれも聴覚障害学生と真剣に向き合う様子が感じられた。 【写真 有海】 4.グループディスカッション報告  各グループにてなされたディスカッションについて述べる。 聴覚障害学生グループ 報告者:関東聴覚障害学生サポートセンター 吉川あゆみ  聴覚障害学生グループは、大学1年生から大学院生、社会人入学の方まで比較的幅広い年代が参加された。コミュニケーション方法も聴力活用中心の学生、口話中心の学生、手話中心の学生と多岐にわたっており、コミュニケーション方法を確認・調整してからのディスカッション開始となった。事前アンケートから、ゼミやグループディスカッション時の情報保障に困難を感じている記述が複数みられたため、「集団におけるコミュニケーションの方法」を本グループのテーマに据えた。  ある参加者の「集団のときに、どのタイミングで発言していいかわからない」という声に対して、他の参加者から「手話通訳をつけている」「一度に複数の人が発言して声が重ならないように、手を挙げてから発言してほしいとお願いしている」「大学院に入り、まわりに使い方を説明して音声認識を活用している」等、それぞれの工夫が披露された。  また、「大学院に入学したものの、幾度お願いしても情報保障をつけることができない」と悩む報告もあり、支援体制が整備されていない大学における情報保障が大きな課題として浮き彫りになった。  全体を振り返って、情報保障を通したディスカッションに慣れている聴覚障害学生もいれば、情報保障を通したディスカッションに戸惑いながら参加している聴覚障害学生も少なくなかった。「情報保障を通してその場の一員として意見を述べ、共に議論を構築していく」という経験があらゆる聴覚障害学生にとって当たり前の経験として蓄積することを、各大学の支援室で意識されていくことが、「意思表明」支援には欠かせないと考えられる。 教職員グループ 報告者:九州大学・関東聴覚障害学生サポートセンター 甲斐更紗  教職員グループでは、本事業報告(益子氏)の内容、今回の分科会参加者への事前アンケートまとめ(有海氏)の内容を踏まえた上で、下記の2点をテーマにして、議論を行った。 (1) 聴覚障害学生への支援として聴覚障害学生の意思表明を促すために、情報保障や支援内容、支援方法などの説明をどのように工夫して実施しているのか(例えば、面談などのコミュニケーション方法の工夫、支援の具体例の提示方法の実例など) (2) 卒業後を見据えて、聴覚障害学生が「支援の主体的な活用ができるための意思表明」ができる方法についてどのように考えて実施しているのか (1)について、各大学から、オープンキャンパスなどでパソコンノートテイクなどの情報保障の実践を行い、聴覚障害の高校生が情報保障の体験をしてみるという話が出された。そこでどんな支援が大学にあるのか聴覚障害学生が実感できることが、意思表明支援の最初のステップであることが確認された。オープンキャンパスで、聴覚障害の在学生と聴覚障害の高校生との交流企画を作るなどの取り組みの報告もあった。課題として挙がったのは、事前申込みの形でオープンキャンパスに参加するという大学も多く、情報保障という支援が分からない聴覚障害の受験生への対応についてどうするのかという点であった。 (2)について、①聴覚障害学生に、社会に出たあと自分自身の障害のことに向き合いながら、どんな支援が必要かということを4年間かけて伝えることが必要、②聴覚障害学生に、入学時にどんな支援が必要かを確認しながら支援をしていく、ということが議論された。入学後の支援のモニタリングが重要であり、どんなところの支援が足りているのか、あるいはどういうところの支援が不足しているのか、聴覚障害学生への個別支援がどういうところにあるかを考えていくことが大切という話がされた。聴覚障害学生一人ひとりに寄り添いながら支援することは重要である。その一方で、寄り添い続けるだけでなく、聴覚障害学生が卒業後の姿をイメージしていくために、当事者との出会い、様々な情報提供や社会資源などと聴覚障害学生を結びつけていくことも必要になるのではないかという指摘がなされた。  以上、教職員グループでの議論内容から、物的環境や人的環境などを含む環境などに対する変更・調整を行ないながら、時期やそれぞれの場面に応じて個へのアプローチをすることが大学教職員にできる意思表明支援の形ではないかと考えられた。 支援学生グループ 1 報告者:山形大学・関東聴覚障害学生サポートセンター 有海順子  事前アンケートの結果から、聴覚障害学生は「要望を伝えたいけど伝えにくい・理解してもらえない」思いを抱えている一方で、支援学生は「聴覚障害学生の希望や声を知りたい、引き出したい」思いを持っており、両者のコミュニケーションが十分に図られていない、ズレが生じている様子がうかがえた。そこで本グループでは、この両者の思いのズレを解消し、聴覚障害学生と支援学生がよりよいコミュニケーションを取るために支援学生としてどのような対応していくとよいかについて主に話し合った。参加者から様々な意見や取り組みが紹介され、「日頃の支援や関わりの中で挨拶を交わしたり、ちょっとした会話を重ねることで関係性を深め、信頼関係を築いていく対応が必要である」ことが話し合われた。またディスカッションの中で、支援団体をまとめていく際の悩みが共有された。支援学生も聴覚障害学生もおそらくそれぞれに悩みを抱え、互いに遠慮し、本音をぶつけられない状況が垣間見えた。聴覚障害学生への意思表明支援は、聴覚障害学生の意思を育て、それを表明することを支援するだけではなく、聴覚障害学生と支援学生両者の関係を支えるための支援学生側への働きかけも教職員に求められることなのではないかと感じた。 支援学生グループ 2 報告者:日本社会事業大学大学院・関東聴覚障害学生サポートセンター 益子徹  支援学生グループ2は、大学1年生から4年生までの幅広い学生が参加された。事前アンケートから、日々聴覚障害学生とどのように関われば良いか困難を感じている記述が複数見られた。そこで本グループでは、聴覚障害学生が意思表明をする上でも重要な「支援学生と聴覚障害学生の関わりの持ち方」をテーマに据えた。  グループ内の支援学生の報告からは、「そもそも(支援活動中も含め)聴覚障害学生と話をしたことがない」という発言や、「障害学生支援室の振り返り会などへの参加が積極的ではない聴覚障害学生も多数おり、話すきっかけがない」という発言があった。そして、それらの結果から支援学生として、聴覚障害学生の意思表明を引き出せているかどうか自信が持てないという状況が報告された。  この課題を解決するためには、1人1人が支援活動前後に話をするようにするだけではなく、支援活動時間以外にも聴覚障害学生との交流の場を設けることが大事であることが挙がった。また、「手話が出来ないからどう話しかけていいかわからない」といった課題なども挙げられていたことから、支援学生が聴覚障害学生の支援活動に関する意思表明を得るには支援を担う教職員が交流の場を設定するだけでなく、聴覚障害学生とのコミュニケーション方法に関する学習機会の提供が必要なのではないかと感じた。 5.指定討論者よりコメント(指定討論者:甲斐更紗)  本分科会を通して、聴覚障害学生の意思表明支援を支える関わりについて様々な取り組みが様々なところで展開されており、支援担当教職員などは環境調整と個へのアプローチを実施していく。聴覚障害学生も何らかの意思を持ちセルフマネジメントをしていくことの重要性、支援学生も聴覚障害学生とのコミュニケーション方法についての模索を重ねていくことの意義が再認識されたといえよう。 聴覚障害学生の特徴 ・聴覚障害学生の意思表明は、多様な環境、教育・生活などの中で様々な体験を積み重ねていくことで形成されるとされているが、実際には聴覚障害学生の意思表明のプロセスはまだ明らかになっていない。今回は意思表明「支援」についての内容について調査した(「PEPNet-Japan新たな時代のニーズに対応したモデル事例構築事業」)のみである。聴覚障害学生の意思表明のプロセスについは、今後の課題として明らかにしていく必要がある。(92ページ、スライド2参照)。 ・一般的に、聴覚障害学生は、本当は話の内容が分かっていないが、頷いてしまうところがあり、周囲は「問題がない」「大丈夫だ」と捉えてしまう。また、聴覚障害学生が一生懸命意思表明をしたが、周囲がその意味を掴み取れなかった場合もある。情報のズレもあるため、聴覚障害学生はどこまで情報が自分に伝わっているのか気になって、「もう一回教えて」と言ったときに「さっき話をしたのになんでよ」と言われてしまうこともある。それが重なると、聴覚障害学生は「聞く」「尋ねる」ということを我慢したり諦めたりしてしまい、分からないところは自分で解決しなければならないと本人は思いこんでしまう。本来ならば、情報を得て自分で考えて自己決定することが大事であるが、周りが決定したことに対して、意味がわからないまま、周りに合わせなければならないと思いがちである(92ページ、スライド2,3参照)。 以上のことを踏まえて、下記の点について述べた。 (1)支援者(情報保障を担う側)としてできること  どうすればよいかということを一緒に考えて、「なぜ分からないの?」という問いかけではなくて、今、話している内容について、「今の内容は○○なんだけど、どのように思った?」「さっき、先生が△△とおっしゃったけど、どのように理解した?」と反復するようにして、丁寧にフィードバックをしていく。そうすることによって、聴覚障害学生も自分一人で解決するのではなく、みんなと一緒に解決できることもあると気づくのではないか(92ページ、スライド3参照)。 (2)支援担当教職員としてできること  1対1での関わりを丁寧に形成させることで、「分かっているのか」「分かっていないのか」などの聴覚障害学生の状態をきちんと把握することが重要である、といえよう。 まとめ  我々が意思表明支援に関わっていくために何が必要なのか。聴覚障害の例ではなく、例えば、引きこもりや問題を抱える人たちへのアプローチを参考にしてみる(92ページ、スライド4参照)。表の中の「3.変化がない時も援助要請への意欲が高まった時のための準備をしておく」において。これまで支援を利用していなかった聴覚障害学生が、「通訳がちょっと(欲しい)」と意思表明する時が来るかもしれない。在学中に聴覚障害学生が持つニーズは変わってくるかもしれないということを予測しながら、見通しを持ちながら、「情報保障が必要」「色々な支援が必要」という申し出が出た時にすぐに対応できるようにする。そのために、聴覚障害者支援団体などの地域のリソースとの関わりを持っていくなどの準備をしておくことも非常に大事である。意思表明支援は難しいものとして捉えるのではない。聴覚障害学生の意思表明を引き出していくために、聴覚障害の先輩など様々なロールモデルと引き合わせていく。もしかしたら、意思表明支援は、たくさんのつながりの中でできるものかもしれない、地域での聴覚障害者支援を専門にしている機関などの「ネットワークの中で生きるもの」と考えられる。学内外の様々なリソースと聴覚障害学生本人をつなげていくなどによって、本人や本人を取り巻く周囲を支援することが意思表明支援の今後のあり方として捉えることが重要ではないか(92ページ、スライド5参照)。 【写真 甲斐】 【写真 グループディスカッションの様子】 分科会4「聴覚障害学生の意思表明を支える関わりとは」 参加者アンケート 本分科会にお申し込みくださりありがとうございます。分科会を進めるにあたり、効率よく情報交換していくためにも、以下について教えてください。なお、いただいた回答に関しましては、重複する内容等を編集の上、当⽇の分科会で共有する予定です。個人名や大学名が特定されないように内容に変更を加える可能性もあることをご了承ください。 1.属性についてうかがいます。 ①該当するする役職に〇をつけてください [ 教員 ・ 職員 ・ 学生 ・その他( )] ②聴覚障害の有無に〇をつけてください [ あり ・ なし ] 2.意思表明支援についてうかがいます。 ①(あなたが聴覚障害者の場合)これまでに意思表明したくてもうまく意思表明できない等の困難を感じた場面はありますか?また、意思表明をしたけれどもそれが伝わらなかった、受け⽌められなかった場面はありますか?もしあれば具体的に教えてください。 (あなたが聴者の場合)これまでに聴覚障害学生の意思表明を引き出すのが難しいと感じた場面はありますか?また、聴覚障害学生から意思表明されたけれども、対応が難しいと感じた場面はありますか?もしあれば具体的に教えてください。 ②(あなたが聴覚障害者の場合)これまでに意思表明を引き出してもらえたと感じられる場面はありましたか?あるいは、こういう方法で意思表明を引き出してもらえたら、と思うような場合はありますか?もしあれば具体的に教えてください。 (あなたが聴者の場合)これまでに聴覚障害学生の意思表明をなんとか引き出せたと感じる場面はありますか?あるいは、こういう方法であれば、聴覚障害学生から意思表明を引き出せたのではないかと思う場面はありますか?もしあれば具体的に教えてください。 3.その他、意思表明や意思表明支援について考えていることや学びたいことがあれば自由にお書きください。 ご協力ありがとうございます 分科会4 益子 <スライド1> 意思表明支援とは(事業報告) 日本社会事業大学大学院博士後期課程 関東聴覚障害学生サポートセンター 益子徹 <スライド2> 調査の目的 支援担当教職員が行っている聴覚障害学生への働きかけや、学内で調整し工夫している具体的な支援内容の傾向、各大学における意思表明支援の共通点などを明らかにする。 <スライド3> 調査の方法 2016年7月~8月にかけて、聴覚障害学生支援の実績がある支援担当教職員(6大学13名)に意思表明支援の実態調査を行なった。 <スライド4> 調査結果 インタビュー内容を類似例ごとにまとめ、分析ワークシートを作成した結果、35個の支援ポイントが生成された。その後、支援間の関係性を検討し、8のカテゴリーと、11のサブカテゴリーが生成された。 <スライド5> 意思表明支援相関図(家モデル) 以下図の説明 1から8の主題に分かれてそれぞれが家の基礎部分や屋根部分、屋内部分、壁部分に相対するものを挙げている。 1番初回面談での対応 情報保障体験の提供、自己語りの引き出し、コミュニケーション方法の提案、特性の把握と支援方法の提案 2番情報保障の基板形成 「情報保障ニーズの把握」 イメージ形成による情報保障ニーズの共同確認、ニーズの言語化の促し、聴覚障害学生のニーズを察知できる情報保障者の配置 「情報保障養成および利用の促進」 情報保障養成に伴う主体的な行動の引き出し、情報保障利用上のルール・マナーの提示と理解促進、授業以外の場面での情報保障の提案、自己決定の見守りとうながし ここまでは家の屋内部分にあたり、1番は家の1階部分としている。 3番情報保障の実践的見識の形成 「支援内容の変更にともなう調整」 要望や不満の受け止めと支援内容変更への対応、妥当な支援の共同探索 「授業の専門性に応じた支援方法の探索」、「ゼミ等での発言・発表方法の模索」 支援に対するコミットメントの促進 「話し合いの積み重ねに基づく合意の形成と支援」、「段階に応じた働きかけ」 3つの事柄が順番につながっていき、繰り返される。 ここまでが家の屋根部分にあたる。 4番関係性の構築と促進 心理状態の受け止め 「困りごとへの気づき及び打明の促進」、「障害に対する捉え方に応じた心理的距離の調整」、「ラポール形成を意識した話し方・接し方」 コミュニケーション方法の選択と活用 5番聴覚障害学生の当事者性の涵養 当事者との接点形成 「ソーシャルサポート資源としての当事者学生の活用」、「聴覚障害教職員の当事者性の活用」 自己表現表出機会の増大 「自分について説明する機会の提供」、「手話によるコミュニケーションの活用や手話環境の構成」 6番情報保障を利用しない学生との関係の構築と維持 ここまでが家の両側、壁部分にあたる。 7番環境整備 周辺環境の整備 「周囲の人々との関係性の把握」、「相談しやすい環境の整備」、「聞こえる学生への理解啓発」 保護者とのコミュニケーションや関係に関する情報収集 8番支援担当教職員が持つ支援技術 習得している知識と支援スキル 「聴覚障害に関する知識を生かした支援、心理・福祉分野の対人援助技術の援用」、「聴覚障害学生の支援ニーズの変化に関する経験的知識」 学内ネットワークの活用 「学内組織との連携・情報の共有」、「聴覚障害を専門とする教員の資源活用」 ここまでが家の基礎部分にあたり、家全体を支えているような図になっている。 <スライド6> 情報保障の適切な活用に向けた意思表明支援の段階 以下図の説明 先ほどの家モデルで 1番2番3番を強調している。 <スライド7> 維持表明を支えうながす支援 以下図の説明 同じ家モデルで4番5番6番を強調している。 <スライド8> 意思表明支援の基盤となる支援 以下図の説明 同じ家モデルで7番8番を強調している。 <スライド9> まとめと今後の課題(1) 各大学に見られた共通点 以下図の説明 「大きなトラブルを未然に回避」と書かれた図に 「初回面談」、「先手を打たない支援」、「実情とのすりあわせに時間をかける」、「段階的なアプローチ」、「周りとの関係の構築」がつながっていくような図 <スライド10> まとめと今後の課題(2) 「対人関係や過去の経験の見出し」プラス「現在・過去の形成」イコール「意思表明支援」 聴覚障害学生の能力を公平に評価するためには意思表明支援が前提 <スライド11> 付記 本成果は,PEPNet-Japanの平成28年度モデル事例構築事業「聴覚障害学生の意思表明支援~支援担当教職員の役割を中心に~」の一環として得たものです。ご協力いただきました各大学及び関係者に御礼を申し上げます。 事業委員:吉川あゆみ(代表)、有海順子、甲斐更紗、益子徹、池谷航介、太田琢磨、木谷恵、松﨑丈 事務局:白澤麻弓、萩原彩子、中島亜紀子、平良悟子     (平成29年3月時点) <スライド12> 引用文献 高橋万由美・小林美穂(2005)「高等教育機関における 聴覚障害学生への支援」,宇都宮大学教育学部教育実践総合センター紀要 28, P.305-317. 「聴覚障害学生の意思表明支援のために」編集グループ (2017)「聴覚障害学生の意思表明支援のためにー合理的配慮につながる支援のあり方」,筑波技術大学,P.102. <スライド13> ご静聴ありがとうございました。 分科会4 甲斐 <スライド1> 分科会4 聴覚障害学生の意思表明を支える関わりとは 甲斐 更紗 九州大学 コミュニケーション・バリアフリー支援室 関東聴覚障害学生サポートセンター <スライド2> 自己開示(これまでの臨床から考えられること) 聴覚障害学生の意思表明のプロセスは明らかになっているわけではない ・困り感なくキャンパスライフを送っている (問題が顕在化されていない) ・混乱、アイデンティティの危機 授業、コミュニケーション、クラブ、部活動、家族、友人、担当教員 (問題の顕在化、自己否定) ・自分自身と向き合い、言語化する (内省、客観視) この繰り返しになる <スライド3> 自律性(Erikson,1950; Steinberg,2008)の欲求の歪み? (これまでの臨床から考えられること) 以下図の説明 様々な悩みに対し 「どうしたの?」「一緒に考えようか?」と訪ねることは 「自分で解決するために他者に頼る」につながる。 逆に 「意思表明をしても周囲になかなか伝わらない」、「情報のズレをどこまで理解してくれているのだろうか」、「何でわからないの?」、「さっき話したのに」 これは自分で解決するのか? 価値観の転換で 「自分で解決するために他者に頼る」につながる。 <スライド4> 問題を抱える本人の援助要請を促進する周囲の関わり方 1 本人が心身ともに安定した状態を保てるように接する。 2 本人のニーズに合った相談機関の情報を提供する。 3 変化がない時も援助要請への意欲が高まった時のための準備をしておく。 4 相談機関に行き始めた時は継続的に援助要請ができるように支援する。 5 継続的な利用に至らなくても本人を責めない。 境(2007) <スライド5> 文科省の二次まとめから考える意思表明支援(本人・周囲と学内外のリソースとの連携接続) 以下図の説明 「初回面談での対応」、「情報保障の基盤形成」、「情報保障の実践的見識の形成」 は 学内:コーディネーター、支援者・授業担当教員、教務課、シラバスなど、学外:情報保障者派遣団体 を通じて意思表明支援へ 「関係性の構築と促進」、「聴覚障害学生の当事者性の涵養」 は 学内外:当事者団体、聴覚障害者情報提供施設など、当事者学生・教員など を通じて意思表明支援へ 「情報保障を利用しない学生との関係の構築と維持」 学内:オンラインチャットなどの電子リソース利用、学生相談室など、学外:当事者団体、聴覚障害者情報提供施設など、当事者である学生・教員など を通じて意思表明支援へ 「環境整備」 学内:入学前後の把握体制、FDSD、就職キャリア支援室、学生相談室、学内委員会など、学外:情報保障者派遣団体、PEPNet-Japanなど を通じて意思表明支援へ 「支援担当教職員が持つ支援技術」 学内外:FDSD 、PEPNet-Japan、対人援助技術など を通じて意思表明支援へ 分科会4 有海 <スライド1> 分科会4 事前アンケート結果報告 <スライド2> アンケート内容 聴覚障害者向け 1 意思表明をしたくてもうまく できなかった場面・伝わらなかった・受けとめられなかった場面は? 2 意思表明をうまく引き出して もらえたと感じた場面は? こういう方法なら引き出して もらえると思う場面は? 聴者向け 1 意思表明を引き出すのが 難しいと感じた場面は? 2 意思表明を引き出せたと 感じた場面は? 引き出せると思う方法は? 3は共通 その他、意思表明や意思表明心について考えていること・学びたいことは? <スライド3> 1.意思表明の困難さ・意思表明を引き出す困難さ <スライド4> 以下図の説明 聴覚障害学生は 「意思を持つ、育てる」、「意思を伝える」 周囲は 「意思を受け取る」 これら3つを合わせて「意思表明支援」 <スライド5> 聴覚障害学生から 「意思を持つ、育てる」という面で 1 (大学1,2年次)聞こえの状況や支援内容に関する知識不足・情報不足のため、何をどう説明したらいいかわからなかった 2 利用学生が複数受講している場合の要望のすりあわせ 「意思を伝える」という面で 1 集団でのコミュニケーションの難しさ ・会話に入れず、意思表示したくてもできない ・内容を教えてほしいといっても受け入れてもらえなかった ・会話に入りたいが、話しがせっかく盛り上がっているのに、 水を差してしまうことへの遠慮で意思表明できない <スライド6> 支援学生から 「意思を受け取る」という面で 1 (集団での)コミュニケーションの難しさ ・授業でグループディスカッションが急遽始まり、聴覚障害学生の希望で手話通訳をしたが、思うように通訳できず、十分に伝えきれなかったのではないか ・聴者同士の会話をうまく伝えきれず、聴覚障害学生が話し合いに参加しづらい雰囲気を作り出してしまった ・聴覚障害学生の手話をうまく読み取れない場面で何度も聞き返すことが申し訳なく、曖昧な返事をしてしまった ・手話によるコミュニケーションができない・難しい 2 関係性構築の難しさ ・支援で関わる以外に接点がない <スライド7> 教職員から 「意思を持つ、育てる」の面で 1 情報提供をしてもうまく伝えきれなかった・伝わらなかった 2 現状に満足し、意思が生まれない 「意思を伝える」の面で 1 他者とのコミュニケーション経験不足 2 自分の意思を伝える経験・機会不足自分からニーズを伝える必要性・自覚が乏しい? 3 自己の障害を知られたくない 「意思を受け取る」の面で 1 授業担当教職員から理解してもらえなかった <スライド8> 2.意思表明できた・意思表明を引き出せたと感じる場面とは? <スライド9> 聴覚障害学生から (ディスカッション時)参加者同士による様々な情報保障・情報共有の工夫 →「場への参加(質問・意見できた)」という成功体験+自身の聞こえと支援の必要性の客観視・自己理解 意思表明しやすい雰囲気 「環境整備」「関係性の構築と促進―心理状態の受けとめ」 ・「話しわかる?」などと声をかける ・コミュニケーションを取ろうとする姿勢 ・受容的態度 <スライド10> 意思表明支援相関図(家モデル) 「聴覚障害学生の意思表明支援のために」編集グループ(2017)より引用 以下図の説明 益子徹スライド内にある図と同じものである <スライド11> 支援学生から ・1対1でじっくり時間をかけて向き合う ・コミュニケーション方法の工夫(筆談・テキスト入力など) (記号)下矢印 ラポール形成 家モデル<関係性の構築と促進> <スライド12> 教職員から ・雑談から本題へ 「関係性の構築と促進」「環境整備」 ・具体的な質問 「ニーズの言語化の促進」 ・交流会の場でのヒアリング 「自己表出機会の増大」 ・保護者との連携・保護者を交えた話し合い 「保護者とのコミュニケーションや関係に関する情報収集」 ・本人の意思・気持ちにより添う 「関係性の構築と促進 心理状態の受け止め」 <スライド13> グループディスカッションについて <スライド14> 進め方 1 グループに分かれ、グループごとのテーマについて話し合う テーマは司会(分科会講師)から 2 各グループで発表者、記録者を決める 3 情報保障が入るところは、発言や進め方のルールを確認する 発表:各グループ5分(テーマと話し合った内容) <スライド15> グループ分け 1 教職員グループ (手話通訳、文字通訳) 2 聴覚障害学生グループ (手話通訳、文字通訳、補聴援助システム) 3 支援学生グループ1 4 支援学生グループ2 分科会4終り